(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010553
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】生体信号測定用電極、生体信号測定装置および生体信号測定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/256 20210101AFI20240117BHJP
A61B 5/291 20210101ALI20240117BHJP
A61B 5/268 20210101ALI20240117BHJP
A61B 5/271 20210101ALI20240117BHJP
【FI】
A61B5/256 110
A61B5/291
A61B5/268
A61B5/271
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111949
(22)【出願日】2022-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】八木澤 隆
(72)【発明者】
【氏名】北添 雄眞
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA03
4C127LL08
4C127LL13
4C127LL19
4C127LL22
(57)【要約】
【課題】生体信号測定用電極が被験者の皮膚に接触した際に、被験者が不快に感じてしまうことを抑制する技術を提供する。
【解決手段】被験者の頭部99(皮膚)に接触させて脳波(生体信号)を取得する脳波測定用電極50(生体信号測定用電極)であって、基部51から突出する突出部60と、突出部60の少なくとも先端部分に設けられ、脳波を取得する電極部80とを有し、突出部60は弾性部材で構成されており、弾性部材の30℃における比熱が1500J/kg ℃以上1900J/kg ℃以下である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の皮膚に接触させて生体信号を取得する生体信号測定用電極であって、
基部から突出する突出部と、
前記突出部の少なくとも先端部分に設けられ、前記生体信号を取得する導電部と、
を有し、
前記突出部は弾性部材で構成されており、
前記弾性部材の30℃における比熱が1500J/kg℃以上1900J/kg℃以下である、生体信号測定用電極。
【請求項2】
前記弾性部材はシリコーンゴムを有して構成されている、請求項1に記載の生体信号測定用電極。
【請求項3】
前記シリコーンゴムにはフィラーが含まれており、
前記シリコーンゴム全体に対する前記フィラーの含有率は20質量%以上50質量%以下である、請求項2に記載の生体信号測定用電極。
【請求項4】
前記突出部は錐体または錐体の先端部分を取り除いた形状を呈する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の生体信号測定用電極。
【請求項5】
前記突出部の高さは0.5mm~20mmであって、
前記突出部の底面の幅は2mm~5mmである、
請求項1に記載の生体信号測定用電極。
【請求項6】
前記突出部の一つ当たりの体積は0.3mm3~131mm3である、
請求項1に記載の生体信号測定用電極。
【請求項7】
前記基部と前記突出部は一体に構成されている、請求項1に記載の生体信号測定用電極。
【請求項8】
前記導電部は、前記突出部の前記先端部分から高さ方向で少なくとも10%までの領域に設けられている、請求項1に記載の生体信号測定用電極。
【請求項9】
前記導電部は、前記突出部の先端部分のみに設けられている、請求項1に記載の生体信号測定用電極。
【請求項10】
前記導電部は、前記突出部の先端を覆う第1の導電部と、前記突出部が設けられる前記基部の面を覆う第2の導電部と、有し、前記第1の導電部と前記第2の導電部は接続している、請求項1に記載の生体信号測定用電極。
【請求項11】
前記第1の導電部は、前記突出部の先端において、前記基部と前記突出部とに共通に設けられた導電材料の上に更に導電材料を設けることで形成されている、請求項10に記載の生体信号測定用電極。
【請求項12】
前記第1の導電部を構成する導電材料と前記第2の導電部を構成する導電材料は異っている、請求項10に記載の生体信号測定用電極。
【請求項13】
前記導電部で取得した前記生体信号を外部に出力する信号線を有し、
前記信号線は、前記第2の導電部に接続されて前記基部の内部を通り外部に出力されている、請求項10に記載の生体信号測定用電極。
【請求項14】
前記弾性部材は導電性材料を含む、請求項1に記載の生体信号測定用電極。
【請求項15】
前記生体信号が脳波である、請求項1に記載の生体信号測定用電極。
【請求項16】
請求項1に記載の生体信号測定用電極を備える生体信号測定装置。
【請求項17】
請求項16に記載の生体信号測定装置を被験者の頭部に装着して脳波を測定する生体信号測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体信号測定用電極、生体信号測定装置および生体信号測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで生体信号測定用電極に関して様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1や特許文献2に記載の技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、基底部と、前記基底部から突出して設けられた、ゴムからなる突出部と、前記突出部の先端に設けられ、前記脳波測定用電極の外部と電気的に接続され、前記脳波の測定時に頭皮に接触する、金属からなる接触部と、を備える脳波測定用電極(脳波検出用電極)が開示されている。
【0004】
特許文献2には、保温性と軽量性を兼ね備えており、特にインナー用編物に適した生体情報測定用の衣類が開示されている。具体的には、着用者の肌に接触する電極が形成されている衣類であって、その衣類は、60~250g/m2の目付及び0.2~0.9mmの厚みを有する編地であって、単繊維繊度が0.2~0.9dtexである短繊維Aと;繊維軸方向の熱伝導率が1.2W/m・k以下、単繊維繊度が0.8~2.5dtexであり、且つ、前記短繊維Aとの単繊維繊度の差が0.4dtex以上である短繊維Bと;を3:7~8:2の質量比で混紡した混紡糸を、編地全体に対して50質量%以上含み、前記混紡糸の繊度は40~100番手である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5842198号
【特許文献2】特開2019-122564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、生体信号測定用電極を用いて生体信号を取得する際は、電極先端部が被験者の皮膚に接触するが、このとき被験者は冷たさを感じ、生体信号測定に不適切な影響を与える虞があり、対策の技術が求められていた。特許文献1や2では、そのような点が考慮されていなかった。
【0007】
本発明は以上のような状況に鑑みなされたものであって、生体信号測定用電極が被験者の皮膚に接触した際に、被験者が冷たさを感じてしまうことを抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば以下の技術が提供される。
[1]
被験者の皮膚に接触させて生体信号を取得する生体信号測定用電極であって、
基部から突出する突出部と、
前記突出部の少なくとも先端部分に設けられ、前記生体信号を取得する導電部と、
を有し、
前記突出部は弾性部材で構成されており、
前記弾性部材の30℃における比熱が1500J/kg ℃以上1900J/kg ℃以下である、生体信号測定用電極。
[2]
前記弾性部材はシリコーンゴムを有して構成されている、[1]に記載の生体信号測定用電極。
[3]
前記シリコーンゴムにはフィラーが含まれており、
前記シリコーンゴム全体に対する前記フィラーの含有率は20重量%以上50%重量以下である、[2]に記載の生体信号測定用電極。
[4]
前記突出部は錐体または錐体の先端部分を取り除いた形状を呈する、[1]から[3]までのいずれか1に記載の生体信号測定用電極。
[5]
前記突出部の高さは0.5mm~20mmであって、
前記突出部の底面の幅は2mm~5mmである、[1]から[4]までのいずれか1に記載の生体信号測定用電極。
[6]
前記突出部の一つ当たりの体積は0.3mm3~131mm3である、
[1]から[5]までのいずれか1に記載の生体信号測定用電極。
[7]
前記基部と前記突出部は一体に構成されている、[1]から[6]までのいずれか1に記載の生体信号測定用電極。
[8]
前記導電部は、前記突出部の前記先端部分から高さ方向で少なくとも10%までの領域に設けられている、[1]から[7]までのいずれか1に記載の生体信号測定用電極。
[9]
前記導電部は、前記突出部の先端部分のみに設けられている、[1]から[7]までのいずれか1に記載の生体信号測定用電極。
[10]
前記導電部は、前記突出部の先端を覆う第1の導電部と、前記突出部が設けられる前記基部の面を覆う第2の導電部と、有し、前記第1の導電部と前記第2の導電部は接続している、[1]から[7]までのいずれか1に記載の生体信号測定用電極。
[11]
前記第1の導電部は、前記突出部の先端において、前記基部と前記突出部とに共通に設けられた導電材料の上に更に導電材料を設けることで形成されている、[10]に記載の生体信号測定用電極。
[12]
前記第1の導電部を構成する導電材料と前記第2の導電部を構成する導電材料は異っている、[10]に記載の生体信号測定用電極。
[13]
前記導電部で取得した前記生体信号を外部に出力する信号線を有し、
前記信号線は、前記第2の導電部に接続されて前記基部の内部を通り外部に出力されている、[10]~[12]のいずれか1に記載の生体信号測定用電極。
[14]
前記弾性部材は導電性材料を含む、[1]から[13]までのいずれか1に記載の生体信号測定用電極。
[15]
前記生体信号が脳波である、[1]から[14]のいずれか1に記載の生体信号測定用電極。
[16]
[1]から[15]のいずれか1の生体信号測定用電極を備える生体信号測定装置。
[17]
[16]に記載の生体信号測定装置を被験者の頭部に装着して脳波を測定する生体信号測定方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、生体信号測定用電極が被験者の皮膚に接触した際に、被験者が冷たさを感じてしまうことを抑制する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る、人の頭部に装着した状態の脳波測定装置を模式的に示す図である。
【
図2】第1の実施形態に係る、フレームの斜視図である。
【
図3】第1の実施形態に係る、脳波電極ユニットの正面図である。
【
図4】第1の実施形態に係る、脳波測定用電極の斜視図である。
【
