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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105093
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物、及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20240730BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C08L21/00
B60C1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009652
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】角田 怜名
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA03
3D131BA05
3D131BA12
3D131BC02
3D131BC33
4J002AC011
4J002AC031
4J002AC061
4J002AC081
4J002AC091
4J002BB151
4J002BD121
4J002BP021
4J002CK021
4J002CP031
4J002DA036
4J002DJ017
4J002FD016
4J002FD017
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】タイヤの低転がり抵抗性を保持しつつ、優れた耐摩耗性を発現させ得るタイヤ用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】
ゴム成分、カーボンブラック及びシリカを含有し、前記カーボンブラックは、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド吸着比表面積(CTAB)が130m/g以上、ヨウ素吸着量(IA)(mg/g)に対する前記CTAB(m/g)の比(CTAB/IA)が0.92以上1.06以下、且つ、水素放出量が3500質量ppm以上4500質量ppm以下である、ことを特徴とする、タイヤ用ゴム組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分、カーボンブラック及びシリカを含有し、
前記カーボンブラックは、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド吸着比表面積(CTAB)が130m/g以上、ヨウ素吸着量(IA)(mg/g)に対する前記CTAB(m/g)の比(CTAB/IA)が0.92以上1.06以下、且つ、水素放出量が3500質量ppm以上4500質量ppm以下である、
ことを特徴とする、タイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム成分は、変性ブタジエンゴムを含む、請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ゴム成分中の前記変性ブタジエンゴムの割合が、5質量%以上である、請求項2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記ゴム成分中の前記変性ブタジエンゴムの割合が、40質量%以下である、請求項2又は3に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
前記カーボンブラックのCTABが、135m/g以上150m/g以下である、請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項6】
前記カーボンブラック及び前記シリカの合計含有量に対する前記シリカの含有量の質量比が0.80以下である、請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項7】
前記カーボンブラックの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して20質量部以上60質量部以下である、請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項8】
前記ゴム成分が、天然ゴムを含む、請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項9】
タイヤトレッドに用いられる、請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項10】
請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物をトレッドに用いたことを特徴とする、タイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物、及びタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤのトレッドには、特に耐摩耗性が要求されており、トレッド作製に用いられる材料の適正化を図ることで、性能の改善が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1は、ジエン系ゴムと、シリカ及びカーボンブラックからなるシリカリッチの補強剤とを含むゴム組成物に、所定量のポリスチレン-ビニルイソプレントリブロック共重合体を配合することで、耐摩耗性と低転がり抵抗とを両立できることを開示している。
