(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104835
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】電気化学素子
(51)【国際特許分類】
H01M 50/533 20210101AFI20240730BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20240730BHJP
H01G 11/82 20130101ALI20240730BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240730BHJP
H01M 50/103 20210101ALI20240730BHJP
H01M 50/15 20210101ALI20240730BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20240730BHJP
【FI】
H01M50/533
H01G11/06
H01G11/82
H01M10/0562
H01M50/103
H01M50/15
H01M10/0585
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009219
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100194777
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 憲治
(72)【発明者】
【氏名】古川 一揮
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 清司
(72)【発明者】
【氏名】大塚 拓海
(72)【発明者】
【氏名】増田 俊平
【テーマコード(参考)】
5E078
5H011
5H029
5H043
【Fターム(参考)】
5E078AB02
5E078AB06
5E078AB12
5E078EA02
5E078EA09
5E078HA03
5E078HA04
5E078HA12
5E078HA21
5E078HA22
5H011AA04
5H011CC05
5H011CC06
5H011EE04
5H011KK01
5H029AJ02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AK07
5H029AL03
5H029AL04
5H029AL07
5H029AM11
5H029BJ02
5H029BJ12
5H029DJ05
5H029DJ13
5H029EJ01
5H029HJ03
5H043AA02
5H043BA19
5H043CA04
5H043CA13
5H043CB04
5H043EA23
(57)【要約】 (修正有)
【課題】良好な電気的接続を維持できる電気化学素子を提供する。
【解決手段】電気化学素子1は、底部111及び側壁部112を有する凹状容器11と凹状容器11の開口を覆う蓋材12とを有するケース10と、ケース10の内部空間に収容される発電要素20とを備え、発電要素20と蓋材12との間に配置され、発電要素を底部側に押圧する導電板30を備える。凹状容器11は、側壁部112の表面に窪み115を有する。窪み115は、窪み115の内側面から突出した係止部116を有する。導電板30と蓋材12との間には隙間が形成されており、導電板30は、窪み115に圧入され、導電板30を固定する圧入部31を有する。圧入部31は、窪み115において係止部116よりも下方に配置された被係止部313を有する。導電板30が蓋材12に向かって移動した場合でも、被係止部313は係止部116に当接する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部及び側壁部を有する凹状容器と前記凹状容器の開口を覆う蓋材とを有するケースと、前記ケース内に封止され、前記底部側に配置された第1電極層と前記蓋材側に配置された第2電極層と前記第1電極層及び前記第2電極層の間に配置された隔離層とを有する発電要素とを備えた電気化学素子であって、
前記発電要素と前記蓋材との間に配置され、前記発電要素を前記底部側に押圧する導電板を備え、
前記第1電極層は、前記ケースの内部から外部に通じる第1導通経路と電気的に接続されており、
前記第2電極層は、前記導電板を介して前記ケースの内部から外部に通じる第2導通経路と電気的に接続されており、
前記側壁部は、前記側壁部の表面に開口を有する窪みと、前記窪みの開口上部及び内側面のいずれか一方に形成された係止部とを含み、
前記導電板は、平面視で前記発電要素よりも径方向の外方に位置し、前記側壁部の窪みに圧入される圧入部を含み、
前記導電板と前記蓋材との間には隙間が形成されており、
前記圧入部は、被係止部を含み、前記導電板が前記蓋材に向かって移動した場合にとき、前記導電板が前記蓋材に接する前に、前記被係止部が前記係止部に当接して前記導電板の移動を制止可能となる位置で前記導電板を固定している、電気化学素子。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学素子であって、
前記圧入部が前記窪みに圧入されて前記導電板を固定している状態において、前記係止部と前記被係止部との間の幅は、前記導電板と前記蓋材との間の隙間の幅よりも小さい、電気化学素子。
【請求項3】
請求項1に記載の電気化学素子であって、
前記係止部は、前記窪みの内側面から突出して形成されており、
前記係止部の突出幅をt1とし、前記圧入部の板厚をt2としたとき、以下の式(1)を満たす、電気化学素子。
t2/4<t1<2×t2 (1)
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の電気化学素子であって、
前記発電要素は、前記第2電極層の表面にさらに多孔質金属層を有する、電気化学素子。
【請求項5】
底部及び側壁部を有する凹状容器と前記凹状容器の開口を覆う蓋材とを有するケースと、前記ケース内に封止され、前記底部側に配置された第1電極端子及び前記蓋材側に配置された第2電極端子を含む外装材と、前記外装材の内部に封入され、第1電極層と第2電極層と前記第1電極層及び前記第2電極層の間に配置された隔離層とを含む発電要素とを有する扁平形素子とを備えた電気化学素子であって、
前記扁平形素子と前記蓋材との間に配置され、前記扁平形素子を前記底部側に押圧する導電板を備え、
前記第1電極端子は、前記ケースの内部から外部に通じる第1導通経路と電気的に接続されており、
前記第2電極端子は、前記導電板を介して前記ケースの内部から外部に通じる第2導通経路と電気的に接続されており、
