(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105167
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】石炭の溶媒抽出用溶媒の選定方法、石炭の溶媒抽出方法及び石炭の溶媒抽出用溶媒
(51)【国際特許分類】
C10G 1/04 20060101AFI20240730BHJP
B01D 11/02 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C10G1/04 A
B01D11/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114055
(22)【出願日】2023-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2023009187
(32)【優先日】2023-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】畑 友輝
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀樹
【テーマコード(参考)】
4D056
4H129
【Fターム(参考)】
4D056AB14
4D056AC13
4D056AC18
4D056AC29
4D056CA18
4D056CA27
4D056CA39
4H129AA01
4H129BA02
4H129BA09
4H129BB01
4H129BC08
4H129HB03
4H129NA09
4H129NA21
(57)【要約】
【課題】石炭を何らかの溶媒(第1の溶媒)で抽出して得られた残渣を抽出することが可能な第2の溶媒を容易に選定することが可能な石炭の溶媒抽出用溶媒の選定方法、及び石炭の溶媒抽出方法を提供する。
【解決手段】本発明の要旨は以下である。
(1)
石炭の溶媒抽出用溶媒の選定方法であって、
石炭を第1の溶媒で抽出して得られた残渣の平均分子モデルを求める平均分子モデル構築工程と、
前記平均分子モデルに基づいて、前記残渣のハンセン溶解度パラメータを算出するHSP算出工程と、
前記残渣と第2の溶媒とのHSP間距離に基づいて、前記第2の溶媒を選定する溶媒選定工程と、を含むことを特徴とする、石炭の溶媒抽出用溶媒の選定方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭の溶媒抽出用溶媒の選定方法であって、
石炭を第1の溶媒で抽出して得られた残渣の平均分子モデルを求める平均分子モデル構築工程と、
前記平均分子モデルに基づいて、前記残渣のハンセン溶解度パラメータを算出するHSP算出工程と、
前記残渣と第2の溶媒とのHSP間距離Ra((1)式)に基づいて、前記第2の溶媒を選定する溶媒選定工程と、を含むことを特徴とする、石炭の溶媒抽出用溶媒の選定方法。
Ra=[4(δd1-δd2)2+(δp1-δp2)2+(δh1-δh2)2]1/2 …(1)
ただし、式(1)におけるδd1は前記残渣の平均分子モデルのロンドン分散力、δp1は前記残渣の平均分子モデルの双極子間力、δh1は前記残渣の平均分子モデルの水素結合力、δd2は前記第2の溶媒のロンドン分散力、δp2は前記第2の溶媒の双極子間力、δh2は前記第2の溶媒の水素結合力である。
【請求項2】
前記平均分子モデル構築工程では、前記残渣に対して、元素分析、1H NMR測定及び13C NMR測定を実施することを含むことを特徴とする、請求項1に記載の石炭の溶媒抽出用溶媒の選定方法。
【請求項3】
前記第1の溶媒はマジックソルベント(二硫化炭素とN-メチル-2-ピロリドンの混合溶媒)であることを特徴とする、請求項1または2に記載の石炭の溶媒抽出用溶媒の選定方法。
【請求項4】
前記HSP間距離が7.0以下となる前記第2の溶媒を選定することを特徴とする、請求項1または2に記載の石炭の溶媒抽出用溶媒の選定方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の方法で選定された前記第2の溶媒を用いることを特徴とする、石炭の溶媒抽出方法。
【請求項6】
石炭を第1の溶媒で抽出して得られた残渣に対して、元素分析、1H NMR測定及び13C NMR測定を実施して得られた前記残渣の平均分子モデルとのハンセン溶解度パラメータ距離Ra((1)式)が7.0以下である石炭の溶媒抽出用溶媒。
Ra=[4(δd1-δd2)2+(δp1-δp2)2+(δh1-δh2)2]1/2 …(1)
