(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104922
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ハイドロゲル、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/075 20060101AFI20240730BHJP
A61L 29/08 20060101ALI20240730BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20240730BHJP
C08L 33/06 20060101ALI20240730BHJP
C08K 5/16 20060101ALI20240730BHJP
C08K 3/20 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C08J3/075 CEY
A61L29/08 100
A61L31/10
C08L33/06
C08K5/16
C08K3/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009365
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】中田 善知
【テーマコード(参考)】
4C081
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4C081AC08
4C081AC09
4C081BB01
4C081CA082
4C081DA12
4F070AA32
4F070AB13
4F070AB22
4F070AC12
4F070AC13
4F070AE13
4F070AE28
4F070CB03
4F070CB11
4F070FA04
4F070FB05
4F070FB10
4J002BG031
4J002DE056
4J002DE206
4J002EN026
4J002EN036
4J002FD206
4J002GB01
(57)【要約】
【課題】pH応答性を有するハイドロゲル、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】
少なくとも一つの水酸基を有する(メタ)アクリレート由来の構造単位を40mol%以上有する重合体と、塩基性物質と、水とを含むハイドロゲル。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの水酸基を有する(メタ)アクリレート由来の構造単位を40mol%以上有する重合体と、塩基性物質と、水とを含むハイドロゲル。
【請求項2】
前記重合体が、前記(メタ)アクリレート由来の構造単位のホモポリマーである、請求項1に記載のハイドロゲル。
【請求項3】
前記(メタ)アクリレート由来の構造単位が、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、又は2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種由来の構造単位を含む、請求項1又は2に記載のハイドロゲル。
【請求項4】
少なくとも一つの水酸基を有する(メタ)アクリレート由来の構造単位を40mol%以上有する重合体と、塩基性物質と、水とを混合することによりハイドロゲルを得る、ハイドロゲルの製造方法。
【請求項5】
前記重合体が、前記(メタ)アクリレート由来の構造単位のホモポリマーである、請求項4に記載のハイドロゲルの製造方法。
【請求項6】
前記(メタ)アクリレート由来の構造単位が、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、又は2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種由来の構造単位を含む、請求項4又は5に記載のハイドロゲルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ハイドロゲル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水と高分子を含むゲルであるハイドロゲルは多様な用途での使用が期待されている。特に、非特許文献1に記載されているように、種々の外部環境からの刺激、例えばpHの違いに応じて性質が変化するハイドロゲルに注目が集まっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】宮田隆志著、「刺激応答性高分子ゲルの設計と応用」、日本ゴム協会誌、第78巻、第4号、p.135-141、2005年4月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、非特許文献1にも記載されているように、pHが変化することにより体積が変化するハイドロゲル等が知られているが、用途に応じて様々な性質のハイドロゲルが求められている。本開示は、pH応答性を有するハイドロゲル、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の[1]~[3]に記載のハイドロゲルを提供する。
[1] 少なくとも一つの水酸基を有する(メタ)アクリレート由来の構造単位を40mol%以上有する重合体と、塩基性物質と、水とを含むハイドロゲル。
