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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010497
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】弾性繊維用処理剤、及び弾性繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/224 20060101AFI20240117BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20240117BHJP
   D06M 13/02 20060101ALI20240117BHJP
   D06M 13/292 20060101ALI20240117BHJP
   D06M 13/144 20060101ALI20240117BHJP
   D06M 13/03 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
D06M13/224
D06M15/643
D06M13/02
D06M13/292
D06M13/144
D06M13/03
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111870
(22)【出願日】2022-07-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】西川 武志
(72)【発明者】
【氏名】小田 康平
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA06
4L033AB01
4L033AC09
4L033BA03
4L033BA11
4L033BA21
4L033BA39
4L033CA59
(57)【要約】
【課題】弾性繊維上での摩擦性に優れ、巻き取り後の解舒性及び紡糸時の巻き形状が良好であり、長期間保管した際の製剤安定性に優れた弾性繊維用処理剤及び、かかる弾性繊維用処理剤が付着している弾性繊維を提供する。
【解決手段】本発明の弾性繊維用処理剤は、炭素数5~24の1価又は多価の脂肪族カルボン酸と、炭素数1~2の1価アルコールとから縮合形成された、エステル結合を1つ有するモノエステル化合物(A)とシリコーンオイル(B)を含有し、任意成分として鉱物油(C)を含有することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のモノエステル化合物(A)とシリコーンオイル(B)を含有し、任意成分として鉱物油(C)を含有することを特徴とする弾性繊維用処理剤。
モノエステル化合物(A):炭素数5~24の1価又は多価の脂肪族カルボン酸と、炭素数1~2の1価アルコールとから縮合形成された、エステル結合を1つ有するエステル化合物。
【請求項2】
前記モノエステル化合物(A)が、
炭素数5~24の1価の脂肪族カルボン酸と、炭素数1~2の1価アルコールとから縮合形成されたエステル結合を1つ有するエステル化合物を含む、請求項1に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項3】
前記モノエステル化合物(A)が、
炭素数5~24の1価の脂肪族カルボン酸と、炭素数1の1価アルコールとから縮合形成されたエステル結合を1つ有するエステル化合物を含む、請求項1に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項4】
前記モノエステル化合物(A)が、
炭素数8~18の1価の脂肪族カルボン酸と、炭素数1~2の1価アルコールとから縮合形成されたエステル結合を1つ有するエステル化合物を含む、請求項1に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項5】
更に、有機リン酸エステル塩(D)を含有し、
前記弾性繊維用処理剤の全質量に対して、前記有機リン酸エステル塩(D)を0.05~20質量%の割合で含有する請求項1に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項6】
前記有機リン酸エステル塩(D)が、
有機リン酸エステルの2価金属塩を含む請求項5に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項7】
