(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104994
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】金属部材及びコンクリート構造物
(51)【国際特許分類】
E04C 5/03 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
E04C5/03
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009480
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 裕生
(72)【発明者】
【氏名】野並 優二
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 亘
(72)【発明者】
【氏名】春日 昭夫
【テーマコード(参考)】
2E164
【Fターム(参考)】
2E164BA23
(57)【要約】
【課題】コンクリートに接する表面に大きな凹凸を設けずコンクリートの付着力を高める
【解決手段】コンクリートに埋め込まれる金属部材は、コンクリートに接する表面に0.2mm以上の高さの凹凸がなく、表面に微細凹状構造が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートに埋め込まれる金属部材であって、コンクリートに接する表面に0.2mm以上の高さの凹凸がなく、前記表面に微細凹状構造が形成されている金属部材。
【請求項2】
前記金属部材は丸鋼である、請求項1に記載の金属部材。
【請求項3】
前記金属部材は頭付きスタッドである、請求項1に記載の金属部材。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の金属部材と、
前記金属部材が埋め込まれたコンクリートと、を有し、
前記コンクリートの圧縮強度が30N/mm2以上、160N/mm2以下であるコンクリート構造物。
【請求項5】
前記コンクリートの圧縮強度が30N/mm2以上、90N/mm2以下である、請求項4に記載のコンクリート構造物。
【請求項6】
前記コンクリートの圧縮強度が70N/mm2以上、90N/mm2以下である、請求項4に記載のコンクリート構造物。
【請求項7】
前記微細凹状構造のポアサイズの範囲が、前記コンクリートに含まれるいずれかの結合材の粒度分布と重なっている、請求項4に記載のコンクリート構造物。
【請求項8】
前記いずれかの結合材はシリカフュームである、請求項7に記載のコンクリート構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材とこれを用いたコンクリート構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートには用途に応じて様々な金属部材が埋め込まれる。鉄筋はこのような金属部材の代表的なものである。一般に鉄筋コンクリートの鉄筋は引張力を受けるため、コンクリートは十分な付着強度を有する必要がある。このため、鉄筋においては異形鉄筋が一般的に使用されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
付着強度を高めるには、異形鉄筋のように表面に大きな凹凸を設けることが一般的である。しかし、表面に大きな凹凸を設けずコンクリートの付着強度を高めたいという一定のニーズが存在する。例えば、頭付きスタッドでは丸鋼を加工して利用している場合があるが、付着強度が高められれば埋め込み量を低減できる可能性がある。
【0005】
よって、本発明はコンクリートに接する表面に大きな凹凸を設けずコンクリートの付着力を高めることのできる金属部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、コンクリートに埋め込まれる金属部材が提供される。この金属部材は、コンクリートに接する表面に0.2mm以上の高さの凹凸がなく、表面に微細凹状構造が形成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、コンクリートに接する表面に大きな凹凸を設けずコンクリートの付着力を高めることのできる金属部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】実施例1における最大付着応力度の測定結果である。
【
