IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オックスフォード ユニバーシティ イノベーション リミテッドの特許一覧

<>
  • 特開-免疫応答を誘導するための組成物 図1
  • 特開-免疫応答を誘導するための組成物 図2
  • 特開-免疫応答を誘導するための組成物 図3
  • 特開-免疫応答を誘導するための組成物 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105526
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】免疫応答を誘導するための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/76 20150101AFI20240730BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20240730BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240730BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240730BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20240730BHJP
   C12N 15/863 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
A61K35/76 ZNA
A61K39/00 H
A61P37/04
A61P35/00
A61P13/08
A61K35/76
C12N15/863 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024078396
(22)【出願日】2024-05-14
(62)【分割の表示】P 2020561892の分割
【原出願日】2019-05-16
(31)【優先権主張番号】1807932.7
(32)【優先日】2018-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】516245900
【氏名又は名称】オックスフォード ユニバーシティ イノベーション リミテッド
【氏名又は名称原語表記】OXFORD UNIVERSITY INNOVATION LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(72)【発明者】
【氏名】ヒル エイドリアン ブイエス
(72)【発明者】
【氏名】レドチェンコ イリナ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】前立腺がんに対する効果的な治療又は防御のためのワクチンを提供する。
【解決手段】本発明は、前立腺がんの治療又は予防のためのT細胞媒介免疫応答を誘導するための組成物であって、ポックスウイルスF11プロモーターの制御下で5T4抗原ポリペプチドを発現する改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA、modified Vaccinia virus Ankara)ベクターを含む組成物に関する。適切には、前記ポックスウイルスF11プロモーターは、内在性MVA F11プロモーターである。より適切には、前記ベクターは、特定のアミノ酸配列を有するポリペプチドを発現する、又は前記ベクターは、特定の核酸配列を有するポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドを発現する。本発明はまた、使用及び方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前立腺がんの治療又は予防のためのT細胞媒介免疫応答を誘導するための組成物であって、ポックスウイルスF11プロモーターの制御下で5T4抗原ポリペプチドを発現する改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA、modified Vaccinia virus Ankara)ベクターを含む、前記組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前立腺がんに伴う腫瘍抗原に対する、免疫応答、適切には防御免疫応答の誘導に関する。
【背景技術】
【0002】