前記側壁部は、前記側壁部の表面に開口を有する窪みと、前記窪みの開口上部及び内側面のいずれか一方に形成された係止部とを含み、
前記導電板は、平面視で前記扁平形素子よりも径方向の外方に位置し、前記側壁部の窪みに圧入される圧入部を含み、
前記導電板と前記蓋材との間には隙間が形成されており、
前記圧入部は、被係止部を含み、前記導電板が前記蓋材に向かって移動した場合に、前記導電板が前記蓋材に接する前に、前記被係止部が前記係止部に当接して前記導電板の移動を制止可能となる位置で前記導電板を固定している、電気化学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ケース内に発電要素を封止した電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、凹状容器及び凹状容器の開口を覆う蓋材によって形成された内部空間に発電要素が収容された電池が種々開示されている。
【0003】
特開2012-69508号公報(特許文献1)は、電気化学特性が安定した電気化学セルを開示している。電気化学セルは、密封容器を有する。密封容器は、ベース部材とリッド部材とからなる。両部材の間には電気化学素子(電極体)が収納される収納空間が形成されている。リッド部材と電気化学素子との間には、電気化学素子を押圧する弾性部材が配設されている。特許文献1は、弾性部材として断面視においてV字形に屈曲した板バネ、よじれに起因する弾性復元力を利用するトーションバーユニット、又は、中央部から外周縁部に向かうにしたがって反った凹曲面状に形成されたダイヤフラム状バネなどを用いた実施態様を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、良好な電気的接続を維持することができる電気化学素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示は次のように構成した。すなわち、本開示に係る電気化学素子は、底部及び側壁部を有する凹状容器と凹状容器の開口を覆う蓋材とを有するケースと、ケース内に封止され、底部側に配置された第1電極層と蓋材側に配置された第2電極層と第1電極層及び第2電極層の間に配置された隔離層とを有する発電要素とを備えており、発電要素と蓋材との間に配置され、前記発電要素を前記底部側に押圧する導電板を備えている。第1電極層は、ケースの内部から外部に通じる第1導通経路と電気的に接続されている。第2電極層は、導電板を介して前記ケースの内部から外部に通じる第2導通経路と電気的に接続されている。側壁部は、側壁部の表面に開口を有する窪みと、窪みの開口上部及び内側面のいずれか一方に形成された係止部とを含む。導電板は、平面視で前記発電要素よりも径方向の外方に位置し、前記側壁部の窪みに圧入される圧入部を含む。導電板と蓋材との間には隙間が形成されている。圧入部は、被係止部を含み、導電板が蓋材に向かってに移動した場合でも、導電板が蓋材に接する前に、被係止部が係止部に当接して導電板の移動を制止可能となる位置で導電板を固定している。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る電気化学素子によれば、良好な電気的接続を維持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る電気化学素子を示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す圧入部と係止部との関係を示す断面図である。
【
図3】
図3は、
図1の電気化学素子の凹状容器を示す外観斜視図である。
【
図4】
図4は、電気化学素子の他の凹状容器を示す外観斜視図である。
【
図5】
図5は、
図1の電気化学素子(蓋材及び導電板を除く。)を示す平面図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態に係る電気化学素子を示す断面図である。
【
図7】
図7は、第3実施形態に係る電気化学素子を示す断面図である。
【
図8】
図8は、第4実施形態に係る電気化学素子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らは、電気化学素子が強い衝撃を受けた場合であっても良好な電気的接続を維持するべく、以下の検討を行った。特許文献1の電気化学セルにおいて、弾性部材は、リッド部材又はベース部材に形成された係止部により位置規制されている。そのため、弾性部材がリッド部材の側に位置ズレすることはない。その一方で、弾性部材をリッド部材により位置規制する実施態様では、充放電時の膨張収縮が大きな電極材料を用いた場合に、電極の体積変化を弾性部材が吸収しきれず、リッド部材が外側に変形するおそれがある。また、外周縁部から中央部に向けて下に凸の形状となる弾性部材の周縁部を、シールリング又はベース部材に形成された係止部に係止させる実施態様では、リッド部材と弾性部材の係止位置までの間と、バネ全体の厚み分に相当する弾性部材の外周縁部から中央部までの間に、大きな空隙を生じることになり、電気化学セルの高容量化を妨げる要因となる。
【0010】
導電板(弾性部材)を蓋材で位置規制する際の問題を防ぐためには、蓋材と導電板との間に隙間を設け、導電板を凹状容器の側壁部に固定することが肝要となる。また、隙間を小さくして余分な空隙の形成を防ぐためには、導電板の固定に関わる箇所を平面視で発電要素よりも径方向の外方に設け、導電板のうち発電要素の押圧に関わる箇所の位置を、導電板の固定位置とは無関係にある程度自由に設定できるようにすればよい。その場合、導電板の凹状容器の側壁部への固定方法としては、工程が容易であって良好な電気的接続が可能となるよう、側壁部の表面に窪みを形成し、導電板の固定に関わる圧入部を窪みに圧入する方法が選択される。ただし、圧入により導電板を固定しようとすると、電気化学セルに強い衝撃が加えられた場合に、導電板が蓋材側に位置ずれして良好な電気的接続が維持できなくなるおそれを生じさせる。
【0011】
そこで、本発明者らは、鋭意検討の結果、容易に導電板をケースに固定しながらも、安定して良好な電気的接続を維持できる本開示の電気化学素子を、以下の通り完成させた。
【0012】
(構成1)
