(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105421
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】抗微生物性組成物とその使用方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/137 20060101AFI20240730BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20240730BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20240730BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20240730BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240730BHJP
A61K 31/4425 20060101ALI20240730BHJP
C11D 3/48 20060101ALI20240730BHJP
C11D 10/02 20060101ALI20240730BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
A61K31/137
A61Q11/00
A61K8/19
A61P1/02
A61P31/04
A61K31/4425
C11D3/48
C11D10/02
A61K8/49
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024075145
(22)【出願日】2024-05-07
(62)【分割の表示】P 2022149755の分割
【原出願日】2012-10-08
(31)【優先権主張番号】61/545,108
(32)【優先日】2011-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/660,649
(32)【優先日】2012-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518013914
【氏名又は名称】ネクスト サイエンス アイピー ホールディングス ピーティワイ エルティーディ
(74)【代理人】
【識別番号】100101281
【弁理士】
【氏名又は名称】辻永 和徳
(72)【発明者】
【氏名】ミンティ マシュー エフ
(57)【要約】
【解決すべき課題】 新規な抗微生物性組成物の提供。
【課題を解決する手段】 水からなる溶剤、溶質、および少なくとも1つの界面活性剤を含む抗微生物性組成物であって、
該組成物は7.5から10のpHを有し、1.25から2.5 Osm/Lの浸透圧モル濃度を有し、0.5から1.8g/Lのカチオン性界面活性剤を含み、
該溶質は少なくとも1つの塩基の解離生成物と1以上の塩からなる、抗微生物性組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水からなる溶剤、溶質、および少なくとも1つの界面活性剤を含む抗微生物性組成物であって、
該組成物は7.5から10のpHを有し、1.25から2.5 Osm/Lの浸透圧モル濃度を有し、0.5から1.8g/Lのカチオン性界面活性剤を含み、
該溶質は少なくとも1つの塩基の解離生成物と1以上の塩からなる、抗微生物性組成物。
【請求項2】
pHが9±0.5であるか、または
浸透圧モル濃度が1.5から2 Osm/Lであるか、または
界面活性剤の量が0.75から1.5g/Lであるか、または
塩基がKOHもしくはNaOHであるか、または
界面活性剤がベンザルコニウムクロリドもしくはセチルピリジニウムクロリドであるか、または
NaHSO4、NaH2PO4、NaCl、KClおよびKIから選択される1以上のイオン性化合物が含まれている、請求項1記載の抗微生物性組成物。
【請求項3】
口内リンス液もしくは口内洗浄剤、消毒液または洗浄液のようなオーラルケアビヒクルに組み込まれ、該ビヒクルは液体、ゲル、ペーストまたは軟膏である、請求項1または2記載の抗微生物性組成物。
【請求項4】
該組成物が口内リンス液または口内洗浄剤に組み込まれる時、アルコールビヒクル中のユーカリプトール、メンソール、サリチル酸メチル、およびチモールの組み合わせ、またはセチルピリジニウムクロリドもしくはフッ化スズ(II)を含む、請求項3記載の抗微生物性組成物。
【請求項5】
pHが9±0.5であり、
浸透圧が1.5から2 Osm/Lであり、
界面活性剤の量が0.75から1.5g/Lであり、
塩基がKOHもしくはNaOHである、請求項1から4のいずれか1項記載の抗微生物性組成物。
【請求項6】
pHが9±0.3であり、
浸透圧が1750±75 mOsm/Lであり、
カチオン性界面活性剤の量が1.1±0.3g/Lであり、
塩基がNaOHであり、
溶質がさらにNaH2PO4を含み、任意に人工甘味剤およびエッセンシャルオイルを含む、請求項1から5のいずれか1項記載の抗微生物性組成物。
【請求項7】
口腔状態の治療における使用、または歯科疾病の予防または治療における使用のための、請求項1から6のいずれか1項記載の抗微生物性組成物。
【請求項8】
歯科インプラント材消毒溶液または歯科矯正の装置の消毒溶液における、請求項1から6のいずれか1項記載の抗微生物性組成物の使用。
【請求項9】
水からなる溶剤、少なくとも1つの塩基の解離生成物、および少なくとも1つの界面活性剤を含む抗微生物性組成物であって、
該組成物は、組成物の重量に基づいて少なくとも1重量%のイオン荷電を有する少なくとも1つの界面活性剤を含み、
該組成物は少なくとも1.5 Osm/Lの浸透圧モル濃度を有し、7.5以上のpHを有する。
【請求項10】
25から50g/Lの強塩基、3.0から4.0 Osm/Lの浸透圧モル濃度、25から50g/Lの溶質、および10から20g/Lの界面活性剤を含み、溶質はNaH2PO4である、請求項9記載の抗微生物性組成物。
【請求項11】
該界面活性剤がカチオン性である、請求項9または10記載の抗微生物性組成物。
【請求項12】
CI-、Na+、NH4
+,HCO3
-,SO4
-2,HSO4
-,S2O3
-2,SO3
-2,OH-,NO3
-,ClO4
-,CrO4
-2,Cr2O7
-2,MnO4
-2,PO4
-3,HPO4
-2,およびH2PO4
-から選択されたイオン荷電した分子または原子を含む、請求項1から11のいずれか1項記載の抗微生物性組成物。
【請求項13】
水、前記溶質、および前記少なくとも1つの界面活性剤からなる、請求項1記載の抗微生物性組成物。
【請求項14】
損傷部位の治療に使用される、請求項9から12のいずれか1項記載の抗微生物性組成物。
【請求項15】
水からなる溶剤、少なくとも1つの酸の解離生成物、および少なくとも1つの界面活性剤を含む、損傷部位の治療のための抗微生物性組成物であって、
該組成物は1.8から2.8 Osm/Lの浸透圧モル濃度を有し、0.9から1.7g/Lの界面活性剤濃度を有し、75から150g/Lの弱酸を含み、75から150g/Lの溶質を含み、該溶質は酸の塩またはクエン酸ナトリウム二水塩である、抗微生物性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願のクロスリファレンス
この出願は出願日2011年10月8日の米国特許出願番号61/545,108、および出願日2012年6月15日の米国特許出願番号61/660,649の利益を請求する。その開示は本明細書中に参考として援用する。
背景
【0002】
微生物は実際にはいたる所で、しばしば高濃度で見つけられて、かなりの量の疾病と伝染病の原因となる。これらの微生物を殺すかまたは排除するのはさまざまな理由で望ましい。
【0003】
バクテリアはプランクトン、胞子およびバイオフィルムの形態で存在でき、それらの自己保存機構が、除去および/または根絶することを非常に困難にしている。たとえば、バイオフィルムまたは胞子形態中のバクテリアは、下方制御(down-regulated)(固着性:sessile)されて活発に分裂しない。これによりそれらは彼らのライフサイクルの活性時期、例えば細胞分裂の間にバクテリアを攻撃する抗菌剤および殺生物剤の大多数の攻撃に対して抵抗性となる。
【0004】
バイオフィルムでは、バクテリアは表面と相互作用して、表面に接着した表面コロニーを形成し、成長を続ける。バクテリアは、菌体外多糖類(EPS)、および/または、細胞外多糖類(ECPS)高分子を製造する。これらは表面に付着し続け、多くの形式の攻撃に対して有効な防護壁を形成する。保護はたぶんマトリックス内の流路の小さな直径の結果と考えられる。これは下層のバクテリアへ輸送できる分子のサイズを制限し、EPS/ECPS高分子マトリックスの一部との相互作用、バクテリアの分泌物および内部の消費生成物を介して殺生物剤の消費を制限する。ある種の菌はバイオフィルムを形成し、それらの多くは本明細書に記載されるものと同じタイプの問題をもたらす。
【0005】
バクテリアは胞子を形成することができる。胞子は堅く非透過性のタンパク質/多糖類シェルまたはコーティングである。胞子はバクテリアに有害な物質の攻撃を防ぐことにより、根絶の努力へのさらなる抵抗を提供する。
【0006】
高分子マトリックス(バイオフィルム)、シェル(胞子)、またはそれらの下方制御により与えられる保護のため、バイオフィルムおよび胞子状態のバクテリアは処理するのが非常に難しい。この形態のバクテリアを処理するために有効な殺生物剤および殺菌薬のタイプは、強酸性、酸化性、毒性であり、しばしばハロゲン原子、酸素原子、または両方を含んでいる。一般的な例としては次亜塩素酸溶液(たとえばブリーチ)、フェノール性薬剤、強無機酸(例えばHC1)、過酸化水素、および同様のものがあげられる。一般的に、そのような化学物質の多量投与は、バイオフィルムまたは胞子に長時間接触させなければならず、これは多くの用途で非実用的である。
【0007】
最近開発された配合物は、感染した動物/人体組織に関する使用において、バイオフィルムマトリックスを溶媒和し、まだ生きているバクテリアをリンス又は他の方法で感染組織から除去することを意図している。例えば、米国特許番号7,976,873、7,976,875、7,993,675などを参照。これらの配合物における活性成分の濃度は、バクテリアを殺すためには低過ぎ、その結果、表面の消毒剤としての使用には適合しない。
【0008】
中性から非常に酸性の消毒液であって、高分子マトリックスを崩壊させるか、彼らの固有のディフェンスを迂回するかまたは無効にする液で細胞膜を攻撃して、殺すことが米国特許公開第2010/0086576 Alに記載されている。
【0009】
動物組織損傷はバクテリアの成長のために良い環境を提供し、バイオフィルムにも良い環境を提供する。損傷部位表面およびその基体は優しい治療を必要とするので、その結果、難問をさらに難しくする。
【0010】
歯垢、歯の表面に接着したバイオフィルムは微生物細胞(主にストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)とストレプトコッカス・サングイス(Streptococcus sanguis)、唾液ポリマーおよびバクテリアの細胞外生成物から成る。微生物の蓄積は歯と歯肉組織へ高濃度の細菌代謝産物を提供し、歯肉炎、および口内カリエスなどの歯周疾患のような広範囲の問題に至る。
【0011】
院内または病院内感染(HAIs)が、ウイルス、バクテリア、および/または菌類病原体によって引き起こされ、体内の全てのシステムにかかわる。HAIsは患者の死亡へと導く原因である。そしてそれは患者の入院期間、死亡率およびヘルスケアコストを増加させる。開発途上国では、それらがすべての入院の5-10%で起こるように見積もられており、小児科および新生児期患者ではさらに高い。それらはしばしば医療用品または血液製剤の輸注に関連している。HAIsの3つの主要部位は、血流と、気道と、尿路である。HAIsを有するほとんどの患者は、進入のポイントを病原菌に提供する主要な静脈ラインや、機械呼吸や、カテーテルなどの侵襲性支援手段を有している。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA:methicillin-resistant Staphylococcus aureus)、鵞口瘡カンジダ(Candida albicans)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、ステノトロフォモナスマルトフィリア(Stenotro-phomonas maltophilia)、クロストリジウム-ディフィシレ菌(Clostridium difficile)、および結核菌(Tuberculosis)により、人工呼吸器関連肺炎(ventilator-associated pneumonia)が引き起こされる場合があり、他のHAIsとしては、尿路感染、肺炎、胃腸炎、耐バンコマイシン腸球菌(VRE:vancomycin-resistant Enterococcus)、およびレジオネラ症が挙げられる。
【0012】
呼吸装置内視鏡、胃カメラ、血液学的フローチャンネル、透析器設備、呼吸経路保持装置、ISE、HPLC、およびある種のカテーテルは、複数回使用されるように設計されている。重要なリスクは不適当または不適切な清浄による残留汚れ、および/または不適当な消毒または殺菌に起因し、たとえば結核菌(Mycobacterium tuberculosis)で汚染された気管支鏡のような汚染された器具からのHAIs、または結腸スコープ処置の間のC型肝炎ウイルスなどの患者への転移が挙げられる。
【0013】
湿気があるかまたは湿気を有するようになる全ての表面が、バイオフィルム形成にさらされる危険がある。したがって、永久的または一時的な移植を意図する物品、たとえば人工心臓、ステント、コンタクトレンズ、子宮内避妊器具、人工関節、歯科インプラント材は特に影響されやすい。いったん形成されると、生体内で根絶することが不可能であり、人生を変えることとなり、致命的な感染となる場合もあるので、バイオフィルム形成を防ぐために最大の手段が取られる。