前立腺がんは、最も一般的な非皮膚がんであり、男性におけるがん死の第2の主要な死因である。2012年には世界的におよそ110万人の男性が本疾患と診断され、その結果、男性のすべてのがん診断の15%を占めている。前立腺がんの症例の70%超が、先進諸国で発生している。例えば、米国だけでも2014年に、推定233,000人の男性が本疾患と診断され、およそ30,000人の死亡が予測された(Siegel et al (2014). CA Cancer J Clin 64:9-29)。前立腺がんの治療には大幅な進歩があったが、本疾患
の進行期に有効な治療はほんのわずかで、これらは不十分な効力を示してきた。したがって、効果的な療法の開発は、本疾患の治療の優先度が依然として高いままである。
【0003】
前立腺がんを含めてがんに対する能動免疫療法(ワクチン)を開発するための取組みが強化されてきた。従来のワクチンは、外来の「非自己」抗原の認識に基づいて、病原体に対する防御免疫を誘導する際に効果的であった。しかし、今日までに特徴づけられているがん抗原の大多数は、腫瘍細胞及び正常細胞によって発現される未変化の「自己」抗原である。このことは、がんに対する効果的な能動免疫療法の開発に課題をもたらす。免疫監視とがんの除去に関するこのような制限にもかかわらず、がん免疫は様々な腫瘍の形態において臨床的に観察されてきた(Challis & Stam (1990). Acta Oncol. 29:545-550)。
加えて、腫瘍切片の組織病理学によって、腫瘍床周辺でのリンパ球の浸潤が明らかになり、最近の研究が指示するところは、腫瘍周囲にそのような浸潤がある卵巣がん患者は、リンパ球浸潤のない同様の病期の患者と比較して、予後が改善することである(Zhang et al (2003). N Engl J Med. 348:203-213)。したがって、免疫レパートリーには、適切に
活性化される場合、腫瘍を拒絶することができる自己反応性免疫細胞が含まれる。こういった自己反応性細胞はまた、正常細胞上の標的分子を認識すると、組織破壊を誘導して毒性の自己免疫を招く可能性を持っている。したがって、適切な免疫学的標的を使用して宿主の抗腫瘍免疫を活性化することを目的とする療法の開発は、依然として、前立腺がんを含めてがんの治療において成功への見込みのあるルートである。
【0004】
T細胞はがんの免疫制御に重要であることが知られており、この20年間にわたり蓄積された多大な一連の証拠が示したところは、同じ抗原をコードする異なるベクターの逐次投与を含むプライム-ブーストプロトコルによって、いくつかの動物モデル及び治験において防御能力とともにかなり高度の免疫応答がもたらされることである。実際、サルアデノウイルスプライム及びMVAブーストに基づいたワクチン接種戦略は、治験において一部のヒト病原体に対する多機能性防御T細胞応答を誘導するための最もパワフルなアプローチであることが判明した(Ewer et al (2013). Nat Commun. 4:2836;Antrobus et al (2014). J Am Soc Gene Therapy. 22:668-674; Borthwick et al.(2014). Mol Ther. 22:464-475; Swadling et al (2014). Science translationalmedicine. 6:261ra153; Hodgson et al (2015). J Inf Dis. 211:1076-1086; and Eweret al (2016). New Engl J Med. 374:1635-1646)。
【0005】
見込みはあるが、がんにおける治療的ワクチン接種の使用は多くの課題をもたらし、自己抗原に対する寛容と腫瘍によって据え付けられる能動的な免疫抑制メカニズムとが効力を妨害する主要な2つの要因である。最も先端的な2つ前立腺がん免疫療法剤、Sipuleucel-T及びProstVacは、それぞれ、明確である2つの前立腺がん抗原、前立腺酸性フォスフ
ァターゼ(PAP、prostatic acid phosphatase)及び前立腺特異的抗原(PSA、prostate-specific antigen)を標的としている。5T4は、共有腫瘍抗原のファミリーに属
する癌胎児性糖タンパク質であるが、前立腺がんワクチン用の見込みのある別の抗原候補物質である。これは、1990年に、ヒト栄養膜及びがん細胞の共有表面分子を探索することにより、それらが半異物としての胎児の生存において機能を果たす可能性があるという理論的根拠を持って、同定された(Southall et al (1990). Br J Cancer. 61:89-95)。5T4は、広範囲のヒト固形悪性腫瘍で高度に発現していることから(Southall et al. (1990). Br J Cancer. 61:89-95; Starzynskaet al (1994). Br J Cancer. 69:899-902; and Amato & Stepankiw(2012). Future Oncol. 8:231-237)、その発現が疾患の進行と明白に相関していることから(Stern et al (2014). Seminars in Cancer Biology. 29:13-20; and Stern& Harrop (2016). Cancer Immunology, Immunotherapy. 2016:1-12)、がん免疫療法の潜在的な標的として集中的探査の対象であった。
