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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010541
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】充填材検査システム
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20240117BHJP
   E01D 19/12 20060101ALI20240117BHJP
   G01B 11/25 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
E01D22/00 A
E01D19/12
G01B11/25
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111931
(22)【出願日】2022-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】508036743
【氏名又は名称】株式会社横河ブリッジ
(71)【出願人】
【識別番号】522279863
【氏名又は名称】エム・キュービック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 豊
(72)【発明者】
【氏名】亀川 博文
(72)【発明者】
【氏名】古川 聖
(72)【発明者】
【氏名】細見 直史
(72)【発明者】
【氏名】三上 浩一
【テーマコード(参考)】
2D059
2F065
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2F065AA25
2F065CC14
2F065DD03
2F065FF02
2F065GG04
2F065HH05
2F065MM07
2F065PP22
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち帯状の接続空間に間詰めされた充填材の出来形検査を従来技術に比して容易に行うことができる充填材検査システムを提供することである。
【解決手段】本願発明の充填材検査システムは、隣接する版状部材の間に生じる帯状の接続空間に間詰めされた充填材の出来形を検査するシステムであって、走行体と測距手段、出来形判定手段を備えたものである。測距手段が隣接する一方の版状部材から他方の版状部材のライン状にレーザを照射して1側線の表面高を測定し、出来形判定手段が1側線の表面高から版状部材の表面と充填材の表面との高低差を算出するとともに許容範囲と比較することによって充填材の出来形を不良として判定する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する版状部材の間に生じる帯状の接続空間に間詰めされた充填材の出来形を検査するシステムであって、
前記接続空間の軸方向に走行する手押し式、又は自走式の走行体と、
前記走行体に設置され、前記充填材の方向に照射されたレーザに基づいて距離を測定する測距手段と、
前記充填材の出来形の良否を判定する出来形判定手段と、を備え、
前記測距手段は、前記走行体の走行方向に対して垂直、又は略垂直な方向にライン状に、しかも隣接する一方の前記版状部材の一部から他方の前記版状部材の一部までレーザを照射することで、2つの該版状部材の一部と前記充填材を含む1側線の表面高を測定し、
前記出来形判定手段は、前記1側線の表面高から前記版状部材の表面と前記充填材の表面との高低差を算出するとともに、該高低差があらかじめ定めた許容範囲を超えるときに該充填材の出来形を不良として判定する、
ことを特徴とする充填材検査システム。
【請求項2】
前記測距手段は、前記走行方向に対して垂直、又は略垂直な方向に離れて配置される左測距手段、及び右測距手段を含んで構成され、
前記左測距手段は、前記走行方向における左側の前記版状部材の一部から前記充填材までレーザを照射し、
前記右測距手段は、前記走行方向における右側の前記版状部材の一部から前記充填材までレーザを照射する、
ことを特徴とする請求項1記載の充填材検査システム。
【請求項3】
前記左測距手段と前記右測距手段は、前記走行方向に対して垂直、又は略垂直な方向にスライド可能となるように、前記走行体に設置された、
ことを特徴とする請求項2記載の充填材検査システム。
【請求項4】
前記測距手段は、上下にスライド可能となるように、前記走行体に設置された、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の充填材検査システム。
【請求項5】
前記出来形判定手段が不良として判定すると、前記充填材、又は前記版状部材の表面にマーキングするマーキング手段を、さらに備えた、
ことを特徴とする請求項1記載の充填材検査システム。
【請求項6】
前記走行体の位置を測定する位置測定手段と、
