(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105134
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】汚濁拡散抑制装置および汚濁拡散抑制方法
(51)【国際特許分類】
E02F 3/92 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
E02F3/92 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009712
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】内海 曉人
(72)【発明者】
【氏名】長澤 太一
(72)【発明者】
【氏名】古賀 諒太
(57)【要約】
【課題】ポンプ浚渫船が備えているカッターヘッドによって水底の土砂を掘削するときに生じる汚濁の拡散を抑制する汚濁拡散抑制装置の重厚長大化を回避しつつ、汚濁の拡散を効果的に抑制できる汚濁拡散抑制装置および汚濁拡散抑制方法を提供する。
【解決手段】カッターヘッド5の上方に設ける汚濁拡散抑制カバー21のカッターヘッド5の後端から先端側に向かって張り出す長さL2を、カッターヘッド5の回転軸6の延在方向において、カッターヘッド5の後端から先端までの長さ寸法L1の30%以上50%以下の長さに設定した状態で、カッターヘッド5により水底Bの土砂Sの掘削を行うことで汚濁Dの拡散を抑制する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ浚渫船が備えているカッターヘッドの上方に設けられた汚濁拡散抑制カバーを有する汚濁拡散抑制装置において、
前記カッターヘッドの回転軸の延在方向において、前記汚濁拡散抑制カバーの前記カッターヘッドの後端から先端側に向って張り出す長さが、前記カッターヘッドの後端から先端までの長さ寸法の30%以上50%以下の長さであることを特徴とする汚濁拡散抑制装置。
【請求項2】
前記汚濁拡散抑制カバーが、前記カッターヘッドの上方に配置されていて前記カッターヘッドの後端から前記カッターヘッドの先端側に延在する天板部と、前記天板部の先端部から前記回転軸に向かって延在する前板部とを有している請求項1に記載の汚濁拡散抑制装置。
【請求項3】
前記汚濁拡散抑制カバーが、前記汚濁拡散抑制カバーの後端部を支点にして上下方向に回動可能な構成である請求項1または2に記載の汚濁拡散抑制装置。
【請求項4】
前記カッターヘッドの上方から前記カッターヘッドに向かって水を噴射する噴射部が前記汚濁拡散抑制カバーに設置されている請求項1または2に記載の汚濁拡散抑制装置。
【請求項5】
ポンプ浚渫船が備えているカッターヘッドによって水底の土砂を掘削するときに生じる汚濁の拡散を、前記カッターヘッドの上方に設けた汚濁拡散抑制カバーによって抑制する汚濁拡散抑制方法において、
前記カッターヘッドの回転軸の延在方向において、前記汚濁拡散抑制カバーの前記カッターヘッドの後端から先端側に向かって張り出す長さを、前記カッターヘッドの後端から先端までの長さ寸法の30%以上50%以下の長さに設定した状態で、前記カッターヘッドにより前記土砂の掘削を行うことを特徴とする汚濁拡散抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚濁拡散抑制装置および汚濁拡散抑制方法に関し、さらに詳しくは、ポンプ浚渫船が備えているカッターヘッドによって水底の土砂を掘削するときに生じる汚濁の拡散を抑制する汚濁拡散抑制装置の重厚長大化を回避しつつ、汚濁の拡散を効果的に抑制できる汚濁拡散抑制装置および汚濁拡散抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポンプ浚渫船を用いた水底の土砂の浚渫作業では、船体とともにラダーを水平方向に旋回させながら、ラダーの先端部に設けられた回転するカッターヘッドによって水底の土砂を掘削し、その掘削した土砂を吸入手段によって吸入することで水底を浚渫する。カッターヘッドによって水底の土砂を掘削するときには、吸入手段に吸入されなかった土砂がカッターヘッドの上方に拡散することで汚濁が生じる。
【0003】
特許文献1に記載の浮泥拡散防止方法では、汚濁の拡散を抑制する装置として、カッターヘッドの外周側面の上方に、カッターヘッドの後端から先端まで張り出す円弧状のカッターヘッドフードを設けている。しかしながら、カッターヘッドは巨大であるため、カッターヘッドの後端から先端まで張り出すカッターヘッドフードのサイズと重量は非常に大きくなる。カッターヘッドフードの重量が大きいとラダーを回動させる回動手段にかかる負荷も大きくなる。また、カッターヘッドフードがカッターヘッドの先端まで張り出しているため、カッターヘッドフードが水底の未掘削部分に衝突して破損するリスクが比較的高いという問題もある。それ故、汚濁拡散抑制装置の重厚長大化を回避しつつ、汚濁の拡散を効果的に抑制するには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ポンプ浚渫船が備えているカッターヘッドによって水底の土砂を掘削するときに生じる汚濁の拡散を抑制する汚濁拡散抑制装置の重厚長大化を回避しつつ、汚濁の拡散を効果的に抑制できる汚濁拡散抑制装置および汚濁拡散抑制方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の汚濁拡散抑制装置は、ポンプ浚渫船が備えているカッターヘッドの上方に設けられた汚濁拡散抑制カバーを有する汚濁拡散抑制装置において、前記カッターヘッドの回転軸の延在方向において、前記汚濁拡散抑制カバーの前記カッターヘッドの後端から先端側に向って張り出す長さが、前記カッターヘッドの後端から先端までの長さ寸法の30%以上50%以下の長さであることを特徴とする。
