(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105530
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ターボ機械のエントロピー流を増大させるための方法
(51)【国際特許分類】
H02K 44/12 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
H02K44/12
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024078543
(22)【出願日】2024-05-14
(62)【分割の表示】P 2022554280の分割
【原出願日】2021-03-11
(31)【優先権主張番号】102020001778.9
(32)【優先日】2020-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】522353923
【氏名又は名称】シュレゲル ペール
(74)【代理人】
【識別番号】100118256
【弁理士】
【氏名又は名称】小野寺 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】シュレゲル ペール
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ターボ機械の効率を向上できる方法を提供する。
【解決手段】流体又は流体の少なくとも1つの流体成分が圧縮性であることと、運動エネルギーの伝達中にターボ機械1内で低下した流体の流速が、力場によって生成され、流れの方向に作用する力FBによって、ターボ機械の直ぐ下流で上昇し、流体の位置エネルギーを流体の運動エネルギーに変換することによって、ターボ機械内で低下する流体の圧力が、それによってターボ機械の流体上流の圧力の少なくとも0.1倍まで再び上昇することによって達成される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボ機械(1)の効率を高めるための方法であって、前記ターボ機械(1)を通して導かれる流体が前記ターボ機械(1)に運動エネルギーを伝達する、方法において、前記流体又は前記流体の少なくとも1つの流体成分が圧縮性であることと、前記運動エネルギーの伝達中に前記ターボ機械(1)内で低下する前記流体の流速が、力場によって生成され、流れの方向に作用する力FBによって、前記ターボ機械(1)の直ぐ下流で上昇し、前記流体の位置エネルギーを前記流体の運動エネルギーに変換することによって、前記ターボ機械(1)内で低下する前記流体の圧力が、それによって前記ターボ機械(1)の流体上流の圧力の少なくとも0.1倍まで再び上昇することを特徴とする、方法。
【請求項2】
ターボ機械(1)の効率を高めるための方法であって、前記ターボ機械(1)を通して導かれる流体が運動エネルギーを前記ターボ機械(1)に伝達する、方法において、前記流体が2つの流体成分を有し、前記流体の少なくとも1つの流体成分が圧縮性であることと、使用温度範囲において、第二の流体成分の比率cp/cVが少なくとも第一の流体成分の1.1倍であることと、前記流体成分が分離器(7)内で前記ターボ機械(1)の下流で分離されることと、前記第一の流体成分は圧縮機(5.1)内で前記分離器(7)の下流で加速及び又は圧縮されることと、前記第二の流体成分は前記分離器(7)の下流の更なる圧縮機(5.2)内で加速されることと、前記圧縮機(5.1、5.2)の下流で、前記2つの流体成分が混合器(9)で再び結合されることと、前記流体成分の質量流量は、前記圧縮機5.1で前記第一の流体成分のエントロピー流IS1が、前記圧縮機5.2における前記第二の流体成分のエントロピー流IS2よりも大きくなり、前記ターボ機械(1)の入口における前記混合器(9)の下流のエントロピー流が、IS1とIS2の合計になるように、寸法設定されていることを特徴とする、方法。
【請求項3】
前記圧縮性流体が前記ターボ機械(1)の上流の流れ方向にあるノズル(2)で加速されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
発散ノズル(3)及び/又は圧縮機(5、5.1、5.2)が流れ方向で前記ターボ機械の下流に配置されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記流体が多相流であり、前記流体の少なくとも1つの流体成分が気体であり、別の流体成分が液体であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
第一の流体と第二の流体とからなる流体混合物を前記圧縮性流体として使用することと、前記第一の流体が前記第二の流体よりも低い蒸気圧を有することと、前記第一の流体が前記収束ノズル(2)での加速中と、前記ターボ機械(1)の下流との両方で液体であることと、前記第二の流体が前記収束ノズルでの加速中に少なくとも部分的に気体であり、前記発散ノズル(3)の下流で液体であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
第一の流体と第二の流体とからなる流体混合物を前記圧縮性流体として使用し、前記第一の流体が気体であり、前記第二の流体が液体であり、前記第一の流体が、前記収束ノズル(2)での加速前に前記第二の流体に溶解し、前記収束ノズル(2)での加速中に前記第二の流体から放出され、前記発散ノズル(3)の下流で前記第二の流体に再び溶解することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
流れ方向に作用する力FBが、重力、遠心力、磁力、電気力、又は更なるターボ機械によって提供される機械力であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ターボ機械(1)がタービン又はMHD発電機であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ機械の効率を高めるための方法に関し、ターボ機械を通して導かれる流体は、運動エネルギーをターボ機械に伝達する。
【背景技術】
【0002】