【0014】
バクテリアなどの微生物の処理に使用される組成物と物品が、望まれている。EPS/EPCS高分子マトリックスを破壊するか、その固有のディフェンスを迂回するかまたは無効にし、その結果、液体またはそれの構成要素が下方制御された状態のバクテリアにアクセスして、殺すことを可能にするのは特に望ましい。無毒であるかまたは非常に限られた毒性を有する一方、バクテリアに対して致命的に有効な液体には、重要な関心と商品価値がある。
【0015】
急性の損傷部位が傷ついた時点およびすべての治癒ステージで、コロニー化したバクテリアを処理することができる方法および物品、並びに慢性の損傷の治療においてバクテリアを処理できる方法と物品が特に望まれている。
【0016】
重要な関心が、バイオフィルムに関連しているさまざまな経口と粘膜条件のいずれも処理するかまたは、改善できる方法および組成物;
微生物が同伴されることのできるHAIs、および/またはバイオフィルムを防ぐか、または治すことができる方法および組成物;
移植可能なまたは移植された装置と物品でのバイオフィルムの成長を防ぐか、またはバイオフィルムを除去できる方法および組成物;
殺菌または他の方法で複数回使用される医療機器を処理することについて持たれている。
【0017】
要約
本発明はバクテリアを含むがこれに限定されない微生物の処理または排除に使用される組成物と物品に関し、それらがプランクトン、胞子、またはバイオフィルムの形態であるか否かにかかわらない。
【0018】
本発明による水性の組成物はグラム陽性菌およびグラム陰性菌の広いスペクトルに大して致命的であり、ウイルス、菌類、カビ、酵母、および細菌胞子などの微生物に対して致死性を示す。
【0019】
pH7以上を持っていることに加えて、組成物は有意の量の1種以上の界面活性剤と多量の浸透圧的に活性の溶質を含んでいる。組成物は、バイオフィルムの高分子マトリックスのイオン性架橋を中断または破壊するのに有効であり、これはマトリックスを溶質と界面活性剤が通過し、マトリックス内の同伴され、および/またはそれにより保護されているバクテリアへの到達を容易にする。これらの成分は分離して使用される時または低濃度のときにバクテリアに対して典型的に効力がない一方、細菌性バイオフィルムを破壊するか、またはバクテリアバイオフィルムディフェンスを迂回しまたは無効にする点においては非常に効果的になり、正しい組み合わせと十分な濃度を提供するといくつかの状態のバクテリアバイオフィルムがアクセスされて、殺されるのを(バクテリアバイオフィルムにおける膜漏れを引き起こし、細胞分解に導くことによって)許容する。
【0020】
また、創傷部位を治療するための物品、組成物、および方法が提供される。非固体組成物はその領域に適用されることができる。組成物はその場所に留まることが意図されるならば非流動性であることができる。また治療領域の上またはその周囲を潤すことが意図される場合には液体であることができる。固体物品は損傷治療部位に適用できる。該物品は治療領域またはその近くに留まるように適用されることができる。また一時的に適用した後に除去するように意図されることもできる。組成物または物品が抗微生物治療を提供することに加えて止血するために、抗出血性剤が、組成物または物品に含まれることができる。また、これらの態様はクリーニング、ドレッシング、および他の方法での損傷部位の処置の方法を提供する。
【0021】
また、口内、歯、歯肉、唇、口頭の粘膜の微生物の攻撃に対して守るかまたは処理するための物品、組成物、および方法が提供される。特には、バイオフィルム関連の条件、たとえば口内カリエス、歯肉炎、歯周病、口臭、およびインプラント周囲炎を含むが、これらに限定はされない。
【0022】
さらに、HAIsは、バイオフィルムを防ぐか、または除去し、および/または同伴するバクテリアを殺すために、医療器具の表面に液体または固体の抗微生物性組成物を適用することによって、阻まれるか、または治療される。またHAIを所有している患者は、抗微生物性組成物または該組成物を含むかもしくはそれに基づく物品で処理される。
【0023】
さらに、永久的にまたは除去可能な移植物の表面が処理され、バイオフィルムの生成を防止し、または移植後にそのような表面からバイオフィルムを除去するために処理されることができる。
【0024】
また再利用できる医療機器が、EPS/ECPS、EPS/ECPS成長に役に立つ物質、EPS/ECPSに同伴されているかまたは同伴可能な生体を取り除くために処理されることができる。処理は消毒、または滅菌技術を示す補足技術を含む事ができ、特にバクテリアである微生物を医療機器で処理された患者にほとんど導入しない医療機器を与える。
【0025】
様々な実施態様の以下の説明の理解を助けるために、以下に特定の定義を提供する。前後のテキストが明らかに反対の意図を示さない限り、以下の定義が適用されるこことを意図する:
「細菌」は、すべてのタイプの微生物を意味し、たとえばバクテリア、ウイルス、菌類、ウイルス様体、プリオン、および同様のものを包含するが、これらに限定されない。
「抗菌剤」は1以上の細菌の数を90%(1ログ(1 log))より多く低減する能力を有する物質を意味する。
「活性抗菌剤」は例えば細菌の細胞分裂のようなライフサイクルの活性の間のみ、またはその期間に主として有効な抗菌剤を意味する。
「バイオフィルム」は、細菌のコミュニティーを意味し、特にはバクテリアと菌類のコミュニティーを意味し、自己発生高分子マトリックス中にあるかまたはそれにより守られているコミュニティーメンバーにより表面に付着している。
「滞留時間」は、抗菌剤の細菌性バイオフィルムとの接触が許容されている時間を意味する。
「生物学的に適合している」は、哺乳類種の体表面または哺乳類種の体内における顕著な長期の有害な効果を示さないことを意味する。
「生物分解」は、酵素によるか、または化学的もしくは物理的な生体内のプロセスによる、より小さい化学種への変化を意味する。
「抗出血性物質」は、抑制性フィブリン溶解の防止、凝固の促進、血小板凝集の促進、または血管収縮を引き起こすことの1つまたはそれ以上により出血を抑制する化合物または物質を意味する。
「病院内感染」は、インキュベーションに関する証拠がないかまたは存在していない限局性または全身性感染を意味し、患者が入院が許可された時、大部分は入院の48時間以内に臨床的に明白になる。
「高分子電解質」は、水中で解離ができる電解質基を含む複数のモノマーからのポリマーを意味する。
「強高分子電解質」は電解質基が、3≦pH≦9で水中で完全に解離する高分子電解質をいう。
「弱高分子電解質」は、約2から約10までの解離定数を有する高分子電解質をいい、強高分子電解質の基が完全に解離される範囲内のpHで部分的に解離する。
「高分子両性電解質」は、いくらかのモノマーが陽イオン性電解質基を含み、他のモノマーが陰イオン性電解質基を含む高分子電解質である。
【0026】
本明細書において、pH値は、適切に較正された電極を使用する、任意の種々の電位差測定技法により得られる値をいう。
【0027】
具体的に言及する全ての特許および/または公開特許公報の関連部分は、本明細書中に参考として援用される。
【0028】
詳細な説明
有用な塩基性(苛性の)液組成物は、少なくとも中程度に高い浸透圧モル濃度、すなわち多量の浸透圧的に活性の溶質と比較的高いか(7.5≦pH<9)、または非常に高いpH(9≦pH<11)を示す。多量の溶質が存在している界面活性剤と共に働いて、バクテリアの膜漏れを引き起こし、細胞分解に導く。
【0029】
組成物は最低で3つの成分を含む:
水、少なくとも1つの塩基の解離生成物、および少なくとも1つの界面活性剤。それのそれぞれが一般的に生物学的に適合していると考えられている。1種以上の塩類の解離生成物も含まれることができる。
【0030】
一般に、ヒドロニウムイオンの濃度の低下(すなわち、pHの増大)は増大する効力に対応する。この効果は直線的でないかもしれない。すなわち、効力における増大がある特定のヒドロニウムイオン濃度の以下で漸近的であるかもしれない。組成物のpHが約10より小さく7より大きい限り、塩基性組成物は一般に生物学的に適合していると考えられる。明確に、外的曝露は長期的なマイナスの真皮性効果ももたらさないだろう。
【0031】
塩基性は水に1種以上の塩基、これらに限定されるものではないが、たとえば酢酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、リン酸塩、およびグルタル酸塩のような弱酸のアルカリ金属塩、アルカリ金属硝酸塩;アルカリ金属水酸化物、特にNaOH、およびKOH;アルカリ土類金属水酸化物、特にはMg(OH)2;アルカリ金属ホウ酸塩;NH3;およびアルカリ金属次亜塩素酸塩(例えば、NaClO)および重炭酸塩(例えば、NaHCO3)を加えることにより達成される。また1種以上の塩基に水を加えても良い。
【0032】
ある特定の実施態様では、それらの有機化合物は高い水溶性であるか、または高い水溶性と成るように作られることが好ましい。これらおよび/または他の実施態様では、それらの塩基が生物学的に適合している事が好ましい。代わりに、またはそれに加えて、有機酸および塩基はバイオフィルムの高分子マトリックスを架橋するのに寄与する金属陽イオンと錯体を形成するように働くことが好ましい。
【0033】
界面活性剤は塩基の後、塩基の前または塩基と同時に水に加えられることができる。本質的には、水中で表面活性特性を有する任意の材料が使用できるが、あるタイプのイオン電荷を有するものが、抗微生物効果を高めると予想される。なぜならそのような電荷はバクテリアと接触した時に、より効果的な細胞膜分裂をもたらし、細胞の漏出と溶菌につながると信じられているからである。このタイプの抗微生物性プロセスは固着したバクテリアさえ殺すことができる。なぜら、細胞プロセスの分裂にかかわらないか、またはこれに伴わないからである。潜在的に有用な陰イオン性の界面活性剤としては、ナトリウム セノデオキシコレート、N-ラウロイルサルコシンナトリウム塩、リチウム硫酸ドデシル、1-オクタンスルホン酸ナトリウム塩、ナトリウムコール酸水和物、デオキシコール酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ナトリウムグリコデオキシコレート、ラウリル硫酸ナトリウム、および米国特許6,610,314に記載されるアルキルリン酸化合物があげられるが、これらに限定されない。潜在的に有用な陽イオン界面活性剤としては、ヘキサデシルピリジニウム塩化物一水和物、テトラデシルトリメチルアンモニウムボライム(tetradecyltrimethylammonium borime)、ベンズアルコニウム塩化物、ヘキサデシルピリジニウムクロリド一水塩、およびヘキサデシルトリメチル-臭化アンモニウムがあげられ、後者が好ましい。ただしこれらに限定はされない。潜在的に有用な非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレングリコールドデシルエーテル、N-デカノイル-N-メチルグルカミン、ジギトニン、n-ドデシル B-D-マルトシド、オクチルB-D-グルコピラノシド、オクチルフェノール エトキシレート、ポリオキシエチレン(8)イソオクチル フェニル エーテル、ポリオキシエチレンソルビタン モノラウレート、およびポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエートがあげられるが、これらに限定はされない。有用な両性イオン界面活性剤としては、3-[(3-コールアミドプロピル) ジメチルアンモニオ]-2-ヒドロキシ-1-プロパン スルホネート、3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパン スルホネート、3-(デシルジメチルアンモニオ) プロパン スルホネート 分子内塩、およびN-ドデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-l-プロパン スルホネートがあげられるが、これらに限定はされない。他の潜在的に役に立つ物質としては、興味のある者は例えば、米国特許4,107,328、6,953,772および7,959,943を始めとするさまざまなソースで参照できる特定のクラスとタイプの界面活性剤は、ある特定の最終用途用途のために好まれる。これらのいくつかが後で具体的に言及される。
【0034】
組成物は微生物細胞壁を破壊または中断するに十分な量の界面活性剤を含んでいる。界面活性剤の量は組成物の約0.075%以上、約0.10%以上、約0.125%以上、約0.15%以上、約0.175%以上であり、一般には少なくとも約0.2%、典型的には少なくとも約0.5%、より典型的には少なくとも約0.7%、しばしば少なくとも約0.9%、または好ましくは少なくとも1%である。量の上限は選ばれた特定の界面活性剤の溶解限度によって定義される。すべての量は組成物の総重量に基づく重量パーセントである。いくつかの界面活性剤では非常に高い添加量が許容され、たとえば少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも12%、少なくとも15%、少なくとも17%、少なくとも20%よりも多く、25%よりも多いことができる。すべての量は組成物の総重量に基づく重量パーセントである。上記の最小の量のいずれも、上記の最大の量のいずれとも組み合わせることができ、界面活性剤の潜在的な例示の範囲を提供する。
【0035】
界面活性剤として認められていないイオン性に荷電された化合物は、ある場合に界面活性剤成分のいくつかまたはすべてと取り替えることができる。イオン性に荷電された化合物としては、キトーサンおよびグルコシドなどの天然高分子が含まれる。また荷電された分子および原子、たとえばCI-、Na+、NH4
+,HCO3
-,SO4
-2,HSO4
