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特開2024-104935水浸状組織を有する植物体からの水浸状組織を有さない植物体の製造方法
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  • 特開-水浸状組織を有する植物体からの水浸状組織を有さない植物体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104935
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】水浸状組織を有する植物体からの水浸状組織を有さない植物体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01H 4/00 20060101AFI20240730BHJP
   A01H 6/38 20180101ALI20240730BHJP
   A01H 6/14 20180101ALI20240730BHJP
【FI】
A01H4/00
A01H6/38
A01H6/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009385
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 圭介
(72)【発明者】
【氏名】東野 薫
【テーマコード(参考)】
2B030
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AA03
2B030AB03
2B030AD20
2B030CA28
2B030CB02
2B030CD17
(57)【要約】
【課題】水浸状組織を有する植物体からの水浸状組織を有さない植物体の製造方法を提供する。
【解決手段】植物組織細胞を培養することにより得られる、水浸状組織を有する植物体を、固体培地と植物体との間に固体層を備えた状態で培養して、水浸状組織を有さない植物体に回復させる水浸状組織回復工程を含み、
前記固体層が、水分を吸収する素材から成る、
水浸状組織を有する植物体からの水浸状組織を有さない植物体の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物組織細胞を培養することにより得られる、水浸状組織を有する植物体を、固体培地と植物体との間に固体層を備えた状態で培養して、水浸状組織を有さない植物体に回復させる水浸状組織回復工程を含み、
前記固体層が、水分を吸収する素材から成る、
水浸状組織を有する植物体からの水浸状組織を有さない植物体の製造方法。
【請求項2】
前記固体層が、植物の根が侵入しない素材から成る請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
植物組織細胞を培養することにより得られる、水浸状組織を有する植物体が、カルスを培養することにより得られる、水浸状組織を有する、発根したシュートである請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記カルスが、アグロバクテリウム法により形質転換されたカルスである請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
前記水浸状組織回復工程において、前記水浸状組織を有する植物体を、湿度が30~90%の条件下で培養する請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項6】
前記水浸状組織回復工程において、前記水浸状組織を有する植物体を、日長時間が12時間以上、照度が3000~20000lxの条件下で培養する請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項7】
前記水浸状組織回復工程において、前記水浸状組織を有する植物体を、温度が15~30℃の条件下で培養する請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項8】
前記植物が、ゴム産生植物である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項9】
前記ゴム産生植物が、Taraxacum属又はHevea属に属する植物である請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ゴム産生植物が、Taraxacum kok-saghyz又はHevea brasiliensisである請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水浸状組織を有する植物体からの水浸状組織を有さない植物体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルスなどの植物組織細胞を培養する際の特有の現象として、水浸状化(ガラス化)が知られている。例えば、カルスなどの植物組織細胞を培養して、再分化させ、植物に再生する際には、再生した植物組織が水浸状化することが問題となる。
【0003】
水浸状化は、培養時の高湿度・低照度が原因と言われており、細胞が未発達となってしまい、組織が透明化したり淡緑色を示したりする。水浸状化した植物組織(水浸状組織)は、気孔(植物が光合成や呼吸を行う器官)が硬化し機能しなくなるため、培養途中で枯死したり、組織を分化させることができない。そのため、従来から、水浸状化を抑制する工夫がされている。
