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特開2024-105513疑似インビボ条件での治療用タンパク質の選択
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105513
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】疑似インビボ条件での治療用タンパク質の選択
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20240730BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240730BHJP
   C12M 1/34 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
G01N33/543 595
G01N33/53 U ZNA
G01N33/53 U
C12M1/34 F
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024077969
(22)【出願日】2024-05-13
(62)【分割の表示】P 2021507663の分割
【原出願日】2019-08-12
(31)【優先権主張番号】62/718,307
(32)【優先日】2018-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/865,446
(32)【優先日】2019-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】キム ドロシー
(72)【発明者】
【氏名】マーロウ マイケル
(57)【要約】      (修正有)
【課題】疑似インビボ条件での非特異的相互作用の効果を決定する方法を、ここに開示する。
【解決手段】この方法は、(a)生物学的に適切な分子密集剤と標的分子とを含む溶液をバイオセンサーに接触させる工程であって、当該バイオセンサーの表面は、当該標的分子に特異的に結合する捕捉分子を含む、工程、(b)当該標的分子が当該捕捉分子に結合することを可能にする工程、及び、(c)バイオレイヤー干渉法を使用して、当該捕捉分子に結合した当該標的分子の量を決定する工程を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、疑似インビボ条件での非特異的相互作用の効果を決定する方法:
生物学的に適切な分子密集剤と標的分子とを含む溶液をバイオセンサーに接触させる工程であって、前記バイオセンサーの表面は、前記標的分子と特異的に結合する捕捉分子を含む、工程、
前記標的分子が前記捕捉分子に結合することを可能にする工程、及び、
バイオレイヤー干渉法を使用して、前記捕捉分子に結合した前記標的分子の量を決定する工程。
【請求項2】
前記分子密集剤に対して求引性非特異的相互作用を示す標的生体分子と、前記分子密集剤に対して反発性非特異的相互作用を示す標的生体分子とを区別する対照閾値に対して、前記捕捉分子に結合した前記標的生体分子の量を比較する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記閾値が、理想溶液、希薄溶液、または半希薄溶液に対して正規化された応答である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
生物学的に適切な分子密集剤が、ヒト血清アルブミン(HSA)、IgG、トランスフェリン、フィブリノーゲン、IgA、α2-マクログロブリン、IgM、α1-アンチトリプシン、ハプトグロビン、α1-酸性糖タンパク質、アポリポタンパク質A-1、アポリポタンパク質A-11、または、血液もしくは血清試料に認められるその他のあらゆるタンパク質成分を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記分子密集剤が、生理学的に適切な濃度で存在する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記分子密集剤が、約1g/L~約100g/Lの間の濃度で存在する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記生物学的に適切な分子密集剤の2つ以上の濃度での結合量を決定する工程をさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記生物学的に適切な分子密集剤が、血清および/または血漿を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
2つ以上のpHでの結合量を決定して、結合のpH依存性を決定する工程をさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
2つ以上の塩濃度での結合量を決定して、結合の塩依存性を決定する工程をさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記標的分子が、抗体を含み、かつ、前記捕捉分子が、前記抗体に対して特異的に結合する抗原を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記標的分子が、抗原を含み、かつ、前記捕捉分子が、前記抗原に対して特異的に結合する抗体を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記標的分子が、受容体またはそのリガンド結合フラグメントを含み、かつ、前記捕捉分子が、前記受容体またはそのリガンド結合フラグメントに対して特異的に結合するリガンドを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記標的分子が、リガンドを含み、かつ、前記捕捉分子が、前記リガンドに対して特異的に結合する受容体またはそのリガンド結合フラグメントを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記捕捉分子が、リンカーによって前記センサーの表面に連結される、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記リンカーが、ビオチンと、ストレプトアビジンまたはアビジンとを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記標的分子が、抗体を含み、かつ、前記捕捉分子が、抗IgG Fcを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記抗IgG Fcが、抗ヒトIgG Fcである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
以下の工程を含む、疑似インビボ条件で生体分子を選択する方法:
インビボ条件を模倣する溶液をバイオセンサーと接触させる工程であって、前記バイオセンサーの表面は、関心対象である2つ以上の標的生体分子のセットに由来する標的生体分子と特異的に結合する捕捉分子を含み、前記溶液は、生物学的に適切な分子密集剤と、関心対象である2つ以上の標的生体分子の前記セットから選択された第1の標的生体分子とをさらに含む、工程、
前記第1の標的生体分子が前記捕捉分子に結合することを可能にする工程、及び、
バイオレイヤー干渉法を使用して、前記捕捉分子に結合した前記第1の標的生体分子の量を決定する工程。
【請求項20】
インビボ条件を模倣する第2の溶液を前記バイオセンサーと接触させる工程であって、前記第2の溶液は、前記生物学的に適切な分子密集剤と、関心対象である2つ以上の生体分子の前記セットから選択された第2の標的生体分子とをさらに含む、工程、
前記第2の標的生体分子が前記捕捉分子に結合することを可能にする工程、
バイオレイヤー干渉法を使用して、前記捕捉分子に結合した前記第2の標的分子の量を決定する工程、及び、
前記捕捉分子に結合した第1の生体分子の量と、前記捕捉分子に結合した第2の生体分子の量を比較して、前記第1の生体分子と前記第2の生体分子のどちらの結合量が多いかを特定する工程
をさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記分子密集剤に対して求引性非特異的相互作用を示す標的生体分子と、前記分子密集剤に対して反発性非特異的相互作用を示す標的生体分子とを区別する対照閾値に対して、前記捕捉分子に結合した第1および/または第2の標的生体分子の量を比較する工程をさらに含む、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
前記閾値が、理想溶液、希薄溶液、または半希薄溶液に対して正規化された応答である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記生物学的に適切な分子密集剤が、ヒト血清アルブミン(HSA)、IgG、トランスフェリン、フィブリノーゲン、IgA、α2-マクログロブリン、IgM、α1-アンチトリプシン、ハプトグロビン、α1-酸性糖タンパク質、アポリポタンパク質A-1、アポリポタンパク質A-11、または、血液もしくは血清試料に認められるその他のあらゆるタンパク質成分を含む、請求項19~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記分子密集剤が、生理学的に適切な濃度で存在する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記分子密集剤が、約1g/L~約100g/Lの間の濃度で存在する、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記生物学的に適切な分子密集剤の2つ以上の濃度での結合量を決定する工程をさらに含む、請求項19~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記生物学的に適切な分子密集剤が、血清および/または血漿を含む、請求項19~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
2つ以上のpHでの結合量を決定して、結合のpH依存性を決定する工程をさらに含む、請求項19~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
2つ以上の塩濃度での結合量を決定して、結合の塩依存性を決定する工程をさらに含む、請求項19~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記標的分子が、抗体を含み、かつ、前記捕捉分子が、前記抗体に対して特異的に結合する抗原を含む、請求項19~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記標的分子が、抗原を含み、かつ、前記捕捉分子が、前記抗原に対して特異的に結合する抗体を含む、請求項19~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記標的分子が、受容体またはそのリガンド結合フラグメントを含み、かつ、前記捕捉分子が、前記受容体またはそのリガンド結合フラグメントに対して特異的に結合するリガンドを含む、請求項19~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記標的分子が、リガンドを含み、かつ、前記捕捉分子が、前記リガンドに対して特異的に結合する受容体またはそのリガンド結合フラグメントを含む、請求項19~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記捕捉分子が、リンカーによって前記センサーの表面に連結される、請求項19~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記リンカーが、ビオチンと、ストレプトアビジンまたはアビジンとを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記標的分子が、抗体を含み、かつ、前記捕捉分子が、抗IgG Fcを含む、請求項19~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記抗IgG Fcが、抗ヒトIgG Fcである、請求項36に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表の援用
本出願は、参照によって援用をする、2019年8月12日に作成し、かつ、大きさが1466バイトである、ファイル10470WO01-Sequence.txtとして、コンピューターで読み取りが可能な形式で提出した配列表を含む。
【0002】
発明の分野
本発明は、生物学的製剤に関するものであり、また、生理学的に近似する条件において、抗体などの治療用生体分子の挙動の決定に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
インビトロでの結合平衡の適切な分析は、必然的に、解離定数に近似する濃度、一般的には、マイクロモル以下のオーダーでの実施を余儀なくされる。これらの条件下では、タンパク質は、本質的に理想的な分子として挙動し、また、あらゆる非特異的な相互作用を容易に無視することができる。タンパク質濃度を任意の高濃度にすると、高分子密集を招き、そして、複合体形成は、タンパク質濃度に関して、もはや線形を示さず、また、質量作用の法則から導いた結合方程式は、濃度よりもむしろ、熱力学的活性を端的に表現している(Neal,B.L.,D. Asthagiri and A.M. Lenhoff(1998).“Molecular origins of osmotic second virial coefficients of proteins.”Biophys J 75(5):2469-2477(非特許文献1))。活量係数の大きさは、溶液全体の組成に依存しており、非理想性は、タンパク質自体のレベルの上昇のみならず、相互作用しない高分子や共溶質の存在にも起因する。
【0004】
非理想的な条件下でのタンパク質の間での非特異的相互作用は、インビトロでの特徴決定において一般的に使用するものとは大きく異なり、このことを理解することは、生物学的状況でタンパク質の機能を、さらに完璧に把握する上で不可欠である。したがって、現在のところ、疑似インビボ条件下での生体分子の非特異的相互作用の効果を決定するための方法が待望されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Neal,B.L.,D. Asthagiri and A.M. Lenhoff(1998).“Molecular origins of osmotic second virial coefficients of proteins.”Biophys J 75(5):2469-2477
【発明の概要】
【0006】
ある態様では、本発明は、疑似インビボ条件での非特異的相互作用の効果を決定する方法を提供するものであり、この方法は、(a)生物学的に適切な分子密集剤と標的分子とを含む溶液をバイオセンサーに接触させる工程であって、バイオセンサーの表面は、標的分子に対して特異的に結合する捕捉分子を含む、工程、(b)標的分子が捕捉分子に結合することを可能にする工程、及び、(c)バイオレイヤー干渉法を使用して、捕捉分子に結合した標的分子の量を決定する工程を含む。
【0007】
一部の実施形態では、この方法は、溶液でのその他の分子に対して求引性非特異的相互作用を示す標的生体分子と、溶液でのその他の分子に対して反発性非特異的相互作用を示す標的生体分子とを区別する対照閾値に対して、捕捉分子に結合した標的生体分子の量を比較する工程をさらに含む。
【0008】
この方法の様々な実施形態では、対照閾値は、理想溶液、希薄溶液、または半希薄溶液での結合の量に対して正規化された結合の量である。
【0009】
この方法の様々な実施形態では、生物学的に適切な分子密集剤は、ヒト血清アルブミン(HSA)を含む。
【0010】
一部の実施形態では、ヒト血清アルブミンは、生理学的に適切な濃度で存在する。
【0011】
一部の実施形態では、ヒト血清アルブミンは、約1g/L~約100g/Lの間の濃度で存在する。
【0012】
一部の実施形態では、この方法は、生物学的に適切な分子密集剤の2つ以上の濃度での結合量を決定する工程をさらに含む。
【0013】
この方法の様々な実施形態では、生物学的に適切な分子密集剤は、血清および/または血漿を含む。
【0014】
一部の実施形態では、この方法は、例えば、2つ以上のpHでの結合量を決定して結合のpH依存性を決定する工程をさらに含む。
【0015】
一部の実施形態では、この方法は、例えば、2つ以上の塩濃度での結合量を決定して結合の塩依存性を決定する工程をさらに含む。
【0016】
この方法の様々な実施形態では、標的分子は、モノクローナル抗体を含み、かつ捕捉分子は、モノクローナル抗体に対して特異的に結合する抗原を含む。
【0017】
この方法の様々な実施形態では、標的分子は、抗原を含み、かつ捕捉分子は、抗原に対して特異的に結合するモノクローナル抗体を含む。
【0018】
この方法の様々な実施形態では、標的分子は、受容体またはそのリガンド結合フラグメントを含み、かつ、捕捉分子は、受容体またはそのリガンド結合フラグメントに対して特異的に結合するリガンドを含む。
【0019】
この方法の様々な実施形態では、標的分子は、リガンドを含み、かつ、捕捉分子は、リガンドに対して特異的に結合する受容体またはそのリガンド結合フラグメントを含む。
【0020】
この方法の様々な実施形態では、捕捉分子は、リンカーによってセンサーの表面に連結される。
【0021】
この方法の様々な実施形態では、リンカーは、ビオチンと、ストレプトアビジンまたはアビジンとを含む。
【0022】
この方法の様々な実施形態では、標的分子は、抗体を含み、かつ、捕捉分子は、抗IgG Fcを含む。
【0023】
この方法の様々な実施形態では、抗IgG Fcは、抗ヒトIgG Fcである。
【0024】
別の態様では、本発明は、疑似インビボ条件で生体分子を選択する方法を提供するものであって、この方法は、(a)インビボ条件を模倣する溶液をバイオセンサーと接触させる工程であって、バイオセンサーの表面は、関心対象である2つ以上の標的生体分子のセットに由来する標的生体分子に対して特異的に結合する捕捉分子を含み、そして、この溶液は、生物学的に適切な分子密集剤と、関心対象である2つ以上の標的生体分子のセットから選択された第1の標的生体分子とをさらに含む、工程、(b)第1の標的生体分子が捕捉分子に結合することを可能にする工程、及び、(c)バイオレイヤー干渉法を使用して、捕捉分子に結合した第1の標的生体分子の量を決定する工程を含む。
【0025】
一部の実施形態では、この方法は、(a)インビボ条件を模倣する第2の溶液をバイオセンサーと接触させる工程であって、第2の溶液は、生物学的に適切な分子密集剤と、関心対象である2つ以上の生体分子のセットから選択された第2の標的生体分子とを含む、工程、(b)第2の標的生体分子が捕捉分子に結合することを可能にする工程、(c)バイオレイヤー干渉法を使用して、捕捉分子に結合した第2の標的分子の量を決定する工程、及び、(d)捕捉分子に結合した第1の生体分子の量と、捕捉分子に結合した第2の生体分子の量を比較して、第1の生体分子と第2の生体分子のどちらの結合量が多いかを特定する工程をさらに含む。
【0026】
一部の実施形態では、この方法は、溶液でのその他の分子に対して求引性非特異的相互作用を示す標的生体分子と、溶液でのその他の分子に対して反発性非特異的相互作用を示す標的生体分子とを区別する対照閾値に対して、捕捉分子に結合した第1および/または第2の標的生体分子の量を比較する工程をさらに含む。
【0027】
この方法の様々な実施形態では、閾値は、理想溶液、希薄溶液、または半希薄溶液での結合の量に対して正規化された結合の量である。
【0028】
この方法の様々な実施形態では、生物学的に適切な分子密集剤は、ヒト血清アルブミン(HSA)を含む。
【0029】
