(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105071
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】自動二輪車用タイヤセット
(51)【国際特許分類】
B60C 11/03 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
B60C11/03 E
B60C11/03 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009621
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】大谷 匡史
(72)【発明者】
【氏名】森村 亮介
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB06
3D131BC13
3D131BC20
3D131BC34
3D131CB07
3D131EA08U
3D131EB03U
3D131EB52U
3D131EB52X
3D131EB53U
3D131EB63U
3D131EB64U
3D131EB66U
3D131EB66X
3D131EB67U
3D131EB68U
(57)【要約】 (修正有)
【課題】排水性能を維持しつつ耐偏摩耗性能をさらに高めることができる自動二輪車用タイヤセットを提供する。
【解決手段】自動二輪車用タイヤセットSである。前輪用タイヤ及び後輪用タイヤS2のそれぞれには、複数の傾斜溝3が設けられている。各傾斜溝3は、クラウン領域Crを延びる第1部分11と、ショルダー領域Shを延びる第2部分12と、第1部分11と第2部分12とをつなぐ第3部分13とを含んでいる。第3部分13は、第1部分11及び第2部分12よりも小さい溝幅を有している。第1部分11、第2部分12及び第3部分13は、タイヤ周方向に対して同じ方向に傾斜している。タイヤ回転方向Rにより、後輪用タイヤS2の各傾斜溝3は、第1部分11から第3部分12に向かって接地する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪用タイヤ及び後輪用タイヤからなる自動二輪車用タイヤセットであって、
前記前輪用タイヤ及び前記後輪用タイヤのそれぞれは、トレッド部に、タイヤ周方向に対して傾斜した複数の傾斜溝が設けられており、
前記複数の傾斜溝のそれぞれは、クラウン領域を延びる第1部分と、ショルダー領域を延びる第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とをつなぐ第3部分とを含み、
前記第3部分は、前記第1部分及び前記第2部分よりも小さい溝幅を有し、
前記第1部分、前記第2部分及び前記第3部分は、タイヤ周方向に対して同じ方向に傾斜しており、
前記後輪用タイヤの前記トレッド部は、タイヤ回転方向が指定されており、
前記タイヤ回転方向により、前記後輪用タイヤの前記複数の傾斜溝のそれぞれは、前記第1部分から前記第3部分に向かって接地する、
自動二輪車用タイヤセット。
【請求項2】
前記第3部分は、前記第1部分と繋がる内側端を含み、
前記内側端とタイヤ赤道との間のトレッド踏面に沿った最短距離は、トレッド接地幅の30%~55%である、請求項1記載の自動二輪車用タイヤセット。
【請求項3】
前記トレッド部を平面に展開したトレッド平面視において、
前記第3部分は、直線状に延びている、請求項1又は2に記載の自動二輪車用タイヤセット。
【請求項4】
前記トレッド部を平面に展開したトレッド平面視において、
前記第3部分は、曲線状に延びている、請求項1又は2に記載の自動二輪車用タイヤセット。
【請求項5】
前記後輪用タイヤの前記複数の傾斜溝のそれぞれにおいて、
前記第3部分は、前記内側端から前記第2部分に向かって溝幅が小さくなる第1テーパ部と、一定の溝幅で延びる等幅部とを含み、
前記等幅部の溝幅中心線を前記第1部分に延長した仮想線は、前記第1部分の溝幅中心線よりもタイヤ軸方向の外側に位置する、請求項2に記載の自動二輪車用タイヤセット。
