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特開2024-105257処置に関してがんの対象を識別するためのCD36の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105257
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】処置に関してがんの対象を識別するためのCD36の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/243 20190101AFI20240730BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20240730BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240730BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20240730BHJP
   C07K 5/10 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
A61K33/243 ZNA
A61K38/16
A61P35/00
G01N33/68
C07K5/10
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024063137
(22)【出願日】2024-04-10
(62)【分割の表示】P 2022176170の分割
【原出願日】2014-03-13
(31)【優先権主張番号】61/782,850
(32)【優先日】2013-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】596115687
【氏名又は名称】ザ チルドレンズ メディカル センター コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】ワトニック,ランドルフ,エス.
(57)【要約】      (修正有)
【課題】がんを有し、かつ対照レベルと比較して試料中のCD36の上昇したレベルを特徴とする対象の処置における使用のための組成物を提供する。
【解決手段】組成物は、シスプラチンおよびPsapペプチドを含み、Psapペプチドは、アミノ酸配列dWlPからなる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Psapペプチドを用いた処置に対する対象の応答性を評価する方法であって、該方法が、
がんを有する対象から得た試料中のCD36のレベルを決定することを含み、ここで、対照レベルと比較して、試料中のCD36の上昇したレベルは、該対象がPsapペプチドを用いた処置に応答性であるか、または応答する可能性があることを示す、前記方法。
【請求項2】
試料中のCD36のレベルを、アッセイを実施することによって決定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
方法がさらに、
対照レベルと比較して試料中のCD36の上昇したレベルを有する対象を、Psapペプチドを用いた処置に応答性であるか、または応答する可能性があると同定することを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
方法がさらに、
Psapペプチドを用いた処置に応答性であるか、または応答する可能性があると同定した対象に対して、がんを処置するためのPsapペプチドの有効量を投与することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
がんを有する対象を処置するための方法であって、
がんを有し、かつ対照レベルと比較して試料中のCD36の上昇したレベルを特徴とする対象に対して、がんを処置するためのPsapペプチドの有効量を投与することを含む、前記方法。
【請求項6】
がんを有する対象を処置するための方法であって、
(a)がんを有する対象を、対象が対照レベルと比較して試料中のCD36の上昇したレベルを有することが知られていることに基づいて、選択すること;
(b)対象が、対照レベルと比較して試料中のCD36の上昇したレベルを有しているので、対象に対してPsapペプチドの有効量を投与すること、
を含む、前記方法。
【請求項7】
対照レベルが、がんを有する対象から得た非がん性の細胞または組織からのCD36のレベルである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
対照レベルが、健常対象または健常対象の集団から得た細胞または組織におけるCD36のレベルである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
対照レベルが、所定のレベルである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
CD36のレベルが、CD36タンパク質レベルである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
がんが、前立腺がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、白血病、膵臓がん、多形性膠芽腫、星状細胞腫、または黒色腫である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
Psapペプチドが、アミノ酸配列CDWLPK(配列番号1)、DWLPK(配列番号2)、またはDWLP(配列番号3)、またはそれらのアミノ酸置換変異体を含み、ここでアミノ酸置換が、
a)トリプトファン(W)に対してチロシン(Y);
b)ロイシン(L)に対して、バリン(V)、アラニン(A)またはグリシン(G)、または類似の大きさの非標準アミノ酸、またはその誘導体、から選択されるアミノ酸置換;
c)リシン(K)に対してアルギニン(R);
d)アスパラギン酸(D)のL異性体に対してアスパラギン酸(D)のD異性体、および/またはロイシン(L)のL異性体に対してロイシン(L)のD異性体;
e)トリプトファン(W)のL異性体に対してトリプトファン(W)のD異性体、および/またはプロリン(P)のL異性体に対してプロリン(P)のD異性体;またはそれらの組み合わせ、
である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
Psapペプチドが、50アミノ酸以下の長さである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
Psapペプチドが、30アミノ酸以下の長さである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
Psapペプチドが、15アミノ酸以下の長さである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
Psapペプチドが、6アミノ酸以下の長さである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
Psapペプチドが、環状ペプチドである、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
類似の大きさの非標準アミノ酸が、メチルバリン、メチルロイシン、またはサルコシンである、請求項12~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
がんを有し、かつ対照レベルと比較して試料中のCD36の上昇したレベルを特徴とする対象の処置に使用するための、Psapペプチドを含有する組成物。
【請求項20】
がんを有し、かつ対照レベルと比較して試料中のCD36の上昇したレベルを特徴とする対象を処置するための医薬の製造における組成物の使用であって、該組成物がPsapペプチドを含有する、前記使用。
【請求項21】
対照レベルが、がんを有する対象から得た非がん性の細胞または組織からのCD36のレベルである、請求項19または20に記載の組成物または使用。
【請求項22】
対照レベルが、健常対象または健常対象の集団から得た細胞または組織におけるCD36のレベルである、請求項19または20に記載の組成物または使用。
【請求項23】
対照レベルが、所定のレベルである、請求項19または20に記載の組成物または使用。
【請求項24】
CD36のレベルが、CD36タンパク質レベルである、請求項19~23のいずれか一項に記載の組成物または使用。
【請求項25】
がんが、前立腺がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、白血病、膵臓がん、多形性膠芽腫、星状細胞腫、または黒色腫である、請求項19~24のいずれか一項に記載の組成物または使用。
【請求項26】
Psapペプチドが、アミノ酸配列CDWLPK(配列番号1)、DWLPK(配列番号2)、またはDWLP(配列番号3)、またはそれらのアミノ酸置換変異体を含み、ここでアミノ酸置換が、
a)トリプトファン(W)に対してチロシン(Y);
b)ロイシン(L)に対して、バリン(V)、アラニン(A)またはグリシン(G)、または類似の大きさの非標準アミノ酸、またはその誘導体、から選択されるアミノ酸置換;
c)リシン(K)に対してアルギニン(R);
d)アスパラギン酸(D)のL異性体に対してアスパラギン酸(D)のD異性体、および/またはロイシン(L)のL異性体に対してロイシン(L)のD異性体;
e)トリプトファン(W)のL異性体に対してトリプトファン(W)のD異性体、および/またはプロリン(P)のL異性体に対してプロリン(P)のD異性体;またはそれらの組み合わせ、
である、請求項19~25のいずれか一項に記載の組成物または使用。
【請求項27】
Psapペプチドが、50アミノ酸以下の長さである、請求項26に記載の組成物または使用。
【請求項28】
Psapペプチドが、30アミノ酸以下の長さである、請求項27に記載の組成物または使用。
【請求項29】
Psapペプチドが、15アミノ酸以下の長さである、請求項28に記載の組成物または使用。
【請求項30】
Psapペプチドが、6アミノ酸以下の長さである、請求項29に記載の組成物または使用。
【請求項31】
Psapペプチドが、環状ペプチドである、請求項26に記載の組成物または使用。
【請求項32】
類似の大きさの非標準アミノ酸が、メチルバリン、メチルロイシン、またはサルコシンである、請求項26~31のいずれか一項に記載の組成物または使用。
【請求項33】
試料が腫瘍試料である、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法、使用または組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2013年3月14日に出願された米国仮出願番号61/782,850の出願日の利益を主張し、その全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦政府支援研究または開発
本発明は、国立がん研究所により授与されたR01CA135417のもとで、米国政府の支援によってなされた。米国政府は本発明に対し、一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
がんは、主要な公衆衛生の優先事項であり続けている。例えば、2008年には推定760万人ががんにより死亡した。がんに対する処置は、科学技術の進歩と共に絶えず改善されている。残念ながら、多くのがん治療はがん患者のサブセットにおいてのみ、さらに同一タイプのがんを有する患者のサブセットのみに有効であることが明らかとなっている。その結果、処置に応答する可能性が高い患者の同定方法を探し出すことが、ますます重要になっている。
【発明の概要】
【0004】
本開示の側面は、腫瘍細胞におけるCD36の上昇したレベルが、対象がPsapペプチドを用いた処置に応答性であるか、または応答する可能性があることを示すとの発見に、部分的に基づく。したがって、本開示の側面は、腫瘍試料などの試料中のCD36のレベルを決定することによって、Psapペプチドを用いた処置に対する対象の応答性を評価するための方法に関する。いくつかの態様において、本明細書に記載される方法は、試料中のCD36のレベルに基づく、Psapペプチドを用いた処置のための対象の同定または選択に関する。本開示の他の側面は、がんを有し、かつCD36の上昇したレベルを特徴とする対象を処置するための、組成物および方法に関する。
