(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105088
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】センサ素子
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20240730BHJP
G01N 27/419 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/419 327B
G01N27/419 327E
G01N27/419 327H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009647
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100561
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 正広
(74)【代理人】
【識別番号】100219690
【弁理士】
【氏名又は名称】堀坂 純美子
(72)【発明者】
【氏名】後呂 洋平
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠介
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 宗太朗
(57)【要約】
【課題】ガスセンサの長期間の使用による測定対象ガスの検出精度の低下を抑制できるセンサ素子を提供する。
【解決手段】長尺板状の基体部102の内部に形成された内部空所20と、基体部102の長手方向の一方の端部と内部空所20とを連通させる拡散律速通路13と、内部空所20内に配設された空所内ポンプ電極22を含む酸素ポンプセル21と、を含み、基体部102の幅方向において、拡散律速通路13の内部空所20への開口の幅方向の長さが、内部空所20の幅方向の長さに対して1/2以下であり、前記長手方向と前記幅方向とを含む平面に見て、拡散律速通路13の前記開口と、前記幅方向の各位置における空所内ポンプ電極22の前記長手方向の前記一方の端部に近い側の電極一方端との間の最短距離について、前記最短距離のうちの最小値の最大値に対する比が、0.5以上1以下である、被測定ガス中の測定対象ガスを検出するセンサ素子101。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン伝導性の固体電解質層を含む長尺板状の基体部と、
前記基体部の内部に形成された内部空所と、
前記基体部の長手方向の一方の端部と前記内部空所とを連通させて、被測定ガスを前記内部空所内に導入する拡散律速通路と、
前記内部空所内に配設された空所内ポンプ電極、及び、前記内部空所とは異なる位置に配設され、前記空所内ポンプ電極と対応している空所外ポンプ電極を含む酸素ポンプセルと、
を含み、
前記長手方向と直交する前記基体部の幅方向において、前記拡散律速通路の前記内部空所への開口の前記幅方向の長さが、前記内部空所の前記幅方向の長さに対して1/2以下であり、
前記長手方向と前記幅方向とを含む平面に見て、前記空所内ポンプ電極は、前記幅方向の各位置について、それぞれ、前記基体部の前記長手方向の前記一方の端部に近い側の電極一方端から前記長手方向の電極他方端に向かって所定の長さを有し、
前記拡散律速通路の前記開口と、前記幅方向の各位置における前記空所内ポンプ電極の前記電極一方端との間の最短距離について、前記最短距離のうちの最小値の最大値に対する比が、0.5以上1以下である、被測定ガス中の測定対象ガスを検出するセンサ素子。
【請求項2】
前記最短距離のうちの前記最小値の前記最大値に対する前記比が、0.7以上1以下である請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項3】
前記長手方向と前記幅方向とを含む平面に見て、前記空所内ポンプ電極は、前記基体部の前記長手方向の前記一方の端部に近い側の前記電極一方端において、凹状の形状である、請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項4】
前記長手方向と前記幅方向とを含む平面に見て、前記空所内ポンプ電極は、前記基体部の前記長手方向の前記一方の端部に近い側の前記電極一方端において、凹状の円弧形状である、請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項5】
前記長手方向と前記幅方向とを含む平面に見て、前記空所内ポンプ電極は、前記基体部の前記長手方向の前記一方の端部に近い側の前記電極一方端において、前記拡散律速通路の前記開口と、前記幅方向の各位置における前記空所内ポンプ電極の前記電極一方端との間の最短距離が等しい形状である、請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項6】
請求項1に記載のセンサ素子を含む、被測定ガス中の測定対象ガスを検出するガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素イオン伝導性の固体電解質を用いたセンサ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスセンサは、自動車の排気ガス等の被測定ガス中の対象とするガス成分(酸素O2、窒素酸化物NOx、アンモニアNH3、炭化水素HC、二酸化炭素CO2等)の検出や濃度の測定に使用されている。例えば、自動車の排気ガス中の対象とするガス成分濃度を測定し、その測定値に基づいて自動車に搭載されている排気ガス浄化システムを最適に制御することが行われている。
【0003】
このようなガスセンサとしては、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性の固体電解質を用いたセンサ素子を備えたガスセンサが知られている(例えば、特開2021-156611号公報、特開2022-059941号公報)。
【0004】
例えば、特開2021-156611号公報には、内側ポンプ電極を含む主ポンプセルと、測定電極を含む測定ポンプセルを有するセンサ素子を備えたNOxセンサが開示されている。前記センサ素子において、主ポンプセルを構成する内側ポンプ電極でNOxが分解されないように、内側ポンプ電極の金属材料として、Auが添加されたPtを用いることが開示されている。なお、前記内側ポンプ電極は矩形状であり、センサ素子の内部に形成された内部空所に面して設けられていることが開示されている。
【0005】
また、特開2022-059941号公報には、ガス導入口と内部空所を連通させる拡散律速部が形成されたセンサ素子が開示されており、センサ素子が、平面視において、長辺及び短辺を有し、前記拡散律速部が長辺方向に延びる孔を含むことが開示されている。前記孔の短辺方向の長さは、内部空所の短辺方向の長さよりも短いことが開示されており、この孔の形状によってセンサ素子の剛性を高めることができ、クラックが発生する可能性が低減されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-156611号公報
【特許文献2】特開2022-059941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のNOxセンサ等のガスセンサに含まれるセンサ素子は、固体電解質を活性化させるために、高温(例えば、800℃程度)に加熱された状態で使用される。この状態で、長期間にわたって高酸素濃度の被測定ガスに晒されると、センサ素子の内部空所内に配設された空所内ポンプ電極(内側ポンプ電極)に含まれるPtが酸化し、PtやAuが蒸発することがある。空所内ポンプ電極からAuが蒸発すると、空所内ポンプ電極においてNOxの分解が起こり、測定電極に到達するNOxが減少してしまうことがある。また、空所内ポンプ電極から蒸発したAuが測定電極に付着することにより、測定電極におけるNOx分解活性が低下してしまうことがある。その結果、NOx濃度の検出精度が低下する恐れがある。
【0008】
例えば、特開2021-156611号公報には、主ポンプセルを流れる電流の電流密度が0.4mA/mm2以下であれば、主ポンプセルにおけるNOxの分解が好適に抑制されることが開示されている(請求項3)。ただし、特開2021-156611号公報において、電流密度は、内側主ポンプ電極の平均的な電流密度を表したものである。
【0009】
一方、上述のように、特開2022-059941号公報には、前記拡散律速部が長辺方向に延びる孔であって、前記孔の短辺方向の長さが内部空所の短辺方向の長さよりも短い孔を含むことにより、センサ素子の剛性を高めることができ、クラックが発生する可能性が低減されることが開示されている。
【0010】
このような剛性を高めたセンサ素子においても、主ポンプセルにおけるNOxの分解を十分に抑制し、長期間にわたって高い検出精度を維持することが求められる。
【0011】
そこで、本発明は、ガスセンサの長期間の使用による測定対象ガスの検出精度の低下を抑制できるセンサ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、さらに、内部空所内に配設され、主ポンプセルを構成する内側主ポンプ電極に関して検討した。その結果、内側主ポンプ電極内に電流密度分布が存在することを見出した。被測定ガスは、センサ素子の長手方向の一方の端部のガス導入口から拡散律速通路(拡散律速部)を通じて内部空所に導入され、内側主ポンプ電極に到達する。つまり、前記拡散律速通路は内部空所への開口を有している。特に被測定ガス中の酸素濃度が高い時には、内側主ポンプ電極は、前記拡散律速通路の前記開口に近い位置ほど、高濃度の酸素に晒されるため、多くの酸素を汲み出すことになる。すなわち、特に内側主ポンプ電極のうちの前記拡散律速通路の前記開口に近い位置において、電流集中が起こり、主ポンプセルに流れる電流の電流密度が大きくなる。ガスセンサを長期間にわたって使用することにより、内側主ポンプ電極は、特に高濃度の酸素に晒される位置(電流集中が起こる位置)において、電極中の金属成分(例えば、PtやAu)が飛散してしまうことがある。その結果、内側主ポンプ電極それ自体が劣化したり、飛散した金属成分が測定対象ガスを検出すべき測定電極に付着(被毒)したりする場合がある。その結果、ガスセンサの長期間の使用により、測定対象ガスの検出精度が低下することがある。内側主ポンプ電極のうちの前記拡散律速通路の前記開口に近い位置における電流集中を緩和することによって、内側主ポンプ電極からの金属成分(例えば、PtやAu)の飛散を抑制できることを見出した。
