(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105433
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】エキソソームの産生及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20240730BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20240730BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20240730BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
C12N5/071
C12M3/00 Z ZNA
C12M3/00 Z
C12N5/071 ZNA
C12N15/62 Z
C07K19/00
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024075581
(22)【出願日】2024-05-08
(62)【分割の表示】P 2022193265の分割
【原出願日】2022-12-02
(31)【優先権主張番号】63/285,493
(32)【優先日】2021-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】509075457
【氏名又は名称】中國醫藥大學
【氏名又は名称原語表記】CHINA MEDICAL UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No. 91, Hsueh-Shih Road, North District Taichung, Taiwan
(71)【出願人】
【識別番号】516144245
【氏名又は名称】中國醫藥大學附設醫院
【氏名又は名称原語表記】China Medical University Hospital
(71)【出願人】
【識別番号】522118311
【氏名又は名称】聖安生醫股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Shine-On Biomedical Co., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】陳怡文
(72)【発明者】
【氏名】周徳陽
(72)【発明者】
【氏名】方信元
(72)【発明者】
【氏名】謝明佑
(72)【発明者】
【氏名】潘志明
(72)【発明者】
【氏名】甘▲カイ▼▲ウェン▼
(72)【発明者】
【氏名】陳正祐
(72)【発明者】
【氏名】余旻樺
(72)【発明者】
【氏名】邱紹智
(57)【要約】 (修正有)
【課題】エキソソームの産生を促進するための方法を提供する。
【解決手段】本発明は、細胞を刺激してエキソソームを放出する周期的引張バイオリアクターを用いることにより、エキソソームを大規模で産生するための方法を提供する。加えて、本発明は、がんに特異的な抗HLA-Gタンパク質を有するエキソソームも提供し、エキソソームは、がんを治療するための治療剤を送達するための送達ビヒクルとして使用される。
【選択図】
図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エキソソームの産生を促進するための方法であって、前記方法が、(a)周期的引張バイオリアクターを提供することであって、前記周期的引張バイオリアクターが、培養チャンバと、成長刺激促進構造を有する生体適合性ポリマー材料と、複数の引張成分とを備え、前記生体適合性ポリマー材料及び前記複数の引張成分が、前記培養チャンバ内に配置され、前記生体適合性ポリマー材料が、エキソソーム産生細胞を含み、前記生体適合性ポリマー材料の両端部が、前記複数の引張成分で連結される、提供することと;(b)周期的引張力を加えるための前記複数の引張成分によって、前記生体適合性高分子材料を繰り返し伸展することと;(c)前記複数の引張成分によって加えられる前記周期的引張力によって前記エキソソーム産生細胞から放出された前記エキソソームを回収することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記生体適合性高分子材料が、メタクリロイル系ポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生体適合性高分子材料の濃度が、0.1~50重量%の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記生体適合性高分子材料が、複数の細孔を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記複数の引張成分によって加えられる前記周期的引張力が、2.5~50%の引張ひずみである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記複数の引張成分によって加えられる前記周期的引張力が、周波数0.1~4Hzにおけるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップ(c)において前記エキソソームを回収することは、前記周期的引張力が加わってから1~2ヶ月後に行われる、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を刺激してエキソソームを放出する周期的引張バイオリアクターを用いることにより、エキソソームを大規模で産生する方法に関する。また、本発明は、がんに特異的な抗HLA-Gタンパク質を有するエキソソームに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な製薬会社が、低分子薬物または生物製剤をより効率的かつ正確に送達することが期待される新規薬物担体の開発に多くのリソースを投入している。エキソソームは、免疫原性が低く、生体適合性が高く、生物学的活性が高く、細胞に対する拒絶反応が低く、微小環境に対してナノサイズであるため、薬物担体の非常に優れた候補であると考えられている。従来の利点のみでなく、エキソソームは、高い親和性、標的細胞による貪食の容易さ、細胞内の薬物の分解及び放出の容易さならびに免疫系による消費の回避など、他の優れた特性を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、エキソソームの産生を促進するための方法を提供し、この方法は、(a)周期的引張バイオリアクターを提供することであって、周期的引張バイオリアクターは、培養チャンバと、成長刺激促進構造を有する生体適合性ポリマー材料と、複数の引張成分とを備え、生体適合性ポリマー材料及び複数の引張成分が、培養チャンバ内に配置され、生体適合性ポリマー材料は、エキソソーム産生細胞を含み、生体適合性ポリマー材料の両端部は、複数の引張成分で連結される、提供することと;(b)複数の引張成分を用いて、周期的引張力を加えることによって、生体適合性高分子材料を繰り返し伸展することと;(c)複数の引張成分によって加えられる周期的引張力によってエキソソーム産生細胞から放出されたエキソソームを回収することと、を含む。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明はまた、融合タンパク質を含むエキソソームを提供し、融合タンパク質は、標的タンパク質及びエキソソーム膜貫通タンパク質を含み、標的タンパク質は、抗HLA-Gタンパク質を含む。本発明はさらに、がんを有する対象に組成物を投与することを含む、がんを有する対象を治療するための方法を提供し、ここで、組成物は、治療用エキソソームを含み、治療用エキソソームは、上記の融合タンパク質及び抗がん剤を含む。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1A】カーゴ工学技術を有するもの、有さないもののエキソソームの形態の検証結果を示す図である。
【
図1B】カーゴ工学技術を有するもの、有さないもののエキソソームのサイズの検証結果を示す図である。Exo:エキソソーム;及びCARExo:カーゴエキソソーム。
【
図2A】ウェストブロットを用いることによるエキソソームのバイオマーカー(CD63、CD81、CD9、Alix、HSP-70及びβ-チューブリン)の同定を示す図である。
【
図2B】フローサイトメトリーを用いることによるエキソソームのバイオマーカー(CD63、CD81、及びCD9)の同定を示す図である。PE-A:フィコエリトリン領域。
【
図3】共焦点顕微鏡を用いたMDA-MB-231細胞(Fアクチン:赤、核:青)内のエキソソーム(緑)の保持の評価を示す図である。エキソソーム:緑、Fアクチン:赤、核:青。
【
図4】標的機能を有するもの、有さないものの、乳癌細胞(MDA-MB-231)及び正常乳房細胞(MCF-10A)における、蛍光染色を用いることによるエキソソームの取り込み効果の比較を示す図である。エキソソーム:緑、Fアクチン:赤、核:青。
【
図5】標的機能を有するもの、有さないものの、乳癌細胞(MDA-MB-231)及び正常乳房細胞(MCF-10A)による、フローサイトメトリーを用いることによるエキソソームの取り込み効果の比較を示す図である。
【
図6】蛍光染色を用いた、共培養系における乳癌細胞(MDA-MB-231)及び正常乳房細胞(MCF-10A)による標的エキソソームの取り込み効果の比較を示す図である。エキソソーム:緑、Fアクチン:赤、核:青。HPF:ヒト肺線維芽細胞。
【
図7】標的機能を有するもの、有さないものの、乳癌細胞(MDA-MB-231)及び正常乳房細胞(MCF-10A)に対するエキソソームの細胞傷害性の評価を示す図である。Ctl:対照。
【
図8】CARExoの生体内分布のin vivo処置能の評価を示す図である。本発明では、MD-MBA-231細胞を用いることによって、異種移植マウスモデルを構築する。
