(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010550
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】PMセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20240117BHJP
G01N 15/06 20240101ALI20240117BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
G01N5/02 A
G01N15/06 D
G01N1/00 101X
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111943
(22)【出願日】2022-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 格
(72)【発明者】
【氏名】酒井 賢一
(72)【発明者】
【氏名】片山 雅之
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA01
2G052AA04
2G052AA40
2G052AB01
2G052AB11
2G052AC02
2G052AC12
2G052AD02
2G052AD22
2G052AD55
2G052BA05
2G052BA21
2G052EB11
2G052ED03
2G052ED09
2G052FC04
2G052FC09
2G052FC10
2G052FC11
2G052GA09
2G052GA23
2G052JA05
2G052JA07
2G052JA08
2G052JA20
2G052JA23
(57)【要約】
【課題】従来よりも優れた特性を有するPMセンサを提供すること。
【解決手段】PMセンサ(1)は、PMの付着により振動特性が変化する振動子(3)と、前記振動子に付着したPMを前記振動子から除去する除去機構(5)と、を備えている。前記振動子にPMが付着することで、前記振動子の振動特性が変化する。この振動特性の変化により、前記振動子に対するPMの付着や付着量を検出することが可能となる。前記振動子に付着したPMを前記除去機構により前記振動子から除去することで、前記振動子を、PMが除去された状態に初期化することができる。これにより、前記PMセンサは、繰り返し使用することが可能となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PMセンサ(1)であって、
PMの付着により振動特性が変化する振動子(3)と、
前記振動子に付着したPMを前記振動子から除去する除去機構(5)と、
を備えたPMセンサ。
【請求項2】
前記除去機構は、プラズマまたはオゾンを生成して、前記振動子に付着したPMを前記振動子から除去する、
請求項1に記載のPMセンサ。
【請求項3】
前記除去機構は、185nm以下の波長の紫外線を放射する発光ダイオード光源(51)を備えた、
請求項2に記載のPMセンサ。
【請求項4】
前記除去機構は、誘電体バリア放電を発生する放電発生部(52)を備えた、
請求項2に記載のPMセンサ。
【請求項5】
前記除去機構は、前記振動子と一体に形成された、
請求項2または4に記載のPMセンサ。
【請求項6】
前記放電発生部は、ALD膜で構成された高耐圧誘電体層(523)を備えた、
請求項4に記載のPMセンサ。
【請求項7】
前記除去機構は、前記振動子上に形成された、付着力を低減する膜からなる被覆層(319)を備えた、
請求項1に記載のPMセンサ。
【請求項8】
前記振動子は、PMが付着する検出面(30)を有し、
前記検出面は、PMを含む流体(F)の流路(2)に沿って設けられた、
請求項1に記載のPMセンサ。
【請求項9】
前記振動子は、PMが付着する検出面(30)を有し、
前記検出面は、鉛直方向に沿って設けられた、
請求項1に記載のPMセンサ。
【請求項10】
前記除去機構は、前記振動子を励振する駆動電源(41)を備えた、
請求項1に記載のPMセンサ。
【請求項11】
前記駆動電源は、PM検出用の第一周波数の第一駆動電力と、PM除去用の第二周波数の第二駆動電力とを、選択的に出力する、