【0007】
本発明の汚濁拡散抑制方法は、ポンプ浚渫船が備えているカッターヘッドによって水底の土砂を掘削するときに生じる汚濁の拡散を、前記カッターヘッドの上方に設けた汚濁拡散抑制カバーによって抑制する汚濁拡散抑制方法において、前記カッターヘッドの回転軸の延在方向において、前記汚濁拡散抑制カバーの前記カッターヘッドの後端から先端側に向かって張り出す長さを、前記カッターヘッドの後端から先端までの長さ寸法の30%以上50%以下の長さに設定した状態で、前記カッターヘッドにより前記土砂の掘削を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ポンプ浚渫船が備えているカッターヘッドによって水底の土砂を掘削するときに生じる汚濁の大部分はカッターヘッドの後方に向かって上昇するので、カッターヘッドの上方に設ける汚濁拡散抑制カバーのカッターヘッドの後端から先端側に向かって張り出す長さを、カッターヘッドの後端から先端までの長さ寸法の30%以上50%以下の長さに設定することで、汚濁拡散抑制装置の重厚長大化を回避しつつ、汚濁の拡散を効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の汚濁拡散抑制装置を搭載したポンプ浚渫船の実施形態を側面視で例示する説明図である。
【
図2】
図1のポンプ浚渫船を平面視で例示する説明図である。
【
図3】
図1のカッターヘッドと汚濁拡散抑制装置を断面視で例示する説明図である。
【
図4】
図1のカッターヘッドと汚濁拡散抑制装置を断面視で例示する説明図である。
【
図5】
図1のカッターヘッドで水底の土砂を掘削している状況を断面視で例示する説明図である。
【
図6】
図1のカッターヘッドによって水底の土砂をオーバーカットで掘削している状況を断面視で例示する説明図である。
【
図7】
図1のカッターヘッドによって水底の土砂をアンダーカットで掘削している状況を断面視で例示する説明図である。
【
図8】本発明の汚濁拡散抑制装置を搭載したポンプ浚渫船の別の実施形態を断面視で例示する説明図である。
【
図9】
図8のカッターヘッドによって水底の土砂をオーバーカットで掘削している状況を断面視で例示する説明図である。
【
図10】
図8のカッターヘッドによって水底の土砂をアンダーカットで掘削している状況を断面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の汚濁拡散抑制装置および汚濁拡散抑制方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
図1~
図7に例示する本発明の汚濁拡散抑制装置20は、ポンプ浚渫船1により水底Bの浚渫を行う施工に使用される。ポンプ浚渫船1による浚渫作業では、例えば、港湾に大型の船舶が入港可能な航路を造成するために、水底Bの土砂Sを浚渫して、水底Bに港湾から沖側へと延在する凹路Cを形成する。
【0012】
図1および
図2に例示するように、ポンプ浚渫船1は、船体2の後部に設けられたスパッド3(3a、3b)と、船体2の前部に設けられて船体2の前方に向かって延在するラダー4とを備えている。ポンプ浚渫船1はさらに、ラダー4の先端に設けられた水底Bの土砂Sを掘削するカッターヘッド5と、カッターヘッド5が嵌合した回転軸6を回転させる駆動部7と、カッターヘッド5によって掘削された土砂Sを吸入する吸入手段8とを備えている。ポンプ浚渫船1はさらに、水底Bに打ち込まれたスパッド3を支点にして船体2とともにラダー4を水平方向に旋回させる旋回手段9と、ラダー4の後端部を回転軸としてラダー4を上下方向に回動させる回動手段10とを備えている。
【0013】
ポンプ浚渫船1の船体2の後部には、上下方向に延在する2本のスパッド3a、3bが船体2の船幅方向に間隔をあけて配置されている。それぞれのスパッド3a、3bは船体2に対して上下方向に昇降可能な構成になっている。ラダー4の後端部は船体2に固定された軸支部に回転可能に軸支されている。ラダー4は、後端部を回転軸として船体2に対して上下方向に回動する。
【0014】
図4に例示するように、カッターヘッド5は複数の掘削刃5aと環状部5bを有していて、それぞれの掘削刃5aの後端部が環状部5bに接合された構造になっている。図示していないがそれぞれの掘削刃5aには多数の歯が設けられている。カッターヘッド5の中心部に設けられた回転軸6を駆動部7によって回転駆動させることで、ラダー4に対してカッターヘッド5が一方向に回転する構成になっている。
【0015】
本発明では、ポンプ浚渫船1の船体2側からカッターヘッド5を見て、カッターヘッド5が回転する方向を一方向とし、その一方向と逆の方向を他方向とする。この実施形態では、船体2側からカッターヘッド5を見て、カッターヘッド5を右方向(時計回り)に回転させる構成とし、上面視でポンプ浚渫船1の船体2の右方向(右舷側)を一方向とし、船体2の左方向(左舷側)を他方向とする。
【0016】
