(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104900
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂シートの製造方法、および、繊維強化樹脂シート
(51)【国際特許分類】
B32B 37/10 20060101AFI20240730BHJP
B32B 5/02 20060101ALI20240730BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20240730BHJP
B32B 37/06 20060101ALI20240730BHJP
B29C 70/06 20060101ALI20240730BHJP
B29C 70/40 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B32B37/10
B32B5/02 Z
B32B27/40
B32B37/06
B29C70/06
B29C70/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009329
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003812
【氏名又は名称】弁理士法人いくみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英文
(72)【発明者】
【氏名】堀谷 遼太
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 遼
【テーマコード(参考)】
4F100
4F205
【Fターム(参考)】
4F100AA37A
4F100AD11A
4F100AJ04A
4F100AK25C
4F100AK41A
4F100AK47A
4F100AK51B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA07
4F100CB05C
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4F100DH02A
4F100DH02B
4F100EC01
4F100EJ42B
4F100EJ42C
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4F100EJ82A
4F100GB07
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4F100GB81
4F100GB87
4F100JK07B
4F100JK12D
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4F100YY00D
4F100YY00E
4F205AA31
4F205AC03
4F205AD16
4F205AG01
4F205HA08
4F205HA14
4F205HA25
4F205HA34
4F205HA37
4F205HB01
4F205HC05
4F205HC17
4F205HK03
4F205HK04
4F205HT16
4F205HT26
(57)【要約】
【課題】繊維集合体の触感により近い触感を有する繊維強化樹脂シートを得ることができる繊維強化樹脂シートの製造方法、および、繊維集合体の触感により近い触感を有する繊維強化樹脂シートを、提供すること。
【解決手段】繊維強化樹脂シート1の製造方法は、第1工程と第2工程とを備える。第1工程では、繊維集合体2と、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層3とを準備する。第2工程では、繊維集合体2に対して、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3を、積層および圧着させる。第2工程では、減圧成形法によって、繊維集合体2と熱可塑性ポリウレタン樹脂層3とを、繊維集合体2の表面のKES表面粗さ(SMD
f)に対する、繊維強化樹脂シート1における熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の表面のKES表面粗さ(SMD
u)の比率(SMD
u/SMD
f)が0.45以上になるように、減圧下で圧着させ、繊維強化樹脂シートを得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂シートの製造方法であり、
前記繊維強化樹脂シートは、強化繊維を含む繊維集合体と、前記繊維集合体の少なくとも一方面に配置された熱可塑性ポリウレタン樹脂層とを備え、
前記製造方法は、
前記繊維集合体と、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層とを準備する第1工程と、
前記繊維集合体に対して、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層を、積層および圧着させる第2工程とを備え、
前記第2工程では、
減圧成形法によって、前記繊維集合体と前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層とを、
前記繊維集合体の表面のKES表面粗さ(SMDf)に対する、前記繊維強化樹脂シートにおける前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層の表面のKES表面粗さ(SMDu)の比率(SMDu/SMDf)が0.45以上になるように、減圧下で圧着させ、前記繊維強化樹脂シートを得る、
繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
前記第2工程は、
(1)前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層と粘着剤層とを備える積層体を準備する準備工程と、
(2)前記積層体を所定温度に加熱する加熱工程と、
(3)加熱された前記積層体を前記繊維集合体に積層し、前記粘着剤層を前記繊維集合体に接触させる積層工程と、
(4)圧力差によって、前記積層体と前記繊維集合体とを、圧着させる圧着工程と
を備え、
以下の条件における動的粘弾性測定に基づく前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層の貯蔵弾性率(E’)が105Paになる温度をX℃としたときに、
前記加熱工程における前記所定温度が、[X-30]℃以上X℃以下である、
請求項1に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
<動的粘弾性測定条件>
測定温度:-100℃~250℃
昇温速度:5℃/min
モード:引張モード
標線間長:20mm
静/動応力比:1.8
測定周波数:10Hz
【請求項3】
前記第2工程は、
(1)50未満のショアA硬度を有する低硬度層と、前記低硬度層よりも高硬度の高硬度層とを備える押圧部材を準備する準備工程と、
(2)前記押圧部材の前記低硬度層と、前記繊維集合体との間に、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層を介在させる積層工程と、
(3)減圧下において、所定温度で前記押圧部材を加圧し、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層と前記繊維集合体とを圧着させる圧着工程と
を備え、
以下の条件における動的粘弾性測定に基づく前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層の貯蔵弾性率(E’)が105Paになる温度をX℃としたときに、
前記圧着工程における前記所定温度が、[X-30]℃以上X℃以下である、
請求項1に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
<動的粘弾性測定条件>
測定温度:-100℃~250℃
昇温速度:5℃/min
モード:引張モード
標線間長:20mm
静/動応力比:1.8
測定周波数:10Hz
【請求項4】
前記低硬度層が、10以上30以下のショアA硬度を有している、請求項3に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項5】
強化繊維を含む繊維集合体と、前記繊維集合体の少なくとも一方面に配置された熱可塑性ポリウレタン樹脂層とを備える繊維強化樹脂シートであり、
前記繊維集合体の表面のKES表面粗さ(SMDf)に対する、前記繊維強化樹脂シートにおける前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層の表面のKES表面粗さ(SMDu)の比率(SMDu/SMDf)が0.45以上である、繊維強化樹脂シート。
【請求項6】
前記繊維集合体の表面のKES表面粗さ(SMDf)に対する、前記繊維強化樹脂シートにおける前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層の表面のKES表面粗さ(SMDu)の比率(SMDu/SMDf)が0.85以上である、請求項5に記載の繊維強化樹脂シート。
【請求項7】
前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層が、前記繊維集合体に、粘着剤層を介して積層されている、請求項5に記載の繊維強化樹脂シート。
【請求項8】
前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層の少なくとも一部が、前記繊維集合体に、含浸されている、請求項5に記載の繊維強化樹脂シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂シートの製造方法、および、繊維強化樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維強化プラスチックが知られている。繊維強化プラスチックは、繊維と樹脂とを含む。繊維強化プラスチックは、優れた強度を有する。繊維強化プラスチックとしては、例えば、繊維強化樹脂シートが挙げられる。
【0003】
繊維強化樹脂シートとしては、例えば、強化繊維を含む繊維集合体と、繊維集合体に含浸された熱可塑性ポリウレタン樹脂とを含む繊維強化樹脂シートが、提案されている。繊維強化樹脂シートは、例えば、繊維集合体とポリウレタンフィルムとを積層し、これらを熱プレスすることによって、製造される(例えば、特許文献1(実施例1)参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、用途よっては、繊維集合体の触感により近い触感を有する繊維強化樹脂シートが、要求される場合がある。
【0006】
