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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104964
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】振動デバイス
(51)【国際特許分類】
   H03B 5/32 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
H03B5/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009434
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100148323
【弁理士】
【氏名又は名称】川▲崎▼ 通
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】田中 敦嗣
【テーマコード(参考)】
5J079
【Fターム(参考)】
5J079AA04
5J079BA02
5J079CA04
5J079CA12
5J079CB01
5J079FA01
5J079FB24
5J079FB31
5J079FB38
5J079FB39
5J079FB47
5J079JA03
(57)【要約】
【課題】熱源回路の発熱量が急激に変化しても温度補償を精度よく行うことが可能な振動デバイスを提供すること。
【解決手段】振動子と、前記振動子と離間して配置された回路装置と、を含み、前記回路装置は、前記振動子を駆動する駆動回路と、検出した温度に応じた温度信号を生成する温度センサーと、前記温度信号に基づいて前記振動子の駆動状態の温度特性を補償する温度補償回路と、第1状態、又は前記第1状態とは消費電流が異なる第2状態で動作する熱源回路と、前記熱源回路の前記第1状態と前記第2状態とが切り替わったときに、前記温度センサーが検出する温度の過渡応答と前記振動子の温度の過渡応答との差を補償する過渡応答補償回路と、を有する、振動デバイス。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動子と、前記振動子と離間して配置された回路装置と、を含み、
前記回路装置は、
前記振動子を駆動する駆動回路と、
検出した温度に応じた温度信号を生成する温度センサーと、
前記温度信号に基づいて前記振動子の駆動状態の温度特性を補償する温度補償回路と、
第1状態、又は前記第1状態とは消費電流が異なる第2状態で動作する熱源回路と、
前記熱源回路の前記第1状態と前記第2状態とが切り替わったときに、前記温度センサーが検出する温度の過渡応答と前記振動子の温度の過渡応答との差を補償する過渡応答補償回路と、
を有する、振動デバイス。
【請求項2】
請求項1において、
前記温度信号はデジタル信号であり、
前記過渡応答補償回路は、前記温度信号に対してフィルター処理を行うデジタルフィルターを含む、振動デバイス。
【請求項3】
請求項2において、
前記デジタルフィルターは、ローパスフィルターである、振動デバイス。
【請求項4】
請求項2において、
前記デジタルフィルターは、メモリーに記憶されたデータに基づくカットオフ周波数で動作する、振動デバイス。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項において、
前記熱源回路の前記第1状態と前記第2状態とが切り替わった後、所定期間が経過した後に前記過渡応答補償回路が動作を停止する、振動デバイス。
【請求項6】
請求項1において、
前記駆動回路は、前記振動子を発振させて発振信号を生成し、
前記温度補償回路は、前記発振信号又は前記発振信号に基づくクロック信号の周波数温度特性を補償し、
前記熱源回路は、前記発振信号又は前記クロック信号に基づいて少なくとも1つの出力クロック信号を出力する出力回路である、振動デバイス。
【請求項7】
請求項6において、
少なくとも1つの外部制御信号が入力され、前記外部制御信号に基づいて、前記出力回路の前記第1状態と前記第2状態とが切り替わる、振動デバイス。
【請求項8】
請求項7において、
少なくとも1つの前記外部制御信号として、第1イネーブル制御信号と第2イネーブル制御信号が入力され、
前記出力回路は、
前記第1イネーブル制御信号がアクティブのとき、第1出力クロック信号を出力し、
前記第2イネーブル制御信号がアクティブのとき、第2出力クロック信号を出力する、振動デバイス。
【請求項9】
請求項8において、
前記第1状態は、前記第1出力クロック信号が出力される状態であり、
前記第2状態は、前記第1出力クロック信号及び前記第2出力クロック信号の両方が出力される状態である、振動デバイス。
【請求項10】
請求項8において、
前記出力回路は、
前記発振信号に基づいて前記第1出力クロック信号を出力する第1バッファー回路と、
前記発振信号に基づいて前記第2出力クロック信号を出力する第2バッファー回路と、を含み、
前記第1状態において、前記第1バッファー回路が前記第1出力クロック信号を出力し、
前記第2状態において、前記第1バッファー回路が前記第1出力クロック信号を出力し、且つ前記第2バッファー回路が前記第2出力クロック信号を出力する、振動デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ICチップ内に温度センサーと温度補償回路と複数の出力バッファーとを備え、オン/オフ制御が可能な出力バッファーの出力とは逆位相となる水晶接続端子から見て、その出力バッファーの出力端子を、オン/オフ制御がされない出力バッファーの出力端子よりも遠い位置に配置した温度補償水晶発振器が記載されている。特許文献1に記載の温度補償水晶発振器によれば、発振回路側への発振周波数成分の回り込みが小さくなって、出力バッファーのオン/オフ制御に伴う発振周波数の変動を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-156977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の温度補償水晶発振器では、出力バッファーのオン/オフが切り替わって出力バッファーの発熱量が急激に変化した場合、IC内部の温度センサーは温度変化を速やかに検出するのに対して、ICチップとは別体である振動子の温度変化が遅れるので、温度補償に誤差が生じて発振周波数が変動するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る振動デバイスの一態様は、
