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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105188
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】アリル含有ビスフェノール樹脂
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/12 20060101AFI20240730BHJP
   G01N 21/3563 20140101ALI20240730BHJP
【FI】
C08G61/12
G01N21/3563
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023223142
(22)【出願日】2023-12-28
(31)【優先権主張番号】63/478,288
(32)【優先日】2023-01-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】202311815400.3
(32)【優先日】2023-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】595009383
【氏名又は名称】長春人造樹脂廠股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】CHANG CHUN PLASTICS CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】7F., No.301, Songkiang Rd., Zhongshan Dist Taipei City,Taiwan 104
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】楊 士徳
(57)【要約】      (修正有)
【課題】アリル含有ビスフェノール樹脂を提供する。
【解決手段】アリル含有ビスフェノール樹脂は、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノール化合物および多官能性マレイミド化合物に由来する第1の構造単位を含み、第1の構造単位は1つ以上のアリル基を含有し、アリル含有ビスフェノール樹脂がフーリエ変換赤外分光分析(FTIR)により特性評価されたときに、そのスペクトルが特定範囲の振動数において三つのピークを有し、それらのピーク面積が特定の関係を満たす。
【効果】本アリル含有ビスフェノール樹脂から調製された硬化生成物は、優れた耐熱性および寸法安定性を有しており、さらに、優れた、高温安定性、強靱性、疎水性、銅箔への接着性、および/または、誘電特性も有し得、これにより、当該樹脂はプリント回路基板での誘電材料としての用途に特に適する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノール化合物および多官能性マレイミド化合物に由来する第1の構造単位を含むアリル含有ビスフェノール樹脂であって、前記第1の構造単位は1つ以上のアリル基を含有し、前記アリル含有ビスフェノール樹脂がフーリエ変換赤外分光分析(FTIR)により特性評価されたときに、前記アリル含有ビスフェノール樹脂のFTIRスペクトルが、1615cm-1~1765cm-1の範囲の振動数での特性ピークAと、1615cm-1~1765cm-1の範囲の振動数での特性ピークBと、1155cm-1~1265cm-1の範囲の振動数での特性ピークCとを有し、特性ピークAの振動数は特性ピークBの振動数より低く、前記特性ピークA、B、Cは、それぞれ、対応するピーク面積A、A、Aを有し、これらは、(A/A)+(A/A)=1.20~1.60という条件を満たす、アリル含有ビスフェノール樹脂。
【請求項2】
前記特性ピークAは1615cm-1~1690cm-1の範囲の振動数にあり、前記特性ピークBは1690cm-1~1765cm-1の範囲の振動数にある、請求項1に記載のアリル含有ビスフェノール樹脂。
【請求項3】
前記ピーク面積A、前記ピーク面積A、および前記ピーク面積Aは、(A/A)+(A/A)=1.25~1.52という条件を満たす、請求項1に記載のアリル含有ビスフェノール樹脂。
【請求項4】
/A=0.25~0.60である、請求項1に記載のアリル含有ビスフェノール樹脂。
【請求項5】
/A=0.70~1.40である、請求項1に記載のアリル含有ビスフェノール樹脂。
【請求項6】
前記フーリエ変換赤外分光分析は、フーリエ変換赤外分光光度計を用いて、前記アリル含有ビスフェノール樹脂をフィルム法によりKBrペレット上にコーティングし、1cm-1の解像度および16回の走査数の下で透過型法を用いることにより400cm-1~4000cm-1の走査範囲にわたりコーティングされた前記KBrペレットの吸収スペクトルを測定することで行われる、請求項1に記載のアリル含有ビスフェノール樹脂。
【請求項7】
1分子当たり2つ以上のアリル基を含有する前記ビスフェノール化合物は、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノールA、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノールB、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノールF、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノールS、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノールZ、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有する4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル化合物、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1から6のいずれか1項に記載のアリル含有ビスフェノール樹脂。
【請求項8】
多官能性マレイミド化合物をさらに含む、請求項1から6のいずれか1項に記載のアリル含有ビスフェノール樹脂。
【請求項9】
下記の式(I)の構造を含む、アリル含有ビスフェノール樹脂。
【化1】
式(I)
(ただし、少なくとも1つのRは、
【化2】
であり、且つ、少なくとも1つのRは、
【化3】
であるという条件付きで、各Rは、独立して、-H、-CH
【化4】
または、
【化5】
であり、
は、多官能性マレイミドに由来する基であり、且つ、
Tは、-CH-、-C(CH-、-C(CH)(CHCH)-、-SO-、-O-、または、
【化6】
である。)
【請求項10】
下記の式(I-1)の構造を含む、請求項9に記載のアリル含有ビスフェノール樹脂。
【化7】
式(I-1)
(ただし、少なくとも1つのRは、
【化8】
であり、その他のRは、
【化9】
であり、
は、多官能性マレイミドに由来する基であり、且つ、