不良の情報を記憶手段に記憶させる制御手段と、をさらに備え、
前記制御手段は、前記出来形判定手段が不良として判定したとき、前記位置測定手段によって測定された位置とともに不良の情報を記憶させる、
ことを特徴とする請求項1記載の充填材検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、帯状の空間に間詰めされた充填材に関するものであり、より具体的には、走行しながらライン状にレーザを照射することによって充填材の出来形を検査することができる充填材検査システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国は、国土の大半が山間部で占められ、しかも急峻な地形であることから、地方に整備されるほとんどの道路には橋梁が配置されている。一方、都市部では無数の構造物が密集しているためそこへ新たな道路を計画するとなれば、やはり高架橋や跨道橋などが必要とされる。橋梁は、損壊時における社会的影響を考えるまでもなく極めて重要な構造物であり、そのため古くから「道路橋示方書・同解説(公益社団法人日本道路協会)」などを整備して厳格に設計され、そして高い品質をもって施工されている。このように高い品質が求められる一方で、社会的要請と技術力の進歩からより短期間でより経済的に橋梁を建設することが求められるようになってきた。
【0003】
橋梁の上部工を構成する床版は、新設時に設置されるのは当然のことながら、既設橋の改修時にも設置されることがある。近年、既設橋の改修工事が頻繁に行われるようになり、これに伴って例えば維持管理が容易な床版に取り換える動きもみられる。いずれにしろ橋梁工事は急速施工が要請されるところであり、例えば高速道路などの高架橋は膨大な交通量を確保しているため供用停止による経済的損失を考えると一日でも早く工事を完成することが必要となる。
【0004】
以上のような背景から、橋梁の床版にはプレキャストによるコンクリート床版が多用されるようになってきた。ここで「プレキャスト」とは、工場や製造ヤードなど現地(施工現場)とは異なる場所で、あらかじめ製品や部材を製作しておくことであり、このプレキャストによって製作されたコンクリート床版は「プレキャストコンクリート床版」と呼ばれる。従来の場所打ちコンクリート工法は、型枠設置からコンクリート打設、さらには養生期間と、施工現場を長い期間占有しなければならなかったが、これに対してプレキャストコンクリート床版の場合、製作は工場で行われ、しかも容易に設置できるため、施工現場を占有する期間を短縮することができるわけである。
【0005】
一方で、プレキャストコンクリート床版は、製作場所から施工現場まで公道の輸送を伴うため、あまり大きな部材とすることができない。したがって、複数のプレキャストコンクリート床版を橋軸方向(あるいは橋軸直角方向)に配置することとなり、隣接するプレキャストコンクリート床版の間には帯状の隙間(以下、「継手空間」という。)が生じることとなる。通常、この継手空間には、必要量の鉄筋を配置したうえでコンクリートやモルタルなどが間詰めされ、すなわち継手部を形成することによってプレキャストコンクリート床版を連結している。これまで、この継手部の構造や施工方法に関しては種々の改良技術が提案されており、例えば特許文献1では容易かつ短期間でしかも低コストで形成することができる継手構造について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-225144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
プレキャストコンクリート床版は、工場で製作されることもあってその表面は高い精度で平坦とされる。これに対して継手空間に間詰めされるコンクリート等は、いわば場所打ちによるためある程度凹凸となることが避けられない。そこで、間詰めされたコンクリート等の形状や寸法(つまり、出来形)の検査を実施するのが一般的である。例えば、「床版防水の下地処理に関するガイドライン(東日本高速道路株式会社)」では、プレキャストコンクリート床版と間詰め部の段差に関して「3mm以上の段差がなく、なだらかな面であること」と規定しており、その検査は型取りゲージ(横一列に並んだ針を凹凸面に押し当てて形状を測定する機器)を利用することとしている。ただし、このゲージは凹凸形状が測定できても凹凸の段差の量は直接算出できないため、ゲージの凹凸形状に別途、ノギスなどの測定器を当てて算出しなければならない。そのため、間詰めコンクリートの出来形検査には手間がかかり相当の時間を要するうえに、点検者に大きな負担がかかるとともに測定誤差や不具合個所を見逃すおそれすらあった。また、型取りゲージはコンクリートと直接接触させて検査するため、間詰め直後の軟らかいコンクリートの状態では針がコンクリート内部に食い込み、検査することができない。そのため、コンクリートが固まるまで待機して検査を行うこととなるが、出来形に不具合が生じた場合は硬化したコンクリート表面をグラインダー等の動力機械を用いて研削するなどの修正が必要となり、多大な労力がかかるとともに研削に伴う粉塵が周囲に飛散し、環境面でも問題となっている。
