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特開2024-105036生体情報処理装置、生体情報処理方法および生体情報処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105036
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】生体情報処理装置、生体情報処理方法および生体情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20240730BHJP
   A61B 5/352 20210101ALI20240730BHJP
【FI】
A61B5/00 L
A61B5/352 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009556
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】落合 秀紀
(72)【発明者】
【氏名】松島 稔
(72)【発明者】
【氏名】有山 哲理
【テーマコード(参考)】
4C117
4C127
【Fターム(参考)】
4C117XA01
4C117XB01
4C117XE13
4C117XE14
4C117XE15
4C117XE17
4C117XE18
4C117XE23
4C117XE37
4C117XG16
4C117XG17
4C117XG19
4C117XJ12
4C127AA02
4C127GG01
4C127GG02
4C127GG05
4C127GG13
4C127GG15
4C127GG18
(57)【要約】
【課題】疼痛評価を行う評価者の負荷を低減させることができ、かつ評価者ごとの評価のばらつきを低減させる。
【解決手段】生体情報処理装置は、被検者の血液の循環状態を示す血管動態情報を取得する取得部と、前記血管動態情報に正規化処理を施すことにより、前記被検者の疼痛評価の指標値を取得する処理部と、を備え、前記処理部は、前記被検者に対する処置に関する処置イベントの開始前における基準期間に取得された前記血管動態情報に基づいて、基準値を算出し、前記処置イベントの開始後に取得された前記血管動態情報に基づいて、対象値を算出し、前記正規化処理として、前記基準値に対する前記対象値の割合を前記指標値として算出する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の血液の循環状態を示す血管動態情報を取得する取得部と、
前記血管動態情報に正規化処理を施すことにより、前記被検者の疼痛評価の指標値を取得する処理部と、を備え、
前記処理部は、
前記被検者に対する処置に関する処置イベントの開始前における基準期間に取得された前記血管動態情報に基づいて、基準値を算出し、
前記処置イベントの開始後に取得された前記血管動態情報に基づいて、対象値を算出し、
前記正規化処理として、前記基準値に対する前記対象値の割合を前記指標値として算出する、生体情報処理装置。
【請求項2】
前記処置イベントは、前記被検者に疼痛が生じるイベントであり、
前記疼痛が生じるイベントは、前記被検者に薬剤を投与するイベント、前記被検者に検査を施すイベントおよび前記被検者に手技を施すイベントの少なくともいずれか1つを含む、請求項1に記載の生体情報処理装置。
【請求項3】
前記血管動態情報は、前記被検者の心電波形または脈波波形を示す情報である、請求項1に記載の生体情報処理装置。
【請求項4】
前記処理部は、
前記血管動態情報に基づいて、前記血管動態情報の示す値のばらつき度合いを算出し、
前記処置イベントの開始後の期間を複数の対象値算出期間に分け、各前記対象値算出期間の前記ばらつき度合いに基づいて、前記対象値算出期間ごとに前記対象値を算出する、請求項3に記載の生体情報処理装置。
【請求項5】
各前記対象値算出期間には、複数のサブ算出期間が含まれ、
前記処理部は、
前記サブ算出期間ごとに前記ばらつき度合いを算出し、
前記対象値算出期間ごとに、複数の前記サブ算出期間の各々の前記ばらつき度合いの平均値または中央値を、前記対象値として算出する、請求項4に記載の生体情報処理装置。
【請求項6】
