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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105170
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】抗菌剤、樹脂組成物及び抗菌剤溶液
(51)【国際特許分類】
   C08H 7/00 20110101AFI20240730BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240730BHJP
   C08L 59/00 20060101ALI20240730BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20240730BHJP
   C08K 3/16 20060101ALI20240730BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20240730BHJP
   C08L 97/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C08H7/00
C08L101/00
C08L59/00
C08L71/00
C08K3/16
C08K7/02
C08L97/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023135901
(22)【出願日】2023-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2023009606
(32)【優先日】2023-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501218566
【氏名又は名称】学校法人片柳学園
(71)【出願人】
【識別番号】521166319
【氏名又は名称】株式会社リグノマテリア
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 俊
(72)【発明者】
【氏名】加柴 美里
(72)【発明者】
【氏名】三上 あかね
(72)【発明者】
【氏名】見正 大祐
(72)【発明者】
【氏名】桝田 剛
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA00W
4J002AH00X
4J002BB00W
4J002BD03W
4J002BD13W
4J002BG05W
4J002CB00W
4J002CH00W
4J002DD057
4J002DL006
4J002FA046
4J002FD010
4J002FD016
4J002FD020
4J002FD070
4J002FD090
4J002FD130
4J002FD207
4J002GB00
4J002GC00
4J002GL00
4J002GQ00
4J002HA04
4J002HA09
(57)【要約】
【課題】新たな天然有機物由来の抗菌剤、樹脂組成物及び抗菌剤溶液の提供。
【解決手段】グリコールリグニンを有効成分とする抗菌剤、樹脂組成物及び抗菌剤溶液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコールリグニンを有効成分とする抗菌剤。
【請求項2】
樹脂添加用である請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項3】
溶液添加用である請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項4】
請求項1に記載の抗菌剤と、樹脂と、を含む樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂がポリエーテル樹脂である請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記樹脂がポリアセタールである請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂が繊維強化プラスチックである請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記抗菌剤の含有量が、樹脂組成物全体の質量に対して5質量%以上である請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の抗菌剤と、溶媒と、を含む抗菌剤溶液。
【請求項10】
前記溶媒が塩を含む水である請求項9に記載の抗菌剤溶液。
【請求項11】
前記抗菌剤の濃度が、抗菌剤溶液に対して0.5μg/ml以上100μg/ml以下である請求項9に記載の抗菌剤溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗菌剤、樹脂組成物及び抗菌剤溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
物品等に抗菌作用を付与するために、抗菌剤を用いる方法が挙げられる。近年、バイオマス度の向上等の観点から、天然有機物由来の抗菌剤が着目されている。