【0005】
いくつかの側面において、本開示は、Psapペプチドを用いた処置に対する対象の応答性を評価する方法であって、該方法は、がんを有する対象から得た試料中のCD36のレベルを決定することを含み、ここで、対照レベルと比較して試料中のCD36の上昇したレベルは、対象がPsapペプチドを用いた処置に応答性であるか、または応答する可能性があることを示す、前記方法に関する。いくつかの態様において、試料中のCD36のレベルは、アッセイを実施することによって決定される。いくつかの態様において、方法はさらに、対照レベルと比較して試料中のCD36の上昇したレベルを有する対象を、Psapペプチドを用いた処置に応答性であるか、または応答する可能性があるとして同定することを含む。いくつかの態様において、方法はさらに、Psapペプチドを用いた処置に応答性であるか、または応答する可能性があるとして同定された対象に対して、がんを処置するためのPsapペプチドの有効量を投与することを含む。
【0006】
本開示の他の側面は、がんを有する対象を処置するための方法であって、がんを有し、かつ対照レベルと比較して試料中のCD36の上昇したレベルを特徴とする対象に対して、がんを処置するためのPsapペプチドの有効量を投与することを含む、前記方法に関する。いくつかの態様において、対照レベルは、がんを有する対象から得た非がん性の細胞または組織からのCD36のレベルである。いくつかの態様において、対照レベルは、健常対象または健常対象の集団から得た細胞または組織のCD36のレベルである。いくつかの態様において、対照レベルは、所定のレベルである。いくつかの態様において、CD36レベルは、CD36タンパク質レベルである。
【0007】
本開示のさらなる側面は、がんを有する対象を処置するための方法であって、(a)がんを有する対象を、対象が対照レベルと比較して試料中のCD36の上昇したレベルを有することが知られていることに基づいて、選択すること;および(b)対象が、対照レベルと比較して試料中のCD36の上昇したレベルを有しているので、対象に対してPsapペプチドの有効量を投与すること、を含む、前記方法に関する。いくつかの態様において、対照レベルは、がんを有する対象から得た非がん性の細胞または組織からのCD36のレベルである。いくつかの態様において、レベルは、健常対象または健常対象の集団から得た細胞または組織のCD36のレベルである。いくつかの態様において、対照レベルは、所定のレベルである。いくつかの態様において、CD36レベルは、CD36タンパク質レベルである。
本明細書に提供された任意の方法のいくつかの態様において、がんは、前立腺がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、白血病、膵臓がん、多形性膠芽腫、星状細胞腫、または黒色腫である。
【0008】
本明細書に提供された任意の方法のいくつかの態様において、Psapペプチドは、アミノ酸配列CDWLPK(配列番号1)、DWLPK(配列番号2)、またはDWLP(配列番号3)、またはそれらのアミノ酸置換変異体を含み、ここでアミノ酸置換は、
a)トリプトファン(W)に対してチロシン(Y);
b)ロイシン(L)に対して、バリン(V)、アラニン(A)またはグリシン(G)、または類似の大きさの非標準アミノ酸、またはその誘導体、から選択されるアミノ酸置換;c)リシン(K)に対してアルギニン(R);
d)アスパラギン酸(D)のL異性体に対してアスパラギン酸(D)のD異性体、および/またはロイシン(L)のL異性体に対してロイシン(L)のD異性体;
e)トリプトファン(W)のL異性体に対してトリプトファン(W)のD異性体、および/またはプロリン(P)のL異性体に対してプロリン(P)のD異性体;またはそれらの組み合わせである。いくつかの態様において、Psapペプチドは、50アミノ酸以下の長さである。いくつかの態様において、Psapペプチドは、30アミノ酸以下の長さである。いくつかの態様において、Psapペプチドは、15アミノ酸以下の長さである。いくつかの態様において、Psapペプチドは、6アミノ酸以下の長さである。いくつかの態様において、Psapペプチドは、環状ペプチドである。いくつかの態様において、類似の大きさの非標準アミノ酸は、メチルバリン、メチルロイシン、またはサルコシンである。
【0009】
さらに別の側面において、本開示は、がんを有し、かつ対照レベルと比較して試料中のCD36の上昇したレベルを特徴とする対象の処置に使用するための、Psapペプチドを含有する組成物に関する。
別の側面において、本開示は、がんを有し、かつ対照レベルと比較して試料中のCD36の上昇したレベルを特徴とする対象を処置するための医薬の製造における組成物の使用であって、該組成物がPsapペプチドを含有する、前記使用に関する。
本明細書に提供された使用または組成物のいくつかの態様において、対照レベルは、がんを有する対象から得た非がん性の細胞または組織からのCD36のレベルである。本明細書に提供された使用または組成物のいくつかの態様において、対照レベルは、健常対象または健常対象の集団から得た細胞または組織のCD36のレベルである。本明細書に提供された使用または組成物のいくつかの態様において、対照レベルは、所定のレベルである。本明細書に提供された使用または組成物のいくつかの態様において、CD36レベルは、CD36タンパク質レベルである。
【0010】
本明細書に提供された使用または組成物のいくつかの態様において、がんは、前立腺がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、白血病、膵臓がん、多形性膠芽腫、星状細胞腫、または黒色腫である。
本明細書に提供された使用または組成物のいくつかの態様において、Psapペプチドは、アミノ酸配列CDWLPK(配列番号1)、DWLPK(配列番号2)、またはDWLP(配列番号3)、またはそれらのアミノ酸置換変異体を含み、ここでアミノ酸置換は、
a)トリプトファン(W)に対してチロシン(Y);
b)ロイシン(L)に対して、バリン(V)、アラニン(A)またはグリシン(G)、または類似の大きさの非標準アミノ酸、またはその誘導体、から選択されるアミノ酸置換;
c)リシン(K)に対してアルギニン(R);
d)アスパラギン酸(D)のL異性体に対してアスパラギン酸(D)のD異性体、および/またはロイシン(L)のL異性体に対してロイシン(L)のD異性体;
【0011】
e)トリプトファン(W)のL異性体に対してトリプトファン(W)のD異性体、および/またはプロリン(P)のL異性体に対してプロリン(P)のD異性体;またはそれらの組み合わせである。いくつかの態様において、Psapペプチドは、50アミノ酸以下の長さである。いくつかの態様において、Psapペプチドは、30アミノ酸以下の長さである。いくつかの態様において、Psapペプチドは、15アミノ酸以下の長さである。いくつかの態様において、Psapペプチドは、6アミノ酸以下の長さである。いくつかの態様において、Psapペプチドは、環状ペプチドである。いくつかの態様において、類似の大きさの非標準アミノ酸は、メチルバリン、メチルロイシン、またはサルコシンである。
本明細書に提供された方法、組成物または使用のいくつかの態様において、試料は腫瘍試料である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1Aは、組換えTsp-1またはDWLPK(配列番号2)ペプチドの連続希釈量を追加後48時間における、LLC細胞の増殖を示すグラフである。図1Bは、CD36タンパク質がLLC細胞において発現されることを示す、ウェスタンブロットの写真である。
図2図2は、CD36タンパク質が、乳がん(MDA-231、MCF-7)、卵巣がん(ID8)、黒色腫(B16)、前立腺がん(PC3およびLNCaP)、および肺がん(LLC)細胞株において発現されることを示す、ウェスタンブロットの写真である。
図3図3は、CD36タンパク質が、患者腹水由来の初代卵巣がん細胞で発現されることを示す、ウェスタンブロットの写真である。
図4図4は、CD36タンパク質が、膵臓がん(AsPC1)、卵巣がん(DF-14およびID-8)、乳がん(MDA-MB231およびLM2)、前立腺がん(PC3、PC3-M-LN4、LN-CAPおよびLN-CAP-LN3)、黒色腫(B16-BL6)、および肺がん(LLC)細胞で発現されることを示す、ウェスタンブロットの写真である。典型的な高および低CD36発現細胞株を、枠内に示す。
【0013】
図5図5は、dWlP(配列番号47)ペプチドが、高レベルのCD36を発現するがんモデルにおいてがんの退縮を引き起こしたことを示すグラフである。
図6図6は、CD36を発現する卵巣がん細胞が、Tsp-1媒介性細胞殺傷に感受性であることを示すグラフである。
図7図7は、高レベルのCD36を発現するAsPC膵臓がん細胞を注入された後に、dWlP(配列番号47)ペプチドまたは対照により処置されたマウスの、原発腫瘍塊を示すグラフである。原発腫瘍塊は、ペプチドの処置により阻害された。
図8図8は、B16-BL6黒色腫腫瘍(低レベルのCD36を発現する)を有するマウスの、dWlP(配列番号47)ペプチドによる処置が、腫瘍増殖を阻害したが、腫瘍を退縮させなかったことを示すグラフである。
【発明の詳細な説明】
【0014】
Psapペプチドは、既知の抗血管新生タンパク質であるサポシンAの断片からもともと誘導されたアミノ酸配列を含む、治療用ペプチドである。Psapペプチドは一般に、CDWLPK(配列番号1)、DWLPK(配列番号2)、またはDWLP(配列番号3)のコア配列、またはそのアミノ酸置換変異体を含み、4アミノ酸程度のわずかな長さをとり得る(例えば、DWLP(配列番号3)からなるペプチドまたはアミノ酸置換変異体)。かかるPsapペプチドは、がんの複数のタイプを処置するのに有効であることが以前に示されている(例えば、PCT公開WO2009002931およびWO/2011/084685;PCT公開WO/2013/096868として公開されたPCT出願PCT/US2012/71424、および米国特許出願12/640788および13/516511を参照、これらの全ては、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。Psapペプチドの投与は、in vivoでトロンボスポンジン(Tsp-1)を刺激し、これは次に内皮細胞に作用して、がんおよび/または転移の成長の間接的阻害をもたらす抗血管新生効果を引き起こすと、以前に考えられていた。
【0015】
本明細書に記載されるように、Psapペプチドに応答性のいくつかの異なるタイプのがんからの腫瘍細胞は、CD36を発現することが発見された。CD36は、細胞表面タンパク質のクラスBスカベンジャー受容体ファミリーのメンバーであり、酸化低密度リポタンパク質、酸化リン脂質、長鎖脂肪酸、コラーゲン、およびTsp-1を含む多くのリガンドを有する。いかなる理論またはメカニズムにも拘束されることを望まないが、Psapペプチドの投与はTsp-1を刺激し、これは次に腫瘍細胞上のCD36と相互作用することによって、腫瘍細胞に直接作用すると考えられている。腫瘍細胞におけるTsp-1とCD36の間の相互作用は、腫瘍細胞増殖の阻害および/または腫瘍細胞のアポトーシスの誘導をもたらし得る。したがって、Psapペプチドは、2つの異なる独立したメカニズムを介して、すなわち間接的に抗血管新生の影響を介して、および直接的に、腫瘍細胞上でのCD36とTsp-1の相互作用によって、がんを処置するようである。したがって、がんを有する対象の、Psapペプチドを用いた処置に対する応答性は、がんにより発現されるCD36のレベルに依存し得る。
【0016】
したがって、本開示の側面は、腫瘍試料などの試料中のCD36のレベルを決定することによって、Psapペプチドを用いた処置に対する対象の応答性を評価するための方法に関する。いくつかの態様において、本明細書に記載される方法は、腫瘍試料などの試料中のCD36のレベルに基づいて、Psapペプチドを用いた処置のための対象の同定または選択に関する。本開示の他の側面は、がんを有しかつCD36の上昇したレベルを特徴とする対象を処置するための、組成物および方法に関する(例えば、がんが試料中に、対照レベルと比較してCD36の高いレベルを有することに基づき、選択または同定する)。
