(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104962
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】機械学習方法および判定装置
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20240730BHJP
【FI】
G06T7/00 350C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009432
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】304050923
【氏名又は名称】オリンパスメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】葉梨 拓哉
【テーマコード(参考)】
5L096
【Fターム(参考)】
5L096AA06
5L096BA06
5L096BA13
5L096CA02
5L096DA02
5L096HA09
5L096HA11
5L096JA03
5L096JA11
5L096JA18
5L096KA04
5L096KA15
5L096MA07
(57)【要約】
【課題】未学習の細菌の画像が入力された場合でも、類縁の細菌種を推定することができる機械学習方法を提供する。
【解決手段】機械学習方法は、識別器12に第1対象を写した少なくとも1枚の画像を入力して、第1特徴量を抽出させ、識別器12に前記第1対象とは異なる第2対象を写した少なくとも1枚の画像を入力して、第2特徴量を抽出させ、第1特徴量と第2特徴量との距離が、第1対象、および、第2対象の遺伝情報に基づく類縁度に近づくように識別器12を学習させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
識別器に第1対象を写した少なくとも1枚の画像を入力して、第1特徴量を抽出させ、
前記識別器に前記第1対象とは異なる第2対象を写した少なくとも1枚の画像を入力して、第2特徴量を抽出させ、
前記第1特徴量と前記第2特徴量との距離が、前記第1対象、および、前記第2対象の遺伝情報に基づく類縁度に近づくように前記識別器を学習させる機械学習方法。
【請求項2】
前記距離と前記類縁度の差分が最小化するように前記識別器のパラメータを調整させることで、前記識別器を学習させる請求項1に記載の機械学習方法。
【請求項3】
前記遺伝情報に基づく類縁度は、遺伝距離、RNAの発現量の差、またはタンパク質発現量の差である請求項1に記載の機械学習方法。
【請求項4】
前記第1対象および前記第2対象は細菌である請求項1に記載の機械学習方法。
【請求項5】
プロセッサを含み、
前記プロセッサは、
請求項1に記載の方法で学習した識別器に第3対象の画像を入力し、
前記識別器が出力した特徴量と、学習済特徴量の代表値との差から判定用距離を算出し、
前記判定用距離から前記第3対象を判別する判定装置。
【請求項6】
前記プロセッサは、
学習済みの対象との前記判定用距離が所定値以下の場合、前記学習済みの対象と同種、または前記学習済みの対象の近縁種と判定し、
前記判定用距離が前記所定値を超える場合、unknownと判定する請求項5に記載の判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械学習方法および判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物の検出・同定試験は、医療分野における臨床診断を目的として広く行われている。この微生物の検出・同定試験は、微生物を培養して得られたコロニーの色や形状を目視で観察して菌種を判定する手法が取られている。
【0003】
また、菌種を高精度で判定する手法として、例えば、特許文献1には、予めコロニーの画像と菌種とをセットに学習した学習器(識別器)に、コロニーの画像を入力して菌種を出力させる手法が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、予めコロニーの画像と菌種とをセットに学習した学習機を用いて推論を行うと、入力したコロニーの画像が未学習の細菌の画像の場合、未知の特徴、かつ対応する既知クラスもないため、最も画像特徴が類似した無関係のクラスと識別されるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、未学習の細菌の画像が入力された場合でも、類縁の細菌種を推定することができる機械学習方法および判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の機械学習方法は、識別器に第1対象を写した少なくとも1枚の画像を入力して、第1特徴量を抽出させ、前記識別器に前記第1対象とは異なる第2対象を写した少なくとも1枚の画像を入力して、第2特徴量を抽出させ、前記第1特徴量と前記第2特徴量との距離が、前記第1対象、および、前記第2対象の遺伝情報に基づく類縁度に近づくように前記識別器を学習させる。