本発明は、繊維集合体の触感により近い触感を有する繊維強化樹脂シートを得ることができる繊維強化樹脂シートの製造方法、および、繊維集合体の触感により近い触感を有する繊維強化樹脂シートである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明[1]は、繊維強化樹脂シートの製造方法であり、前記繊維強化樹脂シートは、強化繊維を含む繊維集合体と、前記繊維集合体の少なくとも一方面に配置された熱可塑性ポリウレタン樹脂層とを備え、前記製造方法は、前記繊維集合体と、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層とを準備する第1工程と、前記繊維集合体に対して、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層を、積層および圧着させる第2工程とを備え、前記第2工程では、減圧成形法によって、前記繊維集合体と前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層とを、前記繊維集合体の表面のKES表面粗さ(SMDf)に対する、前記繊維強化樹脂シートにおける前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層の表面のKES表面粗さ(SMDu)の比率(SMDu/SMDf)が0.45以上になるように、減圧下で圧着させ、前記繊維強化樹脂シートを得る、繊維強化樹脂シートの製造方法を、含んでいる。
【0008】
本発明[2]は、前記第2工程は、(1)前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層と粘着剤層とを備える積層体を準備する準備工程と、(2)前記積層体を所定温度に加熱する加熱工程と、(3)加熱された前記積層体を前記繊維集合体に積層し、前記粘着剤層を前記繊維集合体に接触させる積層工程と、(4)圧力差によって、前記積層体と前記繊維集合体とを、圧着させる圧着工程とを備え、以下の条件における動的粘弾性測定に基づく前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層の貯蔵弾性率(E’)が105Paになる温度をX℃としたときに、前記加熱工程における前記所定温度が、[X-30]℃以上X℃以下である、上記[1]に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法を、含んでいる。
【0009】
<動的粘弾性測定条件>
測定温度:-100℃~250℃
昇温速度:5℃/min
モード:引張モード
標線間長:20mm
静/動応力比:1.8
測定周波数:10Hz
【0010】
本発明[3]は、前記第2工程は、(1)50未満のショアA硬度を有する低硬度層と、前記低硬度層よりも高硬度の高硬度層とを備える押圧部材を準備する準備工程と、(2)前記押圧部材の前記低硬度層と、前記繊維集合体との間に、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層を介在させる積層工程と、(3)減圧下において、所定温度で前記押圧部材を加圧し、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層と前記繊維集合体とを圧着させる圧着工程とを備え、以下の条件における動的粘弾性測定に基づく前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層の貯蔵弾性率(E’)が105Paになる温度をX℃としたときに、前記圧着工程における前記所定温度が、[X-30]℃以上X℃以下である、上記[1]に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法を、含んでいる。
【0011】
<動的粘弾性測定条件>
測定温度:-100℃~250℃
昇温速度:5℃/min
モード:引張モード
標線間長:20mm
静/動応力比:1.8
測定周波数:10Hz
【0012】
本発明[4]は、前記低硬度層が、10以上30以下のショアA硬度を有している、上記[3]に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法を、含んでいる。
【0013】
本発明[5]は、強化繊維を含む繊維集合体と、前記繊維集合体の少なくとも一方面に配置された熱可塑性ポリウレタン樹脂層とを備える繊維強化樹脂シートであり、前記繊維集合体の表面のKES表面粗さ(SMDf)に対する、前記繊維強化樹脂シートにおける前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層の表面のKES表面粗さ(SMDu)の比率(SMDu/SMDf)が0.45以上である、繊維強化樹脂シートを、含んでいる。
【0014】
本発明[6]は、前記繊維集合体の表面のKES表面粗さ(SMDf)に対する、前記繊維強化樹脂シートにおける前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層の表面のKES表面粗さ(SMDu)の比率(SMDu/SMDf)が0.85以上である、上記[5]に記載の繊維強化樹脂シートを、含んでいる。
【0015】
本発明[7]は、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層が、前記繊維集合体に、粘着剤層を介して積層されている、上記[5]または[6]に記載の繊維強化樹脂シートを、含んでいる。
【0016】
本発明[8]は、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂層の少なくとも一部が、前記繊維集合体に、含浸されている、上記[5]または[6]に記載の繊維強化樹脂シートを、含んでいる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の繊維強化樹脂シートの製造方法により得られる繊維強化樹脂シートでは、繊維集合体の表面のKES表面粗さ(SMDf)に対する、繊維強化樹脂シートにおける熱可塑性ポリウレタン樹脂層の表面のKES表面粗さ(SMDu)の比率(SMDu/SMDf)が0.45以上である。そのため、繊維強化樹脂シートは、繊維集合体の触感により近い触感を有する。
【0018】
とりわけ、本発明の繊維強化樹脂シートの製造方法は、繊維集合体と、熱可塑性ポリウレタン樹脂層とを準備する第1工程と、繊維集合体と熱可塑性ポリウレタン樹脂層とを積層および圧着させる第2工程とを備える。そして、第2工程では、減圧成形法により繊維集合体と熱可塑性ポリウレタン樹脂層とを減圧下で圧着させる。
【0019】
そのため、本発明の繊維強化樹脂シートの製造方法によれば、より繊維集合体の触感に近い触感を有する繊維強化樹脂シートを、より確実に得ることができる。
【0020】
本発明の繊維強化樹脂シートでは、繊維集合体の表面のKES表面粗さ(SMDf)に対する、繊維強化樹脂シートにおける熱可塑性ポリウレタン樹脂層の表面のKES表面粗さ(SMDu)の比率(SMDu/SMDf)が0.45以上である。そのため、繊維強化樹脂シートは、より繊維集合体の触感に近い触感を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1Aは、繊維強化樹脂シートの製造方法の一実施形態において、繊維集合体と熱可塑性ポリウレタン樹脂層とを準備する第1工程を示す拡大概略図である。
図1Bは、繊維強化樹脂シートの製造方法の一実施形態において、繊維集合体に対して熱可塑性ポリウレタン樹脂層を積層および圧着させる第2工程を示す拡大概略図である。
【
図2】
図2Aは、TOM成形において、熱可塑性ポリウレタン樹脂層と粘着剤層とを備える表皮フィルム5を準備する準備工程の概略図である。
図2Bは、表皮フィルムを所定温度に加熱する加熱工程の概略図である。
図2Cは、加熱された表皮フィルムを繊維集合体に積層し、粘着剤層を繊維集合体に接触させる積層工程、および、圧力差により表皮フィルムと繊維集合体2とを圧着させる圧着工程の概略図である。
図2Dは、TOM成形において得られる繊維強化樹脂シートの概略図である。
【
図3】
図3Aは、オートクレーブ成形または真空熱プレス成形において、押圧部材を準備する準備工程の概略図である。
図3Bは、押圧部材の低硬度層と繊維集合体との間に熱可塑性ポリウレタン樹脂層を介在させ、積層体を得る積層工程の概略図である。
図3Cは、減圧下において積層体の押圧部材を加圧する圧着工程の概略図である。
図3Dは、減圧下において加圧された積層体の概略図である。
図3Eは、オートクレーブ成形または真空熱プレス成形において得られる繊維強化樹脂シートの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下において、本発明の好ましい実施形態の一例を開示し、詳細に説明する。以下の説明および実施例は、実施形態を例示するものであり、実施形態の範囲を制限するものではない。本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値または下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値または下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値または下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。本開示において含有成分量を示す「%」は、特に断らない限り質量基準である。本明細書における基(原子団)の表記において、置換および無置換を記していない表記は、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。本開示において「層」との語には、当該層が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。本開示において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0023】
1.繊維強化樹脂シートの製造方法
図1は、本発明の繊維強化樹脂シートの製造方法の一実施形態を示す概略工程図である。
【0024】
繊維強化樹脂シート1は、
図1Bが参照されるように、基材として繊維集合体2を備え、表皮層として熱可塑性ポリウレタン樹脂層3を備えている。熱可塑性ポリウレタン樹脂層3は、繊維集合体2の少なくとも一方面に配置されている。なお、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3は、繊維集合体2の一方面のみに配置されていてもよく、繊維集合体2の一方面および他方面の両面に配置されていてもよい。以下において、繊維強化樹脂シート1の一例として、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3が繊維集合体2の一方面のみに配置されている形態について、説明する。
【0025】
図1において、繊維強化樹脂シート1は、繊維集合体2と、繊維集合体2の一方面に配置される熱可塑性ポリウレタン樹脂層3とを、圧着させることによって、形成される。
【0026】
より具体的には、繊維強化樹脂シート1の製造方法では、まず、
図1Aに示されるように、繊維集合体2と、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3とを、準備する(第1工程)。その後、
図1Bに示されるように、繊維集合体2と、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3とを、積層および圧着させる(第2工程)。以下、第1工程および第2工程について、
図1を参照して詳述する。
【0027】
1)第1工程