ただし、式(1)におけるδd1は前記残渣の平均分子モデルのロンドン分散力、δp1は前記残渣の平均分子モデルの双極子間力、δh1は前記残渣の平均分子モデルの水素結合力、δd2は前記溶媒抽出用溶媒のロンドン分散力、δp2は前記溶媒抽出用溶媒の双極子間力、δh2は前記溶媒抽出用溶媒の水素結合力である。
【請求項7】
前記第1の溶媒はマジックソルベント(二硫化炭素とN-メチル-2-ピロリドンの混合溶媒)であることを特徴とする、請求項6に記載の石炭の溶媒抽出用溶媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭の溶媒抽出用溶媒の選定方法、石炭の溶媒抽出方法及び石炭の溶媒抽出用溶媒に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭の構成成分を分析する(例えば分子構造や分子量を特定する等)ためには、石炭の構成成分を溶媒で抽出することが重要である。石炭の抽出に用いられる溶媒としては、例えば特許文献1に記載の混合溶媒(マジックソルベントとも称される)が知られている。このマジックソルベントは、二硫化炭素とN-メチル-2-ピロリドンの混合溶媒であり、常温常圧における石炭の抽出率において最大値を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載のマジックソルベントを用いても石炭を完全に抽出(溶解)することができなかった。また、特許文献1記載のマジックソルベントに限らず、他の溶媒で石炭を抽出した場合にも石炭を完全に抽出することができなかった。
【0005】
石炭の構成成分をより詳細に分析するためには、石炭を何らかの溶媒(第1の溶媒。例えば上述したマジックソルベント)で抽出して得られた残渣をさらに別の溶媒(第2の溶媒)で抽出することが望ましい。ここで、第1の溶媒で抽出処理する対象は、もとの石炭そのものでもよく、第1の溶媒以外の溶媒で抽出処理した残渣であってもよい。例えば、アセトンで抽出処理した残渣であってもよく、アセトンの抽出残渣(アセトン不溶分)をさらにピリジンで抽出処理した残渣(ピリジン不溶分)であってもよい。ただし、石炭の種類によって構成成分はまちまちであるため、石炭を第1の溶媒で抽出することで得られた残渣の構成成分もまちまちであると想定される。このため、第1の溶媒の抽出残渣をさらに溶媒抽出するための第2の溶媒の選定は容易ではない。特に、第1の溶媒がマジックソルベントとなる場合、マジックソルベントは常温常圧における石炭の抽出率において最大値を示すため、残渣は多くの溶媒に溶けにくい。このため、第1の溶媒がマジックソルベントとなる場合、第2の溶媒は未だ発見されていない。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、石炭を何らかの溶媒(第1の溶媒)で抽出して得られた残渣を抽出することが可能な第2の溶媒を容易に選定することが可能な石炭の溶媒抽出用溶媒の選定方法、石炭の溶媒抽出方法及び石炭の溶媒抽出用溶媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は以下である。
(1)
石炭の溶媒抽出用溶媒の選定方法であって、
石炭を第1の溶媒で抽出して得られた残渣の平均分子モデルを求める平均分子モデル構築工程と、
前記平均分子モデルに基づいて、前記残渣のハンセン溶解度パラメータを算出するHSP算出工程と、
前記残渣と第2の溶媒とのHSP間距離Ra((1)式)に基づいて、前記第2の溶媒を選定する溶媒選定工程と、を含むことを特徴とする、石炭の溶媒抽出用溶媒の選定方法。
Ra=[4(δd1-δd2)2+(δp1-δp2)2+(δh1-δh2)2]1/2 …(1)
ただし、式(1)におけるδd1は前記残渣の平均分子モデルのロンドン分散力、δp1は前記残渣の平均分子モデルの双極子間力、δh1は前記残渣の平均分子モデルの水素結合力、δd2は前記第2の溶媒のロンドン分散力、δp2は前記第2の溶媒の双極子間力、δh2は前記第2の溶媒の水素結合力である。
(2)
前記平均分子モデル構築工程では、前記残渣に対して、元素分析、1H NMR測定及び13C NMR測定を実施することを含むことを特徴とする、(1)に記載の石炭の溶媒抽出用溶媒の選定方法。
(3)
前記第1の溶媒はマジックソルベント(二硫化炭素とN-メチル-2-ピロリドンの混合溶媒)であることを特徴とする、(1)または(2)に記載の石炭の溶媒抽出用溶媒の選定方法。
(4)
