IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ナガセインテグレックスの特許一覧

<>
  • 特開-工作機械およびワークの加工方法 図1
  • 特開-工作機械およびワークの加工方法 図2
  • 特開-工作機械およびワークの加工方法 図3
  • 特開-工作機械およびワークの加工方法 図4
  • 特開-工作機械およびワークの加工方法 図5
  • 特開-工作機械およびワークの加工方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104873
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】工作機械およびワークの加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/24 20060101AFI20240730BHJP
   G05B 19/404 20060101ALI20240730BHJP
   B24B 47/22 20060101ALI20240730BHJP
   B24B 49/10 20060101ALI20240730BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B23Q15/24
G05B19/404 K
B24B47/22
B24B49/10
B23Q17/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009277
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000150604
【氏名又は名称】株式会社ナガセインテグレックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 幸泰
(72)【発明者】
【氏名】板津 武志
【テーマコード(参考)】
3C001
3C029
3C034
3C269
【Fターム(参考)】
3C001KA01
3C001KB07
3C001TA02
3C001TB03
3C029EE02
3C034BB92
3C034CA04
3C034CB20
3C034DD13
3C269AB07
3C269BB03
3C269CC02
3C269EF10
3C269EF22
3C269JJ18
3C269MN16
(57)【要約】
【課題】基準温度におけるワークの寸法精度を高くすることのできる工作機械およびワークの加工方法を提供する。
【解決手段】工作機械10は、テーブル14と砥石11との相対位置を変更する位置変更装置20、および電子制御装置30を有する。電子制御装置30は、ワークWの加工に利用される加工データを記憶する記憶部31を有し、加工データをもとに位置変更装置20の作動制御を実行する。工作機械10は、ワークWと同一材料からなるマスター部材15と、マスター部材15の寸法を測定するタッチプローブ32とを有する。電子制御装置30の反映部33は、タッチプローブ32によって測定されるマスター部材15の寸法に基づいて実温度でのワークWの寸法と基準温度でのワークWの寸法とのずれを補償するための補正値を求める。反映部33は、補正値を位置変更装置20の作動制御に反映させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークが固定される固定部と、前記ワークを加工するための工具と、前記固定部および前記工具の相対位置を変更する位置変更装置と、前記ワークの加工に利用されるデータである加工データを記憶する記憶部と、前記加工データをもとに前記位置変更装置の作動制御を実行する制御部と、を有する工作機械において、
前記ワークと同一材料からなるマスター部材と、
前記マスター部材の寸法を測定する測定部と、
前記測定部によって測定される前記寸法に基づいて、実温度での前記ワークの寸法と基準温度での前記ワークの寸法とのずれを補償するための補正値を求めるとともに、当該補正値を前記作動制御に反映させる反映部と、を有する工作機械。
【請求項2】
前記測定部は、前記工具を支持する支持部に設けられており、
前記マスター部材は、前記固定部に設けられている
請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記位置変更装置は、複数の直線加工軸を有するものであり、
前記測定部は、前記複数の直線加工軸の各々について、軸線方向における前記マスター部材の寸法を測定するものである
請求項2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記複数の直線加工軸は、軸線が互いに直交する方向に延びており、
