(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010523
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】金属加工油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20240117BHJP
C10M 105/32 20060101ALN20240117BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240117BHJP
C10N 40/22 20060101ALN20240117BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M105/32
C10N30:00 Z
C10N40:22
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111904
(22)【出願日】2022-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 龍太
(72)【発明者】
【氏名】田村 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】千本木 紀夫
(72)【発明者】
【氏名】置塩 直史
(72)【発明者】
【氏名】眞名井 康
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB31A
4H104BB32A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104CB14A
4H104CD01A
4H104CJ02A
4H104EA22C
4H104LA20
4H104PA22
(57)【要約】
【課題】充分に高い引火点を有するとともに、皮膚感作性を低減することが可能な金属加工油組成物を提供すること。
【解決手段】金属加工油組成物が提供される。当該金属加工油組成物は、飽和脂肪酸とアルコールとのエステルである第1のエステル、及び、不飽和脂肪酸とアルコールとのエステルである第2のエステルを含む潤滑油基油と、硫黄化合物とを含有する。潤滑油基油におけるヨウ素価は、50gI2/100g以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飽和脂肪酸とアルコールとのエステルである第1のエステル、及び、不飽和脂肪酸とアルコールとのエステルである第2のエステルを含む潤滑油基油と、
硫黄化合物と、
を含有し、
前記潤滑油基油におけるヨウ素価が50gI2/100g以下である、金属加工油組成物。
【請求項2】
前記第1のエステル及び前記第2のエステルの総量の含有量が、潤滑油基油全量を基準として、50~90質量%である、請求項1に記載の金属加工油組成物。
【請求項3】
前記第2のエステルの含有量が、潤滑油基油全量を基準として、5~60質量%である、請求項1又は2に記載の金属加工油組成物。
【請求項4】
引火点が250℃以上である、請求項1又は2に記載の金属加工油組成物。
【請求項5】
引火点が250℃以上である、請求項3に記載の金属加工油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属加工油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属加工の分野においては、被加工物の加工部位を潤滑するために、金属加工油が使用されている。生産効率の向上等の観点から、優れた切削性を有する金属加工油の開発が進められている。
【0003】
金属加工油としては、例えば、所定のエステル油を含む金属加工油が開示されている(例えば、引用文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-256688号公報
【特許文献2】特開2008-163115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、金属加工油に対する要求性能はさらに増しており、従来の金属加工油は、皮膚感作性、引火点等の点で改善の余地がある。特に、金属加工油が充分に高い引火点(例えば、250℃以上)を有すると、皮膚感作性が不充分になり易い傾向にある。
【0006】
なお、「皮膚感作」とは、ある物質と繰り返し接触することによりその物質が抗原となって体内に抗体が作られ、アレルギー反応を起こすことをいい、皮膚に物質が触れることで皮膚等に直接毒性反応を起こし、炎症等が発現する皮膚刺激とは異なる概念である。
【0007】
そこで、本発明は、充分に高い引火点を有するとともに、皮膚感作性を低減することが可能な金属加工油組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らの検討によると、金属加工油に特定のエステル及び硫黄化合物を用いることにより、引火点及び皮膚感作性を高いレベルで両立させることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、金属加工油組成物を提供する。当該金属加工油組成物は、飽和脂肪酸とアルコールとのエステルである第1のエステル、及び、不飽和脂肪酸とアルコールとのエステルである第2のエステルを含む潤滑油基油と、硫黄化合物とを含有する。潤滑油基油におけるヨウ素価は、50gI2/100g以下である。このような金属加工油組成物によれば、充分に高い引火点を有するとともに、皮膚感作性を低減することが可能となる。