吸入手段8は、カッターヘッド5の下部の後方に配置された土砂吸入口8aと、土砂吸入口8aから吸入された土砂Sおよび水Wが流入する吸入管8bと、吸入管8bに接続されたポンプ8cとを有している。吸入管8bはラダー4の内側に配置されていて、ラダー4の先端部からポンプ浚渫船1の外部に配置されている土砂Sの貯留場(土捨て場)まで延在している。この実施形態では、ポンプ8cをポンプ浚渫船1に搭載しているが、ポンプ8cは例えば、ポンプ浚渫船1の外部に設けることもできる。
【0017】
旋回手段9は、ラダー4に設置された一対のリール部9a、9bと、それぞれのリール部9a、9bに巻回されたワイヤ9c、9dとを有している。一方のリール部9aから繰り出されたワイヤ9cが船体2の右舷側に延在し、他方のリール部9bから繰り出されたワイヤ9dが船体2の左舷側に延在し、それぞれのワイヤ9c、9dの先端部は、船体2から船幅方向に離間した水底Bにアンカーなどを用いて固定されている。この旋回手段9では、一対のリール部9a、9bにより一対のワイヤ9c、9dの繰り出しと巻き取りを行うことで、水底Bに打ち込んだスパッド3bを支点にして船体2およびラダー4を水平方向に旋回させる。
【0018】
回動手段10は、船体2の前部に設けられた支持フレーム10aと、船体2に設置されたウインチ10bと、ウインチ10bから繰り出された複数本の吊ワイヤ10cと、吊具10dと、複数本の鎖10eとを有している。ウインチ10bから繰り出された複数本の吊ワイヤ10cはそれぞれ、支持フレーム10aの先端部に設けられたシーブに架け回されていて、シーブから下方に延在する複数本の吊ワイヤ10cの下端部が吊具10dに接続されている。そして、吊具10dの下部に接続されている複数本の鎖10eの下端部がラダー4の前部に接続されている。この回動手段10は、ウインチ10bのドラムを回転させて吊ワイヤ10cの繰り出し長さを変更することで、ラダー4を船体2に対して上下方向に回動させる。ウインチ10bの回動を停止させると船体2に対するラダー4の回動が停止してラダー4は停止した傾斜角度で固定された状態となる。
【0019】
図2に例示するように、ポンプ浚渫船1による浚渫作業では、ポンプ浚渫船1の船体2の後部に設けられている片方のスパッド3bを水底Bに打ち込んだ状態にする。そして、回動手段10によりラダー4の傾斜角度を設定するとともに、旋回手段9により水底Bに打ち込んでいるスパッド3bを支点にして船体2とともにラダー4を水平方向に一往復以上旋回させて、ラダー4の先端に設けられた一方向に回転するカッターヘッド5によって水底Bの土砂Sを掘削する。そして、その掘削した土砂Sを施工水域の水Wとともに吸入手段8により吸入して水底Bの土砂Sを浚渫する。ポンプ浚渫船1による浚渫作業では、水底Bに打ち込んだ片方のスパッド3bを支点としてカッターヘッド5を平面視で円弧状に旋回させて浚渫する作業と、船体2を前進させる作業とを交互に繰り返すことで、凹路Cを形成する。
【0020】
前述したポンプ浚渫船1による浚渫作業では、カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sを掘削する際に、土砂吸入口8aに吸入されなかった土砂Sがカッターヘッド5の上方に拡散することで汚濁Dが生じる。汚濁Dが広範囲に拡散すると水中環境に悪影響であるため、汚濁Dの拡散を抑制することが重要となる。
【0021】
そこで、本発明者らは、カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sを掘削するときに生じる汚濁Dの拡散状況の分析と、汚濁Dの拡散を抑制するのに有効な対策を考察することを目的として、ラダー4、カッターヘッド5および吸入手段8を模した実寸の10分の1のスケールのモデルを製作し、そのモデルにより水槽の底に溜めた土砂Sを水中で浚渫する水理実験を行った。その水理実験では、カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sをオーバーカットで掘削する場合とアンダーカットで掘削する場合について、それぞれの場合での汚濁Dの拡散状況を動画撮影して画像解析を行い、それぞれの場合での汚濁Dの拡散状況を分析した。
【0022】
図5は、カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sを掘削している状況を示している。
図5の黒塗りの大きな矢印は、浚渫時に生じる汚濁Dが拡散する方向を模式的に示している。
図5に例示するように、土砂吸入口8aはカッターヘッド5の下部の後方(船体2側)に設けられているので、カッターヘッド5は、掘削した土砂Sと水Wが土砂吸入口8aに効率的に流入するように、それぞれの掘削刃5aが掘削した土砂Sを後方に誘導する構造になっている。それ故、カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sを掘削するときに生じる汚濁Dの大部分は回転する掘削刃5aに伴って後方に向かって上昇する。
【0023】
図6は、旋回手段9により船体2およびラダー4を一方向に旋回させて、一方向に回転するカッターヘッド5によって水底Bの土砂Sをオーバーカットで掘削している状況を示している。
図7は、旋回手段9により船体2およびラダー4を他方向に旋回させて、一方向に回転するカッターヘッド5によって水底Bの土砂Sをアンダーカットで掘削している状況を示している。
図6および
図7はそれぞれ、カッターヘッド5を前方から船体2側に向かって見た状況を示している。それ故、
図6および
図7では、紙面左側が一方向となり、紙面右側が他方向となっている。