[2] 上記重合体が、前記(メタ)アクリレート由来の構造単位のホモポリマーである、[1]に記載のハイドロゲル。
[3] 上記(メタ)アクリレート由来の構造単位が、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、又は2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種由来の構造単位を含む、[1]又は[2]に記載のハイドロゲル。
【0006】
本開示は、以下の[4]~[6]に記載のハイドロゲルの製造方法を提供する。
[4] 少なくとも一つの水酸基を有する(メタ)アクリレート由来の構造単位を40mol%以上有する重合体と、塩基性物質と、水とを混合するハイドロゲルの製造方法。
[5] 上記重合体が、前記(メタ)アクリレート由来の構造単位のホモポリマーである、[4]に記載のハイドロゲルの製造方法。
[6] 上記(メタ)アクリレート由来の構造単位が、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、又は2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種由来の構造単位を含む、[4]又は[5]に記載のハイドロゲルの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、pH応答性を有するハイドロゲル、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。本明細書に明示される数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されるいずれかの値に置き換えてもよい。また、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせてもよい。本明細書において例示する材料又は成分は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、本明細書中、「(メタ)アクリル酸」なる用語は、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。「(メタ)アクリレート」のような類似の表現についても同様である。
【0009】
本実施形態に係るハイドロゲルは、水と塩基性物質と重合体を含む。かかるハイドロゲルは塩基性物質を含み塩基性である間はハイドロゲルとして存在するが、酸を加えると溶解する等といった変化を生じる。すなわち本実施形態に係るハイドロゲルは、pH応答性を有する。また、本実施形態に係るハイドロゲルは、架橋剤なしでもハイドロゲルとして存在し得る。
【0010】
水は、水又は含水率が50質量%以上である水と親水性有機溶媒との混合溶液として加えてもよい。親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、アリルアルコール等の1価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン等のケトン、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、アセト酢酸メチル等の脂肪族有機酸アルキルエステル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコールのアルキルエーテルが挙げられる。これらの親水性有機溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0011】
塩基性物質は、水溶液中で塩基性を示す物質であれば特に限定されない。弱塩基であってもよく、強塩基であってもよい。塩基性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム等の炭酸塩、炭酸水素ナトリウム等の炭酸水素塩、又はアンモニア、トリメチルアミン、ジエタノールアミン、ジアザビシクロウンデセン等の含窒素物質が挙げられる。また、これらを溶媒に溶かしたものを使用してもよい。塩基性物質を溶解する溶媒は、水が好ましい。
【0012】
塩基性物質の種類によってハイドロゲルの固さを調整してもよい。ハイドロゲルが弱塩基性を示す塩基性物質を含むことで、柔らかいゲルとなる傾向にある。このような柔らかいゲルは、塗工性に優れる。一方、強塩基性を示す塩基性物質を含むことで、固いゲルとなる傾向にある。このような固いゲルは、ハンドリング性に優れる。ハイドロゲルの固さは、粘弾性を測定することで評価してもよく、目視によって評価してもよい。弱塩基性を示す塩基性物質とは、1mol/L水溶液のpHが7より大きく9以下となる塩基性物質を指し、例えば炭酸水素ナトリウムが挙げられる。一方、強塩基性を示す塩基性物質とは、1mol/L水溶液のpHが9より大きくなる塩基性物質を指し、例えば水酸化ナトリウムが挙げられる。
【0013】
本実施形態に係るハイドロゲルは、少なくとも一つの水酸基を有する(メタ)アクリレート(単量体A)由来の第1の構造単位を40mol%以上有する重合体を含む。
【0014】
単量体Aは、例えば下記式(1)で表される化合物である。単量体Aは、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0015】
