(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105030
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】短期記憶力向上剤
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20240730BHJP
A61K 36/48 20060101ALI20240730BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240730BHJP
A23L 11/00 20210101ALI20240730BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K36/48
A61P25/28
A23L11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009546
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】591183625
【氏名又は名称】フジッコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】相磯 知里
(72)【発明者】
【氏名】寺井 雅一
(72)【発明者】
【氏名】赤木 良太
【テーマコード(参考)】
4B018
4B020
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE06
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4C088AB61
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4C088ZA15
(57)【要約】
【課題】認知機能のなかでも重要な、記憶力について改善効果を有する新規な組成物を提供すること。
【解決手段】黒大豆種皮抽出物を有効成分として含む短期記憶力向上剤、該短期記憶力向上剤を含む飲食品、サプリメント、医薬品、医薬部外品、飼料またはペットフード等、および短期記憶力向上作用を付与する方法等が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒大豆種皮抽出物を有効成分として含む、短期記憶力向上剤。
【請求項2】
前記黒大豆種皮抽出物が黒大豆種皮の酸性抽出物である、請求項1に記載の短期記憶力向上剤。
【請求項3】
飲食品、サプリメント、または医薬組成物の形態である、請求項1または2に記載の短期記憶力向上剤。
【請求項4】
請求項1または2に記載の短期記憶力向上剤を含む、短期記憶力向上用の飲食品。
【請求項5】
請求項1または2に記載の短期記憶力向上剤を含む、短期記憶力向上剤用のサプリメント。
【請求項6】
請求項1または2に記載の短期記憶力向上剤を含む、短期記憶力向上用の経口医薬組成物。
【請求項7】
黒大豆種皮抽出物を組成物に配合することを含む、前記組成物に対して短期記憶力向上作用を付与する方法。
【請求項8】
黒大豆種皮抽出物を有効成分として用いることを含む、短期記憶力向上剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短期記憶力向上剤、短期記憶力向上剤の製造方法、短期記憶力向上剤の使用方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
認知機能とは、外的環境からの刺激を認識する一連の複合的な過程を指し、知覚、理解、注意、思考、判断、記憶、学習などの過程からなる総合的な能力であり、日常生活を送る上で欠かせない機能である。認知機能は加齢に伴って衰えてくるが、認知機能が低下し、日常生活に支障が出てくる状態を認知症と呼ぶ。近年では、平均寿命の延伸と高齢化社会により認知症の患者数の増加が大きな問題となっている。また、高齢者以外においても、高い学力や労働パフォーマンスを発揮する上で、より高い認知機能が必要となってくる。このように、若年層から老年層までの幅広い世代で、認知機能を向上、維持、改善することが求められており、生活の質を高める上で重要である。
【0003】
認知機能の向上、維持、改善方法として、音読・計算トレーニング、運動、コミュニケーション・社会的活動への参加が提案されている。また、一部の食品由来の成分は、認知機能を維持または改善することが報告されている。例えば、ω3系脂肪酸であるDHA(ドコサヘキサエン酸)(非特許文献1)、ホスファチジルセリン(非特許文献2)、D-アロース(特許文献1)、ラクトフェリン分解物(特許文献2)、茶ポリフェノール(特許文献3)、カカオポリフェノール(非特許文献3)を始めとしたポリフェノール類が挙げられる。しかし、これらの食品由来の成分は、作用を及ぼす認知機能の過程(注意、思考、記憶、学習など)や、効果を示す対象者や作用メカニズムが異なっており、個人のバックグラウンドや抱える問題に応じた食品成分を提供することが望まれている。
【0004】
黒大豆種皮抽出物は、アントシアニン、プロアントシアニジンなどのポリフェノールを多く含むことが知られている。本願発明者らの以前の研究により、黒大豆種皮抽出物による複数からなる認知機能の一部を改善する効果として、VDT(Visual Display Terminal)作業負荷により低下した見当識や計画力を改善することが報告された(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-183568
【特許文献2】特開2020-58346
【特許文献3】特開2022-60056
