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特開2024-105567流体を収容するための収容ユニット、収容ユニットを製造するための方法および装置、収容ユニットを操作するための方法および装置、ならびに収容装置
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  • 特開-流体を収容するための収容ユニット、収容ユニットを製造するための方法および装置、収容ユニットを操作するための方法および装置、ならびに収容装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024105567
(43)【公開日】2024-08-06
(54)【発明の名称】流体を収容するための収容ユニット、収容ユニットを製造するための方法および装置、収容ユニットを操作するための方法および装置、ならびに収容装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/08 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
G01N35/08 A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024079669
(22)【出願日】2024-05-15
(62)【分割の表示】P 2022537640の分割
【原出願日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】102019220017.6
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ゼバスティアン ポドビエル
(57)【要約】      (修正有)
【課題】マイクロキャビティ内で乾燥させた試薬を簡単に導入し、予め配置することと組み合わせて、マイクロキャビティの確実な充填が可能となり、マイクロキャビティへの流体、例えば試料液体の制御された充填時にマイクロキャビティに予め配置した試薬のキャリーオーバーのリスクが回避される。
【解決手段】本発明は、流体を収容するための収容ユニット(105)であって、収容要素(125)であって、収容面(130)と、流体を収容するために、収容要素(125)において収容面(130)に配置かつ形成された少なくとも1つのマイクロキャビティ(135)とを有する収容要素(125)を備える、収容ユニット(105)に関する。収容面(130)は、少なくとも1つのマイクロキャビティ(135)に隣接する少なくとも1つの部分領域に親水性の表面性質をさらに有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を収容するための収容ユニット(105)であって、
収容要素(125)であって、収容面(130)と、前記流体を収容するために、前記収容要素(125)において前記収容面(130)に配置かつ形成された少なくとも1つのマイクロキャビティ(135)と、を有する収容要素(125)を備え、
前記収容面(130)は、前記少なくとも1つのマイクロキャビティ(135)に隣接する少なくとも1つの部分領域に親水性の表面性質を有する、
収容ユニット(105)。
【請求項2】
前記マイクロキャビティ(135)は、前記収容面(130)に対して実質的に垂直に向けられた側壁(140)を有する、請求項1記載の収容ユニット(105)。
【請求項3】
前記収容面(130)は、少なくとも部分的に窒化ケイ素層または酸化ケイ素層またはシラン層として構成されている、請求項1または2記載の収容ユニット(105)。
【請求項4】
前記収容要素(125)は、シリコン基板から構成されている、請求項1から3までのいずれか1項記載の収容ユニット(105)。
【請求項5】
前記流体を収容するために、前記収容要素(125)において前記収容面(130)に配置かつ形成された複数の更なるマイクロキャビティ(150)を備え、前記マイクロキャビティ(135)および前記複数の更なるマイクロキャビティ(150)は、配置領域(600)に正方形、長方形、丸形、楕円形、円形または六角形の形状で整列されており、特に前記マイクロキャビティ(135)と前記複数の更なるマイクロキャビティ(150)との間に、前記収容面(130)は、親水性の表面性質を有する、請求項1から4までのいずれか1項記載の収容ユニット(105)。
【請求項6】
前記マイクロキャビティ(135)は、少なくとも1つの予め配置された試薬(200)および/または添加剤を含む、請求項1から5までのいずれか1項記載の収容ユニット(105)。
【請求項7】
前記収容面(130)は、前記少なくとも1つのマイクロキャビティ(135)の配置に対して所定の位置を有する光学的に認識可能な徴標(155)を有し、特に前記光学的に認識可能な徴標(155)は、そのサイズ、形状および/または光学特性に関して所定の性質を有する、請求項1から6までのいずれか1項記載の収容ユニット(105)。
【請求項8】
収容装置(100)であって、
請求項1から7までのいずれか1項記載の収容ユニット(105)と、
前記収容ユニット(105)を収容するためのハウジング(110)と、
流体を前記収容ユニット(105)に導入するように構成されたチャンバ(115)と、
前記流体を前記収容ユニット(105)に供給し、かつ/または前記収容ユニット(105)から排出するように構成された少なくとも1つの通路(120)と、
を備える、収容装置(100)。
【請求項9】
請求項1から7までのいずれか1項記載の収容ユニット(105)を製造するための方法(500)であって、
収容要素(125)の収容面(130)を準備するステップ(505)と、
収容ユニット(105)を製造するために、流体を収容するためのマイクロキャビティ(135)を前記収容面(130)に加工するステップ(510)と、
を含む、収容ユニット(105)を製造するための方法(500)。
【請求項10】
前記加工するステップ(510)において深掘り反応性イオンエッチング法を用いる、請求項9記載の、収容ユニット(105)を製造するための方法(500)。
【請求項11】
請求項1から9までのいずれか1項記載の収容ユニット(105)を操作するための方法(1000)であって、
少なくとも1つのマイクロキャビティ(135)に流体を充填するとともに、充填された前記マイクロキャビティ(135)を第2の流体で封止するステップ(1005)と、
前記マイクロキャビティ(135)内での少なくとも1つの反応を可能にし、反応結果(700;800;900)を得るために実行するステップ(1010)と、
前記反応結果(700;800;900)を評価するステップ(1015)と、
を含む、収容ユニット(105)を操作するための方法(1000)。
【請求項12】
請求項11または12記載の方法(500;1000)のうちの一方の方法のステップ(505、510;1005、1010、1015)を対応するユニット(1110、1125、1120)において実行および/または制御するように構成された装置(1100)。
【請求項13】
請求項9から11までのいずれか1項記載の方法のうちの1つの方法のステップを実行および/または制御するように構成されたコンピュータプログラム。
【請求項14】
請求項13記載のコンピュータプログラムが格納された機械可読の記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
本発明は、独立請求項に係る、流体を収容するための収容ユニット、収容ユニットを製造するための方法および装置、収容ユニットを操作するための方法および装置、ならびに収容装置に関する。コンピュータプログラムも本発明の主題である。
【0002】
いわゆるポイントオブケアでの分子診断試験には、患者試料の完全に自動化された分析を可能にするマイクロ流体分析システム、いわゆるラボオンチップが特に適している。複雑な試験では、検査対象の試料中の様々な標的に対処するために、複数の互いに独立した検出反応を行う必要があることが多い。
【0003】
発明の概要
こうした背景の下、本明細書に提示するアプローチにより、主請求項による改良された収容ユニット、改良された方法、さらには、この方法を用いる改良された装置、そして、最後に対応するコンピュータプログラムが提示される。従属請求項に記載の手段により、独立請求項に記載の装置の有利な更なる開発および改良が可能である。
【0004】
本明細書に提示するアプローチにより、従来技術とは対照的に、マイクロキャビティ内で乾燥させた試薬を簡単に導入し、予め配置することと組み合わせて、マイクロキャビティの確実な充填が可能となり、マイクロキャビティへの流体、例えば試料液体の制御された充填時にマイクロキャビティに予め配置した試薬のキャリーオーバーのリスクが回避される。同様に、流体が充填されたマイクロキャビティにおいて起こる反応のクロストークは、例えばマイクロキャビティにおいて異なる互いに独立した増幅反応を、例えば様々なDNA標的の検出のために実行するために、試料液体を充填したマイクロキャビティを第2の流体、すなわち適切な封止液で封止することによって阻止される。