前記マスター部材の形状は、立方体または直方体である
請求項3に記載の工作機械。
【請求項5】
ワークが固定される固定部と、前記ワークを加工するための工具と、前記固定部および前記工具の相対位置を変更する位置変更装置と、前記ワークの加工に利用されるデータである加工データを記憶する記憶部と、前記加工データをもとに前記位置変更装置の作動制御を実行する制御部と、を有する工作機械に適用されるワークの加工方法において、
前記工作機械として、前記ワークと同一材料からなるマスター部材を有するものを用い、
前記マスター部材の寸法を測定する測定工程と、
前記測定工程において測定した前記寸法に基づいて、実温度での前記ワークの寸法と基準温度での前記ワークの寸法とのずれを補償するための補正値を求めるとともに、当該補正値を前記作動制御に反映させる反映工程と、を含むワークの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械およびワークの加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークが固定される固定部と、ワークを加工するための工具と、それら固定部および工具の相対位置を変更する位置変更装置とを有する工作機械が多用されている(例えば、特許文献1参照)。この工作機械では、位置変更装置の作動を通じて、工具によるワークの加工が実行される。
【0003】
近年、ワークの加工に利用されるデータである加工データを記憶する記憶部と、位置変更装置の作動制御を実行する制御部とを有する工作機械が実用されている。この工作機械は、記憶部に記憶されている加工データをもとに位置変更装置の作動制御を実行することにより、ワークの加工を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-361552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ワークの加工精度として、基準温度(例えば、摂氏20度)になった状態での寸法精度が求められる場合がある。通常、工作機械は工場内に設置されるため、同工作機械の温度やワークの温度を基準温度に設定して維持することは困難であると云える。そして、工作機械の各部の寸法やワークの各部の寸法は温度に応じて変化してしまう。基準温度になった状態でのワークの寸法精度を高くするうえでは、そうした温度による寸法の変化が精度向上を妨げる要因になる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための工作機械は、ワークが固定される固定部と、前記ワークを加工するための工具と、前記固定部および前記工具の相対位置を変更する位置変更装置と、前記ワークの加工に利用されるデータである加工データを記憶する記憶部と、前記加工データをもとに前記位置変更装置の作動制御を実行する制御部と、を有する工作機械において、前記ワークと同一材料からなるマスター部材と、前記マスター部材の寸法を測定する測定部と、前記測定部によって測定される前記寸法に基づいて、実温度での前記ワークの寸法と基準温度での前記ワークの寸法とのずれを補償するための補正値を求めるとともに、当該補正値を前記作動制御に反映させる反映部と、を有する。
【0007】
前記課題を解決するためのワークの加工方法は、ワークが固定される固定部と、前記ワークを加工するための工具と、前記固定部および前記工具の相対位置を変更する位置変更装置と、前記ワークの加工に利用されるデータである加工データを記憶する記憶部と、前記加工データをもとに前記位置変更装置の作動制御を実行する制御部と、を有する工作機械に適用されるワークの加工方法において、前記工作機械として、前記ワークと同一材料からなるマスター部材を有するものを用い、前記マスター部材の寸法を測定する測定工程と、前記測定工程において測定した前記寸法に基づいて、実温度での前記ワークの寸法と基準温度での前記ワークの寸法とのずれを補償するための補正値を求めるとともに、当該補正値を前記作動制御に反映させる反映工程と、を含む。
【0008】