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Michio Hashimoto, Nippon Rinsho, Vol. 72, No. 4, 2014-4, p.648-656
【非特許文献2】宮崎洋祐、生物工学 第95巻 第9号(2017)、生物工学会誌/日本生物工学会編、p.539-542
【非特許文献3】夏目みどり、化学と生物 Vol.56 No.7(2018)、p.490-495
【非特許文献4】Jpn Pharmacol Ther(薬理と治療) Vol.49 No.6(2021)、p.953-964
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、認知機能のなかでも重要な、記憶力について、改善効果を有する新規な組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、驚くべきことに、黒大豆種皮抽出物を摂取することにより、認知機能の一つである記憶力、特に短期記憶力を改善できることを見出した。かくして、本発明が完成された。
【0009】
本発明は、例えば、以下の態様を提供する。
[1]黒大豆種皮抽出物を有効成分として含む、短期記憶力向上剤。
[2]前記黒大豆種皮抽出物が黒大豆種皮の酸性抽出物である、[1]に記載の短期記憶力向上剤。
[3]飲食品、サプリメント、または医薬組成物の形態である、[1]または[2]に記載の短期記憶力向上剤。
[4][1]または[2]に記載の短期記憶力向上剤を含む、短期記憶力向上用の飲食品。
[5][1]または[2]に記載の短期記憶力向上剤を含む、短期記憶力向上剤用のサプリメント。
[6][1]または[2]に記載の短期記憶力向上剤を含む、短期記憶力向上用の経口医薬組成物。
[7]黒大豆種皮抽出物を組成物に配合することを含む、前記組成物に対して短期記憶力向上作用を付与する方法。
[8]黒大豆種皮抽出物を有効成分として用いることを含む、短期記憶力向上剤の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の短期記憶力向上剤を摂取又は投与することにより、短期記憶力を向上させることができる。本発明の短期記憶力向上剤は、日本で昔から食されてきた黒大豆の種皮を原料とする黒大豆種皮抽出物を有効成分として含むため、安全性に優れ、かつ、後記の実施例に示されるように有効性にも優れている。かくして、本発明によれば、ヒトをはじめ動物が安全に摂取することがきる、短期記憶力向上剤が提供される。さらに、本発明の短期記憶力向上剤または有効成分である黒大豆種皮抽出物を飲食品、サプリメント、医薬品、医薬部外品、飼料、ペットフードなどの材料と混合することにより、短期記憶力向上効果を有する飲食品、サプリメント、医薬品、医薬部外品、飼料、ペットフードなどを製造することができる。またさらに、本発明の短期記憶力向上剤を飲食品、飼料、ペットフードなどの経口組成物に添加することにより、当該経口組成物に短期記憶力向上作用を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】黒大豆種皮抽出物を摂取した被験者における短期記憶力の評価の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔1〕短期記憶力向上剤
本発明の短期記憶力向上剤は、黒大豆種皮の抽出物を有効成分として含有することを特徴とする、短期記憶力を向上させるための組成物である。なお、本発明において「向上」とは、当該組成物を摂取しない場合と比べてより優れた状態になることも含まれるが、これに限らず、当該組成物摂取前の悪化した状態を改めて良くする「改善」や、将来的に悪化することを防ぐ「予防」もしくは「低下抑制」といった意味も含まれる。
【0013】
本明細書において、黒大豆とは、マメ科ダイズ属Glycine max(L.)Merrillに属する短日性の一年生草木の黒い種子(子実)(黒大豆)を意味する。黒大豆には、例えば中生光黒、トカチクロ、いわいくろ、玉大黒、丹波黒、信濃黒及び雁喰などの品種があるが、本発明では、黒大豆であればどの品種の種子を使用しても良い。
【0014】
黒大豆を、例えば分別機等に供することにより、種皮と胚(子葉および胚軸)とに分別して得られる黒大豆の種皮を原料として使用することができる。黒大豆の種皮は、生の状態または乾燥させた状態であってもよく、また、分別したそのままの形状のものであってもよく、又はそれを破砕、粉砕、若しくは細切りしてもよい(破砕物、粉砕物、粗末、粉末状物、および細切状物を含む)であってもよい。
【0015】
黒大豆種皮からの抽出方法としては、一般に用いられる方法を利用することができる。制限はされないが、例えば、水溶性溶媒中に、生または乾燥処理した黒大豆種皮(そのままの形状、若しくは粗末、粉末、細切、破砕、粉砕状)を浸漬する方法;必要に応じて攪拌しながら抽出する方法;またはパーコレーション法等を挙げることができる。抽出に使用する温度条件は、特に制限されず、低温、常温、加温条件(高温を含む)のいずれの条件でもよいが、好ましくは抽出効率が高まる加温条件(高温を含む)である。より具体的には、後述の含水低級アルコールで抽出する場合は30℃以上、好ましくは40℃~60℃の範囲であり、制限されないものの、かかる温度条件での抽出を60分以上、好ましくは90分~120分程度行うことで目的とする黒大豆種皮成分(抽出物)を十分に抽出することができる。また、酸性水溶液で抽出する場合は、50℃以上、好ましくは50~80℃の範囲であり、制限されないものの、かかる温度条件での抽出を10分以上、好ましくは20分~120分程度行う。
