(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105066
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】異材接合用アーク溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/23 20060101AFI20240730BHJP
B23K 9/073 20060101ALI20240730BHJP
B23K 9/09 20060101ALI20240730BHJP
B23K 9/02 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B23K9/23 H
B23K9/073 545
B23K9/09
B23K9/02 M
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009614
(22)【出願日】2023-01-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-04-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸田 要
【テーマコード(参考)】
4E001
4E081
4E082
【Fターム(参考)】
4E001AA04
4E001BB08
4E001CA01
4E001CA02
4E001CA03
4E001CB01
4E001DD02
4E001DE04
4E081AA08
4E081BA02
4E081BA08
4E081BA16
4E081BB15
4E081CA08
4E081DA13
4E081DA49
4E082AA04
4E082AB01
4E082BA04
4E082EF07
4E082EF14
4E082EF15
4E082EF16
4E082EF22
4E082JA01
4E082JA02
4E082JA03
(57)【要約】
【課題】鋼板とアルミニウム又はアルミニウム合金板とを接合する異材接合において、溶接能率を低下させることなく、高い継手強度と低スパッタ及び低スマットとを両立させることができる、異材接合用アーク溶接方法を提供する。
【解決手段】異材接合用アーク溶接方法は、アルミニウム合金板11(第1部材)に、第1穴12aを有する鋼板12(第2部材)を重ねて配置し、アーク溶接により第1穴12aを介してアルミニウム合金板11の表面を溶融し、第1穴12aを充填する溶接金属を形成するとともに、鋼板12の溶接面12c上に第1穴12aの直径よりも大きい直径を有する余盛を形成し、アルミニウム合金板11と鋼板12とを接合する。このとき、パルスアーク溶接を実施する期間と、溶接ワイヤの正送給と逆送給とを交互に行なう短絡移行アーク溶接を実施する期間とを交互に切り替える溶接方法を使用し、切り替え周波数fを7Hz以下とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金製の第1部材と、鋼製の第2部材と、を接合する異材接合用アーク溶接方法であって、
前記第2部材に、その板厚方向に貫通する第1穴を設ける第1穴形成工程と、
前記第1部材に前記第2部材を重ねて配置する母材配置工程と、
前記第2部材における前記第1部材と対向する面と反対側の面を溶接面とした場合に、アーク溶接により前記第1穴を介して前記第1部材の表面を溶融し、前記第1穴を充填する溶接金属を形成するとともに、前記第2部材の溶接面上に前記第1穴の直径よりも大きい直径を有する接合頭部を形成し、前記第1部材と前記第2部材とを接合する接合工程と、を有し、
前記接合工程において、パルスアーク溶接を実施する期間と、溶接ワイヤの正送給と逆送給とを交互に行なう短絡移行アーク溶接を実施する期間とを交互に切り替える溶接方法を使用し、
連続した前記パルスアーク溶接の溶接時間をtpとし、連続した前記短絡移行アーク溶接の溶接時間をtwとし、単位時間あたりに繰り返される一連の前記パルスアーク溶接及び前記短絡移行アーク溶接の回数を切り替え周波数fとした場合に、
式(1):f=1/(tp+tw)
により算出される切り替え周波数fが7Hz以下であることを特徴とする、異材接合用アーク溶接方法。
【請求項2】
前記切り替え周波数fが0.5Hz以上であることを特徴とする、請求項1に記載の異材接合用アーク溶接方法。
【請求項3】
連続した前記パルスアーク溶接の溶接時間と連続した前記短絡移行アーク溶接の溶接時間との合計時間に対する、前記パルスアーク溶接の溶接時間の割合をパルス比率rpとした場合に、
式(2):rp={tp/(tp+tw)}×100
