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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104979
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ロータリジョイント
(51)【国際特許分類】
   F16L 27/08 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
F16L27/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009451
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000179328
【氏名又は名称】リックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】三苫 芳数
【テーマコード(参考)】
3H104
【Fターム(参考)】
3H104JA04
3H104JB02
3H104JC10
3H104JD09
3H104KB18
3H104LE02
3H104LE07
3H104LF01
3H104LF10
3H104LF16
3H104LG08
3H104LG21
(57)【要約】
【課題】絞りによるエアなどの気体の過大な流量を防止する機能を維持しながら液体を流す場合の流量の低下を抑制することが可能なロータリジョイントの提供。
【解決手段】スピンドル軸2に装着される回転部1Aであり、スピンドル軸2の軸方向の回転流路4Eが設けられた回転部1Aと、流体供給部から流体が供給されるケーシング部材3に装着される固定部1Bであり、スピンドル軸2の軸方向の固定流路7Fが設けられた固定部1Bとが同軸配置され、流体供給部から供給される流体を、固定流路7Fを介して回転流路4Eへ送給するロータリジョイント1であって、回転流路4E内を流れる流体の流量を制御する流量制御手段であり、回転流路4Eの流路断面積を局部的に絞る流量制限部4Fと、流量制限部4Fの下流側に接続され、回転部1Aの回転による遠心力により流体に下流方向へ向かう力を作用させる流量ブースト部4Jとを有する流量制御手段を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に装着される回転部であり、前記回転軸の軸方向の回転流路が設けられた回転部と、流体供給部から流体が供給されるケーシング部材に装着される固定部であり、前記回転軸の軸方向の固定流路が設けられた固定部とが同軸配置され、流体供給部から供給される流体を、前記固定流路を介して前記回転流路へ送給するロータリジョイントであって、
前記回転流路内を流れる流体の流量を制御する流量制御手段であり、前記回転流路の流路断面積を局部的に絞る流量制限部と、前記流量制限部の下流側に接続され、前記回転部の回転による遠心力により流体に下流方向へ向かう力を作用させる流量ブースト部とを有する流量制御手段を備えたロータリジョイント。
【請求項2】
前記流量ブースト部は、前記回転流路の軸心周りに配設された複数の小流路からなり、前記複数の小流路の下流側の開口部を内包する外接円の半径が前記流量制限部の流路半径より大きいことを特徴とする請求項1記載のロータリジョイント。
【請求項3】
前記複数の小流路は、下流側の開口部を内包する外接円の半径が上流側の開口部を内包する外接円の半径よりも大きいことを特徴とする請求項2記載のロータリジョイント。
【請求項4】
前記複数の小流路は、上流から下流に向かって前記回転流路の軸心からの距離が一定である請求項2記載のロータリジョイント。
【請求項5】
前記流量ブースト部は、さらに前記流量制限部の流路と同軸配置され、前記複数の小流路の流体により生じるエジェクタ効果によって流動が励起される第2の小流路を有する請求項2記載のロータリジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械のマシニングセンタや自動旋盤等の回転構造を有する機械の回転軸に流体としての冷却用のクーラントなどの液体またはエアなどの気体を供給するために用いられるロータリジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸など作動時に回転状態にある回転軸に冷却用のクーラントなどの液体やエアなどの気体を送給する流体送給機構において、固定された流体送給配管を回転軸の流路と接続する流体継手としてロータリジョイントが用いられる。ロータリジョイントは、回転軸に結合されて回転する回転部と流体送給配管に接続される固定部とを同軸に配置して軸方向に対向させ、それぞれの対向端面に装着された回転シールのシール面を相互に密着させることにより流体の漏洩を防止する構成となっている(特許文献1,2参照。)。これにより、流体供給配管から回転状態にある回転軸へ、所定圧力・所定流量の流体がロータリジョイントを介して連続的に供給される。