図3】実施例2における最大付着応力度の測定結果である。
【
図4】実施例2における抜け出し量と引張荷重の関係を示すグラフである。
【
図5】実施例2における計測位置と金属部材の引張りひずみの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について説明する。本発明は、コンクリートに埋め込まれる金属部材を対象とする。また、本発明は、上記金属部材と、このような金属部材の少なくとも一部が埋め込まれたコンクリートと、を有するコンクリート構造物を対象とする。金属部材としては丸鋼のような棒状体が代表的であるが、板状体であってもよい。棒状体としては、例えば鉄筋、構造物のアンカー、頭付きスタッド、鋼板コンクリート構造の鋼板部などが挙げられ、特に通常時に繰り返し荷重の掛からないものが望ましい。これは表面処理(後述)された金属表面の改変を防止するためである。金属部材のコンクリートに接する表面は滑らかであり、0.2mm以上の高さの凹凸(最も高いところと最も低いところの高低差)がない。凹凸の最大高さは0.1mmより小さくてもよい。
【0010】
金属部材のコンクリートに接する表面には微細凹状構造が形成されている。微細凹状構造のポアサイズ(各凹部の開口を包含する最小円の直径)はナノレベル(概ね50~1000nm)の大きさであり、上記凹凸の大きさとはオーダーが異なる。すなわち、金属表面はマクロレベル(概ね0.1mmオーダーまたはそれ以上)では滑らかであり、ミクロレベル(概ね10~1000nmオーダー)では多くの微細凹状構造を有している。このような微細凹状構造は、酸やアルカリ等の薬剤を鋼材に接触させることで形成され、このようなプロセスを本明細書では「表面処理」という。表面処理されることで、表面に多くの微細凹状構造が形成される。
【0011】
(実施例1)
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。
図1は付着強度を測定するために行った引抜き試験の概要図を示す。引抜き試験は土木学会基準JSCE-G 503-2013「引抜き試験による鉄筋とコンクリートとの付着強度試験方法」に準拠して実施した。棒状の金属部材1をコンクリート2に埋め込み、試験体を作成した。金属部材1としてφ13mmの丸鋼を用いた。金属部材1はコンクリート2の両端から突き出しており、金属部材1の右側端部に引張力が掛けられる。金属部材1のコンクリート2に埋め込まれた部位のうち引張側端部の領域は、グリースが塗布されコンクリート2との付着が生じない非付着区間3とした。これは金属部材1の伸びを吸収するとともに、載荷板(図示せず)からコンクリート2に掛かる応力を均一化するためである。表1はコンクリートの使用材料の諸元を、表2はコンクリートの調合を示す。試験体N55とH40は28日間、20℃で水中養生し、試験体HSF40は56時間、50℃で蒸気養生した。
【0012】
【0013】
【0014】
金属部材1に引張力を掛け、コンクリート2に割裂ひび割れが発生するまで載荷を行った。表2には各試験体のコンクリートの圧縮強度と割裂ひび割れ発生強度も示している。
図2に最大付着応力度(割裂ひび割れ発生時の付着応力度)を示す。いずれの試験体でも表面処理によって最大付着応力度が増加している。特に、コンクリートの圧縮強度が85.3[N/mm
2]である試験体HSF40と、コンクリートの圧縮強度が76.9[N/mm
2]である試験体H40は、最大付着応力度の増加率が大きい。この理由として、金属表面における微細凹状構造の寸法がセメントあるいは結合材の粒子(結合材粒子)の大きさと同レベルになって、結合材粒子が微細凹状構造と噛み合う現象が生じていることが考えられる。実際には、微細凹状構造のポアサイズと結合材粒子の粒度はばらつきがあるため、微細凹状構造のポアサイズの範囲が、コンクリートに含まれるいずれかの結合材の粒度分布と重なっていると考えられる。また、結合材粒子そのものが微細凹状構造のポアに入らなくても、水がポアに入ってそこで水和物が析出することで噛合いが生じることも考えられる。コンクリートは組織が緻密化するにつれて圧縮強度が高くなる。コンクリートの圧縮強度70~90[N/mm
2]では、微細凹状構造と噛み合う水和物が緻密化しているのでより強固な噛み合いが発生し、高い付着力が得られたものと考えられる。
【0015】
(実施例2)
実施例1と同様、
