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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105165
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】グリース阻集器
(51)【国際特許分類】
   E03F 5/16 20060101AFI20240730BHJP
   E03F 5/10 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
E03F5/16
E03F5/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069075
(22)【出願日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2023009252
(32)【優先日】2023-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591059445
【氏名又は名称】ホーコス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 尊
【テーマコード(参考)】
2D063
【Fターム(参考)】
2D063DA03
2D063DB08
(57)【要約】
【課題】施工性・リニューアル性に優れた利点を生かしつつ、さらに大きな許容流入流量を有し、さらに清掃性に優れた浅型グリース阻集器を提供する。
【解決手段】バスケットは、上下流側側面部、左右側側面部および底面部とを有する収容箱内に収容されて、この収容箱内のスペースを排水流入室とし、収容箱の上流側側面部の一面または左右側側面部の二面の少なくともいずれか一面または二面の底部には、排水が流通するための流通口が設けられ、さらにこの収容箱は、排水流入室と分離室とを区画する第一隔壁であり、分離室には底壁から鉛直方向に延在させかつ標準水位の半分以下の高さを有する堰板を、少なくとも貯留槽本体の左右側側壁と収容箱の左右側側面部の間に、排水の流れに直行するようにそれぞれ設けるとともに、貯留槽本体の中央部に存在しないようしている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯留槽本体と、前記貯留槽本体の上流側に流入口と、前記流入口直下流には、前記流入口から油脂類・厨芥を含む排水が流れ込むバスケットが設置される排水流入室と、前記バスケットを経由して排水に含まれる油脂類を水と油の比重差を利用して浮上分離させるための分離室と、油脂類が取り除かれた排水を前記貯留槽本体外の下流へと流出させる流出口と、前記流出口に設けられ、前記流出口下流から臭気や虫が侵入することを防ぐトラップを有する排水流出室と、を少なくとも一つずつ有し、前記排水流入室と前記分離室、前記分離室と前記排水流出室、とはそれぞれ第一隔壁・第二隔壁で区画されている浅型グリース阻集器において、
前記バスケットは、上下流側側面部、左右側側面部および底面部とを有する収容箱内に収容されて、前記収容箱内のスペースを前記排水流入室となし、
前記収容箱は、上流側側面部の一面または左右側側面部の二面の少なくともいずれか一面または二面の底部に、排水が流通するための流通口が設けられており、さらに前記収容箱は、前記排水流入室と前記分離室とを区画する前記第一隔壁であり、
前記分離室には、前記底壁から鉛直方向に延在させかつ標準水位の半分以下の高さを有する堰板を、少なくとも前記貯留槽本体の前記左右側側壁と前記収容箱の前記左右側側面部の間に、排水の流れに直行するようにそれぞれ設け、前記堰板は、前記貯留槽本体の中央部には存在しないように設けられていることを特徴とする浅型グリース阻集器。
【請求項2】
前記貯留槽本体は、上部に1つ以上の蓋体が載置される開口部と、前記開口部の左右幅よりも大きい左右幅を有する底壁と、前記底壁の上下流側端部からは前記開口部まで鉛直方向に延在させた上下流側側壁と、前記底壁の左右側端部から前記開口部に向かって傾斜する傾斜状左右側側壁とを有し、
