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特開2024-104923高耐電圧の絶縁性樹脂材料、高耐電圧の絶縁性成形品、および、耐トラッキング性向上剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104923
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】高耐電圧の絶縁性樹脂材料、高耐電圧の絶縁性成形品、および、耐トラッキング性向上剤
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20240730BHJP
   C08L 77/06 20060101ALI20240730BHJP
   H01B 3/30 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L77/06
H01B3/30 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009367
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】大塚 浩介
【テーマコード(参考)】
4J002
5G305
【Fターム(参考)】
4J002CF071
4J002CL032
4J002GQ01
5G305AA07
5G305AA13
5G305AA14
5G305AB04
5G305CA20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高耐電圧の絶縁性樹脂材料、高耐電圧の絶縁性成形品、および、耐トラッキング性向上剤の提供。
【解決手段】下式で表される構成単位を含むポリアミド樹脂(A)5~30質量%と、ポリブチレンテレフタレート樹脂(B)95~70質量%とを含む、絶縁性樹脂材料。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(X)で表される構成単位を含むポリアミド樹脂(A)5~30質量%と、ポリブチレンテレフタレート樹脂(B)95~70質量%とを含む(ただし、(A)成分と(B)成分の合計が100質量%を超えることは無い)、高耐電圧の絶縁性樹脂材料。
式(X)
【化1】
(式(X)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~5の脂肪族基を表す。Cyは、ベンゼン環、ナフタレン環またはシクロヘキサン環を表す。n1は、それぞれ独立に、0~2の整数であり、n2は、それぞれ独立に、0または1である。adはアミド結合を示す。)
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂(A)が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、
前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上が、式(X)で表される構成単位である、請求項1に記載の高耐電圧の絶縁性樹脂材料。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂(A)が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、
前記ジアミン由来の構成単位が、式(Y)で表されるジアミン由来の構成単位を含む、請求項1または2に記載の高耐電圧の絶縁性樹脂材料。
式(Y)
【化2】
(式(Y)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~5の脂肪族基を表す。nは、それぞれ独立に、0~2の整数である。)
【請求項4】
前記ポリアミド樹脂(A)が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、
前記ジアミン由来の構成単位が、キシリレンジアミン由来の構成単位を含む、請求項1または2に記載の高耐電圧の絶縁性樹脂材料。
【請求項5】
前記ポリアミド樹脂(A)が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、
前記ジカルボン酸由来の構成単位の30モル%以上が、炭素数4~20の脂肪族ジカルボン酸由来の構成単位である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の高耐電圧の絶縁性樹脂材料。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂(A)が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、
前記ジカルボン酸由来の構成単位が、アジピン酸、セバシン酸、および、ドデカン二酸の少なくとも1種を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の高耐電圧の絶縁性樹脂材料。
【請求項7】
前記ポリアミド樹脂(A)が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、
前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上が、キシリレンジアミン由来の構成単位であり、
前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が、アジピン酸、セバシン酸、および、ドデカン二酸の少なくとも1種である、請求項1に記載の高耐電圧の絶縁性樹脂材料。
【請求項8】
前記絶縁性樹脂材料のJIS-C2136 一定電圧トラッキング法に従った、2000Vの電圧で破壊するまでの時間が75分以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の高耐電圧の絶縁性樹脂材料。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の高耐電圧の絶縁性樹脂材料から形成された、高耐電圧の絶縁性成形品。
【請求項10】
式(X)で表される構成単位を含むポリアミド樹脂(A)を含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂の高圧下での耐トラッキング性向上剤。
式(X)
【化3】
