(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010524
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】ゴム配合の設計方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
B29C 67/00 20170101AFI20240117BHJP
【FI】
B29C67/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111905
(22)【出願日】2022-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聖人
(72)【発明者】
【氏名】多田 成明
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA45
4F213AM23
4F213AR20
4F213WA41
4F213WB01
(57)【要約】
【課題】目標とするゴム物性に適合するゴム配合を、精度よく簡便に把握できるゴム配合の設計方法およびシステムを提供する。
【解決手段】準備工程S100では、学習データ10を用いて機械学習により構築された配合生成モデル30aと物性予測モデル40とを利用し、配合生成モデル30aを用いて学習データ10の配合データD1と異なる配合データD1bを生成し、生成した各配合データD1bで所定の製造条件データD2に基づいて製造される各対象加硫ゴムBのゴム物性データD3を、物性予測モデル40を用いて算出して配合データセット20を予め作成しておき、選択工程S200では、配合データセット20と目標値D3aとに基づいて、配合データセット20の中からゴム特性データD3が目標値D3aに近似する対象加硫ゴムBの配合データD1を目的の加硫ゴムRの配合データD1として選択する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類のゴム物性データの目標値を満足する目的の加硫ゴムのそれぞれの配合成分の配合量が設定された配合データを把握するゴム配合の設計方法において、
準備工程と選択工程とを有し、
前記準備工程では、前記配合データが異なる多数種類の未加硫ゴムを加硫して製造されたそれぞれの加硫ゴムについての前記配合データと、製造条件データと、複数種類のゴム物性データと、を前記加硫ゴムの種類ごとに集積したデータセットを学習データとして、
前記学習データを用いて機械学習によって演算装置により配合生成モデルおよび物性予測モデルを構築し、
前記配合生成モデルを用いて前記演算装置によりデータ処理することにより、それぞれの前記加硫ゴムの配合データとは異なっている多数の前記配合データを生成し、前記物性予測モデルを用いて前記演算装置によりデータ処理することにより、生成した前記配合データで形成されて所定の製造条件データに基づいて製造されるそれぞれの前記対象加硫ゴムの前記ゴム物性データを算出し、それぞれの前記対象加硫ゴムについての前記配合データと、前記所定の製造条件データと、前記ゴム物性データと、を前記対象加硫ゴムの種類ごとに集積して配合データセットを作成し、
前記選択工程では、前記配合データセットと前記目標値とに基づいて、演算装置によりデータ処理することにより、前記配合データセットの中から前記ゴム物性データが前記目標値に近似する前記対象加硫ゴムの前記配合データを、前記目的の加硫ゴムの前記配合データとして選択し、
前記準備工程と前記選択工程とは互いに個別の任意のタイミングで実施され、前記配合データセットは前記選択工程の実施の前に予め作成されているゴム配合の設計方法。
【請求項2】
前記準備工程では、前記学習データのそれぞれの前記加硫ゴム、その前記配合データをそれぞれ、前記配合データセットの前記対象加硫ゴム、その前記配合データと見做して、前記学習データを前記配合データセットの一部として統合する請求項1に記載のゴム配合の設計方法。
【請求項3】
前記選択工程では、前記目的の加硫ゴムについてのそれぞれの前記ゴム物性データの前記目標値と、それぞれの前記配合成分の配合量の指定範囲が設定された配合指定データと、を前記演算装置に入力し、
制約条件データとしてそれぞれの前記目標値と前記配合指定データとが入力された配合生成モデルを用いて、前記演算装置によりデータ処理することにより、前記制約条件データによる制約を満たすとともに、前記学習データのそれぞれの前記配合データとは異なる配合データを指定候補として複数生成し、
前記物性予測モデルを用いて、前記演算装置によりデータ処理することにより、生成したそれぞれの前記指定候補の前記配合データにより形成されて所定の製造条件データに基づいて製造されるそれぞれの指定加硫ゴムのそれぞれの前記ゴム物性データを算出し、それぞれの前記指定加硫ゴムについての前記配合データと、前記所定の製造条件データと、それぞれの前記ゴム物性データとを前記指定加硫ゴムの種類ごとに集積して指定データセットを作成し、前記指定加硫ゴム、その前記配合データをそれぞれ、前記対象加硫ゴムおよびその前記配合データと見做して、前記指定データセットを前記配合データセットの一部として統合する請求項1に記載のゴム配合の設計方法。
【請求項4】
前記選択工程では、前記目的の加硫ゴムについてのそれぞれの前記ゴム物性データの前記目標値と、それぞれの前記配合成分の配合量の指定範囲が設定された配合指定データと、混合条件および加硫条件の少なくとも一方が指定された製造条件指定データと、を前記演算装置に入力し、
制約条件データとしてそれぞれの前記目標値と前記配合指定データと前記製造条件指定データとが入力された配合生成モデルを用いて、前記演算装置によりデータ処理することにより、前記制約条件データによる制約を満たすとともに、前記学習データのそれぞれの前記配合データとは異なる配合データを指定候補として複数生成し、
前記物性予測モデルを用いて、前記演算装置によりデータ処理することにより、生成したそれぞれの前記指定候補の前記配合データにより形成されて前記製造条件指定データに基づいて製造されるそれぞれの指定加硫ゴムのそれぞれの前記ゴム物性データを算出し、それぞれの前記指定加硫ゴムについての前記配合データと、前記製造条件指定データと、それぞれの前記ゴム物性データとを前記指定加硫ゴムの種類ごとに集積して指定データセットを作成し、前記指定加硫ゴム、その前記配合データをそれぞれ、前記対象加硫ゴムおよびその前記配合データと見做して、前記指定データセットを前記配合データセットの一部として統合する請求項1に記載のゴム配合の設計方法。
【請求項5】
前記選択工程では、前記制約条件データにより設定された制約条件下で、条件付き敵対的生成ネットワークを利用して前記演算装置により前記配合生成モデルを構築する請求項3または4に記載のゴム配合の設計方法。
【請求項6】
前記指定データセットが統合された前記配合データセットを用いる前記選択工程では、前記制約条件データの制約条件ごとの評価関数を用いて、前記配合データセットの中から前記制約条件データによる制約を満足する度合いが基準よりも高い前記対象加硫ゴムの前記配合データを、前記目的の加硫ゴムの前記配合データとして選択する請求項3または4に記載のゴム配合の設計方法。
【請求項7】
前記指定候補の前記配合データの生成数を前記配合データセットの前記配合データの数以下とする請求項3または4に記載のゴム配合の設計方法。
【請求項8】
前記選択工程では、選択したそれぞれの前記配合データを基にする前記対象加硫ゴムの前記配合データと前記所定の製造条件データと前記ゴム物性データとを一回目の探索用学習データとして、
前記探索用学習データを用いて機械学習により別の配合生成モデルを構築し、前記演算装置によりデータ処理することにより、前記別の配合生成モデルを用いて前記配合データの探索用候補を複数生成し、前記物性予測モデルによりそれぞれの前記探索用候補の前記配合データにより形成された探索用加硫ゴムの前記ゴム物性データを算出し、
それぞれの前記探索用加硫ゴムについての前記配合データと、前記所定の製造条件データと、それぞれの前記ゴム物性データとを前記探索用加硫ゴムの種類ごとに集積して探索用配合データセットを作成し、
前記探索用配合データセットに前記目標値に適合する前記配合データが見つかるまで、前記探索用配合データセットを二回目以降の前記探索用学習データとして、前記演算装置によりデータ処理することにより、前記探索用配合データセットの作成を繰り返し、
前記探索用配合データセットを前記配合データセットと見做す請求項3または4に記載のゴム配合の設計方法。
【請求項9】
前記選択工程では、選択したそれぞれの前記配合データを、最適化アルゴリズムを用いて前記演算装置によりデータ処理することにより、前記配合データの最適解候補を生成し、前記最適解候補の前記配合データにより形成された最適解加硫ゴムについての前記配合データと、前記所定の製造条件データと、それぞれの前記ゴム物性データとを前記最適解加硫ゴムごとに集積して最適解配合データセットを作成し、
作成した前記最適解配合データセットを前記配合データセットと見做す請求項3または4に記載のゴム配合の設計方法。
【請求項10】
前記選択工程で選択された前記対象加硫ゴムの前記配合データ、前記所定の製造条件データおよび前記ゴム物性データをそれぞれ、前記配合データセットに追加して前記配合データを更新する請求項3または4に記載のゴム配合の設計方法。
【請求項11】
演算処理部と記憶部と入力部と出力部とを有する演算装置により、複数種類のゴム物性データの目標値を満足する目的の加硫ゴムのそれぞれの配合成分の配合量が設定された配合データを把握するゴム配合の設計システムにおいて、
前記演算装置により準備工程と選択工程とが実施され、
前記準備工程では、前記配合データが異なる多数種類の未加硫ゴムを加硫して製造されたそれぞれの加硫ゴムについての前記配合データと、製造条件データと、複数種類のゴム物性データと、を前記加硫ゴムの種類ごとに集積したデータセットを学習データとして、
演算装置により前記学習データを用いて機械学習によって配合生成モデルおよび物性予測モデルが構築されて、前記配合生成モデルを用いて前記演算装置によりデータ処理することにより、それぞれの前記加硫ゴムの配合データとは異なっている多数の前記配合データが生成され、かつ、前記物性予測モデルを用いて前記演算装置によりデータ処理することにより、生成された前記配合データで形成されて所定の製造条件データに基づいて製造されるそれぞれの前記対象加硫ゴムの前記ゴム物性データが算出されて、それぞれの前記対象加硫ゴムについての前記配合データと、前記所定の製造条件データと、前記ゴム物性データと、が前記対象加硫ゴムの種類ごとに集積された配合データセットが作成されて前記記憶部に記憶されていて、
前記選択工程では、前記配合データセットと前記目標値とに基づいて、演算装置によりデータ処理することにより、前記配合データセットの中から前記ゴム物性データが前記目標値に近似する前記対象加硫ゴムの前記配合データが、前記目的の加硫ゴムの前記配合データとして選択され、
前記準備工程と前記選択工程とは互いに個別の任意のタイミングで実施されて、前記配合データセットは前記選択工程の実施の前に予め作成されているゴム配合の設計システム。
【請求項12】
互いに通信可能な複数の前記演算装置を備えて、前記準備工程と前記準備工程とがそれぞれ、複数の前記演算装置のうちの異なる演算装置により行われる請求項11に記載のゴム配合の設計システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム配合の設計方法およびシステムに関し、より詳しくは、目標とするゴム物性に適合するゴム配合を、精度よく簡便に把握できるゴム配合の設計方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
加硫ゴムは、未加硫ゴムを加硫することで製造される。未加硫ゴムは、複数種類の配合成分がそれぞれ、特定の配合量で配合されて形成されている。それぞれの配合成分の配合量を異ならせることで、製造される加硫ゴムのゴム物性を変化させることができる。換言すると、目標とするゴム物性を有する加硫ゴムを製造するには、ゴム配合(それぞれの配合成分の配合量)を目標とするゴム物性に応じて適切に設定する必要がある。