前記収容箱は、前記開口部の左右幅に収まる左右幅を有し、前記貯留槽本体の前記底壁上に載置され、
前記中央部は、前記収容箱が前記貯留槽本体の左右方向の中心部に載置される左右幅と前記貯留槽本体の前記上流側側壁から前記下流側側壁に至るまでの長さとを有する範囲であり、
前記堰板は、前記貯留槽本体の前記中央部以外の左右側部に設けられることを特徴とする請求項1に記載の浅型グリース阻集器。
【請求項3】
前記貯留槽本体は、上部に1つ以上の蓋体が載置される開口部と、前記開口部の左右幅よりも大きい左右幅を有する底壁と、前記底壁の上下流側端部からは前記開口部まで鉛直方向に延在させた上下流側側壁と、前記底壁の左右側端部から鉛直方向に延在させた鉛直状左右側側壁とその上端から前記開口部に向かって傾斜する傾斜状左右側側壁とを有し、
前記収容箱は、前記開口部の左右幅に収まる左右幅を有し、前記貯留槽本体の前記底壁上に載置され、
前記中央部は、前記収容箱が前記貯留槽本体の左右方向の中心部に載置される左右幅と前記貯留槽本体の前記上流側側壁から前記下流側側壁に至るまでの長さとを有する範囲であり、
前記堰板は、前記貯留槽本体の前記中央部以外の左右側部に設けられることを特徴とする請求項1に記載の浅型グリース阻集器。
【請求項4】
前記堰板は、前記貯留槽本体の上流側側壁から下流に向かって長手方向の三分の一から三分の二までの距離の間に設けられることを特徴とする請求項2または3に記載の浅型グリース阻集器。
【請求項5】
前記流通口の下方には、越流部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の浅型グリース阻集器。
【請求項6】
請求項1に記載の浅型グリース阻集器に使用される貯留槽本体は、
上部に開口部を有し、前記開口部よりも大きな左右幅を有する底壁と、前記底壁の上下流側端部から鉛直方向に延在して、上流側には流入口、下流側には排出口とを有する上下流側側壁と、前記底壁の左右側端部から前記開口部に向かう方向に傾斜状に延在する傾斜状左右側側壁で囲まれ、側面視で末広がりの台形形状を有していることを特徴とする浅型グリース阻集器に使用される貯留槽本体。
【請求項7】
請求項1に記載の浅型グリース阻集器に使用される貯留槽本体は、
上部に開口部を有し、前記開口部よりも大きな左右幅を有する底壁と、前記底壁の上下流側端部から鉛直方向に延在して、上流側には流入口、下流側には排出口とを有する上下流側側壁と、前記底壁の左右側端部から鉛直方向に延在させた鉛直状左右側側壁と、その上端から折り曲げられて前記開口部に向かって傾斜状に延在する傾斜状左右側側壁で囲まれた、側面視で末広がりの台形形状を有していることを特徴とする浅型グリース阻集器に使用される貯留槽本体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水に含まれる厨芥や油脂類などを下水に流出する前に排水から分離し収集するグリース阻集器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、図5に示すようなシンダーコンクリート100内に収まり、床の防火区画101を貫通することなく、施工時にスラブコンクリート102を開口する手間を省く施工性・リニューアル性にすぐれた浅型グリース阻集器103の需要が増加している。
【0003】
この種の浅型グリース阻集器103は、四角い形状の貯留槽本体104の一方側に流入口105を、他方に流出口106が形成されており、貯留槽本体104内は、第一隔板107、第二隔壁108によって、流入口105側を排水に含まれる厨芥を除去するバスケット109を設けた排水流入室110、中央部を水と油の比重差を利用して油脂類を浮上分離させる分離室111、油脂類が分離された排水を下水管へと流出させる流出口106に下水管から臭気や虫が侵入してくるのを防ぐ排水トラップ112が設けられた排水流出室113とに区画される。各室は、第一・第二隔板107、108の下方で連通させた構成を有している。
【0004】
また、分離室111内には、貯留槽本体104の底板から鉛直方向に設けた堰板114を貯留槽本体104の左右幅一杯に設け、バスケットをすり抜けた細かい堆積残さが、流出口106から下水管115へと流出しないように堰き止めている。