により算出されるパルス比率rpが5%以上90%以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の異材接合用アーク溶接方法。
【請求項4】
前記第1部材と前記溶接金属とは、同一の成分若しくは互いに異なる成分を有するアルミニウム又はアルミニウム合金からなり、
前記第1部材及び前記溶接金属の少なくとも一方は、マグネシウムを含有していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の異材接合用アーク溶接方法。
【請求項5】
前記第1部材と前記溶接金属とは、同一の成分若しくは互いに異なる成分を有するアルミニウム又はアルミニウム合金からなり、
前記第1部材及び前記溶接金属の少なくとも一方は、マグネシウムを含有していることを特徴とする、請求項3に記載の異材接合用アーク溶接方法。
【請求項6】
前記第1穴形成工程と前記接合工程との間に、前記第1穴に、アルミニウム又はアルミニウム合金製の接合補助部材を挿入する工程を有し、
前記接合補助部材は、前記第1穴が貫通する方向と略同一の方向に貫通する第2穴を有し、
前記接合工程は、前記接合補助部材の前記第2穴を介して前記第1部材の表面の少なくとも一部と前記接合補助部材の少なくとも一部をアーク溶接により溶融する工程を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の異材接合用アーク溶接方法。
【請求項7】
前記第1穴形成工程と前記接合工程との間に、前記第1穴に、アルミニウム又はアルミニウム合金製の接合補助部材を挿入する工程を有し、
前記接合補助部材は、前記第1穴が貫通する方向と略同一の方向に貫通する第2穴を有し、
前記接合工程は、前記接合補助部材の前記第2穴を介して前記第1部材の表面の少なくとも一部と前記接合補助部材の少なくとも一部をアーク溶接により溶融する工程を有することを特徴とする、請求項3に記載の異材接合用アーク溶接方法。
【請求項8】
前記第1穴形成工程と前記接合工程との間に、前記第1穴に、アルミニウム又はアルミニウム合金製の接合補助部材を挿入する工程を有し、
前記接合補助部材は、前記第1穴が貫通する方向と略同一の方向に貫通する第2穴を有し、
前記接合工程は、前記接合補助部材の前記第2穴を介して前記第1部材の表面の少なくとも一部と前記接合補助部材の少なくとも一部をアーク溶接により溶融する工程を有することを特徴とする、請求項4に記載の異材接合用アーク溶接方法。
【請求項9】
前記第1穴形成工程と前記接合工程との間に、前記第1穴に、アルミニウム又はアルミニウム合金製の接合補助部材を挿入する工程を有し、
前記接合補助部材は、前記第1穴が貫通する方向と略同一の方向に貫通する第2穴を有し、
前記接合工程は、前記接合補助部材の前記第2穴を介して前記第1部材の表面の少なくとも一部と前記接合補助部材の少なくとも一部をアーク溶接により溶融する工程を有することを特徴とする、請求項5に記載の異材接合用アーク溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異材接合用アーク溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両における乗員の安全性向上が求められており、係る目的のために車体の強度を向上させてきた。他方、地球温暖化問題等の深刻化を背景に、自動車の燃費改善の動きが加速している。燃費改善には車体の軽量化が有効であることが知られている。
【0003】
しかし、輸送機器の主要材料の全てを軽量素材に置換すると、高コスト化や強度不足になる、といった課題がある。この解決策として、鋼と軽量素材を適材適所に組み合わせて溶接する、異種金属MIG(Metal Inert Gas)アークスポット溶接(以下、DASW(Dissimilar metals Arc Spot Welding)ということがある。)により接合する方法が考案されている。
【0004】
ところで、アルミニウム又はアルミニウム合金(以下、単にアルミニウム合金ということがある)からなる部材をアーク溶接する際に、特に薄板に対しては、パルスアーク溶接(以下、単にパルスということがある)や、ワイヤの正逆送給を用いた短絡移行アーク溶接(以下、ワイヤ送給制御又は送給制御ということがある)が用いられる。これは、薄板に適した低い電流域において、溶滴移行が不安定になることを抑制するためである。
【0005】
