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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105315
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】炎症を治療する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240730BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240730BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20240730BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240730BHJP
   A61P 25/32 20060101ALI20240730BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240730BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240730BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240730BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20240730BHJP
   A61K 38/20 20060101ALI20240730BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61P43/00 105
A61P3/06 ZNA
A61P1/16
A61P25/32
A61P29/00
A61P43/00 111
A61P37/06
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K38/19
A61K38/20
C07K16/28
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024068599
(22)【出願日】2024-04-19
(62)【分割の表示】P 2021519646の分割
【原出願日】2019-05-31
(31)【優先権主張番号】2018903814
(32)【優先日】2018-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲載年月日 平成30年6月4日 掲載アドレス https://www.monash.edu/_data/assets/pdf_file/0004
(71)【出願人】
【識別番号】501249191
【氏名又は名称】モナッシュ ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ロバート,レミー
(72)【発明者】
【氏名】マッケイ,チャールズ レイ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】CXCR3に結合する枯渇性抗原結合部位、並びに自己免疫性及び炎症性疾患、特に、脂肪肝疾患、肝臓における脂質沈着の蓄積、脂肪性肝炎、移植片拒絶及びエフェクター及び/又はメモリーT細胞に関連する疾患を治療又は予防するための方法及び組成物を提供する。
【解決手段】対象におけるエフェクター及び/又はメモリーT細胞に関連する疾患を治療するための方法であって、CXCR3に結合する枯渇性抗原結合部位を前記対象に投与し、それによって、前記対象におけるエフェクター及び/又はメモリーT細胞に関連する疾患を治療することを含むか、それから本質的になるか又はそれからなる、方法が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるエフェクター及び/又はメモリーT細胞に関連する疾患を治療するための方法であって、CXCR3に結合する枯渇性抗原結合部位を前記対象に投与し、それによって、前記対象におけるエフェクター及び/又はメモリーT細胞に関連する疾患を治療することを含むか、それから本質的になるか又はそれからなる、方法。
【請求項2】
対象における脂肪肝疾患を治療するか、又はその進行を遅らせるための方法であって、CXCR3に結合する枯渇性抗原結合部位を前記対象に投与し、それによって、前記対象における脂肪肝疾患を治療するか、又はその進行を遅らせることを含むか、それから本質的になるか又はそれからなる、方法。
【請求項3】
対象における脂肪肝疾患の発症を予防するか又は遅らせるための方法であって、CXCR3に結合する枯渇性抗原結合部位を前記対象に投与し、それによって、前記対象における脂肪肝疾患の発症を予防するか又は遅らせることを含むか、それから本質的になるか又はそれからなる、方法。
【請求項4】
前記脂肪肝疾患が、アルコール依存症に関連するか、それによって引き起こされるか、又はその結果である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記脂肪肝疾患が、アルコール以外の食事原因に関連するか、それによって引き起こされるか、又はその結果である(非アルコール性脂肪肝疾患、NAFLD)、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項6】
前記NAFLDが、単純性脂肪肝又は炎症及び線維症の1つ以上の兆候を含む単純性脂肪肝である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記脂肪肝疾患が、肝臓脂肪症、上昇した循環若しくは肝臓トリグリセリドレベル及び/又は上昇した循環若しくは肝臓コレステロールレベルによって特徴付けられる、請求項3~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記脂肪肝疾患が、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)である、請求項3~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
自己免疫疾患のリスクがあるか又はそれに罹患している対象における炎症を軽減又は治療する方法であって、CXCR3に結合する枯渇性抗原結合部位、それによって、前記対象における炎症を軽減又は治療することを含むか、それから本質的になるか又はそれからなる、方法。
【請求項10】
炎症を軽減又は治療することが、個体における1つ以上の炎症性サイトカインの割合を減少させることを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
炎症を軽減又は治療することが、前記対象における1つ以上の抗炎症性サイトカインの割合を増加させることを含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
対象における炎症部位へのCXCR3+細胞の動員又は遊走を阻害するための方法であって、有効量の、CXCR3に結合する枯渇性抗原結合部位を前記対象に投与し、それによって、前記対象における炎症部位へのCXCR3+細胞の動員又は遊走を阻害することを含む、方法。
【請求項13】
前記対象が、移植片若しくは移植を受けたか、受けているか又は受ける予定である、請求項1、又は9~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
対象の肝臓における脂質沈着の蓄積を治療又は予防する方法であって、CXCR3に結合する枯渇性抗原結合部位を前記対象に投与し、それによって、対象の肝臓における脂質沈着の蓄積を治療又は予防することを含む、方法。
【請求項15】
対象における脂肪肝疾患を治療又は予防する方法であって、CXCR3に結合する枯渇性抗原結合部位を前記対象に投与し、それによって、前記対象における脂肪肝疾患を治療又は予防することを含む、方法。
【請求項16】
前記脂肪肝疾患が、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
対象における脂肪性肝炎を治療又は予防する方法であって、CXCR3に結合する枯渇性抗原結合部位を前記対象に投与し、それによって、脂肪性肝炎を治療又は予防することを含む、方法。
【請求項18】
前記脂肪性肝炎が、アルコール性脂肪性肝炎(ASH)又は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)であり、好ましくは、前記脂肪性肝炎がNASHである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
移植片若しくは移植を受けたか、受けているか又は受ける予定である対象における移植片又は移植拒絶反応を阻害するための方法であって、有効量の、CXCR3に結合する枯渇性抗原結合部位を前記対象に投与し、それによって、前記対象における移植片又は移植拒絶反応を阻害することを含む、方法。
【請求項20】
前記移植片が、同種移植片若しくは異種移植片であるか、又は前記移植が、同種移植若しくは異種移植である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記移植片又は移植が、心臓、腎臓、肺、肝臓、膵臓、膵島、脳組織、胃、大腸、小腸、角膜、皮膚、気管、骨、骨髄、筋肉及び膀胱移植片又は移植から選択される、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
前記抗原結合部位は、前記対象が、移植片又は移植を受ける前、受けると同時に、及び/又は受けた後、前記対象に投与される、請求項19~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記抗原結合部位が、前記対象に2回以上投与される、請求項19~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記方法が、サイトカイン(例えばインターロイキン2)、ケモカイン又は抗体などの1つ以上の他の治療剤を前記対象に投与することをさらに含み、任意選択的に、前記治療剤が、免疫抑制剤、例えば、グルココルチコイド、シクロスポリン、ラパマイシン、ボクロスポリン、シロリムス、エベロリムス、タクロリムス、ミコフェノレート、モフェチル、ミコフェノール酸、ミゾリビン、S1P-Rアゴニスト、マロノニトリルアミド、抗CD3抗体、抗CD25抗体、抗CD52抗体、抗CD20抗体又は抗腫瘍壊死因子抗体である、請求項19~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
CXCR3+細胞を枯渇させるための薬剤の調製;炎症部位へのCXCR3細胞の動
員若しくは遊走の阻害;NAFLD及びNASHを含む、対象における脂肪肝疾患の治療若しくは予防;及び/又は移植片を受けたか、受けているか又は受ける予定である対象における移植片拒絶反応を阻害するための薬剤の調製のための、CXCR3に結合する枯渇性抗原結合部位の使用。
【請求項26】
CXCR3+細胞を枯渇させるのに使用するため;炎症部位へのCXCR3細胞の動員若しくは遊走の阻害に使用するため;NAFLD及びNASHを含む、対象における脂肪肝疾患の治療若しくは予防に使用するため;及び/又は移植片を受けたか、受けているか又は受ける予定である対象における移植片拒絶の阻害に使用するための、CXCR3に結合する抗原結合部位。
【請求項27】
前記抗原結合部位が、CXCR3に結合するか又は特異的に結合し、CXCR3活性を阻害する、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法又は請求項25に記載の使用、又は請求項26に記載の使用のための抗原結合部位。
【請求項28】
CXCR3に結合する前記抗原結合部位が、枯渇性抗体である、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法又は使用又は使用のための抗原結合部位。
【請求項29】
前記枯渇性抗体が、CXCR3を発現する細胞の活性又は生存率の低下を引き起こすか又は媒介する能力を有する、請求項28に記載の方法、使用又は使用のための抗原結合部位。
【請求項30】
前記枯渇性抗体が、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)を誘導する能力を有する、請求項28又は29に記載の方法、使用又は使用のための抗原結合部位。
【請求項31】
前記抗原結合部位が、細胞を枯渇させる能力を提供するように修飾されているか、又は細胞を枯渇させる前記抗原結合部位の既存の能力を高めるように修飾されている、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法、使用又は使用のための抗原結合部位。
【請求項32】
前記細胞が、CXCR3+/CD4+ T細胞、CXCR3+/CD8+ T細胞及び/又はCXCR3+/CD19+ B細胞である、請求項31に記載の方法、使用又は使用のための抗原結合部位。
【請求項33】
前記抗原結合部位によって阻害される前記CXCR3活性が、CXCR3へのリガンドの結合;リガンドに誘導されるCXCR3の立体配座変化;CXCR3活性化;Gタンパク質活性化;CXCR3に媒介される細胞シグナル伝達;CXCR3に媒介される細胞遊走、炎症、腫瘍増殖、インビトロ若しくはインビボにおける血管形成若しくは転移応答;CXCR3に媒介される腫瘍細胞増殖;及び/又はCXCR3に媒介される炎症細胞の動員、白血球(例えば好中球、好酸球、肥満細胞又はT細胞)遊走、インテグリン活性化、走化性遊走及びTh1細胞成熟から選択される、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法、使用又は使用のための抗原結合部位。
【請求項34】
前記抗原結合部位が、CXCL9(MIG)、CXCL10(IP10)及びCXCL11(I-TAC)からなる群から選択される1つ以上のリガンドによって誘導される前記CXCR3活性を阻害するか又は低下させる、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法、使用又は使用のための抗原結合部位。
【請求項35】
前記抗原結合部位が、CXCR1、CXCR2、及び/又はC5aRに検出可能に結合せず、又はそれらに実質的に結合しない、請求項1~34のいずれか一項に記載の方法、使用又は使用のための抗原結合部位。
【請求項36】
前記抗原結合部位が、CXCR3に結合し、2nM未満、1nM未満又は0.5nM未満のEC50を示し、好ましくは、前記抗原結合部位のEC50が、約0.2nM以下である、請求項1~35のいずれか一項に記載の方法、使用又は使用のための抗原結合部位。
【請求項37】
前記抗原結合部位が、MIG、ITAC及び/又はIP10との競合結合アッセイにおいて、約20、15、12、10、8、6、5、4、3、2、又は1nM未満のIC50を示す、請求項1~36のいずれか一項に記載の方法、使用又は使用のための抗原結合部位。
【請求項38】
前記抗原結合部位が、CXCR3における第1及び/又は第2のN末端ループに結合する、請求項1~37のいずれか一項に記載の方法、使用又は使用のための抗原結合部位。
【請求項39】
前記抗原結合部位が、
(i)一本鎖Fv断片(scFv);
(ii)二量体scFv(ジ-scFv);
(iii)抗体の定常領域、Fc若しくは重鎖定常ドメイン(CH)2及び/又はCH3に連結された(i)若しくは(ii)の1つ;又は
(iv)免疫エフェクター細胞に結合するタンパク質に連結された(i)若しくは(ii)の1つ
の形態である、請求項1~38のいずれか一項に記載の方法、使用又は使用のための抗原結合部位。
【請求項40】
前記抗原結合部位が、
(i)ダイアボディ;
(ii)トリアボディ;
(iii)テトラボディ;
(iv)Fab;
(v)F(ab’)2;
(vi)Fv;
(vii)抗体の定常領域、Fc若しくは重鎖定常ドメイン(CH)2及び/又はCH3に連結された(i)~(vi)の1つ;又は
(viii)免疫エフェクター細胞に結合するタンパク質に連結された(i)~(vi)の1つ
の形態である、請求項1~38のいずれか一項に記載の方法、使用又は使用のための抗原結合部位。
【請求項41】
前記抗原結合部位が、抗体又はその抗原結合断片であり、好ましくは、前記抗原結合部位が、モノクローナル抗体である、請求項1~40のいずれか一項に記載の方法、使用又は使用のための抗原結合部位。
【請求項42】
前記抗原結合部位が、裸の抗体である、請求項1~41のいずれか一項に記載の方法、使用又は使用のための抗原結合部位。
【請求項43】
前記抗原結合部位が、抗体-薬物コンジュゲートの形態である、請求項1~42のいずれか一項に記載の方法、使用又は使用のための抗原結合部位。
【請求項44】
前記抗原結合部位が、ヒト定常領域、例えば、IgG1、IgG2、若しくはIgG3又はそれらの混合物などのIgG定常領域を含む、請求項1~43のいずれか一項に記載
の方法、使用又は使用のための抗原結合部位。
【請求項45】
前記抗原結合部位が、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)を誘導する強化された能力を有するように改変されたFc領域を含み、ここで、好ましくは、ADCCを誘導する前記強化された能力が、Fc受容体と相互作用する前記Fc領域におけるアミノ酸の突然変異、欠失又は修飾によって与えられる、請求項1~44のいずれか一項に記載の方法、使用又は使用のための抗原結合部位。
【請求項46】
突然変異、欠失又は修飾される前記アミノ酸が、配列番号1(ここで、アラニンが118位である)の239、330、及び/又は332位に、又は239、330及び/又は332と同等の位置にある、請求項45に記載の方法、使用又は使用のための抗原結合部位。
【請求項47】
前記アミノ酸が、S239D、A330L及びI332Eへと突然変異される、請求項46に記載の方法、使用又は使用のための抗原結合部位。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、CXCR3発現に関連する疾患、特に、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を治療又は予防するための方法及び組成物に関する。
【0002】
関連出願
本出願は、オーストラリア仮特許出願AU 2018903814号の優先権を主張するものであり、その内容及び開示は、全体が参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
