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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105055
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】外輪回転形転がり軸受及び圧延機
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/80 20060101AFI20240730BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20240730BHJP
   F16C 19/28 20060101ALI20240730BHJP
   B21B 31/07 20060101ALI20240730BHJP
   B21B 13/14 20060101ALI20240730BHJP
   B21B 1/00 20060101ALI20240730BHJP
   F16C 33/60 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
F16C33/80
F16J15/447
F16C19/28
B21B31/07 Z
B21B13/14 A
B21B1/00 A
F16C33/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009589
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】淵本 和幸
【テーマコード(参考)】
3J042
3J216
3J701
4E002
【Fターム(参考)】
3J042AA03
3J042AA09
3J042BA01
3J042CA02
3J042CA05
3J042CA10
3J042CA20
3J042DA03
3J042DA10
3J216AA02
3J216AA03
3J216AA12
3J216AA14
3J216AB25
3J216BA11
3J216BA12
3J216CA01
3J216CA04
3J216CB06
3J216CC46
3J216CC68
3J216CC70
3J701AA02
3J701AA13
3J701AA16
3J701AA24
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA73
3J701CA06
3J701CA13
3J701FA13
3J701FA46
3J701FA53
3J701FA55
3J701GA36
4E002BB17
(57)【要約】
【課題】省スペースでシール構造を構成することができ、負荷容量を確保することが可能な外輪回転形転がり軸受及び圧延機を提供する。
【解決手段】外輪14の軸方向両側面には、外側つば部14cの内周面14c1から径方向外側に向けて切欠かれた環状凹部14eが形成され、よって、外輪14の軸方向両端部は、環状凹部14eと外側つば部14cの内周面14c1によって段付き形状に形成される。つば輪20は、環状凹部14e内に延在するリング部22を備え、環状凹部14e及び外側つば部14cの内周面14c1との間でラビリンス構造を構成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外輪軌道面と、該外輪軌道面の軸方向外側に、前記外輪軌道面よりも径方向内側に延出する1対の外側つば部と、を有する外輪と、
外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動自在に配置された複数の転動体と、
前記外輪の外側つば部の内周面とそれぞれ径方向で対向し、前記内輪の軸方向両側に配置された1対のつば輪と、
を備え、外輪回転で使用される外輪回転形転がり軸受であって、
前記外輪の軸方向両側面には、前記外側つば部の内周面から径方向外側に向けて切欠かれた環状凹部が形成され、よって、前記外輪の軸方向両端部は、前記環状凹部と前記外側つば部の内周面によって段付き形状に形成され、
前記つば輪は、前記環状凹部内に延在するリング部を備え、前記環状凹部及び前記外側つば部の内周面との間でラビリンス構造を構成し、