特許文献1には、「リグニンと、熱可塑性樹脂を含む抗菌性樹脂組成物であって、リグニンが有機溶媒に可溶であり、不揮発分としてリグニンを0.01~50質量%含むことを特徴とする抗菌性樹脂組成物。」が提案されている。
特許文献2には、「熱可塑性樹脂99.9~70重量%、リグニン化合物0.1~30重量%からなる樹脂組成物。」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-219716号公報
【特許文献2】特開平11-152410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、更なる天然有機物由来の抗菌剤の開発が要求されている。
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、新たな天然有機物由来の抗菌剤を提供することである。
本開示の他の一実施形態が解決しようとする課題は、抗菌作用を有する樹脂組成物を提供することである。
本開示の他の一実施形態が解決しようとする課題は、抗菌作用を有する抗菌剤溶液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段には、以下の手段が含まれる。
<1> グリコールリグニンを有効成分とする抗菌剤。
<2> 樹脂添加用である<1>に記載の抗菌剤。
<3> 溶液添加用である<1>に記載の抗菌剤。
<4> <1>に記載の抗菌剤と、樹脂と、を含む樹脂組成物。
<5> 前記樹脂がポリエーテル樹脂である<4>に記載の樹脂組成物。
<6> 前記樹脂がポリアセタールである<4>に記載の樹脂組成物。
<7> 前記樹脂が繊維強化プラスチックである<4>に記載の樹脂組成物。
<8> 前記抗菌剤の含有量が、樹脂組成物全体の質量に対して5質量%以上である<4>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<9> <1>に記載の抗菌剤と、溶媒と、を含む抗菌剤溶液。
<10> 前記溶媒が塩を含む水である<9>に記載の抗菌剤溶液。
<11> 前記抗菌剤の濃度が、抗菌剤溶液に対して0.5μg/ml以上100μg/ml以下である<9>又は<10>に記載の抗菌剤溶液。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一実施形態によれば、新たな天然有機物由来の抗菌剤が提供される。
本開示の他の一実施形態によれば、抗菌作用を有する樹脂組成物が提供される。
本開示の他の一実施形態によれば、抗菌作用を有する抗菌剤溶液が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本開示の一例である実施形態について説明する。これらの説明および実施例は、実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0008】
各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。
組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
「工程」とは、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
【0009】
<抗菌剤>
本開示に係る抗菌剤は、グリコールリグニンを有効成分とする。
本開示に係る抗菌剤は、上記構成により、抗菌作用が発揮される。これは、グリコールリグニンの持つヒドロキシル基が抗菌作用を示すためと推測される。
【0010】
(グリコールリグニン)
本開示に係る抗菌剤はグリコールリグニンを有効成分とする。
ここで、「グリコールリグニンを有効成分とする」とは、抗菌剤に含まれる成分のうち、抗菌作用を示すものがグリコールリグニンであることを意味する。
【0011】
グリコールリグニンとは、リグニンの少なくとも一部が、後述するアルコール化合物から少なくとも1つのヒドロキシ基を除いた残基で置換されている化合物をいう。
つまり、グリコールリグニンは、後述のアルコール化合物で誘導体化された化合物である。
【0012】
ここでアルコール化合物としては、1分子内にヒドロキシ基を1個以上有するアルコールが挙げられる。
アルコール化合物としては、1分子内にヒドロキシ基を1個以上3個以下有するアルコールであることが好ましく、1分子内にヒドロキシ基を2個以上3個以下有するアルコールであることが好ましく、1分子内にヒドロキシ基を2個有するアルコールであることがより好ましい。
【0013】
1分子内にヒドロキシ基を1個有するアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール等が挙げられる。
1分子内にヒドロキシ基を2個有するアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール;ポリアルキレングリコール;ポリグリセリン;等が挙げられる。
1分子内にヒドロキシ基を3個有するアルコールとしては、例えば、グリセリン;グリセリンにアルキレンオキサイドを付加重合した化合物等が挙げられる。
