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  • 特開-自己抗体の検出方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104828
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】自己抗体の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
G01N33/53 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009208
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】502437894
【氏名又は名称】学校法人大阪医科薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】福森 亮雄
(72)【発明者】
【氏名】岡田 健
(72)【発明者】
【氏名】柳田 寛太
(72)【発明者】
【氏名】北岡 京花
(72)【発明者】
【氏名】田口 和美
(57)【要約】
【課題】検査対象における既知の自己抗体のみならず、全く未知の抗原に対する自己抗体の存在を高精度且つ簡便に検出できるようにする。
【解決手段】自己抗体の検出方法は、動物の脳の粗抽出液を準備するステップと、前記粗抽出液を非変性ブルーネイティブ電気泳動にかけるステップと、前記電気泳動後のゲルに対して、対象の体液を1次抗体として用いるウエスタンブロット法を行うステップと、を含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の脳の粗抽出液を準備するステップと、
前記粗抽出液を非変性ブルーネイティブ電気泳動にかけるステップと、
前記電気泳動後のゲルに対して、対象の体液を1次抗体として用いるウエスタンブロット法を行うステップと、を含む自己抗体の検出方法。
【請求項2】
前記対象の体液は、脳脊髄液、血清又は血漿である、請求項1に記載の自己抗体の検出方法。
【請求項3】
前記自己抗体は、自己免疫性脳炎に関連する自己抗体である、請求項1又は2に記載の自己抗体の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己抗体の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体脳炎に代表される自己免疫性脳炎は、脳神経細胞のシナプスに発現するイオンチャネル受容体等を特異的に標的とする自己抗体によって、異常行動やてんかん、その他重篤な精神・神経症状が引き起こされることが近年明らかにされてきている。そのような状況から、現在、NMDA受容体、α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メソオキサゾール-4-プロピオン酸(AMPA)受容体、及びγアミノ酪酸(GABA)受容体等の周知の受容体に対する自己抗体の検出方法について多くの研究がなされている。例えば特許文献1には、NMDA受容体に対する自己抗体を検出する方法が提示されている。具体的に、特許文献1では、NMDA受容体に対する自己抗体を含む疑いのある試料を、人工的に構築したNMDA受容体タンパク質コンストラクトと接触させて、それらの結合体を検出することによって自己抗体を検出する方法が提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2022-540913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、NMDA受容体、AMPA受容体、及びGABA受容体等の周知の受容体に対する自己抗体の検出方法は確立されつつあり、例えば上記特許文献1のような方法によって、NMDA受容体に対する自己抗体の検出が可能ではある。しかしながら、特許文献1の方法では、NMDA受容体タンパク質コンストラクトを準備する必要があって、必ずしも簡便ではなく、NMDA受容体タンパク質に対する自己抗体しか検出することができない。従って、他のAMPA受容体やGABA受容体等に対する自己抗体を検出したい場合は、それらのタンパク質コンストラクトを準備する必要がある。また、特許文献1の方法では、全く未知の抗原に対する自己抗体の存在を高精度に検出することはできず、また、そのような方法は今のところ存在しないと考えられる。