更に、ヒドロキシ化合物(E)を含有する請求項1に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項8】
前記シリコーンオイル(B)を、
前記弾性繊維用処理剤の全質量に対して40質量%以下の割合で含有する、請求項1に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤が付着していることを特徴とする弾性繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の化学構造を有するモノエステル化合物(A)を含有する弾性繊維用処理剤及び、かかる弾性繊維用処理剤が付着している弾性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン系弾性繊維等の弾性繊維は、他の合成繊維に比べて、繊維間の粘着性が強いため、弾性繊維を紡糸し、パッケージに巻き取った後、該パッケージから引き出して加工工程に供する際、パッケージから安定して解舒することが難しいだけでなく、紡糸した弾性繊維の形状保持性が低いと、パッケージの巻き糸が崩れるという問題があった。
また、弾性繊維用処理剤の摩擦性が高いと、糸切れが発生する他、弾性繊維用処理剤の製剤安定性の課題もあった。
これらの問題を解決するために、弾性繊維の平滑性を向上させる炭化水素油等の平滑剤を含有する弾性繊維用処理剤が提案されている。例えば、ベース成分、HLBが3~15のノニオン界面活性剤を0.01~30質量%含有する弾性繊維用処理剤(特許文献1)、ベース成分と、水、炭素数1~15の炭化水素基を有する低級アルコール、又は該低級アルコールのアルキレンオキサイド付加物を0.1~20質量%、乳化剤を0.1~30質量%含有する弾性繊維用処理剤(特許文献2)、ポリオキシエチレン骨格の含有量が分子中に20~80質量%であるポリオキシアルキレンエーテル変性ポリシロキサンを含有する弾性繊維用油剤(特許文献3)などであるが、上記の問題を全て解決する弾性繊維用処理剤は、未だ提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-100291号公報
【特許文献2】特開2003-147675号公報
【特許文献3】特開平09-268477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、弾性繊維上での摩擦性に優れ、巻き取り後の解舒性及び紡糸時の巻き形状が良好であり、長期間保管した際の製剤安定性に優れた弾性繊維用処理剤及びかかる弾性繊維用処理剤が付着している弾性繊維を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の化学構造を有するモノエステル化合物(A)とシリコーンオイル(B)を含有し、任意成分として鉱物油(C)を含有することにより、摩擦性、解舒性、巻き形状及び製剤安定性の全てに優れた弾性繊維用処理剤とし得ることを見出し、上記課題を解決するに至ったものである。
【0006】
本発明は、具体的には次の事項を要旨とする。
1.下記のモノエステル化合物(A)とシリコーンオイル(B)を含有し、任意成分として鉱物油(C)を含有することを特徴とする弾性繊維用処理剤。
モノエステル化合物(A):炭素数5~24の1価又は多価の脂肪族カルボン酸と、炭素数1~2の1価アルコールとから縮合形成された、エステル結合を1つ有するエステル化合物。
2.前記モノエステル化合物(A)が、
炭素数5~24の1価の脂肪族カルボン酸と、炭素数1~2の1価アルコールとから縮合形成されたエステル結合を1つ有するエステル化合物を含む、1.に記載の弾性繊維用処理剤。
3.前記モノエステル化合物(A)が、
炭素数5~24の1価の脂肪族カルボン酸と、炭素数1の1価アルコールとから縮合形成されたエステル結合を1つ有するエステル化合物を含む、1.に記載の弾性繊維用処理剤。
4.前記モノエステル化合物(A)が、
炭素数8~18の1価の脂肪族カルボン酸と、炭素数1~2の1価アルコールとから縮合形成されたエステル結合を1つ有するエステル化合物を含む、1.に記載の弾性繊維用処理剤。
5.更に、有機リン酸エステル塩(D)を含有し、
前記弾性繊維用処理剤の全質量に対して、前記有機リン酸エステル塩(D)を0.05~20質量%の割合で含有する1.に記載の弾性繊維用処理剤。
6.前記有機リン酸エステル塩(D)が、
有機リン酸エステルの2価金属塩を含む5.に記載の弾性繊維用処理剤。
7.更に、ヒドロキシ化合物(E)を含有する1.に記載の弾性繊維用処理剤。
8.前記シリコーンオイル(B)を、