(式(X)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~5の脂肪族基を表す。Cyは、ベンゼン環、ナフタレン環またはシクロヘキサン環を表す。n1は、それぞれ独立に、0~2の整数であり、n2は、それぞれ独立に、0または1である。adはアミド結合を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐電圧の絶縁性樹脂材料、高耐電圧の絶縁性成形品、および、耐トラッキング性向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、PBTと略記することがある。)は、電気特性、耐薬品性、耐熱性、寸法安定性などに優れているため、各種の電気・電子機器部品、自動車、列車、電車などの車両用内外装部材、その他の一般工業製品製造用材料として広く使用されている。
【0003】
電気自動車には、使用時に高電圧が印加される部品(高電圧部品)が使用されており、 の場合、トラッキング現象を抑制するため、その高電圧部品の材料として使用される樹 組成物には高い耐トラッキング性が要求される。
例えば、特許文献1には、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(B)ポリアミド樹脂9~24重量部、(C)変性エラストマー6~44重量部、(D)ガラス繊維25~89重量部、および(E)カーボンブラック0.05~1.7重量部を配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-076023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポリブチレンテレフタレート樹脂にポリアミド樹脂を配合しても、高い電圧での耐トラッキング性が十分ではない場合があることが分かった。
本発明は上記課題を解決することを目的とするものであって、高耐電圧の絶縁性樹脂材料、高耐電圧の絶縁性成形品、および、耐トラッキング性向上剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、ポリブチレンテレフタレート樹脂に所定のポリアミド樹脂を配合することにより上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>式(X)で表される構成単位を含むポリアミド樹脂(A)5~30質量%と、ポリブチレンテレフタレート樹脂(B)95~70質量%とを含む(ただし、(A)成分と(B)成分の合計が100質量%を超えることは無い)、高耐電圧の絶縁性樹脂材料。
式(X)
【化1】
(式(X)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~5の脂肪族基を表す。Cyは、ベンゼン環、ナフタレン環またはシクロヘキサン環を表す。n1は、それぞれ独立に、0~2の整数であり、n2は、それぞれ独立に、0または1である。adはアミド結合を示す。)
<2>前記ポリアミド樹脂(A)が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、
前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上が、式(X)で表される構成単位である、<1>に記載の高耐電圧の絶縁性樹脂材料。
<3>前記ポリアミド樹脂(A)が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、
前記ジアミン由来の構成単位が、式(Y)で表されるジアミン由来の構成単位を含む、<1>または<2>に記載の高耐電圧の絶縁性樹脂材料。
式(Y)
【化2】
(式(Y)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~5の脂肪族基を表す。nは、それぞれ独立に、0~2の整数である。)
<4>前記ポリアミド樹脂(A)が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、
前記ジアミン由来の構成単位が、キシリレンジアミン由来の構成単位を含む、<1>または<2>に記載の高耐電圧の絶縁性樹脂材料。
<5>前記ポリアミド樹脂(A)が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、
前記ジカルボン酸由来の構成単位の30モル%以上が、炭素数4~20の脂肪族ジカルボン酸由来の構成単位である、
<1>~<4>のいずれか1つに記載の高耐電圧の絶縁性樹脂材料。
<6>前記ポリアミド樹脂(A)が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、
前記ジカルボン酸由来の構成単位が、アジピン酸、セバシン酸、および、ドデカン二酸の少なくとも1種を含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の高耐電圧の絶縁性樹脂材料。
<7>前記ポリアミド樹脂(A)が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、
前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上が、キシリレンジアミン由来の構成単位であり、
前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が、アジピン酸、セバシン酸、および、ドデカン二酸の少なくとも1種である、<1>に記載の高耐電圧の絶縁性樹脂材料。
<8>前記絶縁性樹脂材料のJIS-C2136 一定電圧トラッキング法に従った、2000Vの電圧で破壊するまでの時間が75分以上である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の高耐電圧の絶縁性樹脂材料。
<9><1>~<8>のいずれか1つに記載の高耐電圧の絶縁性樹脂材料から形成された、高耐電圧の絶縁性成形品。
<10>式(X)で表される構成単位を含むポリアミド樹脂(A)を含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂の高圧下での耐トラッキング性向上剤。
式(X)
【化3】
(式(X)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~5の脂肪族基を表す。Cyは、ベンゼン環、ナフタレン環またはシクロヘキサン環を表す。n1は、それぞれ独立に、0~2の整数であり、n2は、それぞれ独立に、0または1である。adはアミド結合を示す。)
【発明の効果】
【0007】