【0005】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、検査対象における既知の自己抗体のみならず、全く未知の抗原に対する自己抗体の存在を高精度且つ簡便に検出できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究の結果、非変性ブルーネイティブ電気泳動を利用することにより高精度に自己抗体の存在を検出できることを見出して本発明を完成した。
【0007】
具体的に、本発明に係る自己抗体の検出方法は、動物の脳の粗抽出液を準備するステップと、前記粗抽出液を非変性ブルーネイティブ電気泳動にかけるステップと、前記電気泳動後のゲルに対して、対象の体液を1次抗体として用いるウエスタンブロット法を行うステップと、を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る自己抗体の検出方法において、前記対象の体液は、脳脊髄液、血清又は血漿であることが好ましい。
【0009】
本発明に係る自己抗体の検出方法において、前記自己抗体は、自己免疫性脳炎に関連する自己抗体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る自己抗体の検出方法によると、検査対象における既知の自己抗体のみならず、全く未知の抗原に対する自己抗体の存在を高精度且つ簡便に検出できる。このため、自己抗体の存在が病因となる疾患の診断への利用可能性もあり、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例にて行ったNMDA受容体の検出のためのウエスタンブロットの結果を示す写真である。
図2図2は、実施例にて行ったAMPA受容体の検出のためのウエスタンブロットの結果を示す写真である。
図3図3は、比較例にて行った非変性ブルーネイティブ電気泳動の代わりにSDS-PAGEを用いたウエスタンブロットの結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用方法或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0013】
本発明の一実施形態は、対象における自己抗体を検出するための方法であって、動物の脳の粗抽出液を準備するステップと、前記粗抽出液を非変性ブルーネイティブ電気泳動にかけるステップと、前記電気泳動後のゲルに対して、対象の体液を1次抗体として用いるウエスタンブロット法を行うステップと、を含むことを特徴とするものである。
【0014】
本実施形態において、対象とは、自己抗体の存在について試験される検査対象であり、例えば哺乳動物であり、好ましくはヒトである。
【0015】
本実施形態における動物の脳の粗抽出液を準備するステップにおいて、動物とは、例えば哺乳動物であり、上記対象と同一の動物であることが好ましいが、対象において中枢神経系に多く存在する受容体タンパク質と類似性が高い受容体タンパク質を有する動物であることが好ましい。ここで言う中枢神経系に多く存在する受容体タンパク質は、例えばNMDA受容体、AMPA受容体、GABA受容体等のタンパク質が挙げられるが、これらに限られない。また、ここで言う類似性が高いとは、一方の動物のタンパク質を認識する抗体が他方の動物のタンパク質も認識する程度の類似性を有する場合をいう。この場合、例えば一方のタンパク質のアミノ酸配列と他方のタンパク質のアミノ酸配列との配列同一性は、80%以上であり、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上であり、最も好ましくは99%以上である。対象がヒトである場合、例えばマウス、ラット、ブタ、サル等を用いることができる。
【0016】
上記動物の脳の粗抽出液を準備するステップは、脳のタンパク質を含む粗抽出液を得ることができれば、その方法は限定されない。例えば、動物の頭部から脳を摘出し、脳のうち所望の部位を切り取って所定の緩衝液に浸し、それをホモジナイズして得られた溶液を遠心処理等を施し、脳神経細胞膜を得た後、常法によって細胞膜を可溶化することで脳の粗抽出液を得ることができる。
【0017】