【0010】
本明細書において、ヨウ素価とは、JIS K 0070:1992「化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」に準拠して測定されるヨウ素価を意味する。ヨウ素価は、第2のエステルに由来する不飽和度を示す指標である。
【0011】
第1のエステル及び第2のエステルの総量の含有量は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは50~90質量%である。第2のエステルの含有量は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは5~60質量%である。
【0012】
金属加工油組成物の引火点は、好ましくは250℃以上である。本明細書において、引火点は、JIS K2265-4:2007に準拠して測定される引火点を意味する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、充分に高い引火点を有するとともに、皮膚感作性を低減することが可能な金属加工油組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本明細書中、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0016】
本明細書中、以下で例示する材料は、特に断らない限り、条件に該当する範囲で、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。金属加工油組成物中の各成分の含有量は、金属加工油組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、金属加工油組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0017】
[金属加工油組成物]
一実施形態に係る金属加工油組成物は、飽和脂肪酸とアルコールとのエステルである第1のエステル、及び、不飽和脂肪酸とアルコールとのエステルである第2のエステルを含む潤滑油基油と、硫黄化合物とを含有する。潤滑油基油におけるヨウ素価は、50gI2/100g以下である。
【0018】
<潤滑油基油>
(第1のエステル:飽和脂肪酸とアルコールとのエステル)
潤滑油基油は、第1のエステルを含む。第1のエステルを構成する飽和脂肪酸は、一塩基酸であっても多塩基酸であってもよい。
【0019】
飽和脂肪酸として一塩基酸を用いる場合、その炭素数は、好ましくは6~24、より好ましくは8~18である。このような一塩基酸は、直鎖状の一塩基酸であっても分岐状の一塩基酸であってもよい。一塩基酸の炭素数が6以上であると、金属加工油組成物をより高引火点化することができ、一塩基酸の炭素数が24以下であると、金属加工油組成物を低粘度化することができる。
【0020】
飽和脂肪酸として多塩基酸を用いる場合、該多塩基酸は、炭素数2~16の二塩基酸であることが好ましい。このような二塩基酸は、直鎖状の二塩基酸であっても分岐状の二塩基酸であってもよい。
【0021】
第1のエステルを構成するアルコールは、1価アルコールであっても多価アルコールであってもよい。
【0022】
1価アルコールは、直鎖状の1価アルコールであっても分岐状の1価アルコールであってもよい。1価アルコールの炭素数は、好ましくは1~24、より好ましくは炭素数3~16である。1価アルコールの炭素数が1以上であると、金属加工油組成物をより高引火点化することができ、1価アルコールの炭素数が24以下であると、金属加工油組成物を低粘度化することができる。
【0023】
多価アルコールは、好ましくは2~10価のアルコール、より好ましくは2~6価のアルコールである。2~10価のアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3~15量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3~15量体)、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2~8量体、例えばジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等)、トリメチロールアルカン(例えばトリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)及びこれらの2~8量体、ペンタエリスリトール及びこれらの2~4量体、1,2,4-ブタントリオール、1,3,5-ペンタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、1,2,3,4-ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラストース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、スクロース等の糖類、及びこれらの混合物などが挙げられる。これらの中でも、多価アルコールは、金属加工油組成物のさらなる高引火点化の観点から、好ましくはネオペンチルグリコール、グリセリン、又はトリメチロールアルカンである。