【0005】
浅型グリース阻集器において、同じ表面積(平面視)を有する深型グリース阻集器と比べ、貯留槽本体に貯留しうる最大水量である実容量が小さくなることから、阻集効率を一定水準以上に保つために許される許容流入流量も、小さくなってしまう。しかしながら、施工性・リニューアル性に優れた利点を生かしつつ、さらに大きな許容流入流量をも有する浅型グリース阻集器への需要は少なからず存在する。
【0006】
特許文献1は、このような要請に応えたものであり、貯留槽本体の上部に開口部を有する阻集部と、この阻集部の側部に設けられた上部が閉鎖された流水部とを有し、阻集部には、処理水の流れ方向と交差する方向に、複数の着脱可能な無孔仕切板と、下部に処理水の流通孔を有する有孔仕切板とが交互に配置されて複数の阻集室が形成され、流水部には、有孔仕切板の側縁に設けられた固定仕切板と、無孔仕切板の側縁に設けられた高さの低いバッフル板が交互に配置されている。
【0007】
ところで、厨房には通常、シンクや冷蔵庫、調理台等がところせましと設置されており、人が動ける通路幅は700mm程度しかない場合が多い。グリース阻集器は、浅型・深型に関わらず、槽内を清掃できるように、上部に開口を有し、その開口部には蓋体が設けられるが、厨房の床下に埋設された場合でも、この蓋体を自由に開閉できるように、蓋体の幅は、厨房の通路幅に収まるサイズとなっている。
【0008】
特許文献1の浅型グリース阻集器は、この厨房の通路幅を想定し、阻集部の上部にのみ開口部を設け蓋体を設置し、流水部の上部は閉鎖されているため、床下に埋設された際、その上に、冷蔵庫や調理台を設置することができるようになっている。つまり、特許文献1の浅型グリース阻集器は、図5に示す浅型グリース阻集器(平面視で同じ表面積を有する場合)に比して、上部に開口のない流水部の分だけ、貯留槽本体の左右幅が広がっており、その分、実容量を大きくできる。
【0009】
ところでグリース阻集器は、バスケット内で阻集された厨芥は1日1回、分離槽で浮上した油脂類は最低でも一週間に一度の定期的な清掃が必要とされている。清掃を怠った場合、分離槽に浮上した油脂類の量が累積的に増え、流入してくる排水の流れに乗って下水管へと流出してしまい、グリース阻集器が本来持つ性能を発揮できなくなるからである。
【0010】
特許文献1の浅型グリース阻集器は、貯留槽本体内の流路全体の長さを長くして油脂類の阻集効率を上げることができるのであるが、流路全体を長くするために設けられた阻集部の無孔・有孔仕切板、流水部の仕切板やバッフルが幾重にも存在し、清掃には非常に手間がかかるものとなっている。特に上部に開口のない流水部の清掃は非常に難しく、グリース阻集器の本来持つ性能を発揮させる障害ともなる。
【0011】
【特許文献1】特開平11-229483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前述したような問題点を鑑み、施工性・リニューアル性に優れた利点を生かしつつ、さらに大きな許容流入流量を有し、さらに清掃性に優れた浅型グリース阻集器を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る浅型グリース阻集器は、貯留槽本体と、貯留槽本体の上流側に流入口と、流入口直下流には、流入口から油脂類・厨芥を含む排水が流れ込むバスケットが設置される排水流入室と、バスケットを経由して排水に含まれる油脂類を水と油の比重差を利用して浮上分離させるための分離室と、油脂類が取り除かれた排水を貯留槽本体外の下流へと流出させる流出口と、流出口に設けられ、流出口下流から臭気や虫が侵入することを防ぐトラップを有する排水流出室と、を少なくとも一つずつ有し、排水流入室と分離室、分離室と排水流出室とはそれぞれ第一隔壁・第二隔壁で区画されており、バスケットは、左右側側面部および底面部とを有する収容箱内に収容されて、収容箱内のスペースを前記排水流入室となし、収容箱は、上流側側面部の一面または左右側側面部の二面の少なくともいずれか一面または二面の底部に、排水が流通するための流通口が設けられており、さらに収容箱は、排水流入室と分離室とを区画する第一隔壁であり、分離室には、底壁から鉛直方向に延在させかつ標準水位の半分以下の高さを有する堰板を、少なくとも貯留槽本体の左右側側壁と収容箱の左右側側面部の間に、排水の流れに直行するようにそれぞれに設け、この堰板は、貯留槽本体の左右幅の中央部分には存在しないように設けられていることを特徴とする。