【0005】
流体を収容するための収容ユニットであって、この収容ユニットは収容要素を有し、この収容要素は収容面を備え、この収容面は、流体を収容するために、収容要素において収容面に配置かつ形成された少なくとも1つのマイクロキャビティを有し、収容面の、少なくとも1つのマイクロキャビティに隣接する少なくとも1つの部分領域が、親水性の表面性質を有する、収容ユニットが提示される。
【0006】
例えば、収容ユニットは、例えば試料を試験するために構成された収容装置に使用することができる。例えば、流体は液体、例えば試料液体として実現され得る。試料液体は、例えば水溶液、例えば体液、塗抹標本、分泌物、痰、組織試料、または試料物質を付着させたデバイス等の、例えばヒト由来の生体物質から得られるものであってもよい。試料液体には、例えば医学、臨床、診断または治療に関連する種、例えば細菌、ウイルス、細胞、循環腫瘍細胞、セルフリーDNA、タンパク質もしくは他のバイオマーカー、または特に上記の物体の成分が含まれる。例えば、試料液体は、例えば分子レベルでのDNA検出、例えば等温増幅反応またはポリメラーゼ連鎖反応等のために、例えば収容要素において少なくとも1つの増幅反応を行うためのマスターミックスまたはその成分である。収容要素は、特に試料キャリアとして形成され、その収容面は、例えば少なくとも1つのマイクロキャビティに隣接する部分領域において少なくとも親水性である。収容面に配置されたマイクロキャビティは、例えばキャビティまたは凹部と称されることもあり、特にサブミリメートル範囲の寸法を有するキャビティとして特徴付けられる。マイクロキャビティは、それに応じて、流体を収容することができるように空洞を有していてもよい。さらに、マイクロキャビティは、例えば分子DNA検出反応、例えば等温増幅反応またはポリメラーゼ連鎖反応をその中で行うために、不活性であり、高い生体適合性を有する表面性質を有していてもよい。装置の機能性、特にマイクロキャビティ内に存在する水相と第2の非混和性相との重層には、例えば毛細管力および表面力が重要である。大きなマクロキャビティでは、この機能性を保証することができない。
【0007】
収容ユニットは、特に有利な実施形態によると、流体を収容するために、収容要素において収容面に配置かつ形成することができる複数の更なるマイクロキャビティを有する。その際、マイクロキャビティおよび複数の更なるマイクロキャビティは、収容面の配置領域、特に正方形、円形、長方形または楕円形の領域に、特に収容面の端部から所定の距離で、特に六角形、正方形または長方形のパターンに従って配置することができ、特にマイクロキャビティと複数の更なるマイクロキャビティとの間に、収容面が、親水性の表面性質を有する。配置領域の外側境界から収容面の端部、すなわち収容ユニットの外縁までの所定の距離によって、自動配置機(ピックアンドプレースロボット)が、収容ユニットの機能性に特に関連するマイクロキャビティの配置領域と接触し、そこで表面またはマイクロキャビティの起こり得る汚染を引き起こすことなく、外側の領域、いわゆる間隔領域を、例えば自動配置機(ピックアンドプレースロボット)による収容ユニットの取り扱いのために製造時に使用することができる。マイクロキャビティを六角形のパターンに従って配置することで、隣接するマイクロキャビティ間に一定の距離を保ちながらマイクロキャビティの特に高い表面密度を達成することができる。キャビティを正方形または長方形のパターンに配置することで、特に簡単なキャビティの割り当てを行うことができる。有利な実施形態では、収容ユニットは、特にキャビティの配置領域の外側にも、マイクロキャビティの割り当てまたは参照に役立つ、収容面に隣接する構造をさらに有する。その際、これらは、例えばアレイスポッティングシステム、例えば圧電ベースの微細分注システムを用いたマイクロキャビティへの試薬の標準的な導入、または例えば収容ユニットのマイクロキャビティにおける検出反応から発せられる蛍光信号を検出する光学読取り装置におけるキャビティの割り当てのための位置合わせマークである。さらに、異なるマイクロキャビティに異なる試薬を導入または保持することで、例えばマイクロキャビティにおいて異なる検出反応を行い得ることも考えられる。
【0008】
一実施形態によると、マイクロキャビティは、収容面に対して実質的に垂直に向けられた少なくとも1つの側壁を有し得る。有利には、マイクロキャビティの全ての側壁を収容面に対して実質的に垂直に向けることもできる。これにより、例えば収容要素の特に簡単な製造が可能となる。実質的に垂直に向けられた側壁は、例えば収容面に対して80°~100°の角度を有し得る。有利には、これにより、マイクロキャビティの所定の適切なアスペクト比と組み合わせて、かつ/またはマイクロキャビティに導入された添加剤を用いて、充填時に、例えばマイクロキャビティに予め配置した試薬のキャリーオーバーまたは排出を、例えばマイクロキャビティ内に保持される量の10%未満に低減することができる。特に、例えばDNA標的特異的プライマーおよび/またはプローブを少なくとも1つのマイクロキャビティに予め配置し、その中で少なくとも1つの特異的検出反応を行うことができる。
【0009】
一実施形態によると、マイクロキャビティは、少なくとも1つの予め配置された試薬および/または添加剤を含む。「試薬」とは、マイクロキャビティ内で特定の反応を行うために使用される物質と理解することができる。一方、「添加剤」とは、概して複数のキャビティ内に存在し、マイクロキャビティの充填および/または予め配置した試薬のキャリーオーバーの低減を可能にする物質と理解することができる。したがって、「添加剤」は、特に流体の機能性に決定的であり、「試薬」は、特に正確な検出反応に決定的である。有利には、マイクロキャビティを試料液体で濡らし、充填する際に、特に添加剤をマイクロキャビティに予め配置することによって、マイクロキャビティ内、特にマイクロキャビティの底部への望ましくない空気の封入を回避することができる。さらに、少なくとも1つの予め配置した試薬により、流体、すなわち特に試料液体、特に試料液体の特定の成分、いわゆる標的との所定の所望される反応を引き起こすことができ、試料液体を特定の徴標の存在について検査することができる。
【0010】
特に有利には、収容ユニットは、少なくとも2つの異なる標的を検出するために、少なくとも2つの異なる検出反応をその中で行うことができる複数のマイクロキャビティを備える。このようにして、多数の異なる検出反応によって多数の異なる標的に対処する高度に複雑な分子診断試験を収容ユニットにおいて行うことができる。特に、この場合、マルチプレックス性能を低下させた検出反応を用いて、マイクロキャビティの個々の流体パーティションにおいて、シングルプレックス形式の検出を実行し得ることも有利である(幾何学的多重化)。特に有利には、マイクロキャビティ内で互いに独立した等温DNA検出反応を行うことができ、これは一方では高い反応速度を有するが、他方では低いマルチプレックス適合性(例えばプライマーおよび/またはプローブの間の望ましくない相互作用による)しか有しない可能性がある。このようにして、複数のキャビティを備える収容ユニットを特に有利に使用して、その中で等温検出反応を用いた迅速なDNA高マルチプレックス試験をシングルプレックス形式で実行することができる。特に、試料分析の感度を高めるためにシングルプレックス形式のアレイベースの検出の前に、特にポリメラーゼ連鎖反応によるマルチプレックス前増幅が行われる。特に、収容ユニット内でのマルチプレックス前増幅および複数のDNA標的のシングルプレックス検出の検出時間は、この場合、60分未満であり、収容ユニット内での複数のDNA標的のシングルプレックス検出の検出時間は、30分未満である。
【0011】
まとめると、本発明による収容ユニットにより、特にマルチプレックス能が制限された検出反応を用いたとしても、個々の装置での多数の異なる標的に対する試料液体の極めて簡単かつ迅速な検査が可能である。有利には、収容ユニットのマイクロキャビティ内での検出反応は、互いに独立して行われ、それに応じて、複数のマイクロキャビティにおいて使用される異なるプライマーおよびプローブの間で顕著な相互作用が生じ得ないため、収容ユニットの使用によって、同様にマルチプレックス試験の簡単な適合、すなわち、特にマルチプレックス試験への検出反応の追加が可能である。
【0012】
収容面は、少なくとも部分的に窒化ケイ素層および/または酸化ケイ素層および/またはシラン層、例えばポリエチレングリコール-シラン層として構成することができる。有利には、収容面の親水性によって、少なくとも1つのマイクロキャビティへの流体の浸透を可能にする、または明らかに改善することができ、そのようなタイプの収容面は、技術的に簡単な低コストの成熟した方法で製造することができる。さらに、マイクロキャビティへの流体の浸透の改善により、特に少なくとも1つの試薬、特に添加剤をマイクロキャビティに予め配置することと組み合わせて、かつ/またはマイクロキャビティの親水性コーティングにより、収容要素をマイクロ流体装置と組み合わせて用いて、収容ユニットの少なくとも1つのマイクロキャビティへの流体の完全に自動化された導入を可能にすることができる。