【0008】
また、本発明の一態様の判定装置は、プロセッサを含み、前記プロセッサは、上記の機械学習方法で学習した識別器に第3対象の画像を入力し、前記識別器が出力した特徴量と、学習済特徴量の代表値との差から判定用距離を算出し、前記判定用距離から前記第3対象を判別する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の画像処理装置、機械学習方法および判定装置によれば、未学習の細菌の画像が入力された場合でも、類縁の細菌種を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態1に係る判定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】識別器に含まれる画像判別モデルの一例を示す説明図である。
【
図3】学習時の処理について説明するための説明図である。
【
図4】学習時の処理の流れの例を示すフローチャートである。
【
図5】推論時の処理について説明するための説明図である。
【
図6】推論時の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図7】従来のクラス分類を用いた学習および推論について説明するための図である。
【
図8】本実施形態の遺伝距離(類縁度)を用いた学習および推論について説明するための図である。
【
図9】従来のクラス分類を用いた推定結果の一例を示す図である。
【
図10】本実施形態の遺伝距離(類縁度)を用いた推定結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態1)
以下、図面を参照して本発明の実施形態1を説明する。
図1は、実施形態1に係る判定装置の構成の一例を示すブロック図である。
図1に示すように、判定装置1は、制御部11と、識別器12と、距離算出部13と、判定部14と、表示部15と、記憶部16と、を有して主要部が構成されている。判定装置1は、例えばパーソナルコンピュータやスーパーコンピュータにより構成される。
【0012】
制御部11は、判定装置1の全体を統括的に制御する。制御部11は、CPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いたプロセッサにより構成されている。制御部11は、記憶部16に記憶されたプログラムに従って動作して各部を制御するものであってもよいし、ハードウェアの電子回路で各機能の一部又は全部を実現するものであってもよい。
【0013】
制御部11は、所定の対象が写された画像を識別器12に入力する。なお、識別器12に入力される画像は、記憶部16に記憶されていてもよいし、図示しない通信部を介して判定装置1の外部から入力されてもよい。
【0014】
具体的には、制御部11は、後述する画像判別モデル12aを生成する際の学習時には、第1対象が写された第1の画像と、第1対象とは異なる第2対象が写された第2の画像とを識別器12に入力する。一方、制御部11は、学習により得られた画像判別モデル12aを用いて推論する際には、第3対象を写した第3の画像を識別器12に入力する。
【0015】
第1対象、第2対象、第3対象は、生物由来のサンプルであり、例えば、細菌、細菌を培養して得られたコロニー、組織、細胞、生物の個体全体、または生物の頭部、腕部または脚部などのパーツ、であり、固定や染色などの適切な前処理が施されていてもよい。組織としては例えばがん組織、細胞としては例えばがん細胞が挙げられる。画像の撮影は対象の状態によって適切な撮影方法を選択する。撮影方法は、例えば、反射光、発光、蛍光、りん光、透過光撮影などの手法を用いる。
【0016】
なお、以下の説明では、第1対象、第2対象及び第3対象の画像として細菌の画像が識別器12に入力されるものとして説明する。
【0017】
識別器12は、後述する機械学習により得られた画像判別モデル12aを含む。識別器12は、入力された細菌の画像から特徴量を算出して出力する。
【0018】
