(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105413
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】透光性樹脂組成物、粘着剤、光学用フィルム、並びに表示装置
(51)【国際特許分類】
C08L 101/12 20060101AFI20240730BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20240730BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20240730BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20240730BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C08L101/12
G02B5/30
C09J201/00
C09J11/08
C08K7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024074908
(22)【出願日】2024-05-02
(62)【分割の表示】P 2023552578の分割
【原出願日】2023-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2022120674
(32)【優先日】2022-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000105877
【氏名又は名称】サイデン化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591061046
【氏名又は名称】小池 康博
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田 純久
(72)【発明者】
【氏名】小池 康博
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 詩月
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ユーザが表示画面を観察する場合において表示画面の画像の色の変化を抑制する透光性樹脂組成物、粘着剤、光学用フィルム、および表示装置を提供する。
【解決手段】透光性樹脂組成物は、透明樹脂と、平均粒子径2~100μmの天然繊維と、を備え、偏光解消用である。
【選択図】
図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂と、
平均粒子径2~100μmの天然繊維と、を備え、
偏光解消用である、
透光性樹脂組成物。
【請求項2】
透明樹脂と、
最大リタデーション300~1300nmと平均粒子径2~100μmとを有する天然繊維と、を備え、
前記透明樹脂100質量部に対して、前記天然繊維1~20質量部で含有する、
偏光解消用である、
透光性樹脂組成物。
【請求項3】
前記天然繊維の複屈折Δnは0.013~0.15であり、
前記透明樹脂100質量部に対して、前記天然繊維1~20質量部で含有する、
請求項1に記載の透光性樹脂組成物。
【請求項4】
前記天然繊維は、植物繊維と動物繊維との少なくとも一方を含む、
請求項1又は2に記載の透光性樹脂組成物。
【請求項5】
前記天然繊維は、セルロース繊維、コットン、シルク、及びウールのいずれかを含む、
請求項1又は2に記載の透光性樹脂組成物。
【請求項6】
前記透明樹脂は、ビニル系樹脂、重縮合系樹脂、重付加系樹脂、付加縮合系樹脂、及び開環重合系樹脂のいずれかを含む、
請求項1又は2に記載の透光性樹脂組成物。
【請求項7】
前記透明樹脂は、ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、フッ素樹脂、及び(メタ)アクリル系樹脂のいずれかを含む、
請求項6に記載の透光性樹脂組成物。
【請求項8】
前記透明樹脂は、ポリエステル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、及び環状オレフィン樹脂のいずれかを含む、
請求項6に記載の透光性樹脂組成物。
【請求項9】
前記透明樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体又は共重合体を含む、
請求項6に記載の透光性樹脂組成物。
【請求項10】
被着材間を接着する、
請求項1又は2に記載の透光性樹脂組成物からなる粘着剤。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の透光性樹脂組成物からなるフィルムである、光学用フィルム。
【請求項12】
偏光状態の光を出射する表示装置であって、
前記表示装置の観察者側に配置される光学用フィルムと粘着剤の少なくともいずれかを備え、
前記光学用フィルムと前記粘着剤の少なくともいずれかは、請求項1又は2に記載の透光性樹脂組成物を含む、
表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光性樹脂組成物、粘着剤、光学用フィルム、並びに表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、液晶層と、液晶層を挟んで配置された互いに透過偏光方向が直交する2つの偏光板と、を備えている。従って、液晶表示装置の表示画面から出射される光は、直線偏光の光となる。なお、光を偏光状態で出射する装置であれば、液晶表示装置に限られるものではない。例えば、偏光サングラスを装着したユーザが表示画面を観察する場合、ユーザが視認する表示画面の明るさは、偏光サングラスなしに表示画面を観察した場合よりも低下する。これは、表示画面からの出射光の偏光方向と偏光サングラスの透過偏光方向との成す角度に応じて、表示画面からの出射光が偏光サングラスを透過しないためである。例えば、出射光の偏光方向と偏光サングラスの透過偏光方向とが直交する場合、偏光サングラスを装着したユーザは表示画面を全く視認できなくなってしまう。このような現象はブラックアウトと呼ばれる。そこで、偏光サングラスを装着したユーザが表示画面を観察する際の視認性の低下の問題を解決するために、以下の技術が提案されている。
【0003】
特許文献1は、液晶表示装置においてユーザの視認側の偏光板よりもさらにユーザ側に位相差板(1/4波長板)を設けることで、表示画面からの直線偏光を円偏光に変換する技術を開示している。
【0004】
特許文献2は、液晶表示装置においてユーザの視認側の偏光板よりもさらにユーザ側に複屈折性が非常に高い(すなわち、リタデーションが非常に大きい)高分子フィルムを設けることで、偏光板と高分子フィルムとの間に生じる波長に応じた透過率の変動の周期を短くする技術を開示している。
【0005】
特許文献3は、可視光に対して透明な媒質と、媒質内に分散した複屈折性を有する複数の結晶材料と、を備えることで、入射した可視光の偏光状態がランダム化され、透明な媒質に入射した可視光よりも偏光度が低下した可視光を出射する技術を開示している。
【0006】
特許文献4は、極短繊維を透光性樹脂に分散したフィルムを用いることで直線偏光を解消する技術を開示している。
【0007】
特許文献5は、透明なマトリックス材料に極短繊維を含有させることで、直線偏光を解消する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-352068号公報
【特許文献2】特開2011-107198号公報
【特許文献3】国際公開2019/026854号
【特許文献4】特開2009-217192号公報
