(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104826
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/18 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
G01N27/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009205
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】田中 吉勝
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA01
2G060AB09
2G060AE19
2G060AF07
2G060AG03
2G060BA05
2G060BB02
2G060HB08
2G060JA01
2G060KA01
(57)【要約】
【課題】感温素子を加熱することにより検出対象ガスの濃度を測定するガスセンサにおいて、ガス濃度の測定誤差を低減する。
【解決手段】ガスセンサ1は、サーミスタRd1,Rd2及びこれを加熱するヒータ抵抗MH1,MH2と、信号処理回路20とを備える。オン期間Ton1においてはサーミスタRd1,Rd2がそれぞれ300℃及び150℃に加熱され、オン期間Ton2においてはサーミスタRd1,Rd2がそれぞれ150℃及び300℃に加熱される。オフ期間Toff2の長さはオン期間Ton2の長さの10倍以上である。これにより、余熱に起因する測定誤差が低減されるとともに、ドリフトを抑制することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に接続された第1及び第2の感温素子と、
前記第1の感温素子を加熱する第1のヒータと、
前記第2の感温素子を加熱する第2のヒータと、
前記第1及び第2のヒータの加熱温度を制御する信号処理回路と、を備え、
前記信号処理回路は、
第1のオン期間と第2のオン期間を交互に繰り返し、
前記第1のオン期間においては、前記第1の感温素子が第1の温度に加熱され、前記第2の感温素子が第2の温度に加熱されるよう、前記第1及び第2のヒータの加熱温度を制御し、
前記第2のオン期間においては、前記第1の感温素子が前記第2の温度に加熱され、前記第2の感温素子が前記第1の温度に加熱されるよう、前記第1及び第2のヒータの加熱温度を制御し、
前記第1のオン期間から前記第2のオン期間までの第1のオフ期間においては、前記第1及び第2のヒータによる加熱を停止し、
前記第2のオン期間から前記第1のオン期間までの第2のオフ期間においては、前記第1及び第2のヒータによる加熱を停止し、
前記第1のオン期間中に、前記第1の感温素子と前記第2の感温素子の接続点に現れるガス検知信号に基づいて検出対象ガスの濃度を算出し、
前記第2のオフ期間の長さは、前記第2のオン期間の長さの10倍以上である、ガスセンサ。
【請求項2】
前記第2のオフ期間の長さは、前記第2のオン期間の長さの20倍以上である、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記第1のオン期間の長さと前記第2のオン期間の長さは同じであり、いずれも0.1秒以上、3秒以下である、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記第1のオフ期間の長さは、前記第1のオン期間の長さ以上である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はガスセンサに関し、特に、サーミスタ等の感温素子を加熱することにより検出対象ガスの濃度を測定するガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、検知用のサーミスタと参照用のサーミスタを互いに異なる温度に加熱することによって検出対象ガスの濃度を測定するガスセンサが開示されている。特許文献1に記載されたガスセンサは、測定動作後にダミー加熱期間を設け、測定期間における検知用のサーミスタの加熱温度とダミー加熱期間における参照用のサーミスタの加熱温度を一致させ、測定期間における参照用のサーミスタの加熱温度とダミー加熱期間における検知用のサーミスタの加熱温度を一致させることにより、検知用のサーミスタと参照用のサーミスタの熱履歴差を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2020/031517号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ダミー加熱期間と測定期間の間のオフ期間の長さによっては、余熱の影響によって熱履歴差が生じるだけでなく、ガス濃度の測定誤差が生じることがあった。