【0008】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち版状部材の間に生じる帯状の隙間(以下、「接続空間」という。)に間詰めされた充填材の出来形検査を従来技術に比して容易に行うことができる充填材検査システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、平坦なプレキャストコンクリート床版、そして間詰めされた充填材の双方にライン状のレーザを照射することでコンクリートに直接触れることなく両者の高低差を測定する、という点に着目してなされたものであり、従来にはない発想に基づいて行われた発明である。
【0010】
本願発明の充填材検査システムは、隣接する版状部材の間に生じる帯状の接続空間に間詰めされた充填材の出来形を検査するシステムであって、走行体と測距手段、出来形判定手段を備えたものである。このうち走行体は、手押し式あるいは自走式とされ接続空間の軸方向に走行するものである。また走行体に設置される測距手段は、充填材に照射されたレーザに基づいて距離を測定する手段であり、出来形判定手段は、充填材の出来形の良否を判定する手段である。なお測距手段は、走行体の走行方向に対して略垂直(垂直を含む)な方向にライン状に、しかも隣接する一方の版状部材の一部からと他方の版状部材の一部までレーザを照射することで、コンクリートに対して非接触で2つの版状部材の一部と充填材を含む「1側線の表面高」を測定する。そして出来形判定手段が、1側線の表面高から版状部材の表面と充填材の表面との高低差を算出するとともに、高低差があらかじめ定めた許容範囲を超えるときに充填材の出来形を不良として判定する。
【0011】
本願発明の充填材検査システムは、測距手段が左測距手段と右測距手段を含んで構成されたものとすることもできる。左測距手段と右測距手段は、走行方向の充填材に対して略垂直(垂直を含む)な方向に離れて配置され、左測距手段が走行方向における左側の版状部材の一部から充填材までレーザを照射するとともに、右測距手段が走行方向における右側の版状部材の一部から充填材までレーザを照射する。
【0012】
本願発明の充填材検査システムは、左測距手段と右測距手段が走行方向の充填材に対して略垂直(垂直を含む)な方向にスライド可能となるように設置されたものとすることもできる。
【0013】
本願発明の充填材検査システムは、測距手段が上下にスライド可能となるように設置されたものとすることもできる。
【0014】
本願発明の充填材検査システムは、マーキング手段をさらに備えたものとすることもできる。このマーキング手段は、出来形判定手段が不良として判定すると、充填材(あるいは版状部材)の表面にマーキングする手段である。
【0015】
本願発明の充填材検査システムは、位置測定手段と制御手段をさらに備えたものとすることもできる。この位置測定手段は、走行体の位置を測定する手段であり、制御手段は、不良の情報を記憶手段に記憶させる手段である。なお制御手段は、出来形判定手段が不良として判定したとき、位置測定手段によって測定された位置とともに不良の情報を記憶させる。
【発明の効果】
【0016】
本願発明の充填材検査システムには、次のような効果がある。
(1)点検者の経験や感覚に頼ることなく、定量的に出来形の良否を判定することができる。そのため、熟練した技術者など特定の者を確保する必要がなく、多くの点検者に依頼することができる。
(2)また、検査者の負担が軽減され、従来に比して容易かつ短期間で検査を行うことができる。その結果、労務費を低減するとともに工期を短縮することができる。
(3)さらに、定量的に出来形の良否を判定することから、不良個所の検出漏れなども低減することができる。
(4)コンクリートに直接接触せずに出来形が計測できるため、間詰め直後の軟らかいコンクリートの状態でも検査ができ、出来形に不具合が生じても軟らかいコンクリートをコテ等で再均しするだけで修正が可能となり、修正作業の手間が大きく削減できる。
(5)版状部材に横断勾配や縦断勾配があっても測定することができる。
(6)測距手段をはじめ測定に必要な機器をケーシングすることによって、天候に左右されることなく測定することができる。
(7)衛星測位システムなどを利用することによって無人で走行して計測することもでき、これにより例えば夜間での測定も可能となり省人化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)は継手空間を模式的に示す平面図、(b)は継手空間を模式的に示す部分断面図。
図2】本願発明の充填材検査システムの主な構成を示すブロック図。
図3】(a)は走行体とこれに搭載される各設備を模式的に示す断面図、(b)は走行体を模式的に示す断面図。