Tは、-CH-、-C(CH-、-C(CH)(CHCH)-、-SO-、-O-、または、
【化10】
である。)
【請求項11】
は、
【化11】
または、
【化12】
であり、Rは、
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
および、
【化17】
(ただし、nは1~10の整数)
からなる群より選択される、請求項9または10に記載のアリル含有ビスフェノール樹脂。
【請求項12】
前記アリル含有ビスフェノール樹脂がゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)および吸光度検出器で特性評価されたときに、前記アリル含有ビスフェノール樹脂は254nmに吸光ピークを有し、前記吸光ピークは面積A254を有し、全吸光ピークの総面積に対する面積A254の割合は15%以下であり、前記ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)および前記吸光度検出器の試験条件は、前記アリル含有ビスフェノール樹脂をテトラヒドロフランで200ppmの濃度まで希釈し、分離を実行するために1つのカラムC1、1つのカラムC2、および2つのカラムC3をこの順番で含んで成る一連のカラムに1.0mL/分の流量で供給し、20分から35分の間の溶出時間の間にサンプルを採取して吸光度検出機で190nmから800nmの範囲内の全吸光ピークを分析し、全吸光ピークの総面積に対する254nmの吸光ピークの面積A254の割合を計算するというものであり、前記カラムC1は、長さ30cm、内径7.8mmであり、且つ、5μmの平均粒子径と7.5nmの平均細孔径とを有するポリスチレン-ジビニルベンゼンで充填されており、前記カラムC2は、長さ30cm、内径7.8mmであり、且つ、5μmの平均粒子径と2nmの平均細孔径とを有するポリスチレン-ジビニルベンゼンで充填されており、前記カラムC3は、長さ30cm、内径7.8mmであり、且つ、5μmの平均粒子径と1.5nmの平均細孔径とを有するポリスチレン-ジビニルベンゼンで充填されている、請求項9に記載のアリル含有ビスフェノール樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、特定の赤外スペクトル特性および/または特定の構造を有するアリル含有ビスフェノール樹脂を提供する。
【背景技術】
【0002】
電子製品の使い道が、より軽量で、より薄型で、より短く、より小型で、且つ、より多機能な設計に向けて徐々に進歩するにつれて、電子材料特性についての要求も増加してきた。特に、プリント回路基板(PCB)は、電子部品の主な支持基体の役割を果たすが、高密度配線、薄さ、高い寸法安定性、および効率的な放熱などの特性を持つべきである。
【0003】
しかし、PCBの加工中に、特にドリルビットの高回転速度により引き起こされるドリル加工中に生じた高温を介して、熱が生じる可能性がある。この結果、低いガラス転移点(T)および熱膨張率(CTE)を有する樹脂系はPCB加工中に軟化する傾向がある。この軟化は銅線の分離およびPCBの変形をもたらしかねず、以降の加工ステージに顕著に影響する。
【0004】
さらに、5Gシステムの発展にともない、高データ伝送密度および低遅延伝送についての要求がより厳しくなってきている。材料欠陥に起因する伝送過程での信号損失または遅延を防ぐために、電子材料に用いられる樹脂系を改良する必要がある。
【0005】
上述の技術的課題を解決するために、先行技術では、製造される電子材料の、耐熱性、寸法安定性、および電気的特性を改良するために、樹脂系の一部としてビスマレイミド化合物を用いることが提案されていた。しかし、ビスマレイミド化合物は、難溶性および短い保管寿命などの欠点を有しており、その用途が限られていた。さらに、先行技術の樹脂系はビスマレイミド化合物を採用するにもかかわらず、耐熱性、加工性、および寸法安定性の改良は不十分なままであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の技術的課題を鑑み、難溶性および短い保管寿命などによる用途の制約を解決するために、本願はビスマレイミド化合物を改質することを目的とする。改質により、本願は、極めて良い物理化学的特性を有する新規の樹脂を提供することができる。具体的には、本願は、1分子当たり2つ以上のアリル基を含むビスフェノール化合物と多官能性マレイミド化合物とに由来する構造単位を含むアリル含有ビスフェノール樹脂を提供する。本アリル含有ビスフェノール樹脂から調製された硬化生成物は優れた耐熱性および寸法安定性を有しており、さらに、優れた、高温安定性、強靱性、疎水性、銅箔への接着性、および/または、誘電特性も有し得、これにより、当該樹脂はプリント回路基板での誘電材料としての用途に特に適したものとなっている。さらに、本アリル含有ビスフェノール樹脂は、良好な安定性を示し、長期保存を可能とする。その卓越した性質から、本アリル含有ビスフェノール樹脂は、より高い効能を達成するためにより少ない量で用いられ得る。これにより、用いられる(1種または複数種の)マレイミド化合物の量を減少することができ、改善された溶解性および操作性などの利点がもたらされる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本願の目的は、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノール化合物および多官能性マレイミド化合物に由来する第1の構造単位を含むアリル含有ビスフェノール樹脂を提供することであり、ここで、第1の構造単位は1つ以上のアリル基を含有し、本アリル含有ビスフェノール樹脂がフーリエ変換赤外分光分析(FTIR)により特性評価されたときに、本アリル含有ビスフェノール樹脂のFTIRスペクトルが、1615cm-1~1765cm-1の範囲の振動数での特性ピークAと、1615cm-1~1765cm-1の範囲の振動数での特性ピークBと、1155cm-1~1265cm-1の範囲の振動数での特性ピークCとを有し、特性ピークAの振動数は特性ピークBの振動数より低く、好ましくは、特性ピークAは1615cm-1~1690cm-1の範囲の振動数にあり、特性ピークBは1690cm-1~1765cm-1の範囲の振動数にある。特性ピークA、B、Cは、それぞれ、対応するピーク面積A、A、Aを有し、これらは、(A/A)+(A/A)=1.20~1.60、好ましくは、(A/A)+(A/A)=1.25~1.52という条件を満たす。
【0008】
本願のいくつかの実施形態では、A/A=0.25~0.60である。
【0009】
本願のいくつかの実施形態では、A/A=0.70~1.40である。
【0010】
本願のいくつかの実施形態では、フーリエ変換赤外分光分析は、フーリエ変換赤外分光光度計を用いて、本アリル含有ビスフェノール樹脂をフィルム法によりKBrペレット上にコーティングし、1cm-1の解像度および16回の走査数の下で透過型法を用いることにより400cm-1~4000cm-1の走査範囲にわたりコーティングされたKBrペレットの吸収スペクトルを測定することで行われる。
【0011】
