(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105025
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】サブマージアーク溶接方法及びサブマージアーク溶接機
(51)【国際特許分類】
B23K 9/18 20060101AFI20240730BHJP
B23K 9/095 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B23K9/18 F
B23K9/095 505Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009535
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】馬塲 勇人
(72)【発明者】
【氏名】本田 玲央
(72)【発明者】
【氏名】宮島 雄一
(72)【発明者】
【氏名】成定 佑樹
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001BB05
4E001CA01
4E001DE04
(57)【要約】
【課題】直流溶接及び交流溶接のいずれにも適用でき、より深い溶込みを得ることができるサブマージアーク溶接方法及びサブマージアーク溶接機を提供する。
【解決手段】サブマージアーク溶接方法であって、溶接ワイヤに第1の平均溶接電流が供給される第1溶接条件を設定するステップと、溶接ワイヤに第2の平均溶接電流が供給される第2溶接条件を設定するステップとを備え、前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件を周期的に切り換える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サブマージアーク溶接方法であって、
溶接ワイヤに第1の平均溶接電流が供給される第1溶接条件を設定するステップと、
溶接ワイヤに第2の平均溶接電流が供給される第2溶接条件を設定するステップと
を備え、
前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件を周期的に切り換える
サブマージアーク溶接方法。
【請求項2】
前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件を、10Hz未満の周期で切り換える
請求項1に記載のサブマージアーク溶接方法。
【請求項3】
前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件は、溶接電流の基準平均溶接電流を200A以上、平均溶接電流の変動幅を100A以上とする溶接条件である
請求項2に記載のサブマージアーク溶接方法。
【請求項4】
10Hz以上の交流定電流制御により溶接電流を供給するステップを備える
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のサブマージアーク溶接方法。
【請求項5】
10Hz以上の交流定電流制御により溶接電流を供給するステップを備え、
前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件は、溶接電流の基準平均溶接電流を350A、第1の平均溶接電流を250A、第2の平均溶接電流を350Aとする溶接条件であり、5Hzの周期で切り換える
請求項1に記載のサブマージアーク溶接方法。
【請求項6】
サブマージアーク溶接機であって、
溶接ワイヤに第1の平均溶接電流が供給される第1溶接条件と、溶接ワイヤに第2の平均溶接電流が供給される第2溶接条件とを設定する制御装置を備え、
前記制御装置は、
前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件を周期的に切り換える
サブマージアーク溶接機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サブマージアーク溶接方法及びサブマージアーク溶接機に関する。
【背景技術】
【0002】
交流サブマージアーク溶接において、溶接ワイヤに正及び負の電圧が印加される期間の比率や、各期間の実効電流を調整することで、溶込み深さを調整する技術が開示されている(例えば、非特許文献1)。当該調整対象である期間は、交流1周期に表れる正及び負の期間である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】宮田 隆文、波形制御機能付サブマージアーク溶接電源、溶接学会誌、日本、2008年、第77巻、第7号、p.635-639