【0013】
本発明者らは、鋭意検討の結果、内側主ポンプ電極の平面視における形状を、平面視における前記拡散律速通路の前記開口との関係において、以下のような形状にすることにより、内側主ポンプ電極のうちの前記拡散律速通路の前記開口に近い位置における電流集中を緩和できることを見出した。その結果、ガスセンサの長期間の使用による測定対象ガスの検出精度の低下を抑制できることを見出した。
【0014】
本発明には、以下の発明が含まれる。
(1) 酸素イオン伝導性の固体電解質層を含む長尺板状の基体部と、
前記基体部の内部に形成された内部空所と、
前記基体部の長手方向の一方の端部と前記内部空所とを連通させて、被測定ガスを前記内部空所内に導入する拡散律速通路と、
前記内部空所内に配設された空所内ポンプ電極、及び、前記内部空所とは異なる位置に配設され、前記空所内ポンプ電極と対応している空所外ポンプ電極を含む酸素ポンプセルと、
を含み、
前記長手方向と直交する前記基体部の幅方向において、前記拡散律速通路の前記内部空所への開口の前記幅方向の長さが、前記内部空所の前記幅方向の長さに対して1/2以下であり、
前記長手方向と前記幅方向とを含む平面に見て、前記空所内ポンプ電極は、前記幅方向の各位置について、それぞれ、前記基体部の前記長手方向の前記一方の端部に近い側の電極一方端から前記長手方向の電極他方端に向かって所定の長さを有し、
前記拡散律速通路の前記開口と、前記幅方向の各位置における前記空所内ポンプ電極の前記電極一方端との間の最短距離について、前記最短距離のうちの最小値の最大値に対する比が、0.5以上1以下である、被測定ガス中の測定対象ガスを検出するセンサ素子。
【0015】
(2) 前記最短距離のうちの前記最小値の前記最大値に対する前記比が、0.7以上1以下である上記(1)に記載のセンサ素子。
【0016】
(3) 前記長手方向と前記幅方向とを含む平面に見て、前記空所内ポンプ電極は、前記基体部の前記長手方向の前記一方の端部に近い側の前記電極一方端において、凹状の形状である、上記(1)又は(2)に記載のセンサ素子。
【0017】
(4) 前記長手方向と前記幅方向とを含む平面に見て、前記空所内ポンプ電極は、前記基体部の前記長手方向の前記一方の端部に近い側の前記電極一方端において、凹状の円弧形状である、上記(1)~(3)のいずれかに記載のセンサ素子。
【0018】
(5) 前記長手方向と前記幅方向とを含む平面に見て、前記空所内ポンプ電極は、前記基体部の前記長手方向の前記一方の端部に近い側の前記電極一方端において、前記拡散律速通路の前記開口と、前記幅方向の各位置における前記空所内ポンプ電極の前記電極一方端との間の最短距離が等しい形状である、上記(1)~(3)のいずれかに記載のセンサ素子。
【0019】
(6) 上記(1)~(5)のいずれかに記載のセンサ素子を含む、被測定ガス中の測定対象ガスを検出するガスセンサ。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、空所内ポンプ電極(例えば内側主ポンプ電極)のうちの前記拡散律速通路の前記開口に近い位置における電流集中を緩和することができる。その結果、ガスセンサの長期間の使用による測定対象ガスの検出精度の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】ガスセンサ100の概略構成の一例を示す、センサ素子101の長手方向の垂直断面模式図である。
【
図2】
図1のII―II線に沿う断面の一部を示す、センサ素子101の部分断面模式図である。
【
図3】
図2のIII-III線に沿う断面、すなわち、センサ素子101の長手方向に直交する幅方向の断面の一部を示す、センサ素子101の部分断面模式図である。
【
図4】
図2と同じ断面において、第1内部空所20内の酸素濃度分布を示す模式図である。
【
図5】
図2と同じ断面において、線分L0から拡散する場合における、第1内部空所20内の酸素濃度分布を示す模式図である。
【
図6】センサ素子101(基体部102)の長手方向と幅方向とを含む平面に見て、内側主ポンプ電極22(底部電極部22b)の平面形状を示す模式図である。
【
図7】変形形態1のセンサ素子201の、内側主ポンプ電極222(底部電極部222b)の平面形状を示す模式図である。
【
図8】変形形態2のセンサ素子301の、内側主ポンプ電極322(底部電極部322b)の平面形状を示す模式図である。
【
図9】変形形態3のセンサ素子401の、内側主ポンプ電極422(底部電極部422b)の平面形状を示す模式図である。
【
図10】比較形態1のセンサ素子901の、内側主ポンプ電極922(底部電極部922b)の平面形状を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のセンサ素子は、
酸素イオン伝導性の固体電解質層を含む長尺板状の基体部と、
前記基体部の内部に形成された内部空所と、
前記基体部の長手方向の一方の端部と前記内部空所とを連通させて、被測定ガスを前記内部空所内に導入する拡散律速通路と、
前記内部空所内に配設された空所内ポンプ電極、及び、前記内部空所とは異なる位置に配設され、前記空所内ポンプ電極と対応している空所外ポンプ電極を含む酸素ポンプセルと、
を含み、
前記長手方向と直交する前記基体部の幅方向において、前記拡散律速通路の前記内部空所への開口の前記幅方向の長さが、前記内部空所の前記幅方向の長さに対して1/2以下であり、
前記長手方向と前記幅方向とを含む平面に見て、前記空所内ポンプ電極は、前記幅方向の各位置について、それぞれ、前記基体部の前記長手方向の前記一方の端部に近い側の電極一方端から前記長手方向の電極他方端に向かって所定の長さを有し、
前記拡散律速通路の前記開口と、前記幅方向の各位置における前記空所内ポンプ電極の前記電極一方端との間の最短距離について、前記最短距離のうちの最小値の最大値に対する比が、0.5以上1以下である。
【0023】
[ガスセンサの概略構成]
本発明のセンサ素子について、図面を参照して以下に説明する。
図1は、センサ素子101を含むガスセンサ100の概略構成の一例を示す長手方向の垂直断面模式図である。以下においては、
図1を基準として、上下とは、
図1の上側を上、下側を下とし、
図1の左側を先端側、右側を後端側とする。
図2は、
図1のII―II線に沿う断面の一部を示す、センサ素子101の部分断面模式図である。
図3は、
図2のIII-III線に沿う断面、すなわち、センサ素子101の長手方向に直交する幅方向の断面の一部を示す、センサ素子101の部分断面模式図である。
【0024】
図1の実施形態において、ガスセンサ100は、センサ素子101によって被測定ガス中のNOxを検知し、その濃度を測定する限界電流型のNOxセンサの一例を示している。
【0025】
センサ素子101は、複数の酸素イオン伝導性の固体電解質層が積層された構造を有する基体部102を含む、長尺板状の素子である。長尺板状とは、長板状、あるいは、帯状ともいう。基体部102は、それぞれがジルコニア(ZrO
2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を有する。これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。前記6つの層は全て同じ厚みであってもよいし、各層毎に異なる厚みであってもよい。各層の間は、固体電解質からなる接着層を介して接着されており、基体部102には前記接着層を含む。
図1においては、前記6つの層からなる層構成を例示したが、本発明における層構成はこれに限られるものではなく、任意の層の数及び層構成としてよい。
【0026】
係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0027】
センサ素子101は、基体部102の内部に形成された内部空所を含む。内部空所は、第1内部空所20と、第2内部空所40と、第3内部空所61とを含む。また、第2拡散律速通路13(すなわち、第2拡散律速部)が第1内部空所20への開口を有し、第3拡散律速通路30(すなわち、第3拡散律速部)が第2内部空所40への開口を有し、第4拡散律速通路60(すなわち、第4拡散律速部)が第3内部空所61への開口を有する。
【0028】
センサ素子101の長手方向の一方の端部(以下、先端部という)であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10が形成されている。被測定ガス流通空所15、すなわち被測定ガス流通部は、ガス導入口10から長手方向に、第1拡散律速通路11(すなわち、第1拡散律速部)と、緩衝空間12と、第2拡散律速通路13と、第1内部空所20と、第3拡散律速通路30と、第2内部空所40と、第4拡散律速通路60と、第3内部空所61とが、この順に連通する態様にて形成されている。
【0029】
ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40と、第3内部空所61とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間である。
【0030】
第1拡散律速通路11は、2本の横長の(
図1において図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。
【0031】
第2拡散律速通路13は、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面13a,13bで区画された孔である。第2拡散律速通路13は、センサ素子101の長手方向に直交する幅方向(
図2において図面の上下方向、また、
図3において図面の左右方向)の長さW
Dが、第1内部空所20の幅方向の長さW
Cに対して2分の1以下である孔として形成されている。第2拡散律速通路13及び第1内部空所20の構成の詳細については、後述する。
【0032】
第3拡散律速通路30は、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面30a,30bで区画された孔である。第4拡散律速通路60は、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面60a,60bで区画された孔である。第3拡散律速通路30と、第4拡散律速通路60とは、センサ素子101の幅方向(