【0024】
図6および
図7の白抜きの大きな矢印は、旋回手段9により船体2およびラダー4を旋回(移動)させている方向を示している。
図6および
図7の細い実線の矢印は、カッターヘッド5の回転方向を示している。
図6および
図7の細い破線の矢印は、カッターヘッド5の掘削刃5aによって掘削された土砂Sが移動する方向を模式的に示している。
図6および
図7の黒塗りの大きな矢印は、浚渫時に生じる汚濁Dの拡散する方向を模式的に示している。
【0025】
図6に例示するように、旋回手段9により船体2およびラダー4を一方向に旋回させて、一方向に回転するカッターヘッド5によって水底Bの土砂Sをオーバーカットで掘削する際には、カッターヘッド5の掘削刃5aが水底Bの未掘削部分に対して上方から接近して、掘削刃5aが水底Bの未掘削部分の土砂Sを上から下に向かって掘削する。即ち、カッターヘッド5の掘削刃5aによって水底Bの未掘削部分の浅い部分から深い部分に向かって掘削する。
【0026】
細い破線の矢印で示すように、掘削刃5aによって掘削された土砂Sは、回転する掘削刃5aに伴って他方向に向かって移動し、掘削された一部の土砂Sは土砂吸入口8aに水Wとともに流入し、土砂吸入口8aに流入しなかった残りの土砂Sは土砂吸入口8aの他方向に流れる。そして、土砂吸入口8aに流入しなかった土砂Sの一部がカッターヘッド5の他方向に流れることで、水底B付近に汚濁Dが生じる。また、土砂吸入口8aに流入しなかった土砂Sの一部は、回転するカッターヘッド5に伴って上方に舞い上がり、カッターヘッド5の上方でも汚濁Dが生じる。そして、そのカッターヘッド5の上方で生じている汚濁Dは回転するカッターヘッド5によって生じる一方向への水流に伴って、カッターヘッド5の上方で一方側に流れていく。
【0027】
図7に例示するように、旋回手段9により船体2およびラダー4を他方向に旋回させて、一方向に回転するカッターヘッド5によって水底Bの土砂Sをアンダーカットで掘削する際には、カッターヘッド5の掘削刃5aが水底Bの未掘削部分に対して下方から接近して、掘削刃5aが水底Bの未掘削部分の土砂Sを下から上に向かって掘削する。即ち、カッターヘッド5の掘削刃5aによって水底Bの未掘削部分の深い部分から浅い部分に向かって掘削する。
【0028】
細い破線の矢印で示すように、掘削刃5aによって掘削された土砂Sは、回転する掘削刃5aに伴って上方向に向かって流れて、掘削された土砂Sと水Wとがカッターヘッド5によって撹拌され、撹拌された土砂Sおよび水Wの一部が土砂吸入口8aに流入する。土砂吸入口8aに流入しなかった一部の土砂Sは他方向に流れて水底B付近に汚濁Dが生じる。また、土砂吸入口8aに流入しなかった他の土砂Sは、回転するカッターヘッド5に伴って上方に舞い上がることで汚濁Dを発生させ、その汚濁Dは回転するカッターヘッド5によって生じる水流により、カッターヘッド5の上方で一方側に流れていく。
【0029】
水理実験を行って汚濁Dの拡散状況を分析した結果、カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sをオーバーカットで掘削する場合とアンダーカットで掘削する場合のいずれも、カッターヘッド5の後方に向かって上昇する汚濁Dの大部分は、カッターヘッド5の後端から先端側に向かう距離が、カッターヘッド5の後端から先端までの長さ寸法の30%以下の範囲で、カッターヘッド5の上方に拡散していることが分かった。また、カッターヘッド5の後端から先端側に向かう距離が、カッターヘッド5の後端から先端までの長さ寸法の50%を超えた範囲では、カッターヘッド5の上方に拡散する汚濁Dが少ないことが分かった。
【0030】
本発明者らは、前述した分析結果から、重厚長大化を回避しつつ、浚渫時の汚濁Dの拡散を効果的に抑制できる汚濁拡散抑制装置20を考案した。そして、水理実験を繰り返し行うことで、汚濁Dの拡散を抑制するのに好適な汚濁拡散抑制装置20の形状や寸法などを分析した。以下に、本発明の汚濁拡散抑制装置20の構成を説明する。
【0031】
図3および
図4に例示するように、本発明の汚濁拡散抑制装置20は、カッターヘッド5の上方に設けられた汚濁拡散抑制カバー21を有している。
図3に例示するように、汚濁拡散抑制カバー21は、カッターヘッド5の回転軸6の延在方向において、汚濁拡散抑制カバー21のカッターヘッド5の後端からカッターヘッド5の先端側に向って張り出す長さL2が、カッターヘッド5の後端から先端までの長さ寸法L1の30%以上50%以下の長さに設定されている。この実施形態のカッターヘッド5では、環状部5bの後端の位置がカッターヘッド5の後端となる。環状部5bを有さない構造のカッターヘッド5の場合には、掘削刃5aの後端の位置がカッターヘッド5の後端となる。
図3では、回転軸6の軸中心Cの軸線を一点鎖線で示している。汚濁拡散抑制カバー21は、回転軸6よりも上方に位置している。
【0032】
この実施形態の汚濁拡散抑制カバー21は、天板部21a、前板部21b、一対の側板部21cおよび後板部21dを有して構成されている。この実施形態の汚濁拡散抑制カバー21は、汚濁拡散抑制カバー21の後端部に設けられた固定部22によってラダー4に固定されている。
【0033】
図3および
図4に例示するように、天板部21aは、カッターヘッド5の上方に配置されていてカッターヘッド5の後端からカッターヘッド5の先端側に延在している。この実施形態の天板部21aは、カッターヘッド5の後方まで延在している。天板部21aは幅方向(左右方向)においてカッターヘッド5の一方側端部の位置から他方側端部の位置まで延在している。天板部21aが平板形状である場合を例示しているが、天板部21aは例えば、湾曲した形状にすることもできる。
