(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104953
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】シリンダ錠
(51)【国際特許分類】
E05B 29/06 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
E05B29/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009413
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000138462
【氏名又は名称】株式会社ユーシン
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】杉原 智
(57)【要約】
【課題】シリンダ錠の動作性と防盗性とを両立する。
【解決手段】シリンダ1がロック位置にあると、タンブラ3が突出位置へ付勢され、タンブラ3の側縁とロック溝12の内側面12a,12bとの係合によりシリンダ2の回転が規制される。正規のキーがキー挿入孔11に挿入されると、タンブラ3が退避位置へ変位し、シリンダ2がロック位置θaから解錠位置θbに向けて回転することを許容される。シリンダ錠100は、シリンダ2が、ロック位置θaと、ロック位置θaと解錠位置θbとの間の切換位置θdとの間の調心範囲Rd1内にあるときに、シリンダ2の軸心A2をシリンダアウタ1の軸心A1と一致させるように構成された調心機構5を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のシリンダ挿入孔、および前記シリンダ挿入孔の内周面に形成されたロック溝を有するシリンダアウタと、
前記シリンダ挿入孔に回転可能に挿入される円筒状のシリンダ本体部、前記シリンダ本体部に形成されて軸方向に延びるキー挿入孔、および前記シリンダ本体部の周壁を貫通するタンブラ挿入孔を有するシリンダと、
前記シリンダ本体部に収納される退避位置と、前記タンブラ挿入孔を介して前記シリンダ本体部から径方向外側に突出して前記ロック溝へ進入する突出位置との間で径方向に変位可能に、前記シリンダに支持されるタンブラと、
を備え、
前記シリンダがロック位置にあると、前記タンブラが前記突出位置へ付勢され、前記シリンダは、前記タンブラの側縁と前記ロック溝の内側面との係合により前記ロック位置から回転することを規制され、
正規のキーが前記キー挿入孔に挿入されると、前記タンブラが前記退避位置へ変位し、前記シリンダは、前記ロック位置から所定の解錠位置に向けて周方向の解錠側に回転することを許容される、
シリンダ錠であって、
前記シリンダが、前記ロック位置と、前記ロック位置と前記解錠位置との間の切換位置との間の調心範囲内にあるときに、前記シリンダの軸心を前記シリンダアウタの軸心と一致させるように構成された調心機構、を更に備える、
シリンダ錠。
【請求項2】
前記切換位置は、タンブラ許容回転角の解錠側限界よりも周方向の解錠側にあり、前記解錠側限界とは、前記タンブラの前記側縁が前記ロック溝の解錠側の内側面と係合するときの前記シリンダの回転位置である、
請求項1に記載のシリンダ錠。
【請求項3】
前記調心範囲は、前記ロック位置と、タンブラ許容回転角の施錠側限界との間の角度範囲を含み、前記施錠側限界とは、前記タンブラの前記側縁が前記ロック溝の施錠側の内側面と係合するときの前記シリンダの回転位置である、
請求項1に記載のシリンダ錠。
【請求項4】
前記調心範囲は、前記ロック位置から前記解錠位置までの角度範囲の1/2以下である、
請求項1に記載のシリンダ錠。
【請求項5】
前記調心機構が、前記シリンダアウタに固定された固定当接部と、前記シリンダに固定されて前記シリンダの回転に応じて周方向に移動する可動当接部とを有し、
前記調心機構が、前記固定当接部と前記可動当接部とを径方向に接触させることで、前記シリンダの前記軸心を前記シリンダアウタの前記軸心と一致させるように構成されている、
請求項1から4のいずれか1項に記載のシリンダ錠。
【請求項6】
前記シリンダが前記調心範囲内にあると、前記固定当接部と前記可動当接部とが径方向に接触し、前記シリンダが前記調心範囲外にあると、前記固定当接部と前記可動当接部とが周方向に互いに離隔される、
請求項5に記載のシリンダ錠。
【請求項7】
前記固定当接部は、前記ロック溝と径方向に対向する位置に設けられている、
請求項5に記載のシリンダ錠。
【請求項8】
前記固定当接部は、前記シリンダアウタの前記軸心を挟んで径方向に対向する第1固定当接部および第2固定当接部を含み、
前記可動当接部は、前記第1固定当接部および前記第2固定当接部それぞれと対応し、前記シリンダの軸心を挟んで径方向に対向する第1可動当接部および前記第2可動当接部を含む、
請求項5に記載のシリンダ錠。
【請求項9】
前記シリンダが、軸方向において前記キー挿入孔の開口とは反対側にて、前記シリンダ挿入孔から軸方向に突出する突出部を有し、
