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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104978
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ロータリジョイント
(51)【国際特許分類】
   F16L 27/08 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
F16L27/08 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009450
(22)【出願日】2023-01-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-28
(71)【出願人】
【識別番号】000179328
【氏名又は名称】リックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】橘 昇平
(72)【発明者】
【氏名】山崎 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】星野 高明
(72)【発明者】
【氏名】今泉 吉規
【テーマコード(参考)】
3H104
【Fターム(参考)】
3H104JA04
3H104JB02
3H104JC10
3H104JD09
3H104KB18
3H104LE02
3H104LE07
3H104LF01
3H104LF10
3H104LF16
3H104LG08
3H104LG21
(57)【要約】
【課題】絞り部によるエアなどの気体の過大な流量を防止する機能を維持しながら液体を流す場合の流量の低下を抑制することが可能なロータリジョイントの提供。
【解決手段】スピンドル軸2に装着される回転部1Aであり、スピンドル軸2の軸方向の回転流路4Eが設けられた回転部1Aと、流体供給部から流体が供給されるケーシング部材3に装着される固定部1Bであり、スピンドル軸2の軸方向の固定流路7Fが設けられた固定部1Bとが同軸配置され、流体供給部から供給される流体を、固定流路7Fを介して回転流路4Eへ送給するロータリジョイント1であって、回転流路4E内を流れる流体の流量を制限する流量制限手段であり、回転流路4Eの流路断面積を局部的に絞る絞り部4Fと、絞り部4Fの下流側に接続され、上流から下流に向かってテーパ角度3~15°で拡大するテーパ部4Jとを有する流量制限手段を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に装着される回転部であり、前記回転軸の軸方向の回転流路が設けられた回転部と、流体供給部から流体が供給されるケーシング部材に装着される固定部であり、前記回転軸の軸方向の固定流路が設けられた固定部とが同軸配置され、流体供給部から供給される流体を、前記固定流路を介して前記回転流路へ送給するロータリジョイントであって、
前記回転流路内を流れる流体の流量を制限する流量制限手段であり、前記回転流路の流路断面積を局部的に絞る絞り部と、前記絞り部の下流側に接続され、上流から下流に向かってテーパ角度3~15°で拡大するテーパ部とを有する流量制限手段を備えたロータリジョイント。
【請求項2】
前記流体が液体の場合の入口圧力が1MPa以上である請求項1記載のロータリジョイント。
【請求項3】
前記流体が液体の場合の前記絞り部における平均流速が20m/sec以上である請求項1記載のロータリジョイント。
【請求項4】
前記流体が液体の場合の粘度が1~10MPa・sである請求項1から3のいずれか1項に記載のロータリジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械のマシニングセンタや自動旋盤等の回転構造を有する機械の回転軸に流体としての冷却用のクーラントなどの液体またはエアなどの気体を供給するために用いられるロータリジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸など作動時に回転状態にある回転軸に冷却用のクーラントなどの液体やエアなどの気体を送給する流体送給機構において、固定された流体送給配管を回転軸の流路と接続する流体継手としてロータリジョイントが用いられる。ロータリジョイントは、回転軸に結合されて回転する回転部と流体送給配管に接続される固定部とを同軸に配置して軸方向に対向させ、それぞれの対向端面に装着された回転シールのシール面を相互に密着させることにより流体の漏洩を防止する構成となっている(特許文献1,2参照。)。これにより、流体供給配管から回転状態にある回転軸へ、所定圧力・所定流量の流体がロータリジョイントを介して連続的に供給される。
