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特開2024-105136汚濁拡散抑制装置および汚濁拡散抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105136
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】汚濁拡散抑制装置および汚濁拡散抑制方法
(51)【国際特許分類】
   E02F 3/92 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
E02F3/92 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009715
(22)【出願日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】内海 曉人
(72)【発明者】
【氏名】長澤 太一
(72)【発明者】
【氏名】古賀 諒太
(57)【要約】
【課題】ポンプ浚渫船による浚渫作業の作業性を確保しつつ、水底の土砂を浚渫する際に生じる汚濁の拡散を効果的に抑制できる汚濁拡散抑制装置および汚濁拡散抑制方法を提供する。
【解決手段】ポンプ浚渫船1が有するカッターヘッド5の上方に噴射部21を設けて、カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sを掘削するときに噴射部21からカッターヘッド5に向かって水Wを噴射することで、カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sを掘削するときに生じる汚濁Dの拡散を抑制する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ浚渫船が有するカッターヘッドによって水底の土砂を掘削するときに生じる汚濁の拡散を抑制する汚濁拡散抑制装置において、
前記カッターヘッドの上方から前記カッターヘッドに向かって水を噴射する噴射部を有することを特徴とする汚濁拡散抑制装置。
【請求項2】
前記噴射部が前記カッターヘッドの後部に向かって水を噴射する構成である請求項1に記載の汚濁拡散抑制装置。
【請求項3】
前記噴射部により水が扇状に噴射される構成である請求項1または2に記載の汚濁拡散抑制装置。
【請求項4】
ポンプ浚渫船が有する掘削した土砂が吸入される吸入管に接続されている注水管と前記噴射部とが送水管によって接続されていて、前記注水管に供給される水の一部が前記送水管を介して前記噴射部に供給される構成である請求項1または2に記載の汚濁拡散抑制装置。
【請求項5】
前記ポンプ浚渫船が有する旋回手段により上面視で、前記ポンプ浚渫船の船体および前記ポンプ浚渫船が有するラダーを一方向に旋回させて、一方向に回転する前記カッターヘッドによって前記水底の土砂をオーバーカットで掘削するときに前記カッターヘッドに向かって水を噴射する第一の前記噴射部が、前記カッターヘッドの回転軸よりも他方側に配設されていて、前記旋回手段により上面視で前記船体および前記ラダーを他方向に旋回させて、一方向に回転する前記カッターヘッドによって前記水底の土砂をアンダーカットで掘削するときに前記カッターヘッドに向かって水を噴射する第二の前記噴射部が、前記カッターヘッドの回転軸の上方に配設されている請求項1または2に記載の汚濁拡散抑制装置。
【請求項6】
前記カッターヘッドの上方に設けられた汚濁拡散抑制カバーを備え、前記汚濁拡散抑制カバーに前記噴射部が設置されている請求項1または2に記載の汚濁拡散抑制装置。
【請求項7】
ポンプ浚渫船が有するカッターヘッドによって水底の土砂を掘削するときに生じる汚濁の拡散を抑制する汚濁拡散抑制方法において、
前記カッターヘッドの上方に噴射部を設けて、前記噴射部から前記カッターヘッドに向かって水を噴射しながら、前記カッターヘッドによって水底の土砂を掘削することを特徴とする汚濁拡散抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚濁拡散抑制装置および汚濁拡散抑制方法に関し、さらに詳しくは、ポンプ浚渫船による浚渫作業の作業性を確保しつつ、水底の土砂を浚渫する際に生じる汚濁の拡散を効果的に抑制できる汚濁拡散抑制装置および汚濁拡散抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポンプ浚渫船を用いた水底の土砂の浚渫作業では、船体とともにラダーを水平方向に旋回させながら、ラダーの先端部に設けられた回転するカッターヘッドによって水底の土砂を掘削し、その掘削した土砂を吸入手段により吸入することで水底を浚渫する。カッターヘッドによって水底の土砂を掘削するときには、吸入手段に吸入されなかった土砂がカッターヘッドの上方に拡散することで汚濁が生じる。