この方法の様々な実施形態では、ヒト血清アルブミンは、生理学的に適切な濃度で存在する。
【0030】
この方法の様々な実施形態では、ヒト血清アルブミンは、約1g/L~約100g/Lの濃度で存在する。
【0031】
一部の実施形態では、この方法は、生物学的に適切な分子密集剤の2つ以上の濃度での結合量を決定する工程をさらに含む。
【0032】
この方法の様々な実施形態では、生物学的に適切な分子密集剤は、血清および/または血漿を含む。
【0033】
一部の実施形態では、この方法は、例えば、2つ以上のpHでの結合量を決定して、結合のpH依存性を決定する工程をさらに含む。
【0034】
一部の実施形態では、この方法は、例えば、2つ以上の塩濃度での結合量を決定して、結合の塩依存性を決定する工程をさらに含む。
【0035】
この方法の様々な実施形態では、標的分子は、モノクローナル抗体を含み、かつ、捕捉分子は、モノクローナル抗体に対して特異的に結合する抗原を含む。
【0036】
この方法の様々な実施形態では、標的分子は、抗原を含み、かつ、捕捉分子は、抗原に対して特異的に結合するモノクローナル抗体を含む。
【0037】
この方法の様々な実施形態では、標的分子は、受容体またはそのリガンド結合フラグメントを含み、かつ、捕捉分子は、受容体またはそのリガンド結合フラグメントに対して特異的に結合するリガンドを含む。
【0038】
この方法の様々な実施形態では、標的分子は、リガンドを含み、かつ、捕捉分子は、リガンドに対して特異的に結合する受容体またはそのリガンド結合フラグメントを含む。
【0039】
この方法の様々な実施形態では、捕捉分子は、リンカーによってセンサーの表面に連結される。
【0040】
この方法の様々な実施形態では、リンカーは、ビオチンと、ストレプトアビジンまたはアビジンとを含む。
【0041】
この方法の様々な実施形態では、標的分子は、抗体を含み、かつ、捕捉分子は抗IgG Fcを含む。
【0042】
この方法の様々な実施形態では、抗IgG Fcは、抗ヒトIgG Fcである。
[本発明1001]
以下の工程を含む、疑似インビボ条件での非特異的相互作用の効果を決定する方法:
生物学的に適切な分子密集剤と標的分子とを含む溶液をバイオセンサーに接触させる工程であって、前記バイオセンサーの表面は、前記標的分子と特異的に結合する捕捉分子を含む、工程、
前記標的分子が前記捕捉分子に結合することを可能にする工程、及び、
バイオレイヤー干渉法を使用して、前記捕捉分子に結合した前記標的分子の量を決定する工程。
[本発明1002]
前記分子密集剤に対して求引性非特異的相互作用を示す標的生体分子と、前記分子密集剤に対して反発性非特異的相互作用を示す標的生体分子とを区別する対照閾値に対して、前記捕捉分子に結合した前記標的生体分子の量を比較する工程をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記閾値が、理想溶液、希薄溶液、または半希薄溶液に対して正規化された応答である、本発明1002の方法。
[本発明1004]
生物学的に適切な分子密集剤が、ヒト血清アルブミン(HSA)、IgG、トランスフェリン、フィブリノーゲン、IgA、α2-マクログロブリン、IgM、α1-アンチトリプシン、ハプトグロビン、α1-酸性糖タンパク質、アポリポタンパク質A-1、アポリポタンパク質A-11、または、血液もしくは血清試料に認められるその他のあらゆるタンパク質成分を含む、本発明1001~1003のいずれかの方法。
[本発明1005]
前記分子密集剤が、生理学的に適切な濃度で存在する、本発明1004の方法。
[本発明1006]
前記分子密集剤が、約1g/L~約100g/Lの間の濃度で存在する、本発明1004の方法。
[本発明1007]
前記生物学的に適切な分子密集剤の2つ以上の濃度での結合量を決定する工程をさらに含む、本発明1001~1006のいずれかの方法。
[本発明1008]
前記生物学的に適切な分子密集剤が、血清および/または血漿を含む、本発明1001~1007のいずれかの方法。
[本発明1009]
2つ以上のpHでの結合量を決定して、結合のpH依存性を決定する工程をさらに含む、本発明1001~1008のいずれかの方法。
[本発明1010]
2つ以上の塩濃度での結合量を決定して、結合の塩依存性を決定する工程をさらに含む、本発明1001~1009のいずれかの方法。
[本発明1011]
前記標的分子が、抗体を含み、かつ、前記捕捉分子が、前記抗体に対して特異的に結合する抗原を含む、本発明1001~1010のいずれかの方法。
[本発明1012]
前記標的分子が、抗原を含み、かつ、前記捕捉分子が、前記抗原に対して特異的に結合する抗体を含む、本発明1001~1010のいずれかの方法。
[本発明1013]
前記標的分子が、受容体またはそのリガンド結合フラグメントを含み、かつ、前記捕捉分子が、前記受容体またはそのリガンド結合フラグメントに対して特異的に結合するリガンドを含む、本発明1001~1010のいずれかの方法。
[本発明1014]
前記標的分子が、リガンドを含み、かつ、前記捕捉分子が、前記リガンドに対して特異的に結合する受容体またはそのリガンド結合フラグメントを含む、本発明1001~1010のいずれかの方法。
[本発明1015]
前記捕捉分子が、リンカーによって前記センサーの表面に連結される、本発明1001~1014のいずれかの方法。
[本発明1016]
前記リンカーが、ビオチンと、ストレプトアビジンまたはアビジンとを含む、本発明1015の方法。
[本発明1017]
前記標的分子が、抗体を含み、かつ、前記捕捉分子が、抗IgG Fcを含む、本発明1001~1010のいずれかの方法。
[本発明1018]
前記抗IgG Fcが、抗ヒトIgG Fcである、本発明1017の方法。
[本発明1019]
以下の工程を含む、疑似インビボ条件で生体分子を選択する方法:
インビボ条件を模倣する溶液をバイオセンサーと接触させる工程であって、前記バイオセンサーの表面は、関心対象である2つ以上の標的生体分子のセットに由来する標的生体分子と特異的に結合する捕捉分子を含み、前記溶液は、生物学的に適切な分子密集剤と、関心対象である2つ以上の標的生体分子の前記セットから選択された第1の標的生体分子とをさらに含む、工程、
前記第1の標的生体分子が前記捕捉分子に結合することを可能にする工程、及び、
バイオレイヤー干渉法を使用して、前記捕捉分子に結合した前記第1の標的生体分子の量を決定する工程。
[本発明1020]
インビボ条件を模倣する第2の溶液を前記バイオセンサーと接触させる工程であって、前記第2の溶液は、前記生物学的に適切な分子密集剤と、関心対象である2つ以上の生体分子の前記セットから選択された第2の標的生体分子とをさらに含む、工程、
前記第2の標的生体分子が前記捕捉分子に結合することを可能にする工程、
バイオレイヤー干渉法を使用して、前記捕捉分子に結合した前記第2の標的分子の量を決定する工程、及び、
前記捕捉分子に結合した第1の生体分子の量と、前記捕捉分子に結合した第2の生体分子の量を比較して、前記第1の生体分子と前記第2の生体分子のどちらの結合量が多いかを特定する工程
をさらに含む、本発明1019の方法。
[本発明1021]
前記分子密集剤に対して求引性非特異的相互作用を示す標的生体分子と、前記分子密集剤に対して反発性非特異的相互作用を示す標的生体分子とを区別する対照閾値に対して、前記捕捉分子に結合した第1および/または第2の標的生体分子の量を比較する工程をさらに含む、本発明1019または1020の方法。
[本発明1022]
前記閾値が、理想溶液、希薄溶液、または半希薄溶液に対して正規化された応答である、本発明1021の方法。
[本発明1023]
前記生物学的に適切な分子密集剤が、ヒト血清アルブミン(HSA)、IgG、トランスフェリン、フィブリノーゲン、IgA、α2-マクログロブリン、IgM、α1-アンチトリプシン、ハプトグロビン、α1-酸性糖タンパク質、アポリポタンパク質A-1、アポリポタンパク質A-11、または、血液もしくは血清試料に認められるその他のあらゆるタンパク質成分を含む、本発明1019~1022のいずれかの方法。
[本発明1024]
前記分子密集剤が、生理学的に適切な濃度で存在する、本発明1023の方法。
[本発明1025]
前記分子密集剤が、約1g/L~約100g/Lの間の濃度で存在する、本発明1023の方法。
[本発明1026]
前記生物学的に適切な分子密集剤の2つ以上の濃度での結合量を決定する工程をさらに含む、本発明1019~1025のいずれかの方法。
[本発明1027]
前記生物学的に適切な分子密集剤が、血清および/または血漿を含む、本発明1019~1026のいずれかの方法。
[本発明1028]
2つ以上のpHでの結合量を決定して、結合のpH依存性を決定する工程をさらに含む、本発明1019~1027のいずれかの方法。
[本発明1029]
2つ以上の塩濃度での結合量を決定して、結合の塩依存性を決定する工程をさらに含む、本発明1019~1028のいずれかの方法。
[本発明1030]
前記標的分子が、抗体を含み、かつ、前記捕捉分子が、前記抗体に対して特異的に結合する抗原を含む、本発明1019~1029のいずれかの方法。
[本発明1031]
前記標的分子が、抗原を含み、かつ、前記捕捉分子が、前記抗原に対して特異的に結合する抗体を含む、本発明1019~1029のいずれかの方法。
[本発明1032]
前記標的分子が、受容体またはそのリガンド結合フラグメントを含み、かつ、前記捕捉分子が、前記受容体またはそのリガンド結合フラグメントに対して特異的に結合するリガンドを含む、本発明1019~1029のいずれかの方法。
[本発明1033]
前記標的分子が、リガンドを含み、かつ、前記捕捉分子が、前記リガンドに対して特異的に結合する受容体またはそのリガンド結合フラグメントを含む、本発明1019~1029のいずれかの方法。
[本発明1034]
前記捕捉分子が、リンカーによって前記センサーの表面に連結される、本発明1019~1033のいずれかの方法。
[本発明1035]
前記リンカーが、ビオチンと、ストレプトアビジンまたはアビジンとを含む、本発明1034の方法。
[本発明1036]
前記標的分子が、抗体を含み、かつ、前記捕捉分子が、抗IgG Fcを含む、本発明1019~1029のいずれかの方法。
[本発明1037]
前記抗IgG Fcが、抗ヒトIgG Fcである、本発明1036の方法。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】CG-MALSで測定したmAb1/HSAとmAb2/HSAとの相互作用のイオン強度依存性を示すグラフである。交差ビリアル係数(A23)は、リン酸緩衝液でのNaCl濃度を上げながら、10g/L HSAと、10g/L mAb1(●)またはmAb2(□)との間の相互作用を、CG-MALSで決定した。CVCに関する負の値は、分子間の求引力を示しており、一方で、正のCVC値は、分子間の反発力を示す。囲いは、mAb1とmAb2のそれぞれに関するCVC値が、負と正である生理学的イオン強度を示している。
図2】mAbとHSAの弱陽イオン交換クロマトグラフィーの溶出プロファイルを示すグラフである。それぞれのmAb及びHSAを、200mM MES、20mM NaCl、pH6.5で平衡化した弱陽イオン交換カラムでの分析クロマトグラフィーで評価した。勾配は、20~500mM NaClを使用しており、そして、1M NaCl溶液のパーセンテージとして破線で表している。HSA、mAb1、及び、mAb2の代表的な溶出プロファイルを示している。
図3】A及びBは、BLIで測定した、HSAの非存在下での137mM NaClでのビオチン標識抗原に対するmAbの結合を示すグラフである。ビオチン標識抗原に対するmAb1(A)及びmAb2(B)の結合を、リン酸緩衝液での生理学的塩濃度にて、バイオレイヤー干渉法を使用して観察した。ナノメートル単位の波長の変化(応答、nm)を、時間の関数としてプロットして、結合事象に起因するバイオレイヤーの厚さの変化を示す。会合と解離のステップを、1.25nM、2.5nM、5nM、10nM、20nM、及び、40nM mAbに関して示している。破線の記録は、生データを示しており、そして、実線の記録は、近似曲線を示している。データ出力を、mAb会合ステップで揃えて、そして、リファレンスデータを、すべての試料の記録から控除した。
図4】A及びBは、BLIで測定した、抗原に対するmAbの結合に関するHSAが、イオン強度依存的である、ことを示すグラフである。HSAの非存在下及び存在下でのビオチン標識抗原に対する40nM mAb1及びmAb2の結合を、リン酸緩衝液での10(A)、及び、137mM NaCl(B)のバイオレイヤー干渉法を使用して観察した。時間の関数としての波長(応答、nm)の変化は、結合事象を示しており、そして、mAbの会合と解離のステップだけを示している。上記したようにして、ビオチン標識抗原を、SAチップにロードした。mAb1の結合を、10g/L HSAの非存在下及び存在下で評価し、そして、mAb2結合を、10g/L HSAの非存在下及び存在下で評価した。バイオセンサーチップに対する非特異的結合を防ぐために、0.1g/Lの最小限のHSAを使用した。データ出力を、等価濃度のHSAでのベースライン測定に続くmAb会合ステップで揃えた。10g/L HSAを含む試料の記録は、溶液の屈折率の変化に起因する会合から解離への移行時のシグナルの変化に関して補正を行った。
図5】A及びBは、BLIで測定した、抗原に対するmAbの結合に関するHSAの効果が、イオン強度依存的であり、かつ、mAb特異的である、ことを示すグラフである。濃度が高まっているHSAの存在下でのビオチン標識抗原に対するmAb1(●)またはmAb2(□)の結合を、10(A)、及び、137(B)mM NaClのバイオレイヤー干渉法を使用して観察した。正規化した(0.1g/L HSAでの結合に対する)応答は、HSA濃度の関数として示している。点線は、データポイントと、この点線との関係を示す、1.0の法線を表している。バイオセンサーチップに対する非特異的結合を防ぐために、0.1g/Lの最小限のHSAを使用した。実験を3回行い、そして、平均値と標準偏差を示している。一元配置分散分析を、それぞれのHSA濃度で行い、0.05未満のp値を、アスタリスクで示している。すべてのデータを、表2~4にまとめてある。
図6】A~Dは、BLIで測定した、抗原に対するmAbの結合に関するFicoll 70の効果を示す一連のグラフである。濃度を高めているFicoll 70の存在下でのビオチン標識抗原に対するmAb1(●)またはmAb2(□)の結合を、10mM(A)、及び、137mM(B)NaClのバイオレイヤー干渉法を使用して観察した。正規化した(0.1g/L Ficoll 70での結合に対する)応答を、Ficoll 70濃度の関数としてプロットしている。図6A及び6Bでの点線は、データポイントと、この点線との関係を示す、1.0の法線を表している。実験を3回行い、そして、平均値と標準偏差を示している。一元配置分散分析を、それぞれのHSA濃度で行い、0.05未満のp値を、アスタリスクで示している。すべてのデータを、表5~7にまとめてある。結合速度が遅いので、極めて高い濃度のFicoll 70(200g/L以上、図6C及び6D)で、mAbが抗原に対して会合する時間を延長する必要があった。300g/L Ficollの存在下でのビオチン標識抗原に対するmAbの結合を、10mM(C)、及び、137mM(図6D)NaClのバイオレイヤー干渉法を使用して観察した。Ficoll 70の非存在下でのmAb1及びmAb2のnmで揃えた応答は、延長した会合時間(約3時間)の時間に関する関数として示している。300g/L Ficoll 70を、mAb1及びmAb2に添加すると、結合速度が比較的遅くなる。
図7】バイオレイヤー干渉測定実験において、バイオセンサーをHSA溶液に浸すと、シグナルが増大することを示すグラフである。137mM NaClにおける、ビオチン標識抗原をロードしたSAチップに結合するmAb1に関する代表的なセンサーグラム。ベースライン測定(0~120秒)に続いて、ビオチン標識抗原を、0.1g/L HSAの存在下でロードし、そして、平衡化させ(ステップA)、センサーを、10g/L HSAに浸し(ステップB)、センサーを、10g/L HSA+40nM mAb1に浸し(ステップC)、そして、センサーを、ベースライン緩衝液に浸す(ステップD)。ステップBで認められたシグナルの増大の程度は、ビオチンをロードしたSA(抗原なし)を使用した同じ実験セットアップで認められたたシグナルの増大と同様であり、このことは、シグナルが、バイオセンサーチップに対する特異的結合事象ではなく、高濃度のタンパク質のHSAの屈折率に起因するものである、ことを示している(データ示さず)。
図8】A~Hは、抗ヒトIgG Fc捕捉チップを使用した親和性測定を示す一連のグラフである。代表的なバイオレイヤー干渉測定センサーグラムは、10mM(A)、及び、137mM NaCl(B)での非標識抗原を含むmAb1;10mM(C)、及び、137mM NaCl(D)でのビオチン標識抗原を含むmAb1;10mM(E)、及び、137mM NaCl(F)の非標識抗原を含むmAb2;10mM(G)、及び、137mM NaCl(H)でのビオチン標識抗原を含むmAb2に関するものである。バイオセンサーの先端に抗体をロードして、約0.6nmの応答を達成した。抗原会合ステップは、100~300秒であり、そして、解離は、600~750秒であった。
図9】mAb3が抗原に結合せず、かつ、BLIシグナルの変化が認められないことを示すグラフである。濃度を高めているHSAの存在下でのビオチン標識抗原に対するmAb3の結合を、10(●)及び137(□)mM NaClのバイオレイヤー干渉法を使用して観察した。認められたシグナル(nm)は、正規化した応答ではなく、HSA濃度の関数としてプロットしている。実験を重複して行い、そして、平均値と標準偏差を示している。
図10】理想溶液、希薄溶液、及び半希薄溶液の差異を示す一連の概略図である。
図11】半希薄溶液が、濃縮溶液と同等でないことを示す一連の概略図である。
図12】開示した実施形態による、密集剤、及び、抗原の存在下での抗体相互作用を測定するための一般化したバイオレイヤー干渉測定システムを示す概略図である。
図13】開示した実施形態による、密集剤、及び、FcRnの存在下での抗体相互作用を測定するための一般化したバイオレイヤー干渉測定システムを示す概略図である。
図14】抗体/FcRn結合に関するHSAの効果を示すグラフである。
図15】A及びBは、異なる塩濃度でのHSAの用量反応曲線効果を示すグラフである。
図16】2つの異なる抗体+/-FAに関するHSAの用量反応曲線効果を示すグラフである。
図17】野生型、及び、YTE変異体の配列アラインメントである。
図18】FcRnに結合する抗C5mAbに関するHSAの用量反応曲線効果を示すグラフである。
図19】FcRnに結合する抗ジカmAbに関するHSAの用量反応曲線効果を示すグラフである。
図20】半減期延長変異体に関するHSAの用量反応曲線効果を示す一連のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
発明の詳細な説明
本発明を記載するにあたり、本発明は記載している特定の方法及び実験条件に限定されるものではなく、したがって、方法及び条件は変更し得るものである、と理解すべきである。また、本発明の範囲は、添付した特許請求の範囲によってのみ限定されるので、本明細書で使用する用語は、特定の実施形態を説明する目的のものに過ぎず、限定を意図するものでない、ことを理解すべきである。あらゆる実施形態、または、実施形態の特徴は、互いに組み合わせることができ、そして、そのような組み合わせは、明示的に本発明の範囲に含まれる。
【0045】
特に定義が無い限り、本明細書で使用するすべての技術用語及び科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者に共通して理解されているものと同じ意味を有する。本明細書で使用する用語「約」は、特定の列挙した数値に関して使用する場合、その値が、列挙した値から1%以下でしか変動し得ないことを意味する。例えば、本明細書で使用する「約100」という表現には、99及び101、ならびに、その間のすべての整数値及び非整数値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4など)を含む。