【0003】
ところが、上述のような流体送給機構においては、工作機械など被供給側の状態によっては、ロータリジョイントを介して供給される流量が大きく変動する場合がある。すなわち、ロータリジョイントには流体として液体とエアとの両方が供給される場合があり、流体としてエアを送給する場合の流体供給源としては十分な容量のエア供給源が用いられるため、被供給側において流体噴射ノズルの脱落などの不測の事態が発生した場合には、使用範囲として想定された圧力・流量の範囲から外れたエアがロータリジョイントを通過して被供給側に流れる場合がある。このような圧力・流量の大幅な変動はロータリジョイントの破損要因となるため、極力変動を抑制することが求められる。
【0004】
そこで、本出願人は、特許文献3に記載のロータリジョイントを開発している。図4に示すように、このロータリジョイント101は、軸方向の回転流路104Eが設けられた回転部101Aおよび軸方向の固定流路107Fが設けられた固定部101Bを同軸配置した構成であり、回転部101Aに設けられ軸端面に回転流路104Eが開口した第1のシール面105Bを有する回転シール部としてのロータ104に、回転流路104E内を流れる流体の流量を、圧力損失を発生させて制限する流量制限手段としての絞り部104Fを備えることにより、簡便な構成で過大な流量のエアが流れることを防止するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭62-163685号公報
【特許文献2】特開2004-205037号公報
【特許文献3】特許第5221249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記ロータリジョイント101は、流体がエアの場合に大流量が流れることでフローティングシート7の固定流路107Fにおける圧力損失によりオリフィス孔104G前後の圧力差が生じ、本来わずかに浮いて非接触状態であるはずのシール面105Bが接触して摩耗してしまうことを防ぐために、ロータ104に絞り部104Fを設け、流量を制限している。
【0007】
このように、流体がエアの場合には、絞り部104Fによってエアの流量をロータリジョイント101が破損しない範囲に制限することが可能である。しかしながら、このロータリジョイント101に送給される流体がクーラントのような液体の場合には、絞り部104Fによってクーラントの流量の上限が下がってしまうことになるため、クーラントによる冷却能力のボトルネックになっている。
【0008】
そこで、本発明においては、絞り部によるエアなどの気体の過大な流量を防止する機能を維持しながら液体を流す場合の流量の低下を抑制することが可能なロータリジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
回転流路の流量低下は絞り部が支配的と考えられていたが、実際には絞り部より下流側でのキャビテーション現象による影響も無視できないことが判明した。つまり、絞り部によって流速が上がるため、その出口では顕著なキャビテーション現象が発生し、キャビテーション現象で発生した大量の気泡により絞り部の下流の流路において液体が流れる流路断面積が減少し、流路が狭窄しているのと同様になるため、流量が減少する要因として無視できないことが判明した。
【0010】
本発明のロータリジョイントは、回転軸に装着される回転部であり、回転軸の軸方向の回転流路が設けられた回転部と、流体供給部から流体が供給されるケーシング部材に装着される固定部であり、回転軸の軸方向の固定流路が設けられた固定部とが同軸配置され、流体供給部から供給される流体を、固定流路を介して回転流路へ送給するロータリジョイントであって、回転流路内を流れる流体の流量を制限する流量制限手段であり、回転流路の流路断面積を局部的に絞る絞り部と、絞り部の下流側に接続され、上流から下流に向かってテーパ角度3~15°で拡大するテーパ部とを有する流量制限手段を備えたものである。
【0011】
本発明のロータリジョイントによれば、絞り部の下流側に接続され、上流から下流に向かってテーパ角度3~15°で拡大するテーパ部により、流れの中心から広がる方向の速度ベクトルを与えることで、流量制限手段の出口周辺で発生したキャビテーション領域の拡大による流路狭窄を低減することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、流量制限手段の出口周辺で発生したキャビテーション領域の拡大による流路狭窄を低減し、大流量気体による破損防止の効果をそのままに、従来の単純なオリフィス構造に比べて液体使用時の流量を大きくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態におけるロータリジョイントの断面図である。