【0006】
改変ワクシニアアンカラウイルス(MVA)から発現された5T4タンパク質を用いて、5T4を標的とするワクチンの治験が10年よりも前に始まった。このワクチンは、TroVaxの商品名で知られる同種のプライム-ブーストワクチンとして後期結腸直腸がん患者に投与され、第I~第III相治験の過程で今日までに結腸直腸がん、乳がん、腎がん、前
立腺がん、及び中皮腫の500人超の患者に与えられてきた(Kim et al (2010). HumanVaccines. 6:784-791; and Al-Taei et al (2012). Lung Cancer. 77:312-318)。TroVaxは良好な安全性プロファイルを有し、5T4特異的抗体価が最も高い患者で無増悪生存率が改善するという傾向を持って、認容性は良好であった;しかし、ワクチン特異的細胞免疫応答及び臨床的効能は中程度であった(Harrop et al (2010). J immunotherapy. 33:999-1005; and Harrop et al(2012). Cancer Immunology, Immunotherapy. 61:2283-2294)。
【0007】
Harrop et al(CancerImmunology, Immunotherapy 2014, 62(9);1511-1520)は、TroVax(登録商標)の臨床投与の結果を開示したが、MVAは、去勢抵抗性前立腺がんの患者においてドセタキセルとともに、mH5(改変H5)初期プロモーターの制御下で、5T4抗原を発現した。この研究が実証したところは、すべての患者におけるワクチン忍容性及びドセタキセル単独を受けている患者に比べて、ドセタキセルをプラスしたTroVax(登録商標)を受けている患者については、無増悪生存率の中央値がより大きいこと、である。しかし、評価したところ治療効能の向上は中程度であった。
【0008】
Cappuccini et al(Oncotarget 2017, 8(29);47474-47489)は、前立腺がんのマウスモデルにおいて、異種プライム-ブーストレジメンの一部として、p7.5後期プロモーターの制御下で、未改変5T4抗原と、MHCクラス2関連不変鎖(Ii)に融合した同じ
抗原とを発現するMVAの投与を比較した。この研究が実証したところは、未改変の5T4への抗体応答であるが、改変抗原を除いて、測定可能なT細胞応答については報告されなかった。未改変の「自己」抗原へのT細胞免疫応答のこういった欠如が示すところは、p7.5プロモーターの制御下で未改変の5T4を発現するMVAが効果的な抗腫瘍ワクチンではありそうにないことである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Siegel et al (2014). CA Cancer J Clin 64:9-29
【非特許文献2】Challis & Stam (1990). Acta Oncol.29:545-550
【非特許文献3】Zhang et al (2003). N Engl J Med.348:203-213
【非特許文献4】Ewer et al (2013). Nat Commun. 4:2836
【非特許文献5】Antrobus et al (2014). J Am Soc Gene Therapy. 22:668-674
【非特許文献6】Borthwicket al. (2014). Mol Ther. 22:464-475
【非特許文献7】Swadling et al (2014). Science translationalmedicine. 6:261ra153
【非特許文献8】Hodgson et al (2015). J Inf Dis.211:1076-1086
【非特許文献9】Ewer et al (2016). New Engl J Med.374:1635-1646
【非特許文献10】Southall et al (1990). Br J Cancer. 61:89-95
【非特許文献11】Starzynska et al (1994). Br J Cancer. 69:899-902
【非特許文献12】Amato & Stepankiw(2012). Future Oncol. 8:231-237
【非特許文献13】Stern et al (2014). Seminars in Cancer Biology.29:13-20