連続する前記サブ算出期間同士は、互いに重複する期間を含む、請求項5に記載の生体情報処理装置。
【請求項7】
前記生体情報処理装置は、さらに、前記処理部により取得された前記指標値に基づいて、前記被検者の疼痛評価を行う評価部を備え、
前記取得部は、さらに、前記被検者の動脈血酸素飽和度を示す情報、前記被検者の心拍数を示す情報、前記被検者の血圧を示す情報、前記被検者の脈波伝搬時間を示す情報、前記被検者のQTc(corrected QT time)を示す情報、前記被検者の体温を示す情報、および前記被検者の灌流指数を示す情報の少なくとも1つを生体情報として取得し、
前記評価部は、前記指標値に加えて、1または複数種類の前記生体情報に基づいて、前記被検者の疼痛評価を行う、請求項1に記載の生体情報処理装置。
【請求項8】
生体情報処理装置における生体情報処理方法であって、
被検者の血液の循環状態を示す血管動態情報を取得するステップと、
前記血管動態情報に正規化処理を施すことにより、前記被検者の疼痛評価の指標値を取得するステップと、を含み、
前記指標値を取得するステップにおいて、
前記被検者に対する処置に関する処置イベントの開始前における基準期間に取得された前記血管動態情報に基づいて、基準値を算出し、
前記処置イベントの開始後に取得された前記血管動態情報に基づいて、対象値を算出し、
前記正規化処理として、前記基準値に対する前記対象値の割合を前記指標値として算出する、生体情報処理方法。
【請求項9】
生体情報処理装置において用いられる生体情報処理プログラムであって、
前記生体情報処理装置におけるコンピュータに、
被検者の血液の循環状態を示す血管動態情報を取得するステップと、
前記血管動態情報に正規化処理を施すことにより、前記被検者の疼痛評価の指標値を取得するステップと、を実行させ、
前記指標値を取得するステップにおいて、
前記被検者に対する処置に関する処置イベントの開始前における基準期間に取得された前記血管動態情報に基づいて、基準値を算出させ、
前記処置イベントの開始後に取得された前記血管動態情報に基づいて、対象値を算出させ、
前記正規化処理として、前記基準値に対する前記対象値の割合を前記指標値として算出させる、生体情報処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体情報処理装置、生体情報処理方法および生体情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
早産児や未熟児(以下、早産児等)の殆どは、新生児集中治療室(NICU)において治療や検査を受けることになり、早産児等に対する治療や検査には痛みを伴う処置が必要となる場合がある。また、新生児期における痛みの経験は、痛みに対する感受性や自律神経系のストレスシステムに悪影響を及ぼす可能性があると言われている。その一方で、新生児は意思の疎通を十分に図ることができないため、痛みを自分から表現することはできない。このように、痛みを伴う処置イベントにおいて、医療従事者が新生児の痛みを正確に把握することができるための手段が望まれている。
【0003】
この点において、非特許文献1では、2つの背景指標、2つの生理指標、および3つの表情指標の計7つの指標を用いる疼痛評価尺度PIPP(Premature Infant Pain Profile)に関する検証結果が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】小澤未緒、砂金直子、菅田勝也、平田倫生、草川功、鈴木智恵子著、「日本語版Premature Infant Pain Profileの実践的活用の検証」、小児保健研究 第71巻 第1号、2012年、p.10-16
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、早産児等の疼痛評価尺度PIPPや、PIPPを改良したPIPP-R(Premature Infant Pain Profile Revised)を用いる場合、表情指標として、「眉の隆起」、「強く閉じた目」および「鼻唇溝」の3箇所を30秒間観察して評価する必要がある。このため、評価を行う評価者への負荷が大きい。また、表情の評価は、評価者ごとにばらつきが出やすい。
【0006】
