特開 2024-105072 自動二輪車用タイヤセット

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】公開特許公報(A)

(11)【公開番号】P2024105072

(43)【公開日】2024-08-06

(54)【発明の名称】自動二輪車用タイヤセット

(51)【国際特許分類】

   B60C 11/03 20060101AFI20240730BHJP

【ＦＩ】

B60C11/03 E

B60C11/03 C

【審査請求】未請求

【請求項の数】10

【出願形態】ＯＬ

(21)【出願番号】P 2023009622

(22)【出願日】2023-01-25

(71)【出願人】

【識別番号】000183233

【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】100104134

【弁理士】

【氏名又は名称】住友 慎太郎

(74)【代理人】

【識別番号】100156225

【弁理士】

【氏名又は名称】浦 重剛

(74)【代理人】

【識別番号】100168549

【弁理士】

【氏名又は名称】苗村 潤

(74)【代理人】

【識別番号】100200403

【弁理士】

【氏名又は名称】石原 幸信

(74)【代理人】

【識別番号】100206586

【弁理士】

【氏名又は名称】市田 哲

(72)【発明者】

【氏名】大谷 匡史

(72)【発明者】

【氏名】佐藤 亮太

【テーマコード（参考）】

3D131

【Ｆターム（参考）】

3D131BB06

3D131BC20

3D131BC34

3D131BC47

3D131CB07

3D131EA08U

3D131EB03U

3D131EB52U

3D131EB52X

3D131EB53U

3D131EB58U

3D131EB60U

3D131EB63U

3D131EB64U

3D131EB66U

3D131EB66X

3D131EB67U

3D131EB68U

(57)【要約】      （修正有）

【課題】摩耗を目立たなくして外観性能を向上することができる自動二輪車用タイヤセットを提供する。
【解決手段】自動二輪車用タイヤセットＳである。前輪用タイヤＳ１及び後輪用タイヤのそれぞれには、複数の傾斜溝３が設けられている。各傾斜溝３は、クラウン領域Ｃｒを延びる第１部分１１と、ショルダー領域Ｓｈを延びる第２部分１２と、第１部分１１と第２部分１２とをつなぐ第３部分１３とを含んでいる。各第３部分１３は、タイヤ回転方向Ｒの先着側に位置する第１溝縁と、タイヤ回転方向Ｒの後着側に位置する第２溝縁とを含んでいる。前輪用タイヤＳ１の第１溝縁には、面取り部１０が設けられており、後輪用タイヤの第２溝縁には、面取り部が設けられている。
【選択図】図１

【特許請求の範囲】

【請求項1】

前輪用タイヤ及び後輪用タイヤからなる自動二輪車用タイヤセットであって、
前記前輪用タイヤ及び前記後輪用タイヤのそれぞれは、タイヤ回転方向が指定された前記トレッド部を備えており、
前記前輪用タイヤ及び前記後輪用タイヤのそれぞれの前記トレッド部には、タイヤ周方向に対して傾斜した複数の傾斜溝が設けられており、
前記複数の傾斜溝のそれぞれは、クラウン領域を延びる第１部分と、ショルダー領域を延びる第２部分と、前記第１部分と前記第２部分とをつなぐ第３部分とを含み、
前記第３部分は、前記第１部分及び前記第２部分よりも小さい溝幅を有し、
前記第１部分、前記第２部分及び前記第３部分は、タイヤ周方向に対して同じ方向に傾斜しており、
前記第３部分は、一対の溝縁を含み、
前記一対の溝縁は、タイヤ回転方向の先着側に位置する第１溝縁と、タイヤ回転方向の後着側に位置する第２溝縁とを含み、
前記前輪用タイヤの前記第１溝縁には、面取り部が設けられており、
前記後輪用タイヤの前記第２溝縁には、面取り部が設けられている、
自動二輪車用タイヤセット。