【
図9】エキソソームに同時取り込みしたmiRNA及びDOXの量を示す図である。DOX:ドキソルビシン。
【
図10】MDA-MB-231にmiRNA及びDOXを取り込んだエキソソームの細胞傷害性の評価を示す図である。Ctl:対照。
【
図11】蛍光染色による細胞内でのmiRNA放出に対するmiRNA含有エキソソーム(miR-34a@CARExo)の効果の評価を示す図である。
【
図12A】In vivoで乳癌腫瘍を阻害する際のmiRNA/DOX含有CARExoの有効性の検証結果を示す図である。
【
図12B】他の臓器の腫瘍転移におけるmiRNA/DOX含有CARExoの有効性の評価結果を示す図である。Ctl:対照。
【
図13】標的機能を有するもの、有さないものの、MB11(膠芽腫)、A549(非小細胞肺癌)、HepG2(肝細胞癌)、OECM(口腔扁平上皮癌)、SKOV3(卵巣癌細胞株)、及びT24(膀胱癌)におけるエキソソームの取り込み効果を蛍光染色で比較を示す図である。エキソソーム:緑、Fアクチン:赤、核:青。
【
図14】標的機能を有するもの、有さないものの、乳癌(MB231)、肺癌(HCC827)、口腔癌(OECM)、肝癌(HepG2)、大腸癌(CaCO2)、髄芽腫(U87)、膀胱癌(T24)、膵癌(MIA PaCa-2)、及び卵巣腺癌(SKOV3)におけるDOX含有エキソソームの細胞傷害性の比較を示す図である。乳房上皮細胞(MePic)及びヒト肺線維芽細胞(HPF)は、正常細胞である。
【
図15】標的機能を有するもの、有さないものの、乳癌(MB231)における、様々な化学療法剤含有エキソソームの細胞傷害性の比較を示す図である。Ctl:対照。
【
図16A】細胞含有FGelMaヒドロゲルの調製及び周期的伸展培養系の使用を示す図である。細胞含有成長刺激促進ヒドロゲルを調製するために使用される手順を示すスキームを示す。
【
図16B】細胞含有FGelMaヒドロゲルの調製及び周期的伸展培養系の使用を示す図である。調製したままの成長刺激促進ヒドロゲルを培養培地に浸漬させて示す図である。
【
図16C】細胞含有FGelMaヒドロゲルの調製及び周期的伸展培養系の使用を示す図である。細胞含有成長刺激促進ヒドロゲルを動的引張培養系に適用し、その結果、20%のひずみ及び周波数0.48Hzで、周期的伸展下で培養したことを示す図である。
【
図17】引張培養系におけるHEK293T含有成長刺激促進足場によって産生されたエキソソームの収率と単一細胞によって分泌されるエキソソームの収率との比較を示す図である。
【
図18】周期的引張培養系におけるHEK293T含有成長刺激促進足場の細胞形態及びYAPタンパク質染色の差を示す図である。
【
図19A】周期的引張培養系におけるYAP阻害剤(ベルテポルフィン)を用いたHEK293T含有成長刺激促進足場の細胞形態及びYAPタンパク質染色の差を示す図である。
【
図19B】周期的引張培養系におけるYAP阻害剤(ベルテポルフィン)を用いたHEK293T含有成長刺激促進足場のエキソソーム分泌の差を示す図である。
【
図20】HEK293T関連エキソソームの形態、サイズ、及びバイオマーカーの静的培養系と動的培養系とでの差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明は、親細胞培養パラメータを調整することにより、高品質かつ大量産生工学技術的改変エキソソームプラットフォームを確立する。親細胞(HEK293)は、3D動的刺激プロセスを介して、生物学的産物として大量の高純度エキソソームを分泌する。本発明では、HLA-Gを標的とする遺伝子改変膜、エキソソーム大量産生系、併用薬物取り込み設計など、3つのプラットフォームを形成した。本発明は、いくつかの結果を達成することができる:1)動的培養環境下でHEK293から分泌されるエキソソームの量は、高発現のCD63を有するエキソソームの45~300倍を生成することができ、これにより、治療のための高品質及び量のエキソソームがもたらされる。2)化学療法剤の取り込みが少ないため、副作用なく、がん細胞を高効率で殺傷させる。3)CARExosは、抗HLA-Gタンパク質及びmiRNA 34aを運び、これにより、腫瘍の進行を抑制し、腫瘍転移プロセスを減速させる。4)CARExosは、モデル動物において、優れた腫瘍サイズコントロールを示し、転移は示さなかった。本発明は、CARExosが将来、患者にとって効率的な抗がん兵器となる高い可能性を有し、大きい可能性及びビジネス機会を有すると考えられている。
【0007】
本明細書で使用される用語「一」または「一つ」は、本発明の要素及び構成要素について記載する。この用語は、説明の便宜上、及び本発明の基本的な考えを与えるためにのみ使用される。この説明は、1つまたは少なくとも1つを含むと理解されるべきであり、別段に示されていることが明らかでない限り、単数形は、複数形も含む。特許請求の範囲において「含む(comprising)」という語と組み合わせて使用される場合、用語「一」は、1つまたは複数を意味し得る。
【0008】
本明細書において特許請求の範囲で使用される用語「または(or)」は、他の選択肢のみを意味することが明示的に示されていない限り、または他の選択肢が相互に排他的でない限り、「及び/または」を意味する。
【0009】
本発明は、エキソソームの産生を促進するための方法を提供し、この方法は、(a)周期的引張バイオリアクターを提供することであって、周期的引張バイオリアクターは、培養チャンバと、成長刺激促進構造を有する生体適合性ポリマー材料と、複数の引張成分とを備え、生体適合性ポリマー材料及び複数の引張成分が、培養チャンバ内に配置され、生体適合性ポリマー材料は、エキソソーム産生細胞を含み、生体適合性ポリマー材料の両端部は、複数の引張成分で連結される、提供することと;(b)周期的引張力を加えるための複数の引張成分によって、生体適合性高分子材料を繰り返し伸展することと;(c)複数の引張成分によって加えられる周期的引張力によってエキソソーム産生細胞から放出されたエキソソームを回収することと、を含む。
【0010】
一実施形態では、生体適合性高分子材料は、メタクリロイル系ポリマーを含む。好ましい実施形態では、メタクリロイル系ポリマーは、ゼラチンメタクリロイル(GelMa)、コラーゲンメタクリロイル、ヒアルロン酸メタクリロイル(HAMa)、コンドロイチン硫酸メタクリロイル、キトサンメタクリロイル、アルギン酸メタクリロイル、またはメタクリロイルを有する脱細胞化細胞外マトリックス(dECMMa)を含む。より好ましい実施形態では、ゼラチンメタクリロイルは、フィッシュゼラチンメタクリロイル(FGelMa)またはブタゼラチンメタクリロイル(PGelMa)を含む。さらに、ゼラチンメタクリルアミドは、魚類またはブタ由来のゼラチンと、メタクリル酸無水物及び任意の溶液(例えばリン酸緩衝溶液)とによって調製される。したがって、メタクリルアミド系ポリマーは、生分解性及び生体適合性である。
【0011】
本発明では、生体適合性高分子材料の濃度は、生体適合性高分子材料の成長刺激促進機能に影響を及ぼし、この成長刺激促進機能は、さらにエキソソームの産生に影響を及ぼす。したがって、本発明は、エキソソームの収率に影響を与えるために異なる濃度を有する生体適合性高分子材料を使用する。例えば、GelMaの濃度は、5重量%~30重量%の範囲であり、アルギン酸メタクリロイルの濃度は、1重量%~10重量%の範囲であり、コラーゲンメタクリロイルの濃度は、0.5重量%~10重量%の範囲であり、HAMaの濃度は、1重量%~10重量%の範囲であり、dECMMaの濃度は、1重量%~10重量%の範囲である。一実施形態では、生体適合性高分子材料の濃度は、0.1重量%~50重量%の範囲である。好ましい実施形態では、生体適合性高分子材料の濃度は、0.2重量%~40重量%の範囲である。より好ましい実施形態では、生体適合性高分子材料の濃度は、0.5重量%~30重量%の範囲である。
【0012】
本発明では、生体適合性高分子材料の濃度は、希釈により調節される。例えば、生体適合性高分子材料がFGelMaである場合、20gのFGelMaを80gの蒸留水と混合することによって、20重量%のFGelMaを調製する。
【0013】
さらに、成長刺激促進構造を有する生体適合性高分子材料は、裂かれることなく、引張成分によって加えられる引張ひずみの少なくとも5%に耐えることができる。一実施形態では、成長刺激促進構造を有する生体適合性高分子材料の機械的強度は、2.5~50%の引張ひずみに耐える。好ましい実施形態では、成長刺激促進構造を有する生体適合性高分子材料の機械的強度は、5~40%の引張ひずみに耐える。より好ましい実施形態では、成長刺激促進構造を有する生体適合性高分子材料の機械的強度は、10~30%の引張ひずみに耐える。
【0014】
いくつかの態様では、用語「引張ひずみ」は、引張力または応力の適用による固体の変形または伸長として定義される。換言すれば、引張ひずみは、加えられた力がそれを伸展させようとして、本体の長さが長くなるときに生じる。引張ひずみは、次式で数学的に表すことができる:ε=ΔL/L、式中、ε=引張ひずみ、ΔL=長さの変化、及びL=元の長さである。
【0015】
本発明では、生体適合性高分子材料は、本体よりも広い両端を有する、ダンベル様形状になるように設計する。したがって、生体適合性高分子材料は、2つの部分に分けることができる:1つの部分は、成長刺激促進構造を有する第1の高分子材料であり、他方の部分は、剛性構造を有する2つの第2の高分子材料を含む。したがって、剛性構造を有する各第2の高分子材料の機械的強度は、成長刺激促進構造を有する第1の高分子材料の機械的強度よりも高い。これら2つの第2の高分子材料は、それぞれ第1の高分子材料の両端に接続されている。細胞は、第1の高分子材料の成長刺激促進構造に取り込まれる。したがって、第1の高分子材料は、細胞を取り込むために使用され、第2の高分子材料は、第1の高分子材料と複数の引張成分との間に適切な接続をもたらすために使用される。