本開示は、疼痛評価を行う評価者の負荷を低減させることができ、かつ評価者ごとの評価のばらつきを低減させることができる生体情報処理装置、生体情報処理方法および生体情報処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る生体情報処理装置は、
被検者の血液の循環状態を示す血管動態情報を取得する取得部と、
前記血管動態情報に正規化処理を施すことにより、前記被検者の疼痛評価の指標値を取得する処理部と、を備え、
前記処理部は、
前記被検者に対する処置に関する処置イベントの開始前における基準期間に取得された前記血管動態情報に基づいて、基準値を算出し、
前記処置イベントの開始後に取得された前記血管動態情報に基づいて、対象値を算出し、
前記正規化処理として、前記基準値に対する前記対象値の割合を前記指標値として算出する。
【0008】
本開示の一態様に係る生体情報処理方法は、
生体情報処理装置における生体情報処理方法であって、
被検者の血液の循環状態を示す血管動態情報を取得するステップと、
前記血管動態情報に正規化処理を施すことにより、前記被検者の疼痛評価の指標値を取得するステップと、を含み、
前記指標値を取得するステップにおいて、
前記被検者に対する処置に関する処置イベントの開始前における基準期間に取得された前記血管動態情報に基づいて、基準値を算出し、
前記処置イベントの開始後に取得された前記血管動態情報に基づいて、対象値を算出し、
前記正規化処理として、前記基準値に対する前記対象値の割合を前記指標値として算出する。
【0009】
本開示の一態様に係る生体情報処理プログラムは、
生体情報処理装置において用いられる生体情報処理プログラムであって、
前記生体情報処理装置におけるコンピュータに、
被検者の血液の循環状態を示す血管動態情報を取得するステップと、
前記血管動態情報に正規化処理を施すことにより、前記被検者の疼痛評価の指標値を取得するステップと、を実行させ、
前記指標値を取得するステップにおいて、
前記被検者に対する処置に関する処置イベントの開始前における基準期間に取得された前記血管動態情報に基づいて、基準値を算出させ、
前記処置イベントの開始後に取得された前記血管動態情報に基づいて、対象値を算出させ、
前記正規化処理として、前記基準値に対する前記対象値の割合を前記指標値として算出させる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、疼痛評価を行う評価者の負荷を低減させることができ、かつ評価者ごとの評価のばらつきを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本実施形態に係る処理装置の使用状況の一例を示す図である。
図2図2は、図1に示す処理装置の構成を示す図である。
図3図3は、図2に示す取得部から出力された心電図データの示す心電波形を示すグラフである。
図4図4は、図3に示す心電波形から測定されたRRインターバルの時系列変化を示すグラフである。
図5図5は、図4に示すRRインターバルのうち、所定の周波数成分の時系列変化を示すグラフである。
図6図6は、図5に示すRRI変動成分の時系列変化を示すグラフの一部であって、縦軸を拡大したグラフである。
図7図7は、図6に示すRRI変動成分に基づいて算出された、RRI変動成分のばらつき度合いの時系列変化を示すグラフである。
図8図8は、図7に示すSDNNに対して正規化処理を施すことにより算出される指標値Rを示すグラフである。
図9図9は、本開示の一態様に係る処理装置2が被検者の疼痛評価を行う際の動作の流れを説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[生体情報処理装置の構成]
本発明に係る生体情報処理装置、生体情報処理方法および生体情報処理プログラムの実施形態の一例を添付図面に基づいて説明する。以下、本実施形態に係る生体情報処理装置2を、「処理装置2」と称する。図1は、本実施形態に係る処理装置2の使用状況の一例を示す図である。図2は、図1に示す処理装置2の構成を示す図である。
【0013】