上記工作機械およびワークの加工方法によれば、基準温度でのマスター部材の寸法(以下、基準寸法)を把握しておくことにより、マスター部材の実際の寸法(実寸法)を測定することで、基準温度からの実温度のずれによるマスター部材の膨張率(=実寸法/基準寸法)を求めることができる。上記工作機械では、マスター部材がワークと同一材料によって形成されているため、マスター部材の熱膨張率とワークの熱膨張率とは同一になる。したがって、工作機械によるワークの加工に際して、基準温度からの実温度のずれによるマスター部材の膨張率を位置変更装置の作動制御に反映させることで、上記ずれに起因するワークの膨張(または収縮)を見込んだかたちで、位置変更装置の作動制御を実行することができる。これにより、実温度でのワークの寸法と基準温度でのワークの寸法とのずれを補償することができるため、基準温度におけるワークの寸法精度を高くすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基準温度におけるワークの寸法精度を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態の工作機械の概略構成図である。
図2】同実施形態にかかるマスター部材の斜視図である。
図3】同実施形態の工作機械の電気的構成を示すブロック図である。
図4】同実施形態の加工処理の実行手順を示すフローチャートである。
図5】他の実施形態にかかるマスター部材の斜視図である。
図6】その他の実施形態にかかるマスター部材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、工作機械およびワークの研削加工方法の一実施形態について説明する。
図1に示すように、工作機械10は、砥石11によってワークWの表面を研削加工する数値制御(NC)式の平面研削装置である。工具としての砥石11は略円板状に形成されている。砥石11は、回転可能な状態で砥石支持部12に支持されている。砥石11および砥石支持部12は、基台13に対して、上下方向(以下、Y方向)と、水平方向、詳しくは図1における奥行き方向(以下、Z方向)とにおいて移動可能になっている。工作機械10では、砥石11を回転駆動しつつワークWに接触させることにより、同ワークWの表面が研削加工される。
【0012】
<テーブル>
工作機械10は、ワークWを支持する支持台としてのテーブル14を有している。テーブル14は電磁石を内蔵する電磁チャック141を有しており、同電磁石の発生磁力によってワークWが固定支持される構造になっている。テーブル14は、Z方向およびY方向に対して共に直交する水平方向、詳しくは図1における左右方向(以下、X方向)において移動可能になっている。工作機械10では、テーブル14をX方向に移動させることにより、テーブル14上のワークWを移動させることができる。これにより、砥石11とワークWとのX方向における相対位置を変更することができる。本実施形態では、テーブル14が固定部に相当する。
【0013】
工作機械10では、砥石11をY方向やZ方向に移動させたりテーブル14をX方向に移動させたりすることで、砥石11とワークWとのX方向の相対位置、Y方向の相対位置、およびZ方向の相対位置を各別に変更することが可能になっている。
【0014】
<マスター部材>
図1および図2に示すように、工作機械10は、マスター部材15を有している。マスター部材15は、テーブル14の上面における端部に固定されている。マスター部材15は、同マスター部材15の温度が基準温度(本実施形態では、摂氏20度)である状態において、一辺が所定寸法(本実施形態では、50mm)の立方体をなすものである。マスター部材15としては、工作機械10によって加工するワークWと同一材料によって形成されたものが採用される。例えば、ワークWが鉄系素材(SUS440C)である場合には、マスター部材15としても同一の鉄系素材(SUS440C)によって形成されたものが用いられる。マスター部材15は、外面を構成する6つの面のうちの2面がX方向と直交する方向に延在する態様、且つ、他の2面がY方向と直交する方向に延在する態様、且つ、残りの2面がZ方向と直交する方向に延在する態様でテーブル14に固定されている。
【0015】
<位置変更装置>
図1および図3に示すように、工作機械10は、テーブル14および砥石11の相対位置を変更する位置変更装置20を有している。位置変更装置20は、テーブル送り装置21、第1砥石送り装置22、および第2砥石送り装置23によって構成されている。
【0016】
テーブル送り装置21は、基台13に対してテーブル14をX方向に移動させるための装置である。テーブル送り装置21は、ボールねじ機構211やサーボモータ212等を有している。テーブル送り装置21の作動制御を通じて、基台13に対するテーブル14のX方向位置が制御される。本実施形態では、テーブル送り装置21の作動制御によるテーブル14の移動方向(X方向)が、位置変更装置20の直線加工軸の一つ(以下、X加工軸)に相当する。
【0017】
