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特開2024-105271RNASET2により炎症性腸疾患を診断する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105271
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】RNASET2により炎症性腸疾患を診断する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20240730BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240730BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C12Q1/68 ZNA
G01N33/50 P
G01N33/68
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024064882
(22)【出願日】2024-04-12
(62)【分割の表示】P 2022041611の分割
【原出願日】2017-03-17
(31)【優先権主張番号】62/309,817
(32)【優先日】2016-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/457,048
(32)【優先日】2017-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】513268380
【氏名又は名称】シーダーズ―シナイ メディカル センター
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゴンスキー,レベッカ
(72)【発明者】
【氏名】ターガン,ステファン アール.
(72)【発明者】
【氏名】ディーム,リチャード エル.
(72)【発明者】
【氏名】フレッシュナー,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】マクガヴァン,ダーモット ピー.
(72)【発明者】
【氏名】ビルスバラ,ジェニン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】炎症性腸疾患(IBD)、クローン病(CD)、潰瘍性大腸炎(UC)及び/又は医学的に難治性の潰瘍性大腸炎(MR-UC)での処置のために患者を診断及び識別する方法を提供する。
【解決手段】被験体の炎症性腸疾患(IBD)を診断する方法であって、該方法は:被験体からサンプルを得る工程;RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在の有無を判定するのに適したアッセイにサンプルをさらす工程;及びRNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在に基づいて被験体のIBDを診断する工程を含む、ことを特徴とする方法である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の炎症性腸疾患(IBD)を診断する方法であって、該方法は:
被験体からサンプルを得る工程;
RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在の有無を判定するのに適したアッセイにサンプルをさらす工程;及び
RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在に基づいて被験体のIBDを診断する工程
を含む、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
炎症性腸疾患は、クローン病、潰瘍性大腸炎、又は医学的に難治性の潰瘍性大腸炎である、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体は、rs1819333、rs2149092、rs9355610、又はrs2149085である、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体は、rs1819333、rs2149092、rs9355610、rs2149085、rs1410295、又はrs9366093である、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
IBDと診断された被験体は、チオプリン及び抗TNF治療の治療不全を実証する、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
IBDと診断された被験体は、外科的介入を必要とすると判定される、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
外科的介入は腸切除である、ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
RNASET2のメチル化のレベルを判定する工程を更に含み、ここで増加したメチル化は、外科的介入を必要とする被験体を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
処置のために炎症性腸疾患を持つ被験体を識別するプロセスであって、該プロセスは:
RNASET2、TL1A及び/又はIFN-γの発現レベルを判定する工程;及び
処置を必要とする被験体を、RNASET2が減少した及び/又はTL1A及び/又はIFN-γのレベルが増大した被験体として識別する工程
を含む、ことを特徴とするプロセス。
【請求項10】
炎症性腸疾患は、クローン病、潰瘍性大腸炎、又は医学的に難治性の潰瘍性大腸炎である、ことを特徴とする請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
RNASET2のメチル化のレベルを判定する工程、及び、処置を必要とする被験体を、RNASET2メチル化が増加した被験体として識別する工程を更に含む、請求項9に記載のプロセス。
【請求項12】
処置は外科的介入である、ことを特徴とする請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γの発現レベルについての分析に被験体の生物学的サンプルをさらす工程;及び
RNASET2の発現減少、及び/又はTL1A及び/又はIFN-γの発現増加が見出された時に、IBDを持つ被験体を診断する工程
を含む、ことを特徴とする方法。
【請求項14】
炎症性腸疾患は、クローン病、潰瘍性大腸炎、又は医学的に難治性の潰瘍性大腸炎である、ことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
RNASET2のメチル化のレベルを判定する工程を更に含み、ここで増加したメチル化は、外科的介入を必要とする被験体を示す、ことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項16】
RNASET2での1つ以上のリスク変異体の存在の有無を判定するために被験体の生物学的サンプルを評価する工程;及び
RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在が見出された時に、処置を必要とするIBDを持つ被験体を識別する工程
を含む、ことを特徴とする方法。
【請求項17】
炎症性腸疾患は、クローン病、潰瘍性大腸炎、又は医学的に難治性の潰瘍性大腸炎である、ことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体は、rs1819333、rs2149092、rs9355610、及び/又はrs2149085を含む、ことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項19】
RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体は、rs1819333、rs2149092、rs9355610、rs2149085、rs1410295、及び/又はrs9366093を含む、ことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項20】
IBDを持つと識別された被験体は、チオプリン及び抗TNF治療の治療不全を実証する、ことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項21】
IBDを持つと識別された被験体は、外科的介入を必要とすると判定される、ことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項22】
外科的介入は腸切除である、ことを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
RNASET2のメチル化のレベルを判定する工程を更に含み、ここで増加したメチル化は、外科的介入を必要とする被験体を示す、ことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項24】
医学的に難治性の潰瘍性大腸炎(MR-UC)を診断する方法であって、該方法は:
被験体からサンプルを得る工程;
RNASET2での1つ以上のリスク変異体の存在の有無を判定するのに適したアッセイにサンプルをさらす工程;及び
RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在に基づいて被験体のMR-UCを診断する工程
を含む、ことを特徴とする方法。
【請求項25】
RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体は、rs1819333、rs2149092、rs9355610、又はrs2149085である、ことを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項26】
RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体は、rs1819333、rs2149092、rs9355610、rs2149085、rs1410295、又はrs9366093である、ことを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項27】
MR-UCと診断された被験体は、チオプリン及び抗TNF治療の治療不全を実証する、ことを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項28】
MR-UCと診断された被験体は、外科的介入を必要とすると判定される、ことを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項29】
外科的介入は腸切除である、ことを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項30】
RNASET2のメチル化のレベルを判定する工程を更に含み、ここで増加したメチル化は、外科的介入を必要とする被験体を示す、請求項24に記載の方法。
【請求項31】
炎症性腸疾患を持つ被験体のための治療を選択する方法であって、該方法は:
被験体からサンプルを得る工程;
RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在の有無を判定するのに適したアッセイにサンプルをさらす工程;
RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在に基づいて被験体の医学的に難治性の潰瘍性大腸炎(MR-UC)を診断する工程;及び
MR-UCと診断された被験体のための処置としてチオプリン又は抗TNFを選択せず、治療として手術を選択する工程
を含む、ことを特徴とする方法。
【請求項32】
RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体は、rs1819333、rs2149092、rs9355610、又はrs2149085である、ことを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項33】
RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体は、rs1819333、rs2149092、rs9355610、rs2149085、rs1410295、又はrs9366093である、ことを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項34】
RNASET2のメチル化のレベルを判定する工程を更に含み、ここで増加したメチル化は、外科的介入を必要とする被験体を示す、請求項31に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府による資金提供を受けた研究又は開発の記載
本発明は、国立衛生研究所により与えられた登録番号DK043211、DK046763、DK062413、HS021747、AI067068、DE023798、DK084554、RR033176、及びTR000124の下で、政府支援により行われた。政府は本発明に一定の権利を有している。
【0002】
<発明の分野>
本発明は、炎症性腸疾患、及び、疾患の重症度と標的抗TL1A治療のためのバイオマーカーとしてのRNASET2に関する。
【背景技術】
【0003】
本明細書中の全ての刊行物は、あたかも個々の刊行物又は特許出願が参照によって組み込まれるよう具体的且つ個別に示されるかのように、同じ程度まで参照により本明細書に組み込まれるものとする。以下の記載は、本発明を理解するのに役立つ情報を含んでいる。本明細書に提供される情報の何れかが先行技術である又はここで請求される発明に関連するものであること、或いは、具体的又は暗黙に言及されるいずれの刊行物も先行技術であることは、認められるものではない。
【0004】
炎症性腸疾患(IBD)には、クローン病(CD)及び潰瘍性大腸炎(UC)といった2つの一般的な形態があり、これらは消化管の慢性で再発性の炎症性疾患である。アシュケナージ系ユダヤ人におけるIBDの速度増大、IBDの家族的集積、及び二卵性双生児ペアと比較して増大した一卵性双生児ペアにおけるIBDの一致によって証明されるように、遺伝因子がIBDの病因において重要な役割を果たす(S. Vermeire, P. Rutgeerts, Genes Immun 6, 637 (2005))。更に、遺伝子分析はIBDを特定の遺伝子変異体に関連づけた。CDとUCは、幾つかの遺伝的感受性遺伝子座を共有するが他のものとは異なる、関連疾患であると考えられている。
【0005】
IBDは一般的に、共生的なフローラに対する不適当な免疫応答によって遺伝的に敏感な個体に引き起こされると考えられる。CDとUCの高度な臨床的不均一性及び遺伝的複雑性は、疾患を引き起こす(driving)根本的な生物学的経路が患者の亜群においてほぼ確実に異なることを示唆している。故に、早期且つ標的とされた治療の進行は、特に重度の疾患経過と比べて全体的に軽度であると予測する際に、亜群の層別化及び予後のバイオマーカーの識別を必要とする。201 IBD感受性遺伝子座が識別されているが、それらの機能的意義に関してはほとんど知られていない。TNFSF15における遺伝変異は多数の人口におけるCDに関連付けられ、それがコードするタンパク質であるTL1Aは、粘膜の炎症の重要な媒介物質である。TL1A発現は、CDとUCの両方における腸の炎症領域においてアップレギュレートされる。IBD患者において、上昇したTL1Aレベルは、TNFSF15遺伝子型及び疾患の重症度と関連する。TL1Aの血清/組織レベルが上昇したCD患者は、繊維症/狭窄性疾患挙動(stricturing disease behavior)を進行させるリスクを増大した。インビトロで、TL1Aは、インターロイキン12(IL-12)及びインターロイキン18(IL-18)(12/18)と協同して、IFN-γ、即ち粘膜の炎症の別の重要な媒介物質の産生の急速な増強を引き起こす。
【0006】
それ故、IBD、CD、UC、及び/又はMR-UCでの処置のために患者を診断及び識別する方法が、当該技術分野において必要とされたままである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
典型的な実施形態を参照図面において例示する。本明細書に開示される実施形態及び図面は、限定的ではなく例示的なものと考慮されるべきことが、意図されている。
図1】本発明の様々な実施形態に従って、未関与の小腸におけるRNASET2 eQTLマイクロアレイを表す。
図2】本発明の様々な実施形態に従って、RNASET2のメジャーアレルがCD患者のS状結腸及び直腸におけるRNASET2の発現減少に関連することを示す。
図3】本発明の様々な実施形態に従って、RNASET2のメジャーアレルがUC患者のS状結腸及び直腸におけるRNASET2の発現減少に関連することを示す。
図4】本発明の様々な実施形態に従って、RNASET2のリスクアレルがUC患者の炎症を受けた大腸におけるRNASET2の発現減少に関連することを示す。同様の結果がrs1819333について観察された。
図5】本発明の様々な実施形態に従って、RNASET2のメジャーアレルがCD手術からの小腸におけるRNASET2のRNASET2発現減少に関連することを示す。
図6】本発明の様々な実施形態に従って、EBVにより形質転換したB細胞株におけるRNASET2 eQTLを表す。メジャーアレルは、EBVにより形質転換したB細胞株における低レベルのRNASET2 mRNA発現に関連付けられる。
図7】本発明の様々な実施形態に従って、IL-12、IL-18、及び/又はTL1A、並びに処置の後のRNASET2発現を表す。
図8-1】本発明の様々な実施形態に従って、CD患者におけるRNASET2発現を表す。A)1年当たりの多発性疾患の再燃が無い又は1つある患者におけるRNASET2発現。B)疾患管理のために外科的介入を必要とする又は手術を必要としない、医学的に難治性の患者におけるTL1A処置後のRNASET2発現。
図8-2】本発明の様々な実施形態に従って、CD患者におけるRNASET2発現を表す。C)追加のデータサンプルを包含する、32人のCD患者における1年当たりの疾患再燃に基づくRNASET2発現。
図9】本発明の様々な実施形態に従って、RNASET2リスクアレルを持つIBD患者におけるRNASET2の発現減少を示す。
図10】本発明の様々な実施形態に従って、CD及びUCの患者におけるRNASET2メチル化対GWAS p値を表す。
図11】本発明の様々な実施形態に従って、難治性IBDにおけるRNASET2のeQTLを表す。Illumina発現アレイを使用した、疾患管理のための外科的介入を必要とする11人のCD患者及び10人のUC患者からのCD3+末梢性T細胞からのRNASET2 SNP(rs2149085、rs1819333、及びrs9355610)。
図12】本発明の様々な実施形態に従って、Agilent発現アレイを使用した、85人のCD患者のCD小腸(回腸)の外科的切除におけるRNASET2のeQTLを表す。
図13-1】本発明の様々な実施形態に従って、難治性IBDにおけるRNASET2のmQTLを表す。A)難治性IBDにおけるRNASET2のmQTL。B)標準又は軽度の疾患患者におけるRNASET2のmQTL。
図13-2】本発明の様々な実施形態に従って、難治性IBDにおけるRNASET2のmQTLを表す。C)疾患管理のために外科的介入を必要とする難治性疾患を持つ20人のCD患者からの、CD3+末梢性T細胞のmQTL(cg25258033)。D)追加のデータサンプルを包含するIBD治療に応答した16人の患者と9人の標準の対照からの、CD3+末梢性T細胞のmQTL(cg25258033)。
図14A】本発明の様々な実施形態に従って、難治性又は軽度の疾患を持つ患者におけるRNASET2にわたるeQTL及びmQTLのマッピングを表す。難治性又は軽度の疾患を持つ患者におけるRNASET2にわたるeQTL及びmQTL。
図14B】本発明の様々な実施形態に従って、難治性又は軽度の疾患を持つ患者におけるRNASET2にわたるeQTL及びmQTLのマッピングを表す。追加のデータサンプルを包含する難治性又は軽度の疾患を持つ患者(通常の患者を含む)からの周辺及び粘膜の区画両方からのCD3+T細胞を使用して計算されるeQTL及びmQTL。
図15】本発明の様々な実施形態に従って、IL-12、IL-18、及び/又はTL1Aで刺激されたCD4+T細胞の選別及びIFNγ発現を表す。4つのドナー(D1-4)から8時間にわたる、組み換え型のヒトIL-12(500pg/ml)及びIL-18(50ng/ml)及びTL1A(100ng/ml)で刺激されたCD4+T細胞に関する、側方散乱対IFN-γのヒストグラム。
図16】本発明の様々な実施形態に従って、中心とされた相関性及び平均連結法を使用した、階層的クラスタリングのデンドログラムを表す。
図17】本発明の様々な実施形態に従って、発現レベルに基づいてIFNγを分泌する及び分泌しない亜群を分類する、分類予測解析を表す。764の予測遺伝子のヒートマップ。
図18】本発明の様々な実施形態に従って、GWAS対他の領域において増大した、差次的に発現される遺伝子の比率を表す。
図19】本発明の様々な実施形態に従って、T細胞における183の転写されたIBD関連SNP領域を表す。
図20】本発明の様々な実施形態に従って、IBDリスク予測遺伝子の分類予測因子GWAS転写のボルケーノプロットを表す。
図21A】本発明の様々な実施形態に従って、RNASET2のサイレンシングがIFN-γの分泌を増強することを示す。RNASET2 siRNAによるRNASET2の阻害。対照のスクランブルされたsiRNAと比較した、RNASET2 siRNAでトランスフェクトされた細胞(cellos)におけるIFN-γ発現の増強。
図21B】本発明の様々な実施形態に従って、RNASET2のサイレンシングがIFN-γの分泌を増強することを示す。IFN-γの分泌に対するRNASET2サイレンシングの効果。対照のスクランブルされたsiRNAと比較した、RNASET2 siRNAでトランスフェクトされた細胞におけるIFN-γ発現の増強。
図22】本発明の様々な実施形態に従って、IFN-γ及びRNASET2の発現の逆相関を実証する。
図23】本発明の様々な実施形態に従って、21人のIBD患者におけるCD3+T細胞(第1のイントロン内に1.4kbで位置付けられる、cg25258033)のRNASET2のメチル化及び発現の負の相関を実証する。