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、より深い溶込みを得ることができるサブマージアーク溶接方法及びサブマージアーク溶接機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係るサブマージアーク溶接方法は、サブマージアーク溶接方法であって、溶接ワイヤに第1の平均溶接電流が供給される第1溶接条件を設定するステップと、溶接ワイヤに第2の平均溶接電流が供給される第2溶接条件を設定するステップとを備え、前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件を周期的に切り換える。
【0006】
本開示の一側面に係るサブマージアーク溶接機は、サブマージアーク溶接機であって、溶接ワイヤに第1の平均溶接電流が供給される第1溶接条件と、溶接ワイヤに第2の平均溶接電流が供給される第2溶接条件とを設定する制御装置を備え、前記制御装置は、前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件を周期的に切り換える。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一側面によれば、より深い溶込みを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係るサブマージアーク溶接機の一構成を示す模式図である。
【
図2】本実施形態に係るサブマージアーク溶接方法の手順を示すフローチャートである。
【
図3】実施形態に係る低電流期間と高電流期間を周期的に繰り返す様子を示すタイミングチャートである。
【
図4】本実施形態に係るサブマージアーク溶接方法によって溶接された母材の裏面を撮影した写真である。
【
図5】従来のサブマージアーク溶接方法によって溶接された母材の裏面を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の実施形態に係るサブマージアーク溶接方法及びサブマージアーク溶接機の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0010】
以下、本発明をその実施形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
<サブマージアーク溶接機>
図1は、本実施形態に係るサブマージアーク溶接機の一構成を示す模式図である。本実施形態に係るサブマージアーク溶接機は、溶接電源1と、制御装置2と、送給速度制御装置3と、トーチ4と、ワイヤリール5と、ワイヤ送給部6と、フラックス供給機構7と、電圧センサ8と、電流センサ9とを備える。
【0011】
トーチ4は、銅合金等の導電性材料からなり、母材Aの被溶接部へ溶接ワイヤWを案内するとともに、アークの発生に必要な溶接電流を供給する円筒形状のコンタクトチップを有する。コンタクトチップは、その内部を挿通する溶接ワイヤWに接触し、溶接電流を溶接ワイヤWに供給する。
【0012】
ワイヤ送給部6は、ワイヤリール5に巻回された溶接ワイヤWを引き出してトーチ4へ送給する送給ローラ61と、当該送給ローラ61を回転させるモータ62とを有する。ワイヤ送給部6は、送給ローラ61を回転させることによって、溶接ワイヤWをトーチ4へ供給する。溶接ワイヤWの送給速度は、アーク長が変動しないように溶接電圧に応じて調整される。
【0013】
ワイヤ送給部6による、溶接ワイヤWの送給速度は、送給速度制御装置3によって制御される。アーク長は、溶接電圧(アーク電圧)に比例する。溶接電圧は、トーチ4のコンタクトチップと、母材Aとの間の電圧であり、電圧センサ8によって検出される。送給速度制御装置3には、制御装置2によって、目標値である送給速度設定値が設定される。送給速度制御装置3は、送給速度設定値と、電圧センサ8によって検出された溶接電圧の差分を操作量として、アーク長が一定になるように溶接ワイヤWの送給速度を制御する。
【0014】
電圧センサ8は、トーチ4に取り付けたアーク電圧検出リード線と、母材Aに取り付けたアーク電圧検出リード線との間の電圧を、溶接電圧(アーク電圧)として検出し、検出された電圧値を示す電圧値信号を制御装置2及び送給速度制御装置3へ出力するセンサである。
【0015】