ケモカイン又は化学誘引物質サイトカインは、小分子量(約8~10KDa)の誘導可能な分泌される分子のファミリーを含み、これは、典型的に、白血球に対する活性化因子及び化学誘引物質として機能し、血管新生、創傷治癒、及び腫瘍形成を調節し得る。ケモカイン機能に関する知見のほとんどは、それらが免疫調整及び炎症の制御に関与するため、免疫系に関する研究から得られたものである。多くの他の生体系に関与する役割は、解明が遅れている。
【0004】
ケモカインは、典型的に、それらのアミノ末端における保存されたシステイン残基の数に応じて4つのサブファミリーに分類される。ほとんどのケモカインは、4つのシステイン残基を有する2つのメインサブファミリーに属する。これらのサブファミリーは、典型的に、2つのアミノ末端システイン残基の間のアミノ酸の有無に応じて分類され、それによってCC及びCXCケモカインと呼ばれる。CXCケモカイン(典型的に、高等脊椎動物に限定される)は、通常、第1のシステイン残基に隣接するそれらのアミノ末端におけるグルタミン酸-リジン-アルギニン(ELR)モチーフの有無に応じてさらに分類される。
【0005】
CXCR3などのケモカイン受容体は、典型的に、百日咳毒素(PTX)感受性Giタンパク質に連結されたGタンパク質共役受容体(GPCR)である。CXCRのN末端ドメインは、リガンド結合特異性を決定するために重要であると考えられる。
【0006】
CXCR3は、Gタンパク質共役受容体9(GPR9)、CD182、CD183、CKR-L2、CMKAR3、GPR9、IP10-R、Mig-R、MigR、及びC-X-Cモチーフケモカイン受容体3としても知られており、38kDaの7回膜貫通型タンパク質である。CXCR3は、主に、活性化Tリンパ球及びNK細胞、及び一部の上皮細胞において発現される。CXCR3は、優先的に、Th1細胞において発現される(一方、Th2細胞は、CCR3及びCCR4の発現に有利に働く)。Th1細胞を誘引するCXCR3リガンドは、付随的に、CCR3リガンドに応答してTh2細胞の遊走を阻止し、それによってエフェクターT細胞動員の偏り(polarization)を促し得る。CXCR3は、白血球トラフィッキングを制御することができる。CXCR3へのケモカインの結合は、様々な細胞応答、最も特に、インテグリン活性化、細胞骨格変化及び走化性遊走を誘導する。CXCR3-リガンド相互作用は、Th1細胞を誘引し、Th1細胞成熟を促進する。
【0007】
CXCR3は、インビトロで培養されたエフェクター/メモリーT細胞、及び多くのタイプの炎症組織中に存在するT細胞において発現される。さらに、CXCL9、CXCL10及びCXCL11は、炎症性病変における局所細胞によって一般的に産生され、これ
は、CXCR3及びそのケモカインが、炎症細胞の動員に関与することを示唆している。CXCR3は、癌、創傷治癒、感染症及び組織移植に対する応答、並びにアテローム性動脈硬化症、多発性硬化症、肺線維症、1型糖尿病、自己免疫性重症筋無力症、腎毒性腎炎、急性心臓同種移植拒絶反応及びセリアック病を含む自己免疫疾患に関与しているとされている。
【0008】
CXCR3活性化に関連する疾患を治療するための新規な及び/又は改良された方法に対する必要性がある。
【0009】
本明細書におけるいかなる先行技術への言及も、この先行技術が、いかなる法的管轄においても、一般的な常識の一部を成すこと、又はこの先行技術が、当業者によって先行技術の他の部分により、合理的に理解されるものと予想され、関連すると考えられ、及び/又は組み合わされ得ることを承認又は示唆するものではない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の概要
一態様において、本発明は、対象におけるエフェクター及び/又はメモリーT細胞に関連する疾患を治療するための方法であって、CXCR3に結合する枯渇性(depleting)
抗原結合部位を対象に投与し、それによって、対象におけるエフェクター及び/又はメモリーT細胞に関連する疾患を治療することを含むか、それから本質的になるか又はそれからなる、方法を提供する。
【0011】
別の態様において、本発明はまた、対象における脂肪肝疾患を治療するための方法であって、CXCR3に結合する枯渇性抗原結合部位を対象に投与し、それによって、対象における脂肪肝疾患を治療することを含むか、それから本質的になるか又はそれからなる、方法を提供する。
【0012】
さらなる態様において、本発明は、対象における脂肪肝疾患の発症を予防するか又は遅らせるための方法であって、CXCR3に結合する枯渇性抗原結合部位を対象に投与し、それによって、対象における脂肪肝疾患の発症を予防するか又は遅らせることを含むか、それから本質的になるか又はそれからなる、方法を提供する。
【0013】
脂肪肝疾患は、アルコール依存症に関連するか、それによって引き起こされるか、又はその結果であり得る。或いは、脂肪肝疾患は、アルコール以外の食事原因に関連するか、それによって引き起こされるか、又はその結果であり得る(非アルコール性脂肪肝疾患、NAFLD)。NAFLDは、単純性脂肪肝であり得、又は炎症及び線維症の1つ以上の兆候を含む単純性脂肪肝であり得る。
【0014】
脂肪肝疾患は、肝臓脂肪症、上昇した循環若しくは肝臓トリグリセリドレベル及び/又は上昇した循環若しくは肝臓コレステロールレベルによって特徴付けられ得る。
【0015】
さらなる態様において、本発明は、対象における非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を治療するための方法であって、CXCR3に結合する枯渇性抗原結合部位、それによって、対象におけるNASHを治療することを含むか、それから本質的になるか又はそれからなる、方法を提供する。
【0016】
別の態様において、本発明はまた、対象における非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の発症を予防するか又は遅らせるための方法であって、CXCR3に結合する枯渇性抗原結合部位、それによって、NASHの発症を予防するか又は遅らせることを含むか、そ
れから本質的になるか又はそれからなる、方法を提供する。
【0017】
別の態様において、本発明はまた、自己免疫疾患のリスクがあるか又はそれに罹患している対象における炎症を軽減又は治療する方法であって、CXCR3に結合する枯渇性抗原結合部位、それによって、対象における炎症を軽減又は治療することを含むか、それから本質的になるか又はそれからなる、方法を提供する。
【0018】
炎症を軽減又は治療することは、個体における1つ以上の炎症性サイトカインの割合を減少させることを含み得る。さらに、炎症を軽減又は治療することは、対象における1つ以上の抗炎症性サイトカインの割合を増加させることを含み得る。
【0019】
一態様において、本発明は、対象における炎症部位へのCXCR3+細胞の動員又は遊走を阻害するための方法であって、有効量の、CXCR3に結合する枯渇性抗原結合部位を対象に投与し、それによって、対象における炎症部位へのCXCR3+細胞の動員又は遊走を阻害することを含む、方法を提供する。
【0020】
本発明のいずれかの態様において、CXCR3に結合する抗原結合部位は、枯渇性抗体である。枯渇性抗体は、CXCR3を発現する細胞の活性又は生存率の低下を引き起こすか又は媒介する能力を有する。典型的に、枯渇性抗体は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)を誘導する能力を有する。
【0021】
抗原結合部位は、細胞を枯渇させる能力を提供するように修飾されていてもよく、又は細胞を枯渇させる抗原結合部位の既存の能力を高めるように修飾されていてもよい。
【0022】
ある実施形態において、細胞は、CXCR3+/CD4+T細胞、CXCR3+/CD8+ T細胞及び/又はCXCR3+/CD19+ B細胞である。さらなる実施形態において、対象は、移植片若しくは移植を受けたか、受けているか又は受ける予定である。
【0023】
別の態様において、本発明は、対象の肝臓における脂質沈着の蓄積を治療又は予防する方法であって、CXCR3に結合する枯渇性抗原結合部位を対象に投与し、それによって、対象の肝臓における脂質沈着の蓄積を治療又は予防することを含む、方法を提供する。
【0024】
別の態様において、本発明は、対象における脂肪肝疾患を治療又は予防する方法であって、CXCR3に結合する枯渇性抗原結合部位を対象に投与し、それによって、対象における脂肪肝疾患を治療又は予防することを含む、方法を提供する。脂肪肝疾患は、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)であり得るか、又はアルコール依存症によって引き起こされ得るか若しくはアルコール依存症の結果である。
【0025】
別の態様において、本発明は、対象における脂肪性肝炎を治療又は予防する方法であって、CXCR3に結合する枯渇性抗原結合部位を対象に投与し、それによって、脂肪性肝炎を治療又は予防することを含む、方法を提供する。脂肪性肝炎は、アルコール性脂肪性肝炎(ASH)又は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)であり得る。好ましくは、脂肪性肝炎は、NASHである。
【0026】
別の態様において、本発明は、移植片若しくは移植を受けたか、受けているか又は受ける予定である対象における移植片又は移植拒絶反応を阻害するための方法であって、有効量の、CXCR3に結合する枯渇性抗原結合部位を対象に投与し、それによって、対象における移植片又は移植拒絶反応を阻害することを含む、方法を提供する。
【0027】
本発明の方法のある実施形態において、移植片は、同種移植片若しくは異種移植片であ
り、又は移植は、同種移植若しくは異種移植である。特定の例において、移植片又は移植は、心臓、腎臓、肺、肝臓、膵臓、膵島、脳組織、胃、大腸、小腸、角膜、皮膚、気管、骨、骨髄、筋肉及び膀胱移植片又は移植の中から選択される。ある場合には、抗体又は抗原結合断片は、対象が、移植片又は移植を受ける前、受けると同時に、及び/又は受けた後、対象に投与される。
【0028】
本発明の方法の一実施形態において、抗体又は抗原結合断片は、対象に2回以上投与される。いくつかの例において、本方法は、サイトカイン(例えばインターロイキン2)、ケモカイン又は抗体などの1つ以上の他の治療剤を対象に投与することをさらに含む。特定の実施形態において、治療剤は、免疫抑制剤、例えば、グルココルチコイド、シクロスポリン、ラパマイシン、ボクロスポリン、シロリムス、エベロリムス、タクロリムス、ミコフェノレート、モフェチル、ミコフェノール酸、ミゾリビン、S1P-Rアゴニスト、マロノニトリルアミド、抗CD3抗体、抗CD25抗体、抗CD52抗体、抗CD20抗体又は抗腫瘍壊死因子抗体である。
【0029】
CXC3+細胞を枯渇させるための薬剤の調製;炎症部位へのCXCR3+細胞の動員若しくは遊走の阻害;及び/又は移植片を受けたか、受けているか又は受ける予定である対象における移植片拒絶反応を阻害するための薬剤の調製のための、CXCR3に結合する枯渇性抗原結合部位の使用も提供される。
【0030】
別の態様において、本発明は、対象における線維症を治療する方法であって、本明細書に記載される抗原結合部位を対象に投与し、それによって、線維症を治療することを含む、方法を提供する。
【0031】
本発明のいずれかの態様において、抗原結合部位は、CXCR3に結合するか又は特異的に結合し、CXCR3活性を阻害する。
【0032】
好ましくは、抗原結合部位は、抗体の抗原結合ドメインを含み、抗原結合ドメインは、CXCR3に結合するか又は特異的に結合し、CXCR3活性を阻害する。
【0033】
本発明のいずれかの抗原結合部位によって阻害され得るCXCR3活性としては、CXCR3へのリガンドの結合;リガンドに誘導されるCXCR3の立体配座変化;CXCR3活性化;Gタンパク質活性化;CXCR3に媒介される細胞シグナル伝達;CXCR3に媒介される細胞遊走、炎症、腫瘍増殖、インビトロ若しくはインビボにおける血管形成若しくは転移応答;CXCR3に媒介される腫瘍細胞増殖;及び/又はCXCR3に媒介される炎症細胞の動員、白血球(例えば好中球、好酸球、肥満細胞又はT細胞)遊走、インテグリン活性化、走化性遊走及びTh1細胞成熟が挙げられる。
【0034】
好ましくは、本明細書に記載される抗原結合部位は、ヒトCXCR3に結合するか又は特異的に結合する。好ましくは、抗原結合部位は、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか又はそれからなるヒトCXCR3分子に結合するか又は特異的に結合する。
【0035】
好ましくは、抗原結合部位は、CXCL9(MIG)、CXCL10(IP10)及びCXCL11(I-TAC)からなる群から選択される1つ以上のリガンドによって誘導されるCXCR3活性を阻害するか又は低下させる。例えば、抗原結合部位は、CXCR3リガンドによって刺激される、細胞、好ましくは、免疫細胞の遊走を阻害し得る。CXCR3活性の低下又は阻害は、本明細書、特に実施例4に記載されるいずれかの方法によって決定され得る。
【0036】
本明細書に記載される抗原結合部位は、CXCR3に結合し得、CXCR1、CXCR2、及び/又はC5aRに検出可能に結合し得ず、又はそれらに実質的に結合し得ない。CXCR1、CXCR2、及び/又はC5aRへの抗原結合部位の結合は、本明細書に記載されるいずれかの方法、特に実施例2に記載されるフローサイトメトリーによって決定され得る。
【0037】
本明細書に記載される抗原結合部位は、CXCR3に結合し得、2nM未満、1nM未満又は0.5nM未満のEC50を示し得る。好ましくは、抗原結合部位のEC50は、約0.2nM以下である。好ましくは、EC50は、本明細書、特に実施例2に記載されるフローサイトメトリー又はELISAアッセイを用いて決定される。
【0038】
本明細書に記載される抗原結合部位は、MIG、ITAC及び/又はIP10との競合結合アッセイにおいて、約20、15、12、10、8、6、5、4、3、2、又は1nMのIC50を示し得る。
【0039】
本明細書に記載される抗原結合部位は、10μg/ml、1μg/ml以下の濃度で、CXCR3を発現する免疫細胞の遊走を阻害し得る。好ましくは、遊走アッセイは、本明細書に記載されるいずれかの方法、特に実施例4によって行われる。
【0040】
本明細書に記載される抗原結合部位は、CXCR3における第1及び/又は第2のN末端ループに結合し得る。例えば、抗原結合部位は、CXCR3タンパク質の残基1~23(ヒトCXCR3に従う番号付け)内のCXCR3に結合し得る。好ましくは、本発明の抗原結合部位は、配列:MVLEVSDHQVLNDAEVAALLENF(配列番号8)、又はその断片を含むペプチドに結合する。好ましくは、本発明の抗原結合部位は、残基23に対してC末端であるCXCR3の配列に結合しない。或いは、抗原結合部位は、CXCR3タンパク質の残基23~44(ヒトCXCR3に従う番号付け)内のCXCR3に結合し得る。好ましくは、本発明の抗原結合部位は、配列:FSSSYDYGENESDSCCTSPPCP(配列番号10)、又はその断片を含むペプチドに結合する。
【0041】
本発明はまた、CXCR3のN末端領域に結合する抗原結合部位であって、CXCL9(MIG)、CXCL10(IP10)及び/又はCXCL11(I-TAC)の、CXCR3への結合、又はCXCL9(MIG)、CXCL10(IP10)及び/又はCXCL11(I-TAC)に媒介される、CXCR3の活性を阻害する抗原結合部位を提供する。好ましくは、N末端領域は、残基1~23(ヒトCXCR3に従う番号付け)を含むか、それから本質的になるか又はそれからなる。好ましくは、CXCL9(MIG)、CXCL10(IP10)及び/又はCXCL11(I-TAC)に媒介される活性は、CXCL9(MIG)、CXCL10(IP10)及び/又はCXCL11(I-TAC)に媒介される、免疫細胞(例えば好中球)の走化性である。
【0042】
本明細書に記載されるように、抗原結合部位は、
(i)一本鎖Fv断片(scFv);
(ii)二量体scFv(ジ-scFv);
(iii)抗体の定常領域、Fc若しくは重鎖定常ドメイン(CH)2及び/又はCH3に連結された(i)若しくは(ii)の1つ;又は
(iv)免疫エフェクター細胞に結合するタンパク質に連結された(i)若しくは(ii)の1つ
の形態であり得る。
【0043】
さらに、本明細書に記載されるように、抗原結合部位は、
(i)ダイアボディ;
(ii)トリアボディ;
(iii)テトラボディ;
(iv)Fab;
(v)F(ab’)2;
(vi)Fv;
(vii)抗体の定常領域、Fc若しくは重鎖定常ドメイン(CH)2及び/又はCH3に連結された(i)~(vi)の1つ;又は
(viii)免疫エフェクター細胞に結合するタンパク質に連結された(i)~(vi)の1つ
の形態であり得る。
【0044】
上記の抗原結合部位は、抗体の抗原結合ドメインと呼ばれることもある。
【0045】
好ましくは、本明細書に記載される抗原結合部位は、抗体又はその抗原結合断片である。典型的に、抗原結合部位は、抗体、例えば、モノクローナル抗体である。
【0046】
本明細書において使用される際、抗原結合部位は、可変ドメインであり得る。
【0047】
いずれかの態様又は実施形態において、抗体は、裸の抗体である。具体的には、抗体は、非コンジュゲート形態であり、コンジュゲートを形成するように構成されていない。
【0048】
CXCR3「に結合する」タンパク質又は抗体への本明細書における言及は、CXCR3「に特異的に結合する」又は「特異的に~に結合する」タンパク質又は抗体に文字通りの裏付け(literal support)を与える。
【0049】
本発明はまた、上記の抗体の抗原結合ドメイン又は抗原結合断片を提供する。
【0050】
本発明はまた、本明細書に記載される抗原結合部位、免疫グロブリン可変ドメイン、抗体、dab(単一ドメイン抗体)、ジ-scFv、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子、又は多重特異性抗体を含む融合タンパク質を提供する。
【0051】
本発明はまた、標識又は細胞毒性剤にコンジュゲートされた、本明細書に記載される抗原結合部位、免疫グロブリン可変ドメイン、抗体、dab、ジ-scFv、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子、又は多重特異性抗体又は融合タンパク質の形態のコンジュゲートを提供する。
【0052】
本発明はまた、本明細書に記載される抗原結合部位、免疫グロブリン可変ドメイン、抗体、dab、ジ-scFv、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子、又は多重特異性抗体、融合タンパク質、又はコンジュゲートに結合するための抗体を提供する。