図1を参照して、処理装置2は、被検者Xに対して、採血などの処置イベントが行われる場合において、当該被検者Xの疼痛を評価するための装置である。処置イベントは、被検者Xに必ずしも疼痛が生じるイベントに限定されず、被検者Xに疼痛が生じる可能性があるイベントであってもよい。例えば、疼痛が生じる処置イベントは、採血に限らず、薬剤を投与するイベント、骨髄検査等の穿刺を伴う検査、または切開等を伴う手技を施すイベントなどであってもよい。医療従事者M1,M2は、処理装置2による評価結果を確認することにより、被検者Xが痛みを感じているか否かを把握することができる。
【0014】
図1では、被検者Xとして新生児を図示している。新生児は、コミュニケーションを通じて痛みの程度を自ら表現することが困難であるため、医療従事者M1,M2が処理装置2を通じて被検者Xである新生児の痛みの程度を把握する必要性が特に高い。しかしながら、被検者Xは新生児に限らず、小児や成人であってもよい。
【0015】
被検者Xには、血液の循環状態を示す血管動態情報を取得するための生体情報センサ32が取り付けられている。生体情報センサ32は、例えば、被検者Xの心電図信号(ECG)を測定する心電図センサであり、心電図信号を示す心電図データを、血管動態情報として処理装置2へ送信する。
【0016】
図2を参照して、処理装置2は、制御部20と、記憶装置21と、入力操作部24と、出力部25と、取得部27とを備える。制御部20、記憶装置21、入力操作部24、出力部25および取得部27は、バス26を介して互いに通信可能に接続されている。
【0017】
取得部27は、生体情報センサ32を処理装置2に通信可能に接続するためのインターフェースである。取得部27は、生体情報センサ32から送信された血管動態情報を受信し、当該血管動態情報を制御部20へ出力する。
【0018】
制御部20は、処理部41と、評価部42とを含む。処理部41は、取得部27から受けた血管動態情報に正規化処理を施すことにより、被検者Xの疼痛評価に用いられる指標値Rを取得する。評価部42は、処理部41により取得された指標値Rに基づいて、被検者Xの疼痛評価を行う。処理部41による指標値Rの取得、および評価部42による疼痛評価の詳細については、後述する。
【0019】
記憶装置21は、例えば、フラッシュメモリ等であって、プログラムや各種データを格納するように構成されている。記憶装置21には、制御部20による疼痛評価の際に用いられる生体情報処理プログラムが組み込まれてもよい。また、記憶装置21には、被検者Xの血管動態情報が保存されてもよい。
【0020】
入力操作部24は、医療従事者M1,M2の入力操作を受け付ける。入力操作部24は、例えば、図示しないモニタ上に重ねて配置されたタッチパネル、マウス、またはキーボード等である。例えば、医療従事者M1は、処理装置2を起動させた後、処置イベントを行う直前に処理装置2に対して入力操作を行う。入力操作部24は、当該入力操作が行われた時刻、または当該入力操作が行われた時刻から所定時間経過後の時刻を処置イベントの開始時刻txとして特定し、開始時刻txを示す開始時刻情報をバス26経由で制御部20へ出力する。
【0021】
[処理部による指標値の取得]
(前段階処理)
ここでは、処理部41が、血管動態情報の一例である心電図データに基づいて、疼痛評価の指標値Rを取得する際の手順について説明する。
【0022】
図3は、図2に示す取得部27から出力された心電図データの示す心電波形を示すグラフである。図3を参照して、処理部41は、取得部27から心電図データを受けると、当該心電図データの示す心電波形に基づいて、被検者Xの各心拍のR波発生時点(以下、「Rタイミング」と称する)を検出する。そして、処理部41は、隣接するRタイミング同士の間隔であるRRインターバルを測定する。
【0023】
図4は、図3に示す心電波形から測定されたRRインターバルの時系列変化を示すグラフである。図4において、横軸は時間であり、縦軸はRRインターバルの値である。図5は、図4に示すRRインターバルのうち、所定の周波数成分(以下、「RRI変動成分」と称する)の時系列変化を示すグラフである。図5において、横軸は時間であり、縦軸はRRI変動成分の値である。
【0024】
図4および図5に示すように、処理部41は、心電波形に基づいて測定したRRインターバルのうち、RRI変動成分を抽出する。具体的には、処理部41は、RRインターバルのうち、0.2Hzから1.0Hzまでの範囲に含まれる周波数成分をRRI変動成分として抽出する。
【0025】
