(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105263
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ポリウレタンの酵素的分解のための新規なウレタナーゼ
(51)【国際特許分類】
C12P 1/00 20060101AFI20240730BHJP
C12N 9/14 20060101ALN20240730BHJP
C12N 15/55 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
C12P1/00 A ZNA
C12N9/14
C12N15/55
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024063810
(22)【出願日】2024-04-11
(62)【分割の表示】P 2021520456の分割
【原出願日】2019-06-18
(31)【優先権主張番号】18179032.0
(32)【優先日】2018-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】520500026
【氏名又は名称】コヴェストロ インテレクチュアル プロパティ ゲーエムベーハー ウント シーオー.カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビットナー,ナタリー
(72)【発明者】
【氏名】ネフツガー,ハルトムート
(72)【発明者】
【氏名】ベーンケン,ゲサ
(72)【発明者】
【氏名】ジェーガー,ゲルノット
(72)【発明者】
【氏名】ベーンケン,スワンティー
(72)【発明者】
【氏名】ライスキー,ルーカス
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ポリウレタンの既定のモノマーへの分解を可能にする酵素的プロセスを提供する。
【解決手段】ポリエステル-ポリウレタンを低分子量の分解生成物へと分解するプロセスであって、(a)ポリエステル-ポリウレタン中に存在するエステル基を切断するステップ;及び(b)ウレタナーゼ活性を有するポリペプチドにより、ポリエステル-ポリウレタン中に存在するウレタン基を切断するステップを含み、プロセスステップ(a)及び(b)は、順番に、又は並行して実施される、前記プロセスである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル-ポリウレタンを低分子量の分解生成物へと分解するプロセスであって、
(a)ポリエステル-ポリウレタン中に存在するエステル基を切断するステップ;及び
(b)ウレタナーゼ活性を有するポリペプチドにより、ポリエステル-ポリウレタン中に存在するウレタン基を切断するステップ
を含み、
プロセスステップ(a)及び(b)は、順番に、又は並行して実施される、前記プロセス。
【請求項2】
前記ウレタナーゼ活性を有するポリペプチドが、配列番号1~配列番号10及び上記配列と少なくとも90 %の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
プロセスステップ(a)が、プロセスステップ(b)の前に実施される、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
ポリオール、ポリカルボン酸、及びポリアミンがプロセス生成物として形成される、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
4,4'-メチレンジアミン、2,4'-メチレンジアミン、2,2'-メチレンジアミン、1,4-ナフチレンジアミン(Naphthylendiamin)、1,5-ナフチレンジアミン、1,6-ナフチレンジアミン、トリレン-2,4-ジアミン、及びトリレン-2,6-ジアミンからなる群から選択される少なくとも1つのポリアミンが形成される、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセロール、1,1,1-トリメチロールプロパン、スクロース、ソルビトール、及びペンタエリトリトールからなる群から選択される少なくとも1つのポリオールが形成される、請求項4に記載のプロセス。
【請求項7】
コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸、テレフタル酸、ベンゼントリカルボン酸、オレイン酸、及びリシノール酸からなる群から選択される少なくとも1つのポリカルボン酸が形成される、請求項4に記載のプロセス。
【請求項8】
前記プロセスステップ(a)が、リパーゼを用いて実施される、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記リパーゼが、配列番号11若しくは配列番号12のアミノ酸配列、又は配列番号11若しくは配列番号12と少なくとも90 %の配列同一性を有する上記配列のバリアントを有する、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
配列番号3、配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号8、配列番号10及び前記ポリペプチドのバリアントからなる群から選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は配列番号7に記載のアミノ酸配列を有するGatA類似ポリペプチド若しくはそのバリアントの使用であって、前記ポリペプチドが、ウレタン結合の酵素的切断のためのウレタナーゼ活性を有することを特徴とする、前記使用。
【請求項11】
ウレタン基が芳香族的に結合している、請求項10に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタンの酵素的分解のための新規ウレタナーゼ、及び既定のモノマーへのポリウレタンの完全な分解のための酵素的プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンは普段の生活の多くの領域で確立されている。例えば、軟質フォーム(マットレス、スポンジ、クッション性の家具)、硬質フォーム(断熱材、建材)、熱可塑性製品(スポーツシューズ)、又はコーティング剤(ニス、塗装、接着剤)等に含まれる。製品の需要が絶えず増加していることから、これまでより多くの量が製造されていることがわかる。同時に、もはや必要でなくなったポリウレタン製品の持続可能なリサイクルを最大化し、ポリマーの構成単位を再利用できるような方法の需要が高まっている。そのためには、既定の分解生成を得て、それによって再利用可能にするために、ポリウレタン中の結合を選択的に切断する必要がある。