図2A】本実施の形態におけるロータリジョイントの流速シミュレーション結果と従来のロータリジョイントの流速シミュレーション結果とを比較した図である。
図2B】本実施の形態におけるロータリジョイントの流速シミュレーション結果と従来のロータリジョイントの流速シミュレーション結果とを比較した図である。
図2C】本実施の形態におけるロータリジョイントの流速シミュレーション結果と従来のロータリジョイントの流速シミュレーション結果とを比較した図である。
図3】ロータリジョイント内の流速シミュレーション結果を示す図であって、(A)はテーパ角度α=15°、(B)はテーパ角度α=30°をそれぞれ示す図である。
図4】従来のロータリジョイントの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明の実施の形態におけるロータリジョイントの断面図である。
図1において、ロータリジョイント1は、工作機械のスピンドル軸などの回転軸へ冷却用の液体やエア等の流体を送給する流体供給機構に用いられるものである。ロータリジョイント1は、軸方向の回転流路が設けられた回転部1Aおよび軸方向の固定流路が設けられた固定部1Bを同軸配置して構成される。冷却用の流体としては、水、クーラント液やグリセリン水溶液などの液体やエアなどの気体が用いられる。
【0015】
回転部1Aは、回転軸であるスピンドル軸2の流路孔2Aに締結される。スピンドル軸2は、スピンドルに内蔵されたモータによって回転駆動されて軸心C廻りに回転するとともに、クランプ/アンクランプシリンダによって軸方向の進退動作を行う。
【0016】
固定部1Bは、円筒ブロック形状のケーシング部材3と、ケーシング部材3に設けられた嵌合孔3Aに嵌合して装着されるフローティングシート7とを有する。固定部1Bは、スピンドル軸2が挿通するフレーム(図示省略)にボルトなどの締結手段によってケーシング部材3を着脱自在に締結することにより、回転部1Aと同軸に配置される。嵌合孔3Aには、流体供給部(図示省略)より水、クーラント液やグリセリン水溶液などの液体やエアなどの気体が選択的に送給される(矢印a)。
【0017】
次に、ロータリジョイント1の詳細構造について、図1に示す例を用いて説明する。
図1において、回転部1Aは、スピンドル軸2に装着されるロータ4を主体としている。ロータ4は、回転軸部4Aの一方側の端部に回転軸部4Aよりも外径が大きいフランジ部4Bを設け、さらに軸心部に回転流路4Eを軸方向に設けた形状となっている。回転軸部4Aの外面には雄ねじ部4Dが設けられている。流路孔2Aの内面には雌ねじ部2Bが設けられている。ロータ4は、雄ねじ部4Dを雌ねじ部2Bに螺合させることにより、スピンドル軸2にねじ締結され、Oリング6によってねじ締結部が密封される。これにより、回転流路4Eはスピンドル軸2の流路孔2Aと連通する。
【0018】
ロータ4の右側(固定部1Bと対向する側)の軸端面には、回転流路4Eの開孔面を囲む配置で円形状の凹部4Cが形成されている。凹部4Cには、第1のシールリング5が固定されている。第1のシールリング5は、セラミックなどの耐摩耗性に富む硬質材料を、中央部に開口部5Aを有する円環形状に成形したものである。第1のシールリング5は、平滑面に仕上げられた第1のシール面5Bを外面側にした状態で凹部4Cに固定される。そしてこの状態では、回転流路4Eは開口部5Aと連通して第1のシール面5Bに開口する。
【0019】
回転軸部4Aの回転流路4Eの下流側には、絞り部4Fが設けられている。絞り部4Fは、回転軸部4Aの回転流路4Eの下流側に、固定流路7Fの流路径d1や回転流路4Eの流路径d2よりも小さい流路径d3のオリフィス孔4Gを設けた構成となっている。本実施の形態では、絞り部4Fの絞り効果によって回転流路4E内を上流側から送給される流体の流量を制限するようにしている。また、回転軸部4Aの絞り部4Fの下流側には、上流から下流に向かってテーパ角度αで拡大する円錐台状のテーパ孔4Hが形成されたテーパ部4Jが設けられている。テーパ孔4Hの上流側(入口)の流路径は、オリフィス孔4Gの流路径d3と同径である。
【0020】
上記構成において、第1のシールリング5が固定されたロータ4は、回転部1Aに設けられ軸端面に回転流路4Eが開口した第1のシール面5Bを有する回転シール部となっている。そしてこの回転シール部には、回転流路4E内を流れる流体の流量を制限する流量制限手段としての絞り部4Fおよびテーパ部4Jを備えた構成となっている。