前記可動当接部が、前記突出部に設けられ、前記シリンダ挿入孔の後外方で前記固定当接部と径方向に当接可能に配置される、
請求項5に記載のシリンダ錠。
【請求項10】
前記可動当接部が、前記シリンダの前端部の外周面から径方向に突出して設けられ、前記固定当接部が、前記シリンダアウタの前面に設けられている、
請求項5に記載のシリンダ錠。
【請求項11】
前記固定当接部は、
前記可動当接部と接触可能であり周方向に延びる主面と、
前記主面の周方向の解錠側の側縁から径方向外側に延びる第1側面と、
前記主面と前記第1側面とが成す角部とを有し、
前記角部が、湾曲されている、又は前記主面および前記第1側面に対し傾斜されている、
請求項5に記載のシリンダ錠。
【請求項12】
前記可動当接部は、
周方向に互いに離れた一対の側面と、
前記一対の側面の径方向外側端部同士を周方向に接続する対向面と、
前記対向面から径方向外側に突出し、前記対向面が前記主面と径方向に対向する位置関係で前記主面と当接する当接突起と、
を有する、
請求項11に記載のシリンダ錠。
【請求項13】
前記固定当接部および前記可動当接部が、剛性材料で成形される、
請求項5に記載のシリンダ錠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダ錠に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、シリンダアウタ、シリンダ、および複数のタンブラを備えるディスクタンブラー型のシリンダ錠を開示している。シリンダアウタは、シリンダが挿入されるシリンダ挿入孔、およびその内周面に凹設されたロック溝を有する。シリンダがロック位置にありキーが非挿入であると、全てのタンブラが径方向外側へ付勢され、ロック溝へ進入する。正規のキーが挿入されると、全てのタンブラがロック溝から離脱し、シリンダの回転が許容される。非正規の鍵様物が挿入されると、1以上のタンブラがロック溝内で留まる。シリンダを回転操作しようにも、タンブラの側縁がロック溝の内側面と係合し、シリンダの回転が規制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シリンダの動作性を考慮して、シリンダ挿入孔とシリンダとの間には、クリアランスが設定される。クリアランスが小さいと、シリンダの円滑な回転が阻害される。クリアランスが大きいと、シリンダがロック位置にある状態で、シリンダのシリンダアウタに対する相対変位可能量が大きくなり、タンブラのロック溝への進入量(すなわち、タンブラのシリンダアウタへの引掛量)が小さくなる事態が起こり得る。すると、鍵様物を用いてシリンダが強く操作された場合に、その操作力をタンブラの側縁とロック溝の内側面とで受け止めることが難しくなる。つまり、クリアランスが大きいと、防盗性の低下を招く。
【0005】
本発明は、シリンダ錠の動作性と防盗性とを両立することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の形態は、円筒状のシリンダ挿入孔、および前記シリンダ挿入孔の内周面に形成されたロック溝を有するシリンダアウタと、前記シリンダ挿入孔に回転可能に挿入される円筒状のシリンダ本体部、前記シリンダ本体部に形成されて軸方向に延びるキー挿入孔、および前記シリンダ本体部の周壁を貫通するタンブラ挿入孔を有するシリンダと、前記シリンダ本体部に収納される退避位置と、前記タンブラ挿入孔を介して前記シリンダ本体部から径方向外側に突出して前記ロック溝へ進入する突出位置との間で径方向に変位可能に、前記シリンダに支持されるタンブラと、を備え、前記シリンダがロック位置にあると、前記タンブラが前記突出位置へ付勢され、前記シリンダは、前記タンブラの側縁と前記ロック溝の内側面との係合により前記ロック位置から回転することを規制され、正規のキーが前記キー挿入孔に挿入されると、前記タンブラが前記退避位置へ変位し、前記シリンダは、前記ロック位置から所定の解錠位置に向けて周方向の解錠側に回転することを許容される、シリンダ錠であって、前記シリンダが、前記ロック位置と、前記ロック位置と前記解錠位置との間の切換位置との間の調心範囲内にあるときに、前記シリンダの軸心を前記シリンダアウタの軸心と一致させるように構成された調心機構、を更に備える、シリンダ錠を提供する。
【0007】
上記構成によれば、シリンダがロック位置と切換位置との間の調心範囲内にあるとき、調心機構の作用により、シリンダの軸心がシリンダアウタの軸心と一致される。クリアランスが大きくても、シリンダがロック位置にある状態且つ正規のキーが挿入されていない状態で、タンブラのロック溝への進入量は、理想値の付近で安定する。したがって、非正規の鍵様物でシリンダが回転操作されても、その操作力はタンブラの側縁とロック溝の内側面とにより適切に受け止められる。一方、正規のキーでシリンダが回転操作されると、シリンダが解錠位置に達する前にシリンダが切換位置に達する。切換位置の通過後、シリンダの回転は、調心機構が作用しない調心範囲外で行われる。そのため、シリンダは、解錠位置まで円滑に動作できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シリンダ錠の動作性と防盗性とを両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るシリンダ錠の前方斜視図。
