(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105496
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】内燃機関のカーボン堆積物の洗浄方法及びその装置
(51)【国際特許分類】
F02B 77/04 20060101AFI20240730BHJP
F02B 77/08 20060101ALI20240730BHJP
C25B 1/044 20210101ALI20240730BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240730BHJP
【FI】
F02B77/04
F02B77/08 L
C25B1/044
C25B9/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024077158
(22)【出願日】2024-05-10
(62)【分割の表示】P 2022146324の分割
【原出願日】2022-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】521367592
【氏名又は名称】株式会社グッドワン
(74)【代理人】
【識別番号】100085648
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 幹人
(72)【発明者】
【氏名】近森 祐太
(57)【要約】 (修正有)
【課題】水に所定の電解質を溶解した電解液を電気分解して生成した酸水素ガスを、内燃機関に供給して燃焼させる内燃機関のカーボン堆積物の洗浄方法及びその装置において、強アルカリ性の電解液水蒸気が内燃機関に供給されることを阻止することを目的とする。
【解決手段】電気分解時に電解槽10から蒸発する強アルカリ性の電解液水蒸気を、酸水素ガスとともに移送することによって液化可能な所定の温度まで冷却し、電解液水蒸気を液化させて捕集器具50を介して捕集することによって、酸水素ガスから分離して除去し、酸水素ガスのみを内燃機関70へ供給する内燃機関のカーボン堆積物の洗浄方法及びその装置を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に所定の電解質を溶解した電解液を電気分解して生成した酸水素ガスとともに、
電気分解時に蒸発する強アルカリ性の電解液水蒸気を移送して液化可能な所定の温度まで冷却した後、
電解液水蒸気を液化させて捕集し、酸水素ガスから分離して除去することによって、
酸水素ガスの生成と電解液水蒸気の除去を同期して行い、
酸水素ガスのみを内燃機関へ供給して燃焼させることによって内燃機関のカーボン堆積物を洗浄することを特徴とする内燃機関のカーボン堆積物の洗浄方法。
【請求項2】
電解液水蒸気の内燃機関への供給を阻止し、強アルカリ性の電解液水蒸気によって、内燃機関内部のアルミニウム等のアルカリ腐食性の金属部品が腐食することを防止する請求項1記載の内燃機関のカーボン堆積物の洗浄方法。
【請求項3】
酸水素ガスと電解液水蒸気の移送を、電解液水蒸気を液化可能な所定の温度まで冷却可能な長さで行う請求項2記載の内燃機関のカーボン堆積物の洗浄方法。
【請求項4】
液化可能な所定の温度まで冷却した電解液水蒸気を、濾材に接触させて液化した状態で捕集して酸水素ガスから分離して除去する請求項3記載の内燃機関のカーボン堆積物の洗浄方法。
【請求項5】
酸水素ガスと電解液水蒸気の移送を所定領域内において蛇行させて行う請求項4記載の内燃機関のカーボン堆積物の洗浄方法。
【請求項6】
酸水素ガスと電解液水蒸気の移送をファンによって冷却しつつ行う請求項5記載の内燃機関のカーボン堆積物の洗浄方法。
【請求項7】
電解液水蒸気を35℃以下に冷却する請求項1,2,3,4,5又は6記載の内燃機関のカーボン堆積物の洗浄方法。
【請求項8】
水に所定の電解質を溶解した電解液を電気分解して生成した酸水素ガスを、内燃機関に供給して燃焼させる内燃機関のカーボン堆積物の洗浄装置において、