【0024】
本実施形態においては、任意の飽和脂肪酸(一塩基酸及び多塩基酸)及び任意のアルコール(1価アルコール及び多価アルコール)の組合せによるエステルが使用可能である。第1のエステルとしては、下記(i)~(vii)に示すエステルが挙げられる。
(i)一塩基酸と1価アルコールとのエステル
(ii)一塩基酸と多価アルコールとのエステル
(iii)多塩基酸と1価アルコールとのエステル
(iv)多塩基酸と多価アルコールとのエステル
(v)多塩基酸と1価アルコール及び多価アルコールの混合アルコールとのエステル
(vi)一塩基酸及び多塩基酸の混合脂肪酸と多価アルコールとのエステル
(vii)一塩基酸及び多塩基酸の混合脂肪酸と1価アルコール及び多価アルコールの混合アルコールとのエステル
【0025】
なお、第1のエステルを構成するアルコールが多価アルコールである場合、第1のエステルは、多価アルコール中の水酸基全てがエステル化された完全エステルであっても水酸基の一部がエステル化されず水酸基のままで残っている部分エステルであってもよい。第1のエステルを構成する飽和脂肪酸が多塩基酸である場合、第1のエステルは、多塩基酸中のカルボキシル基全てがエステル化された完全エステルであっても、カルボキシル基の一部がエステル化されずカルボキシル基のままで残っている部分エステルであってもよい。
【0026】
第1のエステルは、金属加工油組成物のさらなる高引火点化の観点から、好ましくは(i)一塩基酸と1価アルコールとのエステル又は(ii)一塩基酸と多価アルコールとのエステル、より好ましくは(ii)一塩基酸と多価アルコールとのエステルである。
【0027】
第1のエステルの含有量は、金属加工油組成物のさらなる高引火点化の観点から、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上である。第1のエステルの含有量は、金属加工油組成物のさらなる皮膚感作性の抑制の観点から、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。一実施形態において、第1のエステルの含有量は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは20~80質量%、より好ましくは30~75質量%、さらに好ましくは40~70質量%である。
【0028】
(第2のエステル:不飽和脂肪酸とアルコールとのエステル)
潤滑油基油は、第2のエステルを含む。第2のエステルを構成する不飽和脂肪酸は、一塩基酸であっても多塩基酸であってもよい。
【0029】
不飽和脂肪酸として一塩基酸を用いる場合、その炭素数は、好ましくは6~24、より好ましくは12~18である。このような一塩基酸は、直鎖状の一塩基酸であっても分岐状の一塩基酸であってもよい。一塩基酸の炭素数が6以上であると、金属加工油組成物をより高引火点化することができ、一塩基酸の炭素数が24以下であると、金属加工油組成物をより低粘度化することができる。
【0030】
不飽和脂肪酸として多塩基酸を用いる場合、該多塩基酸は、二重結合を有する炭素数2~16の二塩基酸であることが好ましい。このような二塩基酸は、直鎖状の二塩基酸であっても分岐状の二塩基酸であってもよい。
【0031】
第2のエステルを構成するアルコールとしては、第1のエステルを構成するアルコールとして例示したアルコールが挙げられる。第2のエステルを構成するアルコールとして1価アルコールを用いる場合、該1価アルコールとしては、第1のエステルを構成する1価アルコールの好ましい例と同様のものが挙げられる。第2のエステルを構成するアルコールとして多価アルコールを用いる場合、該多価アルコールは、ネオペンチルグリコール、グリセリン、又はトリメチロールアルカンであることが好ましく、ネオペンチルグリコールであることがより好ましい。
【0032】
本実施形態においては、任意の不飽和脂肪酸(一塩基酸及び多塩基酸)及び任意のアルコール(1価アルコール及び多価アルコール)の組合せによるエステルが使用可能である。第2のエステルとしては、下記(i)~(vii)に示すエステルが挙げられる。
(i)一塩基酸と1価アルコールとのエステル
(ii)一塩基酸と多価アルコールとのエステル
(iii)多塩基酸と1価アルコールとのエステル
(iv)多塩基酸と多価アルコールとのエステル
(v)多塩基酸と1価アルコール及び多価アルコールの混合アルコールとのエステル
(vi)一塩基酸及び多塩基酸の混合脂肪酸と多価アルコールとのエステル
(vii)一塩基酸及び多塩基酸の混合脂肪酸と1価アルコール及び多価アルコールの混合アルコールとのエステル
【0033】
なお、第2のエステルを構成するアルコールが多価アルコールである場合、第2のエステルは、多価アルコール中の水酸基全てがエステル化された完全エステルであっても、水酸基の一部がエステル化されず水酸基のままで残っている部分エステルであってもよい。第2のエステルを構成する不飽和脂肪酸が多塩基酸である場合、第2のエステルは、多塩基酸中のカルボキシル基全てがエステル化された完全エステルであっても、カルボキシル基の一部がエステル化されずカルボキシル基のままで残っている部分エステルであってもよい。