本発明により、高耐電圧の絶縁性樹脂材料、高耐電圧の絶縁性成形品、および、耐トラッキング性向上剤を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換および無置換を記していない表記は、置換基を有さない基(原子団)と共に置換基を有する基(原子団)をも包含する。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含する。本明細書では、置換および無置換を記していない表記は、無置換の方が好ましい。
本明細書で示す規格で説明される測定方法等が年度によって異なる場合、特に述べない限り、2022年1月1日時点における規格に基づくものとする。
【0009】
本実施形態の高耐電圧の絶縁性樹脂材料(以下、単に、「本実施形態の絶縁性樹脂材料」ということがある)は、式(X)で表される構成単位を含むポリアミド樹脂(A)5~30質量%と、ポリブチレンテレフタレート樹脂(B)95~70質量%とを含む(ただし、(A)成分と(B)成分の合計が100質量%を超えることは無い)ことを特徴とする。
式(X)
【化4】
(式(X)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~5の脂肪族基を表す。Cyは、ベンゼン環、ナフタレン環またはシクロヘキサン環を表す。n1は、それぞれ独立に、0~2の整数であり、n2は、それぞれ独立に、0または1である。adはアミド結合を示す。)
このような構成とすることにより、高耐電圧での絶縁性に優れた樹脂材料が得られる。さらに、機械的強度に優れた樹脂材料が得られる。また、耐薬品性に優れた樹脂材料が得られる。
トラッキング破壊は、電極の間に電圧を印加する際に炭化領域が形成されてしまい、かかる炭化領域がつながることによって起こる。本実施形態では、ポリブチレンテレフタレート樹脂の間に、所定のポリアミド樹脂が存在することにより、炭化領域の成長を抑え、耐トラッキング性を高めることに成功した。特に、高い電圧がかかる場合における耐トラッキング性を高めることに成功した。
一般的には、芳香環が多いほど炭化導電路が形成されやすくなるため、耐トラッキング性が低下する。しかしながら、本実施形態においては、驚くべきことに芳香環が多い樹脂を配合することにより、高耐電圧での絶縁性に優れた樹脂材料が得られたものである。この理由として、高電圧が印加されることで、汚損液の電気分解が多少は進行することが予想され、単純な電圧への耐性だけでなく、汚損液や電気分解物への耐性も要求されるようになり、一定の芳香環を有する樹脂を用いることにより、高耐電圧下での絶縁性が向上したと推測される。
【0010】
<式(X)で表される構成単位を含むポリアミド樹脂(A)>
本実施形態の絶縁性樹脂材料は、式(X)で表される構成単位を含むポリアミド樹脂(A)を絶縁性樹脂材料100質量%に対し、5~30質量%の割合で含む。
式(X)
【化5】
(式(X)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~5の脂肪族基を表す。Cyは、ベンゼン環、ナフタレン環またはシクロヘキサン環を表す。n1は、それぞれ独立に、0~2の整数であり、n2は、それぞれ独立に、0または1である。adはアミド結合を示す。)
【0011】
式(X)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~5の脂肪族基を表し、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基が好ましい。
式(X)中、Cyは、ベンゼン環、ナフタレン環またはシクロヘキサン環を表し、ベンゼン環またはナフタレン環が好ましく、ベンゼン環がより好ましい。ベンゼン環、ナフタレン環またはシクロヘキサン環は、置換基を有していてもよいが、置換基を有していないことが好ましい。置換基を有する場合、炭素数1~5の脂肪族基が好ましく、メチル基がより好ましい。また、置換基として、フェノール性水酸基を有さない形態が例示される。
【0012】
式(X)中、n1は、それぞれ独立に、0~2の整数であり、0または1が好ましく、0がより好ましい。
式(X)中、n2は、0または1であり、1が好ましい。
式(X)において、Cyは、パラ位置またはメタ位置となるように、連結されていることが好ましい。
本実施形態で用いるポリアミド樹脂(A)は、式(X)で表される構成単位を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
【0013】
本実施形態において、ポリアミド樹脂(A)は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、ジアミン由来の構成単位の30モル%以上が、式(X)で表される構成単位(好ましくは、後述する式(Y)で表されるジアミン由来の構成単位、さらにはキシリレンジアミン由来の構成単位)であることが好ましく、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上が、前記式(X)で表される構成単位であることがより好ましく、ジアミン由来の構成単位の80モル%以上が、式(X)で表される構成単位であることがさらに好ましく、ジアミン由来の構成単位の90モル%以上が、前記式(X)で表される構成単位であることが一層好ましく、ジアミン由来の構成単位の95モル%以上が、式(X)で表される構成単位であることがより一層好ましい。式(X)で表される構成単位は1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0014】
また、本実施形態において、ポリアミド樹脂(A)は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位が、式(Y)で表されるジアミン由来の構成単位を含むことが好ましい。
式(Y)
【化6】
(式(Y)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~5の脂肪族基を表す。nは、それぞれ独立に、0~2の整数である。)
【0015】
式(Y)中、R~Rは、式(X)におけるR~Rと同義であり、好ましい範囲も同様である。
nは、それぞれ独立に、0または1が好ましく、0がより好ましい。
式(y)において、ベンゼン環は、パラ位置またはメタ位置に上記置換基(アミノアルキル基)を有する環であることが好ましい。
【0016】
前記式(X)を含む構成単位が、ジアミン由来の構成単位である場合、該ジアミン由来の構成単位を構成するジアミンは、キシリレンジアミン、ベンゼンジエタンアミン、ベンゼンジプロパンアミン、ビスアミノメチルシクロヘキサンが例示され、キシリレンジアミンおよび/またはベンゼンジエタンアミンが好ましく、キシリレンジアミンがより好ましい。ジアミン由来の構成単位中のこれらのジアミンの好ましい比率は上述の通りである。