【0053】
本発明はまた、本明細書に記載される抗原結合部位、免疫グロブリン可変ドメイン、抗体、dab、ジ-scFv、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子、又は多重特異性抗体、融合タンパク質又はコンジュゲートをコードする核酸を提供する。
【0054】
一例において、このような核酸は、核酸がプロモーターに作動可能に連結された発現構築物に含まれる。このような発現構築物は、ベクター、例えば、プラスミドであり得る。
【0055】
単一ポリペプチド鎖抗原結合部位に関する本発明の例において、発現構築物は、ポリペプチド鎖をコードする核酸に連結されたプロモーターを含み得る。
【0056】
抗原結合部位を形成する複数のポリペプチド鎖に関する例において、発現構築物は、プロモーターに作動可能に連結された、例えば、VHを含むポリペプチドをコードする核酸、及びプロモーターに作動可能に連結された、例えば、VLを含むポリペプチドをコードする核酸を含む。
【0057】
別の例において、発現構築物は、例えば、5’-3’の順序で作動可能に連結された以下の構成要素:
(i)プロモーター
(ii)第1のポリペプチドをコードする核酸;
(iii)内部リボソーム進入部位;及び
(iv)第2のポリペプチドをコードする核酸
を含む2シストロン性発現構築物であり、
ここで、第1のポリペプチドが、VHを含み、第2のポリペプチドが、VLを含み、又はその逆である。
【0058】
本発明はまた、一方がVHを含む第1のポリペプチドをコードし、他方がVLを含む第2のポリペプチドをコードする、別個の発現構築物を想定している。例えば、本発明はまた、
(i)プロモーターに作動可能に連結された、VHを含むポリペプチドをコードする核酸を含む第1の発現構築物;及び
(ii)プロモーターに作動可能に連結された、VLを含むポリペプチドをコードする核酸を含む第2の発現構築物
を含む組成物を提供する。
【0059】
本発明は、本明細書に記載されるベクター又は核酸を含む細胞を提供する。好ましくは、細胞は、単離されるか、実質的に精製されるか又は組み換え型である。一例において、細胞は、本発明の発現構築物又は:
(i)プロモーターに作動可能に連結された、VHを含むポリペプチドをコードする核酸を含む第1の発現構築物;及び
(ii)プロモーターに作動可能に連結された、VLを含むポリペプチドをコードする核酸を含む第2の発現構築物
を含み、
ここで、第1及び第2のポリペプチドは会合して、本明細書に記載される抗原結合部位を形成する。
【0060】
本発明の細胞の例としては、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞又は哺乳動物細胞が挙げられる。
【0061】
本発明はまた、本明細書に記載される抗原結合部位を含むか、又はCDR及び/又はFR配列、又は本明細書に記載される免疫グロブリン可変ドメイン、抗体、dab(単一ドメイン抗体)、ジ-scFv、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子、又は多重特異性抗体、融合タンパク質、又はコンジュゲートと、薬学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0062】
本発明はまた、本明細書に記載される抗原結合部位を含むか、又はCDR及び/又はF
R配列、又は本明細書に記載される抗原結合部位、免疫グロブリン可変ドメイン、抗体、dab、ジ-scFv、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子、又は多重特異性抗体、融合タンパク質又はコンジュゲート、希釈剤及び任意選択的に標識を含む診断用組成物を提供する。
【0063】
本発明はまた、本明細書に記載される抗原結合部位を含むか、又はCDR及び/又はFR配列又は本明細書に記載される免疫グロブリン可変ドメイン、抗体、dab、ジ-scFv、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子、又は多重特異性抗体、融合タンパク質又はコンジュゲートを含むキット又は製品を提供する。
【0064】
本明細書に記載される抗原結合部位、タンパク質又は抗体は、ヒト定常領域、例えば、IgG1、IgG2、若しくはIgG3又はそれらの混合物などのIgG定常領域を含み得る。VH及びVLを含む抗体又はタンパク質の場合、VHは、重鎖定常領域に連結され得、VLは、軽鎖定常領域に連結され得る。
【0065】
本発明のいずれかの態様において、抗原結合部位は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)を誘導する強化された能力を有するように改変されたFc領域を含む。好ましくは、ADCCを誘導する強化された能力は、Fc受容体と相互作用するFc領域におけるアミノ酸の突然変異、欠失又は修飾によって与えられる。好ましくは、突然変異、欠失又は修飾されるアミノ酸は、配列番号1(ここで、アラニンが118位である)に従い239、330、及び/又は332位に、又は239、330及び/又は332と同等の位置にある。好ましくは、アミノ酸は、S239D、A330L及びI332Eへと突然変異される。典型的に、Fcは、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか又はそれからなる。
【0066】
本発明のいずれかの態様において、抗原結合部位は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)を誘導する低下した能力を有するように改変されていないFc領域を含む。好ましくは、ここで、配列番号1(ここで、アラニンが118位である)に従い234、235、及び/又は331位に、又は234、235及び/又は331と同等の位置にあるアミノ酸はそれぞれ、F、E及び/又はSではない。言い換えると、234位におけるアミノ酸はFではなく、235位におけるアミノ酸はEではなく、及び/又は331位におけるアミノ酸はSではない。
【0067】
本発明のいずれかの態様において、抗原結合部位は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか又はそれからなるFc領域を含まない。
【0068】
本明細書に記載される抗原結合部位の機能特性は、本発明の抗体に対して準用されるものと理解される。
【0069】
本明細書に記載される抗原結合部位は、精製されるか、実質的に精製されるか、単離されるか、及び/又は組み換え型であり得る。
【0070】
本明細書に記載される抗原結合部位は、本明細書に記載される抗原結合部位を発現するハイブリドーマを増殖させた培地から採取された上清の一部であり得る。
【0071】
別の態様において、本発明はまた、対象におけるCXCR3+細胞を枯渇させるための方法であって、有効量の、本明細書に記載される抗原結合部位を対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0072】
本発明はまた、本明細書に記載されるベクター又は核酸分子を含む細胞を提供する。
【0073】
本発明はまた、本明細書に記載される細胞に由来する動物又は組織を提供する。
【0074】
本明細書において使用される際、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「含む(comprise)」という用語及びこの用語の活用形(例えば、「含む(comprising)」、「含む(comprises)」及び「含んでいた(comprised)」は、さらなる添加剤、構成要素、整数又は工程を除外するものではない。
【0075】
本発明のさらなる態様及び前の段落に記載される態様のさらなる実施形態は、例として及び添付の図面を参照して示される以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0076】
図面の簡単な説明
図1】単回静脈内(IV)注射後のCXCR3枯渇の長く持続する効果。枯渇性抗CXCR3抗体を、マウスに注射した。CD4+、CD8+及びB細胞を、注射の24及び36日後に定量した。結果は、枯渇性抗CXCR3抗体を用いた細胞の枯渇が長く持続することを示す。
図2】抗CXCR3枯渇は、Treg(CD4+;FoxP3+)数に大きく影響しない。枯渇性抗CXCR3 mAb mIgG1(5mg/kg)又はm IgG1アイソタイプ対照(5mg/kg)を、FoxP3-GFPレポーターマウスに静脈内(IV)注射した。4日後、CD4+脾臓リンパ球集団を、Biolegend製の抗mCXCR3を用いて分析した。それらのデータは、CXCRr3+ Tregサブセットのみが枯渇されたが、比率CD4+ FoxP3-/CD4+ FoxP3+は変化されないことを確認する。
図3】皮膚移植片モデル。枯渇性抗CXCR3抗体Balb/cからC57BL/6への皮膚移植実験。枯渇性抗CXCR3抗体を投与されたマウスは、移植の200日後に、寛容された同種移植皮膚のエビデンスを示す。
図4】NASHにおけるCXCR3+細胞の標的化は、脂肪性肝炎及び線維症を改善する。枯渇性抗CXCR3 mAbは、マウスにおけるNASH発生を防ぎ、コラーゲン沈着(線維症)を減少させることが示された。
図5】CXCR3+細胞の枯渇は、NASH発生を防ぐ。NASHを誘導するために、マウスをMCD食で飼育した。マウスにはまた、アイソタイプ対照;枯渇性抗CXCR3 mAb又は非枯渇性抗CXCR3 mAbのいずれかを与えた。枯渇性抗体を与えたマウスのみが、NASHの発生を防がれた。
図6】抗CXCR3 mAbは、NKT細胞及び活性化肝内CD8 T細胞を枯渇させる。MCD食は、CD8+ CXCR3+ T細胞の頻度を増加させ;MCD食は、NKT細胞の頻度を増加させ;NKT細胞は、CXCR3+であり、Fc改変抗CXCR3 mABによる処理後に枯渇される。
図7】抗CXCR3処理は、血清中のALTの放出及び肝臓中の単球の浸潤を減少させる。
【発明を実施するための形態】
【0077】
実施形態の詳細な説明
本明細書において開示され、定義される本発明は、記載されるか又は本文若しくは図面から明らかである個々の特徴の2つ以上の全ての代替的な組合せに及ぶことが理解されよう。これらの異なる組合せは全て、本発明の様々な代替的な態様を構成する。
【0078】
本発明のさらなる態様及び前の段落に記載される態様のさらなる実施形態は、例として
及び添付の図面を参照して示される以下の説明から明らかになるであろう。
【0079】
これより、本発明の特定の実施形態が詳細に言及される。本発明は、実施形態とともに記載されるが、本発明は、本発明をそれらの実施形態に限定しないことが意図されることが理解されよう。むしろ、本発明は、特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲内に含まれ得る全ての代替例、変更、及び均等物を包含することが意図される。
【0080】
本発明者らは、様々な疾患が、CXCR3に結合し、CXCR3を発現する細胞の枯渇を引き起こすか又は媒介する抗原結合部位を用いて治療され得ることを示した。結果として、本明細書に記載される方法は、限定はされないが、NASHを含む、CXCR3発現に関連する様々な疾患の予防又は治療に特に利用される。
【0081】
総論
本明細書全体を通して、特に記載されない限り、又は文脈上他の意味に解すべき場合を除き、単一の工程、組成物、工程群又は組成物群への言及は、それらの工程、組成物、工程群又は組成物群の1つ及び複数(すなわち1つ以上)を包含すると理解されるものとする。したがって、本明細書において使用される際、単数形(「a」、「an」及び「the」)は、文脈上特に明記されない限り、複数の態様を含み、逆もまた同様である。例えば、「a」への言及は、1つ並びに2つ以上を含み;「an」への言及は、1つ並びに2つ以上を
含み;「the」への言及は、1つ並びに2つ以上を含むなどである。
【0082】
当業者は、本発明が、具体的に記載されるもの以外の変形及び変更を行うことが可能であることを理解するであろう。本発明が、全てのこのような変形及び変更を含むことが理解されるべきである。本発明はまた、本明細書において言及されるか又は示される工程、特徴、組成物及び化合物の全てを、個々に又は集合的に含み、また、前記工程又は特徴のあらゆる組合せ又はいずれか2つ以上を含む。
【0083】
当業者は、本発明の実施において使用され得る、本明細書に記載されるものと類似の又は同等の多くの方法及び材料を認識するであろう。本発明は、記載される方法及び材料に決して限定されるものではない。
【0084】
本明細書において参照される特許及び刊行物は全て、全体が参照により援用される。
【0085】
本発明は、本明細書に記載される特定の実施例によって範囲が限定されるものではなく、これらの実施例は、例示を意図したものに過ぎない。機能的に均等な生成物、組成物及び方法は、明らかに本発明の範囲内である。
【0086】
本明細書における本発明のいかなる実施例又は実施形態も、特に記載されない限り、本発明の他のいかなる実施例又は実施形態に対しても準用されると理解されるものとする。
【0087】
特に定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、(例えば、細胞培養、分子遺伝学、免疫学、免疫組織化学、タンパク質化学、及び生化学における)当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有すると理解されるものとする。
【0088】
特に示されない限り、本開示において用いられる組み換えタンパク質、細胞培養、及び免疫学的技術は、当業者に周知の標準的な手順である。このような技術は、J.Perbal,A Practical Guide to Molecular Cloning,John Wiley andSons(1984)、J.Sambrook et al.Molecular Cloning:ALaboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory Press(1989)、T.A.Brown(編),Essential Molecular Biology:APractical Approach,Volumes 1 an
d 2,IRL Press(1991)、D.M.Glover and B.D.Hames(編),DNA Cloning:A Practical Approach,Volumes 1-4,IRL Press(1995 and1996)、及びF.M.Ausubel et al.(編),CurrentProtocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience(1988、現在までの全ての改訂を含む)、Ed Harlow and David Lane(編)Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory,(1988)、及びJ.E.coligan et al.(編
)Current Protocols in Immunology,John Wiley & Sons(現在までの全ての改訂を含む
)などの出典における文献全体を通して記載され、説明されている。
【0089】
本明細書における可変領域及びその部分、免疫グロブリン、抗体及びその断片の説明及び定義は、KabatSequences of Proteins of Immunological Interest,National Institutes ofHealth,Bethesda,Md.,1987 and 1991、Bork et al.,JMol.Biol.242,309-320,1994、Chothia and Lesk J.MolBiol.196:901-917,1987、Chothia et al.Nature342,877-883,1989及び/又はAl-Lazikani et al.,J Mol Biol273,927-948,1997における説明によってさらに明らかになり得る。
【0090】
「及び/又は」、例えば、「X及び/又はY」という用語は、「X及びY」又は「X又はY」のいずれかを意味するものと理解されるものとし、両方の意味又はいずれかの意味に対して明確な裏付けを与えると理解されるものとする。
【0091】
本明細書において使用される際、「に由来する」という用語は、指定された整数が特定の起源から得られ得るが、必ずしもその起源から直接得られるとは限らないことを示すと理解されるものとする。
【0092】
例えば、残基の範囲への本明細書における言及は、その端点を含むものと理解される。例えば、「アミノ酸56~65を含む領域」への言及は、その端点を含む方式で理解され、すなわち、この領域は、指定された配列中で56、57、58、59、60、61、62、63、64及び65と番号付けされたアミノ酸の配列を含む。
【0093】
選択される定義
T細胞は、ウイルス感染細胞を殺滅する細胞傷害性T細胞、並びに、他の免疫細胞の活性を調節するように作用する、ヘルパーT細胞(Th細胞)及びサプレッサーT細胞と呼ばれる2つのクラスの制御性細胞を含むいくつかの主要なサブクラスに分類される。慢性感染の際、Th細胞は、少なくとも3つの表現型的に及び機能的に異なるエフェクター集団、Th1、Th2及びTh17 T細胞になる。Th1細胞は、一般的に、様々な細胞内病原体に対する細胞媒介性免疫応答に関連しているIFN-γ及びIL-2を産生する一方、Th2細胞は、細胞外蠕虫感染を制御するために重要な、IL-4、IL-5、及びIL-13などのサイトカインを産生する。Th17細胞は、IL-17のアイソフォームを産生し、Th17細胞は、粘膜関門を維持し、粘膜表面における病原体除去に寄与するのに重要な役割を果たす。
【0094】
Th1細胞は、臓器特異的自己免疫疾患、遅延型過敏反応、及び移植拒絶反応に関連付けられている。さらに、IL-12及びIL-4などのサイトカインは、Th1及びTh2サブセットのそれぞれへのThの分化の結果を決定するのに主要な役割を果たす。例えば、Th1細胞において、IL-12の、その同種受容体への結合の後、STAT4が活性化され、それによって、IFN-γの産生をもたらす。したがって、STAT4欠損マウスは、Th1分化に欠陥があり、リステリア菌(Listeria monocytogenes)などの細胞内病原体に応答しない。
【0095】
Th1細胞は、CXCR3、CCR1、及びCCR5などの様々なケモカイン受容体を発現する。一般に、CXCR3は、Th1細胞の最良のマーカーの1つであると考えられ