請求項10に記載のPMセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PMセンサに関するものである。なお、PMは、Particulate Matterの略称である。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のセンサとして、種々のものが知られている。例えば、特許文献1に記載のPMセンサは、板状の絶縁体であるセンサ素子と、かかるセンサ素子の全体を覆うカバーとを含む。センサ素子の表面、すなわち、PMが付着する面に、一対の電極を形成する。カバーには、多数の孔部を形成する。PMは、孔部からカバーの内側に流入し、自身が持つ粘着性によってセンサ素子に付着、堆積していく。PMは導電性を有するので、センサ素子上に堆積したPMによって電極間が接続状態になると、電極間が導通状態となる。電極間には、ECU(すなわちElectronic Control Unit)の指令に基づき、直流電源から電圧を印加する。電極間が導通状態となったときに電圧を印加すると、電極間に電流が流れる。その電流値を電流計によって計測し、センサ出力としてECUへ出力する。
【0003】
また、特許文献1に記載のPMセンサは、ヒータおよびヒータ制御部を備える。ヒータは、例えば、センサ素子の裏面、すなわち、PMが付着する面とは反対の面に形成した、電気抵抗を有する金属線である。ヒータ制御部は、ECUからの指令に基づき、ヒータに電流を流して加熱し、センサ素子の表面に堆積したPMを燃焼して除去する。これによってPMセンサを再生して、PMが付着していない状態である初期状態に戻す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者は、鋭意研究により、この種のセンサにおいて、例えば、センサ体格、検出感度、検出精度、PM除去能力、等の点で、さらなる改良を追求している。本発明は、上記に例示した事情等に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、例えば、従来よりも優れた特性を有するPMセンサを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載のPMセンサ(1)は、
PMの付着により振動特性が変化する振動子(3)と、
前記振動子に付着したPMを前記振動子から除去する除去機構(5)と、
を備えている。
【0007】
なお、出願書類中の各欄において、各要素に括弧付きの参照符号が付されている場合がある。この場合、参照符号は、同要素と後述する実施形態に記載の具体的構成との対応関係の単なる一例を示すものである。よって、本発明は、参照符号の記載によって、何ら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るPMセンサの概略的な構成を示す図である。
【
図2】本発明の第二実施形態に係るPMセンサの概略的な構成を示す図である。
【
図3】本発明の第三実施形態に係るPMセンサの概略的な構成を示す図である。
【
図4】本発明の第四実施形態に係るPMセンサの概略的な構成を示す図である。
【
図5】
図1等に示された振動子の概略的な構成の一例を示す側断面図である。
【
図6】
図1等に示された振動子の概略的な構成の他の一例を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、一つの実施形態に対して適用可能な各種の変形例については、当該実施形態に関する一連の説明の途中に挿入されると、当該実施形態の理解が妨げられるおそれがある。このため、変形例については、当該実施形態に関する一連の説明の途中には挿入せず、その後にまとめて説明する。また、各図面の記載や、これに対応して以下に説明する装置構成やその機能あるいは動作の記載は、本発明の内容を簡潔に説明するために簡略化されたものであって、本発明の内容を何ら限定するものではない。このため、各図に示された例示的な構成と、実際に製造販売される具体的な構成とは、必ずしも一致するとは限らないということは、云うまでもない。すなわち、出願人が本願の出願経過により明示的に限定しない限りにおいて、本発明は、各図面の記載や、これに対応して以下に説明する装置構成やその機能あるいは動作の記載によって限定的に解釈されてはならないことは、云うまでもない。
【0010】
(第一実施形態:構成)
図1を参照しつつ、第一実施形態に係るPMセンサ1について説明する。本実施形態に係るPMセンサ1は、空調空気である流体Fの流路2に設けられていて、流体F内のPM濃度に対応する電気信号(例えば電圧)を出力するように構成されている。具体的には、PMセンサ1は、振動子3と、制御部4と、除去機構5とを備えている。
【0011】
振動子3は、PMの付着により振動特性すなわち共振周波数が変化するように構成されている。具体的には、振動子3は、薄板状あるいは薄膜状の圧電素子としての構成を有している。振動子3は、例えば、片持ち梁状、両持ち梁状、あるいはダイアフラム状に形成されている。本実施形態においては、振動子3は、いわゆるMEMSトランスデューサとしての構成を有している。MEMSは、Micro Electro Mechanical Systemsの略称である。振動子3は、PMが付着する検出面30を有している。検出面30は、振動子3における流路2に面する表面であって、PMを含む流体Fの流路2に沿って設けられている。より詳細には、検出面30は、流体Fに含まれるPMが付着可能なように、流体Fの通流方向(すなわち図中二点鎖線の矢印で示されている方向)に対して平行あるいは若干傾斜して設けられている。