図1Aに示されるように、第1工程では、繊維集合体2と、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3とを、それぞれ準備する。
【0028】
(1)繊維集合体
繊維集合体2は、強化繊維を含む。強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、ポリエステル繊維、炭化ケイ素繊維、ボロン繊維、金属繊維、および、セルロース繊維が挙げられる。強化繊維は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0029】
強化繊維として、好ましくは、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、および、セルロース繊維が挙げられる。つまり、強化繊維は、好ましくは、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、および、セルロース繊維からなる群から選択される少なくとも1種の繊維を含む。
【0030】
炭素繊維(カーボンファイバー、CF)としては、例えば、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、および、レーヨン系炭素繊維が挙げられる。炭素繊維は、単独使用または2種類以上併用することができる。炭素繊維として、好ましくは、PAN系炭素繊維が挙げられる。
【0031】
アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、および、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維が挙げられる。アラミド繊維は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0032】
ポリエステル繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、および、ポリエチレンナフタレート繊維が挙げられる。ポリエステル繊維は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0033】
セルロース繊維としては、例えば、麻繊維、竹繊維、綿繊維、木材繊維、ケナフ繊維、ヘンプ繊維、ジュート繊維、バナナ繊維、および、ココナツ繊維が挙げられる。木材繊維としては、例えば、木材のパルプから得られる繊維が挙げられる。木材としては、例えば、針葉樹および広葉樹が挙げられる。また、セルロース繊維は、天然繊維であってもよく、工業繊維であってもよい。また、セルロース繊維は、セルロースナノファイバーであってもよい。セルロース繊維は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0034】
強化繊維として、より好ましくは、炭素繊維が挙げられる。炭素繊維を使用することにより、繊維強化樹脂シートの意匠性が向上する。
【0035】
繊維集合体2は、強化繊維を含む繊維材料をシート状に成形することによって得られる。繊維材料をシート状に成形する方法としては、例えば、後述の各種織り方が挙げられる。なお、繊維材料は、強化繊維以外の繊維を、適宜の割合で含んでいてもよい。繊維材料は、好ましくは、強化繊維のみを含有する。すなわち、繊維集合体2は、好ましくは、強化繊維からなる。
【0036】
繊維集合体2としては、例えば、織物、編み物、フェルト、不織布および一方向材が挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用できる。繊維集合体2として、触感の観点から、好ましくは、織物が挙げられる。
【0037】
織物は、強化繊維を織ることによって、形成される。織り方としては、例えば、平織り、綾織り、朱子織り、畦織り、斜子織り、破れ斜紋織り、ヘリンボン織り、変則朱子織り、重ね朱子織り、蜂巣織り、梨地織り、りんず織り、綴錦織り、ベッドフォード織り、ピケ織り、締結二重織り、袋織り、三重織り、および、四重織りが挙げられる。また、織り方としては、織物に特殊な模様を描く織り方が挙げられ、そのような織り方として、例えば、ジャガード織りが挙げられる。
【0038】
平織りは、例えば、経糸および緯糸を交互に浮き沈みさせて織る方法である。綾織りは、例えば、2~3本の緯糸の上、および、1本の緯糸の下に、経糸を順次通過させて織る方法である。朱子織りは、例えば、経糸および緯糸のいずれか一方が4本以上の他方をとばすように、経糸および緯糸を交差させて織る方法である。畦織りは、例えば、経糸および緯糸のいずれか一方が数本の他方を跨ぐように経糸および緯糸を平織りにする方法、または、経糸および緯糸として、太糸と細糸とを混ぜて使用する方法である。斜子織りは、例えば、経糸および緯糸を、それぞれ2本以上揃えて平織りにする方法である。破れ斜紋織りは、例えば、経糸1本に対して緯糸を3本使用し、朱子組織が変則的に配置されるように、経糸および緯糸を織る方法である。ヘリンボン織りは、例えば、縦横に連続して組み合わされたV字形または長方形が魚骨模様となるように、経糸および緯糸を織る方法である。変則朱子織りは、例えば、組織点が変則的に配置されるように、経糸および緯糸を朱子織りにする方法である。重ね朱子織りは、例えば、組織点がずれるように2つの朱子織りを重ねる方法、および、組織点が接する点にさらに組織点を追加する方法である。蜂巣織りは、例えば、経糸および緯糸の浮き部分を伸ばして枡目をつくることにより、織面の凹凸からなる蜂の巣状の外観を得る方法である。梨地織りは、例えば、経糸および緯糸の浮き部分の長さおよび位置を不規則に設定することにより、細かいシボを生じさせる方法である。りんず織りは、例えば、表朱子および裏朱子からなる昼夜組織によって柄模様を形成する方法である。綴錦織りは、例えば、緯糸として2色以上の色糸を使用して、織り綴るように模様を形成する方法である。ベッドフォード織りは、例えば、2重の組織により縦方向の畝模様を形成する方法である。ピケ織りは、例えば、2重の組織により横方向の畝模様または菱形模様を形成する方法である。締結二重織りは、例えば、2枚の織物を重ねて、経糸または緯糸の特定部分において、上限の織物にまたがる組織を形成し、1枚の織物を得る方法である。袋織りは、端部(みみ部分)以外において、表裏の組織を搦ませずに離し、経糸および緯糸を袋状に織る方法である。三重織りは、上記の締結二重織りにおける2枚の織物を3枚の織物に変更する方法である。四重織りは、上記の締結二重織りにおける2枚の織物を4枚の織物に変更する方法である。ジャガード織りは、所望の模様(図柄)が描かれるように、経糸および緯糸を不規則に織る方法である。これらは単独使用または2種類以上併用できる。強化繊維の織り方として、好ましくは、平織りおよび綾織りが挙げられる。また、織物は、さらに、所望の模様(図柄)を強化繊維で刺繍されていてもよい。刺繍方法としては、特に制限されず、公知の方法が採用される。
【0039】
繊維集合体2の表面(一方側表面および他方側表面)は、凹凸構造を有している。例えば、繊維集合体2が強化繊維の織物である場合、経糸および緯糸の浮き沈みに応じた凹凸が、繊維集合体2の表面(一方側表面および他方側表面)に形成される。このような場合、繊維集合体2の表面(一方側表面および他方側表面)は、凹凸面である。
【0040】
なお、図示しないが、凹凸面は、繊維集合体2の一方側表面および他方側表面のうち、少なくともいずれか一方に、形成されていればよい。すなわち、繊維集合体2の一方側表面のみが凹凸面であってもよく、繊維集合体2の他方側表面のみが凹凸面であってもよい。好ましくは、繊維集合体2の一方側表面および他方側表面の両面が、凹凸面である。
【0041】
繊維集合体2の表面のKES表面粗さ(SMDf)は、例えば、1.50μm以上、好ましくは、2.00μm以上、より好ましくは、6.50μm以上、さらに好ましくは、8.00μm以上である。繊維集合体2の表面のKES表面粗さ(SMDf)は、例えば、30μm以下、好ましくは、20μm以下、より好ましくは、15μm以下、さらに好ましくは、10μm以下である。なお、繊維集合体2の表面のKES表面粗さ(SMDf)は、後述する実施例に準拠して、測定される。
【0042】
繊維集合体2の表面において、互いに隣接する凸部の頂点間の距離(繊維集合体2の凸間隔距離(Lf))は、例えば、0.50μm以上、好ましくは、1.00μm以上、より好ましくは、1.95μm以上である。繊維集合体2の表面において、互いに隣接する凸部の頂点間の距離(繊維集合体2の凸間隔距離(Lf))は、例えば、5.00μm以下、好ましくは、3.00μm以下、より好ましくは、2.50μm以下、さらに好ましくは、2.20μm以下である。なお、繊維集合体2の凸間隔距離(Lf)は、後述する実施例に準拠して、測定される。
【0043】
繊維集合体2の厚み(平均厚み)は、例えば、10μm以上、好ましくは、50μm以上である。繊維集合体2の厚み(平均厚み)は、例えば、3000μm以下、好ましくは、1000μm以下である。
【0044】
(2)熱可塑性ポリウレタン樹脂層
熱可塑性ポリウレタン樹脂層3は、熱可塑性ポリウレタン樹脂を含む樹脂層である。熱可塑性ポリウレタン樹脂層3は、好ましくは、熱可塑性ポリウレタン樹脂からなる樹脂層である。より具体的には、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3は、好ましくは、熱可塑性ポリウレタン樹脂からなるシート(TPUシート)またはフィルム(TPUフィルム)である。
【0045】
熱可塑性ポリウレタン樹脂層3は、特に制限されず、公知の熱可塑性ポリウレタン樹脂を、シート状またはフィルム状に成形することによって、準備される。熱可塑性ポリウレタン樹脂としては、特に制限されないが、例えば、公知のポリイソシアネート成分と、公知のポリオール成分との反応生成物が挙げられる。
【0046】
ポリイソシアネート成分としては、例えば、鎖状脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、および、芳香脂肪族ポリイソシアネートが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用できる。ポリイソシアネート成分として、好ましくは、脂環族ポリイソシアネートが挙げられる。脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンが挙げられ、好ましくは、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンが挙げられる。なお、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンは、公知の方法で製造される。製造方法は、例えば、国際公開WO2009/051114号公報、および、国際公開WO2019/069802号公報に記載される。
【0047】