図2において図面の上下方向)の長さが、それぞれ、第2内部空所40及び第3内部空所61の幅方向の長さよりも短い孔として形成されている。
【0033】
また、被測定ガス流通空所15よりも先端側から遠い位置には、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられている。基準ガス導入空間43は、センサ素子101の他方の端部(以下、後端部という)に開口部を有している。基準ガス導入空間43には、NOx濃度の測定を行う際の基準ガスとして、例えば大気が導入される。
【0034】
大気導入層48は、多孔質アルミナからなる層であって、大気導入層48には基準ガス導入空間43を通じて基準ガスが導入されるようになっている。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
【0035】
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間43につながる大気導入層48が設けられている。すなわち、基準電極42は、多孔質である大気導入層48と基準ガス導入空間43とを介して、基準ガスと接するように配設されている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内、第2内部空所40内、及び第3内部空所61内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。
【0036】
被測定ガス流通空所15において、ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。
【0037】
本実施形態においては、被測定ガス流通空所15は、センサ素子101の先端面に開口したガス導入口10から被測定ガスが導入される形態であるが、本発明はこの形態に限定されるものではない。例えば、被測定ガス流通空所15には、ガス導入口10の凹所が存在しなくてもよい。この場合は、第1拡散律速通路11が実質的にガス導入口となる。
【0038】
また、例えば、被測定ガス流通空所15は、基体部102の長手方向に沿う側面に、緩衝空間12と連通する開口を有している形態であってもよい。この場合は、前記開口を通じて、基体部102の長手方向に沿う側面から被測定ガスが導入される。
【0039】
第1拡散律速通路11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0040】
緩衝空間12は、第1拡散律速通路11より導入された被測定ガスを第2拡散律速通路13へと導くために設けられた空間である。
【0041】
第2拡散律速通路13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0042】
結果として、第1内部空所20に導入される被測定ガスの量が所定の範囲になっていればよい。すなわち、センサ素子101の先端部から第2拡散律速通路13の全体として、所定の拡散抵抗を付与されていればよい。例えば、第2拡散律速通路13によりガス導入口10と第1内部空所20とが連通する、すなわち、第1拡散律速通路11と、緩衝空間12とが存在しない態様としてもよい。
【0043】
緩衝空間12は、被測定ガスの圧力が変動する場合に、その圧力変動が検出値に与える影響を緩和するために設けられた空間である。
【0044】
被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速通路11、緩衝空間12、第2拡散律速通路13を通じて被測定ガスの圧力変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空所20へ導入される被測定ガスの圧力変動はほとんど無視できる程度のものとなる。
【0045】
第1内部空所20は、第2拡散律速通路13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0046】
センサ素子101は、内部空所内に配設された空所内ポンプ電極、及び、前記内部空所とは異なる位置に配設され、前記空所内ポンプ電極と対応している空所外ポンプ電極を含む酸素ポンプセルを含む。「前記空所内ポンプ電極と対応している」とは、前記空所外ポンプ電極が、前記空所内ポンプ電極と、少なくとも1つの固体電解質層を介して設けられていることを意味する。空所内ポンプ電極は、内側主ポンプ電極22と、補助ポンプ電極51と、測定電極44を含む。酸素ポンプセルは、主ポンプセル21と、補助ポンプセル50と、測定用ポンプセル41とを含む。
【0047】
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面に設けられた天井電極部22aを有する内側主ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面に外部空間に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
【0048】
内側主ポンプ電極22は、第1内部空所20に面して配設されている。すなわち、内側主ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)、および、側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成され、そして、それら天井電極部22aと底部電極部22bとを接続するように、側部電極部(図示省略)が第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されて、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態とされた構造において配設されている。内側主ポンプ電極22の形状の詳細は後述する。
【0049】
本実施形態においては、第1内部空所20が本発明の内部空所に相当し、主ポンプセル21が本発明の酸素ポンプセルに相当し、内側主ポンプ電極22が本発明の空所内ポンプ電極に相当する。
【0050】
内側主ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極(金属成分とセラミックス成分が混在した態様の電極)である。セラミックス成分としては、特に限定されないが、基体部102と同様に、酸素イオン伝導性の固体電解質を用いることが好ましい。例えば、セラミックス成分として、ZrO2を用いることができる。
【0051】
被測定ガスに接触する内側主ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。内側主ポンプ電極22は、触媒活性を有する貴金属(例えばPt,Rh,Ir,Ru,Pdの少なくとも1つ)と、触媒活性を有する貴金属の測定対象ガス(本実施形態においてはNOx)に対する触媒活性を低下させる貴金属(例えばAu,Ag等)とを含んでいるとよい。本実施形態においては、内側主ポンプ電極22は、Auを1%含むPtとZrO2との多孔質サーメット電極とした。
【0052】
外側ポンプ電極23は、上述の触媒活性を有する貴金属を含んでいればよい。上述した基準電極42についても同様に、上述の触媒活性を有する貴金属を含んでいればよい。本実施形態においては、外側ポンプ電極23は、PtとZrO2との多孔質サーメット電極とした。
【0053】
主ポンプセル21においては、内側主ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に所望のポンプ電圧Vp0を可変電源24により印加して、内側主ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。
【0054】
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側主ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセル、すなわち、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80が構成されている。
【0055】
主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。さらに、起電力V0が一定となるようにポンプ電圧Vp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これによって、第1内部空所20内の酸素濃度を所定の一定値に保つことができる。
【0056】
第3拡散律速通路30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
【0057】
第2内部空所40は、第3拡散律速通路30を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧をより高精度に調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、補助ポンプセル50が作動することによって調整される。
【0058】
第2内部空所40では、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速通路30を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が行われるようになっている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
【0059】
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、被測定ガス流通空所15とは異なる位置、例えばセンサ素子101の外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
【0060】
補助ポンプ電極51は、被測定ガス流通空所15内の、内側主ポンプ電極22よりも前記基体部102(センサ素子101)の長手方向の前記一方の端部(先端部)から遠い位置に配設されている。
【0061】
係る補助ポンプ電極51は、第1内部空所20内に設けられた内側主ポンプ電極22と同様なトンネル形態とされた構造において、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成され、そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所40の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成されたトンネル形態の構造となっている。