【0013】
また、更なる実施形態によると、収容要素および/または収容ユニットをシリコン基板から構成することができる。シリコン基板は、例えばシリコンウェーハとして実現することができる。例えば、このような基板は、既に半導体技術に使用されており、本明細書に提示するアプローチの製造に半導体技術の製造方法を起用することができるため、例えば、これにより製造時の材料費を削減することができる。特に、シリコンウェーハを加工することで、複数の収容ユニットを並行して製造することができる。さらに、下記の収容ユニットの製造方法の範囲内で、マイクロキャビティのエッチングと同時に所定の破断点をシリコン基板に加工することができる。このようにして、シリコン基板の機械的破壊により、複数の収容ユニットへのシリコン基板の特に簡単な低コストの分離、ひいては収容ユニットの低コストの製造が可能である。さらに、シリコンが高い熱伝導率を有することから、シリコンを収容ユニットの基板材料として使用することで、マイクロキャビティの特に均一かつ迅速な温度制御を特に達成することができる。このようにして、個々の検出反応の高い比較可能性および迅速な実行可能性がもたらされる。
【0014】
一実施形態によると、収容ユニットは、流体を収容するために、収容要素において収容面に配置かつ形成することができる更なる複数のマイクロキャビティを備えてもよく、更なる複数のマイクロキャビティは、収容面の更なる配置領域、特に正方形、円形、長方形または楕円形の領域に、特に収容面の端部から所定の距離で、特に六角形、正方形または長方形のパターンに従って配置することができる。その際、配置領域と更なる配置領域との間に、マイクロキャビティが設けられない間隔領域を配置してもよい。ここでも、例えば異なる試薬が保持される個々のマイクロキャビティを準備する場合に、複数のマイクロキャビティ群をマルチプレックス試験の実行に使用することができる。有利には、これにより、更なる複数のマイクロキャビティに、例えば更なる試薬を予め配置することで、例えば複数の試験を同時に行うことができる。
【0015】
一実施形態によると、間隔領域は、例えば配置領域または更なる配置領域の隣接するマイクロキャビティの最小距離の少なくとも2倍に相当し得る幅を有することができる。有利には、これにより、配置領域を互いに明らかに認識可能に区別することができ、個々のマイクロキャビティ群の評価が容易になる。さらに、間隔領域により、収容ユニットの分離後のチップの取り扱いが容易になる。
【0016】
一実施形態によると、マイクロキャビティまたはマイクロキャビティ群は、異なる寸法および/または異なる容量を有する。個々のマイクロキャビティ、すなわち反応コンパートメント内の試料液体の容量が異なることで、異なるサイズのコンパートメントには統計的に異なる数の標的単位、例えばDNAコピーが存在する。それに応じて、検出特性が異なる特定の検出反応を用いて試料液体中の異なる標的の確実な検出を達成するために、高感度の検出反応にはより小さな反応コンパートメント、一方で低感度の検出反応にはより大きな反応コンパートメントが使用される。加えて、このようにして、デジタル検出法を用いることで、より大きな定量範囲を達成することができる。
【0017】
収容面は、一実施形態によると、少なくとも1つのマイクロキャビティの配置に対して所定の位置を有することができる光学的に認識可能な徴標を有していてもよく、特に光学的に認識可能な徴標は、そのサイズおよび/または光学特性に関して所定の性質を有することができる。有利には、これにより、例えば基準点をマークすることができるため、自動可読性を改善することができる。
【0018】
さらに、上に提示した変形形態の1つの収容ユニットと、収容ユニットを収容するためのハウジングと、少なくとも1つの流体、例えば試料液体を収容ユニットの少なくとも1つのマイクロキャビティに導入し、任意にその後に、試料液体と混和しない、または僅かにしか混和せず、収容装置のマイクロキャビティに封入された試料液体の被覆/封止を可能にする第2の流体、すなわち封止流体を導入するためのチャンバと、試料液体を収容ユニットのマイクロキャビティに供給し、続いてマイクロキャビティを封止流体で被覆し、かつ/または排気を可能にし、かつ/または過剰な試料液体および封止流体を排出するように構成された少なくとも1つの通路とを備える収容装置が提示される。
【0019】
ハウジングは例えば、収容ユニットおよび試料液体を環境の影響から保護し、かつ/または逆に試料液体による環境の汚染を防ぐように形成することができる。通路は、例えば管状またはホース状に実現することができ、例えばほぼ長方形の断面を有し得る。収容装置は、例えばポリマー材料、例えばポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、シクロオレフィンコポリマー(COP、COC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、またはポリウレタン(TPU)もしくはスチレンブロックコポリマー(TPS)等の熱可塑性エラストマー(TPE)、またはポリマー材料の組合せから低コストで製造することができ、例えば射出成形、熱成形、打ち抜き等のハイスループット技術によって、かつ/または例えばレーザ透過溶着等の接合技術を用いて製造することができる。
【0020】
任意に、収容装置は、少なくとも1つの流体、例えば試料液体および/または封止流体を、通路を介して圧送するように構成され得るポンプ装置を備えていてもよい。有利には、これにより完全に自動化されたマイクロ流体の処理が可能となり得る。ポンプ装置は、例えば処理ユニットによって空気圧インタフェースを介して駆動することができる。ポンプ装置は特に、収容装置に組み込まれ、収容装置内の凹部に正圧または負圧をかけることで偏向することができ、それにより試料または封止流体の制御された排除を達成することができる弾性メンブレンをベースとする。このようにして、ポンプチャンバーおよびバルブ等のマイクロ流体要素を実現することができる。ポンプ装置の複数の要素を適切に連続的に作動させることで、特に蠕動ポンプ機構を用いて試料液体および封止流体の制御された輸送を達成することができる。さらに、収容装置は特に、試料を投入するための少なくとも1つの開口部と、任意にベントとして働く更なる開口部とを備える。有利な実施形態では、収容装置は、液体または固体の試薬を予め配置するための更なる凹部と、収容装置内の試薬の処理に役立つマイクロ流体ネットワークとを備える。
【0021】
さらに、上に提示した変形形態の1つで収容ユニットを製造する方法が提示され、この方法は、準備するステップと加工するステップとを含む。準備するステップでは、収容要素の収容面を準備する。加工するステップでは、収容ユニットを製造するために、少なくとも1つのマイクロキャビティを、流体を収容するための収容面に加工する。
【0022】
代替的または付加的には、さらに、加工するステップのサブステップにおいて感光レジスト層/フォトレジストを塗布してもよく、かつ/またはリソグラフィーのサブステップを設けてもよく、マイクロキャビティ(および/または更なる光学的に検出可能な徴標)の加工のために深掘り反応性イオンエッチング(ボッシュプロセス)を用いて構造化を行ってもよい。感光レジストを、例えばスピンコーティングし、リソグラフィーステップにおいて露光することができ、その後、過剰な材料を除去することができる。例えば、少なくとも1つのマイクロキャビティを加工した後、収容要素を、例えば過剰な感光レジストを除去し得るように処理することができる。代替的または付加的には、任意のステップにおいて、収容面および/またはマイクロキャビティのコーティングを行い、収容面および/またはマイクロキャビティの親水性の表面性質を形成することもできる。
【0023】
したがって、本方法では任意に、収容面および/またはマイクロキャビティの表面性質を、例えば窒化ケイ素表面または酸化ケイ素表面および/またはシラン層、例えばポリエチレングリコール-シラン層として形成することで、親水性となるように変更することができる。代替的または付加的に、更なる任意のステップにおいて、試薬が収容ユニットのマイクロキャビティに導入されると特に好ましい。任意に、本方法は、例えば収容要素を分割することができる、分割するステップを含んでいてもよい。分割は特に、所定の破断点を収容要素の収容面に加工することで達成することができ、これは有利には、マイクロキャビティの加工とともに行われ、続いて機械的破壊が達成される。
【0024】