前記リング部は、前記内輪の軸方向両側に配置されるつば輪本体に外嵌する円盤状部材によって構成されるか、または、前記つば輪に一体に形成される、
ことを特徴とする外輪回転形転がり軸受。
【請求項2】
内周面に外輪軌道面と、該外輪軌道面の軸方向外側に、前記外輪軌道面よりも径方向内側に延出する1対の外側つば部と、を有する外輪と、
外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動自在に配置された複数の転動体と、
前記外輪の外側つば部の内周面とそれぞれ径方向で対向し、前記内輪の両側方に配置された1対のつば輪と、
を備え、外輪回転で使用される外輪回転形転がり軸受であって、
前記外輪の外側つば部の内周面は、軸方向外側に向かって拡径するテーパ形状を有し、
前記つば輪の外周面は、軸方向外側に向かって拡径し、前記外側つば部のテーパ形状の内周面との間で第1のラビリンスシールを形成する第1のテーパ面、を有する、
ことを特徴とする外輪回転形転がり軸受。
【請求項3】
前記つば輪の外周面に形成された第1のテーパ面は、前記外輪の外側つば部のテーパ形状の内周面と平行である、
請求項2に記載の外輪回転形転がり軸受。
【請求項4】
前記つば輪の外周面は、軸方向外側に設けられた前記第1のテーパ面と、該第1のテーパ面より軸方向内側に設けられる水滴溜まりと、前記水滴溜まりよりも軸方向内側で、前記外側つば部の内周面との間で第2のラビリンスシールを形成するシール面と、有する、請求項2に記載の外輪回転形転がり軸受。
【請求項5】
前記水滴溜まりは、前記第1のテーパ面を有するリング部と、軸方向内側に向かって拡径する第2のテーパ面とによって形成される、
請求項4に記載の外輪回転形転がり軸受。
【請求項6】
前記シール面は、円筒面である、
請求項4に記載の外輪回転形転がり軸受。
【請求項7】
前記水滴溜まりの径方向内側部には、軸方向外側に向けて軸方向に貫通する、又は、円周方向の一部に径方向外側に向けて切り欠かれた水抜き用の通路が形成される、
請求項4に記載の外輪回転形転がり軸受。
【請求項8】
前記つば輪は、単一部材によって一体に形成されている、
請求項2に記載の外輪回転形転がり軸受。
【請求項9】
前記つば輪は、前記第2のテーパ面を有するつば輪本体と、前記つば輪本体の軸方向外側に設けられ、前記第1のテーパ面を有する円盤状部材と、を有する、
請求項4に記載の外輪回転形転がり軸受。
【請求項10】
前記つば輪は、前記第2のテーパ面を有するつば輪本体と、前記つば輪本体に外嵌し、前記第1のテーパ面を有する円盤状部材と、を有する、
請求項4に記載の外輪回転形転がり軸受。
【請求項11】
請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の外輪回転形転がり軸受を有するバックアップロールを備えることを特徴とする圧延機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外輪が回転し内輪が軸と共に回転を行わない外輪回転形転がり軸受、及び圧延機に関し、より詳細には、鉄鋼材製作のための圧延設備である多段式圧延機のバックアップロールに使用される外輪回転形転がり軸受及び圧延機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鉄鋼材による板材を製造する圧延機は、圧延時に鉄鋼材を圧迫挟持して圧延するワークロールと、該ワークロールの軸方向の撓みを防止して均一な厚みの板材を得るため、ワークロールの外周面を転動自在に支える一または複数段の中間ロールと、該中間ロールをその外側で支えてワークロールの撓みを防止するバックアップロールからなる多段式の圧延機が多く用いられる。
【0003】
多段式圧延機は、主に電磁鋼板やステンレス鋼板など、硬く延びにくい鋼材を圧延するため、圧延するワークロールに過大な圧延力がかかり、ワークロールに掛かる過大な圧延力をサポートするため、複数のバックアップロールを必要とする。
【0004】
バックアップロールを構成する軸受の外輪外周面は、定期的にリグラインドされるため、該軸受は圧延機から取り外される。そして、該軸受を圧延機から取り外した際には、軸受の分解・洗浄も同時に行われる。その後、軸受が組み立てられ、圧延機のチャックに取り付けられる。