前記弾性繊維用処理剤の全質量に対して40質量%以下の割合で含有する、1.に記載の弾性繊維用処理剤。
9.1.~8.のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤が付着していることを特徴とする弾性繊維。
【発明の効果】
【0007】
本発明の弾性繊維用処理剤は、弾性繊維上での摩擦性に優れているため、糸切れが発生することが無く有用である。
また、本発明の弾性繊維用処理剤は、解舒性及び巻き形状に優れているため、パッケージからの糸の引き出しに抵抗がなく、糸切れ等の問題も生じず安定に解舒することが出来るほか、パッケージに巻き取った後の巻き糸が崩れることが無い。
さらに、本発明の弾性繊維用処理剤は、製剤安定性に優れているため、弾性繊維用処理剤の運搬や保管の際に分離や沈殿が生じることが無く有用である。
本発明の弾性繊維用処理剤は、摩擦性、解舒性、巻き形状及び製剤安定性の全てにおいて優れており、非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<モノエステル化合物(A)>
本発明の弾性繊維用処理剤は、炭素数5~24の1価又は多価の脂肪族カルボン酸と、炭素数1~2の1価アルコールとから縮合形成されたエステル結合を1つ有する、モノエステル化合物(A)を必須成分として含有するものである。
一般的に、弾性繊維用処理剤にエステル化合物を配合すると、摩擦性を高めることが知られているため、弾性繊維用処理剤の成分としてエステル化合物を積極的に採用することはなされていなかった。
しかしながら、弾性繊維用処理剤の成分として、上記特定の化学構造を有するモノエステル化合物(A)を必須成分として採用することにより、摩擦性をむしろ低下させる効果を発揮するとともに、解舒性、巻き形状及び製剤安定性において優れた効果を発揮することを見出し、本発明を完成させたものである。
本発明におけるモノエステル化合物(A)は、エステル結合を1つ有する化学構造であれば、1価又は多価の脂肪族カルボン酸が、分岐鎖状や直鎖状であるか、さらには、置換基の有無等に特に制限はない。置換基を有してもよいとは、1価又は多価の脂肪族カルボン酸が、他に任意の結合や置換基を有してもよいという意味であり、例えば、アミド結合、エーテル結合、スルフィド結合、ジスルフィド結合、ウレタン結合などの結合や、エポキシ基、ニトロ基、シアノ基、ケトン基、ホルミル基、アセタール基、チオアセタール基、スルホニル基などの基などを有していてもよい。
本発明におけるモノエステル化合物(A)は、炭素数5~24の1価の脂肪族カルボン酸と、炭素数1~2の1価アルコール、すなわちメタノール及び/又はエタノールとから縮合形成されたエステル結合を1つ有するエステル化合物であることが好ましく、炭素数5~24の1価の脂肪族カルボン酸と、炭素数1の1価アルコール、すなわちメタノールとから縮合形成されたエステル結合を1つ有するエステル化合物であることがより好ましく、炭素数8~18の1価の脂肪族カルボン酸と、炭素数1~2の1価アルコール、すなわちメタノール及び/又はエタノールとから形成されたエステル結合を1つ有するエステル化合物であることがさらに好ましい。
【0009】
炭素数5~24の1価又は多価の脂肪族カルボン酸としては、例えば、吉草酸(炭素数:5)、カプロン酸(炭素数:6)、ソルビン酸(炭素数:6)、エナント酸(炭素数:7)、カプリル酸(炭素数:8)、ペラルゴン酸(炭素数:9)、カプリン酸(炭素数:10)、ラウリン酸(炭素数:12)、ミリスチン酸(炭素数:14)、パルミチン酸(炭素数:16)、マルガリン酸(炭素数:17)、ステアリン酸(炭素数:18)、オレイン酸(炭素数:18)、リノール酸(炭素数:18)、リノレン酸(炭素数:18)、アラキドン酸(炭素数:20)、エイコサペンタ酸(炭素数:20)、ドコサヘキサエン酸(炭素数:22)等のモノ飽和/不飽和脂肪族カルボン酸、グルタル酸(炭素数:5)、アジピン酸(炭素数:6)等の多価飽和/不飽和脂肪族カルボン酸、クエン酸(炭素数:6)等の置換基を有する多価脂肪族カルボン酸などが挙げられる。
炭素数1~2の1価アルコールとは、すなわち、メタノール、エタノールを意味する。
上記の1価又は多価の脂肪族カルボン酸及び炭素数1~2の1価アルコールは、それぞれ1種のみでも良いし、2種以上の混合物でも良い。
本発明の弾性繊維用処理剤は、処理剤の全質量に対して、モノエステル化合物(A)を10~95質量%の範囲で含有することが好ましく、10~93質量%の範囲で含有することがより好ましく、10~90質量%の範囲で含有することがさらに好ましい。
