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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105005
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】耐震補強構造及び耐震補強工法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20240730BHJP
   E04B 2/56 20060101ALI20240730BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
E04G23/02 E
E04B2/56 642H
E04H9/02 321B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009493
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】523028219
【氏名又は名称】河本 孝紀
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】河本 孝紀
【テーマコード(参考)】
2E002
2E139
2E176
【Fターム(参考)】
2E002EC01
2E002FB03
2E002MA12
2E139AA01
2E139AC26
2E139AD04
2E176AA02
2E176BB29
(57)【要約】
【課題】施工時の手間がかからず、開口付きのRC壁を効率良く補強し、補強後の耐力低減を緩和することが可能な耐震補強構造とそれを用いた耐震補強工法を提供する。
【解決手段】本発明の耐震補強構造では、RC壁の開口に、接着力を有するコンクリート又はモルタルを用いて形成された第2のコンクリート1からなる閉塞部57が設けられており、複数本の壁割り裂け防止ボルト2が非耐力壁53に対して直交するように開口の周辺部に埋設されるとともに、吸水調整材が開口と閉塞部57の境界面に塗布されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の柱と一対の梁によって構成される架構内に少なくともいずれかの前記梁又は前記柱に接合された第1の鉄筋コンクリートからなる非耐力壁を有しており、この非耐力壁と前記架構で区画されることによって形成された開口を備えたRC壁において、前記開口に閉塞部が形成されている耐震補強構造であって、
前記閉塞部が、接着力を有するコンクリート又はモルタルを用いて形成された第2の鉄筋コンクリートからなることを特徴とする耐震補強構造。
【請求項2】
前記コンクリート又は前記モルタルは、接着強度が2N/mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の耐震補強構造。
【請求項3】
壁割り裂け防止ボルトが前記RC壁に対して直交するように前記開口の周辺部の前記非耐力壁に埋設されていることを特徴とする請求項1に記載の耐震補強構造。
【請求項4】
前記開口と前記閉塞部の境界面に吸水調整材が塗布されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の耐震補強構造。
【請求項5】
一対の柱と一対の梁によって構成される架構内に少なくともいずれかの前記梁又は前記柱に接合された第1の鉄筋コンクリートからなる非耐力壁を有しており、この非耐力壁と前記架構で区画されることによって形成された開口を備えたRC壁において、前記開口に閉塞部を形成する耐震補強工法であって、
前記開口の内壁面に対して垂直に前記第1の鉄筋コンクリートに開けた第1の孔の内部に接着剤を充填した後、アンカー筋の一端を差し込んで、このアンカー筋を一部が前記開口内に突出するとともに残りの部分が前記第1の鉄筋コンクリート内に埋設された状態にする接着系アンカー取付工程と、
前記開口を覆うように型枠を設置した後、この型枠の内部に接着力を有するコンクリート又はモルタルを打設して第2の鉄筋コンクリートからなる閉塞部を形成する工程と、を備えていることを特徴とする耐震補強工法。
【請求項6】