【0003】
ところが、上述のような流体送給機構においては、工作機械など被供給側の状態によっては、ロータリジョイントを介して供給される流量が大きく変動する場合がある。すなわち、ロータリジョイントには流体として液体とエアとの両方が供給される場合があり、流体としてエアを送給する場合の流体供給源としては十分な容量のエア供給源が用いられるため、被供給側において流体噴射ノズルの脱落などの不測の事態が発生した場合には、使用範囲として想定された圧力・流量の範囲から外れたエアがロータリジョイントを通過して被供給側に流れる場合がある。このような圧力・流量の大幅な変動はロータリジョイントの破損要因となるため、極力変動を抑制することが求められる。
【0004】
そこで、本出願人は、特許文献3に記載のロータリジョイントを開発している。図4に示すように、このロータリジョイント101は、軸方向の回転流路104Eが設けられた回転部101Aおよび軸方向の固定流路107Fが設けられた固定部101Bを同軸配置した構成であり、回転部101Aに設けられ軸端面に回転流路104Eが開口した第1のシール面105Bを有する回転シール部としてのロータ104に、回転流路104E内を流れる流体の流量を、圧力損失を発生させて制限する流量制限手段としての絞り部104Fを備えることにより、簡便な構成で過大な流量のエアが流れることを防止するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭62-163685号公報
【特許文献2】特開2004-205037号公報
【特許文献3】特許第5221249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記ロータリジョイント101は、流体がエアの場合に大流量が流れることでフローティングシート7の固定流路107Fにおける圧力損失によりオリフィス孔104G前後の圧力差が生じ、本来わずかに浮いて非接触状態であるはずのシール面105Bが接触して摩耗してしまうことを防ぐために、ロータ104に絞り部104Fを設け、流量を制限している。
【0007】
このように、流体がエアの場合には、絞り部104Fによってエアの流量をロータリジョイント101が破損しない範囲に制限することが可能である。しかしながら、このロータリジョイント101に送給される流体がクーラントのような液体の場合には、絞り部104Fによってクーラントの流量の上限が下がってしまうことになるため、クーラントによる冷却能力のボトルネックになっている。
【0008】
そこで、本発明においては、絞りによるエアなどの気体の過大な流量を防止する機能を維持しながら液体を流す場合の流量の低下を抑制することが可能なロータリジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のロータリジョイントは、回転軸に装着される回転部であり、回転軸の軸方向の回転流路が設けられた回転部と、流体供給部から流体が供給されるケーシング部材に装着される固定部であり、回転軸の軸方向の固定流路が設けられた固定部とが同軸配置され、流体供給部から供給される流体を、固定流路を介して回転流路へ送給するロータリジョイントであって、回転流路内を流れる流体の流量を制御する流量制御手段であり、回転流路の流路断面積を局部的に絞る流量制限部と、流量制限部の下流側に接続され、回転部の回転による遠心力により流体に下流方向へ向かう力を作用させる流量ブースト部とを有する流量制御手段を備えたものである。
【0010】
本発明のロータリジョイントによれば、流量制限部の下流側で流体に遠心力を作用させて、その遠心力で流体に下流方向へ向かう力を作用させることができる。このとき、質量が大きいほど遠心力は大きくなるため、流体が液体の場合と気体の場合とではその密度差分、すなわち液体の場合の方がより強い遠心力が作用する。一方、気体の場合には作用する遠心力が弱く、流量増加効果が低い。したがって、本発明のロータリジョイントによれば、流体が気体の場合のシール破損防止機能はそのままにして、液体の場合の流量を増加させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、流体が気体の場合のシール破損の抑制しつつ、流体が液体の場合の流量を増加させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態におけるロータリジョイントを示す図であって(A)断面図、(B)は(A)の回転部の左端面図、(C)は(A)のX-X断面図である。