さらに、前述の変形形態の1つで収容ユニットを操作するための方法が提示され、この方法は、充填および封止するステップと、実行するステップと、評価するステップとを含む。充填および封止するステップでは、少なくとも1つのマイクロキャビティに初めに試料液体を充填し、続いて第2の流体として封止流体を重層することで、少なくとも1つのマイクロキャビティにおいて試料液体のパーティションが流体反応コンパートメントとして存在する。封止流体は例えば、試料液体との望ましくない混合を防ぐために水溶性が低く、かつ/または高い流動性、すなわち、例えば装置の熱処理の際に形成される気泡の良好な除去を達成するために粘度が低く、かつ/または熱温度制御時に生じる寄生熱損失を可能な限り低く抑えるために伝導率が低く、かつ/または例えばポリメラーゼ連鎖反応の実行時に処理される熱質量を可能な限り小さく抑えるために熱容量が低く、かつ/または試料液体との界面を安定化するために界面活性剤を含む液体である。封止流体は、例えばフッ素化炭化水素である。
【0025】
実行するステップでは、少なくとも1つのマイクロキャビティ内で少なくとも1つの反応を実行し、反応結果を得る。少なくとも1つの反応を実行するために、収容要素、特に少なくとも1つのマイクロキャビティ内に存在する反応コンパートメントは、反応、例えば等温増幅反応の進行を可能にする所定の温度を特に有する。場合により、実行するステップでは、例えば少なくとも1つの反応コンパートメントにおいてポリメラーゼ連鎖反応を実行するために収容装置の熱サイクルを行う。特に、実行するステップでは、少なくとも1つの反応コンパートメントから発せられる蛍光信号も記録し、これにより反応の進行について結論を導き出すことができる。
【0026】
評価するステップでは、反応結果を評価する。特に実行するステップにおいて記録された蛍光信号に基づいて評価するステップを行う。有利には、反応結果の評価を、既に少なくとも1つの反応の実行と並行して蛍光信号プロファイルに基づいて行い、反応結果を十分な精度で決定することができるようになれば、反応の実行を停止させる。
【0027】
互いに独立した、特に異なる検出反応をマイクロキャビティ内で実行する、本明細書に提示する方法の実施例が特に好ましい。代替的または付加的には、試料物質のマルチプレックス前増幅のステップ、およびその後のシングルプレックスアレイ形式での標的の検出を、本明細書に提示する収容ユニットの変形形態において実行することができる。
【0028】
本明細書に提示する方法の変形形態は、例えばソフトウェアおよび/もしくはハードウェアで、またはソフトウェアとハードウェアとの混合形態で、例えば制御装置に実装することができる。
【0029】
さらに、本明細書に提示するアプローチでは、本明細書に提示する方法の変形形態のステップを対応する装置において実行、制御または実装するように構成された装置を作製する。この装置の形態での本発明の実施形態によっても、本発明の基礎をなす課題を迅速かつ効率的に解決することができる。
【0030】
このために、装置は、信号もしくはデータを処理するための少なくとも1つの計算ユニット、信号もしくはデータを記憶するための少なくとも1つの記憶ユニット、センサからセンサ信号を読み取るか、もしくはデータ信号もしくは制御信号をアクチュエータに出力するためのセンサもしくはアクチュエータに対する少なくとも1つのインタフェース、および/または通信プロトコルに組み込まれたデータを読み取るか、もしくは出力するための少なくとも1つの通信インタフェースを備え得る。計算ユニットは、例えば信号プロセッサ、マイクロコントローラ等とすることができ、記憶ユニットはフラッシュメモリ、EEPROM、または磁気記憶ユニットとすることができる。通信インタフェースは、データを無線および/または有線で読み込む、または出力するように構成することができ、有線データを読み込む、または出力することができる通信インタフェースは、このデータを、例えば電気的または光学的に対応するデータ伝送線から読み込む、または対応するデータ伝送線に出力することができる。
【0031】
この場合の装置は、センサ信号を処理し、それに応じて制御信号および/またはデータ信号を出力する電気機器と理解することができる。装置は、ハードウェアおよび/またはソフトウェアベースで構成され得るインタフェースを有することができる。ハードウェアベースの構成の場合、インタフェースを、例えば装置の様々な機能を有する、いわゆるシステムASICの一部とすることができる。しかしながら、インタフェースがそれ自体の集積回路である、または少なくとも部分的に個別の部品からなることも可能である。ソフトウェアベースの構成の場合、インタフェースは、例えば他のソフトウェアモジュールと並んでマイクロコントローラ上に存在するソフトウェアモジュールであってもよい。
【0032】
有利な設計では、装置により収容ユニットを操作する方法の制御を行う。このために、装置は、例えば読み取られた情報を表す読取り信号、および/または方法のいずれかのステップを制御するための制御信号等のセンサ信号にアクセスすることができる。制御は、読取りユニット、評価ユニットおよび/または提供ユニット等のアクチュエータによって行われる。
【0033】
半導体メモリ、ハードディスクメモリまたは光メモリ等の機械可読のキャリアまたは記憶媒体に格納することができ、特にプログラム製品またはプログラムがコンピュータまたは装置上で実行される場合に、上述の実施形態の1つによる方法のステップを実行、実装および/または制御するために使用される、プログラムコードを有するコンピュータプログラム製品またはコンピュータプログラムも有利である。
【0034】
本明細書に提示するアプローチの実施例を図面に示し、以下の記載でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】一実施例による収容装置の概略側面図である。
図2A】一実施例による収容ユニットの概略側面図である。
図2B】一実施例による収容ユニットの概略上面図である。
図3】一実施例による収容ユニットの概略側面図である。
図4】一実施例による収容ユニットの考え得る製造プロセスの中間製品の異なる段階の概略図である。
図5】一実施例による収容ユニットを製造する方法の流れ図である。
図6A】一実施例による収容ユニットの斜視図である。
図6B】更なる実施例による収容ユニットの斜視図である。
図7】一実施例による収容ユニットにおいて得られるポリメラーゼ連鎖反応の反応結果を決定する手順を説明する図である。
図8】キャリーオーバー試験後に一実施例による収容ユニットにおいて得られる反応結果の図である。
図9】一実施例による収容ユニットにおいて得られるマルチプレックス試験の反応結果を決定する手順を説明する図である。
図10】一実施例による収容ユニットを操作する方法の流れ図である。
図11】一実施例による装置のブロック図である。
【0036】
以下の本発明の好ましい実施例の説明において、様々な図面に示され、同様の作用を有する要素には、同じまたは同様の参照符号が使用され、これらの要素の説明の繰り返しは省かれる。
【0037】
図1は、一実施例による収容装置100の概略側面図を示す。収容装置100は、流体を収容ユニット105に導入し、かつ/または収容面130の収容ユニット105を少なくともその部分領域、特にキャビティの配置領域で、特に流体を収容ユニット105に導入した後に更なる流体、いわゆる封止流体で被覆するように構成されている。このために、収容装置100は、流体を収容するための収容ユニット105と、収容ユニット105を収容するためのハウジング110と、流体を収容ユニット105に導入するように構成されたチャンバ115と、流体を収容ユニット105に供給し、かつ/または収容ユニット105から排出し、かつ/またはチャンバ115およびマイクロキャビティ135、150の排気を可能にするように構成された少なくとも1つの通路120とを備える。任意に、収容装置100は、流体および場合により封止流体を少なくとも1つの通路120を介して圧送するように構成されたポンプ装置を備える。収容ユニット105は、親水性の表面性質を形成した収容面130を有する収容要素125と、流体を収容するために、収容要素125の収容面130に配置かつ形成された少なくとも1つのマイクロキャビティ135とを備える。
【0038】
本実施例によると、収容要素125は、例えばシリコン基板から構成されている。収容面130は、例えば少なくとも部分的に窒化ケイ素層、酸化ケイ素層および/またはシラン層、例えばポリエチレングリコール-シラン層として構成され、例えばマイクロキャビティ135への流体の浸透を容易にする。マイクロキャビティ135は、本実施例によると、収容面130に対して実質的に垂直に向けられた、例えば収容面130に対して80°~100°の角度145で向けられた側壁140を有する。代替的な実施例によると、マイクロキャビティ135は、ほぼ円筒形に形成される。さらに任意に、収容ユニット105は、本実施例によると、流体を収容するために、収容要素125において収容面130に配置かつ形成された複数の更なるマイクロキャビティ150を備える。その際、マイクロキャビティ135および複数の更なるマイクロキャビティ150は、ここには示されない配置領域、特に収容面の正方形、円形、長方形または楕円形の領域に、特に収容面の端部から所定の距離で、特に六角形、正方形または長方形のパターンに従って配置されるため、特にマイクロキャビティ135と複数の更なるマイクロキャビティ150との間で、収容面130が親水性の表面性質を有する。さらに任意に、本実施例による収容ユニット105は、少なくとも1つのマイクロキャビティ130の配置に対して規定された位置を有する光学的に認識可能な徴標155を有する。すなわち、本実施例による光学的に認識可能な徴標155は、サイズおよび光学特性に関して所定の性質を有する。