電解液を電気分解する電解槽と、
電気分解時に電解槽から蒸発する強アルカリ性の電解液水蒸気を、電解槽で生成した酸水素ガスとともに、移送することによって所定の温度まで冷却する移送管と、
移送管から酸水素ガスとともに供給された電解液水蒸気を液化した状態で捕集することによって、酸水素ガスから分離して除去する捕集器具と、
捕集器具から酸水素ガスのみを内燃機関へ供給する供給管とを所定の筐体内に収納してなることを特徴とする内燃機関のカーボン堆積物の洗浄装置。
【請求項9】
電解液水蒸気の内燃機関への供給を阻止することによって、強アルカリ性の電解液水蒸気によって、内燃機関内部のアルミニウム等のアルカリ腐食性の金属部品が腐食することを防止する請求項8記載の内燃機関のカーボン堆積物の洗浄装置。
【請求項10】
移送管において、電解液水蒸気を所定の温度まで冷却することによって、電解液水蒸気を液化させて電解液とし、或いは液化可能な所定の温度まで冷却する請求項9記載の内燃機関のカーボン堆積物の洗浄装置。
【請求項11】
捕集器具内部に、所定の温度まで冷却した電解液水蒸気が接触することによって液化する濾材を収納した請求項10記載の内燃機関のカーボン堆積物の洗浄装置。
【請求項12】
捕集器具内部に、液化した電解液水蒸気を貯留可能とした請求項11記載の内燃機関のカーボン堆積物の洗浄装置。
【請求項13】
電解槽から捕集器具までの移送管を所定領域内において蛇行させて配置することにより、電解液水蒸気を所定の温度まで冷却可能な移送管の長さを確保した請求項12記載の内燃機関のカーボン堆積物の洗浄装置。
【請求項14】
移送管と電解槽の間にファンを介在させ、ファンによって移送管を冷却可能とした請求項13記載の内燃機関のカーボン堆積物の洗浄装置。
【請求項15】
ファンによって電解槽と移送管を冷却可能とした請求項13記載の内燃機関のカーボン堆積物の洗浄装置。
【請求項16】
電解液水蒸気を35℃以下に冷却する請求項8,9,10,11,12,13,14又は15記載の内燃機関のカーボン堆積物の洗浄装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経年使用によって内燃機関に堆積し、様々な不具合の原因となる内燃機関のカーボン堆積物の洗浄方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関は、乗用車等の乗物用,トラックや貨物船等の輸送用,漁船やクレーン等の作業用等の各種用途の動力源として広く使用されている。内燃機関の燃料であるガソリンや軽油は、炭素と水素を主成分としており、完全に燃焼すれば二酸化炭素と水に分解されるものの、実際には全てが理想的に燃焼することはなく、又エンジンオイルの一部が燃焼室に入ることもあり、経年使用によって燃焼室内には燃えカスとしてのカーボン堆積物(カーボンデポジット)が付着することとなる。
【0003】
カーボン堆積物の存在は、燃料の供給不順,排気システムの劣化,エンジンオイルの劣化,エンジンの出力低下等々の様々な不具合の原因となるので、早めに除去することが望ましい。そのため、内燃機関に付着したカーボン堆積物の抑制手段として、燃料の改善,内燃機関の材料としてカーボンが付着しにくい材料の開発,分解掃除に際しての洗浄剤や燃料への添加剤等々種々の手段が提供されている。更に、直接的にカーボン堆積物を除去する手段として、水を電気分解することによって生成した酸水素ガスを内燃機関の燃焼室に供給して燃焼させることによって、カーボン堆積物を洗浄する手段が提供されている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】中華民国(台湾)実用新案公告M353996号公報
【特許文献2】実用新案登録第3183725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2に示す酸水素ガスは100%燃焼可能であり、燃焼効率を飛躍的に向上させてカーボン堆積物を燃焼させることが可能となるため、カーボン堆積物の洗浄・除去に顕著な効果を発揮する。しかしながら、水の電気分解に際しては、水の導電性を確保するために、電解質として水酸化カリウムや水酸化ナトリウムを水に溶解させた電解液を使用する必要がある。この電解液(水酸化カリウム水溶液や水酸化ナトリウム水溶液)は強アルカリ性であり、アルミニウムをはじめ錫,鉛,亜鉛等からなる金属部品に対して腐食性を有している。