本明細書において、「Psapペプチドを用いた処置に応答性である」とは、限定されるものではないが、Psapペプチドを用いた処置に応答した、がんの発達の予防または軽減、がんの症状の軽減、がんの成長の抑制または阻害、既存のがんの転移および/または浸潤の予防、がんの退縮の促進または誘導、がん細胞の増殖の阻害または抑制、血管新生の低下および/またはアポトーシスがん細胞の量の増加が挙げられる。
【0017】
本明細書において、「Psapペプチドを用いた処置に応答性ではない」とは、限定されるものではないが、以下が挙げられる:Psapペプチドを用いた処置に応答した、がんの発達の予防または軽減の不在、がんの症状の軽減の不在、がんの成長の抑制または阻害の不在、既存のがんの転移および/または浸潤の予防の不在、がんの退縮の促進または誘導の不在、がん細胞の増殖の阻害または抑制の不在、血管新生の低下の不在および/またはアポトーシスがん細胞の量の低減。
【0018】
診断法およびセラノスティック法
本開示の側面は、Psapペプチドを用いた処置に対する対象の応答性を評価するのに有用な、診断法およびセラノスティック法に関する。いくつかの態様において、この方法は、がんを有する対象から得た試料中のCD36のレベルを決定することを含み、ここで対照レベルと比較して、試料中のCD36の上昇したレベルは、該対象がPsapペプチドを用いた処置に応答性であるか、または応答する可能性があることを示す(すなわち、試料中のCD36のレベルが対照レベルより高い場合、該対象は、Psapペプチドを用いた処置に応答性であるか、または応答する可能性があると同定される)。いくつかの態様において、方法はさらに、対照と比較して試料中のCD36の上昇したレベルを有する対象を、Psapペプチドを用いた処置に応答性であるか、または応答する可能性があるとして同定することを含む。いくつかの態様において、方法はさらに、Psapペプチドを用いた処置に応答性であるか、または応答する可能性があるとして同定された対象に対して、がんを処置するための本明細書に記載のPsapペプチドの有効量を投与することを含む。いくつかの態様において、がんを有する対象から得た試料は、腫瘍試料である。
【0019】
いくつかの態様において、対照レベルと比較して、試料中のCD36の上昇したレベルは、Psapペプチドを用いた処置に応答して、がんが退縮するかまたは退縮する可能性があることを示す。いくつかの態様において、方法はさらに、対照と比較して試料中のCD36の上昇したレベルを有する対象を、Psapペプチドを用いた処置に応答して退縮するかまたは退縮する可能性があるがんを有するとして、同定することを含む。いくつかの態様において、方法はさらに、Psapペプチドを用いた処置に応答して退縮するかまたは退縮する可能性があるがんを有するとして同定された対象に対して、がんの退縮を引き起こすための、本明細書に記載のPsapペプチドの有効量を投与することを含む。
【0020】
本明細書で使用する場合、「CD36の上昇したレベル」とは、CD36のレベルが、所定の閾値または対照試料中のCD36のレベルなどの対照レベルより上であることを意味する。対照レベルは、本明細書に詳細に記載されている。CD36の上昇したレベルとは、対照レベルよりも例えば、1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、300%、400%、500%、またはそれ以上高いCD36レベルを含む。CD36の上昇したレベルはまた、ゼロ状態(例えば対照中にCD36発現がないか、または検出不能である)から、非ゼロ状態の現象へと増加する(例えば、試料中にいくらかのCD36発現または検出可能なCD36発現がある)ことを含む。
本明細書で使用する場合、「Psapペプチドを用いた処置」とは、対象に対するPsapペプチドの投与を含むことを意味する。Psapペプチドは、本明細書に記載されている。Psapペプチドを用いた処置は、Psapペプチドのみを用いた処置を含んでよく、または複数の薬剤もしくは療法による処置、例えばPsapペプチドと他の化学療法剤、および/または外科手術、放射線療法、または化学療法などの他の形態による処置を含んでもよい。
【0021】
処置
本開示の他の側面は、がんを有する対象を処置するための方法に関する。いくつかの態様において、方法は、がんを有し、かつ対照レベルと比較して対象から得た試料中のCD36の上昇したレベルを特徴とする対象に対して、がんを処置するために本明細書に記載のPsapペプチドの有効量を投与することを含む。いくつかの態様において、方法は、
(a)がんを有する対象を、対象が対照レベルと比較して試料中のCD36の上昇したレベルを有することが知られていることに基づいて、選択すること;および
(b)対象が、対照レベルと比較して試料中のCD36の上昇したレベルを有しているので、対象に対してPsapペプチドの有効量を投与すること、
を含む。
本開示の他の側面は、がんを有し、かつ対照レベルと比較して試料中のCD36の上昇したレベルを特徴とする対象を処置するための医薬の製造における組成物、および組成物の使用に関する。いくつかの態様において、組成物は本明細書に記載のPsapペプチドを含む。いくつかの態様において、試料は腫瘍試料である。
【0022】
本明細書で使用する場合、「処置する」または「処置」は、限定はされないが、がんの発達を予防または軽減すること、がんの症状を軽減すること、がんの成長を抑制または阻害すること、既存のがんの転移および/または浸潤を予防すること、がんの退縮を促進または誘導すること、がん細胞の増殖を阻害または抑制すること、血管新生を低減および/またはアポトーシスがん細胞の量を増加させること、を含む。いくつかの態様において、がんの処置とは、がん細胞の増殖を直接阻害または抑制することであり、血管新生の阻害または抑制(これは間接的に、がん細胞の増殖の阻害または抑制をもたらす)は関与しない。
有効量とは、がんの処置などの、医学的に望ましい結果を提供するのに十分なPsapペプチドの投与量である。有効量は、処置される特定のがん、処置される対象の年齢および身体的条件、状態の重症度、処置の期間、任意の併用療法の性質、特定の投与経路、および医師の知識と経験の範囲内の同様の因子などによって変化する。ヒトなどの対象への投与のために、約0.001、0.01、0.1または1mg/kgから、50、100、150または500mg/kg以上までの投与量を、一般的に使用することができる。
【0023】
Psapペプチドおよびその組成物は、全身、局所または局部的な投与を含む様々な投与様式のために製剤化することができる。技術および剤形は、一般的にRemington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton, Pa.の最新版に見出だすことができる。投与される場合、Psapペプチドは、薬学的に許容し得る量で、および薬学的に許容し得る組成物に適用することができる。かかる調製物は日常的に、塩、緩衝剤、防腐剤、適合性担体、および任意に他の治療剤を含有してもよい。医薬において使用される場合、塩は、薬学的に許容されるべきであるが、薬学的に許容し得ない塩も、その薬学的に許容し得る塩を調製するために使用されてもよく、本開示の範囲から排除するものではない。かかる薬理学的および薬学的に許容し得る塩としては、限定されないが、以下の酸から調製されたものを含む:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸等。また、薬学的に許容し得る塩は、ナトリウム、カリウムまたはカルシウム塩などのアルカリ金属塩またはアルカリ土類塩として調製することもできる。
【0024】
Psapペプチドは、薬学的に許容し得る担体と、任意に組み合わせることができる。本明細書で使用する用語「薬学的に許容し得る担体」とは、ヒトへの投与に適する、1または2以上の適合性固体または液体充填剤、希釈剤、またはカプセル化物質を意味する。「担体」という用語は、天然または合成の有機または無機成分であって、これを活性成分と組み合わせて適用を容易にするものを表す。医薬組成物の成分はまた、本開示の分子と、およびお互いに、所望の医薬効果を実質的に損なう相互作用がないような様式で共混入することができる。薬学的に許容し得る担体として役立つことができる材料のいくつかの例としては、以下が挙げられる:(1)糖、例えばラクトース、グルコースおよびスクロースなど;(2)デンプン、例えばコーンスターチおよびジャガイモデンプンなど;(3)セルロースおよびその誘導体、例えばナトリウムカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、微結晶性セルロースおよび酢酸セルロースなど;(4)粉末トラガカント;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウムおよびタルクなど;(8)賦形剤、例えばカカオバターおよび坐薬ワックスなど;(9)油、例えば落花生油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油および大豆油など;(10)グリコール、例えばプロピレングリコールなど;(11)ポリオール、例えばグリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコール(PEG)など;(12)エステル、例えばオレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなど;(13)寒天;(14)緩衝剤、例えば水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなど;(15)アルギン酸;(16)発熱物質を含まない水;(17)等張食塩水;(18)リンゲル液;(19)エチルアルコール;(20)pH緩衝溶液;(21)ポリエステル、ポリカーボネートおよび/またはポリ無水物;(22)増量剤、例えばポリペプチドおよびアミノ酸など;(23)血清成分、例えば血清アルブミン、HDLおよびLDLなど;(24)C2~C22アルコール、例えばエタノールなど;および(25)医薬製剤に用いられるその他の非毒性適合性物質。湿潤剤、着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤、香料剤、防腐剤および抗酸化剤もまた、製剤中に存在することができる。
【0025】
医薬組成物は、好都合には単位剤形で提供することができ、薬学の分野で周知の任意の方法によって調製することができる。本開示の医薬組成物に関連して使用される用語「単位用量」は、対象に対する単位投薬量として適した物理的に別個の単位を指し、各単位は、担体または媒体等の必要な希釈剤との関連で所望の治療効果を生じるように計算された、活性物質の所定量を含む。
種々の投与経路が利用可能である。選択された特定の様式は、処置するがんの種類および治療効果のために必要な投与量に依存する。本開示の方法は、一般的には、医学的に許容し得る任意の投与様式を用いて実施することができ、すなわち、臨床的に許容し得ない副作用を引き起こすことなく活性化合物の有効レベルを生じる任意の様式を意味する。かかる投与様式としては、経口、直腸、局所、鼻腔、皮内、または非経口経路を含む。用語「非経口」は、皮下、静脈内、筋肉内、または注入を含む。
【0026】
いくつかの態様において、投与は非経口である。非経口投与に適した注射用製剤は、例えば、滅菌注射用水性または油性懸濁液を含み、適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を用いて、周知の技術に従って製剤化することができる。滅菌注射用製剤はまた、非毒性の非経口的に許容し得る希釈剤または溶媒中の、滅菌注射溶液、懸濁液またはエマルジョンであってもよく、例えば1,3-プロパンジオールまたは1,3-ブタンジオール中の溶液である。使用可能な許容し得るビヒクルおよび溶媒としては、水、リンゲル液、USPおよび等張性塩化ナトリウム溶液がある。さらに、滅菌固定油は、溶媒または懸濁媒体として従来使用されている。この目的のために、任意の無刺激固定油を使用することができ、合成モノまたはジグリセリドを含む。さらに、オレイン酸などの脂肪酸は、注射剤の調製に用途が見出される。注射用製剤は、例えば、細菌保持フィルターを通したろ過によって、または、使用前に滅菌水または他の滅菌注射用媒体に溶解または分散させることができる滅菌固体組成物の形態で、滅菌剤を組み込むことによって、滅菌することができる。
【0027】