【0021】
なお、図1に示す例では、回転流路4Eの流路径d2を固定流路7Fの流路径d1と同一径としているが、流路径d2を流路径d1よりも大きくなるように設定しても、小さくなるように設定してもよい。また、図1に示す例では、テーパ角度をα=5.2°に設定しているが、流体に応じてαの角度は設定しても良い。
【0022】
次に、固定部1Bの構造を説明する。固定部1Bは、ケーシング部材3の嵌合孔3aに嵌合して装着されたフローティングシート7を主体としている。フローティングシート7は、一方側(図1において回転部1Aと対向する側)に円板形状のフランジ部7Bが設けられ、他方側に固定流路7Fが軸方向に貫通して形成された固定軸部7Aを有する形状となっている。固定軸部7Aは、嵌合孔3Aに軸方向の移動が許容された状態で嵌合する。嵌合孔3Aの内面にはOリング溝3Bが設けられており、Oリング溝3Bに装着されたOリング10によって固定軸部7Aの嵌合部が密封される。ケーシング部材3には廻り止め部材(図示せず。)が軸方向に植設されており、フローティングシート7をケーシング部材3に装着した状態において廻り止め部材(図示せず。)はフランジ部7Bに設けられた廻り止め孔(図示せず。)を軸方向に挿通している。
【0023】
フランジ部7Bの左側(回転部1Aと対向する端面)に設けられた凸部7Dには、固定流路7Fの開孔面を囲む配置で、円形状の凹部7Eが形成されている。凹部7Eには、第2のシールリング8が固定されている。第2のシールリング8は第1のシールリング5と同様の硬質材料を、中央部に開口部8Aを有する円環形状に成形したものである。第2のシールリング8は、平滑面に仕上げられた第2のシール面8Bを外面側にした状態で凹部7Eに固定される。そしてこの状態では、固定流路7Fは開口部8Aと連通して第2のシール面8Bに開口する。すなわち第2のシールリング8が固定されたフローティングシート7は、固定流路7Fが軸方向に貫通して形成されケーシング部材3に設けられた嵌合孔3Aに軸方向の移動が許容された状態で嵌合する固定軸部7Aを有し、軸端面に固定流路7Fが開口した第2のシール面8Bを有する固定シール部となっている。
【0024】
次に、ロータリジョイント1の動作を説明する。
嵌合孔3A内に供給対象の流体が送給される(矢印a)ことにより、この流体圧は固定軸部7Aの他方側(第2のシールリング8の反対側)の軸端面7Gに作用する。これにより、固定軸部7Aは嵌合孔3A内で回転部1A側へスライドし、第2のシールリング8は第1のシールリング5に対して、軸端面7Gの投影面積に流体圧を乗じた大きさの押圧力Fで押圧される。この押圧力Fは第2のシール面8Bと第1のシール面5Bとを相互に密着させ、これにより固定流路7Fから軸廻りに回転状態の回転流路4Eへ送給される流体の漏洩を防止する面シール部9が形成される。
【0025】
すなわち、流体供給源から嵌合孔3A内へ流体を供給して固定軸部7Aの他方側の軸端面7Gに流体圧を作用させて、固定シール部であるフローティングシート7を回転シール部であるロータ4に対して押圧することにより、第1のシール面5Bと第2のシール面8Bとを相互に密着させて面シール部9を形成する。このフローティングシート7のスライドにおいて、フランジ部7Bに設けられた廻り止め孔が廻り止め部材に沿って摺動することにより、フローティングシート7の軸方向の移動がガイドされるとともに、軸廻りの廻り止めが行われる。
【0026】
ロータリジョイント1の作動状態においては、送給される流体の圧力によるフローティングシート7の進出と、スピンドル軸2の進退動作によって、面シール部9のシール面の接離が行われる。すなわちフローティングシート7が後退して第1のシール面5Bと第2のシール面8Bとが相互に離隔した状態において、嵌合孔3A内に流体が送給されることによりフローティングシート7が前進(矢印b方向)し、第1のシール面5Bが第2のシール面8Bに当接して面シール部9が形成される。そしてスピンドル軸2が固定部1Bに対して相対的に前進(矢印e方向)することにより、フローティングシート7は後退(矢印c方向)し、フランジ部7Bがケーシング部材3に近接した位置に復帰する。そしてこの状態からスピンドル軸2を相対的に後退(矢印d方向)させることにより、第1のシール面5Bと第2のシール面8Bとが相互に離隔した状態に戻る。
【0027】