本実施形態において、非変性ブルーネイティブ電気泳動は、従来から用いられている電気泳動の一種であり、タンパク質複合体を非変性条件で分離するための電気泳動であり、特にタンパク質を含むサンプルにクマシーブリリアントブルー(CBB)を添加した後に電気泳動を行うものである。本発明では、非変性ブルーネイティブ電気泳動を利用することが重要である。例えば、大脳及び海馬のNMDA受容体は、GluN1サブユニット及びGluN2サブユニット等で構成されており、天然コアNMDA受容体は、GluN1二量体とGluN2二量体とで構成されている。なお、GluN2には、GluN2A及びGluN2B等の種類があることも知られている。自己抗体は、生体内におけるこれらのサブユニットが結合した天然状態のNMDA受容体を認識して結合するため、分離・変性された単独のサブユニット自体を認識しない。このため、後の実施例でも説明するが、例えばSDS-PAGE等のサンプル内のタンパク質を変性させて行う方法では、NMDA受容体がそれぞれのサブユニットに分離され3D構造(立体構造)が壊れるため、生体内のNMDA受容体自体を認識する自己抗体によって電気泳動後のタンパク質を検出できない場合がある。一方、非変性ブルーネイティブ電気泳動を用いる場合、サンプル内のタンパク質を変性させずに、天然状態のままで電気泳動を行うため、NMDA受容体が各サブユニットに分離されずに天然状態の3D構造を保っているため、生体内の自己抗体によって電気泳動後のタンパク質を検出することができる。以上のことは、NMDA受容体タンパク質に限らず、他のタンパク質であっても同様である。
【0018】
本実施形態において、上記電気泳動後のゲルに対して、対象の体液を1次抗体として用いてウエスタンブロット法を行うが、対象の体液としては、自己抗体を含み得る体液であれば特に限定されないが、例えば脳脊髄液、血清又は血漿等が用いられ得る。ウエスタンブロット法は、周知の方法であり、上記電気泳動後のゲルを所定のメンブレンに転写した後に、1次抗体としての上記対象の体液を用いて染色される。2次抗体としては、1次抗体である体液を得た対象の動物種の抗体に結合可能な抗体であって、例えばHRPがコンジュゲートされた抗体が用いられ得る。その後、メンブレンの洗浄を経て、常法によりバンドの検出がなされる。
【0019】
本実施形態に係る対象における自己抗体を検出するための方法によると、動物から得られた脳の粗抽出液を変性させずにそのままサンプルとして用いるため、生体内の各種タンパク質が元の構造のままで電気泳動にかけられる。そして、当該電気泳動後のゲルに対して、検査対象における自己抗体を含み得る体液を1次抗体とするウエスタンブロットを行うため、検査対象の体液中における既知の自己抗体のみならず、全く未知の抗原に対する自己抗体の存在を高精度且つ簡便に検出できる。このため、本方法は、自己抗体の存在が病因となる疾患の診断への利用可能性もあり極めて有用である。そのような疾患として、例えば自己免疫性脳炎が挙げられる。この場合、自己抗体は、自己免疫性脳炎に関連する自己抗体であることが好ましい。自己免疫性脳炎に関連する自己抗体としては、抗NMDA受容体抗体、抗AMPA受容体抗体及び抗GABA受容体抗体等が知られているが、これらに限られない。
【実施例0020】
以下に、本発明に係る自己抗体の検出方法について詳細に説明するための実施例を示す。
【0021】
(脳神経細胞膜からのNMDA受容体等の受容体タンパク質の可溶化)
まず、マウス(C57Black6jマウスの8週齢の雄)に三種混合麻酔(ドミトール、ドルミカム及びベトルファール)を150μL腹腔に注射し、さらにセボフルランを嗅がせて麻酔を深くかけた。麻酔がかかったのを確認した後、マウスに対して頚椎脱臼し、外科剪刀で頸部から切断した。氷でよく冷やしたバッファー1(5mMのTris-HCl、pH8.0、320mMのスクロース)を氷上の金属製のトレーに入れ、マウスの頭部を浸けた。その後、あらかじめ氷で冷やしたハサミとピンセット使い、上記マウスの頭部から脳を取りだし、すぐに氷上のビーカーに入ったバッファー1中に入れて、脳をよく冷やした。
【0022】
続いて、解剖顕微鏡下で、氷の上に置いたアルミブロックにペーパータオルを敷き、バッファー1を少量かけて湿らせた後、その上に取り出した脳をのせた。剃刀の刃(フェザー剃刀FA-10)を使い、脳を半分に切断し、片方は、バッファー1中に入れ冷やした。ピンセットを使い大脳(海馬)以外の領域(小脳や脳幹部)を取り外した。氷でよく冷やした4mLのバッファー1をダウンス型ホモジナイザー(Dounce Tissue Grinder、WHEATON 357542)に入れ、そこに取り出した前脳(大脳・海馬)を入れ、氷上で、ルーズ(隙間が緩いペストル)で10回、タイト(隙間が狭いペストル)で10回上下して、ホモジナイズした。
【0023】
ホモジナイズした溶液を、1.5mLチューブに500μLずつ8本に分注し、800×gで15分遠心し、核分画を沈殿させた。上清を1.5mLチューブに移し、20000×gで15分遠心した後、上清を除去し、沈殿(神経細胞膜画分:1チューブ当たり約20~40mgになる)を回収した。沈殿物の入ったチューブに500μLの5mM Tris-HCl、pH8.0を入れてピペッティングした後、5分インキュベートし、20000×gで15分遠心し沈殿(脳神経細胞膜)を回収した。なお、この操作をもう1回繰り返した。