ポリオール成分は、分子中に水酸基を2つ以上含有する化合物である。ポリオール成分としては、例えば、低分子量ポリオールおよび高分子量ポリオールが挙げられる。低分子量ポリオールとしては、例えば、2価アルコール、3価アルコール、および、4価以上のアルコールが挙げられ、好ましくは、2価アルコールおよび3価アルコールが挙げられる。高分子量ポリオールとしては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリウレタンポリオール、エポキシポリオール、植物油ポリオール、ポリオレフィンポリオール、アクリルポリオール、および、ビニルモノマー変性ポリオールが挙げられ、好ましくは、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールおよびポリカーボネートポリオールが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用できる。ポリオール成分として、好ましくは、低分子量ポリオールと高分子量ポリオールとの併用が挙げられる。低分子量ポリオールと高分子量ポリオールとが併用される場合、それらの割合は、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0048】
熱可塑性ポリウレタン樹脂は、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを反応させることにより、得ることができる。反応方法としては、例えば、ワンショット法およびプレポリマー法が挙げられる。好ましくは、プレポリマー法が採用される。プレポリマー法では、まず、ポリイソシアネート成分と高分子量ポリオールとを、公知の重合方法で重合させ、イソシアネート基末端プレポリマーを合成する。次いで、プレポリマー法では、上記のイソシアネート基末端プレポリマーと、低分子量ポリオール(鎖伸長剤)とを、公知の鎖伸長方法で反応させる。これにより、熱可塑性ポリウレタン樹脂が得られる。
【0049】
そして、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3(TPUシートまたはTPUフィルム)を得るには、公知の方法で、上記の熱可塑性ポリウレタン樹脂を、シート状またはフィルム状に成形する。成形方法としては、例えば、熱圧縮成形法、射出成形法および押出成形法が挙げられ、好ましくは、押出成形法が挙げられる。
【0050】
押出成形法では、例えば、まず、熱可塑性ポリウレタン樹脂を、公知の方法でペレット化する。熱可塑性ポリウレタン樹脂のペレットは、必要により、熱処理される。熱処理温度は、例えば、50℃以上、好ましくは、80℃以上である。また、熱処理温度は、例えば、200℃以下、好ましくは、150℃以下である。また、熱処理時間が、例えば、30分以上、好ましくは、1時間以上である。また、熱処理時間が、例えば、30時間以下、好ましくは、20時間以下である。その後、熱可塑性ポリウレタン樹脂のペレットを、公知の押出成形機によって溶融させ、シート状またはフィルム状に押出成形する。これにより、熱可塑性ポリウレタン樹脂のシート(TPUシート)またはフィルム(TPUフィルム)が得られる。
【0051】
熱可塑性ポリウレタン樹脂層3(TPUシートまたはTPUフィルム)は、必要により、養生される。養生温度は、例えば、10℃以上、好ましくは、20℃以上である。また、養生温度は、例えば、50℃以下、好ましくは、40℃以下である。また、養生時間が、例えば、1時間以上、好ましくは、10時間以上である。また、養生時間が、例えば、20日間以下、好ましくは、10日間以下である。
【0052】
熱可塑性ポリウレタン樹脂層3(TPUシートまたはTPUフィルム)は、市販品として入手可能である。市販品としては、例えば、商品名ハイグレス(シーダム製)、商品名エターナルグレイス(武田産業製)、商品名クラミロンU(クラレ製)、商品名パンデックス(大日本インキ化学工業製)、商品名エステン(協和発酵工業製)、商品名レザミン(大日精化工業製)、商品名ミラクトラン(日本ポリウレタン工業製)、商品名ペレセン(ダウ・ケミカル製)、商品名アイソプラスト(ダウ・ケミカル製)、商品名エラストラン(BASF製)、商品名パンデックス(バイエル製)、商品名デスモパン(バイエル製)、および、商品名テキシン(バイエル製)が挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用できる。
【0053】
熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の厚み(TPU厚み)は、例えば、5μm以上、好ましくは、10μm以上、より好ましくは、40μm以上、さらに好ましくは、80μm以上、とりわけ好ましくは、120μm以上である。熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の厚み(TPU厚み)は、例えば、1000μm以下、好ましくは、500μm以下、より好ましくは、300μm以下、さらに好ましくは、250μm以下、とりわけ好ましくは、200μm以下である。
【0054】
また、繊維集合体2の表面のKES表面粗さ(SMDf)に対する、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の厚みの比率(TPU厚み(μm)/SMDf(μm))は、例えば、0.1以上、好ましくは、0.5以上である。繊維集合体2の表面のKES表面粗さ(SMDf)に対する、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の厚みの比率(TPU厚み/SMDf)は、例えば、20以下、好ましくは、10以下、より好ましくは、5.0以下、さらに好ましくは、2.0以下である。
【0055】
また、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の貯蔵弾性率(E’)が105Paになる温度は、例えば、80℃以上、好ましくは、100℃以上、より好ましくは、120℃以上、さらに好ましくは、140℃以上である。また、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の貯蔵弾性率(E’)が105Paになる温度は、例えば、220℃以下、好ましくは、200℃以下、より好ましくは、180℃以下、さらに好ましくは、170℃以下である。
【0056】
なお、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の貯蔵弾性率(E’)が105Paになる温度は、以下の動的粘弾性測定条件において、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3を動的粘弾性測定することにより、求められる。
【0057】
<動的粘弾性測定条件>
測定温度:-100℃~250℃
昇温速度:5℃/min
モード:引張モード
標線間長:20mm
静/動応力比:1.8
測定周波数:10Hz
【0058】
2)第2工程
第2工程では、
図1Bに示されるように、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3を、繊維集合体2に対して、積層および圧着させ、繊維強化樹脂シート1を得る。
【0059】
より具体的には、第2工程では、繊維集合体2と熱可塑性ポリウレタン樹脂層3とを、減圧下で成形する方法(減圧成形法)によって、積層および圧着させる。
【0060】
減圧成形法として、より具体的には、TOM成形(Three dimension Overlay Method)、オートクレーブ成形および真空熱プレス成形が挙げられる。これら減圧成形法では、例えば、減圧環境下において、繊維集合体2と、所定温度に加熱された熱可塑性ポリウレタン樹脂層3とを積層および接触させる。そして、減圧に基づく押圧力を、繊維集合体2および熱可塑性ポリウレタン樹脂層3に、付与する。その結果、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3を、繊維集合体2に圧着させることができ、繊維強化樹脂シート1を得ることができる。
【0061】
なお、TOM成形(Three dimension Overlay Method)、オートクレーブ成形、および、真空熱プレス成形の詳細は、後述する。
【0062】
減圧成形法で繊維強化樹脂シート1を製造すると、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3が、繊維集合体2に追従するように成形され、繊維集合体2に積層される。そのため、繊維強化樹脂シート1の熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の表面が、繊維集合体2の表面の凹凸構造に応じて、凹凸構造を有する。
【0063】
繊維強化樹脂シート1の熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の表面のKES表面粗さ(SMDu)は、例えば、1.50μm以上、好ましくは、2.00μm以上、より好ましくは、6.50μm以上、さらに好ましくは、8.00μm以上である。繊維強化樹脂シート1の熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の表面のKES表面粗さ(SMDu)は、例えば、30μm以下、好ましくは、20μm以下、より好ましくは、15μm以下、さらに好ましくは、10μm以下である。なお、繊維強化樹脂シート1の熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の表面のKES表面粗さ(SMDu)は、後述する実施例に準拠して、測定される。
【0064】
繊維強化樹脂シート1の熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の表面において、互いに隣接する凸部の頂点間の距離(繊維強化樹脂シート1の熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の凸間隔距離(Lu))は、例えば、0.50μm以上、好ましくは、1.00μm以上、より好ましくは、1.95μm以上である。繊維強化樹脂シート1の熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の表面において、互いに隣接する凸部の頂点間の距離(繊維強化樹脂シート1の熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の凸間隔距離(Lu))は、例えば、5.00μm以下、好ましくは、3.00μm以下、より好ましくは、2.50μm以下、さらに好ましくは、2.20μm以下である。なお、繊維強化樹脂シート1の熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の凸間隔距離(Lu)は、後述する実施例に準拠して、測定される。
【0065】
また、減圧成形法では、繊維集合体2の表面のKES表面粗さ(SMDf)に対する、繊維強化樹脂シート1における熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の表面のKES表面粗さ(SMDu)の比率(SMDu/SMDf)を、調整する。
【0066】
繊維集合体2の表面のKES表面粗さ(SMDf)に対する、繊維強化樹脂シート1における熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の表面のKES表面粗さ(SMDu)の比率(SMDu/SMDf)は、0.45以上、好ましくは、0.85以上、より好ましくは、0.90以上、さらに好ましくは、0.95以上、とりわけ好ましくは、0.97以上である。また、繊維集合体2の表面のKES表面粗さ(SMDf)に対する、繊維強化樹脂シート1における熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の表面のKES表面粗さ(SMDu)の比率(SMDu/SMDf)は、例えば、2.00以下、好ましくは、1.30以下、より好ましくは、1.20以下、さらに好ましくは、1.10以下、とりわけ好ましくは、1.05以下である。