【0034】
前板部21bは天板部21aの先端から回転軸6に向かって延在している。前板部21bは幅方向において天板部21aの一方側端部の位置から他方側端部の位置まで延在している。この実施形態の前板部21bは、天板部21aの先端部から回転軸6の延在方向と直交する上下の方向に対して平行に延在している。言い換えると、天板部21aと前板部21bとのなす角度は直角に設定されている。前板部21bは例えば上端部から下端部にかけて、回転軸6の延在方向と直交する上下の方向に対して前方側に傾斜した構成や後方側に傾斜した構成にすることもできる。即ち、天板部21aと前板部21bとのなす角度を鈍角に設定することもできるし、鋭角に設定することもできる。
【0035】
天板部21aの一方側端と他方側端にそれぞれ側板部21cが設けられている。それぞれの側板部21cは、天板部21aの後端から先端まで延在している。この実施形態のそれぞれの側板部21cは、回転軸6の延在方向に対して平行に延在している。言い換えると、天板部21aと側板部21cとのなす角度は直角に設定されている。側板部21bは例えば上端部から下端部にかけて回転軸6の延在方向に対して内側(回転軸6側)に傾斜した構成や外側に傾斜した構成にすることもできる。即ち、天板部21aと側板部21cとのなす角度を鋭角に設定することもできるし、鈍角に設定することもできる。この実施形態では、回転軸6の延在方向と直交する上下の方向において、それぞれの側板部21cの前端部の長さH4は、前板部21bの長さH2よりも長く設定されている。例えば、それぞれの側板部21cの前端部の長さH4と前板部21bの長さH2を同じ長さに設定することもできる。
【0036】
後板部21dは天板部21aの後端から回転軸6に向かって延在している。後板部21dは幅方向において天板部21aの一方側端部から他方側端部まで延在している。この実施形態の後板部21dは、天板部21aの後端部から回転軸6の延在方向と直交する上下の方向に対して平行に延在している。後板部21dはラダー4の先端部の上部にまで延在していて、後板部21dの後方に汚濁Dが漏れない構造になっている。後板部21dの下端部が固定部22によってラダー4の先端部の上部に固定されている。
【0037】
図3に例示するように、回転軸6の延在方向において、汚濁拡散抑制カバー21の後端から先端までの長さL3は、例えば、カッターヘッド5の後端から先端までの長さ寸法L1の40%以上90%以下の長さに設定するとよい。回転軸6の延在方向と直交する上下の方向において、回転軸6の軸中心Cから汚濁拡散抑制カバー21の上端までの距離H1は、例えば、回転軸6の軸中心Cからカッターヘッド5の外周端までの長さであるカッターヘッド5の半径Rの120%以上180%以下の長さに設定するとよい。
【0038】
回転軸6の延在方向と直交する上下の方向において、前板部21bの回転軸6に向かう突出長さH2は、例えば、カッターヘッド5の半径Rの5%以上20%以下の長さに設定するとよい。回転軸6の延在方向と直交する上下の方向において、前板部21bの下端から回転軸6の軸中心Cまでの距離H3は、例えば、カッターヘッド5の半径Rの110%以上175%以下の長さに設定するとよい。回転軸6の延在方向と直交する上下の方向において、側板部21cの先端部での上端から下端まで長さH4は、例えば、カッターヘッド5の半径Rの10%以上40%以下の長さに設定するとよい。
【0039】
前板部21bの下端からカッターヘッド5までの最短離間距離D1は、例えば、カッターヘッド5の半径Rの10%以上50%以下の長さに設定するとよい。より具体的には、前述した最短離間距離D1は、例えば、150mm以上750mm以下に設定するとよい。回転軸6の延在方向と直交する上下の方向において、汚濁拡散抑制カバー21の内側の上面(天板部21aの下面)からカッターヘッド5の外周端までの離間距離D2は、例えば、カッターヘッド5の半径Rの10%以上50%以下の長さに設定するとよい。より具体的には、前述した離間距離D2は、例えば、150mm以上750mm以下に設定するとよい。
【0040】
図4で例示している汚濁拡散抑制カバー21の断面は、カッターヘッド5の後端の位置での汚濁拡散抑制カバー21の断面を示している。
図4に例示するように、カッターヘッド5の後端の位置での汚濁拡散抑制カバー21の断面における側板部21cの突出長さH5は、例えば、カッターヘッド5の半径Rの30%以上80%以下の長さに設定するとよい。より具体的には、前述した突出長さH5は、例えば、450mm以上1200mm以下に設定するとよい。カッターヘッド5の後端の位置での汚濁拡散抑制カバー21の断面における、回転軸6の延在方向と直交する上下の方向での側板部21cの下端から回転軸6の軸中心Cまで距離H6は、例えば、カッターヘッド5の半径Rの60%以上100%以下の長さに設定するとよい。
【0041】