【0004】
例えば、特許文献1~4では、培地組成を調整することにより、水浸状化を抑制できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-47174号公報
【特許文献2】特開平5-184253号公報
【特許文献3】特開平5-336955号公報
【特許文献4】WO2020/196388A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らが鋭意検討した結果、従来技術でも水浸状化を抑制できるものの、培地組成を複雑に検討する必要があり、煩雑であることが判明した。また、従来、水浸状化を抑制する検討は盛んに行われていたものの、植物組織の培養時に水浸状化した組織を回復させる方法については十分に検討されていないことが判明した。すなわち、水浸状組織を有する植物体からの水浸状組織を有さない植物体の製造方法については十分に検討されていないことが判明した。
【0007】
本発明は、前記課題を解決し、水浸状組織を有する植物体からの水浸状組織を有さない植物体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、水浸状組織を有する植物体を、固体培地と植物体との間に、水分を吸収する素材から成る固体層を備えた状態で培養することにより、水浸状組織を有さない植物体に回復できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、植物組織細胞を培養することにより得られる、水浸状組織を有する植物体を、固体培地と植物体との間に固体層を備えた状態で培養して、水浸状組織を有さない植物体に回復させる水浸状組織回復工程を含み、前記固体層が、水分を吸収する素材から成る、水浸状組織を有する植物体からの水浸状組織を有さない植物体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水浸状組織を有する植物体からの水浸状組織を有さない植物体の製造方法は、植物組織細胞を培養することにより得られる、水浸状組織を有する植物体を、固体培地と植物体との間に固体層を備えた状態で培養して、水浸状組織を有さない植物体に回復させる水浸状組織回復工程を含み、前記固体層が、水分を吸収する素材から成る、水浸状組織を有する植物体からの水浸状組織を有さない植物体の製造方法であるので、水浸状組織を有する植物体から、水浸状組織を有さない植物体を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1(a)は、固体培地と植物体が直接接触している状態の一例を示す模式図である。図1(b)は、固体培地と植物体との間に、固体層が存在する状態の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の製造方法は、植物組織細胞を培養することにより得られる、水浸状組織を有する植物体を、固体培地と植物体との間に固体層を備えた状態で培養して、水浸状組織を有さない植物体に回復させる水浸状組織回復工程を含み、前記固体層が、水分を吸収する素材から成る、水浸状組織を有する植物体からの水浸状組織を有さない植物体の製造方法である。
なお、本発明の製造方法は、上記工程を含む限りその他の工程を含んでいてもよく、上記工程は1回行ってもよいし、植え継ぐなどして複数回行ってもよい。
【0012】
本発明の製造方法は、植物組織細胞を培養することにより得られる、水浸状組織を有する植物体を、固体培地と植物体との間に固体層を備えた状態で培養して、水浸状組織を有さない植物体に回復させる水浸状組織回復工程を含み、前記固体層が、水分を吸収する素材から成る、水浸状組織を有する植物体からの水浸状組織を有さない植物体の製造方法である。すなわち、本発明の製造方法では、水浸状組織を有する植物体を、固体培地と植物体との間に、水分を吸収する素材から成る固体層を備えた状態で培養することにより、水浸状組織を有さない植物体に回復できるため、培地組成の検討が不要で、簡便な、水浸状組織を有する植物体からの水浸状組織を有さない植物体の製造方法を提供することができる。
【0013】
本発明の製造方法は、従来、水浸状化を抑制する検討は盛んに行われていたものの、植物組織の培養時に水浸状化した組織を回復させる方法についてはほとんど着目されていない中、本発明者らが、水浸状化の抑制ではなく、水浸状化した組織の回復に着目した結果初めて完成できた発明である。
【0014】
本発明において、前記効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推測される。
植物体を再生する際には、例えば、植物の組織片を、サイトカイニン系植物ホルモン、オーキシン系植物ホルモン、及び、炭素源を含むカルス誘導培地で培養してカルスを形成させるカルス誘導工程、該カルス誘導工程で得られたカルスを、植物生長ホルモン及び炭素源を含む再生誘導培地で培養して、シュートを形成させるシュート(再生)誘導工程、並びに、該シュート(再生)誘導工程で得られたシュートを、発根培地で培養して、発根させる発根工程を含む製造方法により行われる。
この一連の過程の中、シュート(再生)誘導工程において、前記の通り、植物組織細胞(カルス)を培養する際に、水浸状化が起こってしまい、水浸状組織を有する植物体となってしまう。通常は、この状態になると、枯死しやすくなるが、本発明では、水浸状組織を有する植物体を、固体培地と植物体との間に、水分を吸収する素材から成る固体層を備えた状態で培養する。