【請求項2】

前記前輪用タイヤの前記第２溝縁には、面取り部が設けられる、請求項１記載の自動二輪車用タイヤセット。

【請求項3】

前記後輪用タイヤの前記第１溝縁には、面取り部が設けられる、請求項１又は２に記載の自動二輪車用タイヤセット。

【請求項4】

前記第３部分は、前記第１部分と繋がる内側端を含み、
前記内側端とタイヤ赤道との間のトレッド踏面に沿った最短距離は、トレッド接地幅の３０％～５５％である、請求項１記載の自動二輪車用タイヤセット。

【請求項5】

前記トレッド部を平面に展開したトレッド平面視において、
前記第３部分は、直線状に延びている、請求項１又は４に記載の自動二輪車用タイヤセット。

【請求項6】

前記トレッド部を平面に展開したトレッド平面視において、
前記第３部分は、曲線状に延びている、請求項１又は４に記載の自動二輪車用タイヤセット。

【請求項7】

溝深さに関して、前記第３部分は、前記第１部分及び前記第２部分の７０％～１２０％である、請求項１又は４に記載の自動二輪車用タイヤセット。

【請求項8】

溝幅に関して、前記第３部分は、前記第１部分及び前記第２部分の６０％以下である、請求項１又は４に記載の自動二輪車用タイヤセット。

【請求項9】

前記第３部分のタイヤ軸方向の長さは、トレッド展開幅の５％以上である、請求項１又は４に記載の自動二輪車用タイヤセット。

【請求項10】

前記第３部分のトレッド踏面上における単位面積当たりの溝容積は、前記第１部分のトレッド踏面上における単位面積当たりの溝容積、及び、前記第２部分のトレッド踏面上における単位面積当たりの溝容積の７０％以上である、請求項１又は４に記載の自動二輪車用タイヤセット。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、自動二輪車用タイヤセットに関する。

【背景技術】

【0002】

下記特許文献１には、トレッド部に、タイヤ周方向に対して傾斜した複数の傾斜溝が設けられた自動二輪車用のタイヤが記載されている。前記各傾斜溝は、クラウン領域側の第１部分と、ショルダー領域側の第２部分と、前記第１部分と前記第２部分とをつなぐ第３部分とを含んでいる。前記第３部分は、前記第１部分及び前記第２部分よりも小さい溝幅を有している。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0003】

【特許文献1】特開２０２０－１４２５８７号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0004】

一般に、走行による駆動力や制動力によって、前記傾斜溝の一対の溝縁の一方に摩耗が生じやすくなる。とりわけ、溝幅の小さい溝の溝縁は、この摩耗が目立ちやすいという問題があった。

【0005】

本発明は、以上のような実状に鑑み案出なされたもので、摩耗を目立たなくして外観性能を向上することができる自動二輪車用タイヤセットを提供することを主たる課題としている。

【課題を解決するための手段】

【0006】

本発明は、前輪用タイヤ及び後輪用タイヤからなる自動二輪車用タイヤセットであって、前記前輪用タイヤ及び前記後輪用タイヤのそれぞれは、タイヤ回転方向が指定された前記トレッド部を備えており、前記前輪用タイヤ及び前記後輪用タイヤのそれぞれの前記トレッド部には、タイヤ周方向に対して傾斜した複数の傾斜溝が設けられており、前記複数の傾斜溝のそれぞれは、クラウン領域を延びる第１部分と、ショルダー領域を延びる第２部分と、前記第１部分と前記第２部分とをつなぐ第３部分とを含み、前記第３部分は、前記第１部分及び前記第２部分よりも小さい溝幅を有し、前記第１部分、前記第２部分及び前記第３部分は、タイヤ周方向に対して同じ方向に傾斜しており、前記第３部分は、一対の溝縁を含み、前記一対の溝縁は、タイヤ回転方向の先着側に位置する第１溝縁と、タイヤ回転方向の後着側に位置する第２溝縁とを含み、前記前輪用タイヤの前記第１溝縁には、面取り部が設けられており、前記後輪用タイヤの前記第２溝縁には、面取り部が設けられている、自動二輪車用タイヤセットである。