【0003】
特許文献1に記載のポンプ浚渫船の汚濁拡散抑制装置では、カッターヘッドの前方に汚濁を吸引する汚濁吸引口部を設けることで、ポンプ浚渫における汚濁の拡散を抑制している。しかしながら、この汚濁吸引口部は水底の未掘削部分に衝突するおそれがあり、汚濁吸引口部が破損した場合には浚渫作業を中断することになる。それ故、ポンプ浚渫船による浚渫作業の作業性を確保しつつ、水底の土砂の掘削時の汚濁の拡散を抑制するには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-110365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ポンプ浚渫船による浚渫作業の作業性を確保しつつ、水底の土砂を浚渫する際に生じる汚濁の拡散を効果的に抑制できる汚濁拡散抑制装置および汚濁拡散抑制方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の汚濁拡散抑制装置は、ポンプ浚渫船が有するカッターヘッドによって水底の土砂を掘削するときに生じる汚濁の拡散を抑制する汚濁拡散抑制装置において、前記カッターヘッドの上方から前記カッターヘッドに向かって水を噴射する噴射部を有することを特徴とする。
【0007】
本発明の汚濁拡散抑制方法は、ポンプ浚渫船が有するカッターヘッドによって水底の土砂を掘削するときに生じる汚濁の拡散を抑制する汚濁拡散抑制方法において、前記カッターヘッドの上方に噴射部を設けて、前記噴射部から前記カッターヘッドに向かって水を噴射しながら、前記カッターヘッドによって水底の土砂を掘削することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ポンプ浚渫船が有するカッターヘッドによって水底の土砂を掘削するときに生じる汚濁の大部分はカッターヘッドの後方に向かって上昇するので、カッターヘッドの上方に設けた噴射部からカッターヘッドに向かって水を噴射することで、汚濁が上昇して拡散することを抑制することができる。また、噴射部をカッターヘッドの上方に配置していることで、噴射部が水底の未掘削部分に衝突するリスクも低くなる。それ故、ポンプ浚渫船による浚渫作業の作業性を確保しつつ、水底の土砂を浚渫する際に生じる汚濁の拡散を効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の汚濁拡散抑制装置を搭載したポンプ浚渫船の実施形態を側面視で例示する説明図である。
図2図1のポンプ浚渫船を平面視で例示する説明図である。
図3図1のカッターヘッドと汚濁拡散抑制装置を断面視で例示する説明図である。
図4図1のカッターヘッドによって水底の土砂をオーバーカットで掘削している状況を断面視で例示する説明図である。
図5図1のカッターヘッドによって水底の土砂をアンダーカットで掘削している状況を断面視で例示する説明図である。
図6】本発明の汚濁拡散抑制装置を搭載したポンプ浚渫船の別の実施形態を断面視で例示する説明図である。
図7図6のカッターヘッドによって水底の土砂をオーバーカットで掘削している状況を断面視で例示する説明図である。
図8図6のカッターヘッドによって水底の土砂をアンダーカットで掘削している状況を断面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の汚濁拡散抑制装置および汚濁拡散抑制方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
図1図5に例示する本発明の汚濁拡散抑制装置20は、ポンプ浚渫船1により水底Bの浚渫を行う施工に使用される。ポンプ浚渫船1による浚渫作業では、例えば、港湾に大型の船舶が入港可能な航路を造成するために、水底Bの土砂Sを浚渫して、水底Bに港湾から沖側へと延在する凹路Cを形成する。
【0012】
