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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010532
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】化合物またはその塩
(51)【国際特許分類】
   C07C 327/32 20060101AFI20240117BHJP
   C07D 207/16 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20240117BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
C07C327/32
C07D207/16 CSP
A61K47/68 ZNA
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61K39/395 L
A61K39/395 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111915
(22)【出願日】2022-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 慧
(72)【発明者】
【氏名】藤井 友博
(72)【発明者】
【氏名】松田 豊
(72)【発明者】
【氏名】畑田 紀子
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H006
【Fターム(参考)】
4C076EE59
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA21
4C085AA25
4C085BB11
4C085BB33
4C085BB34
4C085BB35
4C085BB36
4C085BB37
4C085BB42
4C085CC21
4C085CC22
4C085CC23
4C085EE01
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB20
4H006TN10
4H006TN60
4H006TN90
(57)【要約】      (修正有)
【課題】抗体に対する親和性物質との反応性に優れる化合物中間体を提供すること。
【解決手段】下記式(1):

〔式中、Fは、フッ素原子を示し、Oは、酸素原子を示し、Wは、酸素原子または硫黄原子を示し、Lは、第1リンカーを示し、Lは、生体直交性官能基またはそれを含む基を有していてもよい第2リンカーを示し、LまたはLのいずれか一方は、C=W中の炭素原子に対する隣接原子として、硫黄原子、酸素原子または窒素原子を有し、Xは、脱離基を示す。〕で表される化合物またはその塩。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
〔式中、
Fは、フッ素原子を示し、
Oは、酸素原子を示し、
Wは、酸素原子または硫黄原子を示し、
は、第1リンカーを示し、
は、生体直交性官能基またはそれを含む基を有していてもよい第2リンカーを示し、
またはLのいずれか一方は、C=W中の炭素原子に対する隣接原子として、硫黄原子、酸素原子または窒素原子を有し、
Xは、脱離基を示す。〕で表される化合物またはその塩。
【請求項2】
前記式(1)で表される化合物が、下記式(1a):
【化2】
〔式中、
Fは、フッ素原子を示し、
Oは、酸素原子を示し、
Wは、酸素原子または硫黄原子を示し、
およびL’は、それぞれ独立して、置換されていてもよい2価の基を示し、
Sは、硫黄原子を示し、
Xは、脱離基を示す。〕で表される、請求項1記載の化合物またはその塩。
【請求項3】
およびL’は、それぞれ独立して、置換されていてもよいアルキレンを示す、請求項2記載の化合物またはその塩。
【請求項4】
が、置換されていてもよい炭素原子数1または2個のアルキレンを示す、請求項3記載の化合物またはその塩。
【請求項5】
’が、置換されていてもよい炭素原子数1~5個のアルキレンを示す、請求項3または4記載の化合物またはその塩。
【請求項6】
前記式(1)で表される化合物が、下記式(1b):
【化3】
〔式中、
Fは、フッ素原子を示し、
Oは、酸素原子を示し、
Wは、酸素原子または硫黄原子を示し、
’は、置換されていてもよい2価の基を示し、
は、生体直交性官能基またはそれを含む基を有する置換されていてもよい2価の基を示し、
Sは、硫黄原子を示し、
Xは、脱離基を示す。〕で表される、請求項1記載の化合物またはその塩。
【請求項7】
’が、置換されていてもよい2価の基(ここで、L’に隣接する炭素原子および硫黄原子を連結する主鎖を構成する原子数は1~5個である)を示す、請求項6記載の化合物またはその塩。
【請求項8】
主鎖を構成する原子が、炭素原子、窒素原子、酸素原子および硫黄原子、ならびにそれらの組み合わせからなる群より選ばれる、請求項7記載の化合物またはその塩。
【請求項9】
が、生体直交性官能基またはそれを含む基を有する置換されていてもよい炭素原子数1~5個のアルキレンを示す、請求項6~8のいずれか一項記載の化合物またはその塩。
【請求項10】
前記式(1b)で表される化合物が、下記式(1b’):
【化4】
〔式中、
Fは、フッ素原子を示し、
Oは、酸素原子を示し、
Wは、酸素原子または硫黄原子を示し、
’は、置換されていてもよい2価の基(ここで、L’に隣接する炭素原子および硫黄原子を連結する主鎖を構成する原子数は1~5個であり、かつ、主鎖を構成する原子が、炭素原子、または炭素原子および窒素原子の組み合わせである)を示し、
’は、置換されていてもよい炭素原子数2~5個のアルキレンを示し、
Sは、硫黄原子を示し、
Bは、生体直交性官能基またはそれを含む基を示し、
Rは、水素原子または置換基を示し、
Xは、脱離基を示す。〕で表される、請求項6記載の化合物またはその塩。
【請求項11】
下記式(2a):
【化5】
〔式中、
Yは、抗体に対する親和性物質を示し、
Oは、酸素原子を示し、
Wは、酸素原子または硫黄原子を示し、
およびL’は、それぞれ独立して、置換されていてもよい2価の基を示し、
Sは、硫黄原子を示し、
Xは、脱離基を示す。〕で表される化合物またはその塩。
【請求項12】
下記式(2b):
【化6】
〔式中、
Yは、抗体に対する親和性物質を示し、
Oは、酸素原子を示し、
Wは、酸素原子または硫黄原子を示し、
’は、置換されていてもよい2価の基を示し、
は、生体直交性官能基またはそれを含む基を有する置換されていてもよい2価の基を示し、
Sは、硫黄原子を示し、
Xは、脱離基を示す。〕で表される化合物またはその塩。
【請求項13】
前記式(2b)で表される化合物が、下記式(2b’):
【化7】
〔式中、
Yは、抗体に対する親和性物質を示し、
Oは、酸素原子を示し、
Wは、酸素原子または硫黄原子を示し、
’は、置換されていてもよい2価の基(ここで、L’に隣接する炭素原子および
硫黄原子を連結する主鎖を構成する原子数は1~5個であり、かつ、主鎖を構成する原子が、炭素原子、または炭素原子および窒素原子の組み合わせである)を示し、
’は、置換されていてもよい炭素原子数2~5個のアルキレンを示し、
Sは、硫黄原子を示し、
Bは、生体直交性官能基またはそれを含む基を示し、
Rは、水素原子または置換基を示し、
Xは、脱離基を示す。〕で表される、請求項12記載の化合物またはその塩。
【請求項14】
下記式(2):
【化8】
〔式中、
Yは、抗体に対する親和性物質を示し、
Oは、酸素原子を示し、
Wは、酸素原子または硫黄原子を示し、
は、第1リンカーを示し、
は、生体直交性官能基またはそれを含む基を有していてもよい第2リンカーを示し、
またはLのいずれか一方は、C=W中の炭素原子に対する隣接原子として、硫黄原子、酸素原子または窒素原子を有し、
Xは、脱離基を示す。〕で表される化合物またはその塩を含む、抗体の誘導体化試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物またはその塩に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、抗体薬物複合体(Antibody Drug Conjugate:ADC)の研究開発が盛んに行われている。ADCはその名の通り、抗体に薬物(例、抗がん剤)をコンジュゲーションした薬剤であり、がん細胞などに対して直接的な殺細胞活性を有する。代表的なADCとしては、Immunogene社およびRoche社が共同開発したT-DM1(商品名:カドサイラ(登録商標))がある。
【0003】
T-DM1を始めとするADCは、開発当初からその不均一性が問題となっている。例えば、抗体中に70~80程度あるリジン残基に対して、低分子薬物をランダムに反応させているため、薬物抗体比(Drug Antibody Ratio:DAR)やコンジュゲーション位置が一定ではない。通常このようなランダムコンジュゲーション法になるとDARが0~8の範囲となり、薬物の結合数が異なる複数の抗体薬剤が生じることが分かっている。近年ADCの薬物の結合数および結合位置を変化させると、体内動態や薬物の放出速度、効果が変化することが報告されている。これらのことから次世代型ADCではコンジュゲーションする薬物の個数と位置を制御することが求められている。個数および位置が一定であると、期待通りのefficacy、コンジュゲーション薬剤のバリエーション、ロット差いわゆるレギュレーションの問題が解決すると考えられている。
【0004】
抗体の位置選択的修飾法は世界中で研究されているが、そのほとんどが遺伝子工学的手法もしくは酵素を用いた修飾法である。遺伝子工学的修飾法に関しては、位置選択性、個数選択性は制御できるものの、抗体自体の発現効率が低下(ADCを調製する際の総収率が低下)するなどの問題が指摘されている。また、抗体発現系の構築などに長い年月を要することが問題となっている。
【0005】
最近、化学合成的手法により抗体の位置選択的な修飾を可能にするC-CAP(Chemical Conjugation by Affinity Peptide)法が開発された(特許文献1)。本方法は、親和性ペプチド(Affinity Peptide)に対してNHS活性化エステルおよび薬物が連結されたペプチド試薬を抗体と反応させることにより、抗体の位置選択的な修飾に成功している。しかし、本方法により作製されるADCは、抗体と薬物がペプチド部分を含むリンカーを介して結合している。ペプチド部分は、潜在的な免疫原性を有し、また血中で加水分解され易い。したがって、本方法により作製されるADCは、リンカー中にペプチド部分を含む点で改善の余地がある。
【0006】
上記C-CAP法の改良方法として、親和性ペプチドを含む所定の化合物を用いる化学合成的手法により、ペプチド部分をリンカーとして含まない、機能性物質(例、薬物)を位置選択的に有する抗体を調製できる技術が報告されている(特許文献2~5)。これらの技術によれば、(A)(a)抗体に対する親和性物質、(b)切断性部分(切断により生体直交性官能基を生成してもよい。切断により生体直交性官能基を生成できる切断性部分としては、例えば、切断によりチオール基を生成できるチオエステル結合が挙げられる)、および(c)抗体に対する反応性基、ならびに(d)必要に応じて生体直交性官能基を含む化合物またはその塩を抗体と反応させて、(B)(a)抗体に対する親和性物質、および(b)切断性部分、ならびに(d)必要に応じて生体直交性官能基を含む抗体中間体またはその塩を生成すること、(B)抗体中間体またはその塩における切断性部分を切断して、(C)生体直交性官能基を含む抗体誘導体またはその塩を生成すること、ならび
に(C)生体直交性官能基を含む抗体誘導体またはその塩を機能性物質と反応させて、(D)抗体および機能性物質のコンジュゲートまたはその塩を生成することができる(特許文献2~5。特に図1、2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2016/186206号
【特許文献2】国際公開第2018/199337号
【特許文献3】国際公開第2019/240287号
【特許文献4】国際公開第2019/240288号
【特許文献5】国際公開第2020/090979号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した(A)の化合物の作製のためには、(A’)(a’)抗体に対する親和性物質に対する反応性基、(b)切断性部分(切断により生体直交性官能基を生成してもよい)、および(c)抗体に対する反応性基、ならびに(d)必要に応じて生体直交性官能基を含む化合物中間体またはその塩を、抗体に対する親和性物質と反応させる必要がある。よって、本発明の目的は、抗体に対する親和性物質との反応性に優れる化合物中間体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、式(1)で表される化合物またはその塩が、抗体に対する親和性物質との反応性に優れるため、上記(A)の化合物またはその塩の作製のための化合物中間体として有用であることを見出した。本発明者らはまた、上記(A)の化合物またはその塩として、式(2)で表される化合物またはその塩を生成できること、よって、式(1)および(2)で表される化合物またはその塩の提供により、上記のような抗体中間体またはその塩、生体直交性官能基を含む抗体誘導体またはその塩、ならびに抗体および機能性物質のコンジュゲートまたはその塩を作製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕式(1)で表される化合物またはその塩。
〔2〕式(1)で表される化合物が、式(1a)で表される、〔1〕の化合物またはその塩。
〔3〕LおよびL’は、それぞれ独立して、置換されていてもよいアルキレンを示す、〔2〕の化合物またはその塩。
〔4〕Lが、置換されていてもよい炭素原子数1または2個のアルキレンを示す、〔3〕の化合物またはその塩。
〔5〕L’が、置換されていてもよい炭素原子数1~5個のアルキレンを示す、〔3〕または〔4〕の化合物またはその塩。
〔6〕式(1)で表される化合物が、式(1b)で表される、〔1〕の化合物またはその塩。
〔7〕L’が、置換されていてもよい2価の基(ここで、L’に隣接する炭素原子および硫黄原子を連結する主鎖を構成する原子数は1~5個である)を示す、〔6〕の化合物またはその塩。
〔8〕主鎖を構成する原子が、炭素原子、窒素原子、酸素原子および硫黄原子、ならびにそれらの組み合わせからなる群より選ばれる、〔7〕の化合物またはその塩。
〔9〕Lが、生体直交性官能基またはそれを含む基を有する置換されていてもよい炭素原子数1~5個のアルキレンを示す、〔6〕~〔8〕のいずれかの化合物またはその塩。
〔10〕式(1b)で表される化合物が、式(1b’)で表される、〔6〕の化合物またはその塩。
〔11〕式(2a)で表される化合物またはその塩。
〔12〕式(2b)で表される化合物またはその塩。
〔13〕式(2b)で表される化合物が、式(2b’)で表される、〔12〕の化合物またはその塩。
〔14〕式(2)で表される化合物またはその塩を含む、抗体の誘導体化試薬。
【発明の効果】
【0011】
本発明の化合物またはその塩は、抗体の誘導体化に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施形態の概要を示す図である。抗体と化合物との間の反応様式の詳細は、例えば、特許文献2~5を参照のこと(図2~4も同様)。
図2図2は、本発明の別の実施形態の概要を示す図である。
図3図3は、本発明のさらに別の実施形態の概要を示す図である。
図4図4は、本発明のさらに別の実施形態の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.一般的な用語の定義
本明細書において、特定の発明または事項の説明に使用される用語および表現は、別の発明または事項の説明でも援用することができる。したがって、特定の発明または事項の説明に使用される用語および表現の定義、例、および好ましい例は、そのような用語及び表現で説明される別の発明または事項についても同様であってもよい。
【0014】
本発明において、用語「抗体」は、以下のとおりである。また、用語「イムノグロブリン単位」は、このような抗体の構成単位である2価の単量体単位に対応するものであり、2個の重鎖および必要に応じて2個の軽鎖を含むイムノグロブリン単位である。したがって、イムノグロブリン単位について、その由来、種類(ポリクローナルもしくはモノクローナル、アイソタイプ、および全長抗体もしくは抗体断片)、抗原、アミノ酸残基(例、リジン残基)の位置、および位置選択性等の用語および表現の定義、例、および好ましい例は、以下に説明する抗体のものと同様であり、表現「抗体」と交換可能に使用される。
【0015】
抗体の由来は、特に限定されず、例えば、哺乳動物、鳥類(例、ニワトリ)等の動物に由来するものであってもよい。好ましくは、イムノグロブリン単位は、哺乳動物に由来する。このような哺乳動物としては、例えば、霊長類(例、ヒト、サル、チンパンジー)、齧歯類(例、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ)、愛玩動物(例、イヌ、ネコ)、家畜(例、ウシ、ブタ、ヤギ)、使役動物(例、ウマ、ヒツジ)が挙げられ、好ましくは霊長類または齧歯類であり、より好ましくはヒトである。