【0006】
車両や船舶の内燃機関を洗浄するためには、800リットル/h~2000リットル/h程度の酸水素ガスを必要とし、そのためには200ボルト程度の電圧を印加し、4000ワット~6500ワット程度の電力,20アンペアから32.5アンペア程度の電流で電解液を電気分解する必要がある。電解液の電気分解は吸熱反応であり、必要量の酸水素ガスを生成するために印加する電圧によって電解液の温度は略80℃程度まで上昇し、電解液が蒸発をする。加えて、電解槽から内燃機関に供給する迄の移送距離が短いため、蒸発した電解液水蒸気の温度が下がらないまま生成された酸水素ガスとともに内燃機関に供給される怖れがある。
【0007】
酸水素ガスによってカーボン堆積物を洗浄する車両や船舶等の内燃機関のインテークマニホールド等の吸気側の部品は殆どがアルミニウム製であり、錫,鉛,亜鉛等からなる部品も存在する。そのため、強アルカリ性の電解液水蒸気や、電解液水蒸気が液化した電解液が内燃機関に供給されると、アルミニウムや錫,鉛,亜鉛等のアルカリ腐食性の金属部品を腐食させて、内燃機関そのものを損傷する怖れがあるため、これを阻止する必要がある。そのためには、酸水素ガスの生成装置とは別に、電解液水蒸気を冷却するための別体の冷却装置等の設備や電力などの付帯設備も必要となる。
【0008】
そこで、本発明は水の電気分解によって生成した酸水素ガスを使用して内燃機関のカーボン堆積物を洗浄するに際して、酸水素ガスの生成と同期して強アルカリ性の電解液水蒸気が内燃機関に供給されることを阻止し、強アルカリ性の電解液水蒸気によって、内燃機関内部のアルミニウムや錫,鉛,亜鉛等のアルカリ腐食性の金属部品が腐食するのを防止することを新たな課題として設定し、この新たな課題を解決するために、酸水素ガスの生成と電解液水蒸気の除去を1つの装置内で同期して行う内燃機関のカーボン堆積物の洗浄方法及びその装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記した新たな課題を解決するために、電気分解によって酸水素ガスを生成するための水酸化カリウム水溶液や水酸化ナトリウム水溶液等の電解液及び電気分解時に発生する電解液水蒸気について鋭意研究を行い、内燃機関への酸水素ガスの供給と電解液水蒸気の供給の阻止を同期して行うために、次の推論を立てた。
推論1:酸水素ガスの生成と同期して電解液水蒸気を除去するためには、酸水素ガスと電解液水蒸気を分離する必要があること。
推論2:酸水素ガスと電解液水蒸気を分離するためには、電解液水蒸気を液化することが必要であること。
推論3:所定量の酸水素ガスを生成するためには電解槽内の電解液の温度は一定以上の温度となり、電解液水蒸気もその温度を概ね維持しているため、液化するためには液化可能な温度まで電解液水蒸気を冷却する手段が必要であること。
推論4:酸水素ガスが通過可能で、液化した電解液水蒸気を捕集可能な除去手段を設置する必要があること。
【0010】
前記した推論1~推論4に基づいて、電解槽で酸水素ガスとともに発生する電解液水蒸気の液化及び冷却について種々の実験・検証を行った結果、次の知見を得た。
知見1:所定量の酸水素ガスを生成するための電解槽内の電解液の温度を測定したところ略80℃であり、この略80℃の電解液水蒸気を酸水素ガスとともに移送した際の温度低下は僅かであって、略75℃程度に留まっていた。この温度では液化せず、又この温度のままでは、酸水素ガスと分離して捕集することは困難であること。
知見2:電解液水蒸気の液化温度について実験・検証を行ったところ、電解液水蒸気のおかれている雰囲気に左右されるものの、概ね常温で液化し、少なくとも35℃以下の温度まで低下すれば殆どが液化し、或いは液化可能な状態となること。