【0012】
制御部4は、PMセンサ1の動作を制御するように設けられている。具体的には、制御部4は、駆動電源41と、検出回路42と、PM除去用電源43とを備えている。駆動電源41は、振動子3を励振するための駆動電力を振動子3に印加するように、振動子3に電気的に接続されている。検出回路42は、検出面30に対するPMの付着による振動子3の振動特性すなわち共振周波数の変化を検出するように、振動子3に電気的に接続されている。PM除去用電源43は、除去機構5を駆動するためのPM除去用電力を除去機構5に印加するように、除去機構5に電気的に接続されている。
【0013】
除去機構5は、振動子3すなわち検出面30に付着したPMを、振動子3から除去するように構成されている。本実施形態においては、除去機構5は、オゾン発生器51を備えている。オゾン発生器51は、例えば、誘電体バリア放電等の放電現象によりオゾンを発生可能な構成を有している。あるいは、オゾン発生器51は、例えば、短波長(すなわち例えば185nm以下の波長)の紫外線を放射する発光ダイオード光源を備えている。このように、本実施形態に係る除去機構5は、オゾン発生器51によりオゾンを生成して、生成したオゾンにより、振動子3すなわち検出面30に付着したPMを振動子3から除去するように構成されている。
【0014】
(第一実施形態:効果)
以下、本実施形態の構成による動作概要を、同構成により奏される効果とともに、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
上記の通りの構成を有するPMセンサ1において、振動子3は、駆動電源41により励振される。検出回路42は、振動子3の振動状態を随時検出する。ここで、振動子3にPMが付着することで、振動子3の振動特性すなわち共振周波数が変化する。この振動特性の変化により、振動子3に対するPMの付着の有無や付着量を検出することが可能となる。また、振動子3に付着したPMを除去機構5により振動子3から除去することで、振動子3を、PMが除去された状態に初期化することができる。これにより、PMセンサ1は、繰り返し使用することが可能となる。
【0016】
この種のPMセンサ1に要求される特性として、例えば、センサ体格、検出感度、検出精度、PM除去能力、等が挙げられる。この点、本実施形態においては、PMセンサ1は、MEMSセンサとしての構成を有していて、振動子3へのPMの付着による質量変化を振動特性の変化として検出する。よって、かかる構成によれば、センサの小型化と検出感度の向上とを同時に実現することが可能となる。特に、MEMS構造の採用により、空調空気中の微量のPM0.1を高感度で検出することが可能となる。また、PMセンサ1は、振動子3に付着したPMを、除去機構5で生成したオゾンにより除去する。具体的には、PMが付着した振動子3すなわち検出面30に、除去機構5からオゾンを供給することで、活性酸素による昇華すなわち燃焼により、振動子3からPMが良好に除去される。特に、大きな付着力(すなわち具体的にはファンデアワールス力等)のために従来技術のようなヒータ加熱では除去が困難であった、PM0.1に相当する極微小径のカーボン粒子が、良好に除去可能となる。したがって、かかる構成によれば、PMセンサ1の初期化を安定的に行うことができ、以て、PMセンサ1における検出精度を従来よりも向上させることが可能となる。
【0017】
(第二実施形態)
以下、第二実施形態について、
図2を参照しつつ説明する。なお、以下の第二実施形態の説明においては、主として、上記第一実施形態と異なる部分について説明する。また、第一実施形態と第二実施形態とにおいて、互いに同一または均等である部分には、同一符号が付されている。したがって、以下の第二実施形態の説明において、第一実施形態と同一の符号を有する構成要素に関しては、技術的矛盾または特段の追加説明なき限り、上記第一実施形態における説明が適宜援用され得る。後述する第三実施形態等についても同様である。
【0018】
本実施形態においては、除去機構5は、プラズマを生成して、振動子3に付着したPMを振動子3から除去するように構成されている。具体的には、除去機構5は、誘電体バリア放電を発生する放電発生部52を備えている。かかる構成によれば、上記第一実施形態と同様の効果が奏され得る。具体的には、本実施形態に係るPMセンサ1は、振動子3に付着したPMを、除去機構5で生成したプラズマにより除去する。具体的には、PMが付着した振動子3に、除去機構5からプラズマを供給することで、活性酸素による昇華すなわち燃焼により、振動子3からPMが良好に除去される。特に、PM0.1に相当する極微小径のカーボン粒子が、良好に除去可能となる。したがって、かかる構成によれば、PMセンサ1の初期化を安定的に行うことができ、以て、PMセンサ1における検出精度を従来よりも向上させることが可能となる。