局所投与用には、医薬組成物は当技術分野で一般に知られているように、軟膏剤、膏薬、ゲル剤、またはクリーム剤に製剤化することができる。局所投与は、当技術分野で知られている経皮送達システムを利用することができる。例としては、皮膚パッチである。代替的に、バイオリスティック遺伝子銃送達法を用いることができる。遺伝子銃は、当初、植物形質転換のために設計された、遺伝情報を細胞に注入するための装置である。ペイロードは、プラスミドDNAでコーティングされた重金属の元素粒子である。この技術はしばしば、単にバイオリスティックと呼ばれる。バイオリスティック技術を使用した他の機器は、PDS-1000/He粒子送達システムである。本明細書に記載の組成物は、微細な金粒子上にコーティングすることができ、これら被覆された粒子は、高圧下で血管腫および黒色腫などの生体組織に「打ち込み」される。遺伝子銃に基づく方法の例は、ウシのDNAに基づくワクチン接種について、Loehr B. I. et al., J. Virol. 2000, 74:6077-86に記載されている。
【0028】
本明細書に記載の医薬組成物はまた、局所および全身作用を発揮するために、腫瘍内、腫瘍周囲、病巣内または病変周囲の経路によって投与される。腹腔内経路は、例えば卵巣腫瘍の処置において、特に有用であることが期待される。これらの使用については、追加の従来の薬学的調製物、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、および噴霧剤などが、優先的に必要とされ得る。かかる製剤においては、さらなる従来の添加剤、例えば結合剤、湿潤剤、噴射剤、潤滑剤、および安定剤なども必要とされ得る。
経口投与に適した組成物は、カプセル剤、錠剤、トローチ剤などの個別の単位として提供することができ、それぞれが、抗炎症剤の所定量を含む。他の組成物としては、水性液体または非水性液体中の懸濁液、例えばシロップ剤、エリキシル剤またはエマルジョンなどが挙げられる。
【0029】
他の送達システムとしては、時間放出、遅延放出または持続放出送達システムを含むことができる。かかるシステムは抗炎症薬の反復投与を回避することができ、対象および医師の利便性を増加させる。多くのタイプの放出送達システムが利用可能であり、当業者に知られている。それらはポリマーベースのシステムを含み、例えばポリ(ラクチド-グリコリド)、コポリオキサラート(copolyoxalate)、コポリカプロラクトン、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシ酪酸、およびポリ無水物などである。薬物を含む前述のポリマーのマイクロカプセルは、例えば、米国特許5,075,109に記載されている。送達システムは、次のような非重合体システムも含む:コレステロールなどのステロールを含む脂質、コレステロールエステルおよび脂肪酸または中性脂肪、例えばモノ-、ジ-およびトリ-グリセリド;ヒドロゲル放出システム;シラスティックシステム;ペプチドベースのシステム;ワックスコーティング;従来の結合剤および賦形剤を使用する圧縮錠剤;部分的に融合したインプラントなど。具体的な例としては、これらに限定されないが以下を含む:(a)抗炎症剤がマトリックス内の形で含まれている侵食システム、これは例えば米国特許第4,452,775号、第4,667,014号、第4,748,034号および第5,239,660号に記載されている、(b)活性成分がポリマーから制御された速度で浸透する拡散システム、これは例えば米国特許第3,832,253号および第3,854,480号に記載されている。さらに、ポンプベースのハードウェア送達システムを用いることができ、それらのいくつかは移植に適合されている。
【0030】
長期持続放出インプラントの使用は、慢性状態の処置のために特に適切であり得る。本明細書中で使用される長期放出とは、インプラントが、有効成分の治療レベルを少なくとも30日、好ましくは60日間送達するように構築され、構成されていることを意味する。長期持続放出インプラントは当業者に周知であり、上述した放出システムの一部を含む。
【0031】
いくつかの態様において、治療的投与のために使用される医薬組成物は、滅菌でなければならない。滅菌性は、滅菌濾過膜(例えば0.2ミクロン膜)を通して濾過することによって達成される。代替的に、防腐剤を使用して、微生物の増殖または作用を防止することができる。様々な防腐剤はよく知られており、例えば、フェノールおよびアスコルビン酸が挙げられる。活性成分および/または医薬組成物は、それが熱および酸化的変性に対して非常に安定である場合、通常、凍結乾燥形態または水溶液として保存される。製剤のpHは、典型的には約6~8であり、ただしより高いまたはより低いpH値も、特定の場合において適切であり得る。
いくつかの態様において、Psapペプチドの投与は、他の療法、例えば化学療法、放射線および/または外科手術などと組み合わせてもよい。
【0032】
CD36
CD36(分化クラスター36)は、脊椎動物の多くの細胞型の表面上に見出される細胞膜内タンパク質であり、これはまた、FAT、GP4、GP3B、GPIV、CHDS7、PASIV、SCARB3、およびBDPLT10としても知られている。ヒトCD36のためのEntrez遺伝子IDは948である。例示的なヒトCD36転写物およびタンパク質は、以下の通りである:
【表1-1】
【表1-2】
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
【表4】
【0036】
【表5】
【0037】
【表6】
【0038】
Psapペプチド
プロサポシン(Psap)は、16アミノ酸シグナルペプチドを含む約524~527個のアミノ酸から構成された、サポシンの前駆体タンパク質である。完全長の前駆体ポリペプチドは、小胞体およびゴルジシステムにおける同時翻訳グリコシル化および修飾を受けて、70~72kDaの前駆体タンパク質を産生する。リソソームへの輸送後、カテプシンDはタンパク質分解処理に関与し、35~53kDaの中間分子形態を産生し、次に、13kDaの糖タンパク質へ、および最終的には個々のサポシン分子の成熟した8~11kDaの部分的グリコシル化形態となる(O’Brien J. S., and Kishimoto Y, The FASEB J., 5: 301-8, 1991;Kishimoto Y. et al., J. Lipid Res. 33:1255-67, 1992)。プロサポシンは、4つの開裂生成物、サポシンA、B、C、およびDに変換される。Psapプレプロタンパク質アイソフォームA、BおよびCのアミノ酸配列、ならびにサポシンA開裂生成物のアミノ酸配列は、以下の通りである:
【0039】
【表7】
【0040】
【表8】
【0041】
【表9】
【表10】
【0042】
本開示の側面は、Psapペプチドおよびその使用に関する。Psapペプチドは、元々サポシンAの断片に由来する配列を含む。わずか4つのアミノ酸からなるサポシンAの断片およびこれら断片の変異体は、抗血管新生および抗がん活性を有することが以前に示されている。PsapペプチドおよびPsapペプチドを作製する方法は、当分野で知られている(例えば以下を参照:PCT公開WO2009002931およびWO/2011/084685;PCT公開WO/2013/096868として公開されたPCT出願PCT/US2012/71424、および米国特許出願12/640,788および13/516,511;これらの全ては、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0043】
いくつかの態様において、Psapペプチドは、アミノ酸配列CDWLPK(配列番号1)、DWLPK(配列番号2)、またはDWLP(配列番号3)、またはそのアミノ酸置換変異体を含み、ここで該アミノ酸置換は、
a)トリプトファン(W)に対してチロシン(Y);
b)ロイシン(L)に対して、バリン(V)、アラニン(A)またはグリシン(G)、または類似の大きさの非標準アミノ酸、またはその誘導体、から選択されるアミノ酸置換;c)リシン(K)に対してアルギニン(R);
d)アスパラギン酸(D)のL異性体に対してアスパラギン酸(D)のD異性体、および/またはロイシン(L)のL異性体に対してロイシン(L)のD異性体;
e)トリプトファン(W)のL異性体に対してトリプトファン(W)のD異性体、および/またはプロリン(P)のL異性体に対してプロリン(P)のD異性体;またはそれらの組み合わせ、である。いくつかの態様において、Psapペプチドは、アミノ酸配列CDWLPK(配列番号1)、DWLPK(配列番号2)、またはDWLP(配列番号3)を含む。
【0044】
Psapペプチドは、任意の長さであり得ることが理解されるべきである。いくつかの態様において、Psapペプチドは、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、33、34、35、36、37、38、39、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または100以上のアミノ酸の長さである。いくつかの態様において、Psapペプチドは、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、33、34、35、36、37、38、39、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、200、300、400、500、またはそれ以下のアミノ酸の長さである。いくつかの態様において、Psapペプチドは、4~500、4~400、4~300、4~200、4~100、4~90、4~80、4~70、4~60、4~50、4~40、4~30、4~25、4~20、5~500、5~400、5~300、5~200、5~100、5~90、5~80、5~70、5~60、5~50、5~40、5~30、5~25、5~20、6~500、6~400、6~300、6~200、6~100、6~90、6~80、6~70、6~60、6~50、6~40、6~30、6~25、または6~20のアミノ酸の長さである。
【0045】
CDWLPK(配列番号1)、DWLPK(配列番号2)、またはDWLP(配列番号3)に隣接するアミノ酸は、サポシンAまたはプロサポシンに存在する、天然に隣接するアミノ酸であってもよい(例えば、LEKTCDWLPKPNMS(配列番号14)、下線を引いたアミノ酸は、サポシンAのDWLP(配列番号3)に天然に隣接するアミノ酸である)。したがって、いくつかの態様において、Psapペプチドは、アミノ酸配列DWLPKPNMS(配列番号15)、CDWLPKPNM(配列番号16)、TCDWLPKPN(配列番号17)、KTCDWLPKP(配列番号18)、EKTCDWLPK(配列番号19)、LEKTCDWLP(配列番号20)、またはそのアミノ酸置換変異体を含み、ここで該置換は、CDWLPK(配列番号1)、DWLPK(配列番号2)、またはDWLP(配列番号3)で生じる。Psapペプチドの他の例としては、限定することなく以下を含む:DWLPKPNMS(配列番号21)、CDWLPKPNM(配列番号22)、TCDWLPKPN(配列番号23)、KTCDWLPKP(配列番号24)、EKTCDWLPK(配列番号25)、およびLEKTCDWLP(配列番号26)。別のPsapペプチドの例としては、限定することなく以下を含む:DWLPKPNM(配列番号27)、CDWLPKPN(配列番号28)、TCDWLPKP(配列番号29)、KTCDWLPK(配列番号30)、EKTCDWLP(配列番号31)、DWLPKPN(配列番号32)、CDWLPKP(配列番号33)、TCDWLPK(配列番号34)、KTCDWLP(配列番号35)、DWLPKP(配列番号36)、CDWLPK(配列番号1)、TCDWLP(配列番号37)、DWLPK(配列番号2)、CDWLP(配列番号38)、およびDWLP(配列番号3)。
【0046】
CDWLPK(配列番号1)、DWLPK(配列番号2)、またはDWLP(配列番号3)に隣接するアミノ酸は、サポシンAまたはプロサポシンに天然に隣接するアミノ酸である必要はなく、しかし代わりに任意のアミノ酸であり得ることも、理解されるべきである。したがって、Psapペプチドは、アミノ酸に隣接する任意の数およびアイデンティティのアミノ酸を含むことができる。いくつかの態様において、隣接するアミノ酸は、抗体または抗体のFcドメイン、血清トランスフェリンまたはその部分、アルブミンまたはトランスサイレチンを含んでよい(例えばG. M. Subramanian, (2007), Nature Biotechnology 25, 1411-141を参照)。