振動子と、前記振動子と離間して配置された回路装置と、を含み、
前記回路装置は、
前記振動子を駆動する駆動回路と、
検出した温度に応じた温度信号を生成する温度センサーと、
前記温度信号に基づいて前記振動子の駆動状態の温度特性を補償する温度補償回路と、
第1状態、又は前記第1状態とは消費電流が異なる第2状態で動作する熱源回路と、
前記熱源回路の前記第1状態と前記第2状態とが切り替わったときに、前記温度センサーが検出する温度の過渡応答と前記振動子の温度の過渡応答との差を補償する過渡応答補償回路と、
を有する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】振動デバイスの機能的な構成を示す図。
図2】第1実施形態の振動デバイスの斜視図。
図3】第1実施形態の振動デバイスの断面図。
図4】第1実施形態の振動デバイスの機能ブロック図。
図5】メモリーに対するデータの書き込み及び読み出しのタイミングチャートの一例を示す図。
図6】出力回路が第1状態から第2状態に切り替わったときの熱の伝搬経路を示す図。
図7図6の伝搬経路に基づく熱回路網を示す図。
図8】出力回路が第1状態から第2状態に切り替わる場合の温度の過渡応答及び周波数偏差の時間変化の一例を示す図。
図9】第2実施形態の振動デバイスの機能ブロック図。
図10】温度補償回路及びPLL回路の構成例を示す図。
図11】変形例の振動デバイスの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0008】
1.振動デバイスの機能的構成
図1は、本実施形態の振動デバイスの機能的な構成を示す図である。図1に示すように、本実施形態の振動デバイス1は、回路装置2と、振動子3とを含む。回路装置2と、振動子3は、不図示パッケージに収容されている。
【0009】
回路装置2は、温度センサー100と、過渡応答補償回路110と、温度補償回路120と、駆動回路130と、メモリー140と、熱源回路150とを含む。なお、回路装置2は、これらの要素の一部を省略又は変更し、あるいは他の要素を追加した構成としてもよい。
【0010】
駆動回路130は、振動子3を駆動し、振動子3を振動させる。
【0011】
温度センサー100は、温度を検出し、検出した温度に応じた温度信号DTを生成する。温度信号DTは、デジタル信号であってもよい。
【0012】
温度補償回路120は、温度センサー100が生成した温度信号DTに基づいて振動子3の駆動状態の温度特性を補償する。具体的には、メモリー140に、振動子3の駆動状態の温度特性を補償するための温度補償データTCDが記憶されており、温度補償回路120は、温度信号DTと温度補償データTCDとに基づいて、振動子3の駆動状態の温度特性を補償する。
【0013】
熱源回路150は、動作することにより発熱する回路であり、第1状態、又は第1状態とは消費電流が異なる第2状態で動作する。熱源回路150が第1状態で動作するときの発熱量と第2状態で動作するときの発熱量とは異なる。例えば、熱源回路150が第2状態で動作するときの消費電流が第1状態で動作するときの消費電流よりも大きい場合は、熱源回路150が第2状態で動作するときの発熱量は第1状態で動作するときの発熱量よりも大きい。したがって、この場合、熱源回路150が第1状態から第2状態に切り替わると、熱源回路150の発熱量が増加する。また、熱源回路150が第2状態から第1状態に切り替わると、熱源回路150の発熱量が減少する。逆に、熱源回路150が第2状態で動作するときの消費電流が第1状態で動作するときの消費電流よりも小さい場合は、熱源回路150が第2状態で動作するときの発熱量は第1状態で動作するときの発熱量よりも小さい。したがって、この場合、熱源回路150が第1状態から第2状態に切り替わると、熱源回路150の発熱量が減少する。また、熱源回路150が第2状態から第1状態に切り替わると、熱源回路150の発熱量が増加する。
【0014】
過渡応答補償回路110は、熱源回路150の第1状態と第2状態とが切り替わったときに、温度センサー100が検出する温度の過渡応答と振動子3の温度の過渡応答との差を補償する。例えば、熱源回路150の第1状態と第2状態とが切り替わる前後で熱源回路150の発熱量が増加する場合、熱源回路150から温度センサー100へと熱が伝搬
して温度センサー100の温度が上昇し、熱源回路150からパッケージを介して振動子3へと熱が伝搬して振動子3の温度が上昇する。逆に、熱源回路150の第1状態と第2状態とが切り替わる前後で熱源回路150の発熱量が減少する場合、温度センサー100から熱源回路150へと熱が伝搬して温度センサー100の温度が低下し、振動子3からパッケージを介して熱源回路150へと熱が伝搬して振動子3の温度が低下する。このとき、温度センサー100と熱源回路150とは回路装置2に含まれているため、温度センサー100と熱源回路150との間では速やかに熱が伝搬するのに対して、回路装置2は振動子3と離間して配置されているため、振動子3と熱源回路150との間ではパッケージを介して熱が伝搬し、熱の伝搬が遅くなる。そのため、熱源回路150の第1状態と第2状態とが切り替わったとき、温度センサー100が検出する温度の過渡応答は、振動子3の温度の過渡応答よりも速い。過渡応答補償回路110は、この過渡応答の差を補償する。
【0015】
例えば、温度信号DTがデジタル信号であり、過渡応答補償回路110は、温度信号DTに対してフィルター処理を行うデジタルフィルターを含んでもよい。このデジタルフィルターは、ローパスフィルターであってもよい。温度信号DTがデジタルフィルターを通過することで、デジタルフィルターのカットオフ周波数に応じた群遅延が生じ、温度補償回路120への温度信号DTの入力が遅延することになる。その結果、温度センサー100が検出する温度の過渡応答と振動子3の温度の過渡応答との差が補償され、温度補償回路120による温度補償精度が向上する。
【0016】
このデジタルフィルターは、メモリー140に記憶されたデータに基づくカットオフ周波数で動作してもよい。すなわち、あらかじめメモリー140に記憶されたデータに応じて、デジタルフィルターのカットオフ周波数が可変であってもよい。
【0017】
なお、振動デバイス1のパッケージの外部の気温が変化したときは、温度センサー100と外気との間での熱の伝搬時間と、振動子3と外気との間での熱の伝搬時間との差が小さい。そのため、過渡応答補償回路110が常に動作している場合、熱源回路150が第1状態又は第2状態で変わらないときに外気温が変化すると、温度補償回路120によって温度補償が過剰に行われてしまうことになる。したがって、熱源回路150の第1状態と第2状態とが切り替わった後、所定期間が経過した後に過渡応答補償回路110が動作を停止することが好ましい。この所定期間は、例えば、熱源回路150の第1状態と第2状態とが切り替わってから、振動子3の温度の過渡応答が収束するまでの期間であってもよい。