カッターヘッド5の後端の位置での汚濁拡散抑制カバー21の断面における、回転軸6の延在方向と直交する上下の方向での側板部21cの下端からカッターヘッド5の上端までの距離H7は、例えば、カッターヘッド5の半径Rの0%以上40%以下の長さに設定するとよい。より具体的には、前述した距離H7は、例えば、0mm以上600mm以下に設定するとよい。回転軸6の延在方向と直交する左右の方向において、汚濁拡散抑制カバー21の一方側の外側端から他方側の外側端までの長さW1は、カッターヘッド5の直径2Rの90%以上140%以下の長さに設定するとよい。側板部21cの下端からカッターヘッド5の後端(環状部5b)までの最短離間距離D3は、例えば、カッターヘッド5の半径Rの10%以上50%以下の長さに設定するとよい。より具体的には、前述した最短離間距離D3は、例えば、150mm以上750mm以下に設定するとよい。
【0042】
本発明の汚濁拡散抑制方法では、ポンプ浚渫船1に汚濁拡散抑制カバー21を有する汚濁拡散抑制装置20を設置した状態で、カッターヘッド5により水底Bの土砂Sの掘削を行う。汚濁拡散抑制装置20を設置した後のポンプ浚渫船1による浚渫作業の作業手順は上述した作業手順と同様である。
【0043】
上述したように、カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sを掘削するときに生じる汚濁Dの大部分はカッターヘッド5の後方に向かって上昇する。それ故、本発明では、カッターヘッド5の上方に設ける汚濁拡散抑制カバー21のカッターヘッド5の後端から先端側に向かって張り出す長さL2を、カッターヘッド5の後端から先端までの長さ寸法L1の30%以上50%以下の長さに設定することで、汚濁拡散抑制装置20の重厚長大化を回避しつつ、汚濁Dの拡散を効果的に抑制できる。
【0044】
図6および
図7に例示するように、汚濁拡散抑制装置20を設置した状態でカッターヘッド5により土砂Sを掘削する水理実験を行った結果、カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sをオーバーカットで掘削する場合とアンダーカットで掘削する場合のいずれも、カッターヘッド5の後方に向かって上昇する汚濁Dの大部分を汚濁拡散抑制カバー21によって効果的に抑えられることが確認できた。
【0045】
さらに本発明では、汚濁拡散抑制カバー21の張り出す長さL2を、カッターヘッド5の後端から先端までの長さ寸法L1の30%以上50%以下の長さに設定することで、汚濁拡散抑制カバー21が水底Bの未掘削部分に衝突して破損するリスクも大幅に低減できる。汚濁拡散抑制カバー21がカッターヘッド5による土砂Sの掘削を阻害するリスクも大幅に低減できる。それ故、簡素な構成でありながら、ポンプ浚渫の作業効率をほとんど低下させることなく、ポンプ浚渫において生じる汚濁Dの拡散を効果的に低減できる。それ故、本発明は、当業者にとって非常に有用である。この汚濁拡散抑制カバー21の張り出す長さL2をあえて短くする技術的思想は、本発明者らが水理実験を繰り返し行うことで新たに見出したものであり、従来では想起されていないものである。
【0046】
この実施形態のように、汚濁拡散抑制カバー21が、天板部21aおよび前板部21bを有する構成にすると、天板部21aによって上昇する汚濁Dを抑えつつ、汚濁拡散抑制カバー21の内側に流れ込んだ汚濁Dが汚濁拡散抑制カバー21の前方から上方に流出することを前板部21bによって効果的に抑制できる。それ故、汚濁Dの拡散を抑制するにはより有利になる。さらに、汚濁拡散抑制カバー21が、後板部21dを有する構成にすると、汚濁拡散抑制カバー21の内側に流れ込んだ汚濁Dが汚濁拡散抑制カバー21の後方に流出することを後板部21dによって効果的に抑制できる。それ故、汚濁Dの拡散を抑制するにはより有利になる。
【0047】
汚濁拡散抑制カバー21が、一方向に回転するカッターヘッド5の一方側に側板部21cを有する構成にすると、一方向に回転するカッターヘッド5に伴ってカッターヘッド5の上方で一方側に流れる汚濁Dが、汚濁拡散抑制カバー21の一方側から上方に流れ出ることを一方側の側板部21cによって効果的に抑制できる。それ故、汚濁Dの拡散を抑制するにはさらに有利になる。さらに、汚濁拡散抑制カバー21が、他方側に側板部21cを有する構成にすると、汚濁拡散抑制カバー21の内側に流れ込んだ汚濁Dが、汚濁拡散抑制カバー21の他方側から上方に流れ出ることを他方側の側板部21cによって効果的に抑制できる。それ故、汚濁Dの拡散を抑制するには益々有利になる。
【0048】
本発明の汚濁拡散抑制装置20は、
図8~
図10に例示するような構成にすることもできる。汚濁拡散抑制装置20以外のポンプ浚渫船1の構成は、先に例示した実施形態と同じである。
【0049】
図8~
図10に例示するように、この実施形態の汚濁拡散抑制装置20は、カッターヘッド5の上方からカッターヘッド5に向かって水Wを噴射する噴射部24(24a、24b)と、送水ポンプ26と、噴射部24と送水ポンプ26とを接続する送水管25を有している。送水ポンプ26はラダー4に設置されていて、送水ポンプ26によって吸入された水Wが送水管25を介して噴射部24に供給される構成になっている。
【0050】
この実施形態では、さらに、汚濁拡散抑制カバー21の後板部21dの後端部が回動部23を介してラダー4の先端部の上部に接合されていて、汚濁拡散抑制カバー21の後端部を支点にして汚濁拡散抑制カバー21が上下方向に回動可能な構成になっている。汚濁拡散抑制カバー21のその他の構成は、先に例示した実施形態と同じである。
【0051】
図9および
図10に例示するように、この実施形態の汚濁拡散抑制装置20は、カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sをオーバーカットで掘削するときにカッターヘッド5に向かって水Wを噴射する第一の噴射部24aと、アンダーカットで掘削するときにカッターヘッド5に向かって水Wを噴射する第二の噴射部24bとを有している。それぞれの噴射部24a、24bに送水管25と送水ポンプ26が設けられている。