【0003】
酵素が生体内で果たす生理機能に加えて、酵素はこの文脈以外で化学反応の触媒のための多様な用途に使用できる。このような反応は、従来の化学的プロセスよりも穏やかな条件下、例えば、より低い温度、中性のpH値で、かつ強烈な化学物質を使用せずに実施することができる。これにより、エネルギーを節約し、副産物の形成を最小限に抑え、環境を保護することができ、操作費用の低減に役立つ。場合によっては、酵素の使用によってのみ、不安定な出発物質を反応原材料として使用することが可能である(Jaeger, K.-E. & Reetz, M. T. (1998) Microbial lipases form versatile tools for biotechnology. Trends in biotechnology, 16, 396-403)。さらに、酵素は位置選択的、立体選択的、そしてエナンチオ選択的であることが多く、生成物の精製が実質的に容易になり、それ以外では取得が困難な生成物の効率的な合成が可能になる(Hasan, F., Shah, A. A. & Hameed, A. (2006) Industrial applications of microbial lipases. Enzyme and Microbial Technology, 39, 235-251)。
【0004】
ポリウレタンのリサイクルは、主に熱リサイクリングによって実施される。このプロセスは一般に、反応時間が非常に長いバッチプロセスが非常に高温において行われ、触媒も使用する。このプロセスによって起こり得るのは、クラッキング反応でのポリマー鎖の熱分解が、望ましくなく、規定されていない分解生成物をもたらし、又はエポキシ環の形成が起こり、その結果、リサイクルされた原材料中の鎖において、高臭気障害及び不利な架橋が生じ、特にヒトと密に接する製品中のその原材料の再利用、特に家具及びマットレスに使用するためのフォームの製造が不可能になり得ることである。代替の選択肢は、完全燃焼と、それによるエネルギー回収の実施であり、これによればエネルギーが発生するが、ポリマーのビルディングブロックの効率的な再利用を可能にするものではない。
【0005】
ポリウレタンは細菌や真菌によってある程度分解されることが知られている。ポリエステルポリウレタン(Polyesterpolyurethane)は、ポリエーテルポリウレタンより、このような微生物的/酵素的分解の影響をかなり受けやすい(Nakajima-Kambe, T., Shigeno-Akutsu, Y., Nomura, N., Onuma, F. & Nakahara, T. (1999) Microbial degradation of polyurethane, polyester polyurethanes and polyether polyurethanes. Applied microbiology and biotechnology, 51, 134-140)。
【0006】
ポリエステルポリウレタンの分解は、エステル結合の加水分解によって容易に達成することができる。ポリエステルのこの比較的単純な分解は驚くべきことではない。なぜなら、天然の疎水性基質中のエステル結合は、脂質が分解される際に共に切断されなければならず、ウレタン結合を有さないポリエステルも同様に、エステラーゼ及びリパーゼによって比較的容易に分解され得るからである(Marten, E., Muller, R.-J. & Deckwer, W.-D. (2003) Studies on the enzymatic hydrolysis of polyesters I. Low molecular mass model esters and aliphatic polyesters. Polymer degradation and stability, 80, 485-501;Marten, E., Muller, R.-J. & Deckwer, W.-D. (2005) Studies on the enzymatic hydrolysis of polyesters. II. Aliphatic-aromatic copolyesters. Polymer degradation and stability, 88, 371-381.)。ポリウレタンの分解に用いられる酵素は、エステラーゼとして、様々な文献において特徴付けられている(Allen, A. B., Hilliard, N. P. & Howard, G. T. (1999) Purification and characterization of a soluble polyurethane degrading enzyme from Comamonas acidovorans. International biodeterioration & biodegradation, 43, 37-41; Blake, R., Norton, W. & Howard, G. (1998) Adherence and growth of a Bacillus species on an insoluble polyester polyurethane. International biodeterioration & biodegradation, 42, 63-73;Crabbe, J. R., Campbell, J. R., Thompson, L., Walz, S. L. & Schultz, W. W. (1994) Biodegradation of a colloidal ester-based polyurethane by soil fungi. International biodeterioration & biodegradation, 33, 103-113;Darby, R. T. & Kaplan, A. M. (1968) Fungal susceptibility of polyurethanes. Applied microbiology, 16, 900-905;Howard, G. T., Norton, W. N. & Burks, T. (2012) Growth of Acinetobacter gerneri P7 on polyurethane and the purification and characterization of a polyurethanase enzyme. Biodegradation, 