熱力学サイクルは、技術的にはエネルギーを変換するために多くの異なる方法で使用されている。公共のエネルギー供給にとって最も重要なプロセスでは、使用されるエネルギーのほとんどが、光合成によって何百万年もかけて地球上に蓄積された化石燃料によって今も供給されている。これは、人類のエネルギー需要の増加に伴い、これらのエネルギー資源は同じ量を交換することができないため、ますます問題になってきている。さらに、これらの形態のエネルギーを使用することは、環境負荷が高くなる。そのため、これらの形態のエネルギーを再生可能なエネルギーに置き換えることがますます求められている。しかしながら、このためには、多数の問題が伴う。
【0003】
準無限エネルギーの代表格は、太陽での核融合と、地球での核分裂(地熱)である。この2つは、地球上のすべてのエネルギーサイクルを駆動している。そして、このエネルギーは、風力発電、水力発電、地熱発電などの二次利用も可能である。年間に放出される一次エネルギーの量は、人々のエネルギー需要を満たすのに十分すぎるほどである。しかしながら、あらゆる場所で、あらゆる時に利用できるわけではない。さらに、再生可能エネルギー資源の開発には、多くの場合、高いコストを擁する。エネルギー回収に要する時間が長く、歩留まりが低いことが、化石燃料の大量利用を続けている理由の一つとなっている。
【0004】
そのため、エネルギー変換及び貯蔵のプロセスとその効率は、決定的な役割を担っている。これまで、化学エネルギー(例えば、メタン又は水素の)だけが大量のエネルギーを長期間(6ヵ月以上)にわたって貯蔵するのに適していた。蓄電池は効率が良いが、コストが高く、希少な材料が必要なため、モバイル機器や日常的な貯蔵のための代替手段でしかない。揚水発電所は、標高差の大きな地域でのみ使用できる。熱エネルギー貯蔵は、理論的には単位体積あたりのエネルギー貯蔵量が大きいが、このエネルギーを他のエネルギーに変換するためには大きな温度差が必要である。しかしながら、その分、熱損失も大きくなる。そのため、蓄熱ユニットは、日々の熱供給の変動に対応するのに適している。蓄熱ユニットは、他のエネルギーに変換する場合、エネルギー変換効率が低いので、ほとんど意味がない。
【0005】
産業用のエネルギー供給は、主に熱力学プロセスを用いており、ガス又は蒸気発電所の最適化の可能性には限界がある。最大効率は、材料で達成可能な最高温度と周囲温度によって制限される。熱力学プロセスを用いたエネルギー変換に伴う問題は、特に、今も商業的な意義が得られていない圧縮空気貯蔵型発電所の場合に顕著である。空気を圧縮すると、熱エネルギーが増加する。使用する地下貯蔵タンクは断熱できないため、一部の熱エネルギーは、環境中に失われる。エネルギーが放出されると、圧縮された空気は、再び膨張し、激しい冷却と氷結を引き起こす。ここで、圧縮時に失われたエネルギーは、天然ガスを燃焼させるなどして補う必要がある。圧容積仕事の送達をするためには、常に膨張が必要であるため、すべての熱力学プロセスにおいて大きな温度差が求められている。
【0006】
熱力学プロセスでは、右手(圧容積仕事の送達、熱機関)か左手(冷凍機、ヒートポンプ)かの区別がなされる。
【0007】
要するに、熱エネルギーとは、様々な運動エネルギーの効果の総和である。熱力学的微小状態の(内部)エネルギーは、並進エネルギーEtrans、振動エネルギーEvib、回転エネルギーErotの3つの必須成分から構成されている。したがって、各エネルギーは、エントロピー総量に対応する形で割り当てることができる(Sges=Svib+Srot+Strans)。
【0008】
気体の場合、Evibは比較的小さく、通常は無視することができる。単体気体では、Etransが支配的である。液体状態では、Etrans=0となり、Erotが支配的となる。固体状態では、分子の回転も不可能であり、全エネルギーはEvibで決定される。多原子ガスでも、気体、液体、固体の界面でも、これらの異なる形態の運動エネルギーが相互作用する。これにより、運動エネルギー間の動的平衡が確立される。
【0009】
内部エネルギーのうち、並進運動量(Etrans)のみが圧容積仕事を実行するのに直接利用できる。しかしながら、並進運動量(ptrans)が減少すると、振動エネルギー及び回転エネルギーとエントロピーが並進運動に移行してしまう。並進運動エネルギーとエントロピーは再び増加し、振動成分及び回転成分は減少する。運動量は、熱エネルギーの流れの方向を決定し、温度と相関がある。右手の熱力学プロセスでは、分子の並進運動量が大きいとき(高温)、熱エネルギーが供給され、機械的エネルギーが放出される。運動量が少ないとき(低温)には、熱エネルギーが放散され、機械的エネルギーが供給される。エネルギーと運動量との関係から、供給されるエネルギーよりも放出される機械的エネルギーの方が多い。ヒートポンプ(左側のシステム)では、このプロセスが逆転する。つまり、全体のプロセスに機械的な仕事を加えなければならない。したがって、運動量の強度の比率も、効率を決定する。
【0010】
熱エネルギーから有向機械的エネルギーへの変換は、等エントロピーの状態変化で行うことができる。しかしながら、ピストン機械とターボ機械の動作原理は、異なる。ピストンに作用する力は、分子の平均運動量と衝突の頻度(圧力)に起因する。分子は、音速にほぼ等しい平均速度でピストンに衝突する。したがって、平均運動量は、分子の質量と音速から計算される(
【数1】
)。膨張中にピストンが動くと、相対速度は、音速を下回る。つまり、平均有効運動量は、常に音速での運動量よりわずかに小さくなる。一方、圧縮の場合は、ピストンが反対方向に動くので、音速での運動量よりもわずかに大きくなる。
【0011】
ターボ機械は、先行技術から知られている。ターボ機械では、圧縮性の作動媒体をまず収束ノズルによって加速する。熱エネルギーは、多くの他の形態のエネルギーと異なり、空間内に有効な方向ベクトルを有さない。熱エネルギーは、すべての空間方向に同時に作用する。収束ノズルは、この方向性のない並進エネルギーを、流れの方向性のある横方向エネルギーに変換する。しかしながら、これは、流れが音速までしか加速できないことを意味する。その理由は、この速度を超えると、変換に利用できる並進エネルギーがないからである。ラバルノズルは、音速を超える加速を可能にするソリューションを提供する。このノズルでは、音速に達した後、流れの断面積を再び拡大する。このように解放された圧容積仕事により、さらに横方向の加速が可能になる。一つの欠点は、ラバルノズルの断面積の増加によるエントロピーの減少である。一つの代替案は、特許文献1に記載されている。ここでは、気体と液体の混合物を混合し、加速している。流体から回転エネルギー及び振動エネルギーを加えることで、断面を増加させることなく、混相流を音速以上に加速させることができる。エネルギー方程式E=m/2*v2によれば、高速化することで、より多くのエネルギーを供給できるため、ピストン機械と比較して高い効率が得られる。同様のプロセスは、特許文献2に記載されている。ここでも、多相流(空気/水)を超音速まで加速する。ここでは、水の成分が流れの質量を増加させ、水分子の回転エネルギー及び振動エネルギーを供給することによって、並進エネルギーの減少を補う。