【0003】
機械学習を利用して所定の製品の既存の製造レシピとは異なる製造レシピを設計する方法が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1で提案されている方法は、対象にする製品をゴムに特化していないため、ゴム製品に適用するにはゴムに特有の考慮をする必要がある。また、この提案の方法をゴム製品に適用して既存のゴム配合とは異なるゴム配合を設計するには、ゴム製品の製造業者が従来から蓄積している膨大な実験データや試験データを学習データとして用いるため、膨大なデータ処理が必要になる。したがって、この提案の方法では、目標とするゴム物性に適合するゴム配合を精度よく把握するには、データ処理の負荷が過大になるため、この負荷の軽減化を図る必要がある。それ故、目標とするゴム物性に適合するゴム配合を、精度よく簡便に把握するには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、目標とするゴム物性に適合するゴム配合を、精度よく簡便に把握できるゴム配合の設計方法およびシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成する本発明のゴム配合の設計方法は、複数種類のゴム物性データの目標値を満足する目的の加硫ゴムのそれぞれの配合成分の配合量が設定された配合データを把握するゴム配合の設計方法において、準備工程と選択工程とを有し、前記準備工程では、前記配合データが異なる多数種類の未加硫ゴムを加硫して製造されたそれぞれの加硫ゴムについての前記配合データと、製造条件データと、複数種類のゴム物性データと、を前記加硫ゴムの種類ごとに集積したデータセットを学習データとして、前記学習データを用いて機械学習によって演算装置により配合生成モデルおよび物性予測モデルを構築し、前記配合生成モデルを用いて前記演算装置によりデータ処理することにより、それぞれの前記加硫ゴムの配合データとは異なっている多数の前記配合データを生成し、前記物性予測モデルを用いて前記演算装置によりデータ処理することにより、生成した前記配合データで形成されて所定の製造条件データに基づいて製造されるそれぞれの前記対象加硫ゴムの前記ゴム物性データを算出し、それぞれの前記対象加硫ゴムについての前記配合データと、前記所定の製造条件データと、前記ゴム物性データと、を前記対象加硫ゴムの種類ごとに集積して配合データセットを作成し、前記選択工程では、前記配合データセットと前記目標値とに基づいて、演算装置によりデータ処理することにより、前記配合データセットの中から前記ゴム物性データが前記目標値に近似する前記対象加硫ゴムの前記配合データを、前記目的の加硫ゴムの前記配合データとして選択し、前記準備工程と前記選択工程とは互いに個別の任意のタイミングで実施され、前記配合データセットは前記選択工程の実施の前に予め作成されているゴム配合の設計方法ことを特徴とする。
【0007】
本発明のゴム配合の設計システムは、演算処理部と記憶部と入力部と出力部とを有する演算装置により、複数種類のゴム物性データの目標値を満足する目的の加硫ゴムのそれぞれの配合成分の配合量が設定された配合データを把握するゴム配合の設計システムにおいて、前記演算装置により準備工程と選択工程とが実施され、前記準備工程では、前記配合データが異なる多数種類の未加硫ゴムを加硫して製造されたそれぞれの加硫ゴムについての前記配合データと、製造条件データと、複数種類のゴム物性データと、を前記加硫ゴムの種類ごとに集積したデータセットを学習データとして、演算装置により前記学習データを用いて機械学習によって配合生成モデルおよび物性予測モデルが構築されて、前記配合生成モデルを用いて前記演算装置によりデータ処理することにより、それぞれの前記加硫ゴムの配合データとは異なっている多数の前記配合データが生成され、かつ、前記物性予測モデルを用いて前記演算装置によりデータ処理することにより、生成された前記配合データで形成されて所定の製造条件データに基づいて製造されるそれぞれの前記対象加硫ゴムの前記ゴム物性データが算出されて、それぞれの前記対象加硫ゴムについての前記配合データと、前記所定の製造条件データと、前記ゴム物性データと、が前記対象加硫ゴムの種類ごとに集積された配合データセットが作成されて前記記憶部に記憶されていて、前記選択工程では、前記配合データセットと前記目標値とに基づいて、演算装置によりデータ処理することにより、前記配合データセットの中から前記ゴム物性データが前記目標値に近似する前記対象加硫ゴムの前記配合データが、前記目的の加硫ゴムの前記配合データとして選択され、前記準備工程と前記選択工程とは互いに個別の任意のタイミングで実施されて、前記配合データセットは前記選択工程の実施の前に予め作成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、準備工程と選択工程とを同時期に一緒に行うのではなく、それぞれを独立した個別のタイミングで行う。予め準備工程により配合データセットを準備しておくことで、目標とするゴム物性を有する加硫ゴムのゴム配合を把握するには、選択工程のみを行えばよく、データ処理の負荷を分散させることができる。新たなゴム配合を設計するために製造条件や目標値を変更しても、学習データが不変であれば配合データセットはそのまま使用すればよく、配合データセットをその都度、最初から作成する必要がない。作成した配合データセットは、学習データの更新とともに更新することもできる。この学習データおよび配合データの更新は、選択工程とは独立して任意の所望のタイミングで行うことができる。このようにデータ処理の負荷を分散、軽減して精度よく簡便に所望のゴム配合を把握するには有利になる。
【0009】
また、配合データセットのゴム物性データは、配合成分の種類やそれぞれの配合量に加えて、製造条件データがゴム物性データに及ぼす影響が考慮されている。つまり、それぞれのゴム物性データが目標値に高い精度で近似する対象加硫ゴムの配合データを把握する過程で、製造条件データも簡便に把握することができる。しかも、把握できる配合データは学習データに存在していない新たな配合データであるため、目標とするゴム物性を有する加硫ゴムの開発作業や改良作業の効率化に大きく寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ゴム配合の設計システムの実施形態を例示する説明図である。
【
図4】ゴム配合の設計方法の実施形態の準備工程の手順を例示するフロー図である。
【
図5】準備工程で用いる配合生成モデルの構築の手順を例示する説明図である。
【
図6】準備工程で用いる物性予測モデルの構築の手順を例示する説明図である。
【
図7】ゴム配合の設計方法の実施形態の選択工程の手順を例示するフロー図である。
【
図9】実施形態の変形例1での準備工程の手順を例示するフロー図である。
【
図10】実施形態の変形例2での選択工程の手順を例示するフロー図である。
【
図11】配合指定データおよび製造条件指定データを例示する説明図である。
【
図13】変形例2の配合生成モデルの構築の手順を例示する説明図である。
【
図14】指定配合データセットを例示する説明図である。
【
図15】実施形態の変形例3での選択工程の手順を例示するフロー図である。
【
図16】変形例3の探索用学習データを例示する説明図である。
【
図17】変形例3の配合生成モデルの構築の手順を例示する説明図である。
【
図18】変形例3の探索用配合データセットを例示する説明図である。
【
図19】実施形態の変形例4での選択工程の手順を例示するフロー図である。
【
図20】変形例4の最適化用データセットを例示する説明図である。
【
図21】変形例4の最適解配合データセットを例示する説明図である。
【
図22】実施形態の変形例5の手順を例示するフロー図である。
【
図23】変形例5での各データセットのデータ空間を模式的に例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、ゴム配合の設計方法およびシステムを、図に示す実施形態およびその変形例に基づいて説明する。
【0012】
図1に例示するゴム配合の設計システム1の実施形態を用いて、ゴム配合の設計方法が実施される。この設計方法は、学習データ10に基づいた配合データセット20を予め作成する準備工程(後述する準備工程S100)と、その準備工程S100により作成された配合データセット20を用いて、目標とするゴム物性に適合するゴム配合を把握する選択工程(後述する選択工程S200)と、の二つの工程をそれぞれ独立した個別のタイミングで行う方法である。
【0013】
設計システム1は、複数台の演算装置2a、2bを備えている。設計システム1は、一台の演算装置で構成されてもよいが、複数台の演算装置2a、2bで構成されることで、データ処理を分散することが可能になり、データ処理負荷の低減や効率化の効果がより高まる。
【0014】
各々の演算装置2a、2bは、種々のデータが入力、記憶され、これらデータを用いてデータ処理を行う。各々の演算装置2a、2bは、公知の種々のコンピュータを用いることができる。各々の演算装置2a、2bは、中央演算処理部(CPU)3、主記憶部(メモリ)4、補助記憶部(例えば、HDD)5、入力部(キーボード、マウス)6、および、出力部(ディスプレイ、プリンタ)7を有している。
【0015】
演算装置2a、2bは、互いに通信可能に接続されている。演算装置2a、2bは、同一のネットワーク(LAN)を介して相互に接続されていてもよく、複数のネットワークがインターネットルータを介して相互に接続された広域通信網(WAN)を介して相互に接続されていてもよく、インターネットを介して相互に接続されていてもよい。
【0016】
一方の演算装置2aは、補助記憶部5に記憶された学習データ10を用いて配合データセット20を作成する準備工程S100を実行する。演算装置2aは、一台または複数台のコンピュータで構成されて入力部6および出力部7は必要な数を備えればよく、並列処理により準備工程S100を実行する並列コンピュータで構成されていてもよい。
【0017】
他方の演算装置2bは、準備工程S100の実行により作成された配合データセット20を用いて、目標とするゴム物性に適合するゴム配合を把握する選択工程S200を実行する。演算装置2bが複数台のコンピュータを備えていれば、所望するゴム物性が異なる複数の選択工程S200を一度に処理することが可能となる。演算装置2bは、演算装置2aがサーバーコンピュータで構成される場合に、クライアントコンピュータで構成されてもよい。演算装置2aがサーバーコンピュータで構成されていて、演算装置2bがクライアントコンピュータで構成されている場合、サーバーコンピュータで実行されるWebアプリケーションにより準備工程S100および選択工程S200の両方の工程を行ってもよい。
【0018】
図2に例示する学習データ10は、異なる多数種類の加硫ゴムA(A1、A2、・・・、An)の配合データD1と、それぞれの加硫ゴムAについての製造条件データD2および複数種類のゴム物性データD3を有している。加硫ゴムAの種類数(1~n)は、特に限定されるものではないが、少なくとも100個以上であり、好ましくは400個以上である。
【0019】
配合データD1は、複数種類の配合成分C(C1、C2、・・・、Cn)の配合量を示している。配合成分Cとしては、ゴム成分、各種公知の添加剤(カーボン、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、着色剤、無機充填剤など)が例示される。配合成分Cの配合量は、ゴム成分の配合量を100phr(100質量部)として、その他のそれぞれの配合成分Cの配合量が設定されている。
図2では、配合成分C1、C2がゴム成分を示している。種類が異なる加硫ゴムAどうしでは、それぞれの配合成分Cの種類が異なっている、あるいは、同種類の配合成分Cのそれぞれの配合量が異なっている、もしくは、その両方が異なっている。