23, 561-573;Kaplan, A. M., Darby, R. T., Greenberger, M. & Rodgers, M. (1968) Microbial deterioration of polyurethane systems. Dev Ind Microbiol, 82, 362-371;Kay, M., Morton, L. & Prince, E. (1991) Bacterial degradation of polyester polyurethane. International biodeterioration, 27, 205-222;Vega, R. E., Main, T. & Howard, G. T. (1999) Cloning and expression in Escherichia coli of a polyurethane-degrading enzyme from Pseudomonas fluorescens. International biodeterioration & biodegradation, 43, 49-55)。ウレタン基を有する分子の切断に基づいて酵素の特徴付けが実施されている例はなく、これらにはウレタン結合の切断についての明確な証拠はない。
【0007】
真菌又は細菌によるポリ(エステルウレタン)の分解については、多くの刊行物及び特許において記載されている。しかし、分解はほとんどの場合、比較的容易に切断されるエステル結合のみを標的としており、ほとんどの場合、高分子分解の巨視的な観察によってのみ示されている。本発明のようなエステル結合及びウレタン結合の制御された分解は、ここには存在せず、多くは長い分解時間を伴う。これらの刊行物では、ウレタナーゼが一般的に見出される酵素であることは示されるものの、本発明で採用されるような、特定の能力、潜在的な用途、及びそれらの分類の根拠は提供されない(JP09192633、Tang, Y. W., Labow, R. S., Santerre, J. P. (2003) Enzyme induced biodegradation of polycarbonate-polyurethanes: dose dependence effect of cholesterol esterase. Biomaterials 24 (12), 2003-2011、Vega, R. E., Main, T. & Howard, G. T. (1999) Cloning and expression in Escherichia coli of a polyurethane-degrading enzyme from Pseudomonas fluorescens. International biodeterioration & biodegradation, 43, 49-55)。
【0008】
ポリ(エステルウレタン)の酵素的分解の分解プロセスは知られており、その第一段階は、ポリ(エステルウレタン)のみを炭素源として用いてコマモナス・アシドボランス(Comamonas acidovorans)株の培養物からエステラーゼを取得することである。複雑な精製段階でエステラーゼを分離し、バッチプロセスの中でポリ(エステルウレタン)の分解に用いる。これにより、多段階のプロセスにおける長い分解時間がもたらされ、ウレタン結合の特異的な切断は証明されていない(JP09201192、JP10271994)。
【0009】
クチナーゼ、エステラーゼ、及び/又はリパーゼによるポリ(エステルウレタン)の分解については、様々な特許及び刊行物に記載されている。しかし、ここでの分解は、エステル結合の比較的簡単な切断のみを標的としており、ウレタン結合を特異的に標的としているわけではない。さらに、分解の選択的制御のための、エステル結合及びウレタン結合を切断する酵素の具体的な組み合わせは記載されていない。記載されたプロセスにおいては、ウレタン結合の切断はほとんど又は全くもたらされないと推察できる。これは、使用したジアミンを効率的に回収できないことを意味する(EP0968300、米国特許第6 180 381号)。
【0010】
国際公開第2013/134801号には、クラスEC 3の酵素を使用した、ポリエーテルポリオール系芳香族ポリウレタンの分解が記載されている。具体的な酵素の配列は記されておらず、そのため、特定のウレタン結合の分解における、本発明に示されるような、エステル結合の制御された切断及びウレタン結合の別個の切断及びそのプロセスの特異性のいずれも、前掲の特許においては証明されていない。また、ウレタナーゼ活性維持のためのポリマー分解時の混合物におけるpH調節についての記載はない。さらに、位置選択的分解及び脂肪族ポリ(エステルウレタン)の分解のいずれも記載されていない。
【0011】
国際公開第2006/019095号には、ウレタナーゼ、及びタンパク質操作によって得られたこの酵素のバリアントが記載されている。この酵素は、TDA又はMDA系ウレタンオリゴマーを切断することができる。しかしここでは、結合は位置選択的に切断されておらず、エステラーゼとの組み合わせでのポリマーの分解のための適用もない。さらに、GatA若しくはAesファミリー、又は他のいずれの群からの他のウレタナーゼについても記載されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の課題は、ウレタン結合の酵素的切断のために、好ましくはポリウレタンの完全な酵素的分解のために使用することができるさらなる酵素を提供することであった。さらに、ポリウレタンの既定のモノマーへの分解を可能にする酵素的プロセスを提供すべきである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この課題は、特許請求の範囲及び以下の説明に開示された実施形態によって達成される。
【0014】
第1の実施形態において、本発明は、配列番号3、配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号8、配列番号10、及びそのポリペプチドのバリアントからなる群から選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は配列番号7に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、若しくはそのバリアントであって、ウレタナーゼ活性を有することを特徴とするポリペプチドに関する。
【0015】
【0016】
ポリペプチド