本願のいくつかの実施形態では、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノール化合物は、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノールA、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノールB、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノールF、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノールS、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノールZ、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有する4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル化合物、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0012】
本願のいくつかの実施形態では、本アリル含有ビスフェノール樹脂は、多官能性マレイミド化合物をさらに含む。
【0013】
本願のもうひとつの目的は、下記の式(I)の構造を含む、アリル含有ビスフェノール樹脂を提供することである。
【化1】
式(I)
(ただし、少なくとも1つのRは、
【化2】
であり、且つ、少なくとも1つのRは、
【化3】
であるという条件付きで、各Rは、独立して、-H、-CH
【化4】
または、
【化5】
であり、
は、多官能性マレイミドに由来する基であり、且つ、
Tは、-CH-、-C(CH-、-C(CH)(CHCH)-、-SO-、-O-、または、
【化6】
であり、いくつかの実施形態では、-CH-、または、-C(CH-である。)
【0014】
本願のいくつかの実施形態では、本アリル含有ビスフェノール樹脂は、下記の式(I-1)の構造を含む。
【化7】
式(I-1)
(ただし、少なくとも1つのRは、
【化8】
であり、その他のRは、
【化9】
であり、
は、多官能性マレイミドに由来する基であり、且つ、
Tは、-CH-、-C(CH-、-C(CH)(CHCH)-、-SO-、-O-、または、
【化10】
であり、いくつかの実施形態では、-CH-、または、-C(CH-である。)
【0015】
本願のいくつかの実施形態では、Rは、
【化11】
または、
【化12】
であり、Rは、
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
および、
【化17】
(ただし、nは1~10の整数)
からなる群より選択される。
【0016】
本願のいくつかの実施形態では、本アリル含有ビスフェノール樹脂がゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)および吸光度検出器で特性評価されたときに、本アリル含有ビスフェノール樹脂は254nmに吸光ピークを有し、吸光ピークは面積A254を有し、全吸光ピークの総面積に対する面積A254の割合は15%以下であり、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)および吸光度検出器の試験条件は、本アリル含有ビスフェノール樹脂をテトラヒドロフランで200ppmの濃度まで希釈し、分離を実行するために1つのカラムC1、1つのカラムC2、および2つのカラムC3をこの順番で含んで成る一連のカラムに1.0mL/分の流量で供給し、20分から35分の間の溶出時間の間にサンプルを採取して吸光度検出機で190nmから800nmの範囲内の全吸光ピークを分析し、全吸光ピークの総面積に対する254nmの吸光ピークの面積A254の割合を計算するというものであり、カラムC1は、長さ30cm、内径7.8mmであり、且つ、5μmの平均粒子径と7.5nmの平均細孔径とを有するポリスチレン-ジビニルベンゼンで充填されており、カラムC2は、長さ30cm、内径7.8mmであり、且つ、5μmの平均粒子径と2nmの平均細孔径とを有するポリスチレン-ジビニルベンゼンで充填されており、カラムC3は、長さ30cm、内径7.8mmであり、且つ、5μmの平均粒子径と1.5nmの平均細孔径とを有するポリスチレン-ジビニルベンゼンで充填されている。
【0017】
上記の目的、技術的特徴、および本願の利点を、より明確にするために、以降、いくつかの特定の実施形態を参照しつつ本願を詳細に記載する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本願のいくつかの特定の実施形態を詳細に記載する。ただし、本願は、様々な実施形態で具体化でき、本明細書に記載の実施形態に限定されるべきではない。
【0019】
特記のない限り、明細書および請求項に記載される単数の表現は単数および複数の両方を含むとされるべきである。
【0020】
特記のない限り、明細書および請求項に記載される『第1』、『第2』などの表現は、特別な意味を持たずに例示された要素または成分を区別するためにのみ用いられる。これらの表現はいかなる優先順位を表すものとしても用いられない。
【0021】
特記のない限り、明細書および請求項に記載される『アリル含有ビスフェノール樹脂』という用語は、分子中にアリル基を含有し且つビスフェノール構造を有する樹脂を指す。
【0022】
先行技術に勝る本願の主な利点は、アリル含有ビスフェノール樹脂の安定性を改善するとともに、アリル含有ビスフェノール樹脂に由来する硬化生成物の耐熱性および寸法安定性を改良する点にある。いくつかの実施形態では、アリル含有ビスフェノール樹脂は、さらに、優れた、高温安定性、強靱性、疎水性、銅箔への接着性、および/または、誘電特性を有する。これは、アリル含有ビスフェノール樹脂の赤外スペクトル特性を制御することおよび/またはアリル含有ビスフェノール樹脂に特定の構造を組み込むことで達成される。アリル含有ビスフェノール樹脂は、上述特性を要求する任意の技術分野で使用でき、これは、コーティング材、プリント回路基板のための誘電材料または改質材、放熱材、航空機翼材料、3D印刷材料、ガラス繊維または炭素繊維のための含浸樹脂材料、基体のための耐熱材料、スプレーコーティング材料、または、防弾ベストコーティング材料の調製を含む。しかし、本願の範囲はこれらの例に限定されるわけではない。アリル含有ビスフェノール樹脂に関する詳細を以下に示す。
【0023】
(1. 特定の赤外スペクトル特性を有するアリル含有ビスフェノール樹脂)
本願のひとつの目的は、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノール化合物および多官能性マレイミド化合物に由来する第1の構造単位を含み且つ特定の赤外スペクトル特性を有するアリル含有ビスフェノール樹脂を提供することであり、ここで、第1の構造単位は1つ以上のアリル基を含有する。
【0024】
本願のいくつかの実施形態では、アリル含有ビスフェノール樹脂が特定の赤外スペクトル特性を有するという前提で、アリル含有ビスフェノール樹脂は、多官能性マレイミド化合物に由来する構造単位に加えて、化合物状態の多官能性マレイミドをさらに含んでもよい。