図5】第1の実施形態に係る、脳波測定用電極の平面図である。
【
図6】第1の実施形態に係る、脳波測定用電極の断面図であり、特に
図5のX1-X1断面図を示す。
【
図7】第2の実施形態に係る、脳波測定用電極の断面図である。
【
図8】第3の実施形態に係る、脳波測定用電極の断面図である。
【
図9】第4の実施形態に係る、脳波測定用電極の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。本実施形態では、生体信号測定技術を説明する。生体信号として脳波について例示する。生体信号として、脳波の他に、例えば、心電位や筋電位、皮膚電位が挙げられる。
【0012】
≪第1の実施形態≫
<概要>
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
本実施形態では、生体信号測定用電極(より具体的には脳波測定用電極)が被験者の皮膚(より具体的には頭部)に接触したときに、被験者が「ヒヤッ」と冷たく感じてしまうことを抑制する技術について説明する。生体信号を取得するための導電部(電極部)が設けられる突出部を弾性部材で形成するとともに、熱容量の観点で大容量となる突出部(すなわち弾性部材)の比熱を適切な範囲とする。
【0013】
図1は人(被験者)の頭部99に装着した状態の脳波測定装置1を模式的に示す図である。脳波測定装置1を被験者の頭部99に装着して脳波測定を行う脳波測定方法が実行される。脳波測定装置1は、頭部99に装着され、脳波を生体からの電位変動として検出し、検出した脳波を脳波表示装置(図示せず)に出力する。脳波表示装置は、脳波測定装置1が検出した脳波を取得して、モニタ表示したり、データ保存したり、周知の脳波解析処理を行う。
【0014】
<脳波測定装置1の構造>
脳波測定装置1は、複数の脳波電極ユニット10と、フレーム20と、を有する。本実施形態では、脳波電極ユニット10は、5ch分(5個)設けられている。
【0015】
<フレーム20の構造>
図2にフレーム20の斜視図を示す。フレーム20は、例えばポリアミド樹脂のような硬質部材で帯状に、かつ人間の頭部99の形状に沿うように湾曲して形成されている。
【0016】
フレーム20には、脳波電極ユニット10を取り付けるための開孔として電極ユニット取付部21が5カ所設けられている。電極ユニット取付部21の位置(すなわち脳波電極ユニット10の取付位置)は、国際10-20電極配置法におけるT3、C3、Cz、C4、T4の位置に対応する。
【0017】
電極ユニット取付部21の内周面は螺刻されており、脳波電極ユニット10がその胴部11の螺刻部13(
図3参照)により螺着する。脳波電極ユニット10をネジ込む量を調整することで、頭部99側への突き出し量を調整し、頭部99(頭皮)との接触量・接触圧をコントロールする。また、脳波電極ユニット10をネジ込む動作により、毛髪を掻き分ける。
【0018】
<脳波電極ユニット10の構造>
図3に脳波電極ユニット10の正面図を示す。脳波電極ユニット10は、略円柱状の胴部11と、その一端側(図中下側)に設けられた脳波測定用電極50とを有する。
【0019】
胴部11は、信号取出部12と、螺刻部13と、電極固定部14とを一体に有する。
螺刻部13は、円柱形状の側面に螺刻した形状である。螺刻部13の一端(図中上側)に信号取出部12が設けられている。信号取出部12には信号出力端子が設けられるとともに、脳波電極ユニット10をフレーム20に螺着する際に作業者によって必要に応じて所定の治具を用いて操作される。螺刻部13の他端(図中下側)には、円柱状の電極固定部14が設けられている。電極固定部14に脳波測定用電極50が取り付けられる。
【0020】
<脳波測定用電極50の構造>
図4は脳波測定用電極50の斜視図である。
図5は脳波測定用電極50の平面図である。
図6は脳波測定用電極50の断面図であり、特に
図5のX1-X1断面図を示す。
【0021】
脳波測定用電極50は、基部51と、突出部60と、電極部80とを有する。基部51と突出部60は、ゴム状の弾性体(弾性部材ともいう)によって一体に設けられている。弾性体の具体的な材料については後述する。なお、基部51と突出部60とは一体に設けられる構成に限らず、別体に設けたものを接着剤や嵌合構造により組み付けた構成でもよい。
【0022】
基部51は、略円柱形状であって、一端が円形状の突出部形成面52、他端が円形状の取付面53となっている。取付面53が、胴部11の電極固定部14に接着剤等により取り付けられる。なお、取付面53と電極固定部14の固定構造として特に制限は無く、例えば凹凸形状による嵌合構造が用いられてもよい。
【0023】
<突出部60の形状>
突出部形成面52には、複数の突出部60が整列配置されて設けられている。ここでは、15個の正四角錐の突出部60が格子状に配置されている。より具体的には、斜方格子状に設けられている。
【0024】
突出部60には、頂点61から所定高さの範囲に電極部80が設けられ頭部99(頭皮)と接触する。
【0025】
突出部60の形状として正四角錐の他に三角錐や六角錐等の多角錐、円錐等各種の錐体の形状を採用することができる。錐体として、先端部分を取り除いた切頭錐体(円錐台や角錐台)であってもよい。また、格子状配置として各種配置を採用できる。
【0026】
突出部60の高さH0は、0.5mm以上20mm以下とすることができる。高さH0の下限は、好ましくは1.0mm以上であり、より好ましくは2.0mm以上である。高さH0の上限は、好ましくは15mm以下であり、より好ましくは10mm以下である。
【0027】
突出部60の底面の幅は2mm以上5mm以下とすることができる。底面の幅の下限は、好ましくは2.5mm以上であり、より好ましくは3.0mm以上である。底面の幅の上限は、好ましくは4.5mm以下であり、より好ましくは4.0mm以下である。
【0028】
突出部60の一つ当たりの体積は0.3mm3以上131mm3以下である。
体積の下限は、好ましくは1.0mm3以上であり、より好ましくは2.0mm3以上である。体積の上限は、好ましくは100mm3以下であり、より好ましくは75mm3以下である。
【0029】
突出部60の形状を上記形状や大きさとすることで、突出部60が頭部99に適切に接触し、被験者に痛み等を与えない柔軟性を実現しつつ、突出部60が屈曲してしまわない十分な強度を確保できる。
【0030】
<信号線69の構造>
突出部60の内部には、電極部80に接続する導電性の信号線69(
図6において破線で示す)が設けられている。信号線69は、突出部60の内部を導通する態様であれば各種の配置構造を採用し得る。例えば、信号線69の先端は、突出部60の電極形成面(すなわち電極部80が設けられる領域)に対して突出した構造、略同一面上となる構造、埋没した構造のいずれでもよい。電極部80との接続安定性の観点から、突出した構造を用いてもよい。信号線69の先端の突出部分は、一部または全体が電極部80で覆われている。
【0031】
信号線69の先端の突出構造は、折り返し無し、折り返し有り、突出部60の先端部の表面に巻き付ける構造が採用し得る。また、信号線69の延在方向は特に限定せず、突出部形成面52から延びる垂線と一致せず、垂線に対して傾斜してもよい。
【0032】
<脳波測定用電極50の材料>
脳波測定用電極50(基部51、突出部60)の材料について説明する。脳波測定用電極50は、上述のようにゴム状の弾性体である。ゴム状の弾性体として、具体的にはゴムや熱可塑性エラストマー(単に「エラストマー(TPE)」ともいう)である。ゴムとしては、例えばシリコーンゴム(シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物)がある。熱可塑性エラストマーとして、例えば、スチレン系TPE(TPS)、オレフィン系TPE(TPO)、塩化ビニル系TPE(TPVC)、ウレタン系TPE(TPU)、エステル系TPE(TPEE)、アミド系TPE(TPAE)などがある。
【0033】
ここで、シリコーンゴム(シリコーンゴム系硬化性組成物)ついて説明する。
上記シリコーンゴムは、シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物で構成することができる。シリコーンゴム系硬化性樹脂組成物の硬化工程は、例えば、100~250℃で1~30分間加熱(1次硬化)した後、100~200℃で1~4時間ポストベーク(2次硬化)することによって行われる。
【0034】
絶縁性シリコーンゴムは、導電性フィラーを含まないシリコーンゴムであり、導電性シリコーンゴムは導電性フィラーを含むシリコーンゴムである。
【0035】
本実施形態に係るシリコーンゴム系硬化性組成物は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)を含むことができる。ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)は、本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物の主成分となる重合物である。
【0036】
絶縁性シリコーンゴム系硬化性組成物および導電性シリコーンゴム系硬化性組成物は、同種のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサンを含んでもよい。同種のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサンとは、少なくとも官能基が同じビニル基を含み、直鎖状を有していればよく、分子中のビニル基量や分子量分布、あるいはその添加量が異なっていてもよい。
なお、絶縁性シリコーンゴム系硬化性組成物および導電性シリコーンゴム系硬化性組成物は、互いに異なるビニル基含有オルガノポリシロキサンをさらに含んでもよい。
【0037】
上記ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)は、直鎖構造を有するビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を含むことができる。
【0038】
上記ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)は、直鎖構造を有し、かつ、ビニル基を含有しており、かかるビニル基が硬化時の架橋点となる。
【0039】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)のビニル基の含有量は、特に限定されないが、例えば、分子内に2個以上のビニル基を有し、かつ15モル%以下であるのが好ましく、0.01~12モル%であるのがより好ましい。これにより、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)中におけるビニル基の量が最適化され、後述する各成分とのネットワークの形成を確実に行うことができる。本実施形態において、「~」は、その両端の数値を含むことを意味する。
【0040】