【
図4】
図6のIV-IV線に沿ったシリンダ錠の断面図。
【
図5】
図4のV-V線に沿ったシリンダ錠の断面図。
【
図6】シリンダがロック位置にあるときのシリンダ錠の背面図。
【
図7】シリンダの可動範囲および調心機構の調心範囲を示す線図。
【
図10】タンブラが装着された状態のシリンダの前方斜視図。
【
図11】シリンダが切換位置にあるときのシリンダ錠の背面図。
【
図12】シリンダが解錠位置の一例としてのアクセサリ位置にあるときのシリンダ錠の背面図。
【
図13】本発明の第2実施形態に係るシリンダ錠の前方斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、全図を通じて同一のまたは対応する要素には同一の符号を付し、詳細な説明の重複を省略する。
【0011】
図1を参照して、第1実施形態に係るシリンダ錠100は、円筒状である。前後方向は、シリンダ錠100の軸方向と対応する。シリンダ錠100の前端面は、当該シリンダ錠100と合致する正規のキーを所持している正規利用者、あるいは非正規の鍵様物で解錠を企図する不正操作者と、前後方向に対峙する。
【0012】
シリンダ錠100は、いわゆるディスクタンブラー型である。シリンダ錠100は、シリンダアウタ1、シリンダ2、および複数のタンブラ3(
図2~
図5を参照)を備える。シリンダアウタ1およびシリンダ2は、いずれも円筒状であり、互いに同軸状に配置される。複数のタンブラ3は、
図1に示された外観には現れず、軸方向に並べられた状態でシリンダ2に装着される(
図10を参照)。
【0013】
例えば、シリンダ錠100は、自動車の運転席に装着され、車載のバッテリと電動機器との間に介在するスイッチの操作手段として適用される。シリンダアウタ1は、車体に固定される一方、シリンダ2は、シリンダアウタ1ひいては車体に対して中心軸周りに回転可能である。シリンダ2の前端面には、キー挿入口2aが露出される。利用者は、キー挿入口2aを介してキーをシリンダ2に挿入でき、挿入されたキーを摘まんでキーをシリンダ2と共に回転操作できる。シリンダアウタ1の前端面には、シリンダ2の回転位置を利用者に教示するための表示が設けられている。自動車用のシリンダ錠100に設定される特異な回転位置として、ロック位置θa、アクセサリ位置θb1、オン位置θb2、およびスタート位置θb3を例示できる。
【0014】
シリンダ錠100は、シリンダ2がロック位置θaにあるときにのみ、キーが挿入および抜出されることを許容する。アクセサリ位置θb1、オン位置θb2、およびスタート位置θb3は、それぞれ解錠位置θb(
図7を参照)の一例である。各解錠位置θbでの電動機器の挙動は公知であるため、その詳細説明を省略する。アクセサリ位置θb1、オン位置θb2、およびスタート位置θb3は、ロック位置θaから見て周方向の解錠側(本例では、前から見て時計回り)にこの順番で並べられている。例えば、アクセサリ位置θb1、オン位置θb2、およびスタート位置θb3は、ロック位置θaから解錠側にそれぞれ約50度、約90度、および約130度離れている。なお、シリンダ錠100は、スタート位置θb3からオン位置θb2へと周方向において解錠側とは反対の施錠側(本例では、前から見て反時計回り)にシリンダ2を付勢する付勢手段(図示せず)を備える。
【0015】
キーはロック位置θaでのみ抜出されるため、キーが非挿入であれば、シリンダ2はロック位置θaにある。正規のキーがキー挿入口2aに挿入されると、タンブラ3がシリンダ2に収納される。利用者がキーを摘まんでシリンダ2を解錠側に回転操作すると、シリンダ2がロック位置θaから回転し、その回転位置がアクセサリ位置θb1、オン位置θb2、およびスタート位置θb3の順で変わり得る。非正規の鍵様物がシリンダ2に挿入された場合、シリンダ2が解錠側に回転操作されても、タンブラ3がシリンダアウタ1に係止され、シリンダ2の回転が規制される。シリンダ2は、解錠位置θbに達し得ず、ロック位置θaに留められる。すなわち、不正な解錠操作を防止できる。
【0016】
図2および
図3を参照して、シリンダアウタ1は、中空円筒状のアウタ本体部10、およびアウタ本体部10の中心に形成されたシリンダ挿入孔11を有する。シリンダ挿入孔11は、円形の断面を有し、軸方向の両端で開放される。アウタ本体部10の前端面は、シリンダ挿入孔11の前端開口を取り囲む円環状である。回転位置の表示は、この前端面に設けられている。
【0017】