-,S2O3
-2,SO3
-2,OH-,NO3
-,ClO4
-,CrO4
-2,Cr2O7
-2,MnO4
-2,PO4
-3,HPO4
-2,H2PO4
-なども含まれる。これらのタイプのイオンは、pHを希望される目標を越えて増加することなく、組成物の浸透圧モル濃度を増加させることができる。例えば米国特許番号7,090,882を参照。そのような化合物は、解離した時に、水酸イオンのモル濃度に大きな影響を与えることなく組成物内の有効な量の溶質を増加させる。ある場合には同時に緩衝系を組成物に提供する。
【0036】
組成物が少なくとも中程度の有効な溶質濃度(浸透圧)を有する場合には、界面活性剤成分の致死率は増加され、および/または向上される。組成物の浸透圧は、通常使用される塩基の量に比例して増大する。ある組成物の浸透圧モル濃度の最大値は、主として特定塩基の溶解限度の関数である。組成物における、増加するレベルの塩基への明白な推論はヒドロニウムイオンの低い濃度、すなわち、高pH値である。
【0037】
先に記載されたように、いくつかの最終用途では、中程度の高pH条件を有する組成物が求められる。希望の目標値から離れてpHを増加することなく組成物の浸透圧モル濃度を増加させるために、1種以上のタイプの他の水溶性化合物が含まれることができる。そのような化合物は解離したときに、同時に緩衝系を組成物に提供しつつ、水酸イオンのモル濃度に大いに影響を与えずに、組成物内の溶質の有効な量を増加させる。この機能を果たすそれらの材料の中に上で議論したイオン性の荷電分子と原子がある。例えば米国特許番号7,090,882を参照。
【0038】
どのように達成にされるかにかかわらず、組成物の浸透圧は少なくとも中程度に高く、少なくとも約0.3、約0.5、約0.7、約0.8、約0.9または約10smの浸透圧モル濃度が、ほとんどの用途のために好ましい。具体的な最終用途用途により、組成物は、以下の濃度の任意のものであることができる;少なくとも約1.5Osm、少なくとも約1.75Osm、少なくとも約2.0Osm、少なくとも約2.25Osm、少なくとも約2.5Osm、少なくとも約2.75Osm、少なくとも約3.0Osm、少なくとも約3.25Osm、少なくとも約3.5Osm、少なくとも約3.75Osm、少なくとも約4.0Osm、および少なくとも約4.25Osm。組成物のある特定の実施態様では、組成物は0.3から5Osm、0.5から4.5Osm、0.75から4.4Osm、1から4.3Osm、1.25から4.25Osm、1.4から4.1Osm、および1.5から4Osm。他の潜在的な有効な範囲は3から5Osm、2.5から4.5Osm、3から4.5Osm、3.5から5Osm、3.25から4.5Osmなどである。
【0039】
組成物はさまざまな方法で使われることができる。たとえば、組成物が表面(たとえばまな板、カウンタ、机など)のバイオフィルムを処理するために使用される時、組成物は直接バイオフィルムに適用されることができ、任意に続いて物理的な摩擦またはバフ磨きをすることができる。または組成物は摩擦/バフみがきメディア、例えば、布に適用されることができる。アクセスできない領域のバイオフィルムを処理する場合、過剰の組成物中で、バイオフィルムを本質的に溶媒和するに十分な時間、バイオフィルムを温洗または浸漬することができる。次に影響を受けた領域から洗い流すか、または拭くことができる。接触方法にかかわらず、界面活性剤成分はバクテリアをバイオフィルムから取り除く必要なしで、顕著な数のバクテリアを殺すと信じられている。
【0040】
微生物混入が豊富なため、組成物は使用について多くの可能性があり、これらに限定されるものではないが、以下が挙げられる;潰瘍と、たとえば非損傷皮膚(手、足、髪、およびボデイ洗浄、および/または、脱臭)、台所のクリーニング(調理台および表面洗浄、食品調製道具のクリーニング、皿洗浄、農作物の洗浄など)、浴室クリーニング(台および表面洗浄、備品のクリーニング、シンクおよび床ドレンクリーニング、およびシャワーのカビの撲滅)、ランドリー領域クリーニング(洗たく洗剤、リネン消毒、およびおしめ消毒)、子供関連用途、たとえば子供の接触製品のクリーニングおよび消毒(おもちゃ、ボトル、おしゃぶり、ニップル、歯固め、おしめ、毛布、および衣服)、商業用途、たとえば家畜の世話(施設および設備の消毒および酪農乳首ディップ)、製品の消毒(照射の代替手段、特に大腸菌、リステリア、サルモネラ菌、ボツリスム菌など)、肉類再処理施設(すべての表面、床、およびドレーン、処理装置および骨組)、業務用厨房と食物準備機能(調理台および表面洗浄、食品調製道具のクリーニング、保管機器のクリーニング、皿の洗浄および農作物の洗浄)、大規模な飲食物の処理(処理および保管機器のクリーニング、タンクの消毒、液輸送ラインのクリーニング)、水ラインのクリーニング(例えば、飲用水、飲料ディスペンサー、歯科医院、配管工事、熱交換システムなど)、飲食物輸送(セミトレーラ輸送のためのタンカーユニットのクリーニング、鉄道輸送のためのタンカー車のクリーニング、およびパイプラインのクリーニング)、バイオフィルム付着物処理のための、義歯クリーニング、アクネ治療、殺精子剤、実験装置クリーニング、実験室表面クリーニング、石油パイプラインクリーニング、試験器具処理などの非伝統的な用途が挙げられる。
【0041】
組成物は多くの方法で調製されることができる。例示の方法が以下に記載される。
【0042】
塩基(例えば、NaOH)、任意の溶質(例えば、リン酸塩または硫酸塩)、および計算された希望の容積の60-90%を構成できる水。この溶液は、攪拌され、および/または、加熱される。次いで希望の量の界面活性剤が加えられる。攪拌する場合には、撹拌が完了したら十分な水が加えられ、組成物が計算された浸透圧とpH値を有するようにされる。有利なことには、組成物を長期間保存するために特殊な条件も容器も必要がない。ただし、冷却は所望であれば使用される。
【0043】
さまざまな添加剤と助剤が、組成物を特定の最終用途における使用に対してより適合するように加えられることができ、効力に実質的に否定的に影響することがある。例としては、皮膚軟化剤、防かび薬、芳香剤、顔料、染料、消泡剤、発泡剤、香料、研摩材、漂白剤、保存料(例えば、酸化防止剤)、および同様のものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
組成物は効力のために活性な抗微生物剤の含有を必要としないが、そのような材料はある特定の実施態様では含まれる。例えば、1以上の漂白剤、さまざまなフェノール類、アルデヒド、四級アンモニウム化合物などを加えることができる。
【0045】
組成物は便利には溶液として提供されるが、ある特定の最終用途には他の形態が望ましい場合もある。従って、組成物は可溶性の粉末(次の希釈のため、このオプションは輸送費用を低減できる)、スラリー、ゲルまたはペーストなどのより濃い形態(これは特により長い滞留時間を提供するために役に立つ)。後者のためには、組成物は合剤(例えば、ポリビニルピロリドン)などの追加成分を含むことができる。
【0046】
組成物の実施態様では、非常に短い滞留時間であっても非常に大きなバクテリア数の低減を提供する。例えば、高い濃度の界面活性剤(例えば、1.5-2.5重量%)および合計溶質(例えば2-4Osm)を有する組成物は、強固なバイオフィルムのバクテリアの数について、3分、4分、5分、7分、8分、9分または10分の滞留時間で2、3,または4ログ(99.99%)の低減を提供し、30秒の滞留時間で3、4、5、または6ログ(99.9999%)の低減を提供する。
【0047】
定量キャリアテスト(Quantitative Carrier Testing)(ASTM E2197)は、菌を含む接種物(soil-loaded inoculum)のバクテリアを表面(例えば、調理台、シンク、浴室の設備、および同様のもの)から根絶するために必要な接触時間を決定するように設計されている。このテストで、バクテリアは汚れと組み合わされ、10マイクロリットルの接種物種菌がステンレスキャリアディスクの上に置かれる。接種物が完全に乾燥された後、50マイクロリットルの抗微生物処理組成物が適用され、希望の処置時間の間静置され、その後生理食塩水で希釈される。
【0048】
前述された本発明の苛性組成物の一般的な使用に加えて、ある特定の特異的最終用途は苛性の抗微生物性組成物、その酸性の対応物または固体の抗菌性材料を使用できる。以下のパラグラフは酸性の抗微生物性組成物と固体の抗菌性材料、そのような組成物のための具体的な新規な最終用途や材料の情報について詳しく説明する。
【0049】
潜在的に有益な酸性液組成物は、前述の米国特許7,976,873、7,976,875、7,993,675および米国特許公開2010/0086576 Alに記載されているものを含み、そのすべてが大量の浸透圧的に活性の溶質を含んでいる。液体組成物の主な相違点はpHである。それらが耳または静脈洞炎くぼみ(sinus cavity)で使用する事が意図される場合には非常に穏和(例えば、一般的に約6≦pH≦7)であり、表面の殺菌の使用が意図される場合にはより極端、例えば(約3≦pH≦6)である。
【0050】
酸性の抗微生物組成物は最低で3つの成分を含んでいる:水、少なくとも1個の酸の解離生成物、および少なくとも1つの界面活性剤。一般に、上記のそれぞれが生物学的に適合していると考えられている。有機酸の1種以上のアルカリ金属塩の解離生成物も含まれることができる。
【0051】
ヒドロニウムイオンの濃度の増大(すなわち、pHの減少)は一般に向上した効果に対応する。効果は直線的でない場合があるので、効力における増大がある特定のヒドロニウムイオン濃度に漸近であるかもしれない。組成物のpHが約3より大きい限り、組成物は通常生物学的に適合するだろう。具体的には、外的曝露は長期間でのマイナスの真皮性効果をもたらさないだろう。
【0052】
酸性は、1種以上の酸類、特には強酸(鉱酸)、たとえばHCl,H2SO4,H3PO4,HNO3,H3BO3や、同様のもの、または望ましくは有機酸、特には有機ポリ酸を水に(逆でもよい)加えることによって達成される。有機酸の例としては、ギ酸、酢酸、およびその置換体、プロパン酸およびその置換体(例えば、乳酸、ピルビン酸、および同様のもの)、さまざまな安息香酸(例えば、マンデル酸、クロロマンデル酸、サリチル酸、および同様のもの)、グルクロン酸、および同様のもののようなモノプロトン酸;蓚酸およびその置換体(オキサミン酸を含む)、ブタン二酸およびその置換体(例えば、リンゴ酸、アスパラギン酸、酒石酸、シトラマル酸、および同様のもの)、ペンタン2酸およびその置換体(例えば、グルタミン酸、2ケトグルタール酸、および同様のもの)、ヘキサン二酸およびその置換体(例えば、粘液酸)、ブテン二酸(シスとトランス異性体の両方)、イミノ二酢酸、フタル酸、ケトピメリン酸、および同様のもののようなジプロトン酸;
クエン酸、2-メチルプロパン-1,2,3-トリカルボン酸、ベンゼントリカルボン酸、ニトリロトリ酢酸、および同様のもののようなトリプロトン酸;プレニト酸、ピロメリット酸、および同様のもののようなテトラプロトン酸;より多官能の酸類(例えば、ペンタ、ヘキサ、ヘプタプロトン酸など)も使用できる。ここで、トリ-、テトラ-、およびより多官能の酸が使用される場合、カルボキシルプロトンの1以上がカチオン性の原子または基(例えば、アルカリ金属イオン)で置き換えることができ、これらは同じであるか、または異なったものであってよい。
【0053】
ある特定の実施態様では、水に非常に可溶性であるか、そうすることのできる有機酸が好ましい。水への溶解牲を高める基(例えば、水酸基)を含む酸の例としては、酒石酸、クエン酸、およびシトラマル酸が挙げられ、いくつかの状況では好ましい。これらおよび/または他の実施態様では、生物学的に適合している有機酸が好ましい。上に記載された有機酸の多くが食品産物、パーソナルケア製品、および同様のものを調製するか、または処理する際に使用される。代わりにまたは追加で、バイオフィルムの高分子マトリックスを架橋するのにかかわる金属陽イオンと錯体を形成する活性を有する有機酸が好ましい。以下でさらに詳細にこれについて議論する。
【0054】
界面活性剤は酸の添加の後、酸の添加の前、または酸と同時に水に加えられる。塩基性の抗微生物性組成物と同様に、あるタイプのイオン電荷を有するそれらの界面活性剤は、向上した抗微生物効果をもたらすと予想される。バクテリアと接触する時に、そのような電荷は、より効果的な細胞膜破壊および最終的な細胞の漏出と溶菌に導くと信じられている。潜在的に有益な界面活性剤は先に説明したものと同じである。非イオン性およびカチオン性界面活性剤が、組成物が皮膚組織との接触を意図場合には幾分好ましい。
【0055】
酸性の抗微生物性組成物で使われるそのような界面活性剤の量は、先に塩基性抗微生物性組成物に関して説明したものと同じである。
【0056】
界面活性剤成分の致死率は、組成物が少なくとも中適度の有効な溶質濃度(浸透圧)を有する時に増加および/または、高められた。組成物のオスモル濃度は一般に使用される酸の量に比例して増加し、所定の組成物の最大のオスモル濃度は主として具体的な酸の溶解限度の関数である。組成物における増加する量の酸への明白な推論は、ヒドロニウムイオンのより高い濃度、すなわち、低pH値である。先に示されたように、いくつかの最終用途では中程度の低いpHだけが組成物に求められる。希望の目標よりも低いpHにしないで組成物のオスモル濃度を増加させるために、1種以上のタイプの他の水溶性化合物を含むことができる。そのような化合物は、解離した際に、ヒドロニウムイオンのモル濃度に大きな影響を与えることなく組成物における、溶質の有効な量を増大させる。また同時に緩衝液系を組成物に提供する。浸透圧を高めるための物質と方法、および結果として得られる組成物の浸透圧モル濃度を高めるための物質と方法は、先に塩基性抗微生物性組成物に関して説明したものと同じである。
【0057】