【0034】
第2のエステルは、金属加工油組成物のさらなる低粘度化の観点から、好ましくは(i)一塩基酸と1価アルコールとのエステル又は(ii)一塩基酸と多価アルコールとのエステルである。
【0035】
第2のエステルの総量のヨウ素価は、特に制限されないが、好ましくは10gI2/100g以上、より好ましくは30gI2/100g以上、さらに好ましくは50gI2/100g以上であり、好ましくは140gI2/100g以下、より好ましくは120gI2/100g以下、さらに好ましくは100gI2/100g以下である。
【0036】
第2のエステルの含有量は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは5~60質量%である。第2のエステルの含有量が、潤滑油基油全量を基準として、5質量%以上であると、金属加工油組成物をより高引火点化することができる。第2のエステルの含有量が、潤滑油基油全量を基準として、60質量%以下であると、金属加工油組成物の皮膚感作性が許容できる範囲となり易い傾向にある。第2のエステルの含有量は、潤滑油基油全量を基準として、より好ましくは7質量%以上、さらに好ましくは10質量%であり、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。一実施形態において、第2のエステルの含有量は、潤滑油基油全量を基準として、より好ましくは7~50質量%、さらに好ましくは10~40質量%である。
【0037】
第1のエステル及び第2のエステルの総量におけるヨウ素価は、好ましくは50gI2/100g以下である。当該ヨウ素価がこのような範囲にあると、金属加工油組成物の皮膚感作性をより低減することができる。当該ヨウ素価は、より好ましくは40gI2/100g以下、さらに好ましくは20gI2/100g以下である。第1のエステル及び第2のエステルの総量におけるヨウ素価の下限値は、例えば、1gI2/100g以上又は3gI2/100g以上であってよい。
【0038】
ヨウ素価は、第2のエステルに由来する不飽和度を示す指標である。そのため、上記第1のエステル及び第2のエステルの総量におけるヨウ素価は、第2のエステルの割合を減らす、ヨウ素価の低い第2のエステルを用いる等によって、上記範囲に調整することができる。
【0039】
第1のエステル及び第2のエステルの総量の含有量は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは50~90質量%である。第1のエステル及び第2のエステルの総量の含有量がこのような範囲にあると、金属加工油組成物をより高引火点化することができ、金属加工油組成物の皮膚感作性をより低減することができる。第1のエステル及び第2のエステルの総量の含有量は、潤滑油基油全量を基準として、より好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下である。一実施形態において、第1のエステル及び第2のエステルの総量の含有量は、より好ましくは55~85質量%、さらに好ましくは60~80質量%である。
【0040】
(その他の基油:第1のエステル及び第2のエステル以外の基油)
潤滑油基油は、本発明の効果をより一層向上させるために、必要に応じて、第1のエステル及び第2のエステルに加えて、その他の基油として、鉱油、及び、エステル以外の合成油からなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。
【0041】
鉱油としては、例えば、API基油分類のグループI、グループII、又はグループIIIの鉱油が挙げられる。なお、API分類の各グループは、米国石油協会(API(American Petroleum Institute))の潤滑油グレードの分類を意味する。
【0042】
鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留又は減圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、溶剤脱れき、溶剤抽出、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の1種若しくは2種以上の精製手段を適宜組み合わせて適用することによって得られる、パラフィン系基油、ナフテン系基油等が挙げられる。API基油分類のグループIIの鉱油及びAPI基油分類のグループIIIの鉱油は、通常、水素化精製プロセスを経て製造される。また、鉱油としては、例えば、ワックス異性化基油;GTL WAX(ガス・トゥ・リキッド ワックス)を異性化する手法で製造される基油等も挙げられる。
【0043】
鉱油の粘度指数は、好ましくは80以上、より好ましくは90以上、さらに好ましくは100以上である。また、鉱油の粘度指数の上限は、特に限定されないが、例えば、150以下であってよい。本明細書において、粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定される粘度指数を意味する。
【0044】