るが、CXCR3は、NKT細胞及び一部のB細胞、特に、炎症に関連している細胞によっても発現される(Qin etal J.Clin.Invest.1997)。
【0096】
CXCR3は、Gタンパク質共役受容体9(GPR9)、CD182、CD183、CKR-L2、CMKAR3、GPR9、IP10-R、Mig-R、MigR)としても知られている。CXCR3は、発現がCDr+ 1型ヘルパー(Th1)及びCD8+細胞傷害性リンパ球(CTL)に関連している炎症性ケモカイン受容体である。エフェクターCD4+及びCD8+ T細胞におけるCXCR3発現に加えて、CXCR3はまた、自然リンパ球、例えばナチュラルキラー(NK)細胞及びNT細胞、並びに形質細胞様DC及びB細胞のサブセットにおいて高度に発現される。
【0097】
CXCR3は、3つのケモカイン:CXCL9(ガンマインターフェロンによって誘導されるモノカイン、又はMIGとしても知られている)、CXCL10(10kDaのインターフェロン誘導性タンパク質、又はIP-10)及びCXCL11 I(インターフェロン誘導性T細胞α化学誘引物質、又はl-TAC)に結合する。これらのリガンドへのCXCR3の結合は、それ自体が炎症性サイトカインによって誘導され、細胞遊走を媒介し、それによって、末梢における炎症を調整する。
【0098】
エフェクター細胞におけるCXCR3の発現、並びに細胞遊走及び炎症におけるその役割のため、細胞遊走及び/又は炎症を阻害するための改良された治療に対する必要性がある。例えば、移植後の移植片への活性化T細胞の遊走は、ドナーの臓器障害をもたらし、急性及び慢性拒絶反応の特徴である。多種多様な免疫抑制剤が利用可能であり、拒絶反応の発現を低減し、短期間及び長期間移植片生存の両方を改善するために、臨床において日常的に使用されている。しかしながら、それらの作用機序は、免疫系の完全な停止をもたらすことが多く、それらの使用は、曖昧な理解に依拠する。したがって、それらは、典型的に、日和見感染症、リンパ増殖性疾患又は心血管疾患などの副作用に関連している。したがって、移植寛容を誘導し、したがって高用量の連続的な免疫抑制剤の制限をなくすことが可能なより具体的な薬物の開発は、移植分野における大きな目標である。
【0099】
IP-10及びMIGは両方とも、CXCサブファミリーに属するが、好中球に対する強力な化学誘引物質であるIL-8及び他のCXCケモカインと対照的に、IP-10及びMIGの主要な標的は、リンパ球、特にエフェクター細胞、例えば活性化又は刺激されたTリンパ球及びナチュラルキラー(NK)細胞である。一貫して、IP-10及びMIGは、好中球走化性を効率的に誘導するそれらのCXCケモカインにおける不可欠な結合エピトープであるELRモチーフを欠いている。さらに、組み換えヒトMIG及び組み換えヒトIP-10は両方とも、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)におけるカルシウム流出を誘導することが報告されている。IP-10は、インビトロで単球の走化性を誘導することが報告されているが、関与している受容体は、同定されておらず、ヒトMIGが、高度に選択的であるようであり、このような効果を示さない。IP-10発現は、炎症性疾患、例えば乾癬、固定薬疹、皮膚の遅延型過敏反応、結核型らい、並びに実験糸球体腎炎、及び実験アレルギー性脳脊髄炎において、様々な組織中で誘導される。IP-10はまた、T細胞依存性である強力なインビボ抗腫瘍効果を有し、インビボでの血管新生の阻害剤であることが報告されており、インビトロでのNK細胞の走化性及び脱顆粒を誘導することができ、これは、NK細胞の動員及び脱顆粒(例えば腫瘍細胞の破壊における)のメディエーターとしての役割を示唆している。IP-10及びMIGの発現パターンはまた、それぞれの発現がインターフェロン-γ(IFNγ)によって誘導される一方、IL-8の発現がIFNγによって下方制御される点で異なる。
【0100】
ケモカインは、リンパ球の動員のための長く探求されてきたメディエーターとして最近認識されている。いくつかのCXCケモカインは、リンパ球走化性を引き起こすことが判
明したが、それらは、顆粒球及び単球においても活性である。状況は、IP-10及びMIGについて異なり、これらは、活性化Tリンパ球及びNK細胞を含むリンパ球に対するそれらの作用において選択的であり、多くの他のケモカインを認識せず、且つ発現の選択的なパターンを示す受容体であるCXCR3に結合する。
【0101】
本明細書において使用される際、CXCR3への言及は、本明細書に記載されるCXCR3の少なくとも1つの生化学的又は生物物理学的活性を有する分子を指す。本明細書において提供される「CXCR3」という用語は、CXCR3の活性(例えば、天然タンパク質と比較して少なくとも50%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%以内の活性)を維持するC-X-Cモチーフケモカイン受容体3(CXCR3)タンパク質の天然形態、ホモログ又は変異体のいずれかを含む。ある実施形態において、変異体又はホモログは、天然形態と比較して、配列全体又は配列の一部(例えば50、100、150又は200の連続するアミノ酸部分)にわたって少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0102】
単に命名のために過ぎず、限定はされないが、ヒトCXCR3の例示的なアミノ酸配列は、配列番号7、並びに突然変異R292Q及びA363Tをそれぞれ含む配列番号108及び109に記載される天然変異体を含む、少なくとも又は約85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有するその変異体である。例示的な非ヒトCXCR3ポリペプチドとしては、限定はされないが、マウス(例えば配列番号5)、ラット(例えば配列番号8)、ブタ(例えば配列番号9)、ウシ(例えば配列番号10)、アカゲザル(例えば配列番号11)、及びイヌ(例えば配列番号12)CXCR3、並びにそれに対する少なくとも又は約85%、90%、91%、92%、93%、94%、95% 97%、98%又は99%の配列同一性を有するその変異体が挙げられる。
【0103】
「CXCR3活性を阻害する」という語句は、本発明の抗原結合部位が、限定はされないが、CXCR3へのリガンドの結合;リガンドに誘導されるCXCR3の立体配座変化;CXCR3活性化;Gタンパク質活性化;CXCR3に媒介される細胞シグナル伝達;CXCR3に媒介される細胞遊走、炎症、腫瘍増殖、インビトロ若しくはインビボにおける血管形成若しくは転移応答;CXCR3に媒介される腫瘍細胞増殖;及び/又はCXCR3に媒介されるリンパ球の動員を含む、CXCR3のいずれか1つ以上の活性を阻害又は低減することを意味すると理解される。
【0104】
「MIG、IP-10又はI-TACに媒介されるCXCR3活性を阻害する」は、本発明の抗原結合部位が、MIG、IP-10及び/又はI-TACによって媒介又は誘導される上述される1つ以上の活性を阻害又は低減することを意味すると理解される。さらに、活性は、好適なインビトロ、細胞内又はインビボアッセイを用いて測定され、活性は、抗原結合部位がないことを除いて同じ条件下における同じアッセイにおけるCXCR3活性と比較して、少なくとも1%、5%、10%、25%、50%、60%、70%、80%又は90%又はそれ以上、ブロック又は低減される。好ましくは、CXCR3活性は、いずれか1つ以上のリガンド、例えば、MIG、IP-10及びI-TACによって媒介又は誘導される。
【0105】
本明細書において使用される際、CXCR3+細胞(すなわち、CXCR3を発現する細胞、好ましくは細胞表面CXCR3を提示する細胞)に関する「枯渇」は、これらの細胞の活性の低下又は細胞の集団からのこれらの細胞の除去を指す。好ましくは、CXCR3+細胞に関する枯渇は、細胞の集団からのこれらの細胞の除去又はこれらの細胞の生存率の低下を指す。枯渇への言及は、完全な又は部分的な枯渇を含む。さらに、枯渇は、永
続的又は一時的であり得、大きさ及び/又は空間的に様々な程度であり得る。枯渇は、アポトーシス又は壊死などによる、細胞死の結果であり得る。好ましくは、細胞死は、ADCCによって媒介される。或いは、本明細書に記載される抗原結合部位自体は、CXCR3+細胞の活性又は生存率を低下させる能力をほとんど又は全く有さないことがあるが、それは、細胞の活性又は生存率を低下させる能力を有する化合物にコンジュゲート又は会合され得る。典型的に、CXCR3+細胞の活性又は生存率を低下させる能力をほとんど又は全く有さない抗原結合部位は、細胞毒性化合物にコンジュゲート又は会合される。
【0106】
本発明の抗原結合部位、若しくは抗原結合断片への曝露の前及び後に、又は本発明の抗原結合部位若しくは抗原結合断片の非存在下及び存在下で、当該技術分野において公知の任意の方法(例えばフローサイトメトリー免疫組織化学など)を用いて集団中のCXCR3細胞の数を測定することによって、枯渇を評価することができる。本発明の抗体又は抗原結合断片への曝露の後、CXCR3細胞は、少なくとも又は約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又はそれ以上枯渇され得る。CXCR3+細胞に対する枯渇のための能力を有する抗原結合部位は、枯渇性抗原結合部位と呼ばれ得る。
【0107】
「単離されたタンパク質」又は「単離されたポリペプチド」という用語は、由来するその起源又は供給源のため、その天然状態でそれに伴う天然に会合している構成要素と会合しておらず;同じ供給源からの他のタンパク質を実質的に含まないタンパク質又はポリペプチドである。タンパク質は、当該技術分野において公知のタンパク質精製技術を用いた単離によって、天然に会合している構成要素を実質的に含まない状態にされ、又はそのような単離によって実質的に精製され得る。「実質的に精製された」とは、タンパク質が、汚染物質を実質的に含まず、例えば、少なくとも約70%又は75%又は80%又は85%又は90%又は95%又は96%又は97%又は98%又は99%、汚染物質が除去されていることを意味する。
【0108】
「組み換え」という用語は、人工的な遺伝子組み換えの産物を意味すると理解されるものとする。したがって、抗体抗原結合ドメインを含む組み換えタンパク質に関して、この用語は、B細胞成熟中に生じる天然の組み換えの産物である対象の身体内に天然に存在する抗体を包含しない。しかしながら、このような抗体が単離される場合、それは、抗体抗原結合ドメインを含む単離されたタンパク質であると考えられる。同様に、タンパク質をコードする核酸が、組み換え手段を用いて、単離され、発現される場合、得られるタンパク質は、抗体抗原結合ドメインを含む組み換えタンパク質である。組み換えタンパク質はまた、それが細胞、組織又は対象内にあり、例えば、そこでそれが発現される場合、人工的な組み換え手段によって発現されるタンパク質を包含する。
【0109】
「タンパク質」という用語は、単一のポリペプチド鎖、すなわち、ペプチド結合によって連結された一連の連続するアミノ酸、又は互いに共有結合若しくは非共有結合された一連のポリペプチド鎖(すなわち、ポリペプチド複合体)を含むと理解されるものとする。例えば、一連のポリペプチド鎖は、好適な化学結合又はジスルフィド結合を用いて共有結合され得る。非共有結合の例としては、水素結合、イオン結合、ファン・デル・ワールス力、及び疎水性相互作用が挙げられる。
【0110】
「ポリペプチド」又は「ポリペプチド鎖」という用語は、ペプチド結合によって連結された一連の連続するアミノ酸を意味することが前の段落から理解されるであろう。
【0111】
本明細書において使用される際、「抗原結合部位」という用語は、「抗原結合ドメイン」と同義的に使用され、抗原、すなわち、VH若しくはVL又はVH及びVLの両方を含
むFvに特異的に結合することが可能な抗体の領域を意味すると理解されるものとする。抗原結合ドメインは、完全抗体の文脈にある必要はなく、例えば、それは、単離されていても(例えば、ドメイン抗体)又は、例えば本明細書に記載されるようにscFvなどの別の形態であってもよい。
【0112】
本開示の趣旨では、「抗体」という用語は、Fv中に含まれる抗原結合ドメインによって1つ又はいくつかの密接に関連する抗原(例えば、CXCR3)に特異的に結合することが可能なタンパク質を含む。この用語は、4鎖抗体(例えば、2つの軽鎖及び2つの重鎖)、組み換え又は修飾抗体(例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、CDRグラフト化抗体、霊長類化抗体、脱免疫化(de-immunized)抗体、合成ヒト化(synhumanized)抗体、半抗体、二重特異性抗体)を含む。抗体は、一般に、定常領域又は定常断片又は結晶化可能断片(Fc)へと構成され得る定常ドメインを含む。抗体の例示的な形態は、それらの基本単位として4鎖構造を含む。完全長抗体は、共有結合された2つの重鎖(約50~70kD)及び2つの軽鎖(それぞれ約23kDa)を含む。軽鎖は、一般に、可変領域(存在する場合)及び定常ドメインを含み、哺乳動物においては、κ軽鎖又はλ軽鎖のいずれかである。重鎖は、一般に、可変領域、及びさらなる定常ドメインにヒンジ領域によって連結された1つ又は2つの定常ドメインを含む。哺乳動物の重鎖は、以下のタイプα、δ、ε、γ、又はμのうちの1つのものである。各軽鎖はまた、重鎖の1つに共有結合される。例えば、2つの重鎖並びに重鎖及び軽鎖は、鎖間ジスルフィド結合及び非共有相互作用によって結合される。鎖間ジスルフィド結合の数は、抗体のタイプの違いによって変化し得る。各鎖は、N末端可変領域(それぞれ約110アミノ酸長であるVH又はVL)、及びC末端に1つ以上の定常ドメインを有する。軽鎖の定常ドメイン(約110アミノ酸長であるCL)は、重鎖の第1の定常ドメイン(330~440アミノ酸長であるCH1)と整列され、ジスルフィド結合される。軽鎖可変領域は、重鎖の可変領域と整列される。抗体重鎖は、2つ以上のさらなるCHドメイン(CH2、CH3など)を含むことができ、CH1及びCH2定常ドメインの間にヒンジ領域を含み得る。抗体は、任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、及びIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)又はサブクラスのものであり得る。一例において、抗体は、ネズミ科(マウス又はラット)抗体又は霊長類(ヒトなど)抗体である。一例において、抗体重鎖は、C末端リジン残基が欠落している。一例において、抗体は、ヒト化、合成ヒト化、キメラ、CDRグラフト化又は脱免疫化抗体である。
【0113】
「完全長抗体」、「インタクトな抗体」又は「完全抗体」という用語は、抗体の抗原結合断片と対照的に、その実質的にインタクトな形態の抗体を指すために、同義的に使用される。具体的には、完全抗体は、Fc領域を含む重鎖及び軽鎖を有するものを含む。定常ドメインは、野生型配列定常ドメイン(例えば、ヒト野生型配列定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列変異体であり得る。
【0114】
本明細書において使用される際、「可変領域」は、抗原に特異的に結合することが可能な、本明細書において定義される抗体の軽鎖及び/又は重鎖の部分を指し、相補性決定領域(CDR);すなわち、CDR1、CDR2、及びCDR3、並びにフレームワーク領域(FR)のアミノ酸配列を含む。例えば、可変領域は、3つのCDRと一緒に3つ又は4つのFR(例えば、FR1、FR2、FR3及び任意選択的にFR4)を含む。VHは、重鎖の可変領域を指す。VLは、軽鎖の可変領域を指す。
【0115】
本明細書において使用される際、「相補性決定領域」という用語(同義語はCDR;すなわち、CDR1、CDR2、及びCDR3)は、その存在が特異的な抗原結合の主な原因になる、抗体可変領域のアミノ酸残基を指す。各可変領域ドメイン(VH又はVL)は、典型的に、CDR1、CDR2及びCDR3として同定される3つのCDRを有する。
VHのCDRはそれぞれ、本明細書において、CDR H1、CDR H2及びCDR H3とも呼ばれ、ここで、CDR H1が、VHのCDR 1に対応し、CDR H2が、VHのCDR 2に対応し、CDR H3が、VHのCDR 3に対応する。同様に、VLのCDRはそれぞれ、本明細書において、CDR L1、CDR L2及びCDR L3と呼ばれ、ここで、CDR L1が、VLのCDR 1に対応し、CDR L2が、VLのCDR 2に対応し、CDR L3が、VLのCDR 3に対応する。一例において、CDR及びFRに割り当てられるアミノ酸位置は、Kabat Sequences of Proteins of
Immunological Interest,National Institutes of Health,Bethesda,Md.,1987 and 1991(本明細書において「Kabat番号付け方式」とも呼ばれる)に従って定義される。別の例
において、CDR及びFRに割り当てられるアミノ酸位置は、Enhanced Chothia NumberingScheme(http://www.bioinfo.org.uk/mdex.html)に従って定義される。本発明は、Kabat番号付け方式によって定義されるFR及びCDRに限定されず、標準的な番号付け方
式、又はChothia and LeskJ.Mol.Biol.196:901-917,1987;Chothia et al.,Nature 342:877-883,1989;及び/又はAl-Lazikani et al.,J.Mol.Biol.273:927-948,1997;Honnegher andPluekthun J.Mol.Biol.309:657-670,2001の番号付け方式;又はGiudicelliet al.,Nucleic Acids Res.25:206-211 1997において説明されるIMGT方式を含む、全ての番号
付け方式を含む。一例において、CDRは、Kabat番号付け方式に従って定義される。任
意選択的に、Kabat番号付け方式に従う重鎖CDR2は、本明細書に列挙される5つのC
末端アミノ酸を含まないか、又はそれらのアミノ酸のいずれか1つ以上が、別の天然アミノ酸で置換される。これに関して、Padlan et al.,FASEB J.,9:133-139,1995では、重鎖
CDR2の5つのC末端アミノ酸が一般に抗原結合に関与しないことが確立されている。
【0116】