パルスアーク溶接を用いると、平均電流を低く設定した状態で、高いパルスピーク電流を周期的に発生させるため、溶滴移行を安定化できる。しかし、パルス制御を用いると、アーク長が長くなり、すなわちワイヤに懸垂する溶滴と溶融池との距離が長くなり、ワイヤから溶滴が離脱して溶融池に移行する時に、溶滴が溶融池の外に飛び出してスパッタが多く発生することがある。すなわち、パルスの特徴は、高いピーク電流によって溶け込みを確保できる点、及び長く末広がりのアークによって広い余盛形状を得られる点が挙げられるが、スパッタ量とスマット量が多くなる短所がある。
【0006】
一方、近年、よく使用される短絡移行アーク溶接は、短絡を検知してワイヤを逆送させることで溶滴を切る制御法であり、スムースに溶滴移行させることができる。このように、ワイヤの正逆送給を用いた送給制御の特徴は、極薄板に対応した低入熱制御法であるとともに、低スパッタ及び低スマットで溶接を実施することができるが、溶け込みが浅くなるという短所がある。
【0007】
特許文献1には、パルスアーク溶接を行う期間と短絡移行アーク溶接を行う期間とを交互に切り換えて、アルミニウム又は鉄鋼からなる溶接ワイヤを使用して溶接するアーク溶接方法が提案されている。上記特許文献1によると、例えば、パルスアーク溶接の期間の最終パルス周期中に短絡が発生した時点で、短絡移行アーク溶接の期間に切り換えることが記載されている。これにより、短絡期間では送給速度が急峻に変化しても溶接状態は不安定になりにくいので、パルスアーク溶接期間から短絡移行アーク溶接期間への切り換えが円滑に行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1においては、溶接ワイヤの材質について記載されているが、母材については十分に検討されていない。具体的には、鋼材とアルミニウム合金材とを異材接合しようとすると、接合方法及び条件によっては、スパッタ及びスマットが発生することがある。接合後の継手の表面にスパッタやスマットが付着すると、外観が低下したり、後工程の電着塗装皮膜が形成されにくい等の問題点が生じる。したがって、鋼材とアルミニウム合金材との異材溶接においても、スパッタ及びスマットをより一層低減する技術が要求される。
【0010】
さらに、アルミニウム合金材と鋼材との異材接合においては、高い継手強度も要求される。アルミニウム合金材にアルミニウム合金からなる溶接金属を形成して、高い継手強度を得るには、アルミニウム合金材と溶接金属との溶融界面積が大きいことが必要である。このため、このような母材の溶接方法としては、溶け込みが得やすいパルスが適しているが、上述のとおり、スパッタ及びスマットが増加し、外観及び電着塗装皮膜の形成性の観点から好ましくない。
【0011】
一方、低スパッタ及び低スマットを実現するためには、短絡移行アーク溶接が好適であるが、短絡移行アーク溶接は低入熱であるため、溶融界面積が小さくなり、十分な継手強度を得ることができない。
【0012】
パルス溶接のみで異材接合を実施する場合に、低電流とするとともにアークタイムを長期間化することにより、スパッタ及びスマットを低減できることが推測される。また、短絡移行アーク溶接のみで異材接合を実施する場合に、アークタイムを長期間化することにより、溶融界面積を確保して継手強度を向上できることが推測される。しかし、上記いずれの方法を採用した場合であっても、溶接能率が低下し、実用に適さない。また、短絡移行アーク溶接において、溶接能率を向上させるために高電流化してワイヤ送給速度を増加させようとしても、正逆送給が追い付かないため、ワイヤ送給速度を増加させることは困難である。
【0013】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、鋼板とアルミニウム又はアルミニウム合金板とを接合する異材接合において、溶接能率を低下させることなく、高い継手強度と低スパッタ及び低スマットとを両立させることができる、異材接合用アーク溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の上記目的は、異材接合用アーク溶接方法に係る下記(1)の構成により達成される。
【0015】
(1) アルミニウム又はアルミニウム合金製の第1部材と、鋼製の第2部材と、を接合する異材接合用アーク溶接方法であって、
前記第2部材に、その板厚方向に貫通する第1穴を設ける第1穴形成工程と、
前記第1部材に前記第2部材を重ねて配置する母材配置工程と、
前記第2部材における前記第1部材と対向する面と反対側の面を溶接面とした場合に、アーク溶接により前記第1穴を介して前記第1部材の表面を溶融し、前記第1穴を充填する溶接金属を形成するとともに、前記第2部材の溶接面上に前記第1穴の直径よりも大きい直径を有する接合頭部を形成し、前記第1部材と前記第2部材とを接合する接合工程と、を有し、
前記接合工程において、パルスアーク溶接を実施する期間と、溶接ワイヤの正送給と逆送給とを交互に行なう短絡移行アーク溶接を実施する期間とを交互に切り替える溶接方法を使用し、