【0047】
Psapペプチドは、当技術分野で知られている任意の方法を用いて合成することができる。合成方法の例としては、限定はされないが、組換え合成、液相合成、固相合成、化学的連結を含む(例えば以下を参照:Molecular Cloning: A Laboratory Manual, J. Sambrook, et al., eds., Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 2001;Current Protocols in Molecular Biology, F.M. Ausubel, et al., eds., John Wiley & Sons, Inc., New York;Schnolzer, M. A., P.; Jones, A.; Alewood, D.; Kent, S.B.H. (2007). "In Situ Neutralization in Boc-chemistry Solid Phase Peptide Synthesis". Int. J. Peptide Res. Therap. 13 (1-2): 31-44;Albericio, F. (2000). Solid-Phase Synthesis: A Practical Guide (1 ed.). Boca Raton: CRC Press. p. 848;およびNilsson BL, Soellner MB, Raines RT (2005). "Chemical Synthesis of Proteins". Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. 34: 91-118;および米国特許第4,749,742号、第4,794,150号、第5,552,471号、第5,637,719号、第6,001,966号、第7,038,103号、第7,094,943号、第7,176,282号、および第7,645,858号;これらの全体は、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0048】
いくつかの態様において、Psapペプチドは、例えば以下により修飾することができる:オリゴマー化または重合(例えば、二量体、三量体、多量体、等)、アミノ酸残基またはペプチド骨格の修飾、架橋、環化、共役(conjugation)、ペグ化、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、追加の異種アミノ酸配列(例えば、抗体または抗体のFcドメイン、血清トランスフェリンまたはその部分、アルブミン、またはトランスサイレチン)への融合、または、治療活性を実質的に保持または向上させつつ、ペプチドの安定性、溶解性、または他の特性を実質的に変化させる他の修飾。共役は、例えばポリマーに対してであってもよい。適切なポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアミノ酸、ジビニルエーテル無水マレイン酸、N-(2-ヒドロキシプロピル)-メタクリルアミド、デキストラン、硫酸デキストランを含むデキストラン誘導体、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチル化ポリオール、ヘパリン、ヘパリン断片、多糖類、メチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースを含むセルロースおよびセルロース誘導体、デンプンおよびデンプン誘導体、ポリアルキレングリコールおよびその誘導体、ポリアルキレングリコールのコポリマーおよびその誘導体、ポリビニルエチルエーテル、およびα,β-ポリ[(2-ヒドロキシエチル)-DL-アスパルトアミド]など、またはこれらの混合物が挙げられる。共役は、例えばペプチドまたは化学的リンカーなどのリンカーを介してもよい。ペプチドを修飾する方法は、当技術分野で知られている(例えば以下を参照:米国特許第5,180,816号、第5,596,078号、第5,990,273号、第5,766,897号、第5,856,456号、第6,423,685号、第6,884,780号、第7,610,156号、第7,256,258号、第7,589,170号、および第7,022,673号、およびPCT公開WO 2010/014616;これらの内容は、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0049】
いくつかの態様において、Psapペプチドは、環状ペプチドである。環状ペプチドは、そのアミノ末端とカルボキシル末端がペプチド結合または他の共有結合で連結されて円形の鎖を形成する、ポリペプチド鎖である。一態様において、ペプチドは、アミノおよびカルボキシル末端システインアミノ酸残基を含む。システインはS-Sジスルフィド結合形成を促進する。一態様において、ペプチドは追加のシステインアミノ酸残基を含み、ここでシステインアミノ酸残基は末端近くにあるが、必ずしも最末端である必要はない。いくつかの態様において、システインアミノ酸残基は、ペプチド末端の5個のアミノ酸残基の範囲内にある。環状ペプチドの設計および合成方法は、当技術分野で周知であり、例えば米国特許第5,596,078号、第5,990,273号、第7,589,170号、および米国特許出願第20080287649号に記載されている。
【0050】
いくつかの態様において、Psapペプチドは、安定性を増強するために機能的に修飾されている。いくつかの態様において、Psapペプチドは、N末端のアセチル基および/またはC末端のアミド基を含む。いくつかの態様において、Psapペプチドは、N末端のアセチル基およびC末端のアミド基を含む。いくつかの態様において、Psapペプチドは、Ac-dWlP-アミドまたはAc-DWLP-アミドである(Ac=アセチル基、小文字のDおよびLは、それぞれ配列番号39および40のD-アミノ酸を示す)。いくつかの態様において、Psapペプチドの化学修飾としては以下が挙げられるが、これらの包含に限定はされない:アルキル、アルコキシ、ヒドロキシアルキル、アルコキシアルキル、アルコキシカルボニル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アミノ、アルキルアミノ、アミノアルキル、ジアルキルアミノ、アミノジアルキル、ハロゲン、ヘテロ原子、炭素環、カルボシクリル、カルボシクロ、炭素環式、アリール、アラルキル、アラルコキシ、アリールオキシアルキル、複素環、ヘテロシクリル、複素環式、ヘテロアリール、および/または脂肪族基。
【0051】
Psapペプチドはまた、ペプチド模倣体も包含する(例えば、D-ペプチド、βペプチドおよびペプトイド)。利用されるペプチド模倣体は、Psapペプチドの全長、またはPsapペプチドの一部のみを包含することができる。ペプチド模倣体は、例えば、D-アミノ酸、ペプチド骨格のために還元されたアミド結合、ならびに、側鎖、ピロリノンおよび糖模倣物を連結するための非ペプチド結合を含んでよい。糖足場ペプチド模倣体の設計と合成は、Hirschmann et al.(J. Med. Chem., 1996, 36, 2441-2448;参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)により記載されている。さらに、ピロリノンベースのペプチド模倣体も記載されている(例えば、Smith et al., J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 11037-11038を参照;その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。いくつかの態様において、Psapペプチドは、ペプトイドの形態である(米国特許第5,811,387号; Simon et al. Proceedings of the National Academy of Sciences USA, (1992), 89(20), 9367-9371)。いくつかの態様において、ペプトイドは、ポリ-N-置換グリシンである。ペプトイドにおいて、側鎖は、ペプチドにおけるようにα炭素にではなく、代わりにペプチド主鎖の窒素に接続されている。いくつかの態様において、ペプトイドは、ニトロ芳香族モノマー単位を含有する(Fowler et al., J Org Chem. 2009 Feb 20;74(4):1440-9)。いくつかの態様において、ペプトイドは、1または2以上の残基において、αキラル芳香族側鎖でN置換されている(Gorske et al., J Am Chem Soc. 2006 Nov 8;128(44):14378-87)。いくつかの態様において、Psapペプチドは、ペプトイド領域(すなわち、ペプチド主鎖の窒素に接続された1または2以上の側鎖を含む)、およびペプチドの領域(すなわち、α炭素に接続された1または2以上の側鎖を含む)を含む。
【0052】
Psapアミノ酸置換
いくつかの態様において、Psapペプチドは、CDWLPK(配列番号1)、DWLPK(配列番号2)、またはDWLP(配列番号3)のアミノ酸置換変異体を含み、ここでアミノ酸置換は、
a)トリプトファン(W)に対してチロシン(Y);
b)ロイシン(L)に対して、バリン(V)、アラニン(A)またはグリシン(G)、または類似の大きさの非標準アミノ酸、またはその誘導体、から選択されるアミノ酸置換;
c)リシン(K)に対してアルギニン(R);
d)アスパラギン酸(D)のL異性体に対してアスパラギン酸(D)のD異性体、および/またはロイシン(L)のL異性体に対してロイシン(L)のD異性体;
e)トリプトファン(W)のL異性体に対してトリプトファン(W)のD異性体、および/またはプロリン(P)のL異性体に対してプロリン(P)のD異性体;またはそれらの組み合わせ、である。
【0053】
保存的アミノ酸置換は、1つのアミノ酸残基の、類似の電荷、サイズ、極性、疎水性、またはそれらの組合せを有する側鎖を有する1つのアミノ酸残基による置換であることができる。類似の電荷を有する側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野において定義されている。これらのファミリーには、以下を有するアミノ酸が挙げられる:塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分枝側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)。
【0054】
保存的アミノ酸置換は、典型的には、ペプチドの全体的な構造、および/または結合パートナーとのファンデルワールス結合を形成するために利用可能なアミノ酸側鎖の種類を変化させない。いくつかの態様において、ロイシンに対する保存的置換は、バリンである。いくつかの態様において、ロイシンに対する保存的置換は、バリンまたはアラニンである。
いくつかの態様において、ロイシンに対する保存的または非保存的置換が企図される。いくつかの態様において、ロイシンに対する置換は、バリン、グリシンまたはアラニンである。いくつかの態様において、ロイシンに対する置換はグリシンである。いくつかの態様において、ロイシンに対する置換は、グリシンまたはバリンである。いくつかの態様において、アミノ酸置換は、トリプトファン(W)に対してチロシン(Y)である。
例示的なアミノ酸置換変異体としては、限定はされないが、DWAP(配列番号41)、DYLPK(配列番号42)、DWVPK(配列番号43)、DWLPR(配列番号44)、DWAPK(配列番号45)、およびDYLP(配列番号46)が挙げられる。
【0055】