電流センサ9は、溶接電源1からトーチ4を介して溶接ワイヤWへ供給され、アークを通じて母材Aに流れる溶接電流を検出し、検出した電流値を示す電流値信号を制御装置2へ出力するセンサである。
【0016】
フラックス供給機構7は、フラックスホッパ71、ノズル72及びバルブ73、図示しないフラックス回収機等を備える。フラックスホッパ71は、上部から投入されたフラックスBを蓄えており、フラックスBは、フラックスホッパ71の下部に接続されたノズル72を通じて母材Aの被溶接部に供給される。バルブ73は、フラックスホッパ71からノズル72への経路を開閉し、フラックスBの供給量を調整する。バルブ73の開閉及び開閉量は、制御装置2によって制御される。
【0017】
溶接電源1は、定電流特性を有するインバータ制御の交流溶接電源であり、商用電源の入力側から順に直列接続された整流器11、1次インバータ12、変圧器13、整流器14、直流リアクタ15、2次インバータ16を備える。溶接電源1は、給電ケーブルを介して、トーチ4のコンタクトチップ及び母材Aに接続される。溶接電源1は、商用電源を入力として、溶接ワイヤWと、母材Aとの間に溶接電力を供給してアークを発生させる。
【0018】
整流器11は、商用電源の交流を整流して1次インバータ12へ出力する。1次インバータ12は、十数kHz~数十kHzの高周波数で駆動し、高周波の交流を変圧器13の1次コイルに与える。変圧器13は交流を変圧し、変圧された交流は整流器14で整流され、直流リアクタ15を介して2次インバータ16へ出力される。2次インバータ16は、数十~数百Hzの低周波数で駆動し、低周波数の交流を出力する。交流の出力により、交流の溶接電圧がトーチ4と母材Aとの間に印加され、溶接電源1から供給された溶接電流は、電源ケーブルを介してトーチ4から溶接ワイヤWに流れる。溶接電流により、母材A及び溶接ワイヤW間に発生したアークの熱によって母材Aの溶接を行う。アークは、フラックス供給機構7によって供給されたフラックスBで覆われる。
【0019】
制御装置2は、溶接電源1の1次インバータ12及び2次インバータ16へそれぞれ制御信号を出力し、各インバータを独立してデジタル制御する回路である。制御装置2はプロセッサであり、CPU、マルチコアCPU等の演算処理回路、ROM(Read Only Memory)、EEPROM、RAM(Random Access Memory)などの記憶装置、入出力端子などを有する。入出力端子には、電圧センサ8、電流センサ9、1次インバータ12、2次インバータ16、送給速度制御装置3、バルブ73、図示しない操作パネル等に接続されている。制御装置2は、設定された溶接条件、検出された溶接電流及び溶接電圧に基づいて、定電流特性で動作するよう1次インバータ12をPWM制御する。母材A及び溶接ワイヤW間には、所用の溶接電圧が印加され、溶接電流が通電する。
【0020】
<本実施形態に係るサブマージアーク溶接方法の概要>
以下の説明では、溶接電源1から出力される溶接電流及び溶接電圧の平均値(但し、出力が交流の場合にはその絶対値の平均値)をそれぞれ、出力電流及び出力電圧と呼ぶ。
【0021】
厚板の高能率溶接プロセスとして代表的なもののひとつに、サブマージアーク溶接がある。サブマージアーク溶接では、特に1パス溶接又は多層溶接の初層において、しばしば溶込み不良が問題となる。特に裏当て材を用いて裏波溶接を行う場合には、裏波が出ない、あるいは裏ビードの溶融幅が足りないといった溶込み不良が生じやすい。
【0022】
溶込み不良を抑制するためには、溶込みを深くすることが有効であり、そのためには出力電流を大きくすることや、出力電圧を小さくすることが効果的である。出力電圧を小さくすると、アーク長が短くなり、深い溶込みが得られる。しかし、出力電流及び電圧は、施工要領や規格等で範囲が定められている場合が多く、必ずしも自由に調整することができない。また、出力電流及び電圧を操作すると、ワイヤ送給速度が変化するため、それに伴う溶接金属量の変化も管理する必要がある。また特に、出力電流を大きくする場合には、溶接による入熱が大きくなるため、溶接部の機械的性能が損なわれる。以上のような理由から、出力電流及び出力電圧を変えずに、溶込み不良を抑制する方法が望まれる。
【0023】
溶込み不良を抑制する方法として、上記した非特許文献1に示すように、交流サブマージアーク溶接において、溶接ワイヤWに正及び負の電圧が印加される期間の比率や、各期間の実効電流を調整することで、溶込み深さを調整する技術が開発されている。
【0024】