図4】(a)は測距手段がレーザを照射する状況を模式的に示す断面図、(b)は1回走査したレーザ照射によって得られる1側線の表面高を模式的に示す断面図。
図5】左側測距手段と右側測距手段によってレーザ照射された状況を模式的に示す断面図。
図6】(a)は左側測距手段と右側測距手段が1側線のうち左側をカバーするようにレーザを照射した状況を模式的に示す断面図、(b)は左側測距手段と右側測距手段が1側線のうち右側をカバーするようにレーザを照射した状況を模式的に示す断面図。
図7】左側測距手段と中央測距手段、右側測距手段が1側線全体をカバーするようにレーザを照射した状況を模式的に示す断面図。
図8】上下にスライド可能とされた水平支持バー略水平にスライド可能となるように取り付けられた2つの測距手段を模式的に示す断面図。
図9】(a)はふくらみが生じた充填材の出来形を模式的に示す断面図、(b)はへこみが生じた充填材の出来形を模式的に示す断面図、(c)は凸の段差が生じた充填材の出来形を模式的に示す断面図、(d)は凹の段差が生じた充填材の出来形を模式的に示す断面図。
図10】測距手段が側方に向かってレーザを照射する本願発明の充填材検査システムを模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本願発明の充填材検査システムの実施の例を、図に基づいて説明する。なお本願発明は、版状部材間の接続空間に充填材を間詰めする様々なケースで利用することができるが、便宜上ここでは、隣接するプレキャストコンクリート床版の間の「継手空間」に充填材を間詰めする例で説明する。
【0019】
図1は、プレキャストコンクリート床版PCの継手空間FSを模式的に示す図であり、(a)は上から見た平面図、(b)は鉛直面で切断した部分断面図である。図1(a)に示すように、プレキャストコンクリート床版PCは橋軸直角方向に一定の長さを有することから、継手空間FSも概ね直線状に一定の長さで形成される。便宜上ここでは、継手空間FSの長手方向(つまり、プレキャストコンクリート床版PCの継手軸方向のことであり、図では上下方向)のことを「継手軸方向」、接続軸方向に直交する水平方向のことを「継手軸直角方向」ということとする。
【0020】
図1(b)に示すように、左側プレキャストコンクリート床版PCLと右側プレキャストコンクリート床版PCRを突き合せることで継手空間FSが形成される。また、それぞれのプレキャストコンクリート床版PC端部には継手筋PBが設置されており、継手空間FS内にこの継手筋PBを配置した状態で充填材が間詰めされる。この充填材としては、通常のコンクリートを用いるのが一般的であるが、継手空間FSの形状や大きさによっては無収縮モルタルや繊維補強モルタル、ポリマーモルタルなど種々の材料を用いることができる。
【0021】
図2は、本願発明の充填材検査システム100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように本願発明の充填材検査システム100は、走行体101と測距手段102、出来形判定手段103を含んで構成され、さらにマーキング手段104や位置測定手段105、制御手段106、出力手段107、検査情報記憶手段108を含んで構成することもできる。
【0022】
充填材検査システム100を構成する主な要素のうち出来形判定手段103と制御手段106は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。このコンピュータ装置は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリ、マウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを具備するもので、パーソナルコンピュータ(PC)やサーバー、iPad(登録商標)といったタブレット型PC、スマートフォンを含む携帯端末などによって構成される。ディスプレイを具備したコンピュータ装置を利用する場合は、そのディスプレイを出力手段107として利用するとよい。
【0023】
検査情報記憶手段108は、汎用的コンピュータの記憶装置を利用することもできるし、データベースサーバーに構築することもできる。データベースサーバーに構築する場合、ローカルなネットワーク(LAN:Local Area Network)に置くこともできるし、インターネット経由で保存するクラウドサーバーとすることもできる。
【0024】
以下、本願発明の充填材検査システム100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0025】
(走行体)
図3は、走行体101を模式的に示す図であり、(a)は走行体101とこれに搭載される各設備を示す継手軸方向に見た断面図、(b)は走行体101を示す継手軸直角方向に見た断面図である。この図に示すように走行体101は、側板101Aや車輪101B、水平支持バー101C、鉛直支持バー101D、ハンドル101Eなどを含んで構成することができ、継手軸方向に沿って(つまり、接続軸方向に)走行することができるものである。例えば、モータやエンジンを搭載して自走可能とすることもできるし、ハンドル101Eを利用して手押し式とすることもでき、いずれにしろ車輪101Bが回転することによって走行体101は走行する。もちろん、車輪に代えてキャタピラを利用するなど、従来用いられている種々の移動技術を利用することもできる。