【0067】
また、減圧成形法では、好ましくは、繊維集合体2の表面の凸間隔距離(Lf)に対する、繊維強化樹脂シート1の熱可塑性ポリウレタン樹脂層の表面の凸間隔距離(Lu)の比率(Lu/Lf)を、調整する。
【0068】
繊維集合体2の表面の凸間隔距離(Lf)に対する、繊維強化樹脂シート1の熱可塑性ポリウレタン樹脂層の表面の凸間隔距離(Lu)の比率(Lu/Lf)は、例えば、0.85以上、好ましくは、0.90以上、より好ましくは、0.92以上、さらに好ましくは、0.95以上、とりわけ好ましくは、0.97以上である。また、繊維集合体2の表面の凸間隔距離(Lf)に対する、繊維強化樹脂シート1の熱可塑性ポリウレタン樹脂層の表面の凸間隔距離(Lu)の比率(Lu/Lf)は、例えば、2.00以下、好ましくは、1.50以下、より好ましくは、1.40以下、さらに好ましくは、1.30以下である。
【0069】
繊維集合体2の表面のKES表面粗さ(SMDf)に対する、繊維強化樹脂シート1における熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の表面のKES表面粗さ(SMDu)の比率(SMDu/SMDf)を調整するためには、例えば、減圧成形法において、例えば、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の加熱の度合い、および、環境における減圧の度合いを、それぞれ調整する。また、繊維集合体2の表面の凸間隔距離(Lf)に対する、繊維強化樹脂シート1の熱可塑性ポリウレタン樹脂層の表面の凸間隔距離(Lu)の比率(Lu/Lf)を調整するためにも、例えば、減圧成形法において、例えば、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の加熱の度合い、および、環境における減圧の度合いを、それぞれ調整する。
【0070】
熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の加熱の度合い、および、環境における減圧の度合いは、例えば、減圧成形法の種類に応じて、調整される。以下、各減圧成形法について、詳述する。
【0071】
(1)TOM成形
図2を参照して、TOM成形について説明する。TOM成形では、まず、
図2Aに示されるように、表皮フィルム5を、準備する(準備工程)。
【0072】
表皮フィルム5は、上記の熱可塑性ポリウレタン樹脂層3と、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の一方面(
図2Aの紙面下面)に配置される粘着剤層4とを備える積層体である。
【0073】
粘着剤層4としては、例えば、粘着フィルムが挙げられる。粘着フィルムとしては、例えば、アクリル粘着フィルム、ウレタン粘着フィルム、シリコーン粘着フィルムおよびゴム粘着フィルムが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用される。粘着フィルムとして、好ましくは、アクリル粘着フィルムが挙げられる。粘着フィルムは、透明であってもよく、着色されていてもよい。粘着フィルムは、好ましくは、透明である。すなわち、粘着フィルムとして、好ましくは、光学透明粘着フィルム(OCA(Optical Clear Adhesive)フィルム)が挙げられる。
【0074】
粘着剤層4の厚みは、例えば、10μm以上、好ましくは、50μm以上である。粘着剤層4の厚みは、例えば、500μm以下、好ましくは、300μm以下である。
【0075】
粘着剤層4は、例えば、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の表面のうち、繊維集合体2に対して圧着される側の表面に、貼り合わされる。その結果、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3と粘着剤層4とを備える表皮フィルム5が形成される。
【0076】
次いで、この方法では、
図2Bに示されるように、TOM成形機10を準備し、そのTOM成形機10内に、上記の表皮フィルム5と、繊維集合体2とを配置し、表皮フィルム5を所定温度に加熱する(加熱工程)。
【0077】
TOM成形機10は、公知の構成を有している。例えば、TOM成形機10は、内部が連通する上部ボックス11と下部ボックス12とを備えている。上部ボックス11および下部ボックス12は、例えば、鉛直方向に沿って連結され、その連結部分には、開口部が形成されている。上部ボックス11には、図示しない加圧装置(空圧装置)および減圧装置が接続されている。下部ボックス12には、図示しない減圧装置が接続されている。下部ボックス12は、昇降台13を備えている。昇降台13は、下部ボックス12内において、上部ボックス11に向かって上昇可能であり、上部ボックス11から離隔するように下降可能である。
【0078】
そして、この工程では、
図2Bが参照されるように、繊維集合体2を、下部ボックス12の昇降台13に載置する。また、表皮フィルム5を、上部ボックス11と下部ボックス12との連結部分に、配置する。より具体的には、表皮フィルム5を、上部ボックス11と下部ボックス12との連結部分の開口部に臨むように、上部ボックス11側に配置する。また、表皮フィルム5を、粘着剤層4が下部ボックス12側に向かうように、配置する。
【0079】
また、この工程では、図示しない減圧装置によって、上部ボックス11内および下部ボックス12内を、それぞれ減圧する。これにより、表皮フィルム5を、TOM成形機10内で、略水平に維持する。
【0080】
加熱工程において、上部ボックス11内の減圧ゲージ圧(真空ゲージ圧)は、例えば、-0.110MPa以上、好ましくは、-0.105MPa以上である。加熱工程において、上部ボックス11内の減圧ゲージ圧(真空ゲージ圧)は、例えば、-0.095MPa以下、好ましくは、-0.096MPa以下である。
【0081】
加熱工程において、下部ボックス12内の減圧ゲージ圧(真空ゲージ圧)は、例えば、-0.110MPa以上、好ましくは、-0.105MPa以上である。加熱工程において、下部ボックス12内の減圧ゲージ圧(真空ゲージ圧)は、例えば、-0.095MPa以下、好ましくは、-0.096MPa以下である。
【0082】
そして、この工程では、表皮フィルム5を、TOM成形機10内で、所定温度(加熱温度、成形温度)に加熱する。上記の所定温度(加熱温度、成形温度)は、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の貯蔵弾性率(E’)が105Paになる温度に基づいて、設定される。
【0083】
より具体的には、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の貯蔵弾性率(E’)が105Paになる温度をX℃としたとき、加熱工程における加熱温度は、[X-30]℃以上、好ましくは、[X-27]℃以上、より好ましくは、[X-25]℃以上である。また、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の貯蔵弾性率(E’)が105Paになる温度をX℃としたとき、加熱工程における加熱温度は、X℃以下、好ましくは、[X-5℃]以下、より好ましくは、[X-10]℃以下、さらに好ましくは、[X-15℃]以下である。
【0084】
例えば、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の貯蔵弾性率(E’)が105Paになる温度が、150℃であった場合、加熱工程における加熱温度は、120℃以上、好ましくは、123℃以上、より好ましくは、125℃以上である。また、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の貯蔵弾性率(E’)が105Paになる温度が、150℃であった場合、加熱工程における加熱温度は、150℃以下、好ましくは、145℃以下、より好ましくは、140℃以下、さらに好ましくは、135℃以下である。
【0085】
次いで、この方法では、
図2Cが参照されるように、下部ボックス12内において、昇降台13を上部ボックス11に向かって上昇させる。つまり、繊維集合体2を、表皮フィルム5の粘着剤層4に向かって、上昇させる。これにより、表皮フィルム5を繊維集合体2に積層するとともに、粘着剤層4を繊維集合体2に接触させる(積層工程)。その後、上部ボックス11内の減圧状態を解消し、図示しない加圧装置(空圧装置)によって、上部ボックス11内を、加圧する。一方、下部ボックス12内の減圧状態を、維持する。つまり、この方法では、表皮フィルム5の上側を加圧し、かつ、繊維集合体2の下側を減圧する。これにより、表皮フィルム5の上側と、繊維集合体2の下側との間に、圧力差を生じさせ、圧力差を生じさせる。その圧力差によって、表皮フィルム5と繊維集合体2とを、圧着させる(圧着工程)。
【0086】
圧着工程において、上部ボックス11内の加圧ゲージ圧は、例えば、0.20MPa以上、好ましくは、0.25MPa以上である。圧着工程において、上部ボックス11内の加圧ゲージ圧は、例えば、0.50MPa以下、好ましくは、0.40MPa以下である。
【0087】
圧着工程において、下部ボックス12内の減圧ゲージ圧(真空ゲージ圧)は、例えば、-0.110MPa以上、好ましくは、-0.105MPa以上である。圧着工程において、下部ボックス12内の減圧ゲージ圧(真空ゲージ圧)は、例えば、-0.095MPa以下、好ましくは、-0.096MPa以下である。
【0088】
上部ボックス11内の圧力と下部ボックス12内の圧力との差(成形圧力)は、例えば、0.20MPa以上、好ましくは、0.25MPa以上である。上部ボックス11内の圧力と下部ボックス12内の圧力との差(成形圧力)は、例えば、0.60MPa以下、好ましくは、0.50MPa以下である。
【0089】
また、上記の圧力状態の維持時間(成形時間)は、例えば、30秒以上、好ましくは、1分以上である。また、上記の圧力状態の維持時間(成形時間)は、例えば、30分以下、好ましくは、10分以下である。
【0090】
これにより、
図2Dに示されるように、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3は、繊維集合体2に、粘着剤層4を介して、積層および圧着される。このとき、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3が、繊維集合体2に追従するように成形される。つまり、繊維集合体2の凹凸構造が、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3に、転写される。
【0091】
その後、この方法では、上記の加圧および上記の減圧を、それぞれ、常圧に戻す。これにより、
図2Dに示されるように、繊維強化樹脂シート1が得られる。
【0092】