図24A】本発明の様々な実施形態に従って、RNA-seqを使用した、疾患管理のために外科的介入を必要とする難治性患者からのCD3+T細胞におけるRNASET2及びTNFSF15の発現の相関を表す。難治性CDにおけるRNASET2対TL1Aの相関性。
図24B】本発明の様々な実施形態に従って、RNA-seqを使用した、疾患管理のために外科的介入を必要とする難治性患者からのCD3+T細胞におけるRNASET2及びTNFSF15の発現の相関を表す。38人のCD患者からのCD3+末梢性T細胞におけるRNASET2及びTNFSF15の発現の相関を表す。
図24C】本発明の様々な実施形態に従って、RNA-seqを使用した、疾患管理のために外科的介入を必要とする難治性患者からのCD3+T細胞におけるRNASET2及びTNFSF15の発現の相関を表す。100人のCD患者からのデータを表す。
図24D】本発明の様々な実施形態に従って、RNA-seqを使用した、疾患管理のために外科的介入を必要とする難治性患者からのCD3+T細胞におけるRNASET2及びTNFSF15の発現の相関を表す。138人の患者からの組み合わされたデータを表す。
図25】本発明の様々な実施形態に従って、RNASET2対A)PU.1及びB)ELF1の相関発現を表す。リスクSNP rs2149092 C/T(SEQ ID NO:2)は、IRF4、PU.1及びELF-1の結合部位を無効にする。C-非-リスク及びT=リスクアレル。
図26】本発明の様々な実施形態に従って、21人のIBD患者における100kbのRNASET2の転写開始部位内に位置する発現及びメチル化の相関性を表す。
図27】本発明の様々な実施形態に従って、CD4+T細胞のIFN-γ産生レベル及び非産生レベルのIFN-γ発現を表す。
図28】本発明の様々な実施形態に従って、RNASET2遺伝子座上でのGWAS p値とeQTL p値の相関性を表す。GWAS p値は18729人のCD及び34897人の対照からのデータに基づく。eQTL p値は、疾患管理のために外科的介入を必要とする、難治性疾患を持つ71人のCD患者のためのRNASET2の遺伝子型判定及びRNA-seqに基づく発現に基づいている。
図29】本発明の様々な実施形態に従って、IFN-γ分泌に対するRNASET2サイレンシングの効果を表す。RNASET2に特異的なsiRNAによるRNASET2発現の阻害は、全ての試験において50%より上であった。
図30】本発明の様々な実施形態に従って、ASCA血清陽性とのRNASET2の発現減少の関連付けを表す。
図31】本発明の様々な実施形態に従って、浸潤性疾患とのRNASET2の発現減少の関連付けを表す。モントリオール疾患分類(B1、B2、及びB3)に基づいた71人のCD患者に関するRNA-seqによるRNASET2の発現。
図32】本発明の様々な実施形態に従って、RNASET2疾患関連SNPを持つ患者が再手術までの時間が短かったことを示していることを表す。手術間の時間は、多数の手術を受けた154人のCD患者に関するIBDリスクSNP rs9355610(SEQ ID NO:3)のための輸送に基づく。
図33】rs2149092 SNP(SEQ ID NO:2)がDNA形状を変更することを表す。
図34】本発明の様々な実施形態に従って、RNASET2対Ets1発現の相関性を表す。
図35】rs2149092 SNP(SEQ ID NO:2)がEts1結合部位にてDNA形状を歪めることを表す。
図36-1】本発明の様々な実施形態に従って、RNASET2疾患関連変異体rs2149092(SEQ ID NO:2)の潜在的な調節的機能の識別、RNASET2変異体rs2149092(C-非リスクアレル/T-リスクアレル)の予期される調節性の役割を表す。A)ETS及びIRF4の転写因子に関する結合モチーフにおけるrs2149092のCからTへの変位の予測される破壊。変異体モチーフにおける中心ETSが強調される。B)ETS1、IRF4、及びSPI1の転写因子結合のためのCHIP-seq及びヒストン修飾プロファイル、及び、rs2149092変異体を囲むゲノム配列と位置合わせされるヒストンH3K4me1及びH3K4ac。
図36-2】本発明の様々な実施形態に従って、RNASET2疾患関連変異体rs2149092(SEQ ID NO:2)の潜在的な調節的機能の識別、RNASET2変異体rs2149092(C-非リスクアレル/T-リスクアレル)の予期される調節性の役割を表す。C)RNA-seqを使用した、疾患管理のために外科的介入を必要とする108人のCD患者からのCD3+末梢性T細胞におけるRNASET2及び多数のETS、並びにJUN転写因子の発現の相関。
図37-1】本発明の様々な実施形態に従って、IFN-γ分泌及び細胞凝集に対するRNASET2サイレンシングの効果を表す。A)RNASET2又は対照(NC)siRNAによるRNASET2発現のサイレンシング。B)IFN-γの分泌に対するRNASET2サイレンシングの効果。パネルA及びBは、同様の結果が伴う7つの試験(図29)のうちの6つを表す。
図37-2】本発明の様々な実施形態に従って、IFN-γ分泌及び細胞凝集に対するRNASET2サイレンシングの効果を表す。C)CD4+T細胞は処理されない(UT)。または、D)CD4+T細胞は24時間TL1Aで刺激された。細胞内のIFN-γ染色及び細胞凝集は、フローサイトメトリーにより測定された。細胞は、IFN-γを分泌する及び分泌しない集団(左のパネル)上でゲートされ(gated)、次にヨウ化プロピジウム(PI)を使用して、単一及び凝集した細胞分画(ヒストグラム、右のパネル)について分析した。各ヒストグラムにおける第1のピークは単細胞(黒い丸括弧)に想到し、残りのピークは細胞凝集体(灰色の丸括弧)に相当する。4つの実験を表す。
図37-3】本発明の様々な実施形態に従って、IFN-γ分泌及び細胞凝集に対するRNASET2サイレンシングの効果を表す。E)TL1A刺激後の、IFN-γを分泌する(IFN-γ+)及び分泌しない(IFN-γ-)集団における、単細胞及び細胞凝集体の比率。F)本発明の様々な実施形態に従って、IFN-γ分泌及び細胞凝集に対するRNASET2サイレンシングの効果を表す。IFN-γ分泌細胞の数の倍率増加(4つの実験の平均)。G)CD4+T細胞は、TL1A刺激の前に対照IgG又はLFA1遮断抗体(aLFA1)で前処理された。ELISAにより測定された、IFN-γ分泌のLFA1を媒介とした遮断に関する全体的なp値は、0.047であった。
図38】本発明の様々な実施形態に従って、チオプリン又は抗TNF治療の治療不全、ANCA血清陽性、及び長時間の腸切除術を伴う手術時の、RNASET2疾患リスク変異体SNPの関連性を表す(データは表18に要約する)。
図39】本発明の様々な実施形態に従って、術後の予防処置を受けていなかった38人の患者における疾患再発を伴う、RNASET2疾患リスク変異体SNPの関連性を表す。手術後の内視鏡検査を行い、Rutgeertsスコアによって分類した。(データは表18に要約する)。
図40】RNASET2遺伝子座の組織特異的な機能注解を表す。REMCからのH3K4me3、H3K4me1、及びRNAseqのデータのヒートマップ。
図41】RNA-seqを使用した、難治性疾患を持つ108人のCD患者からのCD3+末梢性T細胞における、RNASET2発現と多数のETS及びIRF4転写因子との相関を表す。
図42】本発明の様々な実施形態に従って、対照(NC)又はRNASET2 siRNAでのサイレンシングの後の、未処置の細胞に対するCD4+T細胞の示された遺伝子のタンパク質発現を例示するヒートマップを表す。結果は4人の健康なドナーから得られる。右の列は、IFN-γを分泌しないCD4+T細胞と比較した、IFN-γを分泌するCD4+T細胞における差次的遺伝子発現を表す。
図43】本発明の様々な実施形態に従って、IgG ASCA血清陽性(左のパネル)、抗TNFの手術前の治療不全(中央のパネル)、又はチオプリン(右のパネル)に基づいた、71人のCD患者に関するICAM1発現のレベル(RNA-seqにより測定される)の臨床的疾患パラメータを表す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書で引用される全ての引用文献は、あたかも完全に明記されているかのように参照によって全体が組み込まれる。RNASET2に関連する配列も、あたかも開示されたrs番号を介して完全に明記されているかのように、参照によって全体が組み込まれる。他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野における当業者により共通して理解されるのと同じ意味を有する。Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 3rd ed., Revised, J. Wiley & Sons (New York, NY 2006);及びSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual 4th ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (Cold Spring Harbor, NY 2012)は、当業者に、本出願で使用される用語の多くに関する一般的な指針を提供する。抗体を調製する方法に関する参照については、D. Lane, Antibodies: A Laboratory Manual 2nd ed. (Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor NY, 2013); Kohler and Milstein, (1976) Eur. J. Immunol. 6: 511; Queen et al. の米国特許第5,585,089号; Riechmann et al., Nature 332: 323 (1988); Bird, Science 242:423-42 (1988); Tomlinson I. and Holliger P. (2000) Methods Enzymol, 326, 461-479; Holliger P. (2005) Nat. Biotechnol. Sep;23(9):1126-36)を参照。
【0009】
当業者は、本発明の実施の差異に使用され得る、本明細書に記載されるものと同様又は同等の多くの方法及び物質を認識している。実際、本発明は、記載される方法及び物質には全く限定されていない。本発明の目的ために、次の用語が、以下で定義される。
【0010】
本明細書で使用されるような「生物学的サンプル」の非限定的な例は、核酸及び/又はタンパク質を得ることができる任意の生体サンプルを意味する。非限定的な例として、この用語は、全血、末梢血、血漿、血清、唾液、粘液、尿、精液、リンパ液、糞の抽出物、頬の採取物(cheek swab)、細胞、或いは、外科的生検又は外科的切除を介して得られた組織を含むがこれに限定されない他の体液又は組織を包含する。代替的に、サンプルは、主要な患者由来の細胞株、或いは、保存されたサンプルの形の収録された患者サンプル、又は新鮮な凍結サンプルを介して得ることができる。
【0011】
本明細書に使用されるような「処置」及び「処置すること」は、治療上の処置及び予防手段又は防止手段の両方を指し、その目的は、標的とされた病理的疾病を予防又は遅延(和らげる)すること、病理的疾病を予防すること、優れた全生存を追求する又は獲得すること、或いは、処置が最終的に成功しなかった場合であっても個体が前記疾病を進行させる可能性を下げることである。処置を必要性とする者には、既に疾病を抱える者に加えて、疾病を抱える傾向がある者、又は疾病が予防されるべき者が挙げられる。
【0012】
本明細書で使用されるような「SNP」は一塩基多型を意味する。
【0013】
本明細書で使用されるような「リスク変異体」は、リスク変異体を持たない個体と比べた、クローン病、潰瘍性大腸炎、及び医学的に難治性の潰瘍性大腸炎を含むがこれらに限定されない炎症性腸疾患に対する感受性の増大にその存在が関連付けられるアレルを指す。
【0014】
本明細書で使用されるような「IBD」、「CD」、「UC」、及び「MR-UC」はそれぞれ、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、及び医学的に難治性の潰瘍性大腸炎を指す。
【0015】
本明細書で使用されるように「IBD」は、「CD」、「UC」、及び/又は「MR-UC」を含む。
【0016】
本明細書で使用されるように、「ANCA」は抗好中球細胞質抗体を意味する。
【0017】
本明細書で使用されているように、「OmpC」は外部膜タンパク質Cを意味する。
【0018】
本明細書で使用されるように、「eQTL」は発現量的形質遺伝子座を意味する。
【0019】
本明細書で使用されるように、「mQTL」はメチル化量的形質遺伝子座を意味する。
【0020】
RNASET2 SNPの非限定的な例は、rs1819333、rs2149092、rs9355610、rs2149085、rs1410295、及びrs9366093である。
【0021】
本明細書には、患者集団における疾患の重症度のバイオマーカーとしてRNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γを使用し、且つ抗TL1A治療のために患者集団を選択する、炎症性腸疾患を診断する方法が記載される。更に、これら患者集団を処置する方法が記載される。
【0022】
RNASET2(リボヌクレアーゼT2)は細胞外RNアーゼをコードするものであり、且つ、酸性pHにおいてのみ活性である酸リボヌクレアーゼ(酸加水分解)のヒトRh/T2/Sファミリーの唯一のメンバーである。RNASET2の最適活性はpH5にあり、且つポリA及びポリUの優先的な切断がある。これは、触媒機能を持つ2つの領域を含み、アデニル酸、続いてグアニル酸の近くの優先的な切断を実証する。3つのアイソフォームが、RNASET2、27KD、31KD、及び36KDのアイソフォームについて検出された。27KDと31KDのアイソフォームは、36KDアイソフォームのタンパク質分解切断に起因すると考えられる。3つのアイソフォームは全てグリコシル化される。細胞下分画は、完全長のRNASET2が小胞体に位置し、2つのより小さなRNASET2タンパク質分解産物がリソソーム分画に位置することを明らかにする。RNASET2はウイルスからヒトまでの門の中で高度に保存され、このことは重要な進化論的な機能を示唆している。
【0023】
TL1A(TNFSF15)は、免疫複合体による刺激の後、又は腸内微生物との相互作用を介して、単球、マクロファージ、及び樹状細胞などの免疫系の活性化細胞上で主に発現される腫瘍壊死因子のファミリーメンバーである。TL1A発現は、炎症性腸疾患において増強され、より高いTL1Aレベルは疾患の重症度に関連付けられる。ゲノムワイド関連解析(GWAS)は、IBDに関連付けられるTNFSF15 SNPを識別した。中和TL1A抗体がマウス大腸炎モデルにおける大腸炎を減らし、一方で構成的TL1A発現が、悪化したマウス回盲部炎症及び腸の線維性狭窄を表すことが、研究により示された。
【0024】
IFN-γは、IBDでの粘膜炎症の生成及び持続永続において重要な役割を果たす。TL1Aは、PB T細胞のIL-12/IL-18媒介性のIFN-γ分泌を増大する。
【0025】
発明者は、RNASET2、即ちIBD感受性遺伝子を、IFN-γ産生のTL1A媒介性の増強の要素であると識別する。更に、RNASET2の機能的な変異体は、1つ以上の疾患の再燃及び狭窄性/浸潤性疾患の挙動によって特徴付けられたより「重度の」CD表現型に関連付けられる。どんな特定の理論にも縛られることなく、発明者は、RNASET2が、重度の疾患の病理生物学に関連付けられる治療上のバイオマーカーとして機能し、且つ、TL1Aにより引き起こされる炎症性経路へと標的とされた治療から利益を得るであろう、患者集団の識別を可能にする。TNFSF15疾患関連変異体は、TL1Aの増大され且つ持続された発現に関連している。TNFSF15は、IBD関連遺伝子としてGWASにおいて識別且つ確認され、腸炎症の位置及び重症度の調節の他、狭窄性疾患の進行において役割を果たすと考えられる。TL1Aの構成的発現を伴うトランスジェニックマウスは、回腸及び結腸の繊維症と共に腸の炎症を進行させ、これは抗TL1A処置により逆転された。UCには、医学的に難治性の疾患の進行とTL1A遺伝子座の発現との間に強固な関連性がある。TL1AはIBDの病因に関連した重要な炎症促進性サイトカインであるが、増強されたサイトカイン分泌及び炎症の基礎となる分子経路はあまり理解されていなかった。本明細書に記載されるように、発明者は、T細胞においてサイトカイン発現を誘導するTL1A依存性の分子のトリガー、具体的にはIFN-γを調べた。この方法は、IFN-γ産生のTL1A媒介性の増強の要素としてRNASET2の下方調節を識別した。
【0026】
発明者は、CD患者から単離されたT細胞における発現減少及び過剰メチル化を伴うRNASET2疾患リスクSNPの機能的会合の他に、複雑な/抵抗性の疾患の挙動及び疾患の急速な再発を示唆する臨床的パラメータとの関連性を実証する。発明者は、RNASET2発現を調整する際のETS TFの制御力、及び、IFN-γ産生のRNASET2媒介性のアップレギュレーションの要素としてICAM1を介した同型T細胞凝集の関与を示す。データは、潜在的な治療上のバイオマーカーとしてRNASET2を見分け、且つ、定義されたIBD集団内の追加の治療上の変化について固有の経路を識別する。
【0027】
発明者は、IBD患者において、RNASET2とTNFSF15の発現間に有意な逆相関があることを見出した。加えて、発明者は、DNA過剰メチル化とRNASET2の発現減少との間の機能的会合を実証する。
【0028】
発明者は、末梢性T細胞及び小腸の外科的切除から単離されたサンプルにおけるGWASを通じて識別されたRNASET2 IBDリスクアレルとの有意なeQTLの重複があることを見出した。有意なRNASET2 eQTL(rs429083)は、全体の胸腺組織サンプルにおける自己免疫関連リスク変異体を測定した最近のレポートに記載されている。同様に、このSNPは、データにおいて最も有意なeQTLを実証した。更に、研究は、RNASET2の発現レベルの減少が、複雑且つ抵抗性の疾患を示唆する臨床的パラメータを持つCD患者において関連していたという、臨床的に関連する証拠を提供している。著しくは、RNASET2疾患リスクSNPを持つCD患者は、狭窄性/浸潤性疾患の挙動の発達の増大を表示した。RNASET2発現は、1年につき1つ以上の疾患炎を示すCD患者から単離されたT細胞において、有意に少ないものである。同様に、RNASET2発現は、小腸粘膜サンプルの他、疾病管理のために外科的介入を必要とする医学的に難治性のCD患者(11人のうち9人が抗TNF治療に反応しなかった)からの末梢サンプルにおいて減少する。発見と一貫して、最近の研究は、抗TNF治療に耐性のある患者の全血における有意なRNASET2 eQTLを報告した。更に、RNASET2疾患関連SNPは、抗TNF治療の治療不全、及び、全体的な疾患重症度の>40cmの臨床的特徴の腸切除と関連した。多数の切除の履歴のある患者において、RNASET2疾患リスクSNPは、再手術までのより速い時間に関連付けられた。同様に、RNASET2疾患関連SNPは、患者において、より重度(>2)のRutgeertsスコアによって特徴付けられる内視鏡的再発に関連しており、これは特定の理論に縛られることなく、早い臨床的再発及び再手術の必要性について予測的となり得る。
【0029】
RNASET2発現を調整する転写調節領域及び結合因子は、同様に乏しく定義される。GWASにより識別された、大多数の疾患関連変異体は、プロモーター配列又はエンハンサー配列に相当する調節性非コード領域内に存在する。特定の理論に縛られることなく、研究は、転写因子結合部位の破壊を介した転写調節の変更が疾患プロセスにおいて役割を果たし得ることを示唆する。本研究において、発明者は、eQTL及びmQTLを実証する多くの変異体から、予測的な調節性SNPの優先順位を付け且つそれを識別するために、TFモチーフ分析を利用した。rs2149092疾患関連SNPは、保存されたETSコンセンサス結合配列を変更し、IRF4、SPI1、及びELF1を含む、多数の重なり合うTF結合部位の結合を恐らく妨害する。更に、RNASET2発現のレベルとETS及びJUN TFのファミリーメンバーとの間に強固な正の相関が存在する。興味深いことに、IRF4、SPI1、及びELF1はT細胞の発達に関係し、IRF4とELF1はGWASによりIBDと関連付けられた。特定の理論に縛られることなく、これらのデータは、TF-DNAの相互作用のモジュレーターとしてrs2049092についての機能的役割を支持するものであり、且つ、TL1Aが疾患におけるRNASET2の発現を減らす機構経路を判定するための将来の研究の準備を行う。
【0030】
本研究において、発明者は、RNASET2と細胞接着分子であるICAM1との間の機能関係について記載している。TL1Aに応じて増強されたIFN-γ分泌は、一方ではRNASET2発現の減少を、他方ではICAM1レベルの増加を伴う。TL1A媒介性のIFN-γ分泌は、ICAM1-LFA1の相互作用のAb遮断により阻害された。ICAM1-LFA1の結合は内皮細胞とT細胞との間に生じるものとして古典的に定義されるが、これらの相互作用はごく最近、活性化T細胞の同型細胞凝集を媒介する際に重大な役割を果たすと示されている。同型T-T凝集体は、1つのT細胞から別のT細胞へのIFN-γ及びIL2のシナプスベースのサイトカイン送達を促進し、IL-2受容体ライゲーション及びその後のSTAT5リン酸化を結果としてもたらすことが示されている。発明者は、増強された細胞の凝集がIFN-γ産生細胞の証(hallmark)であり、TL1A刺激が細胞凝集体の数と大きさを増大させることを実証する。特定の理論に縛られることなく、これらの発見は、IFN-γ分泌を下流に調整するためにRNASET2がインテグリンシグナル経路を通って作用し得ることを示唆している。
【0031】