図1に示す方法で金属部材1の引抜き試験を行った。金属部材1としてD13の異形鋼棒とφ13の丸鋼を使用した。表3はコンクリートの使用材料の諸元を、表4はコンクリートの調合を示す。試験体の養生は気中養生とし、材齢28日目に試験を行った。なお、表2と表4に記載した試験体H40は互いに異なる試験体であるが、基本的な組成が同じであるので同じ符号を使用している。HSF40についても同様である。
【0016】
【0017】
【0018】
図3は最大付着応力度を示す。異形鋼棒では表面処理の有無による最大付着応力度の違いがほとんど見られなかった。これは、異形鋼棒でも微細凹状構造による付着力の増加は生じている可能性はあるものの、節やリブなどの大きな凹凸による付着力が支配的であり、微細凹状構造が最大付着応力度の増加に寄与しなかったためと考えられる。一方、丸鋼の場合、MFS42.5以外の試験体については、表面処理の最大付着応力度の増加への寄与が認められた。この理由は実施例1で述べたのと同様であると考えられる。圧縮強度80[N/mm
2]の試験体のうち、最大付着応力度の増加率が高い試験体HEBFS30とHSF40はシリカフュームを含んでいる。また、シリカフュームの単位量の多いHEBFS30はHSF40よりも増加率が高い。シリカフュームの粒径は概ね1μm(1000nm)以下で平均0.1μm(100nm)程度、微細凹状構造のポアサイズは50~1000nmであり、両者の範囲は広い範囲で重なっている。このため、シリカフュームが微細凹状構造と噛み合う効果が最大化されたものと推測される。従って、シリカフュームは最大付着応力度を増加させる効果があると考えられる。なお、フライアッシュの粒径は1~100μm(1000~100000nm)程度,平均20μm程度であるが、微細凹状構造のポアサイズをこれと同程度とすれば、HF35(シリカフュームを含まずフライアッシュを含む)についてもさらに最大付着応力度が増加すると考えられる。
【0019】
図4は試験体H40、HSF40、HEBFS30、HF35の抜け出し量と引張荷重の関係を示している。抜け出し量は
図1に示す金属部材1の左側端部の移動量である。初期状態で金属部材1はコンクリート2の左端から12mm突き出している。例えば、抜け出し量2mmは、金属部材1が右に2mm移動しコンクリート2の左端から10mm突き出した状態であることを意味している。いずれの試験体も、表面処理を行った場合、初期状態(抜け出し量=0mm)の引張荷重が増加しており、抜け出し量が増加していっても表面処理を行った場合の方がより大きな引張荷重を負担している。これらはコンクリートの付着力が増加しているためであると考えられる。また、試験体HSF40とHEBFS30は初期状態の引張荷重、抜け出し量が増加したときの引張荷重とも大きな値を示しており、これらはシリカフュームの効果であると考えられる。
【0020】
図5は試験体H40、HEBFS30、MFS42.5の金属部材1の引張ひずみと計測位置の関係を示している。
図1に示すように、非付着区間3の左側端部を原点にとり、左向きを正として計測位置Xを定め、これらの計測位置で金属部材1にひずみゲージを取り付け、金属部材1の引張ひずみを測定した。異形鋼棒の場合、各計測位置での引張ひずみは表面処理の有無でほとんど変わらない。また、表面処理を行った丸鋼の場合、ほぼ異形鋼棒と同様の結果が得られた。これに対して表面処理を行わない丸鋼の場合、試験体H40、HEBFS30では、計測位置=0mmでの引張ひずみは他のケースより若干高く、計測位置が付着区間3の左側端部から離れて行っても引張ひずみの低下量は小さい。これは丸鋼に加えられた引張荷重の多くを丸鋼自身が負担していること、すなわち付着力が小さいためにコンクリートの負担量が小さいことを示している。試験体MFS42.5では、表面処理を行った丸鋼は表面処理を行わない丸鋼より多少金属部材1に引張ひずみが低下している。コンクリートの圧縮強度が高いと、付着力もそれに応じて増加する。このため、コンクリートの圧縮強度が150[N/mm
2]程度になると、表面処理の有無の影響が小さくなったと考えられる。
【0021】
以上説明したように、実施例からは、金属部材として丸鋼を用い且つ表面処理を行った場合、異形鋼棒と同程度の付着力が得られることが確認された。コンクリートの圧縮強度は、好ましくは30[N/mm2]以上、160[N/mm2]以下、より好ましくは30[N/mm2]以上、90[N/mm2]以下、さらに好ましくは70[N/mm2]以上、90[N/mm2]以下である。また、付着力を高めるためには、コンクリートがシリカフュームを含むことが好ましい。
【符号の説明】
【0022】
1 金属部材
2 コンクリート