本発明の弾性繊維用処理剤は、1種類のモノエステル化合物(A)を単独で使用してもよいし、又は2種以上のモノエステル化合物(A)を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0010】
<シリコーンオイル(B)>
本発明の弾性繊維用処理剤は、上記モノエステル化合物(A)と共にシリコーンオイル(B)を必須成分として含有するものである。
本発明の弾性繊維用処理剤は、シリコーンオイル(B)を上記モノエステル化合物(A)と併用することにより、摩擦性、解舒性、巻き形状及び製剤安定性の全てにおいて優れた効果を発揮させるものである。
シリコーンオイル(B)としては、例えば、ジメチルシリコーン、フェニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン、アルキルポリエーテル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、ポリオキシアルキレン変性シリコーン等が挙げられる。
これらのシリコーンオイル(B)は、動粘度等によって規定される市販品を適宜採用してもよい。動粘度は、適宜設定されるが、25℃における動粘度が2~100mm/sの範囲であることが好ましく、5~70mm/sがより好ましく、5~50mm/sがさらに好ましい。該粘度が2mm/s未満であるとシリコーンオイルが揮発する場合があり、100mm/sを超えると、弾性繊維用処理剤に配合される他成分の溶解性が悪くなることがある。25℃における動粘度は、JIS Z 8803に準拠して測定される数値を意味する。
本発明の弾性繊維用処理剤は、処理剤の全質量に対して、シリコーンオイル(B)を1~80質量%の範囲で含有することが好ましく、1~60質量%の範囲で含有することがより好ましく、1~40質量%の範囲で含有することがさらに好ましい。
本発明の弾性繊維用処理剤は、1種類のシリコーンオイル(B)を単独で使用してもよいし、又は2種以上のシリコーンオイル(B)を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0011】
<鉱物油(C)>
本発明の弾性繊維用処理剤は、任意成分として鉱物油(C)を含有するものである。
鉱物油(C)としては、例えば芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素等が挙げられる。より具体的には、例えば、スピンドル油、流動パラフィン等が挙げられる。これらの鉱物油は、粘度等によって規定される市販品1種以上を適宜採用してもよい。
本発明の弾性繊維用処理剤は、上記モノエステル化合物(A)、シリコーンオイル(B)及び鉱物油(C)を、処理剤の全質量に対して70~100質量%の範囲で含有することが好ましく、73~100質量%の範囲で含有することがより好ましく、75~100質量%の範囲で含有することがさらに好ましい。
本発明の弾性繊維用処理剤は、1種類の鉱物油(C)を単独で使用してもよいし、又は2種以上の鉱物油(C)を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0012】
<有機リン酸エステル塩(D)>
本発明の弾性繊維用処理剤は、更に有機リン酸エステル塩(D)を含有することが好ましい。
本発明の弾性繊維用処理剤は、有機リン酸エステル塩(D)を、処理剤の全質量に対して0~30質量%の範囲で含有することが好ましく、0.01~25質量%の範囲で含有することがより好ましく、0.05~20質量%の範囲で含有することがさらに好ましい。
また、有機リン酸エステル塩(D)は、2価の金属塩であることが好ましい。
有機リン酸エステル塩(D)としては、炭素数8~22のアルキル基を分子中に有するリン酸エステル塩及び、炭素数2~4のオキシアルキレン基から構成されるポリオキシアルキレン基と炭素数8~22のアルキル基とを分子中に有するリン酸エステル塩から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
本発明の弾性繊維用処理剤は、1種類の有機リン酸エステル塩(D)を単独で使用してもよいし、又は2種以上の有機リン酸エステル塩(D)を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0013】
<ヒドロキシ化合物(E)>
本発明の弾性繊維用処理剤は、更にヒドロキシ化合物(E)を含有することが好ましい。