1種以上の有機酸が組成物に使用される場合には、浸透圧はそれらの酸または他の酸の塩を含むことによって増加する。たとえば、組成物がxモルの酸を含む場合、多数倍過剰(たとえば3x-10x、好ましくは少なくとも5xまたは少なくとも8x)のその塩基の塩を含むことができる。
【0058】
塩基性および酸性の両方の抗微生物性組成物が液体として説明されたが、それは限定的ではない。追加の形態としては、エマルション、ゲル(ヒドロゲル、オルガノゲル、およびキセロゲルを含む)、ペースト(すなわち有機物、典型的には脂肪に基づく懸濁液)、軟膏または軟膏剤、エアゾール剤、泡状フォーム、または懸濁液が含まれる。
【0059】
消毒用途での使用が意図される固体製品は2012年の米国特許公開(米国特許出願番号13/468,767、2012年5月10日出願、この出願の提出日には発行されていない)に記載されている。固体物質は架橋された水可溶性高分子電解質と同伴された界面活性剤を含んでいる。構成要素のこの組み合わせは、水中環境で使用されるときに先に説明した液体組成の酸性のバージョンのものをまねるように、固体成分の周囲およびその中での局所的な化学的挙動を可能にし:高い浸透圧と高い界面活性剤濃度を可能とする。必ずしも必要ではないが、固体成分は殺生剤、特に活性な抗微生物剤を含むことができる。液体が通り抜けた場合、または固体成分の近傍では、すべてのバクテリアまたは他の微生物は上記で議論した局所的化学条件に暴露される。高い浸透圧、比較的低いpH、および利用可能な界面活性剤の組み合わせは、バクテリアの膜漏れを引き起こし、細胞分解へ導く。これらの特性は、固体成分が細菌性バイオフィルムと胞子ディフェンスを飛び越えて進み、無効にするのに有効であることを許可する。グラム陽性菌およびグラム陰性菌の広いスペクトルに対して致命的であることに加えて、固体物質はウイルス、菌類、カビ、および酵母などの他の微生物に対しても致死性を示す。
【0060】
固体成分は、ある程度のレベルの水または湿度を、有効に機能するために必要とする。これはさまざまな方法で決定または定義することができる。多電解質は局所的な液体電荷相互作用ができなければならない(これは電解質基に少なくとも2つの水分子が接触しているか、または非常に近くにあることを意味している);あるいはまた、十分な水が電解質の電荷を活性化するために存在していなければならない;および/または細菌増殖を可能にすることができるに十分な水が利用可能でなければならない。
【0061】
固体の抗微生物性物質は、それ自体では真のpHを持っていない。しかしながら、使用時にはそれが展開される任意の水性組成物の局所的なpHは、適切な抗菌力を確実にするために約7より低い。低減されたpH値(例えば、約6.5未満、約6.0未満、約5.5未満、約5.0未満、約4.5未満、および約4.0未満)は固体成分の効力の増大と互いに関連すると信じられているが、この効果は先に説明した理由のため漸近的であるかもしれない。
【0062】
より強い酸性の局所的環境に加えて、局所的な高いオスモル濃度条件も効力を増加させると信じられている。従って、高分子電解質のより大きな濃度、界面活性剤のより大きな濃度、より短い分子鎖長(例えば、C10以下、典型的にはC8以下、一般的にはC6以下)を有する界面活性剤、および、極性基の周りにより小さい側鎖を有する界面活性剤がより望ましい(これらの要素も以前に説明した液体組成物に適用可能である。)
【0063】
分散された際の局所的濃度が少なくとも中程度に効果的な溶質濃度(浸透圧)となるよう固体材料が提供される時、界面活性剤成分の致死性が増大および/または向上される。局所的なオスモル濃度(浸透圧)はポリマーネットワーク中に存在している電解質の数とタイプに比例して増加する。局所的なオスモル濃度とは固体材料に含まれる液体のオスモル濃度を意味する。これは物品中で場所によって異なっているかもしれないが、高い局所的なオスモル濃度を全体にわたり提供できる固体材料が好ましい。
【0064】
固体材料のバルクを形成する高分子電解質は、望ましくは少なくともいくらか水可溶性であるが、架橋された後には本質的に水不溶性である。特性のこの組み合わせを有する高分子電解質の部分的な非制限的リストとしては、ポリナトリウムスチレンスルホン酸塩のような強高分子電解質、およびポリアクリル酸、ペクチン、カラゲナン、さまざまなアルギン酸塩、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルキトサン、およびカルボキシメチルセルロースのような弱高分子電解質があげられる。潜在的に有用な高分子両性電解質としては、アミノ酸およびベタインタイプの架橋されたネットワークがあげられる。例としては、ナトリウムアクリレートと、トリメチルメタアクリロイルオキシエチルアンモニウム ヨウ化物、2-ヒドロキシエチルメタ-アクリレート、または1-ビニル-3(3-スルホプロピル)イミダゾリウムベタインに基づくヒドロゲルがあげられる。水中で完全(またはほとんど完全に)に解離し、および/または効力のために望まれる比較的低い局所的なpHを提供する電解質基を有する高分子材料が好ましい。電解質を含む側基を有するモノマーを高密度で有する高分子電解質も好ましい。
【0065】
固体材料を形成するための架橋の機構としては化学的な高温自己架橋、および照射による架橋があげられるが、これらに限定されない。別のオプションは、重合プロセス自体の間に架橋することである。たとえば隣接するスルホン酸基を縮合することによりスルホニル架橋を得ることができる。固体材料の架橋密度は重要な役割を果たして、特にはより高い架橋密度を有する固体材料は、おそらくポリマーのネットワーク中のより長い平均自由行程のため、より長い期間の間、より高い界面活性剤濃度を維持する傾向がある。
【0066】
架橋方法にかかわらず、熱伝導型の型内に置かれた水溶液中のポリマー(または、重合可能なモノマー)を架橋し、急速凍結と引き続く凍結乾燥を行うことによって固体材料を形成する事ができる。一般に、得られたスポンジ状の材料はそれが形成された型の形状を有する。このタイプのプロセスから得られる固体は、しばしばスポンジ状の外観を持ち、比較的大きい孔がまがりくねった経路によって接続されている。しばしば、約0.22μm未満、約0.45μm未満、約0.80μm未満、および約0.85μm未満の孔が望ましい(エンドトキシン、バクテリア、および胞子の直径に基づいている)。これらおよび他の用途については、少なくともいくぶんか大きい孔(例えば、1μm、2μm、5μm、10μm、50μmまたは100μm未満)を有する固体材料が使用できる。
【0067】
固体材料は、固体材料の付近にあるかまたは接触しているバクテリアの細胞膜を遮るかまたは破壊するに十分な量の界面活性剤を含んでいる。一般に、界面活性剤成分は固体材料の、最低で0.03%、最高で約10%、15%または17.5%(すべて重量による)を構成する。先に議論された同じタイプの界面活性物質もこの形態で使用できる。
【0068】
架橋が起こる時(または、上で議論した同時の重合および縮合のタイプの場合では重合の時)に、望ましくは、界面活性剤はポリマーネットワーク中に存在している。そうでない場合には、架橋された重合体物品またはフィルムは界面活性剤が確実に同伴されるために後処理されなければならない。これを達成するための可能な方法は、1種以上の界面活性剤を含む溶液(典型的には水溶液であるが、必ずしもそうである必要は無い)中への物品またはフィルムの浸漬と、引き続く乾燥(熱または凍結)または真空による余分な水分の除去である。界面活性剤に加えて、1種以上のイオン化合物(塩)は、高浸透圧の局所領域を作り出す能力を高めるために固体材料に組み入れられることができる。
【0069】
どのように達成にされるかにかかわらず、固体材料の周りの局所的な浸透圧は少なくとも適度に高く、少なくとも約0.1Osmのオスモル濃度がほとんどの用途のために好ましい。約0.1Osmよりも大きな局所的なオスモル濃度を作り出す固体材料は、向上した殺菌作用を有するだろう。浸透圧のさらなる増加は、抗微生物効果のさらなる向上を提供する。
【0070】
固体成分はさまざまな中間体および最終製品であることができ、蒸気および液体が透過可能であるスポンジ状の固体;成型されたか、押し出されたか堆積されたシート;表面上のコーティングまたは多層構造中の層;押し出された繊維または糸であることができるが、これらに限定されない。特定の形状に一旦されると、材料はさらに加工されるか細工され、希望の形状にされる。例えば、シート製品はロールにされるか折り曲げられ、特定の幾何学的形状の膜にされる。またより大きな固体は粉砕して粉にされることができる。
【0071】
液体と固体形状はともに、少なくとも部分的に、バイオフィルムの高分子マトリックス内のイオン性架橋を中断ないし破壊することができ、マトリックスを通る溶質および界面活性剤の通過を容易にし、マトリックス内に同伴されおよび/またはそれにより守られているバクテリアへの到達を容易にする。両方の型も、典型的にC1-C4アルコール系溶剤を含まないが、結果として10分以下の滞留時間で、強固なバイオフィルム内のバクテリアの数を少なくとも6ログ(99.9999%)低下することができる。摂取しても無毒の組成物の実施態様では、10分以下の滞留時間の後、強固なバイオフィルム内のバクテリアの数を少なくとも2ログ(99%)、3ログ(99.9%)または4ログ(99.99%)低下することができる。
【0072】
先に説明した組成物と固体物質の特定の用途の議論では、「低い」、「中程度の」および「高い」などの用語は毒性や効力などの特性に関連して使用される。毒性は生物組織またはシステムへのネガティブ効果を言う。低毒性とは繰り返しの適用によってもほとんどまたは全く炎症が生じないことを言い、高いLD50値、ほとんどまたは全くない細胞毒性をいう。高い毒性とは繰り返しの適用によって炎症が生じることを言い、低LD50値、および/または中ないし高い細胞毒性をいう。一般に、毒性は増加する界面活性剤濃度、増加する浸透圧、および/またはpHが中性から遠ざかることによって増加する。
効力とは微生物に対する致死性、および/またはある特定の細菌コロニーがあるEPS/ECPSを崩壊するかまたは取り除く事ができる能力をいい、低い効力はバクテリア(特に強固なバイオフィルム中のバクテリア)の低減が<2ログ、またはさらには<1ログのものをいい、高い効力は>2ログ、>3ログ、>4ログ、>5ログ、および>6ログの低下を示す。効力は、pHが中性から遠ざかるにつれて、界面活性剤の量が増えるにつれて、毒性が大きくなるにつれて大きくなる。界面活性剤の構造(例えば、より高い電荷の可能性、荷電された部位の近くのより小さい基、より小さい親水性の部位など)、またはタイプ(すなわち、カチオン性>両性イオン性>アニオン性>非イオン性)により最適化される。
【0073】
創傷
多くの病原バクテリアが創傷と創傷の周りにしばしば存在している。グラム陽性菌はエンテロコッカス-フェカーリス(Enterococcus faecalis)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)を包含する。
グラム陰性菌はクレブシェラ肺炎杆菌(Klebsiella pneumonia)、アシネトバクター バウワニー(Acinetobacter baumanii)、ヘモフィールスインフルエンザ(Haemophilus influenza)、バルクホルデリアセノセパシア(Burkholderia cenocepacia)、および緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)を包含する。また、種々の菌類は火傷にも存在している。
【0074】
創傷における菌叢が時間がたつにつれて変化するので、創傷コロニー化は段階的にしばしば起こる。初めは、創傷は黄色ブドウ球菌(S. aureus)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)、連鎖球菌(Streptococcus spp.)、および腸球菌(Enterococcus spp.)のような好気性のグラム陽性球菌によってコロニー形成される。次いで緑膿菌(P. aeruginosa,)、大腸菌(E. coli)、肺炎桿菌(K. pneumoniae)、およびアシネトバクター・バウマンニ (A. baumannii)などのグラム陰性のロッドが続く。創傷は後に、プレボターラ(Prevotella spp.)および ポルフォリモナス(Porphorymonas spp.)などの嫌気性の種によってコロニー形成される。
【0075】
バクテリアは創傷をコロニー化し、表面近傍に好気性菌の混合種共同体を有し、より深い部分に嫌気性細菌を有するバイオフィルムを形成する。バイオフィルムは創傷のコロニー化をもたらし、治療を防止する主要で、おそらく原発性の要素である。なぜなら、体の天然の防御も抗生物質類もバイオフィルム内のバクテリアを根絶できないからである。創傷感染を処理するのが難しい追加の理由としては、創傷焼痂の無血管特性と抗生物質耐性微生物の存在があげられる。
【0076】
人間および動物の創傷は、(1)皮膚剥削、外科的切開、損傷、および熱傷を含む急性のもの、および(2)糖尿病性潰瘍、圧迫性潰瘍、および静脈と動脈の潰瘍を含む慢性のものに分類できる。
【0077】
一般に、急性創傷は完全に治癒し、規則的でタイムリーな再生過程で連続した、いくらか重なる以下のステージで回復する:止血、炎症、再生および修復。
【0078】
止血では、傷害性内膜はサブ内皮のコラーゲンに血小板を露出する。次に、それは、von Willebrand因子および組織トロンボプラスチンを放出する。von Willebrand因子はサブ内皮のコラーゲンへの血小板付着を容易にし、付着した血小板はADPとトロンボキサンA2を放出する。これは更なる血小板凝集につながる。
次に、組織トロンボプラスチンは凝固経路を活性化し、フィブリン形成に導き、血小板と赤血球が捕らえられるプラグを形成し、その結果凝塊を形成する。
【0079】
炎症において、血小板は、血小板由来成長因子、および変化成長因子βを放出し、変化成長因子βは好中球と単核細胞へ走化性である。好中球、マクロファージは、異物およびバクテリアを貧食する。