【0020】
製造条件データD2は、配合データD1で示されるそれぞれの配合成分Cを混合して未加硫ゴムを形成する際の混合条件や、未加硫ゴムを加硫する際の加硫条件を示している。混合条件としては、混練ミキサでの、混合温度、混合時間、ロータの回転速度、混練ミキサから排出した時の未加硫ゴムの温度などが例示される。混合条件は、加硫工程前に架橋反応が本格的に生じない範囲で、ゴム成分が十分に可塑化し、それぞれの配合成分Cを均一に分散させる条件に設定されている。加硫条件としては、加硫温度T〔℃〕、加硫圧力P〔MPa〕、加硫時間t〔min〕などが例示される。加硫条件は、配合データD1で形成される未加硫ゴムに対して加硫過不足がない適切な条件に設定されている。製造条件データD2は、混合条件と加硫条件との両方を有するものに限定されず、例えば、加硫条件のみを有していてもよい。製造条件データD2が不足している(欠損している)場合は、予め設定されている基準条件(データ)を用いることもできる。
【0021】
ゴム物性データD3は、製造条件データD2に基づいて配合データD1で形成される未加硫ゴムを加硫して製造された加硫ゴムAを公知の種々の測定装置を用いて測定、取得されている。ゴム物性データD3の種類としては、tanδ(損失係数)、硬度、300%モジュラス、破断強度、破断伸び、比重などが例示される。ゴム物性データD3は、加硫ゴムAごとに種類が異なっていてもよく、また、加硫ゴムAごとに種類数が異なっていてもよい。
【0022】
学習データ10は、配合データD1や製造条件データD2を異ならせて製造された多数種類の加硫ゴムAを用意して、測定装置により所望する複数種類のゴム物性データD3を取得することにより作成してもよい。また、学習データ10は、ゴム部材、ゴム製品の製造業者が従来から蓄積している膨大な上記のデータD1、D2、D3を用いることができる。製造業者が蓄積しているデータとしては、実際のゴム部材、ゴム製品の製造過程や製造後の検査などの製造ラインでの測定値が例示される。また、そのデータとしては、研究開発での多数の実験、試験の結果やコンピュータシミュレーション結果などのラボデータが例示される。
【0023】
図3に例示する配合データセット20は、演算装置2aにより準備工程S100が実行されることで作成されている。配合データセット20は、対象加硫ゴムB(B1、B2、・・・、Bm)の配合データD1bと、製造条件データD2bと、複数種類のゴム物性データD3bとを有している。対象加硫ゴムBの配合データD1bは、選択工程S200での選択の候補になっている。対象加硫ゴムBは、実際に製造されたものではなく、配合データセット20の各データD1b、D2b、D3bは、準備工程S100の実行により得られる擬似的なデータである。
【0024】
対象加硫ゴムBの種類数(1~m)は、特に限定されるものではないが、その種類数は、学習データ10の加硫ゴムAの種類数(1~n)に応じて設定されることが望ましい。加硫ゴムAの種類数が多いほど、対象加硫ゴムBの種類数を少なくし、加硫ゴムAの種類数が少ないほど、対象加硫ゴムBの種類数を多くするとよい。例えば、加硫ゴムAの種類数が400個の場合、対象加硫ゴムBの種類数は100個程度でよい。このように、対象加硫ゴムBの種類数を加硫ゴムAの種類数に応じて限定することで、準備工程S100でのデータ処理の負荷の軽減化には有利になる。加硫ゴムAと同様に、種類が異なる対象加硫ゴムBどうしでは、それぞれの配合成分Cの種類が異なっている、あるいは、同種類の配合成分Cのそれぞれの配合量が異なっている、もしくは、その両方が異なっている。
【0025】
この実施形態では準備工程S100と選択工程S200とを行うことで、複数種類のゴム物性データD3の目標値D3aを満足する目的の加硫ゴムRの配合データD1を把握する。まず最初に、ゴム配合の設計方法の準備工程S100について説明する。
【0026】
図4はゴム配合の設計方法の準備工程S100の一例を示す。まず、学習データ10を準備する(S110)。ついで、演算装置2aの補助記憶部5に記憶された所定のプログラムを実行することで、そのプログラムは、演算装置2aに各手順を実行させる(S120~S140)。最終的に、配合データセット20が作成されると終了となる。以下に、各ステップ(S110~S140)の内容を詳述する。
【0027】
学習データ10を準備するステップ(S110)では、演算装置2aの入力部6の操作により、補助記憶部5に記憶されている膨大なデータから学習データ10として用いるデータを選択して、学習データ10を作成する。学習データ10は、補助記憶部5に記憶されている膨大なデータの全てが使用されてもよいが、膨大なデータの中から所望するデータが選択されて、作成されてもよい。学習データ10としては、ゴム物性データD3に欠損が少ないデータが望ましい。また、学習データ10としては、加硫ゴムAごとのゴム物性データD3が異なるデータが望ましい。学習データ10の加硫ゴムAごとのゴム物性データD3が近似すると、学習データ10を用いて生成される配合データセット20でのゴム物性データD3bに偏りが生じ、所望する目標のゴム物性よってはそのゴム物性に適合する配合データD2bを得られない場合がある。学習データ10として、ゴム物性データD3が異なる加硫ゴムAのデータが多数集積することで、多種多様なゴム物性を網羅することが可能となる。
【0028】
候補を生成するステップ(S120)では、演算装置2aにより、学習データ10を用いた機械学習により構築された配合生成モデル30aを利用して、加硫ゴムAの配合データD1と異なる多数の候補(対象加硫ゴムBの配合データD1b)を生成するデータ処理が実行される。配合生成モデル30aは、学習データ10を用いた機械学習により構築され、学習データ10のそれぞれの加硫ゴムAの配合データD1と異なる配合データD1bを生成するコンピュータプログラムの一種である。配合生成モデル30aは、公知の種々の機械学習により構築される生成モデルを用いることができる。配合生成モデル30aとしては、変分オートエンコーダ(VAE)、敵対的生成ネットワーク(GAN)、および、エネルギーベースモデル(EBM)などの深層生成モデルが例示される。
【0029】
図5は、配合生成モデル30aを構築する手順の一例を示している。この配合生成モデル30aは、敵対的生成ネットワークの一種である条件付き敵対的生成ネットワーク(CGAN)を用いている。配合生成モデル30aは、生成部31および識別部32を有している。
【0030】
生成部31には、乱数ベクトルzと学習データ10のそれぞれの加硫ゴムAの製造条件データD2およびゴム物性データD3で構成されるラベル(制約条件)yとが入力される。ラベルyは条件付き敵対的生成ネットワークの制約条件となっている。この入力に対して、生成部31は、乱数ベクトルzとラベルyとの組み合わせに基づいて、学習データ10のそれぞれの加硫ゴムAの配合データD1で構成されるサンプルxに対して偽のサンプル(x*|y)を生成する。最終的に、生成部31は、偽のサンプル(x*|y)とラベルyとを組み合わせた偽のデータ(x*|y,y)を、乱数ベクトルzの発生回数分生成する。生成された偽のデータ(x*|y,y)は識別部32に出力される。
【0031】
識別部32には、生成部31が出力した偽のデータ(x*|y,y)とサンプルxおよびラベルyを組み合わせた本物のデータ(x、y)とが交互にミニバッチ入力される。識別部32は、入力されたデータのサンプル(xまたはx*|y)が本物で、かつ、ラベルyと適合している確信の度合いを示す確率値に基づいて真偽を判定する。この真偽の判定結果に基づいた誤差逆伝播により生成部31と識別部32が調教される(重みが変更される)。
【0032】
配合生成モデル30aの構築では、生成部31の偽のデータ(x*|y,y)生成のプロセスと、識別部32の判定のプロセスとが繰り返し行われる。各プロセスの繰り返しにより、生成部31は、生成した偽のデータ(x*|y,y)が識別部32によって本物のデータ(x,y)であるとより高い確率で判定される偽のデータ(x*|y,y)を生成できるように生成精度を向上させる。識別部32は、本物のデータ(x,y)により存在しそうな偽のデータ(x*|y,y)が入力されても、正しい判定をすることができるように判定精度を向上させる。このように、生成部31および識別部32が十分に調教されて配合生成モデル30aは構築される。
【0033】
生成部31に入力されるラベルyは、学習データ10のそれぞれの加硫ゴムAについての製造条件データD2およびゴム物性データD3に限定されるものではない。ラベルyは、製造条件データD2を統一の条件として、その統一された製造条件データD2と製造条件データD3の組み合わせで構成されてもよい。また、ラベルyは、学習データ10に存在する製造条件データD2とゴム物性データD3との全ての組み合わせとしてもよい。ラベルyは、学習データ10以外の制約条件を含めることもできる。制約条件は、任意に設定することができるが、配合成分Cの総種類数、配合成分Cの中のゴム成分の種類数などが例示できる。
【0034】
構築された配合生成モデル30aは、演算装置2aの補助記憶部5に記憶される。構築された配合生成モデル30aでは、学習データ10の配合データD1が取りうる範囲が標本空間となって配合データD1bの候補が、乱数ベクトルzの発生回数だけ生成される。ラベルyとして入力された学習データ10のそれぞれの加硫ゴムAについての製造条件データD2およびゴム物性データD3の数値に基づいて、生成部31は、調教により設定されている重みに従って配合データD1bの候補を生成する。識別部32には、生成部31が生成した配合データD1bの候補と所定の製造条件データD2およびゴム物性データD3との組み合わせたデータが入力される。識別部32は、生成部31が生成したその組み合わせのデータが本物である確率が高いものを配合データD1bの候補として出力する。生成されたそれぞれの配合データD1bの候補は、学習データ10に存在する配合データD1とは異なっている。
【0035】
生成された配合データD1bの候補は、配合成分Cの中のゴム成分の配合量が100phr(100質量部)に補正され、その他のそれぞれの配合成分Cの配合量がその補正に合わせて修正されることが望ましい。このように、配合データD1bを補正することで、実験室や製造ラインで使用される配合表の表記と比較可能になり、それぞれの配合成分Cの配合量を把握し易くなる。
【0036】
ゴム物性データD3bを予測するステップ(S130)では、演算装置2aにより、学習データ10を用いた機械学習により構築された物性予測モデル40を利用して、対象加硫ゴムBの複数種類のゴム物性データD3bを予測するデータ処理が実行される。物性予測モデル40は、学習データ10を用いた機械学習により構築され、対象加硫ゴムBの複数種類のゴム物性データD3bを予測するコンピュータプログラムの一種である。物性予測モデル40は、公知の種々の機械学習により構築された予測モデルを用いることができる。機械学習の手法としては、ニューラルネットワークを用いたディープラーニングが例示される。
【0037】
図6は、物性予測モデル40を構築する手順の一例を示す。物性予測モデル40は、ニューラルネットワークの一種であるディープニューラルネットワーク(DNN)を用いる。ディープニューラルネットワークは、入力層41と複数の中間層(隠れ層)42と出力層43との三種類のノード層からなる。各層のそれぞれのノードは、互いに結合重みが与えられたエッジ44により接続されている。
【0038】
入力層41には、サンプルxとして、学習データ10のそれぞれの加硫ゴムAの配合データD1と製造条件データD2とが入力される。入力層41の各ノードには、配合データD1に示されるそれぞれの配合成分Cおよびその配合量と、製造条件データD2に示される製造条件(混合条件、加硫条件)およびその数値と、が入力される。したがって、入力層41のノード数は、サンプルxの合計数であり、学習データ10に存在する配合成分Cの種類数と製造条件の種類数とを合計した値になる。なお、入力層41のノードの一つに定数が入力されてもよい。定数としては、特定の配合成分Cや製造条件をサンプルxとして使用しないという意味の「0」が例示される。