【特許文献5】特開2008-310310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1の技術では、位相差板における位相差の波長依存性(分散特性)が考慮されていないため、ユーザは表示画面の色むらを認識する。特許文献2の技術では、液晶表示装置の光源として個々の発光スペクトルのスペクトル幅が比較的狭い、赤色、緑色及び青色発光ダイオード(RGB-LED)を組み合わせたものを使用した場合に、ユーザは表示画面の色むらを認識する。特許文献3の技術では、表示画面の鮮明度やコントラスト比が十分ではない。特許文献4の技術では、フィルムのヘイズが大きいことにより、色度変化量、鮮明度、及びコントラストが良好ではない。特許文献5の技術では、ユーザが表示画面を視認した際の色度変化量、鮮明度、及びコントラスト比が十分ではない。このように、特許文献1~特許文献5の技術では、ユーザが表示画面を観察すると、表示画面の画像の色が本来の色とは異なる色で表示されるといった課題がある。
【0010】
そこで、本発明は、ユーザが表示画面を観察する場合において表示画面の画像の色の変化を抑制する透光性樹脂組成物、粘着剤、光学用フィルム、並びに表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的を達成するために、本発明の一実施形態に係る透光性樹脂組成物は、以下の構成を備える。すなわち、透光性樹脂組成物は、透明樹脂と、平均粒子径2~100μmの天然繊維と、を備え、偏光解消用である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ユーザが表示画面を観察する場合において表示画面の画像の色の変化を抑制する透光性樹脂組成物、粘着剤、光学用フィルム、並びに表示装置を提供することができる。
【0013】
本発明のその他の特徴及び利点は、添付図面を参照とした以下の説明により明らかになるであろう。なお、添付図面においては、同じ若しくは同様の構成には、同じ参照番号を付す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
添付図面は明細書に含まれ、その一部を構成し、本発明の実施の形態を示し、その記述と共に本発明の原理を説明するために用いられる。
【
図1A】シルクパウダー含有のアクリル粘着剤の偏光顕微鏡写真を示す図。
【
図1C】シルクパウダーの一例を示すSEM画像を示す図。
【
図2A】シルクパウダーSPのSEM画像を示す図。
【
図2B】シルクパウダーS15のSEM画像を示す図。
【
図2C】シルクパウダーナーヴィスナテュラスのSEM画像を示す図。
【
図3】本実施形態に係る表示装置の一例を示す分解斜視図。
【
図4A】実施例3の光学用フィルムを貼付した表示画面を直交ニコル状態で撮影した画像を示す図。
【
図4B】比較例1の光学用フィルムを貼付した表示画面を直交ニコル状態で撮影した画像を示す図。
【
図6】透過率波長依存性の評価方法を説明するための概要図。
【
図7A】測定条件1の参考例の色度測定結果を示す図。
【
図7B】測定条件1の実施例3(計測形態1)の色度測定結果を示す図。
【
図7C】測定条件1の実施例3(計測形態2)の色度測定結果を示す図。
【
図7D】測定条件1の実施例5(計測形態1)の色度測定結果を示す図。
【
図7E】測定条件1の実施例5(計測形態2)の色度測定結果を示す図。
【
図7F】測定条件1の実施例6(計測形態1)の色度測定結果を示す図。
【
図7G】測定条件1の実施例6(計測形態2)の色度測定結果を示す図。
【
図7H】測定条件1の比較例7の色度測定結果を示す図。
【
図8A】測定条件2の参考例の色度測定結果を示す図。
【
図8B】測定条件2の実施例3(計測形態1)の色度測定結果を示す図。
【
図8C】測定条件2の実施例3(計測形態2)の色度測定結果を示す図。
【
図8D】測定条件2の実施例5(計測形態1)の色度測定結果を示す図。
【
図8E】測定条件2の実施例5(計測形態2)の色度測定結果を示す図。
【
図8F】測定条件2の実施例6(計測形態1)の色度測定結果を示す図。
【
図8G】測定条件2の実施例6(計測形態2)の色度測定結果を示す図。
【
図8H】測定条件2の比較例7の色度測定結果を示す図。
【
図9A】平行ニコル状態における透過率波長依存性を示す図。
【
図9B】直交ニコル状態における透過率波長依存性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴は任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0016】
<透光性樹脂組成物>
本発明の一実施形態に係る透光性樹脂組成物は、透明樹脂と、平均粒子径2~100μmの天然繊維と、を備え、偏光解消用である。
【0017】
本発明の一実施形態に係る透光性樹脂組成物は、透明樹脂と、最大リタデーション300~1300nmと平均粒子径2~100μmとを有する天然繊維とを備え、透明樹脂100質量部に対して、天然繊維1~20質量部で含有し、偏光解消用である。
【0018】
ここで、透光性樹脂組成物が、上記で規定された平均粒子径及び/又は最大リタデーションの天然繊維を含有することにより、後述の光学用フィルム等を貼付した表示画面の画像の色の変化を抑制する効果が生じるメカニズムを説明する。
【0019】
図1Aは、シルクパウダー含有のアクリル粘着剤の偏光顕微鏡写真を示す図である。シルクパウダーとは、発明者が本発明に係る事前検討に用いたシルクパウダーのことをいい、後述のシルクパウダーSPと同等程度の平均粒子径(約20μm)を有するシルクパウダーのことである。なお、アクリル粘着剤とは、後述の実施例9のアクリル粘着剤のことである。
【0020】
図1Bは、
図1Aの全体図のうちの一部を拡大した図である。
図1Cは、シルクパウダーの一例を示すSEM画像を示す図である。
【0021】
図1Bに示す干渉色に基づいてシルクパウダーのリタデーションRの最大値は600~700nmであり、シルクパウダーの平均粒子径(厚み)tは約8μmである。ここで、シルクパウダーのリタデーションRの最大値の判定方法について説明する。偏光顕微鏡(BX51,オリンパス株式会社)にフィルムをセットし、直交ニコル状態でシルクパウダーの干渉色を観察した。リタデーションRと干渉色の関係を表した干渉色チャートと、
図1Bのシルクパウダーの粒子の干渉色とを対比させることで、観察された干渉色に対応する最大リタデーションRを判定した。最大リタデーションRが600~700nmである場合、粒子の微小領域にあらゆる干渉色が分布する。発明者は、粒子の微小領域にあらゆる干渉色が分布することが、画像の色の変化の抑制に寄与することを見出した。ここで、シルクパウダーの複屈折Δnは、リタデーションR、平均粒子径t、及び以下の式1により算出される。よって、複屈折Δnは0.075~0.0875である。
Δn=R/t (式1)
【0022】
シルクパウダーの複屈折Δn(=0.075~0.0875)は、カルサイトの複屈折Δn(=0.172)よりも小さい。以上の通り、本実施形態ではシルクパウダーの最大リタデーションRに基づいて、シルクパウダーの複屈折Δnを判定した。また、発明者は、上記で算出したシルクパウダーの複屈折Δnと後述の試験結果等に基づき、画像の色の変化を抑制する効果が得られるシルクパウダーの複屈折Δnの数値範囲を詳細に検討した。よって、一実施形態に係るシルクパウダーの複屈折Δnは、画像の色の変化を抑制する観点から、0.013~0.15、0.014~0.15、0.016~0.15、0.018~0.15、0.020~0.15、又は0.022~0.15である。ここで、発明者は、低複屈折Δnのシルクパウダーを含有したアクリル粘着剤では、直交ニコル状態において表示画面の画像の色の変化を抑制する効果があることを見出した。そこで、発明者は、透光性樹脂組成物に含有させる天然繊維の平均粒子径を様々な大きさに変更し、天然繊維の低複屈折Δnを利用することで、表示画面の画像の色の変化を抑制する検討を行った。
【0023】