【0026】
また、図3(b)に示すように走行体101には、各設備に電気を供給するバッテリーBTや、パーソナルコンピュータ(PC)あるいはタブレット型PCといったコンピュータCTを搭載することができる。既述したようにこのコンピュータCTには、出来形判定手段103と制御手段106を構成するとよい。
【0027】
(測距手段)
測距手段102は、図1に示すように走行体101に設置され、充填材の方向(図では、下向き)にレーザを照射するものである。したがって、図3(a)に示すように走行体101が、継手空間FSに間詰めされた充填材MTを跨ぐように(つまり、測距手段102が充填材MTの直上に位置するように)走行すると、測距手段102は接続軸方向に移動しながら充填材MTやプレキャストコンクリート床版PCに対してレーザを照射することができる。また測距手段102は、照射したレーザに基づいて測距手段102(特に、レーザの照射点)からレーザの反射点(つまり、充填材MTやプレキャストコンクリート床版PCの表面)までの距離(以下、便宜上ここでは「表面距離」という。)を求めるものである。例えば、充填材MTやプレキャストコンクリート床版PCの表面で反射したレーザを測距手段102が受信し、レーザの照射時刻と反射レーザの受信時刻から表面距離を求める仕様とすることができる。さらに、レーザの照射方向を把握する機能を具備することによって、レーザの照射点を基準とするレーザの反射点の3次元座標を測定することもできる。あるいは、「カメラ内蔵レーザー変位センサ(株式会社キーエンス製)」など、従来用いられているレーザ測距装置を利用することもできる。
【0028】
図4(a)は、測距手段102がレーザを照射する状況を模式的に示す断面図である。この図に示すように測距手段102は、走行体101の走行方向に対して略垂直(垂直を含む)な方向(つまり、継手軸直角方向)に走査しながら、ライン状にレーザを照射する。また測距手段102は、隣接する一方のプレキャストコンクリート床版PCの一部から、他方のプレキャストコンクリート床版PCの一部までレーザを照射する。より具体的には、左側プレキャストコンクリート床版PCLを始点、右側プレキャストコンクリート床版PCRを終点とするように(もちろん逆でもよい)レーザを照射する。これによって、充填材MTの表面全体に対してレーザを照射することができる。便宜上ここでは、測距手段102が一回の走査によって照射されるレーザ範囲のことを「1側線」ということとする。
【0029】
上記したとおり測距手段102は、照射したレーザに基づいて表面距離を求めることができる。したがって図4(b)に示すように、1側線のレーザ照射によって、左側プレキャストコンクリート床版PCL表面の一部分(図では右側の一部)と、充填材MT表面の全部、そして右側プレキャストコンクリート床版PCR表面の一部分(図では左側の一部)の表面距離を得ることができ、すなわちそれぞれ表面の相対的な高さ(以下、「表面高」という。)である「1側線の表面高」を求めることができる。
【0030】
走行体101の走行中、測距手段102は定期的にレーザを照射し、1側線ごとに表面高を算出する。つまり、継手軸方向に一定間隔で1側線の表面高を求めるわけである。測距手段102によって得られる1側線の表面高は、制御手段106によってディスプレイといった出力手段107に表示する仕様とすることもできる。また制御手段106が、1側線の表面高を検査情報記憶手段108に記憶させる仕様とすることもできる。このとき、1側線の位置とともに、つまり1側線の表面高とその測定位置を関連付けた(紐づけた)うえで検査情報記憶手段108に記憶させるとよい。
【0031】
1側線の位置を得るには、走行体101に位置測定手段105を設置するとよい。この位置測定手段105は、走行中に走行体101(特に、測距手段102の照射位置)を測定するものであり、例えば、リニアエンコーダやロータリーエンコーダといった走行距離計や、衛星測位システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)の衛星受信機、追尾式トータルステーションなど従来用いられている種々の測位技術を採用することができる。走行距離計を利用する場合、各レーンの継手空間FSにおける走行体101の走行距離を測定することができ、衛星測位システムや追尾式トータルステーションを利用する場合は直接的に走行体101の座標を測定することができる。
【0032】