学習時には、距離算出部13は、識別器12から出力された第1の画像の特徴量と第2の画像の特徴量との差を算出する。一方、推論時には、距離算出部13は、識別器12から出力された第3の画像の特徴量と、学習済み細菌の特徴量の代表値との差から判定用距離を算出する。学習済み菌種の特徴量の代表値は、記憶部16に記憶されている。
【0019】
判定部14は、距離算出部13により算出された判定用距離から菌種を判定する。具体的には、判定部14は、判定用距離が所定値以下か否かを判定し、判定用距離が所定値以下の場合、学習済みの菌種と同種、又は、学習済みの菌種の近縁種と判定する。一方、判定部14は、判定用距離が所定値を超える場合、unknownと判定する。判定部14は、判定結果を表示部15に出力する。
【0020】
表示部15は、判定部14から出力された判定結果を表示する。
【0021】
記憶部16には、制御部11が判定装置1の各部を制御するためのプログラムの他、上述した識別器12に入力する画像及び学習済み菌種の特徴量の代表値等が記憶されている。
【0022】
ここで、識別器12に含まれる画像判別モデル12aについて説明する。
図2は、識別器に含まれる画像判別モデルの一例を示す説明図である。
図2の画像判別モデル12aは、入力層、中間層及び出力層を有する。
図2の画像判別モデル12aは、入力及び出力に対応する大量のデータセットを教師データとして所定のネットワークに与えて例えば深層学習することにより得られるものである。
【0023】
機械学習に採用するネットワークとしては、公知の種々のネットワークを採用してもよい。画像を入力として所属クラスを出力する画像判別タスクに用いられるネットワーク、例えば、ResNetやDenseNet,MobileNetとその派生モデルに代表されるCNN(Convolution Neural Network)やTransformer、MLP-mixerおよびその派生モデルを利用しても良い。ニューラル・ネットワークの層の数は特に限定されない。
【0024】
次に、学習時の処理について
図3及び
図4を用いて説明する。
図3は、学習時の処理について説明するための説明図である。
【0025】
学習時には、制御部11の制御により、異なる2つの細菌の画像が識別器12に入力される。
図3の例では、第1対象を写した細菌Aの画像IM1と、第1対象とは異なる第2対象を写した細菌Cの画像IM2とが識別器12に入力される。識別器12は、細菌Aの画像IM1から第1特徴量である細菌AのA特徴量F1を出力する。同様に、識別器12は、細菌Cの画像から第2特徴量である細菌CのC特徴量F2を出力する。
【0026】
続いて、距離算出部13は、識別器12から出力されたA特徴量F1とC特徴量F2との差である距離D1を算出する。ニューラル・ネットワークの学習初期においては画像が有する個々の特徴についての重みは初期設定に寄るため2つの特徴量の差である距離D1は、遺伝距離に寄らない。本実施例では、この距離D1が細菌Aと細菌Cとの遺伝距離に近づくようにニューラル・ネットワークを学習させる。
【0027】
細菌Aと細菌Cの遺伝距離、言い換えると、細菌Aと細菌Cの遺伝情報に基づく類縁度である。なお、類縁度は、対象同士の遺伝情報に限定されるものではなく、発現量の差、又は、タンパク質発現量の差であってもよい。
【0028】
類縁度は対象間の関係を数値化したものであればよく、発現解析のクラスタリングまたは遺伝距離であってよい。
【0029】
菌種同士の遺伝距離は、予め求められて例えばテーブルTBLとして記憶部16に記憶されている。
図3に示すように、細菌Aと細菌Bの遺伝距離は「5」であり、細菌Aと細菌Cの遺伝距離は「8」であり、細菌Aと細菌Dの遺伝距離は「4」である。また、細菌Bと細菌Cの遺伝距離は「7」であり、細菌Bと細菌Dの遺伝距離は「3」であり、細菌Cと細菌Dの遺伝距離は「2」である。
【0030】
なお、遺伝距離は任意の遺伝子配列の比較により算出し、例えば、再節約法、距離行列法、平均距離法、近隣結合法、最尤法を用いる。解析対象は第1対象、第2対象の性質に応じて適切に選択することが望ましい。なお、遺伝子配列には、塩基配列又はアミノ酸配列を用いてもよい。ゲノム全体または特定の遺伝子を用いてもよい。また塩基配列はDNAであってもRNAであっても良い。
【0031】
なお、発現解析のクラスタリングにより類似度を算出する場合、例えば、階層的クラスタリング、k-means、主成分分析、多次元尺度構成法、非負行列分解を用いる。なお、発現解析の対象遺伝子は塩基配列又はアミノ酸配列を用いてもよい。また塩基配列はDNAであってもRNAであっても良い。
【0032】