連続した前記パルスアーク溶接の溶接時間をtpとし、連続した前記短絡移行アーク溶接の溶接時間をtwとし、単位時間あたりに繰り返される一連の前記パルスアーク溶接及び前記短絡移行アーク溶接の回数を切り替え周波数fとした場合に、
式(1):f=1/(tp+tw)
により算出される切り替え周波数fが7Hz以下であることを特徴とする、異材接合用アーク溶接方法。
【0016】
また、異材接合用アーク溶接方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の(2)~(5)に関する。
【0017】
(2) 前記切り替え周波数fが0.5Hz以上であることを特徴とする、(1)に記載の異材接合用アーク溶接方法。
【0018】
(3) 連続した前記パルスアーク溶接の溶接時間と連続した前記短絡移行アーク溶接の溶接時間との合計時間に対する、前記パルスアーク溶接の溶接時間の割合をパルス比率rpとした場合に、
式(2):rp={tp/(tp+tw)}×100
により算出されるパルス比率rpが5%以上90%以下であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の異材接合用アーク溶接方法。
【0019】
(4) 前記第1部材と前記溶接金属とは、同一の成分若しくは互いに異なる成分を有するアルミニウム又はアルミニウム合金からなり、
前記第1部材及び前記溶接金属の少なくとも一方は、マグネシウムを含有していることを特徴とする、(1)~(3)のいずれか1つに記載の異材接合用アーク溶接方法。
【0020】
(5) 前記第1穴形成工程と前記接合工程との間に、前記第1穴に、アルミニウム又はアルミニウム合金製の接合補助部材を挿入する工程を有し、
前記接合補助部材は、前記第1穴が貫通する方向と略同一の方向に貫通する第2穴を有し、
前記接合工程は、前記接合補助部材の前記第2穴を介して前記第1部材の表面の少なくとも一部と前記接合補助部材の少なくとも一部をアーク溶接により溶融する工程を有することを特徴とする、(1)~(4)のいずれか1つに記載の異材接合用アーク溶接方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、鋼板とアルミニウム又はアルミニウム合金板とを接合する異材接合において、溶接能率を低下させることなく、高い継手強度と低スパッタ及び低スマットとを両立させることができる、異材接合用アーク溶接方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1A】
図1Aは、本発明の第1実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法を工程順に示す図であり、第1穴形成工程及び母材配置工程を示す断面図である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の第1実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法を工程順に示す図であり、接合工程を示す断面図である。
【
図1C】
図1Cは、本発明の第1実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法を工程順に示す図であり、得られた溶接金属の様子を示す断面図である。
【
図2】
図2は、縦軸を電流値とし、横軸を時間とした場合の、パルスアーク溶接及び短絡移行アーク溶接時の電流値の様子を概略的に示すグラフ図である。
【
図3】
図3は、本発明の第2実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法の一工程を示す断面図である。
【
図4】
図4は、比較例及び発明例のスマットの様子を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本願発明者は、溶接能率を低下させることなく、高い継手強度と低スパッタ及び低スマットとを両立させることができる技術を確立するため、鋭意検討を行った。その結果、アルミニウム合金板を下板とし、穴を有する鋼板を上板として、穴を介してアルミニウム合金板の表面を溶融させるとともに穴を充填する溶接金属を形成する溶接方法において、所定の条件下でパルスアーク溶接と短絡移行アーク溶接とを交互に切り替えることにより、上記課題を解決することができることを見出した。
【0024】
以下、本発明の実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法について、図面に基づいて詳細に説明する。本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0025】