第1砥石送り装置22は、基台13に対して砥石11および砥石支持部12をY方向に移動させる装置である。第1砥石送り装置22は、ボールねじ機構やサーボモータ等を有している。第1砥石送り装置22の作動制御を通じて、基台13に対する砥石11のY方向位置が制御される。本実施形態では、第1砥石送り装置22の作動制御による砥石11の移動方向(Y方向)が、位置変更装置20の直線加工軸の一つ(以下、Y加工軸)に相当する。
【0018】
第2砥石送り装置23は、基台13に対して砥石11および砥石支持部12をZ方向(図1における紙面奥行き方向)に移動させるための装置である。第2砥石送り装置23は、ボールねじ機構やサーボモータ等を有している。第2砥石送り装置23の作動制御を通じて、基台13に対する砥石11のZ方向位置が制御される。本実施形態では、第2砥石送り装置23の作動制御による砥石11の移動方向(Z方向)が、位置変更装置20の直線加工軸の一つ(以下、Z加工軸)に相当する。
【0019】
本実施形態にかかる位置変更装置20は、テーブル送り装置21の直線加工軸であるX加工軸と、第1砥石送り装置22の直線加工軸であるY加工軸と、第2砥石送り装置23の直線加工軸であるZ加工軸とからなる複数の直線加工軸を有するものである。これらX加工軸、Y加工軸、およびZ加工軸は、互いに直交する方向に延びている。
【0020】
工作機械10は、砥石11を回転駆動するための砥石駆動装置24を有している。砥石駆動装置24は、砥石11の回転軸に連結された電動モータを有している。砥石駆動装置24(詳しくは、電動モータ)の作動制御では、基本的に、砥石11が一定速度で回転される。なお、砥石11の回転速度としては、工作機械10に入力される加工条件をもとに、同加工条件に見合う速度が設定される。
【0021】
<電子制御装置>
工作機械10は、電子制御装置30を備えている。電子制御装置30は、工作機械10の運転にかかる各種制御を実行する。
【0022】
電子制御装置30には、各装置21,22,23,24(詳しくは、サーボモータまたは電動モータ)が接続されている。電子制御装置30はCPUと、ROMと、RAMと、各種のプログラムやデータを記憶する記憶部31とを有している。記憶部31は、ハードディスクドライブやソリッドステートドライブ等の随時書き込み読み出しが可能な不揮発性メモリによって構成されている。記憶部31には、加工条件についての設定値や、テーブル14の動作位置および砥石11の動作位置を座標値によって定義した加工プログラム(いわゆるNCプログラム)など、ワークWの加工に利用されるデータである加工データが記憶されている。電子制御装置30は、加工データをもとに、工作機械10による研削加工についての数値制御、具体的には、各装置21~24の作動制御を実行する。なお本実施形態では、電子制御装置30が、加工データをもとに位置変更装置20の作動制御を実行する制御部に相当する。
【0023】
工作機械10は、入力部16を備えている。入力部16は、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン等の入力デバイスである。入力部16は、電子制御装置30に接続されている。入力部16は、操作情報を電子制御装置30に出力する。
【0024】
工作機械10では、作業者による入力部16の操作を通じて、ワークWの加工にかかる加工条件が電子制御装置30に入力される。本実施形態では、入力される加工条件と同加工条件に適した各装置21~24の制御パターンとの関係が予め求められるとともに、同関係が電子制御装置30の記憶部31に予め記憶されている。工作機械10では、入力部16の操作を通じて電子制御装置30に入力される加工条件に基づいて、記憶部31に記憶されている上記関係から、各装置21~24の制御パターンが設定される。この制御パターンは、加工動作情報(加工プログラム)として、記憶部31に記憶される。電子制御装置30は、この加工プログラムをもとに各装置21~24を作動させることで、各装置21~24の作動制御を実行する。
【0025】
<タッチプローブ>
工作機械10は、タッチプローブ32を有している。タッチプローブ32は、マスター部材15の寸法を測定するためのものである。タッチプローブ32は、砥石支持部12に固定されている。これにより、タッチプローブ32は、位置変更装置20(具体的には、各装置21~23)の作動制御を通じて、マスター部材15に対して相対移動が可能になっている。
【0026】
タッチプローブ32による測定に際しては、各装置21~23の作動制御を通じて、同タッチプローブ32が検出対象物(本実施形態では、マスター部材15)に近づくように移動される。そして、タッチプローブ32が検出対象物に接触した位置(詳しくは、座標値)が、同検出対象物の位置として検出される。
【0027】