本開示の実施形態に係る電気化学素子は、底部及び側壁部を有する凹状容器と凹状容器の開口を覆う蓋材とを有するケースと、ケース内に封止され、底部側に配置された第1電極層と蓋材側に配置された第2電極層と第1電極層及び第2電極層の間に配置された隔離層とを有する発電要素とを備え、発電要素と蓋材との間に配置され、前記発電要素を前記底部側に押圧する導電板を備えている。第1電極層は、ケースの内部から外部に通じる第1導通経路と電気的に接続されている。第2電極層は、導電板を介して前記ケースの内部から外部に通じる第2導通経路と電気的に接続されている。側壁部は、側壁部の表面に開口を有する窪みと、窪みの開口上部及び内側面のいずれか一方に形成された係止部とを含む。導電板は、平面視で前記発電要素よりも径方向の外方に位置し、側壁部の窪みに圧入される圧入部を含む。導電板と蓋材との間には隙間が形成されている。圧入部は、被係止部を含み、導電板が蓋材に向かってに移動した場合でも、導電板が蓋材に接する前に、被係止部が係止部に当接して導電板の移動を制止可能となる位置で導電板を固定している。
【0013】
これにより、電気化学素子が激しい衝撃を受けて導電板が蓋材の方向へ位置ズレした場合であっても、圧入部の一部である被係止部が係止部116に当接し、導電板が蓋材に接する前に導電板の移動を制止する。その結果、導電板30が蓋材12方向へと過剰に位置ズレするのを抑制することで導電板30は集電体としての機能を維持でき、良好な電気的接続の維持を図ることができる。また、圧入部を凹状容器の窪みに圧入すれば良いため、容易に導電板を凹状容器に固定することができる。
【0014】
(構成2)
構成1の電気化学素子において、係止部と被係止部との間の幅は、隙間の幅よりも小さい。これにより、導電板と蓋材との接触をより確実に抑制でき、より良好な電気的接続の維持を図ることができる。
【0015】
(構成3)
構成1又は2の電気化学素子において、係止部は、窪みの内側面から突出して形成されている。係止部の突出幅をt1とし、圧入部の板厚をt2としたとき、以下の式(1)を満たす。
t2/4<t1<2×t2 (1)
これにより、窪みに圧入された圧入部によってより適切に導電板を凹状容器に固定することができ、かつ、より適切に導電板の移動を制止することができる。
【0016】
(構成4)
構成1~3のいずれか1つの電気化学素子において、発電要素は、第2電極層の表面にさらに多孔質金属層を有してよい。これにより、導電板から押圧された多孔質金属層が一定量圧縮され、発電要素の厚み又はケースの高さ等のばらつきを十分に吸収することができ、その結果、内部抵抗の値のばらつきを抑制することができる。或いは、多孔質金属層が予め第2電極層と一体化されている場合には、導電板と発電要素との導通箇所の電気抵抗を低減することができる。
【0017】
(構成5)
本開示の他の実施形態に係る電気化学素子は、底部及び側壁部を有する凹状容器と凹状容器の開口を覆う蓋材とを有するケースと、ケース内に封止され、底部側に配置された第1電極端子及び蓋材側に配置された第2電極端子を含む外装材と、外装材の内部に封入され、第1電極層と第2電極層と第1電極層及び第2電極層の間に配置された隔離層とを含む発電要素とを有する扁平形素子とを備え、扁平形素子と蓋材との間に配置され、扁平形素子を底部側に押圧する導電板を備えている。第1電極端子は、ケースの内部から外部に通じる第1導通経路と電気的に接続されている。第2電極端子は、導電板を介してケースの内部から外部に通じる第2導通経路と電気的に接続されている。側壁部は、側壁部の表面に開口を有する窪みと、窪みの開口上部及び内側面のいずれか一方に形成された係止部とを含む。導電板は、平面視で扁平形素子よりも径方向の外方に位置し、側壁部の窪みに圧入される圧入部を含む。導電板と蓋材との間には隙間が形成されている。圧入部は、被係止部を含み、導電板が蓋材に向かってに移動した場合でも、導電板が蓋材に接する前に、被係止部が係止部に当接して導電板の移動を制止可能となる位置で導電板を固定している。これにより、電気化学素子は、激しい衝撃を受けた場合であっても良好な電気的接続を維持することができる。
【0018】
(第1実施形態)
以下、本開示の第1実施形態について、電気化学素子が全固体電池である場合を例にして、
図1~
図5を用いて具体的に説明する。まず、
図1に示すように、電気化学素子1は、ケース10と、ケース10に収容される発電要素20及び導電板30と、ケース10の外表面に配置される外部端子13及び外部端子14とから構成されている。
【0019】
ケース10は、凹状容器11と蓋材12とを有する。凹状容器11は、セラミックス製である。凹状容器11は、四角形状の底部111と、底部111の外周から連続して形成され、内部に発電要素20を収容するための円筒形状の空間を有する四角筒形状の側壁部112とを含んでいる。側壁部112は、縦断面視で、底部111に対して略垂直に延びるように設けられている。底部111の内部には、導体部113が形成されている。導体部113は、発電要素20に導電接続されるように発電要素20と底部111との間に延設されており、電極層21に対応する導通経路を形成している。側壁部112の内部には、導体部114が形成されている。導体部114の一部は、側壁部112の内周面において、後述する窪み115の内側面及び係止部116の下面に露出して形成されており、電極層22に対応する導通経路を形成している。凹状容器11の製造方法については、後述する。なお、凹状容器11の材質は、特に限定されず、樹脂、ガラス(硼珪酸ガラス、ガラスセラミックスなど)、金属及びセラミック等、種々のものを例示することができる。樹脂中にセラミックスやガラスの粉末が分散された複合材であってもよい。凹状容器11を金属材料で構成する場合は、凹状容器11と発電要素20との絶縁、或いは、凹状容器11と後述する扁平形素子50(
図8を参照。)との絶縁を確保するため、凹状容器11の底部111の内面及び側壁部112の内周面を樹脂材料又はガラス等の絶縁材で被覆することが好ましい。また、凹状容器11は、平面視において四角形状に限られず、円形状、楕円形状及び多角形状などであってもよい。発電要素20を収容するための内部の空間は、円筒形状に限られず、発電要素20の形状に応じて四角筒形状など多角筒形状に形成されてもよい。また、導体部114は、側壁部112の内部ではなく、側壁部112の内面に形成し、さらに底部111の内部を貫通させて外部端子14と導通させてもよい。この場合、発電要素20の外周面と導体部114とが接触しないように、発電要素20の外周面と導体部114との間、例えば、導体部114の内表面に絶縁層を形成するのが好ましい。
【0020】
側壁部112は、後述する導電板30の圧入部31を圧入する複数の窪み115を有している。本実施形態において、窪み115は、側壁部112の上端面に開口して形成されている。窪み115は、側壁部112の内周面に開口して形成されてもよい。窪み115は、その内側面から突出して形成された係止部116を有する。係止部116は、側壁部112の上端面における窪み115の開口端部に形成され、側壁部112の内周面の周方向に沿って内側面から突出している。係止部116は、