【発明の効果】

【0007】

本発明の自動二輪車用タイヤセットは、上記の構成を採用したことによって、摩耗を目立たなくして外観性能を向上することができる。

【図面の簡単な説明】

【0008】

【図1】本発明の一実施形態を示す前輪用タイヤのトレッド部の平面図である。

【図2】本発明の一実施形態を示す後輪用タイヤのトレッド部の平面図である。

【図3】（Ａ）は、図１の第３部分の拡大図、（Ｂ）は、図１のＡ－Ａ線断面図である。

【図4】（Ａ）は、図２の第３部分の拡大図、（Ｂ）は、図２のＢ－Ｂ線断面図である。

【図5】後輪用タイヤの傾斜溝の平面図である。

【図6】後輪用タイヤの傾斜溝の平面図である。

【図7】図２のＤ－Ｄ線断面図である。

【図8】他の実施形態の前輪用タイヤのトレッド部の平面図である。

【図9】他の実施形態の後輪用タイヤのトレッド部の平面図である。

【図10】さらに他の実施形態の前輪用タイヤのトレッド部の平面図である。

【図11】さらに他の実施形態の後輪用タイヤのトレッド部の平面図である。

【発明を実施するための形態】

【0009】

以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。図面は、本発明の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれている。また、複数の実施形態がある場合、明細書を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。

【0010】

図１は、本実施形態の自動二輪車用タイヤセット（以下、単に、「タイヤセット」という）Ｓの前輪用タイヤＳ１のトレッド部２を平面に展開した平面図である。図２は、本実施形態のタイヤセットＳの後輪用タイヤＳ２のトレッド部２を平面に展開した平面図である。前輪用タイヤＳ１と後輪用タイヤＳ２とでタイヤセットＳが構成される。本明細書では、各タイヤＳ１、Ｓ２のそれぞれを、タイヤ１という場合がある。

【0011】

また、本明細書では、特に断りがない限り、タイヤ１の各部の寸法等は、正規状態において特定される値である。前記「正規状態」とは、タイヤ１が正規リム（図示省略）にリム組みされかつ正規内圧が充填された無負荷の状態である。

【0012】

「正規リム」とは、タイヤ１が基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。

【0013】

「正規内圧」とは、タイヤ１が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。

【0014】

図１及び図２に示されるように、前輪用タイヤＳ１及び後輪用タイヤＳ２のそれぞれは、タイヤ回転方向Ｒが指定されたトレッド部２を有している。なお、前輪用タイヤＳ１及び後輪用タイヤＳ２のトレッド部２は、本実施形態では、タイヤ回転方向Ｒにより、各図の上側から下側に向かって接地する。

【0015】

また、前輪用タイヤＳ１及び後輪用タイヤＳ２のそれぞれのトレッド部２には、タイヤ周方向に対して傾斜した複数の傾斜溝３が設けられている。複数の傾斜溝３のそれぞれは、クラウン領域Ｃｒを延びる第１部分１１と、ショルダー領域Ｓｈを延びる第２部分１２と、第１部分１１と第２部分１２とをつなぐ第３部分１３とを含んでいる。

【0016】

第３部分１３は、第１部分１１及び第２部分１２よりも小さい溝幅Ｗｃ（図３（Ｂ）に示す）を有している。このような第３部分１３は、相対的に大きな変形が生じやすい傾斜溝３の長手方向の中間部分３ｃの剛性の低下を抑制する。また、第３部分１３は、接地時の第１部分１１及び第２部分１２の主にタイヤ周方向に生じる滑りを抑制する。これにより、偏摩耗の発生が抑えられる。

【0017】

第１部分１１、第２部分１２及び第３部分１３は、タイヤ周方向に対して同じ方向に傾斜している。このような傾斜溝３は、トレッド剛性の変化を小さくして、偏摩耗の発生を抑え偏摩耗による外観の悪化を抑制する。

【0018】

図３（Ａ）は、図１の第３部分１３の拡大図であり、前輪用タイヤＳ１の第３部分１３の平面図である。図３（Ｂ）は、図１のＡ－Ａ線断面図である。図４（Ａ）は、図２の第３部分１３の拡大図であり、後輪用タイヤＳ２の第３部分１３の平面図である。図４（Ｂ）は、図２のＢ－Ｂ線断面図である。図３及び図４に示されるように、各第３部分１３は、一対の溝縁２０、２０を含んでいる。一対の溝縁２０、２０は、タイヤ回転方向Ｒの先着側に位置する第１溝縁２０ｅと、タイヤ回転方向Ｒの後着側に位置する第２溝縁２０ｉとを含んでいる。本実施形態の第１溝縁２０ｅは、第２溝縁２０ｉよりもタイヤ軸方向の外側に位置している。