【0046】
本明細書に記載しているものと類似または同等のあらゆる方法及び材料を、本発明の実施または試験に使用することができるが、好ましい方法及び材料を、本明細書で説明する。本明細書に記載しているすべての特許、出願、及び、非特許刊行物は、参照により、本明細書の一部を構成するものとして、その全内容を援用する。
【0047】
本明細書で使用する略語
AUC:分析用超遠心分離
NMR:核磁気共鳴
MALS:多角度静的光散乱
CG-MALS:組成勾配多角度静的光散乱
HSA:ヒト血清アルブミン
mAbs:モノクローナル抗体
BLI:バイオレイヤー干渉法
SA:ストレプトアビジン
CVC:交差ビリアル係数
MBP:マルトース結合タンパク質
FcRn:新生児Fc受容体
FelD1:主要なネコアレルゲン
【0048】
定義
本明細書で使用する用語「抗体」とは、ジスルフィド結合によって相互に連結した4本のポリペプチド鎖、2本の重(H)鎖、及び、2本の軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子(すなわち、「完全な抗体分子」)、ならびに、その多量体(例えば、IgM)、または、その抗原結合フラグメントを含む。それぞれの重鎖は、重鎖可変領域(「HCVR」または「V」)、及び、重鎖定常領域(ドメインC1、C2、及び、C3からなる)を含む。様々な実施形態では、重鎖を、IgGアイソタイプとし得る。一部の事例では、重鎖を、IgG1、IgG2、IgG3、または、IgG4から選択する。一部の実施形態では、重鎖は、アイソタイプIgG1またはIgG4であり、任意に、アイソタイプIgG1/IgG2、または、IgG4/IgG2のキメラヒンジ領域を含む。それぞれの軽鎖は、軽鎖可変領域(「LCVR」または「V」)、及び、軽鎖定常領域(C)からなる。V及びV領域は、フレームワーク領域(FR)と称する高度に保存された領域の間に散在する相補性決定領域(CDR)と称する超可変領域にさらに細分することができる。それぞれのV及びVは、3つのCDRと、4つのFRとから構成されており、アミノ末端からカルボキシ末端に向けて、次の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置されている。用語「抗体」は、あらゆるアイソタイプまたはサブクラスのグリコシル化、及び、非グリコシル化免疫グロブリンの双方を利用することを含む。用語「抗体」は、抗体を発現するようにトランスフェクトした宿主細胞から単離した抗体など、組換え手段によって調製、発現、作成、または、単離した抗体分子を含む。抗体構造のレビューについては、Lefranc et al., IMGT unique numbering for immunoglobulin and T cell receptor variable domains and Ig superfamily V-like domains,27(1)Dev.Comp.Immunol.55-77;及び、M.Potter, Structural correlates of immunoglobulin diversity,2(1)Surv.Immunol.Res.27-42(1983)を参照されたい。
【0049】
抗体という用語は、「二重特異性抗体」も含み、このものは、複数の異なるエピトープに結合することができるヘテロ四量体免疫グロブリンを含む。単一の重鎖と単一の軽鎖、それに、6つのCDRを含む二重特異性抗体の半分は、1つの抗原またはエピトープに結合し、そして、抗体の残りの半分は、異なる抗原またはエピトープに結合する。一部の事例では、二重特異性抗体は、同じ抗原に結合することができるが、異なるエピトープ、または、重複していないエピトープに結合する。一部の事例では、二重特異性抗体の半抗体の双方が、二重特異性を保持しながら、同一の軽鎖を有している。二重特異性抗体については、米国特許出願公開第2010/0331527号(2010年12月30日)で概説されている。
【0050】
抗体の「抗原結合部分」(または、「抗体フラグメント」)という用語は、抗原に対して特異的に結合する能力を保持している抗体の1つ以上のフラグメントのことを指す。抗体の「抗原結合部分」という用語に含まれる結合フラグメントの例として、(i)VL、VH、CL、及び、CH1ドメインからなる一価フラグメントであるFabフラグメント;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結した2つのFabフラグメントを含む二価フラグメントであるF(ab’)2フラグメント;(iii)VH及びCH1ドメインからなるFdフラグメント;(iv)抗体の単一アームのVL及びVHドメインからなるFvフラグメント;(v)VHドメインからなるdAbフラグメント(Ward et al.(1989)Nature 241:544-546);(vi)単離したCDR;及び、(vii)Fvフラグメントの2つのドメインVLとVHからなり、合成リンカーで結合して、VL領域とVH領域とを対にして、一価分子を形成する単一のタンパク質鎖を形成するscFvがある。ダイアボディなどのその他の形態の一本鎖抗体もまた、用語「抗体」に含まれる(例えば、Holliger et al.(1993) 90 PNAS U.S.A.6444-6448;及び、Poljak et at.(1994)2 Structure 1121-1123を参照されたい)。
【0051】
さらに、抗体、及び、その抗原結合フラグメントは、当該技術分野で一般に公知である標準的な組換えDNA技術を使用して取得することができる(Sambrook et al.,1989を参照されたい)。
【0052】
「Fc融合タンパク質」は、2つ以上のタンパク質の一部または全部を含んでおり、その内の1つは、免疫グロブリン分子のFc部分であり、自然界で共に見出されることはない。抗体由来ポリペプチド(Fcドメインを含む)の様々な部分に融合した特定の異種ポリペプチドを含む融合タンパク質の調製は、例えば、Ashkenazi et al.,(1991)88 Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.10535;Byrn et al.,(1990)344 Nature 677;及び、Hollenbaugh et at.,(1992)“Construction of Immunoglobulin Fusion Proteins”,in Current Protocols in Immunology,Suppl.4,10.19.1-10.19.11ページで説明されている。「受容体Fc融合タンパク質」は、Fc部分に結合した受容体の1つ以上の細胞外ドメイン(複数可)を含み、一部の実施形態では、このものは、ヒンジ領域と、それに続く免疫グロブリンのCH2とCH3ドメインとを含む。一部の実施形態では、Fc融合タンパク質は、1つ以上のリガンド(複数可)に結合する2つ以上の別個の受容体鎖を含む。例えば、Fc融合タンパク質は、例えば、IL-1トラップ(例えば、hIgGIのFcに対して融合したIL-1R1細胞外領域に対して融合したIL-1RAcPリガンド結合領域を含むリロナセプト;米国特許第6,927,004号を参照されたい)、または、VEGFトラップ(例えば、hIgG1のFcに対して融合したVEGF受容体Flk1のIgドメイン3に対して融合したVEGF受容体Flt1のIgドメイン2を含むアフリベルセプト;米国特許第7,087,411号(2006年8月8日発行)、及び、米国特許第7,279,159号(2007年10月9日発行)を参照されたい)などのトラップである。
【0053】
用語「ヒト抗体」とは、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列から誘導した可変領域、及び、定常領域を有する抗体を含む、ことを意図している。本発明のヒトmAbsは、例えば、CDR、特に、CDR3でのヒト生殖系列免疫グロブリン配列がコードしないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダムまたは部位特異的突然変異誘発、または、インビボでの体細胞突然変異によって導入する突然変異)を含み得る。しかしながら、本明細書で使用する用語「ヒト抗体」は、その他の哺乳動物種(例えば、マウス)の生殖系列から誘導したCDR配列をヒトフレームワーク配列に移植したmAbsを含む、ことを意図していない。この用語は、非ヒト哺乳動物、または、非ヒト哺乳動物の細胞で組換え的に産生した抗体を含む。この用語は、ヒト対象から単離した、または、ヒト対象において生成した抗体を含む、ことを意図していない。
【0054】
「バイオレイヤー干渉法」または「BLI」は、生体分子相互作用を測定するための無標識技術である(例えば、Current Biosensor Technologies in Drug Discovery,Cooper,M.A.Drug Discovery World,2006,68-82、及び、Higher-throughput,label-free,real-time molecular interaction analysis.Rich,R.L.;Myszka,D.G.Analytical Biochemistry,2007,361,1-6を参照されたい)。BLIは、2つの表面、例えば、バイオセンサーの先端に固定化した生体分子の層と、内部リファレンス層とから反射した光の干渉パターンを分析する光学分析技術である。バイオセンサーの先端に結合した標的生体分子の数の変化は、リアルタイムで測定することができる干渉パターンのシフトを引き起こす。
【0055】
バイオセンサー先端表面に固定化した捕捉分子と、溶液での標的生体分子との間の結合は、バイオセンサー先端で厚みが大きくなり、その結果、波長シフトを引き起こす。BLIの例示的な機器は、例えば、Fremont CaliforniaのForteBioから市販されている。
【0056】
本明細書で使用する用語「接触する」とは、直接的な物理的関連における配置のことを指す。接触は、インビトロで、例えば、抗体などの標的生体分子を含む生物学的試料などの試料に対して起こり得る。
【0057】
概要
生物学的環境に関して、血液は、何百もの異なる分子からなる複雑で密集した溶液である。このような非理想的な条件下でのタンパク質の間での非特異的相互作用を理解することは、生物学的状況におけるタンパク質機能のさらに完璧な全体像を達成するために不可欠である。したがって、密集した環境でのタンパク質活性の測定は最も重要であり、そして、分析的超遠心分離(AUC)や核磁気共鳴(NMR)などの方法は、密集した溶液の分子挙動を調べるために従前より利用されていた(Heddi,B.& Phan,A.T. Structure of human telomeric DNA in crowded solution.J Am Chem Soc 133,9824-9833,doi:10.1021/jA200786q(2011),Martorell,G.,Adrover,M.,Kelly,G.,Temussi,P.A.& Pastore,A. A natural and readily available crowding agent:NMR studies of protein in hen egg white.Proteins 79,1408-1415,doi:10.1002/prot.22967(2011),Rivas,G.,Fernandez,J.A.& Minton,A.P. Direct observation of the self-association of dilute proteins in the presence of inert macromolecules at high concentration via tracer sedimentation equilibrium:theory,experiment,and biological significance.Biochemistry 38,9379-9388,doi:10.1021/bi990355z(1999),Rivas,G.& Minton,A.P. Non-ideal tracer sedimentation equilibrium:a powerful tool for the characterization of macRomolecular interactions in crowded solutions.Journal of molecular recognition:JMR 17,362-367,doi:10.1002/jmr.708(2004),Pielak,G.J.et al. Protein nuclear magneticResonance under physiological conditions.Biochemistry 48,226-234,doi:10.1021/bi8018948(2009),Wright,R.T.,Hayes,D.B.,Stafford,W.F.,Sherwood,P.J.& Correia,J.J. Characterization of therapeutic antibodies in the presence of human serum proteins by AU-FDS analytical ultracentrifugation.Analytical biochemistry 550,72-83,doi:10.1016/j.ab.2018.04.002(2018))。しかしながら、これらの方法には、幾つかの欠点があり、AUCは、実験に数日を要する時間のかかる方法であり、また、NMRは、試料のイオン強度と、材料の消費に関して制限を受ける。
【0058】
タンパク質の熱力学的、及び、速度論的特性に関する高分子密集の影響は非常に複雑であり、また、予測が困難である(Elcock,A.H. Prediction of functionally important residues based solely on the computed energetics of protein structure.J Mol Biol 312,885-896,doi:10.1006/jmbi.2001.5009(2001),Candotti,M.& Orozco,M. The Differential Response of Proteins to Macromolecular Crowding.PLoS Comput Biol 12,e1005040,doi:10.1371/journal.pcbi.1005040(2016),Minton,A.P. The influence of macromolecular confinement on biochemical reactions in physiological media.The Journal of biological chemistry 276,10577-10580,doi:10.1074/jbcR100005200(2001),Zimmerman,S.B.& Minton,A.P. Macromolecular crowding:biochemical,biophysical,and physiological consequences.Annu Rev Biophys Biomol Struct 22,27-65,doi:10.1146/annurev.bb.22.060193.000331(1993))。主たる回避不可能な結果として、立体排除、別名、排除体積効果があり、これは、一般的に、すべての分子が利用可能な体積を増やすために、高分子会合の余地を広げる。大きさ、形状、表面、及び、固有の電荷特性、及び、溶媒和状態など、タンパク質の様々な物理化学的特性が、正味の非特異的相互作用に寄与する。さらに、静電相互作用、ファンデルワールス力、電荷異方性(局所双極子モーメント)、及び、疎水性相互作用は、おそらく、全く異なる方法で、全体的な効果を調節する。最後に、非特異的相互作用は、溶液条件(例えば、pHやイオン強度;不活性共溶質)に大きく依存しており、そして、特定の事例では、正味の反発性相互作用を、求引性相互作用に変化させ得る(Zhang,Z.,Witham,S.& Alexov,E. On the role of electrostatics in protein-protein interactions.Phys Biol 8,035001,doi:10.1088/1478-3975/8/3/035001(2011),Elcock,A.H.& McCammon,J.A. Caluculation of weak protein-protein interactions.the pH dependence of the second viral coefficient.Biophys J80,613-625,doi:10.1016/S0006-3495(01)76042-0(2001),Blanco,M.A.,Perevozchikova,T.,Martorana,V.,Manno,M.& Roberts,C.J. Protein-protein interactions in dilute to concentrated solutions:alpha-chymotrypsinogen in acidic conditions.J Phys Chem B 118,5817-5831,doi:10.1021/jp412301h(2014))。したがって、その他の点では相互作用しないタンパク質を含む溶液では、高濃度のタンパク質に起因する非理想性は、かなりのレベルのヘテロ会合をもたらし、または、溶質を、さらに分散した分布で維持し得る。
【0059】