【0025】
(1.1. 多官能性マレイミド化合物)
本願では、多官能性マレイミド化合物は、1分子当たり少なくとも2つのマレイミド基を有する化合物を指す。いかなる理論にも拘束されるわけではないが、原材料中のモノマレイミドの存在は重合を受ける能力を持つ基を欠く反応物をもたらす可能性がある。これは、不十分な長さで望ましくないポリマー特性を有する分子鎖をもたらしかねない。そこで、本願は、二官能性マレイミドおよび/またはより高い官能性の多官能性マレイミドを選択する。ただし、本願は、可能性として単官能性マレイミドを使用することを排除するわけではない。
【0026】
多官能性マレイミドの種類は特定のものに限定されない。多官能性マレイミドの例は、これらに限定されるべきではないが、下記式の構造を有する多官能性マレイミド化合物を含む。
【化18】
(ただし、Rは、
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
および、
【化23】
(ただし、nは1~10の整数)
からなる群より選択できる。)
上述の多官能性マレイミドは、単独または任意の組み合わせで、用いることができる。
【0027】
(1.2. 1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノール化合物)
本願では、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノール化合物は、そのビスフェノール構造の(1つまたは複数の)ベンゼン環に、少なくとも2つのアリル、好ましくは、4つのアリルを有する化合物を示す。好ましくは、これらのアリルは水酸基に対してオルト位置に位置する。
【0028】
1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノール化合物は、ビスフェノールをアリル化反応に掛けることで得ることができる。具体的な調製方法は実施例に詳細に記載する。ビスフェノールの例は、これらに限定されるわけではないが、ビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールZ、および4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテルを含む。そのため、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノール化合物の例は、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノールA、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノールB、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノールF、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノールS、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノールZ、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有する4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル化合物を含む。上述のビスフェノール化合物は、単独または任意の組み合わせで、用いることができる。
【0029】
(1.3. アリル含有ビスフェノール樹脂の赤外スペクトル特性)
アリル含有ビスフェノール樹脂がフーリエ変換赤外分光分析(FTIR)により特性評価されたときに、アリル含有ビスフェノール樹脂のFTIRスペクトルは、1615cm-1~1765cm-1の範囲の振動数での特性ピークAと、1615cm-1~1765cm-1の範囲の振動数での特性ピークBと、1155cm-1~1265cm-1の範囲の振動数での特性ピークCとを有する。特性ピークAの振動数は特性ピークBの振動数より低い。好ましくは、特性ピークAは1615cm-1~1690cm-1の範囲の振動数にあり、特性ピークBは1690cm-1~1765cm-1の範囲の振動数にある。
【0030】
特性ピークA、B、Cは、それぞれ、ピーク面積A、A、Aを有し、これらは、(A/A)+(A/A)=1.20~1.60、好ましくは、(A/A)+(A/A)=1.25~1.52という条件を満たす。例えば、(A/A)+(A/A)は、1.20、1.21、1.22、1.23、1.24、1.25、1.26、1.27、1.28、1.29、1.30、1.31、1.32、1.33、1.34、1.35、1.36、1.37、1.38、1.39、1.40、1.41、1.42、1.43、1.44、1.45、1.46、1.47、1.48、1.49、1.50、1.51、1.52、1.53、1.54、1.55、1.56、1.57、1.58、1.59、もしくは、1.60で、または、ここに記載の値の任意の2つの間の範囲内に、あり得る。(A/A)+(A/A)の値が上述の範囲外である場合、アリル含有ビスフェノール樹脂は、優れた、耐熱性、寸法安定性、貯蔵特性、および安定性を同時にもたらす能力を有さない。
【0031】
(A/A)+(A/A)の上述の条件が満たされるという前提で、ピーク面積Aおよびピーク面積Aは、A/A=0.25~0.60という条件をさらに満たし得る。例えば、A/Aは、0.25、0.26、0.27、0.28、0.29、0.30、0.31、0.32、0.33、0.34、0.35、0.36、0.37、0.38、0.39、0.40、0.41、0.42、0.43、0.44、0.45、0.46、0.47、0.48、0.49、0.50、0.51、0.52、0.53、0.54、0.55、0.56、0.57、0.58、0.59、もしくは、0.60で、または、ここに記載の値の任意の2つの間の範囲内に、あり得る。
【0032】
(A/A)+(A/A)の上述の条件が満たされるという前提で、ピーク面積Aおよびピーク面積Aは、A/A=0.70~1.40、好ましくは、A/A=0.75~1.40、より好ましくは、A/A=0.80~1.40、という条件をさらに満たし得る。例えば、A/Aは、0.70、0.71、0.72、0.73、0.74、0.75、0.76、0.77、0.78、0.79、0.80、0.81、0.82、0.83、0.84、0.85、0.86、0.87、0.88、0.89、0.90、0.91、0.92、0.93、0.94、0.95、0.96、0.97、0.98、0.99、1.00、1.01、1.02、1.03、1.04、1.05、1.06、1.07、1.08、1.09、1.10、1.11、1.12、1.13、1.14、1.15、1.16、1.17、1.18、1.19、1.20、1.21、1.22、1.23、1.24、1.25、1.26、1.27、1.28、1.29、1.30、1.31、1.32、1.33、1.34、1.35、1.36、1.37、1.38、1.39、もしくは、1.40、または、ここに記載の値の任意の2つの間の範囲内に、あり得る。A/A値が上述の範囲に収まる場合、本樹脂はより長いゲル時間を示し、長時間のゲル時間を要する用途に適したものになる。