また、アルコール化合物としては、例えば、ポリグリセリンを用いてもよい。
【0014】
アルコール化合物としてはポリエチレングリコール、グリセリン、及びポリグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
つまり、グリコールリグニンとしてはポリエチレングリコール、グリセリン、及びポリグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種で誘導体化されたグリコールリグニンであることが好ましい。
【0015】
グリコールリグニンはアシル化されたグリコールリグニンであってもよい。
以下、アシル化されたグリコールリグニンをアシル化グリコールリグニンとも称する。
【0016】
アシル化グリコールリグニンが有するアシル基としては、炭素数1以上6以下のアシル基が挙げられ、抗酸化作用向上の観点から、炭素数1以上4以下のアシル基が好ましく、炭素数1以上2以下のアシル基がより好ましい。
アシル基としては、具体的には、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基(ブタノイル基)、プロペノイル基、ヘキサノイル基等が挙げられる。これらの中でもアシル基としては、抗酸化作用向上の観点から、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基(ブタノイル基)及びプロペノイル基からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ホルミル基、及びアセチル基からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0017】
抗菌作用の観点から、グリコールリグニンの数平均分子量は、例えば、300以上100000以下であることが好ましく、500以上70000以下であることがより好ましく、1000以上50000以下であることが更に好ましい。
【0018】
グリコールリグニンの数平均分子量は、下記測定条件のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法で測定される値である。
・カラム:TSKgel SuperAWM-H x2 (6.0mm I.D. x 15cm x 2)
・カラム温度:40℃
・溶離液:50mM LiBr + 100mM リン酸 DMF
・流速:0.6mL/min
・検出器:RI(示差屈折率検出器)
【0019】
グリコールリグニンは、例えば、アルコール化合物を溶媒として用い、リグノセルロースを触媒の存在下で加溶媒分解した後、得られた反応溶液からグリコールリグニンを分離することで得られる。
グリコールリグニンの製造方法としては、例えば、特開2017-197517号公報に記載された方法が挙げられる。
【0020】
グリコールリグニンをアシル化する場合、グリコールリグニンをアシル化する方法としては、上記方法にて製造されたグリコールリグニンとアシル化剤とを反応させる方法が挙げられる。
アシル化剤としては、例えば、カルボン酸無水物、カルボン酸ハロゲン化物などが挙げられる。
【0021】
(抗菌剤の性状等)
本開示に係る抗菌剤の形状は特に限定されないが、取り扱いの容易性の観点から、粒状であることが好ましい。
抗菌剤の粒径は20μm以上150μm以下であることが好ましく、20μm以上100μm以下であることがより好ましく、20μm以上50μm以下であることが更に好ましい。
【0022】
抗菌剤の粒径は、レーザ回折式粒子径分布測定装置により測定する。レーザ回折式粒子径分布測定装置としては、例えば島津製作所社製、SALD-2300が使用可能である。
以下に抗菌剤の粒径の測定手順について具体的に説明する。
光散乱装置の電源をONにし、1時間後に光軸等に関して装置の正常な状態をチェックする。適当な濃度の被測定粒子(抗菌剤の粒子)の懸濁液を作製する。分析装置のベースライン補正をした後に、試料部に懸濁液を数mL滴下し、測定を開始しメジアン径(D50)を測定し、その値を抗菌剤の粒径とする。
【0023】
(用途)
本開示に係る抗菌剤は、樹脂、ゴム、溶液、潤滑材、化粧品、食品等への添加用途に適用可能である。
本開示に係る抗菌剤は、樹脂への添加剤、及び溶液への添加剤として特に好適に使用可能である。
【0024】
<樹脂組成物>
本開示に係る樹脂組成物は、本開示に係る抗菌剤と、樹脂と、を含む。
【0025】
(抗菌剤)
本開示に係る樹脂組成物に含まれる抗菌剤としては、既述の本開示に係る抗菌剤が適用され、抗菌剤の好ましい態様も同様である。
本開示に係る樹脂組成物は、抗菌剤の有効成分であるグリコールリグニンと樹脂とを含む。
【0026】
抗菌作用の観点からは、樹脂組成物全体の質量に対する、抗菌剤の含有量は5質量%以上であることが好ましく、5質量%以上80質量%以下であることが好ましく、5質量%以上50質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上40質量%以下であることが更に好ましい。
【0027】
(樹脂)
本開示に係る樹脂組成物は、樹脂を含有する。