用語「ポリペプチド」は当業者によく知られている。それは、ペプチド結合によって互いに連結された少なくとも50個、好ましくは少なくとも70個のアミノ酸の鎖を指す。ポリペプチドは、天然に存在するアミノ酸及び合成アミノ酸の両方を含み得る。それは、公知のタンパク質原性のアミノ酸を含むことが好ましい。
【0017】
配列番号1~5、9、及び10については、それぞれのポリペプチドに存在するアミノ酸のうちの10 %まで、好ましくは5 %までを付加、欠失又は置換することによってバリアントが得られる。配列番号7の好ましいバリアントは、配列番号7で規定されるアミノ酸のうちの5 %までを付加、欠失又は置換することによって得られる。上述のポリペプチドの特に好ましいバリアントは、開示された配列のアミノ酸を20個まで、好ましくは10個まで、より好ましくは5つまで付加、欠失又は置換することによって得られる。配列番号6及び配列番号8の好ましいバリアントは、アミノ酸を3つまで、より好ましくは2つまで付加、欠失又は置換することによって得られる。上述の修飾は、原則として、ポリペプチド中の任意の所望の点において、連続的に、又は不連続的に実行され得る。しかしながら、それらは、ポリペプチドのN末端及び/又はC末端においてのみ実行されることが好ましい。しかしながら、アミノ酸を付加、置換又は欠失させることによって得られる、本発明に係る各バリアントは、本明細書中の以下において規定されるようなウレタナーゼ活性を特徴とする。
【0018】
配列番号3、配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号8、及び配列番号10で規定されるポリペプチドは、現在までに知られているウレタナーゼ活性を有する唯一の酵素、Ureと系統学的に異なった群を形成する(
図1を参照)。対応する活性を有する酵素は、この群からはこれまで知られていなかった。また、このポリペプチド群は、本明細書中の以下において、「Aes様」と称する。
【0019】
ウレタナーゼ活性
用語「ウレタナーゼ活性」とは、ウレタン基の切断を酵素的に触媒するポリペプチドの能力を指す。このプロセスでは、各1モルのウレタン基から、1モルのアミン、1モルのアルコール、及び1モルのCO2が生じる。
【0020】
ウレタン基は、芳香族的に、又は脂肪族的に結合したウレタン基である。芳香族的に結合したウレタン基の場合、窒素原子は芳香族環に直接結合している。脂肪族的に結合したウレタン基の場合、窒素原子はアルキルラジカルに結合している。アルキルラジカルは、好ましくは非分岐であり、少なくとも1つ、より好ましくは少なくとも2つ、最も好ましくは少なくとも3つの炭素原子から構成される。本発明の好ましい実施形態において、ウレタナーゼ活性を有するポリペプチドは、芳香族的に結合したウレタン基を酵素的に切断することができる。
【0021】
ポリペプチドがウレタナーゼ活性を有するかどうかは、適当なモデル基質の切断によって確認することができる。
【0022】
芳香族的に結合したウレタン基を切断する能力のためのモデル基質としては、4-ニトロフェニルカルバミン酸エチル(ENPC)が好ましい。この切断は、4-ニトロアニリンの濃度の増加を決定することによって示される。これは、405 nmの波長での光度測定によって行われることが好ましい。この酵素活性は、好ましくは、100 mMのK2HPO4/KH2PO4を含み、pH 7で、6.25体積%のエタノールを伴い、0.2 mg/LのENPCが基質として存在する反応バッファー中で決定される。反応バッファーのENPCとの酵素のインキュベーションは、好ましくは室温で、好ましくは24時間かけて実施する。
【0023】
【0024】
脂肪族的に結合したウレタン基を切断する能力のためのモデル基質としては、フェネチルカルバミン酸エチル(EPEC)が好ましい。切断は、フェネチルアミンの濃度の増加を決定することによって示される。これはHPLCで行われることが好ましい。使用する反応バッファー及び反応条件は、好ましくは、ENPCについて上記したパラメータに対応する。
【0025】
【0026】
酵素的切断
用語「ウレタン基の酵素的切断」とは、同じ反応条件下において、酵素なしで反応バッファーと共にインキュベートした場合、又は同じ条件下において、不活性ポリペプチドの存在下で反応バッファーと共にインキュベートした場合よりも、ウレタナーゼ活性を有するポリペプチドの存在下で、上記のウレタン基の切断がより迅速に進行することを示す。不活性ポリペプチドの好ましいモデルはウシ血清アルブミンである。もし、それ以外の点では同一であるBSAを用いた対照よりも、試験されるポリペプチドの存在下で、ウレタン基の切断がより迅速に進行する場合には、そのポリペプチドは、本明細書において理解されているようなウレタナーゼ活性を有する。
【0027】
使用
さらなる実施形態において、本発明は、配列番号3、配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号8、配列番号10、及びそのポリペプチドのバリアントからなる群から選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は配列番号7における規定されるアミノ酸配列を有するGatA類似ポリペプチド若しくはそのバリアントの使用であって、前記ポリペプチドが、ウレタン結合の酵素的切断においてウレタナーゼ活性を有することを特徴とする、前記使用に関する。
【0028】
明確に他の定義がされていない限り、上記の全ての定義は本実施形態にも適用される。
【0029】
ウレタンの低分子量の分解生成物への分解
さらなる実施形態において、本発明は、ポリエステル-ポリウレタン(Polyester-Polyurethanen)を低分子量の分解生成物へと分解するためのプロセスであって、
(a)ポリエステル-ポリウレタン中に存在するエステル基を切断するステップ;及び
(b)ウレタナーゼ活性をもつポリペプチドにより、ポリエステル-ポリウレタンに存在するウレタン基を切断するステップ
を含み、
プロセスステップ(a)及び(b)は、順番に、又は並行して実施される、前記プロセスに関する。
【0030】
ウレタナーゼ活性を有するペプチドとして特に適したものは、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、及び10からなる群において規定されるアミノ酸配列、並びに上述の配列と少なくとも90 %の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する本明細書に記載のペプチドである。配列番号3又は7において規定されるアミノ酸配列、及び上述の配列と少なくとも90 %の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するペプチドが、いっそう特に好ましい。