【0033】
アリル含有ビスフェノール樹脂の赤外スペクトル特性は、フーリエ変換赤外分光光度計を用いて、当該アリル含有ビスフェノール樹脂をフィルム法によりKBrペレット上にコーティングし、1cm-1の解像度および16回の走査数の下で透過型法を用いることにより400cm-1~4000cm-1の走査範囲にわたりコーティングされたKBrペレットの吸収スペクトルを測定するというフーリエ変換赤外分光分析を行うことで得ることができる。特性ピークA、B、およびCのピーク面積A、A、およびAは特定範囲内の吸光ピークの始点と終点とをつなぐ線により規定された積分面積を計算することにより決定される。例えば、特性ピークAのピーク面積Aは、1615cm-1~1690cm-1の吸光ピークの始点と終点とをつなぐ線により規定された積分面積を計算することにより得られ、特性ピークBのピーク面積Aは、1690cm-1~1765cm-1の吸光ピークの始点と終点とをつなぐ線により区切られた積分面積を計算することにより得られ、特性ピークCのピーク面積Aは、1155cm-1~1265cm-1の吸光ピークの始点と終点とをつなぐ線により区切られた積分面積を計算することにより得られる。具体的には、特性ピークの始点、頂点、および終点として一次微分がゼロになる点を特定するためにソフトウェアを用いることができる。続いて、当該ソフトウェアは、特性ピークの始点、頂点、および終点の間に規定された積分面積を計算し、特性ピークの面積測定値をもたらす。
【0034】
アリル含有ビスフェノール樹脂の赤外スペクトル特性は、アリル含有ビスフェノール樹脂の調製に用いられる原材料(原材料の種類または当量など)を調節することにより、または、アリル含有ビスフェノール樹脂の処理条件(反応温度または反応時間など)を調節することにより、制御できる。当業者であれば、本願明細書を参照して、特に、実施例の具体的な例示をたよりに、上述の赤外スペクトル特性を有するアリル含有ビスフェノール樹脂を調製できる。
【0035】
(1.4. 第1の構造単位)
本願のいくつかの実施形態では、アリル含有ビスフェノール樹脂の第1の構造単位は、下記の式(I)の構造を有する。
【化24】
式(I)
(ただし、少なくとも1つのRは、
【化25】
であり、且つ、少なくとも1つのRは、
【化26】
であるという条件付きで、各Rは、独立して、-H、-CH
【化27】
または、
【化28】
であり、
は、多官能性マレイミドに由来する基であり、且つ、
Tは、-CH-、-C(CH-、-C(CH)(CHCH)-、-SO-、-O-、または、
【化29】
であり、いくつかの実施形態では、-CH-、または、-C(CH-である。)
【0036】
より具体的には、アリル含有ビスフェノール樹脂の第1の構造単位は、下記の式(I-1)の構造を有してもよい。
【化30】
式(I-1)
(ただし、少なくとも1つのRは、
【化31】
であり、その他のRは、
【化32】
であり、
は、多官能性マレイミドに由来する基であり、且つ、
Tは、-CH-、-C(CH-、-C(CH)(CHCH)-、-SO-、-O-、または、
【化33】
であり、いくつかの実施形態では、-CH-、または、-C(CH-である。)
【0037】
好ましくは、式(I)および式(I-1)の構造において、Rは、好ましくは、下記式の構造を有する多官能性マレイミドに由来する。
【化34】
そのため、Rは、好ましくは、
【化35】
または、
【化36】
であり、Rは、
【化37】
【化38】
【化39】
【化40】
および、
【化41】
(ただし、nは1~10の整数)
からなる群より選択される。
【0038】
本願のいくつかの実施形態では、式(I)および式(I-1)におけるTは、-SO-であり、アリル含有ビスフェノール樹脂の硬化生成物はさらに改善された高温安定性および強靱性を有する。
【0039】
本願のいくつかの実施形態では、式(I)および式(I-1)におけるTは、-O-であり、アリル含有ビスフェノール樹脂の硬化生成物はさらに改善された疎水性および銅箔への接着性を有する。
【0040】
本願のいくつかの実施形態では、式(I)および式(I-1)におけるTは、
【化42】
であり、アリル含有ビスフェノール樹脂の硬化生成物はさらに改善された誘電特性を有する。
【0041】
(1.5. アリル含有ビスフェノール樹脂の調製)
アリル含有ビスフェノール樹脂は、多官能性マレイミド化合物、および、1分子当たり4つのアリル基を含有するビスフェノール化合物などの1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノール化合物が関与する架橋反応を介して調製できる。アリル含有ビスフェノール樹脂のFTIR特性は、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノール化合物の選択により、ならびに、多官能性マレイミド化合物および1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノール化合物の反応温度および反応時間を調節することにより、制御できる。例えば、アリル含有ビスフェノール樹脂は、1分子当たり4つのアリル基を含有するビスフェノール化合物を用い、90℃~130℃の反応温度で90分~500分間反応を行うことにより、調製できる。
【0042】
(2. 特定の構造を含むアリル含有ビスフェノール樹脂)
本願のもうひとつの目的は、下記の式(I)の構造を含む、アリル含有ビスフェノール樹脂を提供することである。
【化43】
式(I)
(ただし、少なくとも1つのRは、
【化44】
であり、且つ、少なくとも1つのRは、
【化45】
であるという条件付きで、各Rは、独立して、-H、-CH
【化46】
または、
【化47】
であり、
は、多官能性マレイミドに由来する基であり、且つ、
Tは、-CH-、-C(CH-、-C(CH)(CHCH)-、-SO-、-O-、または、
【化48】
であり、いくつかの実施形態では、-CH-、または、-C(CH-である。)
【0043】
本願のいくつかの実施形態では、本アリル含有ビスフェノール樹脂は、下記の式(I-1)の構造を含む。
【化49】
式(I-1)
(ただし、少なくとも1つのRは、
【化50】
であり、その他のRは、
【化51】
であり、
は、多官能性マレイミドに由来する基であり、且つ、
Tは、-CH-、-C(CH-、-C(CH)(CHCH)-、-SO-、-O-、または、
【化52】
であり、いくつかの実施形態では、-CH-、または、-C(CH-である。)
【0044】
好ましくは、式(I)および式(I-1)の構造において、Rは、好ましくは、下記式の構造を有する多官能性マレイミドに由来する。
【化53】
そのため、Rは、好ましくは、
【化54】
または、
【化55】
であり、Rは、
【化56】
【化57】
【化58】
【化59】
および、
【化60】
(ただし、nは1~10の整数)
からなる群より選択される。
【0045】