【0039】
換言すると、試料液体とも称される流体を分注し、すなわち収容面130を試料液体で濡らし、収容面130を封止流体で連続的に濡らすことによって、試料液体が収容ユニットのマイクロキャビティ135、150内に少なくとも部分的に留まるように、収容ユニット105内のマイクロキャビティ135、150に試料液体を充填し、それぞれマイクロキャビティ135、150に予め配置された特定の試薬を含んでいてもよいアリコート、すなわち試料液体の分注後にマイクロキャビティ135、150内に存在する試料液体のパーティションにおいて互いに独立した反応を実行するためのマイクロキャビティアレイチップ、すなわち収容ユニット105と、収容ユニット105を製造する方法とが提示される。したがって、本明細書に提示するアプローチは、マイクロキャビティ135、150とも称される多数のコンパートメントに試料液体を分配する装置、ならびにマイクロキャビティ135、150における多数の互いに独立した反応の実行に関する。特に、流体の分配および反応の実行は、例えば、本実施例によると収容装置100と称されるマイクロ流体システムにおいて自動的に行われる。
【0040】
したがって、本明細書に記載のアプローチにより、本実施例によると、収容ユニット105によって、例えば乾燥試薬をマイクロキャビティ135、150に簡単に導入し、予め配置することができ、マイクロキャビティ135、150への流体の制御された分配の間の予め配置した試薬のキャリーオーバーが十分に低下し、異なるマイクロキャビティ135、150の間の反応のクロストークがごく僅かであり、マイクロキャビティ135、150への流体の(自動化可能な)マイクロ流体分注が可能になり、低コストで製造可能であり、かつ/または完全に自動化されたマイクロ流体処理が達成されるように収容装置100に組み入れることが可能である解決策が生み出される。
【0041】
収容装置100は、本実施例によると、流体をマイクロキャビティ135、150に導入し、かつ/またはマイクロキャビティ135、150を流体と混和しない第2の流体で封止するために設けられる、有利な所定の寸法160を有するチャンバ115を特に備える。マイクロ流体チャンバ115は、本実施例によると、供給および/または排出通路とも称され、収容ユニット105への流体の制御された供給または排出のために設けられる少なくとも1つの通路120を備える。収容装置100の有利な設計では、収容装置100は、収容ユニット105の完全に自動化されたマイクロ流体処理を可能にするために、ここには示されない通路システムおよび/または示されないポンプ装置をさらに備える。
【0042】
この場合、収容ユニット105は、本実施例によると、平面とも称され、基板材料から形成される収容要素125に加工されたマイクロキャビティ135、150の配置を有する収容面130を有する。その際、本実施例によると、収容面130は、特にマイクロキャビティ135、150のごく周辺に親水性の濡れ性を有する。マイクロキャビティ135、150は、本実施例によると、特にほぼ垂直の側壁140を特徴とし、特に、収容面130は、マイクロキャビティ135、150またはその開口部に、マイクロキャビティ135、150の側壁140に対してほぼ90°の角度145を伴う。マイクロキャビティ135、150は任意に、試薬または添加剤とも称される少なくとも1つの予め配置された物質を特に含む。マイクロキャビティ135、150は、任意にほぼ円筒形の形状を有し、これにより収容ユニット105を特に簡単に製造することができる。マイクロキャビティ135、150の配置は、特にアレイスポッティングシステム、特に圧電ベースの微細分注システムを用いたマイクロキャビティへの試薬の標準的な導入を任意に可能にするために、特に正方形、六角形または長方形のパターンに従う。単に任意に、本実施例による収容面130は、例えばマイクロキャビティ(20)の配置に対して規定された位置を有し、サイズおよび光学特性に関して適切な性質を有する、光学的に認識可能な徴標155を付加的に有する。このため、徴標155は、特にアレイスポッティングシステムのカメラ等の光学感応装置によって検出可能であり、マイクロキャビティ135、150の配置への試薬の、規定され、完全に自動化された導入に適用可能である。代替的または付加的には、徴標155は、特にマイクロキャビティ135、150内で行われる反応の光学的評価を行う場合に、マイクロキャビティ135、150の相対位置決定に適用可能である。
【0043】
要約すると、本明細書に提示するアプローチは、収容ユニット105を、マイクロキャビティ135、150の充填のために流体が少なくとも部分領域で接触する親水性の収容面130、特にマイクロキャビティ135、150に予め配置された試薬のキャリーオーバーに対抗する、マイクロキャビティ135、150の少なくとも部分的に垂直の側壁140、マイクロキャビティ135、150における異なる特定の検出反応の実行を可能にする予め配置された試薬、および/または少なくとも1つの予め配置された添加剤、例えばマイクロキャビティ135、150を濡らし、空気がマイクロキャビティ135、150内に封入されないよう、完全に充填することを確実にし、かつ/またはマイクロキャビティ135、150に予め配置された上記の試薬のキャリーオーバーの低減をもたらす物質、ならびに固体底面を有するキャビティ135、150の使用と組み合わせて説明する。これは、穿孔がないことを意味し、試薬および/または少なくとも1つの添加剤をキャビティ135、150に予め配置することが容易になる。
【0044】
本明細書に提示するアプローチは、本実施例によると、反応コンパートメントの充填および/または封止に関するマイクロ流体機能性に加えて、コンパートメント、すなわちマイクロキャビティ135、150内で行われる反応の低いクロストークを保証する。さらに、本明細書に提示するアプローチは、マイクロキャビティ135(例えば、ポリエチレングリコールを乾燥添加剤として含み、分子DNA検出反応用のプライマーおよびプローブを乾燥試薬として含み、かつ/または酸化ケイ素層、窒化ケイ素層またはシラン層を親水性表面として有する)および例えばポリマー、例えばポリカーボネートからなるフローセルの、例えば窒化ケイ素、酸化ケイ素または親水性シラン層、特にポリエチレングリコール-シラン層からなる収容面130の濡れ性を説明する。
【0045】
代替的には、本明細書に言及される機能性をもたらすために、例えば本明細書に記載されない代替方法において製造された部材を同様に用いることができるが、この場合、収容ユニット105は、本明細書に記載のアプローチに従って製造された収容ユニット105よりも製造がいくらか複雑となり、例えば2回のリソグラフィーステップを伴う。
【0046】
隣接するコンパートメント間の流体クロストークを防止または低減するために、従来技術ではコンパートメント間に疎水性の表面性質を有する装置が特に使用される。しかしながら、これには、疎水性の上面により、基板内のコンパートメントへの充填が困難になるという不利点がある。特に、従来技術では、上面が疎水性であり、コンパートメントのサイズが小さい場合、例えばコンパートメントの横寸法/直径がサブミリメートル範囲である場合、コンパートメントへの水相の簡単な充填が可能となるように、傾斜した側壁もしくは穿孔を有するキャビティ、または低いアスペクト比の形態が使用される。しかしながら、傾斜した側壁を有するキャビティは、その表面積に対して比較的小さな体積を有する。これは、一方では、並行して進められる反応の表面密度が可能な限り高いことが望ましく、他方では、コンパートメントの容量が小さいことから、比較的弱い蛍光信号しか生じず、光学的評価の際に信号対雑音比が低下するため、高度に多重化された増幅反応の実行、特に反応を光学的に評価する場合には不利である。また、傾斜した側壁を有するキャビティは、コンパートメントに試料液体を充填した際に形成される流れプロファイルが、予め配置された試薬の望ましくないキャリーオーバーを引き起こす傾向があることから、試薬をその中に予め配置することが困難である。この場合も、穿孔は、穿孔の側壁にしか試薬の堆積が可能でないため、試薬を個々の反応コンパートメントに導入し、予め配置することが困難になるという不利点がある。
【0047】
