(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104852
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】繊維含有積層成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B27N 3/04 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
B27N3/04 C
B27N3/04 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009242
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000139780
【氏名又は名称】株式会社イトーキ
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 勇介
(72)【発明者】
【氏名】川尻 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 洋平
(72)【発明者】
【氏名】小島 勇
【テーマコード(参考)】
2B260
【Fターム(参考)】
2B260AA20
2B260BA07
2B260BA15
2B260CB04
2B260CC03
2B260CD06
2B260CD09
2B260DA07
2B260EA04
2B260EC01
2B260EC05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】層間の隙間が発生し難く、生産性に優れ、製造コストを低減可能な繊維含有積層成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】植物繊維が熱可塑性樹脂により結着されてなる複数枚のプレボードを熱可塑性樹脂が溶融する温度以上の温度に加熱する加熱工程と、熱可塑性樹脂が溶融する温度以上に加熱された複数枚のプレボードを成形型40の間に積層させた状態で配置し、成形型40によりプレス成形を行うプレス成形工程と、を含む繊維含有積層成形体11の製造方法。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物繊維が熱可塑性樹脂により結着されてなる複数枚のプレボードを前記熱可塑性樹脂が溶融する温度以上の温度に加熱する加熱工程と、
前記熱可塑性樹脂が溶融する温度以上に加熱された複数枚の前記プレボードを一対の成形型の間に積層させた状態で配置し、前記一対の成形型によりプレス成形を行うプレス成形工程と、を含む繊維含有積層成形体の製造方法。
【請求項2】
前記加熱工程において、複数枚の前記プレボードを積層されていない個別状態で加熱し、その後、前記熱可塑性樹脂が溶融する温度以上に加熱された状態で積層する積層工程が実施される請求項1に記載の繊維含有積層成形体の製造方法。
【請求項3】
前記プレス成形工程において加熱を行わないコールドプレス成形が実施される請求項1または請求項2に記載の繊維含有積層成形体の製造方法。
【請求項4】
前記プレス成形工程において、複数枚の前記プレボードは隣り合う前記プレボードと前記プレボード中に含まれる前記熱可塑性樹脂により互いに融着される請求項1または請求項2に記載の繊維含有積層成形体の製造方法。
【請求項5】
当該繊維含有積層成形体は、少なくとも座面部を備える椅子であり、
前記プレボード中に含まれる前記植物繊維は、前記プレボードの板面に沿う一方向に配向される配向性を有しており、
複数枚の前記プレボードは、当該プレボード中に含まれる前記植物繊維の配向方向が揃う方向に積層されるとともに、前記プレス成形工程において前記配向方向と交差する方向に屈曲される請求項1または請求項2に記載の繊維含有積層成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、繊維含有積層成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木質材料の積層体からなる製品の生産性を向上させ、かつ生産コストを抑える技術が種々検討されている。例えば特許文献1には、多層の薄い木の切れを糊で結合してなる複合板に対し、高周波プレス用の上下成形型により圧力を加えて、製品のプレス成形を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで近年、植物繊維が熱可塑性樹脂により結着されてなる植物繊維含有ボードが多く使用されている。植物繊維とは、植物由来の繊維材料のことであり、具体的には、ケナフ繊維、ジュート繊維等が挙げられる。このような植物繊維含有ボードは軽量であり、且つ、天然繊維を使用することにより地球環境にとって有効なものとなっている。