【0016】
抗体の種類は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であってもよい。抗体はまた、2価の抗体(例、IgG、IgD、IgE)、または4価以上の抗体(例、IgA抗体、IgM抗体)であってもよい。好ましくは、抗体は、モノクローナル抗体である。モノクローナル抗体としては、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、所定の糖鎖が付加された抗体(例、N型糖鎖結合コンセンサス配列等の糖鎖結合コンセンサス配列を有するように改変された抗体)、二重特異性抗体、Fc領域タンパク質、Fc融合タンパク質が挙げられる。モノクローナル抗体のアイソタイプとしては、例えば、IgG(例、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgM、IgA、IgD、IgE、およびIgYが挙げられる。本発明では、モノクローナル抗体として、全長抗体、または可変領域ならびにCH1ドメインおよびCH2ドメインを含む抗体断片を利用できるが、全長抗
体が好ましい。抗体は、好ましくはヒトIgGモノクローナル抗体であり、より好ましくはヒトIgG全長モノクローナル抗体である。
【0017】
抗体の抗原としては、任意の抗原を用いることができる。例えば、このような抗原としては、タンパク質〔オリゴペプチド、ポリペプチドを含む。糖等の生体分子で修飾されたタンパク質(例、糖タンパク質)であってもよい〕、糖鎖、核酸、低分子化合物が挙げられる。好ましくは、抗体は、タンパク質を抗原とする抗体であってもよい。タンパク質としては、例えば、細胞膜受容体、細胞膜受容体以外の細胞膜タンパク質(例、細胞外基質タンパク質)、リガンド、可溶性受容体が挙げられる。
【0018】
より具体的には、抗体の抗原であるタンパク質は、疾患標的タンパク質であってもよい。疾患標的タンパク質としては、例えば、以下が挙げられる。
【0019】
(1)がん領域
PD-L1、GD2、PDGFRα(血小板由来成長因子受容体)、CD22、HER2、ホスファチジルセリン(PS)、EpCAM、フィブロネクチン、PD-1、VEGFR-2、CD33、HGF、gpNMB、CD27、DEC-205、葉酸受容体、CD37、CD19、Trop2、CEACAM5、S1P、HER3、IGF-1R、DLL4、TNT-1/B、CPAAs、PSMA、CD20、CD105(エンドグリン)、ICAM-1、CD30、CD16A、CD38、MUC1、EGFR、KIR2DL1,2,、NKG2A、tenascin-C、IGF(Insulin-like growth factor)、CTLA-4、mesothelin、CD138、c-Met、Ang2、VEGF-A、CD79b、ENPD3、葉酸受容体α、TEM-1、GM2、グリピカン3、macrophage inhibitory factor、CD74、Notch1、Notch2、Notch3、CD37、TLR-2、CD3、CSF-1R、FGFR2b、HLA-DR、GM-CSF、EphA3、B7-H3、CD123、gpA33、Frizzled7受容体、DLL4、VEGF、RSPO、LIV-1、SLITRK6、Nectin-4、CD70、CD40、CD19、SEMA4D(CD100)、CD25、MET、Tissue Factor、IL-8、EGFR、cMet、KIR3DL2、Bst1(CD157)、P-カドヘリン、CEA、GITR、TAM(tumor associated macrophage)、CEA、DLL4、Ang2、CD73、FGFR2、CXCR4、LAG-3、GITR、Fucosyl GM1、IGF-1、Angiopoietin 2、CSF-1R、FGFR3、OX40、BCMA、ErbB3、CD137(4-1BB)、PTK7、EFNA4、FAP、DR5、CEA、Ly6E、CA6、CEACAM5、LAMP1、tissue factor、EPHA2、DR5、B7-H3、FGFR4、FGFR2、α2-PI、A33、GDF15、CAIX、CD166、ROR1、GITR、BCMA、TBA、LAG-3、EphA2、TIM-3、CD-200、EGFRvIII、CD16A、CD32B、PIGF、Axl、MICA/B、Thomsen-Friedenreich、CD39、CD37、CD73、CLEC12A、Lgr3、トランスフェリン受容体、TGFβ、IL-17、5T4、RTK、Immune Suppressor Protein、NaPi2b、ルイス血液型B抗原、A34、Lysil-Oxidase、DLK-1、TROP-2、α9インテグリン、TAG-72(CA72-4)、CD70
【0020】
(2)自己免疫疾患・炎症性疾患
IL-17、IL-6R、IL-17R、INF-α、IL-5R、IL-13、IL-23、IL-6、ActRIIB、β7-Integrin、IL-4αR、HAS、Eotaxin-1、CD3、CD19、TNF-α、IL-15、CD3ε、Fibronectin、IL-1β、IL-1α、IL-17、TSLP(Thymic St
romal Lymphopoietin)、LAMP(Alpha4 Beta 7 Integrin)、IL-23、GM-CSFR、TSLP、CD28、CD40、TLR-3、BAFF-R、MAdCAM、IL-31R、IL-33、CD74、CD32B、CD79B、IgE(免疫グロブリンE)、IL-17A、IL-17F、C5、FcRn、CD28、TLR4、MCAM、B7RP1、CXCR1,2 Ligands、IL-21、Cadherin-11、CX3CL1、CCL20、IL-36R、IL-10R、CD86、TNF-α、IL-7R、Kv1.3、α9インテグリン、LIFHT
【0021】
(3)脳神経疾患
CGRP、CD20、βアミロイド、βアミロイドプロトフィブリン、Calcitonin Gene-Related Peptide Receptor、LINGO(Ig Domain Containing1)、αシヌクレイン、細胞外tau、CD52、インスリン受容体、tauタンパク、TDP-43、SOD1、TauC3、JCウイルス
【0022】
(4)感染症
Clostridium Difficile toxin B、サイトメガロウイルス、RSウイルス、LPS、S.Aureus Alpha-toxin、M2eタンパク、Psl、PcrV、S.Aureus toxin、インフルエンザA、Alginate、黄色ブドウ球菌、PD-L1、インフルエンザB、アシネトバクター、F-protein、Env、CD3、病原性大腸菌、クレブシエラ、肺炎球菌
【0023】
(5)遺伝性・希少疾患
アミロイドAL、SEMA4D(CD100)、インスリン受容体、ANGPTL3、IL4、IL13、FGF23、副腎皮質刺激ホルモン、トランスサイレチン、ハンチンチン
【0024】
(6)眼疾患
Factor D、IGF-1R、PGDFR、Ang2、VEGF-A、CD-105(Endoglin)、IGF-1R、βアミロイド
【0025】
(7)骨・整形外科領域
Sclerostin、Myostatin、Dickkopf-1、GDF8、RNAKL、HAS、Siglec-15
【0026】
(8)血液疾患
vWF、Factor IXa、Factor X、IFNγ、C5、BMP-6、Ferroportin、TFPI
【0027】
(9)その他の疾患
BAFF(B cell activating factor)、IL-1β、PCSK9、NGF、CD45、TLR-2、GLP-1、TNFR1、C5、CD40、LPA、プロラクチン受容体、VEGFR-1、CB1、Endoglin、PTH1R、CXCL1、CXCL8、IL-1β、AT2-R、IAPP
【0028】
モノクローナル抗体の具体例としては、特定のキメラ抗体(例、リツキシマブ、バシリキシマブ、インフリキシマブ、セツキシマブ、シルツキシマブ、ディヌツキシマブ、オルタトキサシマブ)、特定のヒト化抗体(例、ダクリヅマブ、パリビズマブ、トラスツズマブ、アレンツズマブ、オマリヅマブ、エファリヅマブ、ベバシヅマブ、ナタリヅマブ(I
gG4)、トシリヅマブ、エクリヅマブ(IgG2)、モガムリヅマブ、ペルツヅマブ、オビヌツヅマブ、ベドリヅマブ、ペンプロリヅマブ(IgG4)、メポリヅマブ、エロツヅマブ、ダラツムマブ、イケセキヅマブ(IgG4)、レスリヅマブ(IgG4)、アテゾリヅマブ)、特定のヒト抗体(例、アダリムマブ(IgG1)、パニツムマブ、ゴリムマブ、ウステキヌマブ、カナキヌマブ、オファツムマブ、デノスマブ(IgG2)、イピリムマブ、ベリムマブ、ラキシバクマブ、ラムシルマブ、ニボルマブ、デュピルマブ(IgG4)、セクキヌマブ、エボロクマブ(IgG2)、アリロクマブ、ネシツムマブ、ブロダルマブ(IgG2)、オララツマブ)が挙げられる(IgGサブタイプに言及していない場合、IgG1であることを示す)。
【0029】
本発明では、抗体中の重鎖の定常領域における特定のアミノ酸残基を位置選択的に修飾することができる。このような特定のアミノ酸残基としては、例えば、リジン残基、チロシン残基、セリン残基、およびスレオニン残基が挙げられる。例えば、ヒトIgG1等のヒトIgGでは、重鎖定常領域に存在する下記アミノ酸残基が抗体表面に露出し得るので、これらのアミノ酸残基を特定の切断性部位の導入に利用することができる(アミノ酸残基の位置はEU numberingによる;http://www.imgt.org/IMGTScientificChart/Numbering/Hu_IGHGnber.htmlを参照)。
(1)露出リジン残基
CH2ドメイン(例、246位、248位、274位、288位、290位、317位、320位、322位)
CH3ドメイン(例、360位、414位、439位)
(2)露出チロシン残基
CH2ドメイン(例、278位、296位、300位)
CH3ドメイン(例、436位)
(3)露出セリン残基
CH2ドメイン(例、254位、267位、298位)
CH3ドメイン(例、400位、415位、440位)
(4)露出スレオニン残基
CH2ドメイン(例、256位、289位)
CH3ドメイン(例、335位、359位)
【0030】
抗体中のアミノ酸残基の位置、および重鎖の定常領域の位置(例、CH2ドメイン)についてはEU numberingに従う(http://www.imgt.org/IMGTScientificChart/Numbering/Hu_IGHGnber.htmlを参照)。例えば、ヒトIgGを対象とする場合、246位のリジン残基は、ヒトIgG CH2領域の16番目のアミノ酸残基に相当し、248位のリジン残基は、ヒトIgG CH2領域の18番目のアミノ酸残基に相当し、288位のリジン残基は、ヒトIgG CH2領域の58番目のアミノ酸残基に相当し、290位のリジン残基は、ヒトIgG CH2領域の60番目のアミノ酸残基に相当し、317位のリジン残基は、ヒトIgG CH2領域の87番目のアミノ酸残基に相当する。246/248位の表記は、246または248位のリジン残基が対象であることを示す。288/290位の表記は、288または290位のリジン残基が対象であることを示す。
【0031】
好ましくは、位置選択的に修飾される重鎖の定常領域における特定のアミノ酸残基は、リジン残基(例、246/248位、または288/290位のリジン残基)を位置選択的に修飾することができる。本明細書において、「位置選択的」または「位置選択性」とは、抗体において特定のアミノ酸残基が特定の領域に偏在していないにもかかわらず、抗体中の特定のアミノ酸残基と結合できる所定の構造単位が、抗体中の特定の領域に偏在することをいう。したがって、「位置選択的に有する」、「位置選択的な結合」、「位置選
択性での結合」等の位置選択性に関連する表現は、1個以上の特定のアミノ酸残基を含む標的領域における所定の構造単位の保有率または結合率が、標的領域における当該特定のアミノ酸残基と同種である複数個のアミノ酸残基を含む非標的領域における当該構造単位の保有率または結合率よりも有意なレベルで高いことを意味する。このような位置選択性は、50%以上であり、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上、または100%であってもよい。本発明によれば、ペプチドを含有するリンカーを利用せずに、抗体中の重鎖における特定のリジン残基を位置選択的に修飾することができる。ペプチド部分は、潜在的な免疫原性を有し、また血中で加水分解され易い。したがって、ペプチド部分を含むリンカーの使用の回避は、臨床応用において望ましいものである。
【0032】
本発明では、重鎖の定常領域における特定のアミノ酸残基(例、特定の位置のリジン残基)が位置選択的に修飾されている限り、他の位置の特定のアミノ酸残基がさらに位置選択的に修飾されていてもよい。例えば、抗体における所定の位置の特定のアミノ酸残基を位置選択的に修飾する方法は、国際公開第2018/199337号、国際公開第2019/240288号、国際公開第2019/240287号、および国際公開第2020/090979号に記載されている。このような特定のアミノ酸残基としては、修飾し易い側鎖(例、アミノ基、カルボキシ基、アミド基、ヒドロキシ基、チオール基)を有するアミノ酸残基(例、リジン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、アスパラギン残基、グルタミン残基、スレオニン残基、セリン残基、チロシン残基、システイン残基)を利用できるが、好ましくは、アミノ基を含む側鎖を有するリジン残基、ヒドロキシ基を含む側鎖を有するチロシン残基、セリン残基、およびスレオニン残基、またはチオール基を含む側鎖を有するシステイン残基であり、より好ましくは、リジン残基であってもよい(すなわち、246/248位のリジン残基、288/290位のリジン残基、および317位のリジン残基のうちの、2つのリジン残基が位置選択的に二重修飾されていてもよく、3つのリジン残基が位置選択的に三重修飾されていてもよい)。
【0033】
(ハロゲン原子)
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0034】
(1価の基)
1価の基としては、例えば、1価の炭化水素基、および1価の複素環基が挙げられる。
【0035】
1価の基は、1個以上(例えば1~10個、好ましくは1~8個、より好ましくは1~6個、さらにより好ましくは1~5個、特に好ましくは1~3個)の後述する置換基により置換されていてもよい。
【0036】
(1価の炭化水素基、およびそれに関連する用語)
1価の炭化水素基としては、例えば、1価の鎖状炭化水素基、1価の脂環式炭化水素基、および1価の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0037】
1価の鎖状炭化水素基とは、鎖状構造のみで構成された炭化水素基を意味し、主鎖に環状構造を含まない。ただし、鎖状構造は直鎖状であっても分岐状であってもよい。1価の鎖状炭化水素基としては、例えば、アルキル、アルケニル、アルキニルが挙げられる。アルキル、アルケニル、およびアルキニルは、直鎖状、または分岐状のいずれであってもよい。
【0038】
アルキルとしては、炭素原子数1~12のアルキルが好ましく、炭素原子数1~6のア
ルキルがより好ましく、炭素原子数1~4のアルキルがさらに好ましい。アルキルが置換基を有する場合、上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。炭素原子数1~12のアルキルとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシルが挙げられる。
【0039】
アルケニルとしては、炭素原子数2~12のアルケニルが好ましく、炭素原子数2~6のアルケニルがより好ましく、炭素原子数2~4のアルケニルがさらに好ましい。アルケニルが置換基を有する場合、上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。炭素原子数2~12のアルケニルとしては、例えば、ビニル、プロペニル、n-ブテニルが挙げられる。
【0040】
アルキニルとしては、炭素原子数2~12のアルキニルが好ましく、炭素原子数2~6のアルキニルがより好ましく、炭素原子数2~4のアルキニルがさらに好ましい。アルキニルが置換基を有する場合、上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。炭素原子数2~12のアルキニルとしては、例えば、エチニル、プロピニル、n-ブチニルが挙げられる。
【0041】
1価の鎖状炭化水素基としては、アルキルが好ましい。
【0042】
1価の脂環式炭化水素基とは、環構造として脂環式炭化水素のみを含み、芳香族環を含まない炭化水素基を意味し、脂環式炭化水素は単環、多環のいずれであってもよい。ただし、脂環式炭化水素のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を含んでいてもよい。1価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニルが挙げられ、これらは、単環、多環のいずれであってもよい。