熱力学的非理想性の結果は、多様である。抗体の製造と製剤の観点から、分子の最終的な提示は、大抵の場合、100g/Lを超えており、非理想性が、粘度、溶解度、相分離、及び、自己会合などの様々なタンパク質溶液現象を変化させる、ことが報告されている(Salinas,B.A.et al. Understanding and modulating opalescence and viscosity in a monoclonal antibody formulation.J Pharm Sci 99,82-93,doi:10.1002/jps.21797(2010),Connolly,B.D.et al. Weak interactions govern the viscosity of concentrated antibody solutions:high-throughput analysis using the diffusion interaction parameter.Biophys J 103,69-78,doi:10.1016/j.bpj.2012.04.047(2 012),Liu,J.,Nguyen,M.D.,Andya,J.D.& Shire,S.J. Reversible self-association increases the viscosity of a concentrated monoclonal antibody in aqueous solution.J Pharm Sci 94,1928-1940,doi:10.1002/jps.20347(2005),Raut,A.S.& Kalonia, D.S.Pharmaceutical Perspective on Opalescence and Liquid-Liquid Phase Separation in Protein Solutions:Mol Pharm 13,1431-1444,doi:10.1021/acs.molpharmaceut.5b00937(2016))。細胞内環境、細胞外マトリックス、及び、循環血液などの生体系の特定の環境に関して、高分子密集は、結合平衡のみならず、反応速度、タンパク質の折り畳みと異性化、タンパク質間の相互作用、それに、全体的な細胞恒常性にも影響を及ぼす(Spitzer,J. From water and ions to crowded biomacromolecules:in vivo Structuring of a prokaryotic cell.Microbiol Mol Biol Rev 75,491-506,目次の第2頁,doi:10.1128/MMBR.00010-11(2011),van den Berg,J.,Boersma,A.J.& Poolman,B. Microorganisms maintain crowding homeostasis.Nat Rev Microbiol 15,309-318,doi:10.1038/nrmicro.2017.17(2017),Zhou,H.X.,Rivas,G.& Minton,A.P. Macromolecular crowding and confinement:biochemical,biophysical,and potential physiological consequences.Annu Rev Biophys 37,375-397,doi:10.1146/annurev.biophys.37.032807.125817(2008)。例えば、細胞内外の浸透圧輸送に影響を与える細胞浸透圧平衡の理論的モデリングでは、密集した細胞環境に起因する非理想的な細胞内熱力学を考慮する必要がある(Ross-Rodriguez,L.U.,Elliott,J.A.& McGann,L.E. Non-ideal solution thermodynamics of cytoplasm.Biopreserv Biobank 10,462-471,doi:10.1089/bio.2012.0027(2012))。加えて、高分子密集は、細胞の病理に影響を与えることができ、加速したアミロイド形成は、密集した環境で起こることが実証されている(Hatters,D.M.,Minton,A.P.& Howlett,G.J. Macromolecular crowding accelerates amyloyd formation by human apolipoprotein C-II.The Journal of biological chemistry 277,7824-7830,doi:10.1074/jbc.M110429200(2002),Lashuel,H.A.,Hartley,D.,Petre,B.M.,Walz,T.& Lansbury,P.T.,Jr. Neurodegenerative disease:amyloid pores from pathogenic mutation.Nature 418,291,doi:10.1038/418291a(2002),Munishkina,L.A.,Cooper,E.M.,Uversky,V.N.&Fink,A.L. The effect of macromolecular crowding on protein aggregation and amyloid fibril formation.Journal of molecular recognition:JMR 17,456-464,doi:10.1002/jmr.699(2004))。生理学的環境の構成は、大抵の場合、ビリアル係数を特徴決定するために通常使用する分析方法を妨げる。したがって、熱力学的非理想性の現象と、それに続く結果は、実用面でも、生物学的にも重要である。
【0060】
モノクローナル抗体などの生物学的製剤タンパク質は、一般的には、高濃度で血液に投与を行うが、このものは、本質的に複合体であり、かつ、タンパク質をかなり含んだ密集した溶液である。高分子密集の影響と、その結果生じるタンパク質の非理想性は、この生理学的状況において、相当レベルの非特異的ヘテロ会合を引き起こし得る(図11及び12を参照されたい)。したがって、このような非理想的で、密集した条件下でのタンパク質の間での非特異的相互作用を理解する方法であって、インビトロでの特徴決定のために一般的に使用されてきた方法から著しくかけ離れた方法を開発することは、生物学的状況でのタンパク質機能のより完璧な全体像を達成する上で重要である。この目的のために、本開示は、生物学的に活性な分子(例えば、抗体、二重特異性抗体、融合タンパク質、Fc受容体融合タンパク質)と、それらの同族結合パートナーとの相互作用、例えば、抗体-抗原、または、受容体-リガンド相互作用に関する分子密集の影響を研究するためのモデルシステムの開発に関する。本明細書に開示した通り、インビボ環境を模倣する溶液でのこれらの分子の相互作用、例えば、結合を決定することで、これらの分子の挙動に関する情報を、費用を要するインビボ試験で、及び/または、臨床試験の開始前に得ることができる。そのような情報は、最終的な治療薬の手がかりとなる、探索すべき分子または化合物に関して、情報に基づいた決定をするために使用し得る。
【0061】
ヒト血清アルブミン(HSA)は、ヒト循環器系で最も豊富なタンパク質の1つであり、血漿中のタンパク質含量の約半分を占めている。HSAの相対的な豊富度、それに、複数の生物学的プロセスにおけるその役割は、生物学的製剤との潜在的な相互作用、そして、さらに重要なことに、これらの相互作用が、対象でのこれらの生物学的製剤の生物学的活性に、どのくらい影響を及ぼし得るかを調べることを加速させた。加えて、アルブミンは、生理学的pHでは負に帯電しているので、HSAと、正味の正電荷を有する生物学的製剤薬、または、大きな溶媒に曝された正の表面との間の非特異的な静電相互作用の可能性が高まる。
【0062】
ヒト血清アルブミン(HSA)と、2つの組換えモノクローナル抗体(mAb)との間の非特異的相互作用、及び、mAb:抗原結合に関するこれらの相互作用の影響を本明細書で説明する。バイオレイヤー干渉法(BLI)を使用して、生理学的HSA濃度でのmAbによる抗原結合に関するHSAの影響を評価して、これらの非特異的相互作用が、mAb:抗原相互作用に機能的な影響を与えることを示した。重要なことに、HSAの代わりにFicoll 70(数多くの分子密集実験で使用する作用物質)を使用しても、同様の結果は得られず、HSAが、静電相互作用などによって、分子密集を超える効果を有することを実証した。ここで開示しているインビトロのデータは、血清中の高濃度のHSAが、インビボでmAbと非特異的相互作用を引き起こし、また、抗原、ならびに、Fc受容体などのその他の機能的に関連するタンパク質との親和性に影響を与え得ることを実証している。まとめると、これらの結果は、本明細書に開示したBLIをベースとした方法を使用して、特定の生物学的に適切な相互作用に関する非特異的タンパク質-タンパク質相互作用の影響を決定し、密集した状態での結合事象を評価する直接的方法を提供できる、ことを実証している。
【0063】
本開示の態様は、インビボ条件を模倣する条件下で、抗原、及び/または、そのエピトープに対する抗体の特異的結合など、生体分子の挙動に関する非特異的相互作用の効果を決定する方法に関する。例えば、本明細書に開示する方法を使用して、モノクローナル抗体などの潜在的な治療用生体分子が、潜在的な治療用生体分子の有効濃度、故に、効果を抑制するなどして、その機能を阻害し得るインビボでの非特異的相互作用に供し得るか否かを予測することができる。したがって、本明細書で開示しているのは、疑似インビボ条件での非特異的相互作用の効果を評価する方法である(例示的なシステムに関しては、図12を参照されたい)。実施形態では、この方法は、生物学的に適切な分子密集剤と標的生体分子とを含む溶液をバイオセンサーに接触させる工程を含む。バイオセンサーの表面は、標的分子に対して特異的に結合する捕捉分子を含み、その結果、標的生体分子のバイオセンサーに対する(捕捉分子を介して媒介した)結合を、評価、及び/または、決定することができる。様々な実施形態では、バイオセンサーは、例えば、平衡に達したときに、標的生体分子が捕捉分子に対して結合するのに十分な時間、溶液で、インキュベートすることができる。次に、捕捉分子に対して結合した標的生体分子の量を、例えば、バイオレイヤー干渉法を使用して決定する(例えば、図4A及び4Bを参照されたい)。実施形態では、捕捉分子に対して結合した標的生体分子の量は、溶液でのその他の分子に求引性非特異的相互作用を示す標的生体分子と、溶液でのその他の分子に反発性非特異的相互作用を示す標的生体分子とを区別する閾値などの対照と比較する。非特異的求引性を有する閾値に満たない標的生体分子は、そのような非特異的相互作用を示さずに(または、あまり示さずに)閾値を超える生体分子よりも、望ましいものとは言えない。したがって、この方法を使用して、同定した標的生体分子を投与した対象で認め得るインビボ条件により適した標的生体分子を同定することができる。一部の実施形態では、閾値は、正規化した応答であり、例えば、分子密集剤、及び/または、理想溶液、希薄溶液、もしくは半希薄溶液を含まず、または、ほとんど含まない溶液に対して正規化する。一部の実施形態では、生物学的に適切な分子密集剤は、ヒト血清アルブミン(HSA)を含み、そして、結合の量は、約0.0001g/LのHSAと0.1g/LのHSAとの間などの低濃度のHSAで、例えば、理想溶液、希薄溶液、もしくは半希薄溶液に近い条件、または、それらを模倣する条件で認められる結合に対して正規化する。この例では、閾値を、1に設定しており、正味の求引力または反発力が無いことを意味する。正規化した応答が1未満の分子は、HSAなどの生物学的に適切な分子密集剤に対して非特異的な相互作用を示すものと見なすことができ、そして、治療の可能性を評価するためのさらなる研究を再検討し得る。逆に、正規化した応答が1を超えている分子は、HSAなどの生物学的に適切な分子密集剤に対して有意な非特異的相互作用を示さないと見なすことができ、そして、治療可能性が大きいと見なし得るものであり、さらなる評価を必要とする。実施形態では、HSAは、生理学的に適切な濃度で、溶液に存在する。その他の実施形態(HSAに関連して、上記した、または、本明細書で論じたものなどでは、分子密集剤は、IgG、トランスフェリン、フィブリノーゲン、IgA、α2-マクログロブリン、IgM、α1-アンチトリプシン、ハプトグロビン、α1-酸性糖タンパク質、アポリポタンパク質A-1、アポリポタンパク質A-11、血漿、血清、または、血液もしくは血清試料に認められるその他のタンパク質成分から選択する。
【0064】
特定の実施形態では、HSAは、約1g/L~約100g/Lの間の濃度、例えば、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または、100g/L HSAなど、例えば、約35~50、25~40、または、10~80g/L HSAなどで存在する。一部の実施形態では、この方法を、様々な濃度の生物学的に適切な分子密集剤、例えば、約1g/L~約100g/LのHSAで実施し、例えば、HSAの濃度の高まりに対する標的分子の応答を決定する(例えば、図5A及び5Bを参照されたい)。実施形態では、この方法は、分子密集剤の2つ以上の濃度で結合量を決定して、例えば、用量反応曲線を作成することを含む。
【0065】
実施形態では、HSAには、例えば、FAの効果を決定するために、脂肪酸(FA)を担持させている。一部の実施形態では、溶液は、生理学的成分(または、さらなる生理学的成分)、例えば、IgG、トランスフェリン、フィブリノーゲン、IgA、α2-マクログロブリン、IgM、α1-アンチトリプシン、ハプトグロビン、α1-酸性糖タンパク質、アポリポタンパク質A-1、アポリポタンパク質A-11、または、血液もしくは血清試料に認められるその他のタンパク質成分などを含む。実施形態では、生物学的に適切な分子密集剤は、血清および/または血漿を含む。
【0066】
実施形態では、溶液は、生理学的pH、例えば、中性pH付近の単一の生理学的pHのものである。しかしながら、この方法は、様々なpHで実施できることを想定している。特定の実施形態では、この方法は、2つ以上のpHでの結合量を決定して結合のpH依存性を決定する工程をさらに含む。
【0067】
実施形態では、溶液は、生理学的塩濃度である。特定の実施形態では、この方法は、2つ以上の塩濃度での結合量を決定して結合の塩依存性を決定する工程をさらに含む。
【0068】
開示した方法は、インビボ環境の非特異的相互作用を模倣する条件下で、生物学的に適切な分子の対の結合を決定するために使用することができる。実施形態では、標的分子は、モノクローナル抗体を含み、かつ、捕捉分子は、例えば、高親和性でモノクローナル抗体に対して特異的に結合する抗原を含む。実施形態では、標的分子は、タンパク質をベースとしたの免疫原などの抗原を含み、かつ、捕捉分子は、抗原に対して特異的に結合するモノクローナル抗体を含む。特定の実施形態では、生物学的標的分子は、変異体半減期延長モノクローナル抗体のセットである。特定の実施形態では、標的分子は、受容体、または、そのリガンド結合フラグメントを含み、かつ、捕捉分子は、受容体、または、そのリガンド結合フラグメントに対して特異的に結合するリガンドを含む。特定の実施形態では、標的分子は、リガンドを含み、かつ、捕捉分子は、リガンドに対して特異的に結合する受容体またはそのリガンド結合フラグメントを含む。
【0069】
本開示の態様は、さらに、疑似インビボ条件下で生体分子を選択する方法に関する。開示した方法は、例えば、前臨床または臨床試験でのさらなる研究のために、潜在的な候補治療用モノクローナル抗体のセットなどの生体分子のセットをスクリーニングするために使用することができる。実施形態では、この方法は、生物学的に適切な分子密集剤と標的生体分子(第1の標的生体分子など)とを含む溶液をバイオセンサーに接触させる工程を含む。バイオセンサーの表面は、標的分子に対して特異的に結合する捕捉分子を含み、その結果、バイオセンサーに対する標的生体分子の(捕捉分子を介して媒介した)結合を、評価、及び/または、決定することができる。実施形態では、第1の標的生体分子は、関心対象である2つ以上の標的生体分子のセットから選択する。バイオセンサーは、例えば、平衡に達したときに、標的生体分子が捕捉分子に対して結合するのに十分な時間、溶液で、インキュベートすることができる。次に、捕捉分子に対して結合した標的生体分子の量を、バイオレイヤー干渉法を使用して決定する。
【0070】
実施形態では、この方法は、インビボ条件を模倣する第2の溶液などの溶液をバイオセンサーと接触させる工程をさらに含み、第2の溶液は、関心対象である2つ以上の生体分子のセットから選択する第2の標的生体分子を含む。バイオセンサーは、例えば、平衡に達したときに、第2の標的生体分子が捕捉分子に対して結合するのに十分な時間、溶液で、インキュベートすることができる。次に、捕捉分子に対して結合した第2の標的生体分子の量を、バイオレイヤー干渉法を使用して決定する。実施形態では、捕捉分子に対して結合した第2の生体分子の量を、捕捉分子に対して結合した第1の生体分子の量と比較して、第1の生体分子、及び、第2の生体分子での結合量が大きい方を特定する、例えば、生物学的に適切な密集剤での捕捉分子に対するそれぞれの結合に関する生体分子(例えば、抗体、二重特異性抗体、または、融合タンパク質)の等級付けを行う。このプロセスは、関心対象であるモノクローナル抗体のセットなど、関心対象である生体分子のセットでのあらゆる数の生体分子に対して反復できる、と考えられる。等級付けを使用して、さらなる分析のために、セット内からモノクローナル抗体を選択することができる。特定の実施形態では、生体分子は、インビボ適合性に基づいて選択する。実施形態では、第2の溶液、または第3、第4などは、個々の標的生体分子(複数可)が存在すること以外は、第1の溶液と同一である。したがって、本明細書に開示した方法を使用して、捕捉分子に特異的なモノクローナル抗体のセットから選択する2つ以上のモノクローナル抗体など、2つ以上の標的生体分子の結合を比較することができる。実施形態では、捕捉分子に対して結合した第1および/または第2の標的生体分子の量を、上記したようにして、対照と比較し得る。
【0071】
特定の実施形態では、生物学的に適切な密集剤(例えば、HSA)は、約1g/L~約100g/Lの間の濃度、例えば、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または、100g/Lなど、例えば、約35~50、25~40、または、10~80g/Lなどで存在する。一部の実施形態では、この方法を、様々な濃度の生物学的に適切な分子密集剤、例えば、約1g/L~約100g/Lで実施し、例えば、密集剤の濃度の高まりに対する標的分子の応答を決定する。実施形態では、この方法は、分子密集剤の2つ以上の濃度での結合量を決定して、例えば、用量反応曲線を作成することを含む。
【0072】
実施形態では、密集剤は、HSAであり、または、HSAには、例えば、FAの効果を決定するために、脂肪酸(FA)を担持させている。一部の実施形態では、溶液は、生理学的成分、または、さらなる生理学的成分、例えば、IgG、トランスフェリン、フィブリノーゲン、IgA、α2-マクログロブリン、IgM、α1-アンチトリプシン、ハプトグロビン、α1-酸性糖タンパク質、アポリポタンパク質A-1、アポリポタンパク質A-11、または、血液もしくは血清試料に認められるその他のタンパク質成分などを含む。実施形態では、生物学的に適切な分子密集剤は、血清および/または血漿を含む。
【0073】
実施形態では、溶液は、生理学的pH、例えば、中性pH付近の単一の生理学的pHのものである。しかしながら、この方法は、様々なpHで実施できることを想定している。特定の実施形態では、この方法は、2つ以上のpHでの結合量を決定して結合のpH依存性を決定する工程をさらに含む。
【0074】
実施形態では、溶液は、生理学的塩濃度である。特定の実施形態では、この方法は、2つ以上の塩濃度での結合量を決定して結合の塩依存性を決定する工程をさらに含む。
【0075】
捕捉分子は、共有結合および/または化学的架橋を含むあらゆる数の手段を介してバイオセンサーに付着し得る。次に、標的生体分子は、捕捉プローブに対する特異的結合を介してバイオセンサーに付着し得る。バイオセンサー、試薬、及び、反応容器の操作は、ロボットで行い得る。バイオセンサーによる標的生体分子の捕捉は、例えば、抗原に関する特異的抗体親和性を含む、標的分子の特異的認識に依存している。選択した捕捉分子を、当業者が利用可能なあらゆる方法によって、適切な基板上に固定化する。例えば、捕捉分子は、基板上の選択した官能基に直接に結合させることができる。あるいは、捕捉分子は、リンカーまたはスペーサーを介して基質に対して間接的に連結することができる。図12に例示したように、ストレプトアビジンは、バイオセンサーの表面に結合しており、そして、捕捉分子は、ストレプトアビジンがビオチン(図12に示す例では、ビオチン標識抗原)に結合することで、バイオセンサーに動員される。一部の事例では、選択した捕捉分子を、ストレプトアビジン(または、ビオチン)に対する結合を介して固定化し、次いで、基質に共有結合しているビオチン(または、ストレプトアビジン)部分を介して、基質に付着させることができる。特定の実施形態では、捕捉分子は、リンカーによってセンサーの表面に連結される。特定の実施形態では、リンカーは、ビオチンと、ストレプトアビジンまたはアビジンとを含む。ある例では、標的分子は、ヒト化抗体などの抗体であり、そして、捕捉分子は、抗ヒトIgG Fcなどの抗IgG Fcである。
【実施例0076】
以下の実施例は、当業者に対して、本発明の方法を再現及び使用する手順の完全な開示と説明を提供するために用意したものであり、そして、本発明者らが本発明と見なす範囲の制限は意図していない。使用する数値(例えば、量、温度など)に関して正確を期するための努力を尽くしてきたが、幾らかの実験誤差と偏差は考慮すべきである。特に断りの無い限り、部は、重量部、分子量は、平均分子量、温度は、摂氏度、室温は、約25℃、そして、圧力は、大気圧またはその近似圧である。
【0077】
実施例1:バイオレイヤー干渉法によるタンパク質機能に関する高分子密集の効果の測定