なお、本明細書中において、ビニル基含有量とは、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を構成する全ユニットを100モル%としたときのビニル基含有シロキサンユニットのモル%である。ただし、ビニル基含有シロキサンユニット1つに対して、ビニル基1つであると考える。
【0041】
また、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)の重合度は、特に限定されないが、例えば、好ましくは1000~10000程度、より好ましくは2000~5000程度の範囲内である。なお、重合度は、例えばクロロホルムを展開溶媒としたGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)におけるポリスチレン換算の数平均重合度(又は数平均分子量)等として求めることができる。
【0042】
さらに、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)の比重は、特に限定されないが、0.9~1.1程度の範囲であるのが好ましい。
【0043】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)として、上記のような範囲内の重合度および比重を有するものを用いることにより、得られるシリコーンゴムの耐熱性、難燃性、化学的安定性等の向上を図ることができる。
【0044】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)としては、特に、下記式(1)で表される構造を有するものであるが好ましい。
【0045】
【0046】
式(1)中、R1は炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられ、中でも、ビニル基が好ましい。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基等が挙げられる。
【0047】
また、R2は炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基が挙げられる。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0048】
また、R3は炭素数1~8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0049】
さらに、式(1)中のR1およびR2の置換基としては、例えば、メチル基、ビニル基等が挙げられ、R3の置換基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。
【0050】
なお、式(1)中、複数のR1は互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。さらに、R2、およびR3についても同様である。
【0051】
さらに、m、nは、式(1)で表されるビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を構成する繰り返し単位の数であり、mは0~2000の整数、nは1000~10000の整数である。mは、好ましくは0~1000であり、nは、好ましくは2000~5000である。
【0052】
また、式(1)で表されるビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)の具体的構造としては、例えば下記式(1-1)で表されるものが挙げられる。
【0053】
【0054】
式(1-1)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、メチル基またはビニル基であり、少なくとも一方がビニル基である。
【0055】
さらに、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)としては、ビニル基含有量が分子内に2個以上のビニル基を有し、かつ0.4モル%以下である第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)と、ビニル基含有量が0.5~15モル%である第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを含有するものであるのが好ましい。シリコーンゴムの原料である生ゴムとして、一般的なビニル基含有量を有する第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)と、ビニル基含有量が高い第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを組み合わせることで、ビニル基を偏在化させることができ、シリコーンゴムの架橋ネットワーク中に、より効果的に架橋密度の疎密を形成することができる。その結果、より効果的にシリコーンゴムの引裂強度を高めることができる。
【0056】
具体的には、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)として、例えば、上記式(1-1)において、R1がビニル基である単位および/またはR2がビニル基である単位を、分子内に2個以上有し、かつ0.4モル%以下を含む第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)と、R1がビニル基である単位および/またはR2がビニル基である単位を、0.5~15モル%含む第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを用いるのが好ましい。
【0057】
また、第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)は、ビニル基含有量が0.01~0.2モル%であるのが好ましい。また、第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)は、ビニル基含有量が、0.8~12モル%であるのが好ましい。
【0058】
さらに、第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)と第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを組み合わせて配合する場合、(A1-1)と(A1-2)の比率は特に限定されないが、例えば、重量比で(A1-1):(A1-2)が50:50~95:5であるのが好ましく、80:20~90:10であるのがより好ましい。
【0059】
なお、第1および第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)および(A1-2)は、それぞれ1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
また、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)は、分岐構造を有するビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)を含んでもよい。
【0061】
<<オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)>>
本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、架橋剤を含んでもよい。架橋剤は、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)を含むことができる。
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)は、直鎖構造を有する直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐構造を有する分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)とに分類され、これらのうちのいずれか一方または双方を含むことができる。
【0062】
絶縁性シリコーンゴム系硬化性組成物および導電性シリコーンゴム系硬化性組成物は、同種の架橋剤を含んでもよい。同種の架橋剤とは、少なくとも直鎖構造や分岐構造などの共通の構造を有していればよく、分子中の分子量分布や異なる官能基が含まれていてもよく、その添加量が異なっていてもよい。
なお、絶縁性シリコーンゴム系硬化性組成物および導電性シリコーンゴム系硬化性組成物は、互いに異なる架橋剤をさらに含んでもよい。
【0063】
直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、直鎖構造を有し、かつ、Siに水素が直接結合した構造(≡Si-H)を有し、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)のビニル基の他、シリコーンゴム系硬化性組成物に配合される成分が有するビニル基とヒドロシリル化反応し、これらの成分を架橋する重合体である。
【0064】
直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)の分子量は特に限定されないが、例えば、重量平均分子量が20000以下であるのが好ましく、1000以上、10000以下であることがより好ましい。
【0065】
なお、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)の重量平均分子量は、例えばクロロホルムを展開溶媒としたGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)におけるポリスチレン換算により測定することができる。
【0066】
また、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、通常、ビニル基を有しないものであるのが好ましい。これにより、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)の分子内において架橋反応が進行するのを的確に防止することができる。
【0067】
以上のような直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)としては、例えば、下記式(2)で表される構造を有するものが好ましく用いられる。
【0068】
【0069】
式(2)中、R4は炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、これらを組み合わせた炭化水素基、またはヒドリド基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられる。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0070】