【0014】
これによって、浅型のグリース阻集器であっても、バスケットで取り切れなかった残渣が下水に流れ出るのを最小限に抑えることができる。
【0015】
また、本発明の浅型グリース阻集器の貯留槽本体は、上部に1つ以上の蓋体が載置される開口部と、開口部の左右幅よりも大きい左右幅を有する底壁と、底壁の上下流側端部からは開口部まで鉛直方向に延在させた上下流側側壁と、底壁の左右側端部からは鉛直方向に延在させたのち開口部に向かって傾斜あるいは水平方向に延在される左右側側壁とを有して、開口部に沿った中央部と、開口部の左右側に広がる左右側部とからなり、収容箱は、開口部の左右幅に収まる左右幅を有し、貯留槽本体の底壁上に載置され、中央部は、収容箱の左右幅と貯留槽本体の上流側側壁から下流側側壁に至るまでの長手方向の範囲であり、左右側部は、貯留槽本体の中央部以外の左右側の範囲であり、そこに堰板が設けることを特徴とする。
【0016】
これによって、浅型のグリース阻集器であっても、大きな実容量を有し、分離室を大きく確保できるため阻集効率もよく、残渣が下水に流れ出るのを最小限に抑えることができ、非常にシンプルな構造で清掃がしやすいことから性能を維持するためのメンテナンスが容易となる。
【0017】
さらに、本発明の浅型グリース阻集器の堰板は、前記貯留槽本体の上流側側壁から下流に向かって長手方向の三分の一から三分の二までの距離の間にも設けられることを特徴とする。
【0018】
これによって、阻集効率も高い水準に維持できるとともに、バスケットで阻集しきれなかった残渣をも効率よくせき止めることができ、流出を防ぐことができる。
【0019】
また、本発明の浅型グリース阻集器は、第一隔壁である収容箱の流通口の下方に越流部を設けることもできる。
【0020】
これによって、バスケットで阻集しきれなかった残渣が、貯留槽本体に広がる速度を低減でき、効率よく堰板によってせき止められ、流出を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の浅型グリース阻集器を模式的に示す(a)平面図、(b)A-A断面図、(c)B-B断面図、(d)斜視図である。
図2】本発明の排水流入室を区画する第一隔壁(収容箱)の(a)斜視図、(b)第一隔壁の流通口を示す右側面図、(c)(b)の流通口に越流部を有する場合を示す右側面図である。
図3】本発明の浅型グリース阻集器に使用される貯留槽本体の別の形状を示す(a)斜視図、(b)側面図である。
図4】本発明の浅型グリース阻集器に使用される貯留槽本体の別の形状の示す(a)斜視図、(b)側面図である。
図5】従来の浅型グリース阻集器を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態につき図面を参照しながら説明する。各図において、同一の部分または対応する部分には、同一の符号を付してある。なお、排水が貯留槽本体に流入する側を上流側、下水に流出する側を下流側という。便宜上、上下流方向を長手方向と称することもある。また、本説明において使用する左側、右側とは、上流側から見た左右であり、便宜上、左右方向を短手方向と称することもある。
【0023】
図1の符号1は、本発明の第一実施形態に係る浅型グリース阻集器である。貯留槽本体2の上部には、開口部3が上流側から下流側にかけて設けられており、開口部3には図示しない蓋体が一つ以上載置されるフランジ部4が設けられている。厨房の床下に埋設させるため、蓋体が載置されるフランジ部4の左右幅は、厨房の通路幅よりも大きくないサイズに設けられている。
【0024】