【0039】
中間層42は、入力層41の各ノードの値とエッジの結合重みとが掛け合わされた値が入力される。中間層42の層の数、一層の中間層42におけるノード数は任意に選択することができる。
【0040】
出力層43は、入力層41から複数の中間層42を経て出力層43までの順伝播により得られた予測値を出力する。出力層43のノード数は、サンプルyの合計数であり、学習データ10に存在するゴム物性データD3の種類数になる。出力された予測値と、学習データ10のそれぞれの加硫ゴムAのゴム物性データD3とを比較して、両者の誤差を小さくするように各エッジ44の結合重みを誤差逆伝播法により変更する。
【0041】
物性予測モデル40の構築では、学習データ10からランダムに所定数のサンプルxを抽出し、その所定数のサンプルxをまとめて入力層41に入力して、各エッジ44の結合重みを変更するミニバッチ学習が、異なる所定数のサンプルxの組み合わせに対して繰り返し行われる。これにより、予測精度を向上させた物性予測モデル40を構築する。
【0042】
構築された物性予測モデル40は、演算装置2aの補助記憶部5に記憶される。構築された物性予測モデル40には、その入力層41に配合生成モデル30aにより生成されたそれぞれの対象加硫ゴムBの配合データD1bと所定の製造条件データD2bとが入力される。所定の製造条件データD2bは、配合生成モデル30により生成された候補となる配合データD1bに組み合わせられた製造条件データD2、または、学習データ10に存在する製造条件データD2のいずれかを用いることができる。
【0043】
ゴム物性データD3bは、配合データD1bおよび製造条件データD2bの要因が複雑に影響し合って変化する。構築された物性予測モデル40では、出力される予測値がゴム物性データD3bであり、そのゴム物性データD3bは、入力される配合データD1bおよび製造条件データD2bとの関係が紐付けされていて、ゴム物性データD3bに対する配合データD1bおよび製造条件データD2bの影響具合が分析、評価された状態になっている。それ故、構築された物性予測モデル40から出力されるゴム物性データD3bの予測値は、配合データD1bおよび製造データD2bの組み合わせ、配合データD1bでのそれぞれの配合成分Cの組み合わせ、それぞれの配合成分Cの配合量の違いなどによるゴム物性データD3bの相違程度のそれぞれの場合における特徴を高精度に表している。
【0044】
配合データセット20を作成するステップ(S140)では、演算装置2aにより、配合生成モデル30aで生成された候補(配合データD1b)と、物性予測モデル40で予測されたゴム物性データD3bとを用いて配合データセット20を作成するデータ処理が実行される。配合データセット20の製造条件データD2bは、物性予測モデル40でゴム物性データD3bを予測した際に用いたものとする。配合データセット20は、生成した候補(配合データD1b)に基づいて形成されて所定の製造条件データD2bに基づいて製造されるそれぞれの対象加硫ゴムBごとに、各データD1b、D2b、D3bを集積させて作成される。
【0045】
以上の各ステップ(S110~S140)を行って作成された配合データセット20は、演算装置2aの補助記憶部5に記憶される。配合データセット20は、選択工程S200の実施とは関係なく任意の所望のタイミングで作成することができる。この配合データセット20は、学習データ10への加硫ゴムAの各データD1、D2、D3の追加など、既存するデータの変更がない限り、作成し直す必要がない。即ち、学習データ10の変更がなければ、一度作成した配合データセット20は何回でもそのまま使用することが可能である。
【0046】
次に、ゴム配合の設計方法の選択工程S200について説明する。
【0047】
図7は選択工程(S200)での手順の一例を示す。まず、演算装置2bの入力部6を用いて目標値D3aを入力する。ついで、演算装置2bの補助記憶部5に記憶された所定のプログラムを実行することで、そのプログラムは、演算装置2bに各手順を実行させる(S220~S240)。最終的に、目標とするゴム物性を有する対象加硫ゴムBの配合データD1が出力されると終了となる。以下に、(S210~S240)の各ステップの内容を詳述する。
【0048】
図8に例示する目標値D3aを入力するステップ(S210)では、演算装置2bの入力部6を用いて、所望の複数種類のゴム物性データD3に対して設定されたそれぞれの目標値D3aを入力する。
図8に例示するように、ゴム物性データD3の目標値D3aは、所望の複数種類のゴム物性データD3に対して設定される。図中では、所望の複数種類のゴム物性データD3として、60℃でのtanδ(初期歪10%、振幅±2%、周波数20Hz)、0℃での硬度Hs、300%モジュラス、比重の四種類が設定されているが、これに限定されず所望のゴム物性データD3が採用される。
【0049】
配合データセット20を読み込むステップ(S220)では、演算装置2bにより、演算装置2aの補助記憶部5に記憶されている配合データセット20を読み込むデータ処理が実行される。配合データセット20は、演算装置2aからダウンロードされて、演算装置2bの補助記憶部5に記憶されてもよいが、演算装置2aの補助記憶部5に記憶された状態で演算装置2bの主記憶部4に読み込まれてもよい。
【0050】
候補の中から配合データD1を選択するステップ(S230)では、演算装置2bにより、入力された目標値D3aと読み込んだ配合データセット20とを比較して、配合データセット20に存在するゴム物性データD3bが目標値D3aと近似する対象加硫ゴムBの配合データD1を選択するデータ処理が実行される。具体的に、演算装置2bは、配合データセット20に存在するそれぞれのゴム物性データD3bを、それぞれに設定された目標値D3aと比較して、近似していると設定されている許容範囲か否かを判定している。許容範囲は任意に設定することができるが、例えば、目標値D3aに対して±5%、あるいは、±2%程度の範囲である。演算装置2bは、配合データセット20に存在するすべての候補の配合データD1bの中からそれぞれのゴム物性データD3bが目標値D3aに近似していると判定した配合データD1bを、目的の加硫ゴムRの配合データD1として選択する。選択される配合データD1bは一つに限らず、複数の場合もある。
【0051】
配合データD1bを出力するステップ(S240)では、演算装置2bにより、演算装置2bの出力部7に選択した配合データD1bが出力されるデータ処理を実行する。出力部7により出力された配合データD1bにより、目標とするゴム物性に適合したゴム配合を把握できる。
【0052】
上述したように本実施形態では、準備工程S100と選択工程S200とを同時期に一緒に行うのではなく、それぞれを独立した個別の所望のタイミングで行う。予め準備工程S100により配合データセット20を準備しておくことで、目標とするゴム物性(目標値D3a)を有する目的の加硫ゴムRのゴム配合を把握するには、選択工程S200のみを行えばよく、データ処理の負荷を分散させることができる。
【0053】
新たなゴム配合を設計するために製造条件や目標値D3aを変更しても、学習データ10を変更しなければ、作成してある配合データセット20をそのまま使用すればよく、最初から配合データセット20を作成する必要がない。これにより、都度、配合データセット20を作成する手法に比して、データ処理の負荷軽減には有利になる。配合データセット20は学習データ10の更新とともに更新することもできる。配合データセット20が学習データ10を更新するタイミングで新たに作成されることで、選択工程S200では、最新の学習データ10が反映された配合データセット20を使用することができる。しかも、学習データ10および配合データセット20の更新は、選択工程S200とは独立して任意の所望のタイミングで行うことができるので、データ処理の負荷が一時的に集中することを回避できる。このように、本実施形態によれば、目標とするゴム物性(目標値D3b)を有する目的の加硫ゴムRのゴム配合の把握に要するデータ処理の負荷を軽減するには非常に有利になる。
【0054】
また、配合データセット20のゴム物性データD3bは、配合成分Cの種類やそれぞれの配合量に加えて、製造条件データD2bがゴム物性データD3bに及ぼす影響が考慮されている。つまり、それぞれのゴム物性データD3bが目標値D3aに高い精度で近似する対象加硫ゴムBの配合データD1bを把握する過程で、製造条件データD2bも簡便に把握することができる。しかも、把握できる配合データD1bは学習データ10に存在していない新たなものなので、既存の配合データD1の隙間を埋めるように網羅する配合データD1bが得られることになる。これに伴い、目標とするゴム物性(目標値D3a)を有する加硫ゴムRの開発作業や改良作業の効率化に大きく寄与する。
【0055】
それぞれのゴム物性データD3bが目標値D3aに近似していると判定されて選択される対象加硫ゴムBの配合データD1bが複数存在する場合がある。その場合、それぞれの配合データD1bに所定の規則に基づいた順位を付け、その順位に従った順序で出力部7により出力するとよい。
【0056】
例えば、選択されるそれぞれの配合データD1bを、ゴム物性データD3bの種類毎に、それぞれの配合データD1bで形成される対象加硫ゴムBのゴム物性データD3bが目標値D3aに近似する順にして、出力部7により出力する。このように、順位付けすることで、それぞれのゴム物性データD3bの種類毎の目標値D3aとの近似具合を指標として、それぞれの配合データD1bの優位性を把握し易くなる。
【0057】
また、選択されるそれぞれの配合データD1bを、ゴム物性データD3bの種類に対して設定されている優先度の重み付けに基づいて決定されるそれぞれの配合データD1bで形成される対象加硫ゴムBのそれぞれのゴム物性データD3bの目標値D3aに対する近似の評価が高い順にして、出力部7により出力する。このように、順位付けすることで、それぞれのゴム物性データD3bの種類間での優先度の重み付けを考慮したそれぞれの配合データD1bの優位性を把握し易くなる。
【0058】
選択されるそれぞれの配合データD1bを、それぞれの配合データD1bに基づいて算出される単位重量当たりの材料コストの低い順に、出力部7により出力してもよい。このように、順位付けすることで、それぞれの配合データD1bの材料コストの優位性を把握し易くなる。
【0059】
選択工程S200のステップ(S230)では、許容範囲を用いたが、評価関数を利用した評価により目標値D3aに近似するゴム物性データD3bを選択してもよい。それぞれのゴム物性データD3bと目標値D3aとを比較して近似程度を評価する評価関数としては、平均絶対誤差、平均二乗誤差、平均絶対誤差率、および、平均二乗誤差率などの公知の種々の評価関数を用いることができる。目標値D3aに近似するゴム物性データD3bの評価の指標として評価関数を用いることで、配合データD1bの差異によるゴム物性データD3bへの影響の度合いをより詳細に把握することができる。
【0060】
また、ゴム物性データD3bに加えて、配合データD1bに関する製造条件や制約条件も評価対象にしてもよい。制約条件としては、配合成分Cの総種類数とゴム成分の種類数などが例示される。また、制約条件としては、配合データD1bの材料コストも例示される。ゴム配合の設計には、多数種類のゴム物性データD3bの目標値D3a以外にも、目的とする特有の製造条件や制約条件があり、配合データセット20には、それらの条件を満たさない候補(配合データD1b)が多数存在する。そこで、ゴム物性データD3bに加えて、目的とする特有の製造条件や制約条件の評価も行うことで、目的により適合する配合データD1bを把握することができる。
【0061】
次に、ゴム配合の設計システム1および設計方法の実施形態の変形例1について説明する。
【0062】
図9は変形例1での準備工程S100の手順の一例を示す。変形例1では、上述した