また、R5は炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、これらを組み合わせた炭化水素基、またはヒドリド基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられる。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0071】
なお、式(2)中、複数のR4は互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。R5についても同様である。ただし、複数のR4およびR5のうち、少なくとも2つ以上がヒドリド基である。
【0072】
また、R6は炭素数1~8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。複数のR6は互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0073】
なお、式(2)中のR4,R5,R6の置換基としては、例えば、メチル基、ビニル基等が挙げられ、分子内の架橋反応を防止する観点から、メチル基が好ましい。
【0074】
さらに、m、nは、式(2)で表される直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)を構成する繰り返し単位の数であり、mは2~150整数、nは2~150の整数である。好ましくは、mは2~100の整数、nは2~100の整数である。
【0075】
なお、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、分岐構造を有するため、架橋密度が高い領域を形成し、シリコーンゴムの系中の架橋密度の疎密構造形成に大きく寄与する成分である。また、上記直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)同様、Siに水素が直接結合した構造(≡Si-H)を有し、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)のビニル基の他、シリコーンゴム系硬化性組成物に配合される成分のビニル基とヒドロシリル化反応し、これら成分を架橋する重合体である。
【0077】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の比重は、0.9~0.95の範囲である。
【0078】
さらに、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、通常、ビニル基を有しないものであるのが好ましい。これにより、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の分子内において架橋反応が進行するのを的確に防止することができる。
【0079】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)としては、下記平均組成式(c)で示されるものが好ましい。
【0080】
平均組成式(c)
(Ha(R7)3-aSiO1/2)m(SiO4/2)n
(式(c)において、R7は一価の有機基、aは1~3の範囲の整数、mはHa(R7)3-aSiO1/2単位の数、nはSiO4/2単位の数である)
【0081】
式(c)において、R7は一価の有機基であり、好ましくは、炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0082】
式(c)において、aは、ヒドリド基(Siに直接結合する水素原子)の数であり、1~3の範囲の整数、好ましくは1である。
【0083】
また、式(c)において、mはHa(R7)3-aSiO1/2単位の数、nはSiO4/2単位の数である。
【0084】
分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は分岐状構造を有する。直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、その構造が直鎖状か分岐状かという点で異なり、Siの数を1とした時のSiに結合するアルキル基Rの数(R/Si)が、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)では1.8~2.1、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)では0.8~1.7の範囲となる。
【0085】
なお、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、分岐構造を有しているため、例えば、窒素雰囲気下、1000℃まで昇温速度10℃/分で加熱した際の残渣量が5%以上となる。これに対して、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、直鎖状であるため、上記条件で加熱した後の残渣量はほぼゼロとなる。
【0086】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の具体例としては、下記式(3)で表される構造を有するものが挙げられる。
【0087】
【0088】
式(3)中、R7は炭素数1~8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基、もしくは水素原子である。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。R7の置換基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。
【0089】
なお、式(3)中、複数のR7は互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0090】
また、式(3)中、「-O-Si≡」は、Siが三次元に広がる分岐構造を有することを表している。
【0091】
なお、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0092】
また、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)において、Siに直接結合する水素原子(ヒドリド基)の量は、それぞれ、特に限定されない。ただし、シリコーンゴム系硬化性組成物において、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)中のビニル基1モルに対し、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の合計のヒドリド基量が、0.5~5モルとなる量が好ましく、1~3.5モルとなる量がより好ましい。これにより、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)および分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)と、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)との間で、架橋ネットワークを確実に形成させることができる。
【0093】
<<シリカ粒子(C)>>
本実施形態に係るシリコーンゴム系硬化性組成物は、非導電性フィラーを含む。非導電性フィラーは、必要に応じ、シリカ粒子(C)を含んでもよい。これにより、エラストマーの硬さや機械的強度の向上を図ることができる。
【0094】
絶縁性シリコーンゴム系硬化性組成物および導電性シリコーンゴム系硬化性組成物は、同種の非導電性フィラーを含んでもよい。同種の非導電性フィラーとは、少なくとも共通の構成材料を有していればよく、粒子径、比表面積、表面処理剤、又はその添加量が異なっていてもよい。
なお、絶縁性シリコーンゴム系硬化性組成物および導電性シリコーンゴム系硬化性組成物は、互いに異なるシランカップリング剤をさらに含んでもよい。
【0095】
シリカ粒子(C)としては、特に限定されないが、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ等が用いられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0096】
シリカ粒子(C)は、例えば、BET法による比表面積が例えば50~400m2/gであるのが好ましく、100~400m2/gであるのがより好ましい。また、シリカ粒子(C)の平均一次粒径は、例えば1~100nmであるのが好ましく、5~20nm程度であるのがより好ましい。
【0097】
シリカ粒子(C)として、かかる比表面積および平均粒径の範囲内であるものを用いることにより、形成されるシリコーンゴムの硬さや機械的強度の向上、特に引張強度の向上をさせることができる。
【0098】
<<シランカップリング剤(D)>>
本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、シランカップリング剤(D)を含むことができる。
シランカップリング剤(D)は、加水分解性基を有することができる。加水分解基が水により加水分解されて水酸基になり、この水酸基がシリカ粒子(C)表面の水酸基と脱水縮合反応することで、シリカ粒子(C)の表面改質を行うことができる。
【0099】
絶縁性シリコーンゴム系硬化性組成物および導電性シリコーンゴム系硬化性組成物は、同種のシランカップリング剤を含んでもよい。同種のシランカップリング剤とは、少なくとも共通の官能基を有していればよく、分子中の他の官能基や添加量が異なっていてもよい。
なお、絶縁性シリコーンゴム系硬化性組成物および導電性シリコーンゴム系硬化性組成物は、互いに異なるシランカップリング剤をさらに含んでもよい。
【0100】
また、このシランカップリング剤(D)は、疎水性基を有するシランカップリング剤を含むことができる。これにより、シリカ粒子(C)の表面にこの疎水性基が付与されるため、シリコーンゴム系硬化性組成物中ひいてはシリコーンゴム中において、シリカ粒子(C)の凝集力が低下(シラノール基による水素結合による凝集が少なくなる)し、その結果、シリコーンゴム系硬化性組成物中のシリカ粒子(C)の分散性が向上すると推測される。これにより、シリカ粒子(C)とゴムマトリックスとの界面が増加し、シリカ粒子(C)の補強効果が増大する。さらに、ゴムのマトリックス変形の際、マトリックス内でのシリカ粒子(C)の滑り性が向上すると推測される。そして、シリカ粒子(C)の分散性の向上及び滑り性の向上によって、シリカ粒子(C)によるシリコーンゴムの機械的強度(例えば、引張強度や引裂強度など)が向上する。
【0101】