鉱油の硫黄分は、好ましくは10000質量ppm以下、より好ましくは5000質量ppm以下、さらに好ましくは1000質量ppm以下である。本明細書において、硫黄分は、JIS K2541-6:2013で規定される紫外蛍光法によって測定される硫黄分を意味する。
【0045】
鉱油のパラフィン分は、鉱油全量を基準として、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。また、鉱油のナフテン分は、鉱油全量を基準として、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、また好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。また、鉱油の芳香族分は、鉱油全量を基準として、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。本明細書において、鉱油のパラフィン分、ナフテン分、及び芳香族分は、それぞれASTM D3238-95(2010)に準拠した方法(n-d-m環分析)により測定される値を意味する。
【0046】
エステル以外の合成油としては、例えば、ポリ-α-オレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリオキシアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、含フッ素化合物、シリコーン油等が挙げられる。
【0047】
潤滑油基油がその他の基油を含む場合、その他の基油の含有量は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは1~50質量%、より好ましくは5~40質量%、さらに好ましくは10~30質量%である。
【0048】
潤滑油基油の40℃動粘度は、好ましくは5mm2/s以上、より好ましくは7mm2/s以上、さらに好ましくは10mm2/s以上であり、好ましくは100mm2/s以下、より好ましくは60mm2/s以下、さらに好ましくは40mm2/s以下である。
【0049】
潤滑油基油の100℃動粘度は、好ましくは1mm2/s以上、より好ましくは2mm2/s以上、さらに好ましくは3mm2/s以上であり、好ましくは12mm2/s以下、より好ましくは9mm2/s以下、さらに好ましくは7mm2/以下である。
【0050】
本明細書において、40℃動粘度及び100℃動粘度は、JIS K2283:2000に準拠して測定される動粘度を意味する。
【0051】
潤滑油基油におけるヨウ素価は、50gI2/100g以下である。当該ヨウ素価がこのような範囲にあると、金属加工油組成物の皮膚感作性を低減することができる。当該ヨウ素価は、好ましくは40gI2/100g以下、より好ましくは30gI2/100g以下、さらに好ましくは15gI2/100g以下である。潤滑油基油におけるヨウ素価の下限値は、例えば、1gI2/100g以上又は3gI2/100g以上であってよい。
【0052】
上記潤滑油基油におけるヨウ素価は、第2のエステルの割合を減らす(第1のエステル、鉱油、又はエステル以外の合成油の割合を増やす)、ヨウ素価の低い第2のエステルを用いる等によって、上記範囲に調整することができる。
【0053】
潤滑油基油は、金属加工油組成物の主成分であり、下記の添加剤の含有量の残部を構成する。潤滑油基油の含有量は、金属加工油組成物全量を基準として、例えば、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であってよい。
【0054】
<添加剤>
(硫黄化合物)
金属加工油組成物は、硫黄化合物を含有する。硫黄化合物は、好ましくは、チオリン酸エステル、ジチオリン酸エステル、硫化エステル、硫化オレフィン、及びチオビスフェノールからなる群より選ばれる1種である。
【0055】
チオリン酸エステルとしては、例えば、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0056】
【0057】
式(1)中、R11、R12、及びR13はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、又はアリール基を表す。ただし、R11、R12、及びR13のうち、少なくとも一つは、アルキル基、アルケニル基、又はアリール基である。
【0058】
アルキル基の炭素数は、例えば、1以上、3以上、又は6以上であってよく、20以下、18以下、又は16以下であってよい。アルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。アルキル基の水素原子の一部は、後述のアリール基で置換されていてもよい。
【0059】
アルケニル基の炭素数は、例えば、2以上、3以上、又は6以上であってよく、20以下、18以下、又は16以下であってよい。であってよい。アルケニル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。アルケニル基の水素原子の一部は、後述のアリール基で置換されていてもよい。
【0060】