「フレームワーク領域」(FR)は、CDR残基以外の可変領域残基である。VHのFRはそれぞれ、本明細書において、FR H1、FR H2、FR H3及びFR H4とも呼ばれ、ここで、FR H1が、VHのFR 1に対応し、FR H2が、VHのFR 2に対応し、FR H3が、VHのFR 3に対応し、FR H4が、VHのFR 4に対応する。同様に、VLのFRはそれぞれ、本明細書において、FR L1、FR L2、FR L3及びFR L4と呼ばれ、ここで、FR L1が、VLのFR 1に対応し、FR L2が、VLのFR 2に対応し、FR L3が、VLのFR 3に対応し、FR L4が、VLのFR 4に対応する。
【0117】
本明細書において使用される際、「Fv」という用語は、複数のポリペプチドから構成されるか又は単一のポリペプチドから構成されるかにかかわらず、任意のタンパク質を意味すると理解されるものとし、ここで、VL及びVHが会合し、抗原結合ドメインを有する、すなわち、抗原に特異的に結合することが可能な複合体を形成する。抗原結合ドメインを形成するVH及びVLは、単一のポリペプチド鎖又は異なるポリペプチド鎖中にあり得る。さらに、本発明のFv(並びに本発明の任意のタンパク質)は、同じ抗原に結合し得るか又は結合し得ない複数の抗原結合ドメインを有し得る。この用語は、抗体に直接由来する断片並びに組み換え手段を用いて産生されるこのような断片に対応するタンパク質を包含すると理解されるものとする。いくつかの例において、VHは、重鎖定常ドメイン(CH)1に連結されず、及び/又はVLは、軽鎖定常ドメイン(CL)に連結されない。例示的なFvを含むポリペプチド又はタンパク質としては、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)断片、scFv、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ若しくはより高次の複合体、又は定常領域若しくはそのドメイン、例えば、CH2又はCH3ドメインに連結された上記のもののいずれか、例えば、ミニボディが挙げられる。「Fab断片」は、免疫グロブリンの一価の抗原結合断片からなり、酵素パパインにより完全抗体を消化して、インタクトな軽鎖及び重鎖の一部からなる断片を生じることによって産生され得、又は組み換え手段を用いて産生され得る。抗体の「Fab’断片」は、完全抗体をペプシンで処理し、続いて還元して、インタクトな軽鎖及びVHを含む重鎖の一部及び単一の定常ドメインからなる分子を生じることによって得ることができる。2つのFab’断片
は、このように処理される抗体ごとに得られる。Fab’断片はまた、組み換え手段によって産生され得る。抗体の「F(ab’)2断片」は、2つのジスルフィド結合によって結合される2つのFab’断片の二量体からなり、その後の還元を伴わずに、完全抗体分子を酵素ペプシンで処理することによって得られる。「Fab2」断片は、例えばロイシンジッパー又はCH3ドメインを用いて連結された2つのFab断片を含む組み換え断片である。「一本鎖Fv」又は「scFv」は、軽鎖の可変領域及び重鎖の可変領域が好適な可撓性のポリペプチドリンカーによって共有結合された、抗体の可変領域断片(Fv)を含む組み換え分子である。
【0118】
本明細書において使用される際、抗原結合部位又はその抗原結合ドメインと、抗原との相互作用に関する「結合する」という用語は、この相互作用が抗原における特定の構造(例えば、抗原決定基又はエピトープ)の存在に依存することを意味する。例えば、抗体は、タンパク質一般ではなく、特定のタンパク質構造を認識し、それに結合する。抗体がエピトープ「A」に結合する場合、エピトープ「A」(又は遊離した、非標識の「A」)を含む分子の存在は、標識「A」及びタンパク質を含む反応において、抗体に結合される標識「A」の量を減少させる。
【0119】
本明細書において使用される際、「特異的に結合する(specifically binds)」又は「特異的に結合する(binds specifically)」という用語は、本明細書に記載される抗原結合部位が、特定の抗原又はそれを発現する細胞と、別の抗原又は細胞より、高い頻度で、より急速に、より長い期間及び/又はより高い親和性で反応又は会合することを意味すると理解されるものとする。例えば、抗原結合部位は、他のCXCRより実質的に高い親和性(例えば、1.5倍又は2倍又は5倍又は10倍又は20倍又は40倍又は60倍又は80倍~100倍又は150倍又は200倍)でCXCR3(例えば、hCXCR3)に結合する。本発明の一例において、抗原結合部位は、CXCR1、CXCR2及び/又はC5aRなどの別のケモカイン受容体より、少なくとも1.5倍又は2倍以上高い親和性(例えば、5倍又は10倍又は20倍又は50倍又は100倍又は200倍)でCXCR3(好ましくはヒト)に「特異的に結合する」。一般に、必ずしもではないが、結合への言及は、特異的結合を意味し、各用語は、他の用語に対する明確な裏付けを与えると理解されるものとする。
【0120】
本明細書において使用される際、「検出可能に結合しない」という用語は、抗原結合部位、例えば、抗体が、バックグラウンドより10%、又は8%又は6%又は5%未満高いレベルで候補抗原に結合することを意味すると理解されるものとする。バックグラウンドは、タンパク質の非存在下、及び/又は陰性対照タンパク質(例えば、アイソタイプ対照抗体)の存在下で検出される結合シグナルのレベル、及び/又は陰性対照抗原の存在下で検出される結合のレベルであり得る。結合のレベルは、抗原結合部位が固定され、抗原と接触されるバイオセンサー分析(例えばBiacore)を用いて検出される。
【0121】
本明細書において使用される際、「有意に結合しない」という用語は、ポリペプチドへの本明細書に記載される抗原結合部位の結合のレベルが、バックグラウンド、例えば、抗原結合部位の非存在下、及び/又は陰性対照タンパク質(例えば、アイソタイプ対照抗体)の存在下で検出される結合シグナルのレベル、及び/又は陰性対照ポリペプチドの存在下で検出される結合のレベルより統計的に有意に高くないことを意味すると理解されるものとする。結合のレベルは、抗原結合部位が固定され、抗原と接触されるバイオセンサー分析(例えばBiacore)を用いて検出される。
【0122】
本明細書において使用される際、「エピトープ」という用語(同義語は「抗原決定基」)は、抗体の抗原結合ドメインを含む抗原結合部位が結合する、CXCR3の領域を意味すると理解されるものとする。特に定義されない限り、この用語は、抗原結合部位が接触
する特定の残基又は構造に必ずしも限定されるわけではない。例えば、この用語は、抗原結合部位によって接触されるアミノ酸にわたる領域、及びこの領域の外側の5~10(若しくはそれ以上)又は2~5又は1~3アミノ酸を含む。いくつかの例において、エピトープは、抗原結合部位が折り畳まれるときに互いに近くに配置される一連の不連続なアミノ酸、すなわち、「立体配座エピトープ」を含む。当業者はまた、「エピトープ」という用語が、ペプチド又はポリペプチドに限定されないことを認識するであろう。例えば、「エピトープ」という用語は、糖側鎖、ホスホリル側鎖、又はスルホニル側鎖などの化学的に活性な表面基を含み、及び、特定の例において、特異的な三次元構造的特徴、及び/又は特異的な電荷特性を有し得る。
【0123】
本明細書において使用される際、「疾患」という用語は、正常な機能に対する破壊又は干渉を指し、何らかの特定の疾患に限定されず、疾病又は障害を含む。
【0124】
本明細書において使用される際、「予防すること」、「予防する」又は「予防」という用語は、本明細書に記載される抗原結合部位を投与し、それによって、疾患の少なくとも1つの症状の発生を停止するか又は妨げることを含む。この用語は、再発を予防するか又は妨げるための、寛解している対象の処置も包含する。
【0125】
本明細書において使用される際、「治療すること」、「治療する」又は「治療」という用語は、本明細書に記載される抗原結合部位を投与し、それによって、特定の疾病又は疾患の少なくとも1つの症状を低減又は除去することを含む。
【0126】
本明細書において使用される際、「対象」という用語は、ヒト、例えば哺乳動物を含む任意の動物を意味すると理解されるものとする。例示的な対象としては、限定はされないが、ヒト及び非ヒト霊長類が挙げられる。例えば、対象はヒトである。
【0127】
抗体
一例において、いずれかの実施例に従う本明細書に記載される抗原結合部位又はCXCR3結合タンパク質は、抗体である。
【0128】
抗CXCR3抗体:限定はされないが:1C6(抗ヒトCXCR3)又はクローン173(抗マウスCXCR3)を含む様々な抗CXCR3抗体が市販されており、これらの両方は、Biolegend、BDBiosciences、AbCam又は他の供給源から入手可能である。或いは、
抗体は、国際公開第2018/119299号に記載される抗体であり得る。
【0129】
抗体を産生するための方法は、当該技術分野において公知であり、及び/又はHarlow and Lane(編)Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,(1988)に記載されている。一般に、このような方法において、CXCR3(例えば、hCXCR3)若しくはその領域(例えば、細胞外領域)又は免疫原性断片若しくはそのエピトープ又はそれ(すなわち、免疫原)を発現及び提示する細胞は、任意選択的に、任意の好適な又は所望の担体、アジュバント、又は薬学的に許容される賦形剤とともに製剤化され、非ヒト動物、例えば、マウス、ニワトリ、ラット、ウサギ、モルモット、イヌ、ウマ、ウシ、ヤギ又はブタに投与される。免疫原は、鼻腔内、筋肉内、皮下、静脈内、皮内、腹膜内、又は他の公知の経路によって投与され得る。
【0130】
ポリクローナル抗体の産生は、免疫後の様々な時点で免疫された動物の血液をサンプリングすることによってモニターされ得る。所望の抗体力価を得る必要がある場合、1つ以上のさらなる免疫化が行われ得る。追加免疫及び力価測定のプロセスは、好適な力価が得られるまで繰り返される。所望のレベルの免疫原性が得られたとき、免疫された動物から採血し、血清を単離及び貯蔵し、及び/又は動物を用いて、モノクローナル抗体(mAb
)を産生する。
【0131】
モノクローナル抗体は、本発明によって想定される抗体の1つの例示的な形態である。「モノクローナル抗体」又は「mAb」という用語は、同じ抗原、例えば、抗原内の同じエピトープに結合することが可能な均一な抗体集団を指す。この用語は、抗体の起源又はそれが作製される方法に関して限定されるものではない。
【0132】
mAbの産生のために、例えば、上記の米国特許第4196265号又はHarlow and Lane(1988)において例示される手順などのいくつかの公知の技術のいずれか1つが使用さ
れ得る。
【0133】
例えば、好適な動物が、抗体産生細胞を刺激するのに十分な条件下で免疫原により免疫化される。ウサギ、マウス及びラットなどのげっ歯類が、例示的な動物である。例えば、ネズミ科の抗体を発現しない、ヒト抗体を発現するように遺伝子組み換えされたマウスを用いて、本発明の抗体を産生することもできる(例えば、国際公開第2002/066630号に記載されるように)。
【0134】
免疫化の後、抗体を産生する能力を有する体細胞、特にBリンパ球(B細胞)が、mAb産生プロトコルに使用するために選択される。これらの細胞は、脾臓、へんとう腺若しくはリンパ節の生検から、又は末梢血試料から得られる。次に、免疫された動物からのB細胞は、一般に免疫原により免疫された動物と同じ種に由来する不死化骨髄腫細胞と融合される。
【0135】
組織培養培地中でヌクレオチドのデノボ合成を阻止する薬剤を含む選択的培地中での培養によって、ハイブリッドが増幅される。例示的な薬剤は、アミノプテリン、メトトレキサート及びアザセリンである。
【0136】
増幅されたハイブリドーマは、例えば、フローサイトメトリー及び/又は免疫組織化学及び/又はイムノアッセイ(例えばラジオイムノアッセイ、酵素イムノアッセイ、細胞毒性アッセイ、プラークアッセイ、ドットイムノアッセイなど)によって、抗体特異性及び/又は力価についての機能的選択に供される。
【0137】
或いは、MAbを分泌する細胞株を産生するため、ABL-MYC技術(NeoClone,Madison WI
53713,USA)が使用される(例えば、Largaespada etal,J.Immunol.Methods.197:85-95,1996に記載されるように)。
【0138】
抗体はまた、例えば、米国特許第6300064号及び/又は米国特許第5885793号に記載されるように、ディスプレイライブラリー、例えば、ファージディスプレイライブラリーをスクリーニングすることによって産生又は単離され得る。例えば、本発明者らは、ファージディスプレイライブラリーから完全ヒト抗体を単離した。
【0139】
本発明の抗体は、合成抗体であり得る。例えば、抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、合成ヒト化抗体、霊長類化抗体又は脱免疫化抗体である。
【0140】
抗体結合ドメインを含むタンパク質
単一ドメイン抗体
いくつかの例において、本発明のタンパク質は、単一ドメイン抗体(「ドメイン抗体」又は「dAb」という用語と同義的に使用される)であるか又はそれを含む。単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変領域の全て又は一部を含む単一のポリペプチド鎖である。特定の例において、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である(Domantis,Inc.,Walt
ham,MA;例えば、米国特許第6248516号を参照)。
【0141】
ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ
いくつかの例において、本発明のタンパク質は、国際公開第98/044001号及び/又は国際公開第94/007921号に記載されるものなどのダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ又はより高次のタンパク質複合体であるか又はそれを含む。
【0142】
例えば、ダイアボディは、2つの会合するポリペプチド鎖を含むタンパク質であり、各ポリペプチド鎖が構造V-X-V又はV-X-Vを含み、ここで、Vが、抗体軽鎖可変領域であり、Vが、抗体重鎖可変領域であり、Xが、単一のポリペプチド鎖中のV及びVを会合させる(又はFvを形成させる)のに不十分な残基を含むリンカーであるか、又は存在せず、1つのポリペプチド鎖のVが他のポリペプチド鎖のVに結合して、抗原結合ドメインを形成する、すなわち、1つ以上の抗原に特異的に結合することが可能なFv分子を形成する。V及びVは、各ポリペプチド鎖中で同じであり得、又はV及びVは、各ポリペプチド鎖中で異なり得、それによって、二重特異性ダイアボディ(すなわち、異なる特異性を有する2つのFvを含む)を形成し得る。
【0143】
一本鎖Fv(scFv)
当業者は、scFvが、単一のポリペプチド鎖におけるV及びV領域、並びにscFvが抗原結合のための所望の構造を形成する(すなわち、単一のポリペプチド鎖のV及びVが互いに会合して、Fvを形成する)のを可能にするV及びVの間のポリペプチドリンカーを含むことを認識するであろう。例えば、リンカーは、12を超えるアミノ酸残基を含み、(GlySer)が、scFvのためのより好ましいリンカーの1つである。
【0144】
本発明はまた、ジスルフィド安定化Fv(又はdiFv若しくはdsFv)を想定しており、ここで、単一のシステイン残基が、VのFR及びVのFRに導入され、このシステイン残基はジスルフィド結合によって連結されて、安定なFvが生じる。
【0145】
或いは、又はそれに加えて、本発明は、二量体scFv、すなわち、例えば、ロイシンジッパードメイン(例えば、Fos又はJunに由来する)によって、非共有結合又は共有結合によって連結された2つのscFv分子を含むタンパク質を包含する。或いは、例えば、米国特許出願公開第20060263367号に記載されるように、2つのscFvは、両方のscFvが抗原を形成し、抗原に結合することを可能にするのに十分な長さのペプチドリンカーによって連結される。
【0146】
重鎖抗体
重鎖抗体は、それらが重鎖を含むが軽鎖を含まない限り、多くの他の形態の抗体と構造的に異なる。したがって、これらの抗体は、「重鎖のみの抗体」とも呼ばれる。重鎖抗体は、例えば、ラクダ科動物及び軟骨魚類(IgNARとも呼ばれる)中に見られる。
【0147】
従来の4鎖抗体中に存在する重鎖可変領域(「Vドメイン」と呼ばれる)及び従来の4鎖抗体中に存在する軽鎖可変領域(「Vドメイン」と呼ばれる)と区別するために、天然重鎖抗体中に存在する可変領域は、一般に、ラクダ科動物抗体において「VHHドメイン」及びIgNARにおいてV-NARと呼ばれる。
【0148】
ラクダ科動物由来の重鎖抗体及びその可変領域、並びにそれらの産生及び/又は単離及び/又は使用のための方法の一般的な説明は、特に、以下の参照文献、国際公開第94/04678号、国際公開第97/49805号及び国際公開第97/49805号に見出される。
【0149】
軟骨魚類由来の重鎖抗体及びその可変領域、並びにそれらの産生及び/又は単離及び/又は使用のための方法の一般的な説明は、特に、国際公開第2005/118629号に見出される。
【0150】
他の抗体及びその抗原結合ドメインを含むタンパク質
本発明はまた、
(i)米国特許第5731168号に記載される「キー・アンド・ホール(key and hole)」二重特異性タンパク質;
(ii)ヘテロコンジュゲートタンパク質(例えば、米国特許第4676980号に記載される);
(iii)化学架橋剤を用いて産生されるヘテロコンジュゲートタンパク質(例えば、米国特許第4676980号に記載される);及び
(iv)Fab(例えば、EP19930302894号に記載される)
などの、他の抗体及びその抗原結合ドメインを含むタンパク質を想定している。
【0151】
タンパク質に対する突然変異
核酸又はポリペプチドの同一性%は、ギャップ作成ペナルティ=5、及びギャップ伸張ペナルティ=0.3を有するGAP(Needleman and Wunsch.Mol.Biol.48,443-453,1970
)分析(GCGプログラム)によって決定される。クエリー配列は、少なくとも50残基長であり、GAP分析は、少なくとも50残基の領域にわたって2つの配列をアラインする。例えば、クエリー配列は、少なくとも100残基長であり、GAP分析は、少なくとも100残基の領域にわたって2つの配列をアラインする。例えば、2つの配列は、それらの全長にわたってアラインされる。
【0152】