結論として、発明者は、2つのIBD感受性遺伝子であるTNFSF15とRNASET2との間に、新たな機能的且つ生物学的な関係を識別した。発明者は、RNASET2発現の減少が、活性化T細胞によるTL1Aで引き起こされる炎症促進性サイトカインの産生に機能的に関係し、且つRNASET2 IBD感受性変異体に機能的に関連するという証拠を提供する。同様に、本研究は、RNASET2発現の減少とIBD炎症のより重度の形態との関連性を実証し、これは、特定の理論に縛られることなく、TL1A媒介性経路によって引き起こされる疾患病状の根底をなすと考えられるものである。RNASET2の発現減少及び後成的なDNAメチル化の変更は、より重度の疾患表現型を持つIBD患者の亜群を特徴づける。発明者は、CD患者から単離されたT細胞における発現減少及び過剰メチル化を伴うRNASET2疾患リスクSNPの機能的会合の他に、複雑な/抵抗性の疾患の挙動及び疾患の急速な再発を示唆する臨床的パラメータとの関連性を実証する。発明者は、RNASET2発現を調整する際のETS TFの制御力、及び、IFN-γ産生のRNASET2媒介性のアップレギュレーションの要素としてICAM1を介した同型T細胞凝集の関与を示す。データは、潜在的な治療上のバイオマーカーとしてRNASET2を見分け、且つ、定義されたIBD集団内の追加の治療上の変化について固有の経路を識別する。故に、RNASET2発現は、現行の処置戦略に反応しない患者集団を識別する、炎症のより重度の形態の新たな疾患バイオマーカーとして役立ち、前記患者集団は、代替的なRNASET2媒介性の治療方法から利益を得ることもある。
【0032】
本明細書に開示されるように、発明者は、IBD患者のコホートにおけるRNASET2関連SNPを識別した。発明者は、CD患者のコホートにおけるRNASET2関連SNPを識別した。発明者は、UC患者のコホートにおけるRNASET2関連SNPを識別した。発明者は、MR-UC患者のコホートにおけるRNASET2関連SNPを識別した。SNPは、疾患の場所、疾患の挙動、及び手術の必要性に関連付けられる。発明者は更に、IBDの患者のコホートにおける疾患の重症度及び関連するRNASET2リスクSNPのためのバイオマーカーとして、RNASET2を識別した。RNASET2は、CDの患者のコホートにおける疾患の重症度及び関連するRNASET2リスクSNPのためのバイオマーカーとして識別される。RNASET2は、UC患者のコホートにおける疾患の重症度及び関連するRNASET2リスクSNPのためのバイオマーカーとして識別される。RNASET2は、MR-UC患者のコホートにおける疾患の重症度及び関連するRNASET2リスクSNPのためのバイオマーカーとして識別される。加えて、発明者は、RNASET2、TL1A発現とIFN-γ分泌との相関性を実証する。
【0033】
本発明は、これらの発見に少なくとも部分的に基づく。本発明は、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γを使用して、IBDを持つ患者を診断し且つ処置を必要とする患者を識別する方法に関する、当該技術分野での必要性に対処する。本発明は更に、患者の識別及び/又は層別化のためのプロセスを提供する。
【0034】
<診断>
本発明の様々な実施形態は、被験体の炎症性腸疾患(IBD)を診断する方法を提供し、該方法は:被験体からサンプルを得る工程;RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在の有無を判定するのに適したアッセイにサンプルをさらす工程;及びRNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在に基づいて被験体のIBDを診断する工程を含む。幾つかの実施形態において、炎症性腸疾患は、クローン病、潰瘍性大腸炎、又は医学的に難治性の潰瘍性大腸炎である。様々な実施形態において、RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体は、rs1819333、rs2149092、rs9355610、rs2149085、rs1410295、又はrs9366093である。様々な実施形態において、本明細書に記載されるような2、3、4、5、又は6つのRNASET2リスク変異体が存在する場合、被験体はIBDと診断される。様々な実施形態において、rs2149085のリスクアレルはTアレルである。様々な他の実施形態において、RNASET2リスク変異体は、RNASET2リスク変異体rs429083、及び、rs1819333、rs2149092、rs9355610、rs2149085、rs1410295、rs9366093、及びそれらの組み合わせから成る群から選択されたRNASET2リスク変異体である。様々な他の実施形態において、RNASET2リスク変異体は、表2、3、4、5、6、7、8、9、10、及び13におけるRNASET2リスク変異体のうち1つ以上、及び、rs1819333、rs2149092、rs9355610、rs2149085、rs1410295、rs9366093、及びそれらの組み合わせから成る群から選択されたRNASET2リスク変異体である。様々な他の実施形態において、RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体は、rs1819333、rs2149092、rs9355610、又はrs2149085である。様々な実施形態において、本明細書に記載されるような2、3、又は4つのRNASET2リスク変異体rs1819333、rs2149092、rs9355610、又はrs2149085が存在する場合、被験体はIBDと診断される。他の実施形態において、サンプル中の多くのリスク変異体の存在は、被験体が処置を更に必要としていることを示す。幾つかの実施形態において、RNASET2リスク変異体の検出は、被験体の処置の必要性を示す。また他の実施形態において、被験体は、抗TL1A治療を必要としていると識別される。様々な実施形態において、IBDと診断された被験体は、チオプリン及び抗TNF治療の治療不全を実証する。様々な他の実施形態において、IBDと診断された被験体は外科的介入を必要とすると判定される。幾つかの実施形態において、外科的介入は腸切除である。
【0035】
【表1】
【0036】
他の実施形態において、本明細書に記載される被験体の炎症性腸疾患(IBD)を診断する方法は、RNASET2、TL1A及び/又はIFN-γの発現レベルを判定する工程を含む。幾つかの実施形態において、RNASET2が減少し、及び/又はTL1A及び/又はIFN-γのレベルが増大した被験体は、IBDと診断される。様々な実施形態において、炎症性腸疾患はクローン病である。様々な実施形態において、炎症性腸疾患は潰瘍性大腸炎である。様々な実施形態において、炎症性腸疾患は医学的に難治性の潰瘍性大腸炎である。様々な実施形態において、炎症性腸疾患は、疾患管理のために外科的介入を必要としたCD患者である。また他の実施形態の中で、RNASET2が減少し、及び/又はTL1A及び/又はIFN-γのレベルが増大した被験体は、RNASET2を増大させ、及び/又はTL1A及び/又はIFN-γを減少させる処置を必要とする被験体と識別される。他の実施形態において、被験体は、抗TL1A治療を必要としていると識別される。また他の実施形態において、被験体は、RNASET2の増加を引き起こす処置を必要としていると識別される。特定の他の実施形態において、被験体は、IFN-γ及び/又はTL1Aの減少を引き起こす処置を必要としていると識別される。
【0037】
様々な実施形態において、RNASET2リスク変異体、及び/又はRNASET2、TL1A及び/又はIFN-γの発現レベルの検出は、被験体の生物学的サンプルの核酸を分析することによって達成され得る。限定されないがポリメラーゼ連鎖反応ベースの分析、配列分析、及び電気泳動分析を含む、様々な装置及び/又は方法は、RNASET2リスク変異体を検出するために使用され得る。RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γの発現レベルは、限定されないが量的PCR、ノーザンブロット、及びマイクロアレイを含む様々な装置及び/又は方法を使用して検出され得る。本明細書で使用されるように、用語「核酸」は、例えばゲノムDNA、cDNA、及びmRNAを含む、一本鎖又は二本鎖DNA又はRNA分子などのポリヌクレオチドを意味する。核酸という用語は、天然及び合成由来の核酸分子の他に、天然の核酸分子のセンス鎖又はアンチセンス鎖、或いはその両方を表す線形、環状、又は分枝の構成の分子も包含する。
【0038】
様々な他の実施形態において、RNASET2、RNASET2、TL1A及び/又はIFN-γの発現レベルの判定は、被験体の生物学的サンプルのタンパク質を分析することによって達成され得る。限定されないがELISA、免疫組織化学、及びウェスタンブロットを含む、様々な装置及び/又は方法は、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γの発現レベルを検出するために使用され得る。
【0039】
本発明の様々な実施形態はまた、医学的に難治性の潰瘍性大腸炎(MR-UC)を診断する方法を提供し、該方法は:被験体からサンプルを得る工程;RNASET2での1つ以上のリスク変異体の存在の有無を判定するのに適したアッセイにサンプルをさらす工程;及びRNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在に基づいて被験体のMR-UCを診断する工程を含む。様々な実施形態において、RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体は、rs1819333、rs2149092、rs9355610、rs2149085、rs1410295、又はrs9366093である。様々な実施形態において、rs2149085のリスクアレルはTアレルである。様々な他の実施形態において、RNASET2リスク変異体は、RNASET2リスク変異体rs429083、及び、rs1819333、rs2149092、rs9355610、rs2149085、rs1410295、rs9366093、及びそれらの組み合わせから成る群から選択されたRNASET2リスク変異体である。様々な他の実施形態において、RNASET2リスク変異体は、表2、3、4、5、6、7、8、9、10、及び13におけるRNASET2リスク変異体のうち1つ以上、及び、rs1819333、rs2149092、rs9355610、rs2149085、rs1410295、rs9366093、及びそれらの組み合わせから成る群から選択されたRNASET2リスク変異体である。様々な他の実施形態において、RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体は、rs1819333、rs2149092、rs9355610、又はrs2149085である。様々な実施形態において、本明細書に記載されるような2、3、又は4つのRNASET2リスク変異体rs1819333、rs2149092、rs9355610、又はrs2149085が存在する場合、被験体はIBDと診断される。
【0040】
様々な実施形態において、MR-UCと診断された被験体は、チオプリン及び抗TNF治療の治療不全を実証する。様々な他の実施形態において、MR-UCと診断された被験体は外科的介入を必要とすると判定される。幾つかの実施形態において、外科的介入は腸切除である。様々な実施形態において、MR-UCと診断された被験体は、限定されないが組み換え型のRNASET2及び抗ICAM1などの、RNASET2媒介性治療を必要とすると判定される。様々な実施形態において、RNASET2媒介性治療は、RNASET2の上流及び/又は下流にある遺伝子を標的とする抗体又は小分子である。
【0041】
様々な他の実施形態において、前記方法は更に、RNASET2のメチル化のレベルを判定する工程、及びRNASET2メチル化が増大している被験体におけるIBDを診断する工程を含む。他の実施形態において、RNASET2メチル化のレベルは、MR-UCを持つ被験体を診断するために判定される。幾つかの実施形態において、被験体は、RNASET2メチル化の減少を引き起こす処置を必要としていると識別される。他の実施形態において、被験体は、抗TL1A治療を必要としていると識別される。
【0042】
本発明の様々な実施形態は、MR-UCと診断された被験体の処置を提供する。MR-UC被験体は、抗TNF治療、チオプリン治療、コルチコイド及びシクロスポリンなどの、使用される現行の従来の薬物療法では効果が無い。様々な実施形態において、MR-UCと診断された被験体は、限定されないが、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γを模倣、調整、及び/又は標的とする処置などの、従来にない処置で処置される。様々な実施形態処置において、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γを模倣、調整、及び/又は標的とする処置は、抗体及び/又はサイレンシングオリゴヌクレオチドを含み得る。様々な実施形態において、MR-UCと診断された被験体は、限定されないが組み換え型のRNASET2及び抗ICAM1などの、RNASET2媒介性治療を必要とすると判定される。様々な実施形態において、RNASET2媒介性治療は、RNASET2の上流及び/又は下流にある遺伝子を標的とする抗体又は小分子である。
【0043】
様々な実施形態において、被験体は、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γを模倣する処置を必要としていると識別される。他の実施形態において、被験体は、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γを調節する処置を必要としていると識別される。他の幾つかの実施形態において、被験体は、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γを標的とする処置を必要としていると識別される。また他の実施形態において、被験体は、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γを模倣、調節、及び/又は標的とする処置を必要としていると識別される。様々な実施形態処置において、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γを模倣、調整、及び/又は標的とする処置は、抗体及び/又はサイレンシングオリゴヌクレオチドを含み得る。様々な実施形態において、疾患はIBDである。様々な実施形態において、疾患はCDである。様々な実施形態において、疾患はUCである。様々な実施形態において、疾患はMR-UCである。様々な実施形態において、診断される被験体は、疾患管理のために外科的介入を必要としたCD患者である。
【0044】
様々な実施形態において、RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在は、RNASET2の発現減少に関連付けられる。他の実施形態において、RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在は、末梢組織及び粘膜組織におけるRNASET2の発現減少に関連付けられる。他の幾つかの実施形態において、RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在は、疾患管理のために外科的介入を必要とする患者におけるDNA過剰メチル化に関連付けられる。また他の実施形態において、RNASET2遺伝子の1つ以上のリスク変異体の存在は、チオプリン及び/又は抗TNF治療の治療不全に関連付けられる。他の幾つかの実施形態において、RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在は、ANCA血清陽性に関連付けられる。様々な他の実施形態において、RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在は、腸切除の全体的な長さの増大に関連付けられる。
【0045】
<被験体の識別及び/又は層別化>
本発明の様々な実施形態は、処置のために炎症性腸疾患を持つ被験体を識別するプロセスを提供し、該プロセスは:RNASET2、TL1A及び/又はIFN-γの発現レベルを判定する工程;及び処置を必要とする被験体を、RNASET2が減少した及び/又はTL1A及び/又はIFN-γのレベルが増大した被験体として識別する工程を含む。様々な実施形態において、炎症性腸疾患はクローン病である。様々な実施形態において、炎症性腸疾患は潰瘍性大腸炎である。様々な実施形態において、炎症性腸疾患は医学的に難治性の潰瘍性大腸炎である。様々な他の実施形態において、被験体は、RNASET2の増加を引き起こす処置を必要としていると識別される。また他の実施形態において、被験体は、TL1A及び/又はIFN-γの減少を引き起こす処置を必要としていると識別される。特定の実施形態において、被験体は、抗TL1A治療を必要としていると識別される。幾つかの実施形態において、被験体は、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γを模倣、調節、及び/又は標的とする処置を必要としていると識別される。様々な実施形態処置において、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γを模倣、調整、及び/又は標的とする処置は、抗体及び/又はサイレンシングオリゴヌクレオチドを含み得る。
【0046】
本明細書で使用されるような「患者のリスク層別化」は、処置を必要とするリスク群に被験体を分けるプロセスを意味する。
【0047】
本発明の様々な実施形態は、健康な個体に比べて処置を必要とする被験体を識別するための、患者のリスク層別化のプロセスを提供する。様々な実施形態において、被験体は、被験体の生物学的サンプル中のRNASET2、TL1A及び/又はIFN-γの検出に基づいて層別化される。幾つかの実施形態において、RNASET2の減少は、処置を必要とするIBDを持つ患者を示す。幾つかの実施形態において、RNASET2の減少は、処置を必要とするCDを持つ患者を示す。幾つかの実施形態において、患者は、疾患管理のために外科的介入を必要とするCD患者である。幾つかの実施形態において、RNASET2の減少は、処置を必要とするUCを持つ患者を示す。幾つかの実施形態において、RNASET2の減少は、処置を必要とするMR-UCを持つ患者を示す。他の様々な実施形態において、TL1A及び/又はIFN-γの増加は、処置を必要とするIBDを持つ患者を示す。他の様々な実施形態において、TL1A及び/又はIFN-γの増加は、処置を必要とするCDを持つ患者を示す。他の様々な実施形態において、TL1A及び/又はIFN-γの増加は、処置を必要とするUCを持つ患者を示す。他の様々な実施形態において、TL1A及び/又はIFN-γの増加は、処置を必要とするMR-UCを持つ患者を示す。他の特定の実施形態において、RNASET2の減少、TL1Aの増加、及びIFN-γの増加は、処置を必要とするIBDを持つ被験体を示す。他の特定の実施形態において、RNASET2の減少、TL1Aの増加、及びIFN-γの増加は、処置を必要とするCDを持つ被験体を示す。他の特定の実施形態において、RNASET2の減少、TL1Aの増加、及びIFN-γの増加は、処置を必要とするUCを持つ被験体を示す。他の特定の実施形態において、RNASET2の減少、TL1Aの増加、及びIFN-γの増加は、処置を必要とするMR-UCを持つ被験体を示す。様々な実施形態において、遺伝子の検出は、被験体の処置のための指針を提供する。特定の実施形態において、被験体は、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γを模倣、調節、及び/又は標的とする処置を必要としていると識別される。様々な実施形態処置において、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γを模倣、調整、及び/又は標的とする処置は、抗体及び/又はサイレンシングオリゴヌクレオチドを含み得る。他の様々な実施形態において、処置を必要とする被験体を識別する患者のリスク層別化のプロセスは、以前に処置された健康な個体に関連する。他の様々な実施形態において、処置を必要とする被験体を識別する患者のリスク層別化のプロセスは、医学的に反応的な個体に関連する。
【0048】
本発明の様々な実施形態は、MR-UCと診断された被験体の処置を提供する。MR-UC被験体は、抗TNF治療、チオプリン治療、コルチコイド及びシクロスポリンなどの、使用される現行の従来の薬物療法では効果が無い。様々な実施形態において、MR-UCと診断された被験体は、限定されないが、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γを模倣、調整、及び/又は標的とする処置などの、従来にない処置で処置される。様々な実施形態処置において、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γを模倣、調整、及び/又は標的とする処置は、抗体及び/又はサイレンシングオリゴヌクレオチドを含み得る。様々な実施形態において、MR-UCと診断された被験体は、限定されないが組み換え型のRNASET2及び抗ICAM1などの、RNASET2媒介性治療を必要とすると判定される。様々な実施形態において、RNASET2媒介性治療は、RNASET2の上流及び/又は下流にある遺伝子を標的とする抗体又は小分子である。
【0049】
他の実施形態において、本明細書に記載される被験体の識別及び/又は層別化のプロセスは、1つ以上のリスク変異体の存在を判定する工程を含む。特定の実施形態において、1つ以上のリスク変異体は、rs1819333、rs2149092、rs9355610、rs2149085、rs1410295、又はrs9366093を含む。様々な実施形態において、前記プロセスは、本明細書に記載されるような2、3、4、5、又は6つのRNASET2リスク変異体が存在する場合、処置を必要とするIBDを持つ被験体を識別する工程を含む。様々な実施形態において、rs2149085のリスクアレルはTアレルである。様々な他の実施形態において、RNASET2リスク変異体は、RNASET2リスク変異体rs429083、及び、rs1819333、rs2149092、rs9355610、rs2149085、rs1410295、rs9366093、及びそれらの組み合わせから成る群から選択されたRNASET2リスク変異体である。様々な他の実施形態において、RNASET2リスク変異体は、表2、3、4、5、6、7、8、9、10、及び13におけるRNASET2リスク変異体のうち1つ以上、及び、rs1819333、rs2149092、rs9355610、rs2149085、rs1410295、rs9366093、及びそれらの組み合わせから成る群から選択されたRNASET2リスク変異体である。様々な他の実施形態において、RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体は、rs1819333、rs2149092、rs9355610、又はrs2149085である。様々な実施形態において、本明細書に記載されるような2、3、又は4つのRNASET2リスク変異体rs1819333、rs2149092、rs9355610、又はrs2149085が存在する場合、被験体はIBDと診断される。他の様々な実施形態において、生物学的サンプル中のリスク変異体の検出は、処置を必要とする群へと被験体を層別化する。他の実施形態において、サンプル中の多くのリスク変異体の存在は、被験体が処置を更に必要としていることを示す。幾つかの実施形態において、RNASET2リスク変異体の検出は、被験体の処置の必要性を示す。幾つかの実施形態において、被験体は、抗TL1A治療を必要としていると識別される。様々な実施形態において、被験体は、限定されないが組み換え型のRNASET2及び抗ICAM1などの、RNASET2媒介性治療を必要としていると識別される。様々な実施形態において、RNASET2媒介性治療は、RNASET2の上流及び/又は下流にある遺伝子を標的とする抗体又は小分子である。