【0016】
一実施形態では、生体適合性高分子材料は、第1の高分子材料及び2つの第2の高分子材料を含む。好ましい実施形態では、これら2つの第2の高分子材料は、それぞれ第1の高分子材料の両端に接続されている。より好ましい実施形態では、第1の高分子材料は、エキソソーム産生細胞を取り込むために使用され、第2の高分子材料は、第1の高分子材料と複数の引張成分とを接続するために使用される。別の実施形態では、第1の高分子材料は、FGelMaであり、第2の高分子材料は、GelMaである。
【0017】
このエキソソーム産生細胞は、公知の方法によって生体適合性高分子材料または第1の高分子材料に取り込むことができる。エキソソーム産生細胞が、成長刺激促進構造を有する生体適合性高分子材料に取り込まれた後、本発明は、細胞含有成長刺激促進足場を得ることができる。本発明では、生体適合性高分子材料は、細胞含有FgelMaであり、細胞含有FgelMaは、エキソソーム産生細胞とFGelMaとを混合することによって得られる。
【0018】
エキソソーム産生細胞は、例えば初代細胞、細胞株、多細胞生物中に存在する細胞、または本質的に任意の他の型の細胞源及びエキソソーム産生細胞材料の形態で存在し得る。用語「エキソソーム産生細胞」は、好適な条件下で、例えば浮遊培養または接着培養中または任意の他の種類の培養系において、エキソソームを産生することができる任意の型の細胞に関連すると理解され得る。エキソソーム産生細胞には、in vivoにおいてエキソソームを産生する細胞も含まれる。エキソソーム産生細胞は、浮遊培養または接着培養において成長し得るか、または浮遊成長に適合され得る広範囲の細胞及び細胞株から選択され得る。エキソソーム産生細胞は、間葉系幹または間質細胞(例えば骨髄、脂肪組織、ホウォートンゼリー、周産期組織、胎盤、歯芽、臍帯血、皮膚組織などから得ることができる)、線維芽細胞、羊膜細胞、より具体的には、様々な初期マーカーを任意により発現する羊膜上皮細胞、骨髄抑制細胞、M2分極マクロファージ、脂肪細胞、内皮細胞などを含む群から選択され得る。特に目的の細胞株としては、ヒト臍帯内皮細胞(HUVEC)、ヒト胚性腎(HEK)細胞、微小血管またはリンパ管内皮細胞などの内皮細胞株、赤血球、赤血球前駆細胞、軟骨細胞、異なる起源の間葉系幹細胞(MSC)、羊膜細胞、羊膜上皮(AE)細胞、羊水穿刺によってもしくは胎盤から得られた任意の細胞、または気道もしくは肺胞からの上皮細胞、線維芽細胞、内皮細胞などが挙げられる。また、B細胞、T細胞、NK細胞、マクロファージ、単球、樹状細胞(DC)などの免疫細胞も本発明の範囲内であり、本質的には、エキソソームを産生することができる任意の種類の細胞も本明細書に包含される。一般に、エキソソームは、本質的に任意の細胞源、初代細胞源または不死化細胞株に由来し得る。特に目的の細胞株としては、ヒト臍帯内皮細胞(HUVEC)、ヒト胚性腎臓(HEK)細胞、例えば、HEK293細胞、HEK293T細胞、無血清HEK293細胞、浮遊HEK293細胞、内皮細胞株、例えば、微小血管またはリンパ管内皮細胞、赤血球、赤血球前駆細胞、軟骨細胞、異なる起源のMSC、羊膜細胞、羊膜上皮(AE)細胞、羊水穿刺によってまたは胎盤から得られた任意の細胞、気道または肺胞上皮細胞、線維芽細胞、内皮細胞、上皮細胞が挙げられる。一実施形態では、エキソソーム産生細胞は、哺乳動物細胞を含む。好ましい実施形態では、エキソソーム産生細胞は、胚性腎細胞を含む。より好ましい実施形態では、エキソソーム産生細胞は、HEK293細胞を含む。したがって、エキソソーム産生細胞は、エキソソームの生物学的性質を保持するエキソソームを産生することができ、エキソソームは、CD9、CD63、CD81及びHSP70の発現を有し得る。
【0019】
本発明においては、生体適合性高分子材料または第1の高分子材料中に複数の細孔が存在する。複数の細孔は、生体適合性高分子材料または第1の高分子材料中での成長刺激促進構造の成長刺激促進機能を増大させるように設計する。加えて、複数の細孔は、培養液を細胞培養用の生体適合性高分子材料または第1の高分子材料に流入させることができる。一実施形態では、生体適合性高分子材料または第1の高分子材料は、複数の細孔を含む。また、複数の細孔は、成長刺激促進の必要性に応じて様々な種類を有する。一実施形態では、細孔の形状は、球状、楕円体形状、菱形体形状、または紡錘状形状を含む。好ましい実施形態では、細孔の形状は、紡錘状形状である。別の実施形態では、細孔の紡錘状形状は、長さ1~5mm、幅0.1~0.5mmで設計される。好ましい実施形態では、紡錘状形状の細孔は、長さ2~4mm、幅0.2~0.4mmで設計される。さらに、複数の細孔は、生体適合性高分子材料または第1の高分子材料の構造を貫通するように設計される。
【0020】
いくつかの実施形態では、培養チャンバは、培養液で満たされ、生体適合性高分子材料は、培養液中に入れる。一実施形態では、培養チャンバは、培養液を含有する。
【0021】
様々な実施形態では、周期的引張力は、複数の引張成分によって加えられる。成長刺激促進構造を有する生体適合性高分子材料は、複数の引張成分の周期的引張力によって訓練される。一実施形態では、複数の引張成分によって加えられる周期的引張力は、2.5~50%の引張ひずみである。好ましい実施形態では、複数の引張成分によって加えられる周期的引張力は、5~40%の引張ひずみである。より好ましい実施形態では、複数の引張成分によって加えられる周期的引張力は、10~30%の引張ひずみである。別の実施形態では、複数の引張成分によって加えられる周期的引張力は、周波数0.1~4Hzにおけるものである。好ましい実施形態では、複数の引張成分によって加えられる周期的引張力は、周波数0.2~2Hzにおけるものである。より好ましい実施形態では、複数の引張成分によって加えられる周期的引張力は、周波数0.3~1Hzにおけるものである。一実施形態では、複数の引張成分は、生体適合性高分子材料に周期的一軸引張力をもたらす。別の実施形態では、複数の引張成分の周期的引張力は、生体適合性高分子材料と共に水平方向に加えられる。したがって、エキソソーム産生細胞を含む生体適合性高分子材料は、エキソソームを放出するように細胞を刺激するための周期的引張力により処理される。
【0022】
本発明において、生体適合性高分子材料は、1週間以上にわたって周期的引張力で処理され、次いで、生体適合性高分子材料中のエキソソーム産生細胞からエキソソームが回収される。一実施形態では、ステップ(c)におけるエキソソームの回収は、周期的引張力が加えられてから約1週間、約2週間、約3週間、約1ヶ月、約2ヶ月、または約3ヶ月後に行われる。好ましい実施形態では、ステップ(c)におけるエキソソームの回収は、周期的引張力が加えられてから約1~2ヶ月後に行われる。別の実施形態では、周期力が加えられてから1ヶ月後に回収されたエキソソームの数は、細胞あたり0.1x106~2x106である。好ましい実施形態では、周期力が加えられてから1ヶ月後に回収されたエキソソームの数は、細胞あたり0.5x106~1.5x106である。
【0023】
細胞に周期的引張力を加えたときに、細胞は、単一細胞から自己組織化三次元(3D)細胞スフェロイドに変化し、大量のYes関連タンパク質(YAP)を発現する。本発明では、周期的引張力が細胞を刺激して、大量のYAPタンパク質を発現させることができ、YAPタンパク質により、細胞は3Dスフェロイドを形成させることができ、その結果、エキソソームの分泌が大幅に増加することを示している。一実施形態では、エキソソーム産生細胞の形態は、周期的引張力下で3D細胞スフェロイドに変化する。別の実施形態では、エキソソーム産生細胞は、周期的引張力下で大量のYAPタンパク質を発現する。このように、本発明の周期的引張バイオリアクターを用いた3D細胞培養法は、エキソソームを大規模に産生することができる。
【0024】
本発明はまた、融合タンパク質をコードする配列を含むポリヌクレオチドを提供し、融合タンパク質は、標的タンパク質及びエキソソーム膜貫通タンパク質を含み、標的タンパク質は、抗ヒト白血球抗原G(HLA-G)タンパク質を含む。
【0025】
また、融合タンパク質をコードする配列は、核酸配列である。いくつかの態様では、融合タンパク質をコードする配列は、標的タンパク質をコードする第1の配列と、エキソソーム膜貫通タンパク質をコードする第2の配列とを含む。一実施形態では、融合タンパク質をコードする配列は、配列番号1を含む。好ましい実施形態では、抗HLA-Gタンパク質(標的タンパク質)を包含する第1の配列は、配列番号1を含む。
【0026】
本発明において、エキソソーム膜貫通タンパク質は、膜貫通タンパク質または膜会合タンパク質である。別の実施形態では、エキソソーム膜貫通タンパク質は、CD9、CD53、CD63、CD81、CD82、CD54、CD50、FLOT1、FLOT2、CD49d、CD71、CD133、CD138、CD235a、ALIX、Syntenin-1、Syntenin-2、Lamp2b、TSPAN8、シンデカン-1、シンデカン-2、シンデカン-3、シンデカン-4、TSPAN14、CD37、CD82、CD151、CD231、CD102、NOTCH1、NOTCH2、NOTCH3、NOTCH4、DLL1、DLL4、JAG1、JAG2、CD49d/ITGA4、ITGB5、ITGB6、ITGB7、CD11a、CD11b、CD11c、CD18/ITGB2、CD41、CD49b、CD49c、CD49e、CD51、CD61、CD104、Fc受容体、インターロイキン受容体、免疫グロブリン、MHC-I、MHC-II、CD2、CD3イプシロン、CD3ゼータ、CD13、CD18、CD19、CD30、CD34、CD36、CD40、CD40L、CD44、CD45、CD45RA、CD47、CD86、CD110、CD111、CD115、CD117、CD125、CD135、CD184、CD200、CD279、CD273、CD274、CD362、COL6A1、AGRN、EGFR、GAPDH、GLUR2、GLUR3、HLA-DM、HSPG2、L1CAM、LAMB1、LAMC1、ARRDC1、LFA-1、LGALS3BP、Mac-1アルファ、Mac-1ベータ、MFGE8、SLIT2、STX3、TCRA、TCRB、TCRD、TCRG、VTI1A、VTI1B、またはこれらの組み合わせを含む。好ましい実施形態では、エキソソーム膜貫通タンパク質は、CD9、CD63またはCD81を含む。より好ましい実施形態では、エキソソーム膜貫通タンパク質は、CD63を含む。