【0016】
抽出に使用する水溶性溶媒としては、特に制限されないが、例えば、水、低級アルコール、またはこれらの混合物を挙げることができる。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール及びイソプロピルアルコール、ブタノール等の炭素数1~4の低級アルコールを例示することができる。低級アルコールの好ましい例として、エタノールを挙げることができる。水溶性溶媒の好ましい例として、水または含水低級アルコール(特に含水エタノール)が挙げられ、より好ましくは、抽出時または精製時の作業容易性が高いことから、水が挙げられる。尚、含水低級アルコールを溶媒として使用する場合、それに含まれる低級アルコール量は80容量%以下であることが好ましい。
【0017】
抽出に使用する水溶性溶媒は、黒大豆種皮成分(抽出物)の安定性等を高める目的で酸性に調整されていることが好ましい。特に制限されないが、水溶性溶媒のpH範囲は、好ましくはpH1~4程度の範囲であり、特にpH1~2の範囲であることが好ましい。水溶性溶媒のpHを、かかる範囲になるように調整するため、通常、有機酸や無機酸などの適当な酸性物質を用いることができる。
【0018】
酸性物質として、具体的には、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸などの無機酸;並びにメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、10-カンファースルホン酸、フルオロスルホン酸(以上、スルホン酸)、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸(以上、カルボン酸)などの有機酸を挙げることができる。好ましくはスルホ基を有する酸であり、具体的には硫酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、10-カンファースルホン酸、及びフルオロスルホン酸を挙げることができる。中でも好ましくは硫酸である。スルホ基を有する酸の存在下で、50~80℃の温度条件下で低温加熱することにより、低重合プロアントシアニジンが多く、シアニジン3-グルコシドの含量が低いポリフェノール含有抽出物を得ることができる。なお、水溶性溶媒における酸の規定度は、水溶性溶媒が上記pH範囲になるような範囲であれば特に制限されないものの、好ましくは0.01~0.5Nの範囲、より好ましくは0.03~0.5Nの範囲である。
【0019】
得られた黒大豆種皮抽出液は、そのままでも本発明の短期記憶力向上剤として使用することができるが、必要に応じて、さらにろ過、共沈または遠心分離等による固形物の除去、活性炭処理、吸着処理等の精製処理を行ってもよい。例えば、黒大豆種皮抽出物中のポリフェノールの濃度を高める目的で合成吸着剤を用いて精製処理することができる。合成吸着剤としては、例えば、スチレン-ジビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、メタクリル酸エステル等の多孔質架橋重合体の樹脂を用いることができ、スチレン-ジビニルベンゼン系樹脂としては例えば、ダイアイオンHP20、HP21、セパビーズSP825Lなどが、ジビニルベンゼン系樹脂としては例えば、SP70、SP700などが、アクリル系樹脂としてはダイアイオンHP2MGL、アンバーライトXAD7HPなどが使用できる。合成吸着剤による精製処理は、従来公知の方法で行えばよく、例えば、得られた抽出液をガラス管に充填した合成吸着剤に対して通液して吸着させ、次いで水で不純物や酸を洗い流した後、有機溶媒または有機溶媒と水との混合溶媒を用いて樹脂に吸着されたポリフェノールを溶出させることができる。
【0020】
斯くして調製された黒大豆種皮抽出物は、そのままでも本発明の短期記憶力向上剤として使用することができるが、服用の観点や飲食物製造の観点から、濃縮処理および/または乾燥処理に付してもよい。さらに必要に応じて、該抽出物中の細菌数の低減や該抽出物の保存性を高める目的で、本発明の効果を損なわない範囲において、殺菌処理を施してもよい。かかる殺菌処理は、例えば、UHT殺菌、レトルト殺菌処理等の公知の方法によって行うことができる。なお、本発明における黒大豆種皮抽出物とは、抽出液、該抽出液の希釈液もしくは濃縮液、または該抽出物を乾燥して得られる乾燥物のいずれであってもよい。
【0021】
前記のようにして調製された黒大豆種皮抽出物は、好ましくは、ポリフェノールを約30%w/w以上、さらに好ましくは約40%w/w以上、例えば約50%w/w~70%w/w、また例えば約55%w/w~65%w/wの含有量で含む。より好ましくは、前記黒大豆種皮抽出物は、ポリフェノールのなかでも、プロアントシアニジン(Proanthocyanidin)並びにプロアントシアニジンを構成する単量体であるカテキン(Catechin)およびエピカテキン(Epicatechin)を合計で10%w/w以上、好ましくは15%w/w以上、より好ましくは20%w/w以上、さらに好ましくは25%w/w以上、よりさらに好ましくは30%w/w以上の含有量で含む。さらに好ましくは、プロシアニジンB2(Procyanidin B2)、プロシアニジンC1(Procyanidin C1)、シンナムタンニンA2(Cinnamtannin A2)などの低重合(2量体から9量体)プロアントシアニジンや、プロアントシアニジンを構成する単量体であるカテキン、エピカテキンを含むことにより、摂取時の生体内への吸収性を高めることができる。
【0022】