【0012】
ターボ機械であまり考慮されていない問題として、ターボ機械下流での分子の加速がある。
図1を参照されたい。分子は、流路内を速度v
1で移動する(
図1参照)。ターボ機械(4)に衝突すると、横方向の運動エネルギーの大部分をターボ機械に送り、速度v
2で移動する。速度v
2は、エネルギーが放散しているために非常に小さいので、分子の運動は音速(v
S)が支配的である。したがって、流れの方向に対して力F
2も作用する。この力は、流れの方向に対する分子の衝突の強度と頻度に影響され、ターボ機械の効率を制限してしまう。
【0013】
この力を小さくして効率を上げるために、本技術では、熱エネルギーを外部リザーバに放散させる。これによって温度が下がり、分子インパルスの強度が低下する。しかしながら、強度を大幅に下げるためには、大量の熱エネルギーとエントロピーを放散させなければならない。(クラウジウス・)ランキンサイクルや有機ランキンサイクルでは、凝縮によって並進速度がゼロに減少する。しかしながら、並進エネルギー全体は、多原子分子の場合の振動エネルギー及び回転エネルギーの一部と同様に、放散させなければならない。
【0014】
特許文献3には、周囲温度以下での右手サイクルの動作が記載されている。しかしながら、これには、熱エネルギーが環境に放散されるという問題がある。著者は、解決策としてヒートポンプを提案しているが、このヒートポンプが、右側プロセスにおけるより大きな温度差によって追加的に放出されるよりも少ない駆動エネルギーを必要とすべき理由を説明していない。ヒートポンプでの熱損失及び摩擦損失は、追加の熱エネルギーを放散しなければならないことを意味し、これはエネルギー保存の法則によれば、システム全体の有用なエネルギーを減少させる。
【0015】
特許文献4には、等温圧縮による冷却の方法が記載されている。この方法は、等温圧縮のために重力を利用する。しかしながら、ターボ機械は、多相流の流路に配置されておらず、この方法の目的は、ターボ機械の上流で圧縮することである。多相流に比べてターボ機械のエントロピー流が低いため、このプロセスは、機械的エネルギーの生成を意図したものではなく、冷却を意図したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】独国特許出願公開第102014004237号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第102012108222号明細書
【特許文献3】西独国特許出願公開第2654097号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第102017127716号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、ターボ機械の効率を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明によれば、この目的は、請求項1の特徴を有する方法によって達成される。この目的は、請求項2による方法でさらに達成される。請求項1及び2による方法の有利な実施形態は、請求項3~9に提示されている。
【0019】
本発明による方法では、圧縮性流体の流れがターボ機械に供給される。ターボ機械では、運動エネルギーは、流体からターボ機械に伝達される。ターボ機械でのポリトロープ膨張の後、運動エネルギーの伝達中にターボ機械で減少するターボ機械の下流の流体の流速は、力場によって生成され、流れの方向に作用する力FBによって上昇し、流体の位置エネルギーを流体の運動エネルギーに変換することによって、ターボ機械内で低下する流体の圧力が、それによってターボ機械の上流の流体の圧力の少なくとも0.1倍まで再び上昇する。技術的には、当然、ターボ機械下流の流体の圧力の増加は、ターボ機械上流の流体の圧力に制限される。流れ方向の力FBは、重力場、遠心力場、磁場、電場などの力場によって発生する。流れ方向に沿った分子の位置の変化により、場による位置エネルギーが運動エネルギーに変換される。
【0020】
請求項1に記載の方法において、流れの方向に作用する力FBは、流れの方向に逆らって作用する熱力学的力F2を部分的に又は完全に補償する。力FBによるターボ機械の下流の流体の流速の増加は、ターボ機械の下流の流れの更なるコースにおける流体の圧力の増加を引き起こす。その結果、ターボ機械直下の流体の圧力が低下するので,ターボ機械におけるポリトロピック膨張の効率が向上する.流体の分子は、力FBによって速度v2まで加速される。例えば、流体が気体である場合、速度v2は、流体中の音速の少なくとも0.3倍でなければならない。したがって、FBは、F2と同程度の大きさになる。2つの気体の混合物の場合、速度v2は、2つの気体の音速の加重平均の少なくとも0.3倍でなければならない。ターボ機械の下流で流体の分子を加速することは、その効率に大きな影響を与える。加速することの目的は,ターボ機械の直ぐ下流の圧力,ひいては流れの方向に対する力を低減させることである。ターボ機械下流の加速度が大きいほど、本発明による方法がターボ機械の効率に及ぼす影響は大きくなるが、ターボ機械下流の流速の増加は、当然ながらターボ機械上流の流速に制限される。流体中の音速の0.3倍の流速と比較して、ターボ機械の下流の流速が、例えば、流体中の音速の0.5倍又は0.6倍又は0.8倍まで、又は流体中の音速まで加速される場合、ターボ機械の効率についてより高い効率が達成され、それによって、ターボ機械の上流の流速は、次に少なくとも流体中の音速の約0.51倍、0.61倍、0.81倍又は1.01倍にされる。
【0021】
一方、流体が気体と液体からなる場合、速度v2は、気体の分子(圧縮性流体成分)の並進速度が気体の音速の少なくとも0.3倍となるように高くしなければならない。
【0022】