【0080】
血小板由来成長因子と変化成長因子は上皮細胞および線維芽細胞へのミトーゲン性を有する。再生と回復期において、上皮系細胞と線維芽細胞を増殖し、線維芽細胞はコラーゲンを製造する。血管内皮成長因子は内皮細胞へのミトーゲン性を有し、それは単核細胞によって低酸素血症に対応して放出されて、血管新生を促進する。
【0081】
急性創傷の治癒過程の最初の24時間、好中球は支配的な細胞タイプである。これは、上皮系細胞が増殖して、創腔内に移動し始める急性炎症フェーズである。次の24から48時間の間、マクロファージおよび線維芽細胞が優位な細胞タイプであり、上皮細胞増殖と移動が続き、血管新生が始まる。肉芽組織が現れて、コラーゲン線維は存在しているが、垂直であり、創傷のギャップをブリッジしない。肉芽組織は新たに形成されたループ状毛細血管を含んでいる。
【0082】
5日目の終わりまでには、支配的な細胞タイプは線維芽細胞である。線維芽細胞はコラーゲンを合成し創傷の端をブリッジする。皮層細胞は、分割を続け、表皮は多層状になる。そして、豊富な肉芽組織が存在している。
【0083】
2週間の間に、急性炎症は静まり、コラーゲンは蓄積し続ける。
【0084】
上記は熱傷と慢性の創傷に不適当である。火傷では、損傷による防護壁の不足はしばしば敗血性感染をもたらす。慢性の創傷では、創傷は整然とした進行を示さず、創傷が治癒過程の炎症フェーズに残ることを引き起こす。
【0085】
治療が取り得る形態は、治療により利益を得る創傷のステージ、創傷に存在するバクテリアのタイプと形、および治療される創傷と周囲の皮膚のすべてであり、これらは本発明の幅を示している。変数のそれぞれの可能な組み合わせについては個別に説明できない。
代わりに、別々に変数の多くについて議論するだろう。そして、当業者は特定の形態を提供するためにこれらの個々の説明を結合できる。これらは創傷または治癒過程の特定のステージの特定のタイプの創傷に使用できる。
【0086】
創傷タイプ
慢性と急性の創傷の両者は、表皮と真皮だけに影響するか、または筋膜組織に影響する。
【0087】
慢性創傷は、主として人間に関わるが、馬でも起こる。しばしば血行不良、ニューロパシー、運動不足によって引き起こされる。全身病(感染症と糖尿病を含む)、加齢、たびたびのショック、および共同病的な軽疾患、たとえば脈管炎、壊疽性膿皮症、組織異常増殖、代謝異常、および虚血を引き起こす病気(例えば、慢性線維症、アテローム性動脈硬化、水腫、鎌状赤血球貧血、動脈の機能不全症関連の病気など)を引き起こすか、または免疫系を抑圧する病などの多の要素もある。これらのすべては創傷損傷に対処する身体能力を圧倒するように作用し、一般的な治癒過程を崩壊し、急性創傷に見られるコラーゲンのような分子群の生産と分解の間の精密な平衡を崩壊し、分解が不均衡への大きい役割を果たす。
【0088】
前述の原因の多くが不十分な組織酸素化をもたらして、より高い感染の危険性に導く。バクテリアの存在への免疫応答は、炎症を長引かせて治癒を遅らせ、慢性の創傷と損傷組織に導く。より大きい数の好中球が傷口に入ることを引き起こすことにより、細菌コロニー形成および感染が組織を損傷する。好中球は病原体と戦うが、それらは細胞を損なう炎症性サイトカインと酵素を放出して、バクテリアを殺すために、反応性酸素種(Reactive Oxygen Species:ROS)を製造する。好中球と他の白血球によって製造された酵素とROSは、細胞を損ない、回復を容易にするDNA、脂質、蛋白質類、細胞外マトリックス、サイトカインを破損することによって細胞増殖と創縫合を妨害する。好中球は、急性創傷より長い間慢性創傷では残っていて、慢性の創傷には多量の炎症性サイトカインとROSがあるという事実に貢献する。慢性創傷流体では、プロテアーゼとROSが過剰にあり、したがって慢性創傷流体自身が、細胞成長を阻害し、細胞外マトリックス中の成長因子とタンパク質を破して治癒を妨害する。
【0089】
慢性の創傷は典型的には糖尿病性潰瘍、静脈性潰瘍と、および圧迫性潰瘍に分類され、これらのカテゴリーに入らない少数の創傷が、たとえば放射能汚染または虚血により引き起こされる。
【0090】
一般に受け入れられている知見は、消毒薬が慢性の創傷の治療のための禁忌であるということである。この信念はさまざまな要素に基づいている;例えば組織を破損する可能性、創傷収縮の潜在的遅れ、有機物、たとえば血液および滲出液があるときの一般的な無効果。
【0091】
急性創傷は皮膚、および/または下層の支持組織の抵抗性強度を超えた力から生じる、擦傷、穿刺、裂創、または切創から生じる。ほとんどの急性創傷が損傷から生じ、残りの大部分が医学的処置、たとえば外科的処置により生じている。外科的創傷は清浄から汚染された汚いスケールに分類される。汚染された汚い(または感染したことが知られている)外科的創傷は、場合によっては縫合される前に治療において開いたままにされている。外科的創傷はほとんどいつもドレッシングされ、止血を支持し、感染から保護する。ドレッシングは吸収されるべき滲出液の量に基づいて選択される。周囲の皮膚への滲出液の漏れが水疱形成を引き起こす、特にドレッシングの下の領域で引き起こす。
【0092】
創傷治療
基本的な創傷部のケアプロトコールは、洗浄(すなわち、破片の取り出しと壊死組織の軟化)、可能なデブリードマン、余分な滲出液の吸収、肉芽と上皮形成の促進、および感染治療を含む。この段階で使用される清浄化薬剤は、汚れとバクテリアの物理的除去を目的とする界面活性剤に基づき、バクテリアの殺害能力はあっても非常に小さい。
【0093】
創傷に対する一般的治療は、包交、薬用のドレッシング、および浄化またはデブリードマンを含む。これらはしばしば全身性の、および/または局所的な抗生物質類と組み合わされるが、バイオフィルム内のバクテリアを処理するときには、それらの固着性の状態のため残念ながら、効力がない。(何桁も多い抗生物質が、バイオフィルム内のバクテリアを殺すために必要で、大部分またはすべてがホストにとって毒性である。)
【0094】
ドレッシングを乾燥したものに代えた場合には、新しい組織の成長を傷つける機械的なデブリードマンの手段となり得、疼痛を引き起こして、創傷の感染を起こし、異物になって、治癒にかかる時間を遅らせることがある。
【0095】
デブリードマンは創傷における壊死組織と感染症のために実行される。これは、機械的、自己溶菌、外科的、酵素学的または生物化学的、または生物学的な複数の方法により達成できる。ヒドロゲルは、湿らせるためにしばしば創傷に適用される。陰圧創傷療法は、創傷からバクテリアを引くのに使用される。また、高圧室は、創傷治癒を改良するために使用される。
【0096】
アルコール系溶剤、H2O2、ポビドンヨード、および希釈HClOなどの抗菌製品の局所適用は、時々細菌の負荷を制御するために実行される。多くのゲル剤およびドレッシングが創傷における感染治療のために売り出されており、たとえば抗菌銀含有ゲル、カルシウム繊維ゲル剤およびアルギン酸塩(バクテリアをトラップする)があげられる。しかしながら、これらのいずれもバイオフィルムに対しては有効でなく、したがって、多くの創傷の処理において有効でない。
【0097】
既述のとおり急性の創傷は、止血、炎症、および再生/修復を含んでいる規則的で、多段階の再生過程で回復する。前述の組成物と固体成分はこれらのステージのそれぞれでの治療で役に立つ。さらに、バイオフィルムの形成を含む細菌コロニー形成の防止、または、創傷の近くでのバイオフィルムの形態での感染の治癒を目的として治療を行うことができる。
【0098】
創傷形成のすぐ後または同時に、創傷と周囲の皮膚は感染の危険を最小にするために処理されることができる。この処理は液体組成物でその領域を洗うことによって、または固体キャリア、たとえば局所的にワイプで拭くことにより効果的に行うことができる。この段階では、処理培体への長時間の暴露は期待されないので、生物学的適合性を犠牲にして効力を向上することは許容される。
【0099】
効力はオスモル濃度の増加、pHを中性から遠ざけること、および/またはより攻撃的な界面活性剤を使用することによって向上される。例えば、即座の除去を意図する液体組成物(これはゲル、軟膏と香膏などの半固体材料を包含する)、または他の治療が即座に行われない状況における使用のために意図する局所的なワイプは、比較的極端なpH(例えば、2から4または10から12)を有することができる。一方、即座の除去を意図しない液体組成物、または極端な状況ではない使用のために意図する局所的なワイプは、比較的中程度のpH(例えば、4から5または9から10)を有する。除去されることを意図しない液体組成物、または子供または小動物について使用することを意図する組成物/ワイプは優しいpH(例えば、5から6.5または7.5から9)を有する。
【0100】
pHを中性から遠ざけることに加え、またはその代わりに、局所的組成物は非常に高い浸透圧モル濃度、および/または、界面活性剤含有量を有することができる。特にバイオフィルムはそのような初期段階でき形成されそうもないので、EPS/ECPS高分子マトリックスの破壊を助けるためのH3O+またはOH-の必要性は大きくない。したがって他の溶質、バッファ、および/または界面活性剤の、より多い添加は、プランクトン型の多くのタイプのバクテリアに対してかなりの致死率を提供するために十分であるかもしれない。例えば、浸透圧モル濃度が約300mOsmより大きく、界面活性剤の添加量が約0.075%(重量による)より多い液体組成物は、このステージの創傷のケアにおいてしばしばバイオフィルムの成長を防止するのに適当である。浸透圧モル濃度と界面活性剤の添加量を調節(先に述べた量で)し、より効果的な(すなわち、より殺生物の)組成物を提供できるが、潜在的な皮膚刺激性の可能性がある。
【0101】
生物学的適合性の理由で、非イオン性およびカチオン性界面活性剤(特にベンザルコニウムクロリドとセチルピリジニウムクロリド)が好ましい。
【0102】
創傷のケアのための液体抗微生物性組成物のさまざまなグレードも企図される。
例えば、一般用医薬品(OTC薬)と処方箋薬品(Rx)またはプログレード薬品は、以下の表1に示されたような組成と特性を持っている:
表1:
例示の創傷ケア組成物
【表1】
中間的な性質を持っているグレードも企図される。
【0103】
液体抗微生物性組成物は直接適用することができ、または供給しつつ連続的に除去することができる。たとえば、デブライダー(debrider)、例えば、Pulsavac Plus(登録商標)ファミリー、ジマー社、ワルシャワ、インディアナからの市販の製品のような器具のいずれか、または特別な流量制限(高めた圧力)を備えたシリンジで適用することができる。液体組成物または上記の追加の形態(固体または半固体、特にさまざまなポリエチレングリコールのいずれかに基づくゲル)の1つが、スポンジ、局所的ワイプ、パッド、ガーゼ、外科的パッキングなどの物品に殺菌特性を付与するために使用される。
【0104】
微生物感染を停止するか、または防ぐために創傷部に適用されることに加えて、液体組成物(ゲルと発泡体を包含する)または局所的なワイプを、シリンジ、デブライダー、止血器、および同様のもの(しかしこれらに限定されない)の処理に使用する器具、および創傷部の皮膚を消毒するのに使用することができる。
【0105】
ある特定のタイプの創傷、患者、および/または、治療において、消毒組成物または材料は他のタイプの材料と併用できる。そのような材料の非限定的な例としては、皮膚軟化剤、ローション、湿潤剤、ヒアルロン酸のようなグリコサミノグリカン、鎮痛剤(例えば、プラモキシン、リドカイン、カプサイシン、イソブチルプロパノイックフェノリック酸)、コロイド銀(熱傷の治療用)、胞子駆除薬、防菌剤、抗生物質(例えば、バシトラシン、ネオマイシン、ポリミキシンBなど)、芳香剤、保存料(例えば、酸化防止剤)、および同様のものがあげられるが、これらに限定されない。
【0106】
抗出血性薬剤を消毒(抗微生物性)組成物または材料に加えるか、または消毒薬を抗出血性薬剤に加えることは、潜在的はかなり有用である。
軍事および緊急医療機関で使用される一般的な抗出血性薬剤の例としては、フィブリン、コラーゲン酸化でんぷん、カルボキシメチルセルロース、トロンビンおよびキトサンがあげられる。消毒組成物または材料の様々な実施態様が、抗出血性薬剤または物品に加えられることができ、たとえば止血性包帯(HemCon Medical Technologies;ポートランド、オレゴン)、Tisseel(登録商標)フィブリンシーラント(バクスター・インターナショナル社;ディアフィールド、イリノイ州)、Thrombi-Gel(登録商標)ゼラチン発泡止血薬(ファイザー社;ニューヨーク、ニューヨーク)、GelFoam(登録商標)-ゼラチンスポンジ(ファイザー)、GelFoam(登録商標)プラス止血キット(バクスター)などがあげられる。別法として、抗出血性物質の液体消毒組成物、固体の消毒物質または物品への添加も有用である。例として、少なくとも約5%、しばしば少なくとも約10%、一般には少なくとも約20%の消毒性組成物または物質が、固体または半固形の抗出血性物質(例えば、ゲル-フォームとキトサン包帯)中に存在する。逆に、消毒組成物または物質中に、約1から約80%、一般には約3から約70%(重量基準)、典型的には約5から約60%の抗出血性物質が加えられることができる。量は例えば、トロンビン、キトサン、酸化セルロース、またはカルボキシメチルセルロースである抗出血性物質の種類と効力に基づいて異なる。
【0107】
上記の実施態様は軍事的有用性を有すると予想される(例えば野戦医療従事者によって運ばれる注入可能な粉末)。また緊急医療用途(例えば、EMTと救急車キット、および外科手術室用途)、ここでは消毒能力(効力)は好ましく高く、たとえば高いオスモル濃度と界面活性剤量である。血液および創傷流体は固体物質または濃縮液体組成物を水和することができ、そうすれば水または他のキャリアの量は低く保たれる。
【0108】
他の実施態様は、より少ない外傷、たとえばひげそり傷、不適切にトリミングされた動物の爪などに関する利用を見つけると予想される。液体または固体の消毒物質は明礬またはTiO2などの止血剤に加えられるかもしれない。