【0019】
(第三実施形態)
以下、第三実施形態について、
図3を参照しつつ説明する。本実施形態においては、除去機構5は、検出面30を流体Fの流路2に沿って設けることによって実現されている。具体的には、検出面30は、一旦付着したPMが流体Fの流速により除去され得るように、流体Fの通流方向と略平行に設けられている。かかる構成においては、例えば、一時的に、通常の流速よりも高いPM除去用の流速で流体Fを通流させることで、振動子3すなわち検出面30からPMを除去することが可能である。なお、本実施形態は、上記の第一実施形態や第二実施形態等の他の実施形態と組み合わせて適用することが可能である。すなわち、例えば、流体Fの流速による除去と、プラズマまたはオゾンによる除去とを組み合わせることで、振動子3からのPMの除去が、より確実に行われ得る。
【0020】
(第四実施形態)
以下、第四実施形態について、
図4を参照しつつ説明する。本実施形態においては、除去機構5は、検出面30を鉛直方向に沿って設けることによって実現されている。かかる構成によれば、検出面30に付着したPMは、重力の作用により自重で検出面30から落下することで、検出面30すなわち振動子3から良好に除去され得る。なお、本実施形態は、上記の第一実施形態~第三実施形態等の他の実施形態と組み合わせて適用することが可能である。すなわち、例えば、PMの自重による除去と、流体Fの流速による除去とを組み合わせることで、検出面30からのPMの除去が、より確実に行われ得る。また、例えば、PMの自重による除去と、プラズマまたはオゾンによる除去とを組み合わせることで、振動子3からのPMの除去が、より確実に行われ得る。また、例えば、PMの自重による除去と、流体Fの流速による除去と、プラズマまたはオゾンによる除去とを組み合わせることで、振動子3からのPMの除去が、より確実に行われ得る。
【0021】
(第五実施形態)
以下、第五実施形態について、
図1~
図4を参照しつつ説明する。本実施形態においては、除去機構5は、振動子3すなわち検出面30に付着したPMを、振動子3の強制的な励振により除去するように構成されている。具体的には、本実施形態においては、除去機構5は、振動子3を励振する駆動電源41を備えている。駆動電源41は、PM検出用の第一周波数の第一駆動電力と、PM除去用の第二周波数の第二駆動電力とを、選択的に出力するようになっている。第一周波数は、PMが付着していない状態における振動子3の共振周波数に相当する周波数である。第二周波数は、所定量のPMが付着した状態における振動子3の共振周波数に相当する周波数である。かかる構成によれば、振動子3の振動エネルギーを利用することで、振動子3からのPMの除去が、より確実に行われ得る。また、MEMS共振を利用することで、PMの除去を低エネルギーで行うことが可能となる。なお、本実施形態は、上記の第一実施形態~第四実施形態等の他の実施形態と組み合わせて適用することが可能である。すなわち、例えば、振動子3の強制的な励振による除去と、流体Fの流速による除去とを組み合わせることで、振動子3からのPMの除去が、より確実に行われ得る。また、例えば、振動子3の強制的な励振による除去と、PMの自重による除去とを組み合わせることで、振動子3からのPMの除去が、より確実に行われ得る。また、例えば、振動子3の強制的な励振による除去と、プラズマまたはオゾンによる除去とを組み合わせることで、振動子3からのPMの除去が、より確実に行われ得る。
【0022】
(第六実施形態)
以下、第六実施形態について、
図1~
図4を参照しつつ説明する。本実施形態においては、除去機構5は、検出面30を、付着力を低減する膜の表面とすることによって実現されている。かかる膜としては、例えば、SAM膜やグラフェン膜等の撥水膜が好適に用いられ得る。SAM膜は、自己組織化単分子膜の略称である。また、検出面30を、ナノ粒子(例えばシリカ粒子等)を担持した微細な凹凸構造とすることで、撥水表面が実現され得る。本実施形態に係る構成によれば、ファンデアワールス力や空気中の水分に起因する液架橋力による付着力が、良好に低減される。また、グラフェン膜等の二次元多層薄膜を用いることで、PMを膜ごと脱離して除去することができる。したがって、かかる構成によれば、検出面30すなわち振動子3からのPMの除去が、より確実に行われ得る。なお、本実施形態は、上記の第一実施形態~第五実施形態等の他の実施形態と組み合わせて適用することが可能である。
【0023】
(第一実施例)
以下、MEMS構造を有する振動子3の一実施例すなわち具体的な一構成例について、