一実施形態に係る透光性樹脂組成物は、透明樹脂中に天然繊維を均一に分散させて透過性を高める観点から、透明樹脂100質量部に対して、天然繊維を20質量部以下、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下含有する。一方で、一実施形態に係る透光性樹脂組成物は、偏光解消性能を向上させる観点から、透明樹脂100質量部に対して、天然繊維を1質量部以上、好ましくは1.4質量部以上含有する。例えば、一実施形態に係る透光性樹脂組成物は、透明樹脂100質量部に対して、天然繊維を1~20質量部、好ましくは1.4~15質量部、より好ましくは1.4~10質量部含有する。
【0024】
(天然繊維)
天然繊維は、主原料が天然素材である繊維のことをいう。一実施形態に係る天然繊維は、植物繊維と動物繊維との少なくとも一方を含む。
【0025】
一実施形態に係る天然繊維の平均粒子径は、画像の鮮明度を高める観点から、2~100μm、好ましくは2~30μm、より好ましくは3~25μmである。ここで、天然繊維の平均粒子径が2μm未満である場合、画像の鮮明度が低下してしまう。また、天然繊維の平均粒子径が100μmを超える場合、画像の鮮明度が低下してしまう。
【0026】
一実施形態に係る天然繊維の最大リタデーションは、画像の色の変化を抑制する観点から、300~1300nm、300~1200nm、300~1100nm、又は300~1000nmである。ここで、天然繊維の最大リタデーションが300nm未満である場合、天然繊維の粒子の微小領域にあらゆる干渉色が分布しなくなるため画像の色が変化してしまう。また、天然繊維の最大リタデーションが1300nmを超える場合、天然繊維の粒子の微小領域にあらゆる干渉色が分布するが、画像の色が変化してしまう。
【0027】
一実施形態に係る天然繊維の複屈折Δnは、画像の色の変化を抑制する観点から、0.013~0.15、0.014~0.15、0.016~0.15、0.018~0.15、0.020~0.15、又は0.022~0.15である。ここで、天然繊維の複屈折Δnが0.013未満である場合、画像の色が変化してしまう。また、天然繊維の複屈折Δnが0.15を超える場合、画像の色が変化してしまう。
【0028】
図2Aは、シルクパウダーSPのSEM画像を示す図である。シルクパウダーSPは、本発明の透光性樹脂組成物に含まれる天然繊維である。シルクパウダーSPの平均粒子径は約20μmである。なお、本明細書の平均粒子径は、レーザー回折法によって測定される体積基準の粒度分布における累積50%となる粒子径(D50;メディアン径)を意味する。レーザー回折法を利用した粒度分布測定装置を用いて、平均粒子径を測定することができる。
【0029】
図2Bは、シルクパウダーS15のSEM画像を示す図である。シルクパウダーS15は、本発明の透光性樹脂組成物に含まれる天然繊維である。シルクパウダーS15の平均粒子径は約7~9μmである。
【0030】
図2Cは、シルクパウダーナーヴィスナテュラスのSEM画像を示す図である。シルクパウダーナーヴィスナテュラスは、本発明の透光性樹脂組成物に含まれる天然繊維である。シルクパウダーナーヴィスナテュラスの平均粒子径は約3~5μmである。
【0031】
植物繊維は、植物から採取される繊維であり、例えば、セルロース繊維、マニラアサ、麻、竹、ココナッツファイバー、綿(コットン)、ジュート、カポック、リネン、ラミー、及びサイザルアサを含む。なお、植物繊維は、上記のうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0032】
動物繊維は、動物から採取される繊維であり、例えば、アルパカ、アンゴラ、キャメル(ラクダの毛)、カシミア、モヘア(アンゴラヤギの毛)、パシュミナ、キビュート(ジャコウウシの毛)、絹(シルク)、ビクーニャ、及び羊毛(ウール)を含む。なお、動物繊維は、上記のうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0033】
一実施形態において、天然繊維としては、フィブロインのようなタンパク質の天然繊維(例えばシルク等)、又は多糖類の天然繊維(例えばセルロース等)を用いることができる。
【0034】
(透明樹脂)
透明樹脂は、透光性樹脂組成物の母材となる材料である。透明樹脂は、無機高分子、有機高分子、及び有機高分子と無機高分子とのハイブリッド高分子を含む。
【0035】
透明樹脂の「透明」とは、可視光域(360~830nm)の光に対するフィルムの厚さが50μmでの透過率が好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上であることを指す。
【0036】
一実施形態に係る透明樹脂の屈折率は、天然繊維による光散乱を抑制する観点から、1.4~1.7であり、好ましくは1.45~1.68である。
【0037】
無機高分子は、無機元素及び無機成分を含む高分子であり、天然高分子と合成高分子を含む。天然高分子は、ガラス、ケイ酸塩及び鉱物を含む。合成高分子は、ポリジメチルシロキサン、ポリカルボシラン、及びポリホスファゼンを含む。
【0038】
有機高分子は、炭素、水素、酸素、窒素などの有機化合物の主要な構成成分が繰り返し構造を形成する、天然高分子と合成高分子を含む。天然高分子は、例えば、セロハン及びトリアセチルセルロース等の再生セルロース系高分子を含む。合成高分子は、例えば、ビニル系樹脂、重縮合系樹脂、重付加系樹脂、付加縮合系樹脂、及び開環重合系樹脂を含む。
【0039】
(ビニル系樹脂)
ビニル系樹脂は、ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、フッ素樹脂、(メタ)アクリル系樹脂等の汎用樹脂、ビニル重合によって得られるエンジニアリングプラスチック、及びスーパーエンジニアリングプラスチック等を含む。
【0040】
ポリオレフィン系樹脂は、エチレン、プロピレン、スチレン、ブタジエン、ブテン、イソプレン、クロロプレン、イソブチレン、及びイソプレン等の単独重合体若しくは共重合体、又はノルボルネン骨格を有する環状オレフィン系樹脂を含む。
【0041】
塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル及び塩化ビニリデン等の単独重合体又は共重合体を含む。
【0042】
酢酸ビニル系樹脂は、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニルの加水分解体であるポリビニルアルコール、酢酸ビニルにホルムアルデヒドやn-ブチルアルデヒドを反応させたポリビニルアセタール、ポリビニルアルコールやブチルアルデヒド等を反応させたポリビニルブチラール等を含む。
【0043】
フッ素樹脂は、テトラクロロエチレン、ヘキフロロプロピレン、クロロトリフロロエチレン、フッ化ビリニデン、フッ化ビニル、及びペルフルオロアルキルビニルエーテル等の単独重合体又は共重合体を含む。
【0044】
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステル、及び(メタ)アクリルアミド類等の単独重合体又は共重合体を含む。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル及び/又はメタクリル」を意味する。
【0045】
(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸を含む。
【0046】
(メタ)アクリロニトリルは、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルを含む。
【0047】
(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸系単量体、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル等を含む。
【0048】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等を含む。
【0049】
シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸系単量体は、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル及びイソボルニル(メタ)アクリレート等を含む。
【0050】
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルは、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ブトキシエチル等を含む。
【0051】
(メタ)アクリルアミド類は、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-t-オクチル(メタ)アクリルアミド等のN置換(メタ)アクリルアミド等を含む。
【0052】
(重縮合系樹脂)
重縮合系樹脂は、アミド系樹脂及びポリカーボネートを含む。
【0053】
アミド系樹脂は、例えば、6,6-ナイロン、6-ナイロン、11-ナイロン、12-ナイロン、4,6-ナイロン、6,10-ナイロン、6,12-ナイロン等の脂肪族アミド系樹脂、フェニレンジアミン等の芳香族ジアミン、塩化テレフタロイル、塩化イソフタロイル等の芳香族ジカルボン酸、又はその誘導体とからなる芳香族ポリアミド等を含む。
【0054】
ポリカーボネートは、ビスフェノールAやその誘導体であるビスフェノール類と、ホスゲン又はフェニルジカーボネートとの反応物をいう。
【0055】
(重付加系樹脂)
重付加系樹脂は、エステル系樹脂、Uポリマー、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン類、ポリエーテルエーテルケトン、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ウレタン樹脂等を含む。
【0056】
エステル系樹脂は、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、不飽和ポリエステル等を含む。
【0057】
芳香族ポリエステルは、エチレングリコール、プロピレングリコール、及び1,4-ブタンジオール等のジオール類とテレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸との共重合体を含む。
【0058】
脂肪族ポリエステルは、ジオール類とコハク酸、吉草酸等の脂肪族ジカルボン酸との共重合体、グリコール酸や乳酸等のヒドロキシカルボン酸の単独重合体又は共重合体、ジオール類、脂肪族ジカルボン酸及びヒドロキシカルボン酸の共重合体等を含む。
【0059】
不飽和ポリエステルは、ジオール類、無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸、及び必要に応じてスチレン等のビニル単量体との共重合体を含む。
【0060】
Uポリマーは、ビスフェノールAやその誘導体であるビスフェノール類、テレフタル酸及びイソフタル酸等からなる共重合体を含む。
【0061】
液晶ポリマーは、p-ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、p,p'-ジオキシジフェノール、p-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸、ポリテレフタル酸エチレン等との共重合体を含む。
【0062】
ポリエーテルケトンは、4,4'-ジフルオロベンゾフェノンや4,4'-ジヒドロベンゾフェノン等の単独重合体又は共重合体を含む。
【0063】
ポリエーテルエーテルケトンは、4,4'-ジフルオロベンゾフェノンとハイドロキノン等との共重合体を含む。
【0064】
アルキド樹脂は、ステアリン酸、パルチミン酸等の高級脂肪酸と無水フタル酸等の二塩基酸、及びグリセリン等のポリオール等とからなる共重合体を含む。
【0065】
ポリイミド系樹脂は、無水ポリメリト酸や4,4'-ジアミノジフェニルエーテル等の共重合体であるピロメリト酸型ポリイミド、無水塩化トリメリト酸やp-フェニレンジアミン等の芳香族ジアミンとジイソシアネート化合物等とからなる共重合体であるトリメリト酸型ポリイミド、ビフェニルテトラカルボン酸、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、p-フェニレンジアミン等からなるビフェニル型ポリイミド、ベンゾフェノンテトラカルボン酸や4,4'-ジアミノジフェニルエーテル等からなるベンゾフェノン型ポリイミド、ビスマレイイミドや4,4'-ジアミノジフェニルメタン等からなるビスマレイイミド型ポリイミド等を含む。
【0066】
ポリスルホンは、4,4'-ジクロロジフェニルスルホンやビスフェノールA等の共重合体を含む。
【0067】
ポリフェニルレンスルフィドは、p-ジクロロベンゼンや硫化ナトリウム等の共重合体を含む。
【0068】
ポリエーテルスルホンは、4-クロロ-4'-ヒドロキシジフェニルスルホンの重合体を含む。
【0069】
ウレタン樹脂は、ジイソシアネート類とジオール類との共重合体である。
【0070】
ジイソシアネート類は、ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3-シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2'-ジフェニルメタンジイソシアネート等を含む。
【0071】
ジオール類は、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等の比較的低分子量のジオールや、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール等を含む。
【0072】
(付加縮合系樹脂)
付加縮合系樹脂は、フェノール樹脂、尿素樹脂、及びメラミン樹脂等を含む。
【0073】
フェノール樹脂は、フェノール、クレゾール、レゾルシノール、フェニルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等の単独重合体又は共重合体を含む。
【0074】
尿素樹脂は、ホルムアルデヒドと尿素の共重合体である。
【0075】
メラミン樹脂は、ホルムアルデヒドとメラミンの共重合体である。
【0076】
(開環重合系樹脂)
開環重合系樹脂は、ポリアルキレンオキシド、ポリアセタール、エポキシ樹脂等を含む。
【0077】
ポリアルキレンオキシドは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等の単独重合体又は共重合体を含む。
【0078】
ポリアセタールは、トリオキサン、ホルムアルデヒド、エチレンオキシド等の共重合体を含む。
【0079】
エポキシ樹脂は、エチレングリコール等の多価アルコールとエピクロロヒドリンとからなる脂肪族系エポキシ樹脂、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとからなる脂肪族系エポキシ樹脂等を含む。
【0080】
一実施形態に係る透明樹脂は、(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリスチレン、及びアセテート系樹脂のいずれかを含む。また、一実施形態に係る透明樹脂は、画像の鮮明度を高める観点から、ポリエステル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、及び環状オレフィン樹脂の少なくともいずれかを含む。
【0081】
(分散媒)
分散媒は、透光性樹脂組成物を含有するポリマー溶液を作製する際の有機溶媒であり、例えば、塩化メチレン及び酢酸エチルを含む。一実施形態に係る透光性樹脂組成物は、透明樹脂100質量部に対して、分散媒を300~800質量部、好ましくは400~700質量部、より好ましくは500~600質量部で含有する。
【0082】
<粘着剤>