【0005】
本開示においては、サーミスタ等の感温素子を加熱することにより検出対象ガスの濃度を測定するガスセンサにおいて、一対の感温素子の熱履歴差をより低減するとともに、ガス濃度の測定誤差をより低減する技術が説明される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面によるガスセンサは、直列に接続された第1及び第2の感温素子と、第1の感温素子を加熱する第1のヒータと、第2の感温素子を加熱する第2のヒータと、第1及び第2のヒータの加熱温度を制御する信号処理回路とを備え、信号処理回路は、第1のオン期間と第2のオン期間を交互に繰り返し、第1のオン期間においては、第1の感温素子が第1の温度に加熱され、第2の感温素子が第2の温度に加熱されるよう、第1及び第2のヒータの加熱温度を制御し、第2のオン期間においては、第1の感温素子が第2の温度に加熱され、第2の感温素子が第1の温度に加熱されるよう、第1及び第2のヒータの加熱温度を制御し、第1のオン期間から第2のオン期間までの第1のオフ期間においては、第1及び第2のヒータによる加熱を停止し、第2のオン期間から第1のオン期間までの第2のオフ期間においては、第1及び第2のヒータによる加熱を停止し、第1のオン期間中に、第1の感温素子と第2の感温素子の接続点に現れるガス検知信号に基づいて検出対象ガスの濃度を算出し、第2のオフ期間の長さは第2のオン期間の長さの10倍以上である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、サーミスタ等の感温素子を加熱することにより検出対象ガスの濃度を測定するガスセンサにおいて、一対の感温素子の熱履歴差をより低減するとともに、ガス濃度の測定誤差をより低減する技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示に係る技術の一実施形態によるガスセンサ1の構成を示す回路図である。
【
図2】
図2は、ガスセンサ1の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図3】
図3は、ガスセンサ1の動作を説明するためのタイミング図である。
【
図4】
図4は、オン期間Ton2とオフ期間Toff2の比(Toff2/Ton2)と、単位時間当たりのドリフト量との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、オン期間Ton1とオフ期間Toff1の比(Toff1/Ton1)と、単位時間当たりのドリフト量との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、CO
2濃度が管理された雰囲気中における出力信号OUTの変化を示すグラフである。
【
図7】
図7は、ガスセンサ1の変形例による動作を説明するためのタイミング図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら、本開示に係る技術の実施形態について詳細に説明する。
【0010】
図1は、本開示に係る技術の一実施形態によるガスセンサ1の構成を示す回路図である。
【0011】
図1に示すように、本実施形態によるガスセンサ1は、ガスセンサ部11、温度センサ部12及び信号処理回路20を備えている。特に限定されるものではないが、本実施形態によるガスセンサ1は、雰囲気中におけるCO
2ガスの濃度を検出するものである。
【0012】
ガスセンサ部11は、測定対象ガスであるCO2ガスの濃度を測定するための熱伝導式のガスセンサであり、直列接続されたサーミスタRd1,Rd2と、サーミスタRd1,Rd2をそれぞれ加熱するヒータ抵抗MH1,MH2とを含んでいる。温度センサ部12は、直列接続されたサーミスタRd3と固定抵抗R1を含んでいる。サーミスタRd1~Rd3は、例えば、複合金属酸化物、アモルファスシリコン、ポリシリコン、ゲルマニウムなどの負の抵抗温度係数を持つ材料からなる感温素子である。サーミスタRd1,Rd2は、いずれもCO2ガスの濃度を検出するものであるが、後述するように動作温度が互いに異なっている。また、サーミスタRd3は、環境温度を検出する温度センサとして機能する。