図5を参照しつつ説明する。
図5に示された振動子3は、上記の第一実施形態~第六実施形態において用いることが可能である。なお、
図5は、振動子3におけるMEMS構造の一例を簡略に説明するために模式化した図であって、具体的な寸法関係等の細部については、実際の製品とは必ずしも一致しない。また、説明の便宜上、
図5において、図示の通りに右手系XYZ座標系を設定する。これらは
図6についても同様である。
【0024】
本実施例においては、振動子3は、図中Z軸方向に各層を積層したSOI構造を有している。SOIは、Silicon on Insulatorの略称である。具体的には、振動子3は、図中Z軸方向に厚さ方向を有する振動板311を備えている。振動板311は、いわゆるSOIウェハにおける機能層すなわちSOI層であるp型シリコン層を流用する形で設けられている。また、振動板311は、圧電素子における接地側電極を兼用するように、導電性付与のためのイオンドープがなされている。
【0025】
振動板311は、振動部311aと非振動部311bとを有している。振動部311aは、厚さ方向(すなわち図中Z軸方向)と直交する面内方向(すなわち図中XY平面と平行な方向)における中央部が厚さ方向に沿って移動する態様で振動するダイアフラムとしての構成を有している。非振動部311bは、振動板311における振動部311aの外縁を囲む、振動部311aの周囲の部分であって、支持部312により固定的に支持されている。支持部312は、シリコン製の支持基板であって、厚さ方向に貫通する空洞部312aを有している。空洞部312aは、面内方向について振動部311aに対応する位置に設けられている。空洞部312aすなわち振動部311aは、面内方向における形状が、円形、楕円形、または多角形状に形成されている。支持部312は、埋め込み酸化膜層である接合層313を介して、振動板311と接合されている。このように、振動部311aは、振動板311における、支持部312および接合層313と接合されていない、振動可能な部分であって、支持部312および接合層313によって撓み変形可能に支持されている。一方、非振動部311bは、振動板311における、支持部312および接合層313と接合された部分である。振動板311における、振動部311aと非振動部311bとの境界部は、撓み振動における固定端を構成するようになっている。
【0026】
振動板311の上面、すなわち、接合層313と接合された下面とは反対側の表面には、圧電層314が接合されている。圧電層314は、ScAlN等の圧電材料により、図中Z軸方向を厚さ方向とする層状あるいは膜状に形成されている。圧電層314は、非振動部311bから振動部311aにわたって、面内方向に沿って設けられている。具体的には、圧電層314は、図中X軸負方向に延設された舌片状に形成されている。
【0027】
圧電層314の上面、すなわち、振動板311と接合された下面とは反対側の表面には、駆動電極層315が接合されている。駆動電極層315は、導電性薄膜(例えば金属薄膜)により形成されていて、面内方向に沿って設けられている。具体的には、駆動電極層315は、図中X軸負方向に延設された舌片状に形成されている。このように、圧電層314を振動板311と駆動電極層315との間に挟持した接合体によって、圧電素子が構成されている。駆動電極層315の面内方向における一端部(すなわち図中X軸正方向側の端部)であって、非振動部311bに対応する部分は、絶縁層316によって被覆されている。絶縁層316は、接合層313と同様の酸化膜により形成されている。絶縁層316には、厚さ方向に貫通する貫通孔316aが設けられている。貫通孔316aの内側には、導電性薄膜(例えば金属薄膜)からなる接点部317が配置されている。接点部317は、駆動電極層315と給電部318とを電気的に接続するように設けられている。導電性薄膜(例えば金属薄膜)からなる給電部318は、駆動電極層315に給電するための配線部の末端部であって、絶縁層316上に形成されている。
【0028】
振動子3上には、被覆層319が形成されている。検出面30を構成する被覆層319は、振動子3における最表層すなわち図中最もZ軸正方向側に配置されている。すなわち、被覆層319は、振動板311、圧電層314、駆動電極層315、絶縁層316、および給電部318を覆う、保護層あるいは保護膜として設けられている。具体的には、被覆層319は、例えば、レジスト等の合成樹脂材料や、窒化膜等の緻密な無機薄膜によって形成され得る。ここで、被覆層319は、第六実施形態にて説明したような、PMの付着力を低減する膜として設けられ得る。すなわち、被覆層319は、例えば、SAM膜やグラフェン膜等の撥水膜により形成され得る。
【0029】
(第二実施例)
以下、MEMS構造を有する振動子3の他の一実施例について、