【請求項6】
前記第3部分は、前記第2部分と繋がる外側端から前記第1部分に向かって溝幅が小さくなる第2テーパ部を含む、請求項5に記載の自動二輪車用タイヤセット。
【請求項7】
前記等幅部の溝幅中心線を前記第2部分に延長した仮想線は、前記第2部分の溝幅中心線よりもタイヤ軸方向の外側に位置する、請求項6に記載の自動二輪車用タイヤセット。
【請求項8】
溝深さに関して、前記第3部分は、前記第1部分及び前記第2部分の70%~120%である、請求項1又は2に記載の自動二輪車用タイヤセット。
【請求項9】
溝幅に関して、前記第3部分は、前記第1部分及び前記第2部分の55%以下である、請求項1又は2に記載の自動二輪車用タイヤセット。
【請求項10】
前記第3部分のタイヤ軸方向の長さは、トレッド展開幅の7%以上である、請求項1又は2に記載の自動二輪車用タイヤセット。
【請求項11】
トレッド踏面上において、前記第3部分の単位面積当たりの溝容積は、前記第1部分の単位面積当たりの溝容積、及び、前記第2部分の単位面積当たりの溝容積の70%以上である、請求項1又は2に記載の自動二輪車用タイヤセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車用タイヤセットに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、トレッド部に、タイヤ周方向に対して傾斜した複数の傾斜溝が設けられた自動二輪車用のタイヤが記載されている。前記各傾斜溝は、クラウン領域側の第1部分と、ショルダー領域側の第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とをつなぐ第3部分とを含んでいる。前記第3部分は、前記第1部分及び前記第2部分よりも小さい溝幅を有している。このようなタイヤは、排水性能を維持しつつ耐偏摩耗性能を高めることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、排水性能を維持しつつ耐偏摩耗性能をさらに高めることが望まれている。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出なされたもので、排水性能を維持しつつ耐偏摩耗性能をさらに高めることができる自動二輪車用タイヤセットを提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前輪用タイヤ及び後輪用タイヤからなる自動二輪車用タイヤセットであって、前記前輪用タイヤ及び前記後輪用タイヤのそれぞれは、トレッド部に、タイヤ周方向に対して傾斜した複数の傾斜溝が設けられており、前記複数の傾斜溝のそれぞれは、クラウン領域を延びる第1部分と、ショルダー領域を延びる第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とをつなぐ第3部分とを含み、前記第3部分は、前記第1部分及び前記第2部分よりも小さい溝幅を有し、前記第1部分、前記第2部分及び前記第3部分は、タイヤ周方向に対して同じ方向に傾斜しており、前記後輪用タイヤの前記トレッド部は、タイヤ回転方向が指定されており、前記タイヤ回転方向により、前記後輪用タイヤの前記複数の傾斜溝のそれぞれは、前記第1部分から前記第3部分に向かって接地する、自動二輪車用タイヤセットである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の自動二輪車用タイヤセットは、上記の構成を採用したことによって、排水性能を維持しつつ耐偏摩耗性能をさらに高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態を示す前輪用タイヤのトレッド部の平面図である。
【
図2】本発明の一実施形態を示す後輪用タイヤのトレッド部の平面図である。
【