【0004】
また、例えば、特許文献2は、所定の変性剤で変性されてなる比較的高シス含量のブタジエン系重合体と、窒素吸着比表面積が100m/gを超えるカーボンブラックとを組み合わせたゴム組成物をトレッドに用いることで、耐摩耗性に優れる空気入りタイヤが得られることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-010781号公報
【特許文献2】特開2011-219612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、特許文献1の技術では、特殊な共重合体を用いているところ、そのような特殊な共重合体を用いることなく、優れた耐摩耗性及び低転がり抵抗性を両立させることの要求がある。また、特許文献1,2に記載のゴム組成物は、耐摩耗性及び低転がり抵抗性の一層高度なバランスの点、特に、低転がり抵抗性を良好に保持する点で、改良の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、タイヤの低転がり抵抗性を保持しつつ、優れた耐摩耗性を発現させ得るタイヤ用ゴム組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、低転がり抵抗性及び耐摩耗性に優れたタイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0009】
[1] ゴム成分、カーボンブラック及びシリカを含有し、
前記カーボンブラックは、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド吸着比表面積(CTAB)が130m/g以上、ヨウ素吸着量(IA)(mg/g)に対する前記CTAB(m/g)の比(CTAB/IA)が0.92以上1.06以下、且つ、水素放出量が3500質量ppm以上4500質量ppm以下である、
ことを特徴とする、タイヤ用ゴム組成物。
かかる本発明のタイヤ用ゴム組成物は、タイヤの低転がり抵抗性を保持しつつ、優れた耐摩耗性を発現させ得る。
【0010】
[2] 前記ゴム成分は、変性ブタジエンゴムを含む、[1]に記載のタイヤ用ゴム組成物。
この場合、耐摩耗性をより向上させることができる。
【0011】
[3] 前記ゴム成分中の前記変性ブタジエンゴムの割合が、5質量%以上である、[2]に記載のタイヤ用ゴム組成物。
この場合、耐摩耗性をより十分に向上させることができる。
【0012】
[4] 前記ゴム成分中の前記変性ブタジエンゴムの割合が、40質量%以下である、[2]2又は[3]に記載のタイヤ用ゴム組成物。
この場合、低コストであり、ゴム混練時の作業性を保持することができる。
【0013】
[5] 前記カーボンブラックのCTABが、135m/g以上150m/g以下である、[1]~[4]のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
この場合、耐摩耗性をより向上させ、また、低転がり抵抗性や加工性をより良好に保持することができる。
【0014】
[6] 前記カーボンブラック及び前記シリカの合計含有量に対する前記シリカの含有量の質量比が0.80以下である、[1]~[5]のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
この場合、耐摩耗性を十分に高く保持することができる。
【0015】
[7] 前記カーボンブラックの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して20質量部以上60質量部以下である、[1]~[6]のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
この場合、耐摩耗性を効果的に向上させることができ、低転がり抵抗性や加工性をより良好に保持することができる。
【0016】
[8] 前記ゴム成分が、天然ゴムを含む、[1]~[7]のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
この場合、ゴム物品としての機械的強度を高めることができる。
【0017】
[9] タイヤトレッドに用いられる、[1]~[8]のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【0018】
[10] [1]~[9]のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物をトレッドに用いたことを特徴とする、タイヤ。
かかる本発明のタイヤは、低転がり抵抗性及び耐摩耗性に優れる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、タイヤの低転がり抵抗性を保持しつつ、優れた耐摩耗性を発現させ得るタイヤ用ゴム組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、低転がり抵抗性及び耐摩耗性に優れたタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。但し、かかる説明は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0021】
なお、本明細書に記載されている化合物は、部分的に、又は全てが化石資源由来であってもよく、植物資源等の生物資源由来であってもよく、使用済タイヤ等の再生資源由来であってもよい。また、化石資源、生物資源、再生資源のいずれか2つ以上の混合物由来であってもよい。