【非特許文献14】Stern& Harrop (2016). Cancer Immunology, Immunotherapy. 2016:1-12
【非特許文献15】Kim et al (2010). Human Vaccines. 6:784-791
【非特許文献16】Al-Taei et al (2012). Lung Cancer.77:312-318
【非特許文献17】Harrop et al (2010). J immunotherapy.33:999-1005
【非特許文献18】Harrop et al (2012). Cancer Immunology,Immunotherapy. 61:2283-2294)
【非特許文献19】Harrop et al(CancerImmunology, Immunotherapy 2014, 62(9);1511-1520)
【非特許文献20】Cappuccini et al (Oncotarget 2017,8(29);47474-47489)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、単独で、又は他の任意の治療剤との組合せのいずれかで、前立腺がんに対する効果的な治療又は防御(protection)を達成することが実証されているワクチンは、先行技術にはない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、先行技術に関連する問題を解決することを意図するものである。
【0012】
内在性ウイルスF11プロモーターの制御下で5T4タンパク質抗原を発現する改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)ベクターを含む組合せについて記載する。本発明は、MVAの内在性F11プロモーターからの5T4の発現が、5T4を発現するアデノウイルスコンストラクトによる初期免疫に続いて、プライム-ブーストレジメンの一部として使用される場合、寛容性を破壊し、5T4特異的T細胞免疫応答を誘導するのに十分であった、という本発明者らによる驚くべき発見に基づくものである。したがって、本発明の組成物は、寛容性を破壊して抗原特異的免疫応答を誘導し、その結果、前立腺がんを治療する上で有用である。これらの利点を実証するデータを、以下の図及び実施例に提供する。
【0013】
第1の態様では、本発明は、前立腺がんの治療又は予防のためのT細胞媒介免疫応答を誘導するための組成物であって、ポックスウイルスF11プロモーターの制御下で5T4抗原ポリペプチドを発現する改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)ベクターを含む組成物を提供する。
【0014】
第1の態様の組成物は、5T4抗原への免疫寛容を破壊し、これに対するT細胞媒介免疫応答を誘導するために有利に使用することができ、これによって、前立腺がんの効果的な治療又は予防が可能となる。
【0015】
第1の態様の組成物によって発現される5T4ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を有することができ、又は配列番号2の核酸配列によってコードされるアミノ酸配列を有することができる。
【0016】
有利には、組成物は、アジュバントをさらに含むことができ、組成物は、対象において5T4抗原ポリペプチドに対するT細胞媒介免疫応答を誘導し、前立腺がんを治療又は予防するために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
次に、本発明を添付の図面を参照して一例として説明する。
図1】5T4抗原のアミノ酸配列(配列番号1)を示す図である。
図2】全長5T4抗原をコードする核酸配列(配列番号2)を示す図である。
図3】mH5プロモーターでドライブされる発現と比較して、F11プロモーターの制御下で5T4を発現するMVA.5T4によるブーストに続いて、血中の5T4特異的T細胞応答の大きさが有意により高いことを、例示する図である。C57BL/6マウスを、h5T4抗原を発現するChAdOx1ベクター1010VPを用いて、これに続いて、p7.5、F11、及びmH5の各プロモーターの制御下でh5T4を発現するMVAベクター10pfuを用いて、3週間間隔で筋肉内免疫するか、或いは、上記マウスに、F11プロモーターによってドライブされる抗原発現による10pfuでの同種のMVA.h5T4プライム-ブーストを与えた。グラフは、プライム-ブースト免疫後に実行されたエクスビボでの血液(A)及び脾臓(B)のELISPOTの代表的なデータを示す。X軸:群1~4の投与レジメン。Y軸:10PBMC当たりのスポット形成細胞(SFC、spot forming cell)の数。バーは中央値を表す。(C=ChAdOx1、M=MVA)。有意なp値が示されている。