先行技術による方法では、流れの加速は、熱エネルギーとエントロピーを環境に放散することによって達成される。本発明による方法では、加速に必要な熱エネルギーの放散は、流れの方向に力場を通して作用する力FBで流体の分子の加速を発生させることによって、排除すること、あるいは少なくとも大幅に低減することが可能である。力FBは分子の運動状態に依存しないため、高い運動エネルギーを有する分子でも加速することができる。分子の運動エネルギーが高く、それに伴って運動量も高くなると、加速後の熱エネルギーをより大きな強度(温度)で外部リザーバ(エネルギーシンク)に放散させることができるようになる。
【0023】
請求項3及び4によれば、圧縮性流体は、収束ノズルを用いてターボ機械の上流で、流れ方向に加速される。発散ノズル及び/又は圧縮機は、ターボ機械の流れ方向で下流に配置されている。
【0024】
圧縮性流体は、まず収束ノズルで加速され、分子の並進運動エネルギー(Etrans)が横方向の運動エネルギー(Elat)に変換され、流体の分子の振動エネルギー及び回転エネルギー(Evib、Erot)が並進エネルギー(Etrans)に変換され、流体の流れは、流速v1へと加速される。これにより、並進エントロピー成分(Strans)も増加する。エネルギーと運動量がターボ機械で放出されるため、流体の流速が再び大幅に低下する。次いで、流路内の力FBは、ターボ機械の下流の流体の分子を速度v2に加速する。発散ノズル及び/又は圧縮機では、一定圧力でのエネルギー及びエントロピー成分(Etrans、Strans)は、振動エネルギー及び回転エネルギーに変換されて減少する。これらの成分は、外部に放散される必要はない。F2を完全に補うには、分子を音速まで加速する必要がある。流体の音速の0.3倍以上の速度v2では、ターボ機械の効率が大幅に向上する。音速そのものまで加速すると、ターボ機械の直ぐ下流は、真空になる。発散ノズルでは、横方向の運動エネルギーの一部が無方向の熱力学的運動に変換され、そこで、温度と圧力が上昇する。このため、熱エネルギーを環境に放散する必要がほとんどないか、全くないことを意味し、熱力学プロセスによる地球温暖化を抑制することができる。その後、流れは、低い横方向の速度(v3)で進む。
【0025】
ターボ機械の上流で分子の横方向の速度(v1)は、音速よりも大きくなければならない。高速になると、E=m/2*v2に従って、FBで分子を音速まで加速するのに必要なエネルギーより多くのエネルギーが放出される。根本的に、音速以上の加速は、相対性理論の原理に基づく。収束ノズルでは、分子の並進運動は、流れ方向への横運動に変換される。しかしながら、流れの外側にいる観察者から見た平均速度は、一定である。つまり、温度が下がっても、外部から追加のエネルギーを供給することができない。しかしながら、流れの中で運ばれる振動エネルギー及び回転エネルギーに関しては、分子の並進運動の強度が減少する。その結果、振動エネルギー及び回転エネルギーが並進エネルギーに変換され、横方向の加速度に加え、並進エネルギーも利用することができる。このため、横方向の速度は、収束ノズルの入口における平均並進速度(音速)よりも大きくすることができる。このようにして、より低い強度(運動量、温度)のエネルギーを供給することができる。これにより、プロセスのエネルギー変換とエネルギー効率を高めることができる。
【0026】
発散ノズルで負の加速度が発生すると、エネルギーの流れは、反対方向に作用する。横方向の運動エネルギーは、分子の無秩序な並進運動に変換され、その強度が増加する。つまり、並進運動のエネルギーの一部が振動エネルギー及び回転エネルギーに変換できる。熱エネルギーを環境に放散する場合、振動エネルギー及び回転エネルギーも放散する必要がある。しかしながら、外力FBによって事前に流れを追加で加速しておくと、体積に依存しない振動エネルギー及び回転エネルギーの割合が増加する。したがって、より多くのエネルギーを流れに蓄積し、再加速中に再び放出することができる。
【0027】
振動エネルギー及び回転エネルギーの並進エネルギーに対する比率は、等エントロピー係数で表される。したがって、使用温度範囲内の流体には,等エントロピー係数が1.4以下の流体成分を少なくとも1つ含むことが必要である。少なくとも1つの流体成分の等エントロピー係数が1.2以下である流体で、より高い効率が得られる。等エントロピー係数が1.1以下の流体では、効率がさらに高くなる。
【0028】
流体は、気体又は多相流であることができ、それによって、本出願の目的のために、「多相流」は、気体混合物及び気体と液体の混合物の両方を意味すると理解される。多相流では、ヘリウムのような高い等エントロピー係数(cp/cV)を有する物質は、n-ブタンのような低い等エントロピー係数を有する物質と混合する必要がある。熱エネルギーの非体積依存成分(振動エネルギー及び回転エネルギー)は、並進エネルギーに対して高い熱容量を持つ必要がある。原則として、流体の等エントロピー係数(cp/cV)を計算することもできる。これは、約1の値を有する。気体混合物の利点は、個々の分子の有効面積が大きいため、エネルギー交換が良好なことである。純物質(1つの気体からなる流体)では、振動エネルギーと回転エネルギーの比率は、分子構造によって決まる。したがって、等エントロピー係数が非常に小さく、分子量の大きい気体を使用する必要がある。気体及び液体の流体成分からなる多相流を使用することもでき、それによって、ターボ機械の下流で圧力低下を発生させるために、速度v2は、気体(圧縮性流体成分)の分子の並進速度が気体の音速の少なくとも0.3倍になるように高くする必要がある。
【0029】
請求項6による方法の更なる展開では、流体混合物が作動媒体として使用される。これは、高い蒸気圧を有する流体と低い蒸気圧を有する流体とを組み合わせたものである。収束ノズルの入口での圧力は、両方の流体が液体となるように選択される(振動エネルギー及び回転エネルギー)。収束ノズルでの加速中に圧力が下がると、蒸気圧の高い方の流体が沸点に達する。蒸気圧の低い方の流体から振動エネルギー及び回転エネルギーを伝達することで、蒸気圧の高い方の流体は完全に気化する。説明した蒸発の物理的効果は、キャビテーションの基礎でもあり、これは、ターボ機械では通常避ける必要がある。しかしながら、本発明による方法では、この効果は、流れの高加速化を達成するために、意図的に強化されている。今や圧縮可能な流体(並進エネルギーを有する)は、体積の増加により流路内で強く加速され、ターボ機械にエネルギーと運動量を与える。発散ノズルや圧縮機の圧力を上げると、凝縮点に達し、流体の圧縮性成分がその並進エネルギー(振動エネルギー及び回転エネルギー)を非圧縮性流体成分に与えることになる。