【0043】
シクロアルキルとしては、炭素原子数3~12のシクロアルキルが好ましく、炭素原子数3~6のシクロアルキルがより好ましく、炭素原子数5~6のシクロアルキルがさらに好ましい。シクロアルキルが置換基を有する場合、上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。炭素原子数3~12のシクロアルキルとしては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルが挙げられる。
【0044】
シクロアルケニルとしては、炭素原子数3~12のシクロアルケニルが好ましく、炭素原子数3~6のシクロアルケニルがより好ましく、炭素原子数5~6のシクロアルケニルがさらに好ましい。シクロアルケニルが置換基を有する場合、上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。炭素原子数3~12のシクロアルケニルとしては、例えば、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニルが挙げられる。
【0045】
シクロアルキニルとしては、炭素原子数3~12のシクロアルキニルが好ましく、炭素原子数3~6のシクロアルキニルがより好ましく、炭素原子数5~6のシクロアルキニルがさらに好ましい。シクロアルキニルが置換基を有する場合、上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。炭素原子数3~12のシクロアルキニルとしては、例えば、シクロプロピニル、シクロブチニル、シクロペンチニル、シクロヘキシニルが挙げられる。
【0046】
1価の脂環式炭化水素基としては、シクロアルキルが好ましい。
【0047】
1価の芳香族炭化水素基とは、芳香族環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香族環のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素を含んでいてもよく、芳香族環は単環、多環のいずれであってもよい。1価の芳香族炭化水素基としては、炭素原子数6~12のアリールが好ましく、炭素原子数6~10のアリールがよ
り好ましく、炭素原子数6のアリールがさらに好ましい。1価の芳香族炭化水素基が置換基を有する場合、上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。炭素原子数6~12のアリールとしては、例えば、フェニル、ナフチルが挙げられる。
【0048】
1価の芳香族炭化水素基としては、フェニルが好ましい。
【0049】
これらの中でも、1価の炭化水素基としては、アルキル、シクロアルキル、アリールが好ましい。
【0050】
(1価の複素環基およびそれに関連する用語)
1価の複素環基とは、複素環式化合物の複素環から水素原子1個を除いた基をいう。1価の複素環基は、1価の芳香族複素環基、または1価の非芳香族複素環基である。複素環基を構成するヘテロ原子として、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子、ホウ素原子及びケイ素原子からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましく、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子からなる群から選択される1種以上を含むことがより好ましい。
【0051】
1価の芳香族複素環基としては、炭素原子数1~15の芳香族複素環基が好ましく、炭素原子数1~9の芳香族複素環基がより好ましく、炭素原子数1~6の芳香族複素環基がさらに好ましい。1価の芳香族複素環基が置換基を有する場合、上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。1価の芳香族複素環基としては、例えば、ピロリル、フラニル、チオフェニル、ピリジニル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、トリアジニル、ピラゾリル、イミダゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、インドリル、プリニル、アントラキノリル、カルバゾニル、フルオレニル、キノリニル、イソキノリニル、キナゾリニル、及びフタラジニルが挙げられる。
【0052】
1価の非芳香族複素環基としては、炭素原子数2~15の非芳香族複素環基が好ましく、炭素原子数2~9の非芳香族複素環基がより好ましく、炭素原子数2~6の非芳香族複素環基がさらに好ましい。1価の非芳香族複素環基が置換基を有する場合、上記炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。1価の非芳香族複素環基としては、例えば、オキシラニル、アジリジニル、アゼチジニル、オキセタニル、チエタニル、ピロリジニル、ジヒドロフラニル、テトラヒドロフラニル、ジオキソラニル、テトラヒドロチオフェニル、ピロリニル、イミダゾリジニル、オキサゾリジニル、ピペリジニル、ジヒドロピラニル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロチオピラニル、モルホリニル、チオモルホリニル、ピペラジニル、ジヒドロオキサジニル、テトラヒドロオキサジニル、ジヒドロピリミジニル、及びテトラヒドロピリミジニルが挙げられる。
【0053】
これらの中でも、1価の複素環基としては、5員または6員の複素環基が好ましい。
【0054】
(2価の基)
2価の基は、2価の直鎖炭化水素基、2価の環状炭化水素基、2価の複素環基、-C(=O)-、-C(=S)-、-NR-、-C(=O)-NR-、-NR-C(=O)-、-C(=S)-NR-、-NR-C(=S)-、-O-、-S-、-(O-R-、および-(S-R-からなる群より選ばれる1個の基、またはこれらの2個以上(例えば2~10個、好ましくは2~8個、より好ましくは2~6個、さらにより好ましくは2~5個、特に好ましくは2または3個)の基を含む主鎖構造を有する基である。Rは、水素原子、または後述する置換基を示す。Rは、2価の直鎖炭化水素基、2価の環状炭化水素基、または2価の複素環基を示す。nおよびmは、それぞれ、1~10の整数であり、好ましくは1~8の整数であり、より好ましくは1~6の整数であり、さらにより好ましくは1~5の整数であり、特に好ましくは1~3の整数である。
【0055】
2価の直鎖炭化水素基は、直鎖アルキレン、直鎖アルケニレン、または直鎖アルキニレンである。
直鎖アルキレンは、炭素原子数1~6の直鎖アルキレンであり、炭素原子数1~4の直鎖アルキレンが好ましい。直鎖アルキレンとしては、例えば、メチレン、エチレン、n-プロピレン、n-ブチレン、n-ペンチレン、n-へキシレンが挙げられる。
直鎖アルケニレンは、炭素原子2~6の直鎖アルケニレンであり、炭素原子数2~4の直鎖アルケニレンが好ましい。直鎖アルケニレンとしては、例えば、エチレニレン、n-プロピニレン、n-ブテニレン、n-ペンテニレン、n-へキセニレンが挙げられる。
直鎖アルキニレンは、炭素原子数2~6の直鎖アルキニレンであり、炭素原子数2~4の直鎖アルキニレンが好ましい。直鎖アルキニレンとしては、例えば、エチニレン、n-プロピニレン、n-ブチニレン、n-ペンチニレン、n-へキシニレンが挙げられる。
2価の直鎖炭化水素基としては、直鎖アルキレンが好ましい。
【0056】
2価の環状炭化水素基は、アリーレン、または2価の非芳香族環状炭化水素基である。
アリーレンとしては、炭素原子数6~14のアリーレンが好ましく、炭素原子数6~10のアリーレンがより好ましく、炭素原子数6のアリーレンが特に好ましい。アリーレンとしては、例えば、フェニレン、ナフチレン、アントラセニレンが挙げられる。
2価の非芳香族環状炭化水素基としては、炭素原子数3~12の単環式または多環式である2価の非芳香族環状炭化水素基が好ましく、炭素原子数4~10の単環式または多環式である2価の非芳香族環状炭化水素基がより好ましく、炭素原子数5~8の単環式である2価の非芳香族環状炭化水素基が特に好ましい。2価の非芳香族環状炭化水素基としては、例えば、シクロプロピレン、シクロブチレン、シクロペンチレン、シクロへキシレン、シクロへプチレン、シクロオクチレンが挙げられる。
2価の環状炭化水素基としては、アリーレンが好ましい。
【0057】
2価の複素環基は、2価の芳香族複素環基、または2価の非芳香族複素環基である。複素環を構成するヘテロ原子として、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子、ホウ素原子およびケイ素原子からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましく、酸素原子、硫黄原子および窒素原子からなる群から選択される1種以上を含むことがより好ましい。
2価の芳香族複素環基としては、炭素原子数3~15の2価の芳香族複素環基が好ましく、炭素原子数3~9の2価の芳香族複素環基がより好ましく、炭素原子数3~6の2価の芳香族複素環基が特に好ましい。2価の芳香族複素環基としては、例えば、ピロールジイル、フランジイル、チオフェンジイル、ピリジンジイル、ピリダジンジイル、ピリミジンジイル、ピラジンジイル、トリアジンジイル、ピラゾールジイル、イミダゾールジイル、チアゾールジイル、イソチアゾールジイル、オキサゾールジイル、イソオキサゾールジイル、トリアゾールジイル、テトラゾールジイル、インドールジイル、プリンジイル、アントラキノンジイル、カルバゾールジイル、フルオレンジイル、キノリンジイル、イソキノリンジイル、キナゾリンジイル、およびフタラジンジイルが挙げられる。
2価の非芳香族複素環基としては、炭素原子数3~15の非芳香族複素環基が好ましく、炭素原子数3~9の非芳香族複素環基がより好ましく、炭素原子数3~6の非芳香族複素環基が特に好ましい。2価の非芳香族複素環基としては、例えば、ピロールジオンジイル、ピロリンジオンジイル、オキシランジイル、アジリジンジイル、アゼチジンジイル、オキセタンジイル、チエタンジイル、ピロリジンジイル、ジヒドロフランジイル、テトラヒドロフランジイル、ジオキソランジイル、テトラヒドロチオフェンジイル、ピロリンジイル、イミダゾリジンジイル、オキサゾリジンジイル、ピペリジンジイル、ジヒドロピランジイル、テトラヒドロピランジイル、テトラヒドロチオピランジイル、モルホリンジイル、チオモルホリンジイル、ピペラジンジイル、ジヒドロオキサジンジイル、テトラヒドロオキサジンジイル、ジヒドロピリミジンジイル、およびテトラヒドロピリミジンジイル
が挙げられる。
2価の複素環基としては、2価の芳香族複素環基が好ましい。
【0058】
好ましくは、2価の基は、アルキレン、アリーレン、-C(=O)-、-NR-、-C(=O)-NR-、-NR-C(=O)-、-O-、および-(O-R-からなる群より選ばれる1個の基を含む主鎖構造を有する2価の基であるか、または、
アルキレン、アリーレン、-C(=O)-、-NR-、-C(=O)-NR-、-NR-C(=O)-、-O-、および-(O-R-からなる群より選ばれる2個以上の基を含む主鎖構造を有する2価の基であり、
が、水素原子またはアルキルであり、
が、アルキレンまたはアリーレンであり、
nが、1~5の整数(すなわち、1、2、3、4、または5)であってもよい。
アルキレン、アリーレン、アルキルは、上述したものと同様である。
【0059】
2価の基における主鎖構造は、1個以上(例えば1~10個、好ましくは1~8個、より好ましくは1~6個、さらにより好ましくは1~5個、特に好ましくは1~3個)の後述する置換基により置換されていてもよい。
【0060】
(置換基)
置換基としては、以下が挙げられる:
(i)ハロゲン原子;
(ii)1価の炭化水素基;
(iii)1価の複素環基;
(iv)アラルキル;
(v)R-O-、R-C(=O)-、R-O-C(=O)-、もしくはR-C(=O)-O-(Rは、水素原子、もしくは1価の炭化水素基を示す。);または
(vi)NR-、NR-C(=O)-、NR-C(=O)-O-、もしくはR-C(=O)-NR-(RおよびRは、同一もしくは異なって、水素原子、もしくは1価の炭化水素基を示す。);
(vii)ニトロ基、硫酸基、スルホン酸基、シアノ基、およびカルボキシル基。
【0061】
上記置換基におけるハロゲン原子、1価の炭化水素基、および1価の複素環基の定義、例、および好ましい例は、それぞれ、上述したものと同様である。
【0062】
アラルキルとは、アリールアルキルをいう。アリールアルキルにおけるアリールおよびアルキルの定義、例および好ましい例は、上述したとおりである。アラルキルとしては、炭素原子数3~15のアラルキルが好ましい。このようなアラルキルとしては、例えば、ベンゾイル、フェネチル、ナフチルメチル、ナフチルエチルが挙げられる。
【0063】
好ましくは、置換基は、以下であってもよい:
(i)ハロゲン原子;
(ii)炭素原子数1~12のアルキル、フェニル、もしくはナフチル;
(iii)炭素原子数3~15のアラルキル;
(iv)5員または6員の複素環;
(v)R-O-、R-C(=O)-、R-O-C(=O)-、もしくはR-C(=O)-O-(Rは、水素原子、もしくは炭素原子数1~12のアルキルを示す。);(vi)NR-、NR-C(=O)-、NR-C(=O)-O-、もしくはR-C(=O)-NR-(RおよびRは、同一もしくは異なって、水素原子、もしくは炭素原子数1~12のアルキルを示す。);または
(vii)上記(vii)で列挙したものと同じ基。
【0064】
より好ましくは、置換基は、以下であってもよい:
(i)ハロゲン原子;
(ii)炭素原子数1~12のアルキル;
(iii)R-O-、R-C(=O)-、R-O-C(=O)-、もしくはR-C(=O)-O-(Rは、水素原子、もしくは炭素原子数1~12のアルキルを示す。);
(iv)NR-、NR-C(=O)-、NR-C(=O)-O-、もしくはR-C(=O)-NR-(RおよびRは、同一もしくは異なって、水素原子、もしくは炭素原子数1~12のアルキルを示す。);または
(v)上記(vii)で列挙したものと同じ基。
【0065】
さらにより好ましくは、置換基は、以下であってもよい:
(i)ハロゲン原子;
(ii)炭素原子数1~6のアルキル;
(iii)R-O-、R-C(=O)-、R-O-C(=O)-、もしくはR-C(=O)-O-(Rは、水素原子、もしくは炭素原子数1~6のアルキルを示す。);
(iv)NR-、NR-C(=O)-、NR-C(=O)-O-、もしくはR-C(=O)-NR-(RおよびRは、同一もしくは異なって、水素原子、もしくは炭素原子数1~6のアルキルを示す。);または
(v)上記(vii)で列挙したものと同じ基。
【0066】
特に好ましくは、置換基は、以下であってもよい:
(i)ハロゲン原子;
(ii)炭素原子数1~4のアルキル;
(iii)R-O-、R-C(=O)-、R-O-C(=O)-、もしくはR-C(=O)-O-(Rは、水素原子、もしくは炭素原子数1~4のアルキルを示す。);
(iv)NR-、NR-C(=O)-、NR-C(=O)-O-、もしくはR-C(=O)-NR-(RおよびRは、同一もしくは異なって、水素原子、もしくは炭素原子数1~4のアルキルを示す。);または
(v)上記(vii)で列挙したものと同じ基。
【0067】
(抗体に対する親和性物質)
抗体に対する親和性物質は、抗体に対する親和性を有する限り特に限定されない。抗体に対する親和性物質としては、抗体のFc領域(CH2領域およびCH3領域、好ましくはCH2領域)に対する親和性を有するものが好ましい。抗体に対する親和性物質としては、例えば、国際公開第2016/186206号、国際公開第/2018/199337号、国際公開第2019240288号、国際公開第2019/240287号、および国際公開第2020/090979号、ならびにこれらの国際公開公報中で引用されている文献中に開示される種々の親和性物質を用いることができる。
【0068】
好ましくは、抗体に対する親和性物質は、上述の領域に対する親和性を有する親和性ペプチドであってもよい。より好ましくは、このような親和性ペプチドは、1個のリジン残基および2個のシステイン残基(2個のシステイン残基の側鎖中のチオール基は、ジスルフィド結合により、またはリンカーを介して連結されていてもよい。)を含んでいてもよい。この場合、例えば、式(2)で表される化合物またはその塩において、Yで表される抗体に対する親和性物質は、上記リジン残基の側鎖中のアミノ基が、Yと隣接するカルボニル基(C=O)と一緒になってアミド結合を形成していてもよい。
【0069】
より具体的には、抗体に対する親和性物質は、抗体の重鎖における定常領域に対する親和性を有し、かつ1つのリジン残基(このリジン残基の側鎖中のアミノ基が、化合物との架橋に利用される)を有する親和性ペプチドであってもよい。このような親和性ペプチドとしては、以下のような既報の多数のペプチドを利用することができる:
(1)国際公開第2018/199337号の配列番号39~72のアミノ酸配列を含む親和性ペプチド;
(2)国際公開第2019/240288号の配列番号5、6、37~100のアミノ酸配列を含む親和性ペプチド;