貯留槽本体2は、図1(a)のB-B断面図に示すように、側面視(ここでは、便宜上、上流側あるいは下流側から見た場合を「側面視」という。)で富士山のような末広がりの台形形状を有している。具体的には、貯留槽本体2の底部は、開口部3の左右幅よりも大きい左右幅を有する底壁5と、底壁5の上下流側端部5a、5bから鉛直方向に延在する上下流側側壁6a、6bと、底壁5の左右側端部5c、5dから鉛直方向に延在させた部分と開口部に向かう方向に傾斜状に延在する部分とで構成される左右側側壁7c、7dとで囲まれている。左右側側壁7c、7dは、鉛直方向に延在させた部分である鉛直状左右側側壁8c、8dと、その上端8c´、8d´から折り曲げられて開口部に向かって傾斜状に延在する部分である傾斜状左右側側壁9c、9dとで構成されている。なお、傾斜状左右側側壁9c、9dは、水平状であってもよい(図1(c)(d)の点線で示した9c´、9d´)。
【0025】
上流側側壁6aには、図示しない側溝が接続される流入口10が設けられる。流入口10の直下流には、流入する排水に含まれる厨芥を阻集するバスケット11が設置される。バスケット11は、貯留槽本体2の開口部3の左右幅より小さい左右幅を有しており、貯留槽本体から簡単にバスケット11が取り出せるようになっている。
【0026】
図2に示すように、バスケット11は、貯留槽本体2の底壁5上に載置される収容箱12の中に載置される。収容箱12は、上下流側側面部13a、13bと左右側側面部13c、13dとからなる側面部13と、底面部14とを有する箱形状を有している。上流側側面部13a、左右側側面部13c、13dの三面の底部には、それぞれ流通口15a、15c、15dが設けられている。この流通口15は、上流側側面部13a(一面)にのみ設けられてもよく、あるいは左右側側面部13c、13d(二面)にのみ設けられてもよい。なお、収容箱12は底壁5上に載置されるのでなく、例えば貯留槽本体のフランジ部4などに支持されていてもよい。
【0027】
収容箱12を第一隔壁として、収容箱12内のスペースを排水流入室16、収容箱12外のスペースを分離室17に区画している。流通口15から分離室17へ流入した排水は、この分離室17で油と水の比重差を利用して排水中の油脂類が浮上分離される。
【0028】
図1(b)に示すWLは、標準水位面を意味する。標準水位面WLとは、貯留槽本体2に実容量の貯留水が入っているときの水位面であり、この高さは、後述するトラップのあふれ面端部Hの高さに相当する。浅型グリース阻集器の貯留槽本体2の高さ(フランジ4から底壁5までの距離)は、せいぜい300mm程度であり(これに限定されない)、分離室17に浮上分離された油脂類の堆積した層が厚くなると、流通口15を介して排水流入室16に油脂類が逆流しやすくなる。
【0029】
油脂類が収容箱12内に逆流するとバスケット11の孔を油脂類が何度も通過して、油脂類が細かく細断されてしまい、浮上分離する前に油脂類を含んだ排水が流出口から流出してしまいやすくなり、阻集効率に悪影響をおよぼしやすくなる。このことは特に、貯留槽本体2の容量が小さかったり、長手方向の長さがあまり長くない場合に影響が出やすい。
【0030】
そこで、このような油脂類の逆流を防ぐため、流通口15の高さは、油脂類の堆積厚さの下端部よりもできるだけ低い位置に設けるとともに、流通口15を通る排水の流速が上がって分離室17で堆積している油脂類を攪拌しないように、流通口15の左右幅を側面部13幅のほぼ一杯に広げ、開口面積を可能な限り広くしている。排水流入室16から分離室17へ流入する排水の流速をできる限り緩やかになるようにするためである。
【0031】
また、上流側側面部13aに設けられた流通口15aから流出した排水は上流側側壁6aにぶつかって左右へと導かれ、左右側側面部13c、13dに設けられた流通口15c、15dから流出した排水と合流し、さらに鉛直状左右側側壁8c、8dにぶつかって流速が緩められる。
【0032】
ここで、便宜上、図1(a)に示すように収容箱12が貯留槽本体2の左右方向の中心部に載置される左右幅と同じ左右幅と貯留槽本体2の上流側側壁6aから下流側側壁6bに至るまでの長さとを有する範囲を中央部CAと呼び、それ以外の範囲を左右側部SA(左側部LSA、右側部RSA)と呼ぶ。中央部CAは貯留槽本体2の開口部3の左右幅と同じがそれより小さい。鉛直状左右側側壁8c、8dにぶつかって流速が緩められた排水は、左右側部SAを下流に向かって緩やかに進むが、中央部CAの流速はさらに緩やかなものとなっている。