図4の準備工程S100に対して別のステップS150が追加されている。即ち、変形例1の準備工程S100の手順では、配合データセット20の作成(S140)の後に、その作成された配合データセット20に対して学習データ10が統合されている。詳述すると、演算装置2aにより、学習データ10の加硫ゴムA(ゴム種A)、配合データD1、製造条件データD2、ゴム物性データD3をそれぞれ、上述した配合データセット20の対象加硫ゴムB、データD1b、D2b、D3bと見做して、学習データ10を配合データセット20の一部として統合するデータ処理が実行される(S150)。したがって、変形例1では、選択工程S200においては、演算装置2bにより、学習データ10が統合された配合データセット20を用いて、その配合データセット20に存在するゴム物性データD3bが目標値D3aと近似する対象加硫ゴムBの配合データD1bを選択するデータ処理が実行される。
【0063】
このように、配合データセット20に学習データ10を統合することで、統合された配合データセット20は、より多数の異なる配合データD1bが網羅されて集積したものになる。それ故、学習データ10が統合された配合データセット20には、所望するゴム物性(目標値D3a)を有する対象加硫ゴムBの配合データD1bを把握するには有利になる。
【0064】
学習データ10として、実験室や試作レベルのデータが膨大に蓄積されている場合は、所望する目標とするゴム物性(目標値D3a)を有する加硫ゴムRの配合が学習データ10に埋もれている可能性もある。このような場合は、変形例1を適用して配合データセット20に学習データ10を統合することにより、膨大な量の学習データ10に埋もれていた既存の配合データD1を再活用できるので非常に有益である。
【0065】
次に、ゴム配合の設計システム1および設計方法の実施形態の変形例2について説明する。
【0066】
図10は変形例2での選択工程S200の手順の一例を示す。変形例2では、上述した
図7の選択工程S200に対して別の各ステップ(S250~S290)が追加されている。即ち、変形例2の選択工程S200の手順では、入力された各データ(目標値D3aを含む)を制約条件データDyとして
図14に例示する指定データセット50を生成し(S250~S280)、その指定データセット50を配合データセット20に統合する(S290)。準備工程S100の手順は上述した
図4で説明したとおりである。したがって、変形例2では、選択工程S200においては、演算装置2bにより、指定データセット50の指定加硫ゴムD(ゴム種D)、配合データD1d、製造条件データD2d、ゴム物性データD3dをそれぞれ、上述した配合データセット20の対象加硫ゴムB、データD1b、D2b、D3bと見做して、指定データセット50を配合データセット20の一部として統合するデータ処理が実行される(S290)。そして、指定データセット50が統合された配合データセット20を用いて、その配合データセット20に存在する物性データD3bが目標値D3aと近似する対象加硫ゴムBの配合データD1bを選択するデータ処理が実行される。以下に、変形例2で追加された各ステップ(S250~S290)の内容を詳述する。
【0067】
追加のデータを入力するステップ(S250)では、演算装置2bの入力部6を用いて配合指定データD1aと製造条件指定データD2aと追加条件データD4とを入力する。このステップは必須ではなく、ステップ(S210)で目標値D3aが入力されていれば、省略してもよい。ただし、配合指定データD1a、製造条件指定データD2aおよび追加条件データD4を入力することで、後述する次のステップ(S260)でより精度の高い指定候補(配合データD2d)を生成可能になるため、それらのデータを入力することが望ましい。各ステップ(S210、S250)で入力された各データは、制約条件データDyであり、ステップ(S260)で用いられる配合生成モデル30にラベルyとして入力される。
【0068】
図11に例示する配合指定データD1aは、対象加硫ゴムBのそれぞれの配合成分C、それぞれの配合成分Cの配合量、および、その配合量に対する変動量(指定範囲)が設定されている。製造条件指定データD2aは、混合条件および加硫条件などのそれぞれの製造条件、それぞれの製造条件の数値、および、その数値に対する変動量(指定範囲)が設定されている。
【0069】
配合指定データD1aで指定される配合成分Cの種類数は特に限定されない。配合指定データD1aでの配合量および変動量は任意に設定可能である。配合指定データD1aでの配合成分Cの中のゴム成分の配合量は合計が100phrとなっており、図中のC1、C2がゴム成分を示している。例えば、対象加硫ゴムBでのゴム成分である配合成分C1の配合量は、30phr以上、70phr以下に指定されている。また、対象加硫ゴムBでの配合成分C7の配合量はゼロに指定されている。このように、配合指定データD1aによって、対象加硫ゴムBのそれぞれの配合成分Cの配合量が指定されることで、目的に応じて、所望の配合量だけを変化させる、あるいは、所望の配合成分Cの配合量をゼロにしてその配合成分Cを除くことができる。
【0070】
製造条件指定データD2aで指定される製造条件は、
図11に例示した項目に限らず、その他の項目を加えることができる。製造条件指定データD2aでの数値および変動量は任意に設定可能である。それぞれの条件の数値や変動量は指定されない場合もあり、その場合には、予め設定された基準の数値が設定されてもよい。基準の数値としては、既存の製造ラインでの標準的な数値を用いることができる。このように、製造条件指定データD2aによって、目的に応じて、所望の条件だけを変化させる、あるいは、条件を指定しないことで既存の製造ラインでの条件に限定することができる。
【0071】
図12に例示する追加条件データD4は、ステップ(S260)で生成される指定候補(配合データD1d)が満たす追加の条件を示している。追加の条件とその数値は、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に設定できる。
図12に例示した配合成分Cの総種類数とゴム成分の種類数に限らず、配合指定データD1aの材料コストなどを追加の条件にすることもできる。
【0072】
指定候補を生成するステップ(S260)では、演算装置2bにより、学習データ10を用いた機械学習により構築された配合生成モデル30bを利用して、加硫ゴムAの配合データD1と異なる多数の指定候補(指定加硫ゴムDの配合データD1d)を生成するデータ処理が実行される。配合生成モデル30bを構築する手順は、
図6に例示した準備工程での配合生成モデル30aを構築する手順と同様である。
【0073】
図13に例示する配合生成モデル30bを構築する手順では、生成部31に入力されるサンプルyと乱数ベクトルzが異なっている。配合生成モデル30bの生成部31に入力されるサンプルyは、演算装置2bに入力された制約条件データDy(目標値D3a、配合指定データD1a、製造条件指定データD2a、追加条件データD4)を用いる。乱数ベクトルzの発生回数は、準備工程S100で作成された配合データセット20の候補数以下の回数であればよいが、1000回未満が望ましく、100回以上500回以下がより望ましい。乱数ベクトルzの発生回数が少ないほどデータ処理の負荷軽減には有利になる。
【0074】
構築された配合生成モデル30bは、演算装置2bの補助記憶部5に記憶される。演算装置2bは、制約条件データDyに基づいて、構築された配合生成モデル30bを用いて、指定データセット50の配合データD1dの指定候補を、乱数ベクトルzの発生回数だけ生成する。生成されるそれぞれの配合データD1dの指定候補は、制約条件データDyの制約条件を満たし、かつ、学習データ10に存在する配合データD1とは異なっている。
【0075】
配合生成モデル30bの構築には、演算装置2aによる準備工程S100の過程で構築された配合生成モデル30aを利用することができる。配合生成モデル30aと配合生成モデル30bとは、ラベルyと乱数ベクトルzが異なるのみであり、同一の学習データ10を用いている。それ故、配合生成モデル30bの構築に、配合生成モデル30aを利用することで、最初からモデルを生成するよりもデータ処理の負荷軽減には有利になる。
【0076】
ゴム物性データD3dを予測するステップ(S270)では、演算装置2bにより、演算装置2aによる準備工程S100で構築された物性予測モデル40を利用して、指定加硫ゴムDの複数種類のゴム物性データD3dを予測するデータ処理が実行される。演算装置2bは、物性予測モデル40の入力層41に配合生成モデル30bにより生成されたそれぞれの指定加硫ゴムDの配合データD1dと制約条件指定データD2aとをサンプルxとして入力する。
【0077】
図14に例示する指定データセット50を作成するステップ(S280)では、演算装置2bにより、配合生成モデル30bで生成された指定候補(配合データD1d)と、物性予測モデル40で予測されたゴム物性データD3dとを用いて指定データセット50を作成するデータ処理が実行される。指定データセット50の製造条件データD2dは、入力された製造条件指定データD2aとする。指定データセット50は、生成した指定候補(配合データD1d)に基づいて形成されて指定された製造条件指定データD2aに基づいて製造されるそれぞれの指定加硫ゴムDごとに、各データD1d、D2d、D3dを集積させて作成される。指定データセット50のデータ構造は、学習データ10や配合データセット20と同様の構造であり、配合データD1dが学習データ10および配合データセット20には存在しないこととゴム種(D)の種類数(1~l)だけが異なる。したがって、指定データセット50の詳細な説明は省略する。
【0078】
各データセットを統合するステップ(S290)では、演算装置2bにより、指定データセット50と配合データセット20とを統合するデータ処理が実行される。具体的に、演算装置2bは、指定データセット50の指定加硫ゴムD(ゴム種D)、配合データD1d、製造条件データD2d、ゴム物性データD3dをそれぞれ、上述した配合データセット20の対象加硫ゴムB、データD1b、D2b、D3bと見做して、指定データセット50を配合データセット20の一部として統合する。
【0079】
配合データセット20には、変形例1のように学習データ10が統合されていてもよい。学習データ10および指定データセット50が統合された配合データセット20は、対象加硫ゴムB(統合前の対象加硫ゴムB+加硫ゴムA+指定加硫ゴムD)の数が多くなり、目的の加硫ゴムRのゴム配合に一段と適合し易くなっている。統合前の対象加硫ゴムBの数(m)は加硫ゴムAの数(n)よりも少なく、指定加硫ゴムDの数(l)は、統合前の対象加硫ゴムBの数と加硫ゴムAの数とを合計した数(n+m)よりも少ない。このように、データ処理の実行により作成されるデータの数をより少なくすることでデータ処理の負荷軽減には有利になる。
【0080】
指定データセット50が統合された配合データセット20を用いて、演算装置2bにより、各ステップ(S230)、(S240)が行われて、出力部7に選択された配合データD1bが出力されると、終了する。出力部7に出力された配合データD1bにより、目標とするゴム物性(目標値D3a)を有するゴム配合を把握できる。
【0081】
制約条件データDyとして、目標値D3a、配合指定データD1a、製造条件指定データD2a、および、追加条件データD4が入力された場合、ステップ(S230)では、評価関数を利用した評価により、候補の中から配合データD1bを選択するとよい。具体的に、演算装置2bは、対象加硫ゴムBの各データD1b、D2b、D3bのそれぞれの評価関数(fi(x)、gj(x)、hk(x))を用いた下記の数式(1)を用いた評価値(y)が基準よりも高い対象加硫ゴムBの配合データD1bを選択する。評価関数としては、平均絶対誤差、平均二乗誤差、平均絶対誤差率、および、平均二乗誤差率などの公知の種々の評価関数を用いることができる。
【0082】
下記の数式(1)では、f