図6を参照しつつ説明する。本実施例は、振動子3と、除去機構5を構成する放電発生部52とを、MEMS素子として一体に形成した構成例である。なお、以下の第二実施例の説明においては、主として、上記第一実施例と異なる部分について説明する。また、第一実施例と第二実施例とにおいて、互いに同一または均等である部分には、同一符号が付されている。したがって、以下の第二実施例の説明において、第一実施例と同一の符号を有する構成要素に関しては、技術的矛盾または特段の追加説明なき限り、上記第一実施例における説明が適宜援用され得る。
【0030】
本実施例においては、圧電層314は、振動部311aの全体にわたって設けられているとともに、振動部311aよりも大きな面内形状に形成されている。すなわち、振動部311aは、面内方向について、圧電層314の内側に配設されている。圧電層314における、振動部311aよりも外側の部分は、非振動部311bと接合されている。圧電層314、および、非振動部311bにおける圧電層314と接合されていない外側部分は、絶縁層316によって覆われている。絶縁層316上には、第一駆動電極325aおよび第二駆動電極325bが形成されている。第一駆動電極325aは、圧電素子における接地側電極であって、非振動部311bに対応する位置に配置されている。第一駆動電極325aは、圧電層314の面内方向における一方側の端部(すなわち図中X軸負方向側の端部)と重なるように設けられている。第二駆動電極325bは、第一駆動電極325aよりも面内方向における他方側(すなわち図中X軸正方向側)にて、第一駆動電極325aから離隔して設けられている。導電性薄膜(例えば金属薄膜)からなる、第一駆動電極325aおよび第二駆動電極325bは、駆動電源41および検出回路42に電気的に接続されている。
【0031】
放電発生部52は、下地絶縁層521と、第一放電電極522と、高耐圧誘電体層523と、第二放電電極524とを備えている。下地絶縁層521は、接合層313と同様の酸化膜により形成されている。下地絶縁層521は、第二駆動電極325bにおける、駆動電源41および検出回路42との電気的接続のための接点部分以外の部分を覆うように設けられている。第一放電電極522は、接地側電極であって、導電性薄膜(例えば金属薄膜)によって形成されている。第一放電電極522は、下地絶縁層521上に設けられている。第一放電電極522は、PM除去用電源43に電気的に接続されている。高耐圧誘電体層523は、ALD膜で構成されている。ALDは、Atomic Layer Depositionの略称である。具体的には、高耐圧誘電体層523は、TiO2およびAl2O3の多層積層膜としての構成を有している。高耐圧誘電体層523は、第一放電電極522における、PM除去用電源43との電気的接続のための接点部分以外の部分を覆うように設けられている。第二放電電極524は、導電性薄膜(例えば金属薄膜)によって、面内形状が櫛状となるように形成されている。第二放電電極524は、PM除去用電源43に電気的に接続されている。
【0032】
かかる構成においては、駆動電源41により第一駆動電極325aと第二駆動電極325bとの間に交流電圧を印加することで、振動子3すなわち振動部311aが励振される。また、振動部311aの振動特性すなわち共振周波数の変化を検出回路42で検出することで、振動子3すなわち検出面30に対するPMの付着の有無や付着量を検出することが可能となる。また、振動子3すなわち検出面30からPMを除去する際には、第一放電電極522と第二放電電極524との間にPM除去用電圧を印加して誘電体バリア放電を発生させる。すると、生成したプラズマにより、振動子3からPMが除去される。かかる構成によれば、振動子3と、除去機構5を構成する放電発生部52とを、MEMS素子として一体に形成することで、センサ体格の小型化が図られる。
【0033】
(変形例)
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。故に、上記実施形態に対しては、適宜変更が可能である。以下、代表的な変形例について説明する。以下の変形例の説明においては、上記実施形態との相違点を主として説明する。また、上記実施形態と変形例とにおいて、互いに同一または均等である部分には、同一符号が付されている。したがって、以下の変形例の説明において、上記実施形態と同一の符号を有する構成要素に関しては、技術的矛盾または特段の追加説明なき限り、上記実施形態における説明が適宜援用され得る。
【0034】
本発明は、上記実施形態に記載された具体的な装置構成に限定されない。すなわち、上述した通り、上記実施形態の記載は、本発明の内容を簡潔に説明するために簡略化されたものである。このため、実際に製造販売される製品に通常設けられる構成要素、例えば、ケーシングや接合材や端子や配線等は、上記実施形態やこれに対応する図面において、図示や説明が適宜省略されている。