図1および図2に例示するように、ポンプ浚渫船1は、船体2の後部に設けられたスパッド3(3a、3b)と、船体2の前部に設けられて船体2の前方に向かって延在するラダー4とを備えている。ポンプ浚渫船1はさらに、ラダー4の先端に設けられた水底Bの土砂Sを掘削するカッターヘッド5と、カッターヘッド5が嵌合した回転軸6を回転させる駆動部7と、カッターヘッド5によって掘削された土砂Sを吸入する吸入手段8とを備えている。ポンプ浚渫船1はさらに、水底Bに打ち込まれたスパッド3を支点にして船体2とともにラダー4を水平方向に旋回させる旋回手段9と、ラダー4の後端部を回転軸としてラダー4を上下方向に回動させる回動手段10とを備えている。
【0013】
ポンプ浚渫船1の船体2の後部には、上下方向に延在する2本のスパッド3a、3bが船体2の船幅方向に間隔をあけて配置されている。それぞれのスパッド3a、3bは船体2に対して上下方向に昇降可能な構成になっている。ラダー4の後端部は船体2に固定された軸支部に回転可能に軸支されている。ラダー4は、後端部を回転軸として船体2に対して上下方向に回動する。
【0014】
図4に例示するように、カッターヘッド5は複数の掘削刃5aと環状部を有していて、それぞれの掘削刃5aの後端部が環状部に接合された構造になっている。図示していないがそれぞれの掘削刃5aには多数の歯が設けられている。カッターヘッド5の中心部に設けられた回転軸6を駆動部7によって回転駆動させることで、ラダー4に対してカッターヘッド5が一方向に回転する構成になっている。
【0015】
本発明では、ポンプ浚渫船1の船体2側からカッターヘッド5を見て、カッターヘッド5が回転する方向を一方向とし、その一方向と逆の方向を他方向とする。この実施形態では、船体2側からカッターヘッド5を見て、カッターヘッド5を右方向(時計回り)に回転させる構成とし、上面視でポンプ浚渫船1の船体2の右方向(右舷側)を一方向とし、船体2の左方向(左舷側)を他方向とする。
【0016】
吸入手段8は、カッターヘッド5の下部の後方に配置された土砂吸入口8aと、土砂吸入口8aから吸入された土砂Sおよび水Wが流入する吸入管8bと、吸入管8bに接続されたポンプ8cとを有している。吸入管8bはラダー4の内側に配置されていて、ラダー4の先端部からポンプ浚渫船1の外部に配置されている土砂Sの貯留場(土捨て場)まで延在している。この実施形態では、ポンプ8cをポンプ浚渫船1に搭載しているが、ポンプ8cは例えば、ポンプ浚渫船1の外部に設けることもできる。
【0017】
旋回手段9は、ラダー4に設置された一対のリール部9a、9bと、それぞれのリール部9a、9bに巻回されたワイヤ9c、9dとを有している。一方のリール部9aから繰り出されたワイヤ9cが船体2の右舷側に延在し、他方のリール部9bから繰り出されたワイヤ9dが船体2の左舷側に延在し、それぞれのワイヤ9c、9dの先端部は、船体2から船幅方向に離間した水底Bにアンカーなどを用いて固定されている。この旋回手段9では、一対のリール部9a、9bにより一対のワイヤ9c、9dの繰り出しと巻き取りを行うことで、水底Bに打ち込んだスパッド3bを支点にして船体2およびラダー4を水平方向に旋回させる。
【0018】
回動手段10は、船体2の前部に設けられた支持フレーム10aと、船体2に設置されたウインチ10bと、ウインチ10bから繰り出された複数本の吊ワイヤ10cと、吊具10dと、複数本の鎖10eとを有している。ウインチ10bから繰り出された複数本の吊ワイヤ10cはそれぞれ、支持フレーム10aの先端部に設けられたシーブに架け回されていて、シーブから下方に延在する複数本の吊ワイヤ10cの下端部が吊具10dに接続されている。そして、吊具10dの下部に接続されている複数本の鎖10eの下端部がラダー4の前部に接続されている。この回動手段10は、ウインチ10bのドラムを回転させて吊ワイヤ10cの繰り出し長さを変更することで、ラダー4を船体2に対して上下方向に回動させる。ウインチ10bの回動を停止させると船体2に対するラダー4の回動が停止してラダー4は停止した傾斜角度で固定された状態となる。
【0019】
図2に例示するように、ポンプ浚渫船1による浚渫作業では、ポンプ浚渫船1の船体2の後部に設けられている片方のスパッド3bを水底Bに打ち込んだ状態にする。そして、回動手段10によりラダー4の傾斜角度を設定するとともに、旋回手段9により水底Bに打ち込んでいるスパッド3bを支点にして船体2とともにラダー4を水平方向に一往復以上旋回させて、ラダー4の先端に設けられた一方向に回転するカッターヘッド5によって水底Bの土砂Sを掘削する。そして、その掘削した土砂Sを施工水域の水Wとともに吸入手段8により吸入して水底Bの土砂Sを浚渫する。ポンプ浚渫船1による浚渫作業では、水底Bに打ち込んだ片方のスパッド3bを支点としてカッターヘッド5を平面視で円弧状に旋回させて浚渫する作業と、船体2を前進させる作業とを交互に繰り返すことで、凹路Cを形成する。