シリンダ2は、円筒状のシリンダ本体部20、シリンダ本体部20に形成されたキー挿入孔21、およびシリンダ本体部20の後端部から更に後方へ連続する突出部22を有する。キー挿入孔21は、後端で閉鎖されて前端で開放され、キー挿入孔21の前端開口が、前述したキー挿入口2aである。キー挿入孔21は、細長長方形状の横断面を有し、シリンダ本体部20の中心部で軸方向に延びる。なお、本書で「横断面」とは、軸方向に直交する断面を指す。
【0018】
シリンダ本体部20は、シリンダ挿入孔11内へその後端開口を介して前向きに挿入される。突出部22は、シリンダ本体部20よりも大径の鍔部23と、鍔部23から後方へ突出する先端部24とを含む。
図4に示すように、鍔部23はアウタ本体部10の後端部に当接し、シリンダ2はシリンダアウタ1に対して軸方向に位置決めされる。シリンダ本体部20の前端面は、アウタ本体部10の前端面よりも僅かに後に位置する。シリンダ本体部20のほぼ全体が、シリンダ挿入孔11内に収納され、突出部22は、シリンダ挿入孔11の後端開口よりも後方に位置する。
【0019】
図5に示すように、シリンダ本体部20の外径は、シリンダ挿入孔11の内径よりも僅かに小さい。シリンダ本体部20の外周面とシリンダ挿入孔11の内周面との間には、クリアランスCが設定される。これにより、シリンダ本体部20は、シリンダ挿入孔11内でシリンダ2の軸心A2周りに回転可能である。シリンダアウタ1およびシリンダ2が互いに同軸状に配置された状態を仮想すれば、クリアランスCは周方向の全周にわたり一様となる。
【0020】
図4および
図5を参照して、シリンダアウタ1は、シリンダ挿入孔11の内周面を径方向に凹ませることによって形成されたロック溝12を更に有する。シリンダ2は、シリンダ本体部20の周壁を貫通する複数のタンブラ挿入孔25を更に有する。複数のタンブラ挿入孔25は、複数のタンブラ3それぞれと対応する。タンブラ3の個数は、図示例の8に限定されない。
【0021】
各タンブラ3は、略長方形のディスクあり、その中央部にキー挿入孔21と略同形状の貫通穴30を有する。各タンブラ3は、その板厚方向が軸方向に向けられた姿勢且つ貫通孔30がキー挿入孔21と概ね軸方向に整合する姿勢で、シリンダ2に装着される。各タンブラ3は、突出位置と退避位置との間で径方向に変位可能にシリンダ2に支持される。各タンブラ3は、スプリング4を介してシリンダ2に支持され、スプリング4により径方向外側の突出位置へと付勢されている。
【0022】
複数のタンブラ3の半分が、その付勢方向を径方向の一方(
図2における紙面上方)とする上タンブラ3Uであり、残り半分が、その付勢方向を上タンブラ3Uとは逆方向(
図2における紙面下方)とする下タンブラ3Lである。上タンブラ3Uと下タンブラ3Lとは、軸方向に交互に並べられる。これに呼応して、複数のタンブラ挿入孔25の半分が、軸方向に並ぶ上タンブラ挿入孔25Uであり、残り半分が、軸方向に並ぶ下タンブラ挿入孔25Lであり、上タンブラ挿入孔25Uと下タンブラ挿入孔25Lとは、シリンダ本体部20の周壁に周方向に180度離れて配置される。ロック溝12は、周方向に180度離れて配置された上ロック溝12Uおよび下ロック溝12Lを含む。
【0023】
図5に示すように、軸方向に直交する断面において、ロック溝12は、シリンダ挿入孔11の内周面から径方向に延びる一対の内側面12a,12b、および一対の内側面12a,12bの先端縁同士を周方向に接続する内底面12cを有し、これら3面12a~12cが扇形の横断面を有する溝内空間12dを形成する。ロック溝12の前端は、シリンダ挿入孔11の軸方向中央部で終端し、シリンダアウタ1の前端面に開放されない。ロック溝12は、シリンダ挿入孔11の後部に設けられ、ロック溝12の後端は、シリンダ挿入孔11と共に後方へ開放されている。
【0024】
図4および
図5は、シリンダ2がロック位置θaにあるときの断面を示す。ロック位置θaでは、上タンブラ挿通孔25Uが上ロック溝12Uと径方向に対向し、下タンブラ挿通溝25Lが下ロック溝12Lと径方向に対向する。キーが非挿入であれば、全てのタンブラ3が、付勢力で突出位置に位置付けられる。各タンブラ3は、対応するタンブラ挿入孔25を介してシリンダ本体部20の外周面よりも径方向外側へと突出し、その先端部がロック溝12内に進入する。上タンブラ3Uの先端部は、上ロック溝12U内に進入し、下タンブラ3Lの先端部は、下ロック溝12L内に進入する。
【0025】
正規のキーがキー挿入孔21および貫通孔30に挿入されると、全てのタンブラ3が、付勢力に抗して突出位置から退避位置へと変位する。各タンブラ3は、シリンダ本体部20内に収納され、その先端部は、シリンダ本体部20の外周面に対して径方向内側に位置付けられる。そのため、利用者は、正規のキーを摘まんで回転操作することにより、シリンダ2の回転位置をロック位置θaから解錠位置θbへと変位させることができる。前述したクリアランスCが大きければ、この回転操作がより円滑に行われる。
【0026】