繊維強化樹脂シート1は、必要により、養生される。養生温度は、例えば、40℃以上、好ましくは、80℃以上である。また、養生温度は、例えば、140℃以下、好ましくは、120℃以下である。また、養生時間は、例えば、30分以上、好ましくは、1時間以上である。また、養生時間は、例えば、7日間以下、好ましくは、3日以下である。
【0093】
(2)オートクレーブ成形および真空熱プレス成形
図3を参照して、オートクレーブ成形および真空熱プレス成形について説明する。この方法では、まず、
図3Aに示されるように、押圧部材6を準備する(準備工程)。
【0094】
押圧部材6は、高硬度層7と低硬度層8とを備えている。
【0095】
高硬度層7は、23±2℃において、低硬度層8よりも高硬度の層である。高硬度層7は、例えば、板状部材である。高硬度層7として、より具体的には、例えば、金属板、CFRP板(炭素繊維強化プラスチック板)、および、GFRP板(ガラス繊維強化プラスチック板)が挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用できる。高硬度層7として、好ましくは、金属板が挙げられる。金属板としては、例えば、鋼板、鉄板、ステンレス板(SUS板)、アルミニウム板、および、これらの合金板が挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用できる。金属板として、好ましくは、ステンレス板(SUS板)が挙げられる。
【0096】
高硬度層7の厚みは、例えば、0.1mm以上、好ましくは、0.2mm以上、より好ましくは、0.5mm以上である。高硬度層7の厚みは、例えば、20mm以下、好ましくは、10mm以下、より好ましくは、5mm以下である。
【0097】
高硬度層7の硬度は、低硬度層8の硬度よりも高い。より具体的には、CFRP板のロックウェル硬度は、例えば、M80~M110である。また、GFRP板のロックウェル硬度は、例えば、M70~M120である。また、ステンレス板のビッカーズ硬度は、例えば、HV100~HV400である。なお、ロックウェル硬度は、JIS K 7202-2(2001)に準拠して測定される。また、ビッカーズ硬度は、JIS Z 2244(2009)に準拠して測定される。
【0098】
低硬度層8は、23±2℃において、高硬度層7よりも低硬度の層である。具体的には、50未満のショアA硬度を有する。低硬度層8は、例えば、シート状部材である。低硬度層8として、より具体的には、例えば、シリコーンシート、ポリオレフィンシート、ポリウレタンシート、ゴムシートおよび発泡シートが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用できる。低硬度層8として、好ましくは、シリコーンシートが挙げられる。
【0099】
低硬度層8の厚みは、例えば、0.5mm以上、好ましくは、1mm以上、より好ましくは、2mm以上である。低硬度層8の厚みは、例えば、20mm以下、好ましくは、10mm以下、より好ましくは、7mm以下、さらに好ましくは、6mm以下である。
【0100】
低硬度層8の硬度は、高硬度層7の硬度よりも低い。より具体的には、低硬度層8の23±2℃におけるショアA硬度は、例えば、10以上、好ましくは、12以上である。低硬度層8の23±2℃におけるショアA硬度は、例えば、50未満、好ましくは、40以下、より好ましくは、30以下、さらに好ましくは、20以下、とりわけ好ましくは、18以下である。なお、ショアA硬度は、JIS K 7215(1986)に基づいて測定される。
【0101】
押圧部材6において、高硬度層7および低硬度層8は、例えば、積層および接着され、一体として形成されていてもよい。また、高硬度層7および低硬度層8は、別体として準備され、使用時に積層されてもよい。好ましくは、高硬度層7および低硬度層8は、別体として準備され、使用時に積層される。
【0102】
次いで、この方法では、
図3Bに示されるように、押圧部材6の低硬度層8と、繊維集合体2との間に、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3を介在させる(積層工程)。
【0103】
より具体的には、繊維集合体2に、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3を積層する。また、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3に、押圧部材6を積層する。押圧部材6は、低硬度層8が、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3側に向かうように、配置される。これにより、繊維集合体2、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3および押圧部材6を含む積層体9を得る。
【0104】
なお、図示しないが、必要に応じて、低硬度層8と熱可塑性ポリウレタン樹脂層3との間に、離型フィルムを介在させることができる。離型フィルム(図示せず)としては、特に制限されないが、例えば、二軸延伸ポリプロピレンフィルムおよびポリメチルペンテンフィルムが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用できる。離型フィルム(図示せず)の厚みは、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0105】
次いで、この方法では、
図3C~
図3Dに示されるように、減圧下において、積層体9の押圧部材6を、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3および繊維集合体2に向かって、所定温度で加圧する。そして、上記減圧と、押圧部材6の加圧との圧力差によって、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3と繊維集合体2とを、圧着させる(圧着工程)。
【0106】
例えば、オートクレーブ成形では、
図3Cに示すように、上記の積層体9を、任意のパッケージ20(密封包材)に入れ、パッケージ20(密封包材)の内部を、例えば、減圧装置により減圧する。
【0107】
パッケージ20内の減圧において、減圧装置の減圧ゲージ圧(真空ゲージ圧)は、例えば、-0.05MPa以下、好ましくは、-0.09MPa以下である。
【0108】
そして、オートクレーブ成形では、
図3Dに示されるように、パッケージ20をオートクレーブに入れ、オートクレーブ内を、所定温度および所定圧力で保持する。オートクレーブ内の温度は、例えば、80℃以上、好ましくは、100℃以上である。オートクレーブ内の温度は、例えば、200℃以下、好ましくは、180℃以下である。オートクレーブ内の圧力(加圧ゲージ圧)は、例えば、0.1MPa以上、好ましくは、0.3MPa以上である。オートクレーブ内の圧力(加圧ゲージ圧)は、例えば、3.00MPa以下、好ましくは、1.00MPa以下である。
【0109】
また、オートクレーブ成形において、上記の圧力状態の維持時間(成形時間)は、例えば、10分以上、好ましくは、30分以上である。また、オートクレーブ成形において、上記の圧力状態の維持時間(成形時間)は、例えば、3時間以下、好ましくは、1時間以下である。
【0110】
これにより、
図3Eに示されるように、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の少なくとも一部が、繊維集合体2に、含浸される。つまり、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3が、繊維集合体の厚み方向における一方側から他方側に向かって、所定の深さまで浸入する。また、このとき、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3が、繊維集合体2に追従するように成形される。つまり、繊維集合体2の凹凸構造が、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3に、転写される。
【0111】
その後、この方法では、上記の加圧および減圧を、それぞれ、常圧に戻す。これにより、繊維強化樹脂シート1が得られる。繊維強化樹脂シート1は、必要により、上記の条件で養生される。
【0112】
また、真空プレス成形では、
図3Cに示すように、上記の積層体9を、真空プレス装置の真空チャンバー30に入れ、真空チャンバー30の内部を、例えば、減圧装置により減圧する。真空チャンバー30の減圧において、減圧装置の減圧ゲージ圧(真空ゲージ圧)は、例えば、-0.05MPa以下、好ましくは、-0.09MPa以下である。
【0113】
そして、真空プレス成形では、
図3Dに示されるように、真空チャンバー30を、所定温度および所定圧力でプレスする。プレス温度は、例えば、80℃以上、好ましくは、100℃以上である。プレス温度は、例えば、200℃以下、好ましくは、180℃以下である。プレス圧力(加圧ゲージ圧)は、例えば、0.05MPa以上、好ましくは、0.10MPa以上である。プレス圧力(加圧ゲージ圧)は、例えば、5.00MPa以下、好ましくは、1.00MPa以下である。
【0114】
また、真空プレス成形において、上記の圧力状態の維持時間(成形時間)は、例えば、1分以上、好ましくは、3分以上である。また、真空プレス成形において、上記の圧力状態の維持時間(成形時間)は、例えば、1時間以下、好ましくは、30分以下である。
【0115】
これにより、
図3Eに示されるように、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の少なくとも一部が、繊維集合体2に、含浸される。つまり、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3が、繊維集合体の厚み方向における一方側から他方側に向かって、所定の深さまで浸入する。また、このとき、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3が、繊維集合体2に追従するように成形される。つまり、繊維集合体2の凹凸構造が、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3に、転写される。
【0116】
その後、この方法では、上記の加圧および減圧を、それぞれ、常圧に戻す。これにより、繊維強化樹脂シート1が得られる。繊維強化樹脂シート1は、必要により、上記の条件で養生される。
【0117】
2.繊維強化樹脂シート
上記の方法で得られる繊維強化樹脂シート1は、繊維集合体2と熱可塑性ポリウレタン樹脂層3とを備えている。
【0118】
繊維強化樹脂シート1において、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3は、例えば、繊維集合体2に直接積層されていてもよい(
図1B参照。)。また、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3は、例えば、繊維集合体2に、粘着剤層4を介して積層されていてもよい(
図2D参照。)。また、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の少なくとも一部が、繊維集合体2に、含浸されていてもよい(
図3E参照。)。
【0119】