分子レベルでは非常に複雑であるが、適度に高レベルのタンパク質濃度(10g/Lのオーダー)で認められる理想性からの逸脱は、第2の浸透ビリアル係数で簡便に表現し得る(Neal,B.L.,Asthagiri,D.& Lenhoff,A.M. Molecular origins of osmotic second virial coefficient of proteins.Biophys J75,2469-2477,doi:10.1016/S0006-3495(98)77691-X(1998))。自己(B22)及び交差(B23)ビリアル係数は、それぞれ、単一及び複数のタンパク質種を含む溶液での弱い非特異的なタンパク質-タンパク質の間の相互作用を特徴決定する。多角度静的光散乱(MALS)は、理想的な限度で、タンパク質などの様々な高分子のモル質量を測定できる第1の原理分析法である。したがって、静的光散乱法は、モル質量の濃度依存性から、正味の相互作用(タンパク質-タンパク質、及び、タンパク質-溶質)を反映し、かつ、溶液でのすべての種の体積効果を除外する、第2のビリアル係数を決定するために、一般的に使用されている(Alford,J.R.,Kendrick,B.S.,Carpenter,J.F.& Randolph,T.W. Measurement of the second osmotic virial coefficient for protein solutions exhibiting monomer-dimer equilibrium.Analytical biochemistry 377,128-133,doi:10.1016/j.ab.2008.03.032(2008))。組成勾配多角度光散乱(CG-MALS)では、光散乱検出器を、必要に応じて、それぞれが異なる分子を含む最大で3つの異なる溶液を同時に注入できる自動シリンジポンプシステムの下流に配置する(Some,D.,Kenrick,S.in Protein Interactions(ed Jianfeng Cai)(InTech,2012))。このバッチモードでは、溶液でのすべての溶質の重量平均モル質量が決定され、そして、限られた事前知識で結合相互作用の定量分析を提供できる。CG-MALSの幾つかの実装が、タンパク質と、その他の高分子との間の特異的及び非特異的な相互作用を特徴決定するために開発されている。非特異的なタンパク質-タンパク質の間の相互作用の場合、CG-MALSシステムには、単一の実験から自己ビリアル係数と交差ビリアル項の両方を抽出できるという利点がある。使用する十分に確立された分析アルゴリズムに加えて、この手法の堅牢性により、広範な濃度範囲で、タンパク質溶液での相互作用の効率的かつ比較的簡便な特徴決定が可能になる(Some,D.,Pollastrini,J.& Cao,S. Characterization Reversible Protein Association at Moderately High Concentration Via Composition-Gradient Static Light Scattering.J Pharm Sci 105,2310-2318,doi:10.1016/j.xphs.2016.05.018(2016))。
【0078】
CG-MALS法は、2つの種の間での非特異的相互作用の程度と性質を決定する上で非常に便利であるが、しかしながら、濃度が10g/Lを超えるような系では、データ分析が、さらに煩雑になってしまい、そして、精度が低下する。これにより、濃度範囲を生理学的に適切な範囲にまで広げた代替方法、ならびに、特異的な機能的結合事象に関する非特異的相互作用の影響にかかる研究を展開する代替方法の探求に至った。バイオレイヤー干渉法(BLI)は、反応速度と結合親和性の決定など、特定の高分子相互作用を測定するための無標識光学技術である(Abdiche,Y.,Malashock,D.,Pinkerton,A.& Pons,J. Determining kinetics and affinities of protein interactions using a parallel real-time label-free biosensor, the Octet.Analytical biochemistry 377,209-217,doi:10.1016/j.ab.2008.03.035(2008),Fang,Y.,Li,G.& Ferrie,A.M. Non-invasive optical biosensor for assaying endogenous G protein-coupled receptors in adherent cells. Journal of pharmacological and toxicological methods 55,314-322,doi:10.1016/j.vascn.2006.11.001(2007),Rich,R.L.& Myszka,D.G. Survey of the year 2006 commercial optical biosensor literature. Journal of molecular recognition:JMR 20,300-366,doi:10.1002/jmr.862(2007))。BLIは、内部リファレンス層、及び、バイオセンサーチップ上の固定化タンパク質の層(すなわち、バイオレイヤー)から反射した白色光の干渉パターンを分析する。結合事象は、バイオレイヤー上の分子の数を増やし、リアルタイムでモニタリングできる干渉パターンのシフトを生成する。この方法は、タンパク質-タンパク質の間の相互作用(Shah,N.B.& Duncan,T.M. Bio-layer interferometry for measuring kinetics of protein-protein interactions and allosteric ligand effects. Journal of visualized experiments:JoVE,e51383,doi:10.3791/51383(2014))、タンパク質-リガンドの間の相互作用(Frenzel,D.& Willbold,D. Kinetic titration series with biolayer interferometry. PloS one 9,e106882,doi:10.1371/journal.pone.0106882(2014))、タンパク質-核酸の間の相互作用(Park,S.et al. Structural Basis for Interaction of the Tandem Zinc Finger Domains of Human Muscleblind with Cognayte RNA from Human Cardiac Troponin T.Biochemistry 56,4154-4168,doi:10.1021/acs.biochem.7b00484(2017),Sultana,A.& Lee,J.E. Measuring protein-protein and protein-nucleic Acid interactions by biolayer interferometry. Current protocols in protein science 79,19 25 11-26,doi:10.1002/0471140864.ps1925s79(2015))、及び、小分子とペプチドスクリーニング(Wartchow,C.A.et al.Biosensor-based small molecule fragments scReening with biolayer interferometry. Journal of computer-aided Molecular Design 25,669-676,doi:10.1007/s10822-011-9439-8(2011))などの評価のために使用している。
【0079】
本明細書では、簡略化した系において、これらの原理を実証するために、ヒト血清アルブミン(HSA)を使用して、密集した溶液でのmAb:抗原相互作用に関する非特異的相互作用の影響を測定する方法を開示している。アルブミンは、35~50g/Lの生理学的濃度範囲で、血清中の体積分率の大部分を占めており、かつ、生理学的pHでは負に帯電するので、正味の正(または負)の電荷、または、溶媒に曝した表面を担持する生物学的製剤との静電的会合(または反発)を招き得る。この目的のために、HSAと、同じ抗原に結合する2つの組換え完全ヒトIgG4モノクローナル抗体(mAb1、及び、mAb2)との間の非特異的相互作用を、まず、CG-MALSを使用して、二成分(HSA、及び、mAb)系で、次に、バイオレイヤー干渉法(BLI)を使用して、三成分(HSA、mAb、抗原)系で研究した。これらのmAbは、抗原上の異なるエピトープを標的とする相補性決定領域(CDR)を除けば、配列が非常に類似している。二成分系は、十分に確立された光散乱方法論を使用して、生理学的タンパク質濃度に満たない濃度でのHSAとmAbとの間の非特異的相互作用が、イオン強度依存性と、mAb特異性の両方であることを実証した。mAbの機能特性に関するこれらの相互作用の効果をさらに解明するために、BLIを、非標準的な方法で利用して、低濃度から生理学的HSA濃度に至る濃度でのmAbによる抗原結合を評価した。BLIの結果は、CG-MALSデータと相関しており、高濃度HSAの存在下でのBLIのこの新規の使用は、抗体:抗原結合などの非常に特異的な機能的相互作用に関する密集に起因する非特異的相互作用の影響を直接に評価できることを実証している。本明細書に提示した結果は、血清での高濃度のHSAが、mAbとの非特異的相互作用をもたらし、抗体機能に潜在的な影響を与えることを実証している。この効果は、イオン強度が低ければ特に顕著であるが、この特定のmAbセットに関する生理学的イオン強度では軽減されるが、しかしながら、この傾向は、必ずしも、その他のすべてのmAb:抗原系にまで及ぶわけではない。生物学的製剤の開発の初期段階でこの手法を利用することで、非特異的相互作用の効果を容易に検出することができる;逆に、このタイプの研究は、インビボでの予期しない結果に関する懸念事項を払拭することもできる。制御された単純な系に適応分析を備えたBLIプラットフォームを使用して、本発明者らは、非特異的相互作用の機能的影響を決定できること、結果の広がり具合を詳しく研究する段階を設定して、高分子密集、及び、タンパク質の非理想性が、より複雑な溶液で認め得ることを実証した。
【0080】
材料と試薬調製:この研究で使用したすべてのモノクローナル抗体は、リサーチグレードであり、Regeneron Pharmaceuticals,Inc.のPreClinical Manufacturing and Process Development Department(Tarrytown,NY)で製造したものである。すべての抗体は、完全なヒトIgG4分子であり、また、IgG1ヒンジ配列を再現して、IgG4二量体形成を安定化するために、ヒンジ領域に変異S108Pを含んでおり、そして、これらは、チャイニーズハムスター卵巣細胞からクローニングしたRegeneron独自の細胞株で産生した。凍結乾燥ヒト血清アルブミン(HSA)、Ficoll 70、及び、溶液成分は、Sigma-Aldrich(St. Louis,MO)、または、VWR(Radnor,PA)から入手しており、そして、それらは、入手可能な最高グレードのものであった。
【0081】
モノマーHSAは、凍結乾燥したHSAを、10mM NaClを補充したリン酸緩衝剤(1.8mM KHPO、10mM NaHPO、2.7mM KCl、pH7.4)に溶解し、そして、同じ緩衝剤で平衡化した、HiLoad 26/100 Superdex 200サイズ排除カラム(GE Healthcare Little Chalfont,UK)で精製して調製した。精製した後に、10kDaカットオフの遠心フィルター(Amicon,Billerica,MA)を使用して、HSAを、約100~130g/Lに濃縮した。抗体は、CG-MALS実験と同様の方法で調製した。HSA濃度は、35,700M-1cm-1の吸光係数を使用して、UVλ=280nmで、SoloVPE分光光度計で決定した。BLI測定に関しては、高濃度mAb製剤(>50g/L)を、10mM NaClを補充したリン酸緩衝剤で希釈して、mAbの原液(1g/L)を調製し、そして、平衡実験において、40nMの最終濃度で使用した。タンパク質濃度は、mAb1に関しては、103,555M-1cm-1、mAb2に関しては、100,700M-1cm-1の吸光係数を使用して、UVλ=280nmで決定した。凍結乾燥したFicoll 70を、10mM NaClを補充したリン酸緩衝剤に溶解し、そして、一晩、穏やかに回転させて可溶化を促して、Ficoll 70の原液(600mM)を調製した。抗原を、製造業者の標識化プロトコルに従って、ビオチン-ヒドラジド(Thermo Fisher,Waltham,MA)でビオチン標識した。
【0082】
糖タンパク質抗原を、製造業者の標識化プロトコルに従って、ビオチン-ヒドラジド(Thermo Fisher,Waltham,MA)を使用して、単一グリカンにてビオチン標識した。簡単に説明すると、0.1M酢酸ナトリウム、pH4.7を使用して、8g/Lメタ過ヨウ素酸ナトリウム(Sigma-Aldrich)の溶液を作成し、そして、抗原と混合し、ホイル内で、室温で、15分間回転させた後に、1%(v/v)グリセロールで反応停止した。酸化した抗原を、0.1Mリン酸ナトリウム、pH6.0を入れたSuperdex 75 Increase 10/300カラム(GE Healthcare Little Chalfont,UK)で溶出した。抗原を含む画分をプールして濃縮し、10倍モル過剰のビオチン-ヒドラジドと共に、室温で、2時間、インキュベートした。標識した抗原は、10mM NaClを補充したpH7.4のリン酸緩衝剤で平衡化した同じカラムから溶出した。
【0083】
弱陽イオン交換クロマトグラフィー:弱陽イオン交換クロマトグラフィーを、200mM MES、20mM NaCl、pH6.5で平衡化したProPac WCX-10(4mm×250mm)液体クロマトグラフィーカラム(Thermo Fisher)で実施した。タンパク質をしっかりと注入し、それぞれの試料の10μgを、ACQUITY UPLCシステム(Waters,Milford,MA)のカラムに、0.5mL/分の流速で適用した。タンパク質の溶出には、20~500mM NaClの範囲の勾配を使用した。
【0084】
組成勾配多角度光散乱(CG-MALS):すべてのタンパク質を、適切な緩衝剤に対して、一晩、透析を行った;すべての緩衝剤を、0.02μmのフィルターに通し、そして、すべてのタンパク質試料を、0.1μm Anotop 25 Plusシリンジフィルター(Whatman,Maidstone,UK)に通し、次いで、使用前に、約25トールで、10分間、真空脱気した。第1のタンパク質原液は、ろ過前に、手作業で、約10g/Lに希釈した。miniDAWN TREOS MALS光度計と、Optilab T-rEXインライン示差屈折計(Calypsoシステム、及び、Wyatt Technology,Santa Barbara,CAの両方の検出器)とを組み合わせたCalypso組成勾配システムを利用して、クロスオーバー勾配スキームを用いて、HSA、mAb、及び、それらの混合物の静的光散乱測定値を収集した。簡単に説明すると、Calypsoポンプシステムは、HSAを、1g/L刻みで、1~10g/Lの濃度に自動的に希釈して注入するようにプログラムしていた(10回の注入、または、ステップ)。希釈していない(10g/L)HSAを注入すると、一連の10回の注入で、mAbの濃度が10%増加したため(クロスオーバー期間)、HSAの濃度を10%減少させた。希釈していないmAb(10g/L)を注入した後、その濃度は、一連の9回の注入によって、1g/Lの増分で減少した。この濃度は、生理学的条件を反映していないが、交差ビリアル係数の決定に関して推奨された最大最適濃度である。各ステップで、適切に希釈/混合した試料の2mLボーラスを注入して、検出器フローセルを完全に飽和させ、次の濃縮/混合ステップを作成して注入する前に、静止条件下で、90秒間、データを得た。ベースライン測定値は、勾配プログラムの直前と直後に取得した。角度に依存する有意な光散乱が無いことを確認した後に、90°光散乱検出器からのデータだけを分析に使用した。機器制御、データ収集、及び、データ分析(Some,D.,Kenrick,S.in Protein Interactions(ed Jianfeng Cai)(InTech,2012),Some,D. Light-scattering-based analysis of biomolecular interactions.Biophys Rev 5,147-158,doi:10.1007/s12551-013-0107-1(2013))はすべて、Calypsoソフトウェア(Wyatt Technology)を使用して、実行した。
【0085】
バイオレイヤー干渉法:バイオレイヤー干渉法試験は、Streptavidin(SA、カタログ番号18-5019)を備えたOctet Red96、または、抗ヒトIgG Fc捕捉(AHC、カタログ番号18-5064)でコーティングしたバイオセンサーチップ(ForteBio,Menlo Park,CA)を使用して行った。96ウェルプレートに、200μLの溶液(緩衝剤、抗原、HSA、または、mAb)を充填し、そして、1,000rpmで攪拌を行い、そして、すべての実験を、25℃で温度制御した。溶液が蒸発したので、高温になることは避けられた。すべての試験に関して、低塩濃度(10mM NaCl)、または、生理学的塩濃度(137mM NaCl)にて、室温で、20分間、補充したリン酸緩衝剤、pH7.4で、SA、または、抗ヒトFcチップを水和した。記載したすべての緩衝剤と試料溶液は、特に断りが無い限り、0.1g/L HSAを含んでいた。分析物の非存在下で、チップを緩衝剤に浸して、ベースライン控除を行った。
【0086】
抗体をロードしたチップに対する抗原の結合を測定する標準的な実験は、AHCチップを使用して行った。0.1g/L HSAを補充した低塩濃度、または、生理学的塩濃度のリン酸緩衝剤に入れたAHCチップを、2分間、ベースライン測定した後に、2.5μg/mL抗体と共にチップをインキュベートして、約0.6nmの応答を達成した。次に、抗体をロードしたチップを緩衝剤に浸して、過剰なmAbを2分間かけて除去した後に、様々な濃度の未標識抗原、一般的には、2.5~50nMのものと、100~300秒間の会合ステップを行った。解離ステップのために、チップを、750秒間、緩衝剤に浸した。両方のmAbに関して、10mM及び137mM NaClで、ビオチン標識抗原について同じ手順を行った。
【0087】
SAチップを使用して、抗原をロードしたチップに対する抗体の結合を測定する標準的な結合試験を実施した。0.1g/L HSAを含む低塩分、または、生理学的塩分リン酸緩衝液にて、SAチップを、2分間、ベースラインで測定した後に、これらのチップを、5μg/mLビオチン標識抗原と共にインキュベートして、約0.6nmの応答を達成した。次に、抗原をロードしたチップを緩衝剤に浸して、過剰な抗原を2分間かけて除去した後に、様々な濃度、一般的には、2.5~50nMの未標識抗原を用いて、900秒間の会合ステップを行った。解離ステップのために、これらのチップを、1800~3600秒間、緩衝剤に浸した。両方のmAbに関しては、10mM、及び、137mM NaClについて、同じ手順を実行した。
【0088】
最大で50g/LのHSAの存在下での抗原に対するmAb結合の定常状態分析には、HSAでのさらなるインキュベーションステップが必要であった。抗原をロードした後に、センサーを、0.1~50g/L HSAを含むウェルに浸し、約15分間かけて平衡化した後に、同じ組成の新たな溶液で2分間インキュベートをして、HSAインキュベーションの際のシグナルのわずかな増加に起因する新たなベースラインを確立した(図7、ステップBを参照されたい)。次に、第2の会合ステップとして、40nM mAbと、0.1~50g/L HSAとを含むウェルに、センサーを20分間浸した。すべての平衡実験で、抗原会合ステップに対するmAb結合の完了時のシグナル応答(nm)を 測定基準として使用した。HSA>0.1g/Lの存在下で、mAb:抗原結合を測定するあらゆる実験では、速度論的分析は行わなかった。それぞれのHSA濃度で得た生応答(nm)を、0.1g/L HSAでのmAb:抗原結合の生応答で割って、データを1.0に正規化した。すべての実験は、3回行った。一元配置分散分析(ANOVA)を、JMPソフトウェア(SAS Institute,Cary,NC)を使用して、それぞれの条件で実行して、mAb1とmAb2との差異が、p値の決定を通じて統計的に有意であるか否かを評価した。