【0031】
したがって、特に好ましい実施形態では、本発明は、ポリエステル-ポリウレタンを低分子量の分解生成物へと分解するためのプロセスであって、
(a)ポリエステル-ポリウレタン中に存在するエステル基を切断するステップ;並びに(b)ウレタナーゼ活性を有し、配列番号1~配列番号10からなる群から選択されるアミノ酸配列、及び上述の配列と少なくとも90 %の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドにより、ポリウレタンを処理するステップ
を含み、
プロセスステップ(a)並びに(b)は、順番に、又は並行して実施される、前記プロセスに関する。
【0032】
好ましくは、プロセスステップ(a)がプロセスステップ(b)の前に実施される。
【0033】
プロセスステップ(a)はリパーゼを用いて実施することが好ましい。このリパーゼは、好ましくは水溶性であり、固定化された形態では存在しない。本明細書において「固定化」とは、水不溶性粒子又は容器の表面への、生命工学において一般に知られているペプチドの結合、特に抗体又は酵素の結合を指す。
【0034】
特に好ましくは、トリブチリンを切断することができるリパーゼが使用される。よりいっそう特に好ましくは、配列番号11若しくは配列番号12において規定されるアミノ酸配列、又は上述の2つの配列のうち1つと少なくとも90 %、好ましくは少なくとも95 %の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつトリブチリンを切断することができるポリペプチドが使用される。プロセスステップ(a)は、採用されたリパーゼが活性を示す反応条件下で実施されることが好ましい。このような条件は、一般的な生化学的方法を用いた日常的な実験によって決定することができる。
【0035】
本発明に係るウレタナーゼ活性を有するポリペプチドは中性範囲で最高の活性を有するため、プロセスステップ(b)は、pH 6.0~10.0、好ましくは6.0~8.0の間で実施することが好ましい。pHは、当業者に公知のあらゆる適切な塩基を用いて調整され得る。
【0036】
用語「ポリエステル-ポリウレタン」は、1以上のポリエステルポリオール及び1以上のイソシアネートから形成されるポリウレタンを指す。ポリウレタンは発泡性又は非発泡性であり得る。好ましくは発泡性である。比表面積を増加させるためには、ポリウレタンを粉砕してからプロセスステップ(a)及び(b)を実施することが好ましい。これは、ポリウレタンを非発泡性の形態で使用する場合に特に好ましい。粉砕は、当業者に常用されるあらゆる方法で、好ましくは、製粉、削り、引き裂き又は裁断により行うことができる。
【0037】
ポリウレタンは、イソシアネート成分として、芳香族、脂肪族又は環状脂肪族のイソシアネートを少なくとも1つ含む。好ましくは、ポリウレタンは芳香族イソシアネートのみを含む。好ましい芳香族イソシアネートは、メチレンジフェニルイソシアネート(MDI)、3つ以上の芳香族環を有するMDIバリアント、ナフチレンジイソシアネート、及びトリレンジイソシアネートである。特に好ましい芳香族イソシアネートは、メチレンジフェニルイソシアネート(MDI)、3つ以上の芳香族環を有するMDIバリアント、及びトリレンジイソシアネートである。3つ以上の芳香族環を有するMDIバリアントは合成副産物であり、ポリウレタンにも存在し得る。分解されるポリウレタンは、特に好ましくは、トリレン2,4-ジイソシアネート及びトリレン2,6-ジイソシアネートを含む。
【0038】
用語「ポリエステルポリオール」は当業者に知られており、1分子当たり平均で少なくとも1.5、好ましくは少なくとも1.8、より好ましくは少なくとも2.0の水酸基を含むポリエステルである。分解されるポリウレタン中に存在するポリエステルポリオールは、特に好ましくは1.5~6.0の官能基を有する。これらは、構造要素として芳香族及び/又は脂肪族ポリオール、並びにまた、芳香族及び/又は脂肪族ポリカルボン酸を任意の組み合わせで含む。
【0039】
ポリエステル系ポリウレタンフォームの低分子量の分解生成物は、分子量が1000 g/mol以下であることが好ましい。これらは好ましくは、
(i)感心あるポリウレタンの生成に使用されるイソシアネートに由来するアミン(例えば、トリレン-2,4-ジイソシアネートの場合、トリレン-2,4-ジアミン);及び
(ii)関心のあるポリウレタンの合成に採用されるポリエステルポリオールの形成のために使用されるアルコール及びカルボン酸
である。
【0040】
本明細書において「ポリオール」とは、少なくとも2つの水酸基を有する任意の化合物を意味するものとして理解される。このポリオールは、分子量が300 g/mol以下であることが好ましい。ポリエステル系ポリウレタンフォームの低分子量の分解生成物である好ましいポリオールは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセロール、1,1,1-トリメチロールプロパン、スクロース、ソルビトール、及びペンタエリトリトールからなる群から選択される。
【0041】
本明細書において「ポリカルボン酸」とは、少なくとも2つのカルボキシ基を含む任意の化合物を意味するものとして理解される。このポリカルボン酸は、分子量が300 g/mol以下であることが好ましい。ポリエステル系ポリウレタンフォームの低分子量の分解生成物である好ましいポリカルボン酸は、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸、テレフタル酸、ベンゼントリカルボン酸、オレイン酸、及びリシノール酸からなる群から選択される。ポリエステル系ポリウレタンフォームの低分子量の分解生成物である特に好ましいポリカルボン酸は、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸、テレフタル酸、及びベンゼントリカルボン酸からなる群から選択される。
【0042】