ここで、ロータリジョイント1の作動時における絞り部4Fの機能について説明する。前述のように、絞り部4Fは回転流路4E内を流れる流体の流量を制限する機能を有するものである。ロータリジョイント1における流量の制限は、以下のような意義を有している。上述構成の流体送給機構においては、下流の被供給側の状態によっては、ロータリジョイント1を介して供給される流量が大きく変動する場合がある。すなわち一般に流体供給源は十分な容量を備えていることから、被供給側において流体噴射ノズルの脱落などの不測の事態が発生した場合には、使用範囲として想定された圧力・流量の範囲から外れた流体がロータリジョイントを通過して被供給側に流れる場合がある。
【0028】
このような流量や圧力の変動は、ロータリジョイントの破損要因となるため、極力変動を抑制することが求められる。このような変動を抑制する手段として、ロータリジョイントに過大な流量が流れないように絞りなどの流量制限手段を設けることが考えられる。このような目的の流量制限手段をクーラント供給配管系に組み込むに際しては、ロータリジョイント1のシール機能の安定性を損なわないために、以下に説明するような考慮が必要となる。
【0029】
ロータリジョイント1に採用されるメカニカルシール構造においては、流体圧による押圧力Fを面シール部9に作用させることによりシール機能を果たしている。そして押圧力Fにより面シール部9に生じるシール圧力と内部の流体圧との相対比を予め使用条件に応じて適正に設定されたバランス比に保つことにより、安定したシール性能を維持するようにしている。このため、上述目的の流量制限手段を流体供給配管系に組み込むに際しては、面シール部9近傍の流体圧と固定軸部7Aの軸端面7Gに作用する流体圧との関係を極力変動させないよう、流量制限手段の構成および流量制限手段が挿入される位置を考慮する必要がある。
【0030】
すなわち、ロータリジョイント1の上流側に流量制限手段を設けた場合には、流量を制限するために設けた絞り部における圧力損失のために、面シール部9に作用する流体圧が低下し、シール性能の安定性を損なうおそれがある。これに対し、ロータリジョイント1の下流側に流量制限手段を設けようとすれば、スピンドル軸2など常に回転する部分に流量を制限する機構を組み込む必要があり、装置構成上困難が伴う場合が多い。
【0031】
このようなメカニカルシールの特性を考慮して、本実施の形態に示すロータリジョイント1においては、面シール部9から下流に位置するロータ4に絞り部4Fを設けることにより流量を制限するようにしている。このような構成を採用することにより、フローティングシート7や面シール部9に作用する流体圧の変動を生じることなく、固定流路7Fから回転流路4Eを介して流路孔2Aに流れる流量を制限することができる。しかもこの流量制限手段はロータリジョイント1を構成するロータ4に設けられていることから、スピンドル軸2など回転部分には何ら新たな機構を追加する必要がなく、設備の変更や改修を全く必要としない。
【0032】
なお、絞り部4Fの構成において、オリフィス孔4Gの流路径d3は、固定流路7Fの流路径d1との関係で決定されるものである。すなわち、ロータリジョイント1における流量の変動を許容可能な範囲内に抑制するために必要な絞り度合いが、固定流路7Fの流路断面積に対するオリフィス孔4Gの流路断面積の百分比を用いて設定される。本実施の形態においては、回転流路4Eを局部的に絞ったオリフィス孔4Gの流路断面積を固定流路7Fの流路断面積の90%以下となるようにしている。ここで、より確実な流量制限効果を得るためには、上記百分比を75%以下とすることが望ましい。またロータ4において絞り部4Fを設ける位置は、面シール部9から下流側であれば回転流路4Eの任意位置に設けることができる。
【0033】
上記絞り度合いの数値は、以下のような計算根拠に基づいて設定される。ロータリジョイントにおいて安定したシール性能を確保するためには前述のバランス比の変動を10%以下にすることが望ましい。バランス比は面シール部9における流体圧と押圧力Fによって決定されることから、フローティングシート7内の固定流路7Fにおける圧力損失をロータリジョイント1の手前側における流体圧の10%以下に抑えることが求められる。ここで、圧力損失の増加の要因となる流量の増加は、ロータリジョイント1の下流側が開放に近い状態となることにより生じるため、ロータ4の直後が完全開放されて静圧が立たない状態を想定し、この状態においてなお圧力損失が10%以下となるような条件を設定すればよい。換言すれば、ロータリジョイント1に供給される流体の流体圧Pのうち、10%が固定流路7Fにおける圧力損失として費やされ、残りの90%がロータ4に設けられたオリフィス孔4Gによって動圧に変換されるような条件を見出せばよい。
【0034】