[異材接合用アーク溶接方法]
〔第1実施形態〕
図1A~
図1Cは、本発明の第1実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法を工程順に示す断面図である。本実施形態は、アルミニウム又はアルミニウム合金製の第1部材(アルミニウム合金板11)と、鋼製の第2部材(鋼板12)とを接合するアーク溶接方法である。
【0026】
<第1穴形成工程>
図1Aに示すように、まず、鋼板12に、その板厚方向に貫通する第1穴12aを形成する。
【0027】
<母材配置工程>
次に、アルミニウム合金板11の上に鋼板12を重ねて配置する。なお、本実施形態において、鋼板12の上面、すなわち、鋼板12におけるアルミニウム合金板11に対向する面と反対側の面を溶接面12cとする。
【0028】
<接合工程>
その後、
図1Bに示すように、第1穴12aの上方に溶接トーチ14を配置し、シールドガス16を流しながら溶接トーチ14に保持されたアルミニウム合金製の溶接ワイヤ13とアルミニウム合金板11との間を通電してアーク15を発生させる。このとき、本実施形態においては、パルスアーク溶接を実施する期間と、溶接ワイヤの正送給と逆送給とを交互に行なう短絡移行アーク溶接を実施する期間とを交互に切り替える。以下、本実施形態に係るアーク溶接を、パルス-送給制御交互アーク溶接ということがある。具体的なパルス-送給制御交互アーク溶接の条件について、以下に詳細に説明する。
【0029】
(切り替え周波数f:7Hz以下)
図2は、縦軸を電流値とし、横軸を時間とした場合の、パルスアーク溶接及び短絡移行アーク溶接時の電流値の様子を概略的に示すグラフ図である。本実施形態においては、単位時間あたりに繰り返される一連の前記パルスアーク溶接及び前記短絡移行アーク溶接の回数を適切に制御することにより、広い溶融面積とスパッタ及びスマットの低減との両立を図っている。具体的には、
図2に示すように、連続したパルスアーク溶接の溶接時間をtpとし、連続した短絡移行アーク溶接の溶接時間をtwとした場合の、下記式(1)で表される切り替え周波数fの値を制御している。
【0030】
式(1):f=1/(tp+tw)
【0031】
上記式(1)に示されるように、切り替え周波数fとは、単位時間あたりに繰り返される一連のパルスアーク溶接及び短絡移行アーク溶接の回数を表す。切り替え周波数fが7Hzを超えると、切り替え時に発生する低電流の期間が増加し、電流の平均値が低下するため、界面の溶融量が小さくなってしまう。また、切り替えの頻度が高くなり、各溶接方法が安定する前に他の溶接方法に切り替わってしまうため、アークが安定せずスパッタが増加すると考えられる。したがって、切り替え周波数fは7Hz以下とし、6Hz以下とすることが好ましい。
【0032】
一方、切り替え周波数fの下限は特に限定しないが、0.5Hz以上であると、各溶接方法により連続して溶接される期間が長くなりすぎず、スパッタ及びスマットの増加を抑制することができるとともに、継手強度も維持することができる。したがって、切り替え周波数fは、0.5Hz以上とすることが好ましく、1.0Hz以上とすることがより好ましい。
【0033】
(パルス比率rp:5%以上90%以下)
本実施形態においては、パルス-送給制御交互アーク溶接を実施することにより、広い溶融面積とスパッタ及びスマットの低減との両立を図っている。具体的には、下記式(2)で表されるパルス比率rpの好ましい値を規定している。
【0034】
式(2):rp={tp/(tp+tw)}×100
【0035】
上記式(2)に示されるように、パルス比率rpとは、連続したパルスアーク溶接の溶接時間tpと連続した短絡移行アーク溶接の溶接時間twとの合計時間に対する、パルスアーク溶接の溶接時間の割合を表す。パルス比率rpが5%以上であると、パルスアーク溶接によって溶融界面積を確保する効果が得られるため、良好な継手強度を得ることができる。したがって、パルス比率rpは5%以上であることが好ましい。また、パルス比率の増加にともなって、継手強度をより一層向上させることができるため、パルス比率rpは15%以上であることがより好ましく、35%以上であることがさらに好ましい。
【0036】
一方、パルス比率rpが90%以下であると、短絡移行アーク溶接の時間を確保することができ、これによりスパッタ及びスマットの発生を低減することができる。したがって、パルス比率rpは90%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましい。
【0037】