ここで、RRインターバルのうち、0.2Hzから1.0Hzまでの範囲に含まれる周波数成分は、被検者Xの副交感神経の活動を反映していることが知られている。具体的には、被検者Xが痛みを感じておらず、副交感神経が活発な状態では、RRI変動成分のグラフの振幅が大きくなる。一方、被検者Xが痛みを感じていて、副交感神経が活発ではない状態では、RRI変動成分のグラフの振幅が小さくなる。
【0026】
すなわち、RRI変動成分のグラフの振幅の大小を定量化することにより、被検者Xの痛みを評価することができる。このため、処理部41は、図5に示すRRI変動成分のばらつき度合いを算出することにより、RRI変動成分のグラフの振幅の大小を定量化する。ばらつき度合いは、標準偏差(SDNN:Standard Deviation of Normal to Normal intervals)、分散またはエントロピーなどである。
【0027】
図6は、図5に示すRRI変動成分の時系列変化を示すグラフの一部であって、縦軸を拡大したグラフである。図6を参照して、より詳細には、処理部41は、処置イベントの開始時刻txを含む期間に対して複数のサブ算出期間STを設定し、サブ算出期間STごとに、RRI変動成分のばらつき度合いを算出する。サブ算出期間STの長さは、例えば10秒間である。また、連続するサブ算出期間ST同士は、互いに重複する期間を含む。
【0028】
具体的には、処理部41は、例えば、処理装置2の起動タイミングを時刻t0として、時刻t0から、10秒後の時刻t10までの期間をサブ算出期間ST1として設定する。また、処理部41は、時刻t0から1秒後の時刻t1から、10秒後の時刻t11までの期間をサブ算出期間ST2として設定する。また、処理部41は、時刻t1から1秒後の時刻t2から、10秒後の時刻t12までの期間をサブ算出期間ST3として設定する。このように、処理部41は、設定した各サブ算出期間STについて、RRI変動成分のばらつき度合いを算出する。
【0029】
なお、連続するサブ算出期間ST同士は、互いに重複する期間を有していなくてもよい。また、サブ算出期間STの長さは、10秒間に限定されない。
【0030】
(正規化処理による指標値の取得)
図7は、図6に示すRRI変動成分に基づいて算出された、RRI変動成分のばらつき度合いの時系列変化を示すグラフである。図7に示すグラフでは、RRI変動成分のばらつき度合いの一例として、RRI変動成分のSDNNの時系列変化を示している。
【0031】
図7を参照して、処理部41は、算出したSDNNに正規化処理を施す。すなわち、処理部41は、正規化処理として、処置イベントの開始時刻tx以降の期間におけるSDNNについて、開始時刻txより前の期間におけるSDNNに対する割合を算出する。これにより、処理部41は、疼痛評価に用いる指標値Rを取得する。
【0032】
(i)基準値BSの算出
より詳細には、処理部41は、例えば、入力操作部24から開始時刻情報を受けると、当該開始時刻情報の示す開始時刻txよりも前の期間の一部を基準期間として設定する。基準期間の長さは、例えば15秒間である。図7に示す例では、開始時刻txよりも前の期間のうちの15秒間が、基準期間として設定されている。
【0033】
そして、処理部41は、基準期間に取得された血管動態情報に基づくSDNNを用いて、被検者Xの疼痛評価に用いる基準値BSを算出する。具体的には、処理部41は、基準期間におけるSDNNの平均値または中央値を、基準値BSとして算出する。
【0034】
(ii)対象値Vの算出
また、処理部41は、開始時刻tx以降に取得された血管動態情報に基づくSDNNを用いて、被検者Xの疼痛評価に用いる対象値Vを算出する。より詳細には、処理部41は、開始時刻tx以降の期間を、複数の対象値算出期間ATに分ける。対象値算出期間ATの長さは、例えば15秒間である。
【0035】
具体的には、処理部41は、開始時刻txから、15秒後の時刻t21を対象値算出期間AT1として設定する。また、処理部41は、時刻t21から、15秒後の時刻t22を対象値算出期間AT2として設定する。そして、処理部41は、このように設定した各対象値算出期間ATについて、SDNNの平均値または中央値を対象値Vとして算出する。
【0036】