【0013】
図1に示すように、サーミスタRd1とサーミスタRd2は、電源電位Vccが供給される配線と接地電位GNDが供給される配線との間に直列に接続されている。ガス濃度測定動作時においては、サーミスタRd1がヒータ抵抗MH1によって例えば300℃に加熱され、サーミスタRd2がヒータ抵抗MH2によって例えば150℃加熱される。サーミスタRd1は、300℃に加熱された場合に所定の抵抗値となるよう設計されている一方、サーミスタRd2は、150℃に加熱された場合に所定の抵抗値となるよう設計されている。サーミスタRd1とサーミスタRd2の接続点には、ガス検知信号Vgas1が現れる。
【0014】
検知用の感温素子であるサーミスタRd2を150℃に加熱した状態で測定雰囲気中にCO2ガスが存在すると、その濃度に応じてサーミスタRd2の放熱特性が変化する。かかる変化は、サーミスタRd2の抵抗値の変化となって現れる。一方、リファレンス用の感温素子であるサーミスタRd1を300℃に加熱した状態で測定雰囲気中にCO2ガスが存在しても、その濃度に応じてサーミスタRd1の放熱特性はほとんど変化しない。このため、300℃に加熱されたサーミスタRd1のCO2ガスの濃度による抵抗値の変化は、150℃に加熱されたサーミスタRd2のCO2ガスの濃度による抵抗値の変化よりも十分に小さい。300℃に加熱されたサーミスタRd1のCO2ガスの濃度による抵抗値の変化は、ほとんど無くても構わない。サーミスタRd1とサーミスタRd2の接続点に現れるガス検知信号Vgas1は、信号処理回路20に供給される。
【0015】
サーミスタRd3と固定抵抗R1は、電源電位Vccが供給される配線と接地電位GNDが供給される配線との間に直列に接続されている。固定抵抗R1とサーミスタRd3の接続点には、温度検知信号Vtemp1が現れる。温度検知信号Vtemp1は、信号処理回路20に供給される。
【0016】
信号処理回路20は、アンプ21,22、ADコンバータ(ADC)23、DAコンバータ(DAC)24及び制御回路25を備えている。アンプ21は、ガス検知信号Vgas1を増幅することによってガス検知信号Vgas2を生成する。アンプ22は、温度検知信号Vtemp1を増幅することによって温度検知信号Vtemp2を生成する。ガス検知信号Vgas2及び温度検知信号Vtemp2は、ADコンバータ23に入力される。ADコンバータ23は、ガス検知信号Vgas2及び温度検知信号Vtemp2をそれぞれAD変換することによって、デジタル値であるガス検知データSgas及び温度検知データStempを生成する。デジタル値であるガス検知データSgas及び温度検知データStempは、制御回路25に供給される。
【0017】
制御回路25は、デジタル値であるヒータ指示値Smh1,Smh2を生成し、これらをDAコンバータ24に供給する。DAコンバータ24は、ヒータ指示値Smh1,Smh2をそれぞれヒータ電圧Vmh1,Vmh2に変換する。ヒータ電圧Vmh1,Vmh2はそれぞれヒータ抵抗MH1,MH2に印加され、これによりサーミスタRd1,Rd2が加熱される。
【0018】
制御回路25には、ガス検知データSgasと出力信号OUTとの関係を示す計算式又は変換テーブルが格納されている。出力信号OUTは、測定対象ガスであるCO2ガスの濃度を示す電圧値又はデジタル値であり、ガスセンサ1の外部に出力される。
【0019】
次に、ガスセンサ1の動作について説明する。
【0020】
図2は、ガスセンサ1の動作を説明するためのフローチャートである。また、
図3は、ガスセンサ1の動作を説明するためのタイミング図である。
【0021】
まず、ガスセンサ1に含まれる信号処理回路20は、温度検知信号Vtemp1をサンプリングし、環境温度の算出を行う(ステップ101)。温度検知信号Vtemp1のサンプリングは、温度検知信号Vtemp1をアンプ22によって温度検知信号Vtemp2に変換し、これをADコンバータ23によって温度検知データStempにさらに変換し、これを制御回路25内に取り込むことにより行う。温度検知信号Vtemp1のサンプリングは、
図3に示すタイミングt10にて行われる。タイミングt10は、ヒータ抵抗MH1,MH2によってサーミスタRd1,Rd2の加熱を開始するタイミングt1の直前である。
【0022】