固体培地と植物体との間に、水分を吸収する素材から成る固体層を備えることにより、固体培地から植物体への水分供給量、栄養供給量(特に、水分供給量)が低減され、水浸状化した細胞が水分が低減された培養条件に適応、発達していくことにより、水浸状組織を有する植物体を、水浸状組織を有さない植物体に回復でき、培地組成に関わらず、水浸状組織を有する植物体から、水浸状組織を有さない植物体を製造できる。
このように、本発明の手法では、培地組成の検討などの煩雑な手法ではなく、水分を吸収する素材から成る固体層を備えるという簡便な手法により、水浸状組織を有さない植物体の製造が可能となる。
【0015】
本明細書において、水浸状化(ガラス化)とは、培養時の高湿度・低照度が原因と言われており、水浸状(ガラス)は、植物組織細胞の培養により、組織が透明化・淡緑化する状態を意味し、細胞が未発達となり、気孔等の表皮細胞の硬化などが起こっている状態を意味する。
ここで、凍結保護物質を含む溶液と、細胞液を置換するガラス化凍結法のガラスとは、同一の単語であるものの、細胞液が凍結保護物質で置換され、細胞を凍結後、解凍可能である点において異なる状態である。
本明細書において、水浸状組織とは、水浸状化した植物組織を意味する。
【0016】
本明細書において、カルスとは、分化していない状態の植物細胞又は分化していない状態の植物細胞塊を意味する。また、本明細書において、不定胚とは、カルスから誘導された胚様の組織を意味し、不定芽とは、葉や根、茎の節間など通常では芽を生じない場所から得られる芽様の組織を意味する。また、本明細書において、シュートとは、葉や幼植物を意味する。
【0017】
前記製造方法を適用できる植物としては、特に限定されず、植物全般に適用することができる。前記植物としては、種子植物、シダ植物およびコケ植物のいずれの植物であってもよい。種子植物は、被子植物であってもよく、裸子植物であってもよい。被子植物は、単子葉植物であってもよく、双子葉植物であってもよい。また、前記植物は草本植物であっても木本植物であってもよい。
【0018】
単子葉植物としては、ラン科(シュンラン、コチョウラン、バニラ等)、イネ科(イネ、コムギ、オオムギ、ライ麦、トウモロコシ、キビ、アワ、サトウキビ等)、カヤツリグサ科(パピルス等)、サトイモ科(サトイモ等)、オモダカ科(クワイ等)、ユリ科(チューリップ等)、ヒガンバナ科(タマネギ、ネギ、ニンニク、ニラ)等、キジカクシ科(アスパラガス等)、ヤマノイモ科(ヤマノイモ等)、ショウガ科(ミョウガ、ショウガ等)等が挙げられる。
【0019】
双子葉植物としては、キク科(タンポポ等のTaraxacum属に属する植物、イエギク、ヒマワリ、レタス、ゴボウ、シュンギク、フキ等)、マメ科(ダイズ、エンドウ、アズキ、ソラマメ、ラッカセイ等)、アカネ科(コーヒー等)、シソ科(シソ、エゴマ、ハッカ等)、トウダイグサ科(パラゴムノキ等のHevea属に属する植物、ポインセチア、キャッサバ等)、アオイ科(ワタ属、オクラ等)、セリ科(ニンジン、パセリ、セロリ等)、アブラナ科(シロイヌナズナ、ダイコン、アブラナ、コマツナ、ハクサイ、カブ、カラシナ、カリフラワー、キャベツ、ブロッコリー、ワサビ、ハツカダイコン等)、バラ科(イチゴ、リンゴ、ナシ、サクラ、ウメ、モモ等)、ナス科(ナス、トマト、トウガラシ、タバコ、ピーマン、ジャガイモ等)、ヒユ科(ホウレンソウ等)、スイレン科(スイレン、ジュンサイ等)、ハス科(ハス等)、ミカン科(ミカン、レモン等)、ウコギ科(ウド、タラノキ等)、ヒルガオ科(サツマイモ等)、ウリ科(スイカ、メロン、キュウリ、ニガウリ、カボチャ、ヘチマ等)、ブドウ科(ブドウ等)、ゴマ科(ゴマ等)、ナデシコ科(カスミソウ、カーネーション等)、スミレ科(パンジー等)、サクラソウ科(シクラメン等)、キンポウゲ科(クレマチス属等)等が挙げられる。
【0020】
前記植物の中でも、双子葉植物が好ましい。また、ゴム産生植物がより好ましい。
【0021】
ゴム産生植物としては、天然ゴムを産生可能な植物であれば特に限定されず、例えば、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)等のHevea属;ノゲシ(Sonchus oleraceus)、オニノゲシ(Sonchus asper)、ハチジョウナ(Sonchus brachyotus)等のSonchus属;セイタカアワダチソウ(Solidago altissima)、アキノキリンソウ(Solidago virgaurea subsp. asiatica)、ミヤマアキノキリンソウ(Solidago virgaurea subsp. leipcarpa)、キリガミネアキノキリンソウ(Solidago virgaurea subsp. leipcarpa f. paludosa)、オオアキノキリンソウ(Solidago virgaurea subsp. gigantea)、オオアワダチソウ(Solidago gigantea Ait. var. leiophylla Fernald)等のSolidago属;ヒマワリ(Helianthus annuus)、シロタエヒマワリ(Helianthus argophyllus)、ヘリアンサス・アトロルベンス(Helianthus atrorubens)、ヒメヒマワリ(Helianthus