【0018】
2.振動デバイスの具体例
以下では、図1に示した振動デバイス1の具体例として、温度補償型発振器を例に挙げて説明する。
【0019】
2-1.第1実施形態
2-1-1.振動デバイスの構造
図2及び図3は、第1実施形態の振動デバイス1の構造の一例を示す図である。図2は、振動デバイス1の斜視図であり、図3は、図2のA-A断面図の一例である。
【0020】
図2及び図3に示すように、振動デバイス1は、回路装置2、振動子3、パッケージ4、リッド5及び複数の外部端子6を含む。
【0021】
本実施形態では、振動子3は、基板材料として水晶を用いた水晶振動子であり、例えば、ATカット水晶振動子や音叉型水晶振動子等である。ただし、振動子3は、SAW共振子やMEMS振動子であってもよい。SAWはSurface Acoustic Waveの略であり、ME
MSはMicro Electro Mechanical Systemsの略である。また、振動子3の基板材料としては、水晶の他、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム等の圧電単結晶や、ジルコン酸チタン酸鉛等の圧電セラミックス等の圧電材料、又はシリコン半導体材料等を用いることができる。振動子3の励振手段としては、圧電効果によるものを用いてもよいし、クーロン力による静電駆動を用いてもよい。
【0022】
また、本実施形態では、回路装置2は1チップの集積回路で実現されている。ただし、回路装置2は、少なくとも一部がディスクリート部品で構成されていてもよい。
【0023】
図3に示すように、振動子3は、その表面及び裏面にそれぞれ金属の励振電極3a,3bを有しており、励振電極3a,3bを含む振動子3の形状や質量に応じた所望の周波数で発振する。
【0024】
図3に示すように、振動デバイス1は、シングルシール構造の発振器であり、パッケージ4は、回路装置2と振動子3とを同一空間内に収容する。例えば、パッケージ4は、セラミックパッケージであってもよい。具体的には、パッケージ4には、凹部が設けられており、リッド5で凹部を覆うことによって収容室7となる。
【0025】
図3に示すように、回路装置2の底面20には、複数の端子21が設けられている。また、振動デバイス1の底面であるパッケージ4の裏面には、複数の外部端子が設けられている。パッケージ4の内部又は凹部の表面には、回路装置2の2つの端子21と、振動子3の2つの励振電極3a,3bとをそれぞれ電気的に接続するための不図示の配線が設けられている。これらの配線により、回路装置2は、振動子3と電気的に接続される。また、パッケージ4の内部又は凹部の表面には、回路装置2の他の複数の端子21と振動デバイス1の複数の外部端子6とをそれぞれ電気的に接続するための不図示の配線が設けられている。
【0026】
2-1-2.振動デバイスの構成
図4は、第1実施形態の振動デバイス1の機能ブロック図である。図4において、図1と同様の構成要素には同じ符号が付されている。図4に示すように、第1実施形態の振動デバイス1は、回路装置2と、振動子3とを含む。振動デバイス1は、6個の外部端子6として、TV端子、TG端子、TO1端子、TO2端子、TE1端子及びTE2端子を有している。回路装置2は、8個の端子21として、PV端子、PG端子、PO1端子、PO2端子、PE1端子、PE2端子、PXI端子及びPXO端子を有している。回路装置2のPV端子、PG端子、PO1端子、PO2端子、PE1端子及びPE2端子は、振動デバイス1のTV端子、TG端子、TO1端子、TO2端子、TE1端子及びTE2端子とそれぞれ電気的に接続されている。回路装置2のPXI端子は振動子3の一端と電気的に接続され、回路装置2のPXO端子は振動子3の他端と電気的に接続されている。回路装置2は、TV端子からPV端子を介して供給される電源電圧VDDと、TG端子からPG端子を介して供給されるグラウンド電圧GNDとが供給されて動作する。
【0027】
本実施形態では、振動デバイス1は、温度検出回路101、A/D変換回路102、デジタルフィルター111、温度補償回路120、発振回路131、メモリー140、出力回路151、インターフェース回路170及びD/A変換回路180を含む。なお、振動デバイス1は、これらの要素の一部を省略又は変更し、あるいは他の要素を追加した構成としてもよい。
【0028】
発振回路131は、XI端子及びXO端子を介して振動子3の両端と電気的に接続され、振動子3を発振させて発振信号Voscを生成する。具体的には、発振回路131は、振動子3から出力される信号がXO端子を介して入力され、当該信号を増幅した信号を、
XI端子を介して振動子3に供給する。発振回路131は、負荷容量として機能する可変容量回路132を含み、発振信号Voscは、可変容量回路132の容量値に応じた周波数となる。発振回路131は、図1に示した駆動回路130に対応する。
【0029】
温度検出回路101は、温度を検出し、検出した温度に応じた電圧のアナログ信号である温度信号VTを出力する。例えば、温度検出回路101は、PN接合の順方向電圧の温度依存性を利用した回路であってもよい。A/D変換回路102は、温度検出回路101から出力されるアナログ信号である温度信号VTをデジタル信号である温度信号DTに変換する。例えば、A/D変換回路102は、逐次比較型のA/D変換回路であってもよい。温度検出回路101及びA/D変換回路102は、図1に示した温度センサー100に対応する。
【0030】
デジタルフィルター111は、A/D変換回路102から出力される温度信号DTに対してフィルター処理を行う。デジタルフィルター111は、ローパスフィルターであってもよい。
【0031】
温度補償回路120は、デジタルフィルター111から出力される温度信号DTXに基づいて、振動子3の駆動状態の温度特性としての発振信号Voscの周波数温度特性を補償する。具体的には、メモリー140に、発振信号Voscの周波数温度特性を補償するための温度補償データTCDが記憶されており、温度補償回路120は、温度信号DTXと温度補償データTCDとに基づいてデジタル信号である温度補償信号DCを生成する。温度補償回路120は、例えば、振動子3の周波数温度特性が3次曲線になる場合、当該周波数温度特性を打ち消すような3次曲線の各次数の係数値を含む温度補償データTCDに基づいて、発振信号Voscの周波数が温度によらずに一定に近づくように補正する。