【0005】
しかし、このような植物繊維含有ボードを複数枚積層させてなる木質積層体に対して高周波プレスにより曲げ加工を行う場合、屈曲部において隣り合うボード間に隙間が発生する場合がある。特に屈曲角度が直角に近い程度に大きく曲げる場合に、隙間が発生し易い懸念がある。また、屈曲部に割れが発生し、製品強度や耐久性が低下したり、見映えに問題が発生する虞がある。これは、植物繊維含有ボードが硬く、製品形状に追従し難いためである。
【0006】
本明細書に開示される技術は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、層間の隙間が発生し難く、生産性に優れ、製造コストを低減可能な繊維含有積層成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示される技術は、植物繊維が熱可塑性樹脂により結着されてなる複数枚のプレボードを前記熱可塑性樹脂が溶融する温度以上の温度に加熱する加熱工程と、前記熱可塑性樹脂が溶融する温度以上に加熱された複数枚の前記プレボードを一対の成形型の間に積層させた状態で配置し、前記一対の成形型によりプレス成形を行うプレス成形工程と、を含む繊維含有積層成形体の製造方法である。
【0008】
上記製造方法によれば、硬くて変形し難いプレボードが、熱可塑性樹脂が溶融する温度以上の温度に加熱されることにより柔らかくなるため、繊維含有積層成形体が大きく屈曲された部位を有する場合でも、成形型に追従し易くなる。従って、製造される繊維含有積層成形体においては、屈曲部の層間に隙間が発生し難いものとなる。また、屈曲部に割れも生じ難く、もって、製品強度や耐久性が低下したり、見映えが低下することも抑制することができる。さらに、従来のように高周波を利用してプレス成形する方法と比較して、時間がかからず生産性に優れるとともに、高周波用の設備が不要で成形型を簡素化することができるため、製造コストを低減することができる。
【0009】
前記加熱工程において、複数枚の前記プレボードを積層されていない個別状態で加熱し、その後、前記熱可塑性樹脂が溶融する温度以上に加熱された状態で積層する積層工程が実施されてもよい。
【0010】
上記製造方法によれば、複数枚のプレボードを積層した積層状態で加熱を行う構成と比較して、短時間で各プレボードを均一な温度に加熱することができる。
【0011】
前記プレス成形工程において加熱を行わないコールドプレス成形が実施されてもよい。このような製造方法によれば、成形型において加熱を行う方法と比較して、成形された繊維含有積層成形体を短時間で冷却することができる。
【0012】
前記プレス成形工程において、複数枚の前記プレボードは隣り合う前記プレボードと前記プレボード中に含まれる前記熱可塑性樹脂により互いに融着されてもよい。
【0013】
上記製造方法によれば、層間に別途の接着剤が不要となり、生産性が向上するとともに、製造コストを低減することができる。
【0014】
当該繊維含有積層成形体は、少なくとも座面部を備える椅子であり、前記プレボード中に含まれる前記植物繊維は、前記プレボードの板面に沿う一方向に配向される配向性を有しており、複数枚の前記プレボードは、当該プレボード中に含まれる前記植物繊維の配向方向が揃う方向に積層されるとともに、前記プレス成形工程において前記配向方向と交差する方向に屈曲されてもよい。このような製造方法によれば、脆弱になり易い屈曲部の強度を高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本明細書に開示される技術によれば、層間の隙間が発生し難く、生産性に優れ、製造コストを低減可能な繊維含有積層成形体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】繊維マット形成工程を示す繊維マット製造装置の模式図
【
図7】本体部成形工程を示す断面図(成形型が開いた状態)
【
図8】本体部成形工程を示す断面図(成形型が閉じた状態)
【発明を実施するための形態】
【0017】
一実施形態を
図1から
図9によって説明する。本実施形態では、繊維含有積層成形体の一例として、ケナフボードを利用した椅子10の製造方法について例示する。この椅子10は、