例えば、A特徴量とC特徴量との距離D1が「6」と算出された場合、遺伝距離(類縁度)が「8」に近づくように識別器12の画像判別モデル12aを最適化する。具体的には、A特徴量とC特徴量との距離D1と遺伝距離(類縁度)の差分が最小化するように、識別器12の画像判別モデル12aのパラメータを調整させることで、識別器12を学習させる。
【0033】
この最適化の処理では、算出された距離D1の情報およびテーブルTBLに記憶された細菌Aと細菌Cの遺伝距離の情報を識別器12にフィードバックして再度学習させる。なお、最適化の処理は複数回実行してもよく、A特徴量とC特徴量との距離D1が細菌Aと細菌Cの遺伝距離である「8」に近づくように学習させる。
【0034】
細菌Aと細菌C以外の組み合わせについても同様に学習させることで、画像判別モデル12aを生成する。例えば、細菌Bと細菌Dの遺伝距離は「3」である。そのため、細菌Bの画像と細菌Dの画像を識別器12に入力し、B特徴量とD特徴量との距離が「3」に近づくように画像判別モデル12aを最適化する。
【0035】
このように、本実施形態の学習時には、2つの異なる細菌の画像と、2つの異なる細菌の遺伝距離(類縁度)とをセットで対応させた学習を行う。
【0036】
図4は、学習時の処理の流れの例を示すフローチャートである。
まず、制御部11は、第1対象を写した画像を識別器12に入力して、第1特徴量を抽出させる(S1)。
【0037】
次に、制御部11は、第1対象とは異なる第2対象を写した画像を識別器12に入力して、第2特徴量を抽出させる(S2)。
【0038】
次に、制御部11の制御により、距離算出部13は、第1特徴量と第2特徴量の距離を算出する(S3)。
【0039】
最後に、制御部11は、第1特徴量と第2特徴量との距離が、第1対象及び第2対象の遺伝情報に基づく類縁度に近づくように識別器12を学習させる(S4)。なお、
図4の処理では、第1対象の画像と第2対象の画像についてのみ学習しているが、他の異なる対象の画像についても同様の学習を行うことで、識別器12が生成される。
【0040】
次に、このように学習された識別器12を用いて菌種を推論する処理について
図5及び
図6を用いて説明する。
図5は、推論時の処理について説明するための説明図である。
【0041】
推論時には、制御部11により第3対象を写した細菌Xの画像IM3が識別器12に入力される。識別器12は、第3対象を写した細菌Xの画像IM3からX特徴量F3を出力する。
【0042】
距離算出部13は、識別器12から出力されたX特徴量F3と、学習済みの菌種の特徴量の代表値との差から判定用距離D2を算出する。学習済みの菌種の特徴量の代表値は、その菌種の特徴量の平均値や中央値である。代表値の算出方法は既存のクラスタリングの考えを適用可能である。
【0043】
学習済みの菌種として、細菌A、細菌B、細菌C及び細菌Dの特徴量の代表値が記憶部16に記憶されている場合、距離算出部13は、識別器12が出力したX特徴量と、細菌A、細菌B、細菌C及び細菌Dの特徴量の代表値との差から判定用距離D2をそれぞれ算出する。
【0044】
この結果、距離算出部13により、例えば、細菌Xと細菌Aとの判定用距離D2は「1」、細菌Xと細菌Bとの判定用距離D2は「4」、細菌Xと細菌Cとの判定用距離D2は「7」、細菌Xと細菌Dとの判定用距離D2は「3」と算出される。
【0045】
判定部14は、距離算出部13により算出された判定用距離D2に基づき、細菌Xの菌種を判定する。判定部14は、距離算出部13により算出された判定用距離の値が小さい程、類縁度が近い(遺伝距離が近い)と判定する。
図5の例では、判定部14は、識別器12に入力された細菌Xは、細菌Aに最も類似していると判定する。そのため、判定部14は、識別器12に入力された画像の細菌Xが学習済みの細菌Aと同種、又は、学習済みの細菌Aの近縁種と判定する。
【0046】
より具体的には、判定部14は、算出された複数の判定用距離D2を所定値とそれぞれ比較し、判定用距離D2が所定値以下の場合、学習済みの菌種と同種、又は、学習済みの菌種の近縁種と判定する。なお、判定部14は、所定値以下の菌種が複数ある場合、最も判定用距離の値が小さい菌種を、学習済みの菌種と同種、又は、学習済みの菌種の近縁種と判定する。
【0047】
一方、判定部14は、算出された複数の判定用距離D2を所定値とそれぞれ比較し、判定用距離の全てが所定値を超える場合、unknownと判定する。すなわち、判定部14は、判定用距離の全てが所定値を超える場合、学習済みの菌種に同種がない、又は、学習済みの菌種に近縁種がないと判定する。このように判定された判定結果は、表示部15に表示される。
【0048】