debilis)、コヒマワリ(Helianthus decapetalus)、ジャイアントサンフラワー(Helianthus giganteus)等のHelianthus属;タンポポ(Taraxacum)、エゾタンポポ(Taraxacum venustum H.Koidz)、シナノタンポポ(Taraxacum hondoense Nakai)、カントウタンポポ(Taraxacum platycarpum Dahlst)、カンサイタンポポ(Taraxacum japonicum)、セイヨウタンポポ(Taraxacum officinale Weber)、ロシアンタンポポ(Taraxacum kok-saghyz)、Taraxacum brevicorniculatum等のTaraxacum属;イチジク(Ficus carica)、インドゴムノキ(Ficus elastica)、オオイタビ(Ficus pumila L.)、イヌビワ(Ficus erecta Thumb.)、ホソバムクイヌビワ(Ficus ampelas Burm.f.)、コウトウイヌビワ(Ficus benguetensis Merr.)、ムクイヌビワ(Ficus irisana Elm.)、ガジュマル(Ficus microcarpa L.f.)、オオバイヌビワ(Ficus septica Burm.f.)、ベンガルボダイジュ(Ficus benghalensis)等のFicus属;グアユール(Parthenium argentatum)、アメリカブクリョウサイ(Parthenium hysterophorus)、ブタクサ(Parthenium hysterophorus)等のParthenium属;レタス(Lactuca serriola)、ベンガルボダイジュ等が挙げられる。なかでも、Taraxacum属又はHevea属(好ましくはTaraxacum属)に属する植物であることが好ましく、ロシアンタンポポ(Taraxacum kok-saghyz)又はパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)(好ましくはロシアンタンポポ)であることがより好ましい。
【0022】
(水浸状組織回復工程)
水浸状組織回復工程では、植物組織細胞を培養することにより得られる、水浸状組織を有する植物体を、固体培地と植物体との間に、水分を吸収する素材から成る固体層を備えた状態で培養して、水浸状組織を有さない植物体に回復させる。
【0023】
まず、水浸状組織回復工程に供される「水浸状組織を有する植物体」について説明する。
水浸状組織を有する植物体は、植物組織細胞を培養することにより得られる。
【0024】
植物組織細胞としては、特に限定されず、例えば、カルスや懸濁細胞などの脱分化した培養細胞、不定胚、苗条原基等が挙げられる。なかでも、脱分化した培養細胞が好ましく、カルスがより好ましい。
【0025】
植物組織細胞の由来は、特に限定されず、例えば、葉、葉柄、葉片、茎、節、根、芽、腋芽、頂芽、花弁、子葉、胚軸、葯、種子等の植物の組織片由来のものが挙げられる。
【0026】
カルスとしては、例えば、植物の組織片を、サイトカイニン系植物ホルモン、オーキシン系植物ホルモン、及び、炭素源を含むカルス誘導培地で培養してカルスを形成させるカルス誘導工程により得られたカルスが挙げられる。
【0027】
植物体を再生する際には、前記の通り、例えば、植物の組織片を、サイトカイニン系植物ホルモン、オーキシン系植物ホルモン、及び、炭素源を含むカルス誘導培地で培養してカルスを形成させるカルス誘導工程、該カルス誘導工程で得られたカルスを、植物生長ホルモン及び炭素源を含む再生誘導培地で培養して、シュートを形成させるシュート(再生)誘導工程、並びに、該シュート(再生)誘導工程で得られたシュートを、発根培地で培養して、発根させる発根工程を含む製造方法により行われる。
【0028】
また、アグロバクテリウム法により形質転換された植物を製造する場合、例えば、植物由来の組織片に、標的遺伝子又はそのフラグメント、及び、抗生物質耐性遺伝子を含むプラスミドを含有するアグロバクテリウムを感染させる感染工程、並びに該感染工程で得られた組織片のうち、上記標的遺伝子を獲得した組織片を抗生物質により選択する選択培養工程を行い、該選択培養工程で得られた組織片を、前記カルス誘導工程、前記シュート(再生)誘導工程、及び、前記発根工程を含む一連の工程に供すればよい。
当該製造方法におけるカルス誘導工程において形成されたカルスは、アグロバクテリウム法により形質転換されたカルスであり、植物組織細胞として好ましい。
なお、前記説明では、形質転換のために、植物由来の組織片にアグロバクテリウムを感染させていたが、カルスにアグロバクテリウムを感染させてもよい。
【0029】
植物由来の組織片やカルスにアグロバクテリウムを感染させる方法、標的遺伝子を獲得した組織片やカルスを抗生物質により選択する方法、植物の組織片からカルスを誘導する方法、カルスを培養して、シュートを形成させる方法、シュートを培養して、発根させる方法は、いずれも公知の方法(例えば、例えば、特開2020-005538号公報等に記載の方法)に従って行えばよい。
【0030】