【0005】
外輪回転形転がり軸受には、外部からの異物進入を防止するため及び軸受内部からの潤滑剤の漏出を防止するためにシール構造が設けられている。このため、軸受の洗浄の際には、シール構造も軌道輪からの取り外しと取り付けが必要となる。
特許文献1に記載の外輪回転形転がり軸受では、芯金にゴム等の弾性部材が被覆されたシール部材が止め輪を用いて内輪部材と外輪部材の両方に取り付けられ、シール部材の容易な着脱と、シール部材同士の共回りを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-161335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載の外輪回転形転がり軸受のシール構造では、部品点数が多く、また、シール部材及び止め輪を配置するための軸受軸方向のスペースが必要となる。このため、該スペースを確保すると、場合によって、ころの長さが短くなり、軸受負荷荷重が減少するという課題が生じる可能性がある。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、省スペースでシール構造を構成することができ、負荷容量を確保することが可能な外輪回転形転がり軸受及び圧延機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するために、本発明は下記の構成によって達成される。
(1) 内周面に外輪軌道面と、該外輪軌道面の軸方向外側に、前記外輪軌道面よりも径方向内側に延出する1対の外側つば部と、を有する外輪と、
外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動自在に配置された複数の転動体と、
前記外輪の外側つば部の内周面とそれぞれ径方向で対向し、前記内輪の軸方向両側に配置された1対のつば輪と、
を備え、外輪回転で使用される外輪回転形転がり軸受であって、
前記外輪の軸方向両側面には、前記外側つば部の内周面から径方向外側に向けて切欠かれた環状凹部が形成され、よって、前記外輪の軸方向両端部は、前記環状凹部と前記外側つば部の内周面によって段付き形状に形成され、
前記つば輪は、前記環状凹部内に延在するリング部を備え、前記環状凹部及び前記外側つば部の内周面との間でラビリンス構造を構成し、
前記リング部は、前記内輪の軸方向両側に配置されるつば輪本体に外嵌する円盤状部材によって構成されるか、または、前記つば輪に一体に形成される、
ことを特徴とする外輪回転形転がり軸受。
(2) 内周面に外輪軌道面と、該外輪軌道面の軸方向外側に、前記外輪軌道面よりも径方向内側に延出する1対の外側つば部と、を有する外輪と、
外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動自在に配置された複数の転動体と、
前記外輪の外側つば部の内周面とそれぞれ径方向で対向し、前記内輪の両側方に配置された1対のつば輪と、
を備え、外輪回転で使用される外輪回転形転がり軸受であって、
前記外輪の外側つば部の内周面は、軸方向外側に向かって拡径するテーパ形状を有し、
前記つば輪の外周面は、軸方向外側に向かって拡径し、前記外側つば部のテーパ形状の内周面との間で第1のラビリンスシールを形成する第1のテーパ面、を有する、
ことを特徴とする外輪回転形転がり軸受。
(3) (1)または(2)に記載の外輪回転形転がり軸受を有するバックアップロールを備えることを特徴とする圧延機。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る外輪回転形転がり軸受及び圧延機によれば、省スペースでシール構造を構成することができ、負荷容量を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施形態の外輪回転形転がり軸受が適用される多段式圧延機の斜視図である。
図2】第1実施形態の外輪回転形転がり軸受の断面図である。
図3】外輪の要部軸方向外側面図である。
図4】つば輪の要部軸方向内側面図である。