知見3:酸水素ガスはガス体であるため、電解液水蒸気の冷却によっても性状に影響を受けないこと。
【0011】
前記した知見1~3に基づいて、推論1~推論4を充足するために、本発明者は電解槽から内燃機関迄の移送に着眼し、酸水素ガスの生成と電解液水蒸気の除去を1つの装置内で同期して行うために、移送時を利用して電解液水蒸気を冷却し、液化させ或いは液化可能な状態とするとの着想を得て本発明に想到した。
【0012】
本願発明の課題を解決するために、請求項1により、水に所定の電解質を溶解した電解液を電気分解して生成した酸水素ガスとともに、電気分解時に蒸発する強アルカリ性の電解液水蒸気を移送して液化可能な所定の温度まで冷却した後、電解液水蒸気を液化させて捕集し、酸水素ガスから分離して除去することによって、酸水素ガスの生成と電解液水蒸気の除去を同期して行い、酸水素ガスのみを内燃機関へ供給して燃焼させることによって内燃機関のカーボン堆積物を洗浄する内燃機関のカーボン堆積物の洗浄方法を基本として提供する。
【0013】
そして、請求項2により、電解液水蒸気の内燃機関への供給を阻止し、強アルカリ性の電解液水蒸気によって、内燃機関内部のアルミニウム等のアルカリ腐食性の金属部品が腐食することを防止する方法を、請求項3により、酸水素ガスと電解液水蒸気の移送を、電解液水蒸気を液化可能な所定の温度まで冷却可能な長さで行う方法を、請求項4により、液化可能な所定の温度まで冷却した電解液水蒸気を、濾材に接触させて液化した状態で捕集して酸水素ガスから分離して除去する方法を提供する。
【0014】
また、請求項5により、酸水素ガスと電解液水蒸気の移送を所定領域内において蛇行させて行う方法を、請求項6により、酸水素ガスと電解液水蒸気の移送をファンによって冷却しつつ行う方法を、請求項7により、電解液水蒸気を35℃以下に冷却する方法を提供する。
【0015】
更に、請求項8により、水に所定の電解質を溶解した電解液を電気分解して生成した酸水素ガスを、内燃機関に供給して燃焼させる内燃機関のカーボン堆積物の洗浄装置において、電解液を電気分解する電解槽と、電気分解時に電解槽から蒸発する強アルカリ性の電解液水蒸気を、電解槽で生成した酸水素ガスとともに、移送することによって所定の温度まで冷却する移送管と、移送管から酸水素ガスとともに供給された電解液水蒸気を液化した状態で捕集することによって、酸水素ガスから分離して除去する捕集器具と、捕集器具から酸水素ガスのみを内燃機関へ供給する供給管とを所定の筐体内に収納してなる内燃機関のカーボン堆積物の洗浄装置を提供する。
【0016】
そして、請求項9により、電解液水蒸気の内燃機関への供給を阻止することによって、強アルカリ性の電解液水蒸気によって、内燃機関内部のアルミニウム等のアルカリ腐食性の金属部品が腐食することを防止する構成を、請求項10により、移送管において、電解液水蒸気を所定の温度まで冷却することによって、電解液水蒸気を液化させて電解液とし、或いは液化可能な所定の温度まで冷却する構成を、請求項11より、捕集器具内部に、所定の温度まで冷却した電解液水蒸気が接触することによって液化する濾材を収納した構成を提供する。
【0017】
また、請求項12により、捕集器具内部に、液化した電解液水蒸気を貯留可能とした構成を、請求項13により、電解槽から捕集器具までの移送管を所定領域内において蛇行させて配置することにより、電解液水蒸気を所定の温度まで冷却可能な移送管の長さを確保した構成を、請求項14により、移送管と電解槽の間にファンを介在させ、ファンによって移送管を冷却可能とした構成を、請求項15により、ファンによって電解槽と移送管を冷却可能とした構成を、請求項16により、電解液水蒸気を35℃以下に冷却する構成を提供する。
【発明の効果】
【0018】
上記構成の本発明によれば、酸水素ガスを生成するために、水に所定の電解質を溶解した電解液を電解槽で電気分解する際に、電解槽から蒸発する強アルカリ性の電解液水蒸気を、酸水素ガスとともに移送して液化可能な所定の温度まで冷却することによって、電解液水蒸気を液化させて捕集し、酸水素ガスから分離して除去することができる。特に電解液水蒸気の移送距離の延長とファンによる冷却を併用することによって、効果的に冷却することができる。また、移送距離を延長するための移送管を所定領域内において蛇行させて配置することにより、設置のための領域を最小とすることができる。