【0050】
様々な実施形態において、本明細書で議論されるように、RNASET2リスク変異体の検出は、被験体の生物学的サンプルの核酸を分析することによって遂行され得る。
【0051】
他の実施形態において、本明細書に記載される被験体の識別及び/又は層別化のプロセスは更に、健康な個体と比べて、RNASET2メチル化のレベルを検出するためにサンプルを分析する工程を含む。幾つかの実施形態において、RNASET2メチル化のレベルが増大した被験体は、処置を必要とする被験体と識別される。幾つかの実施形態において、サンプルは、RNASET2メチル化及び1つ以上のRNASET2リスク変異体のレベルについて評価される。特定の実施形態において、RNASET2メチル化が増加し、且つ1つ以上のRNASET2リスク変異体の存在を持つ被験体は、処置を必要とする被験体と識別される。他の実施形態において、サンプルは、RNASET2メチル化のレベル、及びRNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γの発現レベルについて評価される。特定の実施形態において、RNASET2メチル化が増加し、RNASET2が減少し、TL1A及び/又はIFN-γが増加した被験体は、処置を必要とする被験体と識別される。特定の実施形態において、被験体は、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γを模倣、調節、及び/又は標的とする処置を必要としていると識別される。様々な実施形態処置において、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γを模倣、調整、及び/又は標的とする処置は、抗体及び/又はサイレンシングオリゴヌクレオチドを含み得る。幾つかの実施形態において、被験体は、抗TL1A治療を必要としていると識別される。幾つかの実施形態において、被験体は、RNASET2メチル化の減少を引き起こす処置を必要としていると識別される。他の様々な実施形態において、RNASET2メチル化の増加の検出は、手術を必要とする重度のCDを持つ患者を示す。更なる実施形態において、被験体は、結腸切除及び/又は抗TL1A治療を含む処置を必要としていると識別される。
【0052】
他の様々な実施形態において、本明細書に記載される被験体の識別及び/又は層別化のプロセスは、健康な個体と比べて、少なくとも1つの微生物抗原(血清因子(serological factor))の増加又は減少を検出するためにサンプルを分析する工程を更に含み得る。幾つかの実施形態において、評価された微生物抗原(血清因子)は、ANCA、ASCA、OmpC、I2、及びCBirを含む。幾つかの実施形態において、サンプルは、1つ以上の微生物抗原(血清因子)及び1つ以上のRNASET2リスク変異体について評価される。特定の実施形態において、1つ以上のリスク血清因子及び1つ以上のRNASET2リスク変異体の存在を持つ被験体は、処置を必要とする被験体と識別される。また他の実施形態において、サンプルは、1つ以上のリスク血清因子、及びRNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γの発現レベルについて評価される。特定の実施形態において、1つ以上のリスク血清因子を持ち、RNASET2が減少し、TL1A及び/又はIFN-γが増加した被験体は、処置を必要とする被験体と識別される。幾つかの実施形態において、被験体は、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γを模倣、調節、及び/又は標的とする処置を必要としていると識別される。様々な実施形態処置において、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γを模倣、調整、及び/又は標的とする処置は、抗体及び/又はサイレンシングオリゴヌクレオチドを含み得る。他の実施形態において、処置は抗TL1A治療である。様々な実施形態において、処置は、限定されないが組み換え型のRNASET2及び抗ICAM1などの、RNASET2媒介性治療である。様々な実施形態において、RNASET2媒介性治療は、RNASET2の上流及び/又は下流にある遺伝子を標的とする抗体又は小分子である。
【0053】
様々な実施形態において、IBDを持つと診断された被験体は、チオプリン及び抗TNF治療の治療不全を実証する。他の様々な実施形態において、IBDを持つと診断された被験体は外科的介入を必要とすると判定される。他の幾つかの実施形態において、外科的介入は腸切除である。本発明の様々な実施形態はまた、炎症性腸疾患を持つ被験体のための手術を選択する方法を提供し、該方法は:被験体からサンプルを得る工程;RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在の有無を判定するのに適したアッセイにサンプルをさらす工程;RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在に基づいて被験体のMR-UCを診断する工程;及びMR-UCと診断された被験体のために手術を選択する工程を含む。幾つかの実施形態において、RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体は、rs1819333、rs2149092、rs9355610、rs2149085、rs1410295、又はrs9366093である。様々な他の実施形態において、RNASET2リスク変異体は、RNASET2リスク変異体rs429083、及び、rs1819333、rs2149092、rs9355610、rs2149085、rs1410295、rs9366093、及びそれらの組み合わせから成る群から選択されたRNASET2リスク変異体である。様々な他の実施形態において、RNASET2リスク変異体は、表2、3、4、5、6、7、8、9、10、及び13におけるRNASET2リスク変異体のうち1つ以上、及び、rs1819333、rs2149092、rs9355610、rs2149085、rs1410295、rs9366093、及びそれらの組み合わせから成る群から選択されたRNASET2リスク変異体である。様々な他の実施形態において、RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体は、rs1819333、rs2149092、rs9355610、又はrs2149085である。様々な実施形態において、本明細書に記載されるような2、3、又は4つのRNASET2リスク変異体rs1819333、rs2149092、rs9355610、又はrs2149085が存在する場合、被験体はIBDと診断される。幾つかの実施形態において、前記方法は、RNASET2のメチル化のレベルを判定する工程を更に含む。様々な実施形態において、RNASET2メチル化のレベルが増大した被験体は、手術を必要とする被験体と識別される。他の実施形態において、RNASET2メチル化が増加し、且つRNASET2遺伝子にて1つ以上のRNASET2リスク変異体の存在を持つ被験体は、手術を必要とする被験体と識別される。
【0054】
様々な実施形態において、RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在は、RNASET2の発現減少に関連付けられる。他の実施形態において、RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在は、末梢組織及び粘膜組織におけるRNASET2の発現減少に関連付けられる。他の幾つかの実施形態において、RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在は、疾患管理のために外科的介入を必要とする患者におけるDNA過剰メチル化に関連付けられる。また他の実施形態において、RNASET2遺伝子の1つ以上のリスク変異体の存在は、チオプリン及び/又は抗TNF治療の治療不全に関連付けられる。他の幾つかの実施形態において、RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在は、ANCA血清陽性に関連付けられる。様々な他の実施形態において、RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在は、腸切除の全体的な長さの増大に関連付けられる。
【0055】
本発明の様々な実施形態は、炎症性腸疾患を持つ被験体のための治療を選択する方法を提供し、該方法は:被験体からサンプルを得る工程;RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在の有無を判定するのに適したアッセイにサンプルをさらす工程;RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在に基づいて被験体の医学的に難治性の潰瘍性大腸炎(MR-UC)を診断する工程;及びMR-UCと診断された被験体のための処置としてチオプリン又は抗TNFを選択せず、治療として手術を選択する工程を含む。様々な実施形態において、RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体は、rs1819333、rs2149092、rs9355610、rs2149085、rs1410295、又はrs9366093である。様々な他の実施形態において、RNASET2リスク変異体は、RNASET2リスク変異体rs429083、及び、rs1819333、rs2149092、rs9355610、rs2149085、rs1410295、rs9366093、及びそれらの組み合わせから成る群から選択されたRNASET2リスク変異体である。様々な他の実施形態において、RNASET2リスク変異体は、表2、3、4、5、6、7、8、9、10、及び13におけるRNASET2リスク変異体のうち1つ以上、及び、rs1819333、rs2149092、rs9355610、rs2149085、rs1410295、rs9366093、及びそれらの組み合わせから成る群から選択されたRNASET2リスク変異体である。様々な他の実施形態において、RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体は、rs1819333、rs2149092、rs9355610、又はrs2149085である。様々な実施形態において、本明細書に記載されるような2、3、又は4つのRNASET2リスク変異体rs1819333、rs2149092、rs9355610、又はrs2149085が存在する場合、被験体はIBDと診断される。また他の実施形態において、前記方法は更に、RNASET2のメチル化のレベルを判定する工程を含み、ここで増加したメチル化は、外科的介入を必要とする被験体を示す。
【0056】
本発明の様々な実施形態は、MR-UCと診断された被験体の処置を提供する。MR-UC被験体は、抗TNF治療、チオプリン治療、コルチコイド及びシクロスポリンなどの、使用される現行の従来の薬物療法では効果が無い。様々な実施形態において、MR-UCと診断された被験体は、限定されないが、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γを模倣、調整、及び/又は標的とする処置などの、従来にない処置で処置される。様々な実施形態処置において、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γを模倣、調整、及び/又は標的とする処置は、抗体及び/又はサイレンシングオリゴヌクレオチドを含み得る。様々な実施形態において、MR-UCと診断された被験体は、限定されないが組み換え型のRNASET2及び抗ICAM1などの、RNASET2媒介性治療を必要とすると判定される。様々な実施形態において、RNASET2媒介性治療は、RNASET2の上流及び/又は下流にある遺伝子を標的とする抗体又は小分子である。
【0057】
<メチル化の検出>
様々な実施形態は、炎症性腸疾患(IBD)を持つ被験体を診断する方法を提供する。幾つかの実施形態において、前記方法は、RNASET2のメチル化のレベルを判定する工程;及びIBDを持つ被験体をRNASET2メチル化が増加した被験体と識別する工程を含む。他の実施形態において、前記方法は、IBDを持つ被験体を、RNASET2メチル化が増加し、且つRNASET2遺伝子にて1つ以上のリスク変異体の存在を持つ被験体と識別する工程を含む。他の様々な実施形態において、前記方法は、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γの発現レベルを判定する工程;及び、IBDを持つ被験体のRNASET2が減少し、TL1Aが増加し、IFN-γが増加し、及び/又はRNASET2メチル化が増加する場合に、前記被験体を診断する工程を含む。
【0058】
様々な実施形態は、処置を必要性とする炎症性腸疾患(IBD)を持つ被験体を識別するプロセスを提供する。幾つかの実施形態において、前記方法は、RNASET2のメチル化のレベルを判定する工程;及び処置を必要とする被験体をRNASET2メチル化が増加した被験体と識別する工程を含む。他の実施形態において、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γの発現レベル、及びRNASET2のメチル化のレベルは、処置を必要とする炎症性腸疾患を持つ被験体を識別するために判定される。様々な実施形態において、前記方法は、処置を必要とする被験体を、RNASET2が減少し、TL1Aが増加し、IFN-γが増加し、及び/又はRNASET2メチル化が増加した被験体として判定する工程を含む。他の様々な実施形態において、前記方法は、RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在の有無を判定する工程、及び、処置を必要とするIBDを持つ被験体を、RNASET2メチル化が増加し且つ1つ以上のRNASET2リスク変異体の存在を持つ被験体と識別する工程を含む。
【0059】
様々な実施形態において、メチル化の増加は、外科的介入を必要とする被験体を示す。また他の実施形態において、RNASET2メチル化の増加は、外科的介入を必要とすることを示す。
【0060】
メチル化のレベルを検出する様々な方法は、限定されないが、以下のアッセイ、即ち、質量分析、メチル化特異的PCR(MSP)、全ゲノムバイサルファイトシーケンシング(BS-Seq)、HELPアッセイ、ChIP-on-chipアッセイ、制限酵素ランドマークゲノムスキャニング、メチル化DNA免疫沈降(MeDIP、MeDIP-chip、MeDIPseq)、バイサルファイト処理したDNAのパイロシーケンシング、DNAアデニンメチルトランスフェラーゼ活性のための分子破壊光アッセイ(molecular break light assay)、メチル感受性のサザンブロッティング、MethylCpG結合タンパク質(MBP)及び/又はメチル結合ドメイン(MBD)を使用した天然DNAのメチル化及び非メチル化分画への分離、MethylationEPIC BeadChip、Illumina Infinium Methylation 450 BeadChip、高解像度融解曲線分析(HRM又はHRMA)、及び/又は古代DNAメチル化再構成を含む。
【0061】
本発明の様々な実施形態は、方法により炎症性腸疾患(IBD)と診断された被験体の処置を提供し、前記方法は、被験体からサンプルを得る工程;RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在の有無を判定するのに適したアッセイにサンプルをさらす工程;及びRNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在に基づいて被験体のIBDを診断する工程を含む。様々な実施形態において、炎症性腸疾患は、クローン病、潰瘍性大腸炎、又は医学的に難治性の潰瘍性大腸炎である。
【0062】
本発明の様々な実施形態は、方法により医学的に難治性の潰瘍性大腸炎(MR-UC)と診断された被験体の処置を提供し、前記方法は、被験体からサンプルを得る工程;RNASET2での1つ以上のリスク変異体の存在の有無を判定するのに適したアッセイにサンプルをさらす工程;及びRNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在に基づいて被験体のMR-UCを診断する工程を含む。
【0063】
本発明の様々な実施形態は、MR-UCと診断された被験体の処置を提供する。MR-UC被験体は、抗TNF治療及びチオプリン治療などの、使用される現行の従来の薬物療法では効果が無い。様々な実施形態において、MR-UCと診断された被験体は、限定されないが、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γを模倣、調整、及び/又は標的とする処置などの、従来にない処置で処置される。様々な実施形態処置において、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γを模倣、調整、及び/又は標的とする処置は、抗体及び/又はサイレンシングオリゴヌクレオチドを含み得る。様々な実施形態において、MR-UCと診断された被験体は、限定されないが組み換え型のRNASET2及び抗ICAM1などの、RNASET2媒介性治療を必要とすると判定される。様々な実施形態において、RNASET2媒介性治療は、RNASET2の上流及び/又は下流にある遺伝子を標的とする抗体又は小分子である。
【0064】
<生物学的サンプル、サンプル調製、及び遺伝子発現検出>
様々な実施形態において、本発明に関与する工程は、被験体から生物学的サンプルを得ることを含む。生物学的サンプルは、外科的生検又は外科的切除の何れかによって得られてもよい。代替的に、サンプルは、主要な患者由来の細胞株、或いは、FFPE(ホルマリン固定、パラフィン包埋)の形態の収録された患者サンプル、又は新鮮な凍結サンプルを介して得ることができる。サンプルはまた、全血、末梢血、血漿、血清、唾液、頬の最終物、又は他の体液或いは組織を含み得る。様々な実施形態において、サンプルは、大腸及び/又は小腸の組織を含む。他の様々な他の実施形態において、大腸サンプルは、盲腸、結腸(上行結腸、横行結腸、下行結腸、及びS状結腸)、直腸、及び/又は肛門管を含む。また他の実施形態において、小腸サンプルは、十二指腸、空腸、及び/又は回腸を含む。
【0065】
本発明の方法において使用され得る被験体の生物学的サンプル(即ち組織及び/又は細胞)から由来する核酸又はタンパク質サンプルは、当該技術分野で周知の手段により調製され得る。例えば、外科手術手順又は針生検吸引が、被験体から生物学的サンプルを集めるために使用され得る。幾つかの実施形態において、正常な組織及び/又は細胞のサンプルから異常な組織及び/又は細胞のサンプルを富化及び/又は精製することが重要である。他の実施形態において、異常な組織及び/又は細胞のサンプルはその後、本発明の方法での使用のために、ゲノム核酸又はpre-RNAの抽出前に正常組織の汚染の量を減らすために顕微解剖され得る。そのような富化及び/又は精製は、針顕微解剖、レーザー顕微解剖、蛍光活性化細胞分類、及び免疫学的細胞選別などの、当該技術分野で周知の方法によって遂行され得る。
【0066】
個体の核酸及び/又はタンパク質の分析は、様々な技術のうち何れかを使用して実行されてもよい。様々な実施形態において、RNASET2の遺伝子発現レベルの分析は、ノーザンブロット、逆転写PCR、リアルタイムPCR、遺伝子発現の連続分析(SAGE)、DNAマイクロアレイ、タイリングアレイ、RNA-Seq、又はそれらの組み合わせを含む。他の様々な実施形態において、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γの遺伝子発現レベルが分析される。他の実施形態において、RNASET2メチル化のレベルが判定される。
【0067】
様々な実施形態において、タンパク質発現を検出する方法及びシステムは、限定されないが、ELISA、免疫組織化学、ウェスタンブロット、フローサイトメトリー、蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)、ラジオイムノアッセイ、及びアフィニティー精製を含む。
【0068】
遺伝子発現レベルの分析は、ポリメラーゼ連鎖反応による個体の核酸の増幅を含み得る。核酸の増幅のためのポリメラーゼ連鎖反応の使用は、当該技術分野で周知である(例えば、Mullis et al. (Eds.), The Polymerase Chain Reaction, Birkhauser, Boston, (1994)を参照)。
【0069】
「量的」増幅の方法は、当業者に周知である。例えば、量的PCRは、同じプライマーを使用して、既知量の制御配列をほぼ同時に増幅することを含む。これは、PCR反応を較正するために使用され得る内部標準を提供する。量的PCRのための詳細なプロトコルは、Innis, et al. (1990) PCR Protocols, A Guide to Methods and Applications, Academic Press, Inc. N.Y.)において提供される。量的PCR分析を使用したマイクロサテライト遺伝子座のDNAコピー数の測定は、Ginzonger, et al. (2000) Cancer Research 60:5405-5409に記載されている。遺伝子に関する既知の核酸配列は、当業者が遺伝子の任意の部分を増幅するためにプライマーを慣例的に選択することを可能にするのに十分なものである。蛍光性量的PCRも、本発明の方法に使用され得る。蛍光性量的PCRにおいて、定量化は、蛍光シグナル、例えばTaqMan及びサイバーグリーンの量に基づく。