非標準的なアミノ酸による置換もまた、本明細書において企図される。いくつかの態様において、ロイシンは非標準アミノ酸で置換されている。いくつかの態様において、ロイシンに対する非標準的なアミノ酸置換体は、ロイシン、バリン、アラニン、またはグリシンと同様のサイズを有する。非標準アミノ酸の例にはアジドアラニン、アジドホモアラニン、アジドノルバリン、アジドノルロイシン、アジドノルバリン、ホモアリルグリシン、ホモプロパルギルグリシン、ノルバリン、ノルロイシン、シスクロチルグリシン、トランスクロチルグリシン、2-アミノヘプタン酸、2-ブチニルグリシン、アリルグリシン、3-(1-ナフチル)アラニン、3-(2-ナフチル)アラニン、p-エチニル-フェニルアラニン、p-プロパルギル-オキシ-フェニルアラニン、m-エチニル-フェニルアラニン、3-(6-クロロインドリル)アラニン、3-(6-ブロモインドリル)アラニン、3-(5-ブロモインドリル)アラニン、アジドホモアラニン、ホモプロパルギルグリシン、p-クロロフェニルアラニン、α-アミノカプリル酸、メチルバリン、メチルロイシン、またはサルコシンが挙げられる。いくつかの態様において、ロイシンは、メチルバリン、メチルロイシン、またはサルコシンから選択された非標準アミノ酸で置換されている。非標準アミノ酸およびそれらの合成方法は、当技術分野でよく知られている(例えば、米国特許公開2010-0247433、2008-0214439、2004-0053390、および2004-0058415;PCT公開WO 03/073238;および米国特許第6,586,207号を参照;これらの全ては、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0056】
アミノ酸置換は、ペプチドの化学合成中に、合成プロセスの適切な順序において所望の代替のアミノ酸を添加することにより、達成することができる。代替的に、分子生物学的方法を用いることができる。非保存的置換もまた、本明細書に記載されるペプチドの活性を実質的に保持する程度に、包含される。
前述のように、CDWLPK(配列番号1)、DWLPK(配列番号2)、またはDWLP(配列番号3)を含み、D-アミノ酸置換を有するPsapペプチドはまた、所望の治療活性も有することが示された(PCT公開WO/2013/096868として公開されたPCT出願PCT/US2012/71424を参照)。このように、類似のL-アミノ酸に対する1または2以上のD-アミノ酸置換から得られるアミノ酸置換変異体も、本明細書中で企図される。いくつかの態様において、1つのD-アミノ酸置換が存在する。いくつかの態様において、2または3以上のD-アミノ酸置換が存在する。いくつかの態様において、3、4、または5個のD-アミノ酸置換が存在する。いくつかの態様において、D-アミノ酸置換は均等に配置されており、例えば、4~6マーの1つおきのアミノ酸に配置されている。いくつかの態様において、D-アミノ酸置換は、トリプトファン(W)、および/またはプロリン(P)に対するものである。いくつかの態様において、D-アミノ酸置換は、アスパラギン酸(D)および/またはロイシン(L)に対するものである。アミノ酸構成のLおよびDの規則は、アミノ酸自体の光学活性ではなく、該アミノ酸が理論的にそれから合成され得るグリセルアルデヒドの異性体の、光学活性を意味する(D-グリセルアルデヒドは右旋性であり;L-グリセルアルデヒドは左旋性である)。例示のD-アミノ酸置換は、dWlPとDwLpを含む(小文字のDおよびLは、それぞれ配列番号47および48のD-アミノ酸を示す)。
【0057】
アッセイ
本開示の側面は、試料中のCD36のレベルを決定するためのアッセイの実施に関する。当技術分野において知られている任意のアッセイを使用して、CD36のレベルを測定することができる(例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, J. Sambrook, et al., eds., Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 2001;Current Protocols in Molecular Biology, F.M. Ausubel, et al., eds., John Wiley & Sons, Inc., New Yorkを参照)。マイクロアレイ技術は、Microarray Methods and Protocols, R. Matson, CRC Press, 2009、またはCurrent Protocols in Molecular Biology, F.M. Ausubel, et al., eds., John Wiley & Sons, Inc., New Yorkに記載されている。CD36のレベルは、mRNAレベルおよび/またはタンパク質レベルであってよい。いくつかの態様において、CD36のレベルは、タンパク質レベルである。CD36 mRNAを検出するためのアッセイとしては、限定はされないが、ノーザンブロット分析、RT-PCR、シークエンシング技術、RNAin situハイブリダイゼーション(例えば、DNAまたはRNAプローブを用いて、試料中に存在するRNA分子にハイブリダイズする)、in situRT-PCR(Nuovo GJ, et al. Am J Surg Pathol. 1993, 17: 683-90;Komminoth P, et al. Pathol Res Pract. 1994, 190: 1017-25に記載のようにして)、およびオリゴヌクレオチドマイクロアレイ(例えば、試料由来のポリヌクレオチド配列の、Affymetrixマイクロアレイ(Affymetrix(登録商標)、Santa Clara, CA)等アドレス可能な場所を有する固体表面(例えば、ガラスウェーハ)に付着したオリゴヌクレオチドへのハイブリダイゼーションによる)が挙げられる。核酸結合パートナー、例えばプローブなどを設計するための方法は、当技術分野で知られている。いくつかの態様において、核酸結合パートナーは、CD36の一部または全核酸配列に結合し、この配列は、本明細書で提供されるCD36配列を用いて識別可能である。
【0058】
CD36タンパク質レベルを検出するためのアッセイとしては、限定はされないが、免疫測定法(本明細書において免疫ベース(immune-based)または免疫ベース(immuno-based)のアッセイとも呼ばれ、例えば、ウェスタンブロット、免疫組織化学およびELISAアッセイ)、質量分析、および多重ビーズベースのアッセイを含む。タンパク質レベルの検出のためのかかるアッセイは、当技術分野でよく知られている。タンパク質検出のための結合パートナーは、本明細書に記載するように当技術分野で知られた方法を用いて設計することができる。いくつかの態様において、CD36タンパク質結合パートナー、例えば抗CD36抗体は、CD36タンパク質の一部または全アミノ酸配列に結合する。タンパク質の検出および定量方法の他の例としては、多重化イムノアッセイを含み、これは例えば米国特許第6939720号および第8148171号、および公開された米国特許出願2008/0255766に記載され、また、例えば米国特許出願2009/0088329に記載のタンパク質マイクロアレイを含む。
いくつかの態様において、対象から得る試料は、腫瘍生検材料であり、CD36タンパク質レベルを検出するためのアッセイは、腫瘍生検材料に対して行う免疫ベースのアッセイである。
【0059】
CD36に対する任意の適切な結合パートナーが、CD36のレベルを検出するために企図される。いくつかの態様において、結合パートナーは、CD36タンパク質に特異的に結合する任意の分子である。本明細書において、「CD36タンパク質に特異的に結合する」とは、分子が、非CD36タンパク質の一部または全体よりも、CD36タンパク質の一部または全体に結合する可能性が高いことを意味する。いくつかの態様において、結合パートナーは、抗体またはその抗原結合断片であり、例えばFab、F(ab)2、Fv、一本鎖抗体、FabおよびsFab断片、F(ab’)2、Fd断片、scFv、またはdAb断片である。抗体またはその抗原結合断片を産生するための方法は、当技術分野でよく知られている(例えば、Sambrook et al, "Molecular Cloning: A Laboratory Manual" (2nd Ed.), Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989);Lewin, "Genes IV", Oxford University Press, New York, (1990);およびRoitt et al., "Immunology" (2nd Ed.), Gower Medical Publishing, London, New York (1989);WO2006/040153、WO2006/122786、およびWO2003/002609を参照)。結合パートナーはまた、CD36に特異的に結合する他のペプチド分子およびアプタマーを含む。ペプチド分子およびアプタマーを産生するための方法は、当技術分野でよく知られている(例えば、公開された米国特許出願第2009/0075834、米国特許第7435542号、第7807351号、および第7239742号を参照)。
【0060】
市販のCD36抗体としては、例えば、Santa Cruz BiotechnologyからのN-15、SMφ、L-17、ME542、H300、185-1G2、およびV-19(それぞれ、カタログ番号sc-5522、sc-7309、sc-13572、sc-5523、SC-9154、sc-21772、およびsc-7641)、およびAbcamからのJC63.1、FA6-152、および抗CD36(それぞれ、カタログ番号ab23680、ab17044、およびab78054)が挙げられる。
いくつかの態様において、結合パートナーは、CD36 mRNAに特異的に結合する任意の分子である。本明細書において、「CD36 mRNAに特異的に結合する」とは、分子が、非CD36 mRNAまたは他の非CD36核酸の一部または全体よりも、CD36 mRNAの一部または全体に(例えば相補的な塩基対形成によって)結合する可能性が高いことを意味する。いくつかの態様において、CD36 mRNAに特異的に結合する結合パートナーは、核酸、例えばプローブである。結合パートナーは、本明細書で提供されるCD36のヌクレオチドおよびアミノ酸配列を用いて設計することができる。いくつかの態様において、CD36結合パートナーは、検出可能な標識、例えば酵素的に活性な基、蛍光分子、発色団、発光分子、特異的に結合可能なリガンド、または放射性同位体などを含んでもよい。いくつかの態様において、CD36結合パートナーに特異的な第2の結合パートナーも企図され、例えば二次抗体である。
【0061】
試料
本開示の側面は、対象から得た試料中のCD36のレベルを決定することに関する。いくつかの態様において、対象から得た試料は腫瘍試料である。本明細書において、腫瘍試料は、例えば、腫瘍細胞、腫瘍細胞の集団、腫瘍の断片(例えば、生検材料)、または腫瘍全体を含むことができる。いくつかの態様において、腫瘍試料は腫瘍生検材料である。いくつかの態様において、腫瘍試料は、循環する腫瘍細胞を含む。いくつかの態様において、腫瘍試料は、腹水を含む。いくつかの態様において、腫瘍試料は、胸水を含む。腫瘍試料は、非腫瘍細胞または非腫瘍組織を含んでいてもよい(例えば、腫瘍断片周囲の正常組織を含んでいる生検材料など)。いくつかの態様において、試料は、対象から得た組織または体液試料であってよい。体液試料の例としては、血液、血漿、血清、および尿である。
【0062】
対象
本開示の側面は、がんを有する、ヒトなどの対象に関する。本明細書において任意の種類のがんが企図され、限定はされないが、白血病、リンパ腫、骨髄腫、癌、転移性癌、肉腫、腺腫、神経系のがんおよび尿生殖器がんを含む。例示的ながんの種類は以下である:成人および小児の急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、副腎皮質癌、AIDS関連がん、肛門がん、虫垂のがん、星状細胞腫、基底細胞癌、胆管がん、膀胱がん、骨のがん、骨肉腫、繊維組織球腫、脳がん、脳幹神経膠腫、小脳星細胞腫、悪性神経膠腫、上衣細胞腫、髄芽腫、テント上原始神経外胚葉性腫瘍、視床下部神経膠腫、乳がん、男性乳がん、気管支腺腫、バーキットリンパ腫、カルチノイド腫瘍、原因不明の癌、中枢神経系リンパ腫、小脳星状細胞腫、悪性神経膠腫、子宮頸がん、小児がん、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性骨髄増殖性疾患、結腸直腸がん、皮膚T細胞リンパ腫、子宮内膜がん、上衣細胞腫、食道がん、ユーイングファミリー腫瘍、頭蓋外胚細胞腫瘍、性腺外胚細胞腫瘍、肝外胆管がん、眼内黒色腫、網膜芽細胞腫、胆嚢がん、胃がん、消化管間質腫瘍、頭蓋外胚細胞腫瘍、性腺外胚細胞腫瘍、卵巣胚細胞腫瘍、妊娠性絨毛腫瘍、神経膠腫、毛様細胞白血病、頭頸部がん、肝細胞がん、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、下咽頭がん、視床下部および視経路グリオーマ、眼内黒色腫、膵島細胞腫瘍、カポジ肉腫、腎臓がん、腎細胞がん、喉頭がん、口唇および口腔がん、小細胞肺がん、