キシリレンジアミンとしては、メタキシリレンジアミンおよび/またはパラキシリレンジアミンがより好ましい。キシリレンジアミンにおけるメタキシリレンジアミンとパラキシリレンのモル比率(m/p)は、好ましくは100~10/0~90であり、より好ましくは100~30/0~70であり、さらに好ましくは、100~60/0~40であり、一層好ましくは100~90/0~10である。このような構成とすることにより、高耐電圧の絶縁性がより向上する傾向にある。
ベンゼンジエタンアミンは、m-ベンゼンジエタンアミンおよび/またはp-ベンゼンジエタンアミンが好ましく、p-ベンゼンジエタンアミンがより好ましい。このような構成とすることにより、高耐電圧の絶縁性がより向上する傾向にある。
ベンゼンジプロパンアミンは、m-ベンゼンジプロパンアミンおよび/またはp-ベンゼンジプロパンアミンが好ましく、p-ベンゼンジプロパンアミンがより好ましい。このような構成とすることにより、高耐電圧の絶縁性がより向上する傾向にある。
ビスアミノメチルシクロヘキサンは、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンおよび/または1,4-ビスアミノメチルシクロヘキサンが好ましく、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンがより好ましい。
【0017】
本実施形態で用いるポリアミド樹脂(A)において、ジアミン由来の構成単位が、式(X)で表される構成単位を含む場合において、式(X)で表される構成単位以外のジアミン由来の構成単位を構成するジアミンとしては、公知の鎖状脂肪族ジアミンを広く採用でき、炭素数が6~12の脂肪族ジアミンが好ましく、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミンの直鎖状脂肪族ジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、4-メチル-1,8-オクタンジアミン、5-メチル-1,9-ノナンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2-メチル-1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,7-ヘプタンジアミンなどの分岐鎖状脂肪族ジアミンが例示される。
【0018】
本実施形態においては、ポリアミド樹脂(A)が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、ジアミン由来の構成単位が、式(X)で表される構成単位を含む場合、ジカルボン酸由来の構成単位は、式(X)で表される構成単位を含んでいても、含んでいなくてもよい。
【0019】
本実施形態においては、ポリアミド樹脂(A)は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、ジカルボン酸由来の構成単位の30モル%以上が、炭素数4~20の脂肪族ジカルボン酸由来の構成単位を含むことが好ましく、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が、炭素数4~20の脂肪族ジカルボン酸由来の構成単位を含むことがより好ましく、ジカルボン酸由来の構成単位の80モル%以上が、炭素数4~20の脂肪族ジカルボン酸由来の構成単位を含むことがさらに好ましく、ジカルボン酸由来の構成単位の90モル%以上が、炭素数4~20の脂肪族ジカルボン酸由来の構成単位を含むことが一層好ましく、ジカルボン酸由来の構成単位の95モル%以上が、炭素数4~20の脂肪族ジカルボン酸由来の構成単位を含むことがより一層好ましい。
【0020】
炭素数4~20の脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、およびドデカン二酸が例示され、アジピン酸、セバシン酸、および、ドデカン二酸の少なくとも1種を含むことがより好ましく、アジピン酸および/またはセバシン酸を含むことがさらに好ましく、アジピン酸を含むことが一層好ましい。
【0021】
本実施形態においては、また、ポリアミド樹脂(A)が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、ジカルボン酸由来の構成単位の30モル%以上が、式(X)で表される構成単位であることも好ましい。かかる実施形態においては、ポリアミド樹脂(A)が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が、式(X)で表される構成単位であることがより好ましく、ジカルボン酸由来の構成単位の80モル%以上が、式(X)で表される構成単位であることがさらに好ましく、ジカルボン酸由来の構成単位の90モル%以上が、式(X)で表される構成単位であることが一層好ましく、ジカルボン酸由来の構成単位の95モル%以上が、式(X)で表される構成単位であることがより一層好ましい。
ジカルボン酸由来の構成単位としての式(X)で表される構成単位を構成するジカルボン酸としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸、フェニレン二酢酸(o-フェニレン二酢酸、p-フェニレン二酢酸、m-フェニレン二酢酸)、ナフタレンジカルボン酸(1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸および2,7-ナフタレンジカルボン酸)が例示される。
この中でも、イソフタル酸、テレフタル酸、および、フェニレン二酢酸(好ましくはp-フェニレン二酢酸)から選択されることが好ましく、テレフタル酸がさらに好ましい。
【0022】
ポリアミド樹脂(A)が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、ジカルボン酸由来の構成単位の30モル%以上が、式(X)で表される構成単位である場合、ジアミン由来の構成単位は、式(X)で表される構成単位を含んでもいし、含まなくてもよい。
【0023】
なお、本実施形態で用いるポリアミド樹脂(A)においては、ジカルボン酸由来の構成単位とジアミン由来の構成単位を含むことが好ましいが、ジカルボン酸由来の構成単位およびジアミン由来の構成単位以外の構成単位や、末端基等の他の部位を含みうる。他の構成単位としては、ε-カプロラクタム、バレロラクタム、ラウロラクタム、ウンデカラクタム等のラクタム、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸等由来の構成単位が例示できるが、これらに限定されるものではない。さらに、本実施形態で用いるポリアミド樹脂(A)には、合成に用いた添加剤等の微量成分が含まれる場合もあろう。