(3)国際公開第2019/240287号の配列番号5、8~57、68~92のアミノ酸配列を含む親和性ペプチド;
(4)QETをN末端に有する親和性ペプチド(国際公開第2020/090979号の配列番号7~10、22~25、52、53);および
(5)後述の実施例に開示される親和性ペプチド(配列番号1~4)。
【0070】
上記親和性ペプチドの各アミノ酸配列中の離間した少なくとも2つのシステイン残基は、ジスルフィド結合により環状ペプチドを形成することができる。あるいは、上記ペプチドにおいて、2つのシステイン残基中のチオール基は、以下で表されるカルボニル基含有リンカーにより連結されていてもよい。
【0071】
【化1】
【0072】
上記で表されるカルボニル基含有リンカーの破線部分は、チオール基との結合部分を意味する。当該リンカーは、通常のジスルフィド結合よりも、還元反応等に対して安定である。このようなペプチドは、例えば、国際公開第2016/186206号に記載される方法により、調製することができる。
【0073】
上記親和性ペプチドを構成するアミノ酸はL体またはD体のいずれであってもよいが、L体が好ましい(実施例ではペプチドを構成するアミノ酸残基は全てL体である)。上記親和性ペプチドは、架橋剤により特定のアミノ酸残基が修飾されて、目的の化合物またはその塩と連結されていてもよい。このような特定のアミノ酸残基としては、例えば、リジン残基、アスパラギン酸残基、およびグルタミン酸残基が挙げられるが、好ましくは、リジン残基である。特定のアミノ酸残基がリジン残基である場合、リジン残基の側鎖中のアミノ基が、目的化合物の標的カルボニル基と連結されて、アミド結合を形成することができる。架橋剤としては、例えば、DSG(disuccinimidyl glutarate、ジスクシンイミジルグルタレート)、DSS(disuccinimidyl suberate、ジスクシンイミジルスベレート)等のスクシンイミジル基を好ましくは2以上含む架橋剤、DMA(dimethyl adipimidate・2HCl、アジプイミド酸ジメチル二塩酸塩)、DMP(dimethyl pimelimidate・2 HCl、ピメルイミド酸ジメチル二塩酸塩)、及びDMS(dimethyl
suberimidate・2 HCl、スベルイミド酸ジメチル二塩酸塩)等のイミド酸部分を好ましくは2以上含む架橋剤、並びにDTBP(dimethyl 3,3’-dithiobispropionimidate・2HCl、3,3’-ジチオビスプロピオンイミド酸ジメチル二塩酸塩)及びDSP(dithiobis(succinimidyl propionate)、ジチオビススクシンイミジルプロピオン酸)等のSS結合を有する架橋剤が挙げられる(例、国際公開第2016/186206号)。
【0074】
上記親和性ペプチドは、末端にあるアミノ基およびカルボキシ基が保護されていてもよい。N-末端アミノ基の保護基としては、例えば、アルキルカルボニル基(アシル基)(例、アセチル基、プロポキシ基、tert-ブトキシカルボニル基等のブトキシカルボニル基)、アルキルオキシカルボニル基(例、フルオレニルメトキシカルボニル基)、アリールオキシカルボニル基、アリールアルキル(アラルキル)オキシカルボニル基(例、ベンジルオキシカルボニル基)が挙げられる。N-末端アミノ基の保護基としては、アセチル基が好ましい。N-末端アミノ酸がグルタミン酸である場合、保護されたN-末端のグルタミン酸は、ピログルタミン酸の環状構造を有していてもよい。また、N-末端アミノ酸がグルタミンである場合、保護されたN-末端のグルタミンは、ピログルタミン酸型の環状構造を有していてもよい。C-末端カルボキシ基の保護基としては、例えば、エステルまたはアミドを形成可能な基が挙げられる。エステルまたはアミドを形成可能な基としては、例えば、アルキルオキシ基(例、メチルオキシ、エチルオキシ、プロピルオキシ、ブチルオキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ)、アリールオキシ基(例、フェニルオキシ、ナフチルオキシ)、アラルキルオキシ基(例、ベンジルオキシ)、アミノ基が挙げられる。C-末端カルボキシ基の保護基としては、アミノ基が好ましい。
【0075】
(生体直交性官能基)
生体直交性官能基は、生体構成成分(例、アミノ酸、タンパク質、核酸、脂質、糖、リン酸)とは反応しない、もしくは生体構成成分に対する反応の速度が遅いが、生体構成成分以外の成分に対して選択的に反応する基をいう。生体直交性官能基は、当該技術分野において周知である(例、Sharpless K.B.et al.,Angew.Chem.Int.Ed.40,2004(2015);Bertozzi C.R.et al.,Science 291,2357(2001);Bertozzi C.R.et al.,Nature Chemical Biology 1,13(2005)を参照)。
【0076】
本発明では、生体直交性官能基として、タンパク質に対する生体直交性官能基が用いられる。本発明の試薬により誘導体化されるべき抗体は、タンパク質であるためである。タンパク質に対する生体直交性官能基は、タンパク質を構成する天然の20種のアミノ酸残基の側鎖と反応しない、もしくは当該側鎖に対する反応の速度が遅いが、目的の官能基と反応する基である。タンパク質を構成する天然の20種のアミノ酸は、アラニン(A)、アスパラギン(N)、システイン(C)、グルタミン(Q)、グリシン(G)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、プロリン(P)、セリン(S)、スレオニン(T)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、バリン(V)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)、およびリジン(L)である。これらの天然の20種のアミノ酸のうち、側鎖がない(すなわち、水素原子である)グリシン、ならびに側鎖が炭化水素基である(すなわち、硫黄原子、窒素原子、および酸素原子からなる群より選ばれるヘテロ原子を側鎖に含まない)アラニン、イソロイシン、ロイシン、フェニルアラニン、およびバリンは、通常の反応に対して不活性である。したがって、タンパク質に対する生体直交性官能基は、通常の反応に対して不活性である側鎖を有するこれらのアミノ酸の側鎖に加えて、アスパラギン、グルタミン、メチオニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、ヒスチジン、およびリジンの側鎖に対して反応しない、または反応の速度が遅いが、目的の官能基と反応する基である。
【0077】
このような生体直交性官能基としては、例えば、アジド残基、アルデヒド残基、チオール残基、アルケン残基(換言すれば、炭素原子間二重結合を有する最小単位であるビニレン(エテニレン)部分を有していればよい。以下同様)、アルキン残基(換言すれば、炭素原子間三重結合を有する最小単位であるエチニレン部分を有していればよい。以下同様)、ハロゲン残基、テトラジン残基、ニトロン残基、ヒドロキシルアミン残基、ニトリル
残基、ヒドラジン残基、ケトン残基、ボロン酸残基、シアノベンゾチアゾール残基、アリル残基、ホスフィン残基、マレイミド残基、ジスルフィド残基、チオエステル残基、α―ハロカルボニル残基(例、α位にフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を有するカルボニル残基。以下同様)、イソニトリル残基、シドノン残基、セレン残基が挙げられる。
【0078】
生体直交性官能基は、保護されていても、保護されていなくてもよい。生体直交性官能基とは、未保護の生体直交性官能基、または保護された生体直交性官能基をいう。未保護の生体直交性官能基は、上述の生体直交性官能基に該当する。保護された生体直交性官能基は、保護基の切断により生体直交性官能基を生成する基である。保護基の切断は、タンパク質の変性・分解(例、アミド結合の切断)を引き起こし得ない条件(温和な条件)下での特定の処理により行うことができる。このような特定の処理としては、例えば、(a)酸性物質、塩基性物質、還元剤、酸化剤、酵素からなる群より選ばれる1種以上の物質による処理、(b)光からなる群より選ばれる物理化学的刺激による処理、または(c)自己分解性の切断性部分を含む切断性リンカーを用いた場合の放置が挙げられる。このような保護基およびその切断条件は、当該分野における技術常識である(例、G.Leriche,L. Chisholm,A.Wagner,Bioorganic & Medicinal Chemistry.20,571(2012);Feng P. et al.,Jounal of American Chemical Society.132,1500(2010).;Bessodes M. et al.,Journal of Controlled Release, 99,423(2004).;DeSimone,J.M.,Journal of American Chemical Society.132,17928(2010);Thompson,D.H.,Journal of Controlled Release,91,187(2003);Schoenmarks,R.G.,Journal of Controlled Release,95,291(2004))。
【0079】
保護された生体直交性官能基としては、例えば、ジスルフィド残基、エステル残基、アセタール残基、ケタール残基、イミン残基、ビシナルジオール残基が挙げられる。
【0080】
好ましくは、生体直交性官能基は、未保護の生体直交性官能基である。
【0081】
より好ましくは、生体直交性官能基は、他の生体直交性官能基との反応性(例、反応レベルおよび/または反応特異性)に優れる特定の生体直交性官能基であってもよい。このような生体直交性官能基としては、アジド残基、アルキン残基(好ましくは、上述したような置換基により置換されていてもよい、炭素原子間3重結合を有する環基)、テトラジン残基、アルケン残基、チオール残基、マレイミド残基、フラン残基、およびハロカルボニル残基が挙げられる。互いに反応可能な2つの生体直交性官能基の組み合わせは、例えば、アジド残基とアルキン残基の組み合わせ、テトラジン残基とアルケン残基の組み合わせ、テトラジン残基とアルキン残基の組み合わせ、チオール残基とマレイミド残基の組み合わせ、フラン残基とマレイミド残基の組み合わせ、チオール残基とハロカルボニル残基の組み合わせ(置換反応により、ハロゲンがチオールに置換される)、チオール残基と別のチオール残基の組み合わせ(ジスルフィド結合の生成)が挙げられる。さらにより好ましくは、生体直交性官能基は、チオール基、またはアジド基であってもよい。
【0082】
(機能性物質)
機能性物質は、抗体に任意の機能を付与する物質である限り特に限定されず、例えば、薬物、標識物質、安定化剤が挙げられるが、好ましくは薬物または標識物質である。機能性物質はまた、単一の機能性物質であってもよく、または2以上の機能性物質が連結された物質であってもよい。
【0083】
薬物としては、任意の疾患に対する薬物であってもよい。このような疾患としては、例えば、癌(例、肺癌、胃癌、大腸癌、膵臓癌、腎臓癌、肝臓癌、甲状腺癌、前立腺癌、膀胱癌、卵巣癌、子宮癌、骨癌、皮膚癌、脳腫瘍、黒色腫)、自己免疫疾患・炎症性疾患(例、アレルギー疾患、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス)、脳神経疾患(例、脳梗塞、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症)、感染症(例、細菌感染症、ウイルス感染症)、遺伝性・希少疾患(例、遺伝性球状赤血球症、非ジストロフィー筋緊張症)、眼疾患(例、加齢黄斑変性症、糖尿病網膜症、網膜色素変性症)、骨・整形外科領域の疾患(例、変形性関節症)、血液疾患(例、白血病、紫斑病)、その他の疾患(例、糖尿病、高脂血症等の代謝異常症、肝臓疾患、腎疾患、肺疾患、循環器系疾患、消化器官系疾患)が挙げられる。薬物は、疾患の予防または治療薬、副作用の緩和薬であってもよい。
【0084】
より具体的には、薬物は、抗癌剤であってもよい。抗癌剤としては、例えば、化学療法剤、毒素、放射性同位体またはそれを含む物質が挙げられる。化学療法剤としては、例えば、DNA損傷剤、代謝拮抗薬、酵素阻害剤、DNAインターカレート剤、DNA切断剤、トポイソメラーゼ阻害剤、DNA結合阻害剤、チューブリン結合阻害剤、細胞傷害性ヌクレオシド、白金化合物が挙げられる。毒素としては、例えば、細菌毒素(例、ジフテリア毒素)、植物毒素(例、リシン)が挙げられる。放射性同位体としては、例えば、水素原子の放射性同位体(例、H)、炭素原子の放射性同位体(例、14C)、リン原子の放射性同位体(例、32P)、硫黄原子の放射性同位体(例、35)、イットリウムの放射性同位体(例、90Y)、テクネチウムの放射性同位体(例、99mTc)、インジウムの放射性同位体(例、111In)、ヨウ素原子の放射性同位体(例、123I、125I、129I、131I)、サマリウムの放射性同位体(例、153Sm)、レニウムの放射性同位体(例、186Re)、アスタチンの放射性同位体(例、211At)、ビスマスの放射性同位体(例、212Bi)が挙げられる。更に具体的には、薬物として、オーリスタチン(MMAE、MMAF)、メイタンシン(DM1、DM4)、PBD(ピロロベンゾジアゼピン)、IGN、カンプトテシン類縁体、カリケアミシン、デュオカルミシン、エリブリン、アントラサイクリン、dmDNA31、ツブリシンが挙げられる。
【0085】
標識物質は、標的(例、組織、細胞、物質)の検出を可能にする物質である。標識物質としては、例えば、酵素(例、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ)、親和性物質(例、ストレプトアビジン、ビオチン、ジゴキシゲニン、アプタマー)、蛍光物質(例、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質)、発光物質(例、ルシフェリン、エクオリン、アクリジニウムエステル、トリス(2,2’-ビピリジル)ルテニウム、ルミノール)、放射性同位体(例、上述したもの)、またはそれを含む物質が挙げられる。
【0086】
安定化剤は、抗体の安定化を可能にする物質である。安定化剤としては、例えば、ジオール類、グリセリン、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、天然系界面活性剤、サッカリド、およびポリオール類が挙げられる。
【0087】
機能性物質はまた、ペプチド、タンパク質、核酸、有機化合物、無機化合物、糖鎖、脂質、高分子ポリマー、金属(例、金)、キレーターであってもよい。ペプチドとしては、例えば、細胞膜透過ペプチド、血液脳関門透過性ペプチド、ペプチド医薬品が挙げられる。タンパク質としては、例えば、酵素、サイトカイン、フラグメント抗体、レクチン、インターフェロン、血清アルブミン、抗体、フェリチンが挙げられる。核酸としては、例えば、DNA、RNA、人工核酸が挙げられる。核酸としてはまた、例えば、RNA干渉誘
導性核酸(例、siRNA)、アプタマー、アンチセンスが挙げられる。有機化合物としては、例えば、タンパク質分解誘導キメラ分子、色素、光分解性化合物等の低分子有機化合物が挙げられる。無機化合物としては、例えば、シリカ、タルク、アルミナが挙げられる。
【0088】
(塩)
本発明において、用語「塩」としては、例えば、無機酸との塩、有機酸との塩、無機塩基との塩、有機塩基との塩、およびアミノ酸との塩が挙げられる。無機酸との塩としては、例えば、塩化水素、臭化水素、リン酸、硫酸、硝酸との塩が挙げられる。有機酸との塩としては、例えば、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、シュウ酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸との塩が挙げられる。無機塩基との塩としては、例えば、アルカリ金属(例、ナトリウム、カリウム)、アルカリ土類金属(例、カルシウム、マグネシウム)、および亜鉛、アルミニウム等の他の金属、ならびにアンモニウムとの塩が挙げられる。有機塩基との塩としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、プロピレンジアミン、エチレンジアミン、ピリジン、エタノールアミン、モノアルキルエタノールアミン、ジアルキルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンとの塩が挙げられる。アミノ酸との塩としては、例えば、塩基性アミノ酸(例、アルギニン、ヒスチジン、リジン、オルニチン)、および酸性アミノ酸(例、アスパラギン酸、グルタミン酸)との塩が挙げられる。塩は、好ましくは、無機酸(例、塩化水素)との塩、または有機酸(例、トリフルオロ酢酸)との塩である。
【0089】
2.化合物またはその塩
2-1.抗体の誘導体化試薬として使用することができる化合物またはその塩の合成中間体
本発明は、下記式(1)で表される化合物またはその塩を提供する。
【化2】
〔式中、