【0109】
上記から、当業者は創傷が洗われる多数の物品、テクニックおよび方法を思い描くだろう。
【0110】
また、先に説明した液体組成物と固体物質の実施態様は、創傷治癒プロセスの様々なステージの間で使用されることができる。
【0111】
さらに詳細に先に説明したように、創傷は止血、炎症、および修復および/または再生を伴うプロセスで回復すると信じられている。これらの段階の間、さまざまな局所用薬物と物品は創傷と隣接した領域に適用される。いくつかは短期間、いくつかは長期間適用される。
【0112】
例えば、多くの創傷が生じた後すぐに包帯され、ある特定の状況では時間がたつにつれて再び包帯される。液体組成物の実施態様を含んでいる包帯は、感染を予防し、感染症を治療し、バイオフィルム形成を防ぎ、バイオフィルムを壊し、そこに同伴されたバクテリアを殺す助けをする。この特定の形態では、強い消毒組成物(高いオスモル濃度と比較的極端なpH、例えば、約3.5から5または9から10.5)が好ましい。なぜなら、包帯が典型的には創傷にかぶせるだけであるので、高い効力と菌有毒物が望ましいからである。そのような包帯を作る方法としては、液体組成物中に包帯の材料を浸すか、またはコーティングするか、包帯材料内に同伴させることがあげられる。ゲルは任意に温度依存性の相変化示し。すなわち約25から約40℃の間で、粘度が低くなる。(あるいはまた、いくつかのPEGベースのゲル自体が包帯として作用する。)期待される消毒組成物の、期待される包帯の使用期間にわたる溶出速度を調節できることが望ましい。
【0113】
あるいはまた、固体形態の消毒薬の実施態様は、包帯を提供するのに使用されることができる。固体物品は、作られたままの形態(例えば、スポンジ状の固体)であるか、またはさらに加工された形態(例えば固体から作られた繊維)であることができる。ここで、包帯の材料自体は抗微生物性である。そのような材料が追加の組成物または他の抗微生物物質とともに使用されることができる。
【0114】
上記のテーマは、外科用パッキングを含む。これは構造的に包帯に類似するが、典型的には体の中へ限定された期間挿入することを意図するか、または予定された時間以内に生体に吸収されることを意図する。外科用パッキングを作る方法は、包帯に関して先に記載されたものと本質的には同じであるが、効力、毒性の程度、および/または溶出速度は低い方向に調整される。
【0115】
進行中の創傷治療は時々、ゲル、ペーストまたは軟膏の、創傷部への直接の繰り返し適用を含む。そのような材料が創傷の上、または創傷中に存在することが許容される時間のため、これらの材料は典型的に穏やかか適度にだけ強い消毒組成物を含む。言い換えれば、効力と毒性は、疼痛または組織損傷を避けるために減少され、その犠牲は創傷に近接しての治療と、その接触の長さにより相殺される。
【0116】
包帯と局所処置の両方が火傷で使用される。そのような事情のため、追加の処理とさまざまな添加剤の追加が望ましい。潜在的に有益な添加剤としては、コロイド銀、鎮痛剤、抗真菌薬、皮膚軟化剤、ヒアルロン酸、および同様のものがあげられる。創傷水腫が一般的であるので、いくらか濃縮され、固体でさえもあることができ、局所的に適用される消毒薬が使用される。
【0117】
同様に、包帯と局所処置の両方が、糖尿病のおよび圧迫潰瘍、すなわち慢性の創傷で使用される。同様の添加剤、特に鎮痛剤、ヒアルロン酸、および皮膚軟化剤は、この用途のために意図する実施態様に含まれている。
【0118】
液体組成物の実施態様も、デブリードマンのテクニックと器具に関する有用性を見い出す。具体的には、そのような液体組成物はデブリードマンの前、同時または直後に、領域を洗浄またはフラッシュするために使用されている。
【0119】
上記の実施態様の大部分は1回用として記述されているが、複数回適用も企図される。時間がたつにつれて溶出するため、高い含有量であることが期待される。
【0120】
オーラルケア
ホストの食物における、炭水化物の増加する濃度により、口腔環境は初期的に変化する。これらの炭水化物の発酵により、プラークバイオフィルム中の嫌気性細菌は酸を生成し、その結果バイオフィルムのpHを減少させる。組成物におけるこのシフトの原因となるいくつかの、より一般的なバクテリアは、ミュータンス菌(S.mutans)、ミュータンス群レンサ菌(S.sorbrinus)、およびカゼイ菌(Lactobacillus casei)である。そのすべてがpHレベル最小3.0で生き残る。pHが低下するのに従って、ミクロフローラは酸性耐性バクテリアに向かってシフトする。不耐性のバクテリアが形成された酸性条件下で生き残ることができないからである。
【0121】
強い酸性pHの場合、酸性耐性細菌性バイオフィルムは歯のエナメルを非ミネラル化(de-mineralize)するが、より強い酸性がより速い速度の非ミネラル化を引き起こす。(また、歯のエナメルを非ミネラル化は、口腔内での強酸性物質の存在からのみ起こる。)非ミネラル化が再ミネラル化よりも大きい速度で続く場合に、虫歯となる。S. mutans,Lactobacilli,Lactobacillus acidophilus,Actinomyces viscosus,Nocardia spp.,および Streptococcus sanguisは、最も密接に口内の虫歯に関連している。ほとんどのプラーク由来の口腔疾患がさまざまな存在するマイクロフローラにより起こるが、特異的な原因種は知られていない。
【0122】
プラークと歯石(硬くなったプラーク)は、それらが歯の上により長く残れば残るほど、より有害になる。バイオフィルム内のバクテリアは、一般的に歯肉炎として知られている歯肉の炎症を引き起こす。歯肉炎は適所に歯を保持する骨および組織の損失を含まない軽症型の歯肉病である。Spirochetes,Actinomyces naeslundii,およびP.gingivalisはしばしば歯肉炎に関連している。
【0123】
未処置の歯肉炎は、一般に歯周病として知られている歯の周りの炎症に進む。これは歯肉が歯から引っこみ、感染が生ずるギャップまたはポケットを形成する状態をいう。それらはぞうげ質細管と歯肉に直通するエナメル裂溝のため微生物によって容易にコロニー形成される。バイオフィルムプラークは、歯肉線より下で広がり成長する。これらの歯肉ポケットの中のマイクロフローラ中のバクテリアの大部分がグラム陰性の嫌気性菌である。ただしバイオフィルム自体が変化すればバイオフィルム中の微生物の同一性は変化する。ある特定のポイントでは、生体は、生存を確実にするために口腔の他の位置に分散しなければならない。
【0124】
バイオフィルム中の細菌毒性およびバイオフィルムに対する体の免疫応答のため、歯周病は所定の場所に歯を保持する結合組織と歯の周りの歯槽骨の進行性の消失を伴う。未処置で残されるなら、これは歯の緩みと引き続く損失をもたらす。歯肉の周りと歯肉の下の領域は、機械的なものである典型的な口腔ケア機構で到達するのが難しく、歯肉炎または歯周病の病的状態が起こる。先に歯肉炎に関して記載されたものと同じ細菌が、歯周病にかかわるが、莫大な種の他のバクテリアがこれらのバイオフィルムで見つけられる。
【0125】
インプラント周囲炎は、歯周病と同様であるが、歯科インプラント材の表面に起こり、微生物感染によるインプラントを支持する組織の破壊を言う。これらの感染症は、残遺型歯または失敗した移植の周りに起こる傾向がある。感染菌と戦うための固有のホスト反応がないので、これらはバクテリアのためのリザーバーとして作用し、バイオフィルムコロニーを形成することができる。インプラント周囲炎にかかわる細菌種は歯周病におけるものと同様である。
【0126】
歯科疾病に関する一次処理は予防である。消費者には、これは通常ふっ化物含有歯磨歯を使用したブラッシング(機械的なデブリードマン);アルコールビヒクル中のセチルピリジニウムクロリドおよびフッ化スズ(II)との組み合わせ、またはユーカリプトール、メンソール、サリチル酸メチル、およびチモールの組み合わせを含むマウスウォッシュでの口内のすすぎ;デンタルフロスなどの作業を必要とする。(マウスウォッシュとすすぎはプラークを取り除くのには特には有効でない。プラークが、ブラッシングで清浄にできない領域に蓄積する傾向があるので、プラークは口内の歯の領域でのデンタルフロスの引き続く使用を必要とする。いずれにせよ、これらの予防的処置がバイオフィルムを取りのぞき消毒するのに効果的でないので、歯科医療従事者による通常の予防的治療(典型的には機械的なこすり落としによる歯からのバイオフィルムの除去、ただし補助的ないし代替え手段としてレーザが使用される)が必要である。
【0127】
歯科疾病が歯周病に進行した時の機械的なこすり落とし(デブリードマン)が、バイオフィルムを取り除く唯一の方法であった。歯科医療従事者によるプロの治療はスケーリング(歯肉線の下および上から歯石をこすり落とす)および根面平滑化(バイオフィルムが集まる歯根上の表面の粗い場所の除去)により行われる。時々レーザと組み合わせて行われる。より深刻な場合では、より多くの歯石を取り除くために、フラップ手術が行われる。ここでは歯肉を持ち上げて歯石を取り除き、引き続き縫合する。また、骨が損失された領域で骨と組織片を移植できる。
【0128】
薬物添加は時々機械的処理に関連して使用される。これらはクロルヘキシジンを含む処方箋抗微生物性口内洗浄剤;歯肉ポケット挿入物、たとえばクロルヘキシジン含有防腐性チップ、ドキシサイクリン含有抗生物質ゲル、ミノサイクリン含有抗生物質微小粒;ドキシサイクリン含有錠剤;または、抗生物質の全身投与さえも含む。
【0129】
上記の酸性または苛性の両者の抗微生物性組成物は、以下に例示されるがこれらには限定されないさまざまなオーラルケアビヒクルのいずれにも組み入れられる。たとえば予防的使用が意図される口内リンス液と洗浄剤;既存の歯および歯肉病を治療することを意図する口内リンス液;歯科インプラント後の口内リンス液治療:歯科インプラント材消毒溶液(手術前の);歯科矯正の装置(例えば、支柱、リテーナなど)の消毒溶液:洗浄液(閉鎖の前の根管や埋伏歯などの外科的処置での使用、および通常および限局性歯科処置における使用の両方)、および同様のもの。ビヒクルは液体、ゲル(例えば口腔外科手術の間および/またはその後に使用されるシーリングまたはパッキングゲル)、ペースト(例えば、歯磨)、または軟膏(例えば、潰瘍性口内炎などの口および唇に関する局所治療薬)であることができ、所望であれば、ふっ化物イオンや抗生物質などの成分と共に使用できる。
【0130】
液体抗微生物性組成物が直接口腔内に導入する用途(例えば、マウスウォッシュまたはすすぎ液)では、苛性の組成物が好ましい。ほとんどの口内は自然の状態では幾分酸性環境にあるので、歯垢、歯石、および他の形態のEPS/ECPSは、他のタイプのバイオフィルムEPS/ECPSよりも酸類でキレート化することに対してより不浸透性であるか、または抵抗性があるように思える。ここで使用された苛性の組成物のための例示のpH範囲は、約7.5から約10まで、一般的には約7.7から約9.8、より一般的には約7.8から約9.7まで、典型的には約9±0.5pHユニットまでである。望ましくは、この塩基度はKOHまたはNaOHなどの強い無機塩基によって達成される。
【0131】
浸透圧に関して、好ましい範囲内は約1.75Osmを中心値とする範囲で、一般的には約1.25から約2.5Osm、より一般的には約1.33から約2.25Osm、典型的には約1.5から約2Osmである。pHが上記の範囲から外れることなく、このタイプの浸透圧を達成するために、1種以上のイオン性化合物が組成物に含まれることができる。例示の材料としては、NaHSO4、NaH2PO4、NaCl、KC1、KI、および同様のものがあげられるが、これらに限定されない。
【0132】
非イオン性およびカチオン性界面活性剤が、創傷に関連して先に記載されたものと同じ理由により好ましい。ベンザルコニウムクロリドとセチルピリジニウムクロリドの両方が経口適用に安全であることが知られている。例示の界面活性剤量は約0.5から約1.8g/L、一般的に約0.6から約1.7g/L、典型的には約0.75から約1.5g/Lまでの範囲である。
【0133】
以下の表は、オーラルケア用途のために意図した液体抗微生物性組成物の非限定的な例の組成と特性を示す。
表2:
例示のオーラルケア組成物
【表2】
【0134】
抗微生物性組成物も固体形態、たとえばチューインガム、トローチ、義歯クリーニングタブレット、ブレスミント、取り出し可能であるか溶解しているストリップ、粉末および同様のものなどに組み入れられる。また、それらは呼吸スプレーや犬の歯の洗浄液のような、煙霧化または他のスプレーとして使用する事ができ、またはそのための液体に添加することができる。
【0135】
例示の液体と固形製剤で使用されるタイプと量に関する付加情報、および作成の方法について、興味のある読者は例えば以下のような特許を参照できる。米国特許出願公開2005/0169852、2006/0210491、2007/0166242、2008/0286213、2009/0252690、および2010/0330000。予防用途のために意図するそれらの治療は、典型的には歯科医療従事者による使用が意図されたものより低い有毒性で配合されるだろう。
【0136】
そのような処理組成物に含まれている添加剤としては、漂白剤、結合剤、香味剤(例えば、エッセンシャルオイルおよび人工甘味剤)、湿潤剤、発泡剤、研摩材、減感剤、歯の漂白剤、および鎮痛剤があげられるが、これらに限定されない。
【0137】
厳密にはオーラルケアでないが、また、アデノイドと扁桃の治療も可能である。
【0138】
一般に、扁桃とアデノイドの急性感染は抗生物質の全身投与で処理される。扁桃腺炎がA群レンサ球菌(streptococus)によって引き起こされるなら、ペニシリンまたはアモキシシリンが幾分の成功と共に一般的に使用される。またセファロスポリンとマクロリドが頻繁ではないが、使用される。βラクタマーゼ産生バクテリア(扁桃組織に存在し、ペニシリン型抗生物質類からA群レンサ球菌を保護する)に対してこれらが有効でない場合には、クリンダマイシンまたはアモキシシリンクラブラン酸塩を使用できる。