上記のとおり、切り替え周波数fを制御しつつ、パルス-送給制御交互アーク溶接を実施して、
図1Cに示すように、第1穴12aを介してアルミニウム合金板11の少なくとも表面を溶融し、第1穴12aを充填する溶接金属18を形成する。その後、アーク溶接を続けることによって、鋼板12の溶接面12c上に、第1穴12aの直径よりも大きい直径を有する余盛(接合頭部)18aを形成する。このようにして、アルミニウム合金板11と鋼板12とを接合する。
【0038】
上記第1実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法によると、アルミニウム合金板11及び溶接ワイヤ13は、ともにアルミニウム合金からなるものであるため、溶接金属18はアルミニウム合金板11に強固に接合される。また、溶接金属18は第1穴12aよりも大きい余盛18aを有するため、鋼板12は余盛18aとアルミニウム合金板11との間で挟持され、機械的に固定される。したがって、アルミニウム合金板11と鋼板12とをアーク溶接により接合することができる。
【0039】
また、本実施形態においては、接合工程において、切り替え周波数を制御しつつ、パルス-送給制御交互アーク溶接を実施している。したがって、溶接能率を低下させることなく、パルスアーク溶接による継手強度の向上と、短絡移行アーク溶接によるスパッタ及びスマットの低減との両方を実現することができる。また、パルス比率を変化させることにより、継手強度とスパッタ及びスマットの発生量との比率が変化するため、必要とされる継手の特性に応じて、パルス比率を変化させて調整することができる。さらに、本実施形態によると、鋼材同士を接合する場合と比較して継手の軽量化を実現することができ、アルミニウム合金材同士を接合する場合と比較して継手強度を向上させることができる。その結果、本実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法を使用して、自動車等の車体を製造した場合に、燃費及び安全性を向上させることができる。
【0040】
<第2実施形態>
図3は、本発明の第2実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法の一工程を示す断面図である。
図3に示す第2実施形態において、
図1Bに示す第1実施形態と同一物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略又は簡略化する。
【0041】
まず、上記第1実施形態と同様に、第1穴形成工程及び母材配置工程を実施する。このとき、本実施形態においては、
図3に示すように、鋼板12の第1穴12aに接合補助部材20を挿入する。接合補助部材20は、例えばアルミニウム合金製であり、第1穴12aに挿入可能な外径を有する胴部20aと、胴部20aに連続して形成され、第1穴12aよりも大きい外径を有する頭部20bとを有する。また、接合補助部材20は、第1穴12aに挿入された状態で、第1穴12aが貫通する方向と略同一の方向に貫通する第2穴20cが形成されている。
【0042】
(接合工程)
その後、接合補助部材20の上方に溶接トーチを配置し、パルス-送給制御交互アーク溶接を実施する。アーク溶接の条件は、上述のとおりとする。これにより、接合補助部材20の第2穴20cを介してアルミニウム合金板11の表面の少なくとも一部と、接合補助部材20の少なくとも一部とをアーク溶接により溶融し、第2穴20cを充填する溶接金属18を形成する。
【0043】
このように構成された第2実施形態によると、接合補助部材20が頭部20bを有しており、頭部20bは第1穴12aよりも大きい直径を有している。したがって、第1実施形態の余盛と同様に、第2穴20cに溶接金属が充填されることにより接合頭部が形成され、鋼板12は接合頭部とアルミニウム合金板11との間で挟持されて、機械的に固定される。したがって、アルミニウム合金板11と鋼板12とをアーク溶接により接合することができる。
【0044】
また、上記第1実施形態と同様に、パルス-送給制御交互アーク溶接を実施しているため、接合補助部材20を用いた溶接であっても、継手強度の向上と、短絡移行アーク溶接によるスパッタ及びスマットの低減との両方を実現することができる。
【0045】
なお、接合補助部材20を使用する場合に、接合補助部材20を挿入するタイミングは、第1穴形成工程と接合工程との間であれば特に限定されない。
【0046】
以下、本発明の実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法において使用することができる母材及び溶接ワイヤについて詳細に説明する。
【0047】
(第1部材)