図2】本発明の第2実施形態におけるロータリジョイントを示す図であって(A)断面図、(B)は(A)の回転部の左端面図である。
図3】本発明の第3実施形態におけるロータリジョイントを示す図であって(A)断面図、(B)は(A)の回転部の左端面図、(C)は(A)のX-X断面図である。
図4】従来のロータリジョイントの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施の形態1>
図1は本発明の第1実施形態におけるロータリジョイントを示す図であって、(A)は断面図、(B)は(A)の回転部の左端面図、(C)は(A)のX-X断面図である。
図1において、ロータリジョイント1は、工作機械のスピンドル軸などの回転軸へ冷却用の液体やエア等の流体を送給する流体供給機構に用いられるものである。ロータリジョイント1は、軸方向の回転流路が設けられた回転部1Aおよび軸方向の固定流路が設けられた固定部1Bを同軸配置して構成される。冷却用の流体としては、水、クーラント液やグリセリン水溶液などの液体やエアなどの気体が用いられる。
【0014】
回転部1Aは、回転軸であるスピンドル軸2の流路孔2Aに締結される。スピンドル軸2は、スピンドルに内蔵されたモータによって回転駆動されて軸心C廻りに回転するとともに、クランプ/アンクランプシリンダによって軸方向の進退動作を行う。
【0015】
固定部1Bは、円筒ブロック形状のケーシング部材3と、ケーシング部材3に設けられた嵌合孔3Aに嵌合して装着されるフローティングシート7とを有する。固定部1Bは、スピンドル軸2が挿通するフレーム(図示省略)にボルトなどの締結手段によってケーシング部材3を着脱自在に締結することにより、回転部1Aと同軸に配置される。嵌合孔3Aには、流体供給部(図示省略)より水、クーラント液やグリセリン水溶液などの液体やエアなどの気体が選択的に送給される(矢印a)。
【0016】
次に、ロータリジョイント1の詳細構造について、図1に示す例を用いて説明する。
図1において、回転部1Aは、スピンドル軸2に装着されるロータ4を主体としている。ロータ4は、回転軸部4Aの一方側の端部に回転軸部4Aよりも外径が大きいフランジ部4Bを設け、さらに軸心部に回転流路4Eを軸方向に設けた形状となっている。回転軸部4Aの外面には雄ねじ部4Dが設けられている。流路孔2Aの内面には雌ねじ部2Bが設けられている。ロータ4は、雄ねじ部4Dを雌ねじ部2Bに螺合させることにより、スピンドル軸2にねじ締結され、Oリング6によってねじ締結部が密封される。これにより、回転流路4Eはスピンドル軸2の流路孔2Aと連通する。
【0017】
ロータ4の右側(固定部1Bと対向する側)の軸端面には、回転流路4Eの開孔面を囲む配置で円形状の凹部4Cが形成されている。凹部4Cには、第1のシールリング5が固定されている。第1のシールリング5は、セラミックなどの耐摩耗性に富む硬質材料を、中央部に開口部5Aを有する円環形状に成形したものである。第1のシールリング5は、平滑面に仕上げられた第1のシール面5Bを外面側にした状態で凹部4Cに固定される。そしてこの状態では、回転流路4Eは開口部5Aと連通して第1のシール面5Bに開口する。
【0018】
回転軸部4Aの回転流路4Eの下流側には、回転流路4Eの流路断面積を局部的に絞る流量制限部4Fが設けられている。流量制限部4Fは、回転軸部4Aの回転流路4Eの下流側に、固定流路7Fの流路径d1や回転流路4Eの流路径d2よりも小さい流路径d3のオリフィス孔4Gを設けた構成となっている。本実施の形態では、流量制限部4Fの絞り効果によって回転流路4E内を上流側から送給される流体の流量を制限するようにしている。
【0019】
また、回転流路4Eの流量制限部4Fの下流側には、回転部の回転による遠心力により流体に下流方向へ向かう力を作用させる流量ブースト部4Jが接続されている。流量ブースト部4Jは、回転流路4Eの軸心(スピンドル軸2の軸心C)周りに配設された複数の小流路4Hからなる。複数の小流路4Hはそれぞれ流路径d4の円孔である。複数の小流路4Hの下流側の開口部4Kを内包する外接円C1図1(B)参照。)の半径r1は、流量制限部4Fの流路半径(流路径d3/2)より大きく、かつ、複数の小流路4Hの上流側の開口部4Lを内包する外接円C2図1(C)参照。)の半径r2よりも大きい。
【0020】