図2Aは、一実施例による収容ユニット105の概略側面図を示す。ここに示す収容ユニット105は、図1に説明した収容ユニット105に相当または類似するものであってもよい。本実施例によると、収容ユニット105を、単に本実施例による少なくとも1つの予め配置された試薬200がマイクロキャビティ135内に見えるように拡大して示す。すなわち、本実施例による収容ユニット105は、少なくとも1つの予め配置された試薬を含む。さらに、本実施例によると、マイクロキャビティ135、150の中心が、隣接するマイクロキャビティ135、150に対し、光学的に認識可能な要素155の中心と隣接するそれぞれのマイクロキャビティ135、150の中心との距離と同じ距離205を有することが明らかに示される。
【0048】
換言すると、流体をマイクロキャビティ135、150へと分配し、マイクロキャビティ135、150内で多数の互いに独立した反応を行うことを可能にする収容ユニット105が記載され、マイクロキャビティ135、150には乾燥試薬200が予め配置される。さらに、以下の図面の1つで説明する収容ユニット105の製造方法を提示する。特に、収容ユニット105は、マイクロキャビティ135、150への試薬200の確実な導入を可能にし、流体をマイクロキャビティ135、150に分配する際にマイクロキャビティ135、150内に予め配置された試薬200のキャリーオーバーを十分に、例えば<10%に低下させ、収容ユニット105は、適切な封止流体によるマイクロキャビティの封止後に、異なるマイクロキャビティ135、150間の反応の極めて低い(<1%)クロストークしか有さず、マイクロキャビティ135、150内での流体の自動化可能なマイクロ流体分注を可能にし、収容装置100等のマイクロ流体システムに組み入れることが可能である。
【0049】
したがって、収容ユニット105は、本実施例によると、マイクロ流体コンパートメントの構成に役立つマイクロキャビティ135、150を有する。マイクロキャビティ135、150は、この場合、特に収容ユニット105の流体と接触する側との界面でほぼ垂直の側壁を有し、特に、例えばマイクロキャビティ135、150に流体を充填する際のマイクロキャビティ135、150への望ましくない空気の封入を防ぎ、マイクロキャビティ135、150への流体の完全な充填を可能にするために、予め配置された試薬200および限定されたアスペクト比を有する。流体と接触し、マイクロキャビティ135、150の充填が行われる収容ユニット105の収容面は、本実施例によると、マイクロキャビティ135、150への流体の浸透を可能にするために、特にマイクロキャビティ135、150のごく周辺で親水性の表面性質を有する。収容ユニット105は、特に有利には、完全に自動化されたマイクロ流体処理および場合によりマイクロキャビティ135、150内での反応の実行を可能にするために、図1に説明したような収容装置の一部とすることができる。本実施例によると、これにより、マイクロキャビティ135、150に隣接する収容ユニット105の収容面の親水性の表面性質による確実な充填、マイクロキャビティ135、150に試薬200および/または添加剤を予め配置すること、ならびに適切に得られた流体を含むマイクロキャビティ135、150の適切なアスペクト比が可能となる。
【0050】
さらに、マイクロキャビティ135、150の(ほぼ)垂直の側壁は、例えば適切な添加剤と組み合わせて、流体による充填時の予め配置された試薬200のキャリーオーバーを、例えば<10%に最小化することができる。これは、傾斜した側壁を有するマイクロキャビティ135、150と比較して特に当てはまり、その形状は、形成される流れプロファイルに関連して、原則としてマイクロキャビティ135、150に予め配置された試薬200のより大きなキャリーオーバーを引き起こす。さらに、本明細書に提示するアプローチでは、例えばマイクロキャビティ135、150を、例えばマイクロキャビティ135、150に流体と混和しない適切な第2の流体を充填した後に封止することで、マイクロキャビティ135、150内で化学反応を実行する際に、隣接する反応コンパートメントの間で僅かな、例えば<1%のクロストークを達成することができる。このため、マイクロキャビティ135、150内で互いに独立した、空間的に分離された反応を行うことができる。得られる幾何学的多重化により、例えば適切な標的特異的検出試薬をマイクロキャビティ135、150に予め配置する場合、多数の様々な標的について流体を検査することができる。さらに、本実施例によると、特に有利には、収容装置によって完全に自動化されたマイクロ流体処理が可能となる。特に、収容ユニット105の処理に使用される収容装置は、ポリマーまたはポリマー材料の組合せから低コストで製造することができる。このようにして、収容ユニット105によってもたらされる機能性が、分子実験室診断に使用することができる小型のラボオンチップシステムにおいて実現される。
【0051】
図2Bは、一実施例による収容ユニット105の概略上面図を示す。収容ユニット105は、円形の配置領域600に六角形のパターンに従って配置されたマイクロキャビティ135、150を備える。さらに、マイクロキャビティ135、150の配置領域600の外側境界(点鎖線によって示す)は、収容ユニット105の収容面の端部に対して所定の最小距離を有する。この端部領域は特に、自動配置機(ピックアンドプレースロボット)による収容ユニット105の簡単な取り扱いを可能にし、例えば、それにより、例えば上記の収容装置100の簡単な製造性を可能にするために用いることができる。さらに、収容ユニット105は、本実施例では、他に参照標識とも称される光学的に認識可能な徴標155を有し、これは例えばマイクロキャビティ135、150の明確な割り当ておよび/もしくは記号的指定に使用することができ、かつ/または例えば光学検出システムを有する処理装置における収容ユニット105の位置決定、例えばマイクロキャビティ135、150への試薬の自動化された導入のための微細分注システムにおける位置決定、および/または例えば光学系を用いて、特に蛍光信号の検出に使用することができ、例えばマイクロキャビティ135、150における、例えば生化学反応の蛍光信号プロファイルを検出することができる処理装置における位置決定に使用することができる。
【0052】
図3は、一実施例による収容ユニット105の概略側面図を示す。ここに示す収容ユニット105は、図1または図2に説明した収容ユニット105に相当または類似するものであってもよい。本実施例による拡大図で光学的に認識可能な要素を示していないことのみが異なる。
【0053】
図4は、一実施例による収容ユニット105の考え得る製造プロセス400の中間製品の異なる段階の概略図を示す。収容ユニット105は、この場合、図1図3に説明した収容ユニット105に相当または類似するものであってもよく、このため、図1に説明したような収容装置にも適用可能である。
【0054】
この場合、本実施例によると、シリコンウェーハとも称されるシリコンからなる収容要素125が基板材料として用いられる。初めに、収容面130上に基板材料の親水性の表面性質を形成する。その際、本実施例によると、これは特に、例えば低圧化学蒸着(LPCVD、英語:low pressure chemical vapour deposition)とも称される酸化ケイ素、窒化ケイ素およびポリシリコン、ならびに金属を蒸着する方法を用いてシリコン基板上に生成することができる窒化ケイ素表面である。特に、この際、本実施例によると、例えば50nmのSiOおよび140nmのSiからなる層系が、シリコン基板との接着性が良好な低歪みのSi層を製造するのに適している。本実施例によると、窒化ケイ素は、特に親水性の濡れ性を有するため、表面コーティングとして適している。例えば、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)による前処理後に、フォトレジスト(Photoresist)とも称され、シリコン基板へのマイクロキャビティのエッチングのためのマスクとなる感光レジスト(Fotolack)405を塗布する。本実施例によると、エッチングすべき構造を画定するための感光レジスト405の露光410後にレジストを現像する。続いて、本実施例によると、例えばCFドライエッチング415を用いて、露出領域420のSiおよびSiOを除去する。例えば、深掘り反応性イオンエッチング425を用いてマイクロキャビティ135、150をシリコン基板に加工する。有利には、深掘り反応性イオンエッチング425は、ほぼ垂直の側壁を有する微細構造の製造にプロセス技術的に最適化されている。例えば酸素プラズマ430中での処理によって、残りの感光レジスト405を除去する。マイクロキャビティ135への1つ以上の試薬200の導入は、本実施例によると、例えば圧電ベースの微細分注システムまたはアレイスポッティングシステムを用いて行われる。特に有利には、かかる製造プロセス400をウェーハレベルで行うことができ、収容ユニット105の特に低コストの並列製造が可能となる。並列製造された収容ユニット105の分離は、特に試薬200をマイクロキャビティ135に導入した後に、例えば鋸引き、破断、または別の、例えばレーザベースの分離方法、例えばいわゆるマホダイシング(Mahoh-Dicing)を用いて行うことができる。