アリル含有ビスフェノール樹脂は、多官能性マレイミド化合物、および、1分子当たり4つのアリル基を含有するビスフェノール化合物などの1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノール化合物を、架橋反応に掛けることにより調製できる。1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノール化合物は、ビスフェノールをアリル化反応に掛けることにより調製できる。具体的な調製方法は実施例に示す。
【0046】
本願のいくつかの実施形態では、アリル含有ビスフェノール樹脂がゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)および吸光度検出器で特性評価されたときに、アリル含有ビスフェノール樹脂は254nmに吸光ピークを有し、吸光ピークは面積A254を有し、全吸光ピークの総面積に対する254nmの吸光ピークの面積A254の割合は15%以下である。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)および吸光度検出器の試験条件は、アリル含有ビスフェノール樹脂をテトラヒドロフランで200ppmの濃度まで希釈し、分離を実行するために連続した一連のゲル浸透クロマトグラフィーカラムに1.0mL/分の流量で供給し、20分から35分の範囲の溶出時間でサンプルを採取して吸光度検出機で190nmから800nmの範囲内の全吸光ピークを分析し、全吸光ピークの総面積に対する面積A254の割合を計算するというものである。本願では、上述のカラムは、1つのカラムC1、1つのカラムC2、および2つのカラムC3をこの順番で含んで成る一連のカラムであり、カラムC1は、長さ30cm、内径7.8mmであり、且つ、5μmの平均粒子径と7.5nmの平均細孔径とを有するポリスチレン-ジビニルベンゼンで充填されており、型番TSK gel G3000Hxlの製品などであり、カラムC2は、長さ30cm、内径7.8mmであり、且つ、5μmの平均粒子径と2nmの平均細孔径とを有するポリスチレン-ジビニルベンゼンで充填されており、型番TSK gel G2000Hxlの製品などであり、カラムC3は、長さ30cm、内径7.8mmであり、且つ、5μmの平均粒子径と1.5nmの平均細孔径とを有するポリスチレン-ジビニルベンゼンで充填されており、型番TSK gel G1000Hxlの製品などである。本願では、吸収ピークの始点、頂点、および終点として一次微分がゼロになる点を特定するためにソフトウェアを用いることができる。続いて、当該ソフトウェアは、吸収ピークの始点、頂点、および終点の間に規定された積分面積を計算し、吸収ピークの面積測定値をもたらす。
【0047】
(3. 実施例)
(3.1. 試験方法)
以降、本願を実施形態を用いてさらに具体的に示すが、当該実施形態における試験装置および方法は以下の通りである。
【0048】
[赤外分光分析試験]
1mgの合成アリル含有ビスフェノール樹脂がフィルム法により1ミリメートル厚のKBrペレット上にコーティングされる。コーティングされたKBrペレットはペレット保持器に置かれてフーリエ変換赤外分光光度計に挿入される。コーティングされたKBrペレットの吸光スペクトルが1cm-1の解像度および16回の走査数の下で透過型法を用いることにより400cm-1~4000cm-1の走査範囲にわたり測定される。ピーク面積A、A、およびAは、PerkinElmer(登録商標) Spectrum version 10.5.3 softwareを用いて、所定範囲内に位置する吸光ピークの始点と終点とをつなぐ線により規定された積分面積を計算することにより決定される。
【0049】
[ガラス転移点(T)試験]
調製された樹脂は高温炉に置かれる。樹脂は溶媒を除去するために真空条件下で1時間180℃に維持される。次に、樹脂は200℃で2時間予備架橋を受け、250℃で6時間の完全硬化に進む。硬化生成物は、10mm×10mm×5mmの寸法に切断される。切断された生成物は、次に、熱機械分析装置(thermal mechanical analyzer、TMA、型番:Waters Q400)を用いた分析に掛けられる。試験条件は、10℃/分の加熱速度で30℃から330℃まで昇温し、その後、10℃/分の冷却速度で330℃から30℃まで降温することで、較正を完了し、その後、ガラス転移点(T)を記録しながら10℃/分の加熱速度で30℃から330℃まで昇温するというものである。
【0050】
[熱重量分析試験(TGA試験)]
調製された樹脂は高温炉に置かれる。樹脂は溶媒を除去するために真空条件下で1時間180℃に維持される。次に、樹脂は200℃で2時間予備架橋を受け、250℃で6時間の完全硬化に進む。10mgの硬化生成物が熱重量分析装置(thermogravimetric analyzer、TGA、型番:Waters Q500)を用いた分析に掛けられるが、温度条件は、50℃で5分間釣合を取り、その後、10℃/分の速度で800℃まで昇温するというものである。熱硬化生成物の重量損失百分率が5重量%(Td5)に到達する温度が記録される。
【0051】
[熱膨張率(CTE)試験]
調製された樹脂は高温炉に置かれる。樹脂は溶媒を除去するために真空条件下で1時間180℃に維持される。次に、樹脂は200℃で2時間予備架橋を受け、250℃で6時間の完全硬化に進む。硬化生成物は、10mm×10mm×5mmの寸法に切断される。切断された生成物は、次に、熱機械分析装置(thermal mechanical analyzer、TMA、型番:Waters Q400)を用いた分析に掛けられる。試験条件は、10℃/分の加熱速度で30℃から330℃まで昇温し、その後、10℃/分の冷却速度で330℃から30℃まで降温することで、較正を完了し、その後、50℃から260℃への熱膨張率(thermal coefficient of expansion、CTE)を記録しながら10℃/分の加熱速度で30℃から330℃まで昇温するというものである。
【0052】
[GPC試験]
調製された樹脂は、テトラヒドロフランで200ppmまで希釈され、その後、オートサンプラー(型番:Waters 717 plus Autosampler)内に置かれる。サンプルが、分離のために、ポンプ(型番:Waters 515 pump)により1.0mL/分の流量で、連続した一連のゲル浸透クロマトグラフィーカラム(型番および個数:TSK gel G3000HXL×1+G2000HXL×1+G1000HXL×2)に供給され、20分から35分に溶出したサンプルが集められる。190nmから800nmの範囲内の全吸光ピークを分析するために、吸光度検出機(型番:Waters 2487 Dual λ Absorbance Detector)が用いられる。その後、全吸光ピークの総面積に対する254nmでの吸光ピークの面積A254の割合を計算するために、Scientific Information Service Companyから市販のクロマトグラフィー分析ソフトウェアSISC32-GPCが用いられる。
【0053】
[沈殿試験]