【0030】
請求項7による代替的な更なる展開では、可逆的な化学プロセスも使用することができる。このプロセスでは、液体に溶解した気体が収束ノズルに供給される。収束ノズルでの加速中に圧力が低下すると、反応平衡が変化し、気体が溶液から抜け出る。これが高加速化のための並進エネルギーを提供する。圧縮性流体は、ターボ機械にエネルギーと運動量を与える。発散ノズル及び/又は圧縮機の圧力を上げると、反応平衡が再び変化し、気体が化学反応により液体に溶け込む。並進エネルギーは、振動エネルギー及び回転エネルギーに変換される。
【0031】
外部から供給されるFBのエネルギーは、例えば、重力、磁力、電気力、又は遠心力によって供給することができる。同様に、機械的な力は、外部から供給されるエネルギーで作動する更なるターボ機械によって供給することもでき、それによって、このターボ機械は、流れの方向において発散ノズルの下流に配置されることになる。
【発明の効果】
【0032】
表1は、常圧常温(1bar、300K)の様々な物質について、ゼロから音速(vs)までの自由落下における地球の重力(約9.81m/s
2)による加速時間及び距離の比較を示す。
【表1】
【0033】
この表から、重力は分子が非常に重い媒体と混相流とに特に適していることが分かる。発散ノズル内で流体を少なくとも音速の0.3倍まで加速すると、圧力と温度が上昇するため、このプロセスは、常温未満でも操作できる。また、温度が低いと、音速になるため、加速距離及び加速時間を短くすることも可能である。水と空気の混合物で水の質量分率が高いものは、水の圧力は、10mの落差で0barから1barに上昇する。これは、空気分子もこの圧力に圧縮されるため、空気中の音速で移動することを意味する。一方、全体の流れの中での音速は、もっと低い。このため、作業機械の下流に真空を生成するには、わずか10mの落下で十分である。したがって、重力発散ノズルでは、発散ノズル内又はその上流の分子の速度を上げることができる。これにより、等エントロピーの膨張における低圧が減少し、熱力学プロセスの効率が向上する。
【0034】
重力よりも大きな力は、遠心力で発生させることができる。これにより、加速距離が短くなり、熱力学機械の寸法が小さくなる。このため、熱力学機械は回転対称に設計され、その回転軸を中心に回転する。この回転により、位相空間の非一様性が生じる。期待値(アンサンブル平均)は、回転軸からの距離に応じて増加し、圧力、温度、密度も同様に増加する。接線速度が音速に近づくと、回転軸は真空に近い状態になる。圧縮機は、(摩擦などの)プロセスにおける損失を補う役割を担っており、大きな圧容積仕事をする必要はない。圧縮機は、作動媒体を収束ノズルに押し込み、そこで加速させる。遠心力FZが流れ方向に減少する熱力学的力により、更なる加速が発生する。ターボ機械では、運動エネルギーは、分子から高速で取り出される。その後、流路内の分子は、FZによって流れ方向に加速される。発散ノズルでは、圧力と温度が上昇する。圧縮機の上流では、オプションで熱エネルギー(Q2)を、熱交換器を使って放散させることができる。熱エネルギー(Q1)は、圧縮機の下流に供給される。これにより、圧縮機の圧容積仕事を減らすことができる。流路の壁を介した熱エネルギーの輸送は、熱伝導によって可能であるが、平行流路の流体によっても可能である。
【0035】
遠心収束ノズルと遠心発散ノズルとを備えた熱力学機械では、遠心力を変化させることにより、分子を音速以上に横方向に加速させることが可能である。均質な物質だけでなく、多相流も使用可能である。等エントロピー係数の異なる多相流を用いると、非圧縮性成分(回転エネルギー及び振動エネルギー)が大きくなるので、温度変化が小さくなり、接線速度、ひいては半径を小さくすることができる。エントロピー流の並進成分は、加速中に増加するため、ターボ機械内の横方向の速度も高くなる。
【0036】
用途に応じて、ターボ機械は、タービン又はMHD発電機とすることができる。
【0037】
しかしながら、原理的には、本発明による方法は、あらゆるポリトロピック膨張の効率を向上させるのに適している。ピストン機械における膨張の場合、エネルギーは音速で抽出され、加速エネルギーは音速以下の相対速度で流路内に供給される。しかしながら、ターボ機械の場合、機械的エネルギーを供給する際の達成可能な相対速度が高いために、より大きな効果が期待できる。ピストン機械では、不連続な動作モードのため、流路に連続的な流れが生じるように、複数のピストンも並行して、オフセットされた位相で動作させなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
本発明の例示的な実施形態を、図面を参照しながら以下で説明する。図面は、次のことを示す。
【0039】
【
図1】先行技術によるターボ機械を用いた流体の流れを示す。
【
図2】本発明による方法を使用するための配置を示す。
【
図3】本発明による方法を使用するための更なる配置を示す。
【
図4】遠心収束ノズル及び遠心発散ノズルを備えた熱力学サイクルを示す。
【
図6】MHD発電機を用いた熱力学サイクルを示す。
【
図7】分岐エントロピー回路を備えたヒートポンプを示す。
【
図8】開放型分岐エントロピーを備えたヒートポンプを示す。
【
図9】分岐エントロピー回路を備えた熱機関を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1は、先行技術によるターボ機械1を用いた流体の流れを示す。ターボ機械1は、インペラとして示されている。流体の流れは、その運動エネルギーの一部をターボ機械1に伝達し、そこで、仕事として放散させる。流体の分子Mは、流路内を速度v
1で移動し、横方向の運動エネルギーの一部をターボ機械にそのインペラで放出し、その後、速度v
2で移動する。
【0041】
図2は、ターボ機械1内のエントロピー流を増大させるために本発明による方法を使用するための配置を示す。この目的のために、圧縮性流体は、タービンの形状を有するターボ機械1内でポリトロピックに膨張される。ポリトロピック膨張の後、流体の分子Mに流れ方向に追加の力F
Bが作用し、この力によって分子Mが流れ方向に加速される。流れの方向に作用する力F
Bは、力場によって発生し、それによって、流体の位置エネルギーは流体の運動エネルギーに変換される。この力F