本明細書において「ポリアミン」とは、少なくとも2つのアミノ基を含む任意の化合物を意味するものとして理解される。前記ポリアミンは、分子量が300 g/mol以下であることが好ましい。ポリエステル系ポリウレタンフォームの低分子量の分解生成物である好ましいポリアミンは、4,4'-メチレンジアミン、2,4'-メチレンジアミン、2,2'-メチレンジアミン、トリレン-2,4-ジアミン、トリレン-2,6-ジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、キシリレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、パラフェニレンジアミン、ブチルジアミン、及びH12-メチレンジアミンからなる群から選択される。さらに好ましくは、ポリアミンは、4,4'-メチレンジアミン、2,4'-メチレンジアミン、2,2'-メチレンジアミン、1,4-ナフチレンジアミン、1,5-ナフチレンジアミン、1,6-ナフチレンジアミン、トリレン-2,4-ジアミン、及びトリレン-2,6-ジアミンからなる群から選択される。特に好ましくは、ポリアミンは、4,4'-メチレンジアミン、2,4'-メチレンジアミン、2,2'-メチレンジアミン、トリレン-2,4-ジアミン、及びトリレン-2,6-ジアミンからなる群から選択される。
【0043】
本発明に係るプロセスは、(i)プロセス自体が穏やかな反応条件下で行われるため、高いエネルギーの投入を必要とせず、(ii)それ自体が貴重な化学原材料である既定の分解生成物が形成されることにより、ポリウレタンのリサイクルが可能になる、という2つの点でポリウレタンの効果的なリサイクルを可能にする。
【0044】
比較すると、ポリウレタンをリサイクルするための現在最も一般的な化学的分解であり、すでに工業的に実用化されている熱的な解糖は、非常に高温で実施される。ここでポリオールの抽出に焦点化すると、アミンは干渉成分として分離されるが、回収はされない。非酵素的加水分解では、ポリオール及びアミンの両方が生成物として得られる。しかし、このプロセスは高温及び高環境圧で実施される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】本出願において開示されるアミノ酸配列の系統学的分析の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下の実施例は、単純に発明を解明する役割を果たすだけである。決して、特許請求の範囲の範囲を限定することを意図したものではない。
【0047】
(実施例)
ENPCを用いた酵素活性の試験
0.2 mg/mlのENPCを、「MTS 2/4」プレートシェーカー(IKA社、シュタウフェン)上において、6.25体積%のエタノールを含むpH 7.0の100mM KH2PO4/K2HPO4中で、900 rpm、室温で24時間かけてインキュベートした。
【0048】
試料をろ過した後、それぞれ100 μLを透明平底96ウェル「UV-Star」プレート(グライナーバイオワン社、フリッケンハウゼン)に移し、405及び480 nmにおける吸光度を決定した。480 nmでの値を測定した場合には4-ニトロアニリンは顕著な吸光を示さないため、両方の波長で高い値が認められた場合、4-ニトロアニリンではなく、405 nmでの吸光度の原因となった別の物質である可能性が高い。
【0049】
ウレタナーゼによる加水分解によって、ほぼ無色のENPCの、4-ニトロアニリン、CO2及びエタノールへの切断が引き起こされ、その結果、「Infinite M1000PRO」マイクロタイタープレート光度計(テカン社、メンネドルフ、スイス)で、405 nmにおいて4-ニトロアニリンが検出される。光度計は、「i-control」ソフトウエア(テカン社、メンネドルフ、スイス)のバージョン3.4.2.0を用いて制御した。4-ニトロアニリンは、「ダブシルアミン(dabsylamin)」法を用いて、HPLCによりさらに検出された。
【0050】
高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)
オートサンプラー、及び紫外線と可視光領域を対象としたDAD(ダイオードアレイ検出器)を搭載した、アジレント・テクノロジー社(サンタクララ、米国)1100シリーズの装置を用いて高圧液体クロマトグラフィーを実施した。全ての測定は、粒径3.5μm、寸法4.6×75 mmの「ゾルバックスXDB-C18」カラム(Agilent Technologies社、サンタクララ、米国)を用いて実施した。全ての方法において、試料5μLを40℃に加温したカラムに注入した。流速は概して1.5 ml/minであった。逆相カラムを使用しているため、全ての方法における溶出は、有機溶媒の濃度を増加して行っている。
【0051】
「ダブシルアミン」法を用いて、ダブシル化脂肪族アミン及びウレタンの検出及び定量を行った。芳香族アミン及びウレタンは、その高い固有吸収により、この方法によって誘導体化せずに定量することが可能である。また、AcNに加え、微生物の増殖から防御するために0.005 %(w/v)のアジ化ナトリウムを添加したpH 7.0の10 mMリン酸ナトリウムバッファーを溶出液として用いた。汚染されたポンプバルブによる圧力障害を防止するために、後から5 %(v/v)のdd H2OをAcNに添加し、前記方法を適用した(「ダブシルアミン95」)。4,4'-MDAとECとの酵素触媒反応から形成されたMDECを定量するために、水性成分を酸性化し、生成されるプロトン化された芳香族アミンを極めて早くに溶出する「ダブシルアミン-12-MeOH」法を用いた。4,4'-MDAとDMCとの反応、2,4-TDAとDMCとの反応、2,4-TDAとECとの反応を調べるために、バッファーの代わりに純粋なdd H2Oを使用する点のみが「ダブシルアミン95」法と異なる「ダブシルアミン95-H2O」法を用いた。「OpenLAB CDS ChemStationLC」ソフトウェア(アジレント・テクノロジー社、サンタクララ、米国)のバージョンA.02.09[017]を用いてデータを分析した。
【0052】
<ダブシルアミン> 溶出液:AcN及び10 mM Na2HPO4/NaH2PO4、pH 7.0
t[分] AcN
0 5
6.5 85
8.0 5
10.0 5
【0053】
<ダブシルアミン95> 溶出液:5 %(v/v)dd H2Oを含むAcN及び10mM Na2HPO4/NaH2PO4、PH 7.0
t[分] % AcN(+5 %(v/v)dd H2O)
0 5
6.5 90
8.0 5
10.0 5
【0054】
<ダブシルアミン-12-MeOH-lang> 溶出液:メタノール及び0.1 %(v/v)メタン酸を含むdd H2O
t[分] % メタノール
0 5
2.5 35
8.0 70
8.5 85
10.0 5
12.0 5
【0055】
【0056】
EPECを用いた酵素活性の試験
試験はENPCについての記載にしたがって実施した。形成されたフェネチルアミンは、上記のようにHPLCによって検出した。
【0057】
【0058】
酵素の系統解析