【0019】
よって、酸水素ガスの生成と電解液水蒸気の除去を同期して1つの装置内で行うことができる。その結果、酸水素ガスのみを内燃機関に供給して燃焼させてカーボン堆積物を洗浄することができるとともに、強アルカリ性の電解液水蒸気が内燃機関に供給されることを阻止し、強アルカリ性の電解液水蒸気によって、内燃機関内部のアルミニウムや錫,鉛,亜鉛等からなるアルカリ腐食性の金属部品が腐食するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】内燃機関のカーボン堆積物の洗浄装置の基本構成図。
【
図2】内燃機関のカーボン堆積物の洗浄方法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、経年使用によって内燃機関の燃焼室内に付着して堆積した燃えカスとしてのカーボン堆積物(カーボンデポジット)を、水に水酸化カリウムや水酸化ナトリウム等の所定の電解質を溶解させた電解液を電解槽で電気分解して酸水素ガスを生成し、内燃機関に供給して洗浄するに際して、強アルカリ性の電解液水蒸気が内燃機関に供給されることを阻止し、強アルカリ性の電解液水蒸気によって、内燃機関内部のアルミニウムや錫,鉛,亜鉛等からなるアルカリ腐食性の金属部品が腐食するのを防止することを課題としている。
【0022】
以下、図面に基づいて上記した課題を解決するための内燃機関のカーボン堆積物の洗浄方法及びその装置の実施形態を説明する。
図1は内燃機関のカーボン堆積物の洗浄装置1の基本構成図である。図において10は所定容量の電解槽であり、電解液15を所定容量だけ貯留するとともに、電解液15に所定の電流を流すための陰極11と陽極13を装備している。この陰極11と陽極13に電解槽10外の所定の電源17から所定の電圧を印加することによって電解液15の電気分解を行う。電解液15としては、水(純水)に所定の電解質として水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを所定濃度で溶解させた水酸化カリウム水溶液又は水酸化ナトリウム水溶液を使用する。本実施形態では水酸化カリウム水溶液を使用した。
【0023】
所定濃度の水酸化カリウム水溶液からなる電解液15を電気分解することによって、陰極11から水素が、陽極13から酸素が発生し、酸水素ガス25(
図2参照)が生成される。この電気分解は吸熱反応であり、必要量の酸水素ガス25を生成するために印加する電圧によって電解液15の温度が上昇し、電解液15が電解液水蒸気20(
図2参照)となって蒸発をはじめる。
【0024】
30は移送管であって、電解槽10で生成された酸水素ガス25及び蒸発した電解液水蒸気20を一体として、捕集器具50に移送する。捕集器具50には酸水素ガス25を内燃機関70に供給するための供給管60が装備されている。よって、内燃機関70と電解槽10との間において内燃機関70の直前に捕集器具50を装備している。
【0025】
酸水素ガス25及び電解液水蒸気20を、電解槽10から捕集器具50まで移送する移送管30を蛇行させて配置することにより、電解液水蒸気20を所定の温度まで、具体的には捕集器具50への供給前において略35℃以下の温度となるように冷却可能な長さを確保する配置としている。これにより、電解液水蒸気20は所定の温度まで冷却した後、液化された状態で、及び液化可能な状態で捕集器具50に供給される。なお、移送管30は、電解液水蒸気20を所定の温度まで冷却可能な長さを確保することが肝要であり、図示例のように折り返しを繰り返した規則的な蛇行でもよいし、又不規則な蛇行や螺旋状等としてもよく、配置の形状に特に限定はない。
【0026】
捕集器具50は移送管30から、酸水素ガス25,電解液水蒸気20が冷却によって液化した電解液15,液化されなかった電解液水蒸気20aの供給を受けて、フィルターとして次の3つの作用を果たす。