【0032】
デジタルフィルター111及び温度補償回路120は、例えば、DSP160によって実現される。DSPは、Digital Signal Processorの略である。
【0033】
D/A変換回路180は、温度補償回路120から出力されるデジタル信号である温度補償信号DCをアナログ信号である温度補償電圧VCに変換する。この温度補償電圧VCは、発振回路131に含まれる可変容量回路132に印加され、可変容量回路132は温度補償電圧VCの大きさに応じた容量値となる。発振回路131の発振周波数は可変容量回路132の容量値に応じて変化する。D/A変換回路180から出力される温度補償電圧VCは、温度検出回路101が検出する温度に応じて変化し、その結果、発振回路131の発振周波数が温度によらず一定の周波数に近づくように制御される。
【0034】
メモリー140は、各種の情報を記憶する不図示の不揮発性メモリーやレジスターを含む。不揮発性メモリーは、例えば、MONOS型メモリーやEEPROM等であってもよい。MONOSはMetal Oxide Nitride Oxide Siliconの略であり、EEPROMはElectrically Erasable Programmable Read-Only Memoryの略である。振動デバイス1の製造工程において、メモリー140の不揮発性メモリーに、各回路を制御するための各種の情報、例えば、デジタルフィルター111のカットオフ周波数や次数を設定するためのデータや温度補償回路120を制御するための温度補償データ等が記憶される。そして、TVD端子への電源電圧VDDの供給が開始されると、メモリー140の不揮発性メモリーに記憶されている各種の情報はレジスターに転送され、当該レジスターに保存された各種の情報が適宜各回路に供給される。
【0035】
インターフェース回路170は、TVD端子への電源電圧VDDの供給が開始してから所定期間内に、TE2端子から所定のパターンの制御信号が入力された場合に、当該所定期間の経過後に動作モードを外部通信モードに設定する。例えば、インターフェース回路
170は、電源電圧VDDの供給により振動子3が発振を開始して発振が安定したことを検出するまでの期間を当該所定期間としてもよいし、発振信号Voscのパルス数をカウントし、カウント値が所定の値に到達したら当該所定期間が経過したと判断してもよい。また、例えば、インターフェース回路170は、電源電圧VDDの供給により動作を開始するRC時定数回路の出力信号に基づいて当該所定期間を計測してもよい。
【0036】
外部通信モードでは、インターフェース回路170は、PE1端子及びPE2端子を介して、TE1端子及びTE2端子と接続される不図示の外部装置とデータ通信を行うことができる。外部装置は、所定の通信規格に従い、TE1端子にシリアルクロック信号を出力し、シリアルクロック信号に同期して、TE2端子にシリアルデータ信号を出力し、あるいは、インターフェース回路170からPE2端子を介してTE2端子に出力される信号を取得する。インターフェース回路170は、外部通信モードにおいて、例えばI2Cバスの規格に準じて、シリアルクロック信号のエッジ毎に、各種のコマンドとしてのシリアルデータ信号をサンプリングする。I2Cは、Inter-Integrated Circuitの略である。そして、インターフェース回路170は、サンプリングしたコマンドに基づいて、動作モードの設定や、メモリー140に対するデータの書き込みや読み出し等の処理を行う。なお、本実施形態では、インターフェース回路170は、例えば、I2Cバス等の2線式バスの通信規格で外部装置と通信を行うが、SPIバス等の3線式バスあるいは4線式バスの通信規格で外部装置と通信を行ってもよい。SPIは、Serial Peripheral Interfaceの略である。
【0037】
例えば、インターフェース回路170は、外部通信モードにおいて、メモリー140に対する書き込みコマンドをサンプリングした場合、当該書き込みコマンドで指定されたメモリー140のアドレスに、当該書き込みコマンドで指定されたデータを書き込む。また、インターフェース回路170は、外部通信モードにおいて、メモリー140に対する読み出しコマンドをサンプリングした場合、当該読み出しコマンドで指定されたメモリー140のアドレスからデータを読み出し、シリアルデータに変換して出力する。図5に、TVD端子への電源電圧VDDの供給が開始してから外部通信モードに移行した後、外部通信モードにおいて、メモリー140に対するデータの書き込み及び読み出しが行われる場合のタイミングチャートの一例を示す。
【0038】
また、例えば、インターフェース回路170は、外部通信モードにおいて、通常動作モード設定コマンドをサンプリングした場合、動作モードを外部通信モードから通常動作モードに移行させる。通常動作モードでは、インターフェース回路170は、TE1端子及びTE2端子からPE1端子及びPE2端子を介して入力される信号を、それぞれ第1イネーブル制御信号EN1及び第2イネーブル制御信号EN2として出力回路151に供給する。したがって、通常動作モードでは、TE1端子及びTE2端子に入力される信号に基づいて、TO1端子からの第1出力クロック信号CK1及びTO2端子からの第2出力クロック信号CK2の出力が制御される。
【0039】
なお、インターフェース回路170は、電源電圧VDDの供給が開始してから所定期間内に、TE2端子から所定のパターンの信号が入力されない場合には、当該所定期間の経過後に動作モードを外部通信モードに設定せずに、直接、通常動作モードに設定する。
【0040】
出力回路151は、発振回路131から出力される発振信号Voscに基づいて少なくとも1つの出力クロック信号を出力する。例えば、出力回路151は、第1バッファー回路152と、第2バッファー回路153とを含む。第1バッファー回路152は、発振信号Voscに基づいて第1出力クロック信号CK1を出力し、第2バッファー回路153は、発振信号Voscに基づいて第2出力クロック信号CK2を出力する。例えば、第1バッファー回路152は、発振信号Voscをバッファリングして第1出力クロック信号
CK1を出力し、第2バッファー回路153は、発振信号Voscをバッファリングして第2出力クロック信号CK2を出力する。第1出力クロック信号CK1と第2出力クロック信号CK2とは、同じ周波数であってもよいし、異なる周波数であってもよい。また、第1出力クロック信号CK1と第2出力クロック信号CK2とは、同じ信号形式であってもよいし、異なる信号形式であってもよい。第1出力クロック信号CK1は、PO1端子を介してTO1端子から外部に出力される。第2出力クロック信号CK2は、PO2端子を介してTO2端子から外部に出力される。なお、図4では、出力回路151が2つの出力クロック信号CK1,CK2を出力しているが、3つ以上の出力クロック信号を出力するようにしてもよい。