【化1】
(式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基を示し、R
2は少なくとも一つの水酸基を有する有機基を示す。)
【0016】
式(1)において、R2は、少なくとも一つの水酸基を有する有機基であり、好ましくは少なくとも一つの水酸基を有する炭素数1~30の有機基であり、より好ましくは少なくとも一つの水酸基を有する炭素数1~20の有機基である。このような有機基としては、例えば、炭素数1~20のアルキル基、炭素数4~20のポリオキシアルキレン基、炭素数7~20のアラルキル基等が挙げられる。これらの有機基は、直鎖でも分岐を有していてもよく、環状であってもよい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。ポリオキシアルキレン基は、例えば、ポリオキシメチレン基、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基等が挙げられる。また、アラルキル基は、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。また、R2は、例えば、フッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子、又は窒素原子等の、水酸基以外の官能基が含まれる有機基であってもよい。
【0017】
単量体Aとしては、例えば、2以上の水酸基を有する多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル、1つの水酸基を有するアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル、糖類と(メタ)アクリル酸とのエステル、アミノ基を有する糖類と(メタ)アクリル酸とのエステルが挙げられる。これらのエステルは、エステル化反応のみならず、エステル交換反応や(メタ)アクリル酸グリシジルエステルの開環反応によって調製されたものであってもよい。
【0018】
2以上の水酸基を有する多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ペンタエリスリトール、1,2,6-ヘキサントリオール、2-ヒドロキシメチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオールが挙げられる。糖類としては、例えば、グルコース、マンノース、ガラクトース、グロース、フルクトース、D-リボース等の単糖類、当該単糖類から誘導されるグルコシド、ガラクトシド、フルクトシド等をはじめ、これらの二量体、三量体が挙げられる。アミノ基を有する糖類としては、例えば、D-グルコサミンが挙げられる。
【0019】
1つの水酸基を有するアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、イソペンタノール、t-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロプロパノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール等が挙げられる。
【0020】
単量体Aは、水との親和性を向上させてゲル化を促進する観点から、2つの水酸基を有する下記式(1A)で表される単量体及び/又は1つの水酸基を有する下記式(1B)で表される単量体が好ましい。
【0021】
【化2】
(式(1A)中、R
1は水素原子又はメチル基を示し、R
3は炭素数1~4のアルキレン基を示す。)
【0022】
【化3】
(式(1B)中、R
1は水素原子又はメチル基を示し、R
4は炭素数1~6のアルキレン基を示す。)
【0023】
式(1A)において、R3は直鎖でも分岐を有していてもよく、環状であってもよい。炭素数1~4のアルキレン基として、例えば、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、i-プロピレン基、n-ブチレン基、i-ブチレン基、シクロプロピレン基等が挙げられる。
【0024】
式(1A)で表される単量体としては、グリセロールモノアクリレート(R1=水素原子、R3=メチレン基)、グリセロールモノメタクリレート(R1=メチル基、R3=メチレン基)が好ましい。
【0025】
式(1B)において、R4は直鎖でも分岐を有していてもよく、環状であってもよい。炭素数1~6のアルキレン基として、例えば、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、i-プロピレン基、n-ブチレン基、i-ブチレン基、t-ブチレン基、n-ペンテン基、i-ペンテン基、n-ヘキセン基、i-ヘキセン基、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロヘキセン基等が挙げられる。
【0026】
式(1B)で表される単量体としては、2-ヒドロキシエチルアクリレート(R1=水素原子、R4=エチレン基)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(R1=メチル基、R4=エチレン基)が好ましい。
【0027】