アリール基の炭素数は、例えば、6以上、8以上、又は10以上であってよく、30以下、24以下、又は18以下であってよい。アリール基の水素原子の一部は、上記のアルキル基又はアルケニル基で置換されていてもよい。
【0061】
チオリン酸エステルの具体例としては、モノブチルホスホロチオネート、モノヘキシルホスホロチオネート、モノオクチルホスホロチオネート、モノデシルホスホロチオネート、モノドデシルホスホロチオネート、モノテトラデシルホスホロチオネート、モノヘキサデシルホスホロチオネート、モノオクタデシルホスホロチオネート、モノオレイルホスホロチオネート、モノフェニルホスホロチオネート、モノクレジルホスホロチオネート、モノキシレニルホスホロチオネート等のチオリン酸モノ(アルキル、アルケニル、又はアリール);ジブチルホスホロチオネート、ジヘキシルホスホロチオネート、ジオクチルホスホロチオネート、ジデシルホスホロチオネート、ジドデシルホスホロチオネート、ジテトラデシルホスホロチオネート、ジヘキサデシルホスホロチオネート、ジオクタデシルホスホロチオネート、ジオレイルホスホロチオネート、ジフェニルホスホロチオネート、ジクレジルホスホロチオネート、ジキシレニルホスホロチオネート等のチオリン酸ジ(アルキル、アルケニル、又はアリール);トリブチルホスホロチオネート、トリヘキシルホスホロチオネート、トリオクチルホスホロチオネート、トリデシルホスホロチオネート、トリドデシルホスホロチオネート、トリテトラデシルホスホロチオネート、トリヘキサデシルホスホロチオネート、トリオクタデシルホスホロチオネート、トリオレイルホスホロチオネート、トリフェニルホスホロチオネート(TPPT)、トリクレジルホスホロチオネート、トリキシレニルホスホロチオネート、クレジルジフェニルホスホロチオネート、キシレニルジフェニルホスホロチオネート等のチオリン酸トリ(アルキル、アルケニル、又はアリール)などが挙げられる。これらの中でも、チオリン酸エステルは、好ましくはチオリン酸トリエステルである。チオリン酸トリエステルは、好ましくはトリフェニルホスホロチオネート(TPPT)である。
【0062】
ジチオリン酸エステルとしては、例えば、下記式(2)で表される化合物、下記式(3)で表される化合物等が挙げられる。
【0063】
【0064】
式(2)中、R21、R22、及びR23はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、又はアリール基を表す。ただし、R21、R22、及びR23のうち、少なくとも一つは、アルキル基、アルケニル基、又はアリール基である。
【0065】
R21、R22、及びR23におけるアルキル基、アルケニル基、又はアリール基は、R11、R12、及びR13におけるアルキル基、アルケニル基、又はアリール基の好ましい例と同様であってよい。
【0066】
式(2)で表される化合物の具体例としては、ジチオリン酸ブチル、ジチオリン酸ヘキシル、ジチオリン酸オクチル、ジチオリン酸フェニル等のジチオリン酸モノ(アルキル、アルケニル、又はアリール);ジチオリン酸ジブチル、ジチオリン酸ジヘキシル、ジチオリン酸ジオクチル、ジチオリン酸ジフェニル等のジチオリン酸ジ(アルキル、アルケニル、又はアリール);ジチオリン酸トリブチル、ジチオリン酸トリヘキシル、ジチオリン酸トリオクチル、ジチオリン酸トリフェニル等のジチオリン酸トリ(アルキル、アルケニル、又はアリール)などが挙げられる。
【0067】
【0068】
式(3)中、R31及びR32はそれぞれ独立にアルキル基又はアルケニル基を表し、R33はアルキレン基を表す。
【0069】
R31及びR32におけるアルキル基又はアルケニル基は、R11、R12、及びR13におけるアルキル基又はアルケニル基の好ましい例と同様であってよい。
【0070】
R33としてのアルキレン基の炭素数は、1以上又は2以上であってよく、8以下、6以下、又は4以下であってよい。該アルキレン基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0071】
硫化エステルとしては、例えば、牛脂、豚脂、魚脂、菜種油、大豆油等の動植物油脂を任意の方法で硫化した硫化油脂、不飽和脂肪酸とアルコールとを反応させて得られる不飽和脂肪酸エステル(不飽和脂肪酸メチル等)を任意の方法で硫化したエステル、動植物油脂と不飽和脂肪酸エステルとの混合物を任意の方法で硫化したエステル等が挙げられる。
【0072】
硫化油脂は、硫黄原子により形成された架橋構造を有していてもよい。架橋構造を形成する硫黄原子の数が4以上の硫化油脂は、銅板腐食を引き起こす可能性が高い活性硫化油脂に分類され、当該硫黄原子の数が3以下の硫化油脂は、銅板腐食を引き起こす可能性が低い不活性硫化油脂に分類され得る。そのため、被加工物に銅合金を用いる場合、加工装置の加工油が付着する部分に銅合金を適用されている場合は、当該硫黄原子の数が3以下の硫化油脂を用いることが好ましい。
【0073】
硫化オレフィンとしては、例えば、下記式(4)で表される化合物が挙げられる。
【0074】
【0075】
式(4)中、R41及びR42はそれぞれ独立にアルキル基を表し、nは1以上の整数を表す。
【0076】
R41及びR42におけるアルキル基の炭素数は、3以上、5以上、又は7以上であってよく、16以下、12以下、10以下、又は8以下であってよい。該アルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。nは2以上又は3以上の整数であってよく、10以下、9以下、又は8以下の整数であってよい。