上記構成において、第1のシールリング5が固定されたロータ4は、回転部1Aに設けられ軸端面に回転流路4Eが開口した第1のシール面5Bを有する回転シール部となっている。そしてこの回転シール部には、回転流路4E内を流れる流体の流量を制御する流量制御手段を構成する流量制限部4Fおよび流量ブースト部4Jを備えた構成となっている。
【0021】
なお、図1に示す例では、回転流路4Eの流路径d2を固定流路7Fの流路径d1と同一径としているが、流路径d2を流路径d1よりも大きくなるように設定しても、小さくなるように設定してもよい。また、図1に示す例では、流路径d4を流路径d3よりも小さくなるように設定しているが、大きくなるように設定してもよい。
【0022】
次に、固定部1Bの構造を説明する。固定部1Bは、ケーシング部材3の嵌合孔3Aに嵌合して装着されたフローティングシート7を主体としている。フローティングシート7は、一方側(図1において回転部1Aと対向する側)に円板形状のフランジ部7Bが設けられ、他方側に固定流路7Fが軸方向に貫通して形成された固定軸部7Aを有する形状となっている。固定軸部7Aは、嵌合孔3Aに軸方向の移動が許容された状態で嵌合する。嵌合孔3Aの内面にはOリング溝3Bが設けられており、Oリング溝3Bに装着されたOリング10によって固定軸部7Aの嵌合部が密封される。ケーシング部材3には廻り止め部材11が軸方向に植設されており、フローティングシート7をケーシング部材3に装着した状態において廻り止め部材11はフランジ部7Bに設けられた廻り止め孔7Cを軸方向に挿通している。
【0023】
フランジ部7Bの左側(回転部1Aと対向する端面)に設けられた凸部7Dには、固定流路7Fの開孔面を囲む配置で、円形状の凹部7Eが形成されている。凹部7Eには、第2のシールリング8が固定されている。第2のシールリング8は第1のシールリング5と同様の硬質材料を、中央部に開口部8Aを有する円環形状に成形したものである。第2のシールリング8は、平滑面に仕上げられた第2のシール面8Bを外面側にした状態で凹部7Eに固定される。そしてこの状態では、固定流路7Fは開口部8Aと連通して第2のシール面8Bに開口する。すなわち第2のシールリング8が固定されたフローティングシート7は、固定流路7Fが軸方向に貫通して形成されケーシング部材3に設けられた嵌合孔3Aに軸方向の移動が許容された状態で嵌合する固定軸部7Aを有し、軸端面に固定流路7Fが開口した第2のシール面8Bを有する固定シール部となっている。
【0024】
次に、ロータリジョイント1の動作を説明する。
嵌合孔3A内に供給対象の流体が送給される(矢印a)ことにより、この流体圧は固定軸部7Aの他方側(第2のシールリング8の反対側)の軸端面7Gに作用する。これにより、固定軸部7Aは嵌合孔3A内で回転部1A側へスライドし、第2のシールリング8は第1のシールリング5に対して、軸端面7Gの投影面積に流体圧を乗じた大きさの押圧力Fで押圧される。この押圧力Fは第2のシール面8Bと第1のシール面5Bとを相互に密着させ、これにより固定流路7Fから軸廻りに回転状態の回転流路4Eへ送給される流体の漏洩を防止する面シール部9が形成される。
【0025】
すなわち、流体供給源から嵌合孔3A内へ流体を供給して固定軸部7Aの他方側の軸端面7Gに流体圧を作用させて、固定シール部であるフローティングシート7を回転シール部であるロータ4に対して押圧することにより、第1のシール面5Bと第2のシール面8Bとを相互に密着させて面シール部9を形成する。このフローティングシート7のスライドにおいて、フランジ部7Bに設けられた廻り止め孔7Cが廻り止め部材11に沿って摺動することにより、フローティングシート7の軸方向の移動がガイドされるとともに、軸廻りの廻り止めが行われる。
【0026】
ロータリジョイント1の作動状態においては、送給される流体の圧力によるフローティングシート7の進出と、スピンドル軸2の進退動作によって、面シール部9のシール面の接離が行われる。すなわちフローティングシート7が後退して第1のシール面5Bと第2のシール面8Bとが相互に離隔した状態において、嵌合孔3A内に流体が送給されることによりフローティングシート7が前進(矢印b方向)し、第1のシール面5Bが第2のシール面8Bに当接して面シール部9が形成される。そしてスピンドル軸2が固定部1Bに対して相対的に前進(矢印e方向)することにより、フローティングシート7は後退(矢印c方向)し、フランジ部7Bがケーシング部材3に近接した位置に復帰する。そしてこの状態からスピンドル軸2を相対的に後退(矢印d方向)させることにより、第1のシール面5Bと第2のシール面8Bとが相互に離隔した状態に戻る。
【0027】