【0070】
他の適切な増幅方法は、限定されないが、リガーゼ連鎖反応(LCR)(Wu and Wallace (1989) Genomics 4: 560、Landegren, et al. (1988) Science 241:1077、及びBarringer et al. (1990) Gene 89: 117を参照)、転写増幅(Kwoh, et al. (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86: 1173)、自家持続配列複製法(Guatelli, et al. (1990) Proc. Nat. Acad. Sci. USA 87: 1874)、ドットPCR、及びリンカーアダプターPCRなどを含む。
【0071】
ハイブリダイゼーションに適しているDNAサンプルは、例えば、ゲノムDNA、ゲノムDNAの断片、アダプター配列にライゲートされたゲノムDNAの断片、又はクローン配列のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅により得ることができる。当該技術分野で周知のコンピュータープログラムは、Oligoのバージョン5.0(National Biosciences)などの望ましい特異性及び最適な増幅特性を備えたプライマーの設計において使用され得る。PCR方法は当該技術分野で周知であり、例えば、Innis et al., eds., 1990, PCR Protocols: A Guide to Methods And Applications, Academic Press Inc., San Diego, Califに記載されている。制御されたロボットシステムが核酸を単離且つ増幅するのに有用であり、且つ使用可能であることは、当業者に明白である。
【0072】
<ハイブリダイゼーション>
本発明の方法で使用される被験体に由来する核酸サンプルは、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γを識別するためにプローブ(例えばオリゴヌクレオチドプローブ)を含むアレイにハイブリダイズすることができ、例えば、ハウスキーピング遺伝子発現も評価される場合には、選択されたハウスキーピング遺伝子を識別するためにプローブを含む。特定の実施形態において、本発明の方法において使用されるプローブは、DNAチップの上に葺く(tiled)ことができるプローブのアレイ(例えばSNPオリゴヌクレオチドプローブ)を含む。本発明の方法に使用されるハイブリダイゼーション及び洗浄の条件は、本発明によって分析される核酸サンプルが、アレイの相補的なオリゴヌクレオチド配列、好ましくは特定のアレイ部位に特異的に結合又は特異的にハイブリダイズするように選択され、ここで、その相補的DNAは位置付けられる。幾つかの実施形態において、相補的DNAは、例えばAffymetrixのオリゴヌクレオチドアレイにおいて使用されるように、完全に一致され得るか、又はある程度一致しないこともある。アレイの一本鎖合成オリゴデオキシリボ核酸DNAプローブは、例えば自己相補的な配列が原因で生ずるヘアピン又は二量体を除去するために、被験体からの核酸サンプルとの接触前に変性させられる必要があるかもしれない。
【0073】
最適なハイブリダイゼーション条件は、プローブの長さ、及び被験体の核酸サンプルのタイプに依存する。核酸の特異的な(即ち厳密な)ハイブリダイゼーション条件の一般的なパラメータは、Sambrook and Russel, Molecular Cloning: A Laboratory Manual 4th ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (Cold Spring Harbor, NY 2012);Ausubel et al., eds., 1989, Current Protocols in Molecules Biology, Vol. 1, Green Publishing Associates, Inc., John Wiley & Sons, Inc., New York, at pp. 2.10.1-2.10.16に記載されている。典型的な有用なハイブリダイゼーション条件は、例えばTijessen, 1993, Hybridization with Nucleic Acid Probes, Elsevier Science Publishers B. V. and Kricka, 1992, Nonisotopic DNA Probe Techniques, Academic Press, San Diego, Califにて提供される。
【0074】
<オリゴヌクレオチド核酸アレイ>
本発明の方法の幾つかの実施形態において、DNAアレイは、相補的配列を含むオリゴヌクレオチドプローブへの核酸配列のハイブリダイゼーションのレベルを測定することにより、遺伝子の発現レベルを判定するために使用され得る。オリゴヌクレオチド「プローブ」(即ち、定義された配列を持つ核酸分子)を利用するDNAアレイの様々なフォーマットは、当業者に周知である。典型的に、各々が定義された配列を持つ、核酸プローブのセットは、異なるプローブがそれぞれ予め定められた部位に固定されるような方式で固形支持体上に固定される。特定の実施形態において、プローブのセットは、支持体上で位置的に対処可能な結合(例えばハイブリダイゼーション)部位のアレイを形成する。そのような結合部位の各々は、支持体上で予め定められた部位に結合されるプローブの複数のオリゴヌクレオチド分子を含む。より具体的には、アレイの各プローブは好ましくは、固形支持体上で既知の予め定められた位置に位置付けられ、それにより、各プローブの同一性(すなわち配列)が、アレイ上(即ち支持体又は表面上)でその位置から判定され得る。マイクロアレイは多くの方法で作ることができ、その幾つかは本明細書に記載されている。しかし、生成されたマイクロアレイは、特定の特徴を共有し、それらは複製可能であり、与えられたアレイの複数のコピーが生成され且つ互いに容易に比較することが可能となる。
【0075】
幾つかの実施形態において、結合(例えば、核酸ハイブリダイゼーション)条件下で安定している材料からマイクロアレイが作られる。マイクロアレイは小さいものが好ましく、例えば約1cm~25cm、好ましくは約1~3cmである。しかし、より大きな且つ小さなアレイも考慮され、例えば、非常に多くの異なるプローブを同時に評価するのに好ましい場合もある。オリゴヌクレオチドプローブは、アレイを形成するために支持体上で直接合成され得る。プローブは、固形支持体又は表面に付けることができ、これらは、例えばガラス、プラスチック(例えばポリプロピレン、ナイロン)、ポリアクリルアミド、ニトロセルロース、ゲル、又は他の多孔質或いは無孔質の材料から作られ得る。固定されたプローブのセット又は固定されたプローブのアレイは、標識された核酸種を含有するサンプルと接触させられ、その結果、固定されたプローブに相補的な配列を持つ核酸がプローブにハイブリダイズし、或いは結合する。例えば洗浄による結合していない物質の分離後、結合され標識された配列が検出され、測定される。測定は典型的に、コンピューター支援により行なわれる。DNAアレイ技術は、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γの発現レベル、ハウスキーピング遺伝子、及びRNASET2のメチル化状態を判定することを可能にした。
【0076】
特定の実施形態において、高密度のオリゴヌクレオチドアレイが本発明の方法に使用される。表面上の定義された位置にて、定義された配列に相補的な何千ものオリゴヌクレオチドを含む、このようなアレイは、例えば、フォトリソグラフィー技術によって表面上にインサイツで合成され得る(例えば、Fodor et al., 1991, Science 251:767-773; Pease et al., 1994, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 91:5022-5026; Lockhart et al., 1996, Nature Biotechnology 14:1675;米国特許第5,578,832号;5,556,752号;5,510,270号;5,445,934号;5,744,305号;及び6,040,138号を参照)。インサイツのオリゴヌクレオチド合成のためにインクジェット技術を使用してアレイを生成する方法も、当該技術分野で知られている(例えば、Blanchard, International Patent Publication WO 98/41531, published Sep. 24, 1998; Blanchard et al., 1996, Biosensors And Bioelectronics 11:687-690; Blanchard, 1998, in Synthetic DNA Arrays in Genetic Engineering, Vol. 20, J. K. Setlow, Ed., Plenum Press, New York at pages 111-123を参照)。Schena et al. (1995, Science 270:467-470)によって一般的に記載されるように、表面に核酸を付ける別の方法は、ガラス板上に印刷することによって行われる。例えばマスキングによってマイクロアレイを作る他の方法(Maskos and Southern, 1992, Nucl. Acids. Res. 20:1679-1684)も、使用され得る。これらの方法が使用されると、既知の配列のオリゴヌクレオチド(例えば、15~60-mers)は、誘導化されたスライドガラスなどの表面上で直接合成される。生成されたアレイは冗長となる場合があり、様々なオリゴヌクレオチド分子が対照の各情報の遺伝子座(例えばSNP、RFLP、STRなど)に対応する。
【0077】
DNAアレイのオリゴヌクレオチドプローブを生成するための1つの典型的な手段は、例えばN-ホスホン酸塩又はホスホラミダイト化学物質を使用した合成ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドの合成によって行われる(Froehler et al., 1986, Nucleic Acid Res. 14:5399-5407; McBride et al., 1983, Tetrahedron Lett. 24:246-248)。合成配列は典型的に、長さが約15~約600ベース、より典型的には約20~約100ベース、最も好ましくは約40~約70ベースである。幾つかの実施形態において、合成核酸は、限定されないがイノシンなどの非天然塩基を含む。上述のように、核酸アナログは、ハイブリダイゼーションのための結合部位として使用されてもよい。適切な核酸アナログの一例はペプチド核酸である(例えば、Egholm et al., 1993, Nature 363:566-568;米国特許第5,539,083号を参照)。代替的な実施形態において、ハイブリダイゼーション部位(即ちプローブ)は、SNP又はその補体に対応するゲノムDNAの領域のプラスミド又はファージのクローンから作られる。本発明の方法に使用されるオリゴヌクレオチドプローブの大きさは、長さが少なくとも10、20、25、30、35、40、45、又は50のヌクレオチドであり得る。ハイブリダイゼーションは相補的配列には選択的であるが、完全に相補的でない他の配列も幾つかのレベルで与えられたプローブにハイブリダイズし得ることは、当該技術分野で周知である。故に、わずかな変化が伴う多数のオリゴヌクレオチドプローブは、サンプルのハイブリダイゼーションを最適化するために使用され得る。ハイブリダイゼーションを更に最適化するために、ハイブリダイゼーションの厳密条件、例えばハイブリダイゼーション温度及び塩濃度は、当該技術分野で周知の方法により変更されてもよい。
【0078】
様々な実施形態において、本発明の方法に使用される高密度オリゴヌクレオチドアレイは、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γに対応するオリゴヌクレオチド、及びハウスキーピング遺伝子を含む。他の実施形態において、オリゴヌクレオチドはメチル化されたRNASET2に相当する。オリゴヌクレオチドプローブは、被験体のゲノムにおける対象の各情報の遺伝子座(例えばSNP、RFLP、STRなど)の一部に対応するDNA又はDNA「模倣体」(例えば誘導体及びアナログ)を含み得る。オリゴヌクレオチドプローブは、塩基部分、糖部分、又はリン酸主鎖にて修飾され得る。典型的なDNAは、例えばホスホロチオエートを含む。各SNP遺伝子座について、試料核酸の配列に相補的な、複数の異なるオリゴヌクレオチドが使用され得る。例えば、対象の単一の情報の遺伝子座(例えばSNP、RFLP、STRなど)について、約23、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、又はそれ以上の異なるオリゴヌクレオチドが、使用され得る。対象の特定の情報の遺伝子座のためのオリゴヌクレオチドの各々は、完全な一致、誤った一致、及びSNPの周囲の隣接する配列においてわずかな変動を備え得る。特定の実施形態において、プローブは、対象の特定の情報の遺伝子座のためのプローブが、標的部位を含むゲノムの領域におよぶか、又はそれにわたって葺かれるオーバーラッピング配列及び/又は連続オーバーラッピング配列を含み、ここでプローブは全て標的部位を含む。一例として、オーバーラッピングプローブ配列は、予め定められた塩基の間隔の工程、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10の塩基の間隔の工程で葺くことができる。特定の実施形態において、アッセイは、Wang et al. (2007) Genome Biol. 8, R246によって記載されるものなどの分子反転プローブプロトコルとの使用に適しているアレイを使用して、実行され得る。非常に類似した(即ち、相同の)配列の核酸種にて標的とされたオリゴヌクレオチドプローブについて、同様のプローブ中の「交差反応」は、ハイブリダイゼーション測定の結果をかなり損ない、且つ混乱させかねない。検出される配列(即ち、特定のSNP)が、単一のヌクレオチドのみによって異なる他の配列と区別されなければならないので、クロスハイブリダイゼーションは、SNPの検出において特に重要である。クロスハイブリダイゼーションは、ハイブリダイゼーションの厳密条件を調節することにより、及び/又はハイブリダイゼーション後の洗浄中に最小限にされ得る。非常に厳密な条件により、ヌクレオチド配列のアレル変異体、例えば10-30のヌクレオチド当たり約1つの誤った一致の検出を可能にする。全ての異なる核酸配列に最適な単一のハイブリダイゼーションも洗浄条件も存在せず、これら条件は、製造業者により示唆されたものと同一でもよく、或いは当業者によって調整され得る。幾つかの実施形態において、本発明の方法に使用されるプローブは、チップと呼ばれるスライドガラス上で固定される(即ち、葺かれる)。例えば、DNAマイクロアレイは、オリゴヌクレオチド(溶液中の精製された一本鎖DNA配列)が(ほぼ)長方形のアレイにおいてロボット印刷されたチップを含むことができ、アレイ上の各スポットはオリゴヌクレオチドをコードする単一のDNAサンプルに対応する。要するに、前記プロセスは、ハイブリダイゼーションがスライド配列と標識されたサンプルとの間に生じるのに適切な条件下で標識されたサンプルでDNAマイクロアレイチップを溢れさせる工程(flooding)を含み、その後、アレイは洗浄されて乾燥され、ハイブリダイゼーションを検出するためにレーザー顕微鏡で走査される。特定の実施形態において、プローブがアレイ上に現われる、少なくとも250、500、1,000、2,000、3,000、4,000、5,000、6,000、7,000、8,000、9,000、10,000、11,000、12,000、13,000、14,000、15,000、16,000、17,000、18,000、19,000、20,000、21,000、22,000、23,000、24,000、25,000、26,000、27,000、28,000、29,000、30,000、31,000、32,000、33,000、34,000、35,000、36,000、37,000、38,000、39,000、40,000、41,000、42,000、43,000、44,000、45,000、50,000、60,000、70,000、80,000、90,000、100,000、又はそれ以上、或いはその中間の範囲の、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γ、或いはハウスキーピング遺伝子が存在する(単一の遺伝子座のためのマッチ/ミスマッチのプローブ、或いは対象の1つの遺伝子座として数える対象の単一の遺伝子座にわたって葺かれるプローブを伴う)。アレイごとに探索されるRNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γ、或いはハウスキーピング遺伝子の最大数は、被験体の種のゲノム及び遺伝子の多様性の大きさによって判定される。DNAチップは当該技術分野で周知であり、特定の種に特異的な配列を持つ、pre-5の作り上げられた形態で購入することができる。他の実施形態において、SNP及び/又はDNAコピー数は、更に上述されるように、「次世代配列決定方法」などの配列決定方法を使用して検出し且つ定量化され得る。
【0079】
標識化
幾つかの実施形態において、タンパク質、ポリペプチド、核酸、それらの断片、或いは、本発明の方法に使用されるアダプター領域へライゲートされたそれらの断片は、検出可能に標識される。例えば、検出可能な標識は、例えばヌクレオチドアナログの組み込みによる蛍光標識であり得る。本発明で使用するのに適切な他のラベルは、限定されないが、ビオチン、イミノビオチン、抗原、補助因子、ジニトロフェノール、リポ酸、オレフィン化合物、検出可能なポリペプチド、電子の豊富な分子、基質に対する作用により検出可能なシグナルを生成することができる酵素、及び放射性同位体を含む。
【0080】
本発明の方法と共に使用され得る放射性同位体は、限定されないが32P及び14Cを含む。本発明に適切な蛍光分子は、限定されないが、フルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、テキサスレッド、5’カルボキシ-フルオレセイン(「FAM」)、2’,7’-ジメトキシ-4’,5’-ジクロロ-6-カルボキシ-フルオレセイン(「JOE」)、N,N,N’,N’-テトラメチル-6-カルボキシ-ローダミン(「TAMRA」)、6-カルボキシ-X-ローダミン(「ROX」)、HEX、TET、IRD40、及びIRD41を含む。
【0081】
本発明に係る使用に適している蛍光分子は更に以下を含む:限定されないがCy2、Cy3、Cy3.5、CY5、Cy5.5、Cy7、及びFLUORXを含む、シアミン色素;限定されないがBODIPY-FL、BODIPY-TR、BODIPY-TMR、BODIPY-630/650、及びBODIPY-650/670を含む、BODIPY色素;及び、限定されないがALEXA-488、ALEXA-532、ALEXA-546、ALEXA-568、及びALEXA-594を含む、ALEXA色素;その他に、当業者に既知の他の蛍光染料。本発明に適切な電子が豊富なインジケーター分子は、限定されないが、フェリチン、ヘモシアニン、及びコロイド金を含む。
【0082】
二色の色蛍光標識及び検出のスキームも使用され得る(Shena et al., 1995, Science 270:467-470)。2つ以上の標識の使用は、実験条件(例えばハイブリダイゼーション条件)における僅かな相違による変動を検出するのに有用であり得る。本発明の幾つかの実施形態において、異なる色の少なくとも5、10、20、又は100の色素が、標識化のために使用され得る。そのような標識化はまた、本発明により包含される多数のサンプルの分析を同時に可能とする。
【0083】
標識された核酸サンプル、その断片、或いは、本発明の方法に使用され得るアダプター領域へライゲートされたその断片は、プローブに相補的な配列を持つサンプル核酸がそれにハイブリダイズすることを可能にする条件下で、複数のオリゴヌクレオチドプローブに接触させられる。使用される標識のタイプにより、ハイブリダイゼーションシグナルは、X線フィルム、ホスフォイメージャー、又はCCDカメラを含むがこれらに限定されない、当業者に周知の方法を使用して検出され得る。蛍光標識されたプローブが使用される時、転写アレイの各部位での蛍光放射は、共焦点のレーザー顕微鏡の走査によって検出することが好ましい場合もある。1つの実施形態において、適切な励起線を使用する別個の走査が、使用される2つのフルオロフォアの各々について実行される。代替的に、2つのフルオロフォアに特異的な波長で同時の標本の証明を可能にするレーザーが使用され得、2つのフルオロフォアからの照射は同時に分析され得る(Shalon et al. (1996) Genome Res. 6, 639-645を参照)。好ましい実施形態において、アレイは、コンピューターで制御されたX-Yステージ及び顕微鏡対象を備えたレーザー蛍光スキャナーで走査される。2つのフルオロフォアの連続する励起は、多重線の混合ガスレーザーで達成され、放たれた光は波長により分割され、2つの光電子増倍管で検出される。そのような蛍光レーザースキャニングデバイスは、例えば、Schena et al. (1996) Genome Res. 6, 639-645に記載されている。代替的に、Ferguson et al. (1996) Nat. Biotech. 14, 1681-1684により記載されるものなどの光ファイバー束が使用され得る。その後、結果として生じるシグナルは、コンピューターソフトウェアを使用して、RNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γ、及びハウスキーピング遺伝子の発現を判定するために分析され得る。
【0084】