【0027】
本発明において、ポリヌクレオチドは、プロモーターをさらに含み、これは、融合タンパク質をコードする配列に作動可能に連結される。本明細書において使用される場合、「プロモーター」は、細胞内の核酸の発現を付与する、活性化させるまたは増強することができる合成または天然由来の分子を意味する。プロモーターは、発現をさらに増強し、かつ/またはその空間的発現及び/または時間的発現を変化させるために、1つ以上の特異的転写調節配列を含み得る。いくつかの実施形態では、プロモーターは、駆動して、融合タンパク質をコードする配列の上流に連結することができる。連結できるプロモーターとしては、標的細胞においてプロモーター活性を示す限り、特に限定されない。融合タンパク質をコードする配列に連結することができるプロモーターの例としては、これらに限定されないが、EFSプロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、CK8プロモーター、MHCプロモーター、MYODプロモーター、hTERTプロモーター、SRalphプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CAGプロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーターなどを含む。一実施形態では、ポリヌクレオチドは、融合タンパク質をコードする配列を調節するために使用されるプロモーターをさらに含む。
【0028】
さらに、本発明はさらに、ベクターを提供し、ここで、ベクターは、ポリヌクレオチドを担持している。したがって、融合タンパク質をコードする配列を有するポリヌクレオチドは、ベクター中にある。本発明においては、それぞれ異なる配列断片を担持する1つ以上のベクターが使用される。
【0029】
一実施形態では、ベクターは、プラスミドベクター、非ウイルスベクターまたはウイルスベクターである。本発明のベクターがプラスミドベクターである場合、使用するプラスミドベクターは特に限定されず、任意のプラスミドベクター(クローニングプラスミドベクター及び発現プラスミドベクターなど)であってよい。本発明のポリヌクレオチドを含むプラスミドベクターは、公知の方法により本発明のポリヌクレオチドをプラスミドベクターに挿入することによって調製される。好ましい実施形態では、ウイルスベクターは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスまたはセンダイウイルスベクターを含む。本明細書において、「ウイルスベクター」には、その誘導体も含む。本発明のポリヌクレオチドを含むウイルスベクターは、公知の方法により調製することができる。別の実施形態では、非ウイルスベクターは、リポソームまたは脂質ナノ粒子を含む。
【0030】
いくつかの態様では、エキソソーム産生細胞は、ポリヌクレオチドを担持するベクターでトランスフェクトされる。したがって、エキソソーム産生細胞は、通常、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む。したがって、正常にトランスフェクトされた細胞は、単一、二重または多重に安定な細胞株を産生することができる。単一の安定細胞株は、単一のポリヌクレオチドのトランスフェクションのみを必要とすることによりエキソソームの産生が簡素化されるので有利である。
【0031】
好ましくは、エキソソーム産生細胞は、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドにより安定にトランスフェクトされ、これにより、安定な細胞株が生成されるようになる。この利点により、均一な品質及び収量のエキソソームが一貫して産生される。エキソソーム産生細胞は、ポリヌクレオチドを細胞に導入するための本質的に任意の非ウイルスまたはウイルスの方法を用いて、少なくとも1つのポリヌクレオチドで遺伝子改変され得る。ポリヌクレオチドをエキソソーム産生細胞に導入するための好適な方法としては、PEIなどのポリカチオンを用いたトランスフェクション、リポフェクタミン(RTM)などの脂質ベースのトランスフェクション試薬、レンチウイルス形質導入、CRISPR-Casガイド挿入、Flp-Inシステム、トランスポゾンシステム、エレクトロポレーション、DEAE-デキストラントランスフェクション、及びリン酸カルシウムトランスフェクションが挙げられる。エキソソーム産生細胞にポリヌクレオチドを導入する方法の選択は、細胞源の選択、ベクターの性質及び特性(例えば、ベクターがプラスミドまたはミニサークルの場合、例えば、直鎖状DNAポリヌクレオチドまたはmRNAである場合)、ならびに必要なコンプライアンス及び制御のレベルなど、様々なパラメータに依存する。同様に、安定な細胞株を作製するためのエキソソーム産生細胞の不死化は、hTERT媒介不死化、転写因子不死化、E1/E2不死化または他のウイルス媒介不死化技術など、細胞株開発の技術分野において周知の技術を使用することによって達成することができる。これにより、正常にトランスフェクトされたエキソソーム産生細胞は、融合タンパク質を有するエキソソームを放出することができる。
【0032】
追加の態様では、本発明は、融合タンパク質を含むエキソソームの産生方法を提供し、本方法は、(1)ポリヌクレオチドをエキソソーム産生細胞に導入することであって、ポリヌクレオチドが、融合タンパク質をコードする配列を含み、融合タンパク質が、タンパク質及びエキソソーム膜貫通タンパク質を含み、タンパク質が、抗ヒト白血球抗原G(HLA-G)タンパク質を含む、導入することと;(2)エキソソーム産生細胞が融合タンパク質を含むエキソソームを産生できるようになることと、を含む。
【0033】
一実施形態では、エキソソーム産生細胞は、哺乳動物細胞を含む。好ましい実施形態では、エキソソーム産生細胞は、胚性腎細胞を含む。より好ましい実施形態では、エキソソーム産生細胞は、HEK293細胞を含む。
【0034】
本発明はまた、標的タンパク質及びエキソソーム膜貫通タンパク質を含む融合タンパク質を提供し、標的タンパク質は、抗HLA-Gタンパク質を含み、抗HLA-Gタンパク質の配列は、配列番号2を含む。配列番号2のペプチド配列は、配列番号1の核酸配列によって生成される。
【0035】
本発明はまた、融合タンパク質を含む細胞を提供し、融合タンパク質は、標的タンパク質及びエキソソーム膜貫通タンパク質を含み、標的タンパク質は、抗HLA-Gタンパク質を含み、抗HLA-Gタンパク質の配列は、配列番号2を含む。一実施形態では、細胞は、エキソソーム産生細胞である。
【0036】
いくつかの態様では、標的タンパク質は、エキソソーム膜貫通タンパク質と直接接続して融合タンパク質を形成する。エキソソーム膜貫通タンパク質を使用することにより、エキソソーム膜の外側に標的タンパク質を構成することが可能になる。この構成は、組織上の分子への結合を可能にするために、標的タンパク質を外部に露出させる補助を行う。好適なエキソソーム膜貫通タンパク質は、CD63、CD81、CD9、CD82、CD44、CD47、CD55、LAMP2B、ICAM、インテグリン、ARRDC1、アネキシン、及び任意の他のエキソソームポリペプチド、ならびにそれらの任意の組み合わせ、誘導体、ドメイン、または領域を含む群から選択され得る。非限定的な例は、CD63などのタンパク質であり得る。
【0037】
本発明はまた、融合タンパク質を含むエキソソームを提供し、融合タンパク質は、標的タンパク質及びエキソソーム膜貫通タンパク質を含み、標的タンパク質は、抗HLA-Gタンパク質を含み、抗HLA-Gタンパク質の配列は、配列番号2を含む。一実施形態では、エキソソーム膜貫通タンパク質は、CD9、CD63またはCD81を含む。好ましい実施形態では、エキソソーム膜貫通タンパク質は、CD63を含む。
【0038】
一実施形態では、エキソソームは、治療剤をさらに含む。好ましい実施形態では、治療剤は、抗体、抗体断片、抗体誘導体、単一ドメイン抗体、イントラボディ、一本鎖可変断片、アフィボディ親和性体、酵素、輸送体、腫瘍抑制因子、ウイルスまたは細菌阻害剤、細胞成分タンパク質、DNA及び/またはRNA結合タンパク質、DNA修復阻害剤、ヌクレアーゼ、プロテイナーゼ、インテグラーゼ、転写因子、成長因子、アポトーシス阻害剤及び誘導因子、毒素、構造タンパク質、神経栄養因子、膜輸送体、ヌクレオチド結合タンパク質、熱ショックタンパク質、CRISPR関連タンパク質、及びこれらの組み合わせを含む。治療剤は、エキソソームに取り込むことができる。したがって、治療用エキソソームは、融合タンパク質を含むエキソソームに治療剤を導入/取り込むことによって得られる。
【0039】
一実施形態では、治療剤は、抗がん剤を含む。好ましい実施形態では、抗がん剤は、化学療法剤を含む。より好ましい実施形態では、抗がん剤は、がんを治療するためのマイクロRNA(miR)を含む。
【0040】