【0089】
Ficoll 70を含む実験は、HSAを、Ficoll 70に置き換えて、同様の方法で実行した。200g/L以上のFicoll 70を含む実験では、粘度が上昇するので、平衡を達成するためには、抗原に対して結合するmAbの会合時間を長くする必要があった(約1.7~3時間)。
【0090】
mAb1/HSA及びmAb2/HSAの非特異的相互作用のイオン強度依存性:異なるイオン強度でのHSAとそれぞれのmAbとの間の非特異的相互作用を、交差ビリアル係数(CVC)を決定するための確立した手法である、組成勾配多角度光散乱(CG-MALS)を使用して調べた。この手法は、BLIによる分析の前に、HSAとmAbとの間の非特異的相互作用の程度と性質の両方を決定して、データを入念に解釈するために適用した。幾名かの研究者は、厳密な熱力学的原理に基づいて、静的光散乱から決定したビリアル係数は、純粋な自己または交差相互作用パラメーターではなく、タンパク質:共溶質(すなわち、緩衝剤、または、電解質)相互作用と関係している、と指摘している(Alford,J.R.,Kendrick,B.S.,Carpenter,J.F.& Randolph,T.W. Measurement of the second osmotic virial coefficient for protein solutions monomer-dimer equilibrium.Analytical biochemistry 377,128-133,doi:10.1016/j.ab.2008.03.032(2008),Deszczynski,M.,Harding,S.E.& Winzor,D.J. Negative second viral coefficient as predictors of protein cRystal growth:evidence from sedimentation equilibrium studies that refutes the designation of those light scattering parameters as osmotic virial coefficients.Biophys Chem 120,106-113,doi:10.1016/j.bpc.2005.10.003(2006),Winzor,D.J.,Deszczynski,M.,Harding,S.E.&Wills,P.R. Nonequivalence of second virial coefficients from sedimentation equilibrium and static light scattering studies of protein solutions.Biophys Chem 128,46-55,doi:10.1016/j.bpc.2007.03.001(2007))。したがって、好ましい従来技術は、光散乱分析から得たビリアル係数をAと称して、モル条件(B22)とそれとを区別している。タンパク質が高度に帯電しておらず、かつ、共溶質が単純な緩衝液と電解質である場合、A(本明細書で使用した)とB22との間の数値的な差異は最小である。同様に、光散乱測定で得たCVC、または、A23は、2つの種の間の非特異的相互作用の性質と程度の指標であり、そして、それらを、10~750mM NaClを含む緩衝液でのmAb1/HSA、及び、mAb2/HSA相互作用に関して測定をした(図1)。A23が負の値であれば、2つの種の間の求引力を示し、逆に、正の値であれば、反発力を示す。10mM NaClの濃度では、mAb1/HSAとmAb2/HSAの両方が、求引力を示しており、mAb2/HSAと比較して、mAb1/HSAとの間でより強い力が認められた。この現象は、イオン強度が強くなるにしたがって軽減した。生理学的イオン強度(約137mM NaCl)では、mAb1とHSAとの間の非特異的相互作用は、わずかに求引的であったが、mAb2とHSAとの間の相互作用は、わずかに反発的であった。このことは、HSAとの非特異的相互作用のイオン強度依存性と、mAb依存性の両方を示す。これらの相互作用における静電気の役割を決定するために、分子を、イオン交換クロマトグラフィーで評価した。
【0091】
クロマトグラフィー法は、mAb1とmAb2は、異なる表面特性を有していることを示す:mAb1とmAb2の表面特性を調べて、HSAとの非特異的相互作用の程度の違いが、分子間の広範囲電荷-電荷相互作用に起因するものか否かを判断した。続いて、弱陽イオン交換クロマトグラフィーを実行して、2つのmAbの表面特性を、より具体的に評価した。これらの実験は、mAb1の保持時間(約13分)が、mAb2の保持時間(約6分)よりも大幅に長いことを示しており、荷電カラム樹脂との相互作用が強いことを示す(図2)。同様に、HSAに関するクロマトグラフィープロファイルを評価しており、そこでは、2つのmAbと比較して非常に短い保持時間(約2分)で溶出して、より酸性の表面電荷を示した。疎水性相互作用クロマトグラフィーを用いたmAbの評価では、溶出量の差異は最小であり(データ示さず)、このことは、mAbとHSAとの間の非特異的相互作用の差異が、疎水性相互作用に起因するものではなく、本質的に静電的である可能性が高いことを示すものであった。総合すると、これらのデータは、それぞれのmAbの表面特性が、HSAとの非特異的相互作用の程度と性質に重要な役割を果たす可能性があることを実証している。これらの相互作用、ならびに、mAbの機能特性に関するそれらの影響をさらに評価するために、バイオレイヤー干渉法を使用して、HSAの非存在下及び存在下での、抗原に対するmAbの結合親和性を調べた。
【0092】
2つのmAbは、バイオレイヤー干渉法では、同様の結合親和性で、ビオチン標識抗原に対して結合する:これらの2つのmAbの結合特性に関する生理学的に適切なレベルのHSAの効果を評価するために、バイオレイヤー干渉法(BLI)を使用して、それらに共通する抗原に対するmAbの会合をモニタリングした。系と試薬を試験するために、抗ヒトIgG Fc捕捉(AHC)バイオセンサーチップを使用して、標準的な親和性測定実験を行い、mAb1またはmAb2をチップにロードし、そして、低塩濃度、及び、生理学的塩濃度条件において、未修飾抗原、または、ビオチン標識抗原のいずれかとの抗原結合を測定した(図8A~8H)。これらの実験のデータを、表1にまとめており、そして、kon、koff、及び、Kに関して、先に生成したBiacore表面プラズモン共鳴(SPR)データ(データ示さず)と強い類似性を示している。
【0093】
(表1)抗ヒトFc捕捉バイオセンサーチップを用いたBLIで実行した反応速度アッセイで得た結合反応速度パラメーター
【0094】
標準的な親和性測定実験を、抗原をロードしたバイオセンサーチップを使用して実行して、抗体結合を検出した。このことを行うために、抗原を、部位特異的にビオチン標識し、そして、ストレプトアビジンでコーティングしたバイオセンサーチップにロードした。mAbではなく、小さな抗原を固定化することで、抗体の結合に起因する応答の変化(nm)が、より顕著なシグナルを与えて、ノイズに対するシグナルを増やした。図3は、理想溶液条件下で、それぞれのmAbに関する結合親和性を決定するために実行した標準BLI試験の結果を示す。緩慢な解離反応速度は、見かけのKの正確な推定を可能にするものではないが、緊密な結合は、ナノモルに満たない機能的結合親和性を示しており、このことは、Biacore SPRデータと一致している(図示せず)。
【0095】
理想溶液及び実験条件下で実施した反応速度結合試験は、以前に実施したBiacore SPR研究(データ示さず)と一貫した結果を示しており、そして、調製した試薬が、完全に活性であることを確立した後に、ビオチン標識抗原に対するmAb結合を、高濃度で、生理学的に適切な濃度のHSAの存在下で調べた。シグナルの増減のモニタリングを可能にし、そして、おおよその生理学的投与濃度である約550nMをはるかに下回っている40nM mAbの濃度での抗原に対する結合の応答レベルであったので、この濃度を、その後のすべての結合実験で選択した。
【0096】
抗原に対するmAb結合に関するHSAの全体的な効果は、イオン強度に依存しており、かつ、mAb特異的である:mAb-抗原結合に関するHSAの効果を調べるために、非理想溶液条件下でBLI試験を使用して、定常状態、終点データを分析した。それぞれのmAbを用いた長い(20分)会合ステップの後の定常状態応答(nm)レベルをモニタリングして、平衡状態、または、ほぼ平衡状態のHSAの存在下で達成した抗原に対する結合レベルを決定した。親和性フォーマットと、HSAの濃度の増大に伴って高まった複雑さが故に、反応速度的(オン、及び、オフレート)分析は実施しなかった。HSAが抗原と相互作用しないことを実証するために、抗体の非存在下で、HSAだけを用いて対照も実施した(データ示さず)。図4は、10mMまたは137mM NaClのいずれかで、10g/L HSAが存在及び非存在である場合のmAb1及びmAb2のセンサーグラムを示す。これらのデータは、HSAの効果が、2つのmAbに関する2つのイオン強度条件を有するという差異を定性的に示しており、イオン強度依存性と、HSAとのmAb相互作用との両方についての差異を実証している。低塩分では、HSAの効果は、mAb2よりもmAb1で大きく、HSAの添加時の違った応答に反映される。生理学的塩分では、10g/L HSAの影響は、抗原と、いずれかのmAbとの相互作用に関しても最小限である。これらの結果は、上記したCG-MALSデータと相関しており、そして、mAbの機能特性に関する潜在的な効果を明らかにしている。
【0097】
HSA濃度の高まりの効果を、低塩分条件と、生理学的塩分条件とでさらに例示しており(図5)、様々なHSA濃度の平衡状態での応答レベルを、0.1g/L HSAレベルに正規化した。10mM NaClでは、mAb2は、HSA濃度の高まり(約20%)に伴って、応答がわずかに減少した(すなわち、抗原結合が減少した)が、mAb1は、より劇的な減少を示した(約40%;図5A、表2)。137mM NaClでは、両方のmAbが、20g/L未満のHSA濃度で、抗原結合の適度な増加を示した;HSA濃度が高くなると、抗原結合に関するHSAの効果は、mAb2と比較して、mAb1の方が大きい(図5B、表3)。HSAの非存在下でのmAb結合の応答(図5Bの点線で示した)と比較して、mAb1のシグナルは約10%減少しており、一方で、mAb2に関するシグナルは、生理学的HSA範囲で約6%高まった(35~50g/L、表4)。このように認められた結合事象は、抗原結合に対して特異的であった;この抗原に結合しない対照mAb(mAb3)は、0.1~50g/L HSAの存在下で、シグナル、または、結合の増加を示さなかった(図9)。
【0098】
(表2)10mM NaClでのHSAの存在下での結合応答に関する正規化した値
【0099】
(表3)137mM NaClでのHSAの存在下での結合応答に関する正規化した値
【0100】
(表4)HSAでのmAb1及びmAb2のANOVAの結果のまとめ
*は、p値<0.05を示す
【0101】
密集剤Ficoll 70は、抗原に対するmAb結合に関して同じ効果をもたらさない:mAb/抗原結合に関してHSAで認められた効果が、mAbとHSAとの間の非特異的相互作用、または、ごく一般的な高分子密集効果のいずれに起因しているのかを決定するために、抗原に対するmAb結合を、密集剤として頻繁に使用されている高溶解性多糖類であるFicoll 70を等濃度で存在させて評価した(Zhou,H.X.,Rivas,G.& Minton,A.P. Macromolecular crowding and confinement:biochemical,biophysical,and potential physiological consequences.Annu Rev Biophys 37,375-397,doi:10.1146/annurev.biophys.37.032807.125817(2008)。Ficoll 70は、タンパク質と特異的な相互作用をしない無色の約70kDaのポリマーである。HSA実験で使用した濃度と同等のFicoll 70の濃度で、10及び137mM NaClで、抗原に対して結合するmAb1及びmAb2の正規化した応答での変化は、殆ど、または、全く認められなかった(0~50g/L、図6)。密集研究で使用した濃度と忠実に同等であったFicoll 70の濃度でも結合を評価した(100~300g/L、図6)。予想した通り、これらの濃度のFicoll 70において、特に、mAb1に関して、抗原に対するmAb結合の緩慢な反応速度では、平衡応答レベルをほぼ達成するためには、会合相の延長が必要であった(ウェル溶液の蒸発を防ぐために、全体の時間を、約3時間に制限した;図6C及び6D)。低塩濃度と生理学的塩濃度の両方について、すべてのFicoll濃度で、抗原結合に関する最小限で、かつ、非常に類似した効果が認められた。これらのデータは、HSAで認められた抗原結合に関する効果が、排除体積効果というごく一般的な現象ではなく、むしろ、HSAとmAbとの間の静電相互作用による可能性が高いことを示唆している。
【0102】
(表5)10mM NaClでのFicoll 70の存在下での結合応答に関する正規化した値
【0103】
(表6)137mM NaClでのFicoll 70の存在下での結合応答に関する正規化した値
【0104】
(表7)FicollでのmAb1及びmAb2のANOVAの結果のまとめ
*は、p値<0.05を示す
【0105】
高分子密集は、生物学では遍在している。密集した溶液でのタンパク質の間に結果として生じる非理想的な相互作用は、タンパク質の挙動と機能に大きく影響すると予測されている(Minton,A.P. The influence of macromolecular confinement on biochemical reactions in physiological media.The Journal of biological chemistry 276,10577-10580,doi:10.1074/jbcR100005200(2001),Hu,Z.,Jiang,J.& Rajagopalan,R. Effects of macromolecular crowding on biochemical reaction equilibria:a molecular thermodynamic perspective.Biophys J 93,1464-1473,doi:10.1529/biophysj.107.104646(2007),Wei,J.,Dobnikar,J.,Curk,T.& Song,F. The Effect of Attractive Interactions and Macromolecular Crowding on Crystallins Association.PloS one 11,e0151159,doi:10.1371/journal.pone.0151159(2016))。これらの高度に非線形な効果の特定の性質は、幾つかの報告で異なる結論が導かれていることから明らかなように、大抵の場合、予測が難しい(Kuznetsova,I.M.,Turoverov,K.K.& Uversky,V.N. What macromolecular crowding can do to a protein.Int J Mol Sci 15,23090-23140,doi:10.3390/ijms151223090(2014),Minton,A.P. Implications of macromolecular crowding for protein assembly.Curr Opin Struct Biol 10,34-39(2000))。様々な高分子密集剤を使用した限られた件数の研究では、平衡定数と反応速度に対して相当の影響を及ぼしており、大抵の場合、数ログのオーダーであるとされている(Minton,A.P. The influence of macromolecular confinement on biochemical reactions in physiological media.The Journal of biological chemistry 276,10577-10580,doi:10.1074/jbcR100005200(2001),Kuznetsova,I.M.,Turoverov,K.K.& Uversky,V.N. What macromolecular crowding can do to a protein.Int J Mol Sci 15,23090-23140,doi:10.3390/ijms151223090(2014),Minton,A.P. Molecular crowding:analysis of effects of high concentratuon of inert cosolutes on biochemical equilibria and rates in terms of volume exclusion.Method Enzymol 295,127-149(1998),Kim,J.S.& Yethiraj,A. Effect on macromolecular crowding on reaction rate:a computational and theoretical study.Biophys J 96,1333-1340,doi:10.1016/j.bpj.2008.11.030(2009),Jiao,M.,Li,H.T.,Chen,J.,Minton,A.P.&Liang,Y. Atractive protein-polymer interactions markedly alter the effect of macromolecular crowding on protein association equilibria. Biophys J 99,914-923,doi:10.1016/j.bpj.2010.05.013(2010))。併せて、このことは、生理学的環境を厳密に複製する条件での非理想性の効果に関する情報の容易な提供を可能にする技術の必要性を浮き彫りにしている。本明細書では、CG-MALSとBLIの2つの補完的な技術を使用して、アルブミンの生理学的濃度が、モノクローナル抗体の機能に及ぼす影響を調べた。2つの種の間の交差ビリアル係数の測定を可能にする、信頼性が大きく、かつ、すでに確立されたツールであるCG-MALSを使用して、システム内の非特異的相互作用の初期理解を得た。次に、非理想溶液条件に適合した定常状態分析を伴うBLI法を利用して、まず、CG-MALSの結果を複製し、そして、生理学的濃度のHSAの下で、抗原結合の平衡測定を行って、これらの観察の範囲を広げた。蛍光検出を備えたAUCなどの直交法では、非理想的な条件での特定の相互作用を測定できる(Wright,R.T.,Hayes,D.B.,Stafford,W.F.,Sherwood,P.J.& Correia,J.J. Characterization of therapeutic antibodies in the presence of human serum proteins by AU-FDS analytical ultracentrifugation.Analytical biochemistry 550,72-83,doi:10.1016/j.ab.2018.04.002(2018),Wright,R.T.,Hayes,D.,Sherwood,P.J.,Stafford,W.F.& Correia,J.J. AUC measurements of diffusion coefficients of monoclonal antibodies in the presence of human serum proteins.Eur Biophys J,doi:10.1007/s00249-018-1319-x(2018))。BLIは、結合相互作用を固有の柔軟性で評価するものであり、高濃度の密集剤で多くの異なる条件を試験する上で便利かつハイスループットな方法として有利であるので、一連の小さな実験での様々な環境での結合に関する情報を提供することができる。この手法は、探索研究の早い段階で、スクリーニングプロセスの間に、mAb、または、その他の分子を、考慮から除外するための簡単で効率的な方法である。