【0019】

タイヤセットＳにおいて、前輪用タイヤＳ１は、主に制動力の影響を受けるので、タイヤ回転方向Ｒの後着側の溝縁に摩耗が生じやすい。また、後輪用タイヤＳ２は、主に駆動力の影響を受けるので、タイヤ回転方向Ｒの先着側の溝縁に摩耗が生じやすい。本発明では、前輪用タイヤＳ１の第１溝縁２０ｅには、面取り部１０が設けられている。また、後輪用タイヤＳ２の後着側の第２溝縁２０ｉには、面取り部１０が設けられている。これにより、前輪用タイヤＳ１において、第２溝縁２０ｉにより多くの摩耗が生じた場合でも、面取り部１０が設けられた第１溝縁２０ｅと摩耗の生じた第２溝縁２０ｉとの見た目が近似し、外観上、第３部分１３の偏摩耗が目立ちにくくなる。また、後輪用タイヤＳ２において、第１溝縁２０ｅにより多くの摩耗が生じた場合でも、面取り部１０が設けられた第２溝縁２０ｉと摩耗の生じた第１溝縁２０ｅとの見た目が近似し、外観上、第３部分１３の偏摩耗が目立ちにくくなる。このため、本発明のタイヤセットＳは、偏摩耗が目立たなくなり、外観性能を向上することができる。

【0020】

第１溝縁２０ｅ又は第２溝縁２０ｉに面取り部１０が設けられている場合、各溝縁２０ｅ、２０ｉは、第１仮想線ｖ１と第２仮想線ｖ２との交点で特定される。第１仮想線ｖ１は、第３部分１３の溝壁１３ａをタイヤ半径方向の外側へ滑らかに延長させた線である。第２仮想線ｖ２は、トレッド踏面２ａを溝幅中心線側へ滑らかに延長させた線である。第３部分１３の溝幅Ｗｃは、第１溝縁２０ｅと第２溝縁２０ｉとの間の最短距離である。

【0021】

前輪用タイヤＳ１及び後輪用タイヤＳ２において、面取り部１０の幅Ｗｄは、第３部分１３の溝幅Ｗｃの４０％以上が望ましく、４５％以上がさらに望ましく、９０％以下が望ましく、８５％以下がさらに望ましい。面取り部１０のタイヤ半径方向の長さＤｄは、第３部分１３の溝深さＤｃ（図７に示す）の１０％以上が望ましく、１５％以上がさらに望ましく、３５％以下が望ましく、３０％以下がさらに望ましい。

【0022】

図１及び図２に示されるように、本明細書では、クラウン領域Ｃｒは、前記正規状態のタイヤ１を正規荷重でキャンバー角０度で平面に接地させたときに平面に接地する領域である。このクラウン領域Ｃｒのタイヤ軸方向の両端Ｃｅ、Ｃｅ間のタイヤ軸方向の長さがトレッド接地幅ＴＷとされる。また、ショルダー領域Ｓｈは、クラウン領域Ｃｒとトレッド端Ｔｅとの間の領域である。ショルダー領域Ｓｈは、タイヤ１にキャンバー角を与えたときに接地する領域である。

【0023】

トレッド端Ｔｅは、トレッド部２のタイヤ軸方向の両端に相当し、例えば、最大キャンバー角付近での旋回時に接地し得る端である。本明細書では、トレッド部２を平面に展開したときのトレッド端Ｔｅ、Ｔｅ間のタイヤ軸方向距離が、トレッド展開幅Ｔｘとされる。また、タイヤ赤道Ｃは、トレッド端Ｔｅ、Ｔｅ間の中点である。

【0024】

前記「正規荷重」とは、タイヤ１が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば"最大負荷能力"、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。