図5】第1実施形態の変形例に係る外輪回転形転がり軸受の要部断面図である。
図6】(a)は、第2実施形態の外輪回転形転がり軸受の断面図であり、(b)は、(a)のVI部拡大図である。
図7】(a)は、第2実施形態の変形例に係る外輪回転形転がり軸受の図6(b)に対応する断面図であり、(b)は、第2実施形態の他の変形例に係る外輪回転形転がり軸受の図6(b)に対応する断面図である。
図8】(a)は、第3実施形態の外輪回転形転がり軸受の断面図であり、(b)は、(a)のVIII部拡大図である。
図9図8の円盤状部材の側面図である。
図10】(a)は、第3実施形態の変形例に係る外輪回転形転がり軸受の図8(b)に対応する断面図であり、(b)は、第3実施形態の他の変形例に係る外輪回転形転がり軸受の図8(b)に対応する断面図である。
図11】第3実施形態のさらに他の変形例に係る外輪回転形転がり軸受の図9に対応する円盤状部材の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の外輪回転形転がり軸受に係る各実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態の外輪回転形転がり軸受が適用される多段式圧延機の斜視図である。
【0014】
多段式圧延機は、ハウジング1内に複数種の圧延ロール群が設けられており、搬送される鉄鋼材Pを、圧延ロール群によって均一な厚みに圧延する。圧延ロール群は、鉄鋼材Pを圧延する一対のワークロール2と、一対のワークロール2を回転自在に支持する複数の第1中間ロール3と、これら第1中間ロール3を回転自在に支持する複数の第2中間ロール4とを備えており、各第2中間ロール4は、複数のバックアップロール軸(図示せず)に組み付けられた、バックアップロールを構成する複数の転がり軸受10によって回転自在に支持されている。なお、各バックアップロール軸は、常時静止した状態(非回転状態)に維持されている。
【0015】
転がり軸受10は、図2に示すように、内周面に一対の外輪軌道面14a,14aを有して回転可能に配置される外輪(回転輪)14と、バックアップロール軸に嵌合固定され、外周面に一対の外輪軌道面に対向した内輪軌道面12a,12aを有する内輪(静止輪)12と、外輪軌道面14a,14aと内輪軌道面12a,12aとの間に転動自在に複列で配置された複数の円筒ころ(転動体)16と、各円筒ころ16を1つずつ等間隔に保持する保持器18,18と、内輪12の軸方向両側に配置された1対のつば輪20,20と、を備える。即ち、転がり軸受10は、外輪回転で使用される複列円筒ころ軸受である。
【0016】
外輪14は、一対の外輪軌道面14a,14a間に、外輪軌道面14a,14aよりも径方向内側に延出する中央側つば部14bと、各外輪軌道面14a,14aの軸方向外側に、外輪軌道面14a,14aよりも径方向内側に延出する一対の外側つば部14c,14cと、を有する。一対の外側つば部14c,14cの一方(図中、右側)は、図3に示すように、円周方向の一部に、軸方向に沿ったスロット溝14dが形成されており、円筒ころ16を組み込むための入れ溝となる。また、一対のつば輪20,20は、外輪14の外側つば部14c,14cの内周面とそれぞれ径方向で対向する。
なお、本実施形態では、軸方向中央部で2分割された保持器18,18が使用されているが、円環部の軸方向両端面に柱部がそれぞれ突設されている一体型の保持器であってもよい。
【0017】
このような多段式圧延機において、転がり軸受10の外輪14は、複数の第2中間ロール4に圧接しており、当該第2中間ロール4と共に回転可能に位置決めされている。この場合、各外輪14からの圧力が第2中間ロール4から第1中間ロール3を介して一対のワークロール2に作用することで、当該ワークロール2の撓みが防止されている。これにより、搬送される鉄鋼材Pは、一対のワークロール2によって均一な厚みに圧延される。
【0018】