【0024】
500μLに対してデオキシコール酸が1%、ヘミコハク酸コレステリルが2mMになるように、それらを別の2本の1.5mLチューブに量り取り(それぞれ0.005g及び0.0005g)、チューブ1本に500μLのバッファー2(50mMのTris-HCl、pH8.0、0.002%のn-ドデシル-β-D-マルトピラノシド(DDM)、5μLプロテアーゼ(cOmplete EDTA free:Roche 11836170001)及びホスフォターゼ(Phosphatase Inhibitor Cocktail II(ab201113))阻害剤(100倍希釈)を加えてピペッティングして2本のチューブを溶解させた。その溶液を上記脳神経細胞膜の沈殿の入った1.5mLチューブに加え、1mLチップでピペッティングして細胞膜を可溶化させた。
【0025】
上記可溶化した脳神経細胞膜を20000×gで15分遠心した後の上清をサンプルとして用いて、下記に示すような非変性ブルーネイティブ電気泳動を行った。
【0026】
(非変性ブルーネイティブ電気泳動)
可溶化した脳神経細胞膜であるサンプルに、5%クマシーG-250(NativePAGE 5% G250 sample additive、BN2004)とサンプル処理バッファー(Sample buffer(×4)、BN2003)、緩衝液(50mM Tris-HCl pH8.0、0.002% DDM)を加え、好みの希釈倍率で希釈後(約2~3倍)、泳動サンプルにした。なお、G-250の量は、サンプルに含まれる界面活性剤の量に応じて決め、界面活性剤の約1/4量で調整した。ここでは、サンプルを40μL、サンプル処理バッファーを20μL、5%クマシーG-250を2μL、緩衝液を18μLとした。
【0027】
プレキャストゲル-NativePAGE 3-12% Bis-Tris Gelsを下端のビニールテープをはがしてからXCell SureLock Mini-Cell(EI0001)にセットした。20×ストックバッファー(NativePAGE Running Buffer(BN2001)、NativePAGE Cathode Buffer Additive(BN2002))を推奨プロトコールに従い希釈し、200mLの1×Running&Cathode buffer及び、400mLの1×Running bufferを調製する。ゲルをセットしたMini-Cellの奥側の槽に、1×Running bufferをいれ、ゲルの切れ目部分が十分につかる量をいれる。2mLの1×Running bufferを使いゲルの各ウエルを満たす。そこに上述の通り調整したサンプル10μLを、ローディングチップ(Bio-Bik 1034-800)を使ってロードした。手前の槽に200mLの1×Running&Cathode bufferを静かに注ぎ、ゲルの上部が浸かる量を入れた。その後、上部の電極部分を静かにセットし、150Vで泳動した。
【0028】
開始から15分後、泳動を一時停止し、手前の槽の1×Running buffer&Cathode bufferをすべて取り除いた。取り除いた10mLの1×Running buffer&Cathode bufferを1×Running bufferで20倍に希釈し200mL調製した。希釈したRunning buffer&Cathode bufferを再度、手前の槽にゲルの上部がつかる量を満たし、再度泳動を始めた。その1時間30分後、泳動を止め、硬いへらなどを使いゲル板を分解後、1×Running bufferを入れたプラスチックトレイなどにゲルを入れた。この時、ゲルのテールエンドは、カッターの刃などを使い切り取っておいた。
【0029】
(NMDA受容体の検出のためのウエスタンブロット)
100mLのTBS-T(50mMのTris、150mMのNaCl、0.1%のTween(登録商標)20)に溶かした3%のiBlock(I-Block Protein-Based Blocking Reagent(T2015))をいれ、50℃で温めながらスターラーを使い混ぜて完全に溶かした。PVDFメンブレンをゲルの大きさに合わせてカットし、100%の2-プロパノールに1分間浸けてから、転写バッファー(25mMのTris base、250mMのグリシン)に浸した。ゲルが浸している1×Running bufferを捨て、転写バッファーに交換した。バイオラドのウエット式転写装置(ミニトランスブロット セル:1703930JA)に、ミニトランスブロットゲルホルダーカセットとミニトランスブロットファイバーパッド、1枚のフィルター(ろ紙)を置き、転写バッファーに漬けて湿らせた。