ここで、ロータリジョイント1の作動時における流量制御手段(流量制限部4Fおよび流量ブースト部4J)の機能について説明する。前述のように、流量制限部4Fは回転流路4E内を流れる流体の流量を制限する機能を有するものである。ロータリジョイント1における流量の制限は、以下のような意義を有している。上述構成の流体送給機構においては、下流の被供給側の状態によっては、ロータリジョイント1を介して供給される流量が大きく変動する場合がある。すなわち一般に流体供給源は十分な容量を備えていることから、被供給側において流体噴射ノズルの脱落などの不測の事態が発生した場合には、使用範囲として想定された圧力・流量の範囲から外れた流体がロータリジョイントを通過して被供給側に流れる場合がある。
【0028】
このような流量や圧力の変動は、ロータリジョイントの破損要因となるため、極力変動を抑制することが求められる。このような変動を抑制する手段として、ロータリジョイントに過大な流量が流れないように絞りなどの流量制限手段を設けることが考えられる。このような目的の流量制限手段をクーラント供給配管系に組み込むに際しては、ロータリジョイント1のシール機能の安定性を損なわないために、以下に説明するような考慮が必要となる。
【0029】
ロータリジョイント1に採用されるメカニカルシール構造においては、流体圧による押圧力Fを面シール部9に作用させることによりシール機能を果たしている。そして押圧力Fにより面シール部9に生じるシール圧力と内部の流体圧との相対比を予め使用条件に応じて適正に設定されたバランス比に保つことにより、安定したシール性能を維持するようにしている。このため、上述目的の流量制限手段を流体供給配管系に組み込むに際しては、面シール部9近傍の流体圧と固定軸部7Aの軸端面7Gに作用する流体圧との関係を極力変動させないよう、流量制限手段の構成および流量制限手段が挿入される位置を考慮する必要がある。
【0030】
すなわち、ロータリジョイント1の上流側に流量制限部を設けた場合には、流量を制限するために設けた流量制限部における圧力損失のために、面シール部9に作用する流体圧が低下し、シール性能の安定性を損なうおそれがある。これに対し、ロータリジョイント1の下流側に流量制限部を設けようとすれば、スピンドル軸2など常に回転する部分に流量を制限する機構を組み込む必要があり、装置構成上困難が伴う場合が多い。
【0031】
このようなメカニカルシールの特性を考慮して、本実施の形態に示すロータリジョイント1においては、面シール部9から下流に位置するロータ4に流量制限部4Fを設けることにより流量を制限するようにしている。このような構成を採用することにより、フローティングシート7や面シール部9に作用する流体圧の変動を生じることなく、固定流路7Fから回転流路4Eを介して流路孔2Aに流れる流量を制限することができる。しかもこの流量制限部4Fはロータリジョイント1を構成するロータ4に設けられていることから、スピンドル軸2など回転部分には何ら新たな機構を追加する必要がなく、設備の変更や改修を全く必要としない。
【0032】
なお、流量制限部4Fの構成において、オリフィス孔4Gの流路径d3は、固定流路7Fの流路径d1との関係で決定されるものである。すなわち、ロータリジョイント1における流量の変動を許容可能な範囲内に抑制するために必要な絞り度合いが、固定流路7Fの流路断面積に対するオリフィス孔4Gの流路断面積の百分比を用いて設定される。本実施の形態においては、回転流路4Eを局部的に絞ったオリフィス孔4Gの流路断面積を固定流路7Fの流路断面積の90%以下となるようにしている。ここで、より確実な流量制限効果を得るためには、上記百分比を75%以下とすることが望ましい。またロータ4において流量制限部4Fを設ける位置は、面シール部9から下流側であれば回転流路4Eの任意位置に設けることができる。
【0033】
上記絞り度合いの数値は、以下のような計算根拠に基づいて設定される。ロータリジョイントにおいて安定したシール性能を確保するためには前述のバランス比の変動を10%以下にすることが望ましい。バランス比は面シール部9における流体圧と押圧力Fによって決定されることから、フローティングシート7内の固定流路7Fにおける圧力損失をロータリジョイント1の手前側における流体圧の10%以下に抑えることが求められる。ここで、圧力損失の増加の要因となる流量の増加は、ロータリジョイント1の下流側が開放に近い状態となることにより生じるため、ロータ4の直後が完全開放されて静圧が立たない状態を想定し、この状態においてなお圧力損失が10%以下となるような条件を設定すればよい。換言すれば、ロータリジョイント1に供給される流体の流体圧Pのうち、10%が固定流路7Fにおける圧力損失として費やされ、残りの90%がロータ4に設けられたオリフィス孔4Gによって動圧に変換されるような条件を見出せばよい。