また、軸受潤滑機構は、転がり軸受10がバックアップロール軸に対し、その軸方向へ所定間隔で複数個組み付けられた多段式圧延機において、これらの軸受内部へ圧縮エアとともに潤滑剤を供給して潤滑を行っている。この際、潤滑方式としては、潤滑剤に潤滑油を使用し、当該潤滑油を空気の圧力差(差圧)を利用してミスト化させ、圧縮エアと混合させるとともに当該圧縮エアによって搬送させることで、当該ミスト化された潤滑油(オイルミスト)を転がり軸受10に対して供給するオイルミスト方式が採用されている。なお、バックアップロール軸に対して組み付けられる転がり軸受10の数は、多段式圧延機の大きさなどに応じて任意に設定すればよいため、ここでは特に限定しない。
【0019】
この場合、潤滑剤(潤滑油)は、図示しない潤滑剤供給源(潤滑油供給源)から圧縮エアとともに送出され、当該潤滑油供給源からバックアップロール軸に設けられた軸経路(図示せず)を介して内輪12に設けられた潤滑孔12bへと搬送されることで、転がり軸受10に対して供給されている。なお、オイルミスト方式で潤滑油を飛散させるために必要な空気圧は約5kPaである。
【0020】
径方向に対向する外輪14の外側つば部14c,14cと、一対のつば輪20,20とは、ラビリンスシール構造を構成しており、外部から軸受内部への圧延水の侵入を防止するとともに、軸受外部への潤滑油の漏洩を防止している。
【0021】
具体的に、外輪14の軸方向両側面には、外側つば部14c,14cの内周面から径方向外側に向けて切欠かれた環状凹部14e,14eが形成され、よって、外輪14の軸方向両端部は、環状凹部14e,14eと外側つば部14c,14cの円筒状の内周面14c1,14c1によって段付き形状に形成される。
【0022】
また、つば輪20,20は、外側つば部14c,14cの円筒状の内周面14c1,14c1と微小な隙間を介して対向する円筒状の外周面21,21を有するとともに、この外周面21,21の軸方向外側に環状凹部14e,14e内に延在し、環状凹部14e,14eの内周面及び軸方向側面と微小な隙間を介して対向するリング部22,22を備えて一体に形成される。したがって、ラビリンスシール構造が、外輪14の環状凹部14e,14e及び外側つば部14c、14cの内周面14c1,14c1と、つば輪20,20のリング部22、22及び外周面21,21との間で構成される。
これにより、内輪12の軸方向両側に、外輪14との間でラビリンスシール構造を構成するつば輪20,20を配置することで、省スペースで、圧延水の侵入と潤滑油の漏洩を防ぐことができ、円筒ころ16の軸方向長さを短くする必要もなく、負荷容量を確保することができる。
【0023】
なお、つば輪20,20の軸方向内側面には、図4に示すように、内輪12の軸方向両端面と当接する環状の内輪当接面23,23と、内輪当接面23,23より外径側、且つ、円筒ころ16のピッチ円よりも内径側で、内輪当接面23,23と同じ軸方向位置にある環状の円筒ころ当接面24,24と、内輪当接面23,23と円筒ころ当接面24,24との間で、内輪軌道面12a,12aの外径を跨ぐ位置に環状に形成された環状溝25,25と、内輪当接面23,23と環状溝25,25とを跨ぐように、円周方向等間隔に4箇所形成され、潤滑油をバックアップロール軸に戻すための戻し溝26、26と、が設けられている。
また、円筒ころ当接面24,24より外径側の、つば輪20,20の軸方向内側面は、円筒ころ16,16から軸方向にわずかに離れた、平坦な円盤状に形成されている。
【0024】
図5は、第1実施形態の変形例に係る外輪回転形転がり軸受の要部断面図である。この変形例では、つば輪20は、つば輪本体20aと円盤状部材20bの二つの部材によって構成される点において、第1実施形態のものと異なる。
【0025】
即ち、この変形例では、一様厚さの鋼板からなる円盤状部材20bが、つば輪本体20aの軸方向外側面を、径方向中間部から外径側に向かって切欠くことで形成された切り欠き部27にインロー嵌合により外嵌する。これにより、リング部22は、つば輪本体20aの外周面21から外径側に突出する円盤状部材20bの外径側部分によって構成される。
この場合、つば輪本体20aは、内輪12の軸方向両側に配置され、第1実施形態で説明した、リング部22以外のつば輪20の構成、即ち、外周面21、内輪当接面23、円筒ころ当接面24、環状溝25、及び戻し溝26を備える。