図8】他の実施形態の前輪用タイヤのトレッド部の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。図面は、本発明の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれている。また、複数の実施形態がある場合、明細書を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。
【0010】
図1は、本実施形態の自動二輪車用タイヤセット(以下、単に、「タイヤセット」という)Sの前輪用タイヤS1のトレッド部2を平面に展開した平面図である。
図2は、本実施形態のタイヤセットSの後輪用タイヤS2のトレッド部2を平面に展開した平面図である。前輪用タイヤS1と後輪用タイヤS2とでタイヤセットSが構成される。本明細書では、各タイヤS1、S2のそれぞれを、タイヤ1という場合がある。
【0011】
また、本明細書では、特に断りがない限り、タイヤ1の各部の寸法等は、正規状態において特定される値である。前記「正規状態」とは、タイヤ1が正規リム(図示省略)にリム組みされかつ正規内圧が充填された無負荷の状態である。
【0012】
「正規リム」とは、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0013】
「正規内圧」とは、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0014】
前輪用タイヤS1のトレッド部2は、タイヤ回転方向Rが指定されていない。他方、
図2に示されるように、後輪用タイヤS2のトレッド部2は、タイヤ回転方向Rが指定されている。なお、
図1に示される前輪用タイヤS1のトレッド部2は、タイヤ回転方向Rにより、
図1の上側から下側に向かって接地するのが望ましい。
【0015】
また、
図1及び
図2に示されるように、前輪用タイヤS1及び後輪用タイヤS2のそれぞれは、トレッド部2に、タイヤ周方向に対して傾斜した複数の傾斜溝3が設けられている。複数の傾斜溝3のそれぞれは、クラウン領域Crを延びる第1部分11と、ショルダー領域Shを延びる第2部分12と、第1部分11と第2部分12とをつなぐ第3部分13とを含んでいる。
【0016】
第3部分13は、第1部分11及び第2部分12よりも小さい溝幅Wcを有している。このような第3部分13は、相対的に大きな変形が生じやすい傾斜溝3の長手方向の中央部分の剛性の低下を抑制する。また、第3部分13は、接地時の第1部分11及び第2部分12の主にタイヤ周方向に生じる滑りを抑制する。これにより、耐偏摩耗性能が向上する。
【0017】
第1部分11、第2部分12及び第3部分13は、タイヤ周方向に対して同じ方向に傾斜している。このような傾斜溝3は、排水抵抗が小さくなり、排水性能が向上する。
【0018】
自動二輪車において、後輪用タイヤS2は、主として駆動力の影響を受ける。そして、駆動力と旋回走行時の横力との合力F1が、タイヤ回転方向Rの後着側に向かって、タイヤ赤道Cからトレッド端Te側に傾斜する向きとなる。このため、
図2に示されるように、後輪用タイヤS2において、タイヤ回転方向Rにより、各傾斜溝3は、第1部分11から第3部分13に向かって接地するよう形成されている。これにより、合力F1と傾斜溝3とのそれぞれの向きが同じとなり、傾斜溝3の付近のトレッド剛性が高く維持される。このため、耐偏摩耗性能をさらに高めることができる。また、このような後輪用タイヤS2の各傾斜溝3は、タイヤ回転方向Rに合わせてスムーズに排水することができるので、排水性能も高く維持することができる。
【0019】
また、自動二輪車において、前輪用タイヤS1は、主として制動力の影響を受ける。そして、
図1に示されるように、制動力と旋回走行時の横力との合力F2が、タイヤ回転方向Rの後着側に向かって、トレッド端Teからタイヤ赤道C側に傾斜する向きとなる。このため、本実施形態では、前輪用タイヤS1において、タイヤ回転方向Rにより、各傾斜溝3は、第2部分12から第3部分13に向かって接地するよう形成されている。これにより、合力F2と傾斜溝3とのそれぞれの向きが同じとなり、傾斜溝3付近のトレッド剛性を高く維持することができるので、耐偏摩耗性能をさらに高めることができる。