なお、連続する対象値算出期間AT同士は、図6に示すサブ算出期間STのように、互いに重複する期間を有してもよい。また、対象値算出期間ATの長さは、15秒間に限定されない。
【0037】
(iii)指標値Rの算出
また、処理部41は、対象値算出期間ATごとに、正規化処理として、基準値BSに対する対象値Vの割合を指標値Rとして算出する。具体的には、処理部41は、対象値算出期間AT1における指標値R1として、対象値V1を基準値BSで除した値(R1=V1/BS)を算出する。また、処理部41は、対象値算出期間AT2における指標値R2として、対象値V2を基準値BSで除した値(R2=V2/BS)を算出する。そして、処理部41は、このように算出した各指標値Rを、図2に示す評価部42へ出力する。
【0038】
なお、上述した例では、処理部41は、血管動態情報の一例である心電図データに対して前段階処理を行うことによりRRI変動成分のSDNNを取得し、取得したSDNNに対して正規化処理を施すことにより指標値Rを算出する。しかしながら、処理部41は、このような前段階処理を行う構成に限定されず、例えば、前段階処理を行うことなく、血管動態情報の示す値に対して正規化処理を施す構成であってもよい。
【0039】
[評価部による疼痛評価]
図8は、図7に示すSDNNに対して正規化処理を施すことにより算出される指標値Rを示すグラフである。図8において、横軸は時間であり、縦軸は指標値Rである。また、図8は、一例として、指標値Rを1秒ごとにプロットすることにより得られるグラフを示している。
【0040】
図2および図8を参照して、評価部42は、処理部41から出力された指標値Rを用いて、被検者Xの疼痛評価を行う。例えば、評価部42は、新たに算出された指標値Rを処理部41から受けるたびに、当該指標値Rが閾値Th以下であるか否かを判断する。具体的には、閾値Thは1より小さい値であるとする。図8に示す例では、処置イベントの開始時刻tx以降、指標値Rが閾値Th以下である。このように、指標値Rが閾値Th以下である場合、評価部42は、出力部25へ指示信号を送信する。
【0041】
出力部25は、評価部42からの指示信号を受けると、被検者Xが痛みを感じていることを医療従事者M1,M2に伝えるための警告処理を行う。例えば、出力部25は、図示しないモニタ等に被検者Xが痛みを感じていることを示す表示が行われるように表示制御を行う。これにより、医療従事者M1,M2は、被検者Xが痛みを感じていることを把握することができる。なお、出力部25は、表示制御以外の警告処理として、例えば、警告音が出力されるように出力制御を行ってもよい。
【0042】
なお、評価部42は、上述したPIPPまたはPIPP-Rに従う疼痛評価を行う構成であってもよい。この場合、評価部42は、例えば、処理部41により算出された指標値Rを、PIPPまたはPIPP-Rにおける指標の1つとして用いることができる。また、評価部42は、指標値Rに基づく疼痛評価の評価結果と、PIPPまたはPIPP-Rに従う疼痛評価の評価結果とを総合的に判断して、最終的な疼痛評価を行ってもよい。
【0043】
また、処理部41と評価部42とは、互いに別々の装置に備えられてもよい。例えば、処理装置2は、図2に示す評価部42および出力部25を備えず、処理部41により算出された指標値Rを、評価部42および出力部25を備える他の装置へ送信する構成であってもよい。
【0044】
[動作の流れ]
図9は、本開示の一態様に係る処理装置2が生体情報処理方法を用いて被検者Xの疼痛評価を行う際の動作の流れを説明するためのフローチャートである。ここでは、処理装置2が、心電図データに基づいて疼痛評価を行う際の動作の流れについて説明する。
【0045】
図9を参照して、まず、処理装置2は、例えば医療従事者M1によって起動操作が行われると、生体情報センサ32の一例である心電図センサから送信された心電図データを取得する(ステップS11)。
【0046】
次に、処理装置2は、取得した心電図データの示す心電波形に基づいて、各心拍のRタイミングを検出し(ステップS12)、隣接するRタイミング同士の間隔であるRRインターバルを測定する(ステップS13)。なお、処理装置2は、測定した複数のRRインターバルに対して、線形補間処理を行ってもよい。
【0047】