さらに、シランカップリング剤(D)は、ビニル基を有するシランカップリング剤を含むことができる。これにより、シリカ粒子(C)の表面にビニル基が導入される。そのため、シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化の際、すなわち、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)が有するビニル基と、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)が有するヒドリド基とがヒドロシリル化反応して、これらによるネットワーク(架橋構造)が形成される際に、シリカ粒子(C)が有するビニル基も、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)が有するヒドリド基とのヒドロシリル化反応に関与するため、ネットワーク中にシリカ粒子(C)も取り込まれるようになる。これにより、形成されるシリコーンゴムの低硬度化および高モジュラス化を図ることができる。
【0102】
シランカップリング剤(D)としては、疎水性基を有するシランカップリング剤およびビニル基を有するシランカップリング剤を併用することができる。
【0103】
シランカップリング剤(D)としては、例えば、下記式(4)で表わされるものが挙げられる。
【0104】
Yn-Si-(X)4-n・・・(4)
上記式(4)中、nは1~3の整数を表わす。Yは、疎水性基、親水性基またはビニル基を有するもののうちのいずれかの官能基を表わし、nが1の時は疎水性基であり、nが2または3の時はその少なくとも1つが疎水性基である。Xは、加水分解性基を表わす。
【0105】
疎水性基は、炭素数1~6のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基等が挙げられ、中でも、特に、メチル基が好ましい。
【0106】
また、親水性基は、例えば、水酸基、スルホン酸基、カルボキシル基またはカルボニル基等が挙げられ、中でも、特に、水酸基が好ましい。なお、親水性基は、官能基として含まれていてもよいが、シランカップリング剤(D)に疎水性を付与するという観点からは含まれていないのが好ましい。
【0107】
さらに、加水分解性基は、メトキシ基、エトキシ基のようなアルコキシ基、クロロ基またはシラザン基等が挙げられ、中でも、シリカ粒子(C)との反応性が高いことから、シラザン基が好ましい。なお、加水分解性基としてシラザン基を有するものは、その構造上の特性から、上記式(4)中の(Yn-Si-)の構造を2つ有するものとなる。
【0108】
上記式(4)で表されるシランカップリング剤(D)の具体例は、次の通りである。
上記官能基として疎水性基を有するものとして、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシランのようなアルコキシシラン;メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシランのようなクロロシラン;ヘキサメチルジシラザンが挙げられる。この中でも、ヘキサメチルジシラザン、トリメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、及びトリメチルエトキシシランからなる群から選択される一種以上を含むトリメチルシリル基を有するシランカップリング剤が好ましい。
【0109】
上記官能基としてビニル基を有するものとして、例えば、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシランのようなアルコキシシラン;ビニルトリクロロシラン、ビニルメチルジクロロシランのようなクロロシラン;ジビニルテトラメチルジシラザンが挙げられる。この中でも、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ジビニルテトラメチルジシラザン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、及びビニルメチルジメトキシシランからなる群から選択される一種以上を含むビニル基含有オルガノシリル基を有するシランカップリング剤が好ましい。
【0110】
またシランカップリング剤(D)がトリメチルシリル基を有するシランカップリング剤およびビニル基含有オルガノシリル基を有するシランカップリング剤の2種を含む場合、疎水性基を有するものとしてはヘキサメチルジシラザン、ビニル基を有するものとしてはジビニルテトラメチルジシラザンを含むことが好ましい。
【0111】
トリメチルシリル基を有するシランカップリング剤(D1)およびビニル基含有オルガノシリル基を有するシランカップリング剤(D2)を併用する場合、(D1)と(D2)の比率は、特に限定されないが、例えば、重量比で(D1):(D2)が、1:0.001~1:0.35、好ましくは1:0.01~1:0.20、より好ましくは1:0.03~1:0.15である。このような数値範囲とすることにより、所望のシリコーンゴムの物性を得ることができる。具体的には、ゴム中におけるシリカの分散性およびゴムの架橋性のバランスを図ることができる。
【0112】
本実施形態において、シランカップリング剤(D)の含有量の下限値は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の合計量100重量部に対して、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。また、シランカップリング剤(D)の含有量上限値は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の合計量100重量部に対して、100質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましい。
シランカップリング剤(D)の含有量を上記下限値以上とすることにより、エラストマーを含む柱状部と導電性樹脂層との密着性を高めることができる。また、シリコーンゴムの機械的強度の向上に資することができる。また、シランカップリング剤(D)の含有量を上記上限値以下とすることにより、シリコーンゴムが適度な機械特性を持つことができる。
【0113】
<<白金または白金化合物(E)>
本実施形態に係るシリコーンゴム系硬化性組成物は、触媒を含んでもよい。触媒は、白金または白金化合物(E)を含むことができる。白金または白金化合物(E)は、硬化の際の触媒として作用する触媒成分である。白金または白金化合物(E)の添加量は触媒量である。
【0114】
絶縁性シリコーンゴム系硬化性組成物および導電性シリコーンゴム系硬化性組成物は、同種の触媒を含んでもよい。同種の触媒とは、少なくとも共通の構成材料を有していればよく、触媒中に異なる組成が含まれていてもよく、その添加量が異なっていてもよい。
なお、絶縁性シリコーンゴム系硬化性組成物および導電性シリコーンゴム系硬化性組成物は、互いに異なる触媒をさらに含んでもよい。
【0115】
白金または白金化合物(E)としては、公知のものを使用することができ、例えば、白金黒、白金をシリカやカーボンブラック等に担持させたもの、塩化白金酸または塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とオレフィンの錯塩、塩化白金酸とビニルシロキサンとの錯塩等が挙げられる。
【0116】
なお、白金または白金化合物(E)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0117】
本実施形態において、シリコーンゴム系硬化性組成物中における白金または白金化合物(E)の含有量は、触媒量を意味し、適宜設定することができるが、具体的にはビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)、シリカ粒子(C)、シランカップリング剤(D)の合計量100重量部に対して、白金族金属が重量単位で0.01~1000ppmとなる量であり、好ましくは、0.1~500ppmとなる量である。
白金または白金化合物(E)の含有量を上記下限値以上とすることにより、シリコーンゴム系硬化性組成物が適切な速度で硬化することが可能となる。また、白金または白金化合物(E)の含有量を上記上限値以下とすることにより、製造コストの削減に資することができる。
【0118】
<<水(F)>>
また、本実施形態に係るシリコーンゴム系硬化性組成物には、上記成分(A)~(E)以外に、水(F)が含まれていてもよい。
【0119】
水(F)は、シリコーンゴム系硬化性組成物に含まれる各成分を分散させる分散媒として機能するとともに、シリカ粒子(C)とシランカップリング剤(D)との反応に寄与する成分である。そのため、シリコーンゴム中において、シリカ粒子(C)とシランカップリング剤(D)とを、より確実に互いに連結したものとすることができ、全体として均一な特性を発揮することができる。
【0120】
(その他の成分)
さらに、本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、上記(A)~(F)成分以外に、他の成分をさらに含むことができる。この他の成分としては、例えば、珪藻土、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化セリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、ガラスウール、マイカ等のシリカ粒子(C)以外の無機充填材、反応阻害剤、分散剤、顔料、染料、帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤、熱伝導性向上剤等の添加剤が挙げられる。
【0121】
本実施形態に係る導電性溶液(導電性シリコーンゴム組成物)は、導電性フィラーを含まない上記シリコーンゴム系硬化性組成物に加えて、上記導電性フィラーおよび溶剤を含むものである。
【0122】
上記溶剤としては、公知の各種溶剤を用いることができるが、例えば、高沸点溶剤を含むことができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0123】
上記溶剤の一例としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカンなどの脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、トリフルオロメチルベンゼン、ベンゾトリフルオリドなどの芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、シクロペンチルエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタンなどのハロアルカン類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのカルボン酸アミド類;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド類などを例示することができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0124】
上記導電性溶液は、溶液中の固形分量などを調整することで、スプレー塗布やディップ塗布等の各種の塗布方法に適切な粘度を備えることができる。
【0125】