ところで、充填材MTの幅(継手軸直角方向の寸法)が広い場合、測距手段102によって照射された1側線が、左側プレキャストコンクリート床版PCLから右側プレキャストコンクリート床版PCRまで届かないこともある。この場合、走行体101が充填材MTの全長を継手軸方向に走行した後、継手軸直角方向に位置をずらしたうえでもう一度、充填材MTの全長を継手軸方向に走行するとよい。これにより、つまり2回分のレーザ照射によって、左側プレキャストコンクリート床版PCLから右側プレキャストコンクリート床版PCRまで網羅した1側線が得られるわけである。
【0033】
あるいは、2以上の測距手段102を継手軸直角方向に離して配置することもできる。例えば図5に示すように、継手軸直角方向に間隔をあけて左側測距手段102Lと右側測距手段102Rを走行体101に設置することができる。これによって、充填材MTの幅がある程度広くても、走行体101が充填材MTの全長を1回走行するだけで、左側プレキャストコンクリート床版PCLから右側プレキャストコンクリート床版PCRまで網羅した1側線が得られるわけである。もちろん、2つの測距手段102を配置しても2つのプレキャストコンクリート床版PCを網羅しないときは、図6に示すように、できる限り1側線をカバーするように走行体101が走行し、これを2回以上繰り返すことによって2つのプレキャストコンクリート床版PCを網羅した1側線を得るとよい。例えば図6では、まず(a)に示すように左側測距手段102Lと右側測距手段102Rが1側線のうち左側をカバーするようにレーザを照射しており、その後、(b)に示すように左側測距手段102Lと右側測距手段102Rが1側線のうち右側をカバーするようにレーザを照射することで、1側線を網羅するように測定している。あるいは図7に示すように、左側測距手段102Lと中央測距手段102C、右側測距手段102Rを配置して、これら3つ(もちろん4つ以上でもよい)の測距手段102が1側線を網羅するようにレーザを照射することもできる。
【0034】
図3(a)に示すように測距手段102は、鉛直支持バー101Dに支持された水平支持バー101Cに取り付けることができる。また図8に示すように、水平支持バー101Cが上下にスライド可能となるように、鉛直支持バー101Dが水平支持バー101Cを支持する構造とすることもできる。この場合、水平支持バー101Cの高さを調整することによって測距手段102の高さ、つまりレーザの照射高さを調整することができて好適となる。
【0035】
さらに2以上の測距手段102を配置する場合、測距手段102が略水平(水平を含む)にスライド可能となるように水平支持バー101Cに取り付けることもできる。走行体101の走行中、水平支持バー101Cは継手軸直角方向に配置されることから、測距手段102の水平位置を調整することによって、レーザの照射位置を左右に調整することができて好適となる。なお、1の測距手段102を配置する場合は、走行体101の走行位置(継手軸直角方向における位置)を調整することでレーザの照射位置を左右に調整することができるため、測距手段102を略水平にスライド可能とするメリットはあまりないものの、もちろん1の測距手段102であっても略水平(水平を含む)にスライド可能となるように水平支持バー101Cに取り付けることもできる。
【0036】
(出来形判定手段)
出来形判定手段103は、測距手段102によって得られた1側線の表面高に基づいて充填材MTの出来形の良否を判定する手段である。既述したとおりプレキャストコンクリート床版PCの表面は高い精度で平坦とされるが、これに対して継手空間FSに間詰めされた充填材MTはある程度凹凸となることが避けられない。また、隣接する2つのプレキャストコンクリート床版PCは、その表面高が略同じとなるように設置されるのが一般的である。つまり図9に示すように、左右のプレキャストコンクリート床版PCの表面を基準面とすれば、充填材MTの凹凸を評価することができる。図9は充填材MTの出来形を模式的に示す断面図であり、(a)はふくらみが生じた充填材MT、(b)はへこみが生じた充填材MT、(c)は凸の段差が生じた充填材MT、(d)は凹の段差が生じた充填材MTをそれぞれ示している。
【0037】
出来形判定手段103が充填材MTの出来形の良否を判定する手順について詳しく説明する。まず、1側線の表面高に基づいて、充填材MTの表面高とプレキャストコンクリート床版PCの表面高(以下、「基準高」という。)との最も大きな高低差(以下、「最大較差δ」という。)を抽出する。1側線の表面高には、左側プレキャストコンクリート床版PCLと右側プレキャストコンクリート床版PCRの表面高が含まれ、さらに充填材MTの表面高が含まれていることから、この最大較差δを抽出することができるわけである。そして、あらかじめ定めた許容範囲と最大較差δを照らし合わせ、最大較差δが許容範囲内にあるときはその位置における充填材MTの出来形を「正常」として判定し、最大較差δが許容範囲を超えるときはその充填材MTの出来形を「不良」として判定する。この許容範囲としては、充填材MTの表面高が基準高よりも高いときはその差分を正の値、低いときはその差分を負の値としたとき、例えば、―3mm以上かつ3mm以下としたり、-2mm以上かつ1mm以下としたりすることができる。