【0106】
様々なタンパク質が提示する溶媒にアクセス可能な表面積の物理化学的複雑さは、非特異的な高分子相互作用の多様性において基本的な役割を果たす。排除体積効果があまり優勢でない中程度のタンパク質濃度(≦10g/L)では、静電気が主要な分子間力である(Elcock,A.H.& McCammon,J.A. Caluculation of weak protein-protein interactions.the pH dependence of the second viral coefficient.Biophys J80,613-625,doi:10.1016/S0006-3495(01)76042-0(2001))。この考え方と符合するように、実験的に認められた異なる基本等電点(約0.65のpH単位だけ相違する)を有するmAb1とmAb2の両方が、CG-MALSを使用して、酸性等電点を持つHSAと相互作用することを示した。これらは特異的な相互作用ではなく、HSAとそれぞれの抗体との間の非特異的な相互作用である。両方の抗体に関して、HSAとの相互作用の大きさは、イオン強度の高まりに伴って軽減することが示されており、静電相互作用は、イオン強度の高まりに伴って効果的にスクリーニングできるので、分子間の主要な作用力が静電的である、ことをさらに示唆している(Roberts,D.et al. Specific ion and buffer effects on protein-protein interactions of a monoclonal antibody.Mol Pharm 12,179-193,doi:10.1021/mp500533c(2015);Roberts,D.et al., The role of electrostatics in protein-protein interactions of a monoclonal antibody.Mol Pharm 11,2475-2489,doi:10.1021/mp5002334(2014))。興味深いことに、生理学的イオン強度の近傍では、mAb1は、HSAとの求引性相互作用を示し続けたが、mAb2は、HSAとは、僅かな反発性相互作用を示すに過ぎなかった。CG-MALSで使用する2成分系システムは、生理学的条件の複雑さを完全には反映しておらず、また、技術的な理由で、生理学的濃度を下回っているが、この分析は、タンパク質の間での非特異的相互作用の程度と性質が、生物学的機能に影響を与え得る、ことを示唆している。これらの抗体は、CDRだけが異なるので、HSAとの弱い相互作用の違いが、この領域で発生する可能性がある。さらに、これらの非特異的相互作用は、タンパク質依存性であり、生理学的環境における機能的及び構造的挙動の広大なスペクトルの可能性を示しており、そして、インビトロの結果と、薬物動態及び臨床の結果との間に時折認められる差異を説明できる可能性がある。合成、及び、タンパク質密集の分子動力学シミュレーションは、生物学的ネットワーク内のタンパク質の構造、動力学、及び、相互作用に関する密集の効果が、機能に影響を与えることができる一時的な相互作用を促し得ることを示している(Candotti,M.& Orozco,M. The Differential Response of Proteins to Macromolecular Crowding.PLoS Comput Biol 12,e1005040,doi:10.1371/journal.pcbi.1005040(2016))。実際のところ、進化的圧力が、非特異的なタンパク質-タンパク質の間の相互作用を最小限に抑えて、複雑さと、タンパク質の乱雑度とを抑制する、という仮説が立てられている(Johnson,M.E.& Hummer,G. Nonspecific binding limits the number of proteins in a cell and shapes their interaction networks.Proc Natl Acad Sci USA 108,603-608,doi:10.1073/pnas.1010954108(2011),Deeds,E.J.,Ashenberg,O.,Gerardin,J.& Shakhnovich,E.I. Robust protein protein interactions in crowded cellular environments.Proc Natl Acad Sci USA 104,14952-14957,doi:10.1073/pnas.0702766104(2007))。加えて、幾つかの関連性が認められない研究では、静電気が、非特異的相互作用の主たる牽引役である、ことを示唆している(Elcock,A.H. Prediction of functionally important residues based solely on the computed energetics of protein structure.J Mol Biol 312,885-896,doi:10.1006/jmbi.2001.5009(2001),Zhang,Z.,Witham,S.& Alexov,E. On the role of electrostatics in protein-protein interactions.Phys Biol 8,035001,doi:10.1088/1478-3975/8/3/035001(2011),Gunasekaran,K.et al., Enhancing antibody Fc heterodimer formation through electrostatic steering effects:applications to bispecific molecules and monovalent IgG. The Journal of biological chemistry 285,19637-19646,doi:10.1074/jbc。M110.117382(2010),Persson,B.A.,Jonsson,B.& Lund,M. Enhanced protein steering:cooperative electrostatic and van der Waals forces in antigen-antigen complexes. J Phys Chem B,10459-10464,doi:10.1021/jp904541g(2009),Wlodek,S.T.,Shen,T.& McCammon,J.A. Electrostatic steering of substrate to acetylcholinesterase:analysis of field fluctuations. Biopolymers 53,265-271,doi:10.1002/(SICI)1097-0282(200003)53:3<265::AID-BIP6>3.0。CO;2-N(2000))。本明細書に示したCG-MALSとクロマトグラフィーのデータは、これらの研究の幅をさらに広げ、そして、タンパク質の表面電荷特性と、それらの電荷から生じる静電相互作用の潜在的な効果を理解することの重要性を明らかにしており、本明細書では、非特異的相互作用が、抗体:抗原結合事象などの機能的相互作用に影響を及ぼすことができる、ことを実証している。
【0107】
マイクロ流体よりはむしろ、ディップ・アンド・リード・デザインを利用することで、バイオレイヤー干渉法は、抗体:抗原結合などの非常に特異的な機能的相互作用に対する、高溶質濃度で誘発する非特異的相互作用の影響を研究する上で役立つ。抗原を固定化し、そして、HSAの濃度を高めたmAb溶液を使用することで、本発明者らは、CG-MALSに使用する条件を緩和して、高濃度の両方のHSAを調べること、そして、親和性をベースとした形式ではあるが、この方法を使用して、3成分相互作用系を確立することができた。重要なことに、抗原結合に関する生理学的HSA濃度の影響は、低イオン強度では、mAb2よりもmAb1の方が大きかったが、生理学的塩レベルでは、HSAの影響は大幅に減少した。生理学的イオン強度でのmAbの間での差異の大きさは、10mM塩で認められたものよりも非常に小さいが、複製内の精度を考慮に入れると、20g/L以上で、統計的に有意である。溶液蒸発に関する現在の技術的問題は、開発過程にある生理学的温度ではなく、周囲温度でのBLI試験を必要としているが、このことは、本明細書で説明するBLI手法が、技術的な問題が故に、周囲温度で行われる光散乱法から得たデータを複製及び展開できることを明確に示唆している。さらに、低イオン強度でCG-MALSで認められた非特異的相互作用は、実際のところ、抗体:抗原相互作用に関して機能的な影響を及ぼしており、そして、この効果は、中程度のHSA濃度では安定状態に見える;例えば、50g/L HSAは、35g/Lよりも、結合に関して、さほど大きな影響を与えない。このことが、ほとんどの治療用mAb、または、その他の生物学的製剤に関する一般的な傾向であるか否かについては不明なままであり、継続的な研究が必要である。血清に含まれる天然のその未精製抗原と会合するmAbを試験したバイオセンサープラットフォームKinExAを使用して行った研究(Bee,C.,Abdiche,Y.N,Pons,J.& Rajpal,A. Determining the binding affinity of therapeutic monoclonal antibodies towards their native unpurified in human serum.PloS one 8,e80501,doi:10.1371/journal.pone.0080501(2013))は、一部のmAbが、緩衝剤または血清で同じ見かけの親和性を示す一方で、その他のmAbでは、見かけの親和性に差異があったことを実証した。これらの結果は、タンパク質共溶質が媒介する高分子密集の理解をさらに深める。リゾチーム、リボヌクレアーゼA、アルブミン、及び、再構成したE.coliサイトゾルなどの幾つかのタンパク質が、高分子密集剤として使用されており、対照的な結果になることが多い。例えば、アポミオグロビンの自己会合は、密集したリボヌクレアーゼA溶液では強くなるが、密集したHSA溶液では強くならないことが認められた(Zorrilla,S.,Rivas,G.,Acuna,A.U.& Lillo,M.P. Protein self-association in crowded protein solutions:a time-resolved fluorescence polarization study.Protein Sci 13,2960-2969,doi:10.1110/ps.04809404(2004))。逆に、GB1のA34F変異体の二量体化は、100g/L BSAで強まり、そして、50g/L リゾチームで弱まった(Kyne,C.& C.Rowley,P.B. Short Arginine Motifs Drive Protein Stickiness in the Escherichia coli Cytoplasm.Biochemistry 56,5026-5032,doi:10.1021/acs.biochem.7b00731(2017))。執筆者らは、解離定数で認められた差異の主な要因として、A34Fの電荷状態と比較した電荷状態の差異を指摘している。さらに、濃縮したBSA/SH3ドメイン溶液での弱いヘテロ相互作用は、溶液の粘度に関して予測したものをはるかに超えて 両方のタンパク質の移動拡散を遅延させた(Rothe,M.et al. Transient binding accounts for apparent violation of the generalized Stokes-Einstein relation in crowded protein solutions.Phys Chem Chem Phys 18,18006-18014,doi:10.1039/c6cp01056c(2016))。このことは、移動拡散と同等、または、それよりも速い時間スケールに関する一時的な結合事象に起因している可能性がある。本明細書に記載した結果をも考え合わせると、一過性の相互作用が、抗体:抗原結合事象などの高親和性(nM-pM)相互作用に関する効果を奏することができる、ことは明らかである。
【0108】
PEG、デキストラン、または、Ficollなどの合成ポリマーは、密集剤として頻繁に使用されているが、しかしながら、研究の目的は、一般的には、タンパク質の折り畳み、または、安定性である(Candotti,M.& Orozco,M. The Differential Response of Proteins to Macromolecular Crowding.PLoS Comput Biol 12,e1005040,doi:10.1371/journal.pcbi.1005040(2016),McGuffee,S.R.& Elcock,A.H. Diffusion,crowding & protein stability in a dynamic molecular model of the bacterial cytoplasm.PLoS Comput Biol 6,e1000694,doi:10.1371/journal。pcbi.1000694(2010),Mittal,S.& Singh,L.R. Denatured state structural property determines potent stabilization by macromolecular crowding: a thermodynamic and structural approach.PloS one 8,e78936,doi:10.1371/journal.pone.0078936(2013),Zhou,H.X. Polymer crowders and protein crowders act similarly on protein binding stability. FEBS Lett 587,394-397,doi:10.1016/j.febslet.2013.01.030(2013),Batra,J.,Xu,K.,Qin,S.& Zhou,H.X. Effect of macromolecular crowding on protein binding stability: modest stabilization and significant biological consequences.Biophys J 97,906-911,doi:10.1016/j.bpj.2009.05.032(2009),Senske,M.et al. Protein stabilization by macromolecular crowding through enthalpy rather than entropy.J Am Chem Soc 136,9036-9041,doi:10.1021/ja503205y(2014),Hong,J.& Gierasch,L.M. Macromolecular crowding remodels the energy landscape of a protein by a more compact unfolded state.J Am Chem Soc 132,10445-10452,doi:10.1021/jA103166y(2010))。ポリマーが、不均一なタンパク質-タンパク質の間の相互作用に及ぼす効果に関しては、件数は比較的少ないものの、研究報告はされている(Candotti,M.& Orozco,M. The Differential Response of Proteins to Macromolecular Crowding.PLoS Comput Biol 12,e1005040,doi:10.1371/journal.pcbi.1005040(2016)、Jiao,M.,Li,H.T.,Chen,J.,Minton,A.P.&Liang,Y. Atractive protein-polymer interactions markedly alter the effect of macromolecular crowding on protein association equilibria. Biophys J 99,914-923,doi:10.1016/j.bpj.2010.05.013(2010)、Phillip,Y.& Schreiber,G. Formationof protein complex in crowded environments - from in vitro to in vivo.FEBS Lett 587,1046-1052,doi:10.1016/j.febslet.2013.01.007(2013),Kozer,N.,Kuttner,Y.Y.,Haran,G.& Schreiber,G. Protein-protein association in polymer solutions:from dilute to semidilute to concentrated.Biophys J 92,2139-2149,doi:10.1529/biophysj.106.097717(2007))。本明細書では、合成ポリマーの真の効果に関する明確なコンセンサスは存在せず、そして、基本的成果は、関心対象であるシステムに固有である、と改めて思料している。Schreiberと仲間達は、バルナーゼとバースターとの間、または、β-ラクタマーゼとそのタンパク質阻害剤との間の相互作用に関するPEGとデキストランの最小限の効果を示しており、一方で、Liangと同僚達は、カタラーゼとスーパーオキシドジスムターゼとの会合に関するポリマー密集の顕著な効果を示した(Jiao,M.,Li,H.T.,Chen,J.,Minton,A.P.&Liang,Y. Atractive protein-polymer interactions markedly alter the effect of macromolecular crowding on protein association equilibria. Biophys J 99,914-923,doi:10.1016/j.bpj.2010.05.013(2010)、Phillip,Y.,Sherman,E.,Haran,G.& Schreiber,G. Common crowding agents have only a small effect on protein-protein interactions.Biophys J 97,875-885,doi:10.1016/j.bpj.2009.05.026(2009))。抗体:抗原結合に関する高濃度HSAの影響は、単に排除体積効果に起因するものであるが、HSAよりはむしろ、多糖Ficoll 70の存在下で行った同等の実験では異なる結果が得られており、高濃度でも、結合に関する影響は、殆ど、または、全く無かった。この差異は、低イオン強度で特に明白であり、HSAの存在下で、結合活性の有意なmAb特異的抑制を示した。Ficollが密集した溶液では、効果は最小限でしかなく、また、2つのmAbで同様である。このことは、HSAの効果が、排除体積に関する効果だけでは説明できないことを示唆している;生物学的システムの複雑さ(すなわち、タンパク質の表面特性)が、生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たしている。関心対象であるさらなるシステムを使用した研究は、タンパク質高分子密集のモデルの改善に役立つと思われる。