例えば、前記カルス誘導工程、前記シュート(再生)誘導工程、及び、前記発根工程を含む一連の工程を実施することにより、任意の植物の任意の組織片から「植物組織細胞を培養することにより得られる、植物体(好ましくはカルスを培養することにより得られる、発根したシュート)」が得られる。意図的に水浸状化を抑制する条件で、この一連の工程を実施しない限り、「植物組織細胞を培養することにより得られる、植物体(好ましくはカルスを培養することにより得られる、発根したシュート)」のうち通常少なくとも20~30%が「植物組織細胞を培養することにより得られる、水浸状組織を有する植物体(好ましくはカルスを培養することにより得られる、水浸状組織を有する、発根したシュート)」となる。なお、高湿度、低照度の条件で培養することにより、より好適に「植物組織細胞を培養することにより得られる、水浸状組織を有する植物体(好ましくはカルスを培養することにより得られる、水浸状組織を有する、発根したシュート)」が得られる。
【0031】
ただし、意図的に「植物組織細胞を培養することにより得られる、水浸状組織を有する植物体(以下では、単に水浸状組織を有する植物体とも記載する)」を製造する必要はないため、通常の条件や水浸状化を抑制する条件で前記一連の工程を実施することにより生じてしまった「植物組織細胞を培養することにより得られる、水浸状組織を有する植物体」を水浸状組織回復工程に供すればよい。
【0032】
前記の通り、水浸状組織回復工程では、水浸状組織を有する植物体を、固体培地と植物体との間に、水分を吸収する素材から成る固体層を備えた状態で培養して、水浸状組織を有さない植物体に回復させる。
【0033】
水浸状組織を有する植物体を、固体培地と植物体との間に、水分を吸収する素材から成る固体層を備えた状態で培養するとは、固体培地と植物体との間に、前記固体層が存在する状態で培養することを意味し、より具体的には、前記固体層の存在により、固体培地と植物体とが直接接触していない状態で培養することを意味する。従って、固体培地の全面に固体層が設けられている必要はなく、植物体が存在する箇所に固体層が設けられていればよい。
図1(a)では、固体培地1と植物体10が直接接触している状態の一例が示されている。一方、図1(b)では、固体培地1と植物体10との間に、前記固体層100が存在する状態の一例が示されている。図1(b)に示すように、固体培地の上に固体層を設け、固体層上に植物体を置いて培養すればよく、固体培地と固体層が接しており、かつ、固体層と植物体が接していることが好ましい。
固体層の形状は特に限定されないが、図1(b)に示すようなシート状が好ましい。
【0034】
固体層は、固体培地から植物体への水分供給量、栄養供給量(特に、水分供給量)が低減されればよいため、水分を吸収する素材から成る限り、特に限定されないが、水浸状組織を有さない植物体を製造した後に、植物体を土壌などに植え替える際に、植物体の根を傷つけるおそれが少ないという理由から、固体層は、水分を吸収し、かつ、植物の根が侵入しない素材から成ることが好ましく、固体培地から植物体への適度な水分の供給が可能であるという理由から、水分を吸収し、かつ、水分を透過し、かつ、植物の根が侵入しない素材から成ることがより好ましい。
【0035】
固体層の吸水度は、好ましくは0.8cm以上、より好ましくは2.0cm以上、更に好ましくは3.0cm以上、特に好ましくは4.0cm以上であり、好ましくは9.0cm以下、より好ましくは8.0cm以下、更に好ましくは6.0cm以下である。固体層の吸水度が上記範囲内であると、固体培地から植物体への水分供給量、栄養供給量(特に、水分供給量)がより好適に低減され、効果がより好適に得られる傾向がある。
本明細書において、固体層の吸水度は、JIS P8141:2004に準拠して、固体層を20℃の水中に立てて、10分間に上昇する水の高さを測定することにより算出される。
【0036】
固体層の厚みは、好ましくは0.12mm以上、より好ましくは0.16mm以上、更に好ましくは0.20mm以上であり、好ましくは0.26mm以下、より好ましくは0.24mm以下、更に好ましくは0.21mm以下である。固体層の厚みが上記範囲内であると、固体層の水分・養分の含有が均一になりやすく、効果がより好適に得られる傾向がある。
本明細書において、固体層の厚みは、図1のX方向の長さを意味し、3点の厚みの平均値である。
【0037】
固体層としては、水分を吸収する素材から成る限り特に限定されないが、例えば、濾紙、ガーゼ、ニトロセルロース膜等が挙げられる。これらは、水分を吸収し、かつ、水分を透過し、かつ、植物の根が侵入しない素材である。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。なかでも、濾紙、ガーゼが好ましく、濾紙がより好ましい。
【0038】
固体培地としては、固体の培地である限り特に限定されない。固体培地としては、例えば、Whiteの培地(植物細胞工学入門(学会出版センター)p20~p36に記載)、Hellerの培地(Heller R, Bot.Biol.Veg.Paris 14 1-223(1953))、SH培地(SchenkとHildebrandtの培地)、MS培地(MurashigeとSkoogの培地)(植物細胞工学入門(学会出版センター)p20~p36に記載)、LS培地(LinsmaierとSkoogの培地)(植物細胞工学入門(学会出版センター)p20~p36に記載)、Gamborg培地、B5培地(植物細胞工学入門(学会出版センター)p20~p36に記載)、MB培地、WP培地(Woody Plant:木本類用)等の基本培地や、該基本培地の組成に変更を加えた改変基本培地等のベースとなる培地に固形化剤を加えたものを使用すればよい。また、必要に応じて植物生長ホルモン、炭素源、抗生物質を加えてもよい。なかでも、MS培地に固形化剤を加えた培地がより好ましい。更に、炭素源としてスクロースを加えてもよい。