【0026】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の外輪回転形転がり軸受について、図6(a)及び(b)を参照して説明する。なお、第1実施形態の外輪回転形転がり軸受と同様な構成については、同一符号を付して、説明を省略或いは簡略化する。
【0027】
第2実施形態では、外輪14の外側つば部14cの内周面14c1は、軸方向内側面から軸方向外側面まで、軸方向外側に向かって拡径するテーパ形状に形成される。また、つば輪20の外周面は、軸方向外側に設けられ、軸方向外側に向かって拡径する第1のテーパ面30と、該第1のテーパ面30より軸方向内側に設けられ、第1のテーパ面30を有するリング部34とともに水滴溜まり33を形成するように、軸方向内側に向かって拡径する第2のテーパ面31と、該第2のテーパ面31よりも軸方向内側で、外側つば部14cの内周面と対向する円筒面32と、を有する。
【0028】
また、本実施形態では、つば輪20は、内輪12の軸方向外側に当接して配置されるつば輪本体20aと、つば輪本体20aの軸方向外側に当接して配置される円盤状部材20bとが、バックアップロール軸に外嵌されて、並んで配置される構成としている。なお、つば輪本体20aと円盤状部材20bとはねじなどで締結されてもよい。
【0029】
この場合、第1のテーパ面30が、円盤状部材20bによって構成され、第2のテーパ面31及び円筒面32が、つば輪本体20aによって構成されている。また、円盤状部材20bは、つば輪本体20aの軸方向外側面が当接する部分よりも径方向外側部分によってリング部34を構成している。
【0030】
つば輪20の外周面に形成された第1のテーパ面30は、外輪14の外側つば部14cのテーパ形状の内周面14c1と平行であり、テーパ形状の内周面14c1との間にテーパ状の微小隙間(第1のラビリンスシール)を構成し、圧延水の侵入を抑制している。
【0031】
さらに、外側つば部14cの内周面14c1と、リング部34の軸方向内側面と、第2のテーパ面31との間には、断面略V字状の水滴溜まり33が設けられているので、テーパ状の微小隙間に進入した圧延水を水滴溜まり33によって捕捉することができ、圧延水の内部への侵入を抑制できる。なお、第2のテーパ面31に代えて凹溝を設けることで水滴溜まりを形成しても良い。
【0032】
また、円筒面32も、テーパ形状の内周面14c1との間に微小隙間(第2のラビリンスシール)を構成し、軸受外部への潤滑油の漏洩を防止している。なお、第2のテーパ面31の軸方向内側は、テーパ形状の内周面14c1との間に第2のラビリンスシールを構成するシール面であればよく、円筒面32の代わりに、外輪14の外側つば部14cのテーパ形状の内周面14c1と平行な他のテーパ面としてもよい。また、外側つば部14cの軸方向内側の内周面14c1は円筒面32と対向する円筒面としてもよい。
【0033】
さらに、つば輪20の外周面は、外側つば部14cのテーパ形状の内周面14c1の軸方向長さ全体に亘って、テーパ状の第1のラビリンスシールを形成する第1のテーパ面のみによって形成されてもよい。
【0034】
したがって、本実施形態においても、省スペースでラビリンスシール構造を構成することができ、圧延水の侵入と潤滑油の漏洩を防ぐことが出来、円筒ころ16の軸方向長さを短くする必要もなく、負荷容量を確保することができる。
また、外側つば部14cの内周面14c1は、テーパ形状に形成されるので、外側つば部14cの内周面14c1に付着した圧延水を、外輪回転によって作用する遠心力によって、軸方向外側へ排出することができる。
【0035】
ただし、図7(a)に示す第1変形例のように、つば輪20は、単一部材によって一体に形成されてもよく、或いは、図7(b)に示す第2変形例のように、円盤状部材20bがつば輪本体20aに形成された切り欠き部27の外周面にインロー嵌合によって外嵌するようにしてもよい。
第1変形例のつば輪20の場合には、第1のテーパ面30と第2のテーパ面31とが、リング部22の軸方向内側面、即ち、径方向に沿ったリング状の平面によって、連結されている。
【0036】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態の外輪回転形転がり軸受について、図8及び図9を参照して説明する。なお、第1及び第2実施形態の外輪回転形転がり軸受と同様な構成については、同一符号を付して、説明を省略或いは簡略化する。