【0020】
前述したポンプ浚渫船1による浚渫作業では、カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sを掘削する際に、土砂吸入口8aに吸入されなかった土砂Sがカッターヘッド5の上方に拡散することで汚濁Dが生じる。汚濁Dが広範囲に拡散すると水中環境に悪影響であるため、汚濁Dの拡散を抑制することが重要となる。
【0021】
そこで、本発明者らは、カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sを掘削するときに生じる汚濁Dの拡散状況の分析と、汚濁Dの拡散を抑制するのに有効な対策を考察することを目的として、ラダー4、カッターヘッド5および吸入手段8を模した実寸の10分の1のスケールのモデルを製作し、そのモデルにより水槽の底に溜めた土砂Sを水中で浚渫する水理実験を行った。その水理実験では、カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sをオーバーカットで掘削する場合とアンダーカットで掘削する場合について、それぞれの場合での汚濁Dの拡散状況を動画撮影して画像解析を行い、それぞれの場合での汚濁Dの拡散状況を分析した。
【0022】
図3は、カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sを掘削している状況を示している。図3の黒塗りの大きな矢印は、浚渫時に生じる汚濁Dが拡散する方向を模式的に示している。図3に例示するように、土砂吸入口8aはカッターヘッド5の下部の後方(船体2側)に設けられているので、カッターヘッド5は、掘削した土砂Sと水Wが土砂吸入口8aに効率的に流入するように、それぞれの掘削刃5aが掘削した土砂Sを後方に誘導する構造になっている。それ故、カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sを掘削するときに生じる汚濁Dの大部分は回転する掘削刃5aに伴って後方に向かって上昇する。
【0023】
水理実験を行って汚濁Dの拡散状況を分析した結果、カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sをオーバーカットで掘削する場合とアンダーカットで掘削する場合のいずれも、カッターヘッド5の後方に向かって上昇する汚濁Dの大部分は、カッターヘッド5の後端から先端側に向かう距離が、カッターヘッド5の後端から先端までの長さ寸法の30%以下の範囲で、カッターヘッド5の上方に拡散していることが分かった。また、カッターヘッド5の後端から先端側に向かう距離が、カッターヘッド5の後端から先端までの長さ寸法の50%を超えた範囲では、カッターヘッド5の上方に拡散する汚濁Dが少ないことが分かった。
【0024】
図4は、旋回手段9により船体2およびラダー4を一方向に旋回させて、一方向に回転するカッターヘッド5によって水底Bの土砂Sをオーバーカットで掘削している状況を示している。図5は、旋回手段9により船体2およびラダー4を他方向に旋回させて、一方向に回転するカッターヘッド5によって水底Bの土砂Sをアンダーカットで掘削している状況を示している。図4および図5はそれぞれ、カッターヘッド5を前方から船体2側に向かって見た状況を示している。それ故、図4および図5では、紙面左側が一方向となり、紙面右側が他方向となっている。
【0025】
図4および図5の白抜きの大きな矢印は、旋回手段9により船体2およびラダー4を旋回(移動)させている方向を示している。図4および図5の細い実線の矢印は、カッターヘッド5の回転方向を示している。図4および図5の細い破線の矢印は、カッターヘッド5の掘削刃5aによって掘削された土砂Sが移動する方向を模式的に示している。図4および図5の黒塗りの大きな矢印は、浚渫時に生じる汚濁Dの拡散する方向を模式的に示している。
【0026】
図4に例示するように、旋回手段9により船体2およびラダー4を一方向に旋回させて、一方向に回転するカッターヘッド5によって水底Bの土砂Sをオーバーカットで掘削する際には、カッターヘッド5の掘削刃5aが水底Bの未掘削部分に対して上方から接近して、掘削刃5aが水底Bの未掘削部分の土砂Sを上から下に向かって掘削する。即ち、カッターヘッド5の掘削刃5aによって水底Bの未掘削部分の浅い部分から深い部分に向かって掘削する。