【0055】
図5は、一実施例による収容ユニットを製造する方法500の流れ図を示す。ここに示す方法500は、図4に説明した製造プロセス400によると、8つのサブステップ502を含み、図1図3のいずれかに説明したように収容ユニットを製造することができる。方法500は、本実施例によると、収容面を準備するステップ505と、収容ユニットを製造するために、流体を収容するための少なくとも1つのマイクロキャビティを収容面に加工するステップ510とを含む。
【0056】
一実施例によると、方法500のステップ505、510および/またはサブステップ502は、有利な実施形態では省略してもよく、かつ/または順序を変更して行ってもよい。
【0057】
図6Aは、一実施例による収容ユニット105の製造における半製品の斜視図を示す。ここに示す収容ユニット105は、図1図3のいずれかに説明した収容ユニット105に相当または類似するものであってもよい。本実施例によると、流体を収容するために、複数の更なるマイクロキャビティ150が形成される。その際、本実施例によると、マイクロキャビティ135および複数の更なるマイクロキャビティ150は、ほぼ正方形の配置領域600に正方形のパターンに従うように配置される。この場合、収容面130は、特にマイクロキャビティ135と複数の更なるマイクロキャビティ150との間に親水性の表面性質を有する。
【0058】
本実施例によると、収容ユニット105が、マイクロキャビティ135および複数の更なるマイクロキャビティ150に加えて、流体を収容するために形成される更なる複数のマイクロキャビティ605を備えることがさらに明らかである。本実施例によると、更なる複数のマイクロキャビティ605は、正方形、長方形または六角形の形状を形成するように更なる配置領域610に配置され、特に配置領域600と更なる配置領域610との間に、マイクロキャビティ135、150、605が設けられない間隔領域615が配置される。本実施例によると、間隔領域615は、例えば配置領域600または更なる配置領域610の隣接するマイクロキャビティの最小距離の少なくとも2倍に相当する幅を有する。
【0059】
換言すると、本実施例によると、例えば図5に説明した収容ユニット105の製造方法を行った後のマイクロキャビティ135、150、605を有する処理済みのシリコンウェーハの図が示される。
【0060】
図6Bは、基板を分離する前に複数の収容ユニットを形成するための所定の破断点を加工したシリコン基板の斜視図を示す。収容ユニットは、(ほぼ)円形の配置領域に六角形のパターンに従って配置された、マイクロキャビティおよび複数の更なるマイクロキャビティをそれぞれ備える。さらに、収容ユニットは、例えば微細分注システムを用いたマイクロキャビティへの試薬の導入、および/または検出装置における収容ユニットの位置決定、および/またはマイクロキャビティの明確な指定のための光学的に認識可能な徴標をそれぞれ有する。
【0061】
図7は、一実施例による収容ユニット105において得られるポリメラーゼ連鎖反応の反応結果700を決定する手順を説明する図を示す。かかる反応結果700は、先に提示した図1図3のいずれかに説明したような収容ユニット105において得ることができる。
【0062】
換言すると、例えば、流体とも称される試料液体として、1マイクロキャビティ(25nl)当たり10初期コピーの濃度で標的遺伝子を含有する、いわゆるPCRマスターミックスを使用した。PCRマスターミックスは、標的遺伝子の増幅を示す標的特異的TaqMan蛍光プローブ(Cy3)をさらに含有していた。
【0063】
図7aに、ポリメラーゼ連鎖反応を行うための温度サイクルの間に撮影した、装置とも称され得る収容ユニット105のマイクロキャビティに分配された流体の蛍光顕微鏡写真を概略的に示す。既に相当量のPCR産物が生成している流体を含むマイクロキャビティは、例えば蛍光プローブの切断により明るく見える。相当量のPCR産物を含まないマイクロキャビティは、本実施例によると暗く見える。
【0064】
図7bは、このマイクロキャビティ内で起こるポリメラーゼ連鎖反応に起因するS字状の増加を有するマイクロキャビティ「F3」に固有の信号プロファイルを示す。
【0065】
図7cは、グラフにまとめた個々のマイクロキャビティの正規化したS字状近似増幅曲線を示す。本実施例によると、96個のマイクロキャビティのうち89個が蛍光信号の増加を示し、平均ci値、すなわちS字状信号増加の変曲点におけるPCRサイクルが31.53であり、標準偏差が0.81温度サイクルである。4個のマイクロキャビティは、本実施例によると、50回の温度サイクルの間に蛍光信号の顕著な増加を示さない。残り3個のマイクロキャビティは、ci値>45温度サイクルで蛍光信号の増加を有する。図7dには、これをci値のヒストグラムによって示す。
【0066】
図7eは、ci値の空間分布を適切な疑似カラー表示で示すマップによってこれを示す。図7c、図7d、図7eによると、マイクロキャビティの大部分(92.71%)において30~34温度サイクルのci値範囲で増幅が起こることが明らかである。測定されたci値の変動は、最初にマイクロキャビティ内に存在するコピー数の統計的変動に一部起因する可能性がある。二項分布に基づいて、1マイクロキャビティ当たり10コピーの平均初期コピー数の場合、上記の4回のPCRサイクルにほぼ相当する、1マイクロキャビティ当たり約2~16の初期コピーの変動を推定することができる。一方、陰性キャビティの数は、二項分布に基づくキャビティ内のコピー数の統計的変動のみに起因するものではない。ここでは、検出反応の増幅特性、特に感度、検出下限が決定的な役割を果たす。陰性信号プロファイルを有するマイクロキャビティは、マイクロキャビティ内に最初に存在するコピー数が少ない場合に増幅が必ずしも起こるとは限らないことに起因する。選択した検出反応の感度は、これには低すぎる。付加的な測定では、ここで使用される反応の統計的検出限界は、1マイクロキャビティ当たり約2.5初期コピーの、いわゆる検出下限と決定された。さらに、陰性信号プロファイルを有するマイクロキャビティは、本実施例によると、隣接するマイクロキャビティにおいて増幅反応が進行した後であっても、PCRによって生成する顕著なコピー数がその中に見られないことを示す。その結果、これらのマイクロキャビティは、隣接する反応コンパートメント間のクロストークの指標として使用することができる。特に、遅延PCRが起こる3つのマイクロキャビティが、これに関連する可能性がある。すなわち、10回のPCRサイクルを超えるS字状増加の遅延は、本実施例によると、コピー数の最初の統計的変動に起因するものではない。むしろ、この場合、これらは隣接するマイクロキャビティにおける増幅反応のクロストークによって開始した可能性がある遅延陽性または偽陽性の増幅反応である可能性がある。アレイが陰性信号プロファイルを有するマイクロキャビティを有すること、および偽陽性反応の増加が10回のPCRサイクルの遅延によってのみ生じることに基づき、本実施例によると、隣接するマイクロキャビティにおいて行われる反応間のクロストークは、1増幅サイクル当たり
【数1】
0.1%であると結論付けることができる。したがって、実験から、更なる同等の試験と一致して、収容ユニット105が、マイクロキャビティとも称される隣接する反応コンパートメント間の顕著なクロストークなしに、(幾何学的)マルチプレックス増幅反応を実行するのに適していることが例示的に示される。
【0067】
図8は、キャリーオーバー試験後に一実施例による収容ユニット105において得られる反応結果800の概略図を示す。かかる反応結果800は、先に提示した図1図3のいずれかに説明したような収容ユニット105において得ることができる。
【0068】
本実施例によると、収容ユニット105のいわゆるマイクロ流体処理の間、すなわちマイクロキャビティへの流体の制御された充填およびその後の第2の流体によるマイクロキャビティの制御された封止の際に生じる可能性がある、マイクロキャビティに予め配置した試薬のキャリーオーバーを検査する。このために、本実施例によると、(ほぼ)1つおきのマイクロキャビティにおいて市松模様の形で標的遺伝子、例えばABL遺伝子のコピーを、微細分注システム/アレイスポッティングシステムを用いて導入し、例えば添加剤としてのポリエチレングリコール(PEG)とともに乾燥形態で予め配置した(図8aを参照されたい)。
【0069】
図8bは、温度サイクルの間に撮影した蛍光顕微鏡写真の概略図を示す。幾つかのマイクロキャビティにおいて、PCR産物の生成を示す蛍光信号の顕著な増加が既に認められた後に撮影を行った。標的遺伝子の約100コピーの鋳型DNAを予め配置したマイクロキャビティ(図8aのパターン化充填)では、鋳型DNAを予め配置していないマイクロキャビティよりも強い蛍光信号が観察される(図8aの充填なし)。したがって、これは選択的な増幅、ひいてはマイクロ流体処理中の予め配置した試薬の僅かなキャリーオーバーを示す。