樹脂としては特に限定されず、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が適用可能である。また、繊維強化プラスチック(FRP)も適用可能である。
熱可塑性樹脂とは、加熱すると軟化して可塑性を示し、室温(25℃)まで冷却すると固化する樹脂である。
熱硬化性樹脂とは、加熱すると硬化する樹脂である。
繊維強化プラスチック(FRP)とは、樹脂に繊維が添加されたプラスチックを指し、例えば強度向上等の目的から繊維が添加されたプラスチックである。
【0028】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリビニル樹脂、フッ素樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合化合物樹脂)、AS樹脂(アクリロニトリル-スチレン共重合化合物樹脂)、(メタ)アクリル樹脂、熱可塑性エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0029】
ポリオレフィン樹脂とは、オレフィン(ビニル化合物を除く)由来の構成単位を、樹脂全体に含まれる構成単位全体に対して、50質量%以上含む樹脂である。
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ-1-ブテン、ポリ-4-メチル-1-ペンテン、エチレンプロピレンゴム(EPR)等のエチレン-プロピレン共重合体;エチレン-プロピレン-ブテン共重合体;エチレン-ブテン共重合体;エチレン-ビニルアルコール共重合体;エチレン-エチルアクリレート共重合体;等が挙げられる。
【0030】
ポリエーテル樹脂とは、主鎖に連続したエーテル結合を有する重合体である。
ポリエーテル樹脂としては、ポリアセタール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコールフェニルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールフェニルエーテル、ポリオキシエチレングリコールフェニルエーテル、ポリオキシテトラメチレングリコールブチルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールブチルエーテル、ポリオキシエチレングリコールブチルエーテル等が挙げられる。
【0031】
ポリビニル樹脂とは、ビニル化合物由来の構成単位を、樹脂全体に含まれる構成単位全体に対して、50質量%以上含む樹脂である。
ポリビニル樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等が挙げられる。
【0032】
フッ素樹脂とは、フッ素原子を含む構成単位を、樹脂全体に含まれる構成単位全体に対して、50質量%以上含む樹脂である。
フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)などが挙げられる。
【0033】
(メタ)アクリル樹脂とは、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する単量体単位を、樹脂全体に含まれる構成単位全体に対して、50質量%以上含む樹脂である。
(メタ)アクリル樹脂としては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル等が挙げられる。
【0034】
熱可塑性エポキシ樹脂とは、熱可塑性樹脂であり、かつ、オキシラン環(エポキシ基)を有する構成単位を有する樹脂である。
熱可塑性エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、環状脂肪族型エポキシ樹脂、長鎖脂肪族型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0035】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。
【0036】
フェノール樹脂とは、ホルムアルデヒドとフェノール類とを、酸触媒又はアルカリ触媒の存在下で反応させて得られるものである。
フェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂等が挙げられる。
【0037】
ポリウレタン樹脂とは、ウレタン結合(-NHCOO-)を有する構成単位を、樹脂全体に含まれる構成単位全体に対して、50質量%以上含む樹脂である。
ポリウレタン樹脂としては、公知のポリイソシアネートと公知のポリオールとを反応して得られる化合物が挙げられる。
ポリイソシアネートとしては、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。
ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ポリアルキレングリコール等が挙げられる。
【0038】
抗菌作用の観点からは、樹脂組成物に含まれる樹脂はポリエーテル樹脂であることが好ましく、ポリアセタールであることがより好ましい。
グリコールリグニンはポリエーテル樹脂との親和性が低いため、樹脂との結合に利用されずに残存するグリコールリグニンのヒドロキシル基による抗菌作用が樹脂組成物の表面に効果的に付与される。