【0063】
非小細胞肺がん、原発性中枢神経系リンパ腫、ワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症、悪性線維性組織球腫、髄芽細胞腫、黒色腫、メルケル細胞がん、悪性中皮腫、扁平上皮頸部がん、多発性内分泌腫瘍症候群、多重骨髄腫、菌状息肉腫、骨髄異形成症候群、骨髄増殖性疾患、慢性骨髄増殖性疾患、鼻腔および副鼻腔がん、上咽頭がん、神経芽細胞腫、口腔咽頭がん、卵巣がん、膵臓がん、副甲状腺がん、陰茎がん、咽頭がん、褐色細胞腫、松果体芽腫およびテント上原始神経外胚葉性腫瘍、下垂体がん、形質細胞腫瘍、胸膜肺芽細胞腫、前立腺がん、直腸がん、横紋筋肉腫、唾液腺がん、軟部組織肉腫、子宮肉腫、セザリー症候群、非黒色腫皮膚がん、小腸がん、扁平上皮がん、扁平上皮頸部癌、テント上原始神経外胚葉性腫瘍、精巣がん、咽頭がん、胸腺腫と胸腺がん、甲状腺がん、移行上皮細胞がん、絨毛性腫瘍、尿道がん、子宮がん、子宮肉腫、膣がん、外陰がん、またはウィルムス腫瘍。
いくつかの態様において、がんは、前立腺がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、白血病、膵臓がん、多形性膠芽腫、星状細胞腫または黒色腫である。いくつかの態様において、がんは、前立腺がん、乳がん、肺がん、白血病、膵臓がん、多形性膠芽腫、星状細胞腫または黒色腫である。いくつかの態様において、がんは、膵臓がん、卵巣がん、乳がん、前立腺がん、黒色腫がん、または肺がんである。
【0064】
対照および対照レベル
本開示の側面は、試料中のCD36レベルの、対照レベルとの比較に関する。いくつかの態様において、対照レベルは、健常対象または健常対象の集団から得られた細胞、組織または体液中のCD36のレベルである。本明細書において、健常対象は、がんなどの疾患を明らかに有さず、疾患の病歴も有していない対象である。
いくつかの態様において、対照レベルは、がんを有する対象から得た試料から決定する。したがって、いくつかの態様において、対照レベルは、試料を得る対象と同一の対象から得る。いくつかの態様において、対照レベルは、がんを有する対象から得た、非がん性の細胞または組織からのCD36のレベルである。
いくつかの態様において、対照レベルは、検出不能であるか、または標準的な検出方法(例えば、ウェスタンブロットまたは免疫組織化学)を使用して得たバックグラウンド/ノイズレベル以下の、CD36レベルである。
【0065】
本開示はまた、対象からの試料中のCD36のレベルを、対照レベルを毎回測定する必要はないように、所定のレベルまたは値と比較することも含む。所定のレベルまたは値は、種々の形態を取ることができる。これは、中央値または平均値などの、単一のカットオフ値であることができる。これは、比較グループに基づき、例えば1つの規定のグループはPsapペプチドを用いた処置に応答しないことが知られており、別の規定のグループはPsapペプチドを用いた処置に応答することが知られている比較グループに基づき、確立することができる。これは範囲であってもよく、例えば、試験集団を均等に(または不均等に)群に分割する(Psapペプチドを用いた処置に非応答性である、Psapペプチドを用いた処置にいくらか応答性である、およびPsapペプチドを用いた処置に高く応答性である)、または4群に分割する(最低群はPsapペプチドを用いた処置に非応答性の対象であり、最高群はPsapペプチドを用いた処置に最大応答性の対象である)。
所定の値は、選択した特定の集団に依存し得る。例えば、明らかに健康な群(検出可能ながんがなく、がんの既往歴もない)は、がんを有するがPsapペプチドを用いた処置に応答しないことが知られているメンバーの集団とは異なる、CD36の「正常」範囲を有するであろう。したがって、選択された所定の値は、対象が属するカテゴリーを考慮することができる。適切な範囲およびカテゴリーは、当業者により日常的な実験を超えることなく選択することができる。
【0066】

例1
方法
細胞株および初代細胞
細胞株PC3は、以前に記載されている(Kang et al. PNAS. 2009; 106:12115-20)。PC3細胞を、10%FBSを含むRPMI中で培養した。ヒト乳がん細胞株MDA-MB-231およびMCF-7は、以前に記載されている(Ryu et al. PLoS one, 6, 2011)。RFPとホタルルシフェラーゼを安定的に発現するマウスルイス肺癌細胞株LLC(Lea Eisenbach, Wiesmann Institute of Science, Rehovot, Israelより提供される)(Gupta GP, Massague J. Cancer metastasis: building a framework. Cell. 2006;127:679-95;Gao D, Nolan DJ, Mellick AS, Bambino K, McDonnell K, Mittal V. Endothelial progenitor cells control the angiogenic switch in mouse lung metastasis. Science. 2008;319:195-8;およびJoyce JA, Pollard JW. Microenvironmental regulation of metastasis. Nat Rev Cancer. 2009;9:239-52)を、10%ウシ胎児血清を補充したDMEM中で培養した。B16黒色腫細胞、LNCaP前立腺がん細胞、AsPc1膵臓がん細胞、およびID8卵巣がん細胞は、以前に記載されている(Overwijk WW et al. B16 as a mouse model for human melanoma. Curr Protoc Immunol. 2001, May;Chapter 20:Unit 20.1;Horoszewicz JS, Leong SS, Kawinski E et al. LNCaP model of human prostatic carcinoma. Cancer Res. 1983, Apr;43(4):1809-18.;Chen WH, et al. Human pancreatic adenocarcinoma: in vitro and in vivo morphology of a new tumor line established from ascites. In Vitro 18: 24-34, 1982;およびRoby KF, et al. Development of a syngeneic mouse model for events related to ovarian cancer. Carcinogenesis. 2000, 21:585-591)。原発性卵巣がん細胞は、卵巣がん患者の腹水から得た。
【0067】
ウエスタンブロット分析
細胞を、プロテアーゼ阻害剤(Roche Applied Science)を含有する溶解緩衝液(BioRad)中でホモジナイズした。試料は、1×SDSサンプリング緩衝液中で煮沸し、4~20%勾配のBis-Tris NuPAGEゲル(Invitrogen)にロードした。ウェスタンブロッティングは、CD36に特異的な抗体(AbCam、ab78054)またはβアクチン(Sigma-Aldrich)を用いて実施した。
【0068】
in vitro細胞増殖アッセイ
細胞増殖は、MTT(3-{4,5-ジメチルチアゾール-2-イル}-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド、Sigma-Aldrich)アッセイを用いて測定した。細胞を96ウェル培養プレート中の50μLの増殖培地に播種し、一晩付着させた。次に50μLの増殖培地+2倍濃縮した処理試薬を添加した。各処置時点の後に、10μLの5%MTT溶液(PBS中に緩衝化)を各ウェルに加えた。プレートを37℃でさらに4時間インキュベートし、MTTを、細胞のミトコンドリアでのホルマザン結晶に代謝的に変換させた。ホルマザン結晶は、各マイクロプレートウェルに50%のN-N-ジメチルホルムアミド中の100μLの10%ドデシル硫酸ナトリウムを加えることにより、最終的に可溶化した。550および680nmでの吸光度(それぞれ、ホルマザン塩および参照波長に対応)を、測色マイクロプレートリーダーを用いて測定した。完全培地のみを含むウェルを、対照として使用した。各実験は、各薬物濃度について6回の反復を用いて、2回行った。
【0069】
結果
Psapペプチドによって上方制御されるTsp-1は、間接的に抗血管新生メカニズムを介するのみでなく、直接がん細胞に作用し得ると仮定した。これを試験するために、LLC細胞を、組換えTsp-1またはDWLPK(配列番号2)Psapペプチドのいずれかで処置し、細胞増殖をMTTアッセイを用いて測定した。Tsp-1は細胞増殖を減少させることができ、一方Psapペプチドは、細胞増殖に影響を与えなかったことがわかった(図1A)。これは、Tsp-1ががん細胞に直接作用することができるという仮説を支持し、なぜならばこのアッセイは、in vitroで任意の血管の非存在下で行われたからである。これらの結果はまた、Psapペプチド単独ではがん細胞の増殖に影響を与えないようであることを示し、PsapペプチドがTsp-1の上方制御を介して間接的にがんを処置できるという仮説を支持する。LLC細胞は、Tsp-1の受容体であるCD36を発現することが示されており、これは、Tsp-1がCD36を介してがん細胞に直接作用し得ることを示す(図1B)。
【0070】
CD36レベルを他の細胞株で測定し、CD36が他のがんの種類によっても発現されたかどうかを確認した。CD36のレベルは、乳がん(MDA-231、MCF-7)、卵巣がん(ID8)、黒色腫(B16)、前立腺がん(PC3およびLNCaP)、および肺がん(LLC)細胞株で、ウェスタンブロット分析により測定した。CD36タンパク質は、試験したすべての細胞株において検出され、特に高レベルのCD36は、MDA-231、MCF-7、PC3、およびLLC細胞株で検出されたことがわかった(図2)。MDA-231、ID8、B16、PC3、およびLLC細胞は、in vivoでPsapペプチドを用いた処置に応答することが、以前に示されている。
膵臓細胞株AsPc1も検討し、CD36を発現することが見出された。
CD36のレベルはまた、腹水を有する患者に由来する原発性卵巣がん細胞においても測定した。CD36タンパク質は、試験した全ての原発性卵巣がん細胞で検出可能であった(図3)。
【0071】
例2
方法
マウスおよび細胞株
すべての動物の作業は、Institutional Animal Care and Use Committeeによって承認されたプロトコルに従って実施する。野生型C57BL/6J、およびGFPトランスジェニックC57BL/6-Tg(ACTB-EGFP)1Osb/Jは、The Jackson Laboratory(Bar Harbor, Maine)から入手する。CB-17 SCIDマウスは、Charles River(Wilmington, MA)から入手する。
細胞株PC3およびPC3M-LN4は、以前に記載されている(14)。ヒト乳がん細胞株MDA-MB-231およびMDA-MB-LM2は、以前に記載されている(Ryu et al. PLoS one, 6, 2011)。RFPとホタルルシフェラーゼを安定的に発現するマウスルイス肺癌細胞株LLC/D122(Lea Eisenbach, Wiesmann Institute of Science, Rehovot, Israelによって提供される)(Gupta GP, Massague J. Cancer metastasis: building a framework. Cell. 2006;127:679-95;Gao D, Nolan DJ, Mellick AS, Bambino K, McDonnell K, Mittal V. Endothelial progenitor cells control the angiogenic switch in mouse lung metastasis. Science. 2008;319:195-8;およびJoyce JA, Pollard JW. Microenvironmental regulation of metastasis. Nat Rev Cancer. 2009;9:239-52)を、10%ウシ胎児血清を補充したDMEM中で培養する。