【0037】
第3実施形態では、第2実施形態のつば輪20に対して、水滴溜まり33の径方向内側部には、軸方向外側に向けて軸方向に貫通する複数の水抜き用の通路40が形成される。したがって、水抜き用の通路40は、リング部34の軸方向内側面と第2のテーパ面31との境界縁部に近接したリング部34に、円周方向に等間隔に形成されている(図9参照)。これにより、水滴溜まり33に捕捉された圧延水を外部に排出することができる。
その他の構成及び作用については、第2実施形態のものと同様である。
【0038】
なお、図8に示すつば輪20では、内輪12の軸方向外側に当接して配置されるつば輪本体20aと、つば輪本体20aの軸方向外側に当接して配置される円盤状部材20bとが、バックアップロール軸に外嵌されて、並んで配置される構成としているが、本実施形態のつば輪20はこれに限定されない。
即ち、つば輪20は、第2実施形態と同様、図10(a)に示すように、単一部材によって一体に形成されてもよいし、図10(b)に示すように、円盤状部材20bがつば輪本体20aに形成された切り欠き部27の外周面にインロー嵌合によって外嵌するようにしてもよい。
【0039】
また、図11に示すように、水抜き用の通路41は、リング部34の軸方向内側面と第2のテーパ面31との境界縁部に近接したリング部34の円周方向の一部から径方向外側に向けて切り欠かれるように設けるようにしてもよい。
【0040】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。また、上述した各実施形態は、実施可能な範囲において組み合わせて適用可能である。
【0041】
本発明の外輪回転形転がり軸受は、本実施形態では、複列の転がり軸受としたが、単列や軸方向に3列または4列の多列の転がり軸受であってもよい。また、本実施形態では、転動体を円筒ころとした円筒ころ軸受を用いて説明したが、転動体を円錐ころとした円錐ころ軸受や玉とした玉軸受等、任意の転がり軸受に適用できる。
【0042】
また、本発明の転がり軸受は、本実施形態では、外輪が回転、内輪が静止状態で、外輪が直接ロールとして使用される多段圧延機のバックアップロール部に適用されているが、鉄鋼設備・多段圧延機に使用される各種の転がり軸受に適用できる。本発明は、他に一般産業(製紙工場、発電プラント(風力、火力)等や、車両(鉄道、建設機械、運搬機械)などに使用される全ての転がり軸受に対して適用可能である。
【0043】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 内周面に外輪軌道面と、該外輪軌道面の軸方向外側に、前記外輪軌道面よりも径方向内側に延出する1対の外側つば部と、を有する外輪と、
外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動自在に配置された複数の転動体と、
前記外輪の外側つば部の内周面とそれぞれ径方向で対向し、前記内輪の軸方向両側に配置された1対のつば輪と、
を備え、外輪回転で使用される外輪回転形転がり軸受であって、
前記外輪の軸方向両側面には、前記外側つば部の内周面から径方向外側に向けて切欠かれた環状凹部が形成され、よって、前記外輪の軸方向両端部は、前記環状凹部と前記外側つば部の内周面によって段付き形状に形成され、
前記つば輪は、前記環状凹部内に延在するリング部を備え、前記環状凹部及び前記外側つば部の内周面との間でラビリンス構造を構成し、
前記リング部は、前記内輪の軸方向両側に配置されるつば輪本体に外嵌する円盤状部材によって構成されるか、または、前記つば輪に一体に形成される、
ことを特徴とする外輪回転形転がり軸受。
この構成によれば、省スペースでシール構造を構成することができ、負荷容量を確保することができる。
【0044】
(2) 内周面に外輪軌道面と、該外輪軌道面の軸方向外側に、前記外輪軌道面よりも径方向内側に延出する1対の外側つば部と、を有する外輪と、
外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動自在に配置された複数の転動体と、