前記コンクリート又は前記モルタルは、接着強度が2N/mmであることを特徴とする請求項5に記載の耐震補強工法。
【請求項7】
前記接着系アンカー取付工程と前記コンクリート又は前記モルタルの打設工程の間に、前記開口の周辺部の前記非耐力壁に対して垂直に第2の孔を前記第1の鉄筋コンクリートを構成する壁筋と前記アンカー筋に干渉しないように設けた後、前記第2の孔の内部に前記接着剤を充填した状態で壁割り裂け防止ボルトを挿設して前記非耐力壁の内部に前記壁割り裂け防止ボルトが埋設された状態にする工程を備えていることを特徴とする請求項5に記載の耐震補強工法。
【請求項8】
前記開口と前記閉塞部の境界面に吸水調整材を塗布することを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の耐震補強工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート造建物(以下、RC造建物という。)の耐震補強設計に係り、特に、開口付きの鉄筋コンクリート壁(以下、RC壁という。)の地震に対する抵抗力を高めることが可能な耐震補強構造とそれを用いた耐震補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
RC造建物において開口付きのRC壁を補強するために、開口を鉄筋コンクリートで閉塞することがある。図3及び図4は、そのような開口付きのRC壁の構造を示した図である。具体的に説明すると、図3(a)は開口付きのRC壁の外観を示した正面図であり、図3(b)及び図4(a)は図3(a)に示した開口54が新たな鉄筋コンクリート(以下、第2の鉄筋コンクリート56という。)によって閉塞された状態を表した図であり、図3(c)は図3(b)におけるB-B線矢視断面の拡大図である。また、図4(b)及び図4(c)はいずれも図4(a)におけるC-C線矢視断面の拡大図である。
【0003】
ただし、図3(b)は既存の壁筋55bを斫り出して新たな壁筋56bと溶接することによって開口54を閉塞する場合を表しており、図4(a)は開口54の閉塞に接着系アンカーを用いる場合を表している。
なお、図3(b)では既存の鉄筋コンクリート(以下、第1の鉄筋コンクリート55という。)の表面が削り取られる箇所(斫り箇所)を破線で示しており、図3(c)では第1のコンクリート55a及び第2のコンクリート56aのみに断面であることを示すハッチングを施し、壁筋55b及び壁筋56bについては外観を表示している。また、図4(a)では、図が煩雑になるのを避けるため、アンカー筋56cを実線で表すとともに、1本のアンカー筋にのみ符号を付している。
【0004】
図3(a)に示すように、開口付きのRC壁は、左右に配置された一対の柱51、51と上下に配置された一対の梁52、52によって構成される架構50の内部に開口54を有する非耐力壁53が第1の鉄筋コンクリート55によって形成された構造となっている。なお、柱51の横に設けられている非耐力壁53は袖壁と呼ばれ、梁52の上下に設けられている非耐力壁53はそれぞれ垂れ壁及び腰壁と呼ばれる。
【0005】
図3(b)及び図3(c)に示すように、開口54の内部を第2の鉄筋コンクリート56で閉塞する場合、非耐力壁53を構成する第1の鉄筋コンクリート55のうち、開口54の周囲に存在する部分(破線で囲まれた部分)の表面を電動ハンマーやタガネなどによって削り取り、既存の壁筋55bの端部を露出させる。そして、このようにして露出させた壁筋55bの端部に新たな壁筋56bの端部をフレア溶接などによって接合した後、壁筋55b及び壁筋56bを覆うように新たな第2のコンクリート56aを打設して、開口54の内部に第2の鉄筋コンクリート56からなる閉塞部57を形成する。
しかしながら、このような方法では第1の鉄筋コンクリート55の斫り作業並びに壁筋55bと壁筋56bの溶接に手間がかかることに加え、第1のコンクリート55aと第2のコンクリート56aが同時に形成されたものでないため、それらが一体として同時に形成された場合に比べて耐力が20%程度低減してしまうという課題があった。また、第1の鉄筋コンクリート55の斫り作業により、開口54の周囲の残躯体(第1の鉄筋コンクリート55において表面が削られた部分)の強度が低下するという課題もあった。
【0006】
図4(a)に示すように、接着系アンカーを用いる場合、開口54の内壁面に対して垂直に第1のコンクリート55aに開けた孔(図示しないが図中のアンカー筋56cの外周に接する部分となる)に接着剤(図示せず)が充填された状態でアンカー筋56cの端部が差し込まれる。そして、第1のコンクリート55aとアンカー筋56cを一体にした後、アンカー筋56cを覆うように新たな第2のコンクリート56aが打設され、開口54の内部に第2の鉄筋コンクリート56からなる閉塞部57が形成される。このような方法によれば、第1の鉄筋コンクリート55を斫り出す作業を行わないため、開口54の周囲の残躯体(第1の鉄筋コンクリート55において表面が削られた部分)の強度が低下し難いというメリットがある。
【0007】
なお、図4(b)に示すように非耐力壁53の中に2組の格子状に配置された壁筋55bが配置されている場合(以下、ダブル配筋という。)とは異なり、図4(c)に示すように非耐力壁53の中に1組の格子状に配置された壁筋55bが配置されている場合(以下、シングル配筋という。)には、アンカー筋56cが2組の格子状に配置された壁筋55bによって挟まれた状態にならない。そのため、非耐力壁53と閉塞部57に対して両者をせん断するような力が加わった場合にアンカー筋56cによって非耐力壁53が割り裂かれてしまうおそれがある。
なお、第1のコンクリート55aと第2のコンクリート56aが同時に一体として形成されていないために、それらが同時に一体として形成された場合に比べて耐力が20%程度低減してしまうという課題は接着系アンカーを用いる方法によっても解決されない。
【0008】
RC壁の補強に関する技術としては、例えば、特許文献1に「既存建物の耐震補強構造及び耐震補強方法」という名称で、RC壁を短い工期で補強する技術に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示された既存建物の耐震補強構造に係る発明は、左右一対の柱と上下一対の梁によって構成される建物の架構内部に、少なくともいずれかの梁に接合された状態で一対の柱間に設けられるか、あるいは、少なくともいずれかの柱に接合された状態で一対の梁間に設けられる非耐力壁を有し、この非耐力壁と架構とで区画されるようにして長方形状の開口部が形成されるものであって、開口部に面して非耐力壁及び架構に接合された状態で開口部内に増設される新設強度部材と、この新設強度部材と架構に接合された状態で開口部内に増設される新設耐力壁を備えており、これらの新設耐力壁と新設強度部材で開口部が封鎖されていることを特徴としている。
【0009】
また、特許文献1に開示された既存建物の耐震補強方法に係る発明は、既存建物の耐震補強構造を構築するための方法であって、非耐力壁及び建物の架構にこれらから突出させてアンカーを配設するとともに、新設強度部材に埋設する配筋及び新設耐力壁に埋設する配筋を配設する配筋工程と、新設強度部材及び新設耐力壁を増設しつつアンカーを介して新設強度部材及び新設耐力壁を非耐力壁及び建物の架構に接合すると同時に、新設強度部材及び新設耐力壁で開口部を封鎖するコンクリート打設工程とを備えたことを特徴としている。
このような既存建物の耐震補強構造とそれを用いた耐震補強方法によれば、開口付きのRC壁の補強に要する期間を短縮することができる。
【0010】
また、特許文献2には「耐震補強工法」という名称で、RC壁の補強工事に要する期間を短縮する技術に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示された発明は、建築物の左右一対の柱と上下一対の梁とで囲まれた架構内に耐震補強壁を構築することによって建築物の保有耐力を増加させる耐震補強工法であって、架構に対し、複数のアンカー部材をその内部へ突出させるようにして取り付けるアンカー取付工程と、架構内に複数の鉄筋を縦横に配設する配筋工程と、耐震補強壁を構成するための型枠を架構内に設置する型枠設置工程と、セメント、膨張材、豆砂利を含む骨材、セメント分散剤、増粘剤及び発泡剤を含有するグラウト組成物と水とで構成される高強度グラウト材を上記型枠内に耐震補強壁の厚さが130mm以下になるように、かつ、梁の梁幅方向において梁幅を超えない範囲に充填する打設工程と、この打設工程において上記型枠内に充填された上記高強度グラウト材を硬化させて上記複数の鉄筋を内包する壁体を構成する養生工程と、この養生工程の後に型枠を解体する型枠解体工程を備えており、型枠設置工程と打設工程と養生工程は、それぞれ各1度行われることを特徴とする。
このような耐震補強工法によれば、高強度グラウト材の硬化物だけで耐震補強壁の壁体を構成できることから、耐震補強壁を短い工期で構築することが可能である。
【0011】
さらに、特許文献3には「既設建物の耐震補強構造」という名称で、耐震壁の増設や打増しによって既設建物を補強する技術に関する発明が開示されている。
特許文献3に開示された発明は、RC壁の開口にコンクリートが打設され、このコンクリートを開口に固定させるためのボンディングコッターが開口の内周面に固着されるとともに、コンクリートには固着されていない状態で、コンクリートからなる耐震壁の壁面に直交する方向への変形を拘束するためのアンボンドコッターが開口の内周面に固着されていることを特徴とする。
このような構造によれば、RC壁の開口内周面に固着されたボンディングコッターによって、この開口部に打設されるコンクリートが既設建物に一体化されるため、地震により建物に水平力が作用した場合に、このコンクリートからなる耐震壁の既設建物の柱体や梁体に対するずれを防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2017-110452号公報
【特許文献2】特開2019-190079号公報
【特許文献3】特開2007-40049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に開示された既存建物の耐震補強構造及び耐震補強方法に係る発明は、RC壁の開口部内に新設強度部材と新設耐力壁を構築するものであるため、施工時の手間が多いという課題があった。
また、特許文献2に開示された発明は柱と梁で構成される架構内に新たな壁を構築するものであり、特許文献3に開示された発明は、耐震壁の増設や打増しによって既設建物を補強するものであるため、これらの発明は既設の非耐力壁が内部に存在する架構には適用できないという課題があった。
【0014】
本発明は、このような従来の事情に対処してなされたものであり、施工時の手間がかからず、開口付きのRC壁を効率良く補強し、補強後の耐力低減を緩和することが可能な耐震補強構造とそれを用いた耐震補強工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、第1の発明は、一対の柱と一対の梁によって構成される架構内に少なくともいずれかの梁又は柱に接合された第1の鉄筋コンクリートからなる非耐力壁を有しており、この非耐力壁と架構で区画されることによって形成された開口を備えたRC壁において、開口に閉塞部が形成されている耐震補強構造であって、閉塞部が、接着力を有するコンクリート又はモルタルを用いて形成された第2の鉄筋コンクリートからなることを特徴とする。
第1の発明においては、開口と閉塞部の境界面における接着力が高いため、地震によって発生したせん断力が非耐力壁から閉塞部に直接伝達される結果、接着系アンカーを用いた場合に、アンカー筋に加わるせん断力が抑制されて、非耐力壁の割り裂けが生じ難くなるという作用を有する。
【0016】
第2の発明は、第1の発明において、コンクリート又はモルタルは、接着強度が2N/mm以上であることを特徴とする。
第2の発明においては、開口と閉塞部の境界面における接着力が更に高められることから、地震によって発生したせん断力が非耐力壁から閉塞部に直接伝達される結果、接着系アンカーを用いた場合に、アンカー筋に加わるせん断力が抑制されて、非耐力壁の割り裂けが生じ難くなるという第1の発明の作用がより一層発揮される。
【0017】
第3の発明は、第1の発明において、壁割り裂け防止ボルトがRC壁に対して直交するように開口の周辺部の非耐力壁に埋設されていることを特徴とする。
第3の発明においては、接着系アンカーを用いた場合に、地震によって発生したせん断力が非耐力壁と閉塞部に加わったとしても、非耐力壁に埋設されている壁割り裂け防止ボルトによって第1のコンクリートの割り裂けが防止されるため、第1の発明の作用がより一層発揮される。
【0018】
第4の発明は、第1の発明乃至第3の発明のいずれかにおいて、開口と閉塞部の境界面に吸水調整材が塗布されていることを特徴とする。
第4の発明においては、第1の発明乃至第3の発明のいずれかの発明の作用を有することに加え、吸水調整材によって第1のコンクリート及び第2のコンクリートの表面への吸水が抑制されるため、開口と閉塞部の境界面における接着力が更に高められるという作用を有する。したがって、第4の発明では、地震によって発生したせん断力が非耐力壁から閉塞部に直接伝達される結果、接着系アンカーを用いた場合に、アンカー筋に加わるせん断力が抑制されて、非耐力壁の割り裂けが生じ難くなるという第1の発明の作用がより一層発揮される。
【0019】
第5の発明は、一対の柱と一対の梁によって構成される架構内に少なくともいずれかの梁又は柱に接合された第1の鉄筋コンクリートからなる非耐力壁を有しており、この非耐力壁と架構で区画されることによって形成された開口を備えたRC壁において、開口に閉塞部を形成する耐震補強工法であって、開口の内壁面に対して垂直に第1の鉄筋コンクリートに開けた第1の孔の内部に接着剤を充填した後、アンカー筋の一端を差し込んで、このアンカー筋を一部が開口内に突出するとともに残りの部分が第1の鉄筋コンクリート内に埋設された状態にする接着系アンカー取付工程と、開口を覆うように型枠を設置した後、この型枠の内部に接着力を有するコンクリート又はモルタルを打設して第2の鉄筋コンクリートからなる閉塞部を形成する工程と、を備えていることを特徴とする。
第5の発明においては、開口と閉塞部の境界面における接着力を高くすることができるため、地震によって発生したせん断力を非耐力壁から閉塞部に直接伝達させることができる。この場合、接着系アンカーで用いられるアンカー筋に加わるせん断力が抑制されることから、非耐力壁の割り裂けが生じ難くなるという作用が発揮される。
【0020】
第6の発明は、第5の発明において、コンクリート又はモルタルは、接着強度が2N/mmであることを特徴とする。
第6の発明では、開口と閉塞部の境界面における接着力が更に高められることから、地震によって発生したせん断力が非耐力壁から閉塞部に直接伝達される。したがって、第6の発明においては、接着系アンカーで用いられるアンカー筋に加わるせん断力が抑制されるため、非耐力壁の割り裂けが生じ難くなるという第5の発明の作用がより一層発揮される。
【0021】
第7の発明は、第5の発明において、接着系アンカー取付工程とコンクリート又はモルタルの打設工程の間に、開口の周辺部の非耐力壁に対して垂直に第2の孔を第1の鉄筋コンクリートを構成する壁筋とアンカー筋に干渉しないように設けた後、第2の孔の内部に接着剤を充填した状態で壁割り裂け防止ボルトを挿設して非耐力壁の内部に壁割り裂け防止ボルトが埋設された状態にする工程を備えていることを特徴とする。
第7の発明においては、地震によって発生したせん断力が非耐力壁と閉塞部に加わった場合に、非耐力壁に埋設されている壁割り裂け防止ボルトによって第1のコンクリートの割り裂けが防止されることで、接着系アンカーで用いられるアンカー筋に加わるせん断力が抑制されるため、非耐力壁の割り裂けが生じ難くなるという第5の発明の作用がより一層発揮される。
【0022】
第8の発明は、第5の発明乃至第7の発明のいずれかにおいて、開口と閉塞部の境界面に吸水調整材を塗布することを特徴とする。
第8の発明においては、第5の発明乃至第7の発明のいずれかの発明の作用を有することに加え、吸水調整材によって第1のコンクリート及び第2のコンクリートの表面への吸水が抑制されるため、開口と閉塞部の境界面における接着力が更に高められるという作用を有する。したがって、第8の発明では、地震によって発生したせん断力が非耐力壁から閉塞部に直接伝達される結果、接着系アンカーに用いられるアンカー筋に加わるせん断力が抑制されて、非耐力壁の割り裂けが生じ難くなるという第5の発明の作用がより一層発揮される。
【発明の効果】
【0023】
第1の発明では、非耐力壁がシングル配筋であるかダブル配筋であるかに関わらず、接着系アンカーを使用することが可能である。そして、それにより、非耐力壁に埋設されている既存の壁筋を斫り出す作業等の手間を省くことができる。また、開口と閉塞部の境界面の接着力が高いため、それらが同時に形成された状態に近くなり、耐力の20%程度の低減が緩和されることになる。したがって、第1の発明によれば、開口に閉塞部を短期間で効率良く形成し、かつ、耐力低減を緩和することが可能である。
【0024】
第2の発明によれば、開口と閉塞部の境界面における接着力が更に高められることで第1の発明の作用がより一層発揮されるため、開口に閉塞部を短期間で効率良く形成でき、かつ、耐力の低減を緩和できるという第1の発明の効果が更に確実に発揮される。
【0025】
第3の発明によれば、壁割り裂け防止ボルトによって非耐力壁の割り裂けが防止されることで第1の発明の作用がより一層発揮されるため、開口に閉塞部を短期間で効率良く形成でき、かつ、耐力の低減を緩和できるという第1の発明の効果が更に確実に発揮される。
【0026】
第4の発明では、吸水調整材によって第1のコンクリート及び第2のコンクリートの表面への吸水が抑制され、開口と閉塞部の境界面における接着力が更に高められることにより、第1の発明の作用がより一層発揮されるため、開口に閉塞部を短期間で効率良く形成でき、かつ、耐力の低減を緩和できるという第1の発明の効果が更に確実に発揮される。
【0027】
第5の発明によれば、非耐力壁がシングル配筋であるかダブル配筋であるかに関わらず、接着系アンカーを使用することで、非耐力壁に埋設されている既存の壁筋を斫り出す作業等の手間を省略できることから、開口に閉塞部を短期間で効率良く形成し、かつ、耐力低減を緩和することが可能である。
【0028】
第6の発明によれば、開口と閉塞部の境界面における接着力を更に高めることで第5の発明の作用がより一層発揮されるため、開口に閉塞部を短期間で効率良く形成でき、かつ、耐力の低減を緩和できるという第5の発明の効果が更に確実に発揮される。
【0029】
第7の発明によれば、壁割り裂け防止ボルトによって非耐力壁の第1のコンクリートの割り裂けが防止されることで第5の発明の作用がより一層発揮されるため、開口に閉塞部を短期間で効率良く形成でき、かつ、耐力の低減を緩和できるという第5の発明の効果が更に確実に発揮される。
【0030】
第8の発明では、吸水調整材によって第1のコンクリート及び第2のコンクリートの表面への吸水が抑制され、開口と閉塞部の境界面における接着力が更に高められることにより、第5の発明の作用がより一層発揮されるため、開口に閉塞部を短期間で効率良く形成でき、かつ、耐力の低減を緩和できるという第5の発明の効果が更に確実に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】(a)は本発明の実施の形態に係る耐震補強構造を開口付きRC壁に適用した状態を示した図であり、(b)は同図(a)におけるA-A線矢視断面の拡大図である。
図2】本発明の実施の形態に係る耐震補強工法の工程を示したフローチャートである。
図3】(a)は開口付きのRC壁の外観を示した正面図であり、(b)は同図(a)に示した開口が新たな鉄筋コンクリートによって閉塞された状態を表した図であり、(c)は同図(b)におけるB-B線矢視断面の拡大図である。
図4】(a)は図3(a)に示した開口が新たな鉄筋コンクリートによって閉塞された状態を表した図であり、(b)及び(c)はいずれも同図(a)におけるC-C線矢視断面の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の実施の形態に係る耐震補強構造及び耐震補強工法並びにその作用及び効果について、図1及び図2を参照しながら具体的に説明する。
なお、以下の説明では、架構内に垂れ壁及び腰壁並びに一対の袖壁が設けられているRC壁を補強する場合について説明しているが、本発明の耐震補強構造及び耐震補強工法はこのような構造のRC壁に限らず、例えば、垂れ壁及び腰壁並びに一対の袖壁のうちの少なくともいずれかが架構内に設けられているRC壁に対して適用することができる。すなわち、本発明の耐震補強構造及び耐震補強工法は、一対の柱と一対の梁によって構成される架構内に少なくともいずれかの梁又は柱に接合された非耐力壁を有しており、この非耐力壁と架構で区画されることによって形成された開口を備えたRC壁において、開口に閉塞部を形成する場合に適用されるものである。
【実施例0033】
図1(a)は本発明の実施の形態に係る耐震補強構造を開口付きRC壁に適用した状態を示した図であり、図1(b)は図1(a)におけるA-A線矢視断面の拡大図である。また、図2は本発明の実施の形態に係る耐震補強工法の工程を示したフローチャートである。
なお、図1(a)では、図が煩雑になるのを避けるため、1本のアンカー筋56cと1本の壁割り裂け防止ボルト2にのみ符号を付している。また、図3及び図4を用いて既に説明した構成要素については、同一の符号を付すことにより適宜その説明を省略する。さらに、図1(a)及び図1(b)では壁割り裂け防止ボルト2の端面2a、2bが露出した状態となっているが、本願発明における「壁割り裂け防止ボルト2が非耐力壁53に埋設されている状態」には、このような「壁割り裂け防止ボルト2の一部が非耐力壁53から露出している状態」も含まれるものとする。また、壁割り裂け防止ボルト2に座金プレートが併用される場合もある。
【0034】
図1(a)及び図1(b)に示すように、本発明の耐震補強構造では、RC壁の開口54(図3(a)を参照)に対し、従来の第2の鉄筋コンクリート56(図3(b)を参照)に代えて、接着力を有するコンクリート又はモルタルを用いて形成された第2の鉄筋コンクリート1からなる閉塞部57が形成されている。そして、複数本の壁割り裂け防止ボルト2が非耐力壁53に対して直交するように開口54の周辺部に埋設されており、開口54と閉塞部57の境界面(非耐力壁53の第1の鉄筋コンクリート55と第2の鉄筋コンクリート1の接合面)には、吸水調整材が塗布されている。
【0035】
接着力を有するコンクリート又はモルタルには、例えば、太平洋マテリアル(株)製のグラウトコンクリート「商品名:プレユーロックスGC(ユーロックスは登録商標)」や宇部興産建材(株)製のポリマーセメントモルタル「商品名:U-リペアフロー(登録商標)」を使用することができる。これらの材料は、いずれも接着強度(接着された2つの被着体に荷重を加え、接着部が破断したときの荷重を接着面積で割った値)が2N/mm以上であるため、第2の鉄筋コンクリート1を形成するための材料として用いることにより、開口54と閉塞部57の境界面における接着力が更に高められる。
【0036】
また、開口54と閉塞部57の境界面には、例えば、太平洋マテリアル(株)製の吸水調整材「商品名:太平洋エフェクトA」を塗布することができる。この材料を開口54と閉塞部57の境界面に塗布すると、第1のコンクリート55a及び第2の鉄筋コンクリート1を構成する第2のコンクリートの表面への吸水が抑制されるため、開口54と閉塞部57の境界面における接着力が更に高められる。
【0037】
このように、開口54と閉塞部57の境界面における接着力が高い場合、地震によって発生したせん断力が非耐力壁53から閉塞部57に直接伝達されることになる。これにより、接着系アンカーで用いられるアンカー筋56cに加わるせん断力が抑制されるため、非耐力壁53の割り裂けが生じ難くなる。
また、地震によって発生した上記せん断力が非耐力壁53と閉塞部57に加わった場合に、非耐力壁53に埋設されている壁割り裂け防止ボルト2によって第1のコンクリート55aの割り裂けが防止される。
したがって、本発明の耐震補強構造では、非耐力壁53がシングル配筋(図4(c)を参照)の場合でも接着系アンカーを使用して、非耐力壁53に埋設されている既存の壁筋55bを斫り出す作業等の手間を省くことができる。また、開口54と閉塞部57の境界面の接着力が高いため、それらが同時に形成された状態に近くなり、耐力の20%程度の低減が緩和されることになる。したがって、本発明の耐震補強構造によれば、開口54に閉塞部57を短期間で効率良く形成することができ、かつ、耐力の低減を緩和できる。
【0038】
つぎに、本発明の実施の形態に係る耐震補強工法について図2を用いて説明する。
まず、開口54(図3(a)を参照)の内壁面に対して垂直に複数の第1の孔(直接図示しないが、図1(b)に示されるアンカー筋56cの外周面と接触するコンクリート55aの面となる。)を第1のコンクリート55aに開け、それらの内部に接着剤を充填した後、アンカー筋56c(図1(b)を参照)の端部をそれぞれ差し込む。これにより、複数本のアンカー筋56cは一部が非耐力壁53の第1のコンクリート55aの内部に埋設されるとともに、残りの部分が開口54の内部に突出した状態となる(図2のステップS1)。
【0039】
アンカー筋56cの一端が差し込まれた第1の孔の内部に充填された接着剤が十分に硬化した後に、開口54の周辺部の非耐力壁53に対して垂直に、かつ、壁筋55b及びアンカー筋56cに干渉しないように複数の第2の孔(直接図示しないが、図1(b)に示される壁割り裂け防止ボルト2の外周面と接触するコンクリート55aの面となる。)を設け、それらの第2の孔の内部に接着剤を充填した状態で壁割り裂け防止ボルト2をそれぞれ挿設する。これにより、壁割り裂け防止ボルト2が非耐力壁53の第1のコンクリート55aの内部に埋設された状態となる(図2のステップS2)。
つぎに、開口54を覆うように型枠を設置した後、その内部に接着力を有するコンクリート又はモルタルを打設する(図2のステップS3及びステップS4)。そして、打設されたコンクリート又はモルタルによって構成される第2のコンクリートに振動を与えないようにして硬化させた後、型枠を解体する(図2のステップS5及びステップS6)。これにより、第2の鉄筋コンクリート1からなる閉塞部57が形成される。
【0040】
なお、ステップS4において型枠に打設されるコンクリート又はモルタルには、既に述べたように、太平洋マテリアル(株)製のグラウトコンクリート「商品名:プレユーロックスGC(ユーロックスは登録商標)」や宇部興産建材(株)製のポリマーセメントモルタル「商品名:U-リペアフロー(登録商標)」を使用することが望ましい。これらの材料は、いずれも接着強度が2N/mm以上であり、開口54と閉塞部57の境界面における接着力を更に高めることができるからである。
また、開口54と閉塞部57の境界面には、例えば、太平洋マテリアル(株)製の吸水調整材「商品名:太平洋エフェクトA」を塗布すると良い。これにより、第1のコンクリート55a及び第2の鉄筋コンクリート1を構成する第2のコンクリートの表面への吸水が抑制される結果、開口54と閉塞部57の境界面における接着力が更に高められる。
【0041】
以上説明したように、ステップS1~ステップS6の工程を備えた本発明の耐震補強工法では、開口54と閉塞部57の境界面における接着力を高くすることができるため、地震によって発生したせん断力を非耐力壁53から閉塞部57に直接伝達させることができる。この場合、接着系アンカーで用いられるアンカー筋56cに加わるせん断力が抑制されることから、非耐力壁53の割り裂けが生じ難くなる。加えて、壁割り裂け防止ボルト2を非耐力壁53に埋設することで、上述のせん断力が非耐力壁53と閉塞部57に加わった場合に第1のコンクリート55aの割り裂けが防止されるという作用が発揮される。
【0042】
このように、本発明の耐震補強工法においては、非耐力壁53がシングル配筋(図4(c)を参照)の場合でも接着系アンカーを使用することができる。そのため、接着系アンカーを使用することにより、非耐力壁53に埋設されている既存の壁筋55bを斫り出す作業等の手間を省くことが可能である。また、開口54と閉塞部57の境界面の接着力が高いため、それらが同時に形成された状態に近くなり、耐力の20%程度の低減が緩和されることになる。したがって、本発明の耐震補強工法によれば、開口54に閉塞部57を短期間で効率良く形成し、かつ、耐力低減を緩和することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の耐震補強構造及び耐震補強方法は、RC造建物において開口付きのRC壁を補強する場合に適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1…第2の鉄筋コンクリート 2…壁割り裂け防止ボルト 2a、2b…端面 50…架構 51…柱 52…梁 53…非耐力壁 54…開口 55…第1の鉄筋コンクリート 55a…第1のコンクリート 55b…壁筋 56…第2の鉄筋コンクリート 56a…第2のコンクリート 56b…壁筋 56c…アンカー筋 57…閉塞部
図1
図2
図3
図4