前記HSP間距離が7.0以下となる前記第2の溶媒を選定することを特徴とする、(1)~(3)の何れか1項に記載の石炭の溶媒抽出用溶媒の選定方法。
(5)
(1)~(4)の何れか1項に記載の方法で選定された前記第2の溶媒を用いることを特徴とする、石炭の溶媒抽出方法。
(6)
石炭を第1の溶媒で抽出して得られた残渣に対して、元素分析、1H NMR測定及び13C NMR測定を実施して得られた前記残渣の平均分子モデルとのハンセン溶解度パラメータ距離Ra((1)式)が7.0以下である石炭の溶媒抽出用溶媒。
Ra=[4(δd1-δd2)2+(δp1-δp2)2+(δh1-δh2)2]1/2 …(1)
ただし、式(1)におけるδd1は前記残渣の平均分子モデルのロンドン分散力、δp1は前記残渣の平均分子モデルの双極子間力、δh1は前記残渣の平均分子モデルの水素結合力、δd2は前記溶媒抽出用溶媒のロンドン分散力、δp2は前記溶媒抽出用溶媒の双極子間力、δh2は前記溶媒抽出用溶媒の水素結合力である。
(7)
前記第1の溶媒はマジックソルベント(二硫化炭素とN-メチル-2-ピロリドンの混合溶媒)であることを特徴とする、(6)に記載の石炭の溶媒抽出用溶媒。
【発明の効果】
【0008】
本発明の上記観点によれば、石炭を何らかの第1の溶媒で抽出して得られた残渣を抽出することが可能な第2の溶媒を容易に選定することが可能な石炭の溶媒抽出用溶媒の選定方法、石炭の溶媒抽出方法及び石炭の溶媒抽出用溶媒を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<1.石炭の溶媒抽出用溶媒の選定方法>
まず、本実施形態に係る石炭の溶媒抽出用溶媒の選定方法について説明する。まず、抽出対象となる石炭を準備する。石炭の種類は特に問われないが、例えばコークスの材料となる石炭等が考えられる。一方で、第1の溶媒を準備する。第1の溶媒の種類は特に問われず、石炭の一部でも抽出できればよい。第1の溶媒の例としては、例えば特許文献1に記載されたマジックソルベントが挙げられる。マジックソルベントは、二硫化炭素とN-メチル-2-ピロリドンの混合溶媒である。二硫化炭素とN-メチル-2-ピロリドンの混合比(体積比)は特に制限されず、例えば1:1であってもよいし、それ以外の範囲、例えば4:6~6:4の範囲内であってもよい。
【0010】
ついで、石炭を第1の溶媒で抽出する。抽出の方法は特に制限されず、例えば超音波抽出であってもよい。抽出後、例えば遠心分離等により残渣(SI)を回収する。ついで、得られた残渣の平均分子モデルを求める(平均分子モデル構築工程)。平均分子モデルは、必ずしも残渣中の分子構造に合致するものではないが、残渣中の分子構造の特性(官能基の種類、数等)を反映したものとなっている。
【0011】
本発明における平均分子モデルは、特開2022-087797号公報または、非特許文献、ISIJ International, Vol.62(2022),No.5,pp948-956に記載された方法によって求められる。当該特許文献および非特許文献によれば、まず、JIS M 8813またはJIS M 8819に準拠した方法で残渣の元素分析を行う。これにより、残渣を構成する炭素原子(C)、水素原子(H)、窒素原子(N)、酸素原子(O)等の質量%を測定することができる。ついで、1H NMR測定及び13C NMR測定を実施する。1H NMR測定結果からは、Ha、Hα、Hβ、Hγの4種のHの存在割合がわかる。13C NMR測定結果からは、芳香族炭素の数、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシル基等の酸素含有基の数がわかる。これらの結果に基づいて、平均分子モデルを構築する。
【0012】
ついで、平均分子モデルに基づいて、残渣のハンセン溶解度パラメータ(HSP)を算出する(HSP算出工程)。具体的には、Kervelen & Hoftyzerの方法と呼ばれる手法(「Properties of Polymers(4ed.2009)」)を用いる。この手法では、平均分子モデルを構成するメチレン基等の基毎のHSP、の総和を平均分子モデルのモル体積で除することによって平均分子モデルのHSPが求められる。抽出残差のように平均分子量が不明である場合は、十分に大きい平均分子量を仮定した平均分子モデルを構築し、そのHSPを算出することが可能である。分子量の値の増減に伴う平均分子モデルの変化は、ポリマー等の高分子材料の分子構造における繰り返し単位の増減に相当する。HSP算出時には、部分構造のHSP値の和をその分子のモル体積で除算するため、分子量の値の増減に伴う実用上のHSP値の変化は軽微である。