また、上記導電性溶液が上記導電性フィラーおよび上記シリカ粒子(C)を含む場合、突出部60が含むシリカ粒子(C)の含有量の下限値は、シリカ粒子(C)および導電性フィラーの合計量100質量%に対して、例えば、1質量%以上であり、好ましくは3質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上とすることができる。これにより、突出部60の機械的強度を向上させることができる。一方で、上記突出部60が含むシリカ粒子(C)の含有量の上限値は、シリカ粒子(C)および導電性フィラーの合計量100質量%に対して、例えば、20質量%以下であり、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。これにより、突出部60における導電性と機械的強度や柔軟性とのバランスを図ることができる。
【0126】
導電性溶液を必要に応じて加熱乾燥することで、導電性シリコーンゴムが得られる。
導電性シリコーンゴムは、シリコーンオイルを含まない構成であってもよい。これにより、突出部60の表面にシリコーンオイルがブリードアウトすることで導通性が低下することを抑制できる。
【0127】
<信号線69の材料>
信号線69は、公知のものを使用することができるが、例えば、導電繊維で構成され得る。導電繊維としては、金属繊維、金属被覆繊維、炭素繊維、導電性ポリマー繊維、導電性ポリマー被覆繊維、および導電ペースト被覆繊維からなる群から選択される一種以上を用いることができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0128】
上記金属繊維、金属被覆繊維、の金属材料は、導電性を有するものであれば限定されないが、銅、銀、金、ニッケル、錫、鉛、亜鉛、ビスマス、アンチモン、ステンレス、アルミニウム、銀/塩化銀およびこれらの合金等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、導通性の観点から、銀を用いることができる。また、金属材料は、クロム等の環境に負荷を与える金属を含まないことが好ましい。
【0129】
上記金属被覆繊維、導電性ポリマー被覆繊維、導電ペースト被覆繊維の繊維材料は、特に限定されないが、合成繊維、半合成繊維、天然繊維のいずれでもよい。これらの中でも、ポリエステル、ナイロン、ポリウレタン、絹および綿等を用いることが好ましい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0130】
上記炭素繊維は、例えば、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。
【0131】
上記導電性ポリマー繊維および導電性ポリマー被覆繊維の導電性ポリマー材料は、例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレンビニレン、ポリナフタレン、及びこれらの誘導体等の導電性高分子およびバインダ樹脂の混合物、あるいは、PEDOT-PSS((3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸))等の導電性高分子の水溶液が用いられる。
【0132】
上記導電ペースト被覆繊維の導電ペーストに含まれる樹脂材料は特に限定されないが伸縮性を有することが好ましく、例えばシリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、スチレンゴム、クロロプレンゴム、およびエチレンプロピレンゴムからなる群から選択される一種以上を含むことができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0133】
上記導電ペースト被覆繊維の導電ペーストに含まれる導電性フィラーは特に限定されないが、公知の導電材料を用いてもよいが、金属粒子、金属繊維、金属被覆繊維、カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、炭素繊維、カーボンナノチューブ、導電性ポリマー、導電性ポリマー被覆繊維および金属ナノワイヤーからなる群から選択される一種以上を含むことができる。
【0134】
上記導電性フィラーを構成する金属は、特に限定はされないが、例えば、銅、銀、金、ニッケル、錫、鉛、亜鉛、ビスマス、アンチモン、銀/塩化銀、或いはこれらの合金のうち少なくとも一種類、あるいは、これらのうちの二種以上を含むことができる。この中でも、導電性の高さや入手容易性の高さから、銀または銅が好ましい。
【0135】
上記信号線69が、線状の導電繊維を複数本撚り合わせた撚糸で構成されてもよい。これにより、変形時における信号線69の断線を抑制できる。
【0136】
本実施形態において、導電繊維における被覆とは、単に繊維材料の外表面を覆うことのみならず、単繊維を撚り合わせた撚糸などの場合は、その撚糸の中の繊維間隙に金属、導電性ポリマー、または導電ペーストが含浸し、撚糸を構成する単繊維を1本毎に被覆するものを含む。
【0137】
信号線69の引張破断伸度は、例えば、1%以上~50%以下、好ましくは1.5%以上~45%である。このような数値範囲内とすることで、変形時の破断を抑制しつつも、突出部60の過度な変形を抑制できる。
【0138】
<電極部80(導電部)>
電極部80は、突出部60の先端部分のみに設けられている。すなわち、突出部60の頂点61から高さ方向で少なくとも10%までの領域に電極部80が設けられている。換言すると、突出部60の高さH0、突出部60の頂点61からの高さH1としたときに、比H1/H0が0.1以上である。電極部80をこのような範囲に設けることで、電極部80は頭部99に良好に接触でき、脳波取得が安定する。
【0139】
電極部80の厚みは、5μm以上200μm以下である。電極部80の厚みとは、突出部60の表面に対して法線方向の厚みを意味する。厚みの下限は、好ましくは10μm以上であり、より好ましくは15μm以上である。厚みの上限は、好ましくは175μm以下であり、より好ましくは150μm以下である。
【0140】
電極部80の導電部材は、例えば、良導性金属を含むペーストである。良導性金属は、銅、銀、金、ニッケル、錫、鉛、亜鉛、ビスマス、アンチモン、或いはこれらの合金からなる群から選択される一種以上を含む。特に、入手性や導電性の観点から、銀や塩化銀、銅が好適である。
【0141】
良導性金属を含むペーストで電極部80を形成する場合は、ゴム状の弾性体でできた突出部60の頂部を、良導性金属を含むペースト状の導電性溶液にディップ(浸漬塗布)する。これにより、突出部60の電極形成面に電極部80が形成される。
【0142】
なお、導電性フィラーおよび溶剤を含む導電性溶液を、突出部60の電極形成面に塗布することにより、導電性樹脂層としての電極部80を形成してもよい。このとき、溶剤を突出部60と同じ系統の材質(シリコーンゴム)とすることで、電極部80(導電性樹脂層)の密着性を高められる。
【0143】
導電性溶液を必要に応じて加熱乾燥することで、導電性シリコーンゴムが得られる。
導電性シリコーンゴムは、シリコーンオイルを含まない構成であってもよい。電極部80の表面にシリコーンオイルがブリードアウトすることで導通性が低下することを抑制できる。
【0144】
これにより、脳波測定装置1を頭部99へ装着する際の毛髪の掻き分け性能を向上させることができる。また、脳波測定装置1を装着した際の電極部80の接触面積の十分な確保が可能となる。
【0145】
<突出部60の好適な条件>
被験者が「ヒヤッ」と冷たく感じてしまうことを抑制する観点における、突出部60の好適な条件を説明する。
突出部60を構成する弾性部材の30℃における比熱が1500J/kg ℃以上1900J/kg ℃以下である。比熱の下限は、好ましくは1550J/kg ℃以上、より好ましくは1600J/kg ℃以上である。比熱の上限は、好ましくは1850J/kg ℃以下、より好ましくは1800J/kg ℃以下である。
【0146】
電極部80は、突出部60の表面に薄く形成されため、電極部80の熱容量は突出部60(弾性部材)の熱容量と比較して非常に小さい。すなわち、被験者が「ヒヤッ」と冷たく感じてしまう観点では、電極部80の熱容量による影響は小さい。そこで、電極部80に比べて熱容量の大きい突出部60(すなわちその弾性部材)の比熱について上述のような範囲とすることで、そのような不快感を与えることを回避することができる。
【0147】
突出部60を構成する弾性部材は、脳波測定用電極50の材料において上述した材料のなかでも、シリコーンゴムを有して構成されていることが好ましい。シリコーンゴムを採用することで、所望の強度を実現しつつ、上述の比熱の範囲を実現できる。また、シリコーンゴムにはフィラーが含まれており、シリコーンゴム全体に対するフィラーの含有率は20質量%以上50質量%以下である。含有率の下限は、好ましくは25質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上である。含有率の上限は、好ましくは45質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下である。フィラーの含有率を上記範囲で調整することで、所望の比熱に調整することができる。
【0148】
<脳波測定用電極50の製造方法>
本実施形態の脳波測定用電極50の製造方法の一例は次の工程を含むことができる。
まず、金型を用いて、上記シリコーンゴム系硬化性組成物を加熱加圧成形し、基部51および突出部60からなる成形体を得る。
続いて、得られた成形体の各突出部60の内部に、縫い針を用いて、信号線69を通す。その後得られた成形体の突出部60の電極形成面(すなわち電極部80が設けられる領域)に、ペースト状の導電性溶液をディップ塗布し、加熱乾燥後、ポストキュアを行う。これにより、突出部60の電極形成面に電極部80を形成できる。
以上により、脳波測定用電極50を製造することができる。
なお、上記成形工程時において、信号線69を配置した成形空間内に、上記シリコーンゴム系硬化性組成物を導入し、加圧加熱成形するインサート成形を用いてもよい。
【0149】
以上、本実施形態によると、突出部60を構成する弾性部材の30℃における比熱を1500J/kg ℃以上1900J/kg ℃以下とすることで、脳波測定用電極50(すなわち突出部60)が頭部99に接触した場合であっても、冷たく不快に感じてしまうことを防止できる。
【0150】
≪第2の実施形態≫
図7を参照して、本実施形態の脳波測定用電極50を説明する。
図7は本実施形態の脳波測定用電極50の断面図である。
【0151】
本実施形態の脳波測定用電極50の特徴は、主に電極部80および信号線69の形成位置にあり、以下では主にそれら特徴に着目して説明する。
【0152】