非正規の鍵様物がキー挿入孔21に挿入された場合には、少なくとも1つのタンブラ3が突出位置で留まる。そのため、シリンダ2が回転操作されても、突出位置で留まるタンブラ3の先端部の側縁が、ロック溝12の内側面12a,12bのいずれかと係合する。突出位置で留まるタンブラ3のロック溝12への進入量が多いほど、側縁と内側面12a,12bとが当接する部分の長さ(以下、「引掛量」)が大きく、より大きな操作力に抗してシリンダ2の回転を規制できる。つまり、引掛量が大きいほど、タンブラ3とシリンダアウタ1との間で発揮される係止効果が強くなり、防盗性が向上する。
【0027】
より詳細には、シリンダ2は、突出位置に留まるタンブラ3とシリンダアウタ1との間の遊びの範囲内で回転し得る。以下、この範囲を「タンブラ許容回転角Rc」という(
図7を併せて参照)。タンブラ許容回転角Rcの解錠側限界θc1は、ロック位置θaから見て解錠側にあり、施錠側限界θc2は、ロック位置θaから見て施錠側にある。シリンダ2が解錠側限界θc1に位置付けられているとき、突出位置で留まるタンブラ3の先端部の解錠側の側縁が、ロック溝12の解錠側の内周面12aと係合する。シリンダ2が施錠側限界θc2に位置付けられているとき、突出位置で留まるタンブラ3の先端部の施錠側の側縁が、ロック溝12の施錠側の内周面12bと係合する。タンブラ許容回転角Rcは、ロック位置θaとアクセサリ位置θb1との間の角度(例えば、約50度)と比べると極小である。一例として、タンブラ許容回転角Rcが約10度、解錠側限界θc1はロック位置θaから約+5度の位置、施錠側限界θc2がロック位置θaから見て約-5度の位置である。そのため、非正規の鍵様物がキー挿入孔21に挿入された場合、シリンダ2は、タンブラ許容回転角Rcの範囲内で回転し得るものの、実質的にはロック位置θaに留まる。
【0028】
ここで、非正規の鍵様物が挿入された結果として、1以上の上タンブラ3Uが突出位置に留まった一方で、全ての下タンブラ3Lが退避位置に変位した場合を想定する。シリンダ2は、前述したクリアランスCの大きさに応じて、シリンダアウタ1と同軸状である状態から、下ロック溝12Lが形成されている側へ径方向に変位し得る。この変位方向は、突出位置で留まる上タンブラ3Uが上ロック溝12Uから離脱する方向と合致する。そのため、この変位に伴い、上タンブラ3Uの引掛量が減少する。全ての下タンブラ3Lが退避位置にあるため、シリンダ2が下ロック溝12Lに近づいても、各下タンブラ3Lの引掛量はゼロのままである。これにより、シリンダ錠100全体としての係止効果が弱くなる。正規のキーが挿入された場合の回転操作を円滑にすべくクリアランスCが大きくなるほど、係止効果はより弱くなる。このように動作性と防盗性とはトレードオフの関係にある。
【0029】
図6および
図8を参照して、本実施形態に係るシリンダ錠100は、動作性と防盗性との両立を図るため、調心機構5を更に備える。調心機構5は、シリンダ2の軸心A2(すなわち、シリンダ本体部20の中心)をシリンダアウタ1の軸心A1(シリンダ挿入孔11の中心)と一致させるように構成される。
【0030】
本実施形態では、調心機構5が、シリンダアウタ1に設けられた第1固定当接部51および第2固定当接部52と、シリンダ2に設けられた第1可動当接部56および第2可動当接部57とを有する。固定当接部51,52は、シリンダアウタ1に固定され、シリンダ2の回転位置に関わらず移動しない。可動当接部56,57は、シリンダ2に固定される。そのため、可動当接部56,57は、シリンダ2の回転に応じて、シリンダアウタ1およびこれに固定された固定当接部51,52に対して周方向に移動する。調心機構5は、第1固定当接部51と第1可動当接部56との径方向の接触により、また、第2固定当接部52と第2可動当接部57との径方向の接触により、シリンダ2の軸心をシリンダアウタ1の軸心と一致させる。第1固定当接部51および第2固定当接部52は、第1可動当接部56および第2可動当接部57それぞれよりも径方向外側に位置する。以下、「調心」と単にいう場合、調心機構5の作用によるシリンダ2の軸心のシリンダアウタ1の軸心との一致を指す。
【0031】
図7を参照して、シリンダ2の可動範囲Rは、タンブラ許容回転角Rcの施錠側限界θc2(約-5度)から、解錠位置θbのなかで周方向においてロック位置θa(0度)から最も遠いスタート位置θb3(約130度)までの角度範囲である。別の観点から言えば、シリンダ2の可動範囲Rは、可動当接部56,57が固定当接部51,52と径方向に接触可能な調心範囲Rd1と、可動当接部56,57が固定当接部51,52から周方向に離隔されて調心機構5の作用が働かない非作用範囲Rd2との2種に分けられる。非作用範囲Rd2とは、可動範囲Rのうち調心範囲Rd1外である。以下、調心範囲Rd1と非作用範囲Rd2との境界を「切換位置θd」という。
【0032】