本発明はまた、本明細書に記載される抗原結合部位をコードする核酸に、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする核酸を想定している。「中程度のストリンジェンシー」は、ハイブリダイゼーション及び/又は洗浄が、2×SSC緩衝液中、0.1%(w/v)のSDS中、45℃~65℃の範囲の温度で、又は同等の条件で行われるものと本明細書において定義される。「高いストリンジェンシー」は、ハイブリダイゼーション及び/又は洗浄が、0.1×SSC緩衝液、0.1%(w/v)のSDS中、又はより低い塩濃度で、及び少なくとも65℃の温度で、又は同等の条件で行われるものと本明細書において定義される。特定のレベルのストリンジェンシーへの本明細書における言及は、当業者に公知のSSC以外の洗浄/ハイブリダイゼーション溶液を使用する同等の条件を包含する。例えば、二本鎖核酸の鎖が解離する温度(溶融温度、又はTmとしても知られている)を計算するための方法は、当該技術分野において公知である。核酸のTmと同様(例えば、5℃以内又は10℃以内)又は等しい温度は、高いストリンジェンシーと考えられる。中程度のストリンジェンシーは、核酸の算出Tmの10℃~20℃又は10℃~15℃以内であると考えられるべきである。
【0153】
本発明はまた、本明細書に記載される配列と比較して1つ以上の保存的アミノ酸置換を含む本明細書に記載される抗原結合部位の突然変異形態を想定している。いくつかの例において、抗原結合部位は、10以下、例えば、9又は8又は7又は6又は5又は4又は3又は2又は1つの保存的アミノ酸置換を含む。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が類似の側鎖及び/又はハイドロパシー(hydropathicity)及び/又は親水性を有するアミノ酸残基で置換されたものである。
【0154】
類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該技術分野において規定されており、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グル
タミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。ハイドロパシーインデックスは、例えば、Kyte and Doolittle J.Mol.Biol.,157:105-132,1982に記載され、親水性インデックスは、例えば、米国特許第4554101号に記載さ
れている。
【0155】
本発明はまた、非保存的アミノ酸変異を想定している。例えば、荷電アミノ酸の、別の荷電アミノ酸による置換、及び中性又は正荷電アミノ酸による置換が特に興味深い。いくつかの例において、抗原結合部位は、10以下、例えば、9又は8又は7又は6又は5又は4又は3又は2又は1つの非保存的アミノ酸置換を含む。
【0156】
一例において、突然変異は、本明細書に記載される抗原結合部位の抗原結合ドメインのFR内で生じる。別の例において、突然変異は、本明細書に記載される抗原結合部位のCDR内で生じる。
【0157】
抗原結合部位の突然変異形態を産生するための例示的な方法としては、以下のものが挙げられる:
・DNAの突然変異誘発(Thie et al.,MethodsMol.Biol.525:309-322,2009)又はR
NA(Kopsidas etal.,Immunol.Lett.107:163-168,2006;Kopsidas et al.BMC Biotechnology,7:18,2007;及び国際公開第1999/058661号);
・ポリペプチドをコードする核酸の、突然変異誘発細胞への導入、例えば、XL-1Red、XL-mutS及びXL-mutS-Kanr細菌細胞(Stratagene);
・DNAシャッフリング(例えば、Stemmer,Nature 370:389-91,1994に開示される);並びに
・部位特異的突然変異誘発(例えば、Dieffenbach(ed)and Dveksler(ed)(PCRPrimer:A
Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratories,NY,1995)に記載される)。
【0158】
本明細書に記載される突然変異体抗原結合部位の生物学的活性を決定するための例示的な方法は、当業者に明らかであり、及び/又は、例えば、抗原結合について本明細書に記載される。例えば、抗原結合、結合の競合阻害、親和性、会合、解離及び治療効果を決定するための方法は、本明細書に記載される。
【0159】
定常領域
本発明は、抗体の定常領域を含む、本明細書に記載される抗原結合部位及び/又は抗体を包含する。これは、Fcに融合された抗体の抗原結合断片を含む。
【0160】
本発明のタンパク質を産生するのに有用な定常領域の配列は、いくつかの異なる供給源から入手され得る。いくつかの例において、タンパク質の定常領域又はその部分は、ヒト抗体に由来する。定常領域又はその部分は、IgM、IgG、IgD、IgA及びIgE、並びにIgG1、IgG2及びIgG3を含む任意の抗体アイソタイプを含む任意の抗体クラスに由来し得る。
【0161】
一例において、定常領域のFc領域は、例えば、天然又は野生型ヒトIgG1又はIgG3 Fc領域と比較して、エフェクター機能を誘導する強化された能力を有する。一例において、エフェクター機能は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)及び/又は抗体依存性細胞媒介性食作用(ADCP)及び/又は補体依存性細胞傷害(CDC)である。タンパク質を含むFc領域のエフェクター機能のレベルを評価するための方法が、当該技術分野において公知であり、及び/又は本明細書に記載されている。
【0162】
本発明のいずれかの態様において、抗原結合部位は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)を誘導する強化された能力を有するように改変されたFc領域を含む。好ましくは、ADCCを誘導する強化された能力は、Fc受容体と相互作用するFc領域におけるアミノ酸の突然変異、欠失又は修飾によって与えられる。好ましくは、突然変異、欠失又は修飾されるアミノ酸は、配列番号1(ここで、アラニンが118位である)に従い239、330、及び/又は332位に、又は239、330及び/又は332と同等の位置にある。好ましくは、アミノ酸は、S239D、A330L及びI332Eへと突然変異される。典型的に、Fcは、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか又はそれからなる。
【0163】
本発明のいずれかの態様において、抗原結合部位は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)を誘導する低下した能力を有するように改変されていないFc領域を含む。好ましくは、ここで、配列番号1(ここで、アラニンが118位である)に従い234、235、及び/又は331位に、又は234、235及び/又は331と同等の位置にあるアミノ酸はそれぞれ、F、E及び/又はSではない。言い換えると、234位におけるアミノ酸はFではなく、235位におけるアミノ酸はEではなく、及び/又は331位におけるアミノ酸はSではない。
【0164】
本発明のいずれかの態様において、抗原結合部位は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか又はそれからなるFc領域を含まない。
【0165】
本発明のいずれかの態様において、本明細書に記載される抗原結合部位自体は、CXCR3+細胞の活性又は生存率を低下させる能力をほとんど又は全く有さないことがあるが、それは、細胞の活性又は生存率を低下させる能力を有する化合物にコンジュゲート又は会合され得る。例えば、Fc領域は、例えば、天然又は野生型ヒトIgG1又はIgG3
Fc領域と比較して、エフェクター機能を誘導する低下した能力又は機能を有し得るが、この状況において、抗原結合部位は、細胞毒性化合物にコンジュゲート又は会合される。
【0166】
低下したエフェクター機能を有するFc領域の一例は、IgG4 Fc領域(すなわち、IgG4定常領域由来)、例えば、ヒトIgG4 Fc領域である。好適なIgG4 Fc領域の配列は、当業者に明らかであり、及び/又は一般公開されているデータベースにおいて入手可能である(例えば、アメリカ国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information)から入手可能である)。
【0167】
別の例において、Fc領域は、低下したエフェクター機能を有するように修飾された領域、すなわち、「非免疫刺激性Fc領域」である。例えば、Fc領域は、268、309、330及び331からなる群から選択される1つ以上の位置に置換を含むIgG1 Fc領域である。別の例において、Fc領域は、以下の変異E233P、L234V、L235Aの1つ以上、及びG236の欠失、及び/又は以下の変異A327G、A330S及びP331Sの1つ以上を含むIgG1 Fc領域である(Armour et al.,Eur J Immunol.29:2613-2624,1999;Shields et al.,J BiolChem.276(9):6591-604,2001)。非免疫
刺激性Fc領域のさらなる例が、例えば、Dall’Acquaet al.,J Immunol.177 :1129-1138 2006;及び/又はHezareh JVirol;75:12161-12168,2001)に記載されている。
【0168】
別の例において、Fc領域は、例えば、IgG4抗体由来の少なくとも1つのC2ドメイン及びIgG1抗体由来の少なくとも1つのC3ドメインを含むキメラFc領域であり、ここで、Fc領域は、240、262、264、266、297、299、307、309、323、399、409及び427(EU番号付け)からなる群から選択され
る1つ以上のアミノ酸位置に置換を含む(例えば、国際公開第2010/085682号に記載される)。例示的な置換としては、240F、262L、264T、266F、297Q、299A、299K、307P、309K、309M、309P、323F、399S、及び427Fが挙げられる。
【0169】
これらの例のいずれかにおいて、低下したエフェクター機能を有する抗原結合部位は、細胞の活性又は生存率を低下させ得る化合物にコンジュゲート又は会合される。
【0170】
さらなる修飾
本発明はまた、Fc領域又は定常領域を含む抗体又は抗原結合部位へのさらなる修飾を想定している。
【0171】
例えば、抗体は、タンパク質の半減期を増加させる1つ以上のアミノ酸置換を含む。例えば、抗体は、新生児Fc領域(FcRn)に対するFc領域の親和性を増加させる1つ以上のアミノ酸置換を含むFc領域を含む。例えば、Fc領域は、より低いpH、例えば、約pH6.0においてFcRnに対する増加した親和性を有し、それにより、エンドソームにおけるFc/FcRn結合を促進する。一例において、Fc領域は、約pH7.4におけるその親和性と比較して、約pH6においてFcRnに対する増加した親和性を有し、それにより、細胞のリサイクリング後の血液中へのFcの再放出を促進する。これらのアミノ酸置換は、血液からのクリアランスを減少させることによって、タンパク質の半減期を延長するのに有用である。
【0172】
例示的なアミノ酸置換としては、EU番号付け方式に従って、T250Q及び/又はM428L又はT252A、T254S及びT266F又はM252Y、S254T及びT256E又はH433K及びN434Fを含む。さらなる又は代替的なアミノ酸置換は、例えば、米国特許出願公開第20070135620号又は米国特許第7083784号に記載されている。
【0173】
タンパク質の産生
一例において、いずれかの実施例に従う本明細書に記載される抗原結合部位は、例えば、本明細書に記載され、及び/又は当該技術分野において公知であるように、タンパク質を産生するのに十分な条件下でハイブリドーマを培養することによって産生される。
【0174】
組み換え発現
別の例において、いずれかの実施例に従う本明細書に記載される抗原結合部位は、組み換え型である。
【0175】
組み換えタンパク質の場合、それをコードする核酸が、発現構築物又はベクターへとクローニングされ得、次に、それが、タンパク質を本来産生しない宿主細胞、例えば大腸菌(E.coli)細胞、酵母細胞、昆虫細胞、又は哺乳動物細胞、例えばシミアンCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト胚腎臓(HEK)細胞、又は骨髄腫細胞へとトランスフェクトされる。タンパク質を発現するために使用される例示的な細胞は、CHO細胞、骨髄腫細胞又はHEK細胞である。これらの目的を達成する分子クローニング技術は、当該技術分野において公知であり、例えば、Ausubel et al.,(編),Current Protocols inMolecular Biology,Greene Pub.Associates及びWiley-Interscience(1988、現在までの全ての改訂を含む)又はSambrook etal.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor LaboratoryPress(1989)に記載されている。多種多様な
クローニング及びインビトロ増幅方法が、組み換え核酸の構築に好適である。組み換え抗体を産生する方法も、当該技術分野において公知であり、例えば、米国特許第4816567号又は米国特許第5530101号を参照されたい。
【0176】
単離の後、核酸は、さらなるクローニング(DNAの増幅)又は無細胞系若しくは細胞内における発現のために、発現構築物におけるプロモーター又は発現ベクターに作動可能に連結されて挿入される。
【0177】
本明細書において使用される際、「プロモーター」という用語は、その最も広義に解釈されるべきであり、TATAボックス又は開始要素を含むゲノム遺伝子の転写調節配列を含み、それは、例えば、発生及び/又は外部刺激に応答して、又は組織特異的に、核酸の発現を変化させるさらなる調節要素(例えば、上流側活性化配列、転写因子結合部位、エンハンサー及びサイレンサー)を伴うか又は伴わずに、正確な転写開始のために必要とされる。本明細書の文脈において、「プロモーター」という用語はまた、それが作動可能に連結された核酸の発現を付与し、活性化し、若しくは強化する、組み換え、合成若しくは融合核酸、又はその誘導体を表すために使用される。例示的なプロモーターは、さらに発現を強化し、及び/又は前記核酸の空間的発現及び/又は時間的発現を変化させるために、1つ以上の特異的な調節要素のさらなるコピーを含有し得る。
【0178】
本明細書において使用される際、「作動可能に連結された」という用語は、核酸の発現がプロモーターによって制御されるように、核酸に対してプロモーターを配置することを意味する。
【0179】
細胞における発現のための多くのベクターが利用可能である。ベクターの構成要素は、一般に、限定はされないが、以下のものの1つ以上を含む:シグナル配列、タンパク質をコードする配列(例えば、本明細書において提供される情報から得られる)、エンハンサー要素、プロモーター、及び転写終結配列。当業者は、タンパク質の発現に好適な配列を認識するであろう。例示的なシグナル配列としては、原核生物の分泌シグナル(例えば、pelB、アルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、Ipp、又は耐熱性エンテロトキシンII)、酵母の分泌シグナル(例えば、インベルターゼリーダー、α因子リーダー、又は酸ホスファターゼリーダー)又は哺乳動物分泌シグナル(例えば、単純ヘルペスgDシグナル)が挙げられる。
【0180】
哺乳動物細胞において活性な例示的なプロモーターとしては、サイトメガロウイルス前初期プロモーター(CMV-IE)、ヒト伸長因子1-αプロモーター(EF1)、核内低分子RNAプロモーター(U1a及びU1b)、α-ミオシン重鎖プロモーター、シミアンウイルス40プロモーター(SV40)、ラウス肉腫ウイルスプロモーター(RSV)、アデノウイルス主要後期プロモーター、β-アクチンプロモーター;CMVエンハンサー/β-アクチンプロモーター又は免疫グロブリンプロモーター又はその活性断片を含むハイブリッド調節要素が挙げられる。有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1細胞株(COS-7、ATCC CRL 1651);ヒト胚腎臓細胞株(293細胞又は懸濁培養での増殖用にサブクローニングされた293細胞;ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10);又はチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)である。
【0181】
例えば、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)及びS.ポンベ(S.pombe)を含む群から選択される酵母細胞などの酵母細胞における発現に好適な典型的なプロモーターとしては、限定はされないが、ADH1プロモーター、GAL1プロモーター、GAL4プロモーター、CUP1プロモーター、PHO5プロモーター、nmtプロモーター、RPR1プロモーター、又はTEF1プロモーターが挙げられる。
【0182】
単離された核酸又はそれを含む発現構築物を、発現のために細胞に導入するための手段
は、当業者に公知である。所与の細胞に使用される技術は、公知の確立された技術に依存する。組み換えDNAを細胞に導入するための手段としては、特に、マイクロインジェクション、DEAE-デキストランによって媒介されるトランスフェクション、リポフェクタミン(Gibco,MD,USA)及び/又はセルフェクチン(cellfectin)(Gibco,MD,USA)などを用いてリポソームによって媒介されるトランスフェクション、PEGに媒介されるDNA取込み、エレクトロポレーション及びDNA被覆タングステン又は金粒子(Agracetus Inc.,WI,USA)などを用いた微小粒子衝撃が挙げられる。
【0183】
タンパク質を産生するのに使用される宿主細胞は、使用される細胞のタイプに応じて、様々な培地で培養され得る。Ham’s Fl0(Sigma)、最小必須培地((MEM)、(Sigma)
、RPMI-1640(Sigma)、及びダルベッコ改変イーグル培地((DMEM)、Sigma)などの市
販の培地が、哺乳動物細胞を培養するのに好適である。本明細書に記載される他の細胞タイプを培養するための培地は、当該技術分野において公知である。
【0184】
タンパク質の単離
タンパク質を単離するための方法が、当該技術分野において公知であり、及び/又は本明細書に記載されている。
【0185】