なお、式(1A)で表される単量体由来の構造単位は、以下の式(1A’)で表される構造単位に相当し、式(1B)で表される単量体由来の構造単位は、以下の式(1B’)で表される構造単位に相当する。
【0028】
【化4】
(式(1A’)中、R
1及びR
3は式(1A)と同義である。)
【0029】
【化5】
(式(1B’)中、R
1及びR
4は式(1B)と同義である。)
【0030】
単量体Aの分子量は、500以下であると好ましい。
【0031】
単量体1Aとしては、1,3-ジオキソラン構造を有する単量体を、原料又は中間体として経由する方法で合成された単量体であってもよい。
【0032】
単量体Aに由来する第1の構造単位の含有量は、重合体における各構造単位の総モル数に対して、40mol%以上である。水との親和性を向上させてゲル化を促進する観点から、重合体における第1の構造単位の含有量は、90mol%以上であると好ましく、99.5mol%以上であるとより好ましく、100mol%のホモポリマーであると更に好ましい。
【0033】
重合体は、第1の構造単位と、単量体A以外の単量体(単量体B)由来の第2の構造単位との共重合体であってもよい。単量体Bは、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0034】
単量体Bとしては、特に限定されないが、例えば、水酸基を有しない(メタ)アクリル酸エステル、カルボキシ基含有脂肪族系単量体、ビニルエステル類、オレフィン類、N-ビニル化合物、ビニルエーテル類等が挙げられる。これらの中で、水酸基を有しない(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。
【0035】
水酸基を有しない(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸s-アミル、(メタ)アクリル酸t-アミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸β-メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸β-エチルグリシジル、(メタ)アクリル酸(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル、(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル等が挙げられる。
【0036】
カルボキシ基含有脂肪族系単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸モノブチルエステル、ビニル安息香酸等が挙げられる。
【0037】
ビニルエステル類の具体例としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。
【0038】
オレフィン類の具体例としては、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチレン、プロピレン、ブテン、イソプレン等が挙げられる。
【0039】
N-ビニル化合物の具体例としては、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン等が挙げられる。
【0040】
ビニルエーテル類の具体例としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル等が挙げられる。
【0041】
単量体Bに由来する第2の構造単位の含有量は、共重合体の総モル数に対して、60mol%以下である。共重合体における第2の構造単位の含有量は、10mol%以下であると好ましく、0.5mol%以下であるとより好ましい。
【0042】
重合体の重量平均分子量は、50000~1000000が好ましく、100000~8000000がより好ましく、150000~700000が更に好ましい。重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、例えば実施例に記載の条件で測定することができる。
【0043】
上記重合体は、上述の単量体を適宜選択して重合反応を行うことにより製造することができる。重合反応の際の単量体の好ましい使用量は、上記重合体におけるこれらの単量体由来の構造単位の好ましい含有量と同様である。
【0044】
重合反応の一例を以下に説明する。重合反応は、重合開始剤の存在下で重合反応を行うことが好ましい。重合開始剤としては、例えば、過酸化水素;過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)等のアゾ系化合物;過酸化ベンゾイル、過酢酸、ジ-t-ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物等が好適である。これらの重合開始剤は、単独で使用されてもよく、2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0045】
重合開始剤の使用量としては、重合反応に使用される単量体の全量に対して、0.01~4.0質量%であると好ましく、0.03~2.0質量%であるとより好ましい。
【0046】