別の実施形態では、化学療法剤は、レミケード、ドセタキセル、セレコキシブ、メルファラン、デキサメタゾン(Decadron(登録商標))、ステロイド、ゲムシタビン、シスプラチナ、テモゾロミド、エトポシド、シクロホスファミド、テモダール、カルボプラチン、プロカルバジン、ギリアデル、タモキシフェン、トポテカン、メトトレキサート、アリサ(登録商標)、タキソール、タキソテール、フルオロウラシル、ロイコボリン、イリノテカン、ゼローダ、CPT-11、インターフェロンアルファ、peg化インターフェロンアルファ(例えば、PEGイントロン-A)、カペシタビン、シスプラチン、ハーセプチン、パージェタ、エピルビシン、ペメトレキセド、チオテパ、フルダラビン、リポソームダウノルビシン、シタラビン、パシリタキセル、ビンブラスチン、IL-2、GM-CSF、ダカルバジン、ビノレルビン、ゾレドロン酸、パルミトロネート(palmitronate)、バイアキシン、ブスルファン、プレドニゾン、ボルテゾミブ(ベルケイド(登録商標))、ビスホスホネート、三酸化ヒ素、ドキソルビシン(Doxil(登録商標))、ガンシクロビル、アドリアマイシン、ナトリウム(Emcyt(登録商標))、スリンダク、エトポシド、またはこれらの組み合わせを含む。好ましい実施形態では、化学療法剤は、ドキソルビシン(DOX)、タキソテール(Taxo)、シスプラチン(Cisp)、ハーセプチン、パージェタ、エピルビシン(Epir)、シクロホスファミド(Cycl)、カルボプラチン(Carb)、ゲムシタビン(Gemc)、ペメトレキセド(Peme)、またはこれらの組み合わせを含む。より好ましい実施形態では、化学療法剤は、ドキソルビシンを含む。
【0041】
別の実施形態では、がんを治療するためのマイクロRNAは、miR-34a、miR-34b、miR-34c、miR-497、miR-145、miR-206、miR-21、miR-99a、miR-30a、miR-30a、miR-9、miR-210、miR-192、miR-494、miR-221、miR-19a、miR-19b、miR-23b-3p、miR-122-5p、miR-193b-3p、miR-141、miR-375、miR-145、miR-196a-5p、miR-200c-3p、miR-1246、miR-1290、miR-21-5p、miR-127-3p、miR-200a、miR-200b、miR-200c、miR-339-5pまたはmiR-409-3pを含む。別の実施形態では、がんを治療するためのマイクロRNAは、miR-34aを含む。
【0042】
本発明は、融合タンパク質を含むエキソソームを含む組成物を提供し、融合タンパク質は、標的タンパク質及びエキソソーム膜貫通タンパク質を含み、標的タンパク質は、抗HLA-Gタンパク質を含み、抗HLA-Gタンパク質の配列は、配列番号2を含む。
【0043】
本発明は、がんを有する対象を治療するための方法を提供し、本方法は、がんを有する対象に組成物を投与することを含み、組成物は、治療用エキソソームを含み、治療用エキソソームは、融合タンパク質及び抗がん剤を含み、融合タンパク質は、標的タンパク質及びエキソソーム膜貫通タンパク質を含み、標的タンパク質は、抗HLA-Gタンパク質を含み、抗HLA-Gタンパク質の配列は、配列番号2を含む。一実施形態では、エキソソーム膜貫通タンパク質は、CD9、CD63またはCD81を含む。好ましい実施形態では、エキソソーム膜貫通タンパク質は、CD63を含む。
【0044】
本発明は、がんを治療するための薬物を調製するための組成物の使用を提供し、組成物は、治療用エキソソームを含み、治療用エキソソームは、融合タンパク質及び抗がん剤を含み、融合タンパク質は、標的タンパク質及びエキソソーム膜貫通タンパク質を含み、標的タンパク質は、抗HLA-Gタンパク質を含み、抗HLA-Gタンパク質の配列は、配列番号2を含む。一実施形態では、エキソソーム膜貫通タンパク質は、CD9、CD63またはCD81を含む。好ましい実施形態では、エキソソーム膜貫通タンパク質は、CD63を含む。
【0045】
「治療する」という用語は、これらに限定するものではないが、がん細胞の成長を減少させる、阻害するまたは制限すること、がん細胞の転移、がん細胞または転移の浸潤性を減少させる、阻害するまたは制限すること、がんまたはその転移の1つ以上の症状を減少させる、阻害するもしくは制限することを包含する。本明細書において使用される場合、「がん細胞の成長を阻害する」とは、がん細胞の増殖及び/もしくは遊走の速度を低下させる、がん細胞の増殖及び/もしくは遊走を停止させる、がん細胞を殺傷させる、または細胞生存率を低下させることを指し、これにより、未処置の対照がん細胞の成長が観察されたかまたは予測された成長殖速度と比較して、がん細胞成長速度が低下するものを指す。「成長を阻害する」という用語はまた、がん細胞または腫瘍のサイズの減少または消失、ならびにその転移能の減少を指すこともできる。好ましくは、細胞レベルでのそのような阻害は、サイズを縮小する、成長を阻止する、及び腫瘍の存在を減少させることが可能である。
【0046】
本明細書において使用される用語「がん」または「腫瘍」は、細胞の集団が、調節されていない細胞の成長を特徴とする哺乳動物における生理学的状態を指すか、または記載する。がんは、非固形腫瘍または固形腫瘍であり得る。がんの例としては、これらに限定されないが、癌腫、リンパ腫、芽腫、肉腫、及び白血病が挙げられる。このようながんのより具体的な例としては、特に、乳癌、口腔癌、髄芽腫、前立腺癌、扁平上皮癌、肺癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺腺癌、肺扁平上皮癌、腹膜癌、肝細胞癌、消化器癌、膵癌、膠芽腫、子宮頸癌、卵巣癌、卵巣腺癌、肝癌、膀胱癌、肝腫、結腸癌、大腸癌、胃癌、子宮内膜癌または子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、肝癌、外陰癌、甲状腺癌、肝癌、及び様々な種類の頭頸部癌、血液悪性腫瘍、急性骨髄性白血病、リンパ腫、及び白血病、及び黒色腫が挙げられる。一実施形態では、がんは、乳癌、肺癌、口腔癌、肝癌、大腸癌、膠芽腫、髄芽腫、膀胱癌、膵癌、または卵巣癌を含む。好ましい実施形態では、がんは、乳癌を含む。
【0047】
一実施形態では、対象は、動物であり、好ましくは哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
【0048】
別の実施形態では、抗がん剤は、がんを治療するための化学療法剤及び/またはマイクロRNA(miR)を含む。好ましい実施形態では、化学療法剤は、ドキソルビシン(DOX)、タキソテール(Taxo)、シスプラチン(Cisp)、ハーセプチン、パージェタ、エピルビシン(Epir)、シクロホスファミド(Cycl)、カルボプラチン(Carb)、ゲムシタビン(Gemc)、またはペメトレキセド(Peme)、またはこれらの組み合わせを含む。より好ましい実施形態では、化学療法剤は、ドキソルビシンを含む。別の実施形態では、がんを治療するためのマイクロRNAは、miR-34aを含む。
【0049】
本発明において、抗HLA-Gタンパク質とは、抗HLA-G機能を有するタンパク質またはペプチドである。したがって、抗HLA-Gタンパク質は、HLA-G分子に特異的に結合することができる。特に、本発明における配列番号2の配列は、HLA-Gに対してより高い親和性を呈する。いくつかの態様では、HLA-G分子は、がん細胞上に発現する。したがって、抗HLA-Gタンパク質を有するエキソソームは、がん細胞に特異的に結合することができ、がんの治療における薬物送達手段として使用される。
【0050】
いくつかの実施形態では、治療用エキソソームは、薬学的に許容される担体と共に投与される。用語「薬学的に許容される担体」は、製剤の他の成分と適合性であり、レシピエントに有害ではない任意の担体、希釈剤または賦形剤を指す。薬学的に許容される担体は、選択された投与経路及び標準的な薬学的慣行に基づいて選択することができる。治療用エキソソームは、医薬調製物の分野における標準的な慣行に従って、製剤化して、剤形にすることができる。好適な剤形としては、これらに限定されないが、例えば、液剤、非経口液剤、注射用液剤、トローチ剤、坐剤、または懸濁液が挙げられる。
【0051】
治療用エキソソームを含む本発明の組成物は、経口、非経口、舌下、経皮、直腸、経粘膜、局所、吸入による、頬側投与、胸膜内、静脈内、動脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、鼻腔内、くも膜下腔内、及び関節内、またはそれらの組み合わせなど、様々な経路によって対象に投与することができる。好ましい実施形態では、組成物は、静脈内または非経口投与によって投与される。別の実施形態では、組成物は、腫瘍への直接注射によって投与される。
【0052】
非経口投与の場合、活性剤は、好適な担体または希釈剤、例えば、これらに限定されないが、水、油(例えば、植物油)、エタノール、生理食塩水(例えば、リン酸緩衝生理食塩水または生理食塩水)、水性デキストロース(グルコース)及び関連糖溶液、グリセロール、またはプロピレングリコールまたはポリエチレングリコールなどのグリコールと混合することができる。安定化剤、抗酸化剤及び防腐剤も添加され得る。好適な抗酸化剤としては、これらに限定されないが、亜硫酸塩、アスコルビン酸、クエン酸及びその塩、ならびにEDTAナトリウムが挙げられる。好適な防腐剤としては、これらに限定されないが、塩化ベンザルコニウム、メチルまたはプロピルパラベン、及びクロルブタノールが挙げられる。非経口投与のための組成物は、水性または非水性溶液、分散液、懸濁液またはエマルジョンの形態をとり得る。
【0053】
本発明によれば、治療用エキソソームを含む組成物の投与量は、治療に有効な量である限り、特に限定されない。有効成分、剤形、対象の年齢及び体重、投与スケジュール、投与方法などに応じて適宜最適化することができる。組成物は、好ましくは、単位剤形である。そのような形態では、調製物は、適切な量の活性成分を含有する単位用量に分割される。
【0054】
がんを治療するための方法は、がんの成長を減少させる、阻害するまたは制限するために治療有効量の治療用エキソソームを投与することを含む。用語「治療有効量」は、有益なまたは望ましい生物学的結果及び/または臨床結果をもたらすのに十分な量を指す。一実施形態では、「治療有効量」は、未処置の対照がんの観察されたかまたは予測された成長速度と比較して、がん細胞の成長を阻害する、減少させるまたは制限するのに十分な量である。