【0041】
出力回路151は、動作することにより発熱する回路であり、第1状態、又は第1状態とは消費電流が異なる第2状態で動作する。すなわち、出力回路151は、図1に示した熱源回路150に対応する。出力回路151が第1状態で動作するときの発熱量と第2状態で動作するときの発熱量とは異なる。本実施形態では、振動デバイス1の外部から少なくとも1つの外部制御信号が入力され、当該外部制御信号に基づいて、出力回路151の第1状態と第2状態とが切り替わる。例えば、少なくとも1つの外部制御信号として、TE1端子及びTE2端子から、PE1端子及びPE2端子を介して第1イネーブル制御信号EN1及び第2イネーブル制御信号EN2が入力される。そして、出力回路151は、第1イネーブル制御信号EN1がアクティブのとき、第1バッファー回路152が動作して第1出力クロック信号CK1を出力し、第2イネーブル制御信号EN2がアクティブのとき、第2バッファー回路153が動作して第2出力クロック信号CK2を出力する。
【0042】
本実施形態では、出力回路151の第1状態は、第1出力クロック信号CK1が出力される状態であり、出力回路151の第2状態は、第1出力クロック信号CK1及び第2出力クロック信号CK2の両方が出力される状態である。すなわち、本実施形態では、出力回路151の第1状態において、第1バッファー回路152が第1出力クロック信号CK1を出力し、出力回路151の第2状態において、第1バッファー回路152が第1出力クロック信号CK1を出力し、且つ第2バッファー回路153が第2出力クロック信号CK2を出力する。
【0043】
したがって、出力回路151が第2状態で動作するときの消費電流は、第1状態で動作するときの消費電流よりも大きい。そのため、出力回路151が第1状態から第2状態に切り替わると、出力回路151の発熱量が増加する。逆に、出力回路151が第2状態から第1状態に切り替わると、出力回路151の発熱量が減少する。
【0044】
出力回路151の第1状態と第2状態とが切り替わる前後で出力回路151の発熱量が増加する場合、出力回路151から温度検出回路101へと熱が伝搬して温度検出回路101の温度が上昇し、出力回路151からパッケージ4を介して振動子3へと熱が伝搬して振動子3の温度が上昇する。逆に、出力回路151の第1状態と第2状態とが切り替わる前後で出力回路151の発熱量が減少する場合、温度検出回路101から出力回路151へと熱が伝搬して温度検出回路101の温度が低下し、振動子3からパッケージ4を介して出力回路151へと熱が伝搬して振動子3の温度が低下する。
【0045】
図6は、出力回路151が第1状態から第2状態に切り替わったときの出力回路151から温度検出回路101への熱の伝搬経路と、出力回路151から振動子3への熱の伝搬経路を示す。また、図7は、図6の伝搬経路に基づく熱回路網を示す図である。図6及び図7において、Qは、出力回路151を発生源とする熱流量である。また、Ric、Cic及びTicは、それぞれ回路装置2の熱抵抗、熱容量及び温度である。また、Rpkg、Cpkg及びTpkgは、それぞれパッケージ4の熱抵抗、熱容量及び温度である。また、R、C及びTは、それぞれ振動子3の熱抵抗、熱容量及び温度である。また
、Tは外気の温度である。
【0046】
図6に示すように、温度センサー100と出力回路151とは回路装置2に含まれているため、出力回路151と温度センサー100に含まれる温度検出回路101との間では速やかに熱が伝搬するのに対して、回路装置2は振動子3と離間して配置されており、出力回路151と振動子3との間ではパッケージ4を介して熱が伝搬し、熱の伝搬が遅くなる。そのため、図7に示すように、出力回路151と温度検出回路101との間での熱伝搬の時定数は、出力回路151と振動子3との間での熱伝搬の時定数よりも大きく、出力回路151の第1状態と第2状態とが切り替わったとき、温度検出回路101が検出する温度の過渡応答は、振動子3の温度の過渡応答よりも速い。
【0047】
A/D変換回路102から出力される温度信号DTがデジタルフィルター111を通過することで、デジタルフィルター111のカットオフ周波数に応じた群遅延が生じ、温度補償回路120への温度信号DTの入力が遅延することになる。その結果、デジタルフィルター111の時定数によって、出力回路151と温度検出回路101との間での熱伝搬の時定数と、出力回路151と振動子3との間での熱伝搬の時定数との差が小さくなるため、温度検出回路101が検出する温度の過渡応答と振動子3の温度の過渡応答との差が補償され、温度補償回路120による温度補償精度が向上する。すなわち、デジタルフィルター111は、出力回路151の第1状態と第2状態とが切り替わったときに、温度検出回路101が検出する温度の過渡応答と振動子3の温度の過渡応答との差を補償する機能を有し、図1に示した過渡応答補償回路110に対応する。
【0048】
デジタルフィルター111は、メモリー140に記憶されたデータに基づく次数やカットオフ周波数で動作してもよい。すなわち、あらかじめメモリー140に記憶されたデータに応じて、デジタルフィルター111の次数やカットオフ周波数が可変であってもよい。これにより、デジタルフィルター111の時定数を微調整することが可能となり、デジタルフィルター111による過渡応答の補償精度が向上する。その結果、温度補償回路120による温度補償精度がより向上する。
【0049】
なお、振動デバイス1のパッケージ4の外部の気温が変化したときは、温度検出回路101と外気との間での熱の伝搬時間と、振動子3と外気との間での熱の伝搬時間との差が小さい。そのため、デジタルフィルター111が常に動作している場合、出力回路151が第1状態又は第2状態で変わらないときに外気温が変化すると、温度補償回路120によって温度補償が過剰に行われてしまうことになる。したがって、出力回路151の第1状態と第2状態とが切り替わった後、所定期間が経過した後にデジタルフィルター111が動作を停止することが好ましい。この所定期間は、例えば、出力回路151の第1状態と第2状態とが切り替わってから、振動子3の温度の過渡応答が収束するまでの期間であってもよい。
【0050】
2-1-3.作用効果