図4】ChAdOx1.5T4でプライミングし、MVA.5T4_F11でブーストしたマウスからの血液及び脾臓における5T4特異的T細胞のフローサイトメトリー解析を例示し、多重のサイトカインを分泌する多機能性CD4+及びCD8+T細胞の生成を実証する図である。細胞内サイトカイン染色(ICS、Intracellular cytokine staining)を、F11プロモーターによってドライブされる抗原発現によるMVA.5T4ブーストに続いて、ChAdOx1.5T4で免疫したマウスから単離されたPBMC及び脾細胞で実施した。グラフは、h5T4ペプチドプールによる一晩のインビトロ刺激に応答してIFN-γ(A)、TNF-α(B)及びIL-2(C)を分泌するCD4+及びCD8+T細胞のパーセンテージを示す。X軸:血液及び脾臓におけるCD4+及びCD8+T細胞の応答。Y軸:T細胞を分泌する5T4特異的サイトカインの%。Δ値は、h5T4ペプチドプールへの曝露に続くサイトカイン分泌T細胞のパーセンテージから、バックグラウンド(すなわち、特定の刺激なしに自発的にサイトカインを分泌するT細胞のパーセンテージ)を差し引くことによって算出される。バーは中央値を表す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1の態様では、本発明は、前立腺がんの治療又は予防のためのT細胞媒介免疫応答を誘導するための組成物であって、ポックスウイルスF11プロモーターの制御下で5T4抗原ポリペプチドを発現する改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)ベクターを含む組成物を提供する。ポックスウイルスF11プロモーターの制御下で発現される5T4抗原ポリペプチドを発現するMVAは、これまでに開示されておらず、したがって新規である。かかる組成物は、5T4抗原への免疫寛容を破壊し、これに対するT細胞媒介免疫応答を誘導するために有利に使用することができ、これによって、前立腺がんの効果的な治療又は予防が可能となる。
【0019】
先行技術では、前立腺がんの治療又は予防のためのワクチンにおける未改変の5T4抗原の使用に対する思いこみが示唆されている。Cappuccini 2017(ibid.)は、5T4への
抗体応答が、同種又は異種のプライム-ブーストレジメンの一部としての未改変5T4抗原のMVA発現によって可能であることを確認した。しかし、異種プライム-ブーストレジメンでMVAによって発現される5T4抗原へのインビトロT細胞媒介免疫応答の生成
には、抗原とMHCクラス2関連不変鎖(Ii)との融合が必要であった。本発明の利点は、内在性F11プロモーターの制御下でMVAによって発現される未改変の5T4抗原によって堅牢な細胞性免疫応答が誘導されることである。
【0020】
MVAベースのワクチン候補物質を使用する従来技術のプライム-ブーストは、種々の適応症において、多数の様々な「非自己」抗原に対して堅牢なT細胞免疫応答を産生する。本発明の利点は、免疫寛容が破壊され、同様に堅牢なT細胞媒介免疫応答が「自己」抗原に対して生成されることである。この応答は、予想外であり、抗原の改変又は融合が不要であることから、より効果的な治療やより簡単な開発及び製造スキームを含めて、いくつかのメリットをもたらす。
【0021】
好ましくは、MVAベクターは、MVAの内在性F11プロモーターの制御下で5T4抗原ポリペプチドを発現する。内在性F11プロモーターの制御下でのMVAのF11遺伝子座への抗原をコードするポリヌクレオチドの挿入は、国際刊行物である国際公開第2011/128704号パンフレットに先に記載されている。内在性F11プロモーターの制御下で5T4抗原ポリペプチドを発現するそのようなベクターは、先に開示されておらず、したがって新規である。有利には、このコンフォメーションは、MVAベクターの製造を単純化する。加えて、F11隣接配列のコザック様配列は、真核細胞での翻訳開始を助け、したがって、MVAによる5T4抗原の発現を強化すると考えられている。
【0022】
本発明者らは、前立腺がんの治療又は予防のためのワクチンであって、配列番号1のアミノ酸配列を有する完全長の未改変ヒト5T4抗原ポリペプチドをコードする核酸配列を含有するMVAウイルスベクターを含むワクチンを提供する。MVAコンストラクトは、組換えウイルスにマーカー遺伝子が存在しないように作製されている。
【0023】
本発明のMVAワクチンコンストラクト((F11)5T4)を、マウスモデルにおいて、改変H5初期プロモーター((mH5)5T4)の制御下で又はp7.5初期/後期プロモーター((p7.5)5T4)の制御下で、5T4抗原を発現するMVAコンストラクトと比較して、T細胞媒介免疫応答を評価した。異種プライム-ブーストレジメンの一部として投与した場合、MVA(F11)5T4コンストラクトによって、末梢血単核細胞(PBMC、peripheral blood mononuclear cell)及び脾細胞でIFNγ ELI