本明細書において「短期記憶力」とは、記憶を短期間保持する能力をいう。「記憶力」とは、認知機能のうち記憶に関する能力であり、物事を忘れずに覚えておき、必要な時に取り出す力である。記憶は保持時間の長さによって分類することができ、心理学領域では短期記憶と長期記憶、臨床神経学では即時記憶、近時記憶と遠隔記憶に分類することができる。短期記憶とは即時記憶と一部の近時記憶を含むもので、数秒から数時間までといった短い期間、記憶を保持することであり、一時的な記憶保持として脳の海馬が関与している。一方、長期記憶とは、数時間以上の長い期間、記憶を保持することであり、脳の大脳皮質が関与するとされている。短期記憶は、一時的な記憶保持であり、通常はそのまま消える記憶であるが、何らかのイベント・注視や新奇体験などを同時期に受けると、安定的な記憶である長期記憶へと選択的に変換される。
【0023】
本明細書において「短期記憶力」は、少なくとも、記憶対象のイベントが起きた直後(当該イベントの記銘直後)から数時間以内、例えば、限定するものではないが、記銘後2、3秒から10時間、9時間、8時間、7時間、6時間、5時間、4時間、3時間、2時間、1時間、50分、40分、30分、20分、10分、9分、8分、7分、6分、5分、4分、または3分以内の時点で評価される。すなわち、本明細書において、「短期記憶」とは、記憶対象のイベントが起きた直後(当該イベントの記銘直後)から数時間以内、例えば、限定するものではないが、記銘後2、3秒から10時間、9時間、8時間、7時間、6時間、5時間、4時間、3時間、2時間、1時間、50分、40分、30分、20分、10分、9分、8分、7分、6分、5分、4分、または3分以内の時点で保持されている記憶をいう。したがって、本明細書において「短期記憶」には、将来、長期記憶となり得る記憶も包含される。本明細書において、作業記憶(ワーキングメモリ)もまた、短期記憶に包含される。作業記憶とは、何か作業を行うときに、一時的に取り出された記憶または一時的に保持される記憶をいう。
【0024】
本明細書において、短期記憶力の向上または改善とは、本発明の短期記憶力向上剤を摂取した場合の記憶を短期間保持する能力が、本発明の短期記憶力向上剤を摂取していない場合と比べて向上していることをいう。短期記憶力は、当該分野で既知の方法によって評価することができる。評価方法としては、例えば、限定するものではないが、脳パフォーマンスチェックソフトを用いる方法や、短時間視覚情報処理課題、4パート持続処理テスト、ウエクスラー記憶検査、マウスなどの実験動物を用いた場所物体認識課題テスト、T字型迷路課題テスト、Y字型迷路課題テストなどが挙げられる。脳パフォーマンスチェックソフトとして、例えば、限定するものではないが、エーザイ株式会社から販売されている「のうKNOW(登録商標)」が挙げられる。「のうKNOW(登録商標)」は、Cogstate Ltd.が創出した認知機能チェック「Cogstate Brief Battery」を、日本において、ブレインパフォーマンス(脳の健康度)をセルフチェックするための非医療機器として開発した製品であり、集中力と記憶力をスコア化して評価する。
【0025】
本発明の短期記憶力向上剤を摂取または投与させる対象は、動物であり、例えば、ヒトまたは哺乳動物が挙げられる。好ましくは、ヒトである。該対象がヒトである場合、いずれの年齢のヒトでもよいが、例えば、青年期(約15歳~約25歳)~壮年期(約25歳~約45歳)のヒトが挙げられる。例えば、若年層(約15歳~約35歳)は、学校のテストや試験、コンピューターゲーム、eスポーツ(エレクトロニック・スポーツ)、カードゲームなど、短期記憶力の向上が望まれる機会が多いため、好ましい対象として挙げられる。なお、eスポーツとは、電子機器を用いて行う娯楽、対戦、競技、スポーツ全般を指す言葉であり、コンピューターゲームまたはビデオゲームなどを使ったスポーツ競技のことをいう。
【0026】
〔2〕経口組成物
本発明の短期記憶力向上剤は、好ましくは、経口で摂取(または投与)することができるいずれかの形態を有する経口組成物である。本発明の短期記憶力向上剤を経口的に服用(投与、摂取)することにより、短期記憶力を向上することできる。
【0027】
該経口組成物は、経口摂取(または投与)形態を有するものである限りその用途は特に限定されないが、例えば、医薬組成物、飲食品、サプリメント等が挙げられる。本明細書において、医薬組成物には医薬品、医薬部外品が含まれる。本明細書において、飲食品およびサプリメントには、所定機関より効能の表示が認められた特定保健用食品、機能性表示食品、栄養機能食品などの保健機能食品が含まれ、これらのいわゆる健康食品においては、「短期記憶力の向上」、「短期記憶力の改善」、「短期記憶力の維持」、「短期記憶力の低下予防」、「短期記憶力の向上による認知機能の改善」等を表示したものを例示することができる。前記経口組成物は、好ましくは飲食品又はサプリメントであり、より好ましくは、その作用や効果を標榜することができる特定保健用食品又は機能性表示食品である飲食品又はサプリメントである。また、前記経口組成物は、ヒト以外の動物(家畜や家禽、ペットを含む)を対象とした飼料やペットフードであってもよい。
【0028】
経口摂取(または投与)形態として、例えば、液状、ゼリー状、または固形状が挙げられる。
【0029】
本発明の短期記憶力向上剤は、例えば、医薬組成物又はサプリメントの形態であってもよく、具体的には、上記抽出方法により調製される黒大豆種皮抽出液を液剤(エキス形態やシロップ剤を含む)またはゼリー剤の形態に調製したもの;抽出液を常法により粉末状または顆粒状に製剤化した散剤、細粒剤、または顆粒剤;液剤や散剤または顆粒剤をカプセルに充填したカプセル剤(硬質カプセル剤、軟質カプセル剤);または粉末または顆粒をさらに打錠して錠剤形態としたものなどの剤形を挙げることができる。