【0025】

タイヤ１において、傾斜溝３は、例えば、タイヤ赤道Ｃと一方のトレッド端（図では、右側）Ｔｅとの間に配される第１傾斜溝３Ａと、タイヤ赤道Ｃと他方のトレッド端Ｔｅとの間に配される第２傾斜溝３Ｂとを含んでいる。第１傾斜溝３Ａ及び第２傾斜溝３Ｂは、本実施形態では、タイヤ周方向に交互に配されている。第１傾斜溝３Ａと第２傾斜溝３Ｂとは、例えば、タイヤ赤道Ｃを介して線対称形状である。

【0026】

傾斜溝３は、タイヤ赤道Ｃを跨ぐことなく延びている。このような傾斜溝３は、大きな接地圧の作用するタイヤ赤道Ｃ上のトレッド剛性の低下を抑制して、偏摩耗の発生を抑制することに役立つ。偏摩耗の発生を抑えるとともに、タイヤ１の基本的な性能を維持するために、傾斜溝３とタイヤ赤道Ｃとの間の最短距離Ｌｍ（図１に示す）は、トレッド接地幅ＴＷの１０％以下が望ましく、８％以下がさらに望ましい。

【0027】

図５は、後輪用タイヤＳ２の傾斜溝３の平面図である。図５に代表して示されるように、後輪用タイヤＳ２及び前輪用タイヤＳ１において、第３部分１３は、第１部分１１と繋がる内側端１３ｉと、第２部分１２と繋がる外側端１３ｅとを含んでいる。また、第３部分１３は、内側端１３ｉから第２部分１２に向かって溝幅が小さくなる第１テーパ部１３Ａと、一定の溝幅で延びる等幅部１３Ｂとを含んでいる。また、第３部分１３は、本実施形態では、外側端１３ｅから第１部分１１に向かって溝幅が小さくなる第２テーパ部１３Ｃを含んでいる。等幅部１３Ｂは、長手方向に沿って同じ溝幅となる態様はもちろん、最大溝幅と最小溝幅との差が２mm以下である態様を含んでいる。等幅部１３Ｂは、最大溝幅と最小溝幅との差が１mm以下であるのが望ましい。また、内側端１３ｉ及び外側端１３ｅは、本実施形態では、第２溝縁２０ｉ上に位置する端である。

【0028】

内側端１３ｉとタイヤ赤道Ｃとの間のトレッド踏面２ａに沿った最短距離Ｌｓは、トレッド接地幅ＴＷ（図１に示す）の３０％以上が望ましく、３５％以上がさらに望ましく、５５％以下が望ましく、５０％以下がさらに望ましい。最短距離Ｌｓがトレッド接地幅ＴＷの３０％以上であるので、排水のし難いタイヤ赤道Ｃ側に第１部分１１を位置させて、排水性能を高く維持することができる。最短距離Ｌｓがトレッド接地幅ＴＷの５５％以下であるので、内側端１３ｉをトレッドの外径差からすべりが発生しやすい接地幅の外側から遠ざけることができ、偏摩耗の発生を抑えることができる。

【0029】

第３部分１３のタイヤ軸方向の長さＬｔは、トレッド展開幅Ｔｘ（図１に示す）の５％以上が望ましい。このような第３部分１３は、ショルダー領域Ｓｈのトレッド剛性を高く維持して、優れた耐偏摩耗性能を発揮する。タイヤ１の基本的な性能の低下を抑制することを考慮すると、第３部分１３の長さＬ３は、トレッド展開幅Ｔｘの１０％以上がさらに望ましく、２３％以下が望ましく、２０％以下がさらに望ましい。

【0030】

溝幅に関して、第３部分１３は、第１部分１１及び第２部分１２の５５％以下が望ましく、４５％以下がさらに望ましい。第３部分１３の溝幅Ｗｃが第１部分１１の溝幅Ｗａ及び第２部分１２の溝幅Ｗｂの５５％以下であるので、トレッド剛性を高くすることができる。溝幅に関して、第３部分１３が第１部分１１及び第２部分１２よりも過度に小さいと、排水性能が悪化するおそれがある。このため、第３部分１３の溝幅Ｗｃは、第１部分１１の溝幅Ｗａ及び第２部分１２の溝幅Ｗｂの１５％以上が望ましく、２０％以上がさらに望ましい。第３部分１３の溝幅Ｗｃは、例えば、１．２～３．５mmが望ましい。第１部分１１の溝幅Ｗａ、第２部分１２の溝幅Ｗｂ及び第３部分１３の溝幅Ｗｃは、それぞれ、長手方向の中点での溝幅である。