しかし、上記技術を適用できるのは交流溶接に限られ、直流溶接には適用できない。また、上記技術だけでは溶込み改善効果が必ずしも十分でない場合があり、さらなる溶込み改善方法が求められている。
【0025】
<電流振幅制御>
そこで本実施形態では、出力電流の低電流期間と高電流期間を周期的に繰り返すことで、高電流期間に強いアーク力で溶融金属を押し下げるとともに、溶融金属又は母材Aの深部に高い入熱を与えて、深い溶込みを実現する。特に、裏当て材を用いて裏波溶接を行う場合には、顕著な裏波形成効果が得られる。以下に各種条件範囲を示す。
【0026】
溶接ワイヤWのワイヤ径はφ1.2mm以上である。φ1.2mmより細径ワイヤになると、サブマージアーク溶接を安定維持することが困難となる。また、サブマージアーク溶接用途としては、φ1.6mm以上の径のワイヤが用いられる場合が多いことから、φ1.6mm以上がより望ましい。さらに望ましくは、溶接ワイヤWのワイヤ径は、サブマージアーク溶接用途として流通量の多いφ2.4mm以上φ6.4mm以下である。
【0027】
基準平均溶接電流は200A以上である。この基準平均溶接電流は、低電流期間及び高電流期間を含む全期間における溶接電流の平均値である。低電流期間における出力電流、及び高電流期間における出力電流の基準となる電流である。
【0028】
基準平均溶接電流が200Aを下回ると、細径の溶接ワイヤWを用いても、サブマージアーク溶接を安定維持するのが難しくなる。また、裏波溶接を行うためには、ある程度高電流で深い溶込みが得られる溶接条件を設定する必要があるため、基準平均溶接電流は350A以上がより望ましい。さらに望ましくは、基準平均溶接電流は、サブマージアーク溶接における溶接条件として適用されることの多い、500A以上2000A以下である。
基準平均溶接電流に対する電流の振り幅、すなわち、低電流条件(第1溶接条件)に係る出力電流(第1の平均溶接電流)と、高電流条件(第2溶接条件)に係る出力電流(第2の平均溶接電流)との差は、100A以上である。100Aを下回ると、電流の振り幅が小さく、明確な効果が得られない。より望ましくは、上記電流の振り幅は、200A以上500A以下である。振り幅が200A以上になると、顕著な裏波形成効果が得られるが、500Aを超えると溶接が不安定化しやすくなる。
【0029】
ワイヤ送給速度の設定値は定速としてもよいし、高電流条件時と低電流条件時で変化させても良い。ワイヤ送給速度の設定値を、高電流条件と低電流条件とで変化させる方が、相対的に溶接は不安定化しやすくなるが、裏波形成効果が大きくなる。
なお、溶接電源1は交流定電流制御を行っており、ワイヤ送給速度の設定値が一定であっても、アーク長を一定に維持するための制御によって、当該設定値に対してワイヤ送給速度は増減している。
【0030】
電流を変化させる周波数は、1Hz以上が望ましい。1Hzより小さくなると、低電流期間及び高電流期間の継続時間が長くなりすぎて、不連続な裏波が形成される。また、高電流期間の継続時間が長くなることにより、溶接も不安定化しやすくなる。より望ましくは3Hz以上10Hz未満である。3Hz以上になると、高電流期間の継続時間が十分短くなり、溶接が不安定化への影響がなくなる。ただし10Hz以上になると、低電流期間及び高電流期間の継続時間が短すぎて、上記の裏波形成効果が得られにくくなる。なお、溶接電流の交流周波数が20Hz以上である場合、低電流期間及び高電流期間を変化させる周期を、1Hz以上20Hz未満の範囲で設定してもよい。溶接条件によっては、低電流期間及び高電流期間を変化させる周期を10Hz以上、20Hz未満の範囲で設定しても、裏波形成効果が得られることがある。
【0031】
低電流期間と高電流期間の時間比率は、1:3~3:1の範囲が望ましく、より望ましくは1:1である。低電流期間と高電流期間におけるそれぞれの溶接電流は、基準平均溶接電流と、上述の電流の振り幅、ならびに各期間の時間比率により決定される。そのため、上記の時間比率を超えてどちらかに偏ると、電流の偏りも大きくなり、安定した溶接ができない。なお、高電流期間の出力電流×高電流期間の時間と、低電流期間の出力電流×低電流期間の時間とが等しくなるようにするとよい。
【0032】
本実施形態に係るサブマージアーク溶接方法が適用される対象としては、1パス溶接、又は多層溶接における初層が望ましい。なお、多層溶接の2層目以降では、溶込み深さが求められる場合が少ないため、本制御を適用しても顕著な効果は得られない場合が多いが、適用しても問題はない。
さらに望ましくは、本実施形態に係るサブマージアーク溶接方法を、フラックスBや銅板、セラミックバッキング等の裏当て材を用いて、裏波溶接を行うパスに適用するとよい。