次に、制御回路25は、環境温度に基づき算出したヒータ指示値Smh1,Smh2を出力することにより、サーミスタRd1,Rd2の加熱を開始する(ステップ102)。ヒータ指示値Smh1,Smh2は、DAコンバータ24によってヒータ電圧Vmh1,Vmh2に変換され、それぞれヒータ抵抗MH1,MH2に印加される。ステップ102においては、サーミスタRd1が300℃に加熱され、サーミスタRd2が150℃に加熱されるよう、ヒータ指示値Smh1,Smh2の値を設定する。サーミスタRd1,Rd2の加熱開始は、
図3に示すタイミングt1にて行われる。
【0023】
サーミスタRd1,Rd2の温度は、加熱を開始したタイミングt1から所定の時間が経過するまでは安定しないことから、加熱を開始してからガス検知信号Vgas1のサンプリングを行うまでには、所定のスタンバイ時間が必要である。そして、信号処理回路20は、所定のスタンバイ時間が経過したタイミングt20において、ガス検知信号Vgas1のサンプリングを行う(ステップ103)。ガス検知信号Vgas1のサンプリングは、ガス検知信号Vgas1をアンプ21によってガス検知信号Vgas2に変換し、これをADコンバータ23によってガス検知データSgasにさらに変換し、これを制御回路25内に取り込むことにより行う。そして、制御回路25は、ガス検知データSgasから出力信号OUTを算出し、出力信号OUTを外部に出力する。
【0024】
次に、制御回路25は、ヒータ指示値Smh1,Smh2をリセットすることによりサーミスタRd1,Rd2の加熱を停止する(ステップ104)。サーミスタRd1,Rd2の加熱停止は、
図3に示すタイミングt2にて行われる。以上により、ガス濃度測定動作が完了する。ガス濃度測定動作において、サーミスタRd1,Rd2の加熱を開始するタイミングt1からサーミスタRd1,Rd2の加熱を停止するタイミングt2までの期間は、オン期間Ton1と定義される。
【0025】
タイミングt2から所定のオフ期間Toff1が経過した後、制御回路25は、環境温度に基づき算出したヒータ指示値Smh1,Smh2を出力することにより、サーミスタRd1,Rd2のダミー加熱を開始する(ステップ105)。ステップ105においては、サーミスタRd1が150℃に加熱され、サーミスタRd2が300℃に加熱されるよう、ヒータ指示値Smh1,Smh2の値を設定する。サーミスタRd1,Rd2の加熱開始は、
図3に示すタイミングt3にて行われる。したがって、オフ期間Toff1は、サーミスタRd1,Rd2の加熱を終了するタイミングt2からサーミスタRd1,Rd2の加熱を再び開始するタイミングt3までの期間によって定義される。
【0026】
タイミングt3から所定のオン期間Ton2が経過した後、制御回路25は、ヒータ指示値Smh1,Smh2をリセットすることによりサーミスタRd1,Rd2の加熱を停止する(ステップ106)。サーミスタRd1,Rd2の加熱停止は、
図3に示すタイミングt4にて行われる。以上により、ダミー加熱動作が完了する。ダミー加熱動作において、サーミスタRd1,Rd2の加熱を開始するタイミングt3からサーミスタRd1,Rd2の加熱を停止するタイミングt4までの期間は、オン期間Ton2と定義される。
【0027】
タイミングt4から所定のオフ期間Toff2が経過した後、制御回路25は、ガス濃度測定動作を再開する。つまり、環境温度に基づき算出したヒータ指示値Smh1,Smh2を出力することにより、サーミスタRd1,Rd2の加熱を開始する(ステップ101)。サーミスタRd1,Rd2の加熱開始は、
図3に示すタイミングt5にて行われる。したがって、オフ期間Toff2は、サーミスタRd1,Rd2の加熱を終了するタイミングt4からサーミスタRd1,Rd2の加熱を再び開始するタイミングt5までの期間によって定義される。
【0028】
このような動作を所定の周期で繰り返し実行することにより、環境中に含まれる検出対象ガスの濃度をリアルタイムに検出することができる。しかも、ガス濃度測定動作が行われるオン期間Ton1においては、サーミスタRd1が300℃に加熱され、サーミスタRd2が150℃に加熱されるのに対し、ダミー加熱動作が行われるオン期間Ton2においては、サーミスタRd1が150℃に加熱され、サーミスタRd2が300℃に加熱されることから、サーミスタRd1の熱履歴とサーミスタRd2の熱履歴の差が低減され、熱履歴差に起因するガスセンサ1の経時変化(ドリフト)が抑制される。熱履歴差をより低減するためには、オン期間Ton1の長さとオン期間Ton2の長さを同じとすることが望ましい。オン期間Ton1,Ton2の適切な長さは、後述するガスセンサ部11の熱容量などによって異なるが、0.1秒以上、3秒以下とすることが望ましい。