【0027】
そして、細い破線の矢印で示すように、掘削刃5aによって掘削された土砂Sは、回転する掘削刃5aに伴って他方向に向かって移動し、掘削された一部の土砂Sは土砂吸入口8aに水Wとともに流入し、土砂吸入口8aに流入しなかった残りの土砂Sは土砂吸入口8aの他方向に流れる。そして、土砂吸入口8aに流入しなかった土砂Sの一部がカッターヘッド5の他方向に流れることで、水底B付近に汚濁Dが生じる。また、土砂吸入口8aに流入しなかった土砂Sの一部は、回転するカッターヘッド5に伴って上方に舞い上がり、カッターヘッド5の上方でも汚濁Dが生じる。そして、そのカッターヘッド5の上方で生じている汚濁Dは回転するカッターヘッド5によって生じる一方向への水流に伴って、カッターヘッド5の上方で一方側に流れていく。
【0028】
図5に例示するように、旋回手段9により船体2およびラダー4を他方向に旋回させて、一方向に回転するカッターヘッド5によって水底Bの土砂Sをアンダーカットで掘削する際には、カッターヘッド5の掘削刃5aが水底Bの未掘削部分に対して下方から接近して、掘削刃5aが水底Bの未掘削部分の土砂Sを下から上に向かって掘削する。即ち、カッターヘッド5の掘削刃5aによって水底Bの未掘削部分の深い部分から浅い部分に向かって掘削する。
【0029】
そして、細い破線の矢印で示すように、掘削刃5aによって掘削された土砂Sは、回転する掘削刃5aに伴って上方向に向かって流れて、掘削された土砂Sと水Wとがカッターヘッド5によって撹拌され、撹拌された土砂Sおよび水Wの一部が土砂吸入口8aに流入する。土砂吸入口8aに流入しなかった一部の土砂Sは他方向に流れて水底B付近に汚濁Dが生じる。また、土砂吸入口8aに流入しなかった他の土砂Sは、回転するカッターヘッド5に伴って上方に舞い上がることで汚濁Dを発生させ、その汚濁Dは回転するカッターヘッド5によって生じる水流により、カッターヘッド5の上部から一方側に流れていく。
【0030】
本発明者らは、前述した分析結果から、浚渫時の汚濁Dの拡散を効果的に抑制できる汚濁拡散抑制装置20を考案した。そして、水理実験を繰り返し行うことで、汚濁Dの拡散を抑制するのに好適な汚濁拡散抑制装置20の構成を分析した。以下に、本発明の汚濁拡散抑制装置20の構成を説明する。
【0031】
図3図5に例示するように、本発明の汚濁拡散抑制装置20は、カッターヘッド5の上方からカッターヘッド5に向かって水Wを噴射する噴射部21を有している。この実施形態の汚濁拡散抑制装置20はさらに、送水ポンプ23と、噴射部21と送水ポンプ23とを接続する送水管22と、ラダー4に対して噴射部21を固定する固定部24とを有している。送水ポンプ23はラダー4に設置されていて、送水ポンプ23によって吸入された水Wが送水管22を介して噴射部21に供給される構成になっている。
【0032】
この実施形態では、噴射部21の水Wの噴射方向は、回転軸6の延在方向と直交する上下の方向に設定されている。カッターヘッド5の後部の上方に噴射部21が配置されていて、噴射部21によりカッターヘッド5の後部に向かって水Wが噴射される構成になっている。
【0033】
図3に例示するように、噴射部21は水Wを扇状に噴射する構成になっている。この実施形態の噴射部21は、回転軸6の延在方向に広がるように水Wを扇状に噴射する構成になっている。噴射部21の内部の水路は、噴射部21の根元部分の水路に対して中間部分の水路が狭くなっていて、中間部分の水路に対して先端部分の水路が広くなっている。
【0034】
図4に例示するように、この実施形態では、カッターヘッド5の回転軸6の上方に1つの噴射部21が配設されていて、噴射部21は回転軸6に向かって水Wを噴射する構成になっている。後に別の実施形態で例示するが、汚濁拡散抑制装置20は複数の噴射部21を有する構成にすることもできる。
【0035】
この汚濁拡散抑制装置20を用いた汚濁拡散抑制方法では、旋回手段9により上面視で船体2およびラダー4を旋回させて、回転するカッターヘッド5によって水底Bの土砂Sを掘削するときには、噴射部21によりカッターヘッド5に向かって水Wを噴射することで、汚濁Dの上方への拡散を抑制する。
【0036】