調心範囲Rd1は、ロック位置θa(0度)と、解錠位置に対してロック位置θa側(施錠側)にある切換位置θdとの間の範囲であり、ここでの「解錠位置」は、解錠位置θbのなかでロック位置θaに最も近いアクセサリ位置θb1(約50度)が好適である。調心範囲Rd1は、ロック位置θaからこのアクセサリ位置θb1までの角度範囲の1/2以下である。一方、調心範囲Rd1は、タンブラ許容回転角Rcよりも大きい。切換位置θdは、ロック位置θaとアクセサリ位置θb1の中間位置(約25度)よりも周方向の施錠側にあり、解錠側限界θc1(約5度)よりも周方向の解錠側にある。切換位置θdは、3度以上15度以下の範囲で設定し得る。単なる一例として、本実施形態では、切換位置θdが、約7度である。
【0033】
調心範囲Rd1は、ロック位置θa(0度)と施錠側限界θc2(約-5度)との間の範囲を含む。切換位置θdは、ロック位置θaから見て周方向の解錠側に存在し、施錠側には存在しない。単一の調心範囲Rd1が、施錠側限界θc2(約-5度)と切換位置θd(約7度)との間の範囲(約12度)であり、単一の非作用範囲Rd2が、切換位置θd(約7度)とスタート位置θb3(約130度)との間の範囲(約123度)である。これら2つの範囲Rd1,Rd2で、シリンダ2の可動範囲Rが、施錠側限界θc2(約-5度)からスタート位置θb3(約130度)まで網羅される。
【0034】
図9を参照して、第1固定当接部51は、上ロック溝12Uと径方向に対向する。第2固定当接部52は、下ロック溝12Lと径方向に対向する。上ロック溝12Uおよびこれに対応する第1固定当接部51は、下ロック溝12Lおよびこれに対応する第2固定当接部52と、シリンダアウタ1の軸心A1を挟んで径方向に対向する、すなわち、周方向に180度互いに離れている。
【0035】
固定当接部51,52は、シリンダアウタ1の後端部に設けられる。シリンダ本体部10は、シリンダ挿入孔11を形成する中心筒部13と、中心筒部13の外周面から放射状に突出する複数のリブ部14とを有する。シリンダアウタ1は、中心筒部13の後端面のうち周方向の一部から後方に突出する突出舌片15を有する。突出舌片15は、車両の構成部品(図示せず)に係合される。第1固定当接部51は、複数のリブ部14の一つの後端面に固着される。第2固定当接部52は、突出舌片15の側壁に装着される。
【0036】
第1固定当接部51は、周方向に延びる主面51a、主面51aの周方向の解錠側の側縁から径方向外側に延びる第1側面51b、および主面51aと側面51bとが成す角部51cを有する。主面51aは、軸方向に見たときに、シリンダアウタ1の軸心A1を中心とした短い円弧状である。角部51cは、湾曲されている。角部51cは、湾曲される代わりに、主面51aと第1側面51bとの双方に対して傾斜されていてもよい。第1固定当接部51は、主面51aの周方向の施錠側の側縁から径方向外側に延びる第2側面51d等の他の面を更に有してもよい。これと同様にして、第2固定当接部52も、主面52a、第1側面52b、および角部52cを有し、また、第2側面52d等の他の面を更に有してもよい。
【0037】
他方、シリンダ2は、前述したとおり、シリンダ挿入孔11から後方へ突出する突出部22を有する。可動当接部56,57は、突出部22、特に鍔部23の外周面上に設けられている。可動当接部56,57は、固定当接部51,52よりも径方向内側に位置する(
図6および
図8を参照)。
【0038】
図10を参照して、第1可動当接部56は、周方向に離れた一対の側面56a、一対の側面56aの径方向外側端部を周方向に接続する対向面56b、および対向面56bから径方向外側に突出する当接突起56cを有する。当接突起56cは、対向面56bの周方向の中央部に設けられ、対向面56b上で軸方向に延びる。当接突起56cの先端部は、軸方向に見たときに、径方向外側に凸の半円状である。これと同様にして、第2可動当接部57も、側面57a、対向面57b、および当接突起57cを有する。第1可動当接部56の当接突起56cと、第2可動当接部57の当接突起57cとは、シリンダ2の軸心A2を挟んで径方向において互いに反対側に向けられている。
【0039】
固定当接部51,52および可動当接部56,57は、剛性材料で成形される。剛性材料は、例えば金属材料であり、亜鉛合金、アルミニウム合金、およびマグネシウム合金は好適例であり、これら合金の鋳造により製作されてもよい。第1固定当接部51は、複数の面で囲まれた立体形状であるが、開放面を有することにより鋳造での単品化は可能である。更には、シリンダアウタが鋳造品である場合に、シリンダアウタ1の成形時に第1固定当接部51が一体的に成形されてもよい。第2固定当接部52および可動当接部56,57についても、これと同様である。
【0040】
シリンダ2とシリンダアウタ1との組付時においては、前述したとおり、シリンダ本体部20は、シリンダ挿入孔11に後から挿入される。この組付けの段階で、固定当接部51,52がシリンダアウタ1に取り付けられていてもよく、また、可動当接部56,57がシリンダ2に取り付けられていてもよい。この場合にあっても、可動当接部56,57は、シリンダ挿入孔11の後外方に配置されるため、挿入過程で各当接突起56c,57cを対応する主面51a,52a上で軸方向に摺接させるだけで、調心機構5は容易に組み上がる。