これらのいずれの態様においても、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3は、繊維集合体2に追従するように成形される。そのため、繊維強化樹脂シート1の熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の表面が、繊維集合体2の表面の凹凸構造に応じて、凹凸構造を有する。
【0120】
繊維強化樹脂シート1の熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の表面のKES表面粗さ(SMDu)は、上記の通りである。また、繊維強化樹脂シート1の熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の表面において、互いに隣接する凸部の頂点間の距離(凸間隔距離、Lu)は、上記の通りである。また、繊維集合体2の表面のKES表面粗さ(SMDf)に対する、繊維強化樹脂シート1における熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の表面のKES表面粗さ(SMDu)の比率(SMDu/SMDf)は、上記の通りである。また、繊維集合体2の表面の凸間隔距離(Lf)に対する、繊維強化樹脂シート1の熱可塑性ポリウレタン樹脂層の表面の凸間隔距離(Lu)の比率(Lu/Lf)は、上記の通りである。
【0121】
なお、上記の説明では、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3を、繊維集合体2の一方面のみに配置し、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3と繊維集合体2とを圧着させているが、
図1Bにおいて仮想線で示すように、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3を、繊維集合体2の一方面および他方面の両面に配置し、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3と繊維集合体2とを、圧着させてもよい。このような場合、上記の減圧成形法(TOM成形、オートクレーブ成形および真空プレス成形)によれば、一方側の繊維集合体2と、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3と、他方側の繊維集合体2とを、圧着させることができる。
【0122】
3.作用効果
上記の繊維強化樹脂シート1の製造方法により得られる繊維強化樹脂シート1では、繊維集合体2の表面のKES表面粗さ(SMDf)に対する、繊維強化樹脂シート1における熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の表面のKES表面粗さ(SMDu)の比率(SMDu/SMDf)が0.45以上である。そのため、繊維強化樹脂シート1は、繊維集合体2の触感により近い触感を有する。
【0123】
とりわけ、上記の繊維強化樹脂シート1の製造方法は、繊維集合体2と、熱可塑性ポリウレタン樹脂層3とを準備する第1工程と、繊維集合体2と熱可塑性ポリウレタン樹脂層3とを積層および圧着させる第2工程とを備える。そして、第2工程では、減圧成形法により繊維集合体2と熱可塑性ポリウレタン樹脂層3とを減圧下で圧着させる。
【0124】
そのため、上記の繊維強化樹脂シート1の製造方法によれば、より繊維集合体2の触感に近い触感を有する繊維強化樹脂シート1を、より確実に得ることができる。
【0125】
そして、上記の繊維強化樹脂シート1では、繊維集合体2の表面のKES表面粗さ(SMDf)に対する、繊維強化樹脂シート1における熱可塑性ポリウレタン樹脂層3の表面のKES表面粗さ(SMDu)の比率(SMDu/SMDf)が0.45以上である。そのため、繊維強化樹脂シート1は、より繊維集合体2の触感に近い触感を有する。
【0126】
そのため、上記の繊維強化樹脂シート1の製造方法、および、上記の繊維強化樹脂シート1は、各種産業分野において、好適に使用される。産業分野としては、例えば、装身具分野、乗物分野、家具分野、スポーツ分野、ロボット分野、事務用品分野、建築分野、ヘルスケア分野、および、電気分野が挙げられる。好ましくは、上記の繊維強化樹脂シートは、装身具分野において使用される。装身具としては、例えば、鞄、財布および名刺入れが挙げられる。
【実施例0127】
1.繊維集合体
準備例1
以下の繊維集合体を準備した。
(1)CF織物;炭素繊維の織物、フォルモサプラスチック社製、カーボンファブリックEC3C、平均厚み250μm
(2)麻織物;麻繊維の織物、Bcomp社製、amplitex#5043、平均厚み460μm
(3)ポリエステル織物;ポリエステル繊維(東レ製、テトロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート繊維、1500デニール)の織物、織物密度12.5本/インチ、平織、平均厚み320μm
(4)アラミド織物;アラミド繊維(デュポン社製、ケブラー(登録商標)、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、1500デニール)の織物、織物密度12.5本/インチ、平織、平均厚み330μm
【0128】
2.熱可塑性ポリウレタン樹脂
準備例2(TPUフィルム1)
撹拌機、温度計および窒素導入管を備えた容器に、以下の成分を入れた。次いで、容器の内容物を、窒素雰囲気下、85℃の湯浴中で5分間撹拌した。
【0129】
ポリイソシアネート成分;1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、トランス体86モル%/シス体14モル%、173質量部
高分子量ポリオール;ポリカーボネートジオール、数平均分子量1000、平均水酸基数2、宇部興産社製、UP-100、100質量部
添加剤の混合物;33.4質量%のイルガノックス24(酸化防止剤、BASFジャパン社製)と、33.3質量%のチヌビン571(紫外線吸収剤、BASFジャパン社製)と、33.3質量%のアデカスタブLA-72(耐候安定剤、ADEKA社製)との混合物、0.9質量部
【0130】
なお、撹拌には、高速攪拌ディスパーを使用した。回転数は、500~700rpmであった。これにより、イソシアネート基末端プレポリマーを得た。
【0131】
次いで、イソシアネート基末端プレポリマーに、鎖伸長剤としての低分子量ポリオール(三菱ケミカル社製、1,4-ブタンジオール)73質量部を添加した。
【0132】
次いで、イソシアネート基末端プレポリマーと鎖伸長剤とを、混合物の温度が90℃に至るまで、撹拌した。なお、撹拌には、高速攪拌ディスパーを使用した。
【0133】
また、攪拌中、適宜の割合で、触媒溶液を添加した。触媒溶液は、4質量%のネオスタンU-100(ジブチルスズジラウレート、日東化学社製)と、96質量%DINA(ジイソノニルアジペート、大八化学工業社製)とを含んでいた。
【0134】
次いで、イソシアネート基末端プレポリマーと鎖伸長剤との混合物を、テフロン(登録商標)製のバットに流し込み、150℃で2時間ウレタン化反応させた。また、ウレタン化反応を、100℃で20時間継続させた。これにより、熱可塑性ポリウレタン樹脂を得た。
【0135】
次いで、熱可塑性ポリウレタン樹脂を、バットから取り出し、ベールカッターによりサイコロ状に切断した。次いで、サイコロ状の樹脂を、粉砕機により粉砕した。これにより、粉砕ペレットを得た。次いで、粉砕ペレットを、80℃で5日間熱処理し、次いで、真空減圧下において、80℃で12時間乾燥させた。その後、粉砕ペレットを、単軸押出機(型式:SZW20-25MG、テクノベル社製)に投入し、スクリュー回転数30rpmおよびシリンダー温度140~240℃の条件で、ストランドを押出した。その後、ストランドをカットすることによって、熱可塑性ポリウレタン樹脂のペレットを得た。
【0136】
次いで、熱可塑性ポリウレタン樹脂のペレットを使用し、熱可塑性ポリウレタン樹脂のフィルムを得た。より具体的には、熱可塑性ポリウレタン樹脂のペレットを、真空減圧下において、80℃で12時間乾燥させ、次いで、熱可塑性ポリウレタン樹脂のペレットを、単軸押出機(型式:SZW20-25MG、テクノベル社製)に投入し、スクリュー回転数20rpmおよびシリンダー温度140~240℃の条件で、熱可塑性ポリウレタン樹脂をTダイから押出し、ベルトコンベアで引き取った。これにより、厚み150μmのフィルム(以下、TPUフィルム1)を得た。その後、TPUフィルム1を、室温23℃および相対湿度55%の恒温恒湿条件下にて、7日間養生した。
【0137】
動的粘弾性測定装置(DVA-220、アイティー計測制御製)を使用して、以下の条件で、TPUフィルム1の動的粘弾性を測定した。また、動的粘弾性測定結果に基づいて、TPUフィルム1の貯蔵弾性率(E’)が105Paになる温度を算出した。
<動的粘弾性測定条件>
測定温度:-100℃~250℃
昇温速度:5℃/min
モード:引張モード
標線間長:20mm
静/動応力比:1.8
測定周波数:10Hz
【0138】
TPUフィルム1の貯蔵弾性率(E’)が105Paになる温度は、150℃であった。
【0139】
準備例3(TPUフィルム2)
TPUフィルム2として、ハイグレスDUS203-CD(商品名、シーダム社製、ポリエステル系熱可塑性ポリウレタン樹脂)を準備した。
【0140】
準備例1と同じ方法で、TPUフィルム2の貯蔵弾性率(E’)が105Paになる温度を算出した。TPUフィルム2の貯蔵弾性率(E’)が105Paになる温度は、164℃であった。
【0141】
準備例4(TPUフィルム3)
TPUフィルム3として、エターナルグレイスEG90(商品名、武田産業社製、ポリエステル系熱可塑性ポリウレタン樹脂)を準備した。
【0142】
準備例1と同じ方法で、TPUフィルム3の貯蔵弾性率(E’)が105Paになる温度を算出した。TPUフィルム3の貯蔵弾性率(E’)が105Paになる温度は、147℃であった。
【0143】
3.低硬度層
準備例5
低硬度層として、23±2℃におけるショアA硬度(JIS K 7215(1986))が15であるシリコーンシート(厚さ4mm)を、準備した。これを、シリコーンシート1とした。
【0144】
準備例6
低硬度層として、23±2℃におけるショアA硬度(JIS K 7215(1986))が50であるシリコーンシート(厚さ4mm)を、準備した。これを、シリコーンシート2とした。
【0145】
4.繊維強化樹脂シート
(1)TOM成形
<実施例1>
厚み150μmのTPUフィルムに、アクリル粘着フィルム(日榮新化製、Mold Fit 50;以下、OCAフィルム)を貼り合わせた。これにより、TPUフィルム(熱可塑性ポリウレタン樹脂層)とOCAフィルム(粘着剤層)とを備える表皮フィルム(積層体)を準備した(準備工程)。
【0146】
TOM成形機(布施真空社製、NGF-040-T)に、上記の積層体と、繊維集合体としての炭素繊維織物(フォルモサプラスチック社製、カーボンファブリックEC3C;以下、CF織物)とを配置した。
【0147】
次いで、表皮フィルム(積層体)の上側および下側を、所定の減圧ゲージ圧(-0.1MPa)となるように、減圧した。また、表皮フィルムを、所定の成形温度(125℃)に加熱した。
【0148】