【0022】
(タイヤ用ゴム組成物)
本発明の一実施形態に係るタイヤ用ゴム組成物(以下、「本実施形態のゴム組成物」と称することがある。)は、少なくとも、ゴム成分、カーボンブラック及びシリカを含有する。また、本実施形態で用いる上記カーボンブラックは、第1の物性として、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド吸着比表面積(CTAB)が130m/g以上であり、第2の物性として、ヨウ素吸着量(IA)(mg/g)に対する前記CTAB(m/g)の比(CTAB/IA)が0.92以上1.06以下であり、且つ、第3の物性として、水素放出量が3500質量ppm以上4500質量ppm以下であることを要する。本実施形態のゴム組成物は、上記物性を具備するカーボンブラックを含有するため、高い耐摩耗性を発現することができる。なお、上記の物性を同時に具備するカーボンブラックは、実質的には新規である。更に、本実施形態のゴム組成物は、上記所定物性を有するカーボンブラックとともにシリカを含有することで、低転がり抵抗性を良好に保持しながら、高い耐摩耗性を発現することができる。
【0023】
本実施形態のゴム組成物は、上記の通り少なくとも優れた耐摩耗性を発現させることができるため、タイヤトレッドに好適に用いられる。
【0024】
<ゴム成分>
本実施形態のゴム組成物に含有されるゴム成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。これらゴム成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらゴム成分は、変性されたものであってもよい。
【0025】
本実施形態において、上記ゴム成分は、変性ブタジエンゴムを含むことが好ましい。なお、変性ブタジエンゴムは、炭素及び水素以外の原子を有する官能基を1種以上有するブタジエンゴムである。変性ブタジエンゴムは、カーボンブラックと化学的に結合することで優れた補強性を発現するので、耐摩耗性をより向上させることができる。変性ブタジエンゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
変性ブタジエンゴムは、上記官能基を、末端に有してもよく、主鎖に有してもよい。また、変性ブタジエンゴムは、例えば、ブタジエンゴム(無変性ブタジエンゴム)を変性剤で変性させることにより、得ることができる。
【0027】
炭素及び水素以外の原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、半金属原子及び金属原子等が挙げられ、上記官能基はこれらより選ばれる1種以上の原子を有することが好ましい。また、半金属原子としては、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン及びテルル等が挙げられるが、これらの中でも、ホウ素、ケイ素及びゲルマニウムから選ばれる1種以上の原子がより好ましく、ケイ素が特に好ましい。また、金属原子としては、スズ、チタン、ジルコニウム、ビスマス及びアルミニウム等が挙げられるが、これらの中でも、スズ及びチタンから選ばれる1種以上の原子がより好ましく、スズが特に好ましい。
【0028】
本実施形態のゴム組成物において、ゴム成分中の変性ブタジエンゴムの割合は、耐摩耗性をより十分に向上させる観点から、5質量%以上であることが好ましく、8質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましい。一方、ゴム成分中の変性ブタジエンゴムの割合の上限は、特に限定されないが、低コストの観点、及び、ゴム混練時の作業性の観点などから、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが更に好ましい。
【0029】
また、本実施形態のゴム組成物は、天然ゴム(NR)を含有することが好ましい。換言すると、本実施形態で用いるゴム成分は、天然ゴムを含むことが好ましい。
【0030】
本実施形態のゴム組成物において、ゴム成分中の天然ゴムの割合は、機械的強度を十分に高める観点から、60質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましい。一方、ゴム成分中の天然ゴムの割合の上限は、特に限定されないが、天然ゴム以外のゴム成分(例えば、変性ブタジエンゴムなど)を併用することの効果を十分に得る観点から、95質量%以下であることが好ましく、92質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることが更に好ましい。
【0031】
また、本実施形態のゴム組成物は、上述した変性ブタジエンゴム及び天然ゴム以外の、その他のゴム成分を含有してもよく、含有しなくてもよい。但し、本実施形態のゴム組成物において、ゴム成分中の上記その他のゴム成分の割合は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましく、0質量%である(即ち、その他のゴム成分を含有しない)ことが特に好ましい。
【0032】
<カーボンブラック>
本実施形態のゴム組成物は、充填剤として、カーボンブラックを含有する。ここで、本実施形態で用いるカーボンブラックは、第1の物性として、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド吸着比表面積(CTAB)が130m/g以上であることを要する。上記カーボンブラックは、CTABが130m/g以上であるので、ゴム成分の補強性を高め、ひいては耐摩耗性の向上に寄与することができる。また、上記カーボンブラックのCTABは、耐摩耗性をより向上させる観点から、135m/g以上であることが好ましく、また、低転がり抵抗性や加工性をより良好に保持する観点から、150m/g以下であることが好ましい。