【0052】
それぞれの噴射部24a、24bは、汚濁拡散抑制カバー21に設置されている。この実施形態では、汚濁拡散抑制カバー21の上面部(天板部21a)にそれぞれの噴射部24a、24bが挿設されている。それぞれの噴射部24a、24bの水Wの噴射方向は、回転軸6の延在方向と直交する上下の方向に設定されている。それぞれの噴射部24a、24bはカッターヘッド5の後部に向かって水Wを噴射する構成になっている。
【0053】
図8に例示するように、それぞれの噴射部24a、24bは水Wを扇状に噴射する構成になっている。この実施形態では、それぞれの噴射部24a、24bは、回転軸6の延在方向に広がるように水Wを扇状に噴射する構成になっている。この実施形態では、それぞれの噴射部24a、24bの内部の水路は、噴射部24a、24bの根元部分の水路に対して中間部分の水路が狭くなっていて、中間部分の水路に対して先端部分の水路が広くなっている。
【0054】
本発明者らが水理実験を行った結果、カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sをオーバーカットで掘削する場合には、カッターヘッド5の回転軸6に向かって水Wを噴射する場合に比べて、カッターヘッド5の回転軸6よりも他方側に水Wを噴射したほうが、汚濁Dの拡散を抑制するには有利であることが分かった。一方で、カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sをアンダーカットで掘削するときには、カッターヘッド5の回転軸6よりも一方側や他方側に水Wを噴射する場合に比べて、カッターヘッド5の回転軸6に向かって水Wを噴射したほうが、汚濁Dの拡散を抑制するには有利であることが分かった。
【0055】
そのため、この実施形態では、
図9に例示するように、水底Bの土砂Sをオーバーカットで掘削するときにカッターヘッド5に向かって水Wを噴射する第一の噴射部24aは、カッターヘッド5の回転軸6よりも他方側に配設されていて、カッターヘッド5の回転軸6よりも他方側に水Wを噴射する構成になっている。回転軸6の延在方向と直交する左右の方向において、カッターヘッド5の一方側の外側端から第一の噴射部24aの噴射位置までの距離W2は、例えば、カッターヘッド5の直径2Rの60%以上70%以下の距離、カッターヘッド5の他方側の外側端から第一の噴射部24aの噴射位置までの距離W3は、例えば、カッターヘッド5の直径2Rの30%以上40%以下の距離に設定するとよい。
【0056】
図10に例示するように、水底Bの土砂Sをアンダーカットで掘削するときにカッターヘッド5に向かって水Wを噴射する第二の噴射部24bは、カッターヘッド5の回転軸6の上方に配設されていて、回転軸6に向かって水Wを噴射する構成になっている。回転軸6の延在方向と直交する左右の方向において、カッターヘッド5の一方側の外側端から第二の噴射部24bの噴射位置までの距離W4は、例えば、カッターヘッド5の直径2Rの45%以上55%以下の距離、カッターヘッド5の他方側の外側端から第二の噴射部24bの噴射位置までの距離W5は、例えば、カッターヘッド5の直径2Rの45%以上55%以下の距離に設定するとよい。
【0057】
この汚濁拡散抑制装置20を用いた汚濁拡散抑制方法では、
図9に例示するように、旋回手段9により上面視で船体2およびラダー4を一方向に旋回させて、一方向に回転するカッターヘッド5によって水底Bの土砂Sをオーバーカットで掘削するときには、カッターヘッド5の回転軸6よりも他方側に配設されている第一の噴射部24aにより、カッターヘッド5に向かって水Wを噴射することで、汚濁Dの上方への拡散を抑制する。
図10に例示するように、旋回手段9により上面視で船体2およびラダー4を他方向に旋回させて、一方向に回転するカッターヘッド5によって水底Bの土砂Sをアンダーカットで掘削するときには、カッターヘッド5の回転軸6の上方に配設されている第二の噴射部24bにより、カッターヘッド5に向かって水Wを噴射することで、汚濁Dの上方への拡散を抑制する。
【0058】
この実施形態のように、汚濁拡散抑制装置20が噴射部24を有する構成にすると、噴射部24によってカッターヘッド5の上方からカッターヘッド5に向かって水Wを噴射することで、カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sを掘削するときに生じる汚濁Dが上昇して拡散することを効果的に抑制できる。さらに、噴射部24から噴射した水Wによって汚濁Dを土砂吸入口8aに向かって流動させ、汚濁Dを土砂吸入口8aに吸入させることで汚濁Dを効果的に低減できる。また、噴射部24をカッターヘッド5の上方に配置していることで、噴射部24が水底Bの未掘削部分に衝突するリスクも低くなる。それ故、ポンプ浚渫船1による浚渫作業の作業性を確保しつつ、水底Bの土砂Sを浚渫する際に生じる汚濁Dの拡散をより効果的に抑制できる。
【0059】
汚濁拡散抑制カバー21に噴射部24が設置されている構成にすると、汚濁拡散抑制カバー21の内側に流れ込んだ汚濁Dが、汚濁拡散抑制カバー21の外側に流れ出て拡散することを噴射部24から噴射する水Wによって効果的に抑制できる。それ故、浚渫時の汚濁Dの拡散を非常に効果的に抑制できる。カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sを掘削するときに生じる汚濁Dの大部分はカッターヘッド5の後方に向かって上昇するので、噴射部24がカッターヘッド5の後部に向かって水Wを噴射する構成にすると、汚濁Dの拡散を抑制するにはより有利になる。