【0034】
すなわち、固定流路7Fにおける圧力損失ΔPが流体圧Pの10%である場合のファニングの圧損計算式(1)と、オリフィス孔4g前後の差圧が流体圧Pの90%である場合の流量Qを計算する計算式(2)とを、流量Qが等しいという条件で連立させることにより、上述の条件を満たす固定流路7Fの流路断面積S1に対するオリフィス孔4Gの流路断面積S3の比(S3/S1)が求められる。
(ΔP=)0.1P=λ(L/d1)V2 /2g・・(1)
Q=α(S3)√(2g×0.9P)・・(2)
ここで、λ:管摩擦係数 L:固定流路長さ d1:固定流路径
V:固定流路流速 g:重力加速度 α:オリフィス流量係数
(1)式は、流量Qを用いて、0.1P=λ(L/d1)(Q/S12 /2gと書き表される。そしてこの流量Qに(2)式を代入しさらに数値条件例としてλ=0.03、α=0.75、L=40mm、d1=5mmの数値を用いると、前述の条件を満たす(S3/S1)の限界値として0.91が求められる。
【0035】
すなわち、上述の数値条件において、固定流路7Fの流路断面積S1に対するオリフィス孔4Gの流路断面積S3の比(S3/S1)を90%以下としておけば、ロータ4の下流が完全開放された場合においても、固定流路7Fにおける圧力損失ΔPを流体圧Pの10%以下に抑えることができる。そして通常のロータリジョイントにおいては、上述の数値条件に極端な差異はないことから、安定したシール性能を確保する上での(S3/S1)の目安の値として、上記数値(90%)を用いることができる。なお(S3/S1)を75%以下とすれば、先端開放状態においてもシール性能に影響を与えないことが実験により確認されている。
【0036】
また、本実施の形態におけるロータ4においては、流量制限部4Fの下流側に流量制御手段としての流量ブースト部4Jが接続されている。本実施の形態におけるロータリジョイント1により送給される流体は、水、クーラント液やグリセリン水溶液などの液体またはエアなどの気体である。なお、送給される流体が液体の場合、これらの液体の粘度は1~10mPa・s(ミリパスカル秒)である。
【0037】
流量ブースト部4Jは、回転流路4Eの軸心周りに配設された複数の小流路4Hの下流側の開口部4Kを内包する外接円C1の半径r1が流量制限部4Fの流路半径(流路径d3/2)より大きい、すなわち、下流側の開口部4Kが回転流路4Eの軸心に対して流量制限部4Fの流路径d3より外側にあるため、複数の小流路4H内を通過する流体に遠心力が作用し、この遠心力で流体に下流方向へ向かう力が作用する。
【0038】
このとき、質量が大きいほど遠心力は大きくなるため、流体が気体の場合よりも液体の場合の方が強い遠心力が作用する。具体的には、遠心力は質量に比例し、25℃における密度は水997.1kg/m3に対してエア1.184kg/m3であるため、水に作用する遠心力を1とすると、エアに作用する遠心力は0.0012であり、エアの場合には作用する遠心力が弱く、流量増加効果は低い。
【0039】
そのため、流量ブースト部4Jにおいて流体が液体の場合には液体に強い遠心力が作用することで液体に下流方向へ向かう力が作用し、流量が増加する。一方、流体が気体の場合には、気体に作用する遠心力が弱く、流量増加効果が低いため、気体の流量は増加せず、シールの破損が抑制される。
【0040】
以上のように、本実施の形態におけるロータリジョイント1によれば、流体が気体の場合のシール破損防止機能はそのままにして、液体の場合の流量を増加させることができる。
【0041】
<実施の形態2>
図2は本発明の第2実施形態におけるロータリジョイントを示す図であって、(A)は断面図、(B)は(A)の回転部の左端面図である。なお、図2において、図1と共通する構成要素については同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0042】
図2に示すように、本発明の第2実施形態におけるロータリジョイント20において、流量制限部4Fの下流側に接続される流量ブースト部21は、回転流路7Fの軸心(スピンドル軸2の軸心C)周りに配設された複数の小流路22からなる。複数の小流路22は、上流から下流に向かって回転流路7Fの軸心からの距離が一定となっている。複数の小流路22はそれぞれ流路径d4の円孔である。複数の小流路22の下流側の開口部4Kを内包する外接円C1図2(B)参照。)の半径r1は、流量制限部4Fの流路半径(流路径d3/2)よりも大きい。
【0043】