【0029】
一方、オフ期間Toff1の長さとオフ期間Toff2の長さは同じである必要はなく、オフ期間Toff1よりもオフ期間Toff2の方が長くても構わない。これは、オフ期間Toff2の直後には次のガス濃度測定動作が行われることから、オフ期間Toff2の長さを十分に確保することにより、余熱の影響による測定誤差を低減することができるからである。
【0030】
余熱の影響をなくすために必要なオフ期間Toff2の長さは、オン期間Ton2に蓄積された熱量や、ガスセンサ部11の熱容量によって変化する。つまり、ガスセンサ部11の熱容量が大きい場合、サーミスタRd1,Rd2の加熱を開始してから温度が安定するまでのスタンバイ時間が多く必要であることから、必然的にオン期間Ton2を長く設定する必要があり、オン期間Ton2に蓄積される熱量も大きくなる。また、ガスセンサ部11の熱容量が大きいと、オフ期間Toff2におけるサーミスタRd1,Rd2の温度低下も緩やかとなることから、このような条件下においては、十分な長さのオフ期間Toff2を確保する必要がある。一方、ガスセンサ部11の熱容量が小さい場合、サーミスタRd1,Rd2の加熱を開始してから温度が安定するまでのスタンバイ時間が短くて済むことから、オン期間Ton2を短くすることができ、オン期間Ton2に蓄積される熱量も小さくなる。また、ガスセンサ部11の熱容量が小さいと、オフ期間Toff2におけるサーミスタRd1,Rd2の温度低下も速やかとなることから、ガスセンサ部11の熱容量が大きい場合に比べ、オフ期間Toff2の長さを短縮することができる。
【0031】
また、余熱の影響は、サーミスタRd1の熱履歴とサーミスタRd2の熱履歴の差にも影響を与える。サーミスタRd1とサーミスタRd2の熱履歴差は、ガスセンサ1の経時変化(ドリフト)となって現れる。
【0032】
図4は、オン期間Ton2とオフ期間Toff2の比(Toff2/Ton2)と、単位時間当たりのドリフト量との関係を示すグラフである。
【0033】
図4に示すように、単位時間当たりのドリフト量は、オン期間Ton2とオフ期間Toff2の比(Toff2/Ton2)が長くなるほど低減することが分かる。単位時間当たりのドリフト量は、オン期間Ton2とオフ期間Toff2の比が10以上になるとほぼ飽和し、オン期間Ton2とオフ期間Toff2の比が20以上になるとほぼゼロとなる。この点を考慮すれば、経時変化を十分に抑制するためには、オフ期間Toff2をオン期間Ton2の10倍以上に設定する必要があり、20倍以上に設定することが好ましいことが分かる。オン期間Ton2とオフ期間Toff2の比に上限はないが、オフ期間Toff2が長すぎると、出力信号OUTを取得できる周期が長くなるため、目的に応じてオフ期間Toff2の長さを設定すれば良い。
【0034】
一方、オフ期間Toff1については、次のガス濃度測定動作に対する余熱の影響を考慮する必要がないため、オフ期間Toff2に比べて十分に短く設定することが可能である。しかしながら、オフ期間Toff1が短すぎると、余熱がダミー加熱期間に影響するため、サーミスタRd1とサーミスタRd2の熱履歴差が拡大してしまう。つまり、オン期間Ton1においては、サーミスタRd2の加熱温度よりもサーミスタRd1の加熱温度の方が高いため、オフ期間Toff1が短すぎると、ダミー加熱を開始するタイミングt3においてサーミスタRd1の余熱が多くなり、ダミー加熱期間が行われるオン期間Ton2においてサーミスタRd1が過剰に加熱されてしまう。これを抑制するためには、オフ期間Toff1についてもある程度の長さを確保する必要がある。
【0035】
図5は、オン期間Ton1とオフ期間Toff1の比(Toff1/Ton1)と、単位時間当たりのドリフト量との関係を示すグラフである。
【0036】
図5に示すように、オフ期間Toff1をほぼゼロに設定すると、単位時間当たりのドリフトが顕著となるのに対し、オン期間Ton1とオフ期間Toff1の比(Toff1/Ton1)が1以上であれば、単位時間当たりのドリフト量を十分に抑制することができる。また、オン期間Ton1とオフ期間Toff1の比を大きくしても、単位時間当たりのドリフト量は顕著に変化しない。この点を考慮すれば、経時変化を十分に抑制するためには、オフ期間Toff1の長さをオン期間Ton1の長さ以上に設定することが好ましい。
【0037】
図6は、CO