【0055】
抗がん剤、miRまたは治療用エキソソームの投与量は、典型的には、約0.0001または0.001または0.01mg/kg/日~約1000mg/kg/日の範囲であるが、他の要因の中でも、組成物の活性、その生物学的利用能、投与様式、及び上で論じた様々な要因に応じて、より多くまたは少なくすることができる。投与量及び間隔は、治療効果または予防効果を維持するのに十分なエキソソームの局所及び/または全身濃度をもたらすために個別に調節することができる。例えば、組成物は、特に、投与様式、治療される特定の適応症、及び処方する医師の判断に応じて、週に1回、週に数回(例えば、1日おき)、1日1回、または1日に複数回投与することができる。当業者であれば、過度の実験なく、効果的な局所投与量を最適化することができる。一実施形態では、化学療法剤の治療有効量は、0.01~10mg/kg体重である。他の実施形態では、がんを治療するためのマイクロRNAの治療有効量は、0.01~1mg/kg重量である。
【0056】
また、本発明においては、融合タンパク質を含むエキソソーム産生細胞を、本発明の周期的引張バイオリアクターに適用することができる。エキソソームは、免疫原性の欠如及び異なる臓器内に効率的にホーミングする能力など、様々な利点のため、送達ビヒクルとして有利である。したがって、本発明の周期的引張バイオリアクターを用いた培養方法は、エキソソームの生物学的性質を保持し、融合タンパク質を含有するエキソソームの一貫した大規模産生に好適であり、これらのエキソソームが薬剤(例えば治療剤)の送達手段として好適になる。
【実施例0057】
本発明は、多くの異なる形態で実施することができ、本明細書に記載の実施例に限定して解釈されるべきではない。記載された実施例は、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を限定するものではない。
【0058】
材料及び方法
ベクターの構築及び細胞株の樹立
抗HLA-G VHH/CD63融合タンパク質をコードする配列を合成し、分子クローニング技術によりpcDNA3.4プラスミド(Thermo Scientific)に直列に挿入して、抗HLA-G-CD63発現プラスミド(pcDNA3.4-αHLA-G-CD63)を作製した。インサートのDNA配列は、サンガーシーケンシング法によって検証した。安定した発現細胞株を樹立するために、293T細胞を、リポフェクタミン3000試薬(Thermo Scientific)を用いて、pcDNA3.4-αHLA-G-CD63でトランスフェクトした。トランスフェクション後、安定にトランスフェクションされた293T細胞をG418(800μg/mL、Invivogen)での培養により選択した。293T細胞は、抗HLA-G/CD63融合タンパク質を有するエキソソームをカーゴエキソソーム(CARExo)として産生することができた。
【0059】
抗HLA-Gタンパク質をコードする核酸配列は:AGCGCTGGTCACGTGCAGCTGGTGGAAAGCGGCGGCGGCAGCGTGCAAGCCGGCGGCAGCCTGAAGCTGAGCTGCGTGACAAGCGCCTACACCTTCTCCGCTAGCGGCAACTGCATGGGCTGGCTGAGACAAGCCCCCGGCAAGGGCAGAGAGGGCATCGCCGCCACCTACACAAGAAGCGCCAAGACCTACTACGCCGACAGCGTGAAGGGCAGATTCACCATCAGCCAAGACAACGCCAAGAACACCGTGTACCTGCAGATGAACGGCCTGAAGCCCGAGGACACCGCCACCTACTACTGCGCCGTGGCTAGATGCGCCGGCAGACCCGACAGAAGCACCCTGACAAGCTTCGCCTGGTGGGGCCAAGGCACCCAAGTGACCGTGAGCAGCCTGGAGACCGGT(配列番号1)である。
【0060】
抗HLA-Gタンパク質のペプチド配列は:SAGHVQLVESGGGSVQAGGSLKLSCVTSAYTFSASGNCMGWLRQAPGKGREGIAATYTRSAKTYYADSVKGRFTISQDNAKNTVYLQMNGLKPEDTATYYCAVARCAGRPDRSTLTSFAWWGQGTQVTVSSLETG(配列番号2)である。
【0061】
Exo及びCARExoの作製及び特徴付け
エキソソーム(ExoまたはCARExo)を得るために、培地を2000gで15分間遠心分離して、細胞デブリを除去し、0.22μmの濾紙で濾過した。次いで、上清を限外濾過(Amicon(登録商標)Ultra,30kDa、Merck Millipore,Billerica,MA,USA)により、5000gで8分間濃縮した。回収した上清をタンジェンシャルフロー濾過(MAP.03プラスTFFシステム、Lefo Science,Taipei,Taiwan)を使用して、分子量300kDaのメンブレンで順次濾過し、上記で詳述したリン酸緩衝液(PBS)(pH=7.4)によって再懸濁した。すべてのサンプルは、即時使用に4℃で操作したが、さらに使用するために-80℃で保存した。単離後、Exo/CARExoを1%グルタルアルデヒドで、4℃で一晩固定した。洗浄後、Exo/CARExoをホルムバーカーボンコーティンググリッドに添加し、リンタングステン酸水溶液で1分間陰性染色した。Exo/CARExoの超微細構造を透過型電子顕微鏡(TEM,JEOL JEM-1400,Tokyo,Japan)によって解析した。
【0062】
これらのExoは、エキソソームのサイズ分布及び濃度を分析するために、ナノ粒子追跡分析(NTA,ZetaView(登録商標)、PParticle Metrix GmbH,Meerbusch,Germany)によってもアッセイした。バイオマーカーを分析するために、Exo/CARExoを、抗CD9抗体(ab239685,Abcam)、抗CD63抗体(ab239686,Abcam)及び抗CD81抗体(ab239687,Abcam)でコーティングした磁気キャプチャビーズと室温で12時間浸漬し、穏やかに混合した。事前に結合させたExo/CARExoを洗浄し、DynaMag(商標)(Invitrogen)に10分間置いた後、上清を廃棄した。ビーズ結合したExo/CARExoをバッファーに再懸濁し、PE抗CD9抗体(E-AB-F1086D,Elabscience,Houston,TX,USA)、またはPE抗CD63抗体(ab205540,Abcam)、または抗CD81抗体(E-AB-F1073D,Elabscience)と共に4℃で2時間インキュベートした。PE(フィコエリトリン)標識ビーズ結合Exoを、BD Accuri(商標)C6 Plusフローサイトメトリー(BD FACS,San Jose,CA,USA)を用いて分析した。さらに、ウエスタンブロッティングを使用して、CD63、CD81、HSP70、Alix、βチューブリン(Abcam)などの特定のExo/CARExoバイオマーカーを決定した。
【0063】
Exo取り込みアッセイ
PKH26標識Exo/CARExoを2mL MDA-MB-231及びMCF10A培地(109Exo/mL)で混合した。最初に、これら2つの細胞株をμスライドウェル(ibidi GmbH,Grafelfing,Germany)で60%コンフルエントまで成長させて、次いで培地を、PKH26標識Exoを含む培地と交換した。6時間、12時間、及び24時間培養後、細胞をPBSで2回洗浄し、固定し、Alexa Fluor(商標)488ファロイジン及びDAPIで染色した。洗浄後、細胞の画像を蛍光顕微鏡(BX53,Olympus,Tokyo,Japan)を用いて撮影した。
【0064】
細胞生存率
細胞は、異なる時点で回収するために、Exo/CARExoを含む96ウェルで培養し、培養培地を回収し、PBS溶液で洗浄してあらゆる残留培地を除去した。テトラゾリウム色素MTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)(Sigma-Aldrich)を1:9の比率で新鮮培地に混合し、呼吸鎖に作用することによって機能する細胞生存率を評価するために行った。3時間の反応後、MTT剤を除去し、DMSOを加えて20分間放置し、ホルマザン結晶を溶解し、96ウェルに均等に再分配した。吸光度は、細胞生存率を評価するために波長570nmで測定することによって定量した。
【0065】
免疫蛍光
MDA-MB-231、MCF-7及びMCF-10A細胞(密度5x104細胞/mL)をカバースリップ付き35mmディッシュに播種し、12時間接着させた。MDA-MB-231、MCF-7及びMCF-10A細胞を、いずれかのナノプローブ(0μM及び5μM)の存在下で、37℃で6時間培養した。細胞をPBS中で1回洗浄し、固定し、1%Triton X-100を含むPBSと共に4%パラホルムアルデヒドを用いて同時に透過処理した。次に、0.1Mグリシンを含むPBSでクエンチし、3%(wt/vol)BSAで、4℃で一晩ブロッキングした。固定し、透過処理した細胞を、指示のとおり、一次抗体及び二次抗体で染色した。次いで、細胞を、室温で5分間、DAPI溶液により染色した。ヤギ抗マウスIgG h&L(Alexa Fluor(登録商標)647)(ab150115)及びヤギ抗ウサギIgG h&LAlexa Fluor(登録商標)488)(ab150077)をAbcam(Cambridge,UK)から入手した。細胞形態は、レーザー共焦点顕微鏡(Zessis,LSM800,Germany)を用いて観察した。
【0066】
miRNA及びドキソルビシン(DOX)含有Exo/CARExoの調製