【0060】
噴射部24により水Wが扇状に噴射される構成にすると、噴射部24から噴射した水Wによって水中に水流の壁(幕)ができるので、汚濁Dがより拡散し難くなる。特に、噴射部24が回転軸6の延在方向に広がるように水Wを扇状に噴射する構成にすると、一方向に回転するカッターヘッド5に伴ってカッターヘッド5の上方で一方側に流れる汚濁Dが、噴射部24から噴射された水Wによって形成された水流の壁によって、カッターヘッド5の一方側に流出し難くなる。それ故、汚濁Dの拡散を抑制するにはより有利になる。
【0061】
カッターヘッド5の回転軸6よりも他方側に配設されていて、水底Bの土砂Sをオーバーカットで掘削するときにカッターヘッド5の回転軸6よりも他方側に水Wを噴射する第一の噴射部24aを有する構成にすると、水底Bの土砂Sをオーバーカットで掘削するときに生じる汚濁Dの拡散を抑制するにはより有利になる。カッターヘッド5の回転軸6の上方に配設されていて、水底Bの土砂Sをアンダーカットで掘削するときにカッターヘッド5の回転軸6に向かって水Wを噴射する第二の噴射部24bを有する構成にすると、水底Bの土砂Sをアンダーカットで掘削するときに生じる汚濁Dの拡散を抑制するにはより有利になる。
【0062】
それぞれの噴射部24a、24bによって噴射する水Wの流速は例えば、3.0m/秒以上20.0m/秒に設定するとよい。噴射する水Wの流速が過度に遅いと汚濁Dの拡散を抑制する効果は低くなり、噴射する水Wの流速が過度に速いと浚渫作業を阻害する可能性があるが、前述した条件で水Wを噴射することで、浚渫作業を阻害することなく、汚濁Dの拡散を効果的に抑制するには有利になる。
【0063】
汚濁拡散抑制カバー21が、汚濁拡散抑制カバー21の後端部を支点にして上下方向に回動可能な構成にすると、カッターヘッド5の点検や修繕を行う際に、汚濁拡散抑制カバー21の後端部を支点にして汚濁拡散抑制カバー21を後方に回動させることで、カッターヘッド5の点検や修繕をより行いやすくなる。それ故、メンテナンス性を向上させることができる。
【0064】
なお、この実施形態では、第一の噴射部24aと第二の噴射部24bを設けた場合を例示したが、例えば、一つの噴射部24を設けて、オーバーカットで掘削するときとアンダーカットで掘削するときに同じ噴射部24で水Wを噴射する構成にすることもできる。この場合にも、水底Bの土砂Sを浚渫する際に生じる汚濁Dの拡散を効果的に抑制できる。また、この実施形態では、オーバーカットで掘削するときとアンダーカットで掘削するときにそれぞれ片側のみの噴射部24a(24b)から水Wを噴射する方法を例示したが、例えば、オーバーカットで掘削するときとアンダーカットで掘削するときに両方の噴射部24a、24bから水Wを噴射する構成にすることもできる。
【0065】
噴射部24の設置位置と噴射方向は、カッターヘッド5の上方からカッターヘッド5に向かって水Wを噴射できる構成であれば、この実施形態で例示した構成に限定されず他にも様々な構成にすることができる。例えば、噴射部24は汚濁拡散抑制カバー21の前方などの他の位置に配置することもできる。また、噴射部24に水Wを供給する方法は送水ポンプ26を用いる場合に限らず、他にも様々な構成にすることができる。例えば、土砂Sを吸入する水流を発生させるために吸入管8bの中途部分には、吸入管8bの内部に水Wを噴射する注水管が接続されている。それ故、その注水管と噴射部24とを送水管25によって接続し、注水管に供給される水Wの一部を、送水管25を介して噴射部24に供給する構成にすることもできる。
【0066】
上記で例示した実施形態では、船体2側からカッターヘッド5を見て、カッターヘッド5を右方向(時計回り)に回転させる構成とし、上面視でポンプ浚渫船1の船体2の右方向(右舷側)を一方向とし、船体2の左方向(左舷側)を他方向とする場合を例示したが、船体2側からカッターヘッド5を見て、カッターヘッド5を左方向(反時計回り)に回転させる構成とし、上面視でポンプ浚渫船1の船体2の左方向(左舷側)を一方向とし、船体2の右方向(右舷側)を他方向とした場合にも同様の効果を奏することができる。
【0067】
ポンプ浚渫船1を構成するスパッド3やラダー4、カッターヘッド5、吸入手段8、旋回手段9および回動手段10はそれぞれ、上記で例示した実施形態に限定されず、その他の様々な構成にすることができる。例えば、カッターヘッド5の掘削刃5aの形状や数は上記で例示した実施形態の構成には限定されない。
【符号の説明】
【0068】
1 ポンプ浚渫船
2 船体
3、3a、3b スパッド
4 ラダー
5 カッターヘッド
5a 掘削刃
5b 環状部
6 回転軸
7 駆動部
8 吸入手段
8a 土砂吸入口
8b 吸入管
8c ポンプ
9 旋回手段
9a、9b リール部
9c、9d ワイヤ
10 回動手段
10a 支持フレーム
10b ウインチ
10c 吊ワイヤ
10d 吊具
10e 鎖
20 汚濁拡散抑制装置
21 汚濁拡散抑制カバー
21a 天板部
21b 前板部
21c 側板部
21d 後板部
22 固定部
23 回動部
24、24a、24b 噴射部
25 送水管
26 送水ポンプ
B 水底
C 凹路
S 土砂
W 水
D 汚濁