本発明に係る粘着剤は透光性樹脂組成物を含み、異種材料の被着材間及び同種材料の被着材間を接着する。また、透光性樹脂組成物は、例えば、接着剤として用いられる。粘着剤又は接着剤は、後述の光学用フィルムと基材を接着することができる。異種材料からなる被着材間とは、例えば、有機材料の被着材と無機材料の被着材との間のことをいう。また、同種材料の被着材間とは、例えば、有機材料の被着材と有機材料の被着材との間のことをいう。
【0083】
<光学用フィルム>
光学用フィルムは、透光性樹脂組成物からなる層、及び、透光性樹脂組成物を熱溶融してフィルム状にしたものを含む。本発明に係る光学用フィルムは、光学用フィルム単体の形態のみならず、基材の少なくとも一方の面に光学用フィルムが設けられた形態も含む。なお、透光性樹脂組成物からなる層の態様は、硬化乾燥前に液体状であり、硬化乾燥後に固体状である。つまり、透光性樹脂組成物の硬化乾燥後において光学用フィルムは粘着性を有さない。この際、光学用フィルムは、上記の粘着剤及び/又は接着剤によって基材に対して接着され得る。
【0084】
一実施形態に係る光学用フィルム(基材を除く)の厚さは、1~120μm、好ましくは5~110μm、より好ましくは10~100μmである。
【0085】
基材は、例えば、シラン処理したガラス基板、プラスチック基板、及びプラスチックフィルム(PETフィルム等)である。
【0086】
透光性樹脂組成物を基材に塗布する方法は、例えば、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等を含む。上記いずれかの方法で透光性樹脂組成物を基材に塗布して塗膜を形成した後、60~200℃、好ましくは70~170℃、より好ましくは80~140℃で硬化乾燥する。
【0087】
一実施形態に係る光学用フィルムによる偏光度(%)は、偏光解消効果を得る観点で、好ましくは90%以下、より好ましくは87%以下である。
【0088】
一実施形態に係る光学用フィルムのヘイズ(%)は、表示画面の画像の色の変化を抑制する観点で、好ましくは50以下、より好ましくは40以下である。
【0089】
一実施形態に係る光学用フィルムによる色度変化量は、表示画面の画像の色の変化を抑制する観点で、好ましくは0.04以下、より好ましくは0.02以下である。
【0090】
一実施形態に係る光学用フィルムによるコントラスト比の割合は、表示画面の画像の色の変化を抑制する観点で、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上である。
【0091】
<表示装置>
図3は、本実施形態に係る表示装置の一例を示す分解斜視図である。なお、以下で説明する光学用フィルム1と粘着剤(不図示)は、本発明に係る透光性樹脂組成物を含むため、透光性樹脂組成物についての詳細な説明を省略する。
【0092】
一実施形態に係る偏光状態の光を出射する表示装置は、表示装置の観察者側に配置される光学用フィルムと粘着剤の少なくともいずれかを備える。一実施形態に係る光学用フィルムと粘着剤の少なくともいずれかは、透光性樹脂組成物を含む。
【0093】
表示装置100は、偏光状態の光を出射する装置であり、例えば、液晶表示装置(以下LCDとも呼ぶ)及び有機ELディスプレイを含む。表示装置100は、バックライト101と、偏光板102と、位相差フィルム103と、透明電極付きガラス基板104と、液晶層105と、透明電極付きガラス基板106と、RGBカラーフィルタ107と、位相差フィルム108と、偏光板109と、本実施形態の光学用フィルム1とが、この順番で積層した構成を有している。また、表示装置100の画面を保護する観点から、偏光板109と光学用フィルム1との間に不図示の保護フィルム(例えば、PETフィルム)が設けられても良い。なお、光学用フィルム1は、偏光板109又は保護フィルム(不図示)に対して本発明の粘着剤又は公知の粘着剤により接着され得る。ここで、表示装置100は、公知の構成の液晶表示装置に対して本発明の光学用フィルム1及び粘着剤を組み込んだ構成を有することができる。また、表示装置100は、光学用フィルム1を必須の構成として有していなくても良く、光学用フィルム1と同様の偏光解消効果を有する本発明の粘着剤のみを有していても良い。さらに、光学用フィルム1が、
図3に図示する通り偏光板109の上に設けられなくても良い。例えば、1つ以上の光学用フィルム1が、バックライト101から偏光板109までの間の任意の位置に配置されても良い。
【0094】
表示装置100では、偏光板109よりも観察者側、すなわちバックライト101と反対側に光学用フィルム1が組み込まれている。従って、偏光板109から出射された光は、光学用フィルム1に入射して、その偏光状態がランダム化されて出射される。その結果、偏光サングラスを通してユーザ(観察者)が観察した際に表示装置100の表示画面ではブラックアウトは発生せず、画像の色の変化等が抑制され得る。さらに、ユーザが偏光サングラスを装着しない状態で表示画面を斜めから観察する場合も同様に表示画面の画像の色が変化することがある。これは、斜め方向からの光は部分的に偏光するため、弱い偏光板を入れたのと同じ作用、すなわち、偏光サングラスを装着したのと同じ効果が弱く生じるためである。
【0095】
また、最近の表示装置100では、液晶の種類の変更を変更し、視野角補償フィルムを使用することで、ユーザが斜めから表示装置100を観察した際の画像の明るさ及び色が変化しないように設計されている。一般的に、多くのユーザが表示装置100(例えば、スマートフォン、タブレット端末、各種モニターなど)の画面の傷付き、光の反射、及びブルーライトなどを防止するために、各種機能を備える保護フィルムを貼り合わせた表示装置100を使用している。しかし、保護フィルム(例えば、ポリエステルフィルム)が複屈折を有するため、ユーザが斜めから表示装置100の画面を観察した際に画像の色が変化するといった問題(具体的には、画面上の虹むら)が起こる。したがって、本発明(光学用フィルムと粘着剤の少なくとも一方)は、ユーザが偏光サングラスを装着せずにテレビやサイネージを視認した場合、あるいは表示装置100の画面に保護フィルムが貼付されている場合においても、同様の画像の色の変化を抑制する効果を有する。加えて、本発明は、保護フィルムによる画像の色変化を抑制する既存の手段(例えば、ゼロ複屈折フィルム及び超複屈折フィルム)よりもコストを抑えることができる。
【0096】
<透光性樹脂組成物の製造>
表1は、実施例1~9の透光性樹脂組成物の製造に用いる透明樹脂と透明樹脂の屈折率を示す。実施例9のアクリル粘着剤では、透明樹脂100質量部に対してBA20質量部と、PHEA80質量部とを共重合したポリマーが含まれることを表す。
【0097】
【表1】
※略語の説明
PMMA:アクリル樹脂
PC:ポリカーボネート
BA:アクリル酸ブチル
PHEA:アクリル酸フェノキシエチル
【0098】
表2は、実施例1~9の透光性樹脂組成物の製造に用いる天然繊維と天然繊維の平均粒子径(単位はμm)を示す。
【0099】
【0100】
表3は、実施例1~9の透光性樹脂組成物の製造に用いる透明樹脂、天然繊維、及び溶媒の原料配合を示す。
【0101】
【表3】
※表中の数値は有効成分の質量部を表す。
略語の説明
PMMA:アクリル樹脂
PC:ポリカーボネート
BA:アクリル酸ブチル
PHEA:アクリル酸フェノキシエチル
【0102】
(実施例1)
表3の実施例1の原料配合に基づいて、天然繊維としてシルクパウダーSP(いずみ染工株式会社)2g(有効成分:2質量部)と、溶媒として塩化メチレン(和光純薬工業社)適量(PMMAの5~6倍の質量部)をバイアルに加えた。超音波洗浄機を用いて溶媒中の天然繊維を十分に分散させたのち、透明樹脂としてPMMA(和光純薬工業社)のペレット100g(有効成分:100質量部)をバイアルに加えた。透明樹脂が完全に溶解するまでバイアル中の混合物を振盪機で撹拌し、ポリマー溶液を作製した。
【0103】