他の実施形態において、被験体のゲノムDNAが制限エンドヌクレアーゼを使用して断片化され且つ分析の前に増幅される場合、増幅は、被験体のゲノムDNAのクローニング部位を含み得る。そのような方法において、DNA領域の増幅は、クローニングプロセスを通じて達成される。例えば、発現ベクターは、被験体のゲノムDNAの大量の特定の断片を発現するように操作され得る(Sambrook and Russel, Molecular Cloning: A Laboratory Manual 4th ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (Cold Spring Harbor, NY 2012))。
【0085】
また他の実施形態において、制限エンドヌクレアーゼを使用して被験体のDNAが断片化され、分析前に増幅される場合、増幅は、被験体の遺伝子、或いは核酸の遺伝子及び隣接するゲノム領域をコードする核酸を発現することを含む。その後、イントロンを含む転写物全体を含んでいるRNA(メッセンジャーRNA前駆体)は単離され、癌の遺伝子シグネチャを分析且つ提供するために本発明の方法に使用される。特定の実施形態において、増幅は必要とされない。そのような実施形態において、被験体のゲノムDNA、又はRNA前駆体は、制限エンドヌクレアーゼ又は他の方法を使用して断片化され得る。結果として生じる断片はSNPプローブにハイブリダイズされ得る。典型的に、より大量のDNAは、断片が増幅される場合に必要とされるDNA又はmRNA前駆体の量との比較において単離される必要がある。例えば、被験体の核酸が増幅されない場合、ハイブリダイゼーションに使用される被験体のDNAサンプルは、約400ng、500ng、600ng、700ng、800ng、900ng、1000ng、或いはそれよりも大きなDNAであり得る。代替的に他の実施形態において、分子反転プローブ(MIP)アッセイに使用されるものなど、400ng、300ng、200ng、100ng、90ng、85ng、80ng、75ng、70ng、65ng、60ng、55ng、50ng、或いはそれよりも下などの分析のための非常に少量の核酸を必要とする方法が、使用される。これらの技術は、容易に利用可能ではあるが通常はDNAの質が低く(例えば、小さな断片化されたDNA)及び/又は大量の核酸を提供しないことを特徴とする、パラフィン包埋・ホルマリン固定された物質或いは小さなコアニードル生検などの、臨床サンプルを分析するのに特に有用である。
【0086】
一旦発現レベルが判定されると、結果として生じるデータは、当業者により使用される周知の方法に基づいて様々なアルゴリズムを使用して分析され得る。
【0087】
<キット>
本発明はまた、IBDを持つ被験体を診断し且つ処置を必要とする被験体を識別するためのキットにも関連する。キットは、被験体を診断する及び/又は処置を必要とする被験体を識別する、創造性のある方法を実行するのに有用である。キットは、創造性のある組成物の少なくとも1つを含む、物質又は成分の構築物である。故に、幾つか実施形態において、キットは、上述のようにRNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γのためのプライマー及びプローブを含む組成物を含んでいる。
【0088】
創造性のあるキットにおいて構成された成分の正確な性質は、その使用目的に依存する。例えば、幾つかの実施形態は、リスク変異体及び/又は遺伝子発現レベルを評価するために構成される。幾つかの実施形態において、キットは、サンプル中のRNASET2の遺伝子発現レベルを検出するように構成される。また他の実施形態において、キットは、サンプル中のRNASET2及び/又はTL1Aの遺伝子発現レベルを検出するように構成される。他の幾つかの実施形態において、キットは、サンプル中のRNASET2、TL1A、及び/又はIFN-γの遺伝子発現レベルを検出するようにされる。他の様々な実施形態において、キットは、サンプル中のRNASET2リスク変異体を検出するように構成される。また他の実施形態において、キットは、サンプル中のRNASET2メチル化のレベルを検出するように構成される。1つの実施形態において、キットは、特に哺乳動物被験体を評価するために構成される。別の実施形態において、キットは、特にヒト被験体を評価するために構成される。更なる実施形態において、キットは、限定されないが家畜、家庭動物、及び実験動物などの被験体を評価する、獣医学的な用途のために構成される。
【0089】
使用説明書がキットに含まれ得る。「使用説明書」は典型的に、IBDを持つ被験体を診断及び/又は処置を必要とするIBDを持つ被験体を識別するなど、望ましい結果を達成するためのキットの構成要素を使用する際に利用される技術を説明する、手に触れることのできる表現を含む。随意に、キットはまた、プライマー、希釈剤、バッファー、ピペッティングツール又は測定ツール、或いは当業者により容易に認識されるような他の有用な道具一式など、他の有用な構成要素を含む。
【0090】
キットにおいて組み立てられた物質又は構成要素は、従事者に提供され、それらの操作性と有用性を維持する好都合且つ適切な方法で保管され得る。例えば、構成要素は、溶かされ、脱水され、或いは凍結乾燥された形態の場合があり;室温、冷蔵温度、又は冷凍温度で提供され得る。構成要素は典型的に適切な包装材料に含まれる。本明細書で利用されるように、句「包装材料」は、創造性のある組成物などの、キットの内容物を収容するために使用される1つ以上の物理構造を指す。包装材料は、好ましくは無菌の汚染物質が無い環境を提供するために、周知の方法で構築される。キットに利用される包装材料は、遺伝子発現アッセイに慣習的に利用されるものである。本明細書で使用されるように、用語「包装」は、個々のキットの構成要素を保持することができる、ガラス、プラスチック、紙、ホイルなどの適切な固体マトリクス又は物質を指す。故に、例えば、包装は、RNASET2、TL1A、IFN-γ、及び/又はRNASET2メチル化のためのプライマー及びプローブを含んでいる適切な量の創造性のある組成物を含むように使用される、ガラスバイアルであり得る。包装材料には通常、内容物、及び/又は、キット及び/又はその構成要素を示す外部ラベルがある。
【0091】
<実施例>
次の実施例は本特許請求の発明をよりよく例示するために提供され、本発明の範囲を制限するとは解釈されるべきではない。特定の材料が言及される点では、これは単に例示のためでしかなく、本発明を制限することを意図しない。当業者は、本発明の範囲を逸脱することなく、本発明の能力を発揮することなく同等の手段または反応物を開発することができる。
【0092】
<実施例1>
ゼブラフィッシュのRNASET2の欠損は、リソソーム内に消化されていないrRNAの蓄積をもたらす。RNASET2のメジャーアレルは(i)IBD、CD(rs9355610)、B1ならびにANCAレベルおよびpos/neg(rs1410925))の両方についてリスクであり、(ii)B3ならびにASCA IgAおよびIgGレベルとpos/neg(rs1410925)との両方に対し保護(protective)である(表2)。メジャーアレルrs9355610は、CDの小腸および直腸と、EBVにより形質転換したB細胞と、IBD患者由来のCD3+PBLと、における低レベルのRNASET2 mRNA発現と関連している。メジャーアレルはまた、CDのS状結腸中のRNASET2 mRNAに関連している。低レベルのRNASET2およびpANCAのレベルの上昇はメジャーアレルに関連する。RNASET2遺伝子座におけるメチル化は、RNASET2 mRNA発現と逆相関する。
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
【表5】
【0097】
【表6】
【0098】
【表7】
【0099】
【表8】
【0100】
【表9】
【0101】
【表10】
【0102】
【表11】
【0103】
【表12】
【0104】
【表13】
【0105】
アレルのリスクはオッズ比(OR)によって定義される。A1アレルおよびOR<1が示されている場合、メジャーアレルがリスクアレルである(A2はリスクである)。ORが>1である場合、マイナーアレル(A1)がリスクアレルである。A1およびオッズ比を知ることで、どのアレルがリスクであり、どのアレルが保護か、判定することができる。
【0106】
<実施例2>
増強されたIFN-γ発現による炎症のTL1A増大の分子メカニズムを、RNAseqを使用して定義した。CD4+T細胞を未処置状態で分析し、または、1ugスケールでIL12およびIL18、または、IL12およびIL18およびTLA1で処置した。10ngスケールで、IFN-γの有無にかかわらず、IL12およびIL18およびTLA1で処理した場合、CD4+T細胞を分析した。RNAseqデータプレスクリーンにより、全ての失敗したプローブデータ、すなわちFPKMが5より上のサンプルが3つ未満の全ての遺伝子を除去した。この基準を使用して8695個の遺伝子がプレスクリーンを通過し、BRB Array Toolsを、ペアードサンプルを使用するクラス比較に用いた。
【0107】
本発明者らは、分子レベルで、TL1A処置が、RNASET2の減少した発現を媒介することに加えて、IFN-γの増強された発現を媒介することを実証する。RNASET2の発現の減少は、CD患者において、1)慢性的に活性な疾患、2)外科的介入を必要とする難治性の疾患、3)抗TNF療法にナイーブな患者、により検出され、4)OmpC+、ANCA-血清学的因子と関係しており、かつ、5)RNASET2リスクSNP rs9355610、rs1819333、rs2149085に関係している。
【0108】
<実施例3>
TNFSF15およびそれがTL1Aをコードするタンパク質は、IBDと関連し、粘膜炎症の重要な媒介物質である。IBD患者において、上昇したTL1Aレベルは、疾患の重症度および遺伝子型と関連する。TL1Aは、IFN-γ産生の増強を媒介する。TL1A応答バイオマーカーを、RNAseqによって同定し、正常なもの(NL)と比較して、IBD患者(20人のクローン病患者[CD]、20人の潰瘍性大腸炎患者[UC])から単離されたT細胞におけるqPCRによって確認した。NLおよびIBD患者由来のサンプルのさらなるコホートを用いて、GWASのコンテクストにおける発現/メチル化の量的形質遺伝子座(eQTL / mQTL)を検証および測定した。RNAseq発現クラスタリングは、処置されていない細胞に対して処置されたTL1Aを分化させた。RNASET2、すなわち細胞外のT2RNaseをコードする遺伝子は、TL1A処置後にダウンレギュレートされた。従来の研究ではRNASET2とCDに対する感受性とを関連させていた。CD患者におけるRNASET2発現は、軽度の疾患に対しての「重症」な疾患、すなわち複数の疾患の再燃(p<0.009)、医学的に難治性のもの(p<0.024)においては、より低かった。増強されたTL1A発現、rs6478108、rs6478109およびrs7848647(p=0.01)に関連する、RNASET2 rs1819333(p=0.015)およびTNFSF15アレルの疾患リスクアレルは、RNASET2発現の減少と相関していた。さらに、RNASET2のsiRNAサイレンシングはTL1A媒介IFN-γ分泌を増強した。いかなる理論にも拘束されるものではないが、発明者らは、RNASET2のダウンレギュレーションが、TL1Aに起因する重度のCDの特徴であると考えている。
【0109】
RNASET2発現およびDNAメチル化を、NL、CDまたはUC患者由来の新たに単離された非刺激T細胞の別のコホートにおいて試験した。RNASET2遺伝子座のメチル化はmRNA発現と逆相関していた。RNASET2アレルのeQTLは発現の減少に関連していた。外科的介入を必要とする重度の疾患を有するCD患者において、NASET2メチル化の有意な増強が観察された(表14)。NLまたは軽度の疾患を有する患者においては、相関は観察されなかった。同様に、RNASET2メチル化の増加は、TL1A発現の増強に関連するTNFSF15リスクアレルと関連していた(表14)。後成的に、RNASET2 eQTL/mQTL領域は、ヒストンH3K4me3およびH3K27acおよびDNase HS活性化部位と重複している。この領域は、NFκB、jun、ATF3およびCEBPDの転写因子結合と共局在し、これらの全てがTL1A治療に応答してアップレギュレートされる。該結果は、IFN-γ産生の調節に関与するTL1A応答遺伝子としてRNASET2を同定する。重度の疾患を有するCD患者では、過剰メチル化およびRNASET2の発現の低下があり、これは、TL1Aに対するインビボでの事前暴露を反映している可能性がある。したがって、いかなる理論にも拘束されるものではないが、本発明者らは、RNASET2が、抗TL1A治療から利益を受ける可能性が最も高いCD患者のサブセットを同定するための新規な潜在的な疾患重症度バイオマーカーとして機能すると考えている。
【0110】
【表14】
【0111】
本発明者らは、さらに11のUC CD3+PBT(医学的に難治性)、43のCD CD3+PBT(23は医学的に難治性であり、20は軽度)および17の正常なCD3+PBTを含む、患者の3つのコホートを分析した。サンプルをInfinium 450 Methylation Arrayで実行し、11個のCDと、12個のUCと、4個のNLサンプルとをInfinium Expression Arrayで実行した。本発明者らは、RNASET2発現がCD4+T細胞のTL1A処理後に減少し、RNASET2のサイレンシングがTL1A媒介IFN-γ分泌を増強することを実証する。
【0112】
【表15】
【0113】
後成的な研究は、RNASET2 eQTL/mQTL領域が、1)ヒストンH3K4me3およびH3K27acの後成的活性化部位と重なり、2)DNase HSの後成的活性化部位と重なり、3)NFκB、jun、ATF3およびCEBPDに結合する転写因子と共局在し、これらはすべてTL1A治療に応答してアップレギュレートされることを立証した。さらに、末梢血由来の初代Tメモリー細胞中のエンハンサーエレメント、CD4+ナイーブT細胞中のDNAse HS部位、および、eQTL RPS6KA2単球は、rs1819333アレルに結びついていた。
【0114】
<実施例4>
TL1AはIL-12/IL-18と相乗作用して、IFN-γ発現の急速(6~8時間以内の)かつ顕著な増強をもたらす。RNAseq分析を用いて、IFN-γ発現を調節するTL1A応答遺伝子を同定した。TL1Aが活性化した総CD4+T細胞集団において、20の遺伝子が差次的に発現された(少なくとも2倍)。これは、主に、IFN-γ分泌T細胞が総CD4+T細胞集団の非常に小さなサブセット(1-3%)のみを構成するという事実による(図15)。健康なドナー由来のCD4 T細胞をIL12/IL18およびTL1Aで8時間処理し、次いで、IFN-γ分泌サブセットおよび非分泌サブセット(図15)にソートし、および、mRNAの全ゲノム転写分析(GWAS)を実行した。8075発現遺伝子セット全体の教師なし階層的クラスタリングは、TL1A媒介IFN-γ分泌サブグループと非分泌サブグループとを明確に区別した(図16)。
【0115】
発現レベルに基づくIFN-γ分泌サブグループおよび非分泌サブグループを分類するクラス予測分析を実施した。最良の予測因子転写リストは、IFN-γ分泌サブセットの間で少なくとも2倍の差次的発現を有する764個の遺伝子からなっていた(p値<0.00005)(図17)。遺伝子オントロジー解析により、差次的に発現された遺伝子が、プロテアソーム、アポトーシス、RNA発現およびT細胞受容体シグナル伝達に関連する経路において富化され、インフリキシマブの下流標的であった(活性化zスコア=-4、p値=2e-15)ことが示された。GWASは多数のIBDリスク変異体SNPを同定した。これらは、他の領域の予測遺伝子の割合と比較して、IBDリスクSNP(14%対9%、p値=3.3e-6)から0.5MB以内に位置する転写産物の割合が有意に増加した。実際、差示的に発現された転写産物は、すべてのIBDリスク関連領域の34%にマッピングされた(図18)。いかなる理論にも拘束されるものではないが、データは、IFN-γ発現のTL1A媒介調節においてのみならず、IBD感受性および病因を調節する寄与因子としての、これらの遺伝子に対する強い寄与を示した。
【0116】
IBDリスク遺伝子座に関連する差示的に発現される予測因子転写産物の有意性および規模を視覚化するボルケーノプロットは、候補の遺伝子に優先順位を付けることを可能にした(図20)。これらの遺伝子のうち、TL1A媒介IFN-γ発現は、最も有意にアップレギュレートされていることが確認され、RNASET2が最も有意にダウンレギュレーションされたものとして確認された(図20)。リボヌクレアーゼのRh/T2/SファミリーのメンバーであるRNASET2は、発現において5倍を超えるTL1A媒介ダウンレギュレーションを示す唯一のIBDリスク関連遺伝子であった。RNASET2は潜在的なIBDリスク遺伝子としてGWASに同定された。IBD病因におけるRNASET2の機能的な役割が未知であったため、IBDにおけるRNASET2発現のレギュレーションが試験された。いかなる理論にも拘束されるものではないが、本発明者らは、RNASET2が「クラス予測因子(class predictor)」遺伝子であるため、総CD4+T細胞において差示的発現を検出できると考えている。CD、UC患者またはNL対照由来の休止細胞またはIL12/IL18処理CD4+T細胞を単離し、RNASET2レベルをTL1Aの存在下または非存在下で8時間比較した。図7に見られるように、NLドナー由来の細胞において観察されたものとは対照的に、IBD患者は、TL1Aが媒介する、RNASET2発現レベルの低下を示さなかった。むしろ、低下したRNASET2の発現レベルは、軽度の疾患経過と比較して「重度」のCD患者に伴っていた。RNASET2発現は、1年あたり複数の疾患の再燃を示すCD患者から単離された細胞において有意に低く(p<0.001)(図8-1のAおよび図8-2のC)、および、同様に、疾患管理のために外科的介入を必要とする医学的に難治性のCD患者において、RNASET2発現の低下が検出された(p<0.024)(図8-1のB)。同様の傾向がUC患者に見られた。
【0117】
遺伝子発現量的形質(Gene expression quantitative trait)(eQTL)を、RNASET2遺伝子変異体と遺伝子転写産物発現レベルとの間の機能的な相関を特徴づけるために行なった。コーカサス人においてしているタグ付けIBDリスクSNP、すなわちrs1819333、および、CD韓国人集団において同定されたrs2149085は、両方とも、RNASET2プロモーター領域内にあり、転写開始部位から約-3.5kb以内に位置する。さらなるプロモーターSNP、すなわちrs9355610は、グレーブの自己免疫性甲状腺疾患の感受性に関連することが示されている。CD患者から単離した末梢血において、RNASET2疾患リスクアレルrs1819333(p=0.015)およびrs2149085(p=0.015)、ならびにrs9355610(p=0.04)はeQTLを示し、RNASET2発現の減少と相関した(図9)。いかなる理論にも拘束されるものではないが、データは、RNASET2のダウンレギュレーションがIFN-γ発現を変化させる経路を示した。IFN-γ発現のレギュレーションにおけるRNASET2の機能的な役割を、siRNA媒介サイレンシングを使用して確認した。CD4+T細胞をRNASET2 mRNAを標的とするsiRNAまたは対照siRNAでトランスフェクトし、次に、IL12/IL18およびTL1Aで処置した。RNASET2 mRNA自体の発現は、RNASET2 siRNAによる60-70%の阻害を表示した(図21A)。平行して、対照のスクランブルsiRNAと比較して、RNASET2 siRNAでトランスフェクトした細胞では、IFN-γ発現の有意な増強(>1.5倍)が見られた(図21B)。
【0118】
いかなる理論にも拘束されるものではないが、発明者らは、クローン病の病因におけるIFN-γの中心的な役割を考慮すると、これらのデータは、RNASET2のダウンレギュレーションが、TL1Aに起因する重度のCDのバイオマーカーとして役立つことを総括的に示している、と考える。RNASET2発現を、NL、CDおよびUC患者からの新たに単離された未刺激のT細胞の別個のコホートで検討した。DNAメチル化は遺伝子発現に影響を及ぼし、ほとんどの疾患リスク遺伝子多型は、後生的な修飾を受ける領域内の、転写されたエキソームの外側にマッピングされるため、RNASET2のDNAメチル化状態も同様に調べた。CDおよびUC患者からの未刺激T細胞では、IFNγ発現レベルとRNASET2の間で逆相関が観察された(図22)。さらに、図10で見られるように、主に転写開始部位(TSS)の上流および下流50kb以内に、距離に反比例する、発現とメチル化との間の有意な負の相関があった。さらに、IBD疾患リスク遺伝子変異体と、メチル化および発現レベルに相関する領域との間に重大な重複があった(図10)。最も強い相関(p=8.5×10-5)が第1のイントロン内のCpG部位(1.4kb)で観察された(図23)。
【0119】
RNASET2遺伝子変異体と遺伝子記録発現レベルとの間の機能的な相関が、難治性の疾患を有するIBD患者由来の未刺激末梢T細胞において確認され(図11)、発現の低下は、RNASET2リスクアレル変異体SNPと相関する。さらに、同様のeQTLは、遺伝子発現マイクロアレイを使用する小腸の外科的切除から得られた組織から抽出されたmRNAに観察された(図12)。RNASET2遺伝子変異体とメチル化mQTLとの間の相関も試験され、有意なmQTLが、難治性の疾患を有するIBD患者におけるメチル化の増加で観察された(図13のA-D)。これに対して、mQTLは、軽度の疾患有する患者またはNL被験体から単離された細胞には検出されなかった。
【0120】
遺伝子発現(eQTL)およびDNAメチル化(mQTL)に影響するこれらの遺伝変異の役割が、RNASET2遺伝子座に及ぶすべての情報価値のあるSNPにわたりマッピングされた(図14)。医学的に難治性の疾患を有するIBD患者から単離されたT細胞では、CCR6遺伝子座内の、RNASET2 TSSの10kb下流から-170Kb上流に、強力に重複するeQTLおよびmQTLが存在した。同様に、難治性の疾患を有する患者における未刺激の末梢T細胞から小腸外科的切除までのRNASET2発現を比較すると、eQTLに顕著な重複があった。これに対して、軽度の疾患を有する患者またはNL被験体では、mQTLは検出されなかった(図14Aおよび14B)。これは、いかなる理論にも拘束されるものではないが、このデータは、RNASET2のダウンレギュレーションが、TL1Aが媒介するIFN-γ発現の増強の要素であることを示唆している。さらに、既知のIBDリスク変異体SNPを有するIBD患者におけるRNASET2の後成的な調節および遺伝子発現の低減は、より重篤な疾患の経過に関連する。