【0013】
ついで、残渣と第2の溶媒とのHSP間距離(Ra)((1)式)に基づいて、第2の溶媒を選定する(溶媒選定工程)。
Ra=[4(δd1-δd2)2+(δp1-δp2)2+(δh1-δh2)2]1/2 …(1)
ただし、式(1)におけるδd1は残渣の平均分子モデルのロンドン分散力、δp1は残渣の平均分子モデルの双極子間力、δh1は残渣の平均分子モデルの水素結合力、δd2は第2の溶媒のロンドン分散力、δp2は第2の溶媒の双極子間力、δh2は第2の溶媒の水素結合力である。
ハンセン溶解度パラメータは3つの値の組み合わせで構成されるので、3次元空間内の点として表すことができる。HSP間距離は、残渣のハンセン溶解度パラメータの点と第2の溶媒のハンセン溶解度パラメータの点とを結ぶ線分の長さである。HSP間距離が短いほど、第2の溶媒が残渣を溶解しやすくなる傾向がある。このため、例えばHSP間距離が7.0以下、好ましくは5.0以下となる第2の溶媒を選定してもよい。第2の溶媒の選定は、例えばHSPiP(http://www.hansen-solubility.com/)のプログラムを用いてもよい。
【0014】
以上の工程により、第2の溶媒を選定する。本実施形態に係る石炭の溶媒抽出用溶媒の選定方法によれば、残渣の平均分子モデルを構築し、この平均分子モデルに対応するハンセン溶解度パラメータに基づいて第2の溶媒を選定するので、第2の溶媒を容易に選定することができる。例えば、第1の溶媒がマジックソルベントとなる場合、これまで残渣(MI=Magic-solvent Insoluble)を溶解させる第2の溶媒は見つかっていなかった。しかし、本実施形態によれば、後述する実施例で示される通り、第2の溶媒としてチオフェノールとベンゾチアゾールとを4:6の体積比で混合した混合溶媒を選定することができる。
【0015】
したがって、第2の溶媒は、以下の様に定義することもできる。
石炭を第1の溶媒で抽出して得られた残渣に対して、元素分析、1H NMR測定及び13C NMR測定を実施して得られた残渣の平均分子モデルとのハンセン溶解度パラメータ距離Ra((1)式)が7.0以下である石炭の溶媒抽出用溶媒。
【0016】
ここで、石炭の平均分子モデルを直接構築し、この平均分子モデルに対応するハンセン溶解度パラメータに基づいて第2の溶媒を選定する方法も想定される。しかし、この方法で構築された平均分子モデルは、石炭に含まれるあらゆる分子を反映したものになっている。このため、例えばハンセン溶解度パラメータが非常に離れた複数の分子が石炭に含まれる場合、平均分子モデルのハンセン溶解度パラメータは、これらの分子のハンセン溶解度パラメータの中間的な値となる。したがって、平均分子モデルのハンセン溶解度パラメータに基づいて第2の溶媒を選定しても、第2の溶媒のハンセン溶解度パラメータは、石炭に含まれる分子のハンセン溶解度パラメータから離れている可能性がある。この場合、第2の溶媒は、石炭をほとんど抽出しない可能性がある。
【0017】
これに対し、本実施形態に係る石炭の溶媒抽出用溶媒の選定方法によれば、まず石炭を第1の溶媒で抽出する。つまり、石炭に含まれる分子のうち、第1の溶媒のハンセン溶解度パラメータに近いハンセン溶解度パラメータを有するものを第1の溶媒で抽出する。これにより、残渣に含まれる分子のハンセン溶解度パラメータの分布を狭めることができる。したがって、残渣の平均分子モデルから求められるハンセン溶解度パラメータは、残渣に含まれる各分子のハンセン溶解度パラメータに近い値となるので、第2の溶媒のハンセン溶解度パラメータも残渣に含まれる各分子のハンセン溶解度パラメータに近い値となる。このため、第2の溶媒が残渣を溶解する可能性はより高くなる。
【0018】
<2.石炭の溶媒抽出方法>
次に、本実施形態に係る石炭の溶媒抽出方法について説明する。本実施形態に係る石炭の溶媒抽出方法では、まず、石炭を上述した第1の溶媒で抽出し、当該抽出によって得られた残渣を上述した第2の溶媒で抽出する。これにより、残渣の少なくとも一部を第2の溶媒で抽出することができる。特に、第1の溶媒がマジックソルベントとなる場合、第2の溶媒としてチオフェノールとベンゾチアゾールとを4:6の体積比で混合した混合溶媒を選定することができる。この第2の溶媒を用いることで、残渣の一部を比較的低い温度圧力(例えば常温常圧)かつ短時間で抽出することができる。
【0019】