SPOTアッセイを使用して評価して、堅牢な5T4特異的T細胞応答が誘導された(図3)。PBMCでのこの応答は、MVA(p7.5)5T4によって誘導された応答よりも3倍超大きかったが、一方、MVA(mH5)5T4を使用してPBMCで検出可能な応答は誘導されなかった(図3A)。同じMVA(F11)5T4コンストラクトは、同種のプライム-ブーストレジメンで単独で投与された場合、同じ5T4特異的応答を誘導できなかった。有利には、MVA(F11)5T4は、寛容性を破壊して5T4に対する堅牢なT細胞応答を誘導する上で効果的であった、したがって、前立腺がんを治療し又は予防する上で効果的であると期待される。
【0024】
ある特定の実施形態では、ポックスウイルスF11プロモーターが、内在性MVA F11プロモーターである。MVA F11プロモーターの領域にある内在性エンハンサー配列及びコザック様配列が、ヒト細胞における5T4抗原の転写を増強する働きをする。
【0025】
特定の実施形態では、5T4抗原ポリペプチドが、配列番号1で提供されるアミノ酸配列を有する。
【0026】
別の特定の実施形態では、5T4抗原ポリペプチドが、配列番号2に提供される核酸配列によってコードされるアミノ酸配列を有する。5T4抗原ポリペプチドをコードするそのようなコドン最適化配列の使用が、組成物の投与後の対象における抗原ポリペプチドの
発現を改善する。
【0027】
ある特定の実施形態では、組成物がアジュバントをさらに含む。アジュバントの包含によって、対象への組成物の投与時に生成される免疫応答を改善することができる。
【0028】
本発明はまた、5T4抗原ポリペプチドへのT細胞媒介免疫応答の誘導における上で定義の組成物の使用を提供する。本発明者らは、組成物の投与が、「自己」抗原である5T4に対するそのような免疫応答を誘導する上で効果的であることを見いだした。本発明の組成物を使用して、CD8T細胞応答を誘導するのが好ましい。
【0029】
有利には、組成物を、対象の前立腺がんの治療又は予防において役立つように投与することができる。
【0030】
別の態様では、本発明は、5T4抗原ポリペプチドに対するT細胞媒介免疫応答を誘導し、前立腺がんの治療又は予防のためのT細胞媒介免疫応答を誘導する方法であって、かかるT細胞媒介免疫応答を必要とする対象に第1の態様の組成物を投与することを含む方法を提供する。
【0031】
好ましい実施形態では、本発明の組成物が、1×10~5×10プラーク形成単位(pfu、plaque forming unit)の用量で、上記方法により投与される。最も好ましい
実施形態では、組成物が、1×10pfuの用量で、上記方法により投与される。かかる用量は、堅牢な免疫応答を提供し、一方、組成物の不要な投与及び浪費を最小限に抑える。
【0032】
ある特定の実施形態では、上記方法によって誘導されるT細胞媒介免疫応答が、CD8T細胞応答を含む。かかる細胞溶解性T細胞応答が、対象による5T4抗原を発現する細胞の効果的な排除に適している。
【0033】
好ましい実施形態では、上記方法は、第1の態様の組成物を対象に投与して一次T細胞媒介免疫応答を誘導するか又は既存のT細胞媒介免疫応答を強化する、プライム-ブースト法である。特に好ましい実施形態では、第1の態様の組成物は、以前に投与されたプライムワクチン接種へのブーストとして投与される。かかる投与スケジュールによって、寛容性を有利には破壊し、堅牢な抗5T4T細胞応答の誘導が可能となることが示された。
【0034】
上記方法の好ましいプライムワクチン接種が、5T4抗原ポリペプチドを発現するアデノウイルスの投与によって提供され、最も好ましい実施形態では、使用されるアデノウイルスがChAdOx1である。
【0035】
好ましい実施形態では、5T4抗原ポリペプチドを発現するアデノウイルスを、1×10~1×1012ウイルス粒子(VP、virus particle)の用量として上記方法で投与し、より好ましくはアデノウイルスが1×10~1×1011VPである。最も好ましい実施形態では、アデノウイルスが、1×1010VPの用量で、上記方法により投与される。かかる用量は、堅牢な免疫応答を提供し、一方、組成物の不要な投与及び浪費を最小限に抑える。
【0036】
さらなる実施形態では、本発明の方法は、免疫チェックポイント阻害剤化合物と組み合わせた本発明の第1の態様の組成物の投与をさらに含む。好ましいかかる実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤化合物が、抗PD1モノクローナル抗体である。
【0037】