【0030】
本発明の短期記憶力向上剤は、上記黒大豆種皮抽出物そのものであってもよく、または上記黒大豆種皮抽出物と、薬学的に許容される、あるいは飲食品または飼料の分野において許容される可食性の担体または添加物と組み合わせて各種の経口摂取(または投与)形態に調製することもできる。添加物としては、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、界面活性剤、吸収促進剤、吸着剤、充填剤、防腐剤、安定剤、乳化剤、可溶化剤など、本発明の短期記憶力向上剤の剤形に応じて適宜選択することができる。前記担体および添加物としては、当該分野で既知のものを用いることができる。
【0031】
例えば、本発明の短期記憶力向上剤を液剤の形態とする場合、前記担体または添加物として、例えば、水、エタノール、ショ糖、転化糖、ブドウ糖、マルトース、還元水あめ等を使用してもよい。
【0032】
例えば、本発明の短期記憶力向上剤を錠剤などの固形剤の形態とする場合、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、アルギン酸ナトリウム等の結合剤;乾燥デンプン、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、クロスポビドン、ポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤;ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン等の保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を使用してもよい。さらに錠剤は、必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠あるいは二重錠、多層錠とすることができる。また、前記有効成分を含有する組成物を、ゼラチン、プルラン、デンプン、アラビアガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等を原料とする従来公知のカプセルに充填して、カプセル剤とすることができる。また、丸剤の形態とする場合、例えば、ブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤、アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤、ラミナラン、カンテン等の崩壊剤等を使用してもよい。
【0033】
これらの剤形はいずれも当該分野における通常の方法を用いて調製できる。例えば、錠剤は、上記有効成分とその他錠剤を得るために必要な賦形剤等を適宜添加し、よく混合分散させたのち打錠して得ることができる。例えば、散剤は、上記有効成分とその他散剤を得る為に必要な賦形剤等を適宜添加し、好適な方法にて混合、粉体化して得ることができる。
【0034】
本発明の短期記憶力向上剤は、前述する剤形のほか、飲食品の形態を有するものであってもよい。飲食品は、溶液、懸濁液、乳濁液、ゼリー(ゲル)、ゾル、粉末、固体成形物など、いずれかの経口摂取可能な形態を有すればよく、特に限定されない。具体的には、例えば、即席麺、レトルト食品、缶詰、電子レンジ食品、即席スープ・みそ汁類、フリーズドライ食品などの即席食品類;清涼飲料、果汁飲料、野菜飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、栄養飲料、アルコール飲料などの飲料類;パン、パスタ、麺、ケーキミックス、唐揚げ粉、パン粉などの小麦粉製品;飴、キャラメル、チューイングガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、デザート菓子などの菓子類;ソース、トマト加工調味料、風味調味料、調理ミックス、たれ類、ドレッシング類、つゆ類、カレー・シチューの素類などの調味料;加工油脂、バター、マーガリン、マヨネーズなどの油脂類;乳飲料、ヨーグルト類、チーズ、発酵乳、乳酸菌飲料、アイスクリーム類、クリーム類などの乳製品;プリンやマヨネーズなどの卵加工品;魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品などの水産加工品;畜肉ハム・ソーセージなどの畜産加工品;農産缶詰、ジャム・マーマレード類、漬け物、煮豆、シリアルなどの農産加工品;冷凍食品、栄養食品などを挙げることができる。制限されないものの、黒大豆種皮抽出物由来のポリフェノールは酸性側で安定性が高いことから沈殿や色味の低下を抑制するという点からは、好ましくは酸性の飲食品とすることが好ましい。当該飲食品は、例えば、製造過程において、前記黒大豆種皮抽出物を当該飲食品の原料と混合することにより製造することができる。
【0035】
また、本発明の短期記憶力向上剤は、飼料またはペットフードの形態を有するものであってもよい。飼料またはペットフードの形態としては、例えば、ペレット、マッシュ、顆粒、クランブル、フレーク、エキスパンダーなどの剤形を挙げることができる。当該飼料またはペットフードは、例えば、製造過程において、前記黒大豆種皮抽出物を飼料またはペットフードの原料、および適宜、前記の担体または添加物と混合することにより製造することができる。
【0036】
さらに、本発明の短期記憶力向上剤は、医薬組成物、飲食品、サプリメント、飼料、またはペットフード等の組成物に対して添加される添加剤であってもよい。当該添加剤は、製造された前記組成物に添加してもよく、あるいは前記組成物の製造過程においてその原料に添加または混合してもよい。前記組成物は、好ましくは経口組成物である。