なお、第2の溶媒によっても残渣を完全に抽出できるとは限られない。もし第2の溶媒によっても全ての残渣を抽出できなかった場合には、得られた残渣に対して上述した平均分子モデル構築工程、HSP算出工程、及び溶媒選定工程を繰り返し行うことで、当該残渣を溶解する新たな第2の溶媒を選定すればよい。
【0020】
以上述べた通り、本実施形態に係る石炭の溶媒抽出方法によれば、石炭を第1の溶媒で抽出することにより得られた残渣を第2の溶媒で抽出することができる。特に、第1の溶媒がマジックソルベントとなる場合であっても、残渣を第2の溶媒で抽出することができる。
【実施例0021】
次に、本実施形態の実施例について説明する。本実施例では、石炭Aをマジックソルベントで抽出し、これにより得られた残渣を第2の溶媒で抽出した。具体的な手順は以下の通りである。
【0022】
抽出対象の石炭Aを2g準備した。一方、マジックソルベントとして二硫化炭素とN-メチル-2-ピロリドンとを5:5の体積比で混合した混合溶媒を準備した。このマジックソルベントを第1の溶媒とし、当該マジックソルベント50mlに石炭A2gを混合し、超音波抽出を行った。ついで、遠心分離により固液分離し、上澄みを取り出した。以上の工程により残渣(MI)を回収した。ついで、得られた残渣にマジックソルベント50mlを混合し、上述した超音波抽出、及び固液分離による残渣の回収を繰り返して行った。超音波抽出及び固液分離は合計(石炭からの抽出を合わせて)5回行った。ついで、抽出物(石炭Aの一部が溶解したマジックソルベント溶液)及び残渣から溶媒(マジックソルベント)を除去し(残渣については減圧乾燥を行い)、残渣の質量%を求めた。この結果、残渣は当初の石炭A2gに対して62質量%であった。
【0023】
ついで、得られた残渣の元素分析、1H NMR測定及び13C NMR測定を実施した。ついで、これらの結果に基づいて、残渣の平均分子モデルを構築した。具体的な方法は上述した通りである。得られた平均分子モデルを化学式(1)で示す。
【0024】
【0025】
ついで、平均分子モデルに基づいて、残渣のハンセン溶解度パラメータを算出した。具体的な算出方法は上述した通りである。結果を表1に示す。
【0026】
【0027】
表1において、δdは分子間の分散力によるエネルギー(ロンドン分散力)であり、δpは分子間の双極子相互作用によるエネルギー(双極子間力)であり、δhは分子間の水素結合によるエネルギー(水素結合力)であり、δtはδd、δp、δhをxyz軸とする3次元空間上の点(δd、δp、δh)から原点までの距離である。
【0028】
ついで、残渣と第2の溶媒とのHSP間距離(Ra)に基づいて、第2の溶媒を選定した。具体的には、HSPiP(http://www.hansen-solubility.com/)のプログラムを用いてHSP間距離が7.0以下となる第2の溶媒を選定した。この結果、第2の溶媒として、チオフェノールとベンゾチアゾールとを4:6の体積比で混合した混合溶媒を選定した。この混合溶媒と残渣とのHSP間距離は5.6であった。
【0029】
ついで、上記の混合溶媒を第2の溶媒として調整した。ついで、第2の溶媒50mlに残渣2gを混合し、超音波抽出を行った。ついで、遠心分離により固液分離し、上澄みを取り出した。以上の工程により残渣を回収した。ついで、得られた残渣に第2の溶媒50mlを混合し、上述した超音波抽出、及び固液分離による残渣の回収を繰り返して行った。超音波抽出及び固液分離は合計5回行った。ついで、抽出物(残渣の一部が溶解した第2の溶媒の溶液)及び残渣から第2の溶媒を除去した(残渣については減圧乾燥を行った)。この結果、第2の溶媒は残渣の5.2質量%を溶解したことが確認できた。
ついで、上記の混合溶媒を第2の溶媒として調整した。ついで、第2の溶媒50mlに残渣2gを混合し、超音波抽出を行った。ついで、遠心分離により固液分離し、上澄みを取り出した。以上の工程により残渣を回収した。ついで、得られた残渣に第2の溶媒50mlを混合し、上述した超音波抽出、及び固液分離による残渣の回収を繰り返して行った。超音波抽出及び固液分離は合計5回行った。ついで、抽出物(残渣の一部が溶解した第2の溶媒の溶液)及び残渣から第2の溶媒を除去した(残渣については減圧乾燥を行った)。この結果、第2の溶媒は残渣の4.6質量%を溶解したことが確認できた。
なお、第2の溶媒による残渣の抽出は、常温付近の低温且つ常圧において非常に短時間内に完了した。また、第2の溶媒の蒸気圧が著しく高圧とならない範囲内で抽出温度を上昇させることにより抽出時間を更に短縮することも出来る。
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。