【0039】
繊維強化プラスチック(FRP)とは、強度向上等の目的から、樹脂に繊維が添加されたプラスチックである。
繊維強化プラスチックに含まれる樹脂(マトリクス樹脂)としては、特に限定されず、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂のいずれも使用することができる。
マトリクス樹脂としては、例えば、熱可塑性エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリオレフィン及びその酸変性物、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性芳香族ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル及びその変性物、ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシメチレン、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂並びにナイロン等から選ばれる樹脂が挙げられる。中でも、マトリクス樹脂としては熱可塑性エポキシ樹脂が好ましい。
【0040】
繊維強化プラスチックに含まれる繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維(例えばピッチ系の炭素繊維、およびPAN系の炭素繊維)、セルロースナノファイバー、アラミド繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維、麻繊維、有機繊維、化学繊維、合成樹脂繊維、及び天然繊維等から選ばれる繊維が挙げられる。なお、これらの繊維を単体で又は複数種類を組み合わせて使用することができる。中でも、繊維としてはガラス繊維が好ましい。
【0041】
樹脂の含有量は、樹脂組成物全体の質量に対して、20質量%以上95質量%以下であることが好ましく、50質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上95質量%以下であることが更に好ましい。
【0042】
(その他の成分)
本開示に係る樹脂組成物は、本開示の効果を著しく損なわない範囲で抗菌剤及び樹脂以外のその他の成分を含んでもよい。
その他の成分としては、特に限定されず、樹脂に対する添加剤として一般的に使用される添加剤が挙げられる。
その他の成分としては、具体的には、酸化防止剤、難燃剤、フィラー、着色剤、可塑剤、溶剤等が挙げられる。
【0043】
(バイオマス度)
本開示に係る樹脂組成物は、グリコールリグニンを有効成分とする抗菌剤を含むため、バイオマス度が向上しやすい。
本開示に係る樹脂組成物のバイオマス度は1%以上99%以下であることが好ましく、5%以上95%以下であることがより好ましく、10%以上90%以下であることが更に好ましい。
【0044】
樹脂組成物のバイオマス度は、樹脂組成物に含まれる全炭素に占めるバイオマス由来の炭素の質量割合を意味する。樹脂組成物のバイオマス度はASTM D6866-20に準拠した方法により測定される。
【0045】
(樹脂組成物の製造方法)
本開示に係る樹脂組成物の製造方法は、例えば、抗菌剤と、樹脂と、必要に応じてその他の成分と、を溶融混練する方法が挙げられる。
溶融混練するために好適に用いられる装置としては、例えば、押出機、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー等が挙げられ、各成分の均一性の観点からは押出機が好ましい。
【0046】
(樹脂組成物の用途)
本開示に係る樹脂組成物の用途は特に限定されない。例えば、生活用品、建材、家具、アウトドア用品、保存容器、電化製品等の各種物品に含まれる樹脂部品が挙げられる。
生活用品としては、食器、カトラリー、玩具等が挙げられる。
建材としては、床、壁、天井、階段、手すり、扉、これらに用いられるコーティング等が挙げられる。
家具としては、机、椅子、キャビネット等が挙げられる。
アウトドア用品としては、テント、折り畳み机、折り畳み椅子などが挙げられる。
保存容器としては、タッパーなどが挙げられる。
電化製品としては、テレビ、コンピューター、スピーカー、冷蔵庫、掃除機などが挙げられる。
【0047】
<抗菌剤溶液>
本開示に係る抗菌剤溶液は、本開示に係る抗菌剤と、溶媒と、を含む。
【0048】
(抗菌剤)
本開示に係る抗菌剤溶液に含まれる抗菌剤としては、既述の本開示に係る抗菌剤が適用され、抗菌剤の好ましい態様も同様である。
本開示に係る抗菌剤溶液は、抗菌剤の有効成分であるグリコールリグニンと溶媒とを含む。
【0049】
抗菌作用の観点からは、抗菌剤溶液に対して、抗菌剤の濃度は0.5μg/ml以上100μg/ml以下であることが好ましく、1μg/ml以上20μg/ml以下であることがより好ましい。
【0050】
(溶媒)
本開示に係る抗菌剤溶液は、溶媒を含有する。