【0037】
本発明の短期記憶力向上剤中における黒大豆種皮抽出物の含有量は、100質量%を上限として、前述する剤形の種類や用途の種類(例えば、医薬組成物、飲食品、サプリメント、飼料、ペットフード、添加剤等)等に応じて適宜設定することができる。本発明の組成物の摂取量(投与量)は、対象の種類(ヒト、又は各種動物)、性別や年齢、対象の状態や症状の程度によって適宜変更され得る。制限されないものの、例えば、成人一人(体重50kg)に対する1日あたりの摂取量(投与量)は、本発明の短期記憶力向上剤に含まれる黒大豆種皮抽出物(乾燥量)の量に換算して通常10~1000mg程度、例えば25~800mg程度、好ましくは50~600mg程度、より好ましくは50~500mg程度、より好ましくは50~300mg程度を挙げることができる。通常、一日1回または2~3回に分けて経口投与(摂取)の形態で用いられる。摂取(投与)のタイミングは、特に限定されず、例えば朝、昼、晩のいずれかの食事時であってもよい。また制限されないが、食事と一緒、または食前若しくは食後の30分以内であってもよい。
【0038】
〔3〕黒大豆種皮抽出物の使用方法
本発明はまた、黒大豆種皮抽出物の使用方法(以下、「本発明の使用方法」ともいう)を提供する。該使用方法の一態様は、黒大豆種皮抽出物を組成物に配合することを含む、組成物に対して短期記憶力向上作用を付与するための黒大豆種皮抽出物の使用方法である。また、別の態様は、短期記憶力向上用の組成物を製造するための、黒大豆種皮抽出物の使用方法である。本明細書において、配合には添加および混合が包含される。前記使用方法は、例えば、製造された組成物に黒大豆種皮抽出物を添加すること、または組成物の製造過程において当該組成物の原料に黒大豆種皮抽出物を添加または混合することを含む。前記組成物は、医薬組成物、飲食品、サプリメント、飼料、ペットフードなどであり、好ましくは経口組成物である。
【0039】
経口組成物には、人または動物に対して経口的に投与する組成物、または人または動物が摂取する組成物、具体的には経口医薬品、経口医薬部外品、飲食物、サプリメント、飼料、ペットフード等が含まれる。経口組成物に対する黒大豆種皮抽出物の添加量または配合量は、経口組成物に短期記憶力向上作用が付与できる量であればよく、その限りにおいて特に制限されない。
【0040】
本発明の使用方法の更なる態様として、黒大豆種皮抽出物を対象に投与することを含む、短期記憶力を向上する方法が提供される。対象としては、例えば、ヒト、およびヒト以外の動物(例えば、家畜、家禽、ペット等)が挙げられる。黒大豆種皮抽出物の摂取または投与量は、対象の種類、性別や年齢、対象の状態や症状の程度によって適宜決定され得る。制限されないものの、例えば、ヒト成人一人(体重50kg)に対する1日あたり、通常10~500mg程度、例えば25~400mg程度、好ましくは50~300mg程度を挙げることができる。通常、一日1回または2~3回に分けて経口摂取または投与される。
【0041】
本発明の使用方法では、黒大豆種皮抽出物に代えて、黒大豆種皮抽出物を有効成分とする前述する本発明の短期記憶力向上剤を用いることもできる。
【0042】
さらに、本発明の使用方法の別の態様として、黒大豆種皮抽出物を有効成分として用いることを含む、本発明の短期記憶力向上剤の製造方法が提供される。当該方法は、例えば、黒大豆種皮抽出物を、所望の剤形または形態に適当な担体および/または添加物と混合することを含む。さらに、常法にしたがって、所望の剤形または形態に成形することができる。担体および添加物は前記した通りである。
【0043】
本発明の使用方法で用いる黒大豆種皮抽出物の原料として使用する黒大豆の種類、黒大豆種皮の取得方法、黒大豆種皮抽出物、特に抽出物の好適な一態様である黒大豆種皮酸性抽出物の調製方法は、上記〔1〕で説明した通りであり、本欄において援用することができる。
【実施例0044】
以下に実験例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
実施例1:黒大豆種皮抽出物の短期記憶力向上効果
最初に黒大豆種皮抽出物および試験食の調製方法、次いで短期記憶力向上に関する試験方法とその結果について説明する。
【0046】
〔黒大豆種皮抽出物〕
黒大豆種皮抽出物(酸性熱水抽出物)は下記の方法により調製した。
(1)黒大豆種皮(生)1kgを抽出溶媒として希硫酸(0.3%w/v)30Lに浸漬し、55~60℃に加熱しながら20分間撹拌抽出する。
(2)抽出後、黒大豆種皮と液とを固液分離し、液を回収する。
(3)回収した液を遠心分離を行ない、固液分離では取り除けない浮遊固形物を除去する。
(4)得られた抽出液を合成吸着樹脂(セパビーズSP700:三菱ケミカル製)を入れたカラムに投入し、樹脂に吸着させる。
(5)カラム内に残存する硫酸を洗い流すため、カラムに水を通液して樹脂を洗浄する。
(6)カラムに59容量%濃度のアルコ-ル水溶液を通液して、樹脂に吸着されたポリフェノールを溶出させる。
(7)回収した溶出液(アルコール溶液)を減圧下で加熱することにより蒸発させ、濃縮する。
(8)得られた濃縮液に、賦形剤としてデキストリンを添加する。
(9)加熱殺菌する。
(10)加熱殺菌後の濃縮液を噴霧乾燥して黒大豆種皮抽出物(85g、ポリフェノール含量 抽出物1:61.10%,抽出物2:58.08%)を得た。
【0047】
〔黒大豆種皮抽出物の成分組成〕
上記より得られた黒大豆種皮抽出物(酸性熱水抽出物)の成分組成を下記の方法により分析した。
【0048】
(1)総ポリフェノール(Total Polyphenol)分析