【0041】
図6を参照して、このような調心機構5を備えたシリンダ錠100において、シリンダ2がロック位置θaにあるとする。第1可動当接部56の当接突起56cが、第1固定当接部51の主面51aの周方向の中央部に当接し、また、第2可動当接部57の当接突起57cが、第2固定当接部52aの主面52aの周方向の中央部に当接する。主面51a,52aがシリンダアウタ1の軸心A1を中心とする円弧状であり且つ当接突起57c,58cがシリンダ2の軸心A2を挟んで径方向において互いに反対側に突出しているため、シリンダアウタ1の軸心A1とシリンダ2の軸心A1とが互いに一致される。すなわち、調心機構5が、作用する。
【0042】
正規のキーが挿入されて全てのタンブラ3が退避位置へと変位すると、利用者は、そのキーを摘まんでシリンダ2をロック位置θaから解錠側に回転操作することを許容される。
【0043】
図11に示すように、シリンダ2の回転位置が切換位置θdに達すると、第1可動当接部56の当接突起56cが第1固定当接部51の角部51cと接触し、第2可動当接部57の当接突起57cが第2固定当接部52の角部52cと接触する。
【0044】
図12に示すように、シリンダ2が切換位置θdから更に解錠側へ回転操作されると、当接突起56c,57cは、固定当接部51,52から周方向に離れていく。回転位置は非作用範囲Rd2に入り、調心機構5が作用しなくなる。これ以降、シリンダ2は、回転位置がスタート位置θb3に達するまで、調心機構5が作用しない非作用範囲Rd2内で回転する。そのため、太矢印で示すように、シリンダ2はクリアランスCの範囲内で径方向に変位自在となり、回転動作が円滑となる。
【0045】
シリンダ2の回転位置がロック位置θaから切換位置θdまでの調心範囲Rd1内にある間、2つの可動当接部56,57が2つの固定当接部51,52にそれぞれ径方向に当接していることから、利用者は、例えば摩擦力のような、調心機構5が作用していることによって発生し得る抵抗に抗して、回転操作を行う必要がある。しかし、切換位置θdは、ロック位置θaとアクセサリ位置θb1との中間位置よりも施錠側にある。シリンダ2のロック位置θaから解錠位置θbまでの回転のうち、このような抵抗が生じるのは半分以下の一部である。そのため、円滑な回転操作は阻害されない。
【0046】
正規のキーが挿入されており、シリンダ2がオン位置θb2にあるとする。利用者は、キーを抜出すべく、そのキーを摘まんでシリンダ2をオン位置θb2から施錠側に回転操作することを許容される。シリンダ2は非作用範囲Rd2内にあるため、利用者は、円滑な回転操作を開始できる(
図12を参照)。シリンダ2がアクセサリ位置θb1を通過して切換位置θdに達すると(
図11を参照)、当接突起56cが第1固定当接部51の角部51cと当接し、当接突起57cが第2固定当接部52の角部52cと当接する。ここまでのシリンダ2の挙動においては、クリアランスCの存在により良好な操作性が得られる反面、シリンダ2の軸心A2がシリンダアウタ1の軸心A1に対して偏心している可能性がある。
【0047】
ここで、シリンダ2の軸心A2が、シリンダアウタ1の軸心A1に対し、径方向において第1固定当接部51に近づく側、すなわち第2固定当接部52から遠ざかる側に偏心しているものとする。この場合、第1可動当接部56の当接突起56cの先端部は、角部51cの表面のうち、比較的に径方向外側の部位に当接する。周方向の施錠側への回転操作が継続されると、当接突起56cは、湾曲され又は傾斜されている角部51cの表面に倣って、径方向内側へと案内されながら、周方向の施錠側へ移動し、主面51aと当接する。この過程で、第2可動当接部57の当接突起57cの先端部は、角部52cの表面あるいは主面52aに当接する。これにより、調心機構5が作用する。
【0048】
シリンダ2は、調心機構5が作用し続ける状態で、ロック位置θaに到達する(
図6を参照)。利用者は、キーを抜出可能である。なお、シリンダ2の軸心A2がシリンダアウタ1の軸心A1に対して径方向において第2固定当接部52に近づく側に偏心している場合においても、これと同様である。
【0049】
利用者は、切換位置θdの前後で調心機構5が作用し始めるとき、およびそれ以降の調心機構5が作用しているときにおいて、抵抗に抗した回転操作力を入力する必要がある。しかし、その期間は短く、円滑な回転操作は阻害されない。
【0050】
次に、非正規の鍵様物が挿入され、少なくとも1つの上タンブラ3Uが突出位置に留まる一方、全てのタンブラ3Lが退避位置へと変位したとする。この場合において、調心機構5の作用で、シリンダ2の軸心A2はシリンダアウタ1の軸心A1と一致している。固定当接部51,52および可動当接部56,57は剛性材料で成形されるため、不正操作者が過大な力をシリンダ2に径方向に入力しても、調心機構5がその力を受け止める。そのため、調心が維持される。上記のように動作性の確保のためにクリアランスCが比較的に大きく設定されていたとしても、突出位置に留まるタンブラ3の引掛量は減少しない。