【0062】
なお、補助ポンプ電極51についても、内側主ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。補助ポンプ電極51は、内側主ポンプ電極22と同様に、触媒活性を有する貴金属(例えばPt,Rh,Ir,Ru,Pdの少なくとも1つ)と、触媒活性を有する貴金属の測定対象ガス(本実施形態においてはNOx)に対する触媒活性を低下させる貴金属(例えばAu,Ag等)とを含んでいるとよい。本実施形態においては、補助ポンプ電極51は、内側主ポンプ電極22と同様に、Auを1%含むPtとZrO2との多孔質サーメット電極とした。
【0063】
補助ポンプセル50においては、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp1を可変電源52により印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
【0064】
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81が構成されている。
【0065】
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0066】
また、これとともに、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力V0の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速通路30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0067】
第4拡散律速通路60は、第2内部空所40で補助ポンプセル50の動作により酸素濃度(酸素分圧)がさらに低く制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第3内部空所61に導く部位である。
【0068】
第3内部空所61は、第4拡散律速通路60を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度を測定するための空間として設けられている。測定用ポンプセル41の動作によりNOx濃度が測定される。
【0069】
測定用ポンプセル41は、第3内部空所61内において、被測定ガス中のNOx濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、第3内部空所61に面する第1固体電解質層4の上面に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、被測定ガス流通空所15とは異なる位置、例えばセンサ素子101の外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。
【0070】
測定電極44は、前記被測定ガス流通空所15内の、前記内側主ポンプ電極22及び前記補助ポンプ電極51よりも前記基体部102(センサ素子101)の長手方向の前記一方の端部(先端部)から遠い位置に配設されている。
【0071】
測定電極44は、多孔質サーメット電極である。測定電極44は、第3内部空所61内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。測定電極44は、触媒活性を有する貴金属(例えばPt,Rh,Ir,Ru,Pdの少なくとも1つ)を含む電極である。触媒活性を有する貴金属の測定対象ガス(本実施形態においてはNOx)に対する触媒活性を低下させる貴金属(例えばAu,Ag等)を含まないことが好ましい。本実施形態においては、測定電極44は、Pt及びRhとZrO2との多孔質サーメット電極とした。
【0072】
測定用ポンプセル41においては、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
【0073】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力V2に基づいて可変電源46が制御される。
【0074】
第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速通路60を通じて第3内部空所61内の測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N2+O2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力V2が一定となるように可変電源46の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
【0075】
また、測定電極44と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42とを組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすれば、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができ、これによって被測定ガス中のNOx成分の濃度を求めることも可能である。
【0076】
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0077】
このような構成を有するガスセンサ100においては、主ポンプセル21と補助ポンプセル50とを作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスが測定用ポンプセル41に与えられる。したがって、被測定ガス中のNOxの濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることによって流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができるようになっている。
【0078】
さらに、センサ素子101は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。ヒータ部70は、ヒータ電極71と、ヒータ72と、ヒータリード76と、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74、圧力放散孔75とを備えている。
【0079】
ヒータ電極71は、第1基板層1の下面に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータ電極71を外部電源であるヒータ電源と接続することによって、外部からヒータ部70へ給電することができるようになっている。
【0080】
ヒータ72は、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。ヒータ72は、ヒータ72に接続していて且つセンサ素子101の長手方向後端側に延びているヒータリード76と、スルーホール73とを介してヒータ電極71と接続されており、該ヒータ電極71を通して外部より給電されることにより発熱し、センサ素子101を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
【0081】
また、ヒータ72は、第1内部空所20から第3内部空所61の全域に渡って埋設されており、センサ素子101全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。主ポンプセル21、補助ポンプセル50、及び測定用ポンプセル41が作動できるように温度が調整されていればよい。これらの全域が同じ温度に調整される必要はなく、センサ素子101に温度分布があってもよい。
【0082】
本実施形態のセンサ素子101においては、ヒータ72が基体部102に埋設された態様であるが、この態様に限定されるものでない。ヒータ72は、基体部102を加熱するように配設されていればよい。すなわち、ヒータ72は、上述の主ポンプセル21、補助ポンプセル50、及び測定用ポンプセル41が作動できる酸素イオン伝導性を発現させる程度に、センサ素子101を加熱できるものであればよい。例えば、本実施形態のように基体部102に埋設されていてもよい。あるいは、例えば、ヒータ部70が基体部102とは別のヒータ基板として形成され、基体部102の隣接位置に配設されていてもよい。
【0083】
ヒータ絶縁層74は、ヒータ72及びヒータリード76の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2とヒータ72及びヒータリード76との間の電気的絶縁性、および、第3基板層3とヒータ72及びヒータリード76との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
【0084】
圧力放散孔75は、第3基板層3を貫通し、ヒータ絶縁層74と基準ガス導入空間43とが連通するように形成されている。圧力放散孔75によって、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇が緩和されうる。なお、圧力放散孔75のない構成としてもよい。
【0085】
(拡散律速通路と内部空所内の構成)
第1内部空所20と、第1内部空所20に被測定ガスを導入する第2拡散律速通路13の構成について、
図2及び
図3を参照して説明する。
図2は、センサ素子101(基体部102)の長手方向と幅方向とを含む平面に見た断面を、
図3は、センサ素子101(基体部102)の幅方向の断面を、それぞれ示している。
【0086】
図2に示されるように、第1内部空所20は、平面視において略矩形状である。第2拡散律速通路13は、スペーサ層5の凸部5a,5bにより幅方向の長さが絞られた孔である。すなわち、第2拡散律速通路13は、凸部5aの側面13aと、凸部5bの側面13bにより側面が区画された孔である。第2拡散律速通路13は、第1内部空所20への開口を有している。スペーサ層5の凸部5a,5bの基体部102の先端部から遠い側の側面は、第1内部空所20を区画する側面20a,20bとなっている。
【0087】
第2拡散律速通路13は、センサ素子101の長手方向に所定の長さを有し、センサ素子101の長手方向に直交する断面が概ね矩形状の孔であって、前記断面の幅方向の長さが第1内部空所20の幅方向の長さよりも短い孔である。
図3に示されるように、第1内部空所20の、基体部102の長手方向の先端部に近い側面には、第2拡散律速通路13の開口が存在する。第2拡散律速通路13の開口の幅方向の長さW