i(x)が配合データD1bのそれぞれの配合成分Cの配合量の評価関数、追加条件データD4の配合成分Cの総種類数やゴム成分の種類数の評価関数を示し、g
j(x)が製造条件データD2bのそれぞれの条件の評価関数を示し、h
k(x)がゴム物性データD3bのそれぞれの物性値の評価関数を示す。なお、下記の数式(1)には、追加条件データD4の追加条件の評価関数を別途、追加してもよい。下記の数式(1)のa1、a2、a3は、重み付けであり、任意に設定することができる。例えば、各重み付けを均等に設定してもよいし、各重み付けを異ならせてもよい。また、下記の数式(1)のn、m、lは、各データにおける制約条件の種類数を示している。例えば、目標値D3aが
図12に例示する四種類の場合、l=4となる。つまり、下記の数式(1)は、制約条件データDyに存在する多数種類の制約条件をゴム配合、ゴム製造、およびゴム物性に分類し、分類したそれぞれの制約条件ごとの評価関数を総合することで、評価値(y)が制約条件データDyによる制約を満足する度合いの高低を示している。
【0083】
【0084】
上記の数式(1)の評価値(y)が高い対象加硫ゴムBの各データD1b、D2b、D3bはそれぞれの制約条件による制約を満たしており、制約条件データDyによる制約を満足する度合いが高い。評価値(y)が低い対象加硫ゴムBの各データD1b、D2b、D3bはそれぞれの制約条件による制約を満たしておらず、制約条件データDyによる制約を満足する度合いが低い。評価値(y)の基準は、任意に設定することができるが、その基準は例えば対象加硫ゴムBの各データD1b、D2b、D3bが、制約条件データDyによる制約を80%以上満足するという設定にし、より望ましくは対象加硫ゴムBの各データD1b、D2b、D3bが、制約条件データDyによる制約の全てを満足するという設定にする。
【0085】
このように、それぞれの評価関数を用いて制約条件データDyによる制約を満足する度合いを総合的に判断することで、所望するゴム物性(目標値D3a)に加えて、配合指定データD1a、製造条件指定データD2a、および、追加条件データD4による制約を満足する対象加硫ゴムBの配合データD1bを把握するには有利になる。また、選択される対象加硫ゴムBの配合データD1bが複数存在する場合、それぞれの配合データD1bにそれぞれの評価関数に基づいた順位を付け、その順位に従った順序で出力部7により出力するとよい。例えば、選択される対象加硫ゴムBのゴム物性データD3bを重視する場合、選択されるそれぞれの配合データD1bを、ゴム物性データD3bの評価関数を用いた評価が高い順にして、出力部7により出力する。このように、順位付けすることで、重視する制約条件データDyごとの制約を満足する度合いを指標として、それぞれの配合データD1bの優位性を把握し易くなる。
【0086】
上述したように変形例2では、配合データセット20の候補に、所望する各データ(目標値D3a、配合指定データD1a、製造条件指定データD2a、および、追加条件データD4)による制約を満足する指定候補が加わる。指定候補は、それぞれのゴム物性データD3dが目標値D3aに高い確率で近似する対象加硫ゴムBの配合データD1bの候補である。つまり、汎用性が高い配合データセット20に、目的に応じた特有の指定候補が拡充されることにより、目標とするゴム物性(目標値D3a)を有する対象加硫ゴムBのゴム配合を精度よく簡便に把握することができる。
【0087】
また、変形例2では、予め作成していた配合データセット20に多数の候補が存在することにより、指定候補の生成数を少なくしても、それらの多数の候補が指定候補の数の少なさを補うことで精度を落とさずに所望するゴム物性を有する加硫ゴムのゴム配合を把握することが可能になる。つまり、配合生成モデル30bでの乱数ベクトルzの発生回数を配合データセット20の候補数以下の少ない回数に限定して、指定候補の作成に要するデータ処理の負荷を軽減できる。このように、予め作成していた配合データセット20を利用することで、効率化を図ることができる。
【0088】
加えて、変形例2では、準備工程S100の過程で構築された配合生成モデル30aや物性予測モデル40を利用することもできるため、モデルの構築に要するデータ処理の負荷を軽減できる。したがって、予測の高精度化と計算資源の低減化という相反する二つの目的を同時に図ることができる。
【0089】
データ処理の負荷軽減についての具体的な効果は以下のとおりである。
図3に例示した学習データ10のデータ(即ち、データD1、D2、および、D3の組)が約10万件の条件下で、所定のスペックの演算装置2を使用して
図4に例示した準備工程S100を実施して1万件の配合データ20を生成するために要した時間を基準値とすると、同じ演算装置2を使用して
図7に例示した選択工程S200を実施し、配合データセット20(1万件)に存在するゴム物性データD3bが目標値D3aと近似する対象加硫ゴムBの配合データD1bの選択に要する時間は基準値に対して極僅かである。また、同じ演算装置2を使用して変形例2を実施することにより選択工程S200にて指定データセット50を200件生成し、準備工程S100で作成されている1万件の配合データ20と統合して合計1万200件の配合データセット20を作成した場合は、この配合データセット20の生成に要した時間は基準値の2~3%であった。それ故、本発明によれば、目標とするゴム物性(目標値D3a)を有する加硫ゴムBのゴム配合を把握するためのデータ処理の負荷が分散され、所望のゴム配合を精度よく簡便に把握するには有利であることが分かる。
【0090】
次に、ゴム配合の設計システム1および設計方法の実施形態の変形例3について説明する。
【0091】
図15は変形例3での選択工程S200の手順の一部の一例を示す。変形例3では、上述した
図10の選択工程S200に対して各ステップ(S310~S360)が追加されている。変形例3の選択工程S200の手順では、追加された各ステップ(S310~S360)を繰り返して、所望するゴム物性(目標値D3a)を有する加硫ゴムのゴム配合の最適解になり得る探索用候補(探索用加硫ゴムFの配合データD1f)を探索する。準備工程S100の手順は上述した
図4で説明したとおりである。したがって、変形例3では、選択工程S200においては、演算装置2bにより、データセット(ループ処理の1回目:配合データセット20、ループ処理の2回目以降:探索用配合データセット70)から目標値D3aへの関連度が基準よりも高い加硫ゴムE(Ea、Eb)を選択し(S310)、選択した加硫ゴムEの各データD1e、D2e、D3eを探索用学習データ60として、探索用配合データセット70を作成し(S320~S350)、作成した探索用配合データセット70に最適な探索用候補(配合データD1f)が存在するか否かを判定する(S360)データ処理が実行される。そして、演算装置2bにより、最適な探索用候補が見つかるまで、各ステップ(S310~S360)が繰り返されて、その都度、探索用学習データ60と探索用配合データセット70とが更新される。最終的に、演算装置2bにより、最適な探索用候補の中から所望するゴム物性(目標値D3a)を有する加硫ゴムのゴム配合の最適解が選択されて、その最適解を出力するデータ処理が実行される(S230、S240)。以下に、変形例3で追加された各ステップ(S310~S360)の内容を詳述する。
【0092】
加硫ゴムEを選択するステップ(S310)では、演算装置2bにより、データセット(配合データセット20または探索用配合データセット70)から目標値D3aに対する関連度が基準よりも高いものを加硫ゴムE(Ea、Eb)として選択するデータ処理が実行される。このステップ(S310)はループ処理の内部のステップであり、1回目と2回目以降では用いるデータセットが異なり、1回目は上述の配合データセット20を用いて、2回目以降は後述する探索用配合データセット70を用いる。加硫ゴムEaは、配合データセット20から選択される。つまり、加硫ゴムEaの各データD1e、D2e、D3eは、加硫ゴムAの各データD1a、D2a、D3a、対象加硫ゴムBの各データD1b、D2b、D3b、指定加硫ゴムDの各データD1d、D2d、D3dのいずれかである。加硫ゴムEbは、探索用配合データセット70から選択される。加硫ゴムEbの各データD1e、D2e、D3eは、新加硫ゴムFの各データD1f、D2f、D3fである。なお、このステップ(S310)で選択される加硫ゴムEの種類数(1~s)は、ループ処理が繰り返されるごとに異なる場合がある。
【0093】
関連度は、加硫ゴムEの各データD1e、D2e、D3eが所望するゴム物性(目標値D3a)を有する加硫ゴムのゴム配合の探索に関連する度合いを示している。関連度が高い加硫ゴムEのゴム物性データD3eは目標値D3aとの一致性が高く、その加硫ゴムEの配合データD1eおよび製造条件データD2eが探索に関連性が高いデータになる。関連度が低い加硫ゴムEのゴム物性データD3eは目標値D3aとの一致性が低く、その加硫ゴムEの配合データD1eおよび製造条件データD2eが探索に関連性が低いデータになる。関連度の指標としては、平均絶対誤差、平均二乗誤差、平均絶対誤差率、および、平均二乗誤差率などの公知の種々の評価関数を用いることができる。つまり、加硫ゴムEのゴム物性データD3eの各データに対する評価関数を用いた評価で、評価が高いと判断されたデータの数により関連度の高低を判断できる。
【0094】
関連度の基準は、任意に設定することができるが、その基準は、所望するゴム物性(目標値D3a)を有する加硫ゴムのゴム配合の探索には明らかに不適切な(不要な)ものを除外できればよい。このような基準を設けることで、ゴム配合の探索に明らかに関連性が低いものを加硫ゴムEから排除することができる。基準は、明らかに不適切なものを加硫ゴムEから除外するに留めることで、加硫ゴムEの選択肢を広げることができる。
【0095】
図16に例示する探索用学習データ60を作成するステップ(S320)では、演算装置2bにより、上記のステップで選択された複数の加硫ゴムEの各データD1e、D2e、D3eを探索用学習データ60とするデータ処理が実行される。
図16は、一回目の探索用学習データ60を示している。一回目の探索用学習データ60には、配合データセット20から選択された加硫ゴムEaが用いられる。二回目以降の探索用学習データ60には、後述する探索用配合データデータセット70の中から選択された加硫ゴムEbが用いられる。探索用学習データ60のデータ構造は、学習データ10や配合データセット20と同様の構造であり、ゴム種とその各データが異なり、ゴム種の種類数が異なる。したがって、探索用学習データ60の詳細な説明は省略する。
【0096】
探索用候補を生成するステップ(S330)では、演算装置2bにより、作成した探索用学習データ60を用いて、配合生成モデル30cを構築して、探索用候補(配合データD1f)を生成するデータ処理が実行される。配合生成モデル30cを構築する手順は、上述した
図10のステップ(S260)での配合生成モデル30bと同様の手順を用いる。
【0097】
図17に例示する配合生成モデル30cを構築する手順では、学習データ10の代わりに探索用学習データ60を用いる点が異なっており、具体的に、サンプルxが異なる。配合生成モデル30cの識別部32に入力されるサンプルxは、探索用学習データ60の配合データD1eである。つまり、ループ処理の1回目のサンプルxは、配合データD1eとして配合データD1a、D1b、D1dのいずれかが用いられて、ループ処理の2回目以降のサンプルxは、配合データD1eとして配合データD1fが用いられる。
【0098】
構築された配合生成モデル30cは、演算装置2bの補助記憶部5に記憶される。演算装置2bは、入力された制約条件データDyに基づいて、構築された配合生成モデル30cを用いて、配合データD1fの探索用候補を、乱数ベクトルzの発生回数だけ生成する。生成されるそれぞれの探索用候補(配合データD1f)は、配合指定データD1a、制約条件データDyの制約条件を満たし、かつ、探索用学習データ60に存在する配合データD1eとは異なっている。
【0099】