本明細書及び添付の特許請求の範囲全体を通して、「含む(comprise)」及び「含む(
include)」という用語、並びに「含む(comprises)」、「含んでいる(comprising)」、「含む(includes)」及び「含んでいる(including)」などの変化形は、包括的に解
釈されるべきである。すなわち、これらの単語は、文脈が許す限り、具体的に記載されていない他の要素又は整数が包含される可能性もあることを伝えることを意図するものである。
[実施例]
【0038】
MVAコンストラクト
5T4抗原ポリペプチドをコードするコドン最適化ポリヌクレオチド(NCBI Reference
Sequence: NM_006670.4)を、GeneArt Gene Synthesis(Thermo Fisher Scientific社)によって合成した。次いで、5T4導入遺伝子を、相同配列アームとしてF11L ORFの上流と下流(隣接)を有するように設計したシャトルプラスミドベクターにクローン化した。これらのアーム内に5T4導入遺伝子を挿入することにより、右相同アームの一部である内在性F11プロモーターの利用を可能とし、一方、天然F11L ORFを欠失させた。この結果、MVA.(F11)5T4を生成するためのシャトルベクター(F11シャトルベクター)が得られた。
【0039】
MVA.(mH5)5T4及びMVA.(p7.5)5T4を、それぞれ、Harrop et al (2010)及びCappuccini et al(2017)に先に記載されているように構築した。
【0040】
MVAコンストラクトは、組換えウイルスにマーカー遺伝子が存在しないように作製した。
【0041】
5T4免疫原性
6匹の雄C57BL/6マウス(Harlan社、UK)の群は、1×1010VPのChAdOx1.5T4(群1~3)又は1×10pfuのMVA.(F11)5T4(群4)の筋肉内(i.m.、intramuscular)投与からなるプライム免疫を0日目に受けた。
【0042】
同じ動物は、1×10pfuのMVA.(p7.5)5T4(群1)、1×10pfuのMVA.(F11)5T4(群2)、1×10pfuのMVA.(mH5)5T4(群3)又は1×10pfuのMVA.(F11)5T4(群4)のi.m投与からなる、ブースト免疫を21日目に受けた。
【0043】
ブーストの3週間後(42日目)に各マウスから血液と脾臓を採取し、PBMCと脾細胞についてIFNg ELISPOTによって5T4特異的T細胞の存在について試験した。ELISPOT解析の結果を図3に提供する。
【0044】
5T4特異的T細胞のフローサイトメトリー解析も、ChAdOx1.5T4でプライミングし、MVA.(F11)5T4でブーストしたマウスからのPBMC及び脾細胞で実施した。フローサイトメトリー解析の結果を図4に提供する。
【0045】
すべての動物の手順は、プロジェクトライセンス30/2947の英国動物(科学的処置)法(ASPA、the UKAnimals (Scientific Procedures) Act)の条項に従って実行され、オックスフォード大学の動物管理及び倫理審査委員会によって承認されたものである。すべてのマウスは、特定病原体除去(SPF、Specific Pathogen Free)条件下で、英国オックスフォードの大学の動物施設でのあらゆる手順の前に、落ち着かせるため少なくとも7日間収容した。
【0046】
ヒト対象におけるMVA-(F11)5T4の安全性及び免疫原性
MVA-(F11)5T4を、後期転移性前立腺がんを治療するための治験でヒト対象
に投与した。
【0047】
この前立腺がん患者は、2×1010vpの用量で5T4をコードするサルアデノウイルスベクターChAdOx1の筋肉内(i.m.)投与からなるプライミング免疫を0週目に受け、及びチェックポイント阻害剤抗PD1の静脈内用量と一緒にMVA-(F11)5T4のブースト筋肉内用量を4週目に受けた。同じ患者は、第2回目の免疫を12週目と16週目に受け、標準的なi.v.用量の抗PD1を8週目と12週目にさらに受けている。血液試料を、免疫応答を測定するために0、2、5、9、13、17、24、及び36週目に収集し、あらゆる有害事象(AE、adverse event)について文書化し、調
査している。
【0048】
11人の患者がMVA-(F11)5T4を投与されたが、安全性プロファイルは非常に良好であった。患者の50%が、ワクチン接種の翌日に注射部位に痛みや圧痛を報告した。3件の深刻な有害事象(SAE)があったが、調査により結論したことは、どの事象もMVA-(F11)5T4に起因するものではなかったことである。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
2024105526000001.xml