図8は、出力回路151が第1状態から第2状態に切り替わる場合の、温度信号DT,DTXが示す温度の過渡応答、振動子3の温度の過渡応答及び第1出力クロック信号CK1の周波数偏差の時間変化の一例を示す図である。図8には、比較例の振動デバイスにおける第1出力クロック信号CK1の周波数偏差の時間変化も一点鎖線で示されている。比較例の振動デバイスは、図4においてデジタルフィルター111が無く、その他の構成は振動デバイス1と同じである。図8の例では、第1イネーブル制御信号EN1がアクティブ(ハイレベル)のときに、時刻t1において、第2イネーブル制御信号EN2が非アクティブ(ローレベル)からアクティブ(ハイレベル)に変化している。したがって、時刻t1よりも前は出力回路151が第1状態で動作し、時刻t1以降は出力回路151が第2状態で動作している。時刻t1の前後で出力回路151の発熱量が増加し、温度検出回
路101が検出する温度、すなわち温度信号DTが示す温度が上昇する。その後少し遅れて振動子3の温度が上昇するので、比較例の振動デバイスでは、時刻t1から振動子3の温度上昇が開始するまでの期間において温度補償がかかりすぎて第1出力クロック信号CK1の周波数偏差が増加し、ピークでは109ppbとなっている。一方、本実施形態の振動デバイス1では、温度信号DTよりも勾配が緩やかな温度信号DTXに基づいて適切な温度補償がかかるので、第1出力クロック信号CK1の周波数偏差のピークが18ppbに抑えられている。なお、図8の例では、時刻t1から時刻t2までの所定期間が経過すると、外気温の変化に対する応答を速くするためにデジタルフィルター111の動作が停止している。
【0051】
このように、第1実施形態の振動デバイス1では、出力回路151の第1状態と第2状態とが切り替わったとき、出力回路151の消費電流が変化して発熱量が急激に変化した場合、この発熱量の変化により、出力回路151と同じく回路装置2に含まれる温度検出回路101は速やかに温度変化を検出するのに対して、回路装置2とは別体である振動子3の温度変化が遅れる。しかしながら、第1実施形態の振動デバイス1によれば、温度検出回路101が生成する温度信号DTの急激な変化が、デジタルフィルター111によって緩やかになるので、温度検出回路101が検出する温度の過渡応答と振動子3の温度の過渡応答との差が補償され、出力回路151の消費電流が急激に変化しても、温度補償回路120が温度補償を精度よく行うことができる。具体的には、第1実施形態の振動デバイス1によれば、外部制御信号である第1イネーブル制御信号EN1及び第2イネーブル制御信号EN2の設定により、第1バッファー回路152が第1出力クロック信号CK1を出力する第1状態と、第1バッファー回路152及び第2バッファー回路153がそれぞれ第1出力クロック信号CK1及び第2出力クロック信号CK2を出力する第2状態とが切り替わって出力回路151の発熱量が変化した場合にも、適正に温度補償された第1出力クロック信号CK1及び第2出力クロック信号CK2を出力することができる。
【0052】
また、第1実施形態の振動デバイス1によれば、メモリー140に記憶されるデータを変更すればデジタルフィルター111の次数やカットオフ周波数を変更することができるので、温度検出回路101が検出する温度の過渡応答と振動子3の温度の過渡応答との差を精密に補償可能であり、その結果、温度補償の精度が向上する。
【0053】
また、第1実施形態の振動デバイス1によれば、出力回路151の第1状態と第2状態とが切り替わった後の過渡的な状況が終われば、デジタルフィルター111が動作を停止するので、その後の外気温の変化に対して温度補償回路120による温度補償が過剰に行われるおそれが低減される。
【0054】
2-2.第2実施形態
以下、第2実施形態について、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、第1実施形態と同様の説明は省略又は簡略し、主として第1実施形態と異なる内容について説明する。
【0055】
第2実施形態の振動デバイス1の構造は、図2及び図3と同様であるため、その図示及び説明を省略する。図9は、第2実施形態の振動デバイス1の機能ブロック図である。図9に示すように、第2実施形態の振動デバイス1は、図4に示した第1実施形態の振動デバイス1に対して、回路装置2がPLL回路190を備える点及び温度補償回路120がPLL回路190の分周比を示すデジタル信号である分周比設定信号DIVを出力する点が異なる。PLLは、Phase Locked Loopの略である。なお、発振回路131は、図4に示した可変容量回路132を含んでもよいし、可変容量回路132を含まなくてもよい。
【0056】
PLL回路190は、発振信号Voscが入力されてクロック信号CKを出力する。P
LL回路190は、発振信号Voscの位相と、温度補償回路120から出力される分周比設定信号DIVで指定される分周比でクロック信号CKを分周した信号の位相とが一致するようにフィードバック制御することにより、クロック信号CKを生成する。PLL回路190は、クロック信号CKを整数分周比で分周するインテジャー型のPLL回路であってもよいし、クロック信号CKを分数分周比で分周するフラクショナル-N型のPLL回路であってもよい。
【0057】
出力回路151は、PLL回路190から出力されるクロック信号CKに基づいて少なくとも1つの出力クロック信号を出力する。具体的には、PLL回路190から出力されるクロック信号CKは、出力回路151の第1バッファー回路152及び第2バッファー回路153に入力される。第1バッファー回路152は、クロック信号CKをバッファリングして第1出力クロック信号CK1を生成し、第2バッファー回路153は、クロック信号CKをバッファリングして第2出力クロック信号CK2を生成する。
【0058】
温度補償回路120は、デジタルフィルター111から出力される温度信号DTXに基づいて、振動子3の駆動状態の温度特性としての、発振信号Voscに基づくクロック信号CKの周波数温度特性を補償する。具体的には、メモリー140に、クロック信号CKの周波数温度特性を補償するための温度補償データTCDが記憶されており、温度補償回路120は、温度信号DTXと温度補償データTCDとに基づいてデジタル信号である分周比設定信号DIVを生成する。
【0059】
図10は、温度補償回路120及びPLL回路190の構成例を示す図である。図10の例では、PLL回路190は、フラクショナル-N型のPLL回路である。
【0060】
図10に示すように、温度補償回路120は、演算回路121及びデルタシグマ変調回路122を含む。また、PLL回路190は、位相比較器191、チャージポンプ192、ローパスフィルター193、電圧制御発振回路194及び分周回路195を含む。