【0039】
固形化剤としては、特に限定されず、寒天、ゲランガム、アガロ-ス、ゲルライト、ゼラチン、シリカゲル、ファイタゲル等が挙げられる。なかでも、ファイタゲル、寒天が好ましく、寒天がより好ましい。
【0040】
固体培地中の固形化剤の濃度は、好ましくは0.22質量%以上、より好ましくは0.24質量%以上、更に好ましくは0.28質量%以上であり、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.9質量%以下、更に好ましくは0.8質量%以下である。固体培地中の固形化剤の濃度が前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0041】
植物生長ホルモンとしては、例えば、オーキシン系植物ホルモン及び/又はサイトカイニン系植物ホルモンが挙げられ、オーキシン系植物ホルモンとしては、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、1-ナフタレン酢酸、インドール-3-酪酸、インドール-3-酢酸、インドールプロピオン酸、クロロフェノキシ酢酸、ナフトキシ酢酸、フェニル酢酸、2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸、パラクロロフェノキシ酢酸、2-メチル-4-クロロフェノキシ酢酸、4-フルオロフェノキシ酢酸、2-メトキシ-3,6-ジクロロ安息香酸、2-フェニル酸、ピクロラム、ピコリン酸等が挙げられ、また、サイトカイニン系植物ホルモンとしては、ベンジルアデニン、カイネチン、ゼアチン、ベンジルアミノプリン、イソペンチニルアミノプリン、チジアズロン、イソペンテニルアデニン、ゼアチンリポシド、ジヒドロゼアチン等が挙げられる。また、炭素源としては、特に限定されず、スクロース(ショ糖)、グルコース、トレハロース、フルクトース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、アロース、タロース、グロース、アルトロース、マンノース、イドース、アラビノース、アピオース、マルトース等の糖類が挙げられる。
【0042】
固体培地のpH(固体培地に固形化剤を加える前のpH)は、特に限定されないが、好ましくは4.5以上、より好ましくは5.2以上、更に好ましくは5.8以上であり、好ましくは6.5以下、より好ましくは6.2以下、更に好ましくは5.9以下である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0043】
水浸状組織回復工程での培養は、通常、温度、湿度、照明時間等の培養条件が管理された制御環境下で行われる。培養条件は適宜設定することができる。
【0044】
水浸状組織回復工程での培養中の湿度は、好ましくは30%以上、より好ましくは37%以上、更に好ましくは45%以上であり、好ましくは90%以下、より好ましくは75%以下、更に好ましくは60%以下である。前記範囲内であると、植物組織の増殖に適している湿度という理由から、効果がより好適に得られる傾向がある。
培養中の湿度は、例えば、容器をサージカルテープなど気体の透過が可能なテープで封をすることにより、高湿度になることを防止できる。
本明細書において、湿度は、培養環境下(例えば、植物培養器を用いる場合は、植物培養器内)の相対湿度を意味し、電子湿度計により測定される。
【0045】
水浸状組織回復工程での培養温度は、好ましくは15℃以上、より好ましくは18℃以上、更に好ましくは20.5℃以上であり、好ましくは30℃以下、より好ましくは25℃以下、更に好ましくは23℃以下である。前記範囲内であると、植物細胞の増殖に適している温度という理由から、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0046】
水浸状組織回復工程での培養は、暗所で行っても明所で行ってもよいが、光条件としては、日長時間(明時間)は、好ましくは12時間以上、より好ましくは16時間以上であり、好ましくは20時間以下、より好ましくは17時間以下であり、照度は、好ましくは3000lx以上、より好ましくは4500lx以上であり、好ましくは20000lx以下、より好ましくは5400lx以下である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
本明細書において、照度は、JIS C 7612(1985)に準拠して測定される。
【0047】
上記照度を得るための光源としては、特に限定されず、自然光を利用しても、人工光を利用しても、これらを組み合わせて利用してもよい。人工光を用いる場合、発光ダイオード(LED)、ハロゲンランプ、白熱電球、蛍光灯、アーク灯、無電極放電灯、低圧放電灯、冷陰極型蛍光管、外部電極型蛍光管、エレクトロルミネセンスライト及びHIDランプ等を使用することができる。HIDランプとしては、例えば高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、及び高圧ナトリウムランプ等が挙げられる。これらの光源は1種類のみ使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0048】