溶媒としては、本開示に係る抗菌剤が抗菌作用を発揮し得る溶媒であれば特に限定されない。例えば、塩を含む水、塩を含まない水(塩とは陰イオンと陽イオンから成る化合物を指す)、ポリエチレングリコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、エタノール、イソプロピルアルコール、及びアセトン等から選ばれる溶媒を含む水溶液が挙げられる。中でも、溶媒としては水(つまり塩を含む水及び塩を含まない水の少なくとも一方)が好ましく、塩を含む水がより好ましい。
【0051】
(その他の成分)
本開示に係る抗菌剤溶液は、本開示の効果を著しく損なわない範囲で抗菌剤及び溶媒以外のその他の成分を含んでもよい。
その他の成分としては、特に限定されず、溶媒に対する添加剤として一般的に使用される添加剤が挙げられる。
その他の成分としては、具体的には、酸化防止剤、難燃剤、フィラー、着色剤、可塑剤等が挙げられる。
【0052】
(抗菌剤溶液の製造方法)
本開示に係る抗菌剤溶液の製造方法は、例えば、抗菌剤と、溶媒と、必要に応じてその他の成分と、を混練する方法が挙げられる。
【0053】
(抗菌剤溶液の用途)
本開示に係る抗菌剤溶液の用途は特に限定されない。例えば、農薬、化粧品等への抗菌性添加剤;医療用品、衛生用品、食品用品への抗菌性付与用コーティング剤;飲料水、食料品の保存料;洗濯洗剤及びその希釈液;抗菌スプレー等としての利用が挙げられる。
【実施例0054】
以下、実施例に基づいて本開示を説明するが、本開示はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「部」及び「%」はすべて質量基準である。
【0055】
<樹脂組成物の評価試験>
(1)抗菌剤の調製
リグノセルロースをアルコール化合物である分子量400のポリエチレングリコール中で、酸触媒の存在下、常圧下で加溶媒分解し、グリコールリグニンを含む溶液分と固形分とを分離し、更に硫酸で酸性化することにより、グリコールリグニンを沈殿物として得た。その後、グリコールリグニンの沈殿物を分離し、グリコールリグニンの沈殿物を分離した後の上清液を集積し、その集積溶液に水酸化ナトリウムを添加して、集積溶液を中和することによって、抗菌剤である分子量400のポリエチレングリコールで誘導体化されたグリコールリグニン1(以下、GL1とも称する。)を得た。得られたグリコールリグニン1の数平均分子量は10000であった。また、グリコールリグニン1の粒径は70μmであった。
具体的には、特開2017-197517号公報の実施例1に記載された方法と同一の方法により製造した。なお、溶媒として分子量400のポリエチレングリコールを使用した。
【0056】
(2-1)樹脂組成物の作製(POM)
表1-1、表1-2に示す配合比率で、表1-1、表1-2に示す配合比率の樹脂(POM)及び抗菌剤を2軸押出機に供給し、混練及び押出しを行った。押し出された混練物を切断し、縦5mm、横5mm、厚み2mmのプレート状である実施例A1、実施例A2及び比較例A1の樹脂組成物を得た。
【0057】
(2-2)樹脂組成物の作製(FRP)
表2-1、表2-2に示す配合比率で、表2-1、表2-2に示す配合比率の樹脂(FRP)及び抗菌剤を2軸押出機に供給し、混練及び押出しを行った。押し出された混練物を切断し、縦5mm、横5mm、厚み2mmのプレート状である実施例B1~実施例B5及び比較例B1の樹脂組成物を得た。
【0058】
(3)バイオマス度の算出
各例で得た樹脂組成物のバイオマス度を既述の方法に従って算出した。その結果を表1に示す。
【0059】
(4-1)吸着菌体数の評価(Gram陽性細菌)
J Dominguez-Roblesらの方法(J Dominguez-Robles, et al., Int J Biol Macromol, 2020, 145(2): 92-99.を参照)に基づき、プレート状の樹脂組成物表面への吸着菌体数の評価を行った。
具体的には、評価菌体Staphylococcus aureus ATCC25923(Gram陽性細菌)を、37℃で一晩100%ブレインハートインフュージョンブイヨン(BH)培地(パールコアE-MC62、栄研化学社製)にて振盪培養した。その後、Quarter strength ringer solution(QSRS)を用いて希釈し、菌体濃度が1×10cfu/ml 0.5%BH液体培地の評価菌体液を調製した。菌体濃度は、600nmにおける濁度が1の時の菌体濃度を1.5×10cfu/mlとして算出した(L Romeo, et al., Molecules, 2018, 23(9): 2097.を参照)。上記(2-1)及び(2-2)で作製したプレート状の樹脂組成物(POM)及び樹脂組成物(FRP)を、クリーンベンチ内にて70%エタノールに浸漬した後、15分間UV照射し、滅菌を行った。滅菌後の樹脂組成物をポリスチレン製細胞培養用滅菌12-well plate(TR5001,True Line,CO)のウェルに入れ、評価菌体液を1ml/wellずつ添加し、24時間、37℃、76rpmの条件でインキュベートした。その後、樹脂組成物をウェルから取り出し、QSRSで洗浄した。洗浄後の樹脂組成物を、それぞれ1.5ml滅菌チューブに入れ、500μLのQSRSを添加した。次いで、超音波洗浄機にて氷冷しながら30分間超音波処理を行い、樹脂組成物の表面に吸着した菌体を遊離させて上清を回収した。回収した上清50μLをマンニット食塩寒天培地に塗布し、37℃で24時間培養した。培養後に得られたコロニー数から、上清に含まれていた生菌体数を求めた。実施例A1、実施例A2及び比較例A1の樹脂組成物(POM)の結果を表1-1に示し、実施例B1~実施例B5及び比較例B1の樹脂組成物(FRP)の結果を表2-1に示す。