下板となる第1部材としては、アルミニウム又はアルミニウム合金製の部材であれば特に限定されず、要求される特性に応じて適宜選択することができる。第1部材として、具体的には、1000系(純アルミ系)や5000系(Al-Mg系)、6000系(Al-Mg-Si系)の合金板や、押出材、ダイキャスト材等を使用することができる。
なお、本実施形態において低減を図っているスマットは、第1部材及び溶接ワイヤの少なくとも一方に含有されたマグネシウムが蒸発凝固して微粒子となり、この微粒子が酸化して母材に付着したものが主であると考えられる。したがって、溶接入熱が大きいほどスマットが発生しやすいと考えられる。また、スパッタは、アーク溶接時に飛散する微粒子(アルミニウム合金粒子)であり、第1部材や溶接ワイヤ中にマグネシウムが含有されていると、スマットの供給源にもなり得る。本発明の実施形態に係る異材接合用アーク溶接方法は、スパッタ及びスマットが発生しやすい溶接に好適に使用することができる。言い換えると、第1部材及び溶接金属の少なくとも一方がマグネシウムを含有している場合に、スパッタ及びスマットを効果的に低減することができる本発明の実施形態に係る溶接方法を使用することが好ましい。
【0048】
(第2部材)
上板となる第2部材としては、鋼製の部材であれば特に限定されず、要求される特性に応じて適宜選択することができる。例えば、SPCCなどの冷間圧延鋼板や高張力鋼板、ホットスタンプ用鋼板、熱間圧延鋼板、SUS304、SUS430のようなステンレス鋼板、SS400のような一般構造用圧延鋼材が挙げられる。
【0049】
第2部材に形成する第1穴の形状及びサイズは特に限定されない。具体的には、一般的に穴を利用したアーク溶接が可能である形状及びサイズで第1穴を形成すればよく、一方向に延びる形状等であってもよい。
【0050】
(溶接ワイヤ)
本発明の実施形態においては、アルミニウム又はアルミニウム合金製の溶接ワイヤを使用することができ、これにより、得られる溶接金属とアルミニウム又はアルミニウム合金製の第1部材とを強固に接合することができる。ただし、溶接ワイヤと第1部材とは完全に同一の成分であってもよいし、互いに異なる成分を有するアルミニウム又はアルミニウム合金からなるものであってもよい。したがって、溶接ワイヤと第1部材とが溶融して、得られる溶接金属が第1部材に所望の強度で接合できればよく、溶接金属と第1部材とは、同一の成分であっても互いに異なる成分であってもよい。
なお、上述したように、溶接ワイヤがマグネシウムを含有している場合に、スパッタ及びスマットを効果的に低減することができる本発明の実施形態に係る溶接方法を使用することが好ましい。
【0051】
(その他の溶接条件)
本発明の実施形態において、上記切り替え周波数f及びパルス比率rp以外の、シールドガスの種類及び流量、ワイヤ送給速度、アークタイム等の溶接条件については特に限定されず、通常のアーク溶接方法と同様の条件を適用することができる。
【0052】
[異材接合継手]
異材接合継手は、本発明に係る異材接合用アーク溶接方法により形成されるものである。異材接合用アーク溶接方法の具体例は上述のとおりであるが、異材接合用アーク溶接方法としては上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【実施例0053】
以下に示すように、アルミニウム合金板と鋼板とを種々の条件でアーク溶接を実施することにより異材接合継手を作製し、得られた異材接合継手の継手強度及びスマット量を評価した。
【0054】
[異材接合継手の作成]
まず、
図1Aに示すように、第1部材(下板)としてアルミニウム合金板11を使用し、第2部材(上板)として第1穴12aが形成された鋼板12を使用して、アルミニウム合金板11の上に鋼板12を重ねて配置した。次に、
図1Bに示すように、アルミニウム合金製の溶接ワイヤを使用して、第1穴12aの中心を狙って種々の溶接条件でガスシールドアーク溶接を実施した。このとき、鋼板12の板厚とアルミニウム合金板11の板厚が共通の組み合わせとなっているものは、溶着効率が互いに等しくなるように、ワイヤ送給速度を共通とした。これにより、
図1Cに示すように、第1穴12aを充填する溶接金属18を形成するとともに、鋼板12の溶接面12c上に第1穴12aの直径よりも大きい直径を有する余盛18aを形成し、アルミニウム合金板11と鋼板12とを接合して、異材接合継手を得た。
【0055】
使用した鋼板12の種類及び板厚、アルミニウム合金板11の種類及び板厚、パルス比率rp及び切り替え周波数fを下記表1に示し、その他の溶接条件を以下に示す。
【0056】
溶接ワイヤ:JIS Z 3232に規定されたA5356-WY、ワイヤ径1.2mm