上記構成の流量ブースト部21においても、複数の小流路22の下流側の開口部4Kを内包する外接円C1の半径r1が、流量制限部4Fの流路半径(流路径d3/2)よりも大きい、すなわち、開口部4Kが回転流路7Fの軸心に対して流量制限部4Fの流路径d3より外側にあるため、複数の小流路22内を通過する流体に遠心力が作用し、この遠心力で流体に下流方向へ向かう力が作用する。
【0044】
これにより、前述と同様、流量ブースト部21において流体が液体の場合には液体に強い遠心力が作用することで液体に下流方向へ向かう力が作用し、流量が増加する。一方、流体が気体の場合には、気体に作用する遠心力が弱く、流量増加効果が低いため、気体の流量は増加せず、シールの破損が抑制される。したがって、本実施形態におけるロータリジョイント20においても、流体が気体の場合のシール破損防止機能はそのままにして、液体の場合の流量を増加させることができる。
【0045】
<実施の形態3>
図3は本発明の第3実施形態におけるロータリジョイントを示す図であって、(A)は断面図、(B)は(A)の回転部の左端面図、(C)は(A)のX-X断面図である。なお、図3において、図1と共通する構成要素については同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0046】
図3に示すように、本発明の第3実施形態におけるロータリジョイント30において、流量制限部4Fの下流側に接続される流量ブースト部31は、回転流路4Eの軸心(スピンドル軸2の軸心C)周りに配設された複数の小流路32と、流量制限部4Fの流路と同軸配置され、複数の小流路32の流体により生じるエジェクタ効果によって流動が励起される第2の小流路33とからなる。
【0047】
複数の小流路32はそれぞれ流路径d4の円孔である。複数の小流路32の下流側の開口部4Kを内包する外接円C1図3(B)参照。)の半径r1は、流量制限部4Fの流路半径(流路径d3/2)より大きく、かつ、複数の小流路32の上流側の開口部4Lを内包する外接円C2図3(C)参照。)の半径r2よりも大きい。
【0048】
上記構成の流量ブースト部31においても、複数の小流路32の下流側の開口部4Kを内包する外接円C1の半径r1が流量制限部4Fの流路半径(d3/2)より大きい、すなわち、下流側の開口部4Kが回転流路4Eの軸心に対して流量制限部4Fの流路径d3より外側にあるため、複数の小流路32内を通過する流体に遠心力が作用し、この遠心力で流体に下流方向へ向かう力が作用する。さらに、本実施形態における流量ブースト部31においては、複数の小流路32の流体により生じるエジェクタ効果によって第2の小流路33の流動が励起される。
【0049】
第2小流路33は流量制限部4Fの流路と同軸配置されているため、回転部1Aの回転による遠心力に起因する流量増加効果はほとんどないが、流体が液体の場合には複数の小流路32でブーストされた流体により生じるエジェクタ効果によって、第2の小流路33を流れる流体の流量も増加させることができる。一方、流体が気体の場合には、気体に作用する遠心力が弱く、複数の小流路32の流量増加効果が低いため、気体の流量は増加せず、同時に、エジェクタ効果による第2の小流路33の流量増加効果も低いため、シールの破損が抑制される。したがって、本実施形態におけるロータリジョイント30においても、流体が気体の場合のシール破損防止機能はそのままにして、液体の場合の流量を増加させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のロータリジョイントは、工作機械のマシニングセンタや自動旋盤等の回転構造を有する機械の回転軸に流体を供給するために用いられクーラントとエアを併用するロータリジョイントとして有用であり、特に、過大なエア流量における破損を抑えつつ、破損防止対策によるクーラント等の液体の流量の上限の低下を抑えることが可能なロータリジョイントとして好適である。
【符号の説明】
【0051】
1,20,30 ロータリジョイント
1A 回転部
1B 固定部
2 スピンドル軸
2A 流路孔
2B 雌ねじ部
3 ケーシング部材
3A 嵌合孔
3B Oリング溝
4 ロータ
4A 回転軸部
4B フランジ部
4C 凹部
4D 雄ねじ部
4E 回転流路
4F 流量制限部
4G オリフィス孔
4H,22,32,33 小流路
4J,21,31 流量ブースト部
4K 開口部
5 第1のシールリング
5A 開口部
5B 第1のシール面
6 Oリング
7 フローティングシート
7A 固定軸部
7B フランジ部
7D 凸部
7E 凹部
7F 固定流路
7G 軸端面
8 第2のシールリング
8A 開口部
8B 第2のシール面
9 面シール部
10 Oリング
11 廻り止め部材
図1
図2
図3
図4