前記外輪の外側つば部の内周面とそれぞれ径方向で対向し、前記内輪の両側方に配置された1対のつば輪と、
を備え、外輪回転で使用される外輪回転形転がり軸受であって、
前記外輪の外側つば部の内周面は、軸方向外側に向かって拡径するテーパ形状を有し、
前記つば輪の外周面は、軸方向外側に向かって拡径し、前記外側つば部のテーパ形状の内周面との間で第1のラビリンスシールを形成する第1のテーパ面、を有する、
ことを特徴とする外輪回転形転がり軸受。
この構成によれば、省スペースでシール構造を構成することができ、負荷容量を確保することができる。
【0045】
(3) 前記つば輪の外周面に形成された第1のテーパ面は、前記外輪の外側つば部のテーパ形状の内周面と平行である、
(2)に記載の外輪回転形転がり軸受。
この構成によれば、第1のテーパ面と外側つば部のテーパ形状の内周面との間のテーパ状の微小隙間によって、圧延水の侵入を抑制している。
【0046】
(4) 前記つば輪の外周面は、軸方向外側に設けられた前記第1のテーパ面と、該第1のテーパ面より軸方向内側に設けられる水滴溜まりと、前記水滴溜まりよりも軸方向内側で、前記外側つば部の内周面との間で第2のラビリンスシールを形成するシール面と、有する、(2)に記載の外輪回転形転がり軸受。
この構成によれば、水滴溜まりによって、微小隙間に進入した圧延水を捕捉することができ、また、シール面と、外側つば部の内周面との間の第2のラビリンスシールによって、軸受外部への潤滑油の漏洩を防止できる。
【0047】
(5) 前記水滴溜まりは、前記第1のテーパ面を有するリング部と、軸方向内側に向かって拡径する第2のテーパ面とによって形成される、
(4)に記載の外輪回転形転がり軸受。
この構成によれば、微小隙間に進入した圧延水をより確実に捕捉することができる。
【0048】
(6) 前記シール面は、円筒面である、
(4)に記載の外輪回転形転がり軸受。
この構成によれば、円筒面と外側つば部のテーパ形状の内周面との間の第2のラビリンスシールによって、軸受外部への潤滑油の漏洩を防止できる。
【0049】
(7) 前記水滴溜まりの径方向内側部には、軸方向外側に向けて軸方向に貫通する、又は、円周方向の一部に径方向外側に向けて切り欠かれた水抜き用の通路が形成される、
(4)に記載の外輪回転形転がり軸受。
この構成によれば、水滴溜まりに捕捉された圧延水を外部に排出することができる。
【0050】
(8) 前記つば輪は、単一部材によって一体に形成されている、
(2)に記載の外輪回転形転がり軸受。
この構成によれば、シール構造を構成するためのつば輪を取り扱い性良く形成することができる。
【0051】
(9) 前記つば輪は、前記第2のテーパ面を有するつば輪本体と、前記つば輪本体の軸方向外側に設けられ、前記第1のテーパ面を有する円盤状部材と、を有する、
(4)に記載の外輪回転形転がり軸受。
この構成によれば、シール構造を構成するためのつば輪を取り扱い性良く形成することができる。
【0052】
(10) 前記つば輪は、前記第2のテーパ面を有するつば輪本体と、前記つば輪本体に外嵌し、前記第1のテーパ面を有する円盤状部材と、を有する、
(4)に記載の外輪回転形転がり軸受。
この構成によれば、シール構造を構成するためのつば輪を容易に形成することができる。
【0053】
(11) (1)~(10)のいずれかに記載の外輪回転形転がり軸受を有するバックアップロールを備えることを特徴とする圧延機。
この構成によれば、省スペースでシール構造を構成することができ、負荷容量を確保することができるバックアップロールを備えた圧延機を設けることができる。
【符号の説明】
【0054】
10 外輪回転形転がり軸受
12 内輪
12a 内輪軌道面
12b 潤滑孔
14 外輪
14a 外輪軌道面
14c 外側つば部
14c1 外側つば部の内周面
14e 環状凹部
16 転動体
18 保持器
20 つば輪
20a つば輪本体
20b 円盤状部材
21 つば輪の外周面
22,34 リング部
30 第1のテーパ面
31 第2のテーパ面
32 円筒面(シール面)
33 水滴溜まり
40,41 水抜き用の通路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11