シールドガスの種類、流量:100%Ar、25リットル/分
【0057】
(発明例No.1~4、比較例No.1~4について)
第1穴の直径:5.0mm
ワイヤ送給速度:650(cm/分)
アークタイム:2.0秒
【0058】
(発明例No.5~12、比較例No.5~8について)
第1穴の直径:7.0mm
ワイヤ送給速度:1000(cm/分)
アークタイム:2.0秒
【0059】
[継手の評価]
(継手強度)
得られた溶接継手から試験片を採取し、JIS Z 3136に準拠して、引張せん断試験を実施し、引張せん断強さ(TSS:Tensile Shear Strength)を測定した。継手強度の評価基準としては、共通の条件下において、パルス比率0%(短絡移行比率100%)の引張せん断強さ(基準強さ)よりも高い値となったものを良好(〇)とし、基準強さ以下の値となったものを不良(×)とした。
【0060】
(スマット量)
得られた溶接継手の溶接面を写真撮影し、得られた画像を二値化することにより溶接面に付着したスマットの面積を算出した。なお、スマットは、溶接ワイヤ中のMgが蒸発凝固して形成された微粒子が酸化したものであると考えられ、スパッタは、アーク溶接時に飛散する微粒子であり、スマットの供給源にもなり得ると考えられる。したがって、スマット付着量はスパッタ量にも影響されると推測されるため、測定が容易なスマット付着量を上記方法により算出することにより、スパッタ及びスマットの発生量を評価することができる。スマット量の評価基準としては、共通の条件下において、パルス比率100%(短絡移行比率0%)のスマット付着量(基準付着量)よりも小さい値となったものを良好(〇)とし、基準付着量以上の値となったものを不良(×)とした。
【0061】
引張せん断強さ及びスマット付着面積の測定結果、並びに継手強度及びスマット量の評価結果を下記表1に併せて示す。
【0062】
【0063】
上記表1に示すように、発明例No.1~4、及び比較例No.1~4は、母材の条件は同一であって、溶接条件が互いに異なるものである。具体的に、発明例No.1~4は、パルス-送給制御交互アーク溶接を実施し、切り替え周波数fを7Hz以下としている。したがって、発明例No.1~4は、比較例No.1の引張せん断強さ(同一条件の基準強さ)と比較して高い値を得ることができ、また、比較例No.2のスマット付着量(同一条件の基準付着量)と比較して低い値を得ることができた。比較例No.3及び4は、切り替え周波数fが本発明で規定する範囲の上限を超えているため、入熱量が小さくなり、継手強度が低下した。
【0064】
図4は、比較例及び発明例のスマットの様子を示す図面代用写真である。
図4に示すように、パルス比率を50%とした発明例No.4は、パルス比率が0%である比較例No.1と比較して、継手強度が向上し、パルス比率が100%である比較例No.2と比較して、スマット付着面積が低減された。このように、本発明に係る異材接合用アーク溶接方法を用いると、継手強度及びスマット量がバランスよく良好な異材接合継手を得ることができた。
【0065】
発明例No.5~8と、比較例No.5及び6とは、母材の条件は同一であって、溶接条件が互いに異なるものである。具体的に、発明例No.5~8は、パルス-送給制御交互アーク溶接を実施し、切り替え周波数fを7Hz以下としている。したがって、発明例No.5~8は、比較例No.5の引張せん断強さ(同一条件の基準強さ)と比較して高い値を得ることができ、また、比較例No.6のスマット付着面積(同一条件の基準付着量)と比較して低い値を得ることができた。なお、発明例No.5~8は、切り替え周波数fを5Hzに固定したうえでパルス比率rpを5%~90%の間で変化させている。その結果、パルス比率rpを上昇させるに従って、概ね引張せん断強さが高くなり、パルス比率rpを低下させるに従って、スマット付着面積が減少することが示された。
【0066】
発明例No.9~12と、比較例No.7及び8とは、母材の条件は同一であって、溶接条件が互いに異なるものである。具体的に、発明例No.9~12は、パルス-送給制御交互アーク溶接を実施し、切り替え周波数fを7Hz以下としている。したがって、発明例No.9~12は、比較例No.7の引張せん断強さ(同一条件の基準強さ)と比較して高い値を得ることができ、また、比較例No.8のスマット付着面積(同一条件の基準付着量)と比較して低い値を得ることができた。なお、発明例No.9~12は、切り替え周波数fを5Hzに固定したうえでパルス比率rpを5%~70%の間で変化させている。その結果、パルス比率rpを上昇させるに従ってし、概ね引張せん断強さが高くなり、パルス比率rpを低下させるに従って、スマット付着面積が減少することが示された。