マスター部材15のX方向の寸法SRXの測定は、次のように実行される。タッチプローブ32により、マスター部材15の4つの側面のうちX方向において並ぶ2つの側面のX方向における位置P1,P2が検出される。そして、これら位置P1,P2のX方向における間隔がマスター部材15のX方向の寸法SRXとして算出される。そして、X方向の寸法SRXは、電子制御装置30の記憶部31に記憶される。
【0028】
マスター部材15のY方向の寸法SRYの測定は、次のように実行される。タッチプローブ32により、マスター部材15の4つの側面のうちY方向において並ぶ2つの側面のY方向における位置P3,P4が検出される。そして、これら位置P3,P4のY方向における間隔がマスター部材15のY方向の寸法SRYとして算出される。そして、Y方向の寸法SRYは、電子制御装置30の記憶部31に記憶される。
【0029】
マスター部材15のZ方向の寸法SRYの測定は、次のように実行される。各装置21~23の作動制御を通じて、タッチプローブ32がマスター部材15の上面に近づくように移動される。そして、タッチプローブ32がマスター部材15の上面に接触したときの位置が、同マスター部材15の上面のZ方向における位置P5として検出される。この位置P5とテーブル14の上面のZ方向における位置PBとの間隔がマスター部材15のZ方向の寸法SRZとして算出される。そして、Z方向の寸法SRZは、電子制御装置30の記憶部31に記憶される。なお、テーブル14の上面のZ方向における位置PBは、電子制御装置30の記憶部31に予め記憶されている。
【0030】
本実施形態では、タッチプローブ32により、位置変更装置20の複数の直線加工軸の各々について、軸線方向(具体的には、X方向、Y方向、およびZ方向)におけるマスター部材15の寸法SRX,SRY,SRZが測定される。
【0031】
<反映部>
電子制御装置30は、その機能部として、反映部33を有している。反映部33は、タッチプローブ32によって測定される寸法SRX,SRY,SRZに基づいて補正値KX,KY,KZを求める。補正値KX,KY,KZは、そのときどきの実際の温度(以下、実温度)でのワークWの寸法(以下、実寸法)と前記基準温度でのワークWの寸法(以下、基準寸法)とのずれを補償するための値である。反映部33は、これら補正値KX,KY,KZを、位置変更装置20の作動制御(詳しくは、加工プログラム)に反映させる。本実施形態では、工作機械10によるワークWの加工に先立ち、反映部33によって補正値KX,KY,KZが求められるとともに、同補正値KX,KY,KZが加工プログラムに反映される。これにより、その後の工作機械10によるワークWの加工に際して、基準温度におけるワークWの寸法精度を高くするようにしている。
【0032】
<加工処理>
以下、本実施形態の工作機械10によるワークWの加工にかかる処理(加工処理)の実行手順を、その作用効果とともに、図4を参照しつつ詳細に説明する。なお図4のフローチャートに示される一連の処理は、上記加工処理の実行手順を概念的に示したものであり、実際の処理は所定周期毎の処理として電子制御装置30によって実行される。また図4に示される加工処理は、入力部16の操作を通じて工作機械10に加工条件が入力された状態であること、すなわちワークWの加工に利用する加工プログラムが電子制御装置30の記憶部31に記憶されていることを前提に実行される処理である。
【0033】
[測定工程]
図4に示すように、加工処理に際しては先ず、[測定工程]が実行される(ステップS11)。
【0034】
この工程では、マスター部材15の各寸法SRX,SRY,SRZを測定するべく、位置変更装置20(具体的には、テーブル送り装置21、第1砥石送り装置22、および第2砥石送り装置23)の作動制御が実行される。そして、タッチプローブ32により、マスター部材15のX方向の寸法SRX、Y方向の寸法SRY、およびZ方向の寸法SRZが測定される。
【0035】
[算出工程]
上記[測定工程]の後においては、[算出工程]が実行される(ステップS12)。
この工程では、[測定工程]において測定された寸法SRX,SRY,SRZをもとに、位置変更装置20の複数の直線加工軸の各々についての補正値KX,KY,KZが算出される。
【0036】
補正値KXは、ワークWのX方向における実寸法と同X方向における基準寸法とのずれを補償するための値である。補正値KXとしては、具体的には、[測定工程]において測定されたX方向の寸法SRXを、予め定められたX方向の基準寸法SBX(本実施形態では、50mm)によって除算した値(=SRX/SBX)が算出される。
【0037】