【0020】
トレッド端Teは、トレッド部2のタイヤ軸方向の外端に相当し、例えば、最大キャンバー角付近での旋回時に接地し得る端である。本明細書では、トレッド部2を平面に展開したときのトレッド端Te、Te間のタイヤ軸方向距離が、トレッド展開幅Txとされる。また、タイヤ赤道Cは、トレッド端Te、Te間の中点である。
【0021】
また、本明細書では、クラウン領域Crは、前記正規状態のタイヤ1を正規荷重でキャンバー角0度で平面に接地させたときに平面に接地する領域である。このクラウン領域Crのタイヤ軸方向の両端Ce、Ce間のタイヤ軸方向の長さがトレッド接地幅TWとされる。また、ショルダー領域Shは、クラウン領域Crとトレッド端Teとの間の領域である。ショルダー領域Shは、タイヤ1にキャンバー角を与えたときに接地する領域である。
【0022】
前記「正規荷重」とは、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば"最大負荷能力"、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。
【0023】
タイヤ1において、傾斜溝3は、例えば、タイヤ赤道Cと一方のトレッド端(図では、右側)Teとの間に配される第1傾斜溝3Aと、タイヤ赤道Cと他方のトレッド端Teとの間に配される第2傾斜溝3Bとを含んでいる。第1傾斜溝3A及び第2傾斜溝3Bは、本実施形態では、タイヤ周方向に交互に配されている。第1傾斜溝3Aと第2傾斜溝3Bとは、例えば、タイヤ赤道Cを介して線対称形状である。
【0024】
傾斜溝3は、タイヤ赤道Cを跨ぐことなく延びている。このような傾斜溝3は、大きな接地圧の作用するタイヤ赤道C上のトレッド剛性の低下を抑制して、耐偏摩耗性能を維持する。耐偏摩耗性能を高めるとともに、排水性能を高く維持するために、傾斜溝3とタイヤ赤道Cとの間の最短距離Lmは、10%以下が望ましく、8%以下がさらに望ましい。
【0025】
図3は、後輪用タイヤS2の傾斜溝3の拡大図である。
図3に代表して示されるように、前輪用タイヤS1及び後輪用タイヤS2において、傾斜溝3は、長手方向に延びる一対の溝縁20を有している。一対の溝縁20は、タイヤ赤道C側の内側溝縁20iと、内側溝縁20iよりもトレッド端Te側に位置する外側溝縁20eとからなる。内側溝縁20iと外側溝縁20eとは、傾斜溝3のタイヤ周方向の両端e1、e2で繋がっている。
【0026】
第3部分13は、第1部分11と繋がる内側端13iと、第2部分12と繋がる外側端13eとを含んでいる。第3部分13は、内側端13iから第2部分12に向かって溝幅が小さくなる第1テーパ部13Aと、一定の溝幅で延びる等幅部13Bとを含んでいる。また、第3部分13は、本実施形態では、外側端13eから第1部分11に向かって溝幅が小さくなる第2テーパ部13Cを含んでいる。等幅部13Bは、長手方向に沿って同じ溝幅となる態様はもちろん、最大溝幅と最小溝幅との差が2mm以下である態様を含んでいる。等幅部13Bは、最大溝幅と最小溝幅との差が1mm以下であるのが望ましい。また、内側端13i及び外側端13eは、傾斜溝3のタイヤ赤道C側の内側溝縁20i上に位置する端である。
【0027】
内側端13iとタイヤ赤道Cとの間のトレッド踏面2aに沿った最短距離Lsは、トレッド接地幅TW(
図1に示す)の30%以上が望ましく、35%以上がさらに望ましく、55%以下が望ましく、50%以下がさらに望ましい。最短距離Lsがトレッド接地幅TWの30%以上であるので、排水のし難いタイヤ赤道C側に第1部分11を位置させて、排水性能を高く維持することができる。最短距離Lsがトレッド接地幅TWの55%以下であるので、内側端13iをトレッドの外径差からすべりが発生しやすい接地幅の外側から遠ざけることができ、偏摩耗の発生を抑えることができる。
【0028】
第3部分13のタイヤ軸方向の長さLtは、トレッド展開幅Tx(