ウレタナーゼの関連性を示す系統樹は、「MegAlign」ソフトウェア(DNASTAR、マディソン、米国)のバージョン10.1.0を用いて作成した。系統樹は、「ClustalW」を用いてデフォルト設定で作成した。
【0059】
異なるタンパク質のアラインメントは、「Clustal Omega」ソフトウェア(Sievers et al., 2011)を用いて作成した。
【0060】
タンパク質配列のデータベース検索は、BLASTP(Altschul et al., 1990)を用いて実施した。
【0061】
配列決定されたメタゲノム配列におけるオープンリーディングフレーム(ORF)は、NCBIのオンラインアプリケーション「ORF Finder」(Wheeler et al., 2007)を用いて位置を特定した。
【0062】
同一のヒドロラーゼ遺伝子を単一の代表的配列(single representative)に縮減し(reduce)、遺伝子の完全な配列を得るために、全ての配列についてORFを検索した。検索では別の開始コドンも許容した。ここで、pLip214からの遺伝子がaesに類似したN末端領域を含むことが明らかとなったものの、開始コドンは見られなかった。この遺伝子断片は、切断遺伝子であることを説明し得るメタゲノムベクターの挿入物の端には位置していなかった。さらなる解析には、aesに類似しているが開始コドンのないその領域を、この遺伝子の配列として用いた。この同定された推定ウレタナーゼ遺伝子をin silicoで翻訳し、BLASTPを用いてNCBIデータベースと比較した。推定ウレタナーゼは、リパーゼバンクにおけるそれらの番号、及びGatA又はAesとの類似性に基づいて命名した。
【0063】
同定された2つのウレタナーゼ群(GatA及びAes)の個々のメンバーを比較するために、「Clustal Omega」ソフトウェアでそれぞれの場合のアライメントを作成し、さらに、系統樹用に作成した2群の共通のアライメントを用いて、「MegAlign」ソフトウェアで系統樹を作成した。配列比較には文献からの酵素(Ure、Ana、及びNfpolyA)の配列も含まれ、これらは全てGatAと類似性を示した。
【0064】
図1に系統樹を示す。ここでは、2群が異なる枝に位置していることが示され、節点でのブートストラップ値が低いことからわかるように、2群間の類似性は、場合によってはそれほど明確ではない。GatA群内において、この群中の枝の長さが長いことからわかるように、Aes群内よりも大きな差異があると思われる。系統樹においてはその比較的短い枝、BLASTP検索においては類似性が最も高いものとして同じタンパク質が見られることの両方によって明らかなように、特に、Aes70とAes72、並びにAes175とAes214は非常に高い類似性を示した。
【0065】
分解試験用のポリウレタンフォームの生成
1ステッププロセスでのポリウレタンフォームの生成に通常用いられている加工プロセスにより、以下に挙げる出発物質を反応させた。
【0066】
かさ密度は38 kg/m3(2009年10月版 DIN EN ISO 845)、40 %圧縮時の圧縮強度は3.5 kPa(2015年10月版 DIN EN ISO 3386-1)であった。
【0067】
配合:
100部 デスモフェン(Desmophen)2200B
3部 水
19部 デスモジュール(Desmodur)T80
19部 デスモジュールT65
0.7部 N,N'-ジメチルピペラジン
1部 テゴスタブ(Tegostab)8325
【0068】
原材料:
デスモフェン(登録商標)2200B(コベストロドイツAG(Covestro Deutschland AG)社);水酸基価が約60mg KOH/gである、アジピン酸、ジエチレングリコール及び1,1,1-トリメチロールプロパンに基づく分枝ポリエステルポリオール
デスモジュール(登録商標)T80(コベストロドイツAG社);トリレン2,4-及び2-6-ジイソシアネートを約80:20の混合比で含む異性体混合物
デスモジュール(登録商標)T65(コベストロドイツAG社);トリレン2,4-及び2-6-ジイソシアネートを約67:33の混合比で含む異性体混合物
N,N'-ジメチルピペラジン;abcr GmbH社製の触媒
テゴスタブ(登録商標)B 8325;フォーム安定剤、エボニック(Evonik)社製
水;脱イオン水
【0069】
配合は90~115の指数で実行することができる。この指数は、イソシアネート反応性基に対するイソシアネート基のモル比に100を乗じたものと定義される。
【0070】
ポリウレタンフォームの分解
使用した基質は、トリレンジイソシアネートを用いて生成したポリエステルポリウレタンであった。分解は2つの反応ステップで行われた。まず、フォームをリパーゼと共にインキュベートした。産生されたオリゴマーを中和した後、ウレタナーゼを用いてモノマーに切断した。
【0071】
第一ステップでは、pH 7.0のリン酸カリウムバッファーを20 mL及びCalB凍結乾燥物(Chirazyme L2、ロシュ社、バーゼル、スイス)(以下、「配列番号12」という)を約30 mg含む50 mLの遠心チューブにフォームを1 g移し、37℃、200 rpmで5日間かけてインキュベートした。フォーム残留物の断片は「MH2」顕微鏡(オリンパス社、ハンブルク)を用いて、酵素を含まない陰性対照との比較により撮影した。続いて、濁った溶液を、大容量遠心機中で25℃及び4000 rpmで10分間かけて遠心分離した。透明な上清は、1 M NaOHを用いてpH 7.0に調整した。室温で約6時間後、わずかに低下したpH値は7.0になるまで再滴定し、溶液を滅菌ろ過した。可溶性オリゴマーは、使用するまで4℃で保存した。
【0072】
さらなる使用のために、可溶性オリゴマーを1.5 mLの反応容器に移し、DMF 20μL及びそれぞれのウレタナーゼに最適なバッファー(pH 6.0~pH 8.0の範囲でウレタナーゼのそれぞれの至適pHに調整された100 mMリン酸ナトリウムバッファー)150μLと混合した。次に、それぞれに未希釈の精製ウレタナーゼ30μLを添加し、混合物を30℃の加温ブロック上で1000 rpmで振とうした。陰性対照としては、酵素保存バッファーを含む混合物を用いた。3日後、PVDF膜で孔径0.2μmのフィルタープレート(コーニング社、カイザースラウテルン)でバッチをろ過し、形成されたトリレン2,4-及び2-6-ジイソシアネートについて、「ダブシルアミン95」法を用いてHPLCによりろ液を分析した。
【0073】