【0121】
<実施例5>
<方法>
NL(正常)ドナーから単離された末梢T細胞を、TL1Aとともに、またはTL1Aなしで、8時間培養した。フローサイトメトリーによって精製されたインターフェロンガンマ(IFNγ)産生細胞のサブセットを用いて、RNA配列決定(RNA-seq)および定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)によって遺伝子発現プロファイリングを行った。酵素結合免疫吸着定量法(ELISA)および低分子干渉RNA(siRNA)阻害およびqPCRを使用して、IFN-γのTL1A媒介発現におけるリボヌクレアーゼT2(RNASET2)の役割を測定した。IBDにおけるRNASET2の役割を、同様の方法で刺激されたIBD患者(20CDおよび20UC)から単離された末梢T細胞を使用して調査した。所見を、NLおよびIBD患者または小腸(SB)外科的切除からの未刺激T細胞の追加サンプルを用いて検証し、遺伝子型および臨床データに基づいて発現量形質遺伝子座(eQTL)およびメチル化量的形質遺伝子座(mQTL)について分析した。
【0122】
転写因子(TF)結合部位の予測されたモチーフ破壊のスクリーニングは、候補の調節SNPを同定した。プロテオーム分析およびサイトカイン分泌の測定を使用して、タンパク質発現に対するRNASET2指向性低分子干渉RNA(siRNA)の効果を判定した。細胞凝集をフローサイトメトリーによって測定した。
【0123】
<研究被験体>
ヒト被験体は、Cedars-Sinai Medical CenterのF. Widjaja Foundation Inflammatory Bowel and Immunobiology Research InstituteのMIRIAD IBD Biobankを通じて集められた。全ての対照被験体は健康な個体であり、投薬がなく、自己免疫疾患またはIBDの既知の個人病歴または家族歴はなかった。インフォームドコンセント(Cedars-Sinai Medical CenterのInstitutional Review Boardにより承認された)を、参加したすべての被験者から得た。外科的介入が薬物療法不全後の疾患管理に必要とされた場合、IBD患者は「難治性」として定義された。IBD患者は、以前に手術を受けておらず、サンプル採取時に活動的な病気がない場合、「軽度」と定義された。1年あたり1つ以上の疾患再燃を示すCD患者は、1年あたり疾患の再燃のない患者と比較して「重度の疾患」を有すると定義された。臨床的特徴は、外科的切除を受けた564人のCD患者から、将来を見越して収集した。
【0124】
<リンパ球集団の単離>
末梢血単核細胞(PBMC)をフィコール-ハイパック勾配(Ficoll-Hypaque gradients)での分離によって健康なボランティアから単離した。CD3+免疫磁気ビーズ(Miltenyi Biotech、Auburn、CA)を用いてCD3+T細胞(PBT)を単離し、このCD3+T細胞は少なくとも95%の純度であった。CD4+T細胞を、磁気ビーズ(Stemcell Technologies、Vancouver、BC、Canada)での消耗(sepletion)による負の選択を用いて単離し、このCD4+T細胞は少なくとも95%の純度であった。
【0125】
<Infinium 450Kビーズチップアッセイ>
CD3+T細胞由来のDNAサンプルは、1μgの投入量のZymo EZ DNAメチル化キット(Zymo Research)を用いて変換した重亜硫酸塩だった。このアッセイは、Infinium HumanMethylation450 BeadChip Kit(Illumina Inc.、San Diego、CA)を用いてIllumina Infinium Methylationの指示に従って行った。GenomeStudioソフトウェアを使用して、データを視覚化し正規化した。メチル化β値は、(メチル化プローブシグナル)/(全シグナル)比率として再計算された。
【0126】
<IFN-γアッセイ>
IFN-γを増幅ELISAによって測定した。Greiner Bio-One(Longwood、FL)ELISAプレートを、100μlの5μg/mlモノクローナル抗IFN-γ(BD Biosciences、Woburn、MA)で一晩被覆した。サンプルおよび標準物質を24時間加え、続いて100μlの2.5μg/ mlポリクローナルビオチン化ウサギ抗IFN-γ(BD Biosciences)を2時間加えた。これに100μlの1/1000希釈アルカリホスファターゼ結合ストレプトアビジン(Jackson ImmunoResearch Laboratories、West Grove、PA)を2時間添加した。基質、0.2mM NADP(Sigma-Aldrich、St.Louis、MO)を30分間添加した後、アンプリファイア(3%2-プロパノール、1mMヨードニトロテトラゾリウムバイオレット、75μg/ mlアルコールデヒドロゲナーゼおよび50μg/ ml ジアホラーゼ; Sigma-Aldrich)を30分間加えた。E maxプレートリーダー(Molecular Devices、Sunnyvale、CA)を用いてプレートを490nmで読み取った。
【0127】
<CD3+T細胞についての遺伝子発現アッセイ>
Illuminaゲノムワイド発現BeadChip(HumanHT-12_V4_0_R2)(Illumina)またはNugenヒトFFPE RNA-seqライブラリーシステムを用いて、CD3+T細胞の発現分析を行った。Illumina遺伝子発現データを、BRBアレイツールおよびRのルミパッケージ(lumi package in R)を用いて処理した。データをlog2変換し、ロバストスプライン正規化を使用して正規化した。RNA-Seqのライブラリーを、NugenヒトFFPE RNA-seqライブラリーシステムを用いて調製した。ワークフローは、cDNA生成、断片化、末端修復、アダプターライゲーションおよびPCR増幅からなる。1つのレーンでサンプルを多重化するために、異なるアダプターを使用した。配列決定をIllumina NextSeq 500でシングルリード75回実行した。データ品質チェックをIllumina SAVで行った。デマルチプレクシングをIllumina Bcl2fastq2 v 2.17プログラムで行った。読み取りは、Bowtie2バージョン2.1.0を使用して最新のUCSC転写産物セットに最初にマッピングされ、遺伝子発現レベルはRSEM v1.2.15を使用して推定された。遺伝子発現を正規化するためにFPKMを使用した。
【0128】
<siRNA阻害および定量的プロテオミクス解析>
新たに単離されたCD4+T細胞(15×10)を、10%のウシ胎児血清を含むRPMI1640培地で一晩中培養し、洗浄し、250μLの新鮮な培地で再懸濁し、かつ、BTX Electro Square Porator ECM 830(Genetronics, Inc., San Diego, CA)において4mm(ギャップ幅)のキュベットを用いて150pmoleのRNASET2 siRNAまたは対照siRNA(600V、500μsecの9パルス、パルス間100μsec)の存在下で電気穿孔した。siRNA阻害に使用される配列を表16に示す。
【0129】
【表16】
【0130】
タンデム質量標識(TMT)に基づく量的プロテオミクス分析を、記載されているように行った(Quら、Sci Rep 2016; 6:32007)。各サンプルについて、50μgのタンパク質を、フィルター補助サンプル調製(FASP)を用いてトリプシンペプチドに並行して消化した(Wisniewskiら、Nat.Methods 2009;6:359-62)。8つのサンプル由来のペプチドおよびプールされた内部標準を一連のTMT10plex試薬(Thermo Scientific)で標識し、混合し、脱塩し、高pH液体クロマトグラフィーにより24の分画に分離し、8の分画につなぎ合わせた(concatenated)。分画したペプチドを50cm EASY-Spray分析カラムで分離し、タンデム質量分析のための高エネルギー衝突解離(HCD)法を用いて、データ依存性取得モード(data-dependent acquisition mode)でLTQ Orbitrap Elite質量分析計(Thermo Scientific)で分析した 。取得した生データを、SEQUESTアルゴリズムを用いて、Proteome Discoverer(v2.1)でヒトUniprotデータベース(10/17/15にリリース、20,982配列を含む)に対して検索した。ペプチドおよびタンパク質の同定をフィルタリングするために、厳格な1%の偽発見率が設定された。30%を超える前駆イオン干渉を有するペプチドは、タンパク質の定量化から除外された。
【0131】
<細胞凝集のフローサイトメトリーおよび分析>
IFN-γ-分泌CD4+T細胞をフローサイトメトリーによって単離し、続いて、組換え型ヒトIL-12(500pg/ml、R&D Systems、Minneapolis、MN)およびIL-18(50ng/ml、R&D Systems)およびTL1A(100ng/ml、Fitzgerald Industries International、Acton、MA)で8時間、細胞を活性化した。IFN-γ分泌アッセイ細胞濃縮および検出キット(Miltenyi Biotec、San Diego、CA)を使用して、IFN-γ-分泌CD4+T細胞を検出した。細胞をFACS Aria II(BD Biosciences、San Jose、CA)で選別した。
【0132】
細胞内IFN-γ産生および細胞凝集の分析は、実質的に記載されているように行った(Dezorellaら、Cytometry B Clin Cytom 2016:90:257-66)。簡潔に述べると、細胞をIL12/IL18およびTL1Aで24時間静置または刺激し、最後の4時間にベルフェルディンA(10ug/ml)を加えた。細胞を4%のパラホルムアルデヒドで固定し、0.1%Triton X-100および0.2%サポニンで透過処理し、細胞内IFN-γ(ブリリアントバイオレット421-IFN-γeBioscience)またはアイソタイプ対照について染色した。サンプルを洗浄し、細胞凝集を染色した(ヨウ化プロピジウム)。細胞をCyAn TM ADPフローサイトメーター(Dako、Carpinteria、CA、USA)で取得し、FlowJosoftware(TreeStar Inc.、Ashland、OR、USA)で分析した。LFA1遮断分析のために、細胞をモノクローナル対照マウスIgG1k(15μg/ml)または抗LFA1(TS1 / 18)と円錐形マイクロプレート中で一晩プレインキュベートし、その後IL12、IL18およびTL1Aで24時間刺激した。
【0133】
<qPCR>
RNeasyキット(Qiagen、Inc.、Valencia、CA)を用いて全RNAを単離し、遺伝子発現をリアルタイム量的RT-PCRによって測定した。Omniscriptキットおよびプロトコル(Qiagen)を使用して、オリゴ(dT)(Integrated DNA Technologies)をプライマーとして各RT-PCR反応において500ナノグラムの全RNAを使用した。リアルタイムPCRを、Mastercycler(登録商標)ep realplex PCR検出システム(Eppendorf、Hauppauge、NY)を用いて行った。PCRアッセイを二重に行った。プライマー配列(Integrated DNA Technologies)はイントロンにわたり、また表17に描写される。
【0134】
【表17】
【0135】
<遺伝子型判定>
遺伝子型データをIllumina HumanImmuno BeadChipアレイを使用して、コーカサス人の被験体について得た。マーカーは以下に基づいて除外された:p≦10-3の有意な閾値を用いたハーディ・ワインベルグ平衡検定;遺伝子型判定率が100%未満(eQTLおよびmQTL関連について)または98%未満(GWASについて)、およびマイナーアレル頻度が5%未満である場合。PLINKを使用して関連する個体(Piハットスコア>0.25)を排除するために、家系同一性(Identity-by-descent)を使用した。ADMIXTUREを使用して、民族性分析を実施して個人の民族性の割合の概算を得た。コーカサス系の割合が0.75以上の個人はコーカサス人として分類した。独立したコーカサス人のサンプルは、関連性チェック(カットオフpi-hatスコア(cut-off pi-hat scores)を用いる)およびAdmixtureによる民族性分析に基づいて同定され、その後のすべての関連付けは、これらのサンプルを用いて行われた。独立したコーカサス人のサンプルについての遺伝子型データ中の主な要素を、TRACEを使用して生成した。LDHeatmap Rパッケージ(LDHeatmap R package)を使用して、RNASET2遺伝子座におけるSNPについてのLDプロットを、139人の被験体の遺伝子型データを用いて生成した。IIBDGCコホートにおけるQCおよび遺伝子型判定の詳細は、以前の報告(Jostinsら、Nature 2012; 491:119-24およびLiuら、Nat Genet 2015; 47:979-86)に見ることができる。簡単に言うと、ImmunoChipを使用して遺伝子型判定された18,602個のCDの症例および33,938の非IBD対照を、5%を超えるデータが欠落したサンプルと、集団層別化由来または異常な平均強度値を有する非ヨーロッパ祖先のサンプルと、対照において2%を超えるデータ欠損またはHWEp値<10-10を有するSNPと、を除去した後に、解析に含めた。IIBDGCからのCDの症例のうち、13,511は、以前に報告されたようにモントリオール分類に基づいて収集された疾患行動情報を有する(Cleynenら、Lancet 2016; 387:P156-67)(B1は非狭窄性(non-stricturing)、非浸潤性(non-penetrating)、B2は狭窄性およびB3、浸潤性疾患として記載されている)
【0136】
<小腸の外科的サンプルについての発現データ>
Agilent特徴抽出ソフトウェア(Agilent feature extraction software)を使用して抽出された単一チャネルマイクロアレイ発現データを、Washington University(St. Louis)のGenome Technology Access Centerから受け取った。技術的な複写(technical duplicates)で利用できる生の表現データを、Rバージョン3.2.2で実装されたLIMMAパッケージを使用して正規化した。発現データ前処理は、発現データのバックグラウンド補正、それに続くlog2変換および分数正規化が含まれていた。
【0137】
<EQTLおよびmQTLマッピング>
eQTLとmQTLのマッピングをMatrix eQTL Rパッケージで実行した。小腸の外科的サンプルについては、独立したコーカサス人の被験体(n=85)を用いてeQTLマッピングを行った。遺伝子型と、プローブ発現レベル(eQTLについての)またはメチル化β値(mQTLについての)と、の間の関連付けは、相加的な遺伝子型効果を用いる線形回帰モデルを使用して行った。すべての関連付けを、遺伝子型に沿って共変量として性別および遺伝子型データの最初の2つの主成分を用いて行った。RNASET2遺伝子発現またはメチル化レベルとの関連付けを行うために、RNASET2 TSSの200KB以内の約200の遺伝的変異体を使用した。
【0138】
<モチーフ分析および候補の調節SNP(Candidate Regulatory SNPs)の同定>
eQTLおよびmQTLを示す全ての変異体を、Bioconductor motifbreakRパッケージ)を用いて、TF結合モチーフの予測される破壊について分析した(Coetzeeら、Bioinformatics 2015; 31:3847-9。CD患者からのRNAseqデータを用いて、発現されたと同定されたT細胞特異的TFのみが次に進んだ。その後、次いで、候補の調節SNPを、Roadmap Epigenomics Mapping Consortium(REMC)データに基づいて潜在的な機能性について分析した(Roadmap Epigenomics C.ら、Nature 2015;518:317-30)。潜在的な活性エンハンサー領域を、ヒストン修飾H3K4me1とH3K27acシグナルとの重複に基づいて判定した(Coetzee et al., Hum Mol Genet 2015;24:3595-607)。TF調節の潜在的機能性を、REMC CHIP-seq結合シグナルおよびRegulomeデータに基づいて判定した。
【0139】
<経路分析>
経路分析を、QiagenのIngenuityR Pathway Analysis(IPA(登録商標)、Qiagen、 Redwood City、www.qiagen.com/ingenuity)およびDatabase for Annotation、Visualization and Integrated Discovery (DAVID、 http://david.abcc.ncifcrf.gov)を使用して遂行した。
【0140】
<統計的分析>
モデリング、データ分析およびデータマイニングを、BRBアレイツール(brb.nci.nih.gov/BRB-ArrayTools)およびR-program(バージョン2.2.2; www.r-project.org)を使用して行なった。クラス予測分析は、0.001の最小p値に基づいて、化合物共変数予測因子、対角線形判別分析、k-最近傍(k=1および3を使用)、最近傍重心、およびサポートベクターマシンを使用した。クラスター分析をCluster3.0およびJavaTreeview1.1.6r4を使用して行なった。JMP統計ソフトウェア(Cary、NC)を用いて統計学的有意性についての試験を判定した。rs1819333とrs9355610 SNPと、治療不全、ANCA血清陽性、腸切除の長さ、および、再手術までの時間、の臨床的関連性の試験を、パラメトリックスチューデントT検定およびピアソン相関;フィッシャー直接検定とカプラン・マイヤー生存曲線を用いた関連性と傾向の検定、によって計算した。内視鏡的再発との関連付けはコクラン=リチャード・アーミテージ傾向テストによって計算した。
【0141】
<結果>
この研究では、本発明者らは、TL1A媒介サイトカイン産生増強の要素として、および疾患の重症度の新規な潜在的なバイオマーカーとして、IBD感受性遺伝子であるRNASET2のダウンレギュレーションを同定した。siRNAサイレンシング後のRNASET2のダウンレギュレーションは、いかなる理論にも拘束されることなく、炎症応答の調節における役割をサポートするIFN-γ分泌の増加をもたらした。RNASET2発現の減少も、毎年の疾患の再燃のない患者と比較して、毎年1回以上の疾患の再燃を有するCD患者の末梢T細胞において見られた。機能的に、量的形質遺伝子座は、軽度の疾患ではなく医学的に難治性であるCD患者からの、末梢および粘膜組織における発現減少(eQTL)およびDNA過剰メチル化(mQTL)に関するRNASET2-リスク変異体と関連していた。さらに、RNASET2疾患リスク変異体は、狭窄/浸潤性の疾患の挙動の進行の増大と関連していた。さらに、RNASET2疾患リスク変異体は、治療薬不全、ANCA血清陽性、腸切除の長さの延長、再手術までの時間の短縮、および高い(>2)Rutgeertsスコアの術後内視鏡検査により、部分的に定義される、複雑性/抵抗性のCD表現型と関連していた。RNASET2疾患リスク変異体のモチーフスクリーニングは、潜在的なエンハンサー領域内に位置するコンセンサスETS-TF結合部位の予測された破壊を有するrs2149092を同定し、RNASET2シス調節エレメントについての洞察を提供する。RNASET2は多数のETS転写因子の発現と相関していた。最終的には、RNASET2のsiRNAサイレンシングは、IFN-γの増強、ICAM1の増加および付随するT細胞凝集をもたらし、一方、抗LFA1凝集の遮断はIFN-γ分泌を抑制した。
【0142】
<IFN-γ産生のTL1Aが媒介する増強に関連する差次的遺伝子発現の同定>
TL1A媒介IFN-γ産生増強に関与する基礎となる分子経路を同定するために、主要なIBD炎症誘発性サイトカインであるCD4+T細胞をTL1Aで処理し、IFN-γ-分泌および非分泌サブセットに分け、RNA-seqで分析した(図15および図27)。発現遺伝子のセットの教師なし階層的クラスタリングは、TL1A媒介IFN-γ分泌および非分泌グループを明確に区別した(図16)。IFN-γ分泌/非分泌サブセット(p値<1×10-5)(図17)間の少なくとも2倍の差示的発現を有する764個の「予測因子(predictor)」遺伝子が同定された。遺伝子オントロジー分析は、T細胞受容体シグナル伝達、アポトーシス、およびRNA発現に関連した経路において、差次的に発現される遺伝子が豊富であり、抗TNF生物学的薬剤であるインフリキシマブの下流標的であることを示した。予測因子遺伝子は、他の領域と比較して、GWAS同定IBD感受性変異体(一塩基多型(SNP)の0.25MB上流または下流)に隣接する領域において、有意に豊富だった(14%対9%、p値は3.3×10-6、超幾何分布検定)。いかなる理論にも拘束されるものではないが、これらのデータは、これらの遺伝子が、IFN-γ発現のTL1A媒介性調節に寄与するだけでなく、IBDリスク関連遺伝子座と重複することを示唆する。IBDリスク関連予測遺伝子のうち、IFN-γの発現が最も有意にアップレギュレートされたと確認され、RNASET2が最も有意にダウンレギュレートされた遺伝子として確認された(図20)。RNASET2は、IFN-γ分泌CD4+サブセットにおいて5倍を超えるダウンレギュレーションを有する唯一のIBDリスク関連遺伝子であった。
【0143】
<発現およびDNAメチル化レベルの逆相関を示すRNASET2領域は疾患リスク関連変異体に隣接する領域と重複する>