【0031】

第３部分１３のトレッド踏面２ａ上における単位面積当たりの溝容積Ｖ３（図示省略）は、第１部分１１のトレッド踏面２ａ上における単位面積当たりの溝容積Ｖ１、及び、第２部分１２のトレッド踏面２ａ上における単位面積当たりの溝容積Ｖ２の７０％以上が望ましく、７５％以上がさらに望ましい。これにより、第１部分１１と第２部分１２との間の水のスムーズな行き来が維持される。第３部分１３の付近の剛性を高く維持する観点を考慮すると、第３部分１３の溝容積Ｖ３は、第１部分１１の溝容積Ｖ１、及び、第２部分１２の溝容積Ｖ２の１２０％以下が望ましく、１１５％以下がさらに望ましい。各単位面積当たりの溝容積（Ｖ１、Ｖ２及びＶ３）とは、各部分の溝容積をトレッド踏面２ａ上での各部分の面積（表面積）で除した値である。

【0032】

図６は、後輪用タイヤＳ２の傾斜溝３の平面図（トレッド平面図）である。図６に代表して示されるように、前輪用タイヤＳ１及び後輪用タイヤＳ２において、第１溝縁２０ｅは、等幅部１３Ｂを形成する第１等幅縁部２１ｅを含んでいる。また、第２溝縁２０ｉは、等幅部１３Ｂを形成する第２等幅縁部２１ｉを含んでいる。さらに、第１部分１１は、タイヤ回転方向Ｒの先着側に位置する第１先着溝縁１８ｅと、第１先着溝縁１８ｅよりもタイヤ回転方向Ｒの後着側に位置する第１後着溝縁１８ｉとを含んでいる。また、第２部分１２は、タイヤ回転方向Ｒの先着側に位置する第２先着溝縁１９ｅと、第２先着溝縁１９ｅよりもタイヤ回転方向Ｒの後着側に位置する第２後着溝縁１９ｉとを含んでいる。

【0033】

面取り部１０は、トレッド踏面２ａ側の外縁１０ａを含んでいる。外縁１０ａは、本実施形態では、第１後着溝縁１８ｉと滑らかに繋がっている。また、外縁１０ａは、例えば、第２後着溝縁１９ｉと滑らかに繋がっている。図１に示されるように、前輪用タイヤＳ１において、面取り部１０の外縁１０ａは、第１先着溝縁１８ｅ及び第２先着溝縁１９ｅと滑らかに繋がっている。

【0034】

図６に示されるように、前輪用タイヤＳ１及び後輪用タイヤＳ２において、第３部分１３は、本実施形態では、直線状に延びている。このような第３部分１３は、排水抵抗が小さく排水性能を高く維持するのに役立つ。本明細書では、「直線状」とは、第１等幅縁部２１ｅ及び第２等幅縁部２１ｉが、直線のみで形成されているものだけではなく、例えば、各縁部２１ｅ、２１ｉのそれぞれが、曲率半径ｒが２００mmを超える円弧で形成されているものを含む。なお、第３部分１３は、例えば、各縁部２１ｅ、２１ｉのそれぞれが、曲率半径ｒが２０～２００mmの円弧で形成された曲線状に延びていてもよい。

【0035】

第３部分１３は、本実施形態では、クラウン領域Ｃｒとショルダー領域Ｓｈとに跨っている。第３部分１３の中点１３ｓは、ショルダー領域Ｓｈに位置している。ショルダー領域Ｓｈは、クラウン領域Ｃｒに比してタイヤ周長が小さく、滑りが生じやすい領域である。このため、ショルダー領域Ｓｈの滑りが抑制されて、ショルダー領域Ｓｈとクラウン領域Ｃｒとの摩耗量の差が小さくなるので、偏摩耗の発生が抑えられる。