なお、カーボンブラックのCTABは、JIS K6217-3に準拠して測定される。また、カーボンブラックのCTABの調整は、限定されないが、例えば、カーボンブラックを製造する際の、原料導入条件、空気導入条件、燃料導入条件、冷却水導入条件等の各種条件をコントロールすることで行うことができる。
【0033】
上記カーボンブラックは、ヨウ素吸着量(IA)が150mg/g以下であることが好ましい。カーボンブラックのIAが150mg/g以下であれば、カーボンブラック表面の所定の活性化が好適に行われて、ゴム成分(変性ブタジエンゴムなど)との相互作用性を良好に高めることができる。また、上記カーボンブラックのIAは、低転がり抵抗性や加工性をより良好に保持する観点から、130mg/g以上であることが好ましい。
なお、カーボンブラックのIAは、JIS K6217-1に準拠して測定される。また、カーボンブラックのIAの調整は、限定されないが、例えば、カーボンブラックを製造する際の、原料導入条件、空気導入条件、燃料導入条件、冷却水導入条件等の各種条件をコントロールすることで行うことができる。
【0034】
また、上記カーボンブラックは、第2の物性として、ヨウ素吸着量(IA)(mg/g)に対する前記CTAB(m/g)の比(CTAB/IA)が0.92以上1.06以下であることを要する。CTAB/IAが0.92未満であると、耐摩耗性が悪化する虞がある。また、CTAB/IAが1.06超であると、耐摩耗性が悪化する虞があり、また、低転がり抵抗性が悪化する虞がある。また、上記カーボンブラックのCTAB/IAは、耐摩耗性をより向上させる観点から、0.95以上であることが好ましく、また、1.05以下であることが好ましい。
【0035】
更に、上記カーボンブラックは、第3の物性として、水素放出量が3500質量ppm以上4500質量ppm以下であることを要する。水素放出量が3500質量ppm未満であると、カーボンブラック表面の所定の活性化、ひいてはゴム成分の相互作用性が不十分となり、結果として耐摩耗性が悪化する虞がある。また、水素放出量が4500質量ppm超であると、水素過多に起因して、耐摩耗性が悪化する虞がある。また、水素放出量が4500質量ppm超であると、低転がり抵抗性が悪化する虞がある。また、上記カーボンブラックの水素放出量は、耐摩耗性をより向上させる観点から、3700質量ppm以上であることが好ましく、また、4300質量ppm以下であることが好ましく、4100質量ppm以下であることがより好ましい。
なお、カーボンブラックの水素放出量は、アルゴン雰囲気中2000℃で15分間加熱したときに放出される水素ガスの量を指し、水素分析装置を用いて測定される。また、カーボンブラックの水素放出量の調整は、限定されないが、例えば、カーボンブラックを製造する際の、原料導入条件、空気導入条件、燃料導入条件、冷却水導入条件等の各種条件をコントロールすることで行うことができる。
【0036】
上記カーボンブラックは、ジブチルフタレート吸油量(DBP)が、130cm/100g以上150cm/100g以下であることが好ましい。DBPが130cm/100g以上であれば、耐摩耗性がより向上し、また、150cm/100g以下であれば、加工性を良好に保持することができる。
【0037】
上記カーボンブラックの製造方法は、上述した所定物性を具備させることができれば、特に限定されない。但し、カーボンブラックにおける上述したCTAB、IA、水素放出量などの物性は、それぞれを単独で調整することが極めて困難である。本実施形態で用いることができるカーボンブラックは、例えば、後述の実施例の製造条件を踏まえ、適宜条件を調整することで製造できる。
【0038】
本実施形態のゴム組成物における上記カーボンブラックの含有量は、上記ゴム成分100質量部に対して、20質量部以上60質量部以下であることが好ましい。上記カーボンブラックの含有量が20質量部以上であれば、ゴム成分との相互作用性が十分に高まり、耐摩耗性を効果的に向上させることができる。また、上記カーボンブラックの含有量が60質量部以下であれば、低転がり抵抗性や加工性をより良好に保持することができる。同様の観点から、ゴム組成物における上記カーボンブラックの含有量は、上記ゴム成分100質量部に対して、25質量部以上であることがより好ましく、また、50質量部以下であることがより好ましい。
【0039】
上述した物性を具備するカーボンブラックは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
本実施形態のゴム組成物は、上述した物性を具備するカーボンブラック以外のその他のカーボンブラックを含有してもよく、含有しなくてもよい。その他のカーボンブラックとしては、上述した第1の物性、第2の物性及び第3の物性のうち、2つのみ満たすカーボンブラック、1つのみ満たすカーボンブラック、或いは、いずれも満たさないカーボンブラック、が挙げられる。但し、本発明特有の耐摩耗性の向上効果をより確実に得る観点から、本実施形態のゴム組成物において、全カーボンブラック中のその他のカーボンブラックの割合は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましく、0質量%である(即ち、その他のカーボンブラックを含有しない)ことが特に好ましい。