RNASET2は、リボヌクレアーゼのRh/T2/Sファミリーの唯一のヒトメンバーであり、その発現は卵巣癌、メラノーマおよび非ホジキンリンパ腫で減少する。クローン病/IBDの病因におけるIFN-γの重要な役割を考慮すると、いかなる理論にも拘束されるものではないが、これらのデータは、RNASET2のダウンレギュレーションが、TL1Aが媒介する「重症」のCDを同定することを総括的に示唆している。RNASET2発現を、NL、CDおよびUC患者の別個のコホートからの新しく単離した刺激されていない末梢CD3+T細胞で調べた。DNAメチル化は遺伝子発現に影響を与える機構の1つであると理解されているので、特に転写されたエキソームの外側にマッピングされた疾患関連遺伝子変異体において、RNASET2遺伝子座のDNAメチル化状態を調べた。RNA-seq分析は、組み合わせた138人のCD患者からなる2つの独立したコホートからの末梢T細胞におけるTNFSF15発現レベルとRNASET2との間に逆相関があることを実証した(図24Aおよび24D)。コホートがそれぞれ別々に(図24Bおよび24C)分析された時さえ、この結果は一貫していた。さらに、主として転写開始部位(TSS)(図26)からの50kbの上流および下流内に、発現とメチル化(図23)の間に有意な負の相関があった。RNASET2の最初のイントロン内のCpG部位(1.4kb)において、メチル化および発現の最も強い相関が観察された(p=8.5×10-5)(図26)。さらに、ヨーロッパの祖先集団であるrs1819333にRNASET2遺伝子座をタグ付けするIBDリスクSNPを含むCD疾患遺伝子リスク変異体は、メチル化および発現レベルに相関する領域と重複している(図10)。
【0144】
<RNASET2疾患のリスクアレルは、難治性疾患を有するCD患者におけるRNASET2発現の減少およびDNAメチル化の増加と関連している>
RNASET2遺伝子変異と遺伝子転写産物発現レベルとの間の機能的相関関係を特徴付けるために、遺伝子発現量的形質(eQTL)を行った。ヨーロッパ人におけるIBDリスクに関する疾患関連SNPのrs1819333、および韓国人におけるrs2149085、ならびに、グレーブス病に関連するリスクSNPのrs9355610は、RNASET2の転写開始部位から13kbに位置する。RNASET2 IBDリスク遺伝子型と遺伝子転写産物発現レベルとの間の機能的相関は、難治性疾患を有するIBD患者から単離された未刺激の末梢CD3+T細胞において確立された。データは、RNASET2リスクアレルrs2149085、rs1819333、およびrs9355610を有する被験体由来のT細胞におけるRNASET2発現の有意な減少を実証した(図11)。これらの所見は、外科的切除でCD被験体から得られた非炎症小腸組織から抽出されたmRNAについて観察された有意なeQTLが確認された(図12)。RNASET2遺伝子変異体とメチル化との相関であるmQTLも調査した。有意なmQTLが、難治性疾患のCD患者におけるメチル化の増加とともに観察された(図13-1のAおよび13-2のC)。これに対して、軽度の疾患を有するCD患者またはNL被験体から単離された細胞ではmQTLは検出されなかった(図13-1のBおよび13-2のD)。さらに、RNASET2疾患リスクSNP(rs1819333/rs2149085 p=0.05、rs9355610 p=0.01)を有するCD患者に関連する、複雑な疾患の挙動である、狭窄/浸潤性の表現型(モントリオール分類B1対B2およびB3)の有意な増加があった。
【0145】
遺伝子発現(eQTL)およびDNAメチル化(mQTL)は、RNASET2遺伝子座にわたるすべての情報価値のあるSNPにわたってマッピングされた(LDプロット)。医学的に難治性の疾患を有する患者から単離されたT細胞では、線維芽細胞増殖因子受容体1癌遺伝子パートナー(FGFR1OP)からケモカイン(C-Cモチーフ)受容体6(CCR6)の最初のイントロンに及ぶ、RNASET2 TSSの10kb下流から-170kb上流までの強力な重複するeQTLおよびmQTLがある。同様に、難治性の疾患を有するCD患者において、未刺激の末梢T細胞から小腸外科的切除までのRNASET2発現を比較すると、eQTLに重複があった。これに対して、軽度の疾患を有するCD患者またはNL被験体にはmQTLとの関連は少ししか検出されなかった(図14Aおよび14B)。eQTLとの関連はFGFR1OPまたはCCR6については検出されなかった。これらのデータは、医学的に難治性の疾患を有するCD患者から単離された末梢T細胞の別個のコホートにおいてさらに検証された。CDに関連するRNASET2リスク変異体と対応するeQTL(図28)との間に有意な重複があり、このことは、特定の理論に縛られることなく、RNASET2が疾患を媒介する上での機能的役割を示唆している。
【0146】
<CDにおけるRNASET2の弱い発現>
IBD病因におけるRNASET2の役割を確立するために、IBD患者から単離したCD4+T細胞におけるRNASET2発現の調節を調べ、TL1Aの存在下または非存在下で正常(NL)ドナーと比較した。図7で見られるように、IBD患者ではなくNLドナーは、TL1Aが媒介するRNASET2発現レベルの低下を示した。代わりに、RNASET2の発現レベルの低下は、毎年の疾患の再燃がない患者(図8-1のAおよび図8-2のC)と比較して、より重篤な疾患(1年あたり1つ以上の疾患の再燃を示す)のCD患者において見られた。
【0147】
<RNASET2疾患リスクアレルは複雑で抵抗性の疾患の挙動に関連する>
RNASET2と疾患活性および重症度との間の関連を評価するために、発明者らは、外科的切除を受けた564人のCD患者のコホートを利用し、その後、将来を見越して追跡した。外科手術への指標を含む臨床的特徴を、RNASET2リスク変異体(rs1819333およびrs9355610)との関連について評価した。RNASET2疾患リスク変異体SNPは、複雑な狭窄/浸潤性表現型(モントリオール分類B1対B2およびB3)と関連していた(表18)。外科手術の時に、RNASET2疾患リスク変異体SNPを有する患者は、チオプリンまたは抗TNF療法の治療不全、ANCA血清陽性(抗TNF療法に対する応答の欠如に伴うマーカー)、および、全体の疾患の重症度に起因する特徴の腸切除の長さの増加、を伴っていた(表18および図38-39)。ステロイドまたはスルファサラジンでの治療不全については関連が認められなかった。さらに、疾患管理のために複数の切除を必要としたRNASET2疾患リスク変異体SNP患者は、再手術までの時間が短かった(図32)。
【0148】
【表18】
【0149】
同様に、RNASET2リスクSNPはより重度の疾患再発に関連した。手術後の内視鏡検査は、手術後の予防を受けていなかった、高いRutgeertsスコア(>2)で分類された患者におけるRNASET2リスクSNPの関連性を明らかにした(表18)。関連性は臨床的再発では観察されなかった。RNASET2の発現の減少は、浸潤性疾患表現型(図31)およびASCA血清陽性(図30)にも関連した。いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、このデータは、複雑かつ抵抗性の疾患挙動を示唆する臨床的パラメータとのRNASET2疾患リスクSNPの関連性を裏付ける。
【0150】
<疾患をタグ付けるSNPを有する、LDにおけるRNASET2変異体は、ETS転写因子結合モチーフを破壊する>
上に示されたデータは、機能/因果関係を判定するのを難しくするeQTLおよびmQTLに関連する、多くが連鎖不平衡におけるものである、100を超えるCD RNASET2リスク変異体の間の著しい重複を実証する。CDに関連する大部分のRNASET2リスク変異体が、非コード領域に位置するが故に、これらのSNPは調節的機能の調整によって発現を変えるだろう。さらに、いかなる特定の理論に束縛されるものではないが、研究は、疾患に関連するSNPは、しばしば、疾患に関係する細胞型の活性エンハンサー領域内に存在し、TF結合モチーフを破壊できることを示唆する。REMCデータは、他の組織と比較して、RNASET2遺伝子座が、推定上の活性エンハンサーのヒストン修飾および活性遺伝子発現によって、初代T細胞中でマーキングされることを実証する(図40)。RNASET2発現を調節する分子経路の洞察を得て、かつ候補の機能的なSNPの数に優先順位を付けるために、本発明者らは、eQTL/mQTLに関連していたすべてのSNPにわたるTFモチーフの破壊を予測するために、モチーフ分析を実施した。T細胞に発現させられたTFのモチーフを破壊する変異体が選択され、そして、RNASET2疾患指標SNP rs1819333を有する、LDにおける候補の変異体が注目された。指標SNP(LD R2=1)から-569bpに位置するrs2049092 SNP疾患リスク変異体は、高度に保存されたTTCCモチーフ内に存在し、大部分のETS転写因子によって活用され、TF結合を破壊することが予測される。配列分析は、JUN結合部位に隣接するIRF4およびSpi1の結合部位の重複を実証する(図36-1のA)。RegulomeおよびREMCのデータは、活性エンハンサー要素を示すヒストン修飾と共に重複する、リンパ芽球様細胞株に結合する、ETS1、IRF4、およびSpi1のTF占有率を確認する(図36-1のB)。さらに、ETSの多数のメンバーを有するRNASET2の発現とJUN TFとの間に強い相関がある(図36-2のCおよび図41)。相関は、IRF4では観察されなかった(図41)。いかなる特定の理論に束縛されるものではないが、これらのデータは、免疫の区画(immune compartment )中のRNASET2の発現の関係性を強化し、かつRNASET2の転写を調節する際の、ETSおよびJUNの転写因子の機能的な役割を裏付ける。
【0151】
<RNASET2のサイレンシングは、ICAM1の発現および同型性のT細胞の凝集のアップレギュレーションを介して、IFN-γの分泌を増強する>
IFN-γの分泌の調節におけるRNASET2の機能的な役割を、siRNAサイレンシングを使用して試験した。CD4T細胞を、RNASET2 mRNAを標的とするsiRNAでトランスフェクトし、その後、TL1Aで刺激した。RNASET2を標的とするsiRNAでトランスフェクトされた細胞は、RNASET2の発現の60-70%の阻害(図21Aおよび図37-1のA)を示し、そして対照のsiRNAと比較して、TL1A媒介IFN-γの分泌における平行で有意な増強(>1.5倍)が見られた(図21Bおよび図37-1のB)。いかなる特定の理論に束縛されるものではないが、これらのデータは、RNASET2のダウンレギュレーションがIFN-γの発現を調整することを示唆する。
【0152】
このプロセスに関与するシグナル伝達経路を定義するために、プロテオーム解析を実行した。候補の標的は、IFNγ分泌T細胞およびIFNγ非分泌T細胞(RNAseq分析からのデータ)を比較するとき、RNASET2のsiRNAサイレンシングに次ぐ発現の調整、およびTL1Aを媒介とした差次的な発現の両方を示すことに基づいて選択された。RNASET2サイレンシングに応じてアップレギュレートされ、かつIFNγ非分泌T細胞と比較してIFNγ分泌T細胞中にあったタンパク質のうちの1つは、ICAM1であった(図42)。ICAM1は、最近では、IBD感受性遺伝子座として同定され、アップレギュレートされた遺伝子発現は、疾患リスク変異体に関連していた。ICAM1は、一般的には、血管内皮および白血球によって発現させられる膜貫通接着タンパク質である。T細胞上のLFA1受容体にICAMを結合することにより、細胞間相互作用が促進かつ安定化する。研究は、活性化T細胞上のICAM1の発現の増大を実証し、同型のT細胞の凝集および続くT細胞の分化を誘発する際の、ICAM1-LFA1間の結合のための役割を提唱してきた。TL1Aを媒介としたIFN-γの分泌に対する、細胞間接着の効果を検討するために、底が平らなマイクロウェルおよび底が円錐形のマイクロウェ中で、細胞を培養した。接近した細胞間の円錐形の幾可学的形状中で細胞が培養されたときに、3倍を超えるIFN-γ生産量の増加が一貫して観察された(データは示されず)。その後、IFN-γ生産量のTL1Aを媒介とした増強が、同型のT細胞の凝集によって促進されるという仮説を試験するために、フローサイトメトリーを使用した。簡潔に言えば、T細胞を、TL1Aの存在下または非存在下で刺激し、その後、細胞内のIFN-γ(図37-2のCおよび図37-2のD、左のパネル)のため、およびヨウ化プロピジウム(PI)を使用する細胞の凝集(図37-2のCおよび図37-2のD、右パネルの上部および下部)のために、抗体で染色した。PIで標識されたピークは、単細胞対細胞凝集体を同定可能にする1事象当たりの細胞の数に対応し、各ヒストグラム中の第1のピークは、単細胞の事象(黒色の括弧)に対応し、そして 連続するピークは、多細胞凝集体(灰色の括弧)に対応する。少ない割合の刺激されていないT細胞しかIFN-γを分泌せず、およびこれらの細胞は、単細胞の事象および細胞凝集体としてほぼ均等に分散された(図37-3のE、左のパネル)。TL1Aの刺激の後、細胞凝集体のパーセンテージおよび大きさの両方の有意な増加(図37-2のDと比較された図37-2のCの右上のパネル)、ならびにIFN-γ産生細胞の全体数の有意な増加(6倍)(図37-3のEおよび図37-3のF)、 およびIFN-γの分泌の30倍の増加(データは示されず)があった。これに対して、IFN-γを産生しない大部分のT細胞は、TL1Aを刺激するか、または刺激せずに培養されたかどうかにかかわらず、単細胞の事象で構成される(図37-3のE、右パネル)。いかなる特定の理論に束縛されるものではないが、これらの結果は、細胞の凝集が、IFN-γを産生する細胞の数の増加と、IFN-γ生産量の全体的な量との両方に寄与することもあり、そしてTL1Aの刺激がこのプロセスを増強しうることを示唆する。ICAM1-LFA1の結合を介する細胞の凝集を媒介する際のTL1Aの機能的な役割を、LFA-1遮断抗体を使用して試験した。図37-3のGに見られるように、IgG対照抗体(p値=0.047)と比較すると、LFA-1の結合の遮断に応じて、IFN-γの分泌の全体的な43%の減少があった。いかなる特定の理論に束縛されるものではないが、まとめると、これらのデータは、TL1Aを媒介としたRNASET2のダウンレギュレーション、およびICAM1の発現の同時に起こる増強が、同型のT細胞の凝集およびIFN-γの生産量の増大を促進することを示す。ICAM1の発現の増加が、CDにおいて、ASCA血清陽性および抗TNFおよびチオプリンの手術前の治療不全(図43)と、RNASET2の減少に関連する臨床的パラメータと、疾患活性とに関連していたことが留意される。
【0153】
<実施例6>
RNASET2およびTNFSF15の両方は、201 GWAS IBD感受性遺伝子座の中で同定されてきた。TNFSF15によってコードされたタンパク質であるTL1Aは、粘膜炎のキーとなる媒介物質である。上昇したTL1Aレベルは、TNFSF15遺伝子型及び疾患の重症度と相関する。本発明者は、TL1AがT細胞中でRNASET2の発現を減少させることを識別した。TNFSF15およびRNASET2の発現は、CD患者(p=5x10-16)からのT細胞中で、逆相関する。IBDの予後バイオマーカーとしてのRNASET2の可能性を検討した。
【0154】
IBDにおけるRNASET2疾患関連SNPの役割を、手術を受ける患者(n=21)および小腸の外科的サンプル(n=85)からの末梢性T細胞において、発現およびメチル化の量的形質遺伝子座(eQTL/mQTL)を検討することにより分析した。外科的切除を受けたCD患者(n=584)を、先を見越して経過観察した。手術に対する示唆を含む臨床的特徴を、RNASET2リスク変異体(rs1819333およびrs9355610)との関連性について評価した。
【0155】
RNASET2疾患関連SNPは、末梢組織および粘膜組織(p<0.001)において減少したRNASET2の発現(eQTL)、およびIBDの治療に反応した患者と比較して、疾患管理のための外科的介入を必要とする患者(n=16)におけるDNAの過剰メチル化 (mQTL)(p<0.001)に相関があった。RNASET2疾患関連SNPは、チオプリン治療(p=0.02、OR=1.7)もしくは抗TNF治療(p=0.04、OR=1.59)の治療不全、ANCA血清陽性(抗TNF治療に対する反応の欠如に関連するマーカー)(p=0.02、OR=2.27)、ならびに腸切除の長さの増大(>30cm p=0.004、OR=2.13/>40cm p=0.03、OR=1.96)に関連した。RNASET2疾患関連SNPを有する患者は、再手術までの時間がより短いことを示した(p=0.04、zスコア=2.16)。高いRutgeertsスコア(>2)での手術後の内視鏡検査(n=369)は、手術後の予防を受けない患者(p=0.02、zスコア=2.56)または、抗TNF治療を単独で受ける患者(p=0.03、zスコア=2.46)におけるRNASET2リスクSNPに関連したが、他のIBD治療を受けた患者では、関連性は検出されなかった。
【0156】
この研究は、臨床的に関係のある疾患挙動に関連する、RNASET2疾患関連SNPの機能的意義を見極める。RNASET2リスクSNPは、複雑かつ抵抗性の疾患挙動を示唆する臨床的パラメータに関連した。さらに、手術後の治療に対する反応、および疾患の再発は、RNASET2リスクSNPに関連した。いかなる特定の理論に束縛されるものではないが、我々の先の発見と共に得られたこれらの結果は、RNASET2の調節が、TL1Aに影響された疾患病態の基礎となることもあり、そして代替的な治療アプローチから利益を得ることもある、現在の治療方針に対して反応しない被験体を識別する疾患バイオマーカーとして役立つこともあることを示す。
【0157】
<実施例7>
【0158】
【表19】
【0159】
【表20】
【0160】
rs2149092(C-非リスクアレル/T-リスクアレル)リスクSNPは、IRF4/PU.1/ELF-1の結合部位を消失させる。IRF4はリンパ球特異的で、Th1、Th2、Th9、Th17およびTregのサブセットの分化のために不可欠なIBD感受性SNPである。ELF-1は日本人集団中のCD感受性SNPである。それは、リンパ球細胞中で発現させられ、発現のエンハンサーおよび抑制因子の両方として作用し、ならびにIL2およびIL23シグナル伝達に関与するETSファミリーの転写因子である。PU.1もまた、ETSファミリーの転写因子であり、T細胞の発達の初期段階にとって不可欠である。それは、粘膜中に見られγδT細胞をダウンレギュレートして、 自然免疫において役割を果たし、そしてTH9細胞中で発現させられたとき、これらの細胞は、腸の上皮細胞におけるIL-9受容体のシグナル伝達を介して、T細胞を媒介とした大腸炎を引き起こす)
【0161】
RNASET2の発現は、IFN-γ分泌CD4T細胞におけるTL1Aの処置後に減少し、RNASET2のサイレンシングがTL1Aを媒介としたIFN-γ分泌を増強した。臨床的な相互関係もまた、チオプリン治療の治療不全、抗TNF治療の治療不全、ANCA血清陽性、B2/B3対B1(狭窄/浸潤 対 非浸潤/非狭窄)疾患、腸切除の長さの増大、第2の手術までの時間の短縮、高いRutgeertsスコアの疾患の内視鏡的再発などが含まれるがこれらに限定されない、RNASET2疾患関連SNPに対して識別されてきた。
【0162】
本発明の様々な実施形態は、詳細な説明において上述される。これらの記載が上述の実施形態について直接説明する一方、当業者が、本明細書において示され説明された特定の実施形態まで、変更および/または変化を考えうることが理解される。本説明の範囲内に属するいかなる変更または変化も、同様に本明細書に含まれていることが意図される。もし、具体的に明記されていなければ、それは、本明細書および特許請求の範囲中の単語およびフレーズが、当業者に対して通常かつ慣用の意味で伝わるという本発明者らの意向である。
【0163】
本出願の提出時の、出願人に対して既知の本発明の様々な実施形態の先の記述が提示されており、例示および説明の目的を意図している。本説明は、網羅的であることも、開示された正確な形状へ本発明を限定することも意図しておらず、多くの変更および変化が、上述の教示の観点から可能である。記述された実施形態は、本発明の原理およびその実際的応用について説明し、そして当業者が、様々な実施形態において、かつ特定の企図された使用に適するような様々な変更で、本発明を活用することを可能にする役割を果たす。したがって、本発明が、本発明を実行するために開示された特定の実施形態に限定されないことが意図されている。
【0164】
本発明の特定の実施形態が示され、説明された一方、本明細書の教示に基づいて、変化および変更が、本発明およびそのより広範囲の態様から逸脱することなく行われてもよく、そしてそれ故に、添付された特許請求の範囲が、変化および変更が本発明の精神および範囲内にあるように、それらのすべての範囲内に包含されることは、当業者にとって明白だろう。概して、 本明細書において使用される用語は、「開放的な」用語(”open” terms)として通常は意図される(例えば、用語「含んでいる(including)」は、「などを含んでいるが、これらに限定されない(including but not limited to)」として解釈されるべきであり、用語「有する(having)」ことは「少なくとも有する(having at least)」と解釈されるべきであり、用語は「含む(include)」は、「などを含む、これらに限定されない(include but not limited to)」として解釈されるべきである、等)ことが、当業者によって理解されるだろう。
図1
図2
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図8-1】
図8-2】
図9
図10
図11
図12
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図14A
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図36-2】
図37-1】
図37-2】
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図41
図42
図43
【配列表】
2024105271000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-05-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の炎症性腸疾患(IBD)を診断する方法であって、該方法は:
被験体からサンプルを得る工程;
RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在の有無を判定するのに適したアッセイにサンプルをさらす工程;及び
RNASET2遺伝子での1つ以上のリスク変異体の存在に基づいて被験体のIBDを診断する工程
を含む、ことを特徴とする方法。
【外国語明細書】