剥離用PETフィルム上にポリマー溶液をシート状に展開し、アプリケーターでキャストした。PETフィルム上で展開したキャストフィルムを室温(20~25℃)にて1時間乾燥させた。乾燥させたキャストフィルムをPETフィルムから剥離し、キャストフィルムを紙とガラスで挟み、減圧環境下で10時間以上90℃乾燥した。これにより、厚さ50μmの光学用フィルムを得た。なお、光学用フィルムの厚さは、ダイヤルシックネスゲージ(ピーコック:尾崎製作所社)を用いて測定された。
【0104】
(実施例2~8)
実施例2~8は、表3の原料配合量に基づいて、実施例1と同様の工程を行うことにより、透光性樹脂組成物及び光学用フィルムを得た。
【0105】
(実施例9)
実施例9は、表3の原料配合量に基づいて、実施例1と同様の工程を行うことにより、透光性樹脂組成物の粘着剤を得た。なお、実施例9では、透光性樹脂組成物の粘着剤をガラス基板に塗布して乾燥させることで「光学試験片」を作製した。なお、実施例9の「光学試験片」は、光学用フィルムとしての形態のみならず、粘着剤の形態としても有用な光学特性が得られるかを確認するために作製された。
【0106】
(比較例1~10)
表4は、比較例1~4、6の透光性樹脂組成物の製造に用いる透明樹脂と透明樹脂の屈折率を示す。なお、比較例5、8、9の1/4位相差板及び比較例7のPETフィルムは、透光性樹脂組成物の製造とは関係がない。つまり、比較例5及び比較例7~9は、実施例1~8の光学用フィルム及び実施例9の光学試験片との性能比較のために用いられた。ここで、比較例7(PETフィルム)は、後述の虹むら評価について実施例3、5、6との比較のために用いられた。また、比較例5、8、9の1/4位相差板の光学特性について説明する。比較例5(QWP-1)は、正常分散の1/4位相差板であり、可視光域で高波長になるにつれてリタデーションが低下する特性を有する。一方で、比較例8、9(QWP-2、QWP-3)は、逆分散の1/4位相差板であり、可視光域で高波長になるにつれてリタデーションが増加する特性を有する。しかしながら、比較例8、9の1/4位相差板では、全可視光域において1/4波長の位相差に正確に制御することが困難であるといった問題がある。そこで、比較例5、8、9は、全可視光域における1/4波長位相差制御に関する問題を解消することができる実施例3、5、6との比較のために用いられた。
【0107】
【表4】
※略語の説明
PSU:ポリスルホン樹脂
PC:ポリカーボネート
PET:ポリエチレンテレフタラート
QWP-1:正常分散の1/4位相差板(MCR140N、株式会社美舘イメージング)
QWP-2:逆分散の1/4位相差板(#14-724、エドモンド・オプティクス社)
QWP-3:逆分散の1/4位相差板(#88-252、エドモンド・オプティクス社)
【0108】
表5は、比較例1~4、6、10の透光性樹脂組成物の製造に用いる非天然繊維と非天然繊維の平均粒子径(単位はμm)を示す。なお、比較例5、7~9は、上記で述べた通り、透光性樹脂組成物の製造とは関係がないため、天然繊維は用いられていない。比較例6の透光性樹脂組成物では天然繊維及び非天然繊維を含まない場合の光学特性を確認するため、天然繊維及び非天然繊維は用いられなかった。比較例10では、非天然繊維として平均粒子径0.9~22.5μmの範囲のカルサイトをそれぞれ用いて8種類の透光性樹脂組成物を製造した。なお、平均粒子径0.9~22.5μmの範囲は、0.9μm、2.1μm、2.6μm、3.6μm、7.3μm、14.3μm、19.2μm、22.5μmを含む。
【0109】
【表5】
※略語の説明
カルサイト:炭酸カルシウムの結晶(方解石)を粉砕したもの。
PET:ポリエステルフィルムを超低温で粉砕したもの。
【0110】
表6は、比較例1~4、6、10の透光性樹脂組成物の製造に用いる透明樹脂、非天然繊維、及び溶媒の原料配合を示す。比較例10では、上記で説明した通り平均粒子径0.9~22.5μmの範囲の各平均粒子径を有するカルサイトを用いて8種類の透光性樹脂組成物を製造した。なお、比較例5、7~9では透光性樹脂組成物の製造を実施しておらず、表6に記載の既製品(PETフィルム、1/4位相差板としてQWP-1~QWP-3)を準備した。
【0111】
【0112】
<試験方法>
光学用フィルム(実施例1~8、比較例1~4、6、10)、光学試験片(実施例9)、PETフィルム(比較例7)、及び1/4位相差板(比較例5、8、9)のそれぞれを装着した表示装置を用いて以下の試験例1~試験例9の試験を行い、光学特性に関する性能評価を行った。
【0113】
(試験例1 偏光解消の確認)
表示装置(タブレット端末、Apple社)の表示画面に光学用フィルム、光学試験片、又は1/4位相差板を貼り付けて、直交ニコル状態となるように光学用フィルム、光学試験片、又は1/4位相差板を偏光板で覆い、液晶表示装置に白色の映像を表示させた。この際、液晶表示装置を目視で観察し、以下の評価基準に基づいて偏光解消効果を評価した。
(評価基準)
有:表示画面の画像を視認できる程度の明るさである。
無:表示画面の画像を視認できる程度の明るさではない。
【0114】
(試験例2 偏光度の測定)
光学用フィルム、光学試験片、又は1/4位相差板を貼り付けた液晶表示装置に平行ニコル状態又は直交ニコル状態において白色映像を表示させた。平行ニコル状態で測定された輝度をLp、直交ニコル状態で測定された輝度をLcとすると、偏光度は以下の式2により算出される。偏光度は、光がどれだけ完全な偏光に近いかを表す指標である。例えば、偏光度の数値が100%である場合、完全に一つの偏光状態の光であることを表す。一方で、偏光度の数値が0%である場合、完全に無偏光(あるいは、非偏光)であることを表す。偏光成分が混在している場合、偏光成分の割合に応じて偏光度は0~100%の間の値を取る。なお、輝度の測定には、分光放射輝度計(CS-2000A、コニカミノルタ株式会社)が用いられた。
【0115】
(試験例3 ヘイズ値の測定)
ヘイズメーター(SH7000、日本電色工業株式会社)を用いて、光学用フィルム、光学試験片、及び1/4位相差板のヘイズ値(曇り値)を測定した。ヘイズ値は、測定対象の曇り具合を表す。なお、ヘイズ値が小さくなるほど測定対象が透明であることを表す。
【0116】
(試験例4 色度変化量の測定)
光学用フィルム、光学試験片、又は1/4位相差板を貼り付けた液晶表示装置の平行ニコル状態における色度(u'
p,v'
p)と、直交ニコル状態における色度(u'
c,v'
c)とを分光放射輝度計(CS-2000A、コニカミノルタ株式会社)を用いて測定した。測定した色度は、CIE 1976UCS色度図に基づく値である。なお、色度測定時にはマクベスチャートの24色それぞれを液晶表示装置に表示させ、24色それぞれに対する色度変化量Δu'v'を測定した。24色それぞれに対する色度変化量Δu'v'のうち最も大きな色度変化量Δu'v'を測定値として採用した。ここで、色度変化量Δu'v'は、平行ニコル状態と直交ニコル状態それぞれにおいて測定された色度と式3とに基づいて算出される。色度変化量Δu'v'の値が小さくなるほど、ユーザが画像の色の変化を感じにくいことを表す。
【0117】
(試験例5 鮮明度の確認)
光学用フィルム、光学試験片、又は1/4位相差板を貼り付けた液晶表示装置の表示画面に文字を表示させた。この際、直交ニコル状態において表示画面の文字を目視で観察し、以下の4段階の評価基準に基づいて鮮明度を評価した。
(評価基準)
◎:文字が十分にはっきりと表示されている。
○:文字がはっきりと表示されている。
△:文字がややはっきりと表示されている。
×:文字がかすんで表示されている。
【0118】
(試験例6 コントラスト比の測定)
光学用フィルム、光学試験片、又は1/4位相差板を貼り付けた液晶表示装置(以下、測定形態)の表示画面に白い画像を表示させた際の最大輝度Lmaxと、黒い画像を表示させた際の最小輝度Lminとを、分光放射輝度計(CS-2000A、コニカミノルタ株式会社)を用いて測定した。コントラスト比は、最大輝度Lmax、最小輝度Lmin、及び式4に基づいて算出される。コントラスト比の値が高くなるほど、色の違いがくっきりと表現された鮮やかな表示であることを表す。