図2又は3に示すように、複数の窪み115の開口の一部に形成された天壁とも言える。また、係止部116は、側壁部112の上端面から突出するよう形成されていてもよい。すなわち、係止部116は、窪み115の開口上部で開口の一部を覆うように形成されていてもよい。各々の係止部116の下面、すなわち、各々の天壁の下面は、詳しくは後述するが、電気化学素子1が激しい衝撃を受けて導電板30が蓋材12の方向(
図2の上方)に位置ズレしたとき、導電板30が蓋材12に接する前に、導電板30の圧入部31の移動を制止する。また、本実施形態では2つの窪み115が設けられているが、その数は限定されず、例えば、導電板30の圧入部31を4つにした場合は、圧入部31に対応する位置に5つの係止部116を設ければよい。
【0021】
蓋材12は、凹状容器11の開口を覆う四角形状の金属製薄板である。蓋材12は、
図1及び
図4に示すように、その外周端部の下面と凹状容器11の上端との間に配された四角枠状のシールリング15によって凹状容器11に接合(シーム溶接)されている。これにより、ケース10の内部空間は完全に密閉される。ケース10の内部空間は、発電要素20への影響を考慮して真空雰囲気或いは窒素等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。なお、蓋材12は、凹状容器11の開口を覆うことができれば、金属製薄板に限られるものではない。蓋材12は、四角形状に限られず、凹状容器11の平面視における形状に応じて、円形状、楕円形状及び多角形状等に種々変更することができる。また、蓋材12は、平板以外の形状であってもよい。なお、蓋材12は、接着剤によって凹状容器11と接着されてもよく、ケース10の内部空間を密閉できれば蓋材12と凹状容器11との接合方法は特に限定されない。
【0022】
外部端子13は、凹状容器11の底部111の外面に配置されている。外部端子13は、導体部113を介して後述する電極層21に電気的に接続されている。電極層21は、後述するように正極層として機能する。したがって、導体部113は、外部端子13と正極層とを導通させる導通経路となり、外部端子13は、正極の端子として機能する。
【0023】
外部端子14は、凹状容器11の底部111の外面に外部端子13から離れて配置されている。外部端子14は、導体部114を介して後述する導電板30の圧入部31と電気的に接続されている。後述するように、導電板30は、負極層として機能する電極層22に電気的に接続される。したがって、導体部114は、外部端子14と負極層とを導通させる導通経路となり、導電板30は、この導通経路と電極層22とを導通させる接続端子となるため、外部端子14は、負極の端子として機能する。なお、外部端子13及び外部端子14の配置は、上記に限定されず、凹状容器11の側壁部112の外面に配置されてもよく、蓋材12を導体部114として機能させ、外部端子14を蓋材12の外面に形成することも可能である。ただし、これら両端子を凹状容器11の底部111の外面に一定の間隔を設けて配置することにより、回路基板の表面への実装が容易になる。
【0024】
ここで、凹状容器11の製造方法について説明する。まず、セラミックのグリーンシートに金属ペーストを印刷塗布して導体部113及び導体部114となる印刷パターンを形成する。次に、これらの印刷パターンを形成したグリーンシートを複数積層し、焼成する。形状の異なる複数のグリーンシートを積層することにより、上述した窪み115及び係止部116が形成される。これにより、内部に導体部113及び導体部114を有し、且つ、上述した窪み115及び係止部116を有する凹状容器11を作製することができる。なお、側壁部112の内周面又は上端面に窪み115及び係止部116を形成できれば、このような製法に限定されるものではない。なお、外部端子13及び外部端子14は、この金属ペーストの印刷パターンによって形成することもできる。
【0025】
発電要素20は、電極層(正極層)21と電極層(負極層)22と固体電解質層23とを積層した積層体を含んでいる。固体電解質層23は、隔離層として電極層21と電極層22との間に配置されている。すなわち、本実施形態において、隔離層は、固体電解質層23である。発電要素20は、円柱形状に形成されている。発電要素20は、凹状容器11の底部111側(図示の下方)から電極層21、固体電解質層23、電極層22の順で積層されている。すなわち、発電要素20は、その一方の端部である電極層21が凹状容器11の底部111側となるように配置され、且つ、その他方の端部である電極層22が蓋材12側となるように配置され、ケース10の内部空間に収容されている。なお、発電要素20は、円柱形状に限られず、直方体形状や多角柱形状等、種々変更することができる。また、発電要素20は、複数の積層体を有していてもよい。複数の積層体は、直列に接続されるように積層されていてもよい。
【0026】
電極層21は、正極活物質として、コバルト酸リチウムと、硫化物系固体電解質と、導電助剤であるグラフェンとを質量比で65:30:5の割合で含有した正極合剤を円柱形状に成形した正極ペレットである。なお、電極層21の正極活物質は、発電要素20の正極層として機能することができれば、特に限定されるものではなく、例えば、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、オリビン型複合酸化物等であってもよく、これらを適宜混合したものであってもよい。他の構成材や割合についても、特に限定されるものではない。また、電極層21のサイズや形状は、円柱形状に限定されるものではなく、電気化学素子1のサイズや形状に応じて種々変更可能である。
【0027】
電極層22は、リチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質として、LTO(Li4Ti5O12、チタン酸リチウム)と、硫化物系固体電解質と、グラフェンとを重量比で50:40:10の割合で含有した負極合剤を円柱形状に成形した負極ペレットである。なお、電極層22の負極活物質は、発電要素20の負極層として機能することができれば、特に限定されるものではなく、例えば、金属リチウム、リチウム合金のほか、黒鉛、低結晶カーボンなどの炭素材料や、SiOなどの酸化物等であってもよく、これらを適宜混合したものであってもよい。他の構成材や割合についても、特に限定されるものではない。また、電極層22のサイズや形状は、円柱形状に限定されるものではなく、電気化学素子1のサイズや形状に応じて種々変更可能である。
【0028】