Dは、第1内部空所20の幅方向の長さW
Cに対して1/2以下(すなわち、比W
D/W
Cが1/2以下)である。また、本実施形態においては、第2拡散律速通路13の開口の厚み方向の長さと、第1内部空所20の厚み方向の長さとは、概ね同じである。第2拡散律速通路13の開口の厚み方向の長さと、第1内部空所20の厚み方向の長さとは、異なっていてもよい。
【0088】
第2拡散律速通路13の形状は、第2拡散律速通路13の開口の幅方向の長さWDが第1内部空所20の幅方向の長さWCに対して1/2以下であり、且つ、所望の拡散抵抗となるように、適宜設定してよい。第2拡散律速通路13の開口の幅方向の長さWDの第1内部空所20の幅方向の長さWCに対する比(WD/WC)の上限値は、例えば、1/3以下、1/4以下、1/5以下等であってもよい。比(WD/WC)の下限値は、特に限定されないが、例えば、1/20以上、1/10以上等であってよい。
【0089】
第2拡散律速通路13における拡散抵抗は、第2拡散律速通路13の長手方向の長さと、センサ素子101の長手方向に直交する断面の面積に依存する。第2拡散律速通路13は、上述のように厚み方向の長さが第1内部空所20の厚み方向の長さと概ね同じであるため、幅方向の長さをセンサ素子101の幅方向の長さに対して短くしやすい。センサ素子101の幅方向において、第2拡散律速通路13(空間であるため、断熱性が高い)が存在しない部分が相対的に多くなるため、センサ素子101の厚み方向への熱伝導が良好になる。その結果、センサ素子101の昇温時においてセンサ素子101に加わる熱応力が低減し、センサ素子101の内部構造にクラックが発生しにくくなると考えられる。
【0090】
また、本実施形態の第2拡散律速通路13は、スペーサ層5を、公知のパンチング装置等により打ち抜くことにより形成することができるため、製造工程において、センサ素子101の個体間におけるばらつきをより低減し得るというメリットもある。
【0091】
なお、本実施形態においては、第2内部空所40内に被測定ガスを導入する第3拡散律速通路30、及び、第3内部空所61内に被測定ガスを導入する第4拡散律速通路60は、いずれも、第2拡散律速通路13と同様に、センサ素子101の長手方向に所定の長さを有し、センサ素子101の長手方向に直交する断面が概ね矩形状の孔であって、前記断面の幅方向の長さが、それぞれ、第2内部空所40及び第3内部空所61の幅方向の長さよりも短い孔である。第3拡散律速通路30の第2内部空所40への開口の幅方向の長さは、例えば、第2内部空所40の幅方向の長さに対して1/2以下であってよい。また、第4拡散律速通路60の第3内部空所61への開口の幅方向の長さは、例えば、第3内部空所61の幅方向の長さに対して1/2以下であってよい。
【0092】
(内部空所内の酸素濃度分布と空所内ポンプ電極)
次に、第1内部空所20内に被測定ガスが導入された時の、第1内部空所20内の酸素濃度分布について説明する。
図4は、
図2と同じ断面において、第1内部空所20内の酸素濃度分布を示す模式図である。
図4において、第1内部空所20内の内側主ポンプ電極22は図示を省略している。
【0093】
酸素を含む被測定ガスが、第2拡散律速通路13の開口を通じて、第1内部空所20内に導入されると、被測定ガスは、第2拡散律速通路13の開口から放射状に拡散すると考えられる。被測定ガス中の酸度濃度には、拡散に伴って濃度勾配が生じる。酸素濃度は、拡散距離が長いほど低濃度になる。
図4の矢印は、第2拡散律速通路13の開口から放射状に酸素濃度が低下していく様子を模式的に示している。矢印の太さが細くなるほど、酸素濃度が低下することを示す。濃度勾配が生じた結果として、第2拡散律速通路13の開口から同心円状の酸素濃度分布が形成される。
【0094】
理想的には、第2拡散律速通路13の側面13a及び第1内部空所20の側面20aにより形成される角と、第2拡散律速通路13の側面13b及び第1内部空所20の側面20bにより形成される角とを結んだ線分L0の中点Cを中心に、放射状に拡散すると考えられる。拡散距離は、中点Cからの距離に相当する。すなわち、酸素濃度は、中点Cからの距離が長いほど低濃度になる。
図4の矢印は、第2拡散律速通路13の開口から放射状に酸素濃度が低下していく様子を模式的に示している。矢印の太さが細くなるほど、酸素濃度が低下することを示し、矢印の破線部分はより低濃度であることを示している。濃度勾配が生じた結果として、中点Cからの同心円状の酸素濃度分布が形成される。
図4の破線は、中点Cを中心とする円の円弧であり、同一破線上は、酸素濃度が同じであると考えられる。中点Cからの距離が長いほど酸素濃度は低いと考えられる。
【0095】
第2拡散律速通路13の開口は、幅方向に長さW
Dを有している。従って、実際には、
図5に示すように、第2拡散律速通路13の側面13a及び第1内部空所20の側面20aにより形成される角と、第2拡散律速通路13の側面13b及び第1内部空所20の側面20bにより形成される角とを結んだ線分L0から、放射状に拡散すると考えられる。
図5は、
図2と同じ断面において、線分L0から拡散する場合における、第1内部空所20内の酸素濃度分布を示す模式図である。
図5においても、第1内部空所20内の内側主ポンプ電極22は図示を省略している。酸素濃度は、線分L0からの距離が長いほど低濃度になると考えられる。つまり、線分L0からの等距離線L1,L2,L3,L4,L5が等酸素濃度線になるような酸素濃度分布が形成されると考えられる。酸素濃度は、線分L0からの距離が長いほど、すなわち、等距離線L1,L2,L3,L4,L5の順に、低濃度となる。線分L0からの等距離線L1,L2,L3,L4,L5は、線分L0からの最短距離が等しい点の連続により表される線分である。線分L0からの距離が近いほど等距離線は湾曲し、線分L0からの距離が遠いほど等距離線は幅方向の直線に近づく。なお、第2拡散律速通路13の開口の幅方向の長さW
Dが短くなるほど、等距離線L1,L2,L3,L4,L5は、
図4における同心円に近づくと考えられる。
【0096】
例えば、仮に、第2拡散律速通路13の開口の幅方向の長さW
Dが、第1内部空所20の幅方向の長さW
Cとほぼ同じである場合には、第1内部空所20内の酸素濃度は、基体部102の長手方向の各位置について、幅方向に一様になる。実際には、第2拡散律速通路13の開口の幅方向の長さW
Dは、第1内部空所20の幅方向の長さW
Cに比べて短い。そのため、
図5に示されるように、第1内部空所20内の酸素濃度は、基体部102の長手方向の各位置について、幅方向に一様ではなく、幅方向に酸素濃度勾配が存在する。第1内部空所20内の幅方向において第2拡散律速通路13の開口がある部分の酸素濃度が、第1内部空所20内の幅方向の他の部分よりも高くなる。第1内部空所20内は、特に、基体部102の長手方向の第2拡散律速通路13の開口に近い側において、幅方向の酸素濃度勾配がより顕著になる。第1内部空所20内の第2拡散律速通路13の開口に近い位置において、局所的に酸素濃度が高い部分が存在することになる。
【0097】
第1内部空所20内には、被測定ガス中の酸素をポンピングするための内側主ポンプ電極22が配設されている。主ポンプセル21に流れるポンプ電流Ip0は内側主ポンプ電極22の全体として流れる電流であるが、微視的にみると、内側主ポンプ電極22の各位置において、各位置に接する被測定ガス中の酸素濃度に応じた電流密度で電流が流れる。すなわち、内側主ポンプ電極22のうちの、被測定ガス中の酸素濃度が高い位置において、電流密度が高くなり、その位置において電流集中が起こる。
【0098】
つまり、特に被測定ガス中の酸素濃度が高い時には、内側主ポンプ電極22は、第2拡散律速通路13の開口に近い位置ほど、高濃度の酸素に晒されるため、多くの酸素を汲み出すことになる。すなわち、特に内側主ポンプ電極22のうちの第2拡散律速通路13の開口に近い位置において、電流集中が起こり、主ポンプセルに流れる電流の電流密度が大きくなる。ガスセンサを長期間にわたって使用することにより、内側主ポンプ電極22は、特に高濃度の酸素に晒される位置(電流集中が起こる位置)において、電極中の金属成分(PtやAu)が飛散してしまうことがある。その結果、内側主ポンプ電極22それ自体が劣化したり、飛散したAuが測定電極44に付着する(被毒)ことにより測定電極44のNOxに対する分解活性が低下したりする場合がある。その結果、ガスセンサの長期間の使用により、測定対象ガス(本実施形態においては、NOx)の検出精度が低下することがある。
【0099】
より詳細に検討する。過剰な電流集中が起こると、すなわち、局所的に過剰な電流密度の位置が存在すると、局所的に大きな電流密度でポンプ電流Ip0が流れることにより、過剰な電流密度の位置において局所的に内側主ポンプ電極22に含まれるPtが酸化しやすくなり、その結果、内側主ポンプ電極22からPtやAuが蒸発しやすくなると考えられる。なお、Ptは触媒活性を有する貴金属の例であり、Auは、触媒活性を有する貴金属のNOxに対する触媒活性を低下させる貴金属の例である。PtやAuが蒸発すると、内側主ポンプ電極22のうちの蒸発によりPtやAuが減少した部分において、局所的に反応抵抗が増加する。すると、内側主ポンプ電極22全体としての抵抗値が大きくなる。そして、内側主ポンプ電極22全体に印加されるポンプ電圧Vp0が大きくなる。その結果、内側主ポンプ電極22のうちの蒸発によりPtやAuが減少した部分において、Auが減少したことにより被測定ガス中のNOxを分解しやすくなってしまうことが起こり得る。また、ポンプ電圧Vp0が大きくなると、内側主ポンプ電極22のうちの蒸発によりPtやAuが減少した部分において、さらに電流集中が大きくなると考えられる。特に、長期間にわたりガスセンサを使用した場合には、上述のような、電流集中による局所的なPtやAuの蒸発、その結果のポンプ電圧Vp0の増大、そして更なる電流集中が継続的に起こると推測される。そのため、ガスセンサ100の使用によりポンプ電圧Vp0がより大きくなっていくと考えられる。その結果、内側主ポンプ電極22の過剰な電流密度の位置において、NOxを分解しやすくなると考えられる。つまり、ガスセンサ100の長期間の使用によりNOx出力の検出精度が低下すると考えられる。
【0100】
従って、内側主ポンプ電極22における過剰な電流集中の発生しないような形状にすることにより、ガスセンサの長期間の使用により測定対象ガス(本実施形態においてはNOx)の検出精度が低下することを抑制できると考えられる。
【0101】