図1に示す)の7%以上が望ましい。このような第3部分13は、ショルダー領域Shのトレッド剛性を高く維持して、優れた耐偏摩耗性能を発揮する。排水性能の低下を抑制することを考慮すると、第3部分13の長さLtは、トレッド展開幅Txの10%以上がさらに望ましく、23%以下が望ましく、20%以下がさらに望ましい。
【0029】
溝幅に関して、第3部分13は、第1部分11及び第2部分12の55%以下が望ましく、45%以下がさらに望ましい。第3部分13の溝幅Wcが第1部分11の溝幅Wa及び第2部分12の溝幅Wbの55%以下であるので、トレッド剛性を高くすることができる。溝幅に関して、第3部分13が第1部分11及び第2部分12よりも過度に小さいと、排水性能が悪化するおそれがある。このため、第3部分13の溝幅Wcは、第1部分11の溝幅Wa及び第2部分12の溝幅Wbの15%以上が望ましく、20%以上がさらに望ましい。第3部分13の溝幅Wcは、例えば、1.2~3.5mmが望ましい。第1部分11の溝幅Wa、第2部分12の溝幅Wb及び第3部分13の溝幅Wcは、それぞれ、長手方向の中点での溝幅である。
【0030】
トレッド踏面2a上において、第3部分13の単位面積当たりの溝容積V3(図示省略)は、第1部分11の単位面積当たりの溝容積V1、及び、第2部分12の単位面積当たりの溝容積V2の70%以上が望ましく、75%以上がさらに望ましい。これにより、第1部分11と第2部分12との間の水のスムーズな行き来が維持される。第3部分13の付近の剛性を高く維持する観点を考慮すると、第3部分13の溝容積V3は、第1部分11の溝容積V1、及び、第2部分12の溝容積V2の120%以下が望ましく、115%以下がさらに望ましい。各単位面積当たりの溝容積(V1、V2及びV3)とは、各部分の溝容積をトレッド踏面2a上での各部分の面積(表面積)で除した値である。
【0031】
図4は、後輪用タイヤS2の傾斜溝3の拡大図である。
図4に代表して示されるように、前輪用タイヤS1及び後輪用タイヤS2において、内側溝縁20iは、第3部分13の等幅部13Bを形成する内側第3縁部21iを含んでいる。外側溝縁20eは、第3部分13の等幅部13Bを形成する外側第3縁部21eを含んでいる。
【0032】
トレッド平面視において、第3部分13は、本実施形態では、直線状に延びている。このような第3部分13は、排水抵抗が小さく排水性能を高く維持するのに役立つ。本明細書では、「直線状」とは、第3部分13の内側第3縁部21i及び外側第3縁部21eが、直線のみで形成されているものだけではなく、例えば、各縁部21i、21eのそれぞれが、曲率半径rが200mmを超える円弧で形成されているものを含む。なお、第3部分13は、例えば、各縁部21i、21eのそれぞれが、曲率半径rが20~200mmの円弧で形成された曲線状に延びていてもよい。
【0033】
第3部分13は、本実施形態では、クラウン領域Crとショルダー領域Shとに跨っている。第3部分13の中点13sは、ショルダー領域Shに位置している。ショルダー領域Shは、クラウン領域Crに比してタイヤ周長が小さく、滑りが生じやすい領域である。このため、ショルダー領域Shの滑りが抑制されて、ショルダー領域Shとクラウン領域Crとの摩耗量の差が小さくなるので、耐偏摩耗性能を高めることができる。
【0034】
傾斜溝3のタイヤ周方向に対する角度θ1は、5度以上が望ましく、7度以上がさらに望ましく、15度以下が望ましく、13度以下がさらに望ましい。傾斜溝3の角度θ1は、傾斜溝3のタイヤ周方向の両端e1、e2を繋ぐ仮想線vaで特定される。
【0035】
図5は、
図2のA-A線断面図である。
図5に示されるように、溝深さに関して、第3部分13は、第1部分11及び第2部分12の70%以上が望ましく、75%以上がさらに望ましく、120%以下が望ましく、115%以下がさらに望ましい。第3部分13の溝深さDcが第1部分11の溝深さDa及び第2部分12の溝深さDbの80%以上及び120%以下であるので、第1部分11、第2部分12及び第3部分13の近傍の剛性の過度の変化を小さくすることができる。このため、耐偏摩耗性能が高まる。第1部分11の溝深さDa及び第2部分12の溝深さDbは、例えば、3.5~9.5mmであるのが望ましい。このような傾斜溝3の溝深さは、前輪用タイヤS1及び後輪用タイヤS2のそれぞれの傾斜溝3に適用される。