Bは、ターボ機械の下流の気体又は混合気体からなる流体の分子Mをその流体中の音速の少なくとも0.3倍まで加速するので、ターボ機械内で低下した流体の圧力は、ターボ機械の上流の流体の圧力の少なくとも0.1倍まで再び上昇し、したがって、ターボ機械の効率を高めるために必要な圧力低下がターボ機械の直ぐ下流で達成される。図示の実施形態では、力F
Bは、例えば、重力とすることができる。気体と液体との混合物からなる流体の場合、流体の速度v
2が少なくとも非常に高く、少なくとも気体の分子M(圧縮性流体成分)の並進速度が気体の音速の0.3倍以上であるときに、ターボ機械の直ぐ下流で圧力低下を達成できる。
【0042】
図3は、本発明による方法を使用するための更なる配置を示す。ターボ機械1におけるポリトロピック膨張は、圧縮性流体がターボ機械1の前で加速されるように、収束ノズル2によって先行される。発散ノズル3は、流れ方向でターボ機械1の下流に配置されている。ターボ機械の所望の効率向上に応じて、ターボ機械の上流での収束ノズルでの加速度は、例えば、流体の音速の最大0.31倍、0.51倍,、0.61倍又は0.81倍、又は1.01倍にすることができる。ターボ機械の下流では、流体は、その後、ターボ機械の上流の流速の値にできるだけ近く(流体の音速の0.3倍、0.5倍、0.6倍、又は0.8倍、あるいは同じ)まで、再び加速される。圧縮機5は、発散ノズル3の下流に接続されているが、ここでは任意である。図示しない別の実施形態では、圧縮機5が発散ノズル3の代わりに設けられる。流体は、純粋な物質(気体)、気体の混合物、又は気体と液体との混合物とすることができ、力F
Bは、例えば、重力とすることができる。
【0043】
図4a及び
図4bは、遠心収束ノズル及び遠心発散ノズルを備えた熱力学サイクルにおいて本発明による方法を使用するための2つの配置を示す。流体の流路は、回転軸4を中心に回転するように設定される。こうして、流体に遠心力F
Zを作用させ、回転軸4からの遠ざかるにつれて、流体の密度が増加する。圧縮機5は、最も回転数の高い位置に配置する。ターボ機械1は、回転軸4上に配置される。流体は、まず収束ノズル2で加速され、ターボ機械1へエネルギーと運動量を放出する。ターボ機械1の下流では、遠心力の増加により流体が加速され、発散ノズル3での圧力が再び上昇する。ここでも、流体の分子Mは、流体中の音速の少なくとも0.3倍まで加速される。熱エネルギーQ
1の量は、圧縮機5と収束ノズル2との間に供給することができる。任意選択で、熱エネルギーQ
2の量は、発散ノズル3と圧縮機2との間で放散させることができる。
図4aによる実施形態では、ターボ機械1は、回転軸に対して放射状に配置されている。
図4bでは、代替の実施形態において、ターボ機械1は、回転軸に対して軸方向に配置されている。ここでも、流体は、純粋な物質(気体)、気体の混合物、又は気体と液体との混合物とすることができる。気体又は気体の混合物からなる流体の場合、流体は、ここでもターボ機械の下流で流体の音速の少なくとも0.3倍まで加速されるので、ターボ機械内で低下した流体の圧力は、ターボ機械の上流の流体の圧力の少なくとも0.1倍まで再び上昇し、したがって、ターボ機械の効率を高めるために必要な圧力低下がタービン機械の直ぐ下流で達成される。気体と液体との混合物からなる流体の場合、流体の速度v
2が少なくとも非常に高く、少なくとも気体の分子M(圧縮性流体成分)の並進速度が気体の音速の0.3倍以上であるときに、ターボ機械の直ぐ下流で圧力低下を達成できる。
【0044】
図示の実施形態では、力FBは、したがって、遠心力FZによって提供される。遠心収束ノズル及び遠心発散ノズルを用いて説明した熱力学機械は、したがって、(宇宙空間のような)重力の小さい場所での使用にも適している。
【0045】
一実施形態では、
図3又は
図4a/4bによる配置は、多相流を使用し、そこで、成分の相変化(蒸発/凝縮)又は可逆的化学反応を使用する。例えば、水とイソブタンの混合物を4bar、300Kで収束ノズル2に供給する場合、両成分は、液体である。収束ノズル2内での加速により、圧力が低下し、イソブタンは沸点に達する。液体の水から(分子Mの)回転エネルギー及び振動エネルギーを加えることで、蒸発させることができる。体積が増えることで、流れがさらに加速される。運動エネルギーの一部は、ターボ機械1内で放出される。その後、流れは、重力又は遠心力によって横方向に加速される。発散ノズル3及び/又は後続の圧縮機5での圧力上昇により、ガスは体積を大きく減少させながら凝縮される。しかしながら、このプロセスで放出されるエネルギーは外部に放散される必要はなく、体積に依存しない振動エネルギー及び回転エネルギーの形で回路内に蓄積される。
【0046】
水と二酸化炭素の混合物を使用する場合、二酸化炭素が水に溶けて反応し、炭酸が生成される。収束ノズル2の圧力が下がると、溶液の平衡が低下し、気体の二酸化炭素が流路に放出され、流れが加速される。溶液の濃度平衡が成立しているので、ここでは、ガスの均一な放出が期待される。ターボ機械でエネルギーを放出し、流路で加速した後、ガスは、発散ノズル3及び/又は後続の圧縮機5での圧力上昇により溶液に戻り、多相流の体積を減少させる。その後、二酸化炭素は、水と反応して炭酸を生成する。
【0047】
成分の選択は、作動圧力に大きな影響を与える。蒸気圧の低い物質(例えば、イソプロパノールと水の混合物)の場合、収束ノズル2の上流側の圧力を1bar未満にすることができる。これにより、設計が簡素化される。液体水の密度が高いため、それにもかかわらず、エネルギー密度及びエントロピー流が非常に高くなる。このため、コンパクトな寸法のターボ機械において、非常に高い速度及びエネルギー出力を達成することが可能になる。
【0048】
図5は、本発明による方法を使用するための更なる配置として、重力発散ノズルを示す。流体は、収束ノズル2において加速され、ターボ機械1に供給される。流路及び発散ノズル3は重力方向に配置され、それによって、重力F
Gは力F
Bとして作用し、位置エネルギーを運動エネルギーに変換することによって流体の分子Mを加速させる。この機械は、圧縮機5と収束ノズル2との間の体積が、ターボ機械1と圧縮機5との間の体積よりも大きくなるように寸法設定されている。あるいは、圧力バランス容器6を装着することもできる。このようにすると、圧縮機5によってターボ機械1内に負圧が発生し、効率が向上する。熱エネルギーQ
1の量は、圧縮機5と収束ノズル2との間に供給される。任意選択で、熱エネルギーQ