【0109】
当然のことながら、高濃度のFicoll(100g/L以上)は、定常状態を達成するために必要な時間で評価すると、両方の抗体の見かけの結合を遅延させたが、しかしながら、効果は、mAb2よりもmAb1でより顕著であった。これは、高粘度の溶液に加えて、一般的な密集研究に使用するものと同様のFicoll濃度での系の結合特性に関するさらなるタンパク質特異的効果を示唆している。2つのmAbに対する高濃度のFicollの異なる効果の具体的な理由は不明であるが、結合または排除のいずれかの優先的相互作用の差異に起因するものと考えられる(Arakawa,T.& Timasheff,S.N. Preferential interactions of proteins with solvent components in aqueous amino acid solutions.Arch Biochem Biophys 224,169-177(1983),Timasheff,S.N. Protein-solvent preferential interactions, protein hydration, and the modulation of biochemical reactions by solvent components.Proc Natl Acad Sci USA 99,9721-9726,doi:10.1073/pnas.122225399(2002))。特に,それぞれのmAbに関するFicollの効果は、低イオン強度と、高イオン強度との間で、ほぼ一貫していた。従前の研究は、Ficollが、分子の熱安定性と構造動力学に様々な影響を与えることができる、と示唆しており(Qu,Y.& Bolen,D.W. Efficacy of macromolecular crowding in forcing proteins to fold.Biophys Chem 101-102,155-165(2002),Sasahara,K.,McPhie,P.& Minton,A.P. Effect of dextran on protein stability and conformation attributed to macromolecular crowding.J Mol Biol 326,1227-1237(2003),Stagg,L,Zhang,S.Q.,Cheung,M.S.& Wittung-Stafshede,P. Molecular crowding enhances native structure and stability of alpha/beta protein flavodoxin.Proc Natl Acad Sci USA 104,18976-18981,doi:10.1073/pnas.0705127104(2007),Tokuriki,N.et al. Protein folding by the effects of macromolecular crowding.Protein Sci 13,125-133,doi:10.1110/ps.03288104(2004))、そして、2つのmAbの間のCDRの差異は、結合に関する随伴効果と共に、構造または動力学に関する様々なFicoll誘発効果に寄与すると考えられる。マルトース結合タンパク質(MBP)を使用した研究では、Ficollが、タンパク質に結合して、天然リガンドであるマルトースの結合と競合できることを示した(Miklos,A.C.,Sumpter,M.& Zhou,H.X. Competitive interactions of ligands and macromolecular crowders with maltose binding protein.PloS one 8,e74969,doi:10.1371/journal.pone.0074969(2013))。このことは、タンパク質-リガンド相互作用に関する密集剤の直接的な効果と、その他の高分子との競合の潜在的な結果を実証するものである。しかしながら、Ficollで認められた効果は、平衡応答それ自体に関するものではなく、むしろ平衡に達するまでに必要な時間に基づいており、このことは、ポリマー(Ficoll)とタンパク質(HSA)密集剤が、必ずしも同じ結果を招くものではない、ことを実証している。これらの潜在的な差異は、研究を進めている分子に関連する固有の物理化学的特性に依存しているようである。この複雑な現象をよりよく理解するためには、さらなる研究が必要であり、さらに、タンパク質の水和、または、優先的な排除/相互作用の研究は、この不一致の背後にある機序を明らかにし得る。ポリマー密集剤は、リガンド結合に関する効果を絶えず奏するわけではない。この系のポリマーを、タンパク質密集剤に置き換えると、静電相互作用や、その他の非理想的な挙動がさらに複雑になるので、熱力学に関する大きな異なる効果を与え得る。
【0110】
生体液の複雑さと体積占有率は、構成分子に関する理想挙動から大きく逸脱している。このような条件下でのタンパク質の非理想挙動と非特異的な相互作用を理解することは、タンパク質の機能を、より完全かつ正確に把握する上で不可欠である。本明細書で、本発明者らは、バイオレイヤー干渉法を使用して、非特異的タンパク質-タンパク質の間の相互作用の機能的影響を特徴決定するハイスループット手法を実証しており、これにより、最小限の材料を使用して、比較的短時間で、多数の試験品をスクリーニングすることができる。具体的には、本発明者らは、生理学的濃度のアルブミンが、抗体-抗原結合に及ぼす影響を研究した。同じ抗原に結合する2つの異なる抗体は、アルブミンの存在によって異なる影響を受けており、このことは、生物学的製剤が、定義した系において、アルブミンとの様々な非特異的相互作用を示し得ることを示唆している。HSAの存在下で、新生児Fc受容体(FcRn)などのその他の生物学的に適切な分子に対して結合するmAbの評価が、最も重要である。酸性エンドソームから血流へのIgGとHSAの両方の再循環を、pH依存的にFcRnが促しており(Vaughn,D.E.& Bjorkman,P.J. Structural basis of pH-dependent antibody binding by the neonatal Fc receptor.Structure 6,63-73(1998))、そして、このプロセスはよく理解されているが、IgGとHSAとの間で認められた潜在的な相互作用は、さらに複雑なプロセスを示唆している(Wang,W.et al. Monoclonal antibodies with identical Fc sequences can bind to FcRn differentially with pharmacokinetic consequences.Drug Metab Dispos 39,1469-1477,doi:10.1124/dmd.111.039453(2011))。最後に、生物学的製剤の開発の大部分を未知の領域として、適応症、及び、投与経路に関連する非特異的相互作用を特徴決定することは、有力候補分子のプールの中での重要な識別因子として役立つ。様々な生物学的問題及び創薬問題に対するバイオレイヤー干渉法技術の応用が進んでいる(Verzijl,D.,Riedl,T.,Parren,P.& Gerritsen,A.F. A novel label-free cell-based assay technology using biolayer interferometry.Biosens Bioelectron 87,388-395,doi:10.1016/j。bios.2016.08.095(2017),Kaminski,T.,Gunnarsson,A.& Geschwindner,S. Harnessing the Versatility of Optical Biosensors for Target-Based Small-Molecule Drug Discovery.ACS Sens 2,10-15,doi:10.1021/acssensors.6b00735(2017),Yang,D.,Singh,A.,Wu,H.& Kroe-Barrett,R. Determination of High-affinity Antibody-antigen Binding Kinetics Using Four Biosensor Platforms.Journal of visualized experiments:JoVE,doi:10.3793/55659(2017))。早期発見研究スクリーニングツールとして、BLIは、パイプラインから候補をより迅速に排除するために使用することができ、そして、探索研究で使用するアッセイのタイプを多様化する上で役立つ。本明細書で説明した手法は、NMRやAUCなどのその他の生物物理学的手法と組み合わせて使用して、密集溶液現象のより適切な研究を行う上で重要なツールである。
【0111】
実施例2:FcRnを介した再循環経路からの抗体の選択
FcRnは、内皮細胞のリソソーム分解を抑制することで、IgGと血清アルブミンの半減期を延長する。IgG、血清アルブミン、及び、その他の血清タンパク質は、飲作用によって継続的に内在化される。一般的に、血清タンパク質は、エンドソームからリソソームへと輸送され、そこで、分解される。IgGと血清アルブミンは、わずかに酸性のpH(<6.5)で、FcRnに結合し、そして、中性pH(>7.0)の血液で放出されて細胞表面で再利用に供される。このようにして、IgGと血清アルブミンは、リソソーム分解を回避する。このメカニズムは、IgGと血清アルブミンの血清循環半減期が長くなる、ことを説明している。したがって、疑似インビボ条件下でFcRnの結合が増えた抗体は、より長い半減期を有するとものと考えられ、したがって、これは、優れた治療薬のことを意味し得る。抗体FcRn結合に関するHSAの効果を決定するための試験システムを、図13に示している。図14は、HSAとmAb/HSAとの会合ステップが、pH6.0で、特異的なFcRn結合応答を生成したことを示しており、この応答は、pH7.4では、完全に可逆的である。図15A及び15Bは、FcRnに対するmAb1及びmAb2の結合が、HSAによって同様に影響を受けることを示している。この効果は、低イオン強度、及び、生理学的イオン強度でも同じである。HSAは、低HSA濃度、及び、生理学的HSA濃度で、FcRnに対するmAbの結合を抑制する。以下に説明する試験は、一般的に、実施例1に記載したようにして行う。
【0112】
FcRn抗体結合に関するFAをロードしたHSAの効果:C18:1が、hFcRn結合を消失させ、そして、C16:0が、hFcRn結合を大幅に抑制したのに対して、C12:0の影響が些細であった、ことが以前に報告されており、これらのことは、FA結合HSAの再利用効率が、リガンドを持たないHSAよりも低いであろう、ことを示している。本実施例では、実験が、FA:HSAの存在下でのFcRnに対する2つの異なるmAb(mAb1、及び、mAb2)の結合が、純粋なHSAとの結合と比較して強いことを示している(図16を参照されたい)。この結果は、純粋なHSAが、「汚れたHSA」よりも大きな親和性でFcRnに結合し、mAbとFcRnとの相互作用を妨げることを示唆している。FAをロードしたHSAは、循環を継続する必要があるかもしれず、一方で、リガンドを含まないHSAは、細胞質での再利用を必要とする。FA結合HSAの電荷状態の変化により、FcRn親和性は低下し得る。
【0113】
FcRnに結合する抗C5 mAbに関するHSAの異なる効果:mAb3は、抗C5mAbである。このmAb(mAb4)で半減期が長い抗体として、YTE変異体(M252Y、S254T、T256E)(図17を参照されたい)がある。mAb5とmAb6には、それぞれ、HLE変異体KFF(H433K、N434F、Y436F)と、LS(M428L、N434S)がある。mAb1及びmAb2で認められたものとは対照的に、HSAは、FcRnに対して結合する様々な抗C5分子に異なる影響を及ぼした(図18を参照されたい)。すべての分子は、HSAの存在下で、FcRnに対する結合を抑制するが、HLE変異体(mAb4、mAb5、及び、mAb6)は、さほど影響を受けなかった。mAb5は、その他のHLE変異体と比較して、FcRn結合に関するHSAの影響が最小であった。
【0114】
FcRnに結合する抗ジカmAbに関する異なるHSA効果:mAb7は、Fcγ受容体結合活性を抑制した抗ジカmAbである。mAb8=mAb7+YTE変異体。mAb9は、Fcγ受容体結合活性を抑制した抗ジカウイルス抗体である。YTE変異体だけが、FcRnとの相互作用に影響を及ぼす。図19に示したように、FcRnに対するmAb9の結合は、HSAの生理学的レベルを抑制する;しかしながら、mAb9は、HSAの存在下で、mAb7及びmAb8と比較して、FcRnとの高度の相互作用を維持した。20mg/ml以上のHSAの濃度では、FcRnに対するmAb7及びmAb9の結合は、HSAシグナルによって、わずかに不明瞭になった(負の値)。
【0115】
半減期延長変異体は、HSAの存在下では、FcRnに対して、親mAbよりも高い結合応答を実証する:HLE変異体は、FcRnに対して高い結合親和性を示すようにデザインされており、そして、HSAの存在下では、図20に示したように、この序列を保っている。KFF変異体は、生理学的濃度に近いHSA下で、最高の結合応答を示す。
【0116】
FcRn結合実験は、生理学的設定において、mAb機能を評価するツールとして、このプラットフォームを使用する可能性を実証する:標準的なBLI結合実験は、mAb1とmAb2が、両方の塩濃度で、FcRnに対して同様の結合親和性を有することを示した。HSAは、10及び137mM NaClにて、FcRNに対するmAb1及びmAb2の結合に、同様の影響を及ぼす。HSAの存在は、FcRnに対するmAbの結合を抑制した。抗C5及び抗ジカ抗体由来のYTE変異体は、「野生型」と比較して、FcRnに対する結合親和性を高め、そして、HSAの影響を抑制する、ことを実証した。この方法論は、ほぼ生理学的な設定でのmAb機能を理解するためのプラットフォームを提供しており、Biophysical Development AssesmentsとPK研究との間の間隙を解消することができる。
【0117】
本発明を、本明細書に記載した特定の実施形態に基づいて、範囲を限定すべきではない。実際のところ、本明細書に記載した変更の他に、本発明の様々な変更は、当業者であれば、上記した説明、及び、添付図面から明らかであろう。このような変更は、添付した特許請求の範囲に含まれる、ことを意図している。
【0118】
配列情報
SEQUENCE LISTING
<110> Regeneron Pharmaceuticals, Inc.
<120> THERAPEUTIC PROTEIN SELECTION IN SIMULATED IN VIVO CONDITIONS
<150> US 62/718,307
<151> 2018-08-13
<150> US 62/865,446
<151> 2019-06-24
<160> 2
<170> PatentIn version 3.5

<210> 1
<211> 50
<212> PRT
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Partial Peptide Sequence of Wild-Type IgG1 or IgG4
<400> 1
Phe Leu Phe Pro Pro Lys Pro Lys Asp Thr Leu Met Ile Ser Arg Thr
1 5 10 15
Pro Glu Val Thr Cys Val Val Val Asp Val Ser Gln Glu Asp Pro Glu
20 25 30
Val Gln Phe Asn Trp Tyr Val Asp Gly Val Glu Val His Asn Ala Lys
35 40 45
Thr Lys
50

<210> 2
<211> 50
<212> PRT
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Partial Peptide Sequence of IgG1 or IgG4 with YTE Mutation
<400> 2
Phe Leu Phe Pro Pro Lys Pro Lys Asp Thr Leu Tyr Ile Thr Arg Glu
1 5 10 15
Pro Glu Val Thr Cys Val Val Val Asp Val Ser Gln Glu Asp Pro Glu
20 25 30
Val Gln Phe Asn Trp Tyr Val Asp Gly Val Glu Val His Asn Ala Lys
35 40 45
Thr Lys
50
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
【配列表】
2024105513000001.app
【手続補正書】
【提出日】2024-05-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、疑似血液条件での血液タンパク質とモノクローナル抗体の間の、モノクローナル抗体-抗原相互作用に対する非特異的相互作用の効果を決定する方法:
(a) 血液タンパク質モノクローナル抗体とを含む溶液をバイオセンサーに接触させる工程であって、前記バイオセンサーの表面は、前記モノクローナル抗体に特異的に結合する抗原を含み、前記血液タンパク質が前記モノクローナル抗体に特異的に結合せず、前記血液タンパク質が、10g/L~100g/Lの濃度で存在する、工程、
(b) 前記モノクローナル抗体が前記抗原に結合することを可能にする工程、
(c) バイオレイヤー干渉法を使用して、前記抗原に結合した前記モノクローナル抗体の量を決定する工程、及び
(d) 前記抗原に結合した前記モノクローナル抗体の量を対照応答と比較し、前記血液タンパク質と前記ものクローナル抗体の間の非特異的相互作用の効果を決定する工程、
ここで、前記対照応答は、前記血液タンパク質の理想溶液、希薄溶液、または半希薄溶液に対して正規化された応答である
【請求項2】
前記血液タンパク質が、ヒト血清アルブミン(HSA)、IgG、トランスフェリン、フィブリノーゲン、IgA、α2-マクログロブリン、IgM、α1-アンチトリプシン、ハプトグロビン、α1-酸性糖タンパク質、アポリポタンパク質A-1、及びアポリポタンパク質A-11からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記血液タンパク質が、生理学的に適切な濃度で存在する、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記血液タンパク質が、10g/L~80g/Lの濃度で存在する、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記血液タンパク質がヒト血清アルブミンである、請求項1に記載の方法
【請求項6】
前記血液タンパク質の2つ以上の濃度での結合量を決定する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
2つ以上のpHでの結合量を決定して、結合のpH依存性を決定する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
2つ以上の塩濃度での結合量を決定して、結合の塩依存性を決定する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記抗原が、リンカーによって前記センサーの表面に連結される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記リンカーが、ビオチンと、ストレプトアビジンまたはアビジンとを含む、請求項に記載の方法。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
2024105513000001.xml