このように、本発明によれば、ポンプ浚渫船1が有するカッターヘッド5によって水底Bの土砂Sを掘削するときに生じる汚濁Dの大部分はカッターヘッド5の後方に向かって上昇するので、カッターヘッド5の上方に設けた噴射部21からカッターヘッド5に向かって水Wを噴射することで、汚濁Dが上昇して拡散することを効果的に抑制することができる。さらに、噴射部21から噴射した水Wによって汚濁Dを土砂吸入口8aに向かって流動させ、汚濁Dを土砂吸入口8aに吸入させることで汚濁Dを効果的に低減できる。また、噴射部21をカッターヘッド5の上方に配置していることで、噴射部21が水底Bの未掘削部分に衝突するリスクも低くなる。それ故、簡易な構成でありながら、ポンプ浚渫船1による浚渫作業の作業性を確保しつつ、水底Bの土砂Sを浚渫する際に生じる汚濁Dの拡散を効果的に抑制できる。
【0037】
カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sを掘削するときに生じる汚濁Dの大部分はカッターヘッド5の後方に向かって上昇するので、噴射部21がカッターヘッド5の後部に向かって水Wを噴射する構成にすると、汚濁Dの拡散を抑制するには有利になる。
【0038】
噴射部21により水Wが扇状に噴射される構成にすると、噴射部21から噴射した水Wによって水中に水流の壁(幕)ができるので、汚濁Dがより拡散し難くなる。特に、噴射部21が回転軸6の延在方向に広がるように水Wを扇状に噴射する構成にすると、一方向に回転するカッターヘッド5に伴ってカッターヘッド5の上方で一方側に流れる汚濁Dが、噴射部21から噴射された水Wによって形成される水流の壁によって、カッターヘッド5の一方側に流出し難くなるので、汚濁Dの拡散を抑制するにはより有利になる。
【0039】
噴射部21によって噴射する水Wの流速は例えば、3.0m/秒以上20.0m/秒に設定するとよい。噴射する水Wの流速が過度に遅いと汚濁Dの拡散を抑制する効果は低くなり、噴射する水Wの流速が過度に速いと浚渫作業を阻害する可能性があるが、前述した条件で水Wを噴射することで、浚渫作業を阻害することなく、汚濁Dの拡散を効果的に抑制するには有利になる。
【0040】
本発明の汚濁拡散抑制装置20は、図6図8に例示するような構成にすることもできる。汚濁拡散抑制装置20以外のポンプ浚渫船1の構成は、先に例示した実施形態と同じである。
【0041】
図6に例示するように、この実施形態の汚濁拡散抑制装置20は、カッターヘッド5の上方に設けられた汚濁拡散抑制カバー25を有している。図7および図8に例示するように、この実施形態の汚濁拡散抑制装置20はさらに、カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sをオーバーカットで掘削するときにカッターヘッド5に向かって水Wを噴射する第一の噴射部21aと、アンダーカットで掘削するときにカッターヘッド5に向かって水Wを噴射する第二の噴射部21bとを有している。
【0042】
図6に例示するように、汚濁拡散抑制カバー25は、カッターヘッド5の回転軸6の延在方向において、汚濁拡散抑制カバー25のカッターヘッド5の後端からカッターヘッド5の先端側に向って張り出す長さが、カッターヘッド5の後端から先端までの長さ寸法の30%以上50%以下の長さに設定されている。汚濁拡散抑制カバー25は、回転軸6よりも上方に位置している。
【0043】
この実施形態の汚濁拡散抑制カバー25は、カッターヘッド5の上方に配置された天板部と、天板部の先端から回転軸6に向かって延在している前板部とを有している。汚濁拡散抑制カバー25は、さらに、天板部の一方側端と他方側端にそれぞれ設けられた側板部と、天板部の後端から回転軸6に向かって延在している後板部を有している。この実施形態の汚濁拡散抑制カバー25は、汚濁拡散抑制カバー25の後端部に設けられた固定具によってラダー4に固定されている。
【0044】
この実施形態では、汚濁拡散抑制カバー25の上面部(天板部)にそれぞれの噴射部21a、21bが挿設されている。それぞれの噴射部21a、21bの水Wの噴射方向は、回転軸6の延在方向と直交する上下の方向に設定されている。それぞれの噴射部21a、21bはカッターヘッド5の後部に向かって水Wを噴射する構成になっている。この実施形態では、それぞれの噴射部21a、21bは、回転軸6の延在方向に広がるように水Wを扇状に噴射する構成になっている。
【0045】
図6に例示するように、土砂Sを吸入する水流を発生させるために吸入管8bの中途部分には、吸入管8bの内部に水Wを噴射する注水管11が接続されている。この実施形態では、その注水管11と噴射部21a、21bとを送水管22によって接続し、注水管11に供給される水Wの一部を、送水管22を介して噴射部21a、21bに供給する構成になっている。