図1に示すように、着座者が着座する座面部12と、座面部12から略L字形状に略直角に屈曲されて立ち上がり、着座者の背を支持する背もたれ部13とを備えている。座面部12と背もたれ部13とは、複数の層を積層させてなる1枚の板材(積層体)を屈曲部14により屈曲させることで構成されており、以下、座面部12と背もたれ部13とを合わせて本体部(繊維含有積層成形体の一例)11として説明する。座面部12の裏面には、略U字型に屈曲された2本のパイプが固定されており、これらのパイプの両端部により、この椅子10の4本の脚部15が構成されている。
【0018】
本体部11は、植物繊維及び熱可塑性樹脂を含むものとされる。本体部11に含まれる植物繊維としては、例えば、ケナフ、ジュート麻、マニラ麻、サイザル麻、雁皮、三椏、楮、バナナ、パイナップル、ココヤシ、トウモロコシ、サトウキビ、バガス、ヤシ、パピルス、葦、エスパルト、サバイグラス、麦、稲、竹、各種針葉樹(スギ及びヒノキ等)、広葉樹及び綿花等の各種植物体から得られた繊維が挙げられ、この中でも、ケナフ繊維が好ましい。また、本体部11において、植物繊維は、バインダーとしての熱可塑性樹脂により結着されている。本体部11に用いられるバインダーとしての熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリエステル系樹脂を例示することができる。本実施形態の本体部11は、当該本体部11が有する表面の風合いを生かしたものとされている。
【0019】
次に本体部11の製造方法の一例について説明する。本実施形態の本体部11の製造方法は、植物繊維と熱可塑性樹脂繊維とからなる繊維マット11Mを形成する繊維マット形成工程と、繊維マット11Mを加熱プレスしてプレボード11Pを形成するプレボード形成工程と、プレボード11Pを加熱する加熱工程と、複数枚のプレボード11Pを積層する積層工程と、積層させた複数枚のプレボードをプレス成形して本体部11を成形する本体部成形工程(プレス成形工程の一例)と、を順に実行するものである。
【0020】
<繊維マット形成工程>
まず、本体部11を構成するための植物繊維(ケナフ繊維)および熱可塑性樹脂繊維(ポリプロピレンの繊維)をマット状に積層して、椅子10の本体部11の基となる繊維マット11Mを形成する。繊維マット11Mは、繊維マット製造装置20を用いて製造される。
【0021】
繊維マット製造装置20は、
図2に示すように、繊維供給部21と、フィードコンベア22と、開繊シリンダ23と、ブロア部26と、コンベア27と、吸引装置28と、交絡装置29と、カッター30と、を備えて構成されている。
【0022】
繊維供給部21に投入され、混合状態とされた繊維(混合繊維50)は、フィードコンベア22によって開繊シリンダ23に供給される。開繊シリンダ23は、円筒状をなすシリンダ本体23Aの表面(外周面)に複数の突起部23Bを備えてなり、中心軸L1を中心として、
図2中時計回りに回転する。回転する開繊シリンダ23は、フィードコンベア22から送られた混合繊維50を、突起部23Bで引っ掻くようにして開繊することが可能となっている。また、開繊シリンダ23が回転することで、混合繊維50は、開繊シリンダ23の表面(突起部23B)に引っ掛けられることで上方に搬送され、その後、開繊シリンダ23の回転による遠心力によって、空中に放出される。なお、
図2において開繊シリンダ23の回転方向を矢線A1で示す。
【0023】
開繊シリンダ23の外周には、ストリッパーローラ24及びウォーカローラ25が設けられており、それらの各表面にも複数の突起部が形成されている。ウォーカローラ25は、開繊シリンダ23との間に混合繊維50を通過させることで、その混合繊維50に対して開繊処理を施す機能を有しており、ストリッパーローラ24は、ウォーカローラ25の表面に付着した混合繊維50を剥離する機能を有している。
【0024】
開繊シリンダ23の下流側にはブロア部26が配されており、開繊シリンダ23に向けて空気を吹き付けるようになっている。開繊された混合繊維50は、ブロア部26から吹き付けられた空気によって飛散し、コンベア27上に落下する。
【0025】
コンベア27は網目状をなすメッシュコンベアとされ、その上面27Aに混合繊維50を堆積させることが可能である。コンベア27の下方には吸引装置28が配されており、空気を吸引することで、混合繊維50をコンベア27の上面27Aに吸引可能とされている。コンベア27は、上面27Aに混合繊維50を堆積させつつ混合繊維50の層を
図2の右側に搬送する。なお、コンベア27による混合繊維50の搬送方向を矢線A2で示す。そして、例えばニードルパンチ等の交絡装置29で繊維同士を交絡させることで、繊維マット11Mを形成する。繊維マット11Mは、カッター30により裁断され、所定の寸法とされる。
【0026】