【0060】
(4-2)吸着菌体数の評価(Gram陰性細菌)
評価菌体を、Staphylococcus aureus ATCC25923(Gram陽性細菌)から、Escherichia coli ATCC25922(Gram陰性細菌)に変更し、評価培地を、BH培地(BH液体培地)からLuria Broth(LB)液体培地に、且つマンニット食塩寒天培地からLuria Broth(LB)寒天培地に変更したこと以外は、(4-1)吸着菌体数の評価(Gram陽性細菌)と同様にして、生菌体数を求めた。実施例A1、実施例A2及び比較例A1の樹脂組成物(POM)の結果を表1-2に示し、実施例B1~実施例B5及び比較例B1の樹脂組成物(FRP)の結果を表2-2に示す。
【0061】
【表1-1】
【0062】
【表1-2】
【0063】
【表2-1】
【0064】
【表2-2】
【0065】
表1-1、表1-2、表2-1、表2-2中の略称は以下の通りである。
・POM:ポリプラスチック社製のポリエーテル樹脂(ポリアセタール、Duracon POM)
・FRP:ナガセケムテックス社製のエポキシ樹脂(XNR6830)にガラス繊維を混ぜて成形した繊維強化樹脂
表1中、「-」は該当する成分を含有しないことを意味する。
表1中、「n.d.」は、吸着菌体数の評価において、生菌体が検出されないことを意味する。
【0066】
<抗菌剤溶液の評価試験>
前記<樹脂組成物の評価試験>における(1)抗菌剤の調製に記載の方法と同様にして、抗菌剤としてグリコールリグニン1(GL1)を調製した。
【0067】
(菌体数の評価(BH液体培地))
BH液体培地中で溶媒した際の溶液中での菌体数の評価を行った。
具体的には、評価菌体Staphylococcus aureus ATCC25923(Gram陽性細菌)を、37℃で一晩100%ブレインハートインフュージョンブイヨン(BH)培地(パールコアE-MC62、栄研化学社製)にて、140rpmで振盪培養した。その後、BH培地を用いて希釈し、菌体濃度が1×10cfu/ml 0.5%BH液体培地の評価菌体溶液を調製した。この評価菌体溶液に対し、1質量%の前記GL1を含むジメチルスルホキシド溶液(GL1含有DMSO溶液)を添加し、GL1の濃度が2μg/mlとなるよう調整して実施例C1の抗菌剤溶液を得た。また、GL1の濃度を20μg/mlに変更した実施例C2の抗菌剤溶液、及びGL1含有DMSO溶液を添加しなかった(GL1の濃度が0μg/ml)比較例C1の抗菌剤溶液を準備した。次いで、各実施例及び比較例の抗菌剤溶液を37℃、140rpmの条件で、0時間、及び2時間培養して、各サンプルを得た(なお0時間の培養とは培養を行っていないことを意味する)。次いで、サンプル溶液に対してPhosphate buffered saline(PBS、Sigma-aldrich社製、型番:P4417)を1:1000(サンプル溶液:PBS)の容量比で添加して希釈し、希釈後の抗菌剤溶液50μLをマンニット食塩寒天培地に塗布し、37℃で一晩培養した。培養後に得られたコロニー数から、溶液に含まれていた生菌体数を求めた。結果を表3-1に示す。
【0068】
(菌体数の評価(PBS))
PBS溶液中でインキュベートした際の溶液中での菌体数の評価を行った。
具体的には、評価菌体Staphylococcus aureus ATCC25923(Gram陽性細菌)を、37℃で一晩100%ブレインハートインフュージョンブイヨン(BH)培地(パールコアE-MC62、栄研化学社製)にて、140rpmで振盪培養した。その後、Phosphate buffered saline(PBS、Sigma-aldrich社製、型番:P4417)を用いて希釈し、菌体濃度が1×10cfu/mlの評価菌体溶液を調製した。この評価菌体溶液に対し、1質量%の前記GL1を含むジメチルスルホキシド溶液(GL1含有DMSO溶液)を添加し、GL1の濃度が2μg/mlとなるよう調整して実施例D1の抗菌剤溶液を得た。また、GL1の濃度を20μg/mlに変更した実施例D2の抗菌剤溶液、及びGL1含有DMSO溶液を添加しなかった(GL1の濃度が0μg/ml)比較例D1の抗菌剤溶液を準備した。次いで、各実施例及び比較例の抗菌剤溶液を37℃、140rpmの条件で、0時間、4時間、及び24時間インキュベートして、各サンプルを得た(なお0時間とはインキュベートしていないことを意味する)。次いで、サンプル溶液に対してPBSを1:1000(サンプル溶液:PBS)の容量比で添加して希釈し、希釈後の抗菌剤溶液50μLをマンニット食塩寒天培地に塗布し、37℃で一晩培養した。培養後に得られたコロニー数から、溶液に含まれていた生菌体数を求めた。結果を表3-2に示す。
【0069】
【表3-1】
【0070】
【表3-2】
【0071】
上記結果から、本実施例の抗菌剤、樹脂組成物、及び抗菌剤溶液は、抗菌作用を有することがわかる。