【0041】
<シリカ>
本実施形態のゴム組成物は、充填剤として、シリカを含有する。本実施形態で用いるシリカとしては、特に限定されず、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。上記シリカは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
本実施形態のゴム組成物における上記シリカの含有量は、上記ゴム成分100質量部に対して、10質量部以上40質量部以下であることが好ましい。上記シリカの含有量が10質量部以上であれば、低転がり抵抗性を十分良好に保持することができる。また、上記シリカの含有量が40質量部以下であれば、耐摩耗性を十分に高く保持することができる。同様の観点から、ゴム組成物における上記シリカの含有量は、上記ゴム成分100質量部に対して、15質量部以上であることがより好ましく、また、35質量部以下であることがより好ましい。
【0043】
本実施形態のゴム組成物においては、カーボンブラック及びシリカの合計含有量に対するシリカの含有量の質量比(シリカ/(カーボンブラック+シリカ))が、0.15以上であることが好ましい。この場合、低転がり抵抗性を十分良好に保持することができる。同様の観点から、上記質量比(シリカ/(カーボンブラック+シリカ))は、0.20以上であることがより好ましい。
【0044】
本実施形態のゴム組成物においては、カーボンブラック及びシリカの合計含有量に対するシリカの含有量の質量比(シリカ/(カーボンブラック+シリカ))が、0.80以下であることが好ましい。この場合、耐摩耗性を十分に高く保持することができる。同様の観点から、上記質量比(シリカ/(カーボンブラック+シリカ))は、0.60以下であることがより好ましい。
【0045】
<その他の成分>
本実施形態のゴム組成物は、シランカップリング剤を更に含有することが好ましい。シランカップリング剤は、シリカによる補強性を更に向上させるとともに、低転がり抵抗性の向上にも寄与し得る。
【0046】
シランカップリング剤としては、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、ビス(3-ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、3-メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド等が挙げられる。これらシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
シランカップリング剤を用いる場合のその含有量は、シリカの含有量に対して、質量比で0.2以下、特には0.1以下とすることができる。
【0048】
本実施形態のゴム組成物は、カーボンブラック及びシリカ以外の充填剤を含有してもよい。カーボンブラック及びシリカ以外の充填剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、クレー、アルミナ、タルク、マイカ、カオリン、ガラスバルーン、ガラスビーズ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、チタン酸カリウム、硫酸バリウム等が挙げられる。但し、本発明特有の効果をより確実に得る観点から、本実施形態のゴム組成物は、カーボンブラック及びシリカ以外の充填剤を含有しないことが好ましい。
【0049】
また、本実施形態のゴム組成物は、硫黄等の架橋剤(加硫剤)、架橋促進剤(加硫促進剤)、プロセスオイル、スコーチ防止剤、亜鉛華、ステアリン酸等のゴム工業で通常使用される配合剤を、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜選択して含有することができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。
そして、前記ゴム組成物は、ゴム成分に、カーボンブラック及びシリカと、必要に応じて適宜選択した各種配合剤とを配合し、混練り、熱入れ、押出等をすることにより製造することができる。
【0050】
本実施形態のゴム組成物の調製方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、所定のゴム成分、カーボンブラック及びシリカを含む各成分を、バンバリーミキサー、ロール、インターナルミキサーなどの混練り機を用いて混練りすることによって得られる。また、架橋促進剤及び架橋剤以外の成分を非生成(ノンプロ)段階で混合し、その混合物に架橋促進剤及び架橋剤を生成(プロ)段階で配合及び混合してゴム組成物を調製してもよい。
【0051】
本実施形態のゴム組成物は、架橋ないし加硫することができる。ゴム組成物を架橋ないし加硫する条件としては、適宜調節すればよく、例えば、温度120~200℃、加温時間1分間~900分間とすることができる。
【0052】
(タイヤ)
本発明の一実施形態に係るタイヤは、本実施形態のゴム組成物をトレッドに用いたことを特徴とする。上記タイヤは、トレッドが本実施形態のゴム組成物から作製されているため、低転がり抵抗性及び耐摩耗性に優れる。
【0053】
タイヤを製造する方法としては、本実施形態のゴム組成物をトレッドに適用すること以外、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【実施例0054】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0055】