【0072】
組織マイクロアレイおよび免疫組織化学
アーカイブ標本(根治的前立腺切除標本、または転移の生検材料)は、Department of Pathology, The Gade Institute, Haukeland University Hospitalのファイルから取得する。ホルマリン固定前立腺切除標本をパラフィンに包埋し、5mm間隔での全体マウントステップ切片で検査した。組織マイクロアレイ(TMA)を、それぞれのケースにおける最高の腫瘍グレードの領域から3つの組織コア(直径0.6mm)を選択して構築した。
TMAパラフィンブロックからの薄いパラフィン切片(5μm)をキシレン/エタノールで脱脂し、その後20分間、クエン酸緩衝液(pH6.0)中で熱誘導性マイクロ波エピトープ回復し、CD36抗体と共に室温で60分間、インキュベートする。免疫染色は、検出システムとしてのEnVision鎖ポリマー法でDAKO Autostainer(Dako Cytomation, Copenhagen, Denmark)上で実施する。抗原の局在化は、DABジアミノベンジジンペルオキシダーゼ反応を用い、ヘマトキシリンで対比染色して達成する。
免疫染色は半定量的に推定され、染色強度(0~3)と免疫陽性腫瘍細胞の割合(<10%=1、10~50%=2、>50%=3)の積として得られる染色指数(SI)を算出する。染色指数(0~9の範囲)は、各カテゴリー内でいくらかの変動が予想される、カテゴリースケール(categorical scale)である。
【0073】
腫瘍細胞におけるCD36のノックダウン
CD36レベルはがん細胞株において、CD36を標的とするmiRNAまたはshRNAをコードするレトロウイルスまたはレンチウイルスベクターを用いて低減される。ノックダウン効率は、qPCR分析を用いて試験する。全RNAを、製造業者のプロトコルに従ってPicoPureRNA抽出キット(Arcturus)を用いて抽出する。RNAを、qScript(登録商標)のcDNAスーパーミックス(Quanta biosciences)を用いてcDNAに変換する。qPCRは、プライマーおよびiQTM SYBER Greenマスターミックス(Biorad, Hercule, CA)を用いて実施する。標準プロトコルの、95℃で10分間の初期変性、次いで95℃で10秒間、60℃で30秒間および72℃で30秒間を40サイクル、次に72℃で5分間の最終伸長、および溶融曲線分析を、Bio-Rad-CFX Managerソフトウェアを組み合わせたBioRad CFX96 Real Time System(BioRad)で実施する。対照と比較して、各転写物の相対存在量は、デルタCt法を利用して計算する。
【0074】
in vitro細胞増殖アッセイ
細胞増殖は、MTT(3-{4,5-ジメチルチアゾール-2-イル}-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド、Sigma-Aldrich)アッセイを用いて測定する。細胞を96ウェル培養プレート内の50μLの増殖培地に播種し、一晩付着させる。次に50μLの増殖培地+2倍濃縮処理試薬を添加した。各処置時点の後に、10μLの5%MTT溶液(PBS中に緩衝化)を各ウェルに添加した。プレートを37℃でさらに4時間インキュベートし、MTTを、細胞のミトコンドリアでのホルマザン結晶に代謝的に変換させた。ホルマザン結晶は、各マイクロプレートウェルに50%のN-N-ジメチルホルムアミド中の100μlの10%ドデシル硫酸ナトリウムを添加することにより、最終的に可溶化した。550および680nmでの吸光度(それぞれ、ホルマザン塩および参照波長に対応)を、測色マイクロプレートリーダーを用いて測定した。完全培地のみを含むウェルを、対照として使用した。各実験は、各薬物濃度について6回の反復を用いて、2回行った。
【0075】
転移アッセイ、生物発光イメージングおよび分析
実験的転移のために、7週齢のC57BL/6マウスに、1×10個のルシフェラーゼ標識LLC細胞を、尾静脈を介して注入する。同所性乳がん細胞の注入のために、5×10個のMDA-MB-231またはその転移性変異型MDA-MB-LM2細胞を、0.1mlの容量でCB-17 SCIDマウスの脂肪パッドに注入する。腫瘍増殖および肺転移(原発腫瘍の切除後)は、生きている動物の生物発光イメージング(Xenogen)により、週に1回モニタリングした。同所性前立腺がん細胞の注入のために、2×10個の生きているLN4または細胞を、マウスの前立腺に注入した。
転移の負荷をin vivoで決定するために、マウスを麻酔し、75mg/kgのD-ルシフェリン(PBS中の30mg/mLを100μL)を腹腔内注射した。転移性増殖は生物発光イメージングを用いて経時的にモニタリングし、これは、D-ルシフェリン注入後5分間仰臥位にしたマウスを用いて、Living Image収集および分析ソフトウェア(Xenogen)を組み込んだXenogen IVISシステムで実施した。BLIプロットについては、各マウスについての光子束を、マウスの胸部を囲む関心のある同一の円形領域を用いて算出した。
【0076】
Psapペプチド投与
8週齢のマウスを、PBSに希釈したPsapペプチド(例えばDWLPK(配列番号2)、DWLP(配列番号3)、またはその修飾物)を用いて、30mg/kg/日の用量で腹腔内注射により2週間まで処置する。
【0077】
結果
CD36レベルは、がんを有するヒト対象からの組織試料において測定する。
CD36レベルはがん細胞株でノックダウンされ、低減されたCD36を有するこれらの細胞株を、マウスに注入する。次いでマウスに、Psapペプチドを投与する。腫瘍増殖および転移の負荷をモニタリングする。がん細胞におけるCD36のノックダウンは、in vivoでのPsapペプチドの抗がん活性を低減させることが期待される。
【0078】
例3
方法
特に明記された以外は、例3で使用した方法は、例1および2で使用した方法と同一である。CD36の発現について試験した細胞株は、膵臓がん(AsPC1)、卵巣がん(DF-14およびID-8)、乳がん(MDA-MB231およびLM2)、前立腺がん(PC3、PC3-M-LN4、LN-CAP、およびLN-CAP-LN3)、黒色腫(B16-BL6)、および肺がん(LLC)の細胞株であった。これらの細胞株の全ては当分野で知られており、および/または市販されている。
CD36を発現する卵巣がん細胞を、対照またはトロンボスポンジン(Tsp-1、100ng、500ng、または1000ng)のいずれかで処置し、生存細胞のパーセントを、0時間または48時間に測定した。
【0079】
卵巣がんのマウスモデルでは、ルシフェラーゼを発現する100万個の卵巣がん細胞を腹腔内注射した。処置は17日後に開始し、シスプラチン(4mg/kgのQOD)、PsapペプチドdWlP(配列番号47、40mg/kgのQD)、シスプラチンとPsapペプチドの組み合わせ、またはPBS QDを用いた。ルシフェラーゼ強度は、17日目頃から開始して数日間測定し、経時的に測定した。
膵臓がんのマウスモデルでは、1×10個のAsPc1ヒト膵臓細胞を、SCIDマウスの膵臓に注入した。マウスは、対照またはPsapペプチドdWlP(配列番号47、20mg/kg/日または40mg/kg/日)のいずれかで処置した。処置は25日目に開始し、21日間毎日続けた。次いで、マウスを安楽死させ、原発腫瘍塊を測定した。腹水の有無も測定した。
黒色腫マウスモデルについては、B16-BL6細胞をマウスに注入した。マウスは、PsapペプチドdWlP(配列番号47、10または40mg/kg)または対照のいずれかで処置した。腫瘍体積は、細胞注入後約20~25日後まで、継時的に測定した。
【0080】
結果
複数のがん細胞株を、CD36の発現について試験した。CD36タンパク質は試験したすべての細胞株において検出され、特にAsPC1、DF-14、MDA-MB231、およびPC3細胞株において高レベルであったことが見出された(図5)。
CD36を発現する卵巣細胞は、用量依存的にTsp-1媒介の細胞殺傷に感受性であることが示された(図6)。
2つの「高」CD36細胞株(卵巣がん細胞およびAsPC膵臓がん細胞)と1つの「低」CD36細胞株(B16-B6がん細胞)をマウスに注入して、Psapペプチドの、腫瘍増殖および転移に対する効果を試験した。「高」CD36がんモデルは、Psapペプチドによる処置に応答して退縮したことが見出された(図5および7)。卵巣がんモデルでも、転移性疾患の退縮が示された(図5)。膵臓がんモデルもまた転移の阻害を示し、これは、Psapペプチドで処置した19匹のマウスのうち1匹のみが腹水を形成し、一方で対照で処置した10匹のマウスでは4匹が腹水を形成したことによる。「低」CD36黒色腫モデルにおいて、Psapペプチドでの処置は、原発腫瘍の成長を阻害したが、腫瘍退縮は引き起こさなかったことが見出された(図8)。これらの結果は、「高」CD36がんが、より強くPsapペプチド処置に応答する可能性があり(例えば、原発腫瘍および/または転移の退縮)、「低」CD36がんは、より弱く応答する可能性があること(例えば、原発腫瘍の退縮というより阻害)を示す。
【0081】
さらに詳述することなく、当業者は上記の説明に基づいて、本開示を最大限に利用することができると考えられる。したがって特定の態様は、単に例示として解釈され、決して開示の残りを限定するものではない。本明細書に引用されるすべての刊行物は、本明細書で参照される目的または主題について、参照により組み込まれる。
明細書および特許請求の範囲において本明細書中で使用される不定冠詞「a」、「an」は、特に明確に断らない限り、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきである。
上記の説明から、当業者は容易に、本開示の本質的な特徴を確認することができ、その精神および範囲から逸脱することなく、本開示に様々な変更および修正を行って、これを種々の用途および条件に適合させることができる。したがって別の態様もまた、特許請求の範囲内である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
2024105257000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-05-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんを有し、かつ対照レベルと比較して試料中のCD36の上昇したレベルを特徴とする対象の処置における使用のための組成物であって、
組成物は、シスプラチンおよびPsapペプチドを含み、
Psapペプチドは、アミノ酸配列dWlP(配列番号47)からなる、前記組成物。
【請求項2】
対照レベルが、がんを有する対象から得た非がん性の細胞または組織からのCD36のレベルである、請求項に記載の組成物
【請求項3】
対照レベルが、健常対象または健常対象の集団から得た細胞または組織におけるCD36のレベルである、請求項に記載の組成物
【請求項4】
対照レベルが、所定のレベルである、請求項に記載の組成物
【請求項5】
CD36のレベルが、CD36タンパク質レベルである、請求項に記載の組成物
【請求項6】
がんが、前立腺がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、膵臓がん、多形性膠芽腫、星状細胞腫、または黒色腫である、請求項に記載の組成物
【請求項7】
がんを有し、かつ対照レベルと比較して試料中のCD36の上昇したレベルを特徴とする対象を処置するための医薬の製造における組成物の使用であって、
組成物は、シスプラチンおよびPsapペプチドを含み、
Psapペプチドは、アミノ酸配列dWlP(配列番号47)からなる、前記使用。
【請求項8】
対照レベルが、がんを有する対象から得た非がん性の細胞または組織からのCD36のレベルである、請求項に記載の使用
【請求項9】
対照レベルが、健常対象または健常対象の集団から得た細胞または組織におけるCD36のレベルである、請求項に記載の使用
【請求項10】
対照レベルが、所定のレベルである、請求項に記載の使用
【請求項11】
CD36のレベルが、CD36タンパク質レベルである、請求項に記載の使用
【請求項12】
がんが、前立腺がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、膵臓がん、多形性膠芽腫、星状細胞腫、または黒色腫である、請求項に記載の使用
【外国語明細書】