図6は、センサ素子101(基体部102)の長手方向と幅方向とを含む平面に見て、内側主ポンプ電極22(底部電極部22b)の平面形状を示す模式図である。本実施形態において、内側主ポンプ電極22の天井電極部22aと底部電極部22bとは、同形状あるいは実質的に同形状である。
【0102】
センサ素子101(基体部102)の長手方向と幅方向とを含む平面に見て、空所内ポンプ電極(本実施形態において、内側主ポンプ電極22)は、前記幅方向の各位置について、それぞれ、基体部102の長手方向の先端部に近い側の電極一方端から前記長手方向の電極他方端に向かって所定の長さを有する平面形状にて形成されている。
【0103】
所定の長さとは、主ポンプセル21が酸素ポンプセルとしての役割を果たすことができる程度に、内側主ポンプ電極22の電極面積を確保できるような長さである。所定の長さは、ガスセンサ100の使用目的、第1内部空所20内に導入される被測定ガスの量、及び第1内部空所20の体積等を考慮して、当業者が適宜決定してよい。
【0104】
内側主ポンプ電極22の長手方向の長さは、幅方向の各位置について、適宜設定してよいが、例えば、第1内部空所20の長手方向の長さに対して、50%以上であってよい。そのようにすれば、内側主ポンプ電極22について、主ポンプセル21が十分な酸素ポンプ機能を発現できる程度の電極面積を確保することができるであろう。また、幅方向において、第2拡散律速通路13の第1内部空所20への開口が存在する位置における内側主ポンプ電極22の長手方向の長さが、前記開口が存在しない位置における内側主ポンプ電極22の長手方向の長さ以下であるとよい。つまり、幅方向に見て前記開口が存在する位置において、第1内部空所20内のうちのセンサ素子101の長手方向の前記開口に近い位置には電極が存在しないようにするとよい。前記開口に近い位置は、局所的に酸素濃度が高くなっているため、そのような位置に電極を存在させないことにより、電流集中を低減することができる。
【0105】
内側主ポンプ電極22の幅方向の長さは、適宜設定してよいが、例えば、第1内部空所20の幅方向の長さに対して、50%以上であってよい。そのようにすれば、第1内部空所20の体積に対して、十分な酸素ポンプ機能を果たすことができる。また、好ましくは、幅方向において、少なくとも、第2拡散律速通路13の第1内部空所20への開口が存在する位置に内側主ポンプ電極22が配設されているとよい。そのようにすれば、第2拡散律速通路13の第1内部空所20への開口から導入された被測定ガス中の酸素をより効率的に第1内部空所20から汲み出すことができる。
【0106】
図6において、
図5と同様に、線分L0と等距離線L1,L2,L3,L4,L5とを破線で示している。
図6に示されるように、内側主ポンプ電極22(底部電極部22b)の先端部側の電極一方端において、点Pmaxは、線分L0からの最短距離が最大値Dmaxとなる点を示し、点Pminは、線分L0からの最短距離が最小値Dminとなる点を示す。なお、第2拡散律速通路13の開口の幅方向の長さW
Dが第1内部空所20の幅方向の長さW
Cと比較して十分に短い場合には、線分L0から前記電極一方端までの最短距離と、線分L0の中点Cから前記電極一方端までの最短距離とは、ほぼ等しくなる。
【0107】
平面視にて、拡散律速通路の内部空所への開口(本実施形態において、第2拡散律速通路13の第1内部空所20への開口、すなわち線分L0)と、前記幅方向の各位置における前記空所内ポンプ電極(本実施形態において、内側主ポンプ電極22)の前記電極一方端との間の最短距離について、前記最短距離のうちの最小値Dminの最大値Dmaxに対する比(最小値Dmin/最大値Dmax)が、0.5以上1以下である。
【0108】
比(最小値Dmin/最大値Dmax)が1の場合には、拡散律速通路の内部空所への開口と、前記幅方向の各位置における前記空所内ポンプ電極の前記電極一方端との間の最短距離がすべて等しい。すなわち、前記空所内ポンプ電極の前記電極一方端は、幅方向のいずれの位置においても、線分L0からの最短距離が同じである。従って、前記空所内ポンプ電極の前記電極一方端に接する被測定ガス中の酸素濃度は、幅方向のいずれの位置においても等しいと考えられる。つまり、前記空所内ポンプ電極の前記電極一方端上において、酸素濃度が一様となり、局所的に酸素濃度が高い部分が生じない。前記電極一方端上において、電流密度分布が一様になり、局所的な電流集中が発生しにくいと考えられる。従って、比(最小値Dmin/最大値Dmax)の値が大きいほど(1に近づくほど)、前記空所内ポンプ電極の前記電極一方端に接する被測定ガス中の酸素濃度勾配がなだらかになり、局所的な電流集中が抑制される、すなわち、空所内ポンプ電極における最大電流密度が小さくなると考えられる。
【0109】
比(最小値Dmin/最大値Dmax)が、0.5以上1以下であれば、前記空所内ポンプ電極の前記電極一方端に接する被測定ガス中の酸素濃度勾配を効果的に低減できる。その結果、内側主ポンプ電極22における電流集中を効果的に緩和することができる。比(最小値Dmin/最大値Dmax)は、例えば、0.7以上1以下であってもよい。
【0110】
本実施形態においては、内側主ポンプ電極22の平面形状は、前記電極一方端において、凹状の円弧形状である。すなわち、内側主ポンプ電極22の平面形状は、第1内部空所20の平面形状とほぼ同じ大きさの矩形(長方形)の、基体部102の先端部に近い側の一方電極端を円弧形状(例えば半円状)に凹ませた形状である。さらに言い換えれば、矩形(長方形)のうちの一方電極端が例えば半円形状に抉られており、その半円形状部分には電極が存在しない。そして、矩形(長方形)のうちの一方電極端の半円形状部分以外の部分に電極が存在する。内側主ポンプ電極22において、比(最小値Dmin/最大値Dmax)は、0.9以上である。
【0111】
図6に示されるように、平面視において、第1内部空所20には、内側主ポンプ電極22の存在する電極存在領域と、内側主ポンプ電極22の存在しない電極不存在領域とがある。電極不存在領域は、内側主ポンプ電極22の電極一方端側における開口側の電極不存在領域と、内側主ポンプ電極22の幅方向両端及び電極他方端と第1内部空所20との間の隙間の電極不存在領域とを含む。第1内部空所20内の、第2拡散律速通路13の開口に近い位置においては、上述のように、局所的に酸素濃度が高い領域が存在する。このような局所的に酸素濃度が高い領域を電極不存在領域にすることにより、内側主ポンプ電極22の局所的な電流集中を効果的に低減することができる。内側主ポンプ電極22の局所的な電流集中を低減する観点において、開口側の電極不存在領域の面積は、第1内部空所20の面積に対して、例えば、10%以上であってよい。また、15%以上、20%以上であってよい。
【0112】
内側主ポンプ電極22の存在する電極存在領域の面積は、第1内部空所20の面積に対して、例えば、50%以上であってよい。また、60%以上、70%以上であってよい。このような範囲であれば、内側主ポンプ電極22について、主ポンプセル21が十分な酸素ポンプ機能を発現できる程度の電極面積を確保することができるであろう。
【0113】
上述の実施形態のセンサ素子101においては、内側主ポンプ電極22の平面形状は、前記電極一方端において、凹状の円弧形状であったが、内側主ポンプ電極22の平面形状は、これに限られない。比(最小値Dmin/最大値Dmax)が、0.5以上1以下となる範囲で、様々な平面形状を取り得る。以下に、内側主ポンプ電極22の平面形状についての、変形形態1~3を示す。
【0114】
(変形形態1)
図7は、変形形態1のセンサ素子201の、内側主ポンプ電極222(底部電極部222b)の平面形状を示す模式図である。内側主ポンプ電極222(底部電極部222b)の平面形状以外は、
図6と同様である。
図7においても、
図6と同様に、内側主ポンプ電極222(底部電極部222b)の先端部側の電極一方端において、点Pmaxは、線分L0からの最短距離が最大値Dmaxとなる点を示し、点Pminは、線分L0からの最短距離が最小値Dminとなる点を示す。
【0115】
センサ素子201における内側主ポンプ電極222の平面形状は、基体部102の先端部に近い側の電極一方端において、その一部が凹状の円弧形状である。内側主ポンプ電極222の平面形状は、第1内部空所20の平面形状とほぼ同じ大きさの矩形(長方形)の、基体部102の先端部に近い側のうち、幅方向において、第2拡散律速通路13の第1内部空所20への開口が存在する位置を含む一部を、円弧形状に凹ませた形状である。言い換えれば、矩形(長方形)のうちの一方電極端の一部が例えば弓型形状に抉られており、その弓型形状部分には電極が存在しない。そして、矩形(長方形)のうちの前記弓型形状部分以外の部分に電極が存在する。内側主ポンプ電極222において、比(最小値Dmin/最大値Dmax)は、0.5である。
【0116】
(変形形態2)
図8は、変形形態2のセンサ素子301の、内側主ポンプ電極322(底部電極部322b)の平面形状を示す模式図である。内側主ポンプ電極322(底部電極部322b)の平面形状以外は、
図6と同様である。
図8においても、
図6と同様に、内側主ポンプ電極322(底部電極部322b)の先端部側の電極一方端において、点Pmaxは、線分L0からの最短距離が最大値Dmaxとなる点を示し、点Pminは、線分L0からの最短距離が最小値Dminとなる点を示す。
【0117】
センサ素子301における内側主ポンプ電極322の平面形状は、矩形状あるいは概ね矩形状であり、第1内部空所20の先端部側には電極が存在しないようになされている。第2拡散律速通路13の第1内部空所20への開口(すなわち線分L0)からの最短距離が遠くなるほど、上述のように線分L0からの等距離線は幅方向の直線に近づく。そのため、矩形状(電極一方端が幅方向の直線状)であっても、比(最小値Dmin/最大値Dmax)が大きくなりうる。内側主ポンプ電極322において、比(最小値Dmin/最大値Dmax)は、0.7である。
【0118】
(変形形態3)
図9は、変形形態3のセンサ素子401の、内側主ポンプ電極422(底部電極部422b)の平面形状を示す模式図である。内側主ポンプ電極422(底部電極部422b)の平面形状以外は、
図6と同様である。
図9においても、
図6と同様に、内側主ポンプ電極422(底部電極部422b)の先端部側の電極一方端において、点Pmaxは、線分L0からの最短距離が最大値Dmaxとなる点を示し、点Pminは、線分L0からの最短距離が最小値Dminとなる点を示す。
【0119】