固体電解質層(隔離層)23は、硫化物系固体電解質を含む。固体電解質層23は、円柱形状に成形されている。なお、電極層21、電極層22及び固体電解質層23に含まれる固体電解質は、特に限定はされないが、イオン伝導性の点から硫化物系固体電解質、特にアルジロダイト型の硫化物系固体電解質が好ましく用いられる。硫化物系固体電解質を用いる場合には、正極活物質との反応を防ぐために、正極活物質の表面をニオブ酸化物などのリチウムイオン伝導性材料で被覆することが好ましい。また、固体電解質層23、電極層21および電極層22に含まれる固体電解質は、水素化物系固体電解質や酸化物系固体電解質等であってもよい。また、固体電解質層23のサイズや形状は、円柱形状に限定されるものではなく、電気化学素子1のサイズや形状に応じて種々変更可能である。
【0029】
導電板30は、
図1及び
図5に示すように、ケース10の凹状容器11の開口部に設置される金属製の平面視において四角形状の板材であり、圧入部31と平面部32とを有する。導電板30は、平面視で発電要素20よりも径方向の外方において、上述した各々の窪み115の位置に対応する複数の圧入部31を有する。圧入部31は、本実施形態において、フック形状を有する。より具体的に、圧入部31は、平面部32の縁端から上述の窪み115に向かって(
図1の下方に)延びる基部311と、基部311から係止部116の下面に向かって折り返された先端部312とを有している。ここで、先端部312の折り返し方向とは反対の基部311の背面は、窪み115の内側面において露出した導体部114に接触している。圧入部31は、側壁部112の表面に形成された窪み115に圧入される。このとき、圧入部31の先端部312は、窪み115への圧入過程において、係止部116に接触して基部311の方向に向かって変形し、先端部312の先端が係止部116よりも圧入方向奥側へ移動すると弾性変形によって窪み115の内側面を押圧する。このように、導電板30は、凹状容器11に容易に固定することができる。これにより、導電板30は、集電体として機能するとともに、電極層22と外部端子14に繋がる導通経路とを電気的に接続する接続端子として機能する。また、先端部312が窪み115の内側面を押圧することによって基部311の背面がより確実に導体部114に接触する。これにより、電気抵抗の低下を抑制することができる。導電板30は、凹状容器11の開口の一部を覆う。平面部32の平面視における面積は、凹状容器11の開口面積よりも小さい。なお、圧入部31は、窪み115に圧入された状態で、その弾性力により窪み115の内側面を押圧して導電板30を凹状容器11に固定できれば、これに限られるものではない。
【0030】
さらに、圧入部31は、その先端部312の先端に被係止部313を有する。被係止部313は、電気化学素子1が組立てられた状態で、係止部116の下方、すなわち、係止部116よりも圧入方向奥側に配置される。すなわち、係止部116は、蓋材12と被係止部313との間に位置付けられる。被係止部313は、電気化学素子1が激しい衝撃を受けて導電板30が蓋材12の方向へ位置ズレしたときに、上述した係止部116の下面、すなわち、天壁の下面に当接する。これにより、電気化学素子1が激しい衝撃を受けた場合であっても、圧入部31の圧入方向反対側への移動を制止し、導電板30が蓋材12方向へと過剰に位置ズレするのを防止することができる。その結果、圧入部31の基部311の背面と導体部114との接触を維持することができ、蓋材12の変形を抑制するとともに、良好な電気的接続の維持を図ることができる。なお、被係止部313は、これに限られるものではなく、係止部116に対して窪み115の奥側から当接することによって、導電板30が蓋材12に接する前に圧入部31の移動を制止できればよい。
【0031】
図1に示すように、導電板30は、発電要素20のもう一方の端部である電極層22の上面と接触するように、導電板30の平面部32から発電要素20の電極層22に向かって立ち上がるバネ部33を有する。バネ部33の形状は、発電要素20を凹状容器11の底部111の方向へ押圧することができれば、特に限定はされない。本実施形態では、バネ部33は、平面部32から発電要素20の電極層22に向かって傾斜しているバネ片である(以下、バネ部33をバネ片33と称する場合がある。)。
図5に示すように、バネ片33は、平面部32の一部をコ字型に切欠いて形成され、平面部32に片持ち支持されている。すなわち、本実施形態において、バネ片33は、板バネである。このように、平面部32の一部にバネ片33を形成すればよいため、導電板の製造、すなわち、電気化学素子の製造を容易に行うことができる。また、平面部32を切り欠いてバネ片33を形成することにより、導電板の製造、すなわち、電気化学素子の製造をさらに容易に行うことができる。
【0032】
バネ片33は、平面部32との境界331と、発電要素20の電極層22に接触させることによって電極層22と導通させる先端部332とを有する。バネ片33は、境界331において折り曲げられており、境界331から先端部332に向かって発電要素20側へ傾斜し、立ち上がっている。バネ片33の先端部332は、平面部32に向かって緩やかに湾曲している。電気化学素子1を組み立てる前の平面部32の底面から先端部332の下端までの高さ(バネ部33の高さ)は、電気化学素子1を組み立てた後の平面部32の底面から発電要素20までの高さよりも大きい。これにより、バネ片33の先端部332によって発電要素20を押圧することができ、導電板30と発電要素20との良好な電気的接続を維持することができる。
【0033】
また、バネ部33をバネ片で構成したことにより、圧入部31を除く導電板30の厚みを薄くすることができる。例えば、電気化学素子1を組み立てる前において、圧入部31を除く導電板30の厚みは、平面部32を構成する板材の厚みと、バネ片33の高さの和とすることができる。具体的には、板材の厚み:0.2mmとバネ片33の高さ:0.5mmとを合わせ、圧入部31を除く導電板30の厚みを0.7mmにすることができる。また、バネ片33の幅を1.5mmとし、長さを3mm等とすることができる。なお、バネ片33を複数設ける場合には、共振を防ぐなどの理由から、バネ片33の幅や長さ等を含む形状は、個々に異なっていてもよい。圧入部31を除く導電板30の厚みは、1.2mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましく、0.8mm以下であることが特に好ましい。一方、バネ部33で必要な押圧力を生じさせるために、圧入部31を除く導電板30の厚みは、0.3mm以上とすることが好ましく、0.4mm以上とすることがより好ましく、0.5mm以上とすることが特に好ましい。
【0034】