Fは、フッ素原子を示し、
Oは、酸素原子を示し、
Wは、酸素原子または硫黄原子を示し、
は、第1リンカーを示し、
は、生体直交性官能基またはそれを含む基を有していてもよい第2リンカーを示し、
またはLのいずれか一方は、C=W中の炭素原子に対する隣接原子として、硫黄原子、酸素原子または窒素原子を有し、
Xは、脱離基を示す。〕
【0090】
本発明に関連して提示される式(1)および他の式において、-(ハイフン)は、その両側に存在する2つの単位が共有結合していることを示す。したがって、式(1)では、Xは、カルボニル基を構成する炭素原子と共有結合しており、Lは、カルボニル基を構
成する炭素原子、およびC=Wを構成する炭素原子と共有結合しており、Lは、C=Wを構成する炭素原子、およびカルボニル基を構成する炭素原子と共有結合している。
【0091】
Xにより示される脱離基は、Xに隣接するカルボニル基の炭素原子とアミノ基との間の反応により脱離できる基である。当業者であれば、このような脱離基を適宜設定することができる。このような脱離基としては、例えば、以下が挙げられる:
(a)R-S(ここで、Rは、水素原子、置換基を有していてもよい1価の炭化水素基、または置換基を有していてもよい1価の複素環基を示し、Sは、硫黄原子を示す。);
(b)R-O(ここで、Rは、水素原子、置換基を有していてもよい1価の炭化水素基、または置換基を有していてもよい1価の複素環基を示し、Oは、酸素原子を示す。);
(c)R-(R-)N(ここで、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい1価の炭化水素基、または置換基を有していてもよい1価の複素環基を示し、Nは、窒素原子を示す。);または
(d)ハロゲン原子。
【0092】
好ましくは、Xにより示される脱離基は、下記であってもよい:
(a)R-S(ここで、Rは、水素原子、置換基を有していてもよい1価の炭化水素基、または置換基を有していてもよい1価の複素環基を示し、Sは、硫黄原子を示す。);
(b)R-O(ここで、Rは、水素原子、置換基を有していてもよい1価の炭化水素基、または置換基を有していてもよい1価の複素環基を示し、Oは、酸素原子を示す。);または
(c)R-(R-)N(ここで、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい1価の炭化水素基、または置換基を有していてもよい1価の複素環基を示す。)。
【0093】
より好ましくは、Xにより示される脱離基は、下記であってもよい:
(a)R-S(ここで、Rは、水素原子、置換基を有していてもよい1価の炭化水素基、または置換基を有していてもよい1価の複素環基を示し、Sは、硫黄原子を示す。);または
(b)R-O(ここで、Rは、水素原子、置換基を有していてもよい1価の炭化水素基、または置換基を有していてもよい1価の複素環基を示し、Oは、酸素原子を示す。)。
【0094】
さらにより好ましくは、Xにより示される脱離基は、下記であってもよい:
(a)R-S(ここで、Rは、置換基を有していてもよい1価の芳香族炭化水素基、または置換基を有していてもよい1価の芳香族複素環基を示し、Sは、硫黄原子を示す。)。
【0095】
特に好ましくは、Xにより示される脱離基は、下記であってもよい:
(a’)R-S(ここで、Rは、置換基を有していてもよい1価の芳香族炭化水素基(例、フェニル)を示し、Sは、硫黄原子を示す。)。
【0096】
Wは、酸素原子または硫黄原子を示し、酸素原子が好ましい。
【0097】
およびLによりそれぞれ示される第1リンカーおよび第2リンカーは、式(1)の化学構造から理解されるように、それらに隣接する原子を連結できればよい2価の基である。2価の基は、置換基で置換されていてもよく、または置換基で置換されていなくてもよい。置換基の定義、例、および好ましい例は、上述したとおりである。第2リンカーについての2価の基は、生体直交性官能基またはそれを含む基をさらに有していてもよい。生体直交性官能基の定義、例、および好ましい例は、上述したとおりである。LまたはLのいずれか一方は、C=W中の炭素原子に隣接する原子として、硫黄原子、酸素原子または窒素原子を有するものであり、硫黄原子、または酸素原子を有することが好まし
く、硫黄原子を有することがより好ましい。
【0098】
特定の実施形態では、第1リンカーにおける主鎖(Lに隣接するカルボニル基中の炭素原子とC=W中の炭素原子とを連結する主鎖)を構成する原子数、および第2リンカーにおける主鎖(Lに隣接するC=W中の炭素原子とカルボニル基中の炭素原子とを連結する主鎖)を構成する原子数の合計は、2~5個であってもよい。このような原子数を有する第1リンカーおよび第2リンカーの使用により、イムノグロブリン単位中の重鎖のリジン残基を所定の基(例、親和性物質含有基)で位置選択的に修飾でき、しかも抗体と親和性ペプチド含有基との結合の平均比率を特定の範囲(例えば0.5~3.5、好ましくは1.0~3.0、より好ましくは1.5~2.5)に制御することが容易になる。本発明では、抗体と所定の基(例、親和性物質含有基)との結合の平均比率は、MS分析データをDAR calculator(Agilent社ソフト)により解析することで確認することができる。
【0099】
第1リンカーにおける主鎖を構成する原子数、および第2リンカーにおける主鎖を構成する原子数の合計が好ましくは2~5個であることに照らすと、第1リンカーにおける主鎖を構成する原子数は1~4個であり、第2リンカーにおける主鎖を構成する原子数は1~4個である。例えば、第1リンカーにおける主鎖を構成する原子数、および第2リンカーにおける主鎖を構成する原子数の一方が1個である場合、他方は1~4個であり、一方が2個である場合、他方は1~3個であり、一方が3個である場合、他方は1または2個であり、一方が4個である場合、他方は1個である。好ましくは、第1リンカーにおける主鎖を構成する原子数が2個であり、第2リンカーにおける主鎖を構成する原子数が3個であってもよい。
【0100】
第1リンカーおよび第2リンカーにおける主鎖は、鎖状構造、もしくは環状構造、またはこれらの組合せを含む構造から構成される。主鎖が環状構造を含まない鎖状構造である場合、主鎖の原子数は、鎖状構造中の原子数を数えることにより決定することができる。一方、主鎖が環状構造を含む構造である場合、環状構造を構成する所定の原子数を、主鎖の原子数として数えることにより決定することができる。具体的には、環状構造における主鎖の原子数は、環状構造中の2つの結合手を連絡する最短経路の原子数を数えることにより決定することができる(例えば、以下(a)~(d)の太字経路を参照)。主鎖が、鎖状構造および環状構造の組合せを含む構造である場合、主鎖の原子数は、環状構造を含まない鎖状構造中の原子数を、環状構造中の2つの結合手を連絡する最短経路の原子数と合算することにより決定することができる。
【化3】
・は、結合手である。
(a)の場合、最短経路は太字経路であるため、主鎖の原子数として数えられる2価の環状構造中の原子数は、2である。
(b)の場合、最短経路は太字経路であるため、主鎖の原子数として数えられる2価の環状構造中の原子数は、3である。
(c)の場合、いずれの経路も最短経路(等距離)であるため、主鎖の原子数として数えられる2価の環状構造中の原子数は、4である。
(d)の場合、縮合部位の経路が最短経路であるため、主鎖の原子数として数えられる2価の環状構造中の原子数は、4である。
【0101】
第1リンカーおよび第2リンカーにおける主鎖は、炭素原子、窒素原子、酸素原子および硫黄原子、ならびにそれらの組み合わせからなる群より選ばれる原子により構成されていてもよく、好ましくは、炭素原子のみ、または炭素原子と硫黄原子との組み合わせから構成されていてもよい。より好ましくは、第1リンカーおよび第2リンカーにおける主鎖は、2価の直鎖炭化水素基(好ましくはアルキレン)、2価の環状炭化水素基、2価の複素環基、硫黄原子、またはこれらの2以上(例、2または3)の組み合わせからなる基から構成されるものであってもよい。
【0102】
特定の実施形態では、Lは、S-L’(ここで、L’は、カルボニル基中の炭素原子に連結されている2価の基であり、かつSは、C=W中の炭素原子に連結されている硫黄原子である)であってもよい。L’で示される2価の基は、置換基で置換されていてもよく、または置換基で置換されていなくてもよい。L’で示される2価の基の主鎖(L’に隣接するカルボニル基中の炭素原子と硫黄原子とを連結する主鎖)は、アルキレンであることが好ましい。L’で示される2価の基の主鎖を構成する原子数は1~4個であり、好ましくは1~3個であり、より好ましくは2個であってもよい。このような場合、Lで示される2価の基は、アルキレンであることが好ましい。Lで示される2価の基の主鎖を構成する原子数は1~4個であり、好ましくは2または3個であり、より好ましくは2個であってもよい。
【0103】
上記特定の実施形態では、式(1)で表される化合物またはその塩は、下記式(1a)で表されることができる。
【化4】
〔式中、
Fは、フッ素原子を示し、
Oは、酸素原子を示し、
Wは、酸素原子または硫黄原子を示し、
およびL’は、それぞれ独立して、置換されていてもよい2価の基を示し、
Sは、硫黄原子を示し、
Xは、脱離基を示す。〕。
式(1a)における各要素(例、W、L、L’、およびX)の定義、例および好ましい例等の詳細は、式(1)で説明したものと同様である。
【0104】
別の特定の実施形態では、Lは、L’-S(ここで、L’は、カルボニル基中の炭素原子に連結されている2価の基であり、かつSは、C=W中の炭素原子に連結されている硫黄原子である)であってもよい。L’で示される2価の基は、置換基で置換されていてもよく、または置換基で置換されていなくてもよい。L’で示される2価の基の主鎖(L’に隣接するカルボニル基中の炭素原子と硫黄原子とを連結する主鎖)は、アルキレンであることが好ましい。L’で示される2価の基の主鎖を構成する原子数は1~3個であり、好ましくは1または2個であり、より好ましくは1個であってもよい。好ましくは、L’で示される2価の基は、メチレンであってもよい。このような場合、L
で示される2価の基は、アルキレンであることが好ましい。Lで示される2価の基の主鎖を構成する原子数は1~4個であり、好ましくは2~4個であり、より好ましくは3個であってもよい。
【0105】
上記別の特定の実施形態では、式(1)で表される化合物またはその塩は、下記式(1b)で表されることができる。
【化5】
〔式中、
Fは、フッ素原子を示し、
Oは、酸素原子を示し、
Wは、酸素原子または硫黄原子を示し、
’は、置換されていてもよい2価の基を示し、
は、生体直交性官能基またはそれを含む基を有する置換されていてもよい2価の基を示し、
Sは、硫黄原子を示し、
Xは、脱離基を示す。〕
式(1b)における各要素(例、W、L’、L、およびX)の定義、例および好ましい例等の詳細は、式(1)で説明したものと同様である。
【0106】
好ましくは、式(1b)におけるLは、C(-B)(-R)-L’(ここで、L’は、置換されていてもよい炭素原子数2~5個のアルキレンであり、Bは、生体直交性官能基であり、Rは、置換基である)であってもよい。炭素原子数2~5個のアルキレンとしては、炭素原子数2~4個のアルキレンが好ましく、炭素原子数3個のアルキレンがより好ましい。この場合、C(-B)(-R)中の炭素原子が、C=W中の炭素原子に連結され、かつ、L’がカルボニル基の炭素原子に連結されることが好ましい。
【0107】
好ましい実施形態では、式(1b)で表される化合物またはその塩は、下記式(1b’)で表されることができる。
【化6】
〔式中、
Fは、フッ素原子を示し、
Oは、酸素原子を示し、
Wは、酸素原子または硫黄原子を示し、
’は、置換されていてもよい2価の基(ここで、L’に隣接する炭素原子および硫黄原子を連結する主鎖を構成する原子数は1~5個であり、かつ、主鎖を構成する原子が、炭素原子、または炭素原子および窒素原子の組み合わせである)を示し、
’は、置換されていてもよい炭素原子数2~5個のアルキレンを示し、
Sは、硫黄原子を示し、
Bは、生体直交性官能基またはそれを含む基を示し、
Rは、水素原子または置換基を示し、
Xは、脱離基を示す。〕
式(1b’)における各要素(例、W、L’、L’、B、R、およびX)の定義、例および好ましい例等の詳細は、式(1)および(1b)で説明したものと同様である。
【0108】
式(1)、式(1a)、式(1b)、および式(1b’)で表される化合物またはその塩は、国際公開第/2018/199337号、国際公開第2019240288号、国際公開第2019/240287号、および国際公開第2020/090979号に記載される化合物またはその塩において、抗体に対する親和性物質におけるリジン残基の側鎖中のアミノ基と反応可能な部分を、ペンタフルオロフェニルオキシ基を有するように誘導体化することで製造することができる(本願の実施例も参照)。例えば、このような反応は、適切な有機溶媒系(例、CHCl等のハロゲン化アルキル(例、ハロゲン化メチル)、およびトリエチルアミン等のアミンを含む有機溶媒)において、適温(例、約-10~30℃)で行うことができる。反応時間は、例えば1分~20時間、好ましくは10分~15時間、より好ましくは20分~10時間、さらにより好ましくは30分~8時間である。
【0109】
式(1)、式(1a)、式(1b)、および式(1b’)で表される化合物またはその塩の生成の確認は、NMR、または質量分析により、行うことができる。このような化合物またはその塩は、クロマトグラフィー等の任意の方法により適宜精製することができる。
【0110】
式(1)、式(1a)、式(1b)、および式(1b’)で表される化合物またはそれらの塩は、例えば、抗体の誘導体化試薬として有用である後述の化合物またはその塩の合成中間体として使用することができる。式(1)、式(1a)、式(1b)、および式(1b’)で表される化合物またはそれらの塩は、親和性物質との反応効率が高いため、後述の化合物またはその塩の効率的な合成に有用である。
【0111】
2-2.抗体の誘導体化試薬として使用することができる化合物またはその塩
前記式(1)で表される化合物またはその塩を、抗体に対する親和性物質と反応させることにより、下記式(2)で表される化合物またはその塩が生成される。
【化7】
〔式中、
Yは、抗体に対する親和性物質を示し、
Oは、酸素原子を示し、
Wは、酸素原子または硫黄原子を示し、
は、第1リンカーを示し、
は、生体直交性官能基またはそれを含む基を有していてもよい第2リンカーを示し

またはLのいずれか一方は、C=W中の炭素原子に対する隣接原子として、硫黄原子、酸素原子または窒素原子を有し、
Xは、脱離基を示す。〕
式(2)における各要素(例、W、L、L、およびX)の定義、例および好ましい例等の詳細は、式(1)で説明したものと同様である。
【0112】
Yで示される抗体に対する親和性物質の定義、例および好ましい例は、上述したものと同様である。式(2)で表される化合物またはその塩において、Yで示される抗体に対する親和性物質は、親和性物質中の特定のアミノ酸残基の側鎖中の官能基が、直接的に、またはリンカーを介して間接的に、Yと隣接するカルボニル基(C=O)に連結されていてもよい。特定のアミノ酸残基の側鎖中の官能基としては、例えば、リジン残基の側鎖中のアミノ基、ならびにアスパラギン酸残基およびグルタミン酸残基の側鎖中のカルボキシ基が挙げられ、リジン残基の側鎖中のアミノ基が好ましい。親和性物質中の特定のアミノ酸残基の側鎖中の官能基がリジン残基の側鎖中のアミノ基である場合、リジン残基の側鎖中のアミノ基は、Yと隣接するカルボニル基(C=O)と一緒になってアミド結合を形成していてもよい。
【0113】
特定の実施形態では、式(2)で表される化合物またはその塩は、下記式(2a)で表されることができる。
【化8】
〔式中、
Yは、抗体に対する親和性物質を示し、
Oは、酸素原子を示し、
Wは、酸素原子または硫黄原子を示し、
およびL’は、それぞれ独立して、置換されていてもよい2価の基を示し、
Sは、硫黄原子を示し、
Xは、脱離基を示す。〕
式(2a)における各要素(例、Y、W、L、L’、およびX)の定義、例および好ましい例等の詳細は、式(1)、式(1a)、および式(2)で説明したものと同様である。
【0114】
別の特定の実施形態では、式(2)で表される化合物またはその塩は、下記式(2b)で表されることができる。
【化9】
〔式中、
Yは、抗体に対する親和性物質を示し、
Oは、酸素原子を示し、
Wは、酸素原子または硫黄原子を示し、
’は、置換されていてもよい2価の基を示し、
は、生体直交性官能基またはそれを含む基を有する置換されていてもよい2価の基を示し、
Sは、硫黄原子を示し、
Xは、脱離基を示す。〕
式(2b)における各要素(例、Y、W、L’、L、およびX)の定義、例および好ましい例等の詳細は、式(1)、式(1b)、および式(2)で説明したものと同様である。
【0115】
好ましい実施形態では、式(2b)で表される化合物またはその塩は、下記式(2b’)で表されることができる。
【化10】
〔式中、
Yは、抗体に対する親和性物質を示し、
Oは、酸素原子を示し、
Wは、酸素原子または硫黄原子を示し、