Exo/CARExoに外因性カーゴを取り込むために、miR-34a及びドキソルビシンをエレクトロポレーションによってトランスフェクトした。Exo/CARExoの量は、1x109(NTAで測定)であり、エレクトロポレーション前にmiR-34aを含むバッファーと混合した。エレクトロポレーション後、Exo/CARExoを37℃で1時間静置した。その後、ドキソルビシン1mgと混合し、37℃で60分間反応させた後、4℃に切り替えて30分間反応させ、その後、20μLのExoQuick-TC(System Bioscience)を加えて十分に混合し、4℃で16時間反応させた。反応後、1500xg、4℃で30分間遠心分離し、上清を吸引除去し、200μL PBSを加えて洗浄し、遠心分離により除去し、上記のPBS洗浄を2回繰り返し、最後に100μL PBSを加えてエキソソームを均一に分散させた。完了したときに、Exo/CARExoの数をNTAにより再分析し、薬物送達中に喪失したExo/CARExoの数を分析した。
【0067】
生体分布
本発明は、腫瘍異種移植マウスモデル(NOD/SCIDガンママウス)を用いて、in vivoでのExo/CARExoの腫瘍標的効果を評価した。PBS、Exo、及びCARExoは、100μL(5x1010Exo/CARExo)の尾静脈を介して注射させた。マウスは、異なる時点で走査し、24時間で屠殺した。
【0068】
In vivo抗腫瘍効果
異種移植片腫瘍モデルは、0.1mLのMDA-MB-231細胞懸濁液(5x106/100μL)を右脇腹NOD/SCIDガンマ(NSG)ヌードマウスに注射することによって作製した。確立されたMDA-MB-231腫瘍(150~200mm3)担持マウスを無作為に群に分類し、その群を次のように処置した:(i)対照としてのPBS;(ii)Exo-miR;(iii)Exo-薬物;(iv)Exo-薬物-miR(薬物当量は、5mg/kg、miR当量は0.1nmoL/kg)。薬物は、7週間連続して尾静脈から毎週注射した。マウスの体重を測定し、腫瘍を4日毎にノギスにより測定した。腫瘍体積は、次式を用いて計算した:腫瘍体積=(長さx幅x幅)/2。
【0069】
組織回収及びヘマトキシリン-エオジン(H&E)染色
マウスは、1mL/kgの用量で、水和クロラール水溶液(3%w/v)の腹腔内注射を使用して麻酔した。その後、屠殺させ、血液のサンプルを採取し、腹腔を露出させた。肝臓、肺、脾臓、心臓及び腎臓のサンプルを回収し、ヘマトキシリン-エオジン染色の前に10%中性緩衝ホルマリン(NBF)に一時的に保存した。
【0070】
NBF(pH7.2~7.4)は、ホルムアルデヒドの40%v/v水溶液100mL、無水リン酸水素二ナトリウム(6.5g)、リン酸二水素ナトリウム(4.0g)及び蒸留水(900mL)から調製した。肝臓、脾臓、肺、心臓及び腎臓の組織を10%NBF溶液から回収した。組織切片を脱水し、パラフィン包埋し、切断し、ヘマトキシリン及びエオシンを用いて染色した。
【0071】
3Dスフェロイドモデルの構築
すべての細胞をそれぞれの適切な培地で培養した。培養培地は、2日または3日ごとに交換した。脱細胞化肺ECM包埋培養の前に、本発明では、0.25%トリプシンを含むEDTA(Gibco)溶液で処理することによって、各細胞型を回収し、1200rpmで、10分間、遠心分離によって細胞を回収し、細胞を各培養培地に分散させた。細胞懸濁液を、様々な細胞について最終濃度5x106細胞ml-1となるようにECMのプレゲル溶液(4重量%)と混合した。各細胞封入プレゲル溶液のアリコートをマルチウェルプレートのウェルに移し、37℃のインキュベーターに1時間入れた。ゲル化後、がんまたは内皮細胞用の培養培地をウェルに添加した。各培養培地は、2日または3日ごとに交換した。
【0072】
成長刺激促進構造を有する細胞含有FGelMaヒドロゲルの調製
本発明では、鋳型成形プロセスを経て、成長刺激促進構造を有するヒドロゲルを作製した。成長刺激促進構造を有する細胞含有ヒドロゲルは引張バイオリアクターと適合性があるべきであることを考慮して、構築物を製造するために3つの成分、すなわちPluronic F-127溶液、GelMa、及び細胞含有FGelMaを使用した。押込み金型は、BioXバイオプリンタ(Cellink,Sweden)を使用して、Pluronic F-127(Sigma-Aldrich)溶液を蒸留水中30重量%の濃度で用いて、設計し、印刷した。
図16A~
図16Cは、成長刺激促進構築物の代表的な単位細胞を示す。金型印刷では、ステレオリソグラフィー(STL)モデルが、SolidWorksを使用して設計し、開発された。STLファイルは、gコードファイルに変換させ、sli3erソフトウェアを使用して、バイオプリンタの動き及び印刷経路を決定するために使用した。内径150μmのルアーロックノズルを備えたシリンジバレルに変色性(fugitive)インクを収容後、移動速度25mm/sのシリンジを用いて、空気圧170kPaを加えてスライドガラス上に変色性インクを堆積させ、直径約250μmを有するフィラメントを形成した。成長刺激促進構築物の変色性型は、構築物の最終厚が2.1mmに達するまで、層ごと(1層あたり150μm)に作製した。次に、15重量%のGelMa及び0.5重量%のI-2959を含む加温した(37℃)PBSを上記型に入れ、引張バイオリアクターに接続可能な、両側に2つの開口部を有する固定部を形成した(ATMS Boxer QQA Cyclic Stretch Culture System,Genemessenger,Kaohsiung,Taiwan)(
図16A)。細胞含有FGelMaは、HEK293T(または他の正常細胞株及び初代細胞)を、10重量%FGelMaを含む0.5%I-2959含有PBSと混合することによって得た。培養培地で培養したコンフルエントな細胞をトリプシン処理し、遠心分離し、密度5x10
6細胞/mLで加温したFGelMa溶液に再懸濁した。次いで、細胞含有ヒドロゲルを試料の成長刺激促進部分に取り込んだ。試料を37℃で1分間インキュベートして、GelMa及びFGelMaを液体化した。UV照射(365nm)に90秒間曝露後、試料を冷(4℃)PBSに10分間浸漬し、変色性F-127を溶解した(
図16B)。周期的引張力を加えるために、試料を引張バイオリアクターに固定し、培養培地8mLを加えた。培養期間中、細胞含有ヒドロゲルに20%の引張ひずみを0.48Hzの周波数で連続的に加えた。静置条件下で培養した試料を対照群とした(
図16C)。すべてのin vitro実験は、37℃で5%CO
2及び100%湿度の細胞培養インキュベーターで実施し、培地は、2日ごとに新鮮なものにした。
【0073】
FGelMaの合成及び特徴付け、ならびに引張バイオリアクターの設計及び適用は、Yi-Wen Chen et al.(Materials&Design,Volume 195,October 2020,108982)に記載されており、これらはその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0074】
YAP阻害剤YAPの治療
以前の結果において、本発明は、HEK293Tの引張刺激の存在は、細胞挙動において重要な役割を有する機械感受性転写活性化因子であるYAPタンパク質の細胞活性化を介するものであると考えられた。したがって、最終的に、本発明は、HEK293T含有成長刺激促進足場をYAP阻害剤であるベルテポルフィン(MedChemExpress,Monmouth Junction,NJ,USA)に曝露した。特定の日培養後、本発明では、免疫蛍光染色及び骨形成関連タンパク質を使用して、引張刺激におけるYAPの役割を評価した。
【0075】
結果
カーゴ工学技術を有するもの、有さないものの、エキソソームの特徴を検証した。形態学的結果は、タンジェンシャルフロー濾過(TFF)技術からのExo及びCARExoの単離のTEM画像で確認した。結果は、カーゴ工学技術によるものであっても、同様のレベルのエキソソームサイズを示した(
図1A)。それらは、小胞中空特徴及び表面膜を明確に示した。NTA分析では、直径のメインピークが110nm(Exo)及び120nm(CARExo)に別々にあることが示された(
図1B)。これらの結果により、カーゴ工学技術による処置後も、エキソソームの形態が安定していることが判明した。
【0076】
エキソソーム表面膜上で一般的に濃縮されたCD9、CD63、CD81、HSP71及びAlixの存在を、抗CD9、抗CD63、抗CD81、抗HSP70、及び抗Alixを用いたウエスタンブロッティング分析を用いて分析した(
図2A)。細胞質マーカーβ-チューブリンは、エキソソーム中に存在しなかった。本発明の結果は、CARExoが同様のエキソソーム特性マーカーの発現を有していたことを示した。フローサイトメトリー分析では、エキソソームマーカーCD9、CD63、及びCD81のレベルが、Exo群で検出されたことを示した(
図2B)。さらに、カーゴ工学技術によるエキソソームの表面修飾は、親エキソソームの性能に影響を与えるものではなかった。
【0077】
多くの研究により、エキソソームは、特定の細胞標的に対する治療効果の理想的なカーゴとして使用できることが示されている(
図3)。したがって、本発明では、MDA-MB-231核におけるCARExoの取り込みについてさらに調べた。エキソソームトラッカー試薬PKH67(緑色)を用いてCARExoを染色後、MDA-MB-231と24時間共培養した。その後、本発明では、F-アクチン細胞骨格試薬(赤)及び核試薬DAPI(青)をさらに用いて染色し、これらの画像は、共焦点顕微鏡により、エキソソームが核層(YZ切片)に取り込まれていることを示した。したがって、CARExoが、がんの精密治療に対して高い可能性を有することが重要な鍵であった。
【0078】
さらに、CARExoが乳癌(MDA-MB-231)を特異的に標的とすることができることをさらに確認するために、本発明では、比較のために正常乳房細胞(MCF10A)を用いた(
図4)。MDA-MB-231及びMCF-10Aを、異なる時点でExo及びCARExoと別々にインキュベートし、6時間、12時間、及び24時間後に、免疫蛍光検出を実施した。この結果では、231細胞がCARExoに対して良好な親和性を有することが示された。12時間後、大量のCARExoが取り込まれる可能性はあったが、Exoの量は比較的少なかった。