次に、処理装置2は、測定したRRインターバルのうち、所定の周波数成分を抽出する。具体的には、処理装置2は、RRインターバルのうち、0.2Hzから1.0Hzまでの範囲に含まれる周波数成分をRRI変動成分として抽出する(ステップS14)。
【0048】
次に、処理装置2は、被検者Xに対する処置イベントの開始時刻txの前後を含む期間に対して複数のサブ算出期間STを設定し、サブ算出期間STごとに、RRI変動成分のばらつき度合いを算出する(ステップS15)。
【0049】
次に、処理装置2は、処置イベントの開始時刻txよりも前の期間の一部を基準期間として設定し、当該基準期間におけるRRI変動成分のばらつき度合いの平均値または中央値を、基準値BSとして算出する(ステップS16)。
【0050】
次に、処理装置2は、処置イベントの開始時刻tx以降の期間を、複数の対象値算出期間ATに分けて、各対象値算出期間ATについて、RRI変動成分のばらつき度合いの平均値または中央値を対象値Vとして算出する(ステップS17)。
【0051】
次に、処理装置2は、対象値算出期間ATごとに、正規化処理として、基準値BSに対する対象値Vの割合を指標値Rとして算出する(ステップS18)。次に、処理装置2は、算出した指標値Rが閾値Th以下であるか否かを判断する(ステップS19)。
【0052】
そして、処理装置2は、指標値Rが閾値Th以下であると判断した場合(ステップS19において「YES」)、被検者Xが痛みを感じていることを医療従事者M1,M2に伝えるための警告処理を行う(ステップS20)。一方、処理装置2は、指標値Rが閾値Thよりも大きいと判断した場合(ステップS19において「NO」)、警告処理を行わない。
【0053】
なお、血管動態情報は、被検者Xの心電波形に限定されず、被検者Xの脈波波形であってもよい。この場合、処理装置2における処理部41は、例えば、ステップS11において、心電図データの代わりに脈波波形を取得し、ステップS12において、当該脈波波形における駆出波の頂点を検出する。そして、処理部41は、ステップS13において、隣接する頂点同士の間隔を、RRインターバルとして測定する。
【0054】
[変形例]
評価部42は、処理部41により算出された指標値Rに加えて、血管動態情報以外の1または複数種類の生体情報に基づいて、被検者Xの疼痛評価を行う構成であってもよい。生体情報は、例えば、動脈血酸素飽和度を示す情報、心拍数を示す情報、血圧を示す情報、脈波伝搬時間を示す情報、QTc(corrected QT time)を示す情報、体温を示す情報、または灌流指数を示す情報である。
【0055】
この場合、図2に示す処理装置2の取得部27には、心電図センサに加えて、さらに、脈波センサ、血圧センサまたは体温センサなどの1または複数の生体情報センサ32が接続される。評価部42は、例えば、指標値Rおよび各生体情報の示す値に対して所定の重みづけを行い、総合的な評価により被検者Xの疼痛評価を行う。
【0056】
なお、処理部41は、血管動態情報以外の生体情報の一部または全部に対して、上述した正規化処理を行う構成であってもよい。例えば、処理部41は、取得部27から受けた生体情報の示す値のうち、灌流指数に対して正規化処理を行った指標値を算出してもよい。この場合、評価部42は、灌流指標に基づいて算出した指標値と、心電図データに基づいて算出した指標値Rと、灌流指標を示す情報以外の各生体情報の示す値とを用いて、被検者Xの疼痛評価を行う。
【0057】
上記のように、本開示の一態様に係る生体情報処理装置2では、取得部27は、被検者Xの血液の循環状態を示す血管動態情報を取得する。処理部41は、血管動態情報に正規化処理を施すことにより、被検者Xの疼痛評価の指標値Rを取得する。また、処理部41は、被検者Xに対する処置に関する処置イベントの開始前における基準期間に取得された血管動態情報に基づいて、基準値BSを算出し、当該処置イベントの開始後に取得された血管動態情報に基づいて、対象値Vを算出し、さらに、正規化処理として、基準値BSに対する対象値Vの割合を指標値Rとして算出する。
【0058】
このように、疼痛評価の指標値Rが自動的に算出される構成により、疼痛評価を行う評価者、すなわち医療従事者の負荷を低減させることができ、かつ評価者ごとの評価のばらつきを低減させることができる。また、被検者Xの血管動態情報に対する正規化処理を行い、指標値Rを取得する構成により、被検者Xの個人差をなくして、より正確な疼痛評価を行うことができる。