図6は、推論時の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
まず、制御部11は、
図4に示す処理により学習した識別器12に第3対象を写した画像を入力し、第3特徴量を抽出させる(S11)。
【0049】
次に、制御部11の制御により、距離算出部13は、識別器12が出力した第3特徴量と、学習済の特徴量の代表値との差から判定用距離を算出する(S12)。
【0050】
次に、制御部11の制御により、判定部14は、判定用距離に基づき第3対象を判定する(S13)。判定部14は、判定用距離が所定値以下か否かを判定する(S14)。判定部14は、判定用距離が所定値以下と判定した場合、学習済みの対象と同種、又は、学習済みの対象の近縁種と判定し(S15)、処理を終了する。一方、判定部14は、判定用距離が所定値を超えると判定した場合、unknownと判定し(S16)、処理を終了する。このように判定された判定結果は、表示部15に表示される。
【0051】
ここで、従来のクラス分類を用いた学習および推論、及び、本実施形態の遺伝距離(類縁度)を用いた学習および推論について説明する。
【0052】
図7は、従来のクラス分類を用いた学習および推論について説明するための図である。
図8は、本実施形態の遺伝距離(類縁度)を用いた学習および推論について説明するための図である。
【0053】
図7に示すように、従来のクラス分類を用いた学習では、細菌が写された画像(あるいは、コロニーの画像)と細菌種(細菌名)とをセットで対応させて学習する。例えば、
図7の例では、細菌の画像IM11と細菌種である「細菌A」とをセットで対応させて学習する。同様に、細菌の画像IM12と細菌種である「細菌B」とをセットで対応させ、細菌の画像IM13と細菌種である「細菌C」とをセットで対応させて学習する。
【0054】
このように学習した識別器を用いて推論を行う際に、未学習の細菌Yの画像IM14が識別器に入力されることがある。未学習の細菌Yの画像IM14が識別器に入力された場合、未知の特徴、かつ対応する既知クラスもないため、最も画像特徴が類似した無関係のクラス(この場合、細菌B)と識別されてしまう。すなわち、従来の識別器は、未学習の細菌Yの画像IM14が入力された場合でも、学習済みの細菌種(細菌A、細菌B及び細菌C)のいずれかとして推論結果を出力する。
【0055】
これに対し、
図8に示すように、本実施形態では細菌種そのものではなく、複数の画像と複数の画像の遺伝距離(類縁度)とをセットで対応させた学習を行う。
【0056】
そして、推論時は、入力された画像の細菌Yと全ての学習済みの細菌との遺伝距離(類縁度)が出力される。このため、推論時は、従来のように、既知クラスのいずれに識別されるかではなく、全ての学習済みの細菌との遺伝距離(類縁度)が出力されるため、未学習の細菌Yの画像IM14が入力された場合、分類上どの学習済みの細菌に近いかの情報を取得することができる。
図8の例では、未学習の細菌Yは、学習済みの細菌Cに近いと判定される。
【0057】
この結果、入力された画像の細菌と学習済みの細菌との遺伝距離(類縁度)が所定値以下であった場合、入力された画像の細菌は、学習済みの細菌と同種(又は近縁種)と判定することができる。一方、入力された画像の細菌と学習済みの細菌との遺伝距離(類縁度)が所定値を超える場合、入力された画像の細菌は、学習済みの細菌と同種(又は近縁種)でないと判定することができる。所定値は遺伝距離の算出方法、比較対象などにより適宜設定することができる。
【0058】
図9は、従来のクラス分類を用いた推定結果の一例を示す図である。この例では16sRNAを対象とし、距離行列法を用いて、細菌間の類縁度を算出した。
図9は、入力画像の細菌と推定結果との関係を示している。
【0059】
図9に示す細菌名の前半は「属」、後半は「種」に対応する。例えば、アシネトバクター・レイディオレジステンス(Acinetobacter radioresistens)は、アシネトバクターが「属」、レイディオレジステンスが「種」に対応する。
【0060】
例えば、アシネトバクター・レイディオレジステンスの画像が入力され、推定結果がアシネトバクター・レイディオレジステンスと出力された場合、正解となる。
【0061】
また、
図9において、スタフィロコッカス・カピティス(Staphylococcus capitis)、及び、スタフィロコッカス・パストゥリ(Staphylococcus pasteuri)は、未学習の細菌である。同様に、バチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)、及び、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)は、未学習の細菌である。その他の細菌は、学習済みの細菌である。