【0036】

傾斜溝３のタイヤ周方向に対する角度θ１は、５度以上が望ましく、７度以上がさらに望ましく、１５度以下が望ましく、１３度以下がさらに望ましい。傾斜溝３の角度θ１は、傾斜溝３のタイヤ周方向の両端ｅ１、ｅ２を繋ぐ仮想線ｖａで特定される。

【0037】

図７は、図２のＤ－Ｄ線断面図である。図７に示されるように、溝深さに関して、第３部分１３は、第１部分１１及び第２部分１２の７０％以上が望ましく、７５％以上がさらに望ましく、１２０％以下が望ましく、１１５％以下がさらに望ましい。第３部分１３の溝深さＤｃが第１部分１１の溝深さＤａ及び第２部分１２の溝深さＤｂの８０％以上及び１２０％以下であるので、第１部分１１、第２部分１２及び第３部分１３の近傍の剛性の変化を小さくすることができる。このため、偏摩耗の発生が抑えられ、外観性能が向上する。第１部分１１の溝深さＤａ及び第２部分１２の溝深さＤｂは、例えば、３．５～９．５mmであるのが望ましい。このような傾斜溝３の溝深さは、前輪用タイヤＳ１及び後輪用タイヤＳ２のそれぞれに適用される。

【0038】

図１及び図２に示されるように、前輪用タイヤＳ１及び後輪用タイヤＳ２のそれぞれのトレッド部２には、本実施形態では、第１副傾斜溝４と第２副傾斜溝５とが設けられている。第１副傾斜溝４は、例えば、傾斜溝３よりもタイヤ軸方向の外側に位置している。第２副傾斜溝５は、例えば、第１副傾斜溝４よりもタイヤ軸方向の外側に位置している。第１副傾斜溝４及び第２副傾斜溝５は、面取り部１０が設けられていない。

【0039】

図８は、他の実施形態の前輪用タイヤＳ１のトレッド部２の平面図である。図９は、他の実施形態の後輪用タイヤＳ２のトレッド部２の平面図である。図８に示されるように、この実施形態では、前輪用タイヤＳ１の第１溝縁２０ｅ及び第２溝縁２０ｉに、面取り部１０が設けられる。図９に示されるように、この実施形態では、後輪用タイヤＳ２の第１溝縁２０ｅ及び第２溝縁２０ｉに、面取り部１０が設けられる。このような態様においても、外観性能を高めることができる。

【0040】

図１０は、さらに他の実施形態の前輪用タイヤＳ１のトレッド部２の平面図である。この実施形態においても、前輪用タイヤＳ１では、第１溝縁２０ｅに、面取り部１０が設けられている。また、この実施形態では、第２溝縁２０ｉには、面取り部１０が設けられていない。なお、第２溝縁２０ｉに、面取り部１０が設けられていてもよい（図示省略）。

【0041】

図１１は、さらに他の実施形態の後輪用タイヤＳ２のトレッド部２の平面図である。この実施形態においても、後輪用タイヤＳ２では、第２溝縁２０ｉに、面取り部１０が設けられている。また、この実施形態では、第１溝縁２０ｅには、面取り部１０が設けられていない。なお、第１溝縁２０ｅに、面取り部１０が設けられていてもよい（図示省略）。

【0042】

以上、本発明の一実施形態の自動二輪車用タイヤセットが詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されることなく、種々の態様に変更して実施され得る。

【実施例0043】

図１又は図２の基本パターンを有する自動二輪車用タイヤセットが試作され、各試供自動二輪車用タイヤセットの外観性能がテストされた。各試供タイヤの共通仕様やテスト方法は、以下の通りである。

【0044】

＜外観性能＞
各試供自動二輪車用タイヤセットが、自動二輪車に装着された。テストライダーは、この自動二輪車を乾燥アスファルトのサーキットコースにて走行させた。そして、走行終了後、後輪用タイヤの傾斜溝の第３部分付近の摩耗の目立ちにくさがテストライダーの官能により評価された。テスト結果は、比較例１の摩耗の目立ちにくさを１００とする評点で表示され、数値が大きい程、外観性能に優れている。
タイヤサイズ：１２０／７０ＺＲ１７（前輪）、２００／５５ＺＲ１７（後輪）
リムサイズ：MT３．５０×１７（前輪）、MT６．００×１７（後輪）
内圧：２５０kPa（前輪）、２９０kPa（後輪）
排気量：１０００cc
走行距離：２００km
平均速度：１２０km/h
テストの結果が表１に示される。