コントラスト比=Lmax/Lmin (式4)
【0119】
なお、光学用フィルム、光学試験片、又は1/4位相差板を貼り付けていない形態(以下、通常形態)の液晶表示装置の表示画面に白い画像を表示させた際のコントラスト比は、1119である。ここで、測定形態時のコントラストの変化を評価するために、コントラスト比の割合を以下の式5に基づいて算出した。上記の通り、通常形態時のコントラスト比は「1119」である。コントラスト比の割合の数値は100%に近いほど、測定形態時のコントラストの低下が少ないことを意味する。
コントラスト比の割合=(測定形態時のコントラスト比/通常形態時のコントラスト比)×100(%) (式5)
【0120】
(試験例7 虹むら評価)
図5は、虹むら評価の方法を説明するための概要図を示す。分光放射輝度計(CS-2000A,コニカミノルタ株式会社)を用いて、実施例3、5、6のそれぞれの光学用フィルムを貼り付けたLCD(MediaPad M3 lite, Huawei Device Co., Ltd.)(以下、計測形態1)、計測形態1における光学用フィルムとLCDとの間にPETフィルムをさらに配置したLCD(以下、計測形態2)、比較例7のPETフィルムを貼り付けたLCD(以下、計測形態3)のそれぞれの色度(u', v')を測定した。計測形態2の試験目的は、LCD上のPETフィルムに対して実施例3、5、6の光学用フィルムを貼り付けた場合の虹むら解消効果を確認するためである。PETフィルムは、遅相軸がLCDの視認側の偏光板の透過軸に平行になるようにして貼り付けた(光学用フィルムは遅相軸がないため任意の向きで貼り付けた)。ここで、フィルム界面の屈折率差を小さくするため、各フィルム(光学用フィルム又はPETフィルム)とLCDの間およびフィルム同士(光学用フィルムとPETフィルム)の間に水を適量挿入して貼り付けた。LCDの角度は仰角θおよび方位角φで定義した。θはディスプレイ面が正面を向いたときを0°、真横を向いたときを90°とする角度であり、φはθの回転軸に対するLCDの視認側の透過軸の角度である(
図5を参照)。
図5ではφ=65°に固定した状態でθを0°から80°に回転させた際(以下、測定条件1)の各視野角における色度(u', v')と、θ=65°に固定した状態でφを0°から90°に回転させた際(以下、測定条件2)の各視野角における色度(u', v')とを測定した。以下の評価基準に基づいてLCDの表示画面の虹むらを評価した。
(評価基準)
○:測定条件1及び測定条件2の両方においてu'およびv'の最大値と最小値の差が0.02未満であること。
×:測定条件1及び測定条件2の両方においてu'またはv'の最大値と最小値の差が0.02以上であること。
【0121】
(試験例8 透過率波長依存性の評価)
図6は、透過率波長依存性の評価方法を説明するための概要図である。ヘイズメーター(SH7000,日本電色工業株式会社)の光源側と検出器側にそれぞれ偏光板を取り付け、二枚の偏光板の間に実施例3、5、6の光学用フィルムあるいは比較例5、8、9のQWP-1~QWP-3を設置し、波長400~750nmの透過率を測定した。ここで、光学用フィルム及びQWP-1~QWP-3を設置せずに平行ニコル状態で測定した透過率を100%とした。検出器側の偏光板(
図6のAnalyzer)を回転させることで、平行ニコル状態および直交ニコル状態の切り替えを行った。波長400~750nmで測定した透過率スペクトルを550nmにおける透過率で規格化することで、実施例3、5、6および比較例5、8、9の透過率波長依存性を以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
○:平行ニコル状態および直交ニコル状態で波長400~750nmにおいて規格化透過率が90%~110%であること。
×:平行ニコル状態および直交ニコル状態で波長400~750nmにおいて規格化透過率が90%~110%の範囲外の値を取ること。
【0122】
(試験例9 ピクセルピッチの差による鮮明度の評価)
試験例9の目的は、ピクセルピッチが異なる2種類のディスプレイそれぞれに対して光学用フィルムを貼付した場合の画像の鮮明度を確認するためである。偏光板がない状態および直交ニコル状態(偏光板を使用)において、実施例3、5、6、比較例2、又は比較例10(8種類)の光学用フィルムを2種類のピクセルピッチのディスプレイ(ピクセルピッチ96μm×96μm、ピクセルピッチ294μm×294μm)にそれぞれ貼り付けた(屈折率1.518のマッチングオイルを使用)。各光学用フィルムが貼付されたディスプレイを目視で鮮明度を測定した。ピクセルピッチ96μm×96μm(小ピクセルピッチと呼ぶ)のディスプレイは、iPad(登録商標)(4th generation、Apple社)である。ピクセルピッチ294μm×294μm(大ピクセルピッチと呼ぶ)のディスプレイは、CD-AD198GEB-X(株式会社アイ・オー・データ)である。ここで、ピクセルピッチとは、隣接ピクセル間の距離のことを指す。ピクセルピッチが小さいほど、単位面積あたりの解像度が高いことを表す。以下の評価基準に基づいて鮮明度を評価した。
(評価基準)
◎:文字が十分にはっきりと表示されている。
○:文字がはっきりと表示されている。
△:文字がややはっきりと表示されている。
×:文字がかすんで表示されている。
【0123】
<試験結果>
実施例1~9の試験結果を表7に示す。比較例1~10の試験結果を表8に示す。表7の「-」は試験を実施していないことを表す。なお、表8の比較例6では、偏光解消「無」であったため、各試験項目(偏光度、色度変化量、コントラスト)の測定を行わなかった(表8の「-」で図示)。表8の「-」は試験を実施していないことを表す。
【0124】
図7A~
図7Hは、測定条件1(φ=65°、θ=0~80°)の参考例、実施例3、5、6、及び比較例7の色度測定結果を示す。
図8A~
図8Hは、測定条件2(θ=65°、φ=0~90°)の参考例、実施例3、5、6、及び比較例7の色度測定結果を示す。ここで、参考例は、光学用フィルム及びPETフィルムが貼付されていないLCDを表す。実施例3、5、6では計測形態1と計測形態2で色度(u'、v')を測定した。計測形態1は、RDF(光学用フィルムを指す)のみがLCDに貼付されている形態を表す。計測形態2は、PETとRDF(光学用フィルムのことを指す)の両方がLCDに貼付されている形態を表す。
【0125】
図7A~
図7H及び
図8A~
図8Hを用いてLCDの虹むらに関する定性的な評価を説明する。
図7Aの参考例のLCDでは虹むらが生じないことが予め判明している。
図7B~
図7Gの色度(u'、v')の軌跡のv'軸とu'軸に対する存在範囲は、
図7Aの色度の軌跡の存在範囲とほぼ同様であるため、
図7B~
図7GのLCDでは虹むらが生じない。一方で、
図7Hの色度(u'、v')の軌跡の存在範囲は、
図7Aの色度の軌跡の存在範囲よりも広いため、
図7HのLCDでは虹むらが生じる。
【0126】
同様に、
図8Aの参考例のLCDでは虹むらが生じないことが予め判明している。
図8B~
図8Gの色度(u'、v')の軌跡のv'軸とu'軸に対する存在範囲は、
図8Aの色度の軌跡の存在範囲とほぼ同様であるため、
図8B~
図8GのLCDでは虹むらが生じない。一方で、
図8Hの色度(u'、v')の軌跡の存在範囲は、
図8Aの色度の軌跡の存在範囲よりも広いため、
図8HのLCDでは虹むらが生じる。
図7B~
図7H、
図8B~
図8H、及び試験例7の評価基準に基づく詳細な評価結果を表7と表8にそれぞれ示す。表7に示す通り、実施例3、5、6は、計測形態1及び計測形態2の両方でLCD上の虹むらを抑制する顕著な効果を有していた。
【0127】
図9Aは、平行ニコル状態における実施例3及び比較例5、8、9の透過率波長依存性を示す図である。
図9Bは、直交ニコル状態における実施例3及び比較例5、8、9の透過率波長依存性を示す図である。
図9A~