すなわち、固定流路7Fにおける圧力損失ΔPが流体圧Pの10%である場合のファニングの圧損計算式(1)と、オリフィス孔4G前後の差圧が流体圧Pの90%である場合の流量Qを計算する計算式(2)とを、流量Qが等しいという条件で連立させることにより、上述の条件を満たす固定流路7Fの流路断面積S1に対するオリフィス孔4Gの流路断面積S3の比(S3/S1)が求められる。
(ΔP=)0.1P=λ(L/d1)V2 /2g・・(1)
Q=α(S3)√(2g×0.9P)・・(2)
ここで、λ:管摩擦係数 L:固定流路長さ d1:固定流路径
V:固定流路流速 g:重力加速度 α:オリフィス流量係数
(1)式は、流量Qを用いて、0.1P=λ(L/d1)(Q/S12 /2gと書き表される。そしてこの流量Qに(2)式を代入しさらに数値条件例としてλ=0.03、α=0.75、L=40mm、d1=5mmの数値を用いると、前述の条件を満たす(S3/S1)の限界値として0.91が求められる。
【0035】
すなわち、上述の数値条件において、固定流路7Fの流路断面積S1に対するオリフィス孔4Gの流路断面積S3の比(S3/S1)を90%以下としておけば、ロータ4の下流が完全開放された場合においても、固定流路7Fにおける圧力損失ΔPを流体圧Pの10%以下に抑えることができる。そして通常のロータリジョイントにおいては、上述の数値条件に極端な差異はないことから、安定したシール性能を確保する上での(S3/S1)の目安の値として、上記数値(90%)を用いることができる。なお(S3/S1)を75%以下とすれば、先端開放状態においてもシール性能に影響を与えないことが実験により確認されている。
【0036】
また、本実施の形態におけるロータ4においては、絞り部4Fの下流側に流量制限手段としてのテーパ部4Jが接続されている。本実施の形態におけるロータリジョイント1により送給される流体は、水、クーラント液やグリセリン水溶液などの液体またはエアなどの気体である。なお、送給される流体が液体の場合、これらの液体の粘度は1~10mPa・s(ミリパスカル秒)である。また、液体のロータリジョイント1の入口(嵌合孔3Aの上流側端面)圧力が1MPa以上、もしくは、絞り部4Fにおける液体の平均流速(流量/最小断面積)が20m/sec以上が動作条件となっている。
【0037】
上記動作条件においては、テーパ孔4Hのテーパ角度をα=3~15°とする。また、テーパ孔4Hの長さは、オリフィス孔4Gの口径の3倍以上とする。
【0038】
次に、本実施の形態におけるロータリジョイント1と従来のロータリジョイント101における絞り部下流の流れの違いについて説明する。
【0039】
図2A図2Cは本実施の形態におけるロータリジョイント1のロータ4の回転流路4E、オリフィス孔4Gおよびテーパ孔4Hとその下流の流路孔2A内の流速シミュレーション結果と、図4に示す従来のロータリジョイント101のロータ104の回転流路104Eおよびオリフィス孔104Gとその下流の流路孔102A内の流速シミュレーション結果とを比較した図である。
【0040】
図2A図2Cでは、流路は断面の上側半分のみを表示し、気体率、つまりキャビテーション気泡が体積にどれほど含まれているのかを、すべて液体を0、すべて気体を1として、0~1に数値化し、気体率が0.8以上となっている領域を白、それ以外の領域をグレーで表示している。すなわち、白の部分はほとんどが気泡となっている。なお、テーパ角度αは、流路孔2Aの流路径φよりもテーパ孔4Hの出口4Kの開口径が大きくならないように選定し、流路径φ=6mmではテーパ角度α=3°、流路径φ=8ではテーパ角度α=5°、流路径φ=10mmではテーパ角度α=10°,15°とした。
【0041】
図2A図2Cに示すように、キャビテーション気泡の発生により、ほとんどが気泡である白の領域(気体率が0.8以上の領域)が管壁に沿うように分布しており、液体が主体であるグレーの領域(気体率が0.8未満の領域)の流れは中心付近に絞られている。つまり、気体率の高い領域が大きいほど、流路が狭窄されていることになる。
【0042】
気体率が0.8の線は、図2A図2Cのいずれも従来例に比べ、実施例の方が中心より遠くなっており、流路の狭窄が緩和されていることが分かる。非圧縮流体である液体の場合、圧力損失は流速の2乗に比例し、流速は流量/面積なので、狭窄が緩和された場合、流量は径の拡大率(縮小率)の2乗に比例することになるため、少しの差でも流量には大きく作用する。
【0043】
以上のように、本実施の形態におけるロータリジョイント1によれば、絞り部4Fの下流側に接続され、上流から下流に向かってテーパ角度3~15°で拡大するテーパ部4Jにより、流れの中心から広がる方向の速度ベクトルを与えることで、流量制限手段の出口周辺で発生したキャビテーション領域の拡大による流路狭窄を低減することができる。この流路狭窄の低減は、液体特有の現象への対処であるため、大流量気体による破損防止の効果をそのままに、従来の単純なオリフィス構造に比べて液体使用時の流量を大きくすることが可能となる。