【0139】
A群のβ溶血レンサ球菌(GABHS)は慢性の扁桃感染症の最も一般的な理由である。抗生物質の全身投与は、ペニシリン類からGABHSを保護するβラクタマーゼ産生生体の存在、M.カタル(M. catarrhalis)との共凝集、競争バクテリアフローラの欠如、扁桃細胞中への抗生物質類の溶け込み不良などのためGABHSを治療できない。さらに、GABHSがバイオフィルムを形成することが知られている。このバクテリアおよび他の病原性株は、扁桃、および/または、アデノイドの中またはその上にバイオフィルムを形成できる。バイオフィルム型の伝染性の細菌は、抗生物質の全身投与に比較的不浸透性である。これは抗生物質類の高水準が(プランクトン様のバクテリアを殺すに必要とされるよりも多い量)それらを処理するのに必要であり、患者が生き残ることはありそうもないことを意味する。バイオフィルム感染症はしばしば慢性になる。
【0140】
条件が慢性になるとき、外科的方法が扁桃とアデノイドを取り除くのに使われる。扁桃とアデノイドの慢性感染に関する現在の治療は、扁桃摘出とアデノイド切除を介する外科的除去である。これは扁桃ベッドの手術後の出血を最小にするかまたは防ぐテクニックであり、扁桃、および/または、アデノイドを燃やす動力による削除、または冷たい鋼器具または機械的なデブリードマンにより行われ、局所的焼灼は手術後の出血を防ぐために出血中の血管に対して実行される。アデノイド切除のあるなしにかかわらず、扁桃摘出は世界一行われている一般的な外科的処置の1つである。しかしながら、これらの外科的関与がリスクないわけではなく、術後出血、気道閉塞、感覚消失への悪影響が3つの最も一般的な問題である。かなりの量の疼痛と病院での回復期間もこれらの手順に関連している。痂皮が手術部位から剥落すると、一般に手術の7から11日後に出血が起こる。これは約1%から2%の割合で起こり、大人ではリスクと重症度の両方が小児より高い。
【0141】
どんな市販の製品も扁桃/アデノイドの表面からバイオフィルムとEPSを消毒して除去できないので、これらの感染症に関する局所処置は利用可能でない。そしてこれらの製品は、組織内のバクテリアを処理するために扁桃とアデノイドの表面に浸透しない。クロルヘキシジン、セチルピリジニウムクロリド、SnF2、および治療学的な油の混合物を含む活性成分を有する市販の口内洗浄剤は、口腔内で利用可能な短い処置時間ではバイオフィルムを消毒できない。
【0142】
しかしながら、上で説明したタイプの抗微生物性組成物は感染したアデノイドと扁桃を処理するのには有効である。治療処方は、最大100mLで毎日1から4回うがいをするか、またはすすぐことであることができ、必要な限り、一般に5-70日間、多くは7-65日間、特に多くは8-60日間、典型的には10-50日間であり、30±10日間が最も典型的に想定される。さらに、直接影響を受けている領域への抗微生物性固体成分の直接適用も想定される。
【0143】
このタイプの治療の利点は、術後出血の排除、感覚消失の回避、術後痛の排除、解剖学的構造の保存、手術と手術後合併症による病的状態/死亡率のリスクの排除、および総合的な低いヘルスケアコストを含むが、これらに限定されない。
【0144】
医療機器
消毒または殺菌の前に、すべての再利用できる医療用品を徹底的に清浄化しなければならない。この工程はすべての表面、内部および外部に要求され、いわゆるバイオバーデン、すなわち、組織および流体の残渣、バクテリア、菌類、ウイルス、蛋白質類、および炭水化物を完全に除かなければならない。人手によるかまたは機械による表面処理の後に、すべてのバイオバーデン残渣と洗浄薬を取り除くために装置を徹底的にすすがなければならない。現状技術では、装置が清潔でないなら、消毒を達成できない。
【0145】
現在の化学療法は、バイオフィルムの殺生物剤への固有の耐性のため、バイオフィルムには効力がない。バイオフィルムは超音波および機械的表面処理などの物理的方法でかなり有効に取り除かれるが、それがその都度正しく完全に起こるのを確実にするのは非常に難しい。
【0146】
内視鏡は、体内で使用されるため、特にバイオフィルム形成に影響されやすい。内視鏡の中の小径チューブの内面からのバイオフィルム除去は、これらの表面の限られたアクセスと分解のため難しい。内視鏡チャンネル内のバイオフィルム形成は、消毒の失敗をもたらし、成長、消毒、部分的な殺菌および再増殖の抑制の悪循環を引き起こし、バイオフィルムを含む内視鏡で内視鏡検査法を受ける患者が、内視鏡検査法に関連した感染のリスクを負う。バイオフィルム内のバクテリアは、現在の方法で清浄化されて消毒された後に、下方制御された状態で生き残ることができることが知られた。
【0147】
使用される清浄化と消毒プロセスは、作業者の訓練と継続的努力に依存している。そして、内視鏡消毒のためのガイドラインは多くの組織によって開発されたが、これらの処方の効力をルーチンレベルで決定する方法はない。現在のガイドラインを使用して内視鏡を完全に清浄化し乾燥することに失敗すると、バイオフィルム形成を導く。研究では装置の速い回転の要求と不適当なトレーニングとともに人為ミスが主要な要因であることが示唆された。
【0148】
同様の問題は他の医療器具と設備に使用される清浄化と殺菌プロセスにおいても同様であり、内視鏡がHAIsの、より多くの大発生に関連するように思えるが、以下でさらに詳細に問題を議論する。
【0149】
また、問題が多いのは、侵襲性挿入のために必ずしも設計されていない器具と設備である。これは脊髄手術を実行するための手動の器具、動力付きの手術器具、装置のケージ、およびガイドさえ含んでいる。これらも掃除されて消毒された後に使用される。手順は通常、消毒(通常蒸気によるが、場合によってはパーオキシドまたは他の高性能手順による)の後に拭くことを伴う。いくらかの器具は再処理のためにメーカーに返され、再処理の前後に蒸気殺菌される。
【0150】
再処理洗浄液の配合物はユニークである。しかしながら、大部分は少なくとも6つの構成要素の組み合わせを含んでいる:水、洗浄薬、界面活性剤、バッファ、およびキレート剤。酵素は清浄化の効率を上げ、清浄化プロセスを早くするために使用され、手動のブラッシングおよびスクラビングの必要性を最小にするのを助ける。それぞれが特定の汚れを目標としたさまざまな酵素群が使用され、最も一般的なものはプロテアーゼ(血液や糞などのタンパク質ベースの汚れを分解するのを助ける)、アミラーゼ(筋肉組織で見られるようなデンプンを分解する)、セルラーゼ(接続流体(connective fluid)および関節組織で見られるような炭水化物を分解する)、およびリパーゼ(脂肪組織に見られるような脂肪を分解する)。これらの酵素のどんな組み合わせも溶液の中に存在することができる。酵素含有溶液は、酵素を含まない溶液よりも、より中性のpHおよびより低い温度でしばしば使用される。
【0151】
酵素の洗浄剤は、バイオフィルムを除去するために第一段階として医療用品消毒に使用される。しかしながら、酵素の洗浄剤での物理的清浄化は装置を消毒しない。
清浄化の後に2,3の生菌が残っていても、時間がたつにつれてバイオフィルムの中に蓄積する。一般的に使用される酵素の洗浄剤は生存可能な細菌数を減少させることも、細菌性のEPSを取り除くこともできないことが見い出された。高酵素活性を有するクリーナーは、ある種のバイオフィルムを取り除くが、2ログを(すなわち、99%)以上にバクテリア数を減らすことはできず、いくつかの酵素の溶液は実際にバイオフィルムの形成に貢献する。従って、適切な消毒が下方制御された微生物を殺し、バイオフィルムの形成を防ぐのに必要である。
【0152】
すべての器具が殺菌プロセスを受け、ユーザは化学殺菌プロセスとクリーニングを実行する。酸化性化合物またはアルデヒドベースの化学薬品のどちらかが使用される。しかしながら、いくつかの消毒薬剤はバイオフィルムの形成を促進する傾向を示した。そして、既に形成されたバイオフィルムを取り除くものはない。いくつかの用途でグルタルアルデヒド溶液が使用されてきたが、内視鏡の管こう内バイオフィルムの形成を促進することが実際にわかった。
【0153】
バイオフィルムの形成を制御する点では、酸化性化学薬品を使う消毒薬は、より効果的である。しかしながら、いくつかの消毒薬によって作成された厳しい環境下でさえ、これらのよく保護された微生物は生き延びることがわかった。微生物は、可能でないと典型的に思われていたいくつかの食物源を使用することによって生き残る。また、これらの消毒薬も内視鏡と医療器具に存在している蛋白質類により失活されやすく、特にクリーニング工程が適切に実行されていない場合にはそうである。
【0154】
化学的クリーニングは、菌の不活性を確実にするために、器具のすべての内側および外側表面との妨害がない接触を必要とする。医学的汚れ、汚染物および洗剤残留物を始めとする器具に残るすべての残留物が直接接触を妨げる。さらに、バイオフィルムに接触したとしても、そこに同伴されたバクテリアを殺すことができない。
【0155】
いくつかの装置と器具の形状と設計が、それらの上にあるかもしれないタンパク質とEPS/ECPSのすべてを取り除くことを不可能にしている。現在利用可能なクリーナーまたは消毒のテクニックは、EPS/ECPSを完全に取り除くことができない。特にクリーニング化学薬品がこれらの領域に達するのを防ぐタンパク質が存在する場合にはできない。残っているEPS/ECPSは、器具の上での急速なバイオフィルムの再形成を許容し、EPS/ECPSは手術野、患者の体内に追い払われ、病巣への感染が起こることがある。
【0156】
有利なことには、先に説明したタイプの抗微生物性組成物は再利用できる医療機器の清浄化、殺菌および消毒において有効である。これらのテクニックで、有毒性と効力の両方が非常に高いレベルにされる。
【0157】
設備が作られている材料の性質によって、酸性または塩基性の組成物が好まれる。例えば、苛性組成物は金属製の設備に好まれ、酸性組成物はプラスチック製の設備に好ましい。非常に酸性または苛性の組成物は好ましくは避けられる。すなわち、一般に中性から4ユニット以内、望ましくは3ユニット以内、より好ましくは2ユニット以内のpHを有する組成物が使用される。
【0158】
望ましくは、酸性組成物が使用される場合、酸の共役塩基も存在している。使用される溶液の浸透圧は少なくとも約2.0Osm、一般的に少なくとも約2.5Osm、より一般的に少なくとも約3.0Osmであり、典型的には少なくとも約3.5Osmである。酸性および苛性の両方の組成物では、追加溶質が存在することができる。適度のpH(すなわち、5≦pH≦9、特には6≦pH≦8)を有する組成物では、そのような溶質を大量に使用することができる。例えば、6.5≦pH≦7.5の組成物では、共存する塩または溶質の量は最大200g/L、250g/L、300g/L、350g/L、400g/L、450のg/Lまたは500g/Lまでであることができる。
【0159】
材料の性質にかかわらず、カチオン性界面活性剤が強く好まれる。具体的にはテトラデシルトリメチルアンモニウム ハライドが好ましい。界面活性剤の添加量は、非常に多い量であることができ、たとえば10g/L、15g/L、20g/L、または30g/Lまたはそれ以上で使用されることができる。
【0160】
有利なことには、設備は組成物中に2,3時間以上おかれる必要は無い。例えば、静置される時間は250分を越えることはなく、200分未満が一般的であり、150分未満がより一般的であり、100分未満がさらに一般的であり、50分未満が典型的である。使用される具体的な抗微生物性によって、静置時間は1から約30分の範囲、約2から約25分の範囲、約3から約20分の範囲、または約5から約15分の範囲である。EPSを除去するために、処理および/または機械的なスクラビングのために流れがあると、静置時間をさらに減少させることができる。周囲温度よりも高い温度と圧力も効力を増加させることができる。これは多量のバイオバーデンおよび/または難しい幾何学的形状(例えば、スコープ)を有する場合に特に有用である。
【0161】
本明細書に記載された液体抗微生物性組成物の特に効力を有する例としては、約6.5のpHと約3.5Osmの浸透圧を有し、約15g/Lのテトラデシルトリメチルアンモニウム クロライド界面活性剤を含むクエン酸/クエン酸ナトリウム二水塩組成物は、小直径のシリコーンとポリエチレン管材料、並びに金属およびプラスチッククーポン上の緑膿菌(Pseudomonas)属について9ログ(すなわち、99.9999999%)の減少を達成できた。
【0162】
HAI
感染症の基本的なルートは接触(直接的および間接的)、液滴、空気、一般的なビヒクル(食物、水、薬物、器具および装置などの汚染物質)、および保菌生物(カ、ハエ、齧歯動物など)を通した伝播を伴う。最も頻繁なモードは直接接触である。
【0163】
直接接触では、コロニー形成された人(例えば、介護人または別の患者)は微生物を彼のボデイから感染しやすい患者へ転移させる。間接的な伝播は通常介護人であるホストと汚染された対象との間での接触を含み、汚染された対象は次に感染しやすい患者を感染させるための保菌物になる。汚染物質になる物の例としては、針、ドレッシング、使い捨て手袋、生理食塩水洗浄シリンジ、ガラスビン、バッグ、血液測定用カフ、聴診器などの器具および設備、並びにドアハンドル、パッケージング、モップ、リネン用品、ペン、キーボード、電話、ベッドレール、呼び出しボタン、タッチプレート、椅子の表面、電灯のスイッチ、掴みレール、静脈ポール、ディスペンサー、ドレッシングトロリー、調理台、食卓、および同様のものなどの非医学的表面があげられる。
【0164】
感染者からの微生物を含む液滴が、空気中で短い距離を進み患者の体の上に付着したとき、飛沫感染は起こる。咳、くしゃみ、会話、気管支鏡検査法などのある特定の手順の実行中の人間から液滴が形成される。
【0165】