上記重合反応は、溶媒を使用せずに行ってもよいが、溶媒を使用することが好ましい。溶媒としては、水、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられ、環境汚染防止の観点等から、水であると好ましい。これらの溶媒は、単独で使用されても2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。溶媒の使用量としては、重合反応に使用される単量体100質量部に対して40~250質量部が好ましい。
【0047】
上記重合反応は、通常、0℃以上で行われることが好ましく、また、150℃以下で行われることが好ましい。より好ましくは、40℃以上であり、更に好ましくは、60℃以上であり、特に好ましくは、80℃以上である。また、より好ましくは、120℃以下であり、更に好ましくは、110℃以下である。上記重合温度は、重合反応において、常にほぼ一定に保持する必要はなく、一度又は二度以上変動(加温又は冷却)してもよい。重合反応は、常圧、加圧、減圧のいずれの条件下で行ってもよい。
【0048】
上記重合反応において、単量体や重合開始剤等は、それぞれ反応器に一括して添加してもよく、逐次的又は連続的に添加してもよい。
【0049】
重合体は、上記重合反応を行う重合反応工程の他、例えば、熟成工程、中和工程、重合開始剤や連鎖移動剤の失活工程、希釈工程、乾燥工程、濃縮工程、精製工程等の他の工程を含む製造方法により製造することができる。
【0050】
ハイドロゲル中の重合体の濃度は5~70質量%が好ましく、6~50質量%がより好ましく、8~40質量%がさらに好ましい。
【0051】
本実施形態に係るハイドロゲルの製造方法は、少なくとも一つの水酸基を有する(メタ)アクリレート由来の構造単位を40mol%以上有する重合体と、塩基性物質と、水とを混合する。水、塩基性物質及び重合体は上述したものを用いることができる。
【0052】
重合体と、塩基性物質と、水とを混合する手順について特に制限はなく、任意の二成分を混合してから残りの一成分を混合してもよいし、一度に三成分を混合してもよい。製造のしやすさの観点から、重合体を水に溶解したものに対し、塩基性物質を加えることが好ましい。また、重合体、塩基性物質、及び水以外の成分を加えてもよい。
【0053】
ゲル化のしやすさの観点から、重合体を水に溶解させる際のその濃度は5~70質量%が好ましく、6~50質量%がより好ましく、8~40質量%がさらに好ましい。
【0054】
混合は、ガラス棒等を用いた手動による撹拌によって行ってもよいし、ホモジナイザー等の撹拌機を用いて行ってもよい。撹拌時間は特に限定されず、各成分が十分に混和する程度撹拌すればよい。
【0055】
混合後に、ゲル化するまでの時間は、特に限定されず、24時間後にゲル化するものであってもよく、直ちにゲル化するものであってもよい。水溶液中で弱塩基性を示す塩基性物質を加えた場合、混合後にゲル化するまでの時間は、長くなる傾向にある。ゲル化するまでの時間が長いと、塗工性に優れたゲルとなる。一方、水溶液中で強塩基性を示す塩基性物質を加えた場合、直ちにゲル化する傾向にある。直ちにゲル化したものは、固いゲルとなる傾向にある。
【0056】
上述した本実施形態に係るハイドロゲルは、酸を加えると溶解する等といった変化が生じるため、pH応答性のハイドロゲルとして機能する。また、簡便にその場でゲルを作成することができる特徴がある。このため、例えば、パップ剤、増粘剤、凝集剤、凝固剤、化粧品又は医薬品の基材、医薬品のドラッグデリバリーシステムとして用いることができる。また、ゲル化することにより一定の耐水性が得られことを利用して、ゾル状態で基材に塗布し、乾燥とともにゲル化することで一定の耐水性を有しつつ、表面に親水性を付与するコーティング剤等に利用し得る。この場合、予め表面に塩基性物質を塗布する等し、その上から重合体溶液を重ね塗りして重合体溶液と塩基性物質を接触させ、乾燥とともにゲル化を進行させる等してもよい。表面に親水性を付与するコーティング剤は、医療用具又はその部品の表面処理に好適に利用し得る。
【0057】
医療用具としては、血液フィルター、カテーテル、ステント等が挙げられ、カテーテルが好ましい。このような医療用具は、使用時に血液及び細胞等の生体組織と接触するため、コーティング剤で表面に親水性を付与することが好ましい。医療用具の表面をコーティングする際、表面の全体をコーティングしてもよいし、表面の一部のみをコーティングしてもよい。
【0058】
医療用具の材質は特に制限されず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ハロゲン化ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド、アクリル樹脂、スチロール樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、セルロース、セルロースアセテート等のいずれの材質のものであってもよい。また、金属、セラミックス及びこれらの複合材料等も例示でき、複数の基体より基材が構成されていてもよい。金属としては、金、銀等の貴金属、銅、アルミニウム、タングステン、ニッケル、クロム、チタン等の卑金属、及びこれらの金属の合金並びにこれらの表面が金めっきされたものが例示できるがこれらに限定されるものではない。金属は単体で用いてもよく、機能性を付与するために他の金属との合金又は金属の酸化物として用いてもよい。
【0059】