さらに、導電板30の縁端、すなわち、圧入部31の先端の位置は、高さ方向(導電板30の厚み方向)に自由に設定できるため、蓋材12と導電板30との間に隙間を形成した場合でも、蓋材12とバネ片33の先端部332との距離が大きくならない。その結果、蓋材12と発電要素20との間の空隙が大きくなることを抑制できるため、電気化学素子1の高容量化を図ることができる。ここで、圧入部31を含めた導電板30の全体の厚みは、凹状容器11の側壁部112における底部111からの高さに応じて適宜調整することができる。圧入部31は、窪み115の内部での固定に必要となる高さを有していればよい。そのため、圧入部31を含めた導電板30の全体の厚みは、例えば、3mm以下とすることができ、2.7mm以下であることが好ましく、2.5mm以下であることがより好ましい。なお、厚み方向とは、
図1の上下方向(電気化学素子1の高さ方向)であり、図示において平面部32の底面に対して直交する方向とも言える。なお、バネ片33は、上述のように平面部32を切欠いて形成してもよく、平面状の平面部32の底面に別途バネ片33を溶着する等により取付けてもよい。また、平面部32とは別にバネ片33を取り付けるためのベース部をあらかじめ設けておき、ベース部にバネ片33を取り付けて全体をバネ部としてもよい。すなわち、バネ片33は、平面部32から直接立ち上がってもよく、ベース部のような他の要素を介在させて平面部32から立ち上がるようにしてもよい。また、バネ片33は、発電要素20に向かって凸の形状となるようにバネ片33の両端が平面部32に支持されるのであってもよい。
【0035】
導電板30を構成する金属は、ニッケル、鉄、銅、クロム、コバルト、チタン、アルミニウム及びこれらの合金等が例示され、板バネとしての機能を発揮させやすくするため、SUS301-CSP、SUS304-CSP、SUS316-CSP、SUS420J2-CSP、SUS631-CSP及びSUS632J1-CSP等のバネ用ステンレス鋼が好ましく用いられる。
【0036】
また、導電板30の板材の厚みは、発電要素20への押圧力を一定以上とするために、0.05mm以上とすることが好ましく、0.07mm以上とすることがより好ましく、0.1mm以上とすることが特に好ましい。一方、導電板30の厚みが厚くなり過ぎてケース10内の収容容積が大きくなるのを防ぎ、また、導電板30を変形しやすくして圧入部31を側壁部112に容易に圧入できるようにするため、導電板30の厚みは、1.0mm以下とすることが好ましく、0.5mm以下とすることがより好ましく、0.3mm以下とすることが特に好ましい。
【0037】
導電板30は、凹状容器11の内部に発電要素20が収容されたのち、発電要素20の上面に載置される。導電板30の圧入部31を凹状容器11の底部111の方向へと押し込みながら、圧入部31を窪み115に圧入させる。このとき、圧入部31の先端、すなわち、被係止部313は、窪み115において係止部116よりも圧入方向奥側に配置される。導電板30のバネ片33は、圧入部31が下方へと押し込まれるため、発電要素20に接触した状態で電極層22とは反対方向へ押される。バネ片33は、その弾性力によって凹状容器11の底部111の方向へと発電要素20を押圧する。これにより、導電板30は、発電要素20とより安定的に接触し、振動等により位置ズレが生じることなく、良好な電気的接続を維持することができる。バネ部33は、その弾性力によって発電要素20を凹状容器11の底部111側へと押圧することができれば、特に限定されるものではない。また、凹状容器11は2つの窪み115を有しているが、窪み115の数は2つ以上であってもよい。圧入部31は、窪み115の数に応じて形成すればよい。なお、導電板30の縁端(圧入部31)を凹状容器11の側壁部112に固定する方法としては、圧入後に凹状容器11の側壁部112に導電板30の縁端を接着する方法なども例示される。
【0038】
導電板30と蓋材12との間には隙間が形成される。すなわち、導電板30と蓋材12とは接触しない。これにより、発電要素20の体積変化によって導電板30が蓋材12側へと押された場合であっても、蓋材12の変形を抑制することができる。また、蓋材12と凹状容器11とは、上述の通りシールリング15を介して溶接される。導電板30と蓋材12との間に隙間を設けたことにより、発電要素20への溶接熱の影響を抑制することができる。さらに、導電板30と蓋材12とが接触しないため、凹状容器11の側壁部112の上端面に蓋材12を接合する際に導電板30からの押圧の影響を受けなくなり、ケース10の封止性をより向上させることができる。
【0039】
図1及び
図2に示すように、導電板30と蓋材12との隙間は、幅w1を有する。また、
図2に示すように、圧入部31の被係止部313は、係止部116とは離間して配置される。このとき、係止部116の下面と圧入部31の被係止部313との隙間(幅w2)は、幅w1より小さくすればよい(w2<w1)。なお、本実施形態において、幅w1は、導電板30と蓋材12との間の軸方向距離であり、幅w2は、係止部116の下面と圧入部31の被係止部313との間の軸方向距離である。これにより、導電板30が蓋材12の方向へ位置ズレした際、導電板30と蓋材12とが接触する前に係止部116と被係止部313とが当接して導電板30の移動を制止することができる。その結果、より確実に導電板30と蓋材12との接触を防止することができる。導電板30と蓋材12との隙間の幅w1は、余分なデッドスペースの形成を防ぐために小さくするのが好ましく、0.5mm以下とするのが好ましく、0.3mm以下とするのがより好ましい。一方、隙間の幅w1を小さくし過ぎると、隙間の幅w1よりも小さな値とする必要がある係止部116の下面と圧入部31の被係止部313との隙間の幅w2が小さくなり過ぎる。そのため、設計に裕度がなくなり組み立てが難しくなるため、幅w1は0.05mm以上とすることが好ましく、0.07mm以上とすることがより好ましい。
【0040】
図2に示すように、係止部116は、突出方向に幅t1を有する。本実施形態において、係止部116は、側壁部112の内周面の周方向に幅(突出幅)t1を有する。圧入部31の板厚をt2としたとき、以下の式(1)を満たす。
t2/4<t1<2×t2 (1)
幅t1が大きすぎると、圧入部31の窪み115への圧入過程において、折り曲げられた先端部312に塑性変形が生じ得る。そのため、幅t1は、小さい方が好ましい。ただし、被係止部313をより適切に当接させて圧入部31の移動を制止するという観点からすれば、幅t1は、大きい方が好ましい。したがって、係止部116の突出方向の幅t1と圧入部31の板厚t2との関係において、上述の式(1)を満たすことにより、圧入部31を窪み115に圧入した状態で適切に導電板30を固定することができ、かつ、電気化学素子1が激しい衝撃を受けて導電板30が蓋材12に向かって移動した場合であっても圧入部31の移動を制止することで適切に導電板30と蓋材12との接触を防止することができる。なお、式(1)の突出方向の幅t1について、上述のように窪み115の開口上部に係止部116を設ける場合、窪み115の内側面に沿って開口上方に延びる仮想面(