補正値KYは、ワークWのY方向における実寸法と同Y方向における基準寸法とのずれを補償するための値である。補正値KYとしては、具体的には、[測定工程]において測定されたY方向の寸法SRYを、予め定められたY方向の基準寸法SBY(本実施形態では、50mm)によって除算した値(=SRY/SBY)が算出される。
【0038】
補正値KZは、ワークWのZ方向における実寸法と同Z方向における基準寸法とのずれを補償するための値である。補正値KZとしては、具体的には、[測定工程]において測定されたZ方向の寸法SRZを、予め定められたZ方向の基準寸法SBZ(本実施形態では、50mm)によって除算した値(=SRZ/SBZ)が算出される。
【0039】
本実施形態では、基準温度でのマスター部材15の寸法である基準寸法SBX,SBY,SBZが予め把握されて記憶部31に記憶されている。また、[測定工程]において実温度でのマスター部材15の寸法である実寸法SRX,SRY,SRZが測定される。そのため、基準寸法SBX,SBY,SBZと実寸法SRX,SRY,SRZとの関係から、基準温度からの実温度のずれによるマスター部材15の膨張率(=実寸法/基準寸法)を求めることができる。そして、この膨張率を、ワークWの実寸法と基準寸法とのずれを補償するための補正値KX,KY,KZとして定めることができる。
【0040】
<熱膨張誤差>
ここで、本実施形態では、マスター部材15がワークWと同一材料によって形成されている。そのため、基準温度からの実温度のずれに起因するマスター部材15の熱膨張率とワークWの熱膨張率とは同一になる。したがって本実施形態では、基準温度からの実温度のずれに起因するワークWの寸法誤差(以下、熱膨張誤差)を含むかたちで、マスター部材15の実寸法SRX,SRY,SRZが測定されると云える。具体的には、マスター部材15のX方向における寸法SRXは、ワークWのX方向における熱膨張誤差を含む値になる。マスター部材15のY方向における寸法SRYは、ワークWのY方向における熱膨張誤差を含む値になる。マスター部材15のZ方向における寸法SRZは、ワークWのZ方向における熱膨張誤差を含む値になる。そして、本実施形態では、こうしたマスター部材15の寸法SRX,SRY,SRZをもとに算出される補正値KX,KY,KZについても同様に、基準温度からの実温度のずれに起因するワークWの寸法誤差(上記熱膨張誤差)を含む値になると云える。
【0041】
<装置誤差>
また、マスター部材15の寸法である実寸法SRX,SRY,SRZは、位置変更装置20の作動制御を通じて、タッチプローブ32により測定される。そのため本実施形態では、位置変更装置20の複数の直線加工軸の各々について、軸線方向における作動誤差に起因する見かけ上の膨張量(以下、装置誤差)を含むかたちで、マスター部材15の実寸法SRX,SRY,SRZが測定されると云える。
【0042】
したがって、マスター部材15のX方向における寸法SRXは、位置変更装置20(特に、テーブル送り装置21)の作動誤差に起因するマスター部材15のX方向における装置誤差を含む値になる。マスター部材15のY方向における寸法SRYは、位置変更装置20(特に、第1砥石送り装置22)の作動誤差に起因するマスター部材15のY方向における装置誤差を含む値になる。マスター部材15のZ方向における寸法SRZは、位置変更装置20(特に、第2砥石送り装置23)の作動誤差に起因するマスター部材15のZ方向における装置誤差を含む値になる。本実施形態では、こうしたマスター部材15の寸法SRX,SRY,SRZをもとに算出される補正値KX,KY,KZについても同様に、位置変更装置20の作動誤差に起因するワークWの装置誤差を含む値になると云える。
【0043】
このように本実施形態では、補正値KX,KY,KZとして、基準温度からの実温度のずれに起因する熱膨張量の差分(熱膨張誤差)と、位置変更装置20の作動誤差に起因する寸法の差分(装置誤差)とを含む値が算出される。補正値KXとしては、基準温度からの実温度のずれに起因するX方向における熱膨張量の差分と、位置変更装置20の作動誤差に起因するX方向における寸法の差分とを含む値が算出される。補正値KYとしては、基準温度からの実温度のずれに起因するY方向における熱膨張量の差分と、位置変更装置20の作動誤差に起因するY方向における寸法の差分とを含む値が算出される。補正値KZとしては、基準温度からの実温度のずれに起因するZ方向における熱膨張量の差分と、位置変更装置20の作動誤差に起因するZ方向における寸法の差分とを含む値が算出される。
【0044】
[補正工程]
上記[算出工程]の後においては、[補正工程]が実行される(ステップS13)。