’は、置換されていてもよい2価の基(ここで、L’に隣接する炭素原子および硫黄原子を連結する主鎖を構成する原子数は1~5個であり、かつ、主鎖を構成する原子が、炭素原子、または炭素原子および窒素原子の組み合わせである)を示し、
’は、置換されていてもよい炭素原子数2~5個のアルキレンを示し、
Sは、硫黄原子を示し、
Bは、生体直交性官能基またはそれを含む基を示し、
Rは、水素原子または置換基を示し、
Xは、脱離基を示す。〕
式(2b’)における各要素(例、Y、W、L’、L’、B、R、およびX)の定義、例および好ましい例等の詳細は、式(1)、式(1b)、式(1b’)、および式(2)で説明したものと同様である。
【0116】
式(2)、式(2a)、式(2b)、および式(2b’)で表される化合物またはその塩は、抗体に対する親和性物質を、式(1)、式(1a)、式(1b)、および式(1b’)で表される化合物またはその塩とそれぞれ反応させることにより行うことができる。例えば、このような反応は、適切な有機溶媒系(例、CHCl等のハロゲン化アルキル(例、ハロゲン化メチル)、およびトリエチルアミン等のアミンを含む有機溶媒)において、適温(例、約-10~30℃)で行うことができる。反応時間は、例えば1分~20時間、好ましくは10分~15時間、より好ましくは20分~10時間、さらにより好ましくは30分~8時間である。
【0117】
式(2)、式(2a)、式(2b)、および式(2b’)で表される化合物またはその塩の生成の確認は、その具体的な原料および生成物の分子量にもよるが、例えば、電気泳動法、クロマトグラフィー(例、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、HPLC)、NMR、または質量分析により、行うことができる。このような化合物またはその塩は、クロマトグラフィー等の任意の方法により適宜精製することができる。
【0118】
式(2)、式(2a)、式(2b)、および式(2b’)で表される化合物またはそれ
らの塩は、例えば、抗体の誘導体化試薬として有用である。例えば、このような化合物またはそれらの塩は、抗体重鎖の定常領域における特定のアミノ酸残基、好ましくはリジン残基(例、EU numberingにしたがう246/248位、288/290位、または317位のリジン残基)を位置選択的に修飾することができる。
【0119】
より具体的には、式(2)で表される化合物またはそれらの塩によれば、下記式(3):
【化11】
〔式中、
Igは、2個の重鎖および必要に応じて2個の軽鎖を含むイムノグロブリン単位を示し、
Yは、抗体に対する親和性物質を示し、
Oは、酸素原子を示し、
Wは、酸素原子または硫黄原子を示し、
は、第1リンカーを示し、
は、生体直交性官能基またはそれを含む基を有していてもよい第2リンカーを示し、
またはLのいずれか一方は、C=W中の炭素原子に対する隣接原子として、硫黄原子、酸素原子または窒素原子を有し、
前記親和性物質による前記イムノグロブリン単位の平均修飾百分率rは、50%以上である。〕で表される構造単位を含む親和性物質修飾抗体またはその塩を製造することができる(図1)。
【0120】
特定の実施形態では、式(3)で表される化合物またはその塩は、下記式(3a)で表されることができる(図2)。
【化12】
〔式中、
Igは、2個の重鎖および必要に応じて2個の軽鎖を含むイムノグロブリン単位を示し、
Yは、抗体に対する親和性物質を示し、
Oは、酸素原子を示し、
Wは、酸素原子または硫黄原子を示し、
およびL’は、それぞれ独立して、置換されていてもよい2価の基を示し、
Sは、硫黄原子を示し、
前記親和性物質による前記イムノグロブリン単位の平均修飾百分率rは、50%以上である。〕
【0121】
別の特定の実施形態では、式(3)で表される化合物またはその塩は、下記式(3b)
で表されることができる(図3)。
【化13】
〔式中、
Igは、2個の重鎖および必要に応じて2個の軽鎖を含むイムノグロブリン単位を示し、
Yは、抗体に対する親和性物質を示し、
Oは、酸素原子を示し、
Wは、酸素原子または硫黄原子を示し、
’は、置換されていてもよい2価の基を示し、
は、生体直交性官能基またはそれを含む基を有する置換されていてもよい2価の基を示し、
Sは、硫黄原子を示し、
前記親和性物質による前記イムノグロブリン単位の平均修飾百分率rは、50%以上である。〕
【0122】
好ましい実施形態では、式(3b)で表される化合物またはその塩は、下記式(3b’)で表されることができる。
【化14】
〔式中、
Igは、2個の重鎖および必要に応じて2個の軽鎖を含むイムノグロブリン単位を示し、
Yは、抗体に対する親和性物質を示し、
Oは、酸素原子を示し、
Wは、酸素原子または硫黄原子を示し、
’は、置換されていてもよい2価の基(ここで、L’に隣接する炭素原子および硫黄原子を連結する主鎖を構成する原子数は1~5個であり、かつ、主鎖を構成する原子が、炭素原子、または炭素原子および窒素原子の組み合わせである)を示し、
’は、置換されていてもよい炭素原子数2~5個のアルキレンを示し、
Sは、硫黄原子を示し、
Bは、生体直交性官能基またはそれを含む基を示し、
Rは、水素原子または置換基を示し、
前記親和性物質による前記イムノグロブリン単位の平均修飾百分率rは、50%以上である。〕
【0123】
式(3)、式(3a)、式(3b)、および式(3b’)における各要素(例、Y、W、L、L、L’、L’、B、およびR)の定義、例および好ましい例等の詳細は、式(1)、式(1a)、式(1b)、式(1b’)、式(2)、式(2a)、式(2b
)、および式(2b’)で説明したものと同様である。
【0124】
親和性物質修飾抗体は、抗体の構成単位(2個の重鎖および必要に応じて2個の軽鎖を含むイムノグロブリン単位)中の2つの重鎖の定常領域(好ましくはFc領域またはCH2ドメイン)中の1以上(好ましくは1または2、より好ましくは1)のリジン残基の側鎖中のアミノ基の修飾を介して、上記親和性物質を含むことができる。より具体的には、1以上(好ましくは1または2、より好ましくは1)のリジン残基の位置は、EU numberingに従うヒトIgG重鎖の246/248位、288/290位、または317位であってもよい(例、国際公開第2016/186206号、国際公開第2018/199337号、国際公開第2019/240287号、国際公開第2019/240288号、国際公開第2020/009165号、国際公開第2020/090979号を参照)。修飾は、上述したように、位置選択的であってもよい。後述する式(4)、式(4a)、式(4b)、式(4b’)、式(5a)、および式(5b’)においても、上記のようなリジン残基の側鎖中のアミノ基の修飾を介して、修飾部位(生体直交性官能基、または機能性物質)を含むことができる。
【0125】
上記平均修飾百分率rは、50%以上である。平均修飾百分率rは、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上、110%以上、120%以上、130%以上、140%以上、または150%以上であってもよい。平均修飾百分率rはまた、400%以下、390%以下、380%以下、370%以下、360%以下、350%以下、340%以下、330%以下、320%以下、310%以下、300%以下、290%以下、280%以下、270%以下、260%以下、または250%以下であってもよい。より具体的には、平均修飾百分率rは、50~350%、60~340%、70~330%、80~320%、90~310%、100~300%、110~290%、120~280%、130~270%、140~260%、または150~250%であってもよい。平均修飾百分率rは、質量分析(DAR calculator(Agilent社ソフト)を併用することができる。後述する式(4)、式(4a)、式(4b)、式(4b’)、式(5a)、および式(5b’)においても、平均修飾百分率rは、同様である。
【0126】
親和性物質修飾抗体またはその塩の製造は、本発明の化合物またはその塩を、2個の重鎖および必要に応じて2個の軽鎖を含むイムノグロブリン単位を含む抗体またはその塩と反応させることにより行うことができる。反応における、抗体に対する本発明の化合物またはその塩の当量(本発明の化合物またはその塩/抗体)は、本発明の化合物またはその塩、および抗体の種類等の因子に応じて変動することから特に限定されないが、例えば1~100であり、好ましくは2~80であり、より好ましくは4~60であり、さらにより好ましくは5~40であり、特に好ましくは6~20である。
【0127】
このような反応は、タンパク質の変性・分解(例、アミド結合の切断)を引き起こし得ない条件(温和な条件)下で適宜行うことができる。例えば、このような温和な条件下での反応は、適切な反応系、例えば緩衝液中において、室温(例、約15~30℃)で行うことができる。緩衝液のpHは、例えば5~9であり、好ましくは5.5~8.5であり、より好ましくは6.0~8.0である。緩衝液は、適切な触媒を含んでいてもよい。反応時間は、例えば1分~20時間、好ましくは10分~15時間、より好ましくは20分~10時間、さらにより好ましくは30分~8時間である。このような反応の詳細については、例えば、G.J.L.Bernardes et al.,Chem.Rev.,115,2174(2015);G.J.L.Bernardes et al.,Chem.Asian.J.,4,630(2009);B.G.Davies et al.,Nat.Commun.,5,4740(2014);A.Wagner et al.,Bioconjugate.Chem.,25,825(2014)を参照のこと
【0128】
目的の親和性物質修飾抗体またはその塩の生成の確認は、その具体的な原料および生成物の分子量にもよるが、例えば、電気泳動法、クロマトグラフィー(例、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、HPLC)、または質量分析により、行うことができる。位置選択性の確認は、ペプチドマッピングにより行うことができる。ペプチドマッピングは、例えば、プロテアーゼ処理および質量分析により行うことができる。プロテアーゼとしては、エンドプロテアーゼが好ましい。このようなエンドプロテアーゼとしては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、Glu-C、Lys-N、Lys-C、Asp-Nが挙げられる。親和性物質の導入個数の確認は、質量分析(DAR calculator(Agilent社ソフト)を併用することができる)により行うことができる。親和性物質修飾抗体またはその塩は、クロマトグラフィー(例、上述したクロマトグラフィー、およびアフィニティークロマトグラフィー)等の任意の方法により適宜精製することができる。
【0129】
式(3a)、式(3b)、および式(3b’)で表される化合物またはその塩は、切断反応により、生体直交性官能基を有する抗体誘導体またはその塩を生成することができ、ならびに/あるいは、生成した生体直交性官能基を有する抗体誘導体またはその塩は、機能性物質と反応させることにより、抗体および機能性物質のコンジュゲートまたはその塩を生成することができる。
【0130】
切断反応としては、(a)酸性物質、塩基性物質、還元剤、酸化剤、酵素からなる群より選ばれる1種以上の物質による処理、(b)光等の物理化学的刺激による処理、または(c)自己分解性の切断性部分を含む切断性リンカーを用いた場合の放置(インキュベーション)が挙げられる。これらの切断処理についてはまた、国際公開第2019/240287号、国際公開第2019/240288号、国際公開第2020/009165号、国際公開第2020/090979号を参照することができる。
【0131】
このような切断反応は、タンパク質の変性・分解(例、アミド結合の切断)を引き起こし得ない条件(温和な条件)下で適宜行うことができる。例えば、このような温和な条件は、上述のとおりである。また、切断性部位がエステル(例、通常のエステル、またはチオエステル等の他のエステル)である場合、切断反応は、ヒドロキシルアミン溶液またはアルキルアミン溶液(例、pH4.0~8.0、10mM~10M)中で適切な時間(例、1時間)インキュベートすることで行うことができる(例、Vance,N.et al.,Bioconjugate Chem.2019,30,148-160)。
【0132】
切断反応により得られた生体直交性官能基を有する抗体誘導体またはその塩の生成の確認は、その具体的な原料および生成物の分子量にもよるが、例えば、電気泳動法、クロマトグラフィー(例、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、HPLC)、または質量分析により、行うことができる。位置選択性の確認は、上述したようなペプチドマッピングにより行うことができる。生体直交性官能基の導入個数の確認は、質量分析(DAR calculator(Agilent社ソフト)を併用することができる)により行うことができる。生体直交性官能基を有する抗体誘導体またはその塩は、クロマトグラフィー等の任意の方法により適宜精製することができる。
【0133】
式(3a)、式(3b)、および式(3b’)で表される化合物またはその塩の切断反応により生成することができる生体直交性官能基を有する抗体誘導体またはその塩は、それぞれ、式(4a)、式(4b)、および式(4b’)で表される生体直交性官能基を有する抗体誘導体またはその塩である(図2~4)。
【0134】
【化15】
〔式中、
Igは、2個の重鎖および必要に応じて2個の軽鎖を含むイムノグロブリン単位を示し、
SHは、チオール基(生体直交性官能基)を示し、
Oは、酸素原子を示し、
’は、置換されていてもよい2価の基を示し、
前記親和性物質による前記イムノグロブリン単位の平均修飾百分率rは、50%以上である。〕
【0135】
【化16】
〔式中、
Igは、2個の重鎖および必要に応じて2個の軽鎖を含むイムノグロブリン単位を示し、
Oは、酸素原子を示し、
Wは、酸素原子または硫黄原子を示し、
Tは、1価の基を示し、
は、生体直交性官能基またはそれを含む基を有する置換されていてもよい2価の基を示し、
前記親和性物質による前記イムノグロブリン単位の平均修飾百分率rは、50%以上である。〕
【0136】
【化17】
〔式中、
Igは、2個の重鎖および必要に応じて2個の軽鎖を含むイムノグロブリン単位を示し、
Oは、酸素原子を示し、
Wは、酸素原子または硫黄原子を示し、
Tは、1価の基を示し、
’は、置換されていてもよい炭素原子数2~5個のアルキレンを示し、
Bは、生体直交性官能基またはそれを含む基を示し、
Rは、水素原子または置換基を示し、
前記親和性物質による前記イムノグロブリン単位の平均修飾百分率rは、50%以上である。〕
【0137】
Tは、1価の基であり、切断性部分の切断により生成することができる。1価の基は、置換されていても、置換されていなくてもよい。1価の基としては、上述したものが挙げられる。1価の基が置換されている場合の置換基としては、上述したものが挙げられる。
【0138】
特定の実施形態では、Tで示される1価の基は、置換されていてもよいヒドロキシアミノ基であってもよい。置換されていてもよいヒドロキシアミノ基は、下記式(α)により表すことができる。
NR-ORii (α)
〔式中、
、Riiは、それぞれ独立して、水素原子、または1価の炭化水素基を示す。)
ここで、1価の炭化水素基は、置換されていても、置換されていなくてもよい。1価の炭化水素基、ならびに1価の炭化水素基が置換されている場合の置換基の定義、例、および好ましい例は、上述したとおりである。好ましくは、置換されていてもよいヒドロキシアミノ基は、NH-ORii(ここで、Riiはアルキル基を示す。)であってもよい。より好ましくは、置換されていてもよいヒドロキシアミノ基は、NH-ORii(ここで、Riiは炭素原子数1~6のアルキル基を示す。)であってもよい。
【0139】
抗体誘導体またはその塩と機能性物質との反応(コンジュゲーション)は、タンパク質の変性・分解(例、アミド結合の切断)を引き起こし得ない条件(温和な条件)下で適宜行うことができる。
【0140】
コンジュゲートまたはその塩の生成の確認は、その具体的な原料および生成物の分子量にもよるが、例えば、電気泳動法、クロマトグラフィー(例、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、HPLC)、または質量分析により、行うことができる。位置選択性の確認は、上述したようなペプチドマッピングにより行うことができる。機能性物質の導入個数の確認は、質量分析(DAR calculator(Agilent社ソフト)を併用することができる)により行うことができる。コンジュゲートまたはその塩は、クロマトグラフィー等の任意の方法により適宜精製することができる。
【0141】
式(4a)、および式(4b’)で表される生体直交性官能基を有する抗体誘導体またはその塩を機能性物質と反応させることにより生成することができる抗体および機能性物質のコンジュゲートまたはその塩は、それぞれ、式(5a)、および式(5b’)で表される抗体および機能性物質のコンジュゲートまたはその塩である(図2~4)。
【0142】
【化18】
〔式中、
Igは、2個の重鎖および必要に応じて2個の軽鎖を含むイムノグロブリン単位を示し

Oは、酸素原子を示し、