繊維マット11Mにおける各繊維(混合繊維50)の配向方向は、その製法上、概ね所定の方向に揃えられている。具体的には、繊維マット11Mにおける混合繊維50の配向方向は、繊維マット製造装置20における繊維マット11Mの搬送方向(
図2の左右方向)に概ね沿うものとされる。
【0027】
図3は繊維マット11Mの平面図であって、図中略左右方に延びる多数の線は、繊維マット11M中の混合繊維50を模式的に表している。なお、各繊維は、その一部が繊維マット11Mの厚み方向に交絡しているが、平面視において概ね一方向(
図3の左右方向)に配向しているとみなすこととする。なお、
図3中の破線は、屈曲部14となる部分を示している。
【0028】
<プレボード形成工程>
プレボード形成工程では、
図4に示すように、繊維マット形成工程により形成された繊維マット11Mを、一対の平坦なプレス型31,32によって加熱プレスする。加熱プレスの後、繊維マット11Mに含まれる熱可塑性樹脂が冷却固化することで、プレボード11Pが形成される。
【0029】
<加熱工程>
次に、複数のプレボード11Pを
図5に示すようにヒーター35によって加熱する。複数のプレボード11Pは、同図に示すように、個別の状態(積層されていない状態)で加熱される。プレボード11Pを加熱する温度は、当該プレボード11Pに含まれている熱可塑性樹脂が溶融する温度以上とされる。例えば、プレボード11Pに含まれる熱可塑性樹脂がポリプロピレンである場合には、ポリプロピレンの融点は160℃~170℃であるため、プレボード11Pをこれ以上の温度(例えば220℃)に加熱する。
【0030】
<積層工程>
次に、プレボード11Pに含まれている熱可塑性樹脂が溶融する温度以上に加熱された状態の複数枚のプレボード11Pを積層する(
図6参照)。この時、各プレボード11P中の植物繊維は上述したように配向性を有しているため、各プレボード11P中の植物繊維の配向方向が同方向となるように複数枚のプレボード11Pを積層する。本実施形態では、厚さ2.5mmとされたプレボード11Pを4枚積層した積層体11Sとする。
【0031】
<本体部成形工程>
次に、
図7に示す成形型40を用いて、複数枚のプレボード11Pを積層させた積層体11Sをプレス成形する。本体部成形工程においては、まず、加熱された積層体11S(積層状態の複数のプレボード11P)を成形型40の開状態にある上型41と下型42との間に配置し(
図7参照)、上型41及び下型42を型閉じする(
図8参照)。この時、成形型40は加熱されない、所謂、コールドプレス成形とされる。
【0032】
上型41は、図示しない駆動装置(例えば、電動モータ、エアシリンダ、油圧シリンダなど)によって、下型42(固定型)に対して移動が可能な可動型とされる。上型41を下型42に対して接近離間させることで上型41及び下型42の型閉じ及び型開きが可能な構成となっている。
【0033】
下型42は、上型41との対向面である成形面42Aが上型41に向かって山型に突き出す形状をなしている。成形面42Aの山型の頂部42Tの角度は、直角あるいは直角よりやや大きい角度とされている。また、上型41は、下型42との対向面である成形面41Aが、下型42の形状に対応して谷型に凹む形状をなしている。なお、上型41と下型42との間に加熱された状態の積層体11Sを配置する際には、積層体11S中の植物繊維の配向方向が、下型42の山型の頂部42Tの延び方向(
図7の紙面に垂直な方向)と交差する方向(
図7の左右方向)に配置される向きとする。
【0034】
上型41は、
図8に示すように、上型41及び下型42が型閉じされた閉状態では、下型42に対して、本体部11の板厚に等しい距離だけ離間して対向配置される。つまり、閉状態では上型41と下型42との間には本体部11を成形するための本体部成形空間S1が形成される。これにより、上型41及び下型42で積層体11S(プレボード11P)をプレスすると、積層体11Sが本体部成形空間S1の形状に対応する形に圧縮され、本体部11が成形される構成となっている。なお、本体部11の板厚、すなわち、閉状態における上型41および下型42の離間距離は、積層体11Sの板厚よりも小さいものとされる。
【0035】
またこの時、各プレボード11Pに含まれる熱可塑性樹脂は溶融した状態とされているから、プレス成形に伴ってそれぞれ隣合うプレボード11Pとの接触面において互いの熱可塑性樹脂が混ざり合った状態とされる。
【0036】
その後、溶融された熱可塑性樹脂が冷却されて固化することで、複数のプレボード11Pが一体とされた本体部11が成形される。十分に冷却された後、上型41及び下型42を開き、本体部11を脱型する(
図9参照)。その後、必要に応じて、端部をカットあるいは研磨する。
【0037】