【0061】
温度補償回路120の演算回路121は、デジタルフィルター111から出力される温度信号DTXと、メモリー140に記憶されている温度補償データTCDとに基づいて、発振信号Voscの温度補償に必要な、分周回路195の分周比を算出する。分周比設定データVDIVは、基準温度、例えば25℃における分周回路195の分周比を示すデータであり、演算回路121は、分周比設定データVDIVに基づいて、温度信号DTXが示す温度での分数分周比を求める演算を行う。
【0062】
デルタシグマ変調回路122は、演算回路121の演算結果である分数分周比に対して、デルタシグマ変調を行い、分周回路195の分周比を設定する分周比設定信号DIVを出力する。分周比設定信号DIVの時間平均値は、演算回路121の演算結果である分数分周比と一致する。
【0063】
PLL回路190の位相比較器191は、発振回路131が出力する発振信号Voscと分周回路195が出力するクロック信号FBCLKの位相を比較し、比較結果をパルス電圧として出力する。
【0064】
チャージポンプ192は、位相比較器191が出力するパルス電圧を電流に変換し、ローパスフィルター193は、チャージポンプ192が出力する電流を平滑化及び電圧変換する。
【0065】
電圧制御発振回路194は、ローパスフィルター193の出力電圧を制御電圧として、制御電圧に応じて周波数が変化するクロック信号CKを出力する。電圧制御発振回路19
4は、コイル等のインダクタンス素子とコンデンサー等の容量素子を用いて構成されるLC発振回路や水晶振動子等の圧電振動子を用いた発振回路などの種々のタイプの発振回路として実現可能である。
【0066】
分周回路195は、温度補償回路120のデルタシグマ変調回路122から出力される分周比設定信号DIVの値を分周比として、電圧制御発振回路194が出力するクロック信号CKを分周したクロック信号FBCLKを出力する。
【0067】
第2実施形態の振動デバイス1のその他の構成及び機能は、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0068】
以上に説明した第2実施形態の振動デバイス1によれば、第1実施形態の振動デバイス1と同様の効果が得られる。
【0069】
3.変形例
本発明は本実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0070】
例えば、上記の各実施形態の振動デバイス1は、図2及び図3に示した構造に限定されない。振動デバイス1は、例えば、図11に示す構造であってもよい。図11において、図3と同様の構成要素には同じ符号が付されている。図11に示す振動デバイス1は、H型構造の発振器であり、パッケージ4には、対向する面に2つの凹部が設けられており、リッド5で一方の凹部を覆うことによって収容室7aとなり、封止部材8で他方の凹部を覆うことによって収容室7bとなる。収容室7aには振動子3が収容され、収容室7bには回路装置2が収容されている。図11に示すH型構造の振動デバイス1では、図3に示したシングルシール構造の振動デバイスと比較して、回路装置2と振動子3との間で空間を介した熱の伝搬が生じにくく、温度センサー100が検出する温度の過渡応答と振動子3の温度の過渡応答との差がより大きくなる。しかしながら、図11に示すH型構造の振動デバイス1は、過渡応答補償回路110を有することにより、温度センサー100が検出する温度の過渡応答と振動子3の温度の過渡応答との差が補償されるので、温度補償を高精度に行うことができる。
【0071】
また、上記の各実施形態では、振動デバイス1として温度補償型発振器を例に挙げたが、振動デバイス1の種類はこれに限らない。例えば、振動デバイス1は、ジャイロセンサー等の各種の物理量センサーであってもよい。一例として、物理量センサーである振動デバイス1は、振動子3であるセンサー素子と、回路装置2とを備え、回路装置2は、温度センサー100と、温度センサー100が検出する温度の過渡応答とセンサー素子の温度の過渡応答との差を補償する過渡応答補償回路110と、センサー素子の駆動状態の温度特性を補償する温度補償回路120と、センサー素子を駆動する駆動回路130と、センサー素子の出力信号に基づいて所定の物理量を検出する検出回路と、熱源回路150である故障検出回路と、を含む。例えば、故障検出回路は、センサー素子の故障等を検出する回路であり、例えば、検出回路がセンサー素子の出力信号をN回取得するうち、N-1回は故障検出を行わない第1状態となり、1回は故障検出を行う第2状態となるので、熱源回路150に相当する。他の一例として、3軸物理量センサーである振動デバイス1は、振動子3である3軸センサー素子と、回路装置2とを備え、回路装置2は、温度センサー100と、温度センサー100が検出する温度の過渡応答と3軸センサー素子の温度の過渡応答との差を補償する過渡応答補償回路110と、3軸センサー素子の駆動状態の温度特性を補償する温度補償回路120と、センサー素子を駆動する駆動回路130と、3軸センサー素子の出力信号に基づいて3軸の所定の物理量を検出する検出回路と、を含む。例えば、駆動回路130が3軸センサー素子の一部の駆動と全部の駆動とを切り替える場
合、検出回路は、一部のセンサー素子の出力信号に対して検出を行う第1状態と全部のセンサー素子の出力信号に対して検出を行う第2状態とが切り替わるので、熱源回路150に相当する。このような物理量センサーである振動デバイス1によれば、温度補償精度が向上するので、物理量の検出精度が向上する。
【0072】
上述した実施形態および変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、各実施形態および各変形例を適宜組み合わせることも可能である。
【0073】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0074】
上述した実施形態および変形例から以下の内容が導き出される。
【0075】
振動デバイスの一態様は、
振動子と、前記振動子と離間して配置された回路装置と、を含み、
前記回路装置は、
前記振動子を駆動する駆動回路と、
検出した温度に応じた温度信号を生成する温度センサーと、
前記温度信号に基づいて前記振動子の駆動状態の温度特性を補償する温度補償回路と、
第1状態、又は前記第1状態とは消費電流が異なる第2状態で動作する熱源回路と、
前記熱源回路の前記第1状態と前記第2状態とが切り替わったときに、前記温度センサーが検出する温度の過渡応答と前記振動子の温度の過渡応答との差を補償する過渡応答補償回路と、