Zは、機能性物質を示し、
Sは、硫黄原子を示し
’は、置換されていてもよい2価の基を示し、
前記親和性物質による前記イムノグロブリン単位の平均修飾百分率rは、50%以上である。〕
【0143】
【化19】
〔式中、
Igは、2個の重鎖および必要に応じて2個の軽鎖を含むイムノグロブリン単位を示し、
Oは、酸素原子を示し、
Wは、酸素原子または硫黄原子を示し、
Tは、1価の基を示し、
’は、置換されていてもよい炭素原子数2~5個のアルキレンを示し、
B’は、機能性物質と生体直交性官能基との反応により生成する基または当該生成する基を含む基を示し、
Zは、機能性物質を示し、
Rは、水素原子または置換基を示し、
前記親和性物質による前記イムノグロブリン単位の平均修飾百分率rは、50%以上である。〕
【0144】
式(4)、式(4a)、式(4b)、および式(4b’)、式(5a)、および式(5b’)における各要素(例、Y、W、L、L、L’、L’、B、B’、R、T)の定義、例および好ましい例等の詳細は、前述の式で説明したものと同様である。また、式(5b’)におけるTの定義、例および好ましい例等の詳細は、式(4b)、および式(4b’)で説明したものと同様である。
【0145】
また、式(1a)、式(2a)、式(3a)、式(4a)、および式(5a)に関連し得る情報(図2)として、国際公開第2019/240287号の実施例81を参照することができる。
【0146】
3.用途
本発明は、本発明の化合物またはその塩を含む、抗体誘導体化用試薬を提供する。
【0147】
本発明の試薬は、他の成分をさらに含む組成物の形態で提供されてもよい。このような他の成分としては、例えば、溶液、安定化剤(例、酸化防止剤、保存剤)が挙げられる。溶液としては、水溶液が好ましい。水溶液としては、例えば、水(例、蒸留水、滅菌蒸留水、精製水、生理食塩水)、緩衝液(例、リン酸水溶液、Tris-塩酸緩衝液、炭酸-重炭酸緩衝液、ホウ酸水溶液、グリシン-水酸化ナトリウム緩衝液、クエン酸緩衝液)が挙げられるが、緩衝液が好ましい。溶液のpHは、例えば5.0~9.0、好ましくは5.5~8.5である。本発明の試薬は、液状または粉末状(例、凍結乾燥粉末)において
提供することができる。
【実施例0148】
以下の実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0149】
実施例1:ペンタフルオロエステル試薬の合成
ペンタフルオロエステル試薬(1)は下記の通り合成した。
【化20】
【0150】
(1-1)化合物2の合成
【化21】
【0151】
3,3’-DithiodipropionicAcid(1g、5.0mmol)をTHF(10mL)に溶解し、0℃でDMF(100μL)、OxalylChloride(1.5mL、15.0mmol)を加え0℃で15分、常温で1時間撹拌した。その後、0℃でBenzenethiol(1.53mL、15.0mmol)、Pyridine(4mL、50mmol)、CHCl(10mL)を加え常温で3時間撹拌した。TLC(ヘキサン/酢酸エチル=5/1)で反応を確認後、結晶を除去し、酢酸エチルと1M塩酸水溶液で抽出後、有機層を濃縮した。ヘキサンと酢酸エチルの混合溶液で溶出し、各フラクションをTLC(ヘキサン/酢酸エチル=5/1)により確認した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧下濃縮することにより有機溶媒を除去後、真空乾燥を行い、化合物(2)を(1.2g、3.04mmol)得た。
【0152】
H NMR(400MHz,Chloroform-d) δ=7.44(s,10H),3.16-3.06(m,5H),3.07-2.95(m,4H).
【0153】
MS(ESI)m/z:395.1[M+H]
【0154】
(1-2)化合物3の合成
【0155】
【化22】
【0156】
(1-1)で合成した化合物(2) (52.5mg,133μmol)を酢酸9.3mLに溶解させ、粉末の亜鉛(13.0mg,200μmol)を加え40分90℃にて攪拌した。40分後、粉末の亜鉛(73.9mg,1.13mmol)をさらに加え、90℃で1時間攪拌した。1時間後、吸引ろ過により粉末の亜鉛を除去し、回収したろ液を減圧濃縮し、ヘキサン/酢酸エチルの順相クロマトグラフィーにより精製することで目的とする化合物(3)(19.1mg,96.3μmmol)を得た。
【0157】
H NMR(400MHz,Chloroform-d) δ=7.45(s,5H),3.02(td,J=6.8,0.7Hz,2H),2.87(dtd,J=7.6,6.9,0.6Hz,2H),1.69(t,J=8.4Hz,1H).
【0158】
MS(ESI)m/z:199.2[M+H]
【0159】
(1-3)化合物4の合成
【化23】
【0160】
化合物(3)(1.29g,6.5mmol)にアセトニトリル2.7mL,ピリジン0.3mLを加え溶解した。その後、無水コハク酸(0.65g,6.5mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(12.2mg, 0.1mmol)を加え1時間攪拌した。1M塩酸水溶液20mLを加え、酢酸エチルにより抽出した。減圧濃縮することで、化合物(4)(1.25g,4.2mmol)を得た。
【0161】
H NMR (400 MHz, Chloroform-d) δ = 7.44 (s, 5H), 3.22 (t, J = 7.0 Hz, 2H), 3.00 (t, J = 7.0 Hz, 2H), 2.92 (t, J = 6.8 Hz, 2H), 2.75 (t, J = 6.8 Hz, 2H).
【0162】
MS(ESI)m/z:299.0[M+H]
【0163】
(1-4)ペンタフルオロエステル試薬(化合物1)の合成
【化24】
【0164】
(1-3)で合成した化合物(4)(3.16g、10.59mmol)にCHCl(53.0mL)、トリエチルアミン(3.7mL、26.47mmol)を加え、溶解した。0℃でペンタフルオロフェニルトリフルオロ酢酸(3.6mL、21.17mmol)を加え、1時間撹拌した。TLC(ヘキサン/酢酸エチル=5/1)で反応を確認後、反応溶液を濃縮した。ヘキサンと酢酸エチルの混合溶液で溶出し、各フラクションを
TLC(ヘキサン/酢酸エチル=5/1)により確認した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧下濃縮することにより有機溶媒を除去後、真空乾燥を行い、上記化合物を(4.36g、0.9mmol)得た。
【0165】
1H NMR (400 MHz, Chloroform-d) δ = 7.44 (s, 5H), 3.25 (t, J = 6.9 Hz, 2H), 3.06 (s, 4H), 3.01 (t, J = 6.9 Hz, 2H).
【0166】
MS(ESI)m/z:486.9[M+Na]+
【0167】
実施例2:アジド導入型ペンタフルオロエステル試薬の合成
(2-1)アジド導入型ペンタフルオロエステル試薬(5)の合成
アジド導入型ペンタフルオロエステル試薬(5)は下記の通り合成した。
【化25】
【0168】
(2-1-1)リンカー中間体(6)の合成
【化26】
【0169】
5-アジドペンタン酸(800mg,5.59mmol)をTHF(14mL)に溶解させ、クロロギ酸イソブチル(808μL,6.15mmol)、N-メチルモルホリン(873μL,8.39mmol)を加え0℃にて30分攪拌した後、1M NaOH水溶液(4mL)に溶解したヒドラジン水和物(1.36g,6.71mmol)を加えて室温にて3時間攪拌した。減圧下濃縮した後、1M NaOH水溶液を加え、系内のpHをpH10に調整し、酢酸エチルで洗浄後、水層に1M HCl水溶液を加え、系内のpHを3.0に調整し、酢酸エチルを加えて洗浄し、得られた酢酸エチル溶液に硫酸ナトリウムを加えた。フィルトレーションにより硫酸ナトリウムを取り除き、減圧下濃縮カラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン:メタノール=10:1)にて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することにより、リンカー中間体(6)を得た。
【0170】
H NMR(400MHz,Chloroform-d)δ6.29(d,J=7.7Hz,1H),4.56(td,J=8.0,4.9Hz,1H),3.32(t,J=6.6Hz,2H),2.53-2.38(m,3H),2.36-2.16(m,3H),2.12(s,2H),1.96(dq,J=14.7,7.6Hz,1H),1.84-1.59(m,4H),1.50(s,9H).
【0171】
MS(ESI)m/z:329[M+H]
【0172】
(2-1-2)リンカー中間体(7)の合成
【化27】
【0173】
リンカー中間体(6)(2.41g,5.59mmol)をジクロロメタン(28mL)に溶解させ、チオフェノール(627μL,6.15mmol)、ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ(3.49g,6.71mmol)、DIPEA(1.42mL,8.39mmol)を加え、室温にて2時間攪拌した。その後、減圧下濃縮し、カラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)にて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧下濃縮することにより、リンカー中間体(7)を得た(2.20g,5.23mmol)。
【0174】
H NMR(400MHz,Chloroform-d)δ7.43(s,5H),6.10(d,J=7.8Hz,1H),4.55(td,J=7.7,4.9Hz,1H),3.31(t,J=6.7Hz,2H),2.87-2.63(m,2H),2.28(dd,J=8.7,5.9Hz,2H),2.16-1.98(m,1H),1.83-1.58(m,4H),1.50(s,9H),1.37-1.22(m,2H),0.91(t,J=6.7Hz,1H).
【0175】
MS(ESI)m/z:421[M+H]
【0176】
(2-1-3)リンカー中間体(8)の合成
【化28】
【0177】
リンカー中間体(7)(2.20g,5.23mmol)をジクロロメタン(10mL)に溶解させ、トリフルオロ酢酸(10mL)を加えて、室温にて1時間攪拌した後、減圧下濃縮しジクロロメタンを除去し、水を加えて凍結乾燥することにより、リンカー中間体(8)を得た(1.98g,5.43mmo)。
【0178】
H NMR(400MHz,Chloroform-d)δ7.44(s,J=6.3,4.6,2.4Hz,5H),6.76(s,1H),4.62(td,J=7.5,4.9Hz,1H),3.31(t,J=6.6Hz,2H),2.88(qt,J=16.8,6.8Hz,2H),2.33(dt,J=12.4,6.8Hz,3H),2.18(dq,J=14.4,7.4Hz,1H),1.74(dq,J=11.8,7.5,6.9Hz,2H),1.63(ddd,J=17.7,10.5,4.8Hz,
2H).
【0179】
MS(ESI)m/z:365[M+H]
【0180】
(2-1-4)リンカー中間体(9)の合成
【化29】
【0181】
リンカー中間体(8)(100mg,0.274mmo)をジクロロメタン(3mL)に溶解させ、(40.6μL,0.280mmol)、ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ(150mg,0.288mmol)、DIPEA(70.1μL,0.412mmol)を加え、室温にて2時間攪拌した。1M HCl水溶液を加えて系内をpH3に調整し、ジクロロメタンを加えて希釈し、水、食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムを加えた。フィルトレーションにより、硫酸ナトリウムを除去した後、減圧下濃縮し、カラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)にて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧下濃縮することにより、リンカー中間体(9)を得た(84.7mg,0.171mmol)。
【0182】
H NMR(400MHz,Chloroform-d)δ7.50-7.38(m,5H),6.33(d,J=8.4Hz,1H),4.78(tdd,J=7.8,4.6,3.0Hz,1H),3.70-3.54(m,2H),3.32(dt,J=9.1,6.7Hz,2H),2.96-2.67(m,2H),2.30(pd,J=7.1,4.5Hz,2H),1.85-1.60(m,6H),1.49(d,J=2.8Hz,9H).
【0183】
MS(ESI)m/z:495[M+H]
【0184】
(2-1-5)リンカー中間体(10)の合成
【化30】
【0185】
リンカー中間体(9)(84.7mg,0.171mmol)をジクロロメタン(5mL)に溶解させ、トリフルオロ酢酸(5mL)を加えて、室温にて1時間攪拌した後、減圧下濃縮しジクロロメタンを除去し、水を加えて凍結乾燥した後、カラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン:メタノール=10:1)にて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧下濃縮することによりリンカー中間体(10)を得た(46.8mg,0.107mmo)。
【0186】
H NMR(400MHz,Methanol-d4)δ7.44(dq,J=2.3,1.5Hz,5H),4.69-4.57(m,1H),3.79-3.67(m,2H),3.40-3.30(m,2H),2.89-2.71(m,2H),2.44-2.23(m,4H),2.08-1.95(m,1H),1.82-1.61(m,4H).
【0187】
(2-1-6)アジド導入型ペンタフルオロエステル試薬(5)の合成
【化31】
【0188】
リンカー中間体(10)(445.0mg、0.90mmol)にCH2Cl2(9.0mL)、トリエチルアミン(314uL、2.25mmol)を加え、溶解した。0℃でペンタフルオロフェニルトリフルオロ酢酸(309uL、1.80mmol)を加え、1時間撹拌した。TLC(ヘキサン/酢酸エチル=1/1)で反応を確認後、反応溶液を濃縮した。ヘキサンと酢酸エチルの混合溶液で溶出し、各フラクションをTLC(ヘキサン/酢酸エチル=5/1)により確認した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧下濃縮することにより有機溶媒を除去後、真空乾燥を行い、上記化合物(5)を(413.7mg、0.68mmol)得た。
【0189】
H NMR (400 MHz, Chloroform-d) δ = 7.50 - 7.38 (m, 5H), 6.45 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 4.80 (td, J = 8.3, 4.6 Hz, 1H), 4.08 -
3.92 (m, 2H), 3.31 (t, J = 6.6 Hz, 2H),
2.97 - 2.75 (m, 2H), 2.40 - 2.24 (m, 3H), 2.24 - 2.11 (m, 1H), 1.84 - 1.62 (m, 4H).
【0190】
MS(ESI)m/z:605.0[M+H]
【0191】
(2-2)アジド導入型ペンタフルオロエステル試薬(11)の合成
【化32】
アジド導入型ペンタフルオロエステル試薬(11)は下記の通り合成した。
【0192】
(2-2-1)リンカー中間体(12)の合成
【化33】
【0193】
ジチオグリコール酸(613mg,3.36mmo)をジクロロメタン(17mL)に溶解させ、D-プロリンtert-ブチル塩酸塩(1.53g,7.40mmol)、WSC・HCl(1.61mg,8.40mmol)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(91.4mg,0.672mmol)、トリアチルアミン(2.33mL,16.8mmol)を加え、室温にて終夜攪拌した。減圧下濃縮した後、酢酸エチルを加えて希釈し、水、食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムを加えた。フィルトレーションにより硫酸ナトリウムを除去した後、減圧下濃縮し、カラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)にて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することにより、リンカー中間体(12)を得た(1.09g,2.23mmol)。
【0194】
H NMR(400MHz,Chloroform-d)δ4.39(dt,J=8.3,3.6Hz,2H),3.79-3.60(m,8H),2.35-2.14(m,2H),2.14-1.85(m,6H),1.47(s,18H).