ゴム物性データD3fを予測するステップ(S340)では、演算装置2bにより、演算装置2aによる準備工程S100で構築された物性予測モデル40を利用して、探索用候補(配合データD1f)により製造される探索用加硫ゴムFの複数種類のゴム物性データD3fを予測するデータ処理が実行される。演算装置2bは、物性予測モデル40の入力層41に配合生成モデル30cにより生成されたそれぞれの探索用加硫ゴムFの配合データD1fと制約条件指定データD2aとが入力される。
【0100】
図18に例示する探索用配合データセット70を作成するステップ(S350)では、演算装置2bにより、配合生成モデル30cで生成された探索用候補(配合データD1f)と、物性予測モデル40で予測されたゴム物性データD3fとを用いて探索用配合データセット70を作成するデータ処理が実行される。探索用配合データセット70の製造条件データD2fは、入力された製造条件指定データD2aとする。探索用配合データセット70は、生成した探索用候補(配合データD1f)に基づいて形成されて指定された製造条件指定データD2aに基づいて製造されるそれぞれの探索用加硫ゴムFごとに、各データD1f、D2f、D3fを集積させて作成される。探索用配合データセット70のデータ構造は、学習データ10や配合データセット20と同様の構造であり、配合データD1fが学習データ10および配合データセット20には存在しない点が異なる。したがって、探索用配合データセット70の詳細な説明は省略する。なお、探索用配合データセット70のゴム種(F)の種類数(1~t)は、特に限定されるものでは無いが、指定加硫ゴムDの数(l)以下とする。
【0101】
探索用候補が最適か否かを判定するステップ(S360)では、演算装置2bにより、入力された目標値D3aと作成した探索用配合データセット70とを比較して、探索用候補の適合度が基準よりも高いか否かを判定するデータ処理が実行される。適合度は、探索用配合データセット70に存在する複数種類のゴム物性データD3fのそれぞれが、それぞれの目標値D3aに適合する度合いを示す。適合度が高い探索用候補は、その探索用候補に基づいて製造される探索用加硫ゴムFの複数種類のゴム物性データD3fがそれぞれの目標値D3aに近似する。適合度が低い探索用候補は、その探索用候補に基づいて製造される探索用加硫ゴムFの複数種類のゴム物性データD3fのいくつかがそれぞれの目標値D3aから掛け離れている。適合度の指標としては、平均絶対誤差、平均二乗誤差、平均絶対誤差率、および、平均二乗誤差率などの公知の種々の評価関数を用いることができる。つまり、複数種類のゴム物性データD3fに対する評価関数を用いた評価で、評価が高い(目標値D3aと近似する)と判断されたゴム物性データD3fの数により適合度の高低を判断できる。
【0102】
適合度の基準は、任意に設定することができるが、その基準は例えば探索用候補の複数種類のゴム物性データD3fが、それぞれの目標値D3aに対して80%以上適合しているという設定にし、より望ましくは探索用候補の複数種類のゴム物性データD3fが、それぞれの目標値D3aに対して100%適合しているという設定にする。このように、適合度には、関連度に比してより厳しい基準を設けることで、所望するゴム物性(目標値D3a)を有する加硫ゴムRのゴム配合の最適解の探索には有利になる。
【0103】
ステップ(S360)で、探索用データセット70に適合度が基準以下の探索用候補しか存在せず、探索用候補が最適ではないと判定されると、ステップ(S310)に戻り、演算装置2bは、探索用候補が最適であると判定するまで、各ステップ(S310~S360)を繰り返す。探索用配合データセット70に適合度が基準よりも高い探索用候補(配合データD1f)が存在する場合、探索用配合データセット70には、その探索用候補が一つに限らず、複数、存在する場合もある。
【0104】
探索用候補が最適であると判定されると、演算装置2bにより、探索用配合データセット70、探索用加硫ゴムF、探索用候補(配合データD1f)を配合データセット20、対象加硫ゴムB、候補(配合データD1b)と見做して、上述した各ステップ(S230、S240)が行われる。演算装置2bの出力部7に出力された配合データD1b(配合データD1f)は、所望するゴム物性(目標値D3a)を有する加硫ゴムのゴム配合の最適解となっている。
【0105】
上述したように変形例3では、各ステップ(S310~S360)を繰り返すことにより、所望するゴム物性(目標値D3a)を有する加硫ゴムのゴム配合の最適解が得られる。この最適解の探索には、最適解の探索に関連性が低いものを除外して、最適解の探索に関連性が高いものを探索用学習データ60として用いて、探索を繰り返すごとに配合生成モデル30cが最適解に近い配合データD1fを生成可能に再構築され、最適解の配合データD1fの生成に特化していく。これにより、数多の配合成分Cの組み合わせ、および、それぞれの配合量の中から所望するゴム物性(目標値D3a)を有する加硫ゴムのゴム配合の最適解を簡便に把握することができる。
【0106】
既述した変形例3では、変形例1を応用して、探索用配合データセット70に探索用学習データ60を統合してもよい。探索用学習データ60には、最適解の探索に関連性が高い配合データD1eが存在する可能性がある。このように、探索用配合データセット70に探索用学習データ60を統合することで、統合された探索用配合データセット70は、より多数の異なる配合データD1fが網羅されて集積したものになる。
【0107】
次に、ゴム配合の設計システム1および設計方法の実施形態の変形例4について説明する。
【0108】
図19は変形例4での選択工程S200の手順の一部の一例を示す。変形例4では、上述した
図10の選択工程S200に対して各ステップ(S370、S380)が追加されている。変形例4の選択工程S200の手順では、追加された各ステップ(S370、S380)により、最適化アルゴリズムを用いて目的の加硫ゴムRのゴム配合の最適解を出力する。最適解は、上述した数式(1)の評価値(y)が最小となるものに加えて、評価値(y)が最小に近似するものを含んでもよい。準備工程S100の手順は上述した
図4で説明したとおりである。したがって、変形例4では、選択工程S200においては、演算装置2bにより、配合データセット20から制約条件データDyによる制約を満足する度合いが基準よりも高い加硫ゴムGを選択して(S370)、
図20に示す最適化用データセット80を作成するデータ処理が実行される。ついで、演算装置2bにより、作成した最適化用データセット80を、最適化アルゴリズムを用いて最適化した最適解候補(D1h)を基にして、
図21に示す最適解配合データセット90を作成する(S380)データ処理が実行される。最終的に、演算装置2bにより、目的の加硫ゴムRのゴム配合の最適解が選択されて、その最適解を出力するデータ処理が実行される(S230、S240)。以下に、変形例4で追加された各ステップ(S370、S380)の内容を詳述する。
【0109】
加硫ゴムGを選択するステップ(S370)では、演算装置2bにより、制約条件データDyの制約条件ごとの評価関数を用いた評価に基づいて、配合データセット20から制約条件データDyによる制約を満足する度合いが基準よりも高い加硫ゴムGを選択するデータ処理が実行される。評価関数を用いた評価には、上述した数式(1)を用いる。
【0110】
図20に例示する最適化用データセット80は、選択された加硫ゴムG(G1、G2、・・・、Gs)の配合データD1gと、製造条件データD2gと、複数種類のゴム物性データD3gとを有している。加硫ゴムGの各データD1g、D2g、D3gは配合データセット20に存在するデータである。最適化用合データセット80の加硫ゴムGの種類数(1~s)は特に限定されるものではない。
【0111】
最適化工程(S380)では、演算装置2bにより、最適化アルゴリズムを用いて、最適化用データセット80を最適化して、最適解となり得る最適解候補(D1h)を算出し、
図21に示す最適解配合データセット90を作成するデータ処理が実行される。最適化アルゴリズムは、遺伝的アルゴリズム(GA)、ベイズ最適化(BO)、最急降下法などの公知の種々の最適化アルゴリズムを用いることができる。
【0112】
遺伝的アルゴリズムを用いた一例では、最適化用データセット80を最初の現世代のデータセットとし、現世代のデータセットの中から上述した数式(1)の評価値(y)に基づいて選択(ルーレット選択、トーナメント選択、エリート選択など)されたデータに対して遺伝的操作(交叉、突然変異)を行う。ついで、遺伝的操作により生成された複数のデータを集積した次世代のデータセットを作成し、作成した次世代のデータセットに対して上述した数式(1)の評価値(y)を算出する。そして、作成した次世代のデータセットを現世代のデータセットと見做して、選択と遺伝的操作と次世代のデータセットの作成と評価値(y)の算出とを繰り返す。この繰り返しにより得られた最大世代数tのデータセットが最適解候補を有する最適解データセット90になる。
【0113】
また、ベイズ最適化を用いた一例では、最適化用データセット80を最初のデータセットとし、データセットに基づいたガウス過程による回帰により推定モデルの構築と、推定モデルおよび獲得関数(改善確率(PI)、期待改善度(EI)、信頼性下限関数(LCB)など)を用いた最適解候補の作成と、最適解候補の評価と、評価が高い最適解候補のデータセットへの追加と、を繰り返す。最適解候補の評価には、上述した数式(1)の評価値(y)を用いる。以上の繰り返しにより、得られた最適解候補を集積した最適解配合データセット90を出力する。
【0114】
図21に例示する最適解配合データセット90は、演算装置2bにより、最適化アルゴリズムを用いて最適化データセット80が最適化されて作成される。最適解配合データセット90は、最適解加硫ゴムH(H1、H2、・・・、Ht)の配合データD1hと、製造条件データD2hと、複数種類のゴム物性データD3hとを有している。最適解加硫ゴムHの配合データD1hは、最適化用データセット80の配合データD1gと異なっている。また、最適解加硫ゴムHの各データD1h、D2h、D3hは、制約条件データDyによる制約を満足している。加えて、最適解加硫ゴムHに対する上述した数式(1)の評価値(y)は、最適化データセット80の加硫ゴムGに対する評価値(y)よりも評価が高い。最適解配合データセット90の最適解加硫ゴムHの種類数(1~t)は特に限定されるものではなく、その種類数は「1」でもよい。
【0115】
最適解配合データセット90が出力されると、演算装置2bにより、出力された最適解配合データセット90を配合データセット20、対象加硫ゴムB、候補(配合データD1b)と見做して、上述した各ステップ(S230、S240)が行われる。演算装置2bの出力部7に出力された配合データD1b(配合データD1h)は、所望するゴム物性(目標値D3a)を有する加硫ゴムのゴム配合の最適解となっている。
【0116】
上述したように変形例4では、最適化工程(S380)により、配合データセット20から選択された制約条件データDyによる制約を満足する対象加硫ゴムBの周囲のより最適な配合データD1hが探索される。これにより、数多の配合成分Cの組み合わせ、および、それぞれの配合量の中から所望するゴム物性(目標値D3a)を有する加硫ゴムのゴム配合の最適解を簡便に把握することができる。上述した変形例4は、最適化データセット80の配合データD1gのみを最適化アルゴリズムを用いて最適化することもできる。
【0117】
次に、ゴム配合の設計システム1および設計方法の実施形態の変形例5について説明する。
【0118】
図22に例示する変形例5では、上述した
図10、
図15、
図19の選択工程S200のステップS230の終了後に、演算装置2bにより、更新工程S400が行われる。更新工程S400では、選択工程S200により選択された所望するゴム物性(目標値D3a)を有する加硫ゴムのゴム配合が、準備工程S100により作成された配合データセット20に存在する配合データD1bと異なる場合、選択されたそのゴム配合が