図9Bを参照すると、実施例3では波長400~750nmにおいて規格化透過率が90%~110%の範囲の値を取った。つまり、実施例3では透過率の波長依存性がないため、可視光域で画像の色の変化を抑制することができる。一方で、比較例5、8、9では波長400~750nmのうち一部の波長において規格化透過率が90%~110%の範囲外の値を取った。つまり、比較例5、8、9では透過率の波長依存性があるため、可視光域において規格化透過率が規定値(90%~110%)を超える又は下回る特定の波長において画像の色の変化が起こる。
【0128】
【表7】
※備考
試験項目のPETフィルム無しは、計測形態1に相当する。
試験項目のPETフィルム有りは、計測形態2に相当する。
【0129】
【0130】
表7及び表8の結果から以下のことが判明した。特に、実施例3の光学特性(偏光度、ヘイズ、色度変化量、鮮明度、コントラスト)は、比較例1~2、10(無機材料としてカルサイト(炭酸カルシウム)を含有する場合)の光学特性よりも向上した。実施例3、5、6の光学特性(虹むら評価、透過率波長依存性、ピクセルピッチの差による鮮明度)は、比較例2、7~10に比して優れていた。
【0131】
ここで、実施例3、5、6のピクセルピッチの差による鮮明度について補足説明する。実施例3、5、6のピクセルピッチの差による鮮明度の評価結果は、特に大ピクセルピッチのディスプレイの画像の鮮明度を向上させるといった顕著な効果を示した。最近では大型ディスプレイが、例えば、駅構内、飲食店、スーパーマーケット、ショッピングセンター、ドラッグストア、病院、ホテル、銀行、学校、オフィスなどのあらゆる場所でデジタルサイネージ(電子看板)として使用されている。しかしながら、従来の技術では、様々な場所に設置される大型ディスプレイに表示される画像の鮮明度が不十分であるため、ユーザが画像の内容を視認しづらいと感じることがあった。本発明の光学用フィルムを大型ディスプレイに貼り合わせることで、表示画面上の画像が鮮明になるため、ユーザの画像の視認性を高めることが可能である。また、今後の技術革新によって大型ディスプレイの解像度が4Kや8Kの様にさらに高くなったとしても、ピクセルピッチは100μm×100μm以下にならないことが予想される。このように、本発明は、大型ディスプレイに表示される画像の鮮明度を高めることができるため、従来よりも様々な場所で豊かな映像演出を将来にわたって実現できる。
【0132】
図4Aは、実施例3の光学用フィルムを貼付した表示画面を直交ニコル状態で撮影した画像を示す図である。
図4Bは、比較例1の光学用フィルムを貼付した表示画面を直交ニコル状態で撮影した画像を示す図である。
図4Aでは、例えば「Keio University」が鮮明に表示されるとともに、慶應義塾大学の校章を構成するパーツ400(青色)、パーツ410(黄色)、パーツ420(赤色)は本来表示されるべき色でそれぞれ表示されている。一方で、
図4Bでは「Keio University」が不鮮明に表示され、慶應義塾大学の校章を構成するパーツ500、パーツ510、パーツ520の色は、
図4Aよりも識別性が低下した色で表示されている。例えば、
図4Aのパーツ400は青色で表示されているのに対し、
図4Bのパーツ500は黒色で表示されている。このように、カルサイト含有の光学用フィルム(比較例1~2)では、表示画面の画像の色が本来表示されるべき色とは異なる色に変化してしまうという問題がある。
【0133】
実施例3の光学特性(偏光度、ヘイズ、鮮明度、コントラスト)は、比較例3~4(合成高分子材料としてPETを含有する場合)の光学特性よりも向上した。
【0134】
実施例3の光学特性(色度変化量)は、比較例5、8、9(1/4位相板が用いられた場合)の光学特性よりも向上した。特に、実施例3は、ユーザが表示装置を視認した際の表示画面の画像の色の変化を抑制することができる。
【0135】
実施例1の光学特性(偏光解消)は、比較例6(天然繊維等非含有の場合)の光学特性よりも向上した。このように、透光性樹脂組成物に天然繊維及び非天然繊維のいずれも含有させない場合、偏光状態を解消できないことは明らかであることが確認された。
【0136】
以上の通り、本発明はユーザが表示画面を観察する場合において表示画面の画像の色の変化を抑制する顕著な効果を有する。
【0137】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【0138】
本願は、2022年7月28日提出の日本国特許出願特願2022-120674を基礎として優先権を主張するものであり、その記載内容の全てを、ここに援用する。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
本発明の目的を達成するために、本発明の一実施形態に係る透光性樹脂組成物は、以下の構成を備える。すなわち、透明樹脂と、複屈折Δn0.013~0.15を有し、かつ、ナノファイバーではない天然繊維と、を備え、前記透明樹脂100質量部に対して、前記天然繊維1~20質量部で含有し、表示装置の表示画面の色度(u', v')を制御するために用いられ、前記複屈折Δnは、偏光顕微鏡を用いて直交ニコル状態で観察した前記天然繊維の粒子の微小領域が有する干渉色に対応する最大リタデーションRとΔn=R/t(ここで、tは天然繊維の平均粒子径)に基づいて求められ、前記色度(u', v')はCIE 1976UCS色度図に基づく値である。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂と、
複屈折Δn0.013~0.15を有し、かつ、ナノファイバーではない天然繊維と、を備え、
前記透明樹脂100質量部に対して、前記天然繊維1~20質量部で含有し、
表示装置の表示画面の色度(u', v')を制御するために用いられ、
前記複屈折Δnは、偏光顕微鏡を用いて直交ニコル状態で観察した前記天然繊維の粒子の微小領域が有する干渉色に対応する最大リタデーションRとΔn=R/t(ここで、tは天然繊維の平均粒子径)に基づいて求められ、
前記色度(u', v')はCIE 1976UCS色度図に基づく値である、
透光性樹脂組成物。
【請求項2】
前記透明樹脂は、フッ素樹脂を含まない透明樹脂である、
請求項1に記載の透光性樹脂組成物。
【請求項3】
前記透明樹脂の屈折率は、1.4~1.7である、
請求項1に記載の透光性樹脂組成物。
【請求項4】
前記天然繊維の平均粒子径は、2~100μmであり、
ここで、前記平均粒子径は、レーザー回折法によって測定される体積基準の粒度分布における累積50%となる粒子径(D50;メディアン径)である、
請求項1に記載の透光性樹脂組成物。
【請求項5】
前記天然繊維の平均粒子径は、4~20μmであり、
ここで、前記平均粒子径は、レーザー回折法によって測定される体積基準の粒度分布における累積50%となる粒子径(D50;メディアン径)である、
請求項1に記載の透光性樹脂組成物。
【請求項6】
前記天然繊維は、植物繊維と動物繊維の少なくとも一方を含む、
請求項1に記載の透光性樹脂組成物。
【請求項7】
被着材間を接着する、
請求項1から6のいずれか一項に記載の透光性樹脂組成物からなる、
粘着剤。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項に記載の透光性樹脂組成物からなるフィルムである、
光学用フィルム。
【請求項9】
偏光状態の光を出射する表示装置であって、
前記表示装置の観察者側に配置される光学用フィルムと粘着剤の少なくともいずれかを備え、
前記光学用フィルムと前記粘着剤の少なくともいずれかは、請求項1から6のいずれか一項に記載の透光性樹脂組成物を含む、
表示装置。
【請求項10】
平行ニコル状態と直交ニコル状態それぞれにおいて測定される前記表示装置の表示画面の色度(u', v')に基づいて算出される色度変化量u'v'は、0.01~0.03であり、
前記色度(u', v')はCIE 1976UCS色度図に基づく値である、
請求項9に記載の表示装置。