【0046】
より詳しくは、この実施形態では、注水管11に1本の送水管22が接続されていて、その送水管22は切換部26に接続されている。切換部26の先端側には2本の送水管22が接続されている。片方の送水管22が第一の噴射部21aに接続されていて、もう片方の送水管22が第二の噴射部21bに接続されている。切換部26によって、カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sをオーバーカットで掘削するときには、注水管11に供給される水Wの一部が第一の噴射部21aに接続された送水管22に送水され、カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sをアンダーカットで掘削するときには、注水管11に供給される水Wの一部が第二の噴射部21aに接続された送水管22に送水される構成になっている。
【0047】
本発明者らが水理実験を行った結果、カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sをオーバーカットで掘削する場合には、カッターヘッド5の回転軸6に向かって水Wを噴射する場合に比べて、カッターヘッド5の回転軸6よりも他方側に水Wを噴射したほうが、汚濁Dの拡散を抑制するには有利であることが分かった。一方で、カッターヘッド5によって水底Bの土砂Sをアンダーカットで掘削するときには、カッターヘッド5の回転軸6よりも一方側や他方側に水Wを噴射する場合に比べて、カッターヘッド5の回転軸6に向かって水Wを噴射したほうが、汚濁Dの拡散を抑制するには有利であることが分かった。
【0048】
そのため、この実施形態では、図7に例示するように、オーバーカットで掘削するときにカッターヘッド5に向かって水Wを噴射する第一の噴射部21aは、カッターヘッド5の回転軸6よりも他方側に配設されていて、カッターヘッド5の回転軸6よりも他方側に水Wを噴射する構成になっている。回転軸6の延在方向と直交する左右の方向において、カッターヘッド5の一方側の外側端から第一の噴射部21aの噴射位置までの距離W2は、例えば、カッターヘッド5の直径W1の60%以上70%以下の距離、カッターヘッド5の他方側の外側端から第一の噴射部21aの噴射位置までの距離W3は、例えば、カッターヘッド5の直径W1の30%以上40%以下の距離に設定するとよい。
【0049】
図8に例示するように、アンダーカットで掘削するときにカッターヘッド5に向かって水Wを噴射する第二の噴射部21bは、カッターヘッド5の回転軸6の上方に配設されていて、回転軸6に向かって水Wを噴射する構成になっている。回転軸6の延在方向と直交する左右の方向において、カッターヘッド5の一方側の外側端から第二の噴射部21bの噴射位置までの距離W4は、例えば、カッターヘッド5の直径W1の45%以上55%以下の距離、カッターヘッド5の他方側の外側端から第二の噴射部21bの噴射位置までの距離W5は、例えば、カッターヘッド5の直径W1の45%以上55%以下の距離に設定するとよい。
【0050】
この実施形態の汚濁拡散抑制装置20を用いた汚濁拡散抑制方法では、ポンプ浚渫船1に汚濁拡散抑制カバー25を有する汚濁拡散抑制装置20を設置した状態で、カッターヘッド5により水底Bの土砂Sの掘削を行う。そして、図7に例示するように、旋回手段9により上面視で船体2およびラダー4を一方向に旋回させて、一方向に回転するカッターヘッド5によって水底Bの土砂Sをオーバーカットで掘削するときには、カッターヘッド5の回転軸6よりも他方側に配設されている第一の噴射部21aにより、カッターヘッド5に向かって水Wを噴射することで、汚濁Dの上方への拡散を抑制する。図8に例示するように、旋回手段9により上面視で船体2およびラダー4を他方向に旋回させて、一方向に回転するカッターヘッド5によって水底Bの土砂Sをアンダーカットで掘削するときには、カッターヘッド5の回転軸6の上方に配設されている第二の噴射部21bにより、カッターヘッド5に向かって水Wを噴射することで、汚濁Dの上方への拡散を抑制する。
【0051】
この実施形態のように、汚濁拡散抑制装置20が汚濁拡散抑制カバー25を有する構成にすると、カッターヘッド5によって土砂Sを掘削するときにカッターヘッド5の後方に向かって上昇する汚濁Dがカッターヘッド5の上方に拡散することを汚濁拡散抑制カバー25によって効果的に抑えることができる。それ故、汚濁Dの拡散を抑制するにはより有利になる。特に、汚濁拡散抑制カバー25のカッターヘッド5の後端から先端側に向かって張り出す長さを、カッターヘッド5の後端から先端までの長さ寸法の30%以上50%以下の長さに設定すると、汚濁拡散抑制装置20の重厚長大化を回避しつつ、汚濁Dの拡散を効果的に抑制するには有利になる。