【0051】
切換位置θdは、解錠側限界θc1よりも解錠側に設定されている。つまり、シリンダ2が解錠側限界θc1にあるときに、各当接突起56c,57cは、対応する主面51a,52a上にある。また、調心範囲Rd1は、施錠側限界θc2から切換位置θdまでの角度範囲である。つまり、シリンダ2が施錠側限界θc2にあるときにも、各当接突起56c,57cは、対応する主面51a,52a上にある。各当接突起56c,57cが、対応する主面51a,52aから施錠側へ離脱することはない。シリンダ2がタンブラ許容回転角Rcにあるとき、調心機構5は作用し続ける。そのため、不正操作者が、ロック位置θaから解錠側および施錠側に強い操作力を入力したとしても、タンブラ3の施錠側の側縁がロック溝12の内周面12bと係合する施錠側限界θc2で所望の係止効果が発揮され、タンブラ3の解錠側の側縁がロック溝12の内周面12aと係合する解錠側限界θc1で所望の係止効果が発揮される。
【0052】
以上のように、本実施形態に係るシリンダ錠100によれば、動作性と防盗性とを両立できる。
【0053】
次に、
図13を参照して、上記第1実施形態との相違を中心に、本発明の第2実施形態について説明する。
【0054】
シリンダアウタ1が、アウタ本体部10の前面に装着されるアウタキャップ16を有する。アウタキャップ16は、正面視で円環状であり、その中央部に貫通孔16aを有する。アウタキャップ16は、貫通孔16aを介してシリンダ2の前端面およびそこに形成されたキー挿入口2aを前方へ露出させる一方、シリンダ2の外周側に位置付けられたアウタ本体部10の前端面を覆う。解錠位置θbを利用者に教示するための指示は、アウタキャップ16の前端面に設けられている。
【0055】
本実施形態に係る調心機構5は、シリンダ錠100の後端部ではなく前端部に設けられている。調心機構5は、アウタキャップ16で覆われ、シリンダ錠100の実用中に利用者によって視認不可となる。
【0056】
調心機構5は、第1実施形態と同様にして、シリンダアウタ1に設けられた第1固定当接部51及び第2固定当接部52と、シリンダ2に設けられた第1可動当接部56及び第2可動当接部57とを有する。第1可動当接部56及び第2可動当接部57は、シリンダ本体部20の前端部の外周面から径方向に突出している。第1固定当接部51及び第2固定当接部52は、アウタ本体部10の前端面に設けられている。調心範囲は、第1実施形態と同様である。シリンダ2の回転角が調心範囲内にあるとき、第1固定当接部51及び第2固定当接部52は、第1可動当接部56及び第2可動当接部57と径方向に当接する。
【0057】
このように、調心機構5はシリンダ錠100の前端部にも配置可能である。本実施形態に係るシリンダ錠100においても、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0058】
また、本実施形態においては、調心機構5がシリンダアウタ1、及び、シリンダ2の前端側に設けられており、調心機構5とシリンダ2のキー挿入口2aとの距離が近いため、キー挿入口2aに挿入された正規のキーを摘まんでキーをシリンダ2と共に回転操作する際、第1固定当接部51及び第2固定当接部52と、第1可動当接部56及び第2可動当接部57とのこじれを抑制でき、よりスムーズにキーを使用してシリンダ2を回転させることができる。
【0059】
これまで、実施形態について説明したが、上記の構成は、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更、追加、または削除可能である。
【0060】
固定当接部および可動当接部の組の数は、2組に限定されず、1組でもよいし、3組以上でもよい。固定当接部と可動当接部とは必ずしも接触する必要はなく、固定当接部と可動当接部とが径方向に対向する状態で、その対向間隔がクリアランスCよりも小さければよい。これにより、調心機構がない場合と比べ、防盗性が向上する。調心機構の調心作用には、固定当接部と可動当接部の径方向の接触によるクリアランスの解消のみならず、その他の力(例えば、電磁力)が利用されてもよい。シリンダ錠100は、自動車用に限定されず、その他の用途にも適用可能である。
【符号の説明】
【0061】
100 シリンダ錠
1 シリンダアウタ
2 シリンダ
3 タンブラ
5 調心機構
11 シリンダ挿入孔
12 ロック溝
12a,12b 内側面
20 シリンダ本体部
21 キー挿入孔
25 タンブラ挿入孔
23 突出部
51,52 固定当接部
51a,52a 主面
51b,52b 第1側面
51c,52c 角部
56,57 可動当接部
56a,57a 側面
56b,57b 対向面
56c,57c 当接突起
A1,A2 軸心
Rc タンブラ許容回転角
Rd1 調心範囲
Rd2 非作用範囲
θa ロック位置
θb 解錠位置
θc1 解錠側限界
θc2 施錠側限界
θd 切換位置