【0036】
図6は、
図2の傾斜溝3の拡大図である。
図6には、後輪用タイヤS2の傾斜溝3が示される。一般に、主に駆動力の影響を受ける後輪用タイヤS2は、傾斜溝3において、タイヤ回転方向Rの先着側の溝縁に摩耗が生じやすくなる。本実施形態では、傾斜溝3のタイヤ回転方向Rの先着側の溝縁は、トレッド端Te側の外側溝縁20eである。他方、傾斜溝3のタイヤ回転方向Rの後着側の溝縁は、タイヤ赤道C側の内側溝縁20iである。タイヤ回転方向Rにより、傾斜溝3は、トレッド端Te側の外側溝縁20eからタイヤ赤道C側の内側溝縁20iに向かって接地する。
【0037】
そして、
図6に示されるように、後輪用タイヤS2の各傾斜溝3のそれぞれにおいて、等幅部13Bの溝幅中心線c3を第1部分11に延長した仮想線v1は、本実施形態では、第1部分11の溝幅中心線c1よりもタイヤ軸方向の外側に位置している。これにより、後輪用タイヤS2において、傾斜溝3のトレッド端Te(タイヤ回転方向Rの先着)側の外側溝縁20eに繋がるトレッド陸部の剛性が、傾斜溝3のタイヤ赤道C側の内側溝縁20iに繋がるトレッド陸部の剛性よりも大きく維持される。したがって、後輪用タイヤS2は、耐偏摩耗性能が一層、高められる。また、等幅部13Bの溝幅中心線c3を第2部分12に延長した仮想線v2は、例えば、第2部分12の溝幅中心線c2よりもタイヤ軸方向の外側に位置する。これにより、上述の作用がさらに効果的に発揮される。
【0038】
本実施形態では、後輪用タイヤS2において、傾斜溝3のトレッド端Te側の外側溝縁20eは、屈曲部を有することなく滑らかに延びている。また、傾斜溝3のタイヤ赤道C側の内側溝縁20iは、第3部分13の長手方向の両側に位置する屈曲部Kを含んで延びている。屈曲部Kは、第1テーパ部13A及び第2テーパ部13Cに形成されている。
【0039】
図7は、
図1の傾斜溝3の拡大図である。
図7には、前輪用タイヤS1の傾斜溝3が示される。一般に、主に制動力の影響を受ける前輪用タイヤS1は、傾斜溝3において、タイヤ回転方向Rの後着側の溝縁に摩耗が生じやすくなる。本実施形態では、傾斜溝3の後着側の溝縁は、トレッド端Te側の外側溝縁20eである。他方、傾斜溝3のタイヤ回転方向Rの前着側の溝縁は、タイヤ赤道C側の内側溝縁20iである。タイヤ回転方向Rにより、傾斜溝3は、タイヤ赤道C側の内側溝縁20iからトレッド端Te側の外側溝縁20eに向かって接地する。また、傾斜溝3は、タイヤ回転方向Rにより、第2部分12から第3部分13に向かって接地する。
【0040】
そして、
図7に示されるように、前輪用タイヤS1の各傾斜溝3のそれぞれにおいて、等幅部13Bの溝幅中心線c3を第1部分11に延長した仮想線v3は、本実施形態では、第1部分11の溝幅中心線c1よりもタイヤ軸方向の外側に位置している。これにより、前輪用タイヤS1において、傾斜溝3のトレッド端Te(タイヤ回転方向Rの後着)側の外側溝縁20eに繋がるトレッド陸部の剛性が、傾斜溝3のタイヤ赤道C側の内側溝縁20iに繋がるトレッド陸部の剛性よりも大きく維持される。したがって、前輪用タイヤS1は、耐偏摩耗性能を一層、高めることができる。また、等幅部13Bの溝幅中心線c3を第2部分12に延長した仮想線v4は、例えば、第2部分12の溝幅中心線c2よりもタイヤ軸方向の外側に位置する。これにより、上述の作用がさらに効果的に発揮される。
【0041】
本実施形態では、前輪用タイヤS1において、傾斜溝3のトレッド端Te側の外側溝縁20eは、屈曲部を有することなく滑らかに延びている。また、傾斜溝3のタイヤ赤道C側の内側溝縁20iは、第3部分13の長手方向の両側に位置する屈曲部Kを含んで延びている。屈曲部Kは、第1テーパ部13A及び第2テーパ部13Cに形成されている。
【0042】
図1及び