作用1:液化された電解液15を分離して内部に貯留すること。
作用2:移送管30での移送時に液化されずに残存している電解液水蒸気20aを濾材55で液化するとともに、分離して内部に貯留すること。
作用3:酸水素ガス25を分離して通過させて供給管60に供給すること。
【0027】
捕集器具50は、
図3の模式図に示すとおり、所定容量の容器53に濾材55を充填するとともに、移送管30を容器53の上部から濾材55を貫通して容器53の底部にまで延長して挿通し、供給管60を移送管30と対面させて容器53の上部に挿通している。濾材55は、移送管30での移送時に液化されずに残存している電解液水蒸気20aの通過時に衝突させて液化して容器53の底部に滴下させて捕集するとともに(作用2)、酸水素ガス25を捕集することなく通過させる(作用3)。具体的には、濾材55として、石材,金網,樹脂等の濾材として公知の素材から適宜選択し、粒状,粉状,ハニカム状等の素材に適した適宜の形状として容器53に充填している。そのため、前記した作用2,3を実現することができれば、素材,形状や配置状況に限定はない。また、容器53の底部には貯留した電解液15を排出するためのバルブを有するドレン管57が設置されている。
【0028】
移送管30と電解槽10の間にはファン40が設置されており、このファン40によって、電解槽10と移送管30を冷却する。よって、電解槽10から捕集器具50までの電解液水蒸気20は、移送管30による移送距離によって冷却されるとともに、ファン40によっても冷却されながら移送されることとなる。なお、ファン40による冷却は、電解槽10と移送管30の双方に向けて送風することはもとより、電解槽10に向けて送風するファン40の背面に移送管30を位置させることによる負圧によって冷却するようにしてもよい。これらの電解槽10,陰極11,陽極13,電源17,移送管30,捕集器具50,供給管60,ファン40その他の必要な制御部材等を所定の筐体5に収納することによって内燃機関のカーボン堆積物の洗浄装置1を構成する。なお、電解槽10の容量や筐体5のサイズは、生成する酸水素ガス25の容量に応じて適宜選択すればよい。
【0029】
次に上記構成の内燃機関のカーボン堆積物の洗浄装置1を使用した内燃機関70のカーボン堆積物の洗浄方法について
図2に基づいて説明する。
図2に示すように、所定の電源17から電解槽10に貯留した水酸化カリウム水溶液からなる電解液15に浸漬した陰極11及び陽極13に所定の電圧を印加することによって電気分解され、酸水素ガス25が生成される。この電気分解は吸熱反応であるため、電解液15の温度が上昇し、強アルカリ性の電解液15が蒸発して電解液水蒸気20となり、生成された酸水素ガス25とともに、移送管30によって移送されることとなる。電解槽10から蒸発する電解液水蒸気20の温度は実施例では略80℃であった。
【0030】
本発明では電解槽10から蒸発した電解液水蒸気20を移送途中において、液化するまで冷却し、又は液化可能な所定の温度まで、具体的には捕集器具50によって液化して捕集可能な略35℃以下まで冷却することを特徴としている。冷却手段としては、移送管30を設置する筐体5の所定領域内において、移送管30を蛇行させて配置することによって(
図1参照)、移送距離を延長することにより、電解液水蒸気20の移送距離を電解液水蒸気20を所定の温度まで冷却可能な長さとしている。実施例では、筐体5内において、最短距離で15cm程度の距離に隣接して設置した電解槽10と捕集器具50の間に、所定径のチューブからなる3m~4mの長さの移送管30を蛇行させて設置した。
【0031】
併せて、移送管30と電解槽10の間に設置したファン40によって移送管30を冷却する。移送管30を所定領域内において蛇行させて配置することにより、移送管30の略全域がファン40と対面するように配置することが可能となる。ファン40による冷却は、矢印Aに示すようにファンの背面からの負圧による冷却であっても、或いは矢印Bに示すように正面からの送風による冷却であってもよい。ファン40は矢印Cに示すように電解槽10に向けても送風し、電気分解時の電解槽10を冷却している。そのため、ファン40は、電解槽10及び移送管30の双方に向けて送風可能なように複数設置してもよく、或いは電解槽10に向けて送風し、移送管30はファン40の背面における負圧による冷却としてもよい。