を有する。
【0076】
この振動デバイスでは、熱源回路の第1状態と第2状態とが切り替わったとき、熱源回路の消費電流が変化して発熱量が急激に変化した場合、この発熱量の変化により、熱源回路と同じく回路装置に含まれる温度センサーは速やかに温度変化を検出するのに対して、回路装置とは別体である振動子の温度変化が遅れる。しかしながら、この振動デバイスによれば、温度センサーが検出する温度の過渡応答と振動子の温度の過渡応答との差を補償するので、熱源回路の消費電流が急激に変化しても、温度補償回路が温度補償を精度よく行うことができる。
【0077】
前記振動デバイスの一態様において、
前記温度信号はデジタル信号であり、
前記過渡応答補償回路は、前記温度信号に対してフィルター処理を行うデジタルフィルターを含んでもよい。
【0078】
この振動デバイスによれば、温度センサーが生成する温度信号がデジタルフィルターによって遅延するので、温度センサーが検出する温度の過渡応答と振動子の温度の過渡応答との差が補償される。
【0079】
前記振動デバイスの一態様において、
前記デジタルフィルターは、ローパスフィルターであってもよい。
【0080】
この振動デバイスによれば、温度センサーが生成する温度信号の急激な変化が、ローパスフィルターによって緩やかになるので、温度センサーが検出する温度の過渡応答と振動子の温度の過渡応答との差が補償される。
【0081】
前記振動デバイスの一態様において、
前記デジタルフィルターは、メモリーに記憶されたデータに基づくカットオフ周波数で動作してもよい。
【0082】
この振動デバイスによれば、メモリーに記憶されるデータを変更すればデジタルフィルターのカットオフ周波数を変更することができるので、温度センサーが検出する温度の過渡応答と振動子の温度の過渡応答との差を精密に補償可能であり、その結果、温度補償の精度が向上する。
【0083】
前記振動デバイスの一態様は、
前記熱源回路の前記第1状態と前記第2状態とが切り替わった後、所定期間が経過した後に前記過渡応答補償回路が動作を停止してもよい。
【0084】
この振動デバイスによれば、熱源回路の前記第1状態と前記第2状態とが切り替わった後の過渡的な状況が終われば過渡応答補償回路が動作を停止するので、その後の外気温の変化に対して温度補償回路による温度補償が過剰に行われるおそれが低減される。
【0085】
前記振動デバイスの一態様において、
前記駆動回路は、前記振動子を発振させて発振信号を生成し、
前記温度補償回路は、前記発振信号又は前記発振信号に基づくクロック信号の周波数温度特性を補償し、
前記熱源回路は、前記発振信号又は前記クロック信号に基づいて少なくとも1つの出力クロック信号を出力する出力回路であってもよい。
【0086】
この振動デバイスによれば、温度センサーが検出する温度の過渡応答と振動子の温度の過渡応答との差を補償するので、出力回路の消費電流が変化して発熱量が急激に変化しても、適正に温度補償された出力クロック信号を出力することができる。
【0087】
前記振動デバイスの一態様は、
少なくとも1つの外部制御信号が入力され、前記外部制御信号に基づいて、前記出力回路の前記第1状態と前記第2状態とが切り替わってもよい。
【0088】
この振動デバイスによれば、外部制御信号により出力回路が第1状態と第2状態とで切り替わって発熱量が変化した場合にも、適正に温度補償された出力クロック信号を出力することができる。
【0089】
前記振動デバイスの一態様は、
少なくとも1つの前記外部制御信号として、第1イネーブル制御信号と第2イネーブル制御信号が入力され、
前記出力回路は、
前記第1イネーブル制御信号がアクティブのとき、第1出力クロック信号を出力し、
前記第2イネーブル制御信号がアクティブのとき、第2出力クロック信号を出力してもよい。
【0090】
この振動デバイスによれば、第1イネーブル制御信号及び第2イネーブル制御信号の設定により、出力回路の第1状態と第2状態とで切り替わって発熱量が変化した場合にも、
適正に温度補償された第1出力クロック信号及び第2出力クロック信号を出力することができる。
【0091】
前記振動デバイスの一態様において、
前記第1状態は、前記第1出力クロック信号が出力される状態であり、
前記第2状態は、前記第1出力クロック信号及び前記第2出力クロック信号の両方が出力される状態であってもよい。
【0092】
この振動デバイスによれば、第1出力クロック信号が出力される第1状態と、第1出力クロック信号及び第2出力クロック信号の両方が出力される第2状態とが切り替わって出力回路の発熱量が変化した場合にも、適正に温度補償された第1出力クロック信号及び第2出力クロック信号を出力することができる。
【0093】
前記振動デバイスの一態様において、
前記出力回路は、
前記発振信号に基づいて前記第1出力クロック信号を出力する第1バッファー回路と、
前記発振信号に基づいて前記第2出力クロック信号を出力する第2バッファー回路と、を含み、
前記第1状態において、前記第1バッファー回路が前記第1出力クロック信号を出力し、
前記第2状態において、前記第1バッファー回路が前記第1出力クロック信号を出力し、且つ前記第2バッファー回路が前記第2出力クロック信号を出力してもよい。
【0094】
この振動デバイスによれば、第1バッファー回路が第1出力クロック信号を出力する第1状態と、第1バッファー回路及び第2バッファー回路がそれぞれ第1出力クロック信号及び第2出力クロック信号を出力する第2状態とが切り替わって出力回路の発熱量が変化した場合にも、適正に温度補償された第1出力クロック信号及び第2出力クロック信号を出力することができる。
【符号の説明】
【0095】
1…振動デバイス、2…回路装置、3…振動子、3a…励振電極、3b…励振電極、4…パッケージ、5…リッド、6…外部端子、7,7a,7b…収容室、20…回路装置の底面、21…回路装置の端子、100…温度センサー、101…温度検出回路、102…A/D変換回路、110…過渡応答補償回路、111…デジタルフィルター、120…温度補償回路、121…演算回路、122…デルタシグマ変調回路、130…駆動回路、131…発振回路、132…可変容量回路、140…メモリー、150…熱源回路、151…出力回路、152…第1バッファー回路、153…第2バッファー回路、160…DSP、170…インターフェース回路、180…D/A変換回路、190…PLL回路、191…位相比較器、192…チャージポンプ、193…ローパスフィルター、194…電圧制御発振回路、195…分周回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11