【0195】
MS(ESI)m/z:489[M+H]
【0196】
(2-2-2)リンカー中間体(13)の合成
【化34】
【0197】
リンカー中間体(124)(1.09g,2.23mmol)をDMF(5mL)に溶解させ、水(5mL)に溶解したトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(831mg,2.90mmol)を加え、室温にて終夜攪拌した後、反応液を酢酸エチルで希釈し、水、食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムを加えた。フィルトレーションにより硫酸ナトリウムを取り除き、減圧下濃縮した後、カラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)にて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧下濃縮することによりリンカー中間体(13)を得た(867mg,3.53mmol)。
【0198】
H NMR(400MHz,Chloroform-d)δ4.39(ddd,J=14.0,8.4,3.1Hz,1H),3.77-3.53(m,2H),3.39-3.24(m,2H),2.33-2.06(m,2H),2.06(m,2H),1.49(d,J=4.5Hz,9H).
【0199】
MS(ESI)m/z:246[M+H]
【0200】
(2-2-3)リンカー中間体(14)の合成
【化35】
【0201】
リンカー中間体(8)(264g,0.723mmo)をジクロロメタン(4mL)に溶解させ、リンカー中間体(13)(195mg,0.795mmol)、ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ(452mg,0.868mmol)、DIPEA(370μL,2.17mmol)を加え、室温にて1時間攪拌した。減圧下濃縮した後、カラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)にて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧下濃縮することにより、リンカー中間体(14)を得た(180mg,0.303mmol)。
【0202】
H NMR(400MHz,Chloroform-d)δ7.44(p,J=3.5Hz,5H),6.52(m,1H),4.75(td,J=8.5,4.6Hz,1H),4.42(ddd,J=19.2,8.4,3.3Hz,1H),3.80-3.49(m,4H),3.39-3.26(m,2H),2.94-2.67(m,2H),2.39-2.27(m,2H),2.27-1.87(m,3H),1.87-1.57(m,8H),1.47(d,J=3.2Hz,9H).
【0203】
MS(ESI)m/z:592[M+H]
【0204】
(2-2-4)リンカー中間体(15)の合成
【化36】
リンカー中間体(14)(180mg,0.303mmol)をジクロロメタン(5mL)に溶解させ、トリフルオロ酢酸(5mL)を加えて、室温にて1時間攪拌した後、減圧下濃縮しジクロロメタンを除去し、水を加えて凍結乾燥することにより、リンカー中間体(15)を得た(172.6mg,0.322mmol)。
【0205】
H NMR(400MHz,Chloroform-d)δ7.43(q,J=5.7,4.7Hz,5H),4.71(td,J=8.7,4.7Hz,1H),4.53(t,J=5.7Hz,1H),3.97-3.47(m,4H),3.32(dt,J=12.9,6.5Hz,2H),2.82(qq,J=15.4,7.4,6.1Hz,2H),2.44-2.00(m,8H),1.87-1.59(m,4H).
【0206】
MS(ESI)m/z:536[M+H]
【0207】
(2-2-5)アジド導入型ペンタフルオロエステル試薬(11)の合成
【化37】
【0208】
リンカー中間体(15)(172.6mg,0.322mmo)をジクロロメタン(1.6mL)に溶解させ、ペンタフルオロフェニルトリフルオロ酢酸(110mL,0.644mmol)、トリエチルアミン(134μL,0.966mmol)を加え、室温にて3h攪拌した。減圧下濃縮した後、カラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)にて精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧下濃縮することによりアジド導入型ペンタフルオロエステル試薬(11)を得た(158.6mg,0.226mmol)。
【0209】
H NMR(400MHz,Chloroform-d)δ7.47-7.36(m,5H),6.59-6.40(m,1H),4.92-4.78(m,1H),4.73(tt,J=7.6,3.5Hz,1H),4.01-3.62(m,4H),3.31(qd,J=6.6,2.8Hz,2H),2.99-2.68(m,2H),2.50-2.09(m,8H),1.84-1.56(m,4H).
【0210】
MS(ESI)m/z:702[M+H]
【0211】
実施例3:ペンタフルオロエステル試薬とペプチドとのカップリング反応
(3-1)ペンタフルオロエステル試薬(1)とペプチドとのカップリング反応
【化38】
上記アミノ酸配列はいずれも、配列番号1のアミノ酸配列である
【0212】
既報(Angew.Chem.Int.Ed.,2019,58,5592-5597)のペプチドであるAc-RGNCAYHKGQLVWCTYH-NH2のペプチド(配列番号1,54.7mg,26.4μmol,ただし、4番目と14番目の2つのシステインは、それぞれ分子内でジスルフィド結合している。)をDMF(500μL)に溶解させ、ペンタフルオロエステル試薬(1)のDMF溶液(184μL,79.1μmol,200mg/mL)を加え、室温で24時間攪拌した後、逆相分取クロマトグラフィーにより精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し。減圧濃縮することでMeCNを除去した後、凍結乾燥を行い、上記ペプチドーリンカー連結物(39.7mg, 16.9μmol)を収率64%で得た。
【0213】
MS(ESI)m/z : z=2 1179 [M+2H]2+, z=3 786 [M+3H]3+
【0214】
(3-2)ペンタフルオロエステル試薬(1)の汎用性の確認
(3-2-1)Ac-RGNCAYHKGQIIWCTYH-NH(配列番号2)とのカップリング
【化39】
上記アミノ酸配列はいずれも、配列番号2のアミノ酸配列である
【0215】
実施例3-1の手法に従い、既報(国際公開第2019/240287号(WO2019/240287A1、実施例81)記載のペプチドであるAc-RGNCAYHKGQIIWCTYH-NH(配列番号2,ただし、4番目と14番目の2つのシステインは、それぞれ分子内でジスルフィド結合している。)のDMF溶液に、ペンタフルオロエステル試薬(1)のDMF溶液を加え、室温で24時間攪拌した後、逆相分取クロマトグラフィーにより精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し。減圧濃縮することでMeCNを除去した後、凍結乾燥を行い、上記ペプチドーリンカー連結物を得た。
【0216】
MS(ESI)m/z : z=3 790 [M+3H]3+, z=4 593 [M+4H]4+
【0217】
(3-2-2)Ac-FNMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIKDDC-NH(配列番号3)とのカップリング
【化40】
上記アミノ酸配列はいずれも、配列番号3のアミノ酸配列である
【0218】
同様に、既報(Angew.Chem.Int.Ed.,2019,58,5592-5597)のペプチドであるAc-FNMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIKDDC-NH(配列番号3,ただし、5番目と34番目の2つのシステインは、それぞれ分子内でジスルフィド結合している。)のDMF溶液に、ペンタフルオロエステル試薬(1)のDMF溶液を加え、室温で24時間攪拌した後、逆相分取クロマトグラフィーにより精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し。減圧濃縮するこ
とでMeCNを除去した後、凍結乾燥を行い、上記ペプチドーリンカー連結物を得た。
【0219】
MS(ESI)m/z : z=3 1511 [M+3H]3+, z=4 1133
[M+4H]4+
【0220】
(3-2-3)Ac-FNMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIKEEC-NH(配列番号4)とのカップリング
【化41】
上記アミノ酸配列はいずれも、配列番号4のアミノ酸配列である
【0221】
既報(Angew.Chem.Int.Ed.,2019,58,5592-5597)に記載の方法で合成したAc-NMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIKEEC-NH(配列番号4,ただし、5番目と34番目の2つのシステインは、それぞれ分子内でジスルフィド結合している。)のDMF溶液に、ペンタフルオロエステル試薬(1)のDMF溶液を加え、室温で24時間攪拌した後、逆相分取クロマトグラフィーにより精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し。減圧濃縮することでMeCNを除去した後、凍結乾燥を行い、上記ペプチドーリンカー連結物を得た。
【0222】
MS(ESI)m/z : z=3 1521[M+3H]3+, z=4 1141 [M+4H]4+
【0223】
(3-3)アジド型ペンタフルオロエステル試薬の反応性の確認
(3-3-1)ペンタフルオロエステル試薬(5)とAc-RGNCAYHKGQLVWCTYH-NH(配列番号1)とのカップリング
【化42】
上記アミノ酸配列はいずれも、配列番号1のアミノ酸配列である
【0224】
実施例3-1の手法に従い、既報(Angew.Chem.Int.Ed.,2019,58,5592-5597)のペプチドであるAc-RGNCAYHKGQLVWCT
YH-NH(配列番号1,ただし、4番目と14番目の2つのシステインは、それぞれ分子内でジスルフィド結合している。)のDMF溶液に、ペンタフルオロエステル試薬(5)のDMF溶液を加え、室温で24時間攪拌した後、逆相分取クロマトグラフィーにより精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し。減圧濃縮することでMeCNを除去した後、凍結乾燥を行い、上記ペプチドーリンカー連結物を得た。
【0225】
MS(ESI)m/z : z=2 1179 [M+2H]2+, z=3 787 [M+3H]3+
【0226】
(3-3-2)ペンタフルオロエステル試薬(5)とAc-RGNCAYHKGQIIWCTYH-NH(配列番号2)とのカップリング
【化43】
上記アミノ酸配列はいずれも、配列番号2のアミノ酸配列である
【0227】
実施例3-1の手法に従い、Ac-RGNCAYHKGQIIWCTYH-NH(配列番号2,ただし、4番目と14番目の2つのシステインは、それぞれ分子内でジスルフィド結合している。)のDMF溶液に、ペンタフルオロエステル試薬(5)のDMF溶液を加え、室温で24時間攪拌した後、逆相分取クロマトグラフィーにより精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し。減圧濃縮することでMeCNを除去した後、凍結乾燥を行い、上記ペプチドーリンカー連結物を得た。
【0228】
MS(ESI)m/z : z=2 1179 [M+2H]2+, z=3 787 [M+3H]3+
【0229】
(3-3-3)ペンタフルオロエステル試薬(11)とAc-RGNCAYHKGQLVWCTYH-NH(配列番号1)とのカップリング
【化44】
上記アミノ酸配列はいずれも、配列番号1のアミノ酸配列である
【0230】
実施例3-1の手法に従い、既報(Angew.Chem.Int.Ed.,2019
,58,5592-5597)のペプチドであるAc-RGNCAYHKGQLVWCTYH-NH(配列番号1,ただし、4番目と14番目の2つのシステインは、それぞれ分子内でジスルフィド結合している。)のDMF溶液に、ペンタフルオロエステル試薬(11)のDMF溶液を加え、室温で24時間攪拌した後、逆相分取クロマトグラフィーにより精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し。減圧濃縮することでMeCNを除去した後、凍結乾燥を行い、上記ペプチドーリンカー連結物を得た。
【0231】
MS(ESI)m/z : z=2 1249 [M+2H]2+, z=3 833 [M+3H]3+
【0232】
(3-3-4)ペンタフルオロエステル試薬(11)とAc-FNMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIKDDC-NH(配列番号3)とのカップリング
【化45】
上記アミノ酸配列はいずれも、配列番号3のアミノ酸配列である。
【0233】
既報(Angew.Chem.Int.Ed.,2019,58,5592-5597)のペプチドであるAc-FNMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIKDDC-NH(配列番号3,ただし、5番目と34番目の2つのシステインは、それぞれ分子内でジスルフィド結合している。)のDMF溶液に、ペンタフルオロエステル試薬(11)のDMF溶液を加え、室温で24時間攪拌した後、逆相分取クロマトグラフィーにより精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し。減圧濃縮することでMeCNを除去した後、凍結乾燥を行い、上記ペプチドーリンカー連結物を得た。
【0234】
MS(ESI)m/z:z=3 1590[M+3H]3+,z=4 1193[M+4H]4+,z=5 954[M+5H]5+,z=6 795[M+6H]6+
【0235】
(3-3-5)ペンタフルオロエステル試薬(11)とAc-FNMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIKEEC-NH(配列番号4)とのカップリング
【化46】
上記アミノ酸配列はいずれも、配列番号4のアミノ酸配列である。
【0236】
実施例(3-2-3)で合成したAc-NMQCQRRFYEALHDPNLNEEQRNARIRSIKEEC-NH(配列番号4,ただし、5番目と34番目の2つのシステインは、それぞれ分子内でジスルフィド結合している。)のDMF溶液に、ペンタフルオロエステル試薬(11)のDMF溶液を加え、室温で24時間攪拌した後、逆相分取クロマトグラフィーにより精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し。減圧濃縮することでMeCNを除去した後、凍結乾燥を行い、上記ペプチドーリンカー連結物を得た。
【0237】
MS(ESI)m/z:z=3 1599[M+3H]3+,z=4 1200[M+4H]4+,z=5 960[M+5H]5+,z=6 800[M+6H]6+
【0238】
参考例1:その他の活性化エステル試薬を用いたペプチドとのカップリング
下記2種の活性化エステル試薬を実施例1-4に従い、化合物4より合成した。
【化47】
【0239】
参考例2:NHSエステル試薬(16)とAc-RGNCAYHKGQLVWCTYH-NHのペプチド(配列番号1とのカップリング
【化48】
上記アミノ酸配列はいずれも、配列番号1のアミノ酸配列である
【0240】
既報(Angew.Chem.Int.Ed.,2019,58,5592-5597)のペプチドであるAc-RGNCAYHKGQLVWCTYH-NHのペプチド(配列番号1, 50.9mg, 24.53μmol, ただし、4番目と14番目の2つのシステインは、それぞれ分子内でジスルフィド結合している。)をDMF(500μL)に溶解させ、NHSエステル試薬(1)のDMF溶液(145μL, 73.58μmol, 200mg/mL)を加え、室温で19時間攪拌した後、EtN(10.3μL, 73.58μmol)を加えてさらに2時間攪拌した後、、逆相分取クロマトグラフィーにより精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し。減圧濃縮することでMeCNを除去した後、凍結乾燥を行い、上記ペプチドーリンカー連結物(3.4mg, 1.45μmol)を収率6%で得た。
【0241】
参考例3:ニトロフェニルエステル試薬(17)とAc-RGNCAYHKGQLVWCTYH-NHのペプチド(配列番号1とのカップリング
【化49】
上記アミノ酸配列はいずれも、配列番号1のアミノ酸配列である
【0242】
既報(Angew.Chem.Int.Ed.,2019,58,5592-5597)のペプチドであるAc-RGNCAYHKGQLVWCTYH-NHのペプチド(配列番号1,52.2mg,25.15μmol,ただし、4番目と14番目の2つのシステインは、それぞれ分子内でジスルフィド結合している。)をDMF(500μL)に溶解させ、ニトロフェニルエステル試薬(17)のDMF溶液(158μL, 73.46μmol, 200mg/mL)を加え、室温で23時間攪拌した後、逆相分取クロマトグラフィーにより精製した。生成物が含まれるフラクションを回収し、減圧濃縮することでMeCNを除去した後、凍結乾燥を行い、上記ペプチドーリンカー連結物(17.5mg,8.80μmol)を31%で得た。
【0243】
上記収率をまとめると、以下のとおりである。
【0244】
【表1】
【0245】
したがって、ペンタフルオロフェニルエステル試薬が他の活性エステルより優位にペプチドと反応することが確認された。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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