(カーボンブラックの作製)
カーボンブラックとして、CB1~CB4をそれぞれ作製した。なお、各カーボンブラックにおける物性の制御は、表1に示すように各種条件(原料導入量、空気導入量、温度、圧力、反応時間など)を変更することにより行った。
【0056】
作製したCB1~CB4について、JIS K6217-3に準拠して、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド吸着比表面積(CTAB)[m/g]を測定し、また、JIS K6217-1に準拠して、ヨウ素吸着量(IA)[mg/g]を測定した。また、作製したCB1~CB4について、水素分析装置(HORIBA社製、「EMGA」)を用い、アルゴン雰囲気中2000℃で15分間加熱したときに放出される水素ガスの量(水素放出量)を測定する。更に、作製したCB1~CB4について、ジブチルフタレート吸油量(DBP)を測定した。CTAB/IAの算出値とともに、結果をそれぞれ表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
(変性ブタジエンゴム(変性BR)の調製)
乾燥し、窒素置換した約900mLの耐圧ガラス容器に、シクロヘキサン283g、1,3-ブタジエン50g、2,2-ジテトラヒドロフリルプロパン0.0057mmol、及びヘキサメチレンイミン(HMI)0.513mmolを加え、更にn-ブチルリチウム(BuLi)0.57mmolを加えた後、撹拌装置を具えた50℃の温水浴中で4.5時間重合を行った。この際の重合転化率は、ほぼ100%であった。次に、この重合反応系に、変性剤(カップリング剤)として四塩化スズ0.100mmolを速やかに加え、更に50℃で30分間撹拌して変性反応を行った。その後、重合反応系に、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)のイソプロパノール溶液(BHT濃度:5質量%)0.5mLを加えて、反応を停止させ、更に常法に従って乾燥して、スズ原子を有する変性ブタジエンゴム(変性BR)を得た。得られた変性BRについて、H-NMRスペクトルの積分比からブタジエン部分のビニル結合量を測定したところ、14%であり、DSC曲線の変曲点からガラス転移温度(Tg)を求めたところ、-95℃であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分子量分布曲線の全体の面積に対する最も高分子量側のピーク面積の割合からカップリング率を求めたところ、65%であった。
【0059】
(ゴム組成物の調製)
次に、表2に示す配合処方にて十分に混練してゴム組成物を調製し、次いで、145℃で33分間加硫し、加硫ゴムを得た。得られた加硫ゴムの試験片を用いて、下記の手順に従って各種評価を行った。結果をそれぞれ表2に示す。
【0060】
<耐摩耗性の評価>
加硫ゴムの試験片について、ランボーン式摩耗試験機を用い、スリップ率60%での摩耗量を測定した。なお、摩耗量は、充填剤の組成に大きく依存する傾向にある。そこで、各例で測定された摩耗量の逆数の値について、比較例1~3及び実施例1(カーボンブラック及びシリカの合計含有量に対するシリカの含有量の質量比が0.50である群)については、比較例1の値を100として指数化し、比較例4及び実施例2(カーボンブラック及びシリカの合計含有量に対するシリカの含有量の質量比が0.30である群)については、比較例4の値を100として指数化した。指数値が大きいほど、摩耗量が少なく、耐摩耗性に優れることを示す。
【0061】
<低転がり抵抗性の評価>
低転がり抵抗性の評価は、加硫ゴムの発熱性から算出される転がり抵抗により評価した。具体的に、加硫ゴムの試験片について、粘弾性測定装置を使用し、温度60℃、歪2%、周波数52Hzで、tanδを測定した。各例で測定されたtanδについて、比較例1のtanδを100として指数化した。指数値が大きいほど、加硫ゴムは発熱性が低く、加硫ゴムから得られるタイヤの転がり抵抗が小さい(低転がり抵抗性に優れる)ことを示す。
【0062】
<総合評価>
各例における耐摩耗性の指数値及び低転がり抵抗性の指数値を用い、下記式から算出される指数値により総合評価を行った。指数値が大きいほど、耐摩耗性及び低転がり抵抗性のバランスに優れることを示す。
総合評価指数=(耐摩耗性の指数値-100)+(転がり抵抗の指数値-100)
【0063】
【表2】
【0064】
*1 NR:TSR♯20
*2 シリカ:東ソーシリカ社製、「NIPSIL AQ」
*3 シランカップリング剤:ビストリエトキシシリルプロピルポリスルフィド、株式会社大阪ソーダ製
*4 加硫促進剤:N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、大内新興化学工業株式会社製、「ノクセラーCZ」
【0065】
表2より、本発明に従う実施例のゴム組成物は、比較例のゴム組成物に比べて総合評価が高く、耐摩耗性及び低転がり抵抗性のバランスに優れることが分かる。特に、本発明に従う実施例のゴム組成物は、所定物性を有するカーボンブラックとともにシリカを含有することで、低転がり抵抗性を良好に保持しながら、高い耐摩耗性を発現できていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、タイヤの低転がり抵抗性を保持しつつ、優れた耐摩耗性を発現させ得るタイヤ用ゴム組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、低転がり抵抗性及び耐摩耗性に優れたタイヤを提供することができる。