2の量は、発散ノズル3と圧縮機5との間で放散され得る。
【0049】
ターボ機械1におけるエネルギー供給には流れの相対速度のみが関係するので、ターボ機械1を用いて高速で狭い流路内でエネルギーを抽出し、低速で広い流路内に供給することができる。E=m/2*v2によれば、高速で放出されるエネルギーの方が、低速で供給されるエネルギーよりも多い。圧縮機5から供給される機械力(Fm)は、重力Fgのように作用し、ターボ機械1の下流で圧力を低下させる。このため、圧縮機5と収束ノズル2との間には、収束ノズル2の入口の圧力を一定に保つ圧力平衡容器6が設置されている。圧縮性流体の場合、発散ノズル3と圧縮機5の間の容積に比べて収束ノズル2の上流での容積を大きくすることによっても圧力バランスをとることができる。開放プロセスでは、周囲の大気を圧力バランスに利用することができる。圧縮機5に機械的な仕事を供給すると、発散ノズル3の出口の圧力が低下する。これにより、ターボ機械1の出口の圧力はほぼゼロまで低下し、高い流速が可能になり、その結果、高い効率が得られる。このためには、収束ノズル2での加速に十分なエネルギーが必要であり、これは、(複雑な分子Mや多相流の場合)高い割合の振動エネルギー及び回転エネルギーによって提供されることができる。これにより、ラバルノズルがなくても、流体を超音速まで加速することができる。熱エネルギーQ1は高温で投入する必要はなく、流れ内の分子Mの相対並進速度が低下したときにのみ伝達されるので、作業機械1における体積有効熱容量、ひいてはエントロピー流ISが増加する。P=T*IS(P=電力、T=温度、IS=エントロピー流)によれば、電力Pは一定の入力温度で増加する。
【0050】
圧縮機5は、サイクルの最下点付近に配置される必要がある。圧縮機5を作動させるのに必要なエネルギーW2は、ターボ機械1において放出される機械的エネルギーW1によって部分的又は完全に供給することができる。
【0051】
図5による配置で使用される流体は、純粋な物質(気体)、気体混合物、又は気体と液体との混合物とすることができる。気体又は気体の混合物からなる流体の場合、流体は、ここでもターボ機械の下流で流体の音速の少なくとも0.3倍まで加速されるので、ターボ機械内で低下した流体の圧力は、ターボ機械の上流の流体の圧力の少なくとも0.1倍まで再び上昇し、したがって、ターボ機械の効率を高めるために必要な圧力低下がタービン機械の直ぐ下流で達成される。気体と液体との混合物からなる流体の場合、流体の速度v
2が少なくとも非常に高く、少なくとも気体の分子M(圧縮性流体成分)の並進速度が気体の音速の0.3倍以上であるときに、ターボ機械の直ぐ下流で圧力低下を達成できる。
【0052】
図6は、本発明による方法を使用するための更なる配置として、MHD発電機として設計されたターボ機械を有する熱力学サイクルを示す。電解質(例えば、イオン化溶液)と圧縮性流体との混合物が作動媒体として使用される。混合物は、収束ノズル2内で加速され、MHD発電機として設計されたターボ機械1の磁場内を流れる。このプロセスで、電解液の電荷キャリアは左右に偏向され、電気エネルギーは電極を介して放散される。発散ノズル3では、流速が低下し、並進エネルギーが振動エネルギー及び回転エネルギーに変換される。
【0053】
流体は圧縮機5で圧縮され、収束ノズル2へ逆流する。圧縮機5と収束ノズル2との間の容積は、MHD発電機と圧縮機5との間の容積より大きくする必要がある。あるいは、圧力平衡容器6を取り付けることもできる。このようにして、圧縮機5によってMHD発電機の下流に負圧が発生し、流れが加速され、効率が向上する。熱エネルギーQ1は、収束ノズル2の上流で供給される。任意選択で、熱エネルギーQ2は、発散ノズル3の下流で放散させることができる。
【0054】
この配置の利点は、ラバルノズルの広い流路に比べ、狭い流路で達成可能な磁場強度が高いことである。さらに、電解液中の電荷キャリア密度が高いため、機械の寸法をコンパクトにできる。イオン化したガスを使用する場合とは対照的に、このプロセスは周囲温度でも行うことができるため、材料への要求とコストを削減できる。
【0055】
図7は、本発明による方法を適用するために分岐エントロピー回路を備えたヒートポンプを示す。第一の流体成分と第二の流体成分とからなる流体(少なくとも第二の流体成分は圧縮性である)は、収束ノズル2で加速され、ターボ機械1に供給される。ターボ機械1の下流では、流体は、任意選択で、流路及び発散ノズル3において力F
Bによって加速され、ターボ機械1の出口における圧力を低下させることができる。その後、第一の流体成分と比較してより大きなc
p/c
V比を有する第二の流体成分は、分離器7において分離され、圧縮機5.2に供給され、そこで、第二の流体成分は加速及び/又は圧縮される。温度は、圧縮により上昇する。第一の流体成分は圧縮機5.1に供給され、温度は第二の流体成分と比較して変化しないか、又はごくわずかにしか変化しない。これにより、熱エネルギーQ
1は、熱交換器8.1によって第一の流体成分に供給される。圧縮機5.2で圧縮された第二の流体成分は、熱交換器8.2によってその熱エネルギーQ
2を放出する。その後、両流体成分は混合器9で結合される。ターボ機械1と圧縮機5.2との間の容積は、圧縮機5.1と混合器9との間の容積よりも小さくなければならない。あるいは、圧力平衡容器6を装着することもできる。このようにして、圧縮機5.1及び5.2は、分離器9内に負圧を発生させ、ターボ機械1の効率を向上させる。有意な差のために、圧縮機5.1、5.2における使用温度範囲内で、第二の流体成分の比c
p/c
Vは、第一の流体成分の比c
p/c
Vの少なくとも1.1倍であるべきである。
【0056】
エントロピー流の寸法設定は、効率に大きな影響を与える。入口と出口で同じ熱出力(P1=P2)の場合、IS1>IS2から、P1=T1・IS1=T2・IS2=P2によると、T2>T1になる。これは、供給される機械的エネルギーWmech=|W4|+|W5|-|W3|がプロセスの損失を補うだけで良いことを意味する。T2=T1=T、IS1>IS2とすると、P1>P2が成立する。そして、エネルギーの流れが機械から流出し、P=T2・IS2-T1・IS1=T・(IS2-IS1)となる。これは、エントロピー流の寸法設定次第では、機械が、熱機関として機能できることを意味する。
【0057】