【0059】
上記のように、本開示の一態様に係る生体情報処理装置2が用いられる処置イベントは、被検者Xに疼痛が生じるイベントであり、疼痛が生じるイベントは、被検者Xに薬剤を投与するイベント、被検者Xに検査を施すイベント、および被検者Xに手技を施すイベントの少なくともいずれか1つを含む。
【0060】
このような構成により、医療従事者は、複数種類の処置イベントにおいて、被検者Xが痛みを感じているか否かを把握することができる。
【0061】
上記のように、本開示の一態様に係る生体情報処理装置2により取得される上記血管動態情報は、被検者Xの心電波形または脈波波形を示す情報である。
【0062】
このように、副交感神経の活動状態に影響を受ける情報を用いることにより、被検者Xの疼痛評価をより正確に行うことができる。また、心電波形を取得するための心電図センサは、治療時において被検者Xに取り付けられることが多く、既存のセンサを用いて疼痛評価を行うことができる。
【0063】
上記のように、本開示の一態様に係る生体情報処理装置2では、処理部41は、血管動態情報に基づいて、当該血管動態情報の示す値のばらつき度合いを算出し、さらに、当該処置イベントの開始後の期間を複数の対象値算出期間ATに分け、各対象値算出期間ATの上記ばらつき度合いに基づいて、対象値算出期間ATごとに対象値Vを算出する。
【0064】
このような構成により、副交感神経の活動状況を定量化することができる。
【0065】
上記のように、本開示の一態様に係る生体情報処理装置2において、各対象値算出期間ATには、複数のサブ算出期間STが含まれる。また、処理部41は、サブ算出期間STごとに上記ばらつき度合いを算出する。また、処理部41は、対象値算出期間ATごとに、複数のサブ算出期間STの各々のばらつき度合いの平均値または中央値を、対象値Vとして算出する。
【0066】
このような構成により、ノイズ等の影響を受けてばらつき度合いが一時的に変化した場合であって、当該影響を避けて、より正確な評価を行うことができる。
【0067】
上記のように、本開示の一態様に係る生体情報処理装置2において、連続するサブ算出期間ST同士は、互いに重複する期間を含む。
【0068】
このような構成により、各対象値算出期間ATに、サブ算出期間STが多く含まれるため、多くのばらつき度を用いて、より信頼性の高い対象値を算出することができる。
【0069】
上記のように、本開示の一態様に係る生体情報処理装置2では、評価部42は、処理部41により取得された指標値Rに基づいて、被検者Xの疼痛評価を行う。また、取得部27は、さらに、被検者Xの動脈血酸素飽和度を示す情報、被検者Xの心拍数を示す情報、被検者Xの血圧を示す情報、被検者Xの脈波伝搬時間を示す情報、被検者XのQTcを示す情報、被検者Xの体温を示す情報、および被検者Xの灌流指数を示す情報の少なくとも1つを生体情報として取得する。そして、評価部42は、指標値Rに加えて、1または複数種類の上記生体情報に基づいて、被検者Xの疼痛評価を行う。
【0070】
このように、複数種類の指標を用いて疼痛評価を行う構成により、より一層精度の高い疼痛評価を行うことができる。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明をしたが、本発明の技術的範囲が本実施形態の説明によって限定的に解釈されるべきではない。本実施形態は一例であって、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、様々な実施形態の変更が可能であることが当業者によって理解されるところである。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲に記載された発明の範囲およびその均等の範囲に基づいて定められるべきである。
【符号の説明】
【0072】
2:生体情報処理装置(処理装置)、20:制御部、21:記憶装置、24:入力操作部、25:出力部、26:バス、27:取得部、32:生体情報センサ、41:処理部、42:評価部
図1
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図9