本実施形態で用いるポリアミド樹脂(A)は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上が、さらに好ましくは90質量%以上が、一層好ましくは95質量%以上が、より一層好ましくは98質量%以上がジカルボン酸由来の構成単位およびジアミン由来の構成単位からなる。
本実施形態で用いるポリアミド樹脂(A)は、末端基がアミノ基(-NH)またはカルボン酸基(-COOH)であることが好ましい。また、ポリアミド樹脂(A)は末端封止剤によって封止されていてもよいが、末端封止剤は、炭素数が8以下であることが好ましい。
【0024】
本実施形態で用いるポリアミド樹脂(A)の第一の実施形態は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上が、式(Y)で表されるジアミン由来の構成単位を含み、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が、アジピン酸、セバシン酸、および、ドデカン二酸の少なくとも1種を含むものである。
本実施形態で用いるポリアミド樹脂(A)の第二の実施形態は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上が、式(Y)で表されるジアミン由来の構成単位を含み、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上がアジピン酸および/またはセバシン酸(好ましくはアジピン酸)を含むものである。
式(Y)で表されるジアミンは、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、パラベンゼンジエタンアミン、または、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンが好ましく、メタキシリレンジアミン、および/または、パラキシリレンジアミンがより好ましい。
【0025】
本実施形態で用いるポリアミド樹脂(A)はイミド基を有さないことが好ましい。すなわち、ポリアミドイミドではないことが好ましい。
【0026】
本実施形態の高耐電圧の絶縁性材料におけるポリアミド樹脂(A)は、ポリアミド樹脂(A)を85℃/85%RHの環境で300時間保管した後、JIS K 7251の水分気化法に従って測定したときの水分率(以下、「調湿水分率」とする)が、1質量%以上であることが好ましい。前記下限値以上とすることにより、ガソリンなど親油性が高い溶剤への耐性が向上する傾向にある。本実施形態の高耐電圧の絶縁性材料におけるポリアミド樹脂(A)の吸水率は、また、8質量%以下であることが好ましい。前記上限値以下とすることにより、酸やアルカリへの耐性が向上する傾向にある。
【0027】
本実施形態で用いるポリアミド樹脂(A)の構成単位の式量(平均値)は、200以上であることが好ましく、220以上であることがより好ましい。そうすることで、成形加工時の溶融粘度の安定性が向上する傾向にある。また、500以下であることが好ましく、350以下であることがより好ましく、280以下であることがさらに好ましい。そうすることで、機械強度が向上する傾向にある。また、式量が前記範囲内である構成単位が全構成単位の95質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましい。
【0028】
本実施形態で用いるポリアミド樹脂の数平均分子量(Mn)は、8000以上であることが好ましく、また、50000以下であることが好ましく、30000以下であることがさらに好ましい。
ポリアミド樹脂の数平均分子量(Mn)の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリメチルメタクリレート(PMMA)換算値より求めることができる。カラムとしては、充填剤として、スチレン系ポリマーを充填したものを2本用い、溶媒にはトリフルオロ酢酸ナトリウム濃度2mmol/Lのヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を用い、樹脂濃度0.02質量%、カラム温度は40℃、流速0.3mL/分、屈折率検出器(RI)にて測定する。また、検量線は6水準のPMMAをHFIPに溶解させて測定する。
【0029】
本実施形態で用いるポリアミド樹脂(A)のガラス転移温度は、30℃以上であることが好ましく、また、100℃以下であることが好ましい。
本実施形態も用いるポリアミド樹脂(A)は、結晶性樹脂であっても、非晶性樹脂であってもよいが、結晶性樹脂であることが好ましい。
本実施形態で用いるポリアミド樹脂(A)の融点は、180℃以上であることが好ましく、また、350℃以下であることが好ましい。
【0030】
本明細書において、融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)は、特に述べない限り、示差走査熱量測定(DSC)に従い、JIS K7121およびK7122に準じて行った値とする。
具体的には、示差走査熱量計を用い、合成されたポリアミド樹脂を砕いて示差走査熱量計の測定パンに仕込み、窒素雰囲気下にて昇温速度10℃/分で表1に示す融点+20℃まで昇温し、昇温が完了した直後に、測定パンを取り出してドライアイスに押し当てて急冷し、その後に測定を行う。測定条件は、昇温速度10℃/分で、融点+20℃まで昇温して5分保持した後、降温速度-5℃/分で100℃まで測定を行い、融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)を求める。
示差走査熱量計としては、島津製作所社製「DSC-60」を用いることができる。
【0031】
本実施形態の高耐電圧の絶縁性樹脂材料が2種以上のポリアミド樹脂(A)を含む場合、上記各物性値にポリアミド樹脂(A)の質量分率をかけた値の和とする。
【0032】