水浸状組織回復工程での培養時間は、前記効果が得られる限り特に限定されないが、好ましくは1週間以上、より好ましくは2週間以上であり、好ましくは4週間以下、より好ましくは3週間以下である。また、1~4週間おきに継代培養してもよい。
【0049】
以上のように、水浸状組織回復工程では、水浸状組織を有する植物体を、固体培地と植物体との間に、水分を吸収する素材から成る固体層を備えた状態で培養することにより、水浸状組織を有する植物体を、水浸状組織を有さない植物体に回復でき、水浸状組織を有する植物体から、水浸状組織を有さない植物体を製造できる。
【0050】
回復した植物体(水浸状組織を有さない植物体)は、元々水浸状組織を有さなかった植物体と同様に使用できる。例えば、回復した植物体(水浸状組織を有さない植物体)を培養して発根を促進させることにより、幼植物が得られる。この幼植物は、直接土壌に移植してもよいが、バーキュライト等の人工土壌に移すなどして馴化してから土壌に移植することが好ましい。
【実施例0051】
以下では、実施をする際に好ましいと考えられる例(実施例)を示すが、本開示の範囲は実施例に限られない。
【0052】
アメリカ農務省農業研究サービス(USDA-ARS WRPIS)より、ロシアンタンポポ(TKS)の種子を合法的に入手して発芽させ、実験材料とする。
【0053】
実施例、比較例は、以下の手順に従って実施する。
【0054】
(手順1.アグロバクテリウムの形質転換)
エレクトロポレーション法によりアグロバクテリウム(以下においてアグロバクテリウムをアグロとも記載する)に組換え用のベクターを導入する。該アグロバクテリウムをSOC培地にて暗黒下で回復培養後(28℃、170rpm、1時間)、LB培地(50mg/Lカナマシン)で静置培養(28℃、3日間、暗所)する。形質転換されたアグロの確認は、PCR法により実施する。
【0055】
(手順2.アグロバクテリウムの増殖)
形質転換されたアグロをLB培地(50mg/Lカナマイシン)にて暗黒下で前培養(28℃、170rpm、約16時間)する。前培養した培養液をLB培地(50mg/Lカナマイシン)でスケールアップして本培養する。スケールアップ方法としては、前培養液をLB培地で10倍希釈して暗黒下で培養(28℃、170rpm)し、菌液の濁度がOD600=0.6となるまで、培養を継続する。
【0056】
(手順3.アグロ菌液の原液の調製)
菌液濁度がOD600=0.6に達したら、遠心分離(室温、4000rpm、10分)する。上清を除き、上清と等量のMS培地に再懸濁してアグロ菌液の原液とする。
【0057】
(手順4.アグロ感染液の調製)
手順3.で準備したアグロ原液の濁度OD600=0.01に調整し、アグロ感染液とする。
【0058】
(手順5.感染用の葉切片の準備)
葉齢が若いTKS培養株の葉を、メスで0.2~0.5cm辺の大きさで葉切片を切り出す。メスでの葉切片調製時には、葉片を乾燥させない様、MS液体培地に浸した濾紙上で調製する。調製した切片は、すぐに手順4.で調整したアグロ感染液に浸漬する。
【0059】
(手順6.葉切片へのアグロ感染)
調製した切片をアグロ感染液に30分間浸漬し、葉切片にアグロを感染させる。
【0060】
(手順7.葉切片とアグロの共存培養)
アグロ感染液に浸漬した葉切片をMS培地(1mg/Lベンジルアデニン(BA)、0.1mg/Lナフタレン酢酸(NAA)、0.28質量%ファイタゲル)上で、暗黒下で培養(28℃、3日間)する。培養容器に封をする場合は、空気交換ができるテープ(サージカルテープ)を使用する。
【0061】
(手順8.共存培養した葉切片の洗浄)
共存培養した葉切片をMS培地(25mg/Lメロペン)で洗浄する。
【0062】
(手順9.回復培養)
洗浄した葉切片をMS培地(0.5mg/LBA、0.1mg/LNAA、25mg/Lメロペン、0.28質量%ファイタゲル)で、培養(16時間明期、22℃、1週間)する。
【0063】
(手順10.選抜培養し、カルスを形成)
回復培養した葉切片をMS培地(0.5mg/LBA、0.1mg/LNAA、0.5mg/Lグルホシネート(Glf)、25mg/Lメロペン、0.28質量%ファイタゲル)で、培養(16時間明期、22℃、2~3週間)する。
【0064】
(手順11.選抜培養し、カルスを培葉・地上部を再生)
形成したカルスをMS培地(0.5mg/LBA、0.1mg/LNAA、0.5mg/LGlf、25mg/Lメロペン、0.28質量%ファイタゲル)で、培養(16時間明期、22℃、6週間)する。この際、再生する地上部のほとんどが水浸状を示す。
【0065】
(手順12.水浸状化した地上部の培養(正常な地上部への回復))
水浸状化した地上部を、下記に示す各条件で発根用MS培地(25mg/Lメロペン、pH5.8)上で培養(16時間明期、明期の照度5400lx、22℃、2~3週間、培養中の湿度60%)する。シュートの透明化が回復したら、手順13.に進める。なお、固体層を使用する場合(下記の「有」の場合)は、水浸状組織を有する植物体を、固体培地と植物体との間に固体層を備えた状態で培養する。
【0066】
(手順13.正常化したシュートを発根させる)
正常化したシュートを発根用MS培地で培養(16時間明期、22℃、4週間)する。ここで、手順13.において発根した植物を正常化したと判断し、水浸状化した地上部から正常化した植物の割合の計算を行い、正常化率を算出する。
【0067】
(実施例1、比較例1)