このヒドロキシ化合物(E)としては、炭素数8~24の脂肪族アルコール、及び炭素数8~24の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2~4のアルキレンオキサイドを1~100モルの割合で付加させたアルキレンオキサイド付加物から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
炭素数8~24の脂肪族アルコールは、不飽和結合の有無について特に制限はなく、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を有するアルコールであってもよいし、環状のシクロ環を有するアルコールであってもよい。分岐鎖状の炭化水素基を有するアルコールの場合、その分岐位置は特に制限されるものではなく、例えば、α位が分岐した炭素鎖であってもよいし、β位が分岐した炭素鎖であってもよい。また、第1級アルコールであっても、第2級アルコールであってもよい。
脂肪族アルコールとしては、例えば、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、エイコサノール、ベヘニルアルコール、テトラコサノール、オレイルアルコール、12-エイコシルアルコール、ヘキサデセニルアルコール、エイコセニルアルコール、オクタデセニルアルコール、ドコシルアルコール、イソドデシルアルコール、イソトリデシルアルコール、イソミリスチルアルコール、イソヘキサデシルアルコール、イソステアリルアルコール、イソテトラコサノール等の1価の脂肪族アルコール等が挙げられる。
【0014】
炭素数8~24の脂肪族アルコール1モルに対し炭素数2~4のアルキレンオキサイドを1~100モルの割合で付加させたアルキレンオキサイド付加物における、アルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられる。脂肪族アルコール1モルに対するアルキレンオキサイドの付加モル数は、好ましくは1~100モル、より好ましくは1~50モル、さらに好ましくは1~30モルである。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中における脂肪族アルコール1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。
本発明の弾性繊維用処理剤は、ヒドロキシ化合物(E)を、処理剤の全質量に対して0~30質量%の範囲で含有することが好ましく、0.01~20質量%の範囲で含有することがより好ましく、0.05~10質量%の範囲で含有することがさらに好ましい。
本発明の弾性繊維用処理剤は、1種類のヒドロキシ化合物(E)を単独で使用してもよいし、又は2種以上のヒドロキシ化合物(E)を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0015】
<その他の成分(F)>
本発明の弾性繊維用処理剤は、その他の成分(F)として、制電剤、消泡剤、酸化防止剤、防腐剤、防錆剤等を併用することができる。その他の成分(F)の併用量は、本発明の効果を損なわない範囲内において規定することができる。
【0016】
本発明の弾性繊維用処理剤は、特定の化学構造を有するモノエステル化合物(A)とシリコーンオイル(B)を含有し、任意成分として鉱物油(C)、有機リン酸エステル塩(D)、ヒドロキシ化合物(E)を含有することにより、摩擦性、解舒性、巻き形状及び製剤安定性の全てにおいて優れた効果を発揮するものである。
特に、弾性繊維用処理剤の摩擦性を高めることが知られていたエステル化合物のうち、特定の化学構造を有するモノエステル化合物(A)を配合することにより、摩擦性をむしろ低下させる効果を発揮するという、顕著な効果を発揮するものである。
本発明の弾性繊維用処理剤におけるシリコーンオイル(B)は、上記エステル化合物(A)と併用することにより、摩擦性、解舒性、巻き形状及び製剤安定性の全てにおいて優れた効果を発揮させるものである。
任意成分である有機リン酸エステル塩(D)は、その配合により解舒性においてさらに優れた効果を、特に、有機リン酸エステル塩(D)が2価の金属塩の配合により、解舒性においてより一層優れた効果を、また、ヒドロキシ化合物(E)は、その配合により製剤安定性においてさらに優れた効果を発揮させるものである。
【0017】
<弾性繊維>
本発明の弾性繊維用処理剤を付着させる弾性繊維の具体例としては、特に制限はないが、例えばポリエステル系弾性繊維、ポリアミド系弾性繊維、ポリオレフィン系弾性繊維、ポリウレタン系弾性繊維等が挙げられる。これらの中でもポリウレタン系弾性繊維が好ましい。かかる場合に本発明の効果の発現をより高くすることができる。