【0062】
そのため、推定結果として、未学習の細菌であるスタフィロコッカス・カピティス、スタフィロコッカス・パストゥリ、バチルス・サーキュランス、及び、バチルス・メガテリウムが出力されることはなく、推定結果は全て「0」となっている。
【0063】
上記の4つの未学習の細菌の画像が従来の識別器に入力された際には、同一の「属」と判定された場合に正解とする。すなわち、スタフィロコッカス・カピティス、及び、スタフィロコッカス・パストゥリは、スタフィロコッカス属の他の菌種と判定された場合、正解とする。具体的には、スタフィロコッカス・カピティス、及び、スタフィロコッカス・パストゥリは、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、又は、スタフィロコッカス・ヘモリティカス(Staphylococcus haemolyticus)と判定された場合、正解とする。
【0064】
同様に、バチルス・サーキュランス、及び、バチルス・メガテリウムは、バチルス属の他の菌種と判定された場合、正解とする。具体的には、バチルス・サーキュランス、及び、バチルス・メガテリウムは、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・フィルムス(Bacillus firmus)、又は、バチルス・プミルス(Bacillus pumilus)と判定された場合、正解とする。すなわち、
図9において、網掛け部分が正解となる。
【0065】
従来の識別器は、学習済みの細菌については、属名が一致した正解率が約82.2%であった。一方、従来の識別器は、未学習の細菌については、属名が一致した正解率が約20.2%であった。このように、従来のクラス分類による推定結果は、学習済みの細菌については正解率が高いが、未学習の細菌については正解率が非常に低かった。
【0066】
図10は、本実施形態の遺伝距離(類縁度)を用いた推定結果の一例を示す図である。
図10は、
図9と同様に、入力画像の細菌と推定結果との関係を示している。
【0067】
図10において、スタフィロコッカス・カピティス、スタフィロコッカス・パストゥリ、バチルス・サーキュランス、及び、バチルス・メガテリウムは、
図9と同様に未学習の細菌である。ただし、未学習の細菌についても、特徴量の代表値を記憶部16に記憶した状態で推論を行っている。そのため、
図10では、入力した画像の細菌が未学習の細菌に最も近いと推定される推定結果も含まれている。すなわち、
図10では、未学習の細菌であるスタフィロコッカス・カピティス、スタフィロコッカス・パストゥリ、バチルス・サーキュランス、及び、バチルス・メガテリウムの推定結果は全て「0」になっていない。
【0068】
図10に示すように、本実施形態の判定装置1は、学習済みの細菌については、属名が一致した正解率が約90.7%に向上している。さらに、本実施形態の判定装置1は、未学習の細菌については、属名が一致した正解率が約79.7%に向上している。
【0069】
このように、本実施形態の遺伝距離(類縁度)による推定結果は、従来のクラス分類を用いた推定結果に比べて、学習済みの細菌だけでなく、未学習の細菌についても正解率が非常に高くなっている。
【0070】
以上のように、本実施形態の判定装置1は、未学習の細菌の画像が入力された場合でも、類縁の細菌種を推定することができる。
【0071】
(実施形態2)
実施形態1では、細菌種の推定を例示したが本発明はこれに限定されない。
【0072】
例えばがん細胞の画像と正常細胞の画像とを用いて、特徴量の差がタンパク質発現量の差に近づくように学習させることで、組織の中に発現したがん細胞部分を特定することができる。また、利用する画像と類縁度の算出方法の組み合わせで表1に示すような応用も可能である。
【表1】
【0073】
なお、本明細書におけるフローチャート中の各ステップは、その性質に反しない限り、実行順序を変更し、複数同時に実行し、あるいは実行毎に異なった順序で実行してもよい。
【0074】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変えない範囲において、種々の変更、改変等が可能である。
【符号の説明】
【0075】
1…判定装置、11…制御部、12…識別器、12a…画像判別モデル、13…距離算出部、14…判定部、15…表示部、16…記憶部、F1~F3…特徴量、IM1~IM3,IM11~IM14…画像。