図2中、窪み115の内側面に沿って延びる一点鎖線で示す。)を窪み115の内側面として突出幅t1を測定することができる。
【0041】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の電気化学素子1について、
図6を用いて具体的に説明する。本実施形態の電気化学素子1において、第1実施形態の電気化学素子1と同じ構成については基本的には説明を省略し、第1実施形態の電気化学素子1とは異なる構成についてのみ説明する。
【0042】
本実施形態の電気化学素子1において、発電要素20は、多孔質金属層24を有する。多孔質金属層24は、電極層22の表面に配置されており、バネ片33の先端部332と接触することにより、電極層22と導電板30とを導通させている。
【0043】
多孔質金属層24は、発泡状金属多孔質体のように、空隙率が高く、一方の面から他方の面に貫通する空孔を有する多孔質の金属基体であり、押圧して圧縮することができ、集電体として機能するものである。多孔質金属層24は、電極層22の表面を被覆している。電気抵抗を低下させるためには、多孔質金属層24は、電極層22と接触しているだけでなく、その一部が電極層22の負極合剤に埋設されて電極層22と一体化していることが好ましい。なお、
図6に示すように、電極層22の下面、すなわち、底部111側において、電極層21の表面に多孔質金属層24を配置してもよく、その一部が電極層21の正極合剤に埋設されて電極層21と一体化するように多孔質金属層24を設けてもよい。
【0044】
多孔質金属層24の空隙率は、圧縮による発電要素20の厚みのばらつきなどを調整しやすくするため、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。一方、良好な導電性を確保するために、多孔質金属層24の空隙率は、99%以下であることが好ましい。電気化学素子1を組み立てる前の多孔質金属層24の厚みは、0.1mm以上であることが好ましく、0.3mm以上であることがより好ましく、0.5mm以上であることが特に好ましく、一方、3mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましく、1.5mm以下であることが特に好ましい。
【0045】
このように多孔質金属層24を設けたことにより、発電要素20の厚み又はケース10の高さ等のばらつきを十分に吸収することができ、その結果、内部抵抗の値のばらつきを抑制することができる。或いは、多孔質金属層24が予め第2電極層と一体化されている場合には、バネ部33と発電要素20との導通箇所の電気抵抗を低減することができる。
【0046】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態の電気化学素子1について、
図7を用いて具体的に説明する。本実施形態の電気化学素子1において、第1実施形態の電気化学素子1と同じ構成については基本的には説明を省略し、第1実施形態の電気化学素子1とは異なる構成についてのみ説明する。
【0047】
本実施形態の電気化学素子1は、電極層22と導電板30との間に導電シート40を有する。導電シート40は、本実施形態において、膨張黒鉛により構成された導電性のカーボンシート、すなわち、黒鉛シートである。黒鉛シートは、以下のように製造される。まず、天然黒鉛に酸処理を施した酸処理黒鉛の粒子を加熱する。そうすると、酸処理黒鉛は、その層間にある酸が気化して発泡することによって膨張する。この膨張化した黒鉛(膨張黒鉛)をフェルト状に成型し、さらに、ロール圧延機を用いて圧延することによりシート体を形成する。導電シート40は、この膨張黒鉛のシート体を円形状にくり抜くことにより製造される。上述の通り、膨張黒鉛は、酸が気化して酸処理黒鉛が発泡することによって形成される。そのため、黒鉛シートは、多孔質形状に形成されている。したがって、黒鉛シートは、黒鉛自体がもつ導電性とともに、従来の黒鉛製品にはない柔軟性をも有する。なお、黒鉛シートの製造方法はこれに限られず、膨張黒鉛以外の材料で構成されてもよく、どのような方法で黒鉛シートを製造してもよい。
【0048】
黒鉛シートのみかけ密度は、0.3g/cm3以上が好ましく、より好ましくは0.7g/cm3以上であり、1.5g/cm3以下が好ましく、より好ましくは1.3g/cm3以下とするのがよい。黒鉛シートのみかけ密度が低すぎると黒鉛シートが破損しやすくなり、みかけ密度が高すぎると柔軟性が低下するためである。なお、みかけ密度は、黒鉛シートに限られるものではなく、導電性テープなど他の素材によって形成された導電シート40においても適用可能である。
【0049】
黒鉛シートの厚みは、0.05mm以上が好ましく、より好ましくは0.07mm以上とするのがよく、0.5mm以下が好ましく、より好ましくは0.2mm以下とするのがよい。黒鉛シートの厚みが小さすぎると黒鉛シートが破損しやすくなり、厚みが大きすぎると黒鉛シートが発電要素20を収容するケース10の内部空間を狭め、収容できる発電要素20の容積(厚み)が減少するためである。
【0050】
このように、導電板よりも柔軟性の高い、すなわち変形容易な導電シート40を設けたことにより、上述した導電板30のバネ片33の押圧力がより均一に発電要素20に伝わり、発電要素20の破損を抑制するとともに、電気的接続の安定化を図ることができる。なお、導電シート40は、
図7に示すように、電極層21と凹状容器11の底部111との間に配置されてもよい。これにより、さらに発電要素20の破損の抑制及び電気的接続の安定化を図ることができる。
【0051】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態の電気化学素子1について、
図8を用いて具体的に説明する。本実施形態の電気化学素子1において、第1実施形態及び第2実施形態の電気化学素子1と同じ構成については基本的には説明を省略し、第1実施形態及び第2実施形態の電気化学素子1とは異なる構成についてのみ説明する。
【0052】
本実施形態の電気化学素子1は、ケース10の内部空間に扁平形素子50を収容している。扁平形素子50は、
図8に示すように、外装缶(電極端子)51、封口缶(電極端子)52、上述の発電要素20及びガスケット53を有している。
【0053】