抗原結合部位が、培養培地に分泌される場合、このような発現系からの上清は、まず、市販のタンパク質濃縮フィルタ、例えば、Amicon又はMillipore Pellicon限外ろ過ユニットを用いて濃縮される。PMSFなどのプロテアーゼ阻害剤は、タンパク質分解を阻害するために上記の工程のいずれかに含まれてもよく、抗生物質は、付随的な汚染物質の増殖を防止するために含まれてもよい。或いは、又はそれに加えて、上清は、例えば、連続遠心分離を用いて、タンパク質を発現する細胞からろ過され、及び/又は分離され得る。
【0186】
細胞から調製される抗原結合部位は、例えば、イオン交換、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、アフィニティクロマトグラフィー(例えば、プロテインAアフィニティクロマトグラフィー又はプロテインGクロマトグラフィー)、又は上記の任意の組合せを用いて精製され得る。これらの方法は、当該技術分野において公知であり、例えば、国際公開第99/57134号又はEd Harlow and David Lane(編)Antibodies:ALaboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,(1988)に記載されている。
【0187】
当業者はまた、タンパク質が、精製又は検出を容易にするためのタグ、例えば、ポリヒスチジンタグ、例えば、ヘキサヒスチジンタグ、又はインフルエンザウイルス赤血球凝集素(HA)タグ、又はシミアンウイルス5(V5)タグ、又はFLAGタグ、又はグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)タグを含むように修飾され得ることを認識するであろう。次に、得られたタンパク質は、アフィニティ精製などの、当該技術分野において公知の方法を用いて精製される。例えば、ヘキサhisタグを含むタンパク質は、タンパク質を含む試料を、固体又は半固体の担体に固定された、ヘキサhisタグに特異的に結合するニッケル-ニトリロ三酢酸(Ni-NTA)と接触させ、試料を洗浄して、非結合タンパク質を除去し、その後、結合したタンパク質を溶離することによって精製される。或いは、又はそれに加えて、タグに結合するリガンド又は抗体が、アフィニティ精製方法において使用される。
【0188】
抗原結合部位の活性のアッセイ
CXCR3及びその突然変異体への結合
本明細書に記載される抗原結合部位がCXCR3に結合することは、本明細書における開示から当業者に明らかであろう。タンパク質への結合を評価するための方法は、当該技術分野において公知であり、例えば、Scopes(Protein purification:principles and pra
ctice,Third Edition,Springer Verlag,1994)に記載されている。このような方法は、一
般に、抗原結合部位を固定し、それを標識抗原(CXCR3)と接触させることを必要とする。洗浄して、非特異的に結合したタンパク質を除去した後、標識の量及び、結果として、結合した抗原が検出される。当然ながら、抗原結合部位を標識し、抗原を固定化してもよい。パニングタイプのアッセイも使用され得る。或いは、又はそれに加えて、表面プラズモン共鳴アッセイが使用され得る。
【0189】
任意選択的に、CXCR3又はそのエピトープに対する、固定された抗原結合部位の解離定数(Kd)、会合定数(Ka)及び/又は親和定数(K)が決定される。CXCR3結合タンパク質の「Kd」又は「Ka」又は「K」は、一例において、放射性標識又は蛍光標識されたCXCR3リガンド結合アッセイによって測定される。「Kd」の場合、このアッセイは、非標識CXCR3の滴定系列の存在下で、最小濃度の標識CXCR3又はそのエピトープにより抗原結合部位を平衡させる。洗浄して、非結合CXCR3又はそのエピトープを除去した後、タンパク質のKdの指標である標識の量が決定される。
【0190】
別の例によれば、Kd、Ka又はKは、表面プラズモン共鳴アッセイを用いて、例えば、固定化CXCR3若しくはその領域又は固定化抗原結合部位を有するBIAcore表面プ
ラズモン共鳴(BIAcore,Inc.,Piscataway,NJ)を用いて測定される。
【0191】
阻害活性の測定
本発明のいくつかの例において、タンパク質は、CXCR3活性を阻害することが可能である。
【0192】
機能的反応をもたらす受容体を介したリガンドのシグナル伝達を阻害又は低減するタンパク質の能力を評価するための様々なアッセイが、当該技術分野において公知である。
【0193】
一例において、抗原結合部位は、CXCR3リガンド(例えばMIG、IP-10及びI-TAC)の存在下で培養される、CXCR3を発現する免疫細胞(例えば、好中球)の遊走を阻害する。遊走を評価するための方法は、当該技術分野において公知であり、本明細書に記載されている。抗原結合部位の非存在下で観察されるレベルと比較して遊走を阻害する抗原結合部位は、CXCR3活性、特にCXCR3に媒介されるシグナル伝達及び遊走を阻害又は低減するものと考えられる。抗CXCR3抗体の阻害活性を測定するための他のアッセイとしては、カルシウム流出アッセイ、放射性リガンド結合アッセイ、cAMPアッセイ及びβアレスチン動員アッセイが挙げられる。本明細書に記載されるアッセイのいずれも、MIG、IP-10及びI-TACを含む1つ以上のCXCR3リガンドを含み得る。
【0194】
治療される疾患
本発明の抗原結合部位は、CXCR3の存在又は過剰発現に関連するか、又はそれによって引き起こされるいずれかの疾患の治療又は予防において有用である。
【0195】
本発明の抗原結合部位は、Th1細胞に関連するか、又はそれによって引き起こされるいずれかの疾患の治療又は予防において有用である。
【0196】
本発明の抗原結合部位は、線維症、脂肪肝疾患(NASHを含む)及び移植拒絶反応(移植片対宿主病、GVHD)などの急性又は慢性炎症に関連するか、又はそれによって引き起こされる疾患の治療又は予防において有用である。本発明の抗原結合部位は、好ましくは、自己免疫性の炎症性疾患の治療又は予防に利用される。
【0197】
さらに他の実施形態において、本発明の抗原結合部位は、炎症によって特徴付けられる
自己免疫疾患に関連する線維症の軽減に利用され得る。
【0198】
「線維症(Fibrosis)」、「線維症(Fibroticdisease)」又は「線維増殖性疾患」は、傷害の際の修復過程における過剰な線維性結合組織の形成を意味する。瘢痕は、罹患した器官又は組織構造を取り除く持続性線維症の結果である。形成された瘢痕組織を取り除かない異常な修復過程の結果として、線維症はさらに進行する。線維症は、心臓、肺、肝臓、皮膚、血管及び腎臓を含む様々な組織に見られる。線維症の例は、本明細書に記載され、肺線維症、肝硬変、全身性硬化症、進行性腎疾患及び様々な心血管疾患に関連する心筋線維化が挙げられる。
【0199】
対象が、臓器機能不全、瘢痕、正常な細胞外基質バランスの変化、コラーゲン沈着の増加、増加したコラーゲン体積分率、線維芽細胞の、筋線維芽細胞への分化、マトリックスメタロプロテアーゼのレベルの減少及びマトリックスメタロプロテアーゼの組織阻害剤のレベルの増加、I型プロコラーゲンのN末端若しくはC末端プロペプチド(PINP若しくはPICP)のいずれかの増加したレベル及びI型コラーゲンのC末端テロペプチド(CTP若しくはCITP)の減少したレベル、増加したコラーゲン沈着及び様々な非侵襲性のイメージング技術によって測定される心臓機能障害、増加したタンパク尿及びアルブミン尿によって測定される腎機能障害、低下した糸球体ろ過率、血漿クレアチニンレベルの倍増を有するかどうかを決定することによって、対象は、線維症を有するものと同定され得る。
【0200】
本発明の好ましい実施形態によれば、肝線維症は、慢性肝疾患、B型肝炎ウイルス感染、C型肝炎ウイルス感染、D型肝炎ウイルス感染、住血吸虫症、アルコール性肝疾患又は非アルコール性脂肪性肝炎、非アルコール性脂肪肝疾患、肥満、糖尿病、タンパク質栄養不良、冠動脈疾患、自己免疫性肝炎、嚢胞性線維症、α-1-アンチトリプシン欠乏症、原発性胆汁性肝硬変、薬物反応及び毒素への曝露に起因している。
【0201】
「肝線維症」という用語は、肝臓における過剰な線維性結合組織(線維症)の形成又は発生を意味し、それによって、瘢痕(線維性)組織の発生をもたらす。瘢痕組織は、線維症の過程によって健康な組織と置き換わり、肝臓のその後の肝硬変をもたらす。肝線維症は、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に関連し得る。
【0202】
肝線維症としては、限定はされないが、肝硬変、及び関連する疾患、例えば、慢性ウイルス性肝炎、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)、アルコール性脂肪性肝炎(ASH)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、胆汁性肝硬変、自己免疫性肝炎)が挙げられる。肺線維症としては、特発性肺線維症(IPF)又は特発性線維化性肺胞炎、慢性線維化性間質性肺炎、間質性肺疾患(ILD)、及びびまん性実質性肺疾患(DPLD))、心筋線維化、鬱血性心不全、心筋症、心筋梗塞後の心臓機能の欠陥;末梢血管疾患;関節リウマチ;緑内障;加齢性黄斑変性症(ウエット型AMD及びドライ型AMD);気腫、慢性閉塞性肺疾患(COPD);多発性硬化症が挙げられ;慢性喘息も、本明細書に記載される組成物、方法又は使用を用いて、予防、治療、又は改善され得る。
【0203】
脂肪肝疾患及びNASH
本発明はまた、脂肪肝疾患を発症するリスクがあるか又は脂肪肝疾患の症状を示す個体における脂肪肝疾患の発症を予防するか、脂肪肝疾患の進行を防ぐか、又は脂肪肝疾患を治療するための方法に関する。
【0204】
特定の好ましい実施形態において、本発明は、NASHを発症するリスクがあるか又はNASHの症状を示す個体におけるNASHの発症を予防するか、NASHの進行を防ぐ
か、又はNASHを治療するための方法を提供する。
【0205】
アルコールの乱用なしで発症する脂肪肝疾患は、特に、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)などのように、炎症性要素が関与する場合、大きな健康負荷としてますます認識されている。イメージング及び生検研究に基づく推定は、米国及び他の西洋諸国の成人の約20%~30%が、肝臓における過剰な脂肪蓄積を有することを示唆している。これらの個体の約10%、又は成人の優に2%~3%は、NASHの現在の診断基準を満たすと推定される。持続的な肝障害は、進行性線維症、及びNASH患者の約30%において肝硬変をもたらす。NASHの診断基準は、進化し続けており、脂肪症、肝細胞障害(肝細胞の風船様腫大、マロリー体)、及び線維症のパターンの組織学的所見に依拠する。
【0206】
本明細書において使用される際、NAFLDは、非アルコール性脂肪肝疾患を指す。生命に関わらない疾患であると考えられるNAFLDは、NASHと区別され、NASHはNAFLDのより重度の形態であり、増加した死亡率に関連する。「非アルコール性脂肪肝疾患」又は「NAFLD」、「非アルコール性脂肪性肝炎」又は「NASH」、及び「単純性脂肪肝」という用語はそれぞれ、科学界によって現在認められている意味で使用される。一般に、NAFLDは、組織学的スペクトルの変化として存在する。NAFLDの段階は全て、肝細胞における脂肪の蓄積(脂肪症)を共通して有する。単純性脂肪肝は、著しい炎症及び肝細胞傷害を伴わない肝臓脂肪症を指す一方、NASHは、炎症及び肝細胞傷害、及び場合により線維症を示す。
【0207】
当業者は、個体が、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に罹患しているか、又は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を発症するリスクがあるかどうかを決定するための方法を熟知している。特に、当業者は、個体が、非アルコール性脂肪肝疾患の症状又は兆候を有するかどうか(個体が、脂肪症、NASH又はNAFDLなどの脂肪肝疾患の亜型のいずれかに罹患しているか、又はそのリスクがあるかどうかを含む)決定するための、及び、特に、生命に関わるNASHと、より軽度のNAFLDとを区別するための方法を熟知している。
【0208】
「脂肪肝疾患」という用語は、当該技術分野において周知である。好ましくは、この用語は、肝臓の障害を指す。好ましくは、前記障害は、肝臓中に蓄積し、大きな液胞を形成する過剰なトリアシルグリセリドの結果である。脂肪肝疾患に伴う症状は、Stedman’s又はPschyrembelなどの医薬の標準的なテキストから周知である。脂肪肝疾患は、アルコー
ル乱用、糖尿病、栄養不足及び間違ったダイエット、薬物の毒性又は遺伝性素因に起因し得る。本発明に従って使用される際の脂肪肝疾患は、そのより重度の形態、特に、脂肪症、NASH又はNAFDLも含む。これらの疾患に伴う症状はまた、医師には周知であり、医薬の標準的なテキストに詳細に記載されている。
【0209】
肝生検は、依然として、NAFLD及びNASHなどの肝臓の疾患の病因及び程度の評価における基準の標準又は「ゴールドスタンダード」のままである。経皮的肝生検は、NAFLDを決定し、NASHをNAFLDと区別するための好ましい方法である。他の生検方法は、典型的に、さらに一層侵襲性であり、経静脈的及び腹腔鏡下肝生検を含む。アメリカ消化器病学会(American Gastroenterological Association)は、NASHを含むNAFLDを、大滴性脂肪症グレード、壊死性炎症性活性グレード及び線維症ステージへと等級分けする方法についての詳細な推奨項目を公開している(American Gastroenterological Association 2002,Gastroenterology123:1705-25;Brunt 1999,Am J Gastroenterol.94:2467-74,Brunt 2010,Nat RevGastroenterol Hepatol.7:195-203)。
【0210】
単純性脂肪肝は、比較的良性の状態のようであるが、それは、時間とともにNASHに進行し得る。したがって、NASHのリスクがある人は、単純性脂肪肝を有すると診断さ
れる人であり得る。心血管系の合併症とのその関連に加えて、NAFLDは、肝臓に関連する罹患率及び死亡率をもたらし得る。肝硬変を発症するリスクは、NASHの存在下でより高く、NASHは、以下の特徴の存在下でより可能性が高い:
2型糖尿病(T2DM)
肥満(ボディー・マス・インデックス[BMI]>30kg/m2)
50歳を超える年齢
正常上限の2倍超の血清アミノトランスフェラーゼ(ALT又はAST)。
【0211】
したがって、NAFLDであると診断され、上記の特徴の1つ以上を有する場合、人は、NASHのリスクがあると考えられ得る。NAFLDの確定診断は、3つの因子に依存する:
1)イメージング(超音波、磁気共鳴イメージング[MRI])又は組織学(肝生検)のいずれかによる脂肪浸潤のエビデンス
2)著しいアルコール摂取の除外
3)肝臓脂肪症の他の理由(例えば、投薬、外科手術、代謝異常)の除外。
【0212】
上記に加えて、門脈高血圧症(脾腫、増加した門脈サイズ、静脈瘤)又はHCC、門脈血栓症、若しくは腹水などの他の合併症の兆候を含む、肝硬変の合併症の兆候も考えられ得る。NAFLDにおける線維症及び進行性肝疾患のリスクは、インスリン抵抗性の重症度とともに増加する。メタボリック・シンドロームの特徴(肥満、複合型高脂血、(2型)糖尿病、及び高血圧)の数を用いて、インスリン抵抗性のリスクを推定することができる。メタボリック・シンドロームの3つ以上の特徴の存在は、特に、これらが中心性の肥満及び2型糖尿病(T2DM)を含む場合、単純性脂肪肝よりむしろNASHの存在を予測する。さらに、家族歴は一定の役割を果たす:T2DMを有する第一度近親者を有する個体は、T2DM、ひいてはNASHを発症する90%の可能性を有する。中心性の肥満は、患者を立位にして、呼気の終わりに、一番下の肋骨と腸骨稜との間の一番細くなっている中間点で測定した胴囲を用いて評価され得る。
【0213】
線維症の程度を推定するための非侵襲性の手段としては、トランジェントエラストグラフィ(transientelastography)(FibroScan(登録商標))、音響放射力インパルス(acoustic radiation force impulse)(ARFI)、並びにNAFLDFibrosis Score、FibroTest及びHepascoreなどの非侵襲性バイオマーカーアルゴリズムが挙げられる。
【0214】
当業者はまた、個体が、NASHのさらなる進行の防止、NASHの症状の改善又はリスクのある個体におけるNASHの発症の予防のために、首尾よく処置されているかどうかを決定するための方法を熟知しているであろう。上首尾な治療又は予防は、NASHに関連して上述される症状のいずれか1つ以上の改善、又は進行若しくは悪化の速度の低下を測定することによって決定され得る。
【0215】
移植拒絶反応(移植片対宿主病)
本発明の方法はまた、細胞移植を必要とする個体における、GVHDの発症又は進行を治療若しくは予防し、又はGVHDの重症度を低減するのに有用性を有する。
【0216】
GVHDは、宿主の組織適合性及び他の組織抗原を認識するドナー移植片におけるT細胞によって発生される炎症性疾患であり、GVHDは、様々なエフェクター細胞及び炎症性サイトカインによって媒介される。GVHDは、急性及び慢性型の両方において現れる。最も一般的な症候性の器官は、皮膚、肝臓、及び胃腸管(口腔及び口腔咽頭領域を含む)である。GVHDは、肺などの他の器官に関与し得る。
【0217】
GVHDの治療は、一般に、50~75%しか成功せず;患者の残りは、一般に生存し
ない。この免疫媒介性疾患の危険性及び重症度は、宿主と造血細胞のドナーとの間の不一致度に直接関係する。例えば、GVHDは、ヒト白血球抗原(HLA)一致同胞骨髄のレシピエントの30%まで、HLA適合非血縁ドナー骨髄のレシピエントの60%まで、及びHLA不一致骨髄のレシピエントのより高いパーセンテージにおいて、進行する。軽度の腸管のGVHDを有する患者は、食欲不振、吐き気、嘔吐、腹痛及び下痢を示す一方、重度のGVHDを有する患者は、これらの症状で障害を負う。治療されない場合、腸管のGVHDの症状は持続し、多くの場合、進行し;自然寛解は稀である。その最も重度の形態では、GVHDは、腸粘膜の上皮細胞の大部分の壊死及び剥離、多くの場合、致死的な疾患につながる。急性GVHDの症状は、通常、移植の100日以内に存在する。慢性GVHDの症状は、通常、幾分遅れて、同種異系HCTの後3年まで存在し、急性GVHDの病歴によって進行されることが多い。
【0218】