PVDFメンブレンをフィルターの上に乗せ、転写バッファーに漬けた。その上にゲルを静かに置き、転写バッファーに漬け、8枚のフィルター(ろ紙)を最上部に置き、転写バッファーに漬けて湿らした後、ミニトランスブロットゲルホルダーカセットにセットした。ミニトランスブロットセルにセットして、凍らせたミニプロティアンTetraバイオアイスクーリングユニットをセットした後、転写バッファーで満たした。その後、400mAの一定電流で1時間転写した。転写したPVDFを好みの大きさにカットしてから、マルチウエスタンボックス(Bio-Bik MWB-06)にカットしたPVDFメンブレンを入れ、100%メタノールに浸けて、脱色した。完全に脱色出来たらメタノールを捨て、TBS-Tでリンスした。上記TBS-Tに溶かした3%iBlockを振とうできる十分量入れた(半分量程度)。30分間シェーカーで振とうさせPVDF膜をブロッキングした。マルチウエスタンボックスを傾けて、iBlockを捨てた。TBS-Tを少量入れ、手で振り混ぜながら余分なiBlockを取り除いた(2~3回)。
【0030】
続いて、1ウェルにつき1mLのcan get signal solution 1(TOYOBO NKB-201)に1μL(×1000)の市販の各種1次抗体(抗GluN2A抗体:Anti-NMDAR2A Clone5(BD biosciences 612286)、抗GluN2B抗体:Anti-NMDAR2B Clone13(BD biosciences 610416)、及び抗GluN1抗体:Anti-NMDAR1 Antibody、clone54.1(Merck MAB363))、又は自己抗体脳炎患者の脳脊髄液(CSF)10μL(×100)を入れ、マルチボックスの各ウェルに入れ、1時間振とうした。なお、CSFは、地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪急性期・総合医療センター(臨床研究支援センター)精神科の臨床研究によって収集された脳脊髄液を匿名化されたサンプルとして分与を受けたものである。1時間の振とう後、抗体溶液を捨て、TBS-Tを入れてよく洗い捨て、余分な抗体溶液を取り除いた。この操作を3回繰り返した後、半分量のTBS-Tを入れ、5分振とう後に取り除いた。次に、1ウェルにつき1mLのcan get signal solution2(TOYOBO NKB-301)に1μL(×1000)の2次抗体(Anti-human(又はmouse) antibody HRP(Jackson 109-035-088又は111-036-045))を各ウェルに入れ、1時間振とうした。1時間後、抗体溶液を捨て、TBS-Tを入れてマルチウエスタンボックスをよく混ぜて洗浄し、余分な抗体溶液を取り除いた。この操作を3回繰り返した。さらに半分量のTBS-Tを入れ、5分振とう後に捨てた。この操作を計3回繰り返した。
【0031】
続いて、1mLのLuminol/Enhancer Solutionと1mLのStable Peroxide Solution(SuperSignal west pico:34579)をプラスチックケースに入れ、キムワイプを用いて余分なTBS-Tを除去したPVDFメンブレンを浸した。メンブレンの大きさに合わせて切ったクリアポケット(クリアファイル用高透明タイプ)にPVDFメンブレンを挟み、余分なSuperSignalをキムワイプで取り除いた。ブラックトレイをセットしたAmersham Imager 600にメンブレンを置き、オートモードで撮影した。その結果を図1に示す。
【0032】
図1に示すように、市販の抗NMDA受容体抗体であって、それぞれ特にGluN1、GluN2A及びGluN2Bを認識する抗体を1次抗体として用いた場合、720~1048kDaの間と1236kDa付近に2つバンドが検出された。従って、これらのバンドが、大脳や海馬に存在するNMDA受容体タンパク質であり、720~1048kDaはヘテロ4量体のシナプス外NMDA受容体であり、1236kDa付近のNMDA受容体は、PSD95タンパク質との複合体でシナプス後肥厚部に存在するNMDA受容体を示す。また、CSFを用いた場合、GluN1、GluN2A及びGluN2Bを認識する抗体を用いた場合に得られたバンドと同様の位置にバンドが検出された。用いたCSFは、抗NMDA受容体脳炎患者から得たものであり、抗NMDA受容体の自己抗体を有すると考えられるが、この結果から、確かに抗NMDA受容体の自己抗体を有することが確認できた。また、上記方法により、脳脊髄液をそのままサンプルとして用いても、自己抗体を検出できることも確認できた。
【0033】