外装缶51は、円形状の平面部511と、平面部511の外周から連続して形成される円筒状の筒状側壁部512とを備える。筒状側壁部512は、縦断面視で、平面部511に対して略垂直に延びるように設けられている。外装缶51は、ステンレスなどの金属材料によって形成されている。外装缶51は、凹状容器11の底部111側に配置されている。
【0054】
封口缶52は、円形状の平面部521と、平面部521の外周から連続して形成される円筒状の周壁部522とを備える。封口缶52の開口は、外装缶51の開口と対向している。封口缶52は、ステンレスなどの金属材料によって形成されている。封口缶52は、蓋材12側に配置されている。外装缶51と封口缶52との間には、発電要素20が収容される。したがって、外装缶51は、導体部113に接続される電極端子として機能し、封口缶52は、導電板30に接続されるもう一方の電極端子として機能する。
【0055】
外装缶51と封口缶52とは、発電要素20を内部空間に収容したのち、外装缶51の筒状側壁部512と封口缶52の周壁部522との間にガスケット53を介してカシメられる。より具体的には、外装缶51と封口缶52とは、外装缶51と封口缶52の互いの開口を対向させ、外装缶51の筒状側壁部512の内側に封口缶52の周壁部522を挿入したのち、筒状側壁部512と周壁部522との間にガスケット53を介してカシメられる。これにより、外装缶51と封口缶52によって形成された内部空間は、密閉状態となる。すなわち、外装缶51及び封口缶52は、その内部空間に発電要素20を封入する外装材である。なお、外装缶51及び封口缶52は各々、平面視において円形状に限られず、楕円形状又は多角形状等、種々変更することができる。
【0056】
ガスケット53は、ポリアミド系樹脂、ポリプロピレン樹脂又はポリフェニレンサルファイド樹脂等の樹脂材料によって構成されている。なお、外装缶51と封口缶52によって形成された内部空間を密閉状態とする方法は、ガスケット53を介したカシメに限られず、他の方法によってなされるのであってもよい。例えば、外装缶51の筒状側壁部512と封口缶52の周壁部522との間に熱溶融性樹脂や接着剤などを介在させて接合し、封止するものであってもよい。
【0057】
導電板30は、凹状容器11の内部に扁平形素子50が収容されたのち、扁平形素子50の上面に載置され、圧入部31を窪み115に圧入させて固定させる。このとき、導電板30のバネ片33は、封口缶52の平面部521に接触した状態で扁平形素子50とは反対方向へ撓む。バネ片33は、その弾性力によって凹状容器11の底部111の方向へと扁平形素子50を押圧する。
【0058】
本実施形態の電気化学素子1においても、特に図示しないが、扁平形素子50と導電板30との間に上述した多孔質金属層24或いは導電シート40を配置してもよい。また、扁平形素子50と凹状容器11の底部111との間に多孔質金属層24或いは導電シート40を配置してもよい。
【0059】
扁平形素子50は、固体電解質層を有する全固体電池に限られるものではなく、リチウムイオン二次電池などの非水電解質電池や、その他扁平形状を有する電池、或いは、リチウムイオンキャパシタ等のキャパシタであってもよい。
【0060】
上述の第1~4の実施形態において、電極層21を正極層として機能させ、電極層22を負極層として機能させたが、電極層21を負極層として機能させ、電極層22を負極層として機能させてもよい。この場合、外部端子13が負極の端子として機能し、外部端子14が正極の端子として機能する。
【0061】
上述の第4実施形態において、扁平形素子50は、外装缶51が凹状容器11の底部111側に配置されるようにケース10の内部空間に収容したが、封口缶52が凹状容器11の底部111側に配置されるように収容してもよい。すなわち、扁平形素子50は、
図6に示す扁平形素子50の天地を反転させた状態で、ケース10の内部空間に収容されてもよい。
【0062】
上述の第1~4の実施形態では、発電要素20を、電極層21と電極層22と固体電解質層23とを積層した積層体で構成したが、隔離層として、固体電解質層23に代えてセパレータ(図示せず。)を設け、ケース10の内部空間に発電要素20とともに電解液を収容することにより、電気化学素子をリチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ等とすることができる。この場合、セパレータ及び電解液は、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ又は電気二重層キャパシタ等で通常に用いられるものである。また、電極層21と電極層22は、各種の電気化学素子1で通常に用いられる正極及び負極の合剤層に置き換えればよい。
【0063】
なお、本発明によれば、国連の提唱する持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)の目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」および目標12「つくる責任 つかう責任」に寄与することができる。
【実施例0064】
厚さ0.2mmのSUS304-CSPで構成された導電板を用い、
図1に示される電気化学素子(全固体電池)を作製した。なお、w1=0.2mm、w2=0.1mm、t1=0.1mm、t2=0.2mmに設定した。この実施例の電池について、回転試験機により軸方向の上向きに100Gの遠心力を加えた後、分解して導電板の移動の状態を確認した。試験後の電池では、導電板が蓋材の方向へ位置ズレしていたが、導電板の圧入部の被係止部が凹状容器の側壁部の窪みに形成された係止部に当接して移動が制止されており、導電板が蓋材と接触するのを防ぐことができていた。
【0065】
上述の試験を行った実施例の電池に対し、印加電圧10mVで1kHzでの交流インピーダンスを測定し、試験前に測定した交流インピーダンスの値と比較したが、変化は認められず、凹状容器の側壁部に係止した導電板により、電気的接続が良好に維持されていることを確認した。
【0066】
以上、実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
1 電気化学素子、 10 ケース、11 凹状容器、12 蓋材、13 外部端子、14 外部端子、15 シールリング、111 底部、112 側壁部、113 導体部、114 導体部、115 窪み、116 係止部、20 発電要素、30 導電板、31 圧入部、311 基部、312 先端部、313 被係止部、32 平面部、33 バネ片、331 境界、332 先端部、40 導電シート、50 扁平形素子、51 外装缶、511 平面部、52 封口缶、521 平面部、53 ガスケット、仮想軸線 A、仮想点 C、中心点 P、w1 幅、w2 幅、t1 幅、t2 板厚