CalB凍結乾燥物を含む混合物中での反応後にはすでに、フォームは全ての構造を失っており、フォームの小さな粒子を含んだ濁った懸濁液として存在することが、酵素を含まない陰性対照との比較によって、巨視的に明らかであった。実験開始時にフォームによりほぼ完全に吸収されていたバッファーは、後には、分解された粒子の形態のフォーム塊全体を含んでいた。HPLC分析では、形成されたオリゴマーに当たる明瞭なピークが認められたが、トリレンジアミン(TDA)の形成を指し示すピークは認められなかった(データは示さず)。
【0074】
このオリゴマー溶液を全ての発現したウレタナーゼと配列番号12で処理した後、HPLCによってTDAの形成について調べた。配列番号7及び配列番号3を含む混合物について、2,6-TDAの測定量は2つの混合物においてほぼ同等であることが実証され、2,4-TDAの形成は、Enz03を含む混合物においてより顕著であることがわかった。配列番号3では2,4-TDAが0.057 g/L、2,6-TDAが0.025 g/Lであったが、配列番号7では、結果として2,4-TDAが0.0075 g/L、2,6-TDAが0.024 g/L形成された。さらに、他の混合物とは対照的に、これら2つの酵素についてのオリゴマーピークによって、サイズが変化し、概して低減したことが示された。配列番号7の場合、事前の前処理なしでもTDAがポリエステルPUフォームから切断されたが、配列番号3の場合、それは、事前のエステル切断の後に中和されたオリゴマーを提供することによってのみ可能であった。配列番号12による加水分解からのオリゴマーピークとして規定された生成物のピークが、ウレタナーゼによるさらなる処理の後に劇的に小さくなり、それが顕著なTDA形成を伴ったことにより、これらがオリゴマーピークであることが裏付けられた。
【0075】
また、不溶性TDI系ポリエステル-ポリウレタンフォームは、2つの反応ステップの組み合わせによりそのモノマーに切断できることが示された。第一ステップでは、リパーゼCalBを用いて、エステル結合の加水分解を通してPUフォームを前消化した。中和後、遊離したオリゴマーは過剰発現したウレタナーゼの基質としての役割を果たした。これに伴って、ウレタン結合の加水分解が起こり、単量体の形態のTDAの検出が可能となった。
【0076】
結論として、リパーゼを用いたエステル結合の加水分解的切断、オリゴマー溶液の中和、及びその後のウレタン結合の加水分解的切断の組み合わせが、ポリウレタンの既定のモノマーへの完全な分解を可能にすることがわかる。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-05-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル-ポリウレタンを低分子量の分解生成物へと分解するプロセスであって、
(a)ポリエステル-ポリウレタン中に存在するエステル基を切断するステップ;及び
(b)ウレタナーゼ活性を有するポリペプチドにより、ポリエステル-ポリウレタン中に存在するウレタン基を切断するステップ
を含み、
プロセスステップ(a)及び(b)は、順番に、又は並行して実施される、前記プロセス。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0076
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0076】
結論として、リパーゼを用いたエステル結合の加水分解的切断、オリゴマー溶液の中和、及びその後のウレタン結合の加水分解的切断の組み合わせが、ポリウレタンの既定のモノマーへの完全な分解を可能にすることがわかる。
本発明は、例えば以下の実施形態を包含する:
[1]ポリエステル-ポリウレタンを低分子量の分解生成物へと分解するプロセスであって、
(a)ポリエステル-ポリウレタン中に存在するエステル基を切断するステップ;及び
(b)ウレタナーゼ活性を有するポリペプチドにより、ポリエステル-ポリウレタン中に存在するウレタン基を切断するステップ
を含み、
プロセスステップ(a)及び(b)は、順番に、又は並行して実施される、前記プロセス。
[2]前記ウレタナーゼ活性を有するポリペプチドが、配列番号1~配列番号10及び上記配列と少なくとも90 %の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、[1]に記載のプロセス。
[3]プロセスステップ(a)が、プロセスステップ(b)の前に実施される、[1]又は[2]に記載のプロセス。
[4]ポリオール、ポリカルボン酸、及びポリアミンがプロセス生成物として形成される、[1]~[3]のいずれかに記載のプロセス。
[5]4,4'-メチレンジアミン、2,4'-メチレンジアミン、2,2'-メチレンジアミン、1,4-ナフチレンジアミン(Naphthylendiamin)、1,5-ナフチレンジアミン、1,6-ナフチレンジアミン、トリレン-2,4-ジアミン、及びトリレン-2,6-ジアミンからなる群から選択される少なくとも1つのポリアミンが形成される、[4]に記載のプロセス。
[6]エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセロール、1,1,1-トリメチロールプロパン、スクロース、ソルビトール、及びペンタエリトリトールからなる群から選択される少なくとも1つのポリオールが形成される、[4]に記載のプロセス。
[7]コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸、テレフタル酸、ベンゼントリカルボン酸、オレイン酸、及びリシノール酸からなる群から選択される少なくとも1つのポリカルボン酸が形成される、[4]に記載のプロセス。
[8]前記プロセスステップ(a)が、リパーゼを用いて実施される、[1]~[7]のいずれかに記載のプロセス。
[9]前記リパーゼが、配列番号11若しくは配列番号12のアミノ酸配列、又は配列番号11若しくは配列番号12と少なくとも90 %の配列同一性を有する上記配列のバリアントを有する、[8]に記載のプロセス。
[10]配列番号3、配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号8、配列番号10及び前記ポリペプチドのバリアントからなる群から選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は配列番号7に記載のアミノ酸配列を有するGatA類似ポリペプチド若しくはそのバリアントの使用であって、前記ポリペプチドが、ウレタン結合の酵素的切断のためのウレタナーゼ活性を有することを特徴とする、前記使用。
[11]ウレタン基が芳香族的に結合している、[10]に記載の使用。
【外国語明細書】