流体成分の質量流量は、圧縮機5.1における第一の流体成分のエントロピー流IS1が、圧縮機5.2における第二の流体成分のエントロピー流IS2よりも大きくなるように寸法設定する必要がある。効率を大幅に向上させるためには、圧縮機5.1におけるIS1のための質量流量は、第二の圧縮機5.2におけるIS2のための質量流量の少なくとも5倍にする必要がある。ターボ機械の入口におけるエントロピー流は、2つのエントロピー流IS1とIS2との和に等しい。
【0058】
図8は、開放型分岐エントロピー回路を備えたヒートポンプを示す。この機械は、圧縮性成分が空気である流体を使用している。空気は入口7で大気から取り込まれ、混合器9で非圧縮性流体(例えば水)と混合される。流体は収束ノズル2で加速され、ターボ機械1へ供給される。発散ノズル3の下流で、空気は分離器7で分離され、圧縮機5.2に供給される。圧縮機5.2は、空気の圧力を大気圧まで上昇させるため、混合器9内を確実に負圧にすることができる。その後、加熱された空気は、出口10を介して大気中に逆流する。冷却された非圧縮性成分の流体の圧力は、圧縮機5.1内で大気圧まで上昇する。熱交換器8で、空気から取り出された熱エネルギーQ
1が、非圧縮性流体に戻される。
【0059】
図9は、分岐エントロピー回路を備えた熱機関を示す(
図9参照)。熱機関は、
図7のヒートポンプと同じように動作する。エントロピー回路I
S2において、熱エネルギーQ
2は、まず熱交換器8.2で放散され、次いで圧縮機5.2で流体が圧縮される。エントロピー回路I
S2の流体成分の熱容量がI
S1に対して小さいため、放散される熱エネルギーはわずかである。
【0060】
図10は、本方法をさらに応用した水力発電機を示しており、位置エネルギーと熱エネルギーを機械的エネルギーに変換している。水は、上部貯水池11から下部貯水池12に流れる。タービンとして設計されたターボ機械1は、上部貯水池の下方に配置されている。水I
S1のエントロピー流は、空気I
S2と混合され、混合器付き収束ノズル2(例えば、ベンチュリーノズル又はジェットストリームノズル)において加速される。加速により冷却された空気は、水分子から振動エネルギー及び回転エネルギーを取り出し、ほぼ等温的に膨張する。同時に、水分子は空気とともに加速され、その運動エネルギーをタービン1へ放出する。水は、タービンハウジング1.1で空気と分離される。水は、タービンハウジング1.1の底に集まり、重力発散ノズルで加速される。10m以上の落下で、これにより圧力が約1bar上昇し、タービンハウジング1.1が真空になる。この負圧を維持するために、空気は、例えば、ピストンポンプ又はジェットストリームポンプ13によって、空気ダクト14を介して送り出される必要がある。
【符号の説明】
【0061】
M 分子
1 ターボ機械
1.1 ハウジング
2 収束ノズル
3 発散ノズル
4 回転軸
5 圧縮機
5.1 圧縮機
5.2 圧縮機
6 平衡容器
7 分離器
8 熱交換器
8.1 熱交換器
8.2 熱交換器
9 混合器
10 出口
11 貯水池
12 貯水池
13 ジェットストリームポンプ
14 空気ダクト
【手続補正書】
【提出日】2024-06-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートポンプとして設計されたターボ機械(1)を動作させるための方法であって、前記ターボ機械(1)を通して導かれる流体が運動エネルギーを前記ターボ機械(1)に伝達する、方法において、前記流体が2つの流体成分を有し、前記流体の少なくとも1つの流体成分が圧縮性であることと、前記ヒートポンプの使用温度範囲において、前記流体の第二の流体成分の比率cp/cVが前記流体の第一の流体成分の比率c
p
/c
V
の少なくとも1.1倍であることと、前記流体成分が分離器(7)内で前記ターボ機械(1)の下流で分離されることと、前記第一の流体成分は第一の圧縮機(5.1)内で前記分離器(7)の下流で加速及び又は圧縮されることと、前記第二の流体成分は熱エネルギーを放出する前に前記分離器(7)の下流の第二の圧縮機(5.2)内で加速されることと、前記圧縮機(5.1、5.2)の下流で、前記2つの流体成分が混合器(9)で再び結合されることと、前記流体成分の質量流量は、前記第一の圧縮機5.1で前記第一の流体成分のエントロピー流IS1が、前記第二の圧縮機5.2における前記第二の流体成分のエントロピー流IS2よりも大きくなり、前記ターボ機械(1)の入口における前記混合器(9)の下流のエントロピー流が、IS1とIS2の合計になるように、寸法設定されていることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記圧縮性流体が前記ターボ機械(1)の上流の流れ方向にあるノズル(2)で加速されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
発散ノズル(3)が流れ方向で前記ターボ機械の下流に配置されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記流体が多相流であり、前記流体の少なくとも1つの流体成分が気体であり、別の流体成分が液体であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
第一の流体と第二の流体とからなる流体混合物を前記圧縮性流体として使用することと、前記第一の流体が前記第二の流体よりも低い蒸気圧を有することと、前記第一の流体が前記収束ノズル(2)での加速中と、前記ターボ機械(1)の下流との両方で液体であることと、前記第二の流体が前記収束ノズルでの加速中に少なくとも部分的に気体であり、前記発散ノズル(3)の下流で液体であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
第一の流体と第二の流体とからなる流体混合物を前記圧縮性流体として使用し、前記第一の流体が気体であり、前記第二の流体が液体であり、前記第一の流体が、前記収束ノズル(2)での加速前に前記第二の流体に溶解し、前記収束ノズル(2)での加速中に前記第二の流体から放出され、前記発散ノズル(3)の下流で前記第二の流体に再び溶解することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ターボ機械(1)がタービン又はMHD発電機であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【外国語明細書】