この工程では、補正値KX,KY,KZにより、記憶部31に記憶されている加工プログラムが補正される。具体的には、加工プログラムに設定されている各座標位置(X,Y,Z)が、補正値KX,KY,KZを乗算した位置に補正される。詳しくは、加工プログラムに設定されているX座標位置(X)が、補正値KXを乗算した位置(X・KX)に変更される。加工プログラムに設定されているY座標位置(Y)が、補正値KYを乗算した位置(Y・KY)に変更される。加工プログラムに設定されているZ座標位置(Z)が、補正値KZを乗算した位置(Z・KZ)に変更される。
【0045】
本実施形態では、補正値KX,KY,KZを、工作機械10によって実際にワークWを加工する前に、位置変更装置20の作動制御(詳しくは、加工プログラム)に予め反映させておくことができる。これにより、基準温度からの実温度のずれに起因するワークWの膨張(または収縮)を見込んだかたちで、位置変更装置20の作動制御を実行することができる。具体的には、基準寸法を実寸法に換算したワークWの寸法(形状)に合わせて、位置変更装置20の作動制御を実行することができる。したがって、工作機械10による加工後のワークWが基準温度になったときには、同ワークWの寸法は、基準温度において要求される寸法になる。本実施形態によれば、このようにして、実温度と基準温度とのずれに起因する寸法誤差を抑えることができる。
【0046】
なお本実施形態では、上記[算出工程]および[補正工程]が反映工程に相当する。
[加工工程]
上記[補正工程]の後においては、[加工工程]が実行される(ステップS14)。
【0047】
この工程では、補正値KX,KY,KZが反映された加工プログラムをもとに、位置変更装置20の作動制御が実行される。これにより、ワークWの加工が実行される。
本実施形態によれば、このようにして、ワークWの実寸法と基準寸法とのずれを補償する態様で、工作機械10によるワークWの加工を実行することができる。したがって、基準温度におけるワークWの寸法精度を高くすることができる。これにより、加工後のワークWの寸法を基準温度の環境下で測定し、その測定結果をもとにワークWの再度の加工を実行するといった手間のかかる作業を少なくすることもできる。そのため、ワークWの加工を効率よく実行することができる。
【0048】
<作用効果>
本実施形態によれば、以下に記載する作用効果が得られる。
(1)工作機械10は、ワークWと同一材料からなるマスター部材15と、マスター部材15の寸法SRX,SRY,SRZを測定するタッチプローブ32とを備える。タッチプローブ32により測定されるマスター部材15の寸法SRX,SRY,SRZに基づいて、実温度でのワークWの寸法と基準温度でのワークWの寸法とのずれを補償するための補正値KX,KY,KZが算出される。この補正値KX,KY,KZは位置変更装置20の作動制御に反映される。
【0049】
本実施形態によれば、工作機械10によるワークWの加工に際して、基準温度からの実温度のずれによるマスター部材15の膨張率を位置変更装置20の作動制御に反映させることができる。これにより、実温度でのワークWの寸法と基準温度でのワークWの寸法とのずれを補償することができるため、基準温度におけるワークWの寸法精度を高くすることができる。
【0050】
(2)タッチプローブ32は、砥石支持部12に設けられている。マスター部材15は、テーブル14に固定されている。本実施形態によれば、ワークWの加工に用いる位置変更装置20を流用する態様で、タッチプローブ32を移動させつつ、同タッチプローブ32によるマスター部材15の寸法SRX,SRY,SRZの測定を行うことができる。これにより、基準温度からの実温度のずれによる熱膨張誤差を含むことに加えて、位置変更装置20の作動誤差による装置誤差を含むかたちで、マスター部材15の寸法SRX,SRY,SRZを測定することができる。そのため、この寸法SRX,SRY,SRZに基づき算出される補正値KX,KY,KZを位置変更装置20の作動制御に反映させることで、ワークWの熱膨張による影響と位置変更装置20の作動誤差による影響とを共に補償することができる。
【0051】
(3)位置変更装置20は、複数の直線加工軸を有する。タッチプローブ32により、複数の直線加工軸の各々について、軸線方向におけるマスター部材15の寸法SRX,SRY,SRZを測定する。本実施形態によれば、位置変更装置20の複数の直線加工軸の各々について、軸線方向における前記熱膨張誤差および装置誤差を含むかたちで、マスター部材15の寸法SRX,SRY,SRZを測定することができる。そのため、複数の直線加工軸について、各別に、ワークWの熱膨張による影響と位置変更装置20の作動誤差による影響とを補償することができる。
【0052】