図23に例示するように配合データセット20に追加されて、配合データセット20が更新される。具体的に、演算装置2bは、ステップ(S230)で選択され、かつ、準備工程S100により作成された配合データセット20に存在する配合データD1bと異なる配合データD1iを有する新加硫ゴムI、その配合データD1i、製造条件データD2i、および、ゴム物性データD3iを、対象加硫ゴムB、各データD1b、D2b、D3bと見做して、配合データセット20に追加して、配合データセット20を更新する。以降の選択工程S200では、更新された配合データセット20を用いる。
【0119】
上述したように変形例5では、選択工程S200により選択された新規の配合データD1iを有する新加硫ゴムIの各データD1i、D2i、D3iを準備工程S100で作成された配合データセット20に追加する。新加硫ゴムIの配合データD1iは、準備工程S100により作成された配合データセット20に存在する配合データD1bと異なっており、配合データセット20のデータ空間でのデータの隙間を埋めることができる。つまり、選択工程S200を繰り返すごとに、配合データセット20のデータ空間のデータの隙間が小さくなり、より多数の異なる配合データD1bが網羅されていく。このように、配合データセット20を構成するデータが順次充実されることで、選択工程S200での所望するゴム物性(目標値D3a)を有する加硫ゴムRのゴム配合の把握には非常に有効である。
【0120】
以上、本発明の実施形態とその変形例について説明したが、本発明のゴム配合の設計方法およびシステムは特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0121】
既述した実施形態とその変形例は、製造条件データを混合条件に限定し、既述したゴム物性データの代わりに粘度、ムーニー粘度、加硫速度T95およびカーボンブラックの分散性などの未加硫ゴムの特有な物性データを用いることで、目的の加硫ゴムを加硫する前の未加硫ゴムのゴム配合や混合条件を把握することもできる。未加硫ゴムのゴム配合や混合条件を把握することで、目的の加硫ゴムの生産技術の向上には有利になる。
【0122】
本開示は、以下の発明を包含する。
発明(1):複数種類のゴム物性データの目標値を満足する目的の加硫ゴムのそれぞれの配合成分の配合量が設定された配合データを把握するゴム配合の設計方法において、
準備工程と選択工程とを有し、
前記準備工程では、前記配合データが異なる多数種類の未加硫ゴムを加硫して製造されたそれぞれの加硫ゴムについての前記配合データと、製造条件データと、複数種類のゴム物性データと、を前記加硫ゴムの種類ごとに集積したデータセットを学習データとして、
前記学習データを用いて機械学習によって演算装置により配合生成モデルおよび物性予測モデルを構築し、
前記配合生成モデルを用いて前記演算装置によりデータ処理することにより、それぞれの前記加硫ゴムの配合データとは異なっている多数の前記配合データを生成し、前記物性予測モデルを用いて前記演算装置によりデータ処理することにより、生成した前記配合データで形成されて所定の製造条件データに基づいて製造されるそれぞれの前記対象加硫ゴムの前記ゴム物性データを算出し、それぞれの前記対象加硫ゴムについての前記配合データと、前記所定の製造条件データと、前記ゴム物性データと、を前記対象加硫ゴムの種類ごとに集積して配合データセットを作成し、
前記選択工程では、前記配合データセットと前記目標値とに基づいて、演算装置によりデータ処理することにより、前記配合データセットの中から前記ゴム物性データが前記目標値に近似する前記対象加硫ゴムの前記配合データを、前記目的の加硫ゴムの前記配合データとして選択し、
前記準備工程と前記選択工程とは互いに個別の任意のタイミングで実施され、前記配合データセットは前記選択工程の実施の前に予め作成されているゴム配合の設計方法。
発明(2):前記準備工程では、前記学習データのそれぞれの前記加硫ゴム、その前記配合データをそれぞれ、前記配合データセットの前記対象加硫ゴム、その前記配合データと見做して、前記学習データを前記配合データセットの一部として統合する発明(1)に記載のゴム配合の設計方法。
発明(3):前記選択工程では、前記目的の加硫ゴムについてのそれぞれの前記ゴム物性データの前記目標値と、それぞれの前記配合成分の配合量の指定範囲が設定された配合指定データと、を前記演算装置に入力し、
制約条件データとしてそれぞれの前記目標値と前記配合指定データとが入力された配合生成モデルを用いて、前記演算装置によりデータ処理することにより、前記制約条件データによる制約を満たすとともに、前記学習データのそれぞれの前記配合データとは異なる配合データを指定候補として複数生成し、
前記物性予測モデルを用いて、前記演算装置によりデータ処理することにより、生成したそれぞれの前記指定候補の前記配合データにより形成されて前記所定の製造条件データに基づいて製造されるそれぞれの指定加硫ゴムのそれぞれの前記ゴム物性データを算出し、それぞれの前記指定加硫ゴムについての前記配合データと、前記所定の製造条件データと、それぞれの前記ゴム物性データとを前記指定加硫ゴムの種類ごとに集積して指定データセットを作成し、前記指定加硫ゴム、その前記配合データをそれぞれ、前記対象加硫ゴムおよびその前記配合データと見做して、前記指定データセットを前記配合データセットの一部として統合する発明(1)または発明(2)に記載のゴム配合の設計方法。
発明(4):前記選択工程では、前記目的の加硫ゴムについてのそれぞれの前記ゴム物性データの前記目標値と、それぞれの前記配合成分の配合量の指定範囲が設定された配合指定データと、混合条件および加硫条件の少なくとも一方が指定された製造条件指定データと、を前記演算装置に入力し、
制約条件としてそれぞれの前記目標値と前記配合指定データと前記製造条件指定データとが入力された配合生成モデルを用いて、前記演算装置によりデータ処理することにより、前記目標値と前記配合指定データと前記製造条件指定データによる制約を満たすとともに、前記学習データのそれぞれの前記配合データとは異なる配合データを指定候補として複数生成し、
前記物性予測モデルを用いて、前記演算装置によりデータ処理することにより、生成したそれぞれの前記指定候補の前記配合データにより形成されて前記製造条件指定データに基づいて製造されるそれぞれの指定加硫ゴムのそれぞれの前記ゴム物性データを算出し、それぞれの前記指定加硫ゴムについての前記配合データと、前記製造条件指定データと、それぞれの前記ゴム物性データとを前記指定加硫ゴムの種類ごとに集積して指定データセットを作成し、前記指定加硫ゴム、その前記配合データをそれぞれ、前記対象加硫ゴムおよびその前記配合データと見做して、前記指定データセットを前記配合データセットの一部として統合する発明(1)または発明(2)に記載のゴム配合の設計方法。
発明(5):前記選択工程では、前記制約条件データにより設定された制約条件下で、条件付き敵対的生成ネットワークを利用して前記演算装置により前記配合生成モデルを構築する発明(3)または発明(4)に記載のゴム配合の設計方法。
発明(6):前記指定データセットが統合された前記配合データセットを用いる前記選択工程では、前記制約条件データの制約条件ごとの評価関数を用いて、前記配合データセットの中から前記制約条件データによる制約を満足する度合いが基準よりも高い前記対象加硫ゴムの前記配合データを、前記目的の加硫ゴムの前記配合データとして選択する発明(3)~発明(5)に記載のゴム配合の設計方法。
発明(7):前記指定候補の前記配合データの生成数を前記配合データセットの前記配合データの数以下とする発明(3)~発明(6)のいずれかに記載のゴム配合の設計方法。
発明(8):前記選択工程では、選択したそれぞれの前記配合データを基にする前記対象加硫ゴムの前記配合データと前記所定の製造条件データと前記ゴム物性データとを一回目の探索用学習データとして、
前記探索用学習データを用いて機械学習により別の配合生成モデルを構築し、前記演算装置によりデータ処理することにより、前記別の配合生成モデルを用いて前記配合データの探索用候補を複数生成し、前記物性予測モデルによりそれぞれの前記探索用候補の前記配合データにより形成された探索用加硫ゴムの前記ゴム物性データを算出し、
それぞれの前記探索用加硫ゴムについての前記配合データと、前記所定の製造条件データと、それぞれの前記ゴム物性データとを前記探索用加硫ゴムの種類ごとに集積して探索用配合データセットを作成し、
前記探索用配合データセットに前記目標値に適合する前記配合データが見つかるまで、前記探索用配合データセットを二回目以降の前記探索用学習データとして、前記演算装置によりデータ処理することにより、前記探索用配合データセットの作成を繰り返し、
前記探索用配合データセットを前記配合データセットと見做す発明(3)~発明(7)のいずれかに記載のゴム配合の設計方法。
発明(9):前記選択工程では、選択したそれぞれの前記配合データを、最適化アルゴリズムを用いて前記演算装置によりデータ処理することにより、前記配合データの最適解候補を生成し、前記最適解候補の前記配合データにより形成された最適解加硫ゴムについての前記配合データと、前記所定の製造条件データと、それぞれの前記ゴム物性データとを前記最適解加硫ゴムごとに集積して最適解配合データセットを作成し、
作成した前記最適解配合データセットを前記配合データセットと見做す発明(3)~発明(8)のいずれかに記載のゴム配合の設計方法。
発明(10):前記選択工程で選択された前記対象加硫ゴムの前記配合データ、前記所定の製造条件データおよび前記ゴム物性データをそれぞれ、前記配合データセットに追加して前記配合データを更新する発明(3)~発明(9)のいずれかに記載のゴム配合の設計方法。
発明(11):演算処理部と記憶部と入力部と出力部とを有する演算装置により、複数種類のゴム物性データの目標値を満足する目的の加硫ゴムのそれぞれの配合成分の配合量が設定された配合データを把握するゴム配合の設計システムにおいて、
前記演算装置により準備工程と選択工程とが実施され、
前記準備工程では、前記配合データが異なる多数種類の未加硫ゴムを加硫して製造されたそれぞれの加硫ゴムについての前記配合データと、製造条件データと、複数種類のゴム物性データと、を前記加硫ゴムの種類ごとに集積したデータセットを学習データとして、
演算装置により前記学習データを用いて機械学習によって配合生成モデルおよび物性予測モデルが構築されて、前記配合生成モデルを用いて前記演算装置によりデータ処理することにより、それぞれの前記加硫ゴムの配合データとは異なっている多数の前記配合データが生成され、かつ、前記物性予測モデルを用いて前記演算装置によりデータ処理することにより、生成された前記配合データで形成されて所定の製造条件データに基づいて製造されるそれぞれの前記対象加硫ゴムの前記ゴム物性データが算出されて、それぞれの前記対象加硫ゴムについての前記配合データと、前記所定の製造条件データと、前記ゴム物性データと、が前記対象加硫ゴムの種類ごとに集積された配合データセットが作成されて前記記憶部に記憶されていて、
前記選択工程では、前記配合データセットと前記目標値とに基づいて、演算装置によりデータ処理することにより、前記配合データセットの中から前記ゴム物性データが前記目標値に近似する前記対象加硫ゴムの前記配合データが、前記目的の加硫ゴムの前記配合データとして選択され、
前記準備工程と前記選択工程とは互いに個別の任意のタイミングで実施されて、前記配合データセットは前記選択工程の実施の前に予め作成されているゴム配合の設計システム。
発明(12):互いに通信可能な複数の前記演算装置を備えて、前記準備工程と前記準備工程とがそれぞれ、複数の前記演算装置のうちの異なる演算装置により行われる発明(11)に記載のゴム配合の設計システム。
【符号の説明】
【0123】
1 設計システム
2a、2b 演算装置
10 学習データ
20 配合データセット
30a、30b、30c 配合生成モデル
40 物性予測モデル
50 指定データセット
60 探索用学習データ
70 探索用配合データセット
80 最適化用データセット
90 最適解配合データセット