医療用具の表面へのコーティング方法については特に制限はなく、医療用具又はその部品の表面にコーティング剤をコーティングする方法、放射線、電子線、紫外線等の活性エネルギー線によるグラフト重合を利用して医療用具の表面とコーティング剤とを結合させる方法、医療用具の表面の官能基とコーティング剤とを反応させて結合させる方法等、種々の方法を用いることができる。コーティング法を用いる場合、医療用具又はその部品の表面をコーティングする方法として、塗布法、スプレー法、ディップ法等のいずれの方法を用いてもよい。
【0060】
以上、本開示の実施形態に係る水性溶液について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、ハイドロゲルの性質を損なわない範囲で、ハイドロゲル中に乳化剤、分散剤、安定剤、溶解補助剤等の添加物が含まれていてもよい。
【実施例0061】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
(合成例)
[グリセロールモノアクリレート(GLMA)の合成]
撹拌子を入れた反応容器にガス導入管、温度計、冷却管、及び、留出液受器に繋げたトの字管を付し、アクリル酸メチル230g、2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-メタノール(DOM)70gを仕込み、ガス導入管を通して酸素/窒素混合ガス(酸素濃度7vol%)を吹き込みながら反応溶液を攪拌し、オイルバス(バス温110℃)で加熱を開始した。留出液に水が出てこなくなってから、チタンテトライソプロポキシド4.5gを反応容器に添加し、エステル交換反応を開始させた。生成してくるメタノールをアクリル酸メチルで共沸留去しながら、ガスクロマトグラフィ(GC)分析によりイソプロピリデングリセリルアクリレート(iPGLMA)/DOMの面積比を追跡した。反応開始から7時間後のGC分析で、iPGLMA/DOMの面積比が9/1を超えたのを確認し、反応を終了し、室温まで冷却した。反応液に精製水150gと抽出溶媒として酢酸エチル300gを加え10分撹拌した。触媒の加水分解により生じた酸化チタンの沈殿を、吸引濾過で除いた濾液を分液漏斗に移し、有機層と水層を分離した。有機層を精製水で2回洗浄したのち、ロータリーエバポレーターに移し、残存アクリル酸メチル及び軽沸成分を留去し、iPGLMA96gを得た。
【0063】
撹拌子を入れたナスフラスコにガス導入管を設け、精製水160mlとiPGLMA80gを加えて溶解させた後に、予め水に浸漬後に風乾した固体酸触媒アンバーリスト15Jwet(オルガノ社製)を8g加え、ガス導入管を通して酸素/窒素混合ガス(酸素濃度7vol%)を吹き込みながら反応溶液を攪拌し、室温下で脱保護反応を開始させた。GC分析によりGLMA/iPGLMAの面積比を追跡し、面積比が99/1を超えたのを確認し、24時間で反応を終了した。固体酸触媒を濾別して得られた濾液をn-ヘキサンで洗浄し、未反応iPGLMAを除いた。水層を減圧濃縮し、目的とするGLMA53gを得た。
【0064】
[グリセロールモノメタクリレート(GLMM)の合成]
上記GLMAの合成におけるアクリル酸メチルをメタクリル酸メチルとしたこと以外は同一の合成手順で反応を行い、GLMMを得た。
【0065】
[GLMAホモポリマー(PGLMA)の合成]
攪拌子を入れた反応容器にガス導入管、温度計、冷却管を付し、単量体としてGLMA21.0g、溶媒としてイオン交換水123.0gを仕込み、窒素ガスを流しながら98℃まで昇温した。アゾ系ラジカル重合開始剤(富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:VA086)0.021gをイオン交換水1.0gに溶解した溶液を投入し、重合反応を開始した。温度を100℃以上に保ちながら、反応を8時間継続し、その間、反応開始から4時間後、6時間後にそれぞれ、0.021gのVA086をイオン交換水1.0gに溶解した溶液を投入した。得られた重合体は、GPCにより測定した重量平均分子量(標準ポリスチレン換算)が、577000であった。得られた重合液を、エバポレーターを用いて濃縮し、PGLMAを得た。
【0066】
[GLMA/ブチルアクリレート(BA)共重合体の合成]
攪拌子を入れた反応容器にガス導入管、温度計、冷却管を付し、単量体としてGLMA37.5g、BA37.5g、溶媒としてエタノール48.75g、イオン交換水16.25gを仕込み、窒素ガスを流しながら84℃まで昇温した。アゾ系ラジカル重合開始剤(富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:VA―601)0.0075gをエタノール0.5gに溶解した溶液を投入し、重合反応を開始した。温度を84℃以上に保ちながら、反応を8時間継続し、その間、反応開始から1時間後、2時間後、4時間後、6時間後にそれぞれ、0.0075gのV―601をエタノール0.5gに溶解した溶液を投入し、GLMA/BA共重合体(モル比=47:53)の重合液を得た。得られた共重合体は、GPCにより測定した重量平均分子量(標準ポリスチレン換算)が、136000であった。
【0067】
[GLMMホモポリマー(PGLMM)の合成]