図2に示されるように、前輪用タイヤS1及び後輪用タイヤS2のそれぞれのトレッド部2には、本実施形態では、第1副傾斜溝4と第2副傾斜溝5とが設けられている。第1副傾斜溝4は、例えば、傾斜溝3よりもタイヤ軸方向の外側に位置している。第2副傾斜溝5は、例えば、第1副傾斜溝4よりもタイヤ軸方向の外側に位置している。
【0043】
第1副傾斜溝4及び第2副傾斜溝5は、それぞれ、傾斜溝3と同じ向きに傾斜している。また、第1副傾斜溝4のトレッド端Te側の溝縁4e、及び、第2副傾斜溝5のトレッド端Te側の溝縁5eは、傾斜溝3のトレッド端Te側の外側溝縁20eと同じように、屈曲部を有することなく滑らかに延びている。また、第1副傾斜溝4のタイヤ赤道C側の溝縁4i、及び、第2副傾斜溝5のタイヤ赤道C側の溝縁5iは、傾斜溝3のタイヤ赤道C側の内側溝縁20iと同じように、屈曲部Kが形成されている。
【0044】
図8は、他の実施形態の前輪用タイヤS1のトレッド部2の平面図である。この実施形態のトレッド部2は、例えば、タイヤ回転方向Rが指定されている。また、トレッド部2は、複数の傾斜溝3が設けられている。この傾斜溝3は、タイヤ回転方向Rにより、第1部分11から第3部分13に向かって接地する。
【0045】
図8に示されるように、前輪用タイヤS1の各傾斜溝3のそれぞれにおいて、等幅部13Bの溝幅中心線c3を第1部分11に延長した仮想線v5は、本実施形態では、第1部分11の溝幅中心線c1よりもタイヤ赤道C側に位置している。これにより、前輪用タイヤS1において、傾斜溝3のタイヤ赤道C(タイヤ回転方向Rの後着)側の内側溝縁20iに繋がるトレッド陸部の剛性が、傾斜溝3のトレッド端Te側の外側溝縁20eに繋がるトレッド陸部の剛性よりも大きく維持される。したがって、前輪用タイヤS1は、耐偏摩耗性能を一層、高めることができる。また、等幅部13Bの溝幅中心線c3を第2部分12に延長した仮想線v6は、例えば、第2部分12の溝幅中心線c2よりもタイヤ軸方向の内側に位置する。これにより、上述の作用がさらに効果的に発揮される。
【0046】
本実施形態では、前輪用タイヤS1において、傾斜溝3のタイヤ赤道C側の内側溝縁20iは、屈曲部を有することなく滑らかに延びている。また、傾斜溝3のトレッド端Te側の外側溝縁20eは、第3部分13の長手方向の両側に位置する屈曲部Kを含んで延びている。屈曲部Kは、第1テーパ部13A及び第2テーパ部13Cに形成されている。
【0047】
以上、本発明の一実施形態の自動二輪車用タイヤセットが詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されることなく、種々の態様に変更して実施され得る。
【実施例0048】
図1又は
図2の基本パターンを有する自動二輪車用タイヤセットが試作され、各試供自動二輪車用タイヤセットの耐偏摩耗性能及びハンドリング性能がテストされた。各試供タイヤの共通仕様やテスト方法は、以下の通りである。
【0049】
<耐偏摩耗性能・ハンドリング性能>
各試供自動二輪車用タイヤセットが、自動二輪車に装着された。テストライダーは、この自動二輪車を乾燥アスファルトのサーキットコースにて走行させた。このときのハンドリングのし易さがテストライダーの官能により評価された。また、走行終了後、傾斜溝の付近の偏摩耗の発生状況がテストライダーの官能により評価された。耐偏摩耗性能の結果は、比較例1の偏摩耗の発生状況を100とする評点で表示され、数値が小さい程、耐偏摩耗性能に優れている。また、ハンドリング性能の結果は、比較例1のハンドリングのし易さを100とする評点で表示され、数値が大きい程、ハンドリング性能に優れていることを示す。
タイヤサイズ:120/70ZR17(前輪)、200/55ZR17(後輪)
リムサイズ:MT3.50×17(前輪)、MT6.00×17(後輪)
内圧:250kPa(前輪)、290kPa(後輪)
排気量:1000cc
走行距離:5000km
平均速度:120km/h
表1の「v1の位置」について、「外側」は、v1がc1よりもタイヤ軸方向の外側に位置することを意味し、「内側」は、v1がc1よりもタイヤ軸方向の内側に位置することを意味し、「同じ」は、v1とc1とが重なることを意味する。