本実施形態の高耐電圧の絶縁性樹脂材料におけるポリアミド樹脂(A)の含有量は、絶縁性樹脂材料100質量%に対し、5質量%以上であり、6質量%以上であることが好ましく、7質量%以上であることがより好ましく、8質量%以上であることがさらに好ましく、9質量%以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、耐トラッキング時間が長くなる傾向にある。また、前記ポリアミド樹脂(A)の含有量の上限値は、絶縁性樹脂材料100質量%に対し、30質量%以下であり、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、18質量%以下であることがさらに好ましく、15質量%以下であることが一層好ましく、12質量%以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、耐衝撃性に優れる傾向にある。
本実施形態の絶縁性樹脂材料は、ポリアミド樹脂(A)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0033】
<ポリブチレンテレフタレート樹脂(B)>
本実施形態の絶縁性樹脂材料は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(B)を、絶縁性樹脂材料100質量%に対し、95~70質量%の割合で含む。
ポリブチレンテレフタレート樹脂(B)は、酸成分の主成分としてテレフタル酸を、ジオール成分の主成分として1,4-ブタンジオールを重縮合させて得られる樹脂である。酸成分の主成分がテレフタル酸であるとは、酸成分の50質量%以上がテレフタル酸であることをいい、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上であってもよい。ジオール成分の主成分であるが1,4-ブタンジオールとは、ジオール成分の50質量%以上が1,4-ブタンジオールであることをいい、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上であってもよい。
ポリブチレンテレフタレート樹脂(B)が、他の酸成分を含む場合、イソフタル酸、ダイマー酸が例示される。また、ポリブチレンテレフタレート樹脂(B)が他のジオール成分を含む場合、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)等のポリアルキレングリコール等が例示される。
【0034】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(B)として、ポリテトラメチレングリコールを共重合したものを用いる場合は、共重合体中のテトラメチレングリコール成分の割合は3~40質量%であることが好ましく、5~30質量%がより好ましく、10~25質量%がさらに好ましい。このような共重合割合とすることにより、レーザー溶着性と耐熱性とのバランスにより優れる傾向となり好ましい。
【0035】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(B)として、ダイマー酸共重合ポリブチレンテレフタレートを用いる場合は、全カルボン酸成分に占めるダイマー酸成分の割合は、カルボン酸基として0.5~30モル%であることが好ましく、1~20モル%がより好ましく、3~15モル%がさらに好ましい。このような共重合割合とすることにより、レーザー溶着性、長期耐熱性および靭性のバランスに優れる傾向となり好ましい。
【0036】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(B)として、イソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレートを用いる場合は、全カルボン酸成分に占めるイソフタル酸成分の割合は、カルボン酸基として1~30モル%であることが好ましく、1~20モル%がより好ましく、3~15モル%がさらに好ましい。このような共重合割合とすることにより、レーザー溶着性、耐熱性、射出成形性および靭性のバランスに優れる傾向となり好ましい。
【0037】
本実施形態で用いるポリブチレンテレフタレート樹脂(B)は、酸成分の90質量%以上がテレフタル酸であり、ジオール成分の90質量%以上が1,4-ブタンジオールである樹脂(ポリブチレンテレフタレートホモポリマー)、または、ポリテトラメチレングリコールを共重合した共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂、イソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂が好ましい。
【0038】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(B)の固有粘度は、0.5dL/g以上であることが好ましく、0.6dL/g以上の固有粘度を有することがより好ましく、また、2.0dL/g以下であることが好ましく、1.5dL/g以下であることがより好ましく、1.1dL/g以下であることがさらに好ましい。固有粘度が0.5dL/g以上のものを用いることにより、得られる成形体の機械的強度がより向上する傾向にある。また、固有粘度が2dL/g以下のものを用いることにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂(B)の流動性が向上し、成形性が向上する傾向にある。
なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂(B)の固有粘度は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定される値である。
ポリブチレンテレフタレート樹脂(B)を2種以上含む場合、固有粘度は混合物の固有粘度とする。
【0039】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(B)の末端カルボキシ基量は、適宜選択して決定すればよいが、通常、60eq/ton以下であり、50eq/ton以下であることが好ましく、30eq/ton以下であることがさらに好ましい。末端カルボキシ基量を50eq/ton以下とすることにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂(B)の溶融成形時のガスの発生をより効果的に抑制できる。また、末端カルボキシ基量の下限値は特に定めるものではないが、通常、5eq/tonである。
ポリブチレンテレフタレート樹脂(B)を2種以上含む場合、末端カルボキシ基量は混合物の末端カルボキシ基量とする。
【0040】
なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂(B)の末端カルボキシ基量は、ベンジルアルコール25mLにポリブチレンテレフタレート樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lベンジルアルコール溶液を用いて滴定することにより、求められる値である。末端カルボキシ基量を調整する方法としては、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調整する方法や、末端封鎖剤を反応させる方法等、従来公知の任意の方法が挙げられる。
【0041】
本実施形態の高耐電圧の絶縁性樹脂材料におけるポリブチレンテレフタレート樹脂(B)の含有量は、絶縁性樹脂材料100質量%に対し、70質量%以上であり、75質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、82質量%以上であることがさらに好ましく、85質量%以上であることが一層好ましく、88質量%以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、耐衝撃性が向上する傾向にある。また、前記高耐電圧の絶縁性樹脂材料におけるポリブチレンテレフタレート樹脂(B)の含有量は、絶縁性樹脂材料100質量%に対し、95質量%以下であり、94質量%以下であることが好ましく、93質量%以下であることがより好ましく、92質量%以下であることがさらに好ましく、91質量%以下であることが一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、高電圧の耐トラッキング性がより向上する傾向にある。
本実施形態の絶縁性樹脂材料は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(B)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0042】
本実施形態の高耐電圧の絶縁性樹脂材料100質量%における、ポリアミド樹脂(A)とポリブチレンテレフタレート樹脂(B)の合計量は、通常、90質量%以上であり、95質量%以上であることが好ましく、97質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましい。また、ポリアミド樹脂(A)とポリブチレンテレフタレート樹脂(B)の合計が100質量%を超えることは無い。
【0043】
本実施形態の高耐電圧の絶縁性樹脂材料は、ポリアミド樹脂(A)以外のポリアミド樹脂を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
ポリアミド樹脂(A)以外のポリアミド樹脂を含む場合、本実施形態の高耐電圧の絶縁性樹脂材料が含みうる他のポリアミド樹脂は、脂肪族ポリアミド樹脂であっても、半芳香族ポリアミド樹脂であってもよい。
脂肪族ポリアミド樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド6/66(ポリアミド6成分およびポリアミド66成分からなる共重合体)、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド410、ポリアミド1010、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド9C(1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンからなる混合ジアミンと1,4-シクロヘキサンジカルボン酸からなるポリアミド)が例示される。
本実施形態の高耐電圧の絶縁性樹脂材料が、ポリアミド樹脂(A)以外のポリアミド樹脂を含む場合、その含有量は、ポリアミド樹脂(A)100質量%に対し、1~10質量%であることが好ましい。ポリアミド樹脂(A)以外のポリアミド樹脂は、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
また、本実施形態の高耐電圧の絶縁性樹脂材料は、ポリアミド樹脂(A)以外のポリアミド樹脂を実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、ポリアミド樹脂(A)100質量%に対し、ポリアミド樹脂(A)以外のポリアミド樹脂の含有量が、1質量%未満であることをいい、0.1質量%未満であることが好ましく、0.01質量%未満であることがさらに好ましい。
【0044】
本実施形態の高耐電圧の絶縁性樹脂材料は、ポリアミド樹脂およびポリブチレンテレフタレート樹脂(B)以外の他の成分を含んでいてもよい。
他の成分の一例は、ポリアミド樹脂およびポリブチレンテレフタレート樹脂(B)以外の熱可塑性樹脂である。
他の成分の一例は、安定剤である。安定剤としては、熱安定剤や酸化防止剤、ポリアミド樹脂の合成の際に添加されうるリン原子含有化合物や重合速度調整剤由来の成分などが例示される。
安定剤の総量としては、ポリアミド樹脂(A)およびポリブチレンテレフタレート樹脂(B)の合計100質量部に対し、0.001~3質量部となる量が好ましい。
【0045】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤(好ましくはヒンダードフェノール系酸化防止剤)、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤が例示される。
これらの酸化防止剤は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
酸化防止剤の添加量は、ポリアミド樹脂(A)およびポリブチレンテレフタレート樹脂(B)の合計100質量部に対し、0.001~3.0質量部となる量であることが好ましい。
【0046】
また、安定剤以外の他の成分としては、充填剤、耐加水分解性改良剤、艶消剤、可塑剤、分散剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、着色剤等が例示される。これらの詳細は、特許第4894982号公報の段落0130~0155の記載、国際公開第2021/241471号の段落0041および0042、段落0046~0103の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
他の成分は、合計で、本実施形態の高耐電圧の絶縁性樹脂材料の20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが一層好ましい。他の成分は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