実施例1では、水分を通し水分を含むことができる固体層として濾紙(吸水度9.0cm、厚み0.20mm)を使用する。なお、実施例1、比較例1では、発根用MS培地(25mg/Lメロペン含有)にファイタゲル(培地中の濃度:0.28質量%)を添加して固体培地とする。
実施例1 固体培地 (ファイタゲル) + 濾紙有
比較例1 固体培地 (ファイタゲル) + 濾紙無
【0068】
正常化率は、以下の通りである。
実施例1: 75%
比較例1: 0%
【0069】
実施例1では、固体培地と植物体との間に固体層である濾紙が存在するため、水浸状化が回復する。一方、比較例1では濾紙が存在しないため、水浸状化が回復しない。
【0070】
(実施例2、比較例2)
実施例2では、水分を通し水分を含むことができる固体層として濾紙(吸水度9.0cm、厚み0.20mm)を使用する。なお、実施例2、比較例2では、発根用MS培地(25mg/Lメロペン含有)に寒天(培地中の濃度:0.8質量%)を添加して固体培地とする。
実施例2 固体培地 (寒天) + 濾紙有
比較例2 固体培地 (寒天) + 濾紙無
【0071】
正常化率は、以下の通りである。
実施例2: 87.5%
比較例2: 0%
【0072】
実施例2では、固体培地と植物体との間に固体層である濾紙が存在するため、水浸状化が回復する。一方、比較例2では濾紙が存在しないため、水浸状化が回復しない。
【0073】
(実施例3、比較例3)
実施例3では、水分を通し水分を含むことができる固体層としてガーゼ(吸水度0.9cm、厚み0.16mm)を使用する。なお、実施例3、比較例3では、発根用MS培地(25mg/Lメロペン含有)にファイタゲル(培地中の濃度:0.28質量%)を添加して固体培地とする。
実施例3 固体培地 (ファイタゲル) + ガーゼ有
比較例3 固体培地 (ファイタゲル) + ガーゼ無
【0074】
正常化率は、以下の通りである。
実施例3: 87.5%
比較例3: 0%
【0075】
実施例3では、固体培地と植物体との間に固体層であるガーゼが存在するため、水浸状化が回復する。一方、比較例3ではガーゼが存在しないため、水浸状化が回復しない。
【0076】
(実施例4、比較例4)
実施例4では、水分を通し水分を含むことができる固体層として限外ろ過膜 (ニトロセルロース膜)(吸水度3.5cm、厚み0.15mm)を使用する。なお、実施例4、比較例4では、発根用MS培地(25mg/Lメロペン含有)にファイタゲル(培地中の濃度:0.28質量%)を添加して固体培地とする。
実施例4 固体培地 (ファイタゲル) + ニトロセルロース膜有
比較例4 固体培地 (ファイタゲル) + ニトロセルロース膜無
【0077】
正常化率は、以下の通りである。
実施例4: 87.5%
比較例4: 0%
【0078】
実施例4では、固体培地と植物体との間に固体層であるニトロセルロース膜が存在するため、水浸状化が回復する。一方、比較例4ではニトロセルロース膜が存在しないため、水浸状化が回復しない。
【0079】
植物組織細胞を培養することにより得られる、水浸状組織を有する植物体を、固体培地と植物体との間に、水分を吸収する素材から成る、固体層を備えた状態で培養して、水浸状組織を有さない植物体に回復させる水浸状組織回復工程を含む実施例の製造方法では、水浸状組織を有する植物体から、水浸状組織を有さない植物体を製造できることが分かる。
【符号の説明】
【0080】
1 固体培地
10 植物体
100 固体層
【0081】
本発明(1)は、植物組織細胞を培養することにより得られる、水浸状組織を有する植物体を、固体培地と植物体との間に固体層を備えた状態で培養して、水浸状組織を有さない植物体に回復させる水浸状組織回復工程を含み、
前記固体層が、水分を吸収する素材から成る、
水浸状組織を有する植物体からの水浸状組織を有さない植物体の製造方法である。
【0082】
本発明(2)は、前記固体層が、植物の根が侵入しない素材から成る本発明(1)記載の製造方法である。
【0083】
本発明(3)は、植物組織細胞を培養することにより得られる、水浸状組織を有する植物体が、カルスを培養することにより得られる、水浸状組織を有する、発根したシュートである本発明(1)又は(2)記載の製造方法である。
【0084】
本発明(4)は、前記カルスが、アグロバクテリウム法により形質転換されたカルスである本発明(3)記載の製造方法である。
【0085】
本発明(5)は、前記水浸状組織回復工程において、前記水浸状組織を有する植物体を、湿度が30~90%の条件下で培養する本発明(1)~(4)のいずれかに記載の製造方法である。
【0086】
本発明(6)は、前記水浸状組織回復工程において、前記水浸状組織を有する植物体を、日長時間が12時間以上、照度が3000~20000lxの条件下で培養する本発明(1)~(5)のいずれかに記載の製造方法である。
【0087】
本発明(7)は、前記水浸状組織回復工程において、前記水浸状組織を有する植物体を、温度が15~30℃の条件下で培養する本発明(1)~(6)のいずれかに記載の製造方法である。
【0088】
本発明(8)は、前記植物が、ゴム産生植物である本発明(1)~(7)のいずれかに記載の製造方法である。
【0089】
本発明(9)は、前記ゴム産生植物が、Taraxacum属又はHevea属に属する植物である本発明(8)に記載の製造方法である。
【0090】
本発明(10)は、前記ゴム産生植物が、Taraxacum kok-saghyz又はHevea brasiliensisである本発明(8)に記載の製造方法である。
図1