【0052】
噴射部21と汚濁拡散抑制カバー25を兼ね備えた構成にすると、汚濁拡散抑制カバー25によって汚濁Dがカッターヘッド5の上方に拡散することを抑えつつ、汚濁拡散抑制カバー25の内側に流れ込んで一方側に流れる汚濁Dがカッターヘッド5の一方側に流れ出ることを、噴射部21から噴射する水Wによって効果的に抑制することができる。それ故、浚渫作業時の汚濁Dの拡散を抑制するにはより一層有利になる。
【0053】
この実施形態のように、カッターヘッド5の回転軸6よりも他方側に配設されていて、水底Bの土砂Sをオーバーカットで掘削するときにカッターヘッド5の回転軸6よりも他方側に水Wを噴射する第一の噴射部21aを有する構成にすると、水底Bの土砂Sをオーバーカットで掘削するときに生じる汚濁Dの拡散を抑制するにはより有利になる。カッターヘッド5の回転軸6の上方に配設されていて、水底Bの土砂Sをアンダーカットで掘削するときにカッターヘッド5の回転軸6に向かって水Wを噴射する第二の噴射部21bを有する構成にすると、水底Bの土砂Sをアンダーカットで掘削するときに生じる汚濁Dの拡散を抑制するにはより有利になる。
【0054】
なお、この実施形態では、汚濁拡散抑制カバー25に二つの噴射部21a、21bを設けた場合を例示したが、例えば、汚濁拡散抑制カバー25に一つの噴射部21を設けた構成にすることもできる。この場合にも、水底Bの土砂Sを浚渫する際に生じる汚濁Dの拡散を効果的に抑制できる。また、この実施形態では、オーバーカットで掘削するときとアンダーカットで掘削するときにそれぞれ片側のみの噴射部21a(21b)から水Wを噴射する場合を例示したが、例えば、オーバーカットで掘削するときとアンダーカットで掘削するときに両方の噴射部21a、21bから水Wを噴射する構成にすることもできる。
【0055】
それぞれの噴射部21a、21bに水Wを供給する方法はこの実施形態の構成に限らず、他にも様々な構成にすることができる。例えば、送水ポンプ23と切換部26とを送水管22で接続した構成にすることもできる。また、例えば、切換部26を設けずに、第一の噴射部21a用の送水ポンプ23および送水管22と、第二の噴射部21b用の送水ポンプ23および送水管22をそれぞれ設けた構成にすることもできる。
【0056】
噴射部21の設置位置と噴射方向は、カッターヘッド5の上方からカッターヘッド5に向かって水Wを噴射できる構成であれば、この実施形態で例示した構成に限定されず他にも様々な構成にすることができる。例えば、噴射部21は汚濁拡散抑制カバー25の前方などの他の位置に配置することもできる。
【0057】
上記で例示した実施形態では、船体2側からカッターヘッド5を見て、カッターヘッド5を右方向(時計回り)に回転させる構成とし、上面視でポンプ浚渫船1の船体2の右方向(右舷側)を一方向とし、船体2の左方向(左舷側)を他方向とする場合を例示したが、船体2側からカッターヘッド5を見て、カッターヘッド5を左方向(反時計回り)に回転させる構成とし、上面視でポンプ浚渫船1の船体2の左方向(左舷側)を一方向とし、船体2の右方向(右舷側)を他方向とした場合にも同様の効果を奏することができる。
【0058】
ポンプ浚渫船1を構成するスパッド3やラダー4、カッターヘッド5、吸入手段8、旋回手段9および回動手段10はそれぞれ、上記で例示した実施形態に限定されず、その他の様々な構成にすることができる。例えば、カッターヘッド5の掘削刃5aの形状や数は上記で例示した実施形態の構成には限定されない。
【符号の説明】
【0059】
1 ポンプ浚渫船
2 船体
3、3a、3b スパッド
4 ラダー
5 カッターヘッド
5a 掘削刃
6 回転軸
7 駆動部
8 吸入手段
8a 土砂吸入口
8b 吸入管
8c ポンプ
9 旋回手段
9a、9b リール部
9c、9d ワイヤ
10 回動手段
10a 支持フレーム
10b ウインチ
10c 吊ワイヤ
10d 吊具
10e 鎖
11 注水管
20 汚濁拡散抑制装置
21、21a、21b 噴射部
22 送水管
23 送水ポンプ
24 固定部
25 汚濁拡散抑制カバー
26 切換部
B 水底
C 凹路
S 土砂
W 水
D 汚濁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8