(AMPA受容体の検出のためのウエスタンブロット)
1ウェルにつき1mLのcan get signal solution 1(TOYOBO NKB-201)に1μL(×1000)の市販の1次抗体(Anti-Glutamate Receptor 1 (AMPA subtype) 抗体 [EPR19522] (ab183797)abcam)、又は自己抗体脳炎患者の脳脊髄液(CSF)10μL(×100)を入れ、マルチボックスの各ウェルに入れ、1時間振とうした。なお、CSFは、地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪急性期・総合医療センター(臨床研究支援センター)精神科の臨床研究によって収集された脳脊髄液を匿名化されたサンプルとして分与を受けたものである。1時間の振とう後、抗体溶液を捨て、TBS-Tを入れてよく洗い捨て、余分な抗体溶液を取り除いた。この操作を3回繰り返した後、半分量のTBS-Tを入れ、5分振とう後に取り除いた。次に、1ウェルにつき1mLのcan get signal solution2(TOYOBO NKB-301)に1μL(×1000)の2次抗体(Anti-Rabbit(又human) antibody HRP(Jackson 711-035-152(又109-035-088)))を各ウェルに入れ、1時間振とうした。1時間後、抗体溶液を捨て、TBS-Tを入れてマルチウエスタンボックスをよく混ぜて洗浄し、余分な抗体溶液を取り除いた。この操作を3回繰り返した。さらに半分量のTBS-Tを入れ、5分振とう後に捨てた。この操作を計3回繰り返した。
【0034】
続いて、1mLのLuminol/Enhancer Solutionと1mLのStable Peroxide Solution(SuperSignal west pico:34579)をプラスチックケースに入れ、キムワイプを用いて余分なTBS-Tを除去したPVDFメンブレンを浸した。メンブレンの大きさに合わせて切ったクリアポケット(クリアファイル用高透明タイプ)にPVDFメンブレンを挟み、余分なSuperSignalをキムワイプで取り除いた。ブラックトレイをセットしたAmersham Imager 600にメンブレンを置き、オートモードで撮影した。その結果を図2に示す。
【0035】
図2に示すように、市販の抗AMPA受容体抗体を1次抗体として用いた場合、720~1048kDaの間にバンドが検出された。従って、このバンドが、大脳や海馬に存在するAMPA受容体タンパク質を示す。また、CSFを用いた場合、抗AMPA受容体抗体を用いた場合に得られたバンドと同様の位置にバンドが検出された。用いたCSFは、自己抗体脳炎患者から得たものであり、抗AMPA受容体の自己抗体を有すると考えられるが、この結果から、確かに抗AMPA受容体の自己抗体を有することが確認できた。また、図1の結果と同様に、上記方法により、脳脊髄液をそのままサンプルとして用いても、自己抗体を検出できることも確認できた。
【0036】
(比較例)
図1の試験で用いた脳神経細胞膜と同じ可溶化した脳神経細胞膜15μLに5μLの4×SDSサンプルバッファーを加えてよく混ぜ変性させ、7及び10μLを泳動サンプルとした。SDS電気泳動は、NuPAGE 10% Bis-Tris Gel(NP0316BOX Invitrogen)をXCell SureLock Mini-Cell(EI0001)にセットし、1×MOPS Running Buffer(50mMのMOPS、50mMのTris Base、0.1%のSDS、1mMのEDTA、(pH7.7))で満たし、140V 60分泳動した。泳動後、PVDFメンブレンに転写し、図1と同じ市販の抗GluN1、GluN2A又はGluN2B抗体とCSFを使い上記と同じ方法でウェスタンブロットを行った。その結果を図3に示す。
【0037】
図3に示すように、市販の抗GluN1、GluN2A又はGluN2B抗体を用いた場合は、いずれもバンドが検出された。なお、各抗体の結果を示す写真のうち左側が7μL、右側が10μLの泳動サンプルを用いたバンドである。一方、CSFを用いた場合はバンドが検出されなかった。市販の抗体でバンドが検出されていることから、NMDA受容体が存在していることは確かではあるが、この比較例ではサンプルを変性させているため、NMDA受容体が各サブユニットに分離されているので、CSFでは検出できなかったと考えられる。
【0038】
以上の実施例及び比較例に示す通り、本発明に係る自己抗体の検出方法によると、非変性ブルーネイティブ電気泳動を利用することによって、簡便且つ高精度に自己抗体の存在を検出できる。
図1
図2
図3