【0032】
電解液水蒸気20は移送管30による移送時に、移送距離による冷却31と移送時のファンによる冷却33の双方の相乗効果によって、電解液水蒸気の液化35が生じて電解液15に戻り、或いは液化可能な温度の電解液水蒸気20aとなって捕集器具50に供給される。なお、酸水素ガス25はガスであるため、移送距離に関係なく、そのまま捕集器具50内に供給される。実施例では、電解槽10からの蒸発時に略80℃であった電解液水蒸気20の殆どが捕集器具50に供給前には液化して電解液15に戻っていた。僅かに液化されていない電解液水蒸気20aも存在したが、その温度は略35度以下であった。
【0033】
移送管30の先端は、捕集器具50内の濾材55を貫通して、容器53の底部にまで延長されているため、酸水素ガス25,電解液水蒸気20が液化した電解液15及び液化可能な温度まで冷却された電解液水蒸気20aは、矢印Dに示すように、捕集器具50の容器53の底部に供給される(
図3参照)。そして、電解液水蒸気20が液化した電解液15は捕集器具50の底部に貯留され、酸水素ガス25及び液化可能な温度まで冷却された電解液水蒸気20aは、矢印Eに示すように、捕集器具50の底部から上方に上昇する。このとき電解液水蒸気20aは、充填した濾材55に衝突することによって液化し、矢印Fに示すように、底部に滴下して貯留される。
【0034】
一方、酸水素ガス25は、矢印Gに示すように、濾材55の間を通過して上昇し、移送管30と対面させて容器53の上部に挿通した供給管60に進入し、洗浄対象としての内燃機関70の燃焼室に供給されて燃焼することにより、カーボン堆積物を燃焼させて洗浄する。よって、捕集器具50によって、電解液の除去51及び電解液水蒸気の液化59を行うことができる。
【0035】
実施例1~4として、下記表1に示す条件で800リットル/h~2000リットル/hの酸水素ガス25を生成したところ、いずれも電解液水蒸気20aや電解液15が供給管60に供給されることはなく、内燃機関70への供給を阻止して、酸水素ガス25のみを内燃機関70に供給することができた。
【0036】
【産業上の利用可能性】
【0037】
上記構成の本発明によれば、酸水素ガスを生成するために、水に所定の電解質を溶解した電解液を電解槽で電気分解する際に、電解槽から蒸発する強アルカリ性の電解液水蒸気を、酸水素ガスとともに移送して液化可能な所定の温度まで冷却することによって、電解液水蒸気を液化させて捕集し、酸水素ガスから分離して除去することができる。特に電解液水蒸気の移送距離の延長とファンによる冷却を併用することによって、効果的に冷却することができる。また、移送距離を延長するための移送管を所定領域内において蛇行させて配置することにより、設置のための領域を最小とすることができる。
【0038】
よって、酸水素ガスの生成と電解液水蒸気の除去を同期して1つの装置内で行うことができる。その結果、酸水素ガスのみを内燃機関に供給して燃焼させてカーボン堆積物を洗浄することができるとともに、強アルカリ性の電解液水蒸気が内燃機関に供給されることを阻止し、強アルカリ性の電解液水蒸気によって、内燃機関内部のアルミニウムや錫,鉛,亜鉛等からなるアルカリ腐食性の金属部品が腐食するのを防止することができる。
【符号の説明】
【0039】
1…内燃機関のカーボン堆積物の洗浄装置
5…筐体
10…電解槽
11…陰極
13…陽極
17…電源
15…電解液
20…電解液水蒸気
20a…(液化されなかった)電解液水蒸気
25…酸水素ガス
30…移送管
31…移送距離による冷却
33…移送時のファンによる冷却
35…電解液水蒸気の液化
40…ファン
50…捕集器具
51…電解液の除去
53…容器
55…濾材
57…ドレン管
59…電解液水蒸気の液化
60…供給管
70…内燃機関