空気感染は、長期間の間、空気中に懸濁されたままで残っている微生物を含む蒸発した液滴の飛沫核、または伝染性物質を含むダスト粒子のどちらかにより生ずる。このようにして運ばれた微生物は、気流によって広く分散されて、同じ部屋の感受性のホストにより、または保菌者からかなり離れたホストにより吸入されることがある。一般的にこのような方法で伝染する微生物としては、レジオネラ菌(Legionella)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、麻疹(rubeola)、および水痘ウイルス(varicella viruses)があげられる。
【0166】
増大する興味と関心の対象は、MRSAとVREである。MRSAまたはVREによる環境の汚染は、感染しているかまたはコロニー形成された個人が病院の部屋に存在している時に起こり、しばしば医療従事者が彼らの衣服の中または上に生命体を運ぶ。手袋のMRSA汚染も、患者との直接接触を全く持っていなかったが、感染患者の部屋の表面に触れた多くの人員で観測された。医療労働者の手袋をはめているかそうでない手は、感染患者の近くで表面に触れることで汚染されるようになる。
【0167】
乾燥してない型では、MRSAはプラスチック表面で48時間まで生き残る。乾燥型では、それは数週間生き残る。それは広い範囲の温度と湿度で安定している。そして直射日光暴露および脱水状態で生き延びることができる。
【0168】
表面がいったん汚染されると、病原体はその付近で他の表面と患者に転移する。手指洗浄と手袋は、手の表面を介した伝播によるHAIsの拡散を防ぐのを助けるが、表面または留置汚染を根絶できないし、患者による直接転移の可能性を排除できない。しかしながら、これらの方法は表面と留置器具の病原バクテリアの存在を処理することはできない。病院の部屋で一般的に見つけられる接触表面は、しばしばMRSAとVREで汚染され、患者に最も近接した物は汚染の最高水準を有する。
【0169】
表面汚染を取り除く伝統的な清掃用品(例えば、アルコール系溶剤、四級アンモニア化合物、および漂白剤)の効力は限られている。病院環境における汚染の最近の研究の1つでは、洗浄の前の綿棒のサンプルの74%、洗浄の後の綿棒のサンプルの66%にMRSAを検出した。これは病院の表面を消毒するための現行手法が効力がないことを示している。
【0170】
いくつかの現代の殺菌方法は、選んだ病原体に対してより効果的である。例えば、CO2中の不燃性アルコールの蒸気は、胃腸炎、MRSA、およびインフルエンザに対して有効にであることが示され、液体または蒸気としてのH2O2は感染率と獲得の危険を低下させ、特にクロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)などの内生胞子形成細菌に関してそうであることが示された。しかしながら、これらはいわゆる「閉じられた」方法(すなわち、閉じていて、制御された環境でする)であり、対象が取り除かれて分離した処理施設に収容されなければ実行できない。またそうされても、バイオフィルムに有用なものは知られていない。これらの例でも衛生化が達成されたときでもバイオフィルムEPSはこれらの処置のいずれでも取り除かれない。その結果、病原体を再導入すると、EPSを含まない表面と比べて、細菌性バイオフィルムのはるかに急速な再増殖を可能にする。
【0171】
上記から、当業者はHAIs、HAIを含むバイオフィルム、およびHAI由来の微生物を同伴するバイオフィルムに対する戦いで、先に記載された抗微生物性組成物の多くの潜在的応用を想定する。一般的な例としては、前記の硬質表面、床および壁の任意のタイプ;シンク、治療学的なおけ、シャワー、およびドレーンを含む水輸送物品;ベッド;車輪付き担架や車椅子などの輸送装置;外科用器具一式;および同様のものの清浄化および/または消毒があげられる。一般に、これらの例では、高い効力と低毒性が好ましい。特に好ましいのは、処理される表面に害を及ぼさない(例えば、ゆがむか、または変色する)組成物である。
【0172】
他の一般的な例としては、前記の医療機器、特には患者に挿入されることが意図されるもの(例えば、呼吸チューブ、IVライン、およびカテーテル)または皮膚に接触するもの(例えば、聴診器、血液測定用カフ、および同様のもの)の任意のタイプの清浄化および/または消毒があげられる。一般に、高い効力と低毒性はこのタイプの用途において好ましい。
【0173】
他の例としては、リネンと衣服のための洗濯処理組成物、手の消毒薬および洗浄剤、手術部位製剤溶液、および同様のものがあげられる。洗濯処理組成物は典型的に苛性であり、多量の界面活性剤を含み、洗濯水に添加するために液体または固体のどちらかで提供できることが企図される。手の洗浄剤および外科用製剤組成物は、先に説明したOTCとRx創傷洗浄剤と非常に類似しているだろう。
【0174】
処理される微生物のタイプについて特定の制限は想定されない。特には、クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、鵞口瘡カンジダ(Candida albicans)、MRSA、およびVREのような特に問題の多い病原菌が想定される。バイオフィルムを形成するかまたはバイオフィルム内に存在する任意の微生物が企図され、バイオフィルムの破壊/除去、並びにバイオフィルム内に同伴された微生物の殺害の両方が想定される。
【0175】
移植
最終的には殺菌されるが、インプランテーションの間の、およびその前の医療用品インプラントは、環境または医療労働者からのバクテリアにより、またはより一般的には患者自身の皮膚に存在しているバクテリアからコロニー形成されることがある。挿入の後に、インプラント表面が宿主免疫によって保護されないので、インプラントは全身性バクテリアからコロニー形成されるようになり、表面にバイオフィルムを形成する。
【0176】
さらに、現在採用している滅菌技術は、EPS/ECPSを除去するように設計されていない。したがって、適切に移植された殺菌された装置/物品さえ、表面に前の暴露からのEPS/ECPSを持っている。EPS/ECPSの存在はバイオフィルムの形成を大いに容易にする。
【0177】
装置または物品が移植されたすぐ後に、ホスト由来の付着因子(線維素原、フィブロネクチン、およびコラーゲンを含む)で構成されたコンディショニング層が、インプラントの表面に形成され、浮動性(プランクトン様の)の生体の接着を招く。バクテリアの細胞分裂、追加プランクトン様の生体の増殖、および細菌産物の分泌(糖衣などの)が、しっかり付着した(固着の)バクテリアの複雑なコミュニティを含むバイオフィルムの三次元構造をもたらす。これらのバクテリアは細胞間シグナリングを示し、栄養物と老廃物の流れを許容する流路を含むポリマーマトリックス中に存在する。
【0178】
インプラント上にバイオフィルムが形成されると、すべての現在利用可能な処置もそれを根絶できない。抗生物質の全身投与はそのような感染症に対して効果が無い。これはEPS/ECPSによる固有の保護だけでなく、移植された物品の表面での限られた血液供給のためでもある。
【0179】
黄色ブドウ球菌(S. aureus)またはカンジダ属(Candida)に感染したほとんどのインプラントは外科的除去を要求する。それほど有毒でないコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negative staphylococci)の感染症は、インプラントを取り外すために手術を必要としない。感染したインプラントを取り出すことを決定したら、病原菌の種類にかかわらず全要素の完全な抽出を実行する。
【0180】
感染した関節補綴は、デブリードマンの後保持されることができ、またはより一般的には取り除かれる。取り出した状況で、影響を受けた領域が抗生物質類の多量の投与で処理される。任意の抗生物質の全身投与の直後、またはより一般的には35-45日後に新デバイスを挿入する。整形装置に関連している感染(および治療)はしばしば重篤な障害をもたらす。
【0181】
手術による移植に関連している感染症は、それらがより長い時期の抗生物質療法と繰り返しの外科的処置を必要とするので、管理するのは特に難しい。そのような感染症での死亡率は、心臓血管インプラント、特に補綴の心臓弁、および大動脈の移植の患者で最も高い。
【0182】
バイオフィルムで汚れたぺースメーカ-除細動器インプラントは、内科および外科の治療の組み合わせでしばしば処理される。外科的治療法は以下の2段階で行われる:心臓のリードを含むインプラントシステムの全体が完全に取り外される。ポケットだけの臨床感染を伴う患者でもそうである。既に心臓のリードにコロニーが形成されているかもしれない(心臓リズムが一時的な機構によって制御されている)からであり、長期間の抗生物質の全身投与が行われ(パルス発生器ポケットの感染症のためには最大2週間、またはリードを有する心内膜炎のためには35-45日間)、患者の対側部位で置換する装置/物品を移植する。
【0183】
骨を含む骨折固定装置の感染症では抗生物質の全身投与の6週間の治療が行われるが、表面の感染の場合には10から14日間の抗生物質療法で十分である。髄内釘の感染症は、しばしば骨の不癒合を伴い、感染した釘の除去、外部固定ピンの挿入、および必要なら置換する釘の引き続く挿入を必要とする。通常、外部固定ピンの外科の感染治療は感染したピンを取り外すという単一段階から成り、骨癒合が起こっていない場合には遠位部位に新しいピンを挿入するか、または骨を癒合させる。
【0184】
通常、感染した乳腺インプラントの治療は2段階の交換手順を伴う:感染したインプラントの取り出しと、それを囲むカプセルのデブリードマン。抗生物質の全身投与と、その領域がいくらか回復する時間の経過の後、対側インプラントは取り外され、乳腺インプラントの置換のための1組が挿入される。
【0185】
典型的には感染したペニスインプラントを取り除き、スペースを保持するために可鍛性の人工ペニスを挿入する。必要な抗生物質の全身投与治療の後に、新しい可膨張性インプラントが可鍛性の補綴に代わって挿入される。
【0186】
気管切開チューブや、造瘻術バッグ、カテーテル、および穿孔などの皮膚類インプラントでさえ、取り除くのが難しいバイオフィルムで汚染されるようになることがある。これらの物品のある特定のタイプでは取り出せない性質によって問題が悪化する。
【0187】
上記の抗微生物性組成物は、移植されるべきデバイスまたは物品に適用される効果的な局所処置であり、またはEPS/ECPSなどの、バイオフィルムおよび/またはバイオフィルム形成物質を体から取り除くために、感染したインプラントと周辺組織を洗浄するのに使用することができる。かかわる表面のタイプは、PTFE、PVC、シリコーンゲルおよびゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(メタ)アクリレート、ステンレス、貴金属(例えば、金、シルバーおよびプラチナ)、セラミックス、およびチタニウムであるか、またはこれらを含むことができる。
【0188】
インプラントがあるかまたはあったポケットは、創傷部のケアに関して先に言及されたタイプの液体組成物によって同様に処理できる。これは元のインプランテーション時点(すなわち物品の挿入直後、縫合の前に)で行うことができ、すすぎ/洗浄、吸引または両方をその後に行うことができる。
【0189】
体組織に接触したインプラントに関しては、低毒性で、中程度から高程度の効果が望まれる。これは以下の組成物で達成可能であるかもしれない;pHがほぼ中性(例えば、5≦pH≦9)であるが、中程度から高い浸透圧、たとえば少なくとも約1.5Osm、一般的に少なくとも約1.75Osm、より一般的に少なくとも約2.0Osm、および典型的に少なくとも約2.25Osm。約2.5、約2.75、約3.0、約3.25、約3.5、約3.75または約4さえの浸透圧の組成物が使用できる。カチオン性界面活性剤は再び好ましい。望ましくは約0.5から約2g/L、より望ましくは0.7から約1.8g/L、最も望ましくは約0.8から約1.5である。
【0190】
まだ体組織に接触していないすべての装置に関しては、条件より極端にできる。すなわち、より高い有毒性と非常に高いオスモル濃度とすることができる。どちらの場合にも、抗微生物性組成物の適用はすすぎ、ワイピング、フラッシングなどであることができる。必要に応じてこすり落とし/デブリードマンとともに行うことができ、また任意にすすぎ工程があとに続くことができる。極端なケースでは、移植された物品は、再移植の前に取り出して組成物で生体外で処理することができる。
【0191】
代替のまたは追加のテクニックは、インプラントが挿入されることになっている身体の領域を、洗浄、ワイピングおよび/または水を撒くことによって調製すること含む。これは同じであるか同様の組成物での外科の手術領域の消毒とともに行うことができる。
【0192】
本発明の様々な実施態様を提供したが、それらは例示であり、制限を与えるものではない。それらが妨害をせず、また置き換え可能ではない限り、実現可能な程度において、先で説明した特徴と実施態様は他の特徴と実施態様と組み合わされることができる。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水からなる溶剤、溶質、および少なくとも1つの界面活性剤を含む抗微生物性組成物であって、
該組成物は7.5から10のpHを有し、1.25から2.5 Osm/Lの浸透圧モル濃度を有し、0.5から1.8g/Lのカチオン性界面活性剤を含み、
該溶質は少なくとも1つの塩基の解離生成物と1以上の塩からなる、抗微生物性組成物。
【請求項2】
pHが9±0.5であるか、または
浸透圧モル濃度が1.5から2 Osm/Lであるか、または
界面活性剤の量が0.75から1.5g/Lであるか、または
塩基がKOHもしくはNaOHであるか、または
界面活性剤がベンザルコニウムクロリドもしくはセチルピリジニウムクロリドであるか、または
NaHSO4、NaH2PO4、NaCl、KClおよびKIから選択される1以上のイオン性化合物が含まれている、請求項1記載の抗微生物性組成物。