【0045】

【表1】

【0046】

テストの結果、後輪用タイヤにおいて、実施例のタイヤは、比較例のタイヤに比して、外観性能（摩耗初期）が高められていることが確認できた。また、前輪用タイヤにおいても、同じ結果が得られた。

【0047】

［付記］
本発明は以下の態様を含む。

【0048】

［本発明１］
前輪用タイヤ及び後輪用タイヤからなる自動二輪車用タイヤセットであって、
前記前輪用タイヤ及び前記後輪用タイヤのそれぞれは、タイヤ回転方向が指定された前記トレッド部を備えており、
前記前輪用タイヤ及び前記後輪用タイヤのそれぞれの前記トレッド部には、タイヤ周方向に対して傾斜した複数の傾斜溝が設けられており、
前記複数の傾斜溝のそれぞれは、クラウン領域を延びる第１部分と、ショルダー領域を延びる第２部分と、前記第１部分と前記第２部分とをつなぐ第３部分とを含み、
前記第３部分は、前記第１部分及び前記第２部分よりも小さい溝幅を有し、
前記第１部分、前記第２部分及び前記第３部分は、タイヤ周方向に対して同じ方向に傾斜しており、
前記第３部分は、一対の溝縁を含み、
前記一対の溝縁は、タイヤ回転方向の先着側に位置する第１溝縁と、タイヤ回転方向の後着側に位置する第２溝縁とを含み、
前記前輪用タイヤの前記第１溝縁には、面取り部が設けられており、
前記後輪用タイヤの前記第２溝縁には、面取り部が設けられている、
自動二輪車用タイヤセット。
［本発明２］
前記前輪用タイヤの前記第２溝縁には、面取り部が設けられる、本発明１記載の自動二輪車用タイヤセット。
［本発明３］
前記後輪用タイヤの前記第１溝縁には、面取り部が設けられる、本発明１又は２に記載の自動二輪車用タイヤセット。
［本発明４］
前記第３部分は、前記第１部分と繋がる内側端を含み、
前記内側端とタイヤ赤道との間のトレッド踏面に沿った最短距離は、トレッド接地幅の３０％～５５％である、本発明１ないし３のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤセット。
［本発明５］
前記トレッド部を平面に展開したトレッド平面視において、
前記第３部分は、直線状に延びている、本発明１ないし４のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤセット。
［本発明６］
前記トレッド部を平面に展開したトレッド平面視において、
前記第３部分は、曲線状に延びている、本発明１ないし４のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤセット。
［本発明７］
溝深さに関して、前記第３部分は、前記第１部分及び前記第２部分の７０％～１２０％である、本発明１ないし６のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤセット。
［本発明８］
溝幅に関して、前記第３部分は、前記第１部分及び前記第２部分の６０％以下である、本発明１ないし７のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤセット。
［本発明９］
前記第３部分のタイヤ軸方向の長さは、トレッド展開幅の５％以上である、本発明１ないし８のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤセット。
［本発明１０］
前記第３部分のトレッド踏面上における単位面積当たりの溝容積は、前記第１部分のトレッド踏面上における単位面積当たりの溝容積、及び、前記第２部分のトレッド踏面上における単位面積当たりの溝容積の７０％以上である、本発明１ないし９のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤセット。

【符号の説明】

【0049】

３ 傾斜溝
１１ 第１部分
１２ 第２部分
１３ 第３部分
２０ｅ 第１溝縁
２０ｉ 第２溝縁
Ｃｒ クラウン領域
Ｒ タイヤ回転方向
Ｓｈ ショルダー領域
Ｓ 自動二輪車用タイヤセット
Ｓ１ 前輪用タイヤ
Ｓ２ 後輪用タイヤ

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】