(4)複数の直線加工軸(X加工軸、Y加工軸、およびZ加工軸)は、軸線が互いに直交する方向に延びている。マスター部材15の形状は立方体である。本実施形態によれば、それらX加工軸、Y加工軸、およびZ加工軸の軸線を、立方体をなすマスター部材15の側面に直交する方向に設定することができる。
【0053】
<変更例>
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0054】
・マスター部材15の形状は、立方体に限らず、直方体にするなど、任意に変更することができる。例えば、図5に示すように、マスター部材45としては、円柱形状のものを採用することができる。その他、図6に示すように、マスター部材55としては、階段状のものを採用することができる。同構成においては、階段状をなすマスター部材55の各段部分のうち、ワークWの加工寸法に近い寸法になる段部分の寸法を測定して補正値KX,KY,KZの算出に用いることが好ましい。これにより、ワークWの加工寸法とマスター部材15の測定寸法との差を小さくすることができるため、この差に起因する加工精度の低下を抑えることができる。
【0055】
・タッチプローブ32によるマスター部材15の寸法の測定を、位置変更装置20の作動制御を通じて実行することに限らず、専用の作動装置を設けるとともに同作動装置の作動制御を通じて実行するようにしてもよい。同構成においては、マスター部材15を、工作機械10におけるテーブル14以外の部分に固定してもよい。
【0056】
・補正値KX,KY,KZを位置変更装置20の作動制御に反映する反映態様は、実温度でのワークWの寸法と基準温度でのワークWの寸法とのずれを補償することの可能な反映態様であれば、任意に変更することができる。そうした反映態様としては、例えば、記憶部31に記憶されている加工条件についての設定値を補正値KX,KY,KZで補正する反映態様を採用することができる。
【0057】
・マスター部材15の特定方向の寸法SRCを測定するとともに、測定した寸法SRCに基づいて複数の直線加工軸において共通の補正値KCを算出するようにしてもよい。そして、この補正値KCを位置変更装置20の作動制御に反映させるようにしてもよい。同構成においては、加工プログラムに設定されている各座標位置(X,Y,Z)を上記補正値KCを乗算した位置([X・KC],[Y・KC],[Z・KC])に変更するといったように、同補正値KCを位置変更装置20の作動制御に反映させることができる。
【0058】
・マスター部材15の寸法を測定するための測定部として、タッチプローブ32以外の接触式のセンサを設けたり、レーザーセンサ等の非接触式のセンサを設けたりしてもよい。
【0059】
・形成材料の異なる複数種類のマスター部材15を、テーブル14に設けるようにしてもよい。同構成においては、工作機械10によるワークWの加工に際して、ワークWと同一材料のマスター部材15を選択するとともに、同マスター部材15の寸法を測定して補正値KX,KY,KZの算出に利用するようにすればよい。これにより、上記実施形態と同一の作用効果を得ることができる。
【0060】
・テーブル14に固定するマスター部材15として、形成材料の異なる複数種類のマスター部材15を交換しつつ用いるようにしてもよい。同構成においては、工作機械10によるワークWの加工に際して、ワークWと同一材料のマスター部材15をテーブル14に固定するとともに、同マスター部材15の寸法を測定して補正値KX,KY,KZの算出に利用するようにすればよい。これにより、上記実施形態と同一の作用効果を得ることができる。
【0061】
・上記実施形態にかかる工作機械およびワークの加工方法は、3つの直線加工軸を有する工作機械10に限らず、直線加工軸を1つのみ有する工作機械や、2つの直線加工軸を有する工作機械、4つ以上の直線加工軸を有する工作機械にも適用することができる。
【0062】
・上記実施形態にかかる工作機械およびワークの加工方法は、直交以外の方向において交差する複数の直線加工軸を有する工作機械にも適用することができる。
・上記実施形態にかかる工作機械およびワークの加工方法は、少なくとも一つの直線加工軸を有する工作機械であれば、平面研削装置に限らず、歯車研削装置などの任意の工作機械に適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
W…ワーク
10…工作機械
11…砥石
12…砥石支持部
13…基台
14…テーブル
141…電磁チャック
15,45,55…マスター部材
16…入力部
20…位置変更装置
21…テーブル送り装置
211…ボールねじ機構
212…サーボモータ
22…第1砥石送り装置
23…第2砥石送り装置
30…電子制御装置
31…記憶部
32…タッチプローブ
33…反映部
図1
図2
図3
図4
図5
図6