黒大豆種皮抽出物を70%エタノールで7.5mg/100ml濃度に調整して試料溶液とし、試料溶液1mlにフォーリンシオカルト溶液5mlを添加、反応させる。これに0.7M炭酸ナトリウム水溶液4mlを加えて撹拌し、30℃で60分間静置した後、分光光度計にて765nmの吸光度を測定した。カテキン(Sigma-Aldrich社製、「(+)-catechin hydrate」C1251-5G)の検量線を同時に作製し、総Polyphenol量をカテキン当量として算出した。
(2)総フラバノール(Total Flavan-3-ol)分析
黒大豆種皮抽出物を50%エタノールで12.5mg/100ml濃度に調整して試料溶液とし、試料溶液1mlに4%バニリン溶液を3ml加えて撹拌し、濃塩酸を1.5ml加えて撹拌し、30℃で20分間静置した後、分光光度計にて500nmの吸光度を測定した。なお、対照区には4%バニリン溶液の代わりに100%メタノールを加えた。分光光度計測定は、試験区の吸光度をA、対照区の吸光度をB、ブランク区の吸光度をCとし、検体の吸光度=A-B-Cとして測定した。カテキン(Sigma-Aldrich社製、「(+)-catechin hydrate」C1251-5G)の検量線を同時に作製し、総Flavan-3-ol量をカテキン当量として算出した。
(3)カテキン(Catechin)、エピカテキン(Epicatechin)、プロシアニジンB2(Procyanidin B2)、プロシアニジンC1(Procyanidin C1)、シンナムタンニンA2(Cinnamtannin A2)分析
黒大豆種皮抽出物を50%エタノールで0.1mg/ml濃度に調整して試料溶液とし、以下の分析条件でHPLCに供試して測定した。分析条件は、移動相Aに0.1%ギ酸溶液、移動相Bにアセトニトリルを使用し、下記濃度勾配および条件で溶出した。また、カテキン、エピカテキン、プロシアニジンB2、プロシアニジンC1、シンナムタンニンA2の標準溶液を同時にHPLCに供試し、検量線を作成して定量した。
濃度勾配:0~45分/B:5~15%,45~50分/B:15~80%,50~53分/B:80%,53~70分/B:5%,流量:0.7 mL / min,注入量:10μL,カラムオーブン温度:40℃,蛍光:励起波長276 nm 発光:316 nm,Cadenza CL-C18カラム(φ250 mm×4.6 mm、3μm、Imtakt),ガードカラム(Cadenza CL-C18、φ5 mm×2 mm、3μm、Imtakt)
(4)シアニジン3-グルコシド(Cyanidin 3-glucoside)分析
黒大豆種皮抽出物を1%塩酸-メタノール(1:37, v/v)で0.1mg/ml濃度に調整して試料溶液とし、以下の分析条件でHPLCに供試し測定した。分析条件は、移動相Aにギ酸:水(3:97,v/v)溶液、移動相Bにギ酸:アセトニトリル:水(3:30:67,v/v)を使用し、下記濃度勾配および条件で溶出した。またシアニジン3-グルコシドの標準溶液を同時にHPLCに供試し、検量線を作成して定量した。
濃度勾配:0~50分/B:25~50%,50~55分/B:50~100%,55~60分/B:100%,60~70分/B:25%,流量:0.6 mL / min,注入量:10μL,カラムオーブン温度:40℃,UV:測定波長520 nm,Cadenza CL-C18カラム(φ250 mm×4.6 mm、3μm、Imtakt),ガードカラム(Cadenza CL-C18、φ5 mm×2 mm、3μm、Imtakt)
【0049】
黒大豆種皮抽出試験は、黒大豆種皮の原料ロットが異なるもので2回行い、各回で得られた抽出物(抽出物1および抽出物2)の成分組成の分析結果を表1に示す。
【0050】
【0051】
〔試験食〕
試験食は、黒大豆種皮抽出物含有食(被検食)、及び対照食(プラセボ)を用いた。各試験食の配合を以下に示す。
(被検食:300mg/日) 3粒あたり黒大豆種皮抽出物300mg(ポリフェノール含量58%)とデキストリン330mgを含有するカプセル剤(合計630mg)
(プラセボ) 3粒あたりデキストリン750mgを含有するカプセル剤(黒大豆種皮抽出物を含有しない)
なお、プラセボは、熱量等において、被検食と大きな差がないように作製された。表2に各試験食の栄養成分表を示した。
【0052】
【0053】
〔試験方法〕
試験デザインは、単盲検プラセボ対照比較クロスオーバー試験とし、被験者15名(18~35歳)を2群(A群およびB群)に分け、A群に被検食およびB群にプラセボを14日間摂取させ(試験期間前半)、2週間の非摂取期間の後、A群にプラセボおよびB群に被検食を14日間摂取させた(試験期間後半)。被験者は、試験期間の間、毎日、起床後の最初の食事後に3粒の試験食カプセルを摂取した。試験期間前半および後半のそれぞれにおいて、試験食摂取前(摂取開始の前日、すなわち、0日目)、摂取1日目、および摂取14日目に認知機能検査を行った(
図1)。試験食摂取日における認知機能検査は、摂取後1時間以上の時間を空けて行った。なお、試験期間中は、抗酸化物質を多く含む健康食品など、抗疲労作用を有する可能性がある飲食物(ビタミン剤など)については、摂取を控えた。また、認知機能検査日の前日と当日はアルコールの摂取を禁止とし、当日はさらにカフェインを含むコーヒーとエナジードリンクの摂取も禁止とした。
【0054】
〔被験者〕
本実施例の被験者は健常者である。具体的には、下記の選抜基準、除外基準、および脱落・中止基準に基づき、被験者15名(今回の実施例では男性のみとなった)が選抜された。
選抜基準:下記項目に全て当てはまる者。
(i)日常的にeスポーツを実施している者、
(ii)同意取得時の年齢が18歳~60歳の男女、
(iii)本研究の参加に関して、本人から同意が文書で得られる者。