【0077】
チオビスフェノールとしては、例えば、下記式(5)で表される化合物が挙げられる。
【0078】
【0079】
式(2)中、R51は水素原子又はアルキル基を表し、R52及びR53はそれぞれ独立に2価のアルキレン基を表し、xは1~3の整数を表す。
【0080】
R51におけるアルキル基の炭素数は、1以上、2以上、又は3以上であってよく、16以下、12以下、10以下、又は8以下であってよい。該アルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0081】
R52及びR53におけるアルキレン基の炭素数は、1以上又は2以上であってよい。該アルキル基の炭素数は、8以下又は6以下であってよい。該アルキレン基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0082】
xは1又は2であってよく、1であってよい。
【0083】
金属加工油組成物全量を基準としたときの硫黄化合物の硫黄原子換算での含有量(添加剤由来の硫黄含有量)は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.4質量%以上であり、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下である。添加剤由来の硫黄含有量が0.1質量%以上であると、金属加工油組成物の金属加工性が向上し、2.0質量%以下であると、金属加工油組成物をより高引火点化できる。
【0084】
(リン酸エステル)
金属加工油組成物は、リン酸エステルを含有していてもよい。リン酸エステルとしては、例えば、リン酸モノブチル、リン酸モノヘキシル、リン酸モノオクチル、リン酸モノデシル、リン酸モノドデシル、リン酸モノオレイル、リン酸モノフェニル、リン酸モノクレジル等のリン酸モノ(アルキル、アルケニル、又はアリール)、リン酸ジブチル、リン酸ジヘキシル、リン酸ジオクチル、リン酸ジデシル、リン酸ジドデシル、リン酸ジオレイル、リン酸ジフェニル、リン酸ジクレジル等のリン酸ジ(アルキル、アルケニル、又はアリール)、リン酸トリブチル、リン酸トリヘキシル、リン酸トリオクチル、リン酸トリデシル、リン酸トリドデシル、リン酸トリオレイル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル等のリン酸トリ(アルキル、アルケニル、又はアリール)などが挙げられる。リン酸モノ(アルキル、アルケニル、又はアリール)及びリン酸ジ(アルキル、アルケニル、又はアリール)は、酸性リン酸エステルということができる。アルキル基又はアルケニル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0085】
リン酸エステルの含有量は、金属加工油組成物全量を基準として、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。リン酸エステルの含有量が、金属加工油組成物全量を基準として、0.01質量%以上であると、金属加工性が向上し、2質量%以下であると、金属加工油組成物をより高引火点化できる。
【0086】
金属加工油組成物は、本発明の効果を著しく損なわない範囲において、上記の硫黄化合物及びリン酸エステルに加えて、その他の添加剤を含有していてもよい。その他の添加剤としては、酸化防止剤(2,6-ジ-tert.ブチル-p-クレゾール(DBPC)等のフェノール系化合物、フェニル-α-ナフチルアミン等の芳香族アミンなど)、金属不活性化剤(ベンゾトリアゾール等)、ミスト防止剤(ポリイソブチレン、エチレン-プロピレンコポリマー等の炭化水素系高分子化合物など)、硫黄化合物及びリン酸エステル以外の摩耗防止剤(亜リン酸エステル等、これらのアミン塩、金属塩、及び誘導体など)、摩擦調整剤(ジトリデシルアミン等のアミン系、アミド系、イミド系、脂肪酸系、脂肪族アルコール系、脂肪族エーテル系など)等が挙げられる。その他の添加剤の総量の含有量は、特に制限されないが、金属加工油組成物全量を基準として、好ましくは5質量%以下である。
【0087】
<金属加工油組成物>
金属加工油組成物の40℃動粘度は、好ましくは30mm2/s以下である。金属加工油組成物の40℃動粘度は、より好ましくは28mm2/s以下、さらに好ましくは25mm2/s以下である。金属加工油組成物の40℃動粘度は、好ましくは8mm2/s以上、より好ましくは13mm2/s以上、さらに好ましくは16mm2/s以上である。
【0088】
金属加工油組成物の引火点は、好ましくは250℃以上である。金属加工油組成物の引火点が250℃以上であると、金属加工油組成物の取り扱い時の安全性が向上する。金属加工油組成物の引火点は、より好ましくは254℃以上、さらに好ましくは256℃以上である。金属加工油組成物の引火点の上限は、例えば、300℃以下であってよい。
【0089】