このようにして製造された椅子10の本体部11は、座面部12から背もたれ部13が立ち上がる屈曲部14において、植物繊維の配向方向が屈曲部14の延び方向と交差する方向とされており、屈曲部14の強度が高い構成とされている。
【0038】
次に、作用効果について説明する。本実施形態の椅子10の製造方法は、植物繊維が熱可塑性樹脂により結着されてなる複数枚のプレボード11Pを熱可塑性樹脂が溶融する温度以上の温度に加熱する加熱工程と、熱可塑性樹脂が溶融する温度以上に加熱された複数枚のプレボード11Pを一対の成形型40の間に積層させた状態で配置し、一対の成形型40によりプレス成形を行う本体部成形工程と、を含む。
【0039】
上記製造方法によれば、硬くて変形し難いプレボード11P(積層体11S)が、熱可塑性樹脂が溶融する温度以上の温度に加熱されることにより柔らかくなるため、本体部11が大きく屈曲された屈曲部14を有する場合でも、成形型40に追従し易くなる。従って、製造される本体部11においては、屈曲部14の層間に隙間が発生し難いものとなる。また、屈曲部14に割れも生じ難く、もって、製品強度や耐久性が低下したり、見映えが低下することも抑制することができる。さらに、従来のように高周波を利用してプレス成形する方法と比較して、時間がかからず生産性に優れるとともに、高周波用の設備が不要で成形型を簡素化することができるため、製造コストを低減することができる。
【0040】
加熱工程において、複数枚のプレボード11Pを積層されていない個別状態で加熱し、その後、熱可塑性樹脂が溶融する温度以上に加熱された状態で積層する積層工程が実施される。
【0041】
上記製造方法によれば、複数枚のプレボード11Pを積層した積層状態で加熱を行う構成と比較して、短時間で各プレボード11Pを均一な温度に加熱することができる。
【0042】
また、本体部成形工程において、加熱を行わないコールドプレス成形が実施される。このような製造方法によれば、成形型40において加熱を行う方法と比較して、成形された本体部11を短時間で冷却することができる。
【0043】
また、本体部成形工程において、複数枚のプレボード11Pは隣り合うプレボード11Pとプレボード11P中に含まれる熱可塑性樹脂により互いに融着される。
【0044】
上記製造方法によれば、層間に別途の接着剤が不要となり、生産性が向上するとともに、製造コストを低減することができる。
【0045】
また、本体部11は、座面部12と座面部12から屈曲部14により屈曲されて立ち上がる背もたれ部13とを備える椅子10の一部であり、プレボード11P中に含まれる植物繊維は、プレボード11Pの板面に沿う一方向に配向される配向性を有しており、複数枚のプレボード11Pは、当該プレボード11P中に含まれる植物繊維の配向方向が揃う方向に積層されるとともに、本体部成形工程において植物繊維の配向方向と交差する方向に屈曲されている。このような製造方法によれば、脆弱になり易い屈曲部14の強度を高めることができる。
【0046】
このように、本実施形態によれば、層間の隙間が発生し難く、生産性に優れ、製造コストを低減可能な椅子10の本体部11の製造方法を提供することができる。
【0047】
<他の実施形態>
本明細書に開示される技術は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も技術的範囲に含まれる。
【0048】
(1)上記実施形態では、複数枚のプレボード11Pを個別の状態(積層されていない状態)で加熱し、その後積層する形態を示したが、複数枚のプレボードを積層した状態で加熱してもよい。
【0049】
(2)また、複数枚のプレボードを個別の状態で加熱した後、金型内で積層させる形態とすることもできる。
【0050】
(3)上記実施形態では、厚さ2.5mmとされたプレボード11Pを4枚積層する構成を示したが、プレボードの積層枚数は上記実施形態に限るものではなく、適宜変更可能である。例えば、厚さ1mmのプレボード61Pを10枚積層させる構成とすることもできる(
図10参照)。
【0051】
(4)上記実施形態では、座面部12と背もたれ部13とを有する椅子10について例示したが、背もたれ部を有さず、湾曲した立体座面部を有する椅子についても本明細書に開示の技術を適用することができる。
【0052】
(5)繊維含有積層成形体は、椅子に限らず、車両の室内面を構成するドアトリムや天井等、様々な種類の成形体に適用可能である。
【符号の説明】
【0053】
10:椅子、11:本体部(繊維含有積層成形体)、11P、61P:プレボード、11S、61S:積層体、12:座面部、13:背もたれ部、35:ヒーター、40:成形型、41:上型、41A:成形面、42:下型、42A:成形面、50:混合繊維