本発明の弾性繊維用処理剤の弾性繊維に対する付着量は、特に制限はないが、本発明の効果をより向上させる観点から0.1質量%以上10質量%以下の範囲で付着させることが好ましい。
【0018】
本発明における弾性繊維の製造方法は、本発明の弾性繊維用処理剤を弾性繊維に給油することにより得られる。処理剤の給油方法としては、希釈することなくニート給油法により、弾性繊維の紡糸工程において弾性繊維に付着させる方法が好ましい。付着方法としては、例えばローラー給油法、ガイド給油法、スプレー給油法等の公知の方法が適用できる。給油ローラーは、通常口金から巻き取りトラバースまでの間に位置させることが一般的であり、本発明の製造方法にも適用できる。これらの中でも、延伸ローラーと延伸ローラーの間に位置する給油ローラーにて本発明の弾性繊維用処理剤を弾性繊維、例えばポリウレタン系弾性繊維に付着させることが、本発明の効果を顕著に発現させるために好ましい。
本発明に用いる弾性繊維自体の製造方法は、特に限定されず、公知の方法で製造が可能である。例えば湿式紡糸法、溶融紡糸法、乾式紡糸法等が挙げられる。これらの中でも、弾性繊維の品質及び製造効率が優れる観点から乾式紡糸法が好ましく適用される。
【実施例0019】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の技術範囲はこれらにより限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0020】
<実施例1~39、比較例1~16の弾性繊維用処理剤>
実施例1~39の弾性繊維用処理剤は下記表1に、比較例1~16の弾性繊維用処理剤は下記表2に、それぞれ示された組成に基づいて、各成分をよく混合して均一にすることで各弾性繊維用処理剤を調製した。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
表1、2に記載した各成分の詳細は以下のとおりである。
<モノエステル化合物(A)>
A-1:カプリル酸メチル
A-2:ラウリン酸メチル
A-3:オレイン酸メチル
A-4:エルカ酸メチル
A-5:レブリン酸メチル
A-6:イソステアリン酸エチル
A-7:カプリル酸エチル
A-8:吉草酸エチル
A-9:ジエチルマロン酸モノメチルエステル
<モノエステル化合物(A)以外の化合物>
ra-1:ミリスチン酸イソプロピル
ra-2:パルミチン酸イソプロピル
ra-3:メタアクリル酸メチル
ra-4:テレフタル酸ジエチル
ra-5:安息香酸メチル
ra-6:オクチル酸
ra-7:イソステアリン酸
【0024】
<シリコーンオイル(B)>
B-1:ジメチルシリコーン(動粘度10mm/s:25℃)
B-2:ジメチルシリコーン(動粘度20mm/s:25℃)
【0025】
<鉱物油(C)>
C-1:鉱物油(40℃におけるレッドウッド粘度計での粘度が60秒)
C-2:鉱物油(40℃におけるレッドウッド粘度計での粘度が100秒)
【0026】
<有機リン酸エステル(D)>
D-1:イソオクチルリン酸エステルのマグネシウム塩
D-2:ラウリルリン酸エステルのカルシウム塩
D-3:イソオクタデシルリン酸エステルのマグネシウム塩
D-4:ラウリルアルコールのエチレンオキサイド5モル付加物のリン酸エステルのマグネシウム塩
D-5:ラウリルアルコールのエチレンオキサイド5モル付加物のリン酸エステルのカリウム塩
D-6:イソオクチルデシルリン酸エステルのエタノールアミン塩
D-7:イソオクタデシルリン酸エステルのナトリウム塩
【0027】
<ヒドロキシ化合物(E)>
E-1:オクチルアルコール
E-2:2-ヘキシル-1-デカノール
E-3:イソステアリルアルコール
E-4:イソトリデカノールのエチレンオキサイド3モル付加物
【0028】
<評価方法及び評価基準>
(1)処理剤の摩擦性に関する評価
[処理剤の摩擦性の評価方法]
摩擦測定メーター(エイコー測器社製、SAMPLE FRICTION UNIT MODEL TB-1)を用い、2つのフリーローラー間に直径1cmで表面粗度2Sのクロムメッキ梨地ピンを配置し、このクロムメッキ梨地ピンに対し、ポリウレタン系弾性繊維パッケージ(500g巻き)から引き出したポリウレタン系弾性繊維の接触角度が90度となるようにセットした。
25℃で60%RHの条件下、入側で初期張力(T1)5gをかけ、100m/分の速度で走行させたときの出側の2次張力(T2)を0.1秒毎に1分間測定した。下記式から摩擦係数を求め、下記の基準で評価した。
[摩擦性の評価基準]