【0038】
また、出来形判定手段103が不良として判定したときに、制御手段106がその充填材MTの出来形に係る情報(以下、「検査情報」という。)を検査情報記憶手段108に記憶させる仕様とすることができる。もちろん、出来形判定手段103が正常として判定したときも、制御手段106が検査情報を検査情報記憶手段108に記憶させることもできる。この検査情報には、出来形の良否(不良/正常)や、位置測定手段105によって測定された1側線の位置(走行体101が走行した距離程や、座標など)、測定時刻などを含めることができる。
【0039】
また、出来形判定手段103が不良として判定したときに、マーキング手段104にマーキングさせることもできる。このマーキング手段104は、走行体101に搭載され、移動中にスプレーやチョークなどでマーキングすることができるものである。具体的には、出来形判定手段103が不良として判定すると、そのタイミングで制御手段106がマーキング手段104に操作指令を伝達し、これに伴ってマーキング手段104が充填材MTの表面やプレキャストコンクリート床版PCの表面にマーキングするわけである。
【0040】
(その他の機能)
本願発明の充填材検査システム100は、出来形判定手段103に記憶された検査情報を帳票に出力する機能や、測距手段102の測定データ(1側線の表面高)に基づいて充填材MTの3次元モデルを生成する機能を有することができる。さらに、移動中に動画を記録することができる撮影手段を走行体101に搭載することもできるし、出来形判定手段103が不良と判定した充填材MTに対してその場で自動的に修正するロボットアームを走行体101に搭載することもできる。
【0041】
(使用例)
本願発明の充填材検査システム100を使用する例について説明する。充填材検査システム100を所定位置に配置すると、検査者がハンドル101Eを握って走行体101を継手軸方向に押していく。走行体101が走行すると、定期的に測距手段102がレーザを照射して「1側線の表面高」を測定するとともに、出来形判定手段103がその1側線の表面高に基づいて充填材MTの出来形の良否を判定する。そして、出来形判定手段103が不良として判定すると、制御手段106が検査情報を検査情報記憶手段108に記憶させ、同時にマーキング手段104にマーキングさせる。この一連の手順を全レーンの継手空間FS(例えば、図1(a)では4レーン)に対して繰り返し実施し、検査を終了する。検査終了後は、マーキング手段104のマーキングを頼りに充填材MTを補修していく。
【0042】
(変形例)
ここまで、測距手段102が下方に向かってレーザを照射する例で説明したが、本願発明の充填材検査システム100は、図10に示すように測距手段102が側方に向かってレーザを照射するもの、あるいは測距手段102が上方に向かってレーザを照射するものとすることもできる。また、測距手段102の配置を変更することができる仕様とし、状況に応じて、下方に向かってレーザを照射するように測距手段102を配置したり、側方に向かってレーザを照射するように測距手段102を配置したり、上方に向かってレーザを照射するように測距手段102を配置したりすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本願発明の充填材検査システムは、橋梁床版の継手空間に間詰めされる充填材のほか、版状部材の間の接続空間に間詰めされる様々な充填材に利用することができる。本願発明が、良好な構造物を提供し、いわば高品質な社会資本(インフラストラクチャー)を提供するとともに検査者の負担を低減し省力化に寄与することを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0044】
100 本願発明の充填材検査システム
101 (充填材検査システムの)走行体
101A (走行体の)側板
101B (走行体の)車輪
101C (走行体の)水平支持バー
101D (走行体の)鉛直支持バー
101E (走行体の)ハンドル
102 (充填材検査システムの)測距手段
102C (測距手段の)中央距手段
102L (測距手段の)左測距手段
102R (測距手段の)右測距手段
103 (充填材検査システムの)出来形判定手段
104 (充填材検査システムの)マーキング手段
105 (充填材検査システムの)位置測定手段
106 (充填材検査システムの)制御手段
107 (充填材検査システムの)出力手段
108 (充填材検査システムの)検査情報記憶手段
BT バッテリー
CT コンピュータ
FS 継手空間
MT 充填材
PB 継手筋
PC プレキャストコンクリート床版
PCL 左側プレキャストコンクリート床版
PCR 右側プレキャストコンクリート床版
図1
図2
図3
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図8
図9
図10