調製された樹脂は高温炉に置かれる。樹脂は溶媒を除去するために真空条件下で1時間180℃に維持される。次に、予備架橋生成物を得るために樹脂は200℃で2時間予備架橋を受ける。予備架橋生成物は1:1のメチルエチルケトン(MEK)およびプロピレングリコールメチルエーテル(PGME)の混合溶媒に溶かされ、60重量%~75重量%の固形分の溶液を形成する。得られた溶液は30℃で3日間放置され沈殿について観察されるが、沈殿は相不均一性の形成を示す。
【0054】
(3.2. 1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノール化合物の合成)
[合成例1]
228gのビスフェノールA(Chang Chun Plastics Companyから市販、CAS番号:80-05-7)がジメチルスルホキシド(CAS番号:67-68-5)に溶かされた。次に、170gの50%NaOH(CAS番号:1310-73-2)が加えられ、透明溶液が得られるまで室温で攪拌された。得られた透明溶液は、次に、70℃まで加熱され、170gの塩化アリル(CAS番号:107-05-1)が反応完了まで添加された。反応生成物は真空条件下で200℃まで加熱され、200℃で2時間攪拌され、中間生成物を得た。
【0055】
中間生成物はジメチルスルホキシド(CAS番号:67-68-5)に溶かされた。次に、170gの50%NaOH(CAS番号:1310-73-2)が加えられ、透明溶液が得られるまで室温で攪拌された。得られた透明溶液は、次に、70℃まで加熱され、170gの塩化アリル(CAS番号:107-05-1)が反応完了まで添加された。反応生成物は真空条件下で200℃まで加熱され、200℃で2時間攪拌され、4つのアリルを含有するビスフェノールAを得た。
【0056】
(3.3. アリル含有ビスフェノール樹脂の調製)
[実施例1]
合成例1で合成した58.2gの4つのアリルを含有するビスフェノールAと53.7gのBMI-1000(DKK Companyから市販のビスマレイミド)が200mLの反応器に加えられた。混合物は、反応を開始するために、200rpmの回転速度で、130℃で、2時間攪拌され、実施例1のアリル含有ビスフェノール樹脂E1が得られた。
【0057】
[実施例2]
合成例1で合成した58.2gの4つのアリルを含有するビスフェノールAと55.8gのBES1-5950(Regina Companyから市販の多官能性マレイミド)が200mLの反応器に加えられた。混合物は、反応を開始するために、200rpmの回転速度で、130℃で、2時間攪拌され、実施例2のアリル含有ビスフェノール樹脂E2が得られた。
【0058】
[実施例3]
合成例1で合成した58.2gの4つのアリルを含有するビスフェノールAと66.4gのBMI-70(KI Chemical Companyから市販のビスマレイミド)が200mLの反応器に加えられた。混合物は、反応を開始するために、200rpmの回転速度で、130℃で、2時間攪拌され、実施例3のアリル含有ビスフェノール樹脂E3が得られた。
【0059】
[実施例4]
合成例1で合成した58.2gの4つのアリルを含有するビスフェノールAと42.3gのTDAB(EVONIK Companyから市販のビスマレイミド)が200mLの反応器に加えられた。混合物は、反応を開始するために、200rpmの回転速度で、130℃で、2時間攪拌され、実施例4のアリル含有ビスフェノール樹脂E4が得られた。
【0060】
[実施例5]
合成例1で合成した58.2gの4つのアリルを含有するビスフェノールAと53.7gのBMI-1000(DKK Companyから市販のビスマレイミド)が200mLの反応器に加えられた。混合物は、反応を開始するために、100rpmの回転速度で、130℃で、2時間攪拌され、実施例5のアリル含有ビスフェノール樹脂E5が得られた。
【0061】
[実施例6]
合成例1で合成した58.2gの4つのアリルを含有するビスフェノールAと55.8gのBES1-5950(Regina Companyから市販の多官能性マレイミド)が200mLの反応器に加えられた。混合物は、反応を開始するために、100rpmの回転速度で、130℃で、2時間攪拌され、実施例6のアリル含有ビスフェノール樹脂E6が得られた。
【0062】
[比較例1]
比較例1の樹脂CE1として100gの8292N75(Huntsman Company市販のマレイミド樹脂)が取られる。
【0063】
[比較例2]
46.2gの2つのアリルを含有するビスフェノール(CAS番号:1745-89-7)と53.7gのHomide-121(HOS Companyから市販のビスマレイミド)が200mLの反応器に加えられた。混合物は、反応を開始するために、200rpmの回転速度で、130℃で、2時間攪拌され、比較例2のアリル含有ビスフェノール樹脂CE2が得られた。
【0064】
[比較例3]
46.2gの2つのアリルを含有するビスフェノール(CAS番号:1745-89-7)と53.7gのBMI-1000(DKK Companyから市販のビスマレイミド)が200mLの反応器に加えられた。混合物は、反応を開始するために、200rpmの回転速度で、130℃で、2時間攪拌され、比較例3のアリル含有ビスフェノール樹脂CE3が得られた。
【0065】
[比較例4]
合成例1で合成された58.2gの4つのアリルを含有するビスフェノールAと53.7gのBMI-1000(DKK Companyから市販のビスマレイミド)が200mLの反応器に加えられた。混合物は、反応を開始するために、200rpmの回転速度で、130℃で、0.5時間攪拌され、比較例4のアリル含有ビスフェノール樹脂CE4が得られた。
【0066】
[比較例5]
合成例1で合成された58.2gの4つのアリルを含有するビスフェノールAと53.7gのBMI-1000(DKK Companyから市販のビスマレイミド)が200mLの反応器に加えられた。混合物は、反応を開始するために、200rpmの回転速度で、130℃で、1時間攪拌され、比較例5のアリル含有ビスフェノール樹脂CE5が得られた。
【0067】
[比較例6]
合成例1で合成された58.2gの4つのアリルを含有するビスフェノールAと55.8gのBES1-5950(Regina Companyから市販の多官能性マレイミド)が200mLの反応器に加えられた。混合物は、反応を開始するために、200rpmの回転速度で、130℃で、0.5時間攪拌され、比較例6のアリル含有ビスフェノール樹脂CE6が得られた。
【0068】
[比較例7]
合成例1で合成された58.2gの4つのアリルを含有するビスフェノールAと55.8gのBES1-5950(Regina Companyから市販の多官能性マレイミド)が200mLの反応器に加えられた。混合物は、反応を開始するために、200rpmの回転速度で、130℃で、1時間攪拌され、比較例7のアリル含有ビスフェノール樹脂CE7が得られた。
【0069】
(3.4. アリル含有ビスフェノール樹脂特性試験)
赤外スペクトル特性、ガラス転移点、熱重量分析特性、熱膨張率、GPC性能、および沈殿特性をはじめとする、実施例E1~E6および比較例CE1~CE7の樹脂特性が、上述の試験方法に従って試験され、その結果を以下の表1-1~表1-2としてまとめた。
【0070】
【表1-1】
【0071】
【表1-2】
【0072】