本実施形態の高耐電圧の絶縁性樹脂材料は、高電圧がかかる状況下での耐トラッキング性に優れていることが好ましい。具体的には、前記絶縁性材料のJIS-C2136 一定電圧トラッキング法に従った、2000Vの電圧で破壊するまでの時間(2000Vにおける耐トラッキング時間)が75分以上であることが好ましく、80分以上であることがより好ましく、85分以上であることがさらに好ましく、89分以上であることが一層好ましい。前記絶縁性樹脂材料の2000Vにおける耐トラッキング時間の上限は特に定めるものではないが、200分以下が実際的である。
【0048】
本実施形態の高耐電圧の絶縁性樹脂材料は、高電圧が印加される用途に好ましく用いられる。例えば、より高速で充電する場合の充電器やコネクター等の電気電子部品に好ましく用いられる。
また、コード・バスバー等の被覆材料、回路基板材料としても好ましく用いられる。
本実施形態の高耐電圧の絶縁性樹脂材料は、上記の他、特開2020-076023号公報の段落0049に記載の用途にも用いることができ、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0049】
本実施形態における高耐電圧の絶縁性樹脂材料の製造方法に制限はなく、公知の絶縁性樹脂材料の製造方法を広く採用でき、ポリアミド樹脂(A)、および、ポリブチレンテレフタレート樹脂(B)、ならびに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常220~320℃の範囲である。
【0050】
本実施形態の高耐電圧の絶縁性成形品は、本実施形態の高耐電圧の絶縁性樹脂材料から形成される。
成形品を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法、延伸、真空成形等が挙げられる。本実施形態の高耐電圧の絶縁性樹脂材料は、射出成形により成形することが好ましい。
本実施形態の高耐電圧の絶縁性樹脂材料から形成される絶縁性成形品としては、射出成形品、薄肉成形品、中空成形品、フィルム(板状、シートを含む)、円筒状(ホース、チューブ等)、環状、円形状、楕円形状、歯車状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状押出成形品、繊維等が例示され、射出成形品であることが好ましい。
また、本実施形態の高耐電圧の絶縁性樹脂材料は、表層材としても用いることができる。例えば、導電性または弱絶縁性のフィルムやシートの表面に貼り合わせて用いることができる。また、本実施形態の高耐電圧の絶縁性樹脂材料と他の材料をインサート成形によって成形することもできる。
【0051】
また、本実施形態の絶縁性樹脂材料は、充填剤を配合した繊維強化樹脂材料としても用いることができる。例えば、本実施形態の絶縁性樹脂材料と、ガラス繊維を溶融混練したペレット、本実施形態の絶縁性樹脂材料をガラス繊維等の連続繊維に含浸させたプリプレグ等が例示される。
【0052】
また、本実施形態においては、ポリブチレンテレフタレート樹脂(B)に、ポリアミド樹脂(A)を配合することにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂(B)の高耐電圧での絶縁性(特に、耐トラッキング性)を向上させることができることから、ポリアミド樹脂(A)は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(B)の高圧下での耐トラッキング性向上剤としても用いることができる。
【実施例0053】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0054】
原料
<MXD6の合成>
撹拌機、分縮器、冷却器、温度計、滴下槽および窒素ガス導入管を備えたジャケット付反応缶内でアジピン酸(BASF社製)7220g(49.4mol)および酢酸ナトリウム/次亜リン酸ナトリウム・一水和物(モル比=1/1.5)11.7gを仕込み、十分窒素置換し、170℃にて加熱し溶融した後、内容物を撹拌しながら、メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)6661g(48.9mol)を、反応容器内の溶融物に撹拌下で滴下し、生成する縮合水を系外に排出しながら、内温を連続的に2.5時間かけて250℃まで昇温した。滴下終了後、内温を上昇させ、260℃に達した時点で反応容器内を減圧にし、さらに20分間、溶融重縮合反応を継続した。その後、系内を窒素で加圧し、得られた重合物をストランドダイから取り出して、ペレット化することにより、ポリアミド樹脂を得た。
得られたポリアミド樹脂の調湿水分率は4.6%、数平均分子量は15000、ガラス転移温度は85℃、融点は237℃であった。
【0055】
PBT:ポリブチレンテレフタレート樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス社製、品番:ノバデュラン 5010R
【0056】
参考例1
<<耐トラッキング時間>>
ポリアミド樹脂MXD6を乾燥した後、融点+20℃のシリンダー温度で射出成形し、6mm厚みのプレートを得た。得られたプレートを縦120mm、横50mmの大きさに切断し、ガラス板に挟んで、窒素ガス雰囲気下で150℃で1時間保持することで、結晶化処理を行った。得られたプレートを、傾斜平板耐トラッキング性試験器YST-587形(ヤマヨ試験器製)を用いて、JIS-C2136 一定電圧トラッキング法に従って、2000Vの電圧で破壊するまでの時間を測定した。トラッキング破壊、着火、貫通破壊の少なくとも一つが生じた時点で破壊したと判断し、n=5で試験を行い、破壊するまでの時間の平均値を耐トラッキング時間とした。
【0057】
<<曲げ弾性率>>
ポリアミド樹脂MXD6を乾燥した後、融点+20℃のシリンダー温度で射出成形し、4mm厚みの試験片を得た。得られた短冊片をガラス板に挟んで、窒素ガス雰囲気下で150℃で1時間保持することで、結晶化処理を行った。得られた試験片を23℃、50%RHで7日間保存した後、JIS K 7171に準じて曲げ弾性率(GPa)を求めた。
なお、装置はベンドグラフType B(東洋精機株式会社製)を使用し、測定温度を23℃、測定湿度を50%RHとして測定した。
【0058】
参考例2
参考例1において、樹脂を表1に示す通り変更し、他は同様に行った。
【0059】
実施例1
参考例1において、射出成形時のシリンダー温度をMXD6の融点+20℃に変更し、他は参考例1と同様に行った。
【0060】
【表1】
【0061】
上記結果から明らかなとおり、本実施形態の絶縁性樹脂材料は、高耐電圧の絶縁性に優れ、かつ、機械的強度にも優れていた。