センサ素子401における内側主ポンプ電極422の平面形状は、基体部102の先端部に近い側の電極一方端において、凹状である。具体的には、内側主ポンプ電極422の平面形状は、第1内部空所20の平面形状とほぼ同じ大きさの矩形(長方形)の、基体部102の先端部に近い側を台形状に凹ませた形状である。言い換えれば、矩形(長方形)のうちの一方電極端が台形状に抉られており、その台形状部分には電極が存在しない。そして、矩形(長方形)のうちの前記台形状部分以外の部分に電極が存在する。内側主ポンプ電極422において、比(最小値Dmin/最大値Dmax)は、0.8である。
【0120】
内側主ポンプ電極の平面形状は、種々の形状を取り得る。基体部102の長手方向と幅方向とを含む平面に見て、内側主ポンプ電極の平面形状は、基体部102の先端部に近い側の電極一方端において、例えば、内側主ポンプ電極22、222、422のように、凹状の形状であってよい。
【0121】
基体部102の長手方向と幅方向とを含む平面に見て、内側主ポンプ電極の平面形状は、基体部102の先端部に近い側の電極一方端において、例えば、内側主ポンプ電極22のように、凹状の円弧形状であってよい。
【0122】
基体部102の長手方向と幅方向とを含む平面に見て、内側主ポンプ電極の平面形状は、基体部102の先端部に近い側の電極一方端において、第2拡散律速通路13の第1内部空所20への開口と、幅方向の各位置における内側主ポンプ電極の前記電極一方端との間の最短距離が等しい形状であってよい。すなわち、比(最小値Dmin/最大値Dmax)=1。
【0123】
(比較形態)
図10は、比較形態のセンサ素子901の、内側主ポンプ電極922(底部電極部922b)の平面形状を示す模式図である。内側主ポンプ電極922(底部電極部922b)の平面形状以外は、
図6と同様である。
図10においても、
図6と同様に、内側主ポンプ電極922(底部電極部922b)の先端部側の電極一方端において、点Pmaxは、線分L0からの最短距離が最大値Dmaxとなる点を示し、点Pminは、線分L0からの最短距離が最小値Dminとなる点を示す。
【0124】
比較形態のセンサ素子901における内側主ポンプ電極922の平面形状は、第1内部空所20の平面形状とほぼ同じ大きさの矩形(長方形)である。幅方向において、第2拡散律速通路13の第1内部空所20への開口(すなわち線分L0)が存在する位置の、前記開口に近い位置は、局所的に酸素濃度が高くなっており、幅方向の酸素濃度勾配が大きい。内側主ポンプ電極922の基体部102の先端部に近い側の電極一方端が、幅方向の酸素濃度勾配が大きい位置に存在するために、幅方向において、前記開口(すなわち線分L0)が存在する位置の、前記電極一方端上において、過剰な電流集中が発生すると考えられる。内側主ポンプ電極922において、比(最小値Dmin/最大値Dmax)は、0.1である。
【0125】
上記に、本発明の実施形態及び変形形態の例として、被測定ガス中のNOx濃度を検出するセンサ素子101、201、301、401を示したが、本発明はこれらの形態に限られない。本発明には、ガスセンサの長期間の使用による測定対象ガスの検出精度の低下を抑制するという本発明の目的を達成する範囲であれば、種々の形態のセンサ素子が含まれ得る。
【0126】
上述の実施形態においては、ガスセンサ100は被測定ガス中のNOx濃度を検出したが、測定対象ガスはNOxに限られない。例えば、測定対象ガスはNOx以外の他の酸化物ガス(例えば、二酸化炭素CO2、水H2O等)であってもよい。測定対象ガスが酸化物ガスの場合には、上述のNOx濃度を検出する実施形態と同様に、酸化物ガスそれ自体を含む被測定ガスが第3内部空所61に導入され、測定電極44において被測定ガス中の酸化物ガスが還元されて酸素が発生する。発生した酸素を測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2として取得して測定対象ガスを検出することができる。
【0127】
また、例えば、測定対象ガスはアンモニアNH3等の非酸化物ガスであってもよい。測定対象ガスが非酸化物ガスの場合には、非酸化物ガスを酸化物ガスに変換(例えば、アンモニアNH3の場合にはNOに変換)し、変換された酸化物ガスを含む被測定ガスが第3内部空所61に導入される。測定電極44において被測定ガス中の変換された酸化物ガスが還元されて酸素が発生する。発生した酸素を測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2として取得して測定対象ガスを検出することができる。非酸化物ガスの酸化物ガスへの変換は、内側主ポンプ電極22及び補助ポンプ電極51の少なくともいずれか一方が触媒として機能することによって行うことができる。
【0128】
上述の実施形態のセンサ素子101、及び変形形態のセンサ素子201、301、401においては、第2拡散律速通路13の第1内部空所20への開口は、幅方向において、第1内部空所20の中央に位置していたが、これに限られない。前記開口は、幅方向において、第1内部空所20の中央からずれた位置に存在していてもよい。
【0129】
上述の実施形態のセンサ素子101、及び変形形態のセンサ素子201、301、401においては、第2拡散律速通路13の第1内部空所20への開口は、1つであったが、これに限られない。拡散律速通路の第1内部空所20への開口は、複数あってもよい。複数の開口のそれぞれの幅方向の長さの合計が、第1内部空所20の幅方向の長さWCに対して1/2以下であればよい。この場合、複数の開口と、前記幅方向の各位置における前記空所内ポンプ電極の前記電極一方端との間の最短距離について、前記最短距離のうちの最小値の最大値に対する比が、0.5以上1以下であればよい。この場合の最短距離とは、複数の開口のそれぞれと、前記幅方向の各位置における前記空所内ポンプ電極の前記電極一方端との間の最短距離のうちの最短のものを意味する。
【0130】
上述の実施形態のセンサ素子101、及び変形形態のセンサ素子201、301、401においては、第2拡散律速通路13は、基体部102の長手方向において、幅方向の長さが一様な孔であったが、これに限られない。第2拡散律速通路13の開口の幅方向の長さWDが、第1内部空所20の幅方向の長さWCに対して1/2以下となっていれば、基体部102の長手方向において、幅方向の長さが変化してもよい。第2拡散律速通路13は、例えば、基体部102の先端部側から第1内部空所20側に向かって、幅方向の長さが大きくなる形状であってもよいし、小さくなる形状であってもよい。
【0131】
上述の実施形態のセンサ素子101においては、内側主ポンプ電極22は、第1内部空所20の天井面に形成された天井電極部22aと、第1内部空所20の底面に形成された底部電極部22bと、それら天井電極部22aと底部電極部22bとを接続するように第1内部空所20の側面に形成された側部電極部とで構成されていたが、これに限られない。内側主ポンプ電極22は、例えば、第1内部空所20の天井面にのみ形成されていてもよい。あるいは、第1内部空所20の底面にのみ形成されていてもよい。また、例えば、内側主ポンプ電極22が天井電極部22aと底部電極部22bとを有する場合において、天井電極部22aと底部電極部22bとは同じ平面形状であってもよいし、異なる平面形状であってもよい。天井電極部22a及び底部電極部22bの少なくとも一方において、第2拡散律速通路13の開口と、前記幅方向の各位置における前記電極一方端との間の最短距離について、前記最短距離のうちの最小値の最大値に対する比が、0.5以上1以下であればよい。
【0132】
上述の実施形態のセンサ素子101においては、内側主ポンプ電極22の平面形状を本発明の形状とし、補助ポンプ電極51及び測定電極44の平面形状は矩形状としたが、これに限られない。内側主ポンプ電極22、補助ポンプ電極51及び測定電極44の少なくとも1つの電極の平面形状を、内側主ポンプ電極22と同様に、本発明の形状としてもよい。少なくとも、電極に接する被測定ガス中の酸素濃度が最も高い内側主ポンプ電極22について、平面形状を本発明の形状とすることが好ましい。内側主ポンプ電極22、補助ポンプ電極51及び測定電極44のいずれについても、平面形状を本発明の形状としてもよい。
【0133】
上述の実施形態のガスセンサ100においては、センサ素子101は、
図1に示すように、第1内部空所20、第2内部空所40、及び第3内部空所61の3つの内部空所を備え、各内部空所には、内側主ポンプ電極22、補助ポンプ電極51、及び測定電極44がそれぞれ配置されている構造であったが、これに限られない。例えば、第1内部空所20及び第2内部空所40の2つの内部空所を備え、第1内部空所20には内側主ポンプ電極22が、第2内部空所40には補助ポンプ電極51及び測定電極44がそれぞれ配置されている構造としてもよい。この場合、例えば、補助ポンプ電極51と測定電極44との間の拡散律速通路として、測定電極44を覆う多孔体保護層を形成してもよい。
【0134】
上述の実施形態のガスセンサ100においては、外側ポンプ電極23は、主ポンプセル21における外側主ポンプ電極と、補助ポンプセル50における外側補助ポンプ電極と、測定用ポンプセル41における外側測定電極との3つの電極の機能を兼ねていたが、これに限られない。例えば、外側主ポンプ電極、外側補助ポンプ電極、及び外側測定電極はそれぞれ別の電極として形成されていてもよい。例えば、外側主ポンプ電極、外側補助ポンプ電極、及び外側測定電極のいずれか1つ以上を外側ポンプ電極23とは別に基体部102の外表面に被測定ガスと接するように設けてもよい。あるいは、外側主ポンプ電極、外側補助ポンプ電極、及び外側測定電極のいずれか1つ以上を基準電極42が兼ねてもよい。
【0135】
[センサ素子製造方法]
次に、上述のようなセンサ素子の製造方法の一例を説明する。ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含む複数の未焼成のシート状成形物(いわゆるグリーンシート)に所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後に、当該複数のシートを積層し、その積層体を切断した後、焼成することによってセンサ素子101を作製することができる。
【0136】
以下においては、
図1に示した6つの層からなるセンサ素子101を作製する場合を例として説明する。
【0137】