急性及び慢性の2つの異なるタイプのGVHDが、臨床的に認識されている。この疾患の急性型は、通常、移植後の最初の3か月以内に発症する。急性GVHDの発症率は、HLA一致同胞ドナーから移植を受けた患者の30~50%、及びHLA適合非血縁移植を受けた患者の50~70%と推定される。重度の急性GVHD(グレードIII~IV)は、血縁ドナーのレシピエントの20%まで及び非血縁ドナーのレシピエントの35%までで発生する。重度の急性GVHDは、予後不良を伴い、グレードIIIで長期生存率が25%及びグレードIVで5%である。
【0219】
当業者は、細胞移植を受ける可能性が最も高い患者群及び急性GVHDのリスクがあるか又は慢性GVHDの兆候を示す患者を同定することなどによって、GVHDの治療又は予防を必要とする個体を同定することができるであろう。例えば、慢性GVHDは、100日を超えて生存する、HLA一致同胞骨髄移植を受けた患者の60%まで及び代替ドナー骨髄移植を受けた患者70%で発症する。慢性GVHDの症状は、通常、同種異系移植後、3か月~2年間存在し、約3分の2が、最初の12か月以内に発症する。結局、移植された患者のわずか20%未満が、急性又は慢性GVHDのいずれも発症しない。
【0220】
組成物
いくつかの例において、本明細書に記載される抗原結合部位は、経口的に、非経口的に、吸入スプレー、吸着、吸収によって、局所、直腸内、鼻腔内、口腔、膣内、脳室内で、埋め込まれたリザーバを介して、従来の非毒性の薬学的に許容される担体を含む投与製剤として、又は任意の他の好都合な剤形によって投与され得る。本明細書において使用される際の「非経口」という用語は、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、髄腔内、脳室内、胸骨内、及び頭蓋内への注射又は注入技術を含む。
【0221】
対象への投与のための好適な形態(例えば医薬組成物)に、抗原結合部位を調製するための方法は、当該技術分野において公知であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(18thed.,Mack Publishing Co.,Easton,Pa.,1990)及びU.S.Pharmacopeia:NationalFormulary(Mack Publishing Company,Easton,Pa.,1984)に記載される方法が挙げられる。
【0222】
本発明の医薬組成物は、非経口投与、例えば、静脈内投与又は器官若しくは関節の内腔若しくは管腔への投与に特に有用である。投与のための組成物は、一般的に、薬学的に許容される担体、例えば水性担体に溶解された抗原結合部位の溶液を含む。様々な水性担体、例えば、緩衝生理食塩水などが使用され得る。組成物は、pH調整剤及び緩衝剤、毒性調整剤など、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどの、生理学的条件を模倣するのに必要とされる薬学的に許容される助剤を含有し得る。これらの製剤における本発明の抗原結合部位の濃度は、幅広く変化し得、選択される具体的な投与方法及び患者のニーズに応じて、主に、液量、粘度、体重な
どに基づいて選択される。例示的な担体としては、水、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、及び5%のヒト血清アルブミンが挙げられる。混合油及びオレイン酸エチルなどの非水性ビヒクルも使用され得る。リポソームも担体として使用され得る。ビヒクルは、等張性及び化学安定性を強化する少量の添加剤、例えば、緩衝液及び保存剤を含有し得る。
【0223】
製剤化の後、本明細書に記載される抗原結合部位は、投与製剤と適合する方法で、及び治療的/予防的に有効であるような量で投与される。製剤は、上述される注射剤のタイプなどの様々な剤形で容易に投与されるが、他の薬学的に許容される形態、例えば、錠剤、丸薬、カプセル若しくは経口投与用の他の固体、坐薬、ペッサリー、点鼻液若しくはスプレー、エアゾール、吸入剤、リポソーム形態なども考えられる。医薬用の「持続放出」カプセル又は組成物も使用され得る。持続放出製剤は、一般に、長期間にわたって一定の薬物レベルを与えるように設計され、本発明の抗原結合部位を送達するのに使用され得る。
【0224】
国際公開第2002/080967号には、例えば、喘息の治療のための抗体を含むエアロゾル化された組成物を投与するための組成物及び方法が記載されており、それは、本発明の抗原結合部位の投与にも好適である。
【0225】
投与量及び投与時期
本発明の抗原結合部位の好適な投与量は、具体的な抗原結合部位、治療される疾患及び/又は治療される対象に応じて変化する。好適な投与量を決定することは熟練した医師の能力の範囲内であり、例えば、最適量以下の投与量から開始し、最適又は有用な投与量を決定するために投与量を徐々に変更することによってなされる。或いは、治療/予防のための適切な投与量を決定するために、細胞培養アッセイ又は動物試験からのデータが使用され、ここで、好適な用量は、ほとんど又は全く毒性を有さない活性化合物のED50を含む血中濃度の範囲内である。投与量は、用いられる剤形及び用いられる投与経路に応じて、この範囲内で変化し得る。治療的/予防的に有効な用量は、最初に細胞培養アッセイから推定され得る。用量は、細胞培養において決定される際にIC50(すなわち、症状の最大抑制の半分を達成する化合物の濃度又は量)を含む循環血漿中濃度範囲を達成するように、動物モデルにおいて配合され得る。このような情報は、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定するために使用され得る。血漿中のレベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定され得る。
【0226】
いくつかの例において、本発明の方法は、本明細書に記載されるタンパク質の予防又は治療有効量を投与することを含む。
【0227】
「治療有効量」という用語は、治療を必要とする対象に投与されたとき、対象の予後及び/又は状態を改善し、及び/又は本明細書に記載される臨床状態の1つ以上の症状を、その状態の臨床的診断特性又は臨床的特徴として観察され、認められるレベル未満のレベルまで、低減若しくは阻害する量である。対象に投与される量は、治療される疾患の具体的な特徴、治療される疾患のタイプ及び段階、投与方法、並びに全体的な健康、他の疾患、年齢、性別、遺伝子型、及び体重などの対象の特徴に依存する。当業者は、これらの及び他の要因に応じて、適切な投与量を決定することができる。したがって、この用語は、本発明を、特定の量、例えば、タンパク質の重量又は量に限定するものと解釈されるべきではなく、むしろ、本発明は、対象において所定の結果を得るのに十分な抗原結合部位の任意の量を包含する。
【0228】
本明細書において使用される際、「予防的に有効な量」という用語は、臨床状態の1つ以上の検出可能な症状の発症を予防する又は阻害する又は遅らせるのに十分な量のタンパク質を意味すると理解されるものとする。当業者は、このような量が、例えば、投与され
る特定の抗原結合部位及び/又は特定の対象及び/又は疾患のタイプ若しくは重症度若しくはレベル及び/又は疾患の素因(遺伝的素因若しくはそれ以外)に応じて変化することを認識するであろう。したがって、この用語は、本発明を、特定の量、例えば、抗原結合部位の重量又は量に限定するものと解釈されるべきではなく、むしろ、本発明は、対象において所定の結果を得るのに十分な抗原結合部位の任意の量を包含する。
【0229】
キット
本発明は、以下の1つ以上を含むキットをさらに含む:
(i)本明細書に記載される抗原結合部位又はそれをコードする発現構築物;
(ii)本発明の細胞;
(iii)本発明の複合体;又は
(iii)本発明の医薬組成物。
【0230】
CXCR3を検出するためのキットの場合、キットは、例えば、本発明の抗原結合部位に連結された検出手段をさらに含み得る。
【0231】
治療的/予防的使用のためのキットの場合、キットは、薬学的に許容される担体をさらに含み得る。
【0232】
任意選択的に、本発明のキットは、いずれかの実施例に従い本明細書に記載される方法の使用説明書とともに包装される。
【0233】
【表1】
【0234】
【表2】
【0235】
【表3】
【0236】
【表4】
【0237】
【表5】
【実施例0238】
実施例
実施例1
この実施例は、CXCR3抗体を産生するための方法を記載する。
【0239】
5mMの酪酸で回収の20時間前に刺激し、完全フロイントアジュバント(腹腔内、初回免疫)又は不完全フロイントアジュバント(腹腔内、2次~6次免疫)中で乳化させた2×10個のL1.2/hCXCR3トランスフェクト細胞を用いて、C57BL/6マウスに、2週間隔で合計5~6回免疫を行うことによって、ヒトCXCR3(hCXCR3)と反応するモノクローナル抗体を産生する。最終免疫は、PBS中で静脈内注射する。4日後に、脾臓を摘出し、標準的な方法を用いて、細胞をSP2/0細胞株と融合させる。ハイブリドーマを、10%のFetalclone(HyClone)、1×HAT補給物(Sigma Aldrich)及びマウスIL-6を含むDMEM(Gibco/lnvitrogen)中で増殖させる。10~14日の増殖の後、培養上清を、一次スクリーニングのために採取する。
【0240】
免疫蛍光染色及びFACSCalibur(BDBiosciences)を用いた分析を用いて、ヒトCXC
R3トランスフェクトL1.2細胞、及び非トランスフェクトL1.2細胞、又は無関係な若しくはCXCR1、CXCR2若しくはC5aRなどの類似する受容体でトランスフェクトされたL1.2細胞を用いて、CXCR3と反応するモノクローナル抗体を同定する。既に記載される標準的な手順(Lee et al.,2006,Nat.Biotech.24:1279-1284)を用いて、細胞のモノクローナル抗体染色を行う。
【0241】
抗体の産生は、組織培養フラスコ中でハイブリドーマを増殖させ、培養培地を回収することを含んでいた。いくつかの実験では、培養上清中の抗体の濃度は、さらなる精製なしで続けるのに十分であり得る。選択される抗体の産生を、スケールアップし、モノクローナル抗体を、プロテインGクロマトグラフィーによって精製し、濃縮し、PBSに緩衝液交換する。モノクローナル抗体濃度を、全IgG ELISAを用いて決定する。
【0242】
高いレベルのhCXCR3を発現するL1.2トランスフェクタントを用いて、マウスを免疫し、hCXCR3でトランスフェクトされたL1.2細胞と反応したモノクローナル抗体を、フローサイトメトリーによって最初に同定する。クローン性を確保するため、選択されたハイブリドーマを、384ウェルプレート中への希釈平板法を用いてサブクローニングした。L1.2/hCXCR3トランスフェクタント及び非トランスフェクトL1.2細胞との、サブクローンの交差反応性の特異性を、フローサイトメトリーによって確認する。
【0243】
実施例2
この実施例は、CXCR3抗体の受容体結合特異性を決定するための方法を記載する。
【0244】
トランスフェクト細胞に対するmAbの反応性を評価するため、間接免疫蛍光染色及びフローサイトメトリーを使用する。細胞を、PBSで1回洗浄し、2%(wt/vol)のBSA及び0.1%(wt/vol)のアジ化ナトリウム(染色緩衝液)及び精製抗体を含む100μlのPBS中で再懸濁させる。4℃で30分後、細胞を、染色緩衝液で2回洗浄し、染色緩衝液中で1:500に希釈された、ヒト化mAb検出用の50μlのPEコンジュゲート抗ヒトIgG(Jackson ImmunoResearch Laboratories)又はマウスm
Ab検出用の50μlのPEコンジュゲート抗マウスIgG(Jackson ImmunoResearchLaboratories)中で再懸濁させる。4℃で20分間インキュベートした後、細胞を、染色
緩衝液で2回洗浄し、LSRIIフローサイトメーターで分析する。7-AAD染色を用いて
、死細胞を除外する。
【0245】
実施例3
この実施例は、CXCR3抗体をエピトープマッピングするための方法を記載する。
【0246】
抗CXCR3 mAbによって認識されるCXCR3内の領域を決定するため、エピトープマッピング試験を行う。最初に、N末端領域並びにCXCR3の第1、第2及び第3の細胞外ループに対応するビオチン化ペプチドを、ELISAにおいて使用する。
【0247】
次に、ヒトCXCR3の全N末端領域にわたる重なり合うビオチン化ペプチドを合成し、より詳細なエピトープマッピング試験において使用する。簡潔に述べると、マルチウェルプレートを、ストレプトアビジンで被覆し、洗浄してから、ビオチン化ペプチドを別個のウェルに加え、プレートへのペプチドの結合を容易にするためにインキュベートする。それぞれの抗体をプレートのウェルに加え、プレートをインキュベートすることによって、異なる抗mCXCR3抗体を、新たに開発されたmAbと並行して試験する。アイソタイプ対照及び緩衝液のみが、陰性対照として含まれる。洗浄後、適切なコンジュゲート抗体を加え、プレートをインキュベートする。プレートを再度洗浄し、固定化されたペプチドへの抗体の結合を視覚化する。
【0248】
実施例4
この実施例は、抗CXCR3抗体によるT細胞遊走の阻害を測定するための方法を記載する。
【0249】
ヒトCD4+ T細胞を沈降させ、遊走培地(MM=RPMI 1640、0.5%のBSA)
中で洗浄し、10個の細胞/mlで再懸濁させる。組織培養インサート(BectonDickinson & Co.,Mountain View,Calif.)を、24ウェル組織培養プレートのウェルのそれぞ
れに入れて、3mmの直径の孔を有するポリエチレンテレフタレート膜で分けられた上部及び下部チャンバを形成する。走化性CXCR3リガンド、CXCL9(MIG)、CXCL10(IP-10)又はCXCL11(I-TAC)、(アッセイ培地中で希釈される)を、24ウェル組織培養プレート中の600μlのアッセイ培地に加える。100μl中の100万個の細胞を、抗体とともに30分間プレインキュベートする。5%のCO、37℃のインキュベータ中で4時間にわたって、精製されたmAbを、ウェルの上部チャンバに加え、細胞を、下部チャンバに通して遊走させる。インサートを遊走後に除去し、細胞を、LSRIIサイトメータ(BD Biosciences)によって計数する。30秒の設定時
間の間のイベントを得ることによって、相対細胞数を得る。
【0250】
実施例5
この実施例は、NASHを治療するための枯渇性抗CXCR3抗体の使用を記載する。
【0251】
NASHを誘導するためのMCD食
C57/BL6マウスに、5週間にわたって対照食又はMCD食を与えた。MCD食は、コリン及びメチオニンが少なく、NASHの誘導及び進行をモデル化するのに使用される。MCD食は、先行技術(例えば、Machado et al.,2015,PLoS One;10(5):e0127991を
参照)に記載されるとおりであった。
【0252】
抗体処理
5週間後、マウスを、アイソタイプ対照抗体又は枯渇性抗CXCR3抗体のいずれかで処理した。
【0253】
組織病理学
肝臓組織を処理し、標準的な手順を用いて染色した。溶血素及びエオシン染色を用いて、脂肪沈着を視覚化した。ピクロシリウスレッド染色を用いて、コラーゲン沈着を視覚化した(それによって、線維症の程度を決定した)。
【0254】
総罹患面積のパーセンテージに基づいて、脂肪症を採点し、重症度を、以下のカテゴリーに等級分けした:0(<5%)、1(5~33%)、2(34~66%)及び3(>66%)。
【0255】
100倍の倍率を用いて視野当たりの炎症性の病巣の数を計数することによって、炎症を評価する。
【0256】
NKT細胞及び肝内CD8 T細胞の測定
NKT及び肝内CD8+ T細胞の測定
肝臓を切片にし、肝臓リンパ球を、Ficoll勾配を用いて精製した。細胞を、抗CD45、抗TCRβ;抗NK1.1;抗CD8及び抗CXCR3抗体を用いて染色した。Fortessa機器(BD Biosciences)及びFlowJoソフトウェアを、取得及びデータ分析に使用した。
【0257】
血清中のアラニンアミノトランスフェラーゼレベルの測定
血清中のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)活性を、製造業者のプロトコル(Sigma)に従ってALT活性比色分析を用いて測定した。
【0258】
結果:CXCR3枯渇性抗体による処理は、NASHを防ぐ
図4及び5に示されるように、MCD食及びアイソタイプ抗体を与えたマウスの肝臓は、対照(普通)食のマウスと比較して、試験の最後に有意な脂肪沈着を有していた。
【0259】
NASH誘導MCD食とともに抗CXCR3枯渇性抗体処理を与えたマウスの肝臓は、脂肪沈着の発達を有意に防がれた。
【0260】
図4はまた、抗CXCR3枯渇性抗体を与えたマウスが、MCD食とともにアイソタイプ抗体を与えたマウスと比較して、減少したレベルの肝線維症を有することを示す。
【0261】
したがって、図4及び5に示される結果は、枯渇性抗CXCR3抗体による処理が、NASHの認められたモデルにおいて、肝臓脂肪症及び線維症を阻害することを示す。
【0262】
図6は、抗CXCR3 mAbによる処理が、NKT細胞及び活性化肝内CD8 T細胞を枯渇させることを示す。MCD食は、CD8+ CXCR3+ T細胞及びNKT細胞の頻度を増加させ;NKT細胞はCXCR3+であり、Fc改変抗CXCR3 mABによる処理後に枯渇される。
【0263】
ALTの増加した血清中レベルは、肝臓障害を示す。図7は、抗CXCR3抗体による処理が、血清中へのアラニンアミノトランスフェラーゼの放出を減少させ、NASHの認められたモデルにおいて、肝臓中の単球の浸潤を減少させることを示す。
【0264】
要約すると、これらのデータは、CXCR枯渇性抗体による処理が、NASH誘導食に関して:
・脂肪沈着の形成(肝臓脂肪症)を阻害し;
・コラーゲン沈着及び線維症を阻害し、
・NKT細胞及び活性化肝内CD8+ T細胞を枯渇させ、
・血清中へのアラニンアミノトランスフェラーゼの放出を減少させ(肝機能の改善を示す);
・肝臓中の単球の浸潤を減少させる
ことを示す。
【0265】
本明細書において開示され、定義される本発明は、記載されるか又は本文若しくは図面から明らかである個々の特徴の2つ以上の全ての代替的な組合せに及ぶことが理解されよう。これらの異なる組合せは全て、本発明の様々な代替的な態様を構成する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2024105315000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-05-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載の発明。
【外国語明細書】