本実施形態に係る金属加工油組成物は、例えば、金属の切削加工において好適に用いることができる。本実施形態に係る金属加工油組成物は、金属切削油組成物ということもできる。金属加工における被加工物の材質は、特に制限されないが、例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム又はその合金、ニッケル又はその合金、クロム又はその合金、銅又はその合金、亜鉛又はその合金、チタン又はその合金等が挙げられる。
【0090】
本実施形態に係る金属加工油組成物は、高い引火点を有するとともに、皮膚感作性を低減することが可能となる。
【実施例0091】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0092】
[潤滑油基油]
(A)第1のエステル
A1:n-オクタン酸及びn-デカン酸とトリメチロールプロパンとのエステル(ヨウ素価:0gI2/100g)
A2:n-オクタン酸及びn-デカン酸とグリセリンとのエステル(ヨウ素価:0gI2/100g)
(B)第2のエステル
B1:オレイン酸(9-cis-オクタデセン酸)とネオペンチルグリコールとのエステル(ヨウ素価:82.6gI2/100g)
B2:オレイン酸(9-cis-オクタデセン酸)と1-トリデカノールとのエステル(ヨウ素価:54.6gI2/100g)
(C)鉱油
C1:API分類のグループIII鉱油(40℃動粘度:34.79mm2/s、100℃動粘度:6.46mm2/s、粘度指数:141)
【0093】
[添加剤]
(D)硫黄化合物
D1:硫化油脂(DIC株式会社製、DAILUBE GS-245、硫黄含有量:16.3質量%)
D2:硫化エステル(硫化オレイン酸メチルエステル、硫黄含有量:17.0質量%)
D3:チオリン酸エステル(トリフェニルホスホロチオネート(TPPT)、硫黄含有量:9.0質量%)
D4:チオビスフェノール(BASF社製、IRGANOX L115、硫黄含有量:5.0質量%)
(E)リン酸エステル
E1:リン酸トリクレジル
E2:リン酸モノオレイルとリン酸ジオレイルとの質量比1:1の混合物
【0094】
[金属加工油組成物]
(実施例1~4及び比較例1)
上記の各潤滑油基油及び各添加剤を用いて、表2及び表3に示す組成を有する金属加工油組成物を調製した。なお、表中、潤滑油基油の各数値は、潤滑油基油全量を基準としたときの含有量(質量%)を意味し、添加剤の数値及び添加剤由来の硫黄含有量の各数値は、金属加工油組成物全量を基準としたときの含有量(質量%)を意味する。
【0095】
[金属加工油組成物の評価]
(皮膚感作性の評価)
Adjuvant and Patch Test(APT法)による試験を実施した。まず、一次感作処置としてAdjuvantを感作部位に皮内投与した。その後の4日間、1日ごとに感作部位に注射針で傷をつけ、感作物質(実施例1~4及び比較例1の各金属加工油組成物)を貼り付けした。二次感作処置として、感作開始8日目から48時間、感作物質を閉塞貼付した。感作開始24日目(二次感作処置完了から14日後)に、惹起部位に惹起物質(実施例1~4及び比較例1の各金属加工油組成物)を塗布し、24時間後に投与部位の皮膚状態を観察し、紅斑及び浮腫形成の程度を以下の表1の判定基準にしたがって判定した。
【0096】
【0097】
各被験物質について惹起動物数n=5で試験を実施した。感作群で個体ごとに、以下の式に基づいて、最大の皮膚反応の評点を付けた。同様に非感作群で示す最大の皮膚反応の評点をつけ、それを基準評点とした。基準評点より高い評点を示した個体を感作性陽性動物とした。
評点=(1)紅斑形成の評点+(2)浮腫形成の評点
【0098】
感作性陽性動物の割合(陽性率(%))を以下の式に基づいて算出した。結果を表2及び表3に示す。
陽性率(%)=(感作性陽性動物数/惹起動物数)×100
【0099】
(引火点の測定)
引火点は、JIS K2265-4:2007に準拠して測定した。結果を表2及び表3に示す。
【0100】
(金属加工性(切削性)の評価)
実施例1~4及び比較例1の各金属加工油組成物と、比較標準油であるアジピン酸ジイソデシルとを交互に用いて、以下に示す条件でタッピング試験を行った。金属加工油組成物の加工部位への供給の際には、直接加工部位に6L/時の条件で吹き付けた。
タッピング試験条件:
被削材:JIS S25C(炭素網)
工具径:8mm
タップピッチ:1.25mm
タップすくい角:8度
タップ食いつき角:60度
タップ下穴径:6.8mm
回転数:360rpm
標準油:アジピン酸ジイソデシル
【0101】
上記試験におけるタッピングエネルギーを測定し、下記式を用いてタッピングエネルギー効率(%)を算出した。結果を表2及び表3に示す。表中、タッピングエネルギー効率が高いほど、金属加工性(切削性)に優れることを意味する。
タッピングエネルギー効率(%)=(比較標準油を用いた場合のタッピングエネルギー)/(金属加工油組成物を用いた場合のタッピングエネルギー)×100
【0102】
【0103】
【0104】
表2及び表3に示すとおり、潤滑油基油におけるヨウ素価が50gI2/100g以下である、実施例1~4の金属加工油組成物は、引火点が250℃以上であり、皮膚感作性が比較例1の金属加工油組成物よりも優れていた。また、実施例1~4の金属加工油組成物は、充分な金属加工性を有していることも確認された。以上の結果から、本発明に係る金属加工油組成物が、充分に高い引火点を有するとともに、皮膚感作性を低減することが可能であることが確認された。