◎◎◎:摩擦係数が0.20以上0.23未満。
◎◎:摩擦係数が0.23以上0.26未満。
◎:摩擦係数が0.26以上0.29未満。
○:摩擦係数が0.29以上0.32未満。
×:摩擦係数が0.32以上。
【0029】
(2)処理剤の解舒性に関する評価
[解舒性の評価方法]
片側に第1駆動ローラーとこれに常時接する第1遊離ローラーとで送り出し部を構成し、また反対側に第2駆動ローラーとこれに常時接する第2遊離ローラーとで巻き取り部を構成して、該送り出し部に対し該巻き取り部を水平方向で20cm離して設置した。
第1駆動ローラーに各処理剤を付与した紡糸直後の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージを装着し、糸巻の厚さが2mmになるまで解舒して、第2駆動ローラーに巻き取った。
第1駆動ローラーからのポリウレタン系弾性繊維の「送り出し速度を50m/分」で固定する一方、第2駆動ローラーへのポリウレタン系弾性繊維の巻き取り速度を50m/分より徐々に上げて、ポリウレタン系弾性繊維をパッケージから強制解舒した。
この強制解舒時において、送り出し部分と巻き取り部分との間でポリウレタン系弾性繊維の踊りがなくなる時点での巻き取り速度V(m/分)を測定し、下記の算出式から解舒性(%)を求め、次の基準で評価した。
[算出式]
解舒性(%)=(V-50)÷50×100=(V-50)×2
[解舒性の評価基準]
◎◎:解舒性が100%未満(糸の引き出し、糸切れともに全く問題なく、安定に解舒できる)
◎:解舒性が100%以上130%未満(糸の引き出しにほとんど抵抗が無く、また糸切れの発生も無く、安定に解舒できる)
○:解舒性が130%以上160%未満(糸の引き出しにやや抵抗があるものの、糸切れの発生は無く、安定に解舒できる)
×:解舒性が160%以上(糸の引き出しに抵抗があり、糸切れもあって、操業に問題がある)
【0030】
(3)巻き形状に関する評価
[巻き形状の評価方法]
44dtex/3filのマルチフィラメントの乾式紡糸したポリウレタン系弾性繊維に、各処理剤をローラー給油法で5.0%付着させた。そして、巻き取り速度550m/分で、長さ57mmの円筒状紙管に、巻き幅42mmを与えるトラバースガイドを介して、サーフェイスドライブの巻取機を用いて500g巻き取り、ポリウレタン系弾性繊維のパッケージを得た。
得られたポリウレタン系弾性繊維のパッケージ(500g巻き)について、巻き幅の最大値(Wmax)と最小幅(Wmin)を計測し、バルジ(双方の差「Wmax-Wmin」)を求め、下記の基準で評価した。
[巻き形状の評価基準]
◎:バルジが4mm未満
○:バルジが4mm以上7mm未満
×:バルジが7mm以上
【0031】
(4)製剤安定性に関する評価
[処理剤の製剤安定性の評価方法]
各処理剤を、25℃で3ヵ月静置して、下記の基準で安定性を評価した。
[処理剤の製剤安定性の評価基準]
◎:沈殿、分離が無く、調製時と同様に均一な状態を保っている。
〇:ごくわずかに沈殿を生じるが、撹拌によって調製時と同様に均一な状態に復元する。
×:沈殿、分離が生じ、撹拌によって均一な状態に復元しない。
【0032】
上記の(1)摩擦性、(2)解舒性、(3)巻き形状、(4)製剤安定性、それぞれの評価結果を、実施例1~39の弾性繊維用処理剤は表3に、比較例1~16の弾性繊維用処理剤は表4にまとめて示す。
【0033】
【表3】
【0034】
【表4】
【0035】
上記表1~4に示すとおり、本発明の弾性繊維用処理剤の具体例である実施例1~39は(1)摩擦性、(2)解舒性、(3)巻き形状、(4)製剤安定性の全ての評価結果が、特に良好(◎◎◎)~操業に問題ない程度(○)の範囲であることから、非常に有用であることが確認された。
これに対して、本発明のモノエステル化合物(A)とは相違するエステル化合物を含有する比較例1~14、16の弾性繊維用処理剤は、本発明の弾性繊維用処理剤と比較して、詳しくは、比較例1、3~7は実施例2と、比較例2は実施例12と、比較例8は実施例25と、比較例9は実施例34と、比較例10は実施例28と、比較例11は実施例13と、比較例12は実施例26と、比較例13は実施例37と、比較例14は実施例35と、それぞれ比較して、特に(1)摩擦性において大きく劣ることが、さらには、(2)解舒性、(3)巻き形状、(4)製剤安定性も劣ることが明らかとなった。
さらに、本発明のモノエステル化合物(A)を含有しない比較例15は、特に(1)摩擦性において大きく劣ることが、さらには、(2)解舒性、(3)巻き形状に劣ることが明らかとなった。