まず、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含む6枚のグリーンシートを準備する。グリーンシートの作製には、公知の成形方法を用いることができる。例えば、安定化剤のイットリア(Y2O3)を4mol%添加したジルコニア(ZrO2)粉末を有機バインダー及び有機溶剤と混合し、テープ成形により成形し、所望の大きさに切断することにより準備してよい。6枚のグリーンシートは全て同じ厚みでもよいし、形成する層によって厚みが異なってもよい。6枚のグリーンシートそれぞれに、印刷時や積層時の位置決めに用いるシート穴等を、パンチング装置による打ち抜き処理などの公知の方法で、予め形成して、ブランクシートを作製する。スペーサ層5に用いるブランクシートには、内部空所等の貫通部も同様の方法で形成する。その他の層にも必要な貫通部を予め形成する。
【0138】
本実施形態においては、スペーサ層5に用いるブランクシートには、各内部空所20,40,61と同様に、第2拡散律速通路13、第3拡散律速通路30、及び第4拡散律速通路60を、例えば、パンチング装置による打ち抜き処理により、予め形成する。
【0139】
第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層に用いるブランクシートに、各層毎に必要な種々のパターンの印刷・乾燥処理を行う。パターンの印刷には、公知のスクリーン印刷技術を用いることができる。乾燥処理についても、公知の乾燥手段を用いることができる。
【0140】
例えば、内側主ポンプ電極22の形成に用いる電極ペーストを、所望の組成となるように作製する。次に、第2固体電解質層6の下面となる面、及び第1固体電解質層4の上面となる面に、内側主ポンプ電極22用の電極ペーストを、所望の位置に所望のパターンで印刷・乾燥する。
【0141】
このような工程を繰り返し、6枚のブランクシートそれぞれに対する種々のパターンの印刷・乾燥が終わると、6枚の印刷済みブランクシートを、シート穴等で位置決めしつつ所定の順序で積み重ねて、所定の温度・圧力条件で圧着させて積層体とする圧着処理を行う。圧着処理は、公知の油圧プレス機等の積層機で加熱・加圧することにより行う。加熱・加圧する温度、圧力及び時間は、用いる積層機に依存するものであるが、良好な積層が実現できるように、適宜定めることができる。
【0142】
得られた積層体は、複数個のセンサ素子101を包含している。その積層体を切断してセンサ素子101の単位に切り分ける。切り分けられた積層体を所定の焼成温度で焼成し、センサ素子101を得る。焼成温度は、センサ素子101の基体部102を構成する固体電解質が焼結して緻密体となり、かつ、電極等が所望の気孔率を保持する温度であればよい。例えば、1300~1500℃程度の焼成温度で焼成される。
【0143】
得られたセンサ素子101を、センサ素子101の先端部が被測定ガスに接し、センサ素子101の後端部が基準ガスに接するような態様でケーシングに組み込むことにより、ガスセンサ100を作製する。
【実施例0144】
以下に、実施例を用いてさらに説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0145】
[実施例1~4及び比較例1]
実施例1~4及び比較例1として、上述したセンサ素子101の製造方法に従って、内側ポンプ電極の平面形状がそれぞれ異なるセンサ素子を作製した。実施例1~4及び比較例1のいずれにおいても、内側主ポンプ電極は天井電極部及び底部電極部を有するものとし、天井電極部及び底部電極部は同じ平面形状とした。また、いずれも厚み10μmとした。
【0146】
実施例1~4及び比較例1のいずれにおいても、第1内部空所20の大きさは、センサ素子101の長手方向(以下において、単に長手方向と表記する)の長さ3.3mm、センサ素子101の長手方向に直交する幅方向の長さ(以下において、単に幅方向と表記する)2.5mm、厚み100μmとした。第2拡散律速通路13の第1内部空所20への開口は、幅方向の長さ0.5mmとし、前記開口の幅方向の中心と、第1内部空所20の幅方向の中心とが一致するように配置した。
【0147】
実施例1として、
図6に示される内側主ポンプ電極22を有するセンサ素子101を作製した。内側主ポンプ電極22において、比(最小値Dmin/最大値Dmax)は、0.9以上であった。内側主ポンプ電極22の天井電極部22a及び底部電極部22bの形状はそれぞれ、幅方向の両端において、長手方向の長さが3.1mm、長手方向の後端部側において、幅方向の長さが幅2.3mmとした。長手方向の先端部側において、幅方向の中点を中心とする直径2.3mmの半円状に凹んだ平面形状とした。
【0148】
実施例2として、
図7に示される内側主ポンプ電極222を有するセンサ素子201を作製した。内側主ポンプ電極222において、比(最小値Dmin/最大値Dmax)は、0.5であった。内側主ポンプ電極222の天井電極部及び底部電極部222bの形状はそれぞれ、幅方向の両端において、長手方向の長さが3.1mm、長手方向の後端部側において、幅方向の長さが幅2.3mmとした。長手方向の先端部側において、幅方向の中点を中心とする幅方向の長さ1.5mmの部分が直径2.3mmの円弧状に凹んだ平面形状とした。
【0149】
実施例3として、
図8に示される内側主ポンプ電極322を有するセンサ素子301を作製した。内側主ポンプ電極322において、比(最小値Dmin/最大値Dmax)は、0.7であった。内側主ポンプ電極322の天井電極部及び底部電極部322bの形状はそれぞれ、長手方向の長さが1.6mm、幅方向の長さが幅2.3mmの矩形状とした。長手方向の後端部側の電極他方端の、長手方向の位置が、他の実施例1、2、4、及び比較例1と同じ位置になるように配設し、長手方向の先端部側の電極一方端が開口から遠い位置(開口から長手方向に1.7mmの位置)に存在するようにした。
【0150】
実施例4として、
図9に示される内側主ポンプ電極422を有するセンサ素子401を作製した。内側主ポンプ電極422において、比(最小値Dmin/最大値Dmax)は、0.8あった。内側主ポンプ電極422の天井電極部及び底部電極部422bの形状はそれぞれ、幅方向の両端において、長手方向の長さが3.1mm、長手方向の後端部側において、幅方向の長さが幅2.3mmとした。また、幅方向の中央において、長手方向の長さが1.0mmとした。長手方向の先端部側において、先端部側を下底とする台形状に凹んだ平面形状とした。台形の上底は、幅方向の中点を中心に幅方向の長さが1.5mm、台形の下底は、幅方向の長さが幅2.3mmとした。
【0151】
比較例1として、
図10に示される内側主ポンプ電極922を有するセンサ素子901を作製した。内側主ポンプ電極922において、比(最小値Dmin/最大値Dmax)は、0.1であった。内側主ポンプ電極922の天井電極部及び底部電極部922bの形状はそれぞれ、長手方向の長さが3.1mm、幅方向の長さが幅2.3mmの矩形状とした。
【0152】
内側ポンプ電極以外は、センサ素子101と同じ構成として、各センサ素子を作製した。作製した各センサ素子をそれぞれケーシングに組み込んでガスセンサを作製した。
【0153】
[耐久試験]
ディーゼルエンジンを用いた耐久試験を行い、NOx検出感度の劣化の程度を評価した。耐久試験の前と後とにおいて、ガスセンサのNO濃度500ppmにおけるNOx感度(Ip2電流値)を、それぞれ測定し、耐久試験前と耐久試験後のNOx感度変化率を算出した。NOx感度変化率により、NOx検出感度の劣化の程度を評価・判定した。具体的には、以下のように試験を行った。
【0154】
まず、実施例1のガスセンサをモデルガス装置において測定した。実施例1のガスセンサをモデルガス装置の測定用配管に取り付けた。実施例1のガスセンサを駆動した。NO=500ppmかつO2=0%のモデルガスを測定用配管に流し、実施例1のガスセンサのIp2電流値(Ip2fresh)を測定した。実施例2~4及び比較例1のそれぞれについても同様にIp2電流値(Ip2fresh)を測定した。なお、測定に用いたモデルガス中におけるNOとO2以外のガス成分は、H2O(3%)、及びN2(残部)とした。
【0155】
次に、ディーゼルエンジンを用いた耐久試験を行った。実施例1~4及び比較例1の各ガスセンサを自動車の排ガス管の配管に取り付けた。そして、各ガスセンサを駆動させた。この状態で、エンジン回転数1500~3500rpm、負荷トルク0~350N・mの範囲で構成した40分間の運転パターンを、3000時間が経過するまで繰り返した。なお、そのときのガス温度は200℃~600℃、NOx濃度は0~1500ppmであった。
【0156】
上記の耐久試験後の各ガスセンサについて、上述の方法により、NO=500ppmかつO2=0%のモデルガスにおける耐久試験後のそれぞれのガスセンサのIp2電流値(Ip2aged)を測定した。
【0157】
実施例1~4及び比較例1のガスセンサのそれぞれについて、耐久試験前後におけるNOx検出感度の変化量を算出した。すなわち、耐久試験前におけるIp2電流値(Ip2fresh)に対する、耐久試験後のIp2電流値(Ip2aged)の変化率(NOx感度変化率)を算出した。
【0158】
NOx感度変化率(%)=(Ip2aged/Ip2fresh-1)×100
【0159】
求めたNOx感度変化率(%)について、以下の基準で判定し、耐久性能を評価した。
A:NOx感度変化率が±5%以内
B:NOx感度変化率が±5%より大きく、±10%以内
C:NOx感度変化率が±10%より大きく、±15%以内
D:NOx感度変化率が±15%より大きい
【0160】
判定A、B、及びCであれば、実使用において、長期間使用した場合であっても、精度よくNOxを検出することができると考えられる。
【0161】
表1に、実施例1~4及び比較例1の評価結果を示す。また、併せて、実施例1~4及び比較例1のそれぞれにおける、内側主ポンプ電極の平面形状、及び、比(最小値Dmin/最大値Dmax)の値を示す。
【0162】
【0163】
実施例1~4はいずれも、比較例1と比較して、良好な耐久性能を有することが確認された。比(最小値Dmin/最大値Dmax)が大きいほど(1に近づくほど)、より良好な耐久性能を有することが確認された。
【0164】
以上のように、本発明によれば、内側主ポンプ電極22において、第2拡散律速通路13の第1内部空所20への開口に近い位置における電流集中を緩和することができるため、ガスセンサ100の長期間の使用により主ポンプセル21の抵抗値が上昇した場合であっても、内側主ポンプ電極22における測定対象ガス(例えば、NOx)の分解をより抑制できる。その結果、ガスセンサの長期間の使用による測定対象ガスの検出精度の低下を抑制できる。