表1-1および表1-2に示すように、本願の実施例E1~E6のアリル含有ビスフェノール樹脂の硬化生成物は、優れた耐熱性および寸法安定性を有し、これらのアリル含有ビスフェノール樹脂から沈殿は生じず、これは良好な安定性を示す。対照的に、本願のアリル含有ビスフェノール樹脂ではない比較例CE1~CE7は、優れた、耐熱性、寸法安定性、および安定性を同時に実現できない。
【0073】
上述の例は、本願の原理と有効性を例証し、本願の発明的な特徴を示す。当業者であれば、本発明の原理から逸脱することなく記載された本発明の開示および示唆に基づき種々の修正例および変形例を展開できるだろう。したがって、本願の権利保護の範囲は添付の請求項に規定されるとおりである。
【0074】
[付記]
[付記1]
1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノール化合物および多官能性マレイミド化合物に由来する第1の構造単位を含むアリル含有ビスフェノール樹脂であって、前記第1の構造単位は1つ以上のアリル基を含有し、前記アリル含有ビスフェノール樹脂がフーリエ変換赤外分光分析(FTIR)により特性評価されたときに、前記アリル含有ビスフェノール樹脂のFTIRスペクトルが、1615cm-1~1765cm-1の範囲の振動数での特性ピークAと、1615cm-1~1765cm-1の範囲の振動数での特性ピークBと、1155cm-1~1265cm-1の範囲の振動数での特性ピークCとを有し、特性ピークAの振動数は特性ピークBの振動数より低く、前記特性ピークA、B、Cは、それぞれ、対応するピーク面積A、A、Aを有し、これらは、(A/A)+(A/A)=1.20~1.60という条件を満たす、アリル含有ビスフェノール樹脂。
【0075】
[付記2]
前記特性ピークAは1615cm-1~1690cm-1の範囲の振動数にあり、前記特性ピークBは1690cm-1~1765cm-1の範囲の振動数にある、付記1に記載のアリル含有ビスフェノール樹脂。
【0076】
[付記3]
前記ピーク面積A、前記ピーク面積A、および前記ピーク面積Aは、(A/A)+(A/A)=1.25~1.52という条件を満たす、付記1に記載のアリル含有ビスフェノール樹脂。
【0077】
[付記4]
/A=0.25~0.60である、付記1に記載のアリル含有ビスフェノール樹脂。
【0078】
[付記5]
/A=0.70~1.40である、付記1に記載のアリル含有ビスフェノール樹脂。
【0079】
[付記6]
前記フーリエ変換赤外分光分析は、フーリエ変換赤外分光光度計を用いて、前記アリル含有ビスフェノール樹脂をフィルム法によりKBrペレット上にコーティングし、1cm-1の解像度および16回の走査数の下で透過型法を用いることにより400cm-1~4000cm-1の走査範囲にわたりコーティングされた前記KBrペレットの吸収スペクトルを測定することで行われる、付記1に記載のアリル含有ビスフェノール樹脂。
【0080】
[付記7]
1分子当たり2つ以上のアリル基を含有する前記ビスフェノール化合物は、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノールA、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノールB、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノールF、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノールS、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有するビスフェノールZ、1分子当たり2つ以上のアリル基を含有する4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル化合物、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、付記1から6のいずれか1つに記載のアリル含有ビスフェノール樹脂。
【0081】
[付記8]
多官能性マレイミド化合物をさらに含む、付記1から6のいずれか1つに記載のアリル含有ビスフェノール樹脂。
【0082】
[付記9]
下記の式(I)の構造を含む、アリル含有ビスフェノール樹脂。
【化61】
式(I)
(ただし、少なくとも1つのRは、
【化62】
であり、且つ、少なくとも1つのRは、
【化63】
であるという条件付きで、各Rは、独立して、-H、-CH
【化64】
または、
【化65】
であり、
は、多官能性マレイミドに由来する基であり、且つ、
Tは、-CH-、-C(CH-、-C(CH)(CHCH)-、-SO-、-O-、または、
【化66】
である。)
【0083】
[付記10]
下記の式(I-1)の構造を含む、付記9に記載のアリル含有ビスフェノール樹脂。
【化67】
式(I-1)
(ただし、少なくとも1つのRは、
【化68】
であり、その他のRは、
【化69】
であり、
は、多官能性マレイミドに由来する基であり、且つ、
Tは、-CH-、-C(CH-、-C(CH)(CHCH)-、-SO-、-O-、または、
【化70】
である。)
【0084】
[付記11]
は、
【化71】
または、
【化72】
であり、Rは、
【化73】
【化74】
【化75】
【化76】
および、
【化77】
(ただし、nは1~10の整数)
からなる群より選択される、付記9または10に記載のアリル含有ビスフェノール樹脂。
【0085】
[付記12]
前記アリル含有ビスフェノール樹脂がゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)および吸光度検出器で特性評価されたときに、前記アリル含有ビスフェノール樹脂は254nmに吸光ピークを有し、前記吸光ピークは面積A254を有し、全吸光ピークの総面積に対する面積A254の割合は15%以下であり、前記ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)および前記吸光度検出器の試験条件は、前記アリル含有ビスフェノール樹脂をテトラヒドロフランで200ppmの濃度まで希釈し、分離を実行するために1つのカラムC1、1つのカラムC2、および2つのカラムC3をこの順番で含んで成る一連のカラムに1.0mL/分の流量で供給し、20分から35分の間の溶出時間の間にサンプルを採取して吸光度検出機で190nmから800nmの範囲内の全吸光ピークを分析し、全吸光ピークの総面積に対する254nmの吸光ピークの面積A254の割合を計算するというものであり、前記カラムC1は、長さ30cm、内径7.8mmであり、且つ、5μmの平均粒子径と7.5nmの平均細孔径とを有するポリスチレン-ジビニルベンゼンで充填されており、前記カラムC2は、長さ30cm、内径7.8mmであり、且つ、5μmの平均粒子径と2nmの平均細孔径とを有するポリスチレン-ジビニルベンゼンで充填されており、前記カラムC3は、長さ30cm、内径7.8mmであり、且つ、5μmの平均粒子径と1.5nmの平均細孔径とを有するポリスチレン-ジビニルベンゼンで充填されている、付記9に記載のアリル含有ビスフェノール樹脂。
【外国語明細書】