【0033】
下流側側壁6bには、流出口18が設けられており、流出口18の直上流には、流出口下流からの臭気や虫が貯留槽本体2内に侵入してくるのを防ぐためのトラップ19が設けられている。このトラップ19は、図1(a)~(d)に示すように、貯留槽本体2の底壁5から鉛直方向に延在し、流出口18を囲むように、流出口18の左右幅よりも広い左右幅と流出口18の高さより低い平面視コの字状の内トラップ板20と、内トラップ板20を上流側で囲むように、流出口18の高さよりも高く、内トラップ板20の左右幅よりも広い左右幅と、流出口18の下端とほぼ同じ高さの下端部を有する平面視コの字状の外トラップ板21を有している。内トラップ板20は、底壁5と下流側側壁6bに、外トラップ板21は下流側側壁6bにそれぞれ溶接されている。
【0034】
内トラップ板20の上端部20aの高さと外トラップ板21の下端部21aとの高さとの距離が封水深となる。この封水深を構成する内トラップ板20と外トラップ板21は、排水が通る流路Dを形成しており、ここで排水の流速が上がらないように、内トラップ板20と外トラップ板21との間隔を適度に設けている。さらに、内トラップ20の上端部20aの高さが、前述したあふれ面端部Hに相当し、標準水位面を決めている。このように封水されたトラップ19の上部は、開閉可能な蓋が固定されて覆われており、流出口18の下流からの臭気や虫はトラップ19から漏れない措置が講じられる。
【0035】
トラップ19の周囲には、第二隔壁22が設けられている。第二隔壁22は、外トラップ板21の高さよりも高く、下端部22aは、外トラップ21の下端部21aよりも若干低く設けられており、下流側側壁6bに取り外し可能に設置されている。第二隔壁22内のスペースを排水流出室23とし、分離室17と区画される。分離室17で油脂類が阻集された排水は、第二隔壁22の下端部22aから下の流通部24を経由して、トラップ19内へ流入する。
【0036】
左右側部SAを下流に向かって進む排水には、油脂類のほかに、バスケット11で阻集しきれなかった残渣が含まれている。そこで、この残渣が流出口18から下流へ流出しないように、分離室17の左右側部には、堰板25が左側部LSA、右側部RSAにそれぞれ少なくとも一つずつ設けられ、残渣をせき止める。堰板25は、貯留槽本体2の上下流方向(長手方向)に対し直行する角度で設けられ、堰板25の高さは、標準水位面の半分以下の高さに設けられている。
【0037】
また、堰板25は、貯留槽本体2の中央部CAには設けられない(あるいは、左右側部から中央部CA内にかけて堰板25が設けられてもよいが、堰板25は、貯留槽本体2の短手方向の中央部分には存在しないように設けられる。これも中央部CAには設けられないと同義とする))ことから、分離室17の中央部CAを流れる排水は、障害物のない状態で、乱流を生じることなく、緩やかさを保ったまま、排水流出室23へと流入することができる。浅型グリース阻集器の貯留槽本体2は、高さのない非常に浅いものであるため、従来のように、貯留槽本体2の幅一杯に広がるように堰板を設けると、排水は堰板を超えて波立ってしまい、分離室17の浮上した油脂類の堆積した層の下層部分が、流通部24から排水流出室23内の流路D内で堆積するようになってしまう。そうすると、油脂類は流出口18から下流へ流れ出やすくなり、阻集効率が低下してしまう。これは、堰板25が、排水流出室23へ近くなるほど、この傾向は高くなる。
【0038】
一方、堰板25は、その設置位置が排水流入室16へ近いほど、バスケット11で阻集しきれなかった残渣を十分にせき止めることができず、堰板25を乗り越えて、分離室17に堆積する残渣の量が増え、流出口18から流出する量も多くなる傾向にある。
【0039】
そこで、堰板25の設置位置は、貯留槽本体2の上流側から三分の一の距離から三分の二の距離の範囲内に設置するのが望ましい。その範囲に堰板25を設置することで、排水が堰板25を乗り越えて波立ったとしても、排水流出室23へ届くころには、堆積した油脂類を排水流出室23の流通部24へと巻き込んで流入させない程度に波立ちは収まる程度の距離を確保できるからである。