電極部80は、突出部60全体を覆うとともに突出部形成面52を覆っている。すなわち、電極部80は、突出部60全体を覆う第1の電極部81と突出部形成面52を覆う第2の電極部82とを有する。第1の電極部81と第2の電極部82は、電気的に接続されている。なお、第1の電極部81と第2の電極部82は同一の導電部材により一体に設けられてもよいし、異なる導電部材により設けられてもよい。電極部80の厚みは、第1の実施形態と同様に、5μm以上200μm以下とすることができる。厚みの下限は、好ましくは10μm以上であり、より好ましくは15μm以上である。厚みの上限は、好ましくは175μm以下であり、より好ましくは150μm以下である。
【0153】
信号線69は、基部51において、取付面53と突出部形成面52との間に導電繊維を通糸することで形成される。突出部形成面52では、突出部60が設けられておらず平面となっている領域に、信号線69の端部が露出して配置される。
信号線69の露出している部分は、第2の電極部82に覆われている。突出部60の先端部分を覆う第1の電極部81は第2の電極部82と電気的に接続されているため、頭部99(頭皮)と接触する第1の電極部81により検出された生体信号(すなわち脳波)は、第2の電極部82を介して信号線69によって外部に取り出すことができる。
【0154】
本実施形態においても、突出部60を構成する弾性部材は、比熱が1500~1900J/kg℃のシリコーンゴムである。また、突出部60の形状や大きさは第1の実施形態と同様である。
第1の電極部81と第2の電極部82は薄膜状に形成されるため、第2の電極部82が追加された構成であっても、電極部80の熱容量は突出部60と比較して熱容量が非常に小さい。したがって、電極部80が頭部99に接触したときに冷たく感じるか否かは突出部60の熱容量に寄る。このため、突出部60を構成する弾性部材の比熱を上記範囲とすることで、第1の実施形態と同様に、電極部80が頭部99に接触したときに、被験者が冷たく不快に感じてしまうことを防止できる。
【0155】
≪第3の実施形態≫
図8を参照して、本実施形態の脳波測定用電極50を説明する。
図8は本実施形態の脳波測定用電極50の断面図である。本実施形態の脳波測定用電極50は、第2の実施形態の脳波測定用電極50の変形例であり、異なる部分について説明する。
【0156】
脳波測定用電極50において、第1の電極部81は、突出部60の先端において、基部51と突出部60とに共通に設けられた導電材料の上に更に導電材料を設けることで形成されている。より具体的には、電極部80は、突出部60全体を覆う第1の電極部81と突出部形成面52を覆う第2の電極部82とを有する。第1の電極部81は、突出部60の表面全体に第2の電極部82と一体に設けられた下層電極部81aと、突出部60の頂点61(先端部分)から基部51に向けて所定高さまでの領域において下層電極部81aを覆って設けられた上層電極部81bとを有する。下層電極部81aの上に上層電極部81bを設けることで、電極部80の先端部部(頂点61の近傍領域)を補強することができる。
【0157】
第1の電極部81と第2の電極部82の導電材料は、第1の実施形態で説明した材料を用いることができる。第1の電極部81と第2の電極部82の導電材料は同じであってもよいし、異なってもよい。また、第1の電極部81の下層電極部81aと上層電極部81bの導電材料は、同じであってもよいし、異なってもよい。
【0158】
第2の電極部82と第1の下層電極部81aの厚みは、第1の実施形態と同様に、5μm以上200μm以下とすることができる。厚みの下限は、好ましくは10μm以上であり、より好ましくは15μm以上である。厚みの上限は、好ましくは175μm以下であり、より好ましくは150μm以下である。
上層電極部81bの厚みは、例えば、5μm以上200μm以下とすることができる。厚みの下限は、好ましくは10μm以上であり、より好ましくは15μm以上である。厚みの上限は、好ましくは175μm以下であり、より好ましくは150μm以下である。
【0159】
電極部80を設ける方法について説明する。
突起部60の表面全体と基部51の少なくとも突出部形成面52を覆うように、良導性金属を含むペースト状の第1の導電性溶液にディップ(浸漬塗布)して引き上げ乾燥させる。これにより、突起部60の表面全体と突出部形成面52に所定厚みの導電性部材(すなわち第2の電極部82と下層電極部81a)が形成される。つづいて、突起部60の頂点61およびその近傍に、下層電極部81aを覆うようにして新たな導電性部材を形成する。より具体的には、下層電極部81aが形成された突起部60の頂点61を下向きとして、予め設定された長さだけ、良導性金属を含むペースト状の第2の導電性溶液にディップ(浸漬塗布)し、頂点61を下側に向けた状態で、引き上げ乾燥させる。これにより、第2の導電性溶液が重力により頂点61に集まるように膨張形状(すなわち長球)が形成される。
【0160】
なお、第1の導電性部材を一定の厚みで形成し、第2の導電性部材を膨張形状(すなわち長球)とした構造を実現する観点から、第1の導電性部材の材料である第1の導電性溶液の粘度を低くし、第2の導電性部材の材料である第2の導電性溶液の粘度を高くすることが好ましい。第1の導電性溶液の粘度は、例えば、25℃において粘度0.1~1.0Pa・sとすることができる。第2の導電性溶液の粘度は、例えば、25℃において10~1000Pa・sとすることができる。
【0161】
≪第4の実施形態≫
図9を参照して、本実施形態の脳波測定用電極50を説明する。
図9は脳波測定用電極50の断面図である。
【0162】
本実施形態の脳波測定用電極50の特徴は、主に突出部60自体を導電性のシリコーンゴムとして、電極部80および信号線69を省いた構成にある。
【0163】
本実施形態においても、突出部60を構成する弾性部材は、比熱が1500~1900J/kg ℃のシリコーンゴムである。また、突出部60の形状や大きさは第1の実施形態と同様である。ただし、シリコーンゴムに導体(導電性フィラーやカーボンブラック等)を配合し、電極部80を設けない構成であっても、電極部の機能を発揮するようにしている。このとき、導体の配合量を考慮しないと、比熱が1500J/kg ℃以下となって、被験者が冷たく不快に感じてしまうことになる。しかし、電極部80を設けない突出部60であっても、比熱が1500~1900J/kg ℃になるようにすることで、被験者が冷たく不快に感じてしまうことを防止できる。
【0164】
<脳波測定装置1(脳波測定用電極50)の特徴のまとめ>
発明の特徴を第1~第4の実施形態により説明した。以下、脳波測定装置1の特徴について、脳波測定用電極50の突出部60に着目してまとめて説明する。
[1]被験者の頭部99(皮膚)に接触させて脳波(生体信号)を取得する脳波測定用電極50(生体信号測定用電極)であって、
基部51から突出する突出部60と、
突出部60の少なくとも先端部分に設けられ、脳波(生体信号)を取得する電極部80(導電部)と、
を有し、
突出部60は弾性部材で構成されており、
弾性部材の30℃における比熱が1500J/kg ℃以上1900J/kg ℃以下である、脳波測定装置1(生体信号測定用電極)。
[2] 弾性部材はシリコーンゴムを有して構成されている、[1]に記載の脳波測定装置1(生体信号測定用電極)。
[3] シリコーンゴムにはフィラーが含まれており、
シリコーンゴム全体に対するフィラーの含有率は20質量%以上50質量%以下である、[2]に記載の脳波測定装置1(生体信号測定用電極)。
[4] 突出部60は錐体または錐体の先端部分を取り除いた形状を呈する、[1]から[3]までのいずれか1に記載の脳波測定装置1(生体信号測定用電極)。
[5] 突出部60の高さは0.5mm~20mmであって、
突出部60の底面の幅は2mm~5mmである、[1]から[4]までのいずれか1に記載の脳波測定装置1(生体信号測定用電極)。
[6] 突出部60の一つ当たりの体積は0.3mm3~131mm3である、
[1]から[5]までのいずれか1に記載の脳波測定装置1(生体信号測定用電極)。
[7] 基部51と突出部60は一体に構成されている、[1]から[6]までのいずれか1に記載の脳波測定装置1(生体信号測定用電極)。
[8] 電極部80は、突出部60の先端部分から高さ方向で少なくとも10%までの領域に設けられている、[1]から[7]までのいずれか1に記載の脳波測定装置1(生体信号測定用電極)。
[9] 電極部80は、突出部60の先端部分のみに設けられている、[1]から[7]までのいずれか1に記載の脳波測定装置1(生体信号測定用電極)。
[10] 電極部80は、突出部60の先端を覆う第1の電極部81と、突出部60が設けられる基部51の面(突出部形成面52)を覆う第2の電極部82と、有し、第1の電極部81と第2の電極部82は接続している、[1]から[7]までのいずれか1に記載の脳波測定装置1(生体信号測定用電極)。
[11] 第1の電極部81は、突出部60の先端において、基部51と突出部60とに共通に設けられた導電材料の上に更に導電材料を設けることで形成されている、[10]に記載の脳波測定装置1(生体信号測定用電極)。
[12] 第1の電極部81を構成する導電材料と前記第2の導電部を構成する導電材料は異っている、[10]または[11]に記載の脳波測定装置1(生体信号測定用電極)。
[13] 電極部80で取得した生体信号(脳波信号)を外部に出力する信号線69を有し、
信号線69は、第1の電極部81に接続されて基部51の内部を通り外部に出力されている、[10]~[12]までのいずれか1に記載の脳波測定装置1(生体信号測定用電極)。
[14] 弾性部材は導電性材料を含む、[1]から[13]までのいずれか1に記載の脳波測定装置1(生体信号測定用電極)。
[15] 生体信号が脳波である、[1]から[14]のいずれか1に記載の脳波測定装置1(生体信号測定用電極)。
[16] [1]から[15]のいずれか1の脳波測定用電極50(生体信号測定用電極)を備える脳波測定装置1(生体信号測定用電極)。
[17] [16]に記載の脳波測定装置1(生体信号測定用電極)を被験者の頭部99に装着して脳波を測定する生体信号測定方法。
【0165】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成(変形例)を採用することもできる。
【実施例0166】
以下、本実施形態を、実施例を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
以下の実施例では、シリコーンゴム(実施例1~6、比較例2、3)および他ゴム(ウレタンゴム(比較例4)、天然ゴム(比較例5)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)(比較例6)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)(比較例7))、銀ペーストを塗布したシリコーンゴム(比較例1)の各サンプルを用いて、30℃における比熱と接触時の不快感の関係を測定する実験を行った。なお、実施例1~6、比較例2~7では厚み1mmのシート状部材を、比較例1では実施例2の厚み1mmのシート状部材(シリコーンゴム)に銀ペーストによりコーティングしたサンプルを用いた。