次いで、表皮フィルム(積層体)を、CF織物(繊維集合体)の片面に接触させた。次いで、表皮フィルム(積層体)上側を、所定の加圧ゲージ圧(0.3MPa)となるように、空気で加圧した。これにより、表皮フィルム(積層体)の上側の加圧、および、表皮フィルム(積層体)の下側の減圧との間に、圧力差(0.4MPa)を生じさせた。また、この圧力状態を、3分間維持した。
【0149】
これにより、CF織物(繊維集合体)の一方面に、表皮フィルム(積層体)を圧着させた。つまり、CF織物(繊維集合体)とTPUフィルム1とを、OCAフィルム(粘着剤層)を介して貼り合わせた。
【0150】
その後、表皮フィルム(積層体)の上側の加圧、および、表皮フィルム(積層体)の下側の減圧を、それぞれ、常圧に戻した。これにより、CF織物(繊維集合体)とTPUフィルムとを備える繊維強化樹脂シートを得た。
【0151】
<実施例2>
TPUフィルムの厚さを、表1の記載に準拠して変更した。また、表皮フィルムの成形温度を、表1の記載に準拠して変更した。また、繊維集合体として、CF織物に代えて、麻織物(Bcomp社製、amplitex#5043)を使用した。さらに、麻織物の一方面に、表皮フィルムを圧着および接着させ、その後、麻織物の他方面にも、表皮フィルムを圧着および接着させた。これ以外は、実施例1と同じ方法で、繊維強化樹脂シートを得た。
【0152】
<実施例3>
繊維集合体として、CF織物に代えて、ポリエステル織物(ポリエステル繊維(東レ製テトロン(登録商標)、1500デニール)の織物、織物密度12.5本/インチ、平織)を使用した。また、TPUフィルム1に代えて、TPUフィルム2を使用した。これ以外は、実施例1と同じ方法で、繊維強化樹脂シートを得た。
【0153】
<比較例1>
TPUフィルムの厚さを、表1の記載に準拠して変更した。また、表皮フィルムの成形温度を、表1の記載に準拠して変更した。これ以外は、実施例1と同じ方法で、繊維強化樹脂シートを得た。
【0154】
<比較例2>
表皮フィルムの成形温度を、表1の記載に準拠して変更した。また、減圧ゲージ圧および加圧ゲージ圧を、表1の記載に準拠して変更した。これ以外は、実施例1と同じ方法で、繊維強化樹脂シートを得た。
【0155】
(2)オートクレーブ成形
<実施例4>
アラミド織物(アラミド繊維(デュポン社製、ケブラー(登録商標)、1500デニール)の織物、織物密度12.5本/インチ、平織)の一方および他方の両面に、TPUフィルム3(熱可塑性ポリウレタン樹脂層)と、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(離型フィルム、フタムラ化学社製、商品名FOR-MP;以下、OPPフィルム)と、シリコーンシート1と、ステンレス板(材質:SUS304、厚さ1mm、高硬度層)とを、順に積層した。
【0156】
積層体は、以下の構成であった。
ステンレス板(高硬度層)/シリコーンシート1(低硬度層)/OPPフィルム(離型フィルム)/TPUフィルム3(熱可塑性ポリウレタン樹脂層)/アラミド織物(繊維集合体)/TPUフィルム3(熱可塑性ポリウレタン樹脂層)/OPPフィルム(離型フィルム)/シリコーンシート1(低硬度層)/ステンレス板(高硬度層)
【0157】
上記の積層体を、ポリエチレンテレフタレート製の不織布(目付135g/m2、平均厚さ2mm、高安社製OSE-135)で包み、さらに、その外側をナイロン製フィルム(エアテック社製、WL6400-002-18)で包み、パッケージを得た。パッケージの開口部を、気密テープで封じた。
【0158】
パッケージ内(ナイロン製フィルム内)を、真空ポンプで、所定の減圧ゲージ圧(-0.1MPa)に減圧した。減圧状態を維持して、パッケージを、オートクレーブ(羽生田鉄工所社製、DL-2010)に入れた。オートクレーブ内を、所定の成形温度(130℃)および加圧ゲージ圧(0.5MPa)で、40分間保持した。
【0159】
オートクレーブ内を、常温常圧にした。オートクレーブからパッケージを取り出した。パッケージから上記の積層体を取り出した。積層体から、ステンレス板(高硬度層)、シリコーンシート1(低硬度層)およびOPPフィルム(離型フィルム)を剥離し、アラミド織物と、アラミド織物の両側に配置されるTPUフィルム3とを備える繊維強化樹脂シートを取り出した。
【0160】
<実施例5>
オートクレーブの成形温度を、表1の記載に準拠して変更した。また、アラミド繊維に代えて、炭素繊維織物(フォルモサプラスチック社製カーボンファブリックEC3C、CF織物)を使用した。また、TPUフィルム3に代えて、TPUフィルム1を使用した。これ以外は、実施例4と同じ方法で、繊維強化樹脂シートを得た。
【0161】
<比較例3>
シリコーンシート1に代えて、シリコーンシート2を使用した。また、オートクレーブの成形温度を、表1の記載に準拠して変更した。TPUフィルム3に代えて、TPUフィルム1を使用した。また、TPUフィルムの厚さを、表1の記載に準拠して変更した。これ以外は、実施例4と同じ方法で、繊維強化樹脂シートを得た。
【0162】
<比較例4>
低硬度層を使用しなかった。これ以外は、実施例4と同じ方法で、繊維強化樹脂シートを得た。
【0163】
(3)真空熱プレス成形
<実施例7>
CF織物の一方および他方の両面に、厚さ300μmのTPUフィルム1(熱可塑性ポリウレタン樹脂層)と、ポリメチルペンテンフィルム(離型フィルム、三井化学ファイン製、商品名TPX;以下、TPXフィルム)と、シリコーンシート1と、ステンレス板(材質:SUS304、厚さ1mm、高硬度層)とを、順に積層した。
【0164】
積層体は、以下の構成であった。
ステンレス板(高硬度層)/シリコーンシート1(低硬度層)/TPXフィルム(離型フィルム)/TPUフィルム1(熱可塑性ポリウレタン樹脂層)/CF織物(繊維集合体)/TPUフィルム1(熱可塑性ポリウレタン樹脂層)/TPXフィルム(離型フィルム)/シリコーンシート1(低硬度層)/ステンレス板(高硬度層)
【0165】
上記の積層体を、真空熱プレス機(岩城工業社製)の真空チャンバー内に配置した。真空チャンバー内を、下記の温度および真空圧力に維持した。そして、真空チャンバーを、以下の加圧力および保持時間で、プレスした。
【0166】
温度;145℃
真空圧力(減圧ゲージ圧);-0.05MPa
加圧力(加圧ゲージ圧);0.55MPa
保持時間;5分間
【0167】
その後、真空を常圧に戻して、加圧を終了した。真空熱プレス機から、上記の積層体を取り出した。
【0168】
積層体から、ステンレス板(高硬度層)、シリコーンシート1(低硬度層)およびTPXフィルム(離型フィルム)を剥離し、CF織物と、CF織物の両側に配置されるTPUフィルム1とを備える繊維強化樹脂シートを取り出した。
【0169】
<比較例5>
低硬度層を使用しなかった。また、減圧することなく、単に、TPUフィルム1(熱可塑性ポリウレタン樹脂層)/CF織物(繊維集合体)とを、熱プレスした。また、プレス圧力を、表2に示す通りに変更した。これ以外は、実施例7と同じ方法で、繊維強化樹脂シートを得た。
【0170】
5.評価方法
(1)KES表面粗さ(SMD)
表面試験機KES‐FB4-A(カトーテック社製)を使用して、繊維集合体の表面のKES表面粗さ(SMDf)、および、繊維強化樹脂シートの熱可塑性ポリウレタン樹脂の表面のKES表面粗さ(SMDu)を測定した。
【0171】
より具体的には、繊維集合体または繊維強化樹脂シートを、10cm×10cmにカットし、サンプルシートを得た。サンプルシートの表面(繊維集合体の表面、または、繊維強化樹脂シートの熱可塑性ポリウレタン樹脂側の表面)と、接触子(0.5mmワイヤー、接触面幅5mm)とを接触させた。接触子に10.0gの荷重を付加した。そして、接触子に、サンプルシートの表面を、速度1mm/secで移動させた。接触子の移動距離を、25mmとした。
【0172】
そして、接触子の移動距離をx軸とし、粗さ(凹凸)をy軸として、粗さ曲線(x-y曲線)を得た。25mmの間における粗さ(凹凸)の算術平均値を、KES表面粗さ(SMD)として求めた。また、同じサンプルシートの3か所の異なる位置において、KES表面粗さ(SMD)を測定した。そして、KES表面粗さ(SMD)の平均値(3回平均値)を、算出した。その結果を、表1に示す。
【0173】
なお、繊維集合体の表面のKES表面粗さを、SMDfと示す。また、繊維強化樹脂シートの熱可塑性ポリウレタン樹脂の表面のKES表面粗さを、SMDuと示す。
【0174】
そして、繊維集合体の表面のKES表面粗さ(SMDf)に対する繊維強化樹脂シートにおける熱可塑性ポリウレタン樹脂の表面のKES表面粗さ(SMDu)の比率(SMDu/SMDf)を算出した。
【0175】
(2)凸間隔距離
上記のKES表面粗さ(SMD)の測定の粗さ曲線(x-y曲線)を使用し、互いに隣接する凹部の間の最も高い凸部を検出した。隣接する凹部の間で検出された、互いに隣接する凸部の頂点間の距離(凸間隔距離)を算出した。そして、各凸間隔距離の平均値を、算出した。その結果を、表1に示す。
【0176】
(3)凸凹触感(官能評価)
繊維強化樹脂シートを取り扱っている研究者を、官能試験者として5人集めた。平滑なテーブルに、繊維強化樹脂シートと、その繊維強化樹脂シートに含まれる繊維集合体とを、それぞれ載置した。
【0177】
官能試験者が、繊維集合体の表面を、人差し指で軽く左右に撫で、凸凹触感を確認した。また、官能試験者が、その繊維集合体を含む繊維強化樹脂シートの熱可塑性ポリウレタンの表面を、人差し指で軽く左右に撫で、凸凹触感を確認した。なお、評価時の温度は23℃~23.5℃であり、相対湿度は48%~53%であった。
【0178】
そして、以下の評価基準に基づいて、凹凸触感を評価した。その結果を、表1に示す。
【0179】
このとき、比較例4を1.0点とし、基準とした。なお、比較例4の繊維強化樹脂シートは、熱プレス成形により得られており、繊維集合体の表面は凹凸触感を有しているが、その繊維集合体を含む繊維強化樹脂シートの熱可塑性ポリウレタンの表面は、ほとんど凹凸触感を有していなかった。
【0180】
評価基準
4.0点:繊維強化樹脂シートの熱可塑性ポリウレタンの表面が、凹凸触感を有する。また、繊維強化樹脂シートの熱可塑性ポリウレタンの表面の凹凸触感が、繊維集合体の表面の凹凸触感と、同等である。
3.0点:繊維強化樹脂シートの熱可塑性ポリウレタンの表面が、凹凸触感を有する。また、また、繊維強化樹脂シートの熱可塑性ポリウレタンの表面の凹凸触感が、繊維集合体の表面の凹凸触感に、近い。
2.0点:繊維強化樹脂シートの熱可塑性ポリウレタンの表面が、凹凸触感を有する。しかし、繊維強化樹脂シートの熱可塑性ポリウレタンの表面は、やや平滑である。
1.0点:繊維強化樹脂シートの熱可塑性ポリウレタンの表面が、凹凸触感を殆どまたは全く有しない。
【0181】
(4)密着度
繊維強化樹脂シートの繊維集合体と熱可塑性ポリウレタンとの密着度を目視で観察した。より具体的には、照明として蛍光灯を有する室内において、繊維強化樹脂シートを、熱可塑性ポリウレタン側から観察した。繊維集合体が、熱可塑性ポリウレタンを透過して確認された場合、繊維集合体と熱可塑性ポリウレタンとが良好に密着している(○)と判断した。また、繊維集合体が、熱可塑性ポリウレタンを透過して確認されなかった場合、繊維集合体と熱可塑性ポリウレタンとが良好に密着しておらず、これらの間に空気が介在している(×)と判断した。その結果を、表1に示す。
【0182】
【0183】