【0079】
エキソソーム標的率は、フローサイトメトリーにより測定した。MDA-MB-231及びMCF-10AをCARExo及びExoで6時間及び24時間処置した(
図5)。6時間では、2群において発現差はなかった。しかし、CARExoで24時間処置することにより、本発明では、MDA-MB-231亜集団の大幅な増加を検出したが、Exoでは、ほとんど変化がなかった。CARExoは、MDA-MB-231を正確に標的とし、MCF-10Aよりも効果的であった。
【0080】
CARExoをがん細胞(MDA-MB-231、赤)及び正常細胞(HDF、薄緑色)と共培養した実験では、CARExo(緑)ががん細胞中に集中していることもわかり、これにより、CARExoが、がん細胞に対して特異性を有することがさらに確認できた(
図6)。
【0081】
図7は、MD-MBA-231、MCF10A細胞に対するCARExo、Exo、及び対照(Ctl)の細胞傷害性の評価を示す。共培養の6時間、12時間、24時間、48時間後、CARExoまたはExoのいずれも示さず、細胞生存の定量化は、これらのエキソソームが細胞傷害性を全く有さないことを示した。これらの結果は、3つの独立した実験を代表するものであった。
【0082】
CARExoのin vivo治療可能性における生体内分布をさらに評価するために、本発明では、MDA-MB-231細胞を用いることによって、異種移植マウスモデルを構築した(
図8)。In vitroの結果と一致して、CARExoは、腫瘍を有意に標的としていたため、正常エキソソームの保存場所である肺及び脾臓ではほとんどシグナルが検出されなかった。
【0083】
さらに、理想的なエレクトロポレーションパラメータは、600mV~800mVの範囲であり、これにより、エキソソームは、miR-34aを安定して運ぶことができた(
図9)。その結果、700mVが最も優れた送達効率を示し、CARExoは、30ng miR-34aを検出でき、これを網羅する効率が、薬物送達の適用される高い可能性を有することを示唆するものである。CARExoは、がん標的薬ドキソルビシン(Dox)を700mVの高効率で提供した。結果はさらに、Doxを20ngのmiR-34aと一緒に送達させた場合に、優れた効率を示した。以上の結果は、このエレクトロポレーションパラメータにより、エキソソームに、2つの薬物を同時に安定して運ばせることができることを示した。
【0084】
次いで、本発明では、試験群をさらに6群:対照、薬物、miR、CARExo、CARExo-薬物及びCARExo-miR-薬物に増加させて、がん細胞殺傷効力の検証結果を識別する(
図10)。24時間後及び48時間後、Exo-miR-薬物は、他の群よりも最良の細胞殺傷を示した。一方、CARExoまたは薬物のみの効果は、約50%であった。エキソソームのカクテルは、初回にがん細胞を効果的かつ迅速に殺傷させることができることが確認できる。
【0085】
次に、本発明をそれぞれCARExo及びmiR-34aトラッカーで染色した(
図11)。予測どおり、ここでも、CARExo(緑)が、共局在現象を示す可能性のあるmiR-34a(赤)を封入したことを検証する。
【0086】
本発明は、CARExoエキソソームがin vivoでの腫瘍抑制に対して相加効果を有することをさらに示すことにした(
図12A~12B)。本発明では、4つの群:対照(Ctl)、CARExo-miR(miR-34a含有カーゴエキソソーム)、CARExo-薬物(ドキソルビシン含有カーゴエキソソーム)、及びCARExo-薬物-miR(miR-134a及びドキソルビシン含有カーゴエキソソーム)を設計した。動物実験により、CARExo-薬物-miRをマウスに皮下注射し、異なる時点で観察した。腫瘍形成に対する抑制効果は、他の群よりも優れていることを見出した(
図12A)。腫瘍体積及び重量は、CARExo-薬物-miRにおいて有意に減少した。次に、本発明では、他の臓器に対する細胞傷害性を確認することにした。治療試験では、肝臓及び肺、ならびに心臓、腎臓、及び脾臓などの他の臓器に焦点を当てた。HE染色は、上記の臓器が元の形態を保持していることを示した(
図12B)。CARExo-薬物-miRが、腫瘍部位で安全かつ正確な標的であることが判明した。
【0087】
図13では、本発明はまた、異なるがんモデル:MB11(膠芽腫)、A549(非小細胞肺癌)、HepG2(肝細胞癌)、OECM(口腔扁平上皮癌)、SKOV3(卵巣癌細胞株)、及びT24(膀胱癌)を用いて、CARExoの有効性を試験した。
【0088】
加えて、本発明では、7つの群;対照(Ctl)、DOX(ドキソルビシン)、LipoDox(ドキソルビシン含有リポソーム)、Exo(エキソソーム)、CARExo(カーゴエキソソーム)、DOX@Exo(ドキソルビシン含有エキソソーム)及びDOX@CARExo(ドキソルビシン含有カーゴエキソソーム)を設計し、異なるがん細胞株を試験する。同様の結果は、異なるがん細胞株でも見られた(
図14)。乳癌(MB231)に加えて、肺癌(HCC827)、口腔癌(OECM)、肝癌(HepG2)、大腸癌(CaCO2)、膵癌(MIAPaCa-2)、髄芽腫(U87)、膀胱癌(T24)、卵巣腺癌(SKOV3)などを対象とした。DOX@CARExoが、良好な細胞傷害性を示し得ることが判明した。さらに、正常細胞では、CARExoの細胞傷害性もDOX及びLipo-DOXの細胞傷害性よりも低かった。
【0089】
さらに、本発明は、エキソソームを介して、異なる化学療法剤(例えば、ドキソルビシン(DOX)、タキソテール(Taxo)、シスプラチン(Cisp)、エピルビシン(Epir)、シクロホスファミド(Cycl)、カルボプラチン(Carb)、ゲムシタビン(Gemc)、及びペメトレキセド(Peme))を担持し、がん細胞を殺傷させるための担体として機能することもできる(
図15)。その結果、CARExoに含有させた化学療法剤は、EXOよりもがん細胞(MDA-MB-231)の殺傷効果が高く、DOXの以前の結果と同じ傾向を有していた。
【0090】
異なる濃度(10%、12.5%、及び15%)を有するヒドロゲル足場では、様々な時点で周期的引張力を処理していたが、エキソソーム分泌効率に顕著な変化があった(
図17)。15%FGelMa足場では、エキソソームは、12.5%及び10%より多く放出された。さらに、本発明は、細胞あたりのエキソソーム分泌の効率も評価した。1ヶ月間の周期引張処理後、エキソソーム分泌量は、15%、11.5%、及び10%FGelMaヒドロゲル足場において、それぞれ細胞あたり約1.03x10
6、細胞あたり0.92x10
6、及び細胞あたり0.81x10
6であった。本発明はまた、この実験を、エキソソームの産生に特化した市場のバイオリアクターと比較した。これらの結果から、FiberCell系は、長時間連続してエキソソームを回収できるが、1ヶ月後の収率は、1細胞あたり約0.44x10
6細胞であり、本発明の系よりもはるかに少ないことを見出すことができた。もう一方のCelCradle(商標)は、浮遊培養に似た種類のバイオリアクターであった。長期間エキソソームを回収できなかったため、約2週間のみ試験を行うことができ、収率も本発明の系よりも少なかった。
【0091】
本発明はさらに、細胞骨格(F-アクチン、緑)、メカノセンシングマーカー(YAP、赤)、及び核(青)の蛍光染色を使用して、伸展刺激によるヒドロゲル足場の細胞封入の変化を同定した(
図18)。
図18に示すとおり、細胞を3日間周期的引張により伸展させた後、細胞は、単一細胞から自己組織化三次元細胞スフェロイドに変化する一方で、静置培養群の細胞は、依然として単一細胞であることを見出すことができた。また、機械的力の刺激によって形成された三次元細胞スフェロイドは、スフェロイドの周囲に大量のYAPタンパク質を発現するが、静置培養細胞ではほとんど発現しないため、本発明では、機械的な力の刺激を受けた細胞が、大量のYAPタンパク質を発現し、三次元スフェロイドの形成後にエキソソームの分泌を増強させたと推測した。
【0092】
続いて、YAPタンパク質(ベルテポルフィン)阻害剤を周期的引張刺激のプロセスで添加した。蛍光染色から、阻害剤を添加しない群では、YAPタンパク質の発現、細胞スフェロイドの形態、及び分泌されるエキソソームの量が以前の結果と一致していることが示された(
図19A)。阻害剤を添加した群の細胞形態は、自己組織化して三次元スフェロイドを形成することができない単一細胞であり、これは静的培養細胞に類似しており、エキソソームの分泌も大幅に減少して、周期的引張刺激群の5%となった(
図19B)。したがって、三次元培養下では、継続的な機械的刺激により、YAPタンパク質を活性化することにより細胞を三次元球状に形成させ、エキソソームの分泌を大幅に増加させることができることが推測された。
【0093】
静的/動的伸展後に細胞によって分泌されるエキソソームの出現を確認するために、本発明は、標準TFFプロトコールによって細胞外小胞を単離した(
図20)。透過型電子顕微鏡及びNanosightサイズ分布分析により、50~350nmの小さい円形粒子の集団、及び122nmのメインピークが示された。ウエスタンブロット分析では、テトラスパニンエキソソームマーカーCD9、CD63、CD81、TSG101、及び細胞質マーカーβチューブリンが動的伸展下で著しく濃縮されることが示された。別のエキソソームマーカーであるCD9、CD63、CD81、TSG101のより適度な濃縮が静的伸展下で見られた。これらの結果は、組み合わせて、動的伸展からのエキソソーム様粒子の単離の成功が確認された。
【0094】
当業者は、寄託された出願情報を伝達するために使用される方法の説明として上記の概念を理解するであろう。当業者は、これらは例示にすぎず、多くの等価物が可能であることを認識している。