表1に実施例1~6および比較例1~7の配合例(但し比較例4~7はサンプルの種類であり該当欄に「v」(チェックマーク)で記している)と評価結果を示す。
【0167】
<サンプル>
<実施例1~6、比較例2、3のサンプル>
実施例1~6、比較例2、3で用いたシリコーンゴムの原料成分を以下に示す。
(ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A))
・低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1):合成スキーム1により合成したビニル基含有ジメチルポリシロキサン(式(1-1)で表わされる構造でR1(末端)のみがビニル基である構造)
・高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2):合成スキーム2により合成したビニル基含有ジメチルポリシロキサン(式(1-1)で表わされる構造でR1およびR2がビニル基である構造)
・低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-3):合成スキーム3により合成したビニル基含有ジメチルポリシロキサン(式(1-1)で表わされる構造でR1およびR2がビニル基である構造)
【0168】
(オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B))
・モメンティブ社製:「TC-25D」
【0169】
(シリカ粒子(C))
・シリカ粒子(C-1):シリカ微粒子(粒径7nm、比表面積300m2/g)、日本アエロジル社製、「AEROSIL300」
・シリカ粒子(C-2):シリカ微粒子(粒径7nm、比表面積240m2/g)、日本アエロジル社製、「AEROSIL R976」
【0170】
(アルミナ粒子)
・アルミナ粒子:アルミナ微粒子(粒径13nm、比表面積100m2/g)、日本アエロジル社製、「AEROXIDE AluC」
(カーボンブラック)
・カーボンブラック:(粒径20nm、比表面積140m2/g)、三菱ケミカル社製、「MA600」
(銀粉)
・銀粉:(メジアン径d50:8.0μm、アスペクト比16.4、平均長径4.6μm)、徳力化学研究所社製、「TC-101」、
【0171】
(シランカップリング剤(D))
・シランカップリング剤(D-1):ヘキサメチルジシラザン(HMDZ)、Gelest社製、「HEXAMETHYLDISILAZANE(SIH6110.1)」
・シランカップリング剤(D-2):ジビニルテトラメチルジシラザン、Gelest社製、「1,3-DIVINYLTETRAMETHYLDISILAZANE(SID4612.0)」
【0172】
(白金または白金化合物(E))
・モメンティブ社製:「TC-25A」
【0173】
(ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の合成)
[合成スキーム1:低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)の合成]
下記式(5)にしたがって、低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)を合成した。
すなわち、Arガス置換した、冷却管および攪拌翼を有する300mLセパラブルフラスコに、オクタメチルシクロテトラシロキサン74.7g(252mmol)、カリウムシリコネート0.1gを入れ、昇温し、120℃で30分間攪拌した。なお、この際、粘度の上昇が確認できた。
その後、155℃まで昇温し、3時間攪拌を続けた。そして、3時間後、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン0.1g(0.6mmol)を添加し、さらに、155℃で4時間攪拌した。
さらに、4時間後、トルエン250mLで希釈した後、水で3回洗浄した。洗浄後の有機層をメタノール1.5Lで数回洗浄することで、再沈精製し、オリゴマーとポリマーを分離した。得られたポリマーを60℃で一晩減圧乾燥し、低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)を得た(Mn=2.2×105、Mw=4.8×105)。また、H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は0.04モル%であった。
【0174】
【0175】
[合成スキーム2:高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)の合成]
上記(A1-1)の合成工程において、オクタメチルシクロテトラシロキサン74.7g(252mmol)に加えて2,4,6,8-テトラメチル2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサン0.86g(2.5mmol)を用いたこと以外は、(A1-1)の合成工程と同様にすることで、下記式(6)のように、高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)を合成した。(Mn=2.3×10
5、Mw=5.0×10
5)。また、H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は0.93モル%であった。
【化6】
【0176】
[合成スキーム3:低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-3)の合成]
上記(A1-2)の合成工程において、オクタメチルシクロテトラシロキサン75.3g(254mmol)、2,4,6,8-テトラメチル2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサン0.12g(0.35mmol)を用い、155℃まで昇温した後の撹拌時間を3時間にしたこと以外は、(A1-2)の合成工程と同様にすることで、上記式(6)のように、低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-3)を合成した。(Mn=2.5×105、Mw=5.0×105)。また、H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は0.13モル%であった。
【0177】
(実施例1~4、比較例2、3:シリコーンゴム系硬化性組成物の調製)
次のようにしてシリコーンゴム系硬化性組成物を調整した。
まず、下記の表1に示す割合で、90%のビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)、シランカップリング剤(D)および水(F)の混合物を予め混練し、その後、混合物にシリカ粒子(C)を加えてさらに混練し、混練物(シリコーンゴムコンパウンド)を得た。シリカ粒子(C)の加える量(配合比率)を調整することで、最終的に得られる評価用シリコーンゴムの比熱を調整した。
ここで、シリカ粒子(C)添加後の混練は、カップリング反応のために窒素雰囲気下、60~90℃の条件下で1時間混練する第1ステップと、副生成物(アンモニア)の除去のために減圧雰囲気下、160~180℃の条件下で2時間混練する第2ステップとを経ることで行い、その後、冷却し、残り10%のビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)を2回に分けて添加し、20分間混練した。
続いて、得られた混練物(シリコーンゴムコンパウンド)100重量部に、下記の表1に示す割合で、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)(TC-25D)および白金または白金化合物(E)(TC-25A)を加えて、ロールで混練し、シリコーンゴム系硬化性組成物を得た。
【0178】
(実施例5:シリコーンゴム系硬化性組成物の調製)
実施例1~4および比較例2、3の調整方法において、シリカ粒子(C)の代わりにアルミナ粒子を用いた。
【0179】
(実施例6:シリコーンゴム系硬化性組成物の調製)
実施例1~4および比較例2、3の調整方法において、シリカ粒子(C)の代わりにカーボンブラックを用いた。
【0180】
(実施例1~6および比較例2、3の評価用シリコーンゴムの作製)
実施例1~6および比較例2、3において、得られたシリコーンゴム系硬化性組成物を、170℃、10MPaで10分間プレスし、厚さ1mm、縦150mm、横150mmのシート状に成形すると共に、1次硬化した。続いて、200℃で4時間加熱し、2次硬化した。以上により、シート状シリコーンゴム(シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物)を得た。
【0181】
<比較例1、4~7のサンプル>
(比較例1)
PTFEシートの表面に、銀ペーストをスキージ塗布して加熱後、ポストキュアを行い、膜厚250μmのシート状銀ペースト硬化物を得た。
銀ペーストの仕様は以下の通りである。
銀ペースト全量に対するAgの含有量 55重量%
粘度(20℃) 19.5Pa・s
【0182】
(比較例4)
厚さ1mm、縦25mm、横50mmのシート状のウレタンゴム(タイガースポリマー社製、製品名「U70°」)を用いた。
(比較例5)
厚さ1mm、縦25mm、横50mmのシート状の天然ゴム(タイガースポリマー社製、製品名「TAKL 6503-HP」、品番「2000-K」)を用いた。
(比較例6)
厚さ1mm、縦25mm、横50mmのシート状のEPDM(タイガースポリマー社製、製品名「TNKL 7007-HP」、品番「275-E」)を用いた。
(比較例7)
厚さ1mm、縦25mm、横50mmのシート状のNBR(タイガースポリマー社製、製品名「TNKL 7007-HP」、品番「2100-N」)を用いた。
【0183】
(評価)
実施例1~6および比較例1~7のサンプルに対して、下記の項目(「比熱測定」、「接触時の不快感」)について評価を行った。
【0184】
<比熱測定>
実施例1~6および比較例1~7のサンプルの30℃における比熱を測定装置(TA Instruments社製 示差走査熱量計「DSC25」)により測定した。単位はJ/kg℃である。
実施例1~6および比較例2~7については、直径4mm、厚さ1mmにカットしたサンプルを作成し、示差走査熱量計「DSC25」のサンプルパンに配置して比熱を測定した。
比較例1については、膜厚250μmのシート状銀ペースト硬化物を直径4mmにカットしたものを4枚重ねたサンプルを示差走査熱量計「DSC25」のサンプルパンに配置して比熱を測定した。
【0185】
<接触時の不快感実験>
実施例1~6および比較例1~7の各サンプルを用いて、以下の手順で行った。4人の被験者(表2中のA~Dで示す)が、25℃に調整した室内で、室温と同じ温度のサンプルを額に当てて、不快感を確認した。
評価については次のa~cの3段階で評価した。
a:不快感無し
b:若干不快
c:不快(冷たく感じる)
比熱が1500J/kg℃~1900J/kg℃であれば、被験者は不快感を得ることが無いことが確認できた。
【0186】