表1の「v2の位置」について、「外側」は、v2がc2よりもタイヤ軸方向の外側に位置することを意味し、「内側」は、v2がc2よりもタイヤ軸方向の内側に位置することを意味し、「同じ」は、v2とc2とが重なることを意味する。
テストの結果が表1に示される。
【0050】
【0051】
テストの結果、実施例のタイヤは、比較例のタイヤに比して、耐偏摩耗性能やハンドリング性能が高められていることが確認できた。また、別途実施された排水性能のテストによって、実施例のタイヤは、比較例のタイヤに比して、排水性能が向上していることが確認された。
【0052】
[付記]
本発明は以下の態様を含む。
【0053】
[本発明1]
前輪用タイヤ及び後輪用タイヤからなる自動二輪車用タイヤセットであって、
前記前輪用タイヤ及び前記後輪用タイヤのそれぞれは、トレッド部に、タイヤ周方向に対して傾斜した複数の傾斜溝が設けられており、
前記複数の傾斜溝のそれぞれは、クラウン領域を延びる第1部分と、ショルダー領域を延びる第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とをつなぐ第3部分とを含み、
前記第3部分は、前記第1部分及び前記第2部分よりも小さい溝幅を有し、
前記第1部分、前記第2部分及び前記第3部分は、タイヤ周方向に対して同じ方向に傾斜しており、
前記後輪用タイヤの前記トレッド部は、タイヤ回転方向が指定されており、
前記タイヤ回転方向により、前記後輪用タイヤの前記複数の傾斜溝のそれぞれは、前記第1部分から前記第3部分に向かって接地する、
自動二輪車用タイヤセット。
[本発明2]
前記第3部分は、前記第1部分と繋がる内側端を含み、
前記内側端とタイヤ赤道との間のトレッド踏面に沿った最短距離は、トレッド接地幅の30%~55%である、本発明1記載の自動二輪車用タイヤセット。
[本発明3]
前記トレッド部を平面に展開したトレッド平面視において、
前記第3部分は、直線状に延びている、本発明1又は2に記載の自動二輪車用タイヤセット。
[本発明4]
前記トレッド部を平面に展開したトレッド平面視において、
前記第3部分は、曲線状に延びている、本発明1又は2に記載の自動二輪車用タイヤセット。
[本発明5]
前記後輪用タイヤの前記複数の傾斜溝のそれぞれにおいて、
前記第3部分は、前記内側端から前記第2部分に向かって溝幅が小さくなる第1テーパ部と、一定の溝幅で延びる等幅部とを含み、
前記等幅部の溝幅中心線を前記第1部分に延長した仮想線は、前記第1部分の溝幅中心線よりもタイヤ軸方向の外側に位置する、本発明2ないし4のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤセット。
[本発明6]
前記第3部分は、前記第2部分と繋がる外側端から前記第1部分に向かって溝幅が小さくなる第2テーパ部を含む、本発明5に記載の自動二輪車用タイヤセット。
[本発明7]
前記等幅部の溝幅中心線を前記第2部分に延長した仮想線は、前記第2部分の溝幅中心線よりもタイヤ軸方向の外側に位置する、本発明5又は6に記載の自動二輪車用タイヤセット。
[本発明8]
溝深さに関して、前記第3部分は、前記第1部分及び前記第2部分の70%~120%である、本発明1ないし7のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤセット。
[本発明9]
溝幅に関して、前記第3部分は、前記第1部分及び前記第2部分の55%以下である、本発明1ないし8のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤセット。
[本発明10]
前記第3部分のタイヤ軸方向の長さは、トレッド展開幅の7%以上である、本発明1ないし9のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤセット。
[本発明11]
トレッド踏面上において、前記第3部分の単位面積当たりの溝容積は、前記第1部分の単位面積当たりの溝容積、及び、前記第2部分の単位面積当たりの溝容積の70%以上である、本発明1又は2に記載の自動二輪車用タイヤセット。