攪拌子を入れた反応容器にガス導入管、温度計、冷却管を付し、単量体としてGLMM21.0g、溶媒としてイオン交換水123.0gを仕込み、窒素ガスを流しながら98℃まで昇温した。アゾ系ラジカル重合開始剤(富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:VA086)0.021gをイオン交換水1.0gに溶解した溶液を投入し、重合反応を開始した。温度を100℃以上に保ちながら、反応を8時間継続し、その間、反応開始から4時間後、6時間後にそれぞれ、0.021gのVA086をイオン交換水1.0gに溶解した溶液を投入した。得られた重合体は、GPCにより測定した重量平均分子量(標準ポリスチレン換算)が、456000であった。得られた重合液をエバポレーターを用いて濃縮し、PGLMMを得た。
【0068】
[2-ヒドロキシエチルアクリレートホモポリマー(PHEA)の合成]
攪拌子を入れた反応容器にガス導入管、温度計、冷却管を付し、単量体として2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA、富士フイルム和光純薬社製)21.0g、溶媒としてイオン交換水123.0gを仕込み、窒素ガスを流しながら98℃まで昇温した。アゾ系ラジカル重合開始剤(富士フイルム和光純薬社製、商品名:VA086)0.021gをイオン交換水1.0gに溶解した溶液を投入し、重合反応を開始した。温度を100℃以上に保ちながら、反応を8時間継続し、その間、反応開始から4時間後、6時間後にそれぞれ、0.021gのVA086をイオン交換水1.0gに溶解した溶液を投入した。得られた重合体は、GPCにより測定した重量平均分子量(標準ポリスチレン換算)が、613000であった。得られた重合液を、エバポレーターを用いて濃縮し、PHEAを得た。
【0069】
[重量平均分子量(Mw)の測定]
重合体の重量平均分子量は、得られた重合体をN,N-ジメチルホルムアミド(臭化リチウム10mM含有)で溶解及び希釈し、孔径0.45μmのフィルター(クラボウ社製クロマトディスク非水系タイプ)で濾過したものをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定して求めた。GPCの条件は以下に示した。
装置:HLC-8320GPC(東ソー(株)製)
溶出溶媒:N,N-ジメチルホルムアミド(臭化リチウム10mM含有)
溶出溶媒の流量:0.6mL/分
標準物質:標準ポリスチレン(東ソー(株)製)
分離カラム:TSKgel AWM-H(東ソー(株)製)2本直列
【0070】
[ハイドロゲルの調製]
(実施例1)
合成したPGLMAにイオン交換水を加えて、重合体の濃度が30質量%の水溶液を得た。得られた水溶液2gを、10mLサンプル管に入れ、塩基性物質として1Nの水酸化ナトリウム水溶液を数滴(0.05~0.1mL)添加した。添加後、ガラス棒で手撹拌してハイドロゲルを調製した。
【0071】
(実施例2)
合成したPGLMAにイオン交換水を加えて、重合体の濃度が30質量%の水溶液を得た。得られた水溶液2gを、10mLサンプル管に入れ、塩基性物質として炭酸水素ナトリウム粉末を約0.01g添加した。添加後、ガラス棒で手撹拌してハイドロゲルを調製した。
【0072】
(実施例3)
塩基性物質として、28体積%アンモニア水を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順でハイドロゲルを調製した。
【0073】
(実施例4)
塩基性物質として、ジアザビシクロウンデセン(DBU)を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順でハイドロゲルを調製した。
【0074】
(実施例5)
合成したPGLMAにイオン交換水を加えて、重合体の濃度が10質量%の水溶液を得た。得られた水溶液2gを、10mLサンプル管に入れ、塩基性物質として1Nの水酸化ナトリウム水溶液を数滴(0.05~0.1mL)添加した。添加後、ガラス棒で手撹拌してハイドロゲルを調製した。
【0075】
(実施例6)
得られたGLMA/BA共重合体の重合液にイオン交換水を加えてGLMA/BA共重合体濃度30質量%溶液を調製した。得られた溶液2gを、10mLサンプル管に入れ、塩基性物質としてDBUを数滴(0.05~0.1mL)添加した。添加後、ガラス棒で手撹拌してハイドロゲルを調製した。
【0076】
(実施例7)
重合体をPGLMM、及び塩基性物質を28体積%アンモニア水としたこと以外は、実施例1と同様の手順でハイドロゲルを調製した。
【0077】
(実施例8)
重合体をPHEAとしたこと以外は、実施例1と同様の手順でハイドロゲルを調製した。
【0078】
[ハイドロゲル形成の判定]
各実施例において、ハイドロゲル調製後のサンプル管を90度傾け、10秒間流動しなかったものはハイドロゲルが形成されているものと判定した。また、各実施例において、ゲル化までの時間を測定した。結果を表1及び表2に示す。
【0079】
(比較例1)
重合体をポリビニルアルコール(PVA、クラレ株式会社製、商品名:PVA-217)としたこと以外は、実施例1と同様の手順で混合溶液を調製した。サンプル管を90度傾けたところ、混合溶液が流動したため、ハイドロゲルが形成されていないものと判定した。結果を表2に示す。
【0080】
[ハイドロゲルの再溶解]
実施例3、実施例7、及び実施例8で得られたハイドロゲルに対して、1N塩酸を0.05~0.1mL加えたところ、ハイドロゲルが再溶解した。
【0081】
【0082】