【0035】
本発明に係るPMセンサ1は、空調空気中のPM検出用途に限定されない。すなわち、例えば、本発明に係るPMセンサ1は、排気中のPM検出用途にも好適に適用され得る。
【0036】
振動子3と、除去機構5を構成するオゾン発生器51とを、MEMS素子として一体に形成してもよい。
【0037】
放電発生部52における誘電体バリア放電により、オゾンが生成されることがある。このため、放電発生部52は、オゾン発生器51を兼ねたものとなり得る。すなわち、除去機構5は、プラズマおよび/またはオゾンを生成して、振動子3に付着したPMを振動子3から除去する構成であってもよい。
【0038】
図5や
図6に示された振動子3の具体的構成例も、説明の便宜のために模式化されたものであって、実際の製品における具体的な構成は、
図5や
図6の例から適宜変容され得る。例えば、各層の接合部分には、適宜、中間層が設けられていてもよい。また、振動子3にて、圧電素子における接地側電極を構成する導電性薄膜(例えば金属薄膜)が設けられている場合、振動板311は、イオンドープされていなくてもよい。
【0039】
上記の説明において、互いに継ぎ目無く一体に形成されていた複数の構成要素は、互いに別体の部材を貼り合わせることによって形成されてもよい。同様に、互いに別体の部材を貼り合わせることによって形成されていた複数の構成要素は、互いに継ぎ目無く一体に形成されてもよい。また、上記の説明において、互いに同一の材料によって形成されていた複数の構成要素は、互いに異なる材料によって形成されてもよい。同様に、互いに異なる材料によって形成されていた複数の構成要素は、互いに同一の材料によって形成されてもよい。
【0040】
上記実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に本発明が限定されることはない。同様に、構成要素等の形状、方向、位置関係等が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に特定の形状、方向、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、方向、位置関係等に本発明が限定されることはない。
【0041】
変形例も、上記の例示に限定されない。すなわち、例えば、複数の実施形態が複合的に適用され得る。換言すれば、一の実施形態の一部と、他の一の実施形態の一部とが、組み合わされ得る。複数の実施形態の組み合わせの際の個数や態様についても特段の限定はない。また、複数の実施形態のうちの任意の1つと、複数の変形例のうちの任意の1つとが、技術的に矛盾しない限り、互いに組み合わされ得る。同様に、複数の変形例のうちの1つと他の1つとが、技術的に矛盾しない限り、互いに組み合わされ得る。
【0042】
(開示内容)
上記の通りの実施形態および変形例についての説明から明らかなように、本明細書には、少なくとも以下の開示事項が開示されている。
<観点1>
PMセンサ(1)は、
PMの付着により振動特性が変化する振動子(3)と、
前記振動子に付着したPMを前記振動子から除去する除去機構(5)と、
を備えている。
<観点2>
観点1において、
前記除去機構は、プラズマまたはオゾンを生成して、前記振動子に付着したPMを前記振動子から除去する。
<観点3>
観点2において、
前記除去機構は、185nm以下の波長の紫外線を放射する発光ダイオード光源(51)を備えている。
<観点4>
観点2において、
前記除去機構は、誘電体バリア放電を発生する放電発生部(52)を備えている。
<観点5>
観点2,4において、
前記除去機構は、前記振動子と一体に形成されている。
<観点6>
観点4,5において、
前記放電発生部は、ALD膜で構成された高耐圧誘電体層(523)を備えている。
<観点7>
観点1~6において、
前記除去機構は、前記振動子上に形成された、付着力を低減する膜からなる被覆層(319)を備えている。
<観点8>
観点1~7において、
前記振動子は、PMが付着する検出面(30)を有し、
前記検出面は、PMを含む流体(F)の流路(2)に沿って設けられている。
<観点9>
観点1~8において、
前記振動子は、PMが付着する検出面(30)を有し、
前記検出面は、鉛直方向に沿って設けられている。
<観点10>
観点1~9において、
前記除去機構は、前記振動子を励振する駆動電源(41)を備えている。
<観点11>
観点10において、
前記駆動電源は、PM検出用の第一周波数の第一駆動電力と、PM除去用の第二周波数の第二駆動電力とを、選択的に出力する。
【符号の説明】
【0043】
1 PMセンサ
2 流路
3 振動子
30 検出面
319 被覆層
41 駆動電源
5 除去機構
51 オゾン発生器
52 放電発生部
523 高耐圧誘電体層