除外基準:下記項目のいずれかに当てはまる者。
(i)大豆アレルギーの者、
(ii)薬を常用している者(但し、アレルギー薬は除く)、
(iii)妊娠・授乳中の者、
(iv)他の臨床研究(治験を含む)に参加している者、
(v)過去に大病を患ったことのある者、
(vi)現在治療中の病気がある者、
(vii)研究担当者が本研究を実施するのに不適当と認めた者。
中止・脱落基準:下記のいずれかに当てはまる場合。
(i)被験者が試験食を摂取しなくなった場合、
(ii)その他の理由により、研究担当者が研究を中止することが適当と判断した場合。
なお、本明細書において「日常的にeスポーツを行っている人」とは、1日平均4~11時間eスポーツもしくはeスポーツの練習としてコンピューターゲームまたはビデオゲームなどを行っている人のことをいう。
【0055】
〔認知機能検査〕
認知機能検査は、脳のパフォーマンスをチェックするアプリケーションソフトである「のうKNOW(登録商標)」(エーザイ株式会社)を用いて行った。「のうKNOW(登録商標)」では、4種のカードゲームによりそれぞれ、脳の反応速度チェック、注意力チェック、視覚学習チェック、および記憶力チェックを行う。各ゲームの所要時間はそれぞれ、脳の反応速度チェックが約3分、注意力チェックが約3分、視覚学習チェックが約6分、および記憶力チェックが約3分である。集中力スコアは、脳の反応速度チェックおよび注意力チェックに基づいており、標準化された2つのチェックスコアを組み合わせることで、0~50の集中力スコアとして計算される。記憶力スコアは、視覚学習チェックおよび記憶力チェックに基づいていており、標準化された2つのチェックスコアを組み合わせることで、0~50の記憶力スコアとして計算される。4種のカードゲームの具体的な方法については下記のとおりである。
(i)脳の反応速度チェック
画面中央にトランプカードが裏向けた状態で表示され、トランプカードが表を向いたら、「はい」のボタンを押す。トランプカードはいつも同じトランプカードが表示される。試行を繰り返し行い、35回正解した時点で、課題終了とした。スコアはミリ秒単位の反応時間(速度)を対数変換して正規化し、算出される。
(ii)注意力チェック
画面中央に表示されたトランプカードが赤色であれば「はい」、黒色であれば「いいえ」のボタンを押す。トランプカードは赤色のトランプカードと黒色のトランプカードが表示される。試行を繰り返し行い、30回正解した時点で、課題終了とした。スコアはミリ秒単位の反応時間(速度)を対数変換して正規化し、算出される。
(iii)視覚学習チェック
画面中央に表示されるトランプカードについて、この課題で以前に見たことがある場合は「はい」、見たことがない場合は「いいえ」のボタンを押す。試行を繰り返し行い、80回の試行で課題終了とした。スコアは正答率をアークサイン変換して正規化し、算出される。
(iv)記憶力チェック
画面中央に表示されるトランプカードについて、直前の試行で表示されたトランプカードと同じ場合は「はい」、見たことがない場合は「いいえ」のボタンを押す。試行を繰り返し行い、30回正解した時点で、課題終了とした。スコアは正答率をアークサイン変換して正規化し、算出される。
【0056】
<短期記憶力の評価>
被験者は、上記した各検査日に、パソコン、タブレットまたはスマートフォンで認知機能検査を行い、記憶力スコアに基づき、短期記憶力を評価した。被験者15名のうち、試験実施漏れ3名、およびスコアが極端に低い1名を評価から除外した。したがって、被験者11名の記憶力スコアを評価に用いた。
【0057】
各検査日における被検食摂取群の記憶力スコアの平均およびプラセボ摂取群の記憶力スコアの平均を求めた。統計解析は、JMP14.1(SAS Institute)を使用した。対応のあるt検定を用いて、各検査日における被検食摂取群とプラセボ摂取群の比較をすることで被検食の効果を評価した。結果を
図2に示す。
図2から明らかなように、プラセボ摂取群と比較して被検食摂取群では、短期記憶力が摂取1日目で改善傾向、摂取14日目では有意(p<0.05)に改善された。
【0058】
黒大豆種皮抽出物の処方例を以下に示す。
処方例1 ソフトカプセル
下記の原料を用いて、定法に従ってソフトカプセルを調製した。なお、黒大豆種皮抽出物として、実験例1の方法に従って調製した黒大豆種皮抽出物を用いた。
植物油脂:158.6mg
ゼラチン:135.2mg
黒大豆種皮抽出物:100mg
グリセリン:30.2mg
レシチン:30mg
ミツロウ:26mg
ビタミンE:20mg。
【0059】
処方例2 錠剤
下記の原料を用いて、定法に従って錠剤を調製した。なお、黒大豆種皮抽出物として、実施例1方法に従って調製した黒大豆種皮抽出物を用いた。
デキストリン:179.69mg
黒大豆種皮抽出物:100mg
還元水あめ:28.56mg
結晶セルロース:26.51mg
ステアリン酸カルシウム:5.25mg
微粒二酸化ケイ素:5.25mg
ヒドロキシプロピルセルロース:4.77mg。
【0060】
処方例3 個包装スティックゼリー
下記の原料を用いて、定法に従って個包装スティックゼリーを調製した。なお、黒大豆種皮抽出物として、実施例1の方法に従って調製した黒大豆種皮抽出物を用いた。
希少糖含有シロップ:1000mg
黒大豆種皮抽出物:100mg
ゲル化剤(増粘多糖類):100mg
甘味料(キシリトール、スクラロース、ソーマチン、アセスルファムカリウム):70mg
香料:20mg
水:8710mg
本発明の黒大豆種皮抽出物を有効成分として含有する短期記憶力向上剤は、医薬品、医薬部外品、飲食品、サプリメント、飼料、ペットフードなど、広い適用範囲で利用できるため有用である。