【0070】
図8cには、本実施例によるci値の付加的な空間分布が示される。それぞれ100コピーの鋳型DNAを予め配置したマイクロキャビティでは、26.8~28.8の温度サイクルのci値で確実な増幅が観察される。一方、残りのマイクロキャビティでは、殆どの場合、50温度サイクルのうちに増幅を観察することができない。4温度サイクルを超える遅延を有する遅延増幅は、8つのマイクロキャビティでのみ起こる。その結果、収容ユニット105のマイクロ流体処理の間に生じる、収容ユニット105のマイクロキャビティに予め配置した試薬のキャリーオーバーは、最大約1/2=1/16=6.25%に定量化することができる。このため、収容ユニット105は、標的特異的試薬、例えばプライマーおよびプローブをマイクロキャビティに予め配置するマルチプレックス増幅反応の実行にも適している。
【0071】
図9は、一実施例による収容ユニット105において得られるマルチプレックス試験の反応結果900を決定する手順を説明する図を示す。かかる反応結果900は、先に提示した図1図3のいずれかに説明したような収容ユニット105において得ることができる。本実施例によると、予め配置したプライマーおよびプローブを用いたマルチプレックス試験から得られた反応結果900が示される。このために、本実施例によると、収容ユニット105のそれぞれ12個のマイクロキャビティに、2つの標的遺伝子「ABL」および「e13a2」に対処する標的特異的プライマーおよびプローブを、例えば添加剤としてのポリエチレングリコールとともに乾燥形態で予め配置した。プローブは、図9aに概略を示すように「Cy3」および「Cy5」に対応するフルオロフォアを有していた。試料液体として1マイクロキャビティ、例えば25nl当たり100コピーのABL鋳型DNAの濃度のPCRマスターミックスを投入し、処理を行った。
【0072】
図9b、図9cは、熱サイクルの前後に撮影した2つの蛍光画像を概略的に示す。示される図は、横模様で示されるフルオロフォアCy3および縦模様で示されるフルオロフォアCy5に対応するフィルターセットで撮影した、それぞれ2つの個別の蛍光顕微鏡写真からなる。マイクロキャビティに予め配置した試薬の顕著なキャリーオーバー、または隣接するマイクロキャビティにおいて起こる反応のクロストークは、画像には見られない。プライマーおよびプローブが予め配置されたマイクロキャビティのみが明らかな蛍光信号を有する。したがって、本実施例によると、画像により、マイクロ流体処理中の低いキャリーオーバー、および本明細書に提示する装置の隣接するマイクロキャビティ間の無視し得るクロストークに関して、図8に説明した以前の実験が確認される。
【0073】
図9dには、ポリメラーゼ連鎖反応によって試料液体中のABL鋳型DNAの陽性検出が示されるマイクロキャビティ「G4」のS字状信号プロファイルを示す。
【0074】
図9eは、ci値の空間分布のマップを示す。ABL標的遺伝子に対するプライマーおよびプローブが予め配置された正確に12個のマイクロキャビティにおいて、27.3~29.6の範囲のci値で増幅を観察することができる。
【0075】
図9fは、12個のマイクロキャビティの正規化した増幅曲線に対応するグラフを示す。まとめると、測定により、分子診断増幅法を用いて幾何学的に高度に多重化された試料分析を実行するための収容ユニット105の極めて高い適性が強調される。
【0076】
図10は、一実施例による収容ユニットを操作する方法1000の流れ図を示す。方法1000は、図1に説明したような収容装置に対して用いることができる。方法1000は、この場合、流体、または例えば流体と混和しないか、もしくはごく僅かにしか混和しない第2の(封止)流体を用いて少なくとも1つのマイクロキャビティを充填および封止するステップ1005と、反応結果を得るために少なくとも1つの考え得る反応を少なくとも1つのマイクロキャビティにおいて実行するステップ1010と、反応結果を評価するステップ1015とを含む。
【0077】
換言すると、流体による収容ユニットのマイクロキャビティの充填を行う。続いて、流体により先で既に充填されたマイクロキャビティを、流体と混和しないか、もしくはごく僅かにしか混和しない第2の(封止)流体で封止する。特に、封止流体とも称される第2の流体は、フッ素化炭化水素である。さらに、本実施例によると、例えば収容ユニットのマイクロキャビティ内で少なくとも1つの標的遺伝子を検出するために、互いに独立した反応、特に増幅反応、例えばポリメラーゼ連鎖反応または等温増幅反応を実行する。場合により、これに適切な反応条件を外的影響、例えば入熱または放熱によって確立する。特に好ましい実施形態では、ステップ1005、1010、1015を収容装置の処理のために設けられた処理ユニットにおいて自動的に行う。
【0078】
一実施例によると、方法1000のステップは、有利な実施形態では省略してもよく、かつ/または順序を変更して行ってもよい。
【0079】
図11は、一実施例による装置1100のブロック図を示す。本実施例によると、装置1100は、図5または図10に説明した方法のいずれかを実行または制御するように構成されている。装置1100は、例えば読取りユニット1110を用いて入力信号1105を読み取り、提供ユニット1120を用いて制御信号1115を提供するように構成されている。本実施例によると、装置は任意に、読取り信号1105によって表される情報を評価するように構成された評価ユニット1125を備える。
【0080】
実施例が第1の特徴と第2の特徴との間に「および/または」あるいは「かつ/または」の接続を含む場合、これは、一実施形態による実施例が第1の特徴および第2の特徴の両方を有し、更なる実施形態による実施例が第1の特徴のみまたは第2の特徴のみを含むと読み取るべきである。
【0081】
例示的な仕様を以下に示す:
収容要素(125)の厚さ:
100μm~3000μm、好ましくは300μm~1000μm
収容要素(125)または収容面(130)の横寸法:
3mm×3mm~30mm×30mm、好ましくは5mm×5mm~15mm×15mm
マイクロキャビティ(135)および更なるマイクロキャビティ(150)の数:
2~2000、好ましくは50~500
マイクロキャビティ(135)の容量:
1nl~100nl、好ましくは5nl~40nl
マイクロキャビティ(135)の直径:
100μm~500μm、好ましくは250μm~400μm
マイクロキャビティ(135)の深さ:
100μm~500μm、好ましくは200μm~300μm
マイクロキャビティ(135)のアスペクト比(深さと直径との比):
0.3~1.0、好ましくは0.6~0.7
マイクロキャビティ(135)の端部とマイクロキャビティ(135)に隣接する少なくとも1つの更なるマイクロキャビティ(150)の端部との距離:
70μm~300μm、好ましくは100μm~200μm
収容面(130)での水の接触角:
<10°~75°、好ましくは<10°~40°
マイクロキャビティ(135、150)に予め配置した試薬:
標的特異的プライマーおよびプローブ、鋳型DNA;
添加剤:分子量が例えば6000または2000、溶液中の濃度が2~5%(w/v)のポリエチレングリコール(PEG)
流体(試料液体):
PCRもしくは等温増幅法等の増幅反応のためのマスターミックス、またはその成分、特にマイクロキャビティ(135、150)内に存在するプライマーおよび/またはプローブを含まないマスターミックス
第2の流体(封止流体):
3MのFluorinert FC-40、Fluorinert FC-70またはNovec 7500等のフッ素化炭化水素
チャンバ(115)が7mm×7mm×1mm(容量約50μl)等の適切な寸法を有する、直径350μmおよび深さ240μmのマイクロキャビティ(135、150)用の収容装置(100)内の収容ユニット(105)のマイクロキャビティ(135、150)の充填および封止のための流量:
5~10μl/s
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2024-06-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を収容するための収容ユニット(105)であって、
収容要素(125)であって、収容面(130)と、前記流体を収容するために、前記収容要素(125)において前記収容面(130)に配置かつ形成された少なくとも1つのマイクロキャビティ(135)と、を有する収容要素(125)を備え、
前記収容面(130)は、前記少なくとも1つのマイクロキャビティ(135)に隣接する少なくとも1つの部分領域に親水性の表面性質を有する、
収容ユニット(105)。
【外国語明細書】