【0033】
図2は、本実施形態に係るサブマージアーク溶接方法の手順を示すフローチャートである。まず、溶接により接合されるべき一対の母材Aをサブマージアーク溶接機に配置し、各種設定を行う(ステップS111)。各種設定が行われた後、制御装置2は、溶接電流の出力開始条件を満たすか否かを判定する(ステップS112)。具体的には、制御装置2は、溶接の出力指示信号が入力されたか否かを判定する。出力指示信号が入力されておらず、溶接電流の出力開始条件を満たさないと判定した場合(ステップS112:NO)、制御装置2は、出力指示信号の入力待ち状態で待機する。
【0034】
溶接電流の出力開始条件を満たすと判定した場合(ステップS112:YES)、制御装置2は、例えば初期状態として低電流条件を設定する(ステップS113)。そして、制御装置2は、設定された溶接条件に基づいて、溶接ワイヤWの送給、出力を制御することによって、交流定電流の溶接制御を行う(ステップS114)。
溶接ワイヤWの送給速度は、設定された送給速度を基準として、溶接電圧が一定、つまりアーク長が一定になるように、制御される。
制御装置2は、電圧センサ8及び電流センサ9にて溶接電圧及び溶接電流を検出し、検出された溶接電圧及び溶接電流が、溶接電源1の定電流特性を満たし、設定された溶接条件に一致するように、1次インバータ12及び2次インバータ16の出力を制御する。
【0035】
次いで、制御装置2は、切り換え周期が到来したか否かを判定する(ステップS115)。切り換え周波数は10Hz未満であり、制御装置2は現在の溶接条件が設定されてから、当該切り換え周波数の周期に相当する時間が経過したか否かを判定する。切り換え周期が到来したと判定した場合(ステップS115:YES)、制御装置2は、溶接条件を切り換える(ステップS116)。低電流条件が設定されている場合、制御装置2は、高電流条件を設定する。高電流件が設定されている場合、制御装置2は、低電流条件を設定する。
ステップS116の処理を終えた場合、又は切り換え周期が到来していないと判定した場合(ステップS115:NO)、制御装置2は、溶接電流の出力を停止するか否かを判定する(ステップS117)。具体的には、溶接電源1は、出力指示信号の入力が継続しているか否かを判定する。出力指示信号の入力が継続しており、溶接電流の出力を停止しないと判定した場合(ステップS117:NO)、制御装置2は、処理をステップS114へ戻し、溶接電流の出力を続ける。
溶接電流の出力を停止すると判定した場合(ステップS117:YES)、制御装置2は、処理をステップS112へ戻す。
【0036】
図3は、実施形態に係る低電流期間と高電流期間を周期的に繰り返す様子を示すタイミングチャートである。横軸は時間、縦軸は溶接電流を示している。ステップS115及びステップS116の処理によって、低電流条件及び高電流条件が周期的に切り換えられ、
図3Aに示すように、溶接電流の平均値である出力電流が周期的に変動する。
【0037】
また、
図3Bに示すように、低電流期間及び高電流期間それぞれにおいて、交流定電流制御が行われており、低電流期間及び高電流期間それぞれにおける平均溶接電流を基準にした矩形波交流の溶接電流が出力される。
図3Bに示す例では、交流波形の振幅を、第1の平均溶接電流又は第2の平均溶接電流の大きさに設定する例を示しているが、交流電流の振幅の設定方法は特に限定されるものではない。また、
図3Bに示す例では、交流波形の一例として、矩形波交流を示したが、交流波形の種類は特に限定されるものでは無い。
【0038】
(実施例)
本実施形態に係るサブマージアーク溶接方法の実施例を説明する。
本実施例では、70°のV開先を設けた19mm厚の低炭素鋼の母材Aを用意し、当該母材Aの突合せサブマージアーク溶接を行う。ルート面は0mm、ギャップは0mmとし、裏当て材としてセラミックバッキングを用いる。溶接姿勢は鉛直下向きとし、溶接速度は25cm/分とする。溶接ワイヤWにはワイヤ径φ1.6mmの鉄ソリッドワイヤを用い、フラックスBにはボンドフラックスを用いる。突出し長さは30mm(ルート-チップ間距離)とする。基準平均溶接電流は350Aとし、溶接方法は交流定電流溶接とする。交流波形は周波数60Hzの矩形波で与え、各期間の平均電流がそれぞれの設定電流に合致するようピーク電流を逐次変化させる。ワイヤ送給速度は6.5m/分の定速送給とし、本実施形態の制御を適用しない場合と、適用する場合で、それぞれ溶接を行った。本実施形態の制御を用いる場合、低電流条件は250A、高電流条件は450Aとして、周波数5Hzで繰り返し変化させる。各期間の比率は1:1とする。