【0044】
なお、前述のように、本発明の実施の形態におけるロータリジョイント1では、テーパ孔4Hのテーパ角度をα=3~15°としているが、テーパ角度αが大きくなるにしたがって壁面の剥がれは大きくなる。図3はロータリジョイント内の流速シミュレーション結果を示す図であって、(A)はテーパ角度α=15°、(B)はテーパ角度α=30°をそれぞれ示している。図中の矢印の向きは流体の流れの方向を示し、矢印の長さは速度の大きさを示している。
【0045】
図3(B)に示すように、テーパ角度α=30°では壁面の剥がれが大きく、下流からテーパ孔への逆流が顕著になっており、テーパ孔内で渦が発生し、下流への流れが絞られている。このため、テーパ角度αは大きすぎると逆流および渦による損失が増え、効果が低減する。図3(A)に示すように、テーパ角度α=15°でも境界層付近でわずかに逆流が見られ、テーパ角度αが15°を超えて大きくなるとこれが次第に顕著になることからα=15°を上限値としている。
【0046】
一方、テーパ角度αの下限値については、前述のように、流路孔2Aの流路径φよりもテーパ孔4Hの出口4Kの開口径が大きくならないように選定する必要がある。図2A(A)に示すようにテーパ角度α=3°は流路径φ=6mmに対して設定したものであるが、同図(B)に示すように従来例の流路径φ=6mmにおける狭窄領域は、図2B(B)に示す従来例の流路径φ=8mmおよび図2C(C)に示す従来例のφ=10mmと比較して短く、また、図2A(A)の実施例との差が小さいものとなっている。つまり、オリフィス孔4Gの径と流路径φが近くなると、流路系の狭窄や本発明のメリットは縮小していくため、実際に効果が見えるα=3°を下限値としている。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のロータリジョイントは、工作機械のマシニングセンタや自動旋盤等の回転構造を有する機械の回転軸に流体を供給するために用いられクーラントとエアを併用するロータリジョイントとして有用であり、特に、過大なエア流量における破損を抑えつつ、破損防止対策によるクーラント等の液体の流量の上限の低下を抑えることが可能なロータリジョイントとして好適である。
【符号の説明】
【0048】
1 ロータリジョイント
1A 回転部
1B 固定部
2 スピンドル軸
2A 流路孔
2B 雌ねじ部
3 ケーシング部材
3A 嵌合孔
3B Oリング溝
4 ロータ
4A 回転軸部
4B フランジ部
4C 凹部
4D 雄ねじ部
4E 回転流路
4F 絞り部
4G オリフィス孔
4H テーパ孔
4J テーパ部
4K 出口
5 第1のシールリング
5A 開口部
5B 第1のシール面
6 Oリング
7 フローティングシート
7A 固定軸部
7B フランジ部
7D 凸部
7E 凹部
7F 固定流路
7G 軸端面
8 第2のシールリング
8A 開口部
8B 第2のシール面
9 面シール部
10 Oリング
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2023-05-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転構造を有する機械の回転軸に冷却用の流体を供給するために用いられ、冷却用の流体として液体と気体を併用するロータリジョイントであり、回転軸に装着される回転部であり、前記回転軸の軸方向の回転流路が設けられた回転部と、流体供給部から流体としての液体または気体選択的に供給されるケーシング部材に装着される固定部であり、前記回転軸の軸方向の固定流路が設けられた固定部とが同軸配置され、流体供給部から供給される流体としての液体または気体を、前記固定流路を介して前記回転流路へ送給するロータリジョイントであって、
前記回転流路内を流れる流体の流量を制限する流量制限手段であり、前記回転流路の流路断面積を局部的に絞る絞り部と、前記絞り部の下流側に接続され、上流から下流に向かってテーパ角度3~15°で拡大するテーパ部とを有する流量制限手段を備えたロータリジョイント。
【請求項2】
記液体の入口圧力が1MPa以上である請求項1記載のロータリジョイント。
【請求項3】
記液体の前記絞り部における平均流速が20m/sec以上である請求項1記載のロータリジョイント。
【請求項4】
記液体の粘度が1~10Pa・sである請求項1から3のいずれか1項に記載のロータリジョイント。