【0040】
また、バスケット11で阻集しきれなかった残渣も十分にせき止めることができ、堰板25を超えて残渣が分離室17の底に堆積したとしても、排水の流速に巻き込まれて一緒に排水流出室23へと流入しない程度に抑えることができるからである。
【0041】
堰板25は、L字鋼を底壁5に溶接しているが、これに限らず、I字型の堰板25を底壁5に溶接してもよい。
【0042】
また、図2(c)に示すように、収容箱12の左右側側面部13c、13dの底部に設けられる流通口15d´の下端部には、底面部14からわずかに立ち上がる越流部30を左右側にそれぞれ設けることもできる。これは、貯留槽本体2の容量が大きく、あるいは長手方向の長さが十分にある場合には、排水の流入流量が大きいため、貯留槽本体2内を流れる排水の流速が早くなりがちであるため、この流速を可能な限り緩やかにするための工夫となる。
【0043】
流通口15d´の開口面積を狭めないようにするため、越流部30を設けた分、流通口15d´の高さは、図2(b)のそれよりも少し高い位置に設けられる。この場合、流通口15d´の高さは、油脂類の堆積厚さの下端部よりも高くなってしまうこともあり、油脂類が収容箱12内に逆流しやすくなる。しかしながら、貯留槽本体2の容量が十分に大きく、あるいは長手方向の長さが十分にあるので、越流部30のわずかな高さが、流通口15d´を通る排水が分離室17内へ流出する速度を緩やかにする助けとなる。それに伴って、逆流によって細かい粒子となった油脂類も、分離室17で浮上分離する時間が十分に確保され、さらに、排水に含まれる残渣の広がりを抑え、効果的に堰板25によって残渣がせき止められる。
【0044】
貯留槽本体2は、図1に示す形状のほかに、図3図4に示すような形状にすることもできる。ここでは、図1に示す形状と異なる部分のみについて説明する。
【0045】
図3に示す貯留槽本体102は、左右側側壁107c、107dは、図1の鉛直状左右側側壁はなく、底壁5の左右端にはR部108c、108dが設けられ、そこから、幅広の底壁から幅狭の開口部に向かって傾斜状に延在する傾斜状左右側側壁109c、109dとで構成されており、側面視で富士山のような末広がりの台形形状を有している。なお、ここでの幅広・幅狭の表現は、底壁と開口部との相対的な表現であって、絶対的なものではない。
【0046】
また、図4に示す貯留槽本体202の左右側側壁207c、207dは、図3に示すR部はなく、底壁5から鋭角208c、208dに折り曲げられて開口部に向かって傾斜状に延在する傾斜状左右側側壁209c、209dを有しており、これも、側面視で富士山のような末広がりの台形形状を有している。
【0047】
図1(c)、図3(d)、図4(d)に示すように、傾斜状左右側側壁(9c、9d;109c、109d;209c、209d)を有する貯留槽本体(2、102、202)では、標準水位面WLを決めるあふれ面端部Hが、傾斜状左右側側壁(9c、9d;109c、109d;209c、209d)の傾斜部に存在するように構成されている。それにより、標準水位面WL上に堆積した油脂類は、傾斜状左右側側壁の傾斜によって貯留槽本体の中央部に寄せ集められ、清掃時には、開口部3から貯留槽本体内の油脂類を除去しやすい有利な構造を有している。
【符号の説明】
【0048】
1 浅型グリース阻集器
2、102、202 貯留槽本体
3 開口部
4 フランジ
5 底壁
6a 上流側側壁、
6b 下流側側壁
7c、107c、207c
左側側壁(鉛直状左側側壁8c、傾斜状(水平状)左側側壁9c、109c、209c)
7d、107d、207d
右側側壁(鉛直状左側側壁8d、傾斜状(水平状)左側側壁9d、109d、209d)
10 流入口
11 バスケット
12 収容箱(第一隔壁)
13 側面部(a:上流側、b:下流側、c:左側、d:右側)
14 底面部
15 流通口(a:上流側、c:左側、d:右側)
16 排水流入室
17 分離室
18 流出口
19 トラップ(20:内トラップ板、21:外トラップ板)
22 第二隔壁
23 排水流出室
24 流通部
25 堰板
30 越流部
図1
図2
図3
図4
図5