2濃度が管理された雰囲気中における出力信号OUTの変化を示すグラフであり、実線はオン期間Ton2とオフ期間Toff2の比(Toff2/Ton2)を21.5とした場合を示し、破線はオン期間Ton2とオフ期間Toff2の比(Toff2/Ton2)を3.63とした場合を示している。CO
2濃度は、400ppmを基準値とし、1000ppm、2000ppm、3000ppm、4000ppm、5000ppmへと段階的に変化させている。オン期間Ton1とオフ期間Toff1の比(Toff1/Ton1)については、オン期間Ton2とオフ期間Toff2の比(Toff2/Ton2)と同じに設定した。
【0038】
図6に示すように、Toff2/Ton2の値が21.5である場合には、出力信号OUTは正確な値を示しているのに対し、Toff2/Ton2の値が3.63である場合には、時間の経過とともに出力信号OUTに生じるドリフトが拡大していることが分かる。
【0039】
図7は、ガスセンサ1の変形例による動作を説明するためのタイミング図である。
【0040】
図7に示すように、ガスセンサ1の変形例による動作では、ダミー加熱動作時において、サーミスタRd1のオフ期間Toff1
1をサーミスタRd2のオフ期間Toff1
2よりも長く設定している。
図7に示す例では、サーミスタRd1のオフ期間Toff1
1がタイミングt4に終了している。これによれば、ダミー加熱動作を開始するタイミングにおけるサーミスタRd1,Rd2の余熱の差が低減されることから、サーミスタRd1,Rd2の熱履歴差をより低減することが可能となる。
【0041】
以上、本開示に係る技術の実施形態について説明したが、本開示に係る技術は、上記の実施形態に限定されることなく、その主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本開示に係る技術の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0042】
例えば、上記実施形態では感温素子としてサーミスタを用いたが、本発明がこれに限定されるものではない。
【0043】
本開示に係る技術には、以下の構成例が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0044】
本開示の一側面によるガスセンサは、直列に接続された第1及び第2の感温素子と、第1の感温素子を加熱する第1のヒータと、第2の感温素子を加熱する第2のヒータと、第1及び第2のヒータの加熱温度を制御する信号処理回路とを備え、信号処理回路は、第1のオン期間と第2のオン期間を交互に繰り返し、第1のオン期間においては、第1の感温素子が第1の温度に加熱され、第2の感温素子が第2の温度に加熱されるよう、第1及び第2のヒータの加熱温度を制御し、第2のオン期間においては、第1の感温素子が第2の温度に加熱され、第2の感温素子が第1の温度に加熱されるよう、第1及び第2のヒータの加熱温度を制御し、第1のオン期間から第2のオン期間までの第1のオフ期間においては、第1及び第2のヒータによる加熱を停止し、第2のオン期間から第1のオン期間までの第2のオフ期間においては、第1及び第2のヒータによる加熱を停止し、第1のオン期間中に、第1の感温素子と第2の感温素子の接続点に現れるガス検知信号に基づいて検出対象ガスの濃度を算出し、第2のオフ期間の長さは第2のオン期間の長さの10倍以上である。これによれば、余熱に起因する測定誤差を低減することができるとともに、ドリフトを抑制することが可能となる。
【0045】
上記のガスセンサにおいて、第2のオフ期間の長さは第2のオン期間の長さの20倍以上であっても構わない。これによれば、余熱に起因する測定誤差をより低減することができるとともに、ドリフトをより効果的に抑制することが可能となる。
【0046】
上記のガスセンサにおいて、第1のオン期間の長さと第2のオン期間の長さは同じであり、いずれも0.1秒以上、3秒以下であっても構わない。これによれば、第1及び第2の感温素子の熱履歴差を抑えることが可能となる。
【0047】
上記のガスセンサにおいて、第1のオフ期間の長さは、第1のオン期間の長さ以上であっても構わない。これによれば、第1及び第2の感温素子の熱履歴差に起因するドリフトを抑えることが可能となる。
【符号の説明】
【0048】
1 ガスセンサ
11 ガスセンサ部
12 温度センサ部
20 信号処理回路
21,22 アンプ
23 ADコンバータ
24 DAコンバータ
25 制御回路
MH1,MH2 ヒータ抵抗
R1 固定抵抗
Rd1~Rd3 サーミスタ