【0039】
図4は、本実施形態に係るサブマージアーク溶接方法によって溶接された母材Aの裏面を撮影した写真、
図5は、従来のサブマージアーク溶接方法によって溶接された母材Aの裏面を撮影した写真である。上記の条件で溶接を行うと、
図4及び
図5に示すように、本実施形態に係る制御を適用しない場合には幅が小さく不連続な裏波が形成されるのに対し、本実施形態に係る制御を適用する場合には幅が大きく安定した裏波を形成することができる。
【0040】
実施形態1に係るサブマージアーク溶接方法及びサブマージアーク溶接機によれば、交流電流1周期における波形を調整する制御に比べ、より深い溶込みを得ることができ、特に裏波溶接を行う場合には、裏波の形成を促進することができる。
【0041】
また、本実施形態では、交流定電流制御のサブマージアーク溶接方法を説明したが、本実施形態に係るサブマージアーク溶接方法は、直流定電圧制御、交流定電圧制御、又は直流定電流制御のサブマージアーク溶接方法にも適用することができる。
一般的にサブマージアーク溶接には交流溶接と直流溶接があり、制御方法には定電流制御と定電圧制御があるが、特定の方法や特性に限定されるものではなく、いずれの組み合わせでも適用可能である。ただし、制御のオンオフや各種パラメータの設定を容易に行うためには、デジタルインバータ制御の溶接電源1が望ましい。また、高電流期間と低電流期間でワイヤ送給速度を変化させる場合には、応答よくワイヤ送給速度を切り替える必要があるため、デジタル制御されたワイヤ送給装置を用いることが望ましい。
【0042】
更に、出力電流を周期的に変化させる周期を10H未満とすることにより、不連続な裏波が形成されることを抑制しつつ、
図4に示すような裏波形成効果を得ることができる。
【0043】
更にまた、基準平均溶接電流を200A、出力電流の変動幅を100A以上とすることにより、顕著な裏波効果が得られる。
【0044】
更にまた、基準平均溶接電流を350A、低電流条件の平均溶接電流を250A、高電流条件の平均溶接電流を350Aとすることによって、高電流(350A以上)による深い溶込みが得られ、出力電流の変動幅を100A以上とすることによる顕著な裏波効果が得られる。
【0045】
本開示の課題を解決するための手段を付記する。
(付記1)
サブマージアーク溶接方法であって、
溶接ワイヤに第1の平均溶接電流が供給される第1溶接条件を設定するステップと、
溶接ワイヤに第2の平均溶接電流が供給される第2溶接条件を設定するステップと
を備え、
前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件を周期的に切り換える
サブマージアーク溶接方法。
(付記2)
前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件を、10Hz未満の周期で切り換える
付記1又は付記2に記載のサブマージアーク溶接方法。
(付記3)
前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件は、溶接電流の平均溶接電流を200A以上、平均溶接電流の変動幅を100A以上とする溶接条件である
付記1から付記3のいずれか1つに記載のサブマージアーク溶接方法。
(付記4)
10Hz以上の交流定電流制御により溶接電流を供給するステップを備える
付記1から付記4のいずれか1つに記載のサブマージアーク溶接方法。
(付記5)
10Hz以上の交流定電流制御により溶接電流を供給するステップを備え、
前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件は、溶接電流の基準平均溶接電流を350A、第1の平均溶接電流を250A、第2の平均溶接電流を350Aとする溶接条件であり、5Hzの周期で切り換える
付記1から付記4のいずれか1つに記載のサブマージアーク溶接方法。
【符号の説明】
【0046】
1 :溶接電源
2 :制御装置
3 :送給速度制御装置
4 :トーチ
5 :ワイヤリール
6 :ワイヤ送給部
7 :フラックス供給機構
8 :電圧センサ
9 :電流センサ
11 :整流器
12 :1次インバータ
13 :変圧器
14 :整流器
15 :直流リアクタ
16 :2次インバータ
61 :送給ローラ
62 :モータ